説明

潤滑油供給装置の制御装置

【課題】パラレルツインターボシステムにおいて、潤滑油の劣化による過給器の軸受部の摩耗や焼き付きを防止する。
【解決手段】内燃機関(200)において相互に並列に配置された排気駆動型のプライマリターボ(225、226及び228を含む)とセカンダリターボ(231、232及び234を含む)各々における軸受部に対し潤滑油を供給可能な潤滑油供給装置(300)の制御装置であるECU(100)は、潤滑油の劣化の度合いを特定し、特定された劣化の度合いに基づいて、潤滑油が所定の劣化状態にあるか否かを判別し、潤滑油が劣化状態にあると判別された場合に、各々における軸受部に供給される潤滑油の油圧を増加するよう油圧調整弁(370)を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給器に潤滑油を供給可能な潤滑油供給装置の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば特許文献1に開示された過給器付き内燃機関がある。この過給器付き内燃機関によれば、ギャップセンサによって検出された副ターボチャージャの作動状態に基づいて、副ターボチャージャに供給する潤滑油量が制御される。
【0003】
また、ツインターボシステムにおいて、副過給器により過給の効果が発生しない範囲で副過給器を回転させることにより、副過給器の軸受の局部摩耗を抑制できる過給システムも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−128159号公報
【特許文献2】特開2008−223689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の過給器を相互に並列に配置し、各種内燃機関の運転条件に応じて過給器の作動個数を適宜切り替える、所謂パラレルツインターボシステムにおいては、内燃機関の低回転領域から過給器が高回転領域で駆動されることがある。従って、潤滑油の供給が、内燃機関の機関動力を利用したポンプ装置等により行われる場合、十分な吐出圧を確保できない内燃機関の低回転領域において、過給器に対する潤滑油の供給量は不足し易い。
【0006】
一方、潤滑油は、内燃機関の稼動期間において絶えず循環供給されており、経時的に、酸化による劣化や熱による劣化等を含む各種の劣化が生じることは避け難い問題である。潤滑油に劣化が生じると、同等の潤滑性能を得るために必要とされる供給量は増えるから、上記の如く構造的に潤滑油の供給量が不足傾向にある場合には、潤滑油の供給量不足に起因して、潤滑対象たる過給器の軸受装置に磨耗や焼き付き等各種の不具合が生じかねない。
【0007】
このような観点から、上記各種従来の技術を見た場合、元より潤滑油の劣化は考慮されておらず、パラレルツインターボシステムに単に適用されたところで、上記不具合の発生を回避することはまずもって困難であると言わざるを得ない。即ち、パラレルツインターボシステムにおいては、過給器の軸受装置における磨耗や焼き付きの発生が回避され難いという技術的問題点がある。また、近年では、フリクション低減による燃費改善を目的として、低粘度の潤滑油が使用される傾向があり、またポンプ装置の容量自体も低減される傾向があり、係る問題が一層顕在化し易い。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、パラレルツインターボシステムにおいて、潤滑油の劣化による過給器の軸受部の摩耗や焼き付きを防止し得る潤滑油供給装置の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明に係る潤滑油供給装置の制御装置は、内燃機関において相互に並列に配置された複数の排気駆動型の過給器の各々における軸受部に対し潤滑油を供給可能な潤滑油供給装置の制御装置であって、前記潤滑油の劣化の度合いを特定する特定手段と、前記特定された劣化の度合いに基づいて、前記潤滑油が所定の劣化状態にあるか否かを判別する判別手段と、前記潤滑油が前記劣化状態にあると判別された場合に、前記各々における軸受部に対する前記潤滑油の供給量が増加するように前記潤滑油供給装置を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る潤滑油供給装置の制御装置によれば、特定手段により特定された潤滑油の劣化の度合いに基づいて判別手段により潤滑油が所定の劣化状態にあると判別された場合には、制御手段による潤滑油供給装置の制御を介して、吸気通路に並列に配置された排気駆動型の各過給器の各々における軸受部に対する潤滑油の供給量が増量される。このため、構造的に潤滑油の供給量が不足し易いパラレルツインターボシステムにおいて、潤滑油の劣化による軸受部の磨耗や焼き付きを未然に防止することが可能となる。
【0011】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】潤滑油供給部の構成を概念的に表してなるブロック図である。
【図3】潤滑油供給量調整制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るエンジンシステム10の構成について一部その動作を交えて説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0015】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100、エンジン200及び潤滑油供給部300を備える。
【0016】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジン200の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットである。ECU100は、本発明に係る「潤滑油供給装置の制御装置」の一例であり、ROMに格納される制御プログラムに従って、後述する潤滑油供給量調整制御を実行可能に構成されている。
【0017】
尚、ECU100は、本発明に係る「特定手段」、「判別手段」及び「制御手段」の一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0018】
エンジン200は、軽油を燃料とする、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ディーゼルエンジンである。エンジン200の概略について説明すると、エンジン200は、シリンダブロック201に4本の気筒202が並列して配置された構成を有している。そして、各気筒内における圧縮工程において燃料を含む混合気が圧縮され自着火した際に生じる力が、夫々不図示のピストン及びコネクティングロッドを介してクランクシャフト(不図示)の回転運動に変換される構成となっている。このクランクシャフトの回転は、トランスミッションや減速装置等の各種パワートレインを経由して、エンジンシステム10を搭載する車両の駆動輪に伝達され、当該車両の走行が可能となる。
【0019】
以下に、エンジン200の要部構成を、その動作の一部と共に説明する。尚、本実施形態に係るエンジン200は、気筒202が図1において紙面と垂直な方向に4本並列してなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒202の構成は相互に等しいため、ここでは一の気筒202についてのみ説明することとする。
【0020】
気筒202内において混合気を形成するために、外界から導かれる吸入空気は、不図示のエアクリーナを経由した後に吸気通路204に導かれる構成となっている。この吸気通路204には、該吸気通路204に導かれる吸入空気の量を調節可能なスロットルバルブ205が配設されている。このスロットルバルブ205は、ECU100と電気的に接続され且つECU100により上位に制御されるスロットルバルブモータ206から供給される駆動力により回転可能に構成された回転弁であり、スロットルバルブ205を境にした吸気通路204の上流部分と下流部分とをほぼ遮断する全閉位置から、ほぼ全面的に連通させる全開位置まで、その回転位置が連続的に制御される構成となっている。このように、エンジン200では、スロットルバルブ205及びスロットルバルブモータ206により、一種の電子制御式スロットル装置が構成されている。
【0021】
吸気通路204は、スロットルバルブ205の下流側において各気筒について共通に設置された吸気マニホールド207に接続され、その内部において吸気マニホールド207と連通する構成となっている。吸気マニホールド207は、各気筒202の吸気ポート(不図示)の各々に連通しており、吸気通路204に導かれた吸入空気は、吸気マニホールド207を介して、各気筒に対応する吸気ポートに導かれる構成となっている。吸気ポートは、一の気筒202について夫々二個ずつ備わっており、夫々が気筒202内部に連通可能に構成されている。
【0022】
吸気ポートと気筒202内部との連通状態は、各吸気ポートに設けられた吸気バルブ208により制御される。吸気バルブ208は、クランクシャフトに連動して回転する吸気カムシャフト209に固定された、吸気カムシャフト209の伸長方向と垂直な断面が楕円形状をなす吸気カム210のカムプロフィール(端的に言えば、形状)に応じてその開閉特性が規定されており、開弁時に吸気ポートと気筒202内部とを連通させることが可能に構成されている。吸入空気は、この吸気バルブ208の開弁時に吸気ポートから気筒202内部へと吸入される。
【0023】
気筒202の内部には、インジェクタ203の燃料噴射弁の一部が露出している。インジェクタ203は、不図示のコモンレールに所定のレール圧で高圧貯留された軽油を、その燃料噴射弁の開弁期間において気筒202内部に噴射可能に構成された、筒内噴射型の電子制御式燃料噴射装置である。このインジェクタ203の駆動系は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100により上位に制御される。即ち、インジェクタ203は、ECU100によりその動作が制御される構成となっている。インジェクタ203を介して噴射された燃料は、気筒202内部において吸気ポートを介して導かれた吸入空気と混合され、圧縮TDC付近において自発的に着火する(即ち、爆発する)構成となっている。
【0024】
一方、燃焼した混合気或いは一部未燃の混合気は、吸気バルブ208の開閉に連動して開閉する排気バルブ211の開弁時に、不図示の排気ポートを介して排気として排気マニホールド214に導かれる構成となっている。排気バルブ211は、クランクシャフトに連動して回転する排気カムシャフト212に固定された、排気カムシャフト212の伸長方向と垂直な断面が楕円形状をなす排気カム213のカムプロフィール(端的に言えば、形状)に応じてその開閉特性が規定されており、開弁時に排気ポートと気筒202内部とを連通させることが可能に構成されている。
【0025】
排気マニホールド214は、排気通路215に連通しており、気筒202から排出された燃焼済みの混合気(以下、適宜「排気」と略称する)は、この排気通路215に導かれる構成となっている。
【0026】
排気通路215は、排気分岐部218において、第1排気通路216と、第2排気通路217とに分かれている。第1排気通路216と第2排気通路217とは、排気合流部219において合流し、各排気通路を経由した排気は、この排気合流部219において集約された後、下流側に設置された不図示のDPF(Diesel Particulate Filter)に供給される構成となっている。
【0027】
吸気通路204は、吸気分岐部222において、第1吸気通路220と、第2吸気通路221とに分かれている。第1吸気通路220と第2吸気通路221とは、吸気合流部223において合流し、各吸気通路を経由した吸入空気は、前述の吸気マニホールド207に導かれる構成となっている。
【0028】
第1排気通路216には、第1タービンハウジング224に収容される形で第1タービン225が設置されている。第1タービン225は、第1排気通路216に導かれた排気の圧力により第1回転軸226を中心として回転可能に構成された、排気エネルギ回収手段である。この第1回転軸226は、ボールベアリング等の転がり軸受装置である軸受部(符合省略)によって軸支されており、この軸受部に後述する潤滑油が供給されることにより、円滑に回転することができる。
【0029】
ここで、第1タービン225に連結されたこの第1回転軸226は、第1コンプレッサハウジング227に収容される形でこの第1吸気通路220に設置された第1コンプレッサ228と共有されており、第1タービン225が排気圧により回転すると、第1コンプレッサ228も当該第1回転軸226を中心として回転する構成となっている。
【0030】
第1コンプレッサ228は、第1吸気通路220に導かれた吸入空気を、その回転に伴う圧力により吸気マニホールド207に圧送可能に構成されており、この第1コンプレッサ228による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される構成となっている。
【0031】
尚、第1タービン225には、第1タービン225の上流側に設けられたノズルベーンの開度に応じて第1タービン225の駆動に供される排気に係る排気圧を調整可能なVN(Variable Nozzle:可変ノズル)229が設けられている。
【0032】
第1タービン225、第1回転軸226、第1コンプレッサ228及びVN229は、本発明に係る「排気駆動型の過給器」の一例たるプライマリターボ(符合省略)を構成する。尚、これ以降、これら過給器の総体を表現する用語として適宜この「プライマリターボ」なる言葉を使用することとする。
【0033】
第2排気通路217には、第2タービンハウジング230に収容される形で第2タービン231が設置されている。第2タービン231は、第2排気通路217に導かれた排気の圧力により第2回転軸232を中心として回転可能に構成された、排気エネルギ回収手段である。この第2回転軸232は、ボールベアリング等の転がり軸受装置である軸受部(符合省略)によって軸支されており、この軸受部に後述する潤滑油が供給されることにより、円滑に回転することができる。
【0034】
一方、この第2回転軸232は、第2コンプレッサハウジング233に収容される形で第2吸気通路221に設置された第2コンプレッサ234と共有されており、第2タービン231が排気圧により回転すると、第2コンプレッサ234も当該第2回転軸232を中心として回転する構成となっている。第2コンプレッサ234は、第2吸気通路221に導かれた吸入空気を、その回転に伴う圧力により吸気マニホールド207に圧送可能に構成されており、この第2コンプレッサ234による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される構成となっている。
【0035】
第2タービン231、第2回転軸232及び第2コンプレッサ234は、本発明に係る「排気駆動型の過給器」の他の一例たるセカンダリターボ(符合省略)を構成する。尚、これ以降、これら過給器の総体を表現する用語として適宜この「セカンダリターボ」なる言葉を使用することとする。尚、図1に示されるように、プライマリターボとセカンダリターボとは並列な位置関係にあり、所謂パラレルツインターボを構成している。
【0036】
第2排気通路217における、第2タービン231よりも上流側(尚、このような構成は一例であり、下流側であってもよい)には、排気切り替え弁235が設置されている。排気切り替え弁235は、第2排気通路217に開閉可能に設置された弁体と、該弁体を駆動するアクチュエータとを備えた電磁開閉弁であり、このアクチュエータが電気的に接続されたECU100により駆動制御されることによって、全開開度と全閉開度との間で規定される所望の開度で弁体の位置を制御可能に構成されている。尚、排気切り替え弁の実践的態様は、ここに例示されるものに限定されず、各種の態様を有してよい。
【0037】
一方、第2吸気通路221における、第2コンプレッサ234よりも下流側(尚、このような構成は一例であり、上流側であってもよい)には、吸気切り替え弁236が設置されている。吸気切り替え弁236は、第2吸気通路221に開閉可能に設置された弁体と、該弁体を駆動するアクチュエータとを備えた電磁開閉弁であり、このアクチュエータが電気的に接続されたECU100により駆動制御されることによって、全開開度と全閉開度との間で規定される所望の開度で弁体の位置を制御可能に構成されている。尚、吸気切り替え弁の実践的態様は、ここに例示されるものに限定されず、各種の態様を有してよい。
【0038】
第2吸気通路221には、第2コンプレッサ234の上流側及び下流側を連通させる吸気バイパス通路237が形成されている。後述する助走モードにおいて、第2コンプレッサ234によって加圧された吸入空気は、吸気切り替え弁236及び後述するリード弁239により通路が閉じられた場合に、この吸気バイパス通路237に導かれて、第2コンプレッサ234の上流側における第2吸気通路221に戻される構成となっている。
【0039】
吸気バイパス通路237には、吸気バイパス弁238が設置されている。吸気バイパス弁238は、連続的に可変に制御される弁体の開度に応じて吸気バイパス通路237における吸入空気の流量を変化させることが可能に構成された電磁開閉弁である。吸気バイパス弁238は、ECU100と電気的に接続されており、その開度は、然るべき駆動系を介してECU100により上位に制御される構成となっている。
【0040】
第2吸気通路221には、吸気切り替え弁236の上流側及び下流側を連通させるリード通路(符号省略)が形成されている。また、このリード通路には、リード弁239が設置されている。このリード弁239は、リード通路におけるリード弁上流側の圧力が所定値以上となった際に開弁するように構成された圧力調整弁である。このため、第1コンプレッサ228により過給された吸入空気の一部が、セカンダリターボ側へ流入することが防止されると共に、吸気切り替え弁236の閉弁時に第2コンプレッサ234下流側の圧力が過度に上昇する事態が防止される。
【0041】
エンジンシステム10において、ECU100は、その時点の機関回転速度NE及び噴射量Qにより規定される運転条件が、シングルターボモード、助走モード及びツインターボモードのうちいずれの過給モードに該当するかを判別し、該当する過給モードに応じて排気切り替え弁235、吸気切り替え弁236及び吸気バイパス弁238を駆動制御することにより、該当する過給モードを実現する構成となっている。尚、エンジン200において、噴射量Qは、機関回転速度NEとアクセル開度ACCとに基づいて、予め設定された噴射量マップから選択的に決定される。この決定された噴射量Qは、上述したインジェクタ203の駆動制御に供される。
【0042】
より具体的には、エンジン200が低回転且つ小噴射量(即ち軽負荷)の場合に、排気切り替え弁235及び吸気切り替え弁236は夫々全閉状態に制御される。その結果、排気は第1タービン225のみに供給され、セカンダリターボは非稼動状態とされることになって、プライマリターボのみが稼動状態とされるシングルターボモードが実現される。このため、比較的小さい排気エネルギを有効に利用して、過給圧の応答性が担保される。また、プライマリターボには、VN229が備わっており、ノズル開度を適宜絞り側に制御することにより、第1タービン225は、より効率的に駆動される。
【0043】
一方、エンジン200の高回転且つ大噴射量(即ち高負荷)の場合に、排気切り替え弁235及び吸気切り替え弁236は夫々全開状態に制御される。その結果、排気は第1タービン225及び第2タービン231に略等しく供給され、各タービンが駆動されることによって、プライマリターボ及びセカンダリターボの双方が稼動状態とされるツインターボモードが実現される。ツインターボモードでは、潤沢な排気エネルギを効率的に利用して、高い過給圧を得ることが可能となる。
【0044】
他方、シングルターボモードからツインターボモードへ二値的に過給モードを切り替えると、吸排気切り替え弁の切り替え速度と較べて、第2タービン231及び第2コンプレッサ234等の慣性の影響によりセカンダリターボの過給の立ち上がりが遅れるため、一時的に過給圧が低下して、トルク段差が生じることがある。そのため、シングルターボモードとツインターボモードとの間には、過渡的な過給モードとして助走モードが設定される。助走モードでは、排気切り替え弁235が所定の小開度に維持され、第2タービン231の加速が促されることによって第2タービン231が助走状態とされる。
【0045】
このように第2タービン231が助走状態になると、第2コンプレッサ234もそれに応じて回転するから、セカンダリターボによる過給が可能となる。但し、セカンダリターボ稼動初期においては、吸気切り替え弁236下流側の圧力の方が高いため、吸気切り替え弁236は、第2タービン231の助走による第2コンプレッサ234下流側の圧力上昇を待って開弁される。
【0046】
また、吸気通路204には、スロットルバルブ205の上流側において過給された吸入空気を冷却することが可能なインタークーラ240が設置されており、吸入空気の充填効率の向上が図られる構成となっている。インタークーラ240は、その内部に熱交換壁を有しており、過給された吸入空気が通過する際に、係る熱交換壁を介した熱交換により吸入空気を冷却可能に構成されている。エンジン200では、このインタークーラ240による冷却によって吸入空気の密度を増大させることが可能となるため、第1コンプレッサ228及び第2コンプレッサ234を介した過給がより効率的になされ得る。
【0047】
潤滑油供給部300は、エンジン200の各種摺動部分、並びにプライマリターボ及びセカンダリターボの各々における上記軸受部に対し、潤滑油を循環供給可能に構成された、本発明に係る「潤滑油供給装置」の一例である。尚、潤滑油供給部300の詳細について後述する。
【0048】
また、エンジンシステム10において、ECU100には、図示する以外にも、エンジン200の、或いはエンジン200が搭載される車両の運転条件を規定する各種の指標値が、各指標値について設置された各種のセンサを介して電気的に入力される構成となっている。例えば、ECU100は、エンジン200の機関回転速度NEをNEセンサ(不図示)から、またアクセル開度ACCをアクセルポジションセンサ(不図示)から、更には潤滑油の温度を潤滑油温センサ(不図示)から、夫々取得可能に構成されている。
【0049】
尚、本発明に係る「内燃機関」は、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、動弁態様及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る。例えば、本実施形態に例示するディーゼルエンジンに限らず、ガソリンを燃料とするガソリンエンジン又はアルコールとガソリンとの混合燃料を使用可能なバイフューエルエンジン等の形態を有していてもよい。
【0050】
次に、図2を参照し、潤滑油供給部300の詳細について説明する。ここに、図2は、潤滑油供給部300の構成を概念的に表してなるブロック図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0051】
図2において、潤滑油供給部300は、オイルパン310、オイルポンプ320、主供給路330、オイルフィルタ340、オイルクーラ350、油圧調整弁370、第1分岐通路380及び第2分岐通路390を含んで構成される。
【0052】
オイルパン310は、循環供給される潤滑油のうち余分な潤滑油を一時的に貯留する貯留手段である。このオイルパン310は、不図示のオイルストレーナ及び吸込み通路を介して、オイルポンプ320に接続されている。
【0053】
オイルポンプ320は、エンジン200のクランクシャフトの回転動力を利用して潤滑油をオイルパン310から吸引し、主供給路へ吐出することによって潤滑油を循環させることが可能な、公知のギア式ポンプである。尚、オイルポンプの実践的態様は、公知の各種態様を採ることができ、必ずしもギア式に限定されない。例えば潤滑油供給装置300は、オイルポンプとして、トロコイド式のポンプを備えていてもよい。
【0054】
オイルフィルタ340は、主供給路330上に設置された潤滑油の濾過装置であり、オイルポンプ320から吐出された潤滑油から不純物や各種金属粉塵等を除去可能に構成されている。このオイルフィルタ340の下流側には、オイルクーラ350が設置されており、潤滑油の過昇温が防止される構成となっている。
【0055】
一方、主供給路330は、オイルクーラ350の下流側に設置された分岐位置360において第1分岐通路380及び第2分岐通路390に分岐する。
【0056】
第1分岐通路380は、クランクシャフト、バランスシャフト及びそれらの軸受装置、ピストン及びコネクティングロッド等を含む機関運動部と、吸気弁208及び排気バルブ211並びにそれらを駆動するカムシャフトやカム及びそれらの軸受装置等を含む動弁系とに、各オイルジェットを介して潤滑油が供給されるように構成された配管である。尚、オイルジェットの作用により、各被供給部に供給された潤滑油は、エンジン200の機関停止期間においてもそれらに留まり、機関始動時においても好適な潤滑状態が維持される。尚、第1分岐通路380を介して各被供給部に供給された潤滑油は、最終的には、各種経路を辿ってオイルパン310に還流する構成となっている。
【0057】
この第1分岐通路380には、油圧調整弁370が設置されている。油圧調整弁370は、弁体の開度に応じて油圧調整弁370下流側における潤滑油の供給圧を変化させることが可能な弁装置である。尚潤滑油の供給圧とは、一義的に潤滑油の供給量を意味する。油圧調整弁370は、ECU100と電気的に接続されており、上記弁体の位置は、ECU100によって制御される構成となっている。即ち、第1分岐通路380における潤滑油の供給量は、ECU100によって制御される構成となっている。
【0058】
第2分岐通路390は、プライマリターボ及びセカンダリターボの各々における上述した軸受部に潤滑油が供給されるように構成された配管である。各軸受部に潤滑油が供給されることにより、先述したように、各ターボの回転軸は、円滑に回転することができる。尚、第2分岐通路390を介して各軸受部に供給された潤滑油は、最終的にはオイルパン310に還流する構成となっている。
【0059】
<実施形態の動作>
エンジンシステム10において、この潤滑油の供給状態は、ECU100により実行される潤滑油供給量調整制御によって制御される。ここで、図3を参照し、潤滑油供給量調整制御の詳細について説明する。ここに、図3は、潤滑油供給量調整制御のフローチャートである。
【0060】
図3において、ECU100は、潤滑油の劣化判定指標値を取得する(ステップS101)。ここで、「劣化判定指標値」とは、潤滑油の劣化度(劣化の度合い)の特定に供し得るものとして予め設定された、それ自体が潤滑油の劣化度と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応する性質を有する値であり、本実施形態では、前回潤滑油が交換されてからの走行距離Lとして設定されている。係る劣化判定指標値は、二値的、段階的又は連続的の別を問わず、その大小が潤滑油の劣化度の大小又は小大に夫々対応する性質を有する限りにおいて、係る走行距離Lに限らず広く設定可能である。また、潤滑油に係る「劣化」とは、好適には、経年変化や酸化等による粘性の低下を意味し、劣化判定指標値とは、その変化範囲が、軸受部が良好な潤滑特性を保持できる粘性領域から、焼き付きや磨耗等の不具合を生じ得る粘性領域までの潤滑油の粘性変化に対応し得るものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、劣化判定指標値は、エンジン200の冷却水温の履歴、潤滑油温の履歴、或いは潤滑油の交換ピッチ(即ち、前回潤滑油の交換がなされてからの経過時間)等であってもよい。尚、ステップS101に係るECU100の動作は、本発明に係る「特定手段」の動作の一例である。
【0061】
劣化判定指標値が取得されると、ECU100は、取得された劣化判定指標値たる走行距離Lを基準値Lthと比較することにより、潤滑油が劣化した状態にあるか否かを判別する(ステップS102)。尚、基準値Lthは、予め実験的に、或いは経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、プライマリターボ及びセカンダリターボの軸受部の潤滑状態を考慮して設定される適合値であり、走行距離Lがそれを超えた場合に、潤滑油が、これら軸受部の潤滑が実践上看過し難い程度に阻害され得る劣化状態に陥り得る走行距離として設定されている。即ち、ステップS102に係る動作は、本発明に係る「判別手段」の動作の一例であり、走行距離Lが基準値Lthを超えた状態とは、本発明に係る「潤滑油が所定の劣化状態にあると判別された」状態の一例に相当する。
【0062】
尚、本発明に係る「所定の劣化状態」とは、既に劣化が生じている状態、劣化が生じていると推定される状態、近未来的に劣化が生じかねない状態、或いは劣化が生じる以前に劣化による不具合の発生を確実に回避すべく規定される予防的見地に立った状態等を含み、例えば、上記走行距離Lを例に採れば、基準値Lthの設定如何により、これらの状態にあるか否か(即ち、「所定の劣化状態に有るか否か」)を容易に判別することができる。
【0063】
潤滑油が劣化した状態にない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。一方で、潤滑油が劣化状態にある場合(ステップS102:YES)、ECU100は、プライマリターボの第1コンプレッサ228の回転速度(第1回転軸226の回転速度及び第1タービン225の回転速度と同じである)たるプライマリターボ回転速度Nt1を推定する(ステップS103)。ここで、ECU100は、予めROMに格納された、機関回転速度NEと噴射量Qとをパラメータする回転速度マップに基づいて、現時点の機関回転速度NE及び噴射量Qに対応する一の回転速度としてプライマリターボ回転速度Nt1を推定する。尚、第1コンプレッサ228、第1回転軸226又は第1タービン225の近傍に、それらの回転速度を検出可能なセンサ等の検出手段が設置される場合には、係る検出手段により、プライマリターボ回転速度Nt1が検出されてもよい。
【0064】
ECU100は、推定されたプライマリターボ回転速度Nt1が、予め設定されたプライマリターボの上限回転速度Ntmaxに係数Cを乗じた判断基準値以上であるか否かを判別する(ステップS104)。尚、係数Cは、それ以上の回転領域で、潤滑油不足による軸受部の磨耗又は焼き付きが生じ得る値として予め実験的な適合により算出されている。係数Cは、例えば0.7内外の値であってもよい。ECU100は、プライマリターボ回転速度Nt1が判断基準値未満である場合(ステップS104:NO)には、処理をステップS101に戻す。
【0065】
一方、プライマリターボ回転速度Nt1が当該判断基準値以上である場合(ステップS104:YES)、ECU100は、油圧調整弁370の開度を変更し、第1分岐通路380と第2分岐通路390との間の潤滑油の供給比率を変更する(ステップS105)。この際、ECU100は、当該開度を閉弁側に変更し、第1分岐通路380への潤滑油の供給量を減少させる。一方、オイルポンプ320における潤滑油の吐出圧はエンジン200の動作状態によって決まっており、主供給路330に供給される潤滑油の量はエンジン200の動作状態が変化しなければ不変である。従って、第1分岐通路380における潤滑油の供給量が減少した分は、第2分岐通路390に流入することになる。その結果、プライマリターボ及びセカンダリターボの各々の軸受部に置ける潤滑油の供給量が増加する。尚、ステップS105に係るECU100の動作は、本発明に係る「制御手段」の動作の一例である。
【0066】
ステップS105に係る処理が実行されると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。潤滑油供給量調整制御は、このようにして実行される。
【0067】
このように、本実施形態に係る潤滑油供給量調整制御によれば、潤滑油が劣化状態にあり、且つプライマリターボが高回転状態にある(場合によっては、セカンダリターボであってもよいが、先述したように、シングルターボモードにおいてセカンダリターボは非稼動であり、常時稼動状態にあるプライマリターボの方が、判断対象として適当である)場合に、各ターボの軸受部に対する潤滑油の供給量が増量される。このため、軸受部の磨耗、損耗及び焼き付きが未然に防止され、各過給器の耐久性及び信頼性を向上させることができる。
【0068】
補足すると、本実施形態のプライマリターボ及びセカンダリターボに例示されるパラレルツインターボシステムにおいては、エンジン200の低回転領域から高回転領域にわたって好適な過給が遂行される。このため、エンジン200が低回転領域で稼動していても、プライマリターボ又はセカンダリターボの回転速度が相応に高くなる場合がある。一方、潤滑油を吐出するオイルポンプ320の吐出圧は、クランクシャフトの回転に連動するため、各ターボの軸受部に対する潤滑油の供給量は総じて不足する傾向にある。
【0069】
その点、本実施形態に係る潤滑油供給量調整制御によれば、劣化判定指標値との比較判別に供される基準値と、プライマリターボ回転速度Nt1との比較判別に供される判断基準値とを適切に設定することによって、各ターボの軸受部の潤滑が不足する場合に、効率的に潤滑油の供給量が増量される。このため、エンジン200の動作状態によらず、常時エンジン200の各潤滑対象及び各ターボの軸受部に対し望ましい量の潤滑油を供給することができるといった、実践上有益なる効果が奏されるのである。
【0070】
また、近年、エンジン200の燃費を重視する観点から、潤滑油の粘性は、フリクションの増大による燃費の悪化を招来しないように低粘性側へシフトされる傾向がある。各潤滑対象の潤滑特性に関して言えば、粘性が低過ぎればそれだけ磨耗や焼き付きの可能性は高くなるから、このような場合、軸受部は、より磨耗又は焼き付きの可能性が高くなる側での動作を余儀なくされ得る。このような状況においては、本実施形態に係る上記効果がより鮮明となる。
【0071】
尚、第1分岐通路380と第2分岐通路390との間における潤滑油の供給量の比率は、圧力調整弁370の弁体の開度に応じて段階的又は連続的に可変であるから、上述したように、潤滑油の劣化の有無に応じて二値的に供給比率を変化させる手法の他に、より多段階に潤滑油の劣化状態を区分して、多段階に供給比率を変化させることも可能である。また、同一の劣化状態であれば、軸受部における磨耗及び焼き付きの可能性は、プライマリターボ回転速度Nt1が上昇するに従って高くなる。その点に鑑みれば、プライマリターボ回転速度Nt1をパラメータとして、多段階に潤滑油の供給比率を変化させることもまた可能である。更には、各ターボの軸受部に必要とされる潤滑油の供給量は、潤滑油に固有の粘性(正常時の粘性)にも影響される。従って、予め潤滑油の粘性に関する基礎情報が参照情報として与えられる場合には、圧力調整弁370の制御情報に、当該基礎情報を反映させてもよい。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う潤滑油供給装置の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る潤滑油供給装置の制御装置は、パラレルツインターボシステムに潤滑油を供給可能な潤滑油供給装置の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、225…第1タービン、226…第1回転軸、228…第1コンプレッサ、231…第2タービン、232…第2回転軸、234…第2コンプレッサ、300…潤滑油供給部、310…オイルパン、320…オイルパンプ、330…主供給路、340…オイルフィルタ、350…オイルクーラ、360…分岐位置、370…油圧調整弁、380…第1分岐通路、390…第2分岐通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関において相互に並列に配置された複数の排気駆動型の過給器の各々における軸受部に対し潤滑油を供給可能な潤滑油供給装置の制御装置であって、
前記潤滑油の劣化の度合いを特定する特定手段と、
前記特定された劣化の度合いに基づいて、前記潤滑油が所定の劣化状態にあるか否かを判別する判別手段と、
前記潤滑油が前記劣化状態にあると判別された場合に、前記各々における軸受部に対する前記潤滑油の供給量が増加するように前記潤滑油供給装置を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする潤滑油供給装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−209885(P2010−209885A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59893(P2009−59893)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】