説明

炭化ケイ素単結晶の製造方法及び製造装置

【課題】近接昇華法を用いた炭化ケイ素単結晶ウェハの製造において、昇華用原料を均熱加熱できる製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】昇華用原料2と炭化ケイ素基板4の間に炭化ケイ素単結晶の成長領域を形成することができる程度に昇華用原料2と炭化ケイ素基板4を近接して配置した後、坩堝10の昇華用原料2収容側から電子衝撃加熱して昇華雰囲気を形成し、炭化ケイ素基板4上に炭化ケイ素単結晶を成長させる。上記炭化ケイ素基板としては、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、前記炭化ケイ素単結晶の(0001)c面から0.4度以上2度以下のオフ角で切り出された炭化ケイ素単結晶ウェハを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素単結晶の製造方法及び製造装置に関する。さらに詳しくは近接昇華法を用いた炭化ケイ素単結晶の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、ケイ素に比し、バンドギャップが大きく、絶縁破壊特性、耐熱性、耐放射線性等に優れることから、小型で高出力の半導体等の電子デバイス材料として注目されている。また、炭化ケイ素は、光学的特性に優れた他の化合物半導体との接合性に優れることから、光学デバイス材料としても注目されてきている。かかる炭化ケイ素の結晶の中でも、炭化ケイ素単結晶は、炭化ケイ素多結晶に比し、ウェハ等のデバイスに応用した際にウェハ内特性の均一性等に特に優れるという利点がある。
【0003】
炭化ケイ素単結晶ウェハの製造方法の一態様として、昇華用原料と炭化ケイ素基板とをスペーサーを挟んで近接して坩堝内に配置し、炭化ケイ素基板上に炭化ケイ素単結晶ウェハを成長させる近接昇華法がある。しかし、かかる近接昇華法においては坩堝側部に設けられた加熱源を用いて坩堝を加熱していたため、昇華用原料を均一に加熱することが困難であった。かかる課題の解決手段としては、坩堝の底部から昇華用原料を高周波誘導加熱する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1にかかる発明は、加熱手段として高周波誘導加熱を用いている。一般に高周波加熱方式では絶縁性能上1500℃程度が利用限度とされている。一方、昇華近接法は1500〜2000℃まで加熱が必要となる。そのため、特許文献1にかかる発明においては、坩堝の加熱効率を上げ、また誘導加熱用ワークコイルを熱的に保護するためにも坩堝下面とワークコイルの間に十分な厚みの断熱材を設ける必要があった。その結果、特許文献1にかかる発明は、加熱制御に対する応答性が悪く、特にドープ量変化の急峻な界面を得るために成長初期に重要な昇華速度の厳密制御が困難であった。さらに特許文献1にかかる発明は加熱容器の昇降温時間が長かった。そのため、昇降温途中に成長ウェハ表面のエッチングと表面凹凸化が大きくなり、成長開始時に欠陥が発生したり、成長した膜表面の平坦性が劣化する傾向があった。
【特許文献1】特開2004―47658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近接昇華法を用いた炭化ケイ素単結晶ウェハの製造において、昇華用原料を均熱加熱できる製造方法及び製造装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の記載事項に関する:
(1)昇華用原料と炭化ケイ素基板を近接して坩堝内に配置する工程と、
上記坩堝の昇華用原料収容側から電子衝撃加熱して昇華雰囲気を形成し、近接昇華法により上記炭化ケイ素基板上に炭化ケイ素単結晶を成長させる工程と、
を有することを特徴とする炭化ケイ素単結晶の製造方法。
(2)上記炭化ケイ素基板は、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、上記炭化ケイ素単結晶の(0001)c面から0.4度以上2度以下のオフ角で切り出された炭化ケイ素単結晶ウェハであることを特徴とする上記(1)に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
(3)上記炭化ケイ素単結晶から切り出された上記ウェハは、上記ウェハの全面積の80%以上でオフ角が0.4度以上2度以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
(4)上記炭化ケイ素基板は、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、(0001)c面から0.4度未満のオフ角、上記炭化ケイ素単結晶の〈11−20〉方向からのずれが2.5度以内のオフ方向で切り出された炭化ケイ素単結晶ウェハであることを特徴とする上記(1)に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
(5)上記炭化ケイ素単結晶から切り出された上記ウェハは、上記ウェハのオフ角が、0.1度以上0.4度未満であることを特徴とする上記(4)に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
(6)上記炭化ケイ素単結晶から切り出したウェハ表面が加工損傷を含まないようにエピタキシャル成長前に表面処理を行うことを特徴とする上記(2)〜(5)のいずれかに記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
(7)昇華用原料と炭化ケイ素基板とを近接して収容する坩堝と、
上記坩堝の昇華用原料収容側から上記坩堝を加熱し、近接昇華法により上記炭化ケイ素基板上に炭化ケイ素単結晶を成長させる電子衝撃加熱装置と、
上記坩堝、上記電子衝撃加熱装置を収納すると共に、不活性雰囲気を形成する容器と、を備えることを特徴とする炭化ケイ素単結晶製造装置。
【発明の効果】
【0007】
近接昇華法を用いた炭化ケイ素単結晶ウェハの製造において、昇華用原料を均熱加熱できる製造方法及び製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明が以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。まず炭化ケイ素単結晶の製造原料としての昇華用原料について説明する。
(昇華用原料)
昇華用原料としては、炭化ケイ素である限り、結晶の多型、使用量、純度、その製造方法等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
上記昇華用原料の結晶の多型としては、例えば、4H,6H,15R,3Cなどが挙げられ、これらの中でも6Hなどが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用されるのが好ましいが、2種以上併用されてもよい。
昇華用原料の使用量としては、製造する炭化ケイ素単結晶の大きさ、坩堝の大きさ等に応じて適宜選択することができる。
昇華用原料の純度としては、製造する炭化ケイ素単結晶中への多結晶や多型の混入を可能な限り防止する観点からは、純度の高いことが好ましく、具体的には、不純物元素の各含有量が0.5ppm以下であるのが好ましい。
【0009】
ここで、不純物元素の含有量は、化学的な分析による不純物含有量であり、参考値としての意味を有するに過ぎず、実用的には、上記不純物元素が上記炭化ケイ素単結晶中に均一に分布しているか、局所的に偏在しているかによっても、評価が異なってくる。なお、ここで「不純物元素」とは、1989年IUPAC無機化学命名法改訂版の周期律表における1族から17族元素に属しかつ原子番号3以上(但し、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を除く)である元素をいう。また、成長する炭化ケイ素単結晶にn型あるいはp型の導電性を付与するため故意にそれぞれ窒素、アルミニウムなどのドーパント元素を添加した場合はそれらも除くこととする。
【0010】
昇華用原料としては、粉体であっても固形体であっても構わない。粉体の昇華用原料として、あるいは固形体の昇華用原料を焼結等で製造する原料としての炭化ケイ素粉末は、例えば、ケイ素源として、ケイ素化合物の少なくとも1種と、炭素源として、加熱により炭素を生ずる有機化合物の少なくとも1種と、重合触媒又は架橋触媒とを溶媒中で溶解し乾燥して得られた粉末を非酸化性雰囲気下で焼成することにより得られる。
【0011】
ケイ素化合物としては、液状のものと固体のものとを併用することができるが、少なくとも1種は液状のものから選択する。液状のものとしては、アルコキシシラン及びアルコシシシラン重合体が好適に用いられる。アルコキシシランとしては、例えば、メトキシシラン、エトキシシラン、プロポキシシラン、ブトキシシラン等が挙げられ、これらの中でもハンドリングの点でエトキシシランが好ましい。アルコキシシランとしては、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランのいずれであってもよいが、テトラアルコキシシランが好ましい。アルコキシシラン重合体としては、重合度が2〜15程度の低分子量重合体(オリゴマー)及びケイ酸ポリマーが挙げられる。例えば、テトラエトキシシランオリゴマーが挙げられる。固体のものとしては、SiO、シリカゾル(コロイド状超微細シリカ含有液、内部にOH基やアルコキシル基を含む)、二酸化ケイ素(シリカゲル、微細シリカ、石英粉末)等の酸化ケイ素が挙げられる。ケイ素化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ケイ素化合物の中でも、均質性やハンドリング性が良好な点でテトラエトキシシランのオリゴマー、テトラエトキシシランのオリゴマーと微粉末シリカとの混合物、等が好ましい。
【0012】
ケイ素化合物は、高純度であるのが好ましく、初期における各不純物の含有量が20ppm以下であるので好ましく、5ppm以下であるのがより好ましい。加熱により炭素を生じる有機化合物としては、液状のものを単独で用いてもよいし、液状のものと固体のものとを併用してもよい。加熱により炭素を生ずる有機化合物としては、残炭率が高く、かつ触媒若しくは加熱により重合又は架橋する有機化合物が好ましく、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等の樹脂のモノマーやプレポリマーが好ましく、その他、セルロース、蔗糖、ピッチ、タール等の液状物が挙げられる。これらの中でも、高純度のものが好ましく、フェノール樹脂がより好ましく、レゾール型フェノール樹脂が特に好ましい。加熱により炭素を生ずる有機化合物は、1種単独で用いてもよいし、2以上を併用してもよい。
【0013】
加熱により炭素を生ずる有機化合物の純度としては、目的に応じて適宜選択することができるが、高純度の炭化ケイ素粉末が必要な場合には各金属を5ppm以上含有していない有機化合物を用いることが好ましい。
【0014】
重合触媒及び架橋触媒としては、加熱により炭素を生ずる有機化合物に応じて適宜選択できるが、加熱により炭素を生ずる有機化合物がフェノール樹脂やフラン樹脂の場合、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、しゅう酸、マレイン酸、硫酸等の酸類が好ましく、マレイン酸が特に好ましい。
【0015】
加熱により炭素を生ずる有機化合物に含まれる炭素と、上記ケイ素化合物に含まれるケイ素との比(以下「C/Si比」と略記)は、両者の混合物を1000℃にて炭化して得られる炭化物中間体を、元素分析することにより定義される。化学量論的には、C/Si比が3.0の時に得られた炭化ケイ素粉末中の遊離炭素が0%となるはずであるが、実際には同時に生成するSiOガスの揮散により低C/Si比において遊離炭素が発生する。この得られた炭化ケイ素粉末中の遊離炭素量が適当な量となるように予め配合比を決定しておくのが好ましい。通常、1気圧近傍で1600℃以上での焼成では、C/Si比を2.0〜2.5にすると遊離炭素を抑制することができる。C/Si比が2.5を超えると、遊離炭素が顕著に増加する。但し、雰囲気の圧力を低圧又は高圧で焼成する場合は、純粋な炭化ケイ素粉末を得るためのC/Si比は変動するので、この場合は必ずしもC/Si比の範囲に限定するものではない。
【0016】
なお、炭化ケイ素粉末は、例えば、ケイ素化合物と加熱により炭素を生ずる有機化合物との混合物を硬化することによっても得られる。硬化の方法としては、加熱により架橋する方法、硬化触媒により硬化する方法、電子線や放射線による方法、などが挙げられる。
【0017】
硬化触媒としては、加熱により炭素を生ずる有機化合物の種類等に応じて適宜選択することができ、フェノール樹脂やフラン樹脂の場合には、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、しゅう酸、塩酸、硫酸、マレイン酸等の酸類、ヘキサミン等のアミン酸などが好適に挙げられる。これらの硬化触媒を用いる場合、硬化触媒は溶媒に溶解し又は分散される。触媒としては、低級アルコール(例えばエチルアルコール等)、エチルエーテル、アセトンなどが挙げられる。
【0018】
以上により得られた炭化ケイ素粉末は、窒素又はアルゴン等の非酸化性雰囲気中、800〜1000℃にて30〜120分間、焼成される。焼成により上記炭化ケイ素粉末が炭化物になり、上記炭化物を、アルゴン等の非酸化性雰囲気中、1350〜2000℃で焼成することにより、炭化ケイ素粉末が生成される。焼成の温度と時間とは、得ようとする炭化ケイ素粉末の粒径等に応じて適宜選択することができ、炭化ケイ素粉末のより効果的な生成の点で上記温度は1600〜1900℃が好ましい。なお、焼成の後に、不純物を除去し高純度の炭化ケイ素粉末を得る目的で、例えば、2000〜2400℃で3〜8時間加熱処理を行うのが好ましい。
【0019】
以上により得られた炭化ケイ素粉末は、大きさが不均一であるため、解粉、分級等を行うことにより所望の粒度にすることができる。炭化ケイ素粉末の平均粒径としては、粉体を昇華用原料に用いる場合、10〜700μmが好ましく、100〜400μmがより好ましい。平均粒径が10μm未満であると、炭化ケイ素単結晶を成長させるための炭化ケイ素の昇華温度、即ち1800℃〜2700℃で速やかに焼結を起こしてしまうため、昇華表面積が小さくなり、炭化ケイ素単結晶の成長が遅くなることがあり、また、炭化ケイ素粉末を坩堝へ収容させる際や、成長速度調整のために再結晶雰囲気の圧力を変化させる際に、炭化ケイ素粉末が飛散し易くなる。一方、平均粒径が500μmを超えると、炭化ケイ素粉末自身の比表面積が小さくなるため、やはり炭化ケイ素単結晶の成長が遅くなることがある。
【0020】
炭化ケイ素粉末としては、4H、6H、15R、3C、これらの混合物等のいずれであってもよいが、成長させる単結晶と同一の多型が好ましく、高純度のものが好ましい。
【0021】
なお、上記炭化ケイ素粉末を用いて成長させた炭化ケイ素単結晶にn型又はp型の導電性を付与する目的で窒素又はアルミニウムなどをそれぞれ導入することができ、上記窒素又はアルミニウムを上記炭化ケイ素粉末の製造時に導入する場合は、まず上記ケイ素源と、上記炭素源と、窒素源又はアルミニウム源からなる有機物質と、上記重合又は架橋触媒とに均一に混合すればよい。このとき、例えば、フェノール樹脂等の炭素源と、ヘキサメチレンテトラミン等の窒素源からなる有機物質と、マレイン酸等の重合又は架橋触媒とを、エタノール等の溶媒に溶解する際に、テトラエトキシシランのオリゴマー等のケイ素源と十分に混合することが好ましい。
【0022】
窒素源からなる有機物質としては、加熱により窒素を発生する物質が好ましく、例えば、高分子化合物(具体的には、ポリイミド樹脂、及びナイロン樹脂等);有機アミン(具体的には、ヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、トリエチルアミン等、及びこれらの化合物、塩類)の各種アミン類が挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンテトラミンが好ましい。また、ヘキサミンを触媒として合成され、その合成工程に由来する窒素を樹脂1gに対して2.0mmol以上含有するフェノール樹脂も、上記窒素源からなる有機物質として好適に用いることができる。こられの窒素源からなる有機物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記アルミニウム源からなる有機物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
窒素源あるいはアルミニウム源からなる有機物質の添加量は、上記炭化ケイ素粉を用いて成長させた炭化ケイ素単結晶が所望の導電率を有するように適宜調整される。
【0024】
炭化ケイ素単結晶の製造におけるより具体的な昇華用原料を列記すると以下の通りである。昇華用原料として、高純度のアルコキシシランをケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度の有機化合物を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物を非酸化性雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。また昇華用原料として、高純度のアルコキシシラン及び高純度のアルコキシシランの重合体をケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度の有機化合物を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物を非酸化性雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。また昇華用原料として、高純度のメトキシシラン、高純度のエトキシシラン、高純度のプロポキシシラン、高純度のブトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種をケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度の有機化合物を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物を非酸化性雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。さらに昇華用原料として、高純度のメトキシシラン、高純度のエトキシシラン、高純度のプロポキシシラン、高純度のブトキシシラン及び重合度が2〜15のそれらの重合体からなる群から選択される少なくとも1種をケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度の有機化合物を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物を非酸化性雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。昇華用原料として、高純度のモノアルコキシシラン、高純度のジアルコキシシラン、高純度のトリアルコキシシラン、高純度のテトラアルコキシシラン及び重合度が2〜15のそれらの重合体からなる群から選択される少なくとも1種をケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度の有機化合物を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物を非酸化性雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。
【0025】
(炭化ケイ素単結晶製造装置)
図1に示される本発明の実施形態にかかる炭化ケイ素単結晶製造装置1は、
昇華用原料2と炭化ケイ素基板4とをスペーサー3を挟んで近接して収容する坩堝10と、
坩堝10の外側表面を覆い坩堝10からの熱の放出を遮蔽する熱シールド20と、
坩堝10の昇華用原料2収容側から坩堝10を加熱し、近接昇華法により炭化ケイ素基板4上に炭化ケイ素単結晶を成長させる電子衝撃加熱装置30と、
坩堝10、熱シールド20、電子衝撃加熱装置30を収納すると共に、不活性雰囲気を形成する容器40と、を備える。
【0026】
昇華用原料2としては、上記昇華用原料の欄で説明した昇華用原料を用いることができる。昇華用原料としては、粉体であっても固形体であっても構わない。作業性の観点からは上記炭化ケイ素粉体を用いて製造された炭化ケイ素焼結体を用いることが好ましい。
【0027】
炭化ケイ素基板4としては、特に制限なく種々の炭化ケイ素基板を用いることができる。具体的には、多型が4Hまたは6Hである炭化ケイ素単結晶ウェハ(以下「ウェハ」ともいう。)を用いることができる。バルク結晶の利用率の向上と、基板欠陥の伝播を低減する観点からは、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、(0001)c面に対し全体として0.4度以上2度以下、好ましくは0.4度以上1度以下のオフ角となるように切り出した炭化ケイ素単結晶ウェハを用いることが好ましい。また、ウェハ面内でオフ角が分布を持つ場合、炭化ケイ素単結晶から切り出したウェハの全面積の80%以上でオフ角が0.4度以上2度以下となるように、炭化ケイ素単結晶からウェハを切り出すことが好ましい。具体的には、ウェハの全面で一定のオフ角とすることが困難な場合、ウェハの中心から周辺に向けて略同心円状にオフ角を0度から増加させ、オフ角が0.4度未満の面積をウェハ中心付近(全体の面積の20%以下)の狭い領域に限定すると都合がよい。またはウェハの一端部から中心に向けて略同心円状にオフ角を0度から増加させ、オフ角が0.4度未満の面積をウェハの一端部付近(全体の面積の20%以下)の狭い領域に限定することも同様に都合がよい。実施形態に沿って実質的にウェハの全面でオフ角を0.4度以上とすることで、ウェハの面内に通常存在するオフ角やオフ方向の分布に依らず、常にウェハの全面でマクロな凹凸のない極めて平坦な単結晶の成長面を得ることができる。
【0028】
上記炭化ケイ素単結晶ウェハは以下のようにして製造され得る。(イ)まずバルク状のα型(六方晶)炭化ケイ素単結晶を用意する。(ロ)用意した炭化ケイ素単結晶から、炭化ケイ素単結晶の(0001)c面に対し全体として0.4度以上2度以下のオフ角でウェハを切り出す。オフ角が0.4度未満になると炭化ケイ素のエピタキシャル成長表面に1.5nm以上の凹凸が多数発生して良好な素子の作製が困難となるからである。またオフ角が2度を超えるとバルク結晶の利用率低下が無視できなくなるからである。例えば〔0001〕c軸方向に成長させた、結晶径が50mmで結晶高さ20mmのバルク単結晶から、結晶多型が6Hのウェハで現在一般的な3.5度のオフ角を設けてウェハを作製する場合のバルク単結晶の利用率は84%であり、オフ角が2度の場合は91%である。一方、オフ角が0.4度の場合は98%にまで結晶利用率の増加を図ることが出来る。以上よりウェハの利用率の観点からは、オフ角は0.4度以上1.2度以下が好ましく、0.4度以上0.8度以下がさらに好ましい。そして、基板欠陥由来の欠陥発生を防止するために、切り出したウェハに表面処理を行いウェハ表面の加工損傷を取り除くことが好ましい。表面処理方法としては、例えば化学的機械的研磨(CMP)、水素エッチング等が挙げられる。本明細書において、(0001)c面とは、図3に示すような六方晶炭化ケイ素単結晶の〔0001〕c軸に直行するいずれか一つの面をいう。また、「オフ角」とは、六方晶炭化ケイ素単結晶の(0001)c面から、傾斜させた際の傾斜角度をいい、図4中βで示される〈0001〉方向からのnの傾斜角度をいう。
【0029】
以上のようにして、炭化ケイ素単結晶ウェハが製造される。〔0001〕c軸に垂直な基板を用いた炭化ケイ素単結晶のエピタキシャル成長では、ケイ素面を用いたエピタキシャル成長の方が一般に炭素面でのエピタキシャル成長よりも広い範囲で不純物量の制御が容易である。そのため、ケイ素面でのエピタキシャル成長膜の方が炭素面に比較してより広い範囲で電気特性の制御が可能である。一方、ケイ素面では一般的に炭素面に比較して表面ステップのバンチングが生じやすい。つまり、平坦なエピタキシャル成長面を得ることは一般に炭素面よりも困難とされている。しかしながら、上記製造方法によれば、ケイ素面及び炭素面のいずれかに依存せずに極めて平坦なエピタキシャル成長面を得ることができる。また上記製造方法によれば、大口径のウェハ、例えばウェハの直径が50mm以上の炭化ケイ素単結晶ウェハの製造に際しても、極めて平坦なエピタキシャル成長面を得ることができる。即ち、ウェハの直径が50mm以上の炭化ケイ素単結晶ウェハが提供される。さらに、α型炭化ケイ素単結晶が4H,6Hのいずれであっても、上記と同様にして炭化ケイ素単結晶ウェハを製造することができる。
【0030】
坩堝10としては、昇華用原料2の昇華温度まで加熱されうる耐熱性を有するものであって、昇華用原料2と炭化ケイ素基板4とをスペーサー3を挟んで近接して収納できるものであれば特に制限されるものではない。坩堝10の一形態としては、図2に示すような昇華用原料2を収容可能な坩堝本体12と、坩堝本体12に着脱自在に設けられ、スペーサー3を挟んで昇華用原料に対向する炭化ケイ素基板4を設置可能とする蓋部11と、を有する坩堝10が挙げられる。坩堝10の内部は筒形状となるが、上記筒形状の軸としては、直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。上記筒形状の軸方向に垂直な断面形状としては、円形であってもよいし、多角形であってもよい。上記円形状の好ましい例としては、その軸が直線状であり、かつ上記軸方向に垂直な断面形状が円形であるものが好適に挙げられる。坩堝本体12即ち昇華用原料収容部の形状としては、特に制限はなく、平面形状であってもよいし、均熱化を促すための構造(例えば凸部等)を適宜設けてもよい。尚、図1の坩堝10は、炭化ケイ素基板4が1枚配置できる構成としているが炭化ケイ素基板4を複数枚配置できる構成としても構わない。
【0031】
坩堝10の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。耐久性、耐熱性、伝熱性等に優れた材料で形成されているのが好ましく、これらに加えて更に不純物の発生による多結晶や多型の混入等が少なく、昇華用原料の昇華と再結晶の制御が容易である等の点で黒鉛製であるものが特に好ましい。坩堝10は、単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよく、目的に応じて適宜選択することができる。坩堝10は、熱シールド20、即ち断熱材等で囲まれていることが好ましい。加熱エネルギーの損失が少ないからである。尚、加熱制御に対する応答性をさらに高め、また加熱容器の昇降温時間をさらに短くする観点からは熱シールド20を取り除いても構わない。
【0032】
スペーサー3としては、昇華用原料2の昇華温度まで加熱されうる耐熱性を有するものであって、昇華用原料2と炭化ケイ素基板4の間に炭化ケイ素単結晶の成長領域を形成する程度の厚みを備えるスペーサー3を用いることが好ましい。スペーサー3の厚みを変えることで成長する炭化ケイ素単結晶ウェハの厚みを調整することができる。スペーサー3は、坩堝10に収容された際に、昇華用原料2と炭化ケイ素基板4に挟まれて配置される。
【0033】
熱シールド20としては、不活性ガス例えばアルゴンガスを透過しうる多孔体であって、坩堝10からの熱の放射を遮ることができるものが好ましい。具体的には、黒鉛フェルトや発泡材等の成形体からなる熱シールド20が好ましい。坩堝10内部の温度を監視する観点からは、図1に示すように炭化ケイ素基板4の上方の位置に孔を開け、その孔の上方に放射温度計(図示せず)を設けて、坩堝10内の温度変化をみることが好ましい。
【0034】
電子衝撃加熱装置30は、容器32と、フィラメント33a、33bと、リフレクタ34、35とを備える。容器32には、吸引孔32aを介して吸引手段(図示せず)が取り付けられている。吸引手段を作動させて吸引孔32aから空気を抜くことで容器32内に真空雰囲気が形成される。また容器32は、坩堝10を保持するステージとしての役割もはたす。フィラメント33a、33bは絶縁シール端子を介して電源(図示せず)に接続されている。またリフレクタ34、35を設けることにより効率よく坩堝10を電子衝撃加熱することができる。リフレクタ34,35は、被加熱物からは絶縁されているが、リフレクタ34,35とフィラメント33a、33bは結線36により略等電位の状態に置かれている。
【0035】
電子衝撃加熱装置30を坩堝10の下方に配置することで昇華用原料を均一に加熱することが可能となる。
【0036】
尚、電子衝撃加熱装置30に、さらにステージを設けても構わない。ステージとしては、坩堝10を保持できる強度と、高温下でも坩堝10を保持できる耐熱性と、容器32内を高真空に保つ気密性と、フィラメントの対向電極を形成する導電性とを備え得るものであれば特に制限されない。具体的には熱分解黒鉛や熱分解黒鉛でコーティングされた部材などを用いることができる。ステージを設ける場合は、坩堝10の加熱効率を上昇させる観点から、電子衝撃加熱装置30をステージ25にできる限り近接して配置することが好ましい。また電子衝撃加熱装置30には測温素子として熱電対を設けても構わない。
【0037】
容器40には、不活性ガスの吸引口41と排出口42とが備えられている。吸引口41から送り込まれた不活性ガス、例えばアルゴンガスが容器内を充填することで、容器40内が不活性雰囲気に維持される。容器40内の圧力は昇降温途中では大気圧に維持され、成長中は所望の成長速度が得られる圧力まで減圧されることが好ましい。
【0038】
(炭化ケイ素単結晶の製造方法)
本発明の実施形態にかかる炭化ケイ素単結晶の製造方法は、
(イ)昇華用原料2と炭化ケイ素基板4を近接して坩堝10内に配置する工程と、
(ロ)坩堝10の昇華用原料2収容側から電子衝撃加熱して昇華雰囲気を形成し、近接昇華法により炭化ケイ素基板4上に炭化ケイ素単結晶を成長させる工程と、を有する。以下工程毎に説明する。
【0039】
(イ)工程
昇華用原料2を坩堝10に配置する。次に炭化ケイ素基板4をスペーサー3を挟んで坩堝10内に配置する。その際昇華用原料2と炭化ケイ素基板4の間に炭化ケイ素単結晶の成長領域を形成することができる程度に昇華用原料2と炭化ケイ素基板4を近接して配置する。
【0040】
(ロ)工程
次に坩堝10の昇華用原料2収容側から電子衝撃加熱して昇華雰囲気を形成する。昇華用原料2が昇華する温度まで加熱する。加熱温度は1500℃〜2100℃が好ましく、1900℃〜2000℃がさらに好ましい。そして近接昇華法により炭化ケイ素基板4上に炭化ケイ素単結晶を成長させる。昇華用原料2収容側から加熱することで、坩堝10の側部から加熱する場合よりも、昇華用原料2を均一に加熱することができる。また、電子衝撃加熱することで、加熱制御の熱応答性が向上するため、昇華速度の微調整がしやすくなるという作用効果が得られる。加熱の際、容器内をアルゴン雰囲気にしておくことが好ましい。
【0041】
炭化ケイ素単結晶の製造方法及び製造装置にかかる実施形態によれば、近接昇華法を用いた炭化ケイ素単結晶の製造において、昇華用原料2を均熱加熱できる。その結果、高品質の炭化ケイ素単結晶を効率良く製造することができる。より詳しくは従来のように坩堝下面と加熱装置との間に断熱材を設けなくても2000℃以上まで容易に加熱でき、優れた面内温度均一性が得られる。また断熱材を用いない結果、加熱制御に対する応答性が良く(応答時間が数秒と短く)、特に成長初期に必要な昇華速度の微調整を容易に行える。さらに加熱容器の昇降温時間が短く、例えば数分単位で昇降できるため、昇降温途中での成長ウェハ表面のエッチングと表面凹凸化が無視できるほど小さくなる。その結果、成長開始時の欠陥発生が抑えられ、また成長した膜表面の平坦性も向上する。
【0042】
(炭化ケイ素単結晶)
炭化ケイ素単結晶は、上記実施形態にかかる炭化ケイ素単結晶の製造方法により製造される。本実施形態によれば、所望の電気伝導度と伝導タイプ(n型またはp型)、および厚みを持ち、炭化ケイ素単結晶基板と同じ結晶方位を示す単結晶膜が得られる。
【0043】
ノマルスキー(微分干渉)光学顕微鏡により炭化ケイ素単結晶ウェハの表面観察を行うと、オフ角が極めて小さいにも関わらず従来報告されているようなマクロな三角ピット等の表面欠陥は全く見られない。さらに上記炭化ケイ素単結晶ウェハは、オフ角が0.4度以上の領域において、原子間力顕微鏡(AFM)による表面の凹凸が2nmを超えず極めて平坦である。また、オフ角が0.4度未満の場合に発生するような線状あるいは点状の、長さがミクロンオーダーを越えるマクロな凹凸は一切見られない。さらに、基板から引き継がれる基底面転位の数も10/cm以下と極めて少ない。そのため、高品質な素子の製造が可能となる。なお、表面粗さについては光学的測定のように検出領域もしくは測定スポット径が大きいと粗さが平均化され小さく見積もられる。また測定領域が狭いほど一般的には粗さの最大値(最大高さ:Ry)は小さくなる。そこで、本実施形態において「表面粗さ」とはAFMにより1μm角以上の測定領域で求められたRyとし、Ryが十分小さく上記のようなマクロな凹凸も見られない表面を平坦な面と定義する。
【0044】
(用途)
炭化ケイ素単結晶を用いた電子デバイスで期待されるものとしてMOS(Metal Oxide Semiconductor)電界効果トランジスタが挙げられる。MOS構造のゲート酸化膜(絶縁膜)は通常単結晶成長膜を熱酸化することにより単結晶成長膜表面に形成される。したがって、一定膜厚で耐圧が一定の酸化膜を作製するためには、酸化前の単結晶成長膜表面は、この酸化膜厚のオーダーに比較して十分に平坦にすることが好ましい。上記ゲート酸化膜の厚みは20〜60nmが一般的であることから、酸化膜厚の許容される変動幅が10%とすると、単結晶成長膜の表面粗さは2〜6nm程度以下であることが必要となる。この場合、本発明にかかる炭化ケイ素単結晶の表面粗さは上記の通り2nmを超えることがない。そのため、本発明にかかる炭化ケイ素単結晶は電子デバイス、特にMOS電界効果トランジスタの製造に好適に用いられる。
本発明の炭化ケイ素単結晶は、マクロな三角ピットや多型の混入がなく、表面が平坦で基底面転位も少なく極めて高品質である。そのため、耐高電圧、絶縁破壊特性、耐熱性、耐放射線性等に優れた、電子デバイス、特にパワーデバイスや発光ダイオード等に好適に用いられる。
【0045】
(実施形態の変形例)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。上記実施形態にかかる炭化ケイ素単結晶ウェハを用いた場合、オフ角が0.4度未満になると炭化ケイ素のエピタキシャル成長表面に1.5nm以上の凹凸が多数発生して良好な素子の作製が困難となる。ところが、例えば炭化ケイ素単結晶ウェハとして、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、(0001)c面から0.4度未満、好ましくは0.1度以上0.4度未満のオフ角、前記炭化ケイ素単結晶の〈11−20〉方向からのずれが2.5度以内のオフ方向で切り出された炭化ケイ素単結晶ウェハを用いることで、上記エピタキシャル成長表面の凹凸の発生を防止することができる。尚、本明細書において、「オフ方向」とは、図4中nで示されるウェハ表面の法線の〈0001〉方向からの傾斜方向であり、nを(0001)c面に投影したベクトルの向きで示されるものである。図4においてnのオフ方向は〈11−20〉方向に一致している。また、オフ方向が〈11−20〉方向からα又はα’度ずれた場合も図4中に示されている。
【0046】
かかる炭化ケイ素単結晶ウェハは以下のように製造され得る。(イ)まず、バルク状のα型(六方晶)炭化ケイ素単結晶を用意する。(ロ)用意した炭化ケイ素単結晶から、〈11−20〉方向からのずれが2.5度以内のオフ方向、(0001)c面から0.1度以上0.4度未満のオフ角でウェハを切り出す。オフ方向が〈11−20〉方向からのずれが2.5度を超えるとエピタキシャル成長面上に線状バンプが発生するからである。また、オフ角が0.1度未満になると炭化ケイ素のエピタキシャル成長表面に2nm以上の凹凸が多数発生して良好な素子の作製が困難となるからである。また、オフ角が0.4度を超えるとバルク結晶の利用率低下や素子特性の低下が無視できなくなるからである。次に、基板表面欠陥由来のエピタキシャル成長欠陥発生を防止するために、切り出したウェハに表面処理を行いウェハ表面の加工損傷を取り除く。表面処理方法としては、例えば化学的機械的研磨(CMP)、水素エッチング等が挙げられる。
【0047】
バルク結晶の利用率の向上と、基板欠陥の伝播を軽減する観点からは、オフ角を0.1度以上0.4度未満で出来るだけ小さくしたウェハを炭化ケイ素単結晶から切り出すことが好ましい。また、ウェハ面内でオフ角が分布を持つ場合、炭化ケイ素単結晶から切り出したウェハの全面積の80%以上でオフ角が0.1度以上となるように、炭化ケイ素単結晶からウェハを切り出すことが好ましい。具体的には、ウェハの全面で一定のオフ角とすることが困難な場合、ウェハの一端部から他端部に向けて略扇状にオフ角を0度から増加させ、オフ角が0.1度未満の面積をウェハの一端部付近(全体の面積の20%以下)の狭い領域に限定すると都合がよい。実施形態に沿って実質的にウェハの全面でオフ角を0.1度以上の略扇状分布にすることで、ウェハの面内に通常存在するオフ角やオフ方向の分布の影響を抑え、常にウェハの全面でマクロな凹凸のない極めて平坦なエピタキシャル成長面を得ることができる。
【0048】
実施形態の変形例によれば、表面が表面粗さ2nm以下で平坦なホモエピタキシャル成長面で(0001)c面からのオフ角が0.4度未満であることを特徴とするα型(六方晶)炭化ケイ素単結晶ウェハが得られる。ノマルスキー(微分干渉)光学顕微鏡により炭化ケイ素単結晶ウェハの表面観察を行うと、オフ角が極めて小さいにも関わらず従来報告されているようなマクロな三角ピットや多型の混入等の表面欠陥は全く見られない。さらに上記炭化ケイ素単結晶ウェハは、オフ方向が〈11−20〉方向からのずれが2.5度以内、オフ角が(0001)c面から0.1度以上0.4度未満の領域において、原子間力顕微鏡(AFM)による表面の凹凸(表面粗さ)が2nmを超えず極めて平坦である。また、オフ方向が〈11−20〉方向からのずれが2.5度を超えた場合に発生するような線状あるいは点状のミクロンオーダーを越えるマクロな凹凸は一切見られない。さらに、基板からエピタキシャル成長結晶に引き継がれる基底面転位の数も10/cm以下と極めて少ない。そのため、高品質な素子の製造が可能となる。なお、表面粗さについては光学的測定のように検出領域もしくは測定スポット径が大きいと粗さが平均化され小さく見積もられる。また測定領域が狭いほど一般的には粗さの最大値(最大高さ:Ry)は小さくなる。そこで、実施形態の変形例において「表面粗さ」とはAFMにより5μm角以上の測定領域で求められたRyとし、Ryが十分小さく上記のようなマクロな凹凸も見られない表面を平坦な面と定義する。
【0049】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
[参考例]
【0050】
以下に参考例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が以下の参考例に限定されるものでないことは言うまでもない。
(参考例1)
図1の炭化ケイ素単結晶製造装置1を用いて、以下の条件下で上記実施形態に準じて炭化ケイ素単結晶を製造する。
昇華用原料2は、上述した高純度のテトラエトキシシラン重合体をケイ素源とし、レゾール型フェノール樹脂を炭素源とし、これらを均一に混合して得た混合物をアルゴン雰囲気下で加熱焼成して得られた炭化ケイ素粉末(6H(一部3Cを含む)、平均粒径が200μm)とする。
ウェハとしては、(0001)c面からから0.4度のオフ角で切り出された4Hウェハ(直径50.8mm)を用意し、用意したウェハの炭素面表面を鏡面研磨後、水素中1400℃で30分間、加熱エッチングしたものを用いる。
炭化ケイ素単結晶製造装置1において、電子衝撃加熱装置30を作動させて坩堝10を急速加熱しその熱で昇華用原料2を加熱する。大気圧のアルゴン雰囲気下で坩堝10の底部を1950℃にまで加熱した後、温度のオーバーシュートを起こすことなく一定温度に保ち圧力を50Torr(6645Pa)に減圧維持する。昇華用原料2は、所定の温度(1950℃)にまで加熱した後、減圧した時点で昇華する。所望の成長時間後に圧力を大気圧まで戻しつつ、急速降温する。
【0051】
(参考例2)
ウェハとしては、(0001)c面から0.3度のオフ角、〈11−20〉方向からのずれが2度のオフ方向で切り出された6Hウェハ(直径50.8mm)を用意し、用意したウェハのケイ素面表面を鏡面研磨後、水素中1400℃で30分間、加熱エッチングしたものを用いることを除き参考例1と同様に実験を行う。
以上、参考例1,2によれば昇華用原料を均熱加熱でき、また加熱温度の制御が容易である。そのため昇降温途中でエッチングを受けずに極めて平坦な成長平面を維持し、また基板とのドープ量変化が界面で急峻な炭化ケイ素単結晶が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は本発明の実施形態にかかる炭化ケイ素単結晶製造装置の概略断面図を示す。
【図2】図2は本発明の実施形態にかかる炭化ケイ素単結晶製造装置の坩堝の概略図を示す。
【図3】図3は、六方晶炭化ケイ素単結晶の(0001)面を示すための概略図である。
【図4】図4は、六方晶炭化ケイ素単結晶のオフ角とオフ方位を示すための概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1…炭化ケイ素単結晶製造装置
2…昇華用原料
3…スペーサー
4…炭化ケイ素基板(炭化ケイ素単結晶ウェハ)
10…坩堝
20…熱シールド
30…電子衝撃加熱装置
32、40…容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華用原料と炭化ケイ素基板を近接して坩堝内に配置する工程と、
前記坩堝の昇華用原料収容側から電子衝撃加熱して昇華雰囲気を形成し、近接昇華法により前記炭化ケイ素基板上に炭化ケイ素単結晶を成長させる工程と、
を有することを特徴とする炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記炭化ケイ素基板は、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、前記炭化ケイ素単結晶の(0001)c面から0.4度以上2度以下のオフ角で切り出された炭化ケイ素単結晶ウェハであることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記炭化ケイ素単結晶から切り出された前記ウェハは、前記ウェハの全面積の80%以上でオフ角が0.4度以上2度以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記炭化ケイ素基板は、α型(六方晶)炭化ケイ素単結晶から、(0001)c面から0.4度未満のオフ角、前記炭化ケイ素単結晶の〈11−20〉方向からのずれが2.5度以内のオフ方向で切り出された炭化ケイ素単結晶ウェハであることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記炭化ケイ素単結晶から切り出された前記ウェハは、前記ウェハのオフ角が、0.1度以上0.4度未満であることを特徴とする請求項4に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記炭化ケイ素単結晶から切り出したウェハ表面が加工損傷を含まないようにエピタキシャル成長前に表面処理を行うことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。
【請求項7】
昇華用原料と炭化ケイ素基板とを近接して収容する坩堝と、
前記坩堝の昇華用原料収容側から前記坩堝を加熱し、近接昇華法により前記炭化ケイ素基板上に炭化ケイ素単結晶を成長させる電子衝撃加熱装置と、
前記坩堝、前記電子衝撃加熱装置を収納すると共に、不活性雰囲気を形成する容器と、を備えることを特徴とする炭化ケイ素単結晶製造装置。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−112661(P2007−112661A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305615(P2005−305615)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】