説明

炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料

【課題】優れた耐衝撃性と導電性とを兼ね備えたプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料を提供すること。
【解決手段】少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、それを用いたプリプレグ、炭素繊維強化複合材料、ならびに少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物と炭素繊維からなる炭素繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた力学特性と導電性を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化複合材料は、強度、剛性および導電性等に優れていることから有用であり、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途等に広く展開され、その需要は年々増加しつつある。
【0003】
炭素繊維強化複合材料は、強化繊維である炭素繊維とマトリックス樹脂を必須の構成要素とするプリプレグを成形してなる不均一材料をその一態様としており、その場合、強化繊維の配列方向の物性とそれ以外の方向の物性に大きな差が存在することになる。例えば、落錘衝撃に対する抵抗性で示される耐衝撃性は、炭素繊維強化複合材料の層間の板端剥離強度等で定量される層間剥離強度によって支配されるため、強化繊維の強度を向上させるのみでは、抜本的な改良に結びつかないことが知られている。特に、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂の低い靭性を反映し、強化繊維の配列方向以外からの応力に対し、破壊され易い性質を持っている。そのため、強化繊維の配列方向以外からの応力に対応することができる炭素繊維強化複合材料物性の改良を目的に、種々の技術が提案されている。
【0004】
その中の一つに、表面部分に樹脂微粒子を分散させたプリプレグが提案されている。例えば、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる樹脂微粒子を部分表面に分散させたプリプレグを用いて、耐熱性の良好な高靭性複合材料を与える技術が提案されている(特許文献1参照)。また別に、ポリスルホンオリゴマー添加により靭性が改良されたマトリックス樹脂と熱硬化性樹脂からなる樹脂微粒子との組み合わせによって、炭素繊維強化複合材料に高度の靭性を発現させる技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ところが、これらの技術は、高度な耐衝撃性を与える一方で層間に絶縁層となる樹脂層を生じることになる。そのため、炭素繊維強化複合材料の特徴の一つである導電性のうち、厚み方向の導電性が著しく劣るという欠点があり、炭素繊維強化複合材料において優れた耐衝撃性と導電性とを両立することは困難であった。
【0006】
そこで、層間の導電性を向上させる方法として、予めマトリックス樹脂に金属粒子やカーボン粒子(特許文献3参照)などの導電性粒子を配合させる方法や、予めマトリックス樹脂に導電性フィルム(特許文献4参照)を配合させる方法が考えられるが、これらの方法は高度な導電性と耐衝撃性との両立を十分満足できるものではなく、また層間の厚さに対応した粒子、フィルムを使用する必要があり層間の設計が困難であった。
【0007】
また、マトリックス樹脂と導電性粒子の接着性を改良する方法として、シランカップリング剤を用いる方法(特許文献5参照)があるが、この方法も高度な導電性と耐衝撃性との両立を十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,028,478号明細書
【特許文献2】特開平3−26750号公報
【特許文献3】特開2008−231395号公報
【特許文献4】特開2009−062473号公報
【特許文献5】特開2009−074075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、優れた力学特性と導電性を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび優れた耐衝撃性等の力学特性と導電性を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために次のいずれかの構成を有するものである。
【0011】
すなわち、本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子(以下、「導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子」と称する場合がある。)を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0012】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子がエポキシ樹脂組成物中に0.01〜50質量%含まれている炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0013】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記導電性物質がカーボンブラックである炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0014】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記導電性物質が、(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子中に10〜80質量%含まれている炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0015】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が180℃以下の熱可塑性樹脂である炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0016】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の平均粒径が150μmより小さい炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
【0017】
また、本発明のプリプレグは、少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、炭素繊維に含浸させてなるプリプレグである。
【0018】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、炭素繊維に含浸させてなるプリプレグを硬化して得られる炭素繊維強化複合材料、あるいは少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物と炭素繊維からなる炭素繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂組成物に導電性物質含有熱可塑性樹脂を含むことで、それを硬化して得られる炭素繊維強化複合材料に、優れた耐衝撃性と導電性とを兼ね備えさせることができる。すなわち、従来技術では、耐衝撃性が高いと導電性が低く、また、導電性が高いと耐衝撃性に劣る炭素繊維強化複合材料しか得られなかったが、本発明により、優れた耐衝撃性と導電性とを兼ね備えた炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0020】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、優れた耐衝撃性と導電性とを兼ね備えているので、航空機の部材の他、テニスラケットやゴルフシャフトなどのスポーツ用品、自動車のバンパーやドアなどの外板部材、およびシャシーやフロントサイドメンバなど自動車の構造部材などに好ましく適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、炭素繊維、エポキシ樹脂、硬化剤および導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子からなる炭素繊維強化複合材料の導電性メカニズムを追及した結果、導電性物質含有熱可塑性樹脂を配合した炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が、優れた耐衝撃性と導電性とを高いレベルで兼ね備えた炭素繊維強化複合材料を得られることを明らかにし、本発明に到達したものである。
【0022】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料は、いずれも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を含んでおり、また、プリプレグと炭素繊維強化複合材料は、さらに炭素繊維を含んでいる。
【0023】
本発明で用いられる炭素繊維は、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、より高い導電性を発現することから、少なくとも280GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、耐衝撃性との両立の点から高くとも440GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、耐衝撃性の観点からは耐衝撃性に優れ、高い剛性および機械強度を有する炭素繊維強化複合材料が得られることから、引張強度が好ましくは4.4〜6.5GPaであり、一方、引張伸度も重要な要素であり1.7〜2.3%の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、高い導電性および耐衝撃性を両立する点から、引張弾性率が少なくとも280GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり 、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。引張弾性率、引張強度および引張伸度は、JIS R7601−1986年に記載されるストランド引張試験により測定することができる。
【0024】
本発明で用いられる炭素繊維は、次のようにして製造することができる。まず、アクリル系の炭素繊維の場合、炭素繊維の前駆体として、アクリロニトリルが90質量%以上でアクリロニトリルと共重合可能なモノマーが10質量%未満の構成であるポリアクリロニトリル系共重合体からなる前駆体繊維束を使用することが好ましい。上記の共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸またはこれらのメチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩からなるグループから選ばれた少なくとも1種を用いることが可能である。
【0025】
このポリアクリロニトリル系前駆体繊維束は、単繊維繊度は1.0〜2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.7dtexであり、さらに好ましくは1.2〜1.5dtexである。単繊維繊度が1.0dtexに満たないと、炭素繊維束の弾性率および強度が高くなりすぎ、また生産性も劣る傾向がある。また、単繊維繊度が2.0dtexを超えると、炭化工程にて斑を生じやすくなり、全体の強度を低下させてしまう可能性がある。このポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を、空気などの酸化性雰囲気中にて好適には200℃〜300℃の温度範囲で加熱耐炎化することにより耐炎化繊維を製造する。
【0026】
次に、次工程の炭化処理前に、耐炎化繊維を窒素などの不活性雰囲気中で好適には300℃〜1000℃の範囲温度内で予備炭化処理を行う。このように、耐炎化繊維を予備炭化処理を施した後で、窒素などの不活性雰囲気中で最高温度が好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1000〜1300℃、さらに好ましくは1100〜1250℃の温度範囲で炭化することにより、炭素繊維束を製造することができる。炭化温度の最高温度が1400℃を超えると炭素繊維束の弾性率が高くなり過ぎ、1000℃未満であると炭素繊維の結晶サイズが小さくなり、炭素結晶の成長が不十分なため、得られる炭素繊維束の水分率が高くなって、繊維強化複合材料を成形する際に、マトリックス樹脂の硬化が不十分となり、繊維強化複合材料の引張強度が十分発現しない場合がある。
【0027】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800SC−24K−10Eおよび“トレカ(登録商標)”T700SC−24K−50C(以上いずれも東レ(株)製)などが挙げられる。
【0028】
炭素繊維の形態や配列については、一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、ロービングおよびチョップド等から適宜選択できるが、軽量で耐久性がより高い水準にある炭素繊維強化複合材料を得るためには、炭素繊維が、一方向に引き揃えた長繊維、織物、トウおよびロービング等連続繊維の形態であることが好ましい。
【0029】
本発明において用いる炭素繊維束は、単繊維繊度は0.2〜2.0dtexであることが必要であり、好ましくは0.4〜1.8dtexであるのが良い。0.2dtex未満であると、撚糸時においてガイドローラーとの接触による炭素繊維束の損傷が起こりやすくなることがあり、また樹脂組成物の含浸処理工程においても同様の損傷が起こることがある。2.0dtexを越えると炭素繊維束に樹脂組成物が十分に含浸されないことがあり、結果として耐疲労性が低下することがある。
【0030】
本発明において用いられる炭素繊維束は、一つの繊維束中のフィラメント数が2500〜50000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2500本を下回ると繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。また、フィラメント数が50000本を上回るとプリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸をし難い。フィラメント数は、より好ましくは2800〜25000本の範囲である。
【0031】
また、炭素繊維の形態としては、プリフォームを適用することができる。ここで、プリフォームとは、通常、長繊維の炭素繊維からなる織物基布を積層したもの、またはその織物基布をステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物や編組物などの繊維構造物を意味する。
【0032】
本発明で用いられる(A)エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂単体の他、エポキシ樹脂と熱硬化性樹脂の共重合体、変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。
【0033】
エポキシ樹脂と共重合させて用いられる上記の熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド等が挙げられる。
【0034】
本発明では、エポキシ樹脂の中でも、特に、アミン類、フェノール類および炭素−炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。具体的には、アミン類を前駆体とするグリシジルアミン型エポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体が挙げられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは、耐熱性に優れているため、航空機構造材等に用いられる炭素繊維複合材料用エポキシ樹脂組成物として特に好ましく用いられる。さらに、トラグリシジルジアミノジフェニルメタンと組み合わせ、グリシジルアニリン型のエポキシ樹脂、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂も特に好ましく用いられる。
【0035】
また、フェノールを前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も好ましく用いられる。このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0036】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、低粘度であるために、他のエポキシ樹脂と組み合わせて使うことが好ましい。
【0037】
また、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂に比較し架橋密度の低い構造を与えるため耐熱性は低くなるが、より靭性の高い構造が得られるため、グリシジルアミン型エポキシ樹脂や液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて用いられる。
【0038】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、低吸水率かつ高耐熱性の硬化樹脂を与える。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂も、低吸水率の硬化樹脂を与えるため好適に用いられる。ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靱性と伸度の高い硬化樹脂を与える。
【0039】
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし適宜配合して用いてもよい。少なくとも2官能のエポキシ樹脂および3官能以上のエポキシ樹脂を配合することは、樹脂の流動性と硬化後の耐熱性を兼ね備えるものとする。特に、グリシジルアミン型エポキシとグリシジルエーテル型エポキシの組み合わせは、耐熱性および耐水性とプロセス性の両立を可能にする。また、常温で液状のエポキシ樹脂を少なくとも1種と、常温で固形状のエポキシ樹脂を少なくとも1種を配合することは、プリプレグのタック性とドレープ性を適切なものとする。
【0040】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、耐熱性が高く吸水率が小さいため、耐熱耐水性の高い硬化樹脂を与える。これらのフェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いることによって、耐熱耐水性を高めつつプリプレグのタック性とドレープ性を調節することができる。
【0041】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825および“jER(登録商標)”834(以上いずれもジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD―128(東都化成(株)製)、DER―331およびDER−332(以上いずれもダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0042】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807および“jER(登録商標)”1750(以上いずれもジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン”830(大日本インキ化学工業(株)製)、および“エポトート(登録商標)”YD―170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0043】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デコナール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0044】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型のエポキシ樹脂市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721、“アラルダイト(登録商標)”MY9512および“アラルダイト(登録商標)”MY9663(以上いずれもVantico社製)、“エポトート(登録商標)”YH―434(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0045】
アミノフェノール型のエポキシ樹脂市販品としては、ELM120やELM100(以上いずれも住友化学(株)製)、“エピコート(登録商標)”630(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および“アラルダイト(登録商標)”MY0510(Vantico社製)などが挙げられる。
【0046】
グリシジルアニリン型のエポキシ樹脂市販品としては、GANやGOT(以上いずれも日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0047】
ビフェニル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0048】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、HP7200(大日本インキ化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0049】
ウレタン変性エポキシ樹脂の市販品としては、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)などが挙げられる。
【0050】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、DEN431やDEN438(以上いずれもダウケミカル社製)、および“エピコート(登録商標)”(ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
【0051】
本発明で用いられる(B)硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物である。硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタンおよび三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。
【0052】
芳香族ジアミンを硬化剤として用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られることから特に好ましい。特に、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物を得るため最も適している。
【0053】
また、ジシアンジアミドと尿素化合物、例えば、3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレアとの組合せ、あるいはイミダゾール類を硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながら高い耐熱耐水性が得られる。酸無水物を用いてエポキシ樹脂を硬化することは、アミン化合物硬化に比べ吸水率の低い硬化物を与える。その他、これらの硬化剤を潜在化したもの、例えば、マイクロカプセル化したものを用いることにより、プリプレグの保存安定性、特にタック性やドレープ性が室温放置しても変化しにくい。
【0054】
その添加量の最適値は、エポキシ樹脂と硬化剤の種類によりことなる。例えば、芳香族アミン硬化剤では、化学量論的に当量となるように添加することが好ましいが、当量比0.7〜0.8附近を用いることにより当量で用いた場合より高弾性率樹脂が得られることがあり、これも好ましい態様である。これらの硬化剤は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0055】
芳香族アミン硬化剤の市販品としては、例えば、“スミキュア(登録商標)”S(住友化学(株)製)、MDA−220(三井化学ファイン(株)製)、“エピキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)などが挙げられる。
【0056】
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や保存安定性向上に有効な場合がある。
【0057】
本発明においては、(A)エポキシ樹脂に、熱可塑性樹脂を混合または溶解して用いることも好適である。このような熱可塑性樹脂としては、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましいが、部分的に架橋構造を有していても差し支えない。また、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、エポキシ樹脂に、混合または溶解していることが好適である。
【0058】
これらの熱可塑性樹脂は、市販のポリマーを用いてもよく、また市販のポリマーより分子量の低い、いわゆるオリゴマーを用いても良い。オリゴマーとしては、エポキシ樹脂と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有するオリゴマーが好ましい。
【0059】
エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂との混合物は、それらを単独で用いた場合より良好な結果を与える。エポキシ樹脂の脆さを熱可塑性樹脂の強靱さでカバーし、かつ熱可塑性樹脂の成形困難性をエポキシ樹脂でカバーし、バランスのとれたベース樹脂となる。エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂と使用割合(質量部)は、バランスの点で好ましくは100:2〜100:50の範囲であり、より好ましくは100:5〜100:35の範囲である。
【0060】
本発明は、(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子が必須成分として用いられるため、得られる炭素繊維強化複合材料に優れた耐衝撃性を実現させることができる。本発明で用いられる(C)導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の熱可塑性樹脂の素材としては、先に例示した、エポキシ樹脂に混合または溶解して用い得る各種の熱可塑性樹脂と同様の熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも、ポリアミドは最も好ましく、マトリックス樹脂との接着性を大きく向上させる。ポリアミドの中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン11やナイロン6/12共重合体は、特に良好な熱硬化性樹脂との接着強度を与える。
【0061】
なお、本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、炭素繊維に含浸させてプリプレグを得る場合、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の含有量は、プリプレグ100質量%中に1〜10質量%の範囲であることが好ましい。導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の含有量が、プリプレグに対して10質量%を超えると、プリプレグのタック性やドレープ性が低下するため取り扱い性が悪くなる傾向を示すことがある。導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の量は、高い耐衝撃性を得るためには、プリプレグに対し好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上である。
【0062】
本発明で用いられる(C)導電性物質含有熱可塑性粒子の導電性物質は、電気的に良好な導体である物質が含有されていれば良く、例えば、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト等の金属、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン等の導電性ポリマー、チェネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、中空カーボンファイバー等の炭素を使用することができる。これらの中でも、高い導電性および安定性を示すことからカーボンブラックが特に好ましく用いられる。
【0063】
導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の導電性物質の含有量は、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子に対して10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは、20〜80質量%である。10質量%未満であると炭素繊維強化複合材料の導電性が良好でない場合があり、80質量%を超えると熱可塑性樹脂の特性が発揮できなくなる場合がある。
【0064】
なお、本発明の(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子(導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子)とは、導電性物質が粒子の表面にコーティングされた粒子とは異なり、熱可塑性樹脂と導電性物質が押出などの手法により混練された後、粉砕あるいは、化学的手法により粒子化され、粒子の内部や表面に導電性物質が含有された粒子のことである。本発明は、このような粒子を用いることにより、炭素繊維強化複合材料の硬化過程において熱可塑性樹脂が変形しやすく、炭素繊維強化複合材料の層間と同サイズの導電性物質の層を形成することが可能であることから、層間に導電性物質が効率良く配置されやすく、炭素繊維強化複合材料の導電性が高くなりやすい。一方、従来用いられていたコーティングされた粒子では、コアの熱可塑性樹脂が変形した場合に、コーティングされた導電性物質がひび割れを起こし、炭素繊維強化複合材料の導電性が低くなる。
【0065】
導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子に使用される熱可塑性樹脂のガラス転移温度が180℃以下の熱可塑性樹脂であることが好ましく、より好ましくは100℃以下である。導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の熱可塑性樹脂のガラス転移温度が180℃以下であると、炭素繊維強化複合材料の硬化過程において熱可塑性樹脂が変形しやすく、炭素繊維強化複合材料の層間と同サイズの導電性物質の層を形成することが可能であることから、炭素繊維強化複合材料の導電性が高くなりやすい。
【0066】
導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子は、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状粒子に近い形状の粒子の方が、樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。
【0067】
本発明のプリプレグにおいて、熱可塑性樹脂粒子と導電性物質含有熱可塑性粒子とを併用する場合、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の平均粒径が熱可塑性樹脂粒子の平均粒径と同じか、もしくは熱可塑性樹脂粒子の平均粒径よりも大きいことが好ましい。導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の平均粒径が熱可塑性樹脂粒子の平均粒径よりも小さい場合、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子が層間に埋もれてしまい、十分な導電性向上効果をもたらさないことがある。
【0068】
本発明では、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の平均粒径は、150μmより小さいことが好ましい。平均粒径が大きすぎると、炭素繊維の配列を乱すことがあり、また、後述するように粒子層をプリプレグの表面付近部分に形成するようにした場合、得られる炭素繊維強化複合材料の層間を必要以上に厚くするため、炭素繊維強化複合材料の物性を低下させることがある。平均粒径は、好ましくは1〜150μmであり、さらに好ましくは3〜60μmであり、特に好ましくは5〜30μmである。平均粒径を一定以上とすることにより、炭素繊維の繊維間に粒子が潜り込むことを防ぎ、粒子のプリプレグの積層体の層間部分への局在化を防ぐこともできるため、粒子の存在効果を十分に得ることができ、その結果、得られる炭素繊維強化複合材料に優れた導電性と耐衝撃性を兼ね備えさせやすくなる。
【0069】
ここで説明される平均粒径は、次のように特定される。すなわち、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で粒子を1000倍以上に拡大し写真撮影し、無作為に粒子を選び、その粒子の外接する円の直径を粒径とし、その粒径の平均値(n=50)を粒子の平均粒径とする。
【0070】
導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の含有量は、本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物全量に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の含有量が少ないと十分な導電性が得られない場合があり、含有量が多すぎるとマトリックス樹脂の粘度が増加しマトリックス樹脂の取扱性が低下する場合がある。
【0071】
本発明において、熱可塑性樹脂粒子と導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子とを併用する場合には、[熱可塑性樹脂粒子の配合量(質量部)]/[導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の配合量(質量部)]で表される質量比が、好ましくは1〜1000、さらに好ましくは5〜200、特に好ましくは10〜100である。かかる質量比が1よりも小さくなると、十分な耐衝撃性を得ることができない場合があり、また、かかる質量比が1000よりも大きくなると、十分な導電性が得られない場合がある。
【0072】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を得るに際し、エポキシ樹脂、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子からなるマスターバッチを使用することも好ましい。すなわち、混合方法によっては、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の凝集物が存在することにより本来の力学特性、導電性が発揮されない場合があるのに対し、マスターバッチとすることで樹脂組成物中への粗大な凝集物の混入を抑制し樹脂組成物中への分散性が向上する。分散性が向上することで、本発明の炭素繊維強化複合材料の導電性、力学特性が安定しばらつきが減少される。また、エポキシ樹脂量の質量比が少なすぎると、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の分散性が悪くなる場合があり、逆に、この範囲よりもエポキシ樹脂の質量比が大きくなるとマスターバッチ法を用いる有用性が低くなる場合がある。
【0073】
マスターバッチの適用法としては、例えば次のような手順が、例として挙げられる。まず、攪拌機によりエポキシ樹脂、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を混練し、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を分散させてマスターバッチを作製し、設計したエポキシ樹脂組成物の質量比となるように、残りのエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、硬化剤などの配合物に、作製したマスターバッチを添加することで、目的の炭素繊維複合材料用エポキシ樹脂組成物が得られる。
【0074】
本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を得るには、熱可塑性樹脂粒子と硬化剤以外の構成要素を150℃程度で均一に加熱混練し、硬化反応が進みにくい温度まで冷却した後に熱可塑性樹脂粒子および硬化剤を加えて混練することが好ましいが、各成分の配合方法は特にこの方法に限定されるものではない。
【0075】
本発明によるプリプレグは、前記の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸したものである。そのプリプレグの炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる炭素繊維強化複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる炭素繊維強化複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
【0076】
本発明のプリプレグは、粒子に富む層、すなわち、その断面を観察したときに、前記した粒子(導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子、熱可塑性樹脂粒子)が局在して存在している状態が明瞭に確認しうる層(以下、粒子層と略記することがある。)が、プリプレグの表面付近部分に形成されている構造であることが好ましい。
【0077】
このように、粒子が表面側に偏在している構造をとることにより、プリプレグを積層してエポキシ樹脂を硬化させて炭素繊維強化複合材料とした場合、プリプレグ層、すなわち炭素繊維強化複合材料層の間で樹脂層が形成され易く、それにより、炭素繊維強化複合材料層相互の接着性や密着性が高められ、得られる炭素繊維強化複合材料に高度の耐衝撃性が発現されるようになる。
【0078】
このような観点から、前記の粒子層は、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から、表面を起点として厚さ方向に好ましくは20%の深さ、より好ましくは10%の深さの範囲内に存在していることが好ましい。また、粒子層は、片面のみに存在させても良いが、プリプレグに表裏ができるため、積層に際して注意が必要となる。プリプレグの積層を間違えて、粒子のある層間とない層間が存在すると、衝撃に対して弱い炭素繊維強化複合材料となる。表裏の区別をなくし、積層を容易にするため、粒子層はプリプレグの表裏両面に存在する方がよい。
【0079】
さらに、粒子層内に存在する熱可塑性樹脂粒子と導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の存在割合は、プリプレグ中、熱可塑性樹脂粒子と導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の全量100質量%に対して、好ましくは90〜100質量%であり、より好ましくは95〜100質量%である。
【0080】
この粒子の存在率は、例えば、下記の方法で評価することができる。すなわち、プリプレグを2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状のプリプレグ硬化物を作製する。このプリプレグ硬化物の両面に、プリプレグ硬化物の表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引く。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する粒子の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する粒子の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率を計算する。ここで、粒子の合計面積は、断面写真から粒子部分を刳り抜き、その質量から換算して求める。樹脂中に分散する粒子の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子を染色する手段も採用できる。
【0081】
また、本発明において導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の量は、プリプレグに対して20質量%以下の範囲であることが好ましい。プリプレグに対して20質量%を超えると、粒子と樹脂との混合が困難になる上、プリプレグのタックとドレープ性が低下することがある。すなわち、ベース樹脂であるエポキシ樹脂の特性を維持しつつ、粒子による耐衝撃性を付与するには、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の量は、プリプレグに対して20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。プリプレグのハンドリングを一層優れたものにするためには、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子の量は、10質量%以下であることが好ましい。その粒子量は、高い耐衝撃と導電性を得るために、プリプレグに対し1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上である。
【0082】
本発明のプリプレグは、特開平1−26651号公報、特開昭63−170427号公報または特開昭63−170428号公報に開示されているような方法を応用して製造することができる。具体的には、本発明のプリプレグは、炭素繊維とマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂からなる一次プリプレグの表面に、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子をそのまま塗布する方法、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂中にこれらの導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子を均一に混合した混合物を調整し、この混合物を炭素繊維に含浸させる過程において強化繊維で導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子の侵入を遮断せしめてプリプレグの表面部分に粒子を局在化させる方法、または予めエポキシ樹脂を炭素繊維に含浸させて一次プリプレグを作製しておき、一次プリプレグ表面に、これらの粒子を高濃度で含有する熱硬化性樹脂のフィルムを貼付する方法等で製造することができる。導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子が、プリプレグの厚み20%の深さの範囲に均一に存在することで、耐衝撃性と導電性とを兼ね備えた炭素繊維複合材料用のプリプレグが得られる。
【0083】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して樹脂を硬化させる方法を一例として、製造することができる。熱可塑性樹脂粒子と導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子とを組み合わせて用いることにより、炭素繊維強化複合材料への落錘衝撃(または局所的な衝撃)時、局所的な衝撃により生じる層間剥離が低減されるため、かかる衝撃後の炭素繊維強化複合材料に応力がかかった場合において応力集中による破壊の起点となる前記局所的な衝撃に起因して生じた層間剥離部分が少ないことや、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子が積層層内の炭素繊維との接触確率が高く、導電パスを形成し易いことから、高い耐衝撃性と導電性とを発現する炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0084】
さらに、プリプレグを用いずに、本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させた後、加熱硬化する方法、例えばハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法、レジン・トランスファー・モールディング法などの成形法によっても炭素繊維強化複合材料を作製することができる。
【0085】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例によって、本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と、それを用いたプリプレグと炭素繊維強化複合材料について、より具体的に説明する。実施例で用いた樹脂原料、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料の作製方法、衝撃後圧縮強度の評価方法を、次に示す。実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。また、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0087】
<炭素繊維>
・“トレカ(登録商標)”T800S−24K−10E(繊維数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率290GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、総繊度1.03g/m、東レ(株)製)。
【0088】
<エポキシ樹脂>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、“jER(登録商標)”825(ジャパンエポキシレジン(株)製)
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ELM434(住友化学(株)製)。
【0089】
<硬化剤>
・4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(三井化学ファイン(株)製)。
【0090】
<熱可塑性樹脂>
・末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製)。
【0091】
<熱可塑性樹脂粒子>
・ナイロン12粒子SP−10(東レ(株)製、形状:真球)
・下記の製造方法で得られたエポキシ変性ナイロン粒子A
透明ポリアミド(商品名“グリルアミド(登録商標)”−TR55、エムザベルケ社製)90質量部、エポキシ樹脂(商品名“jER(登録商標)”828、ジャパンエポキシレジン(株)製)7.5質量部および硬化剤(商品名“トーマイド(登録商標)”#296、富士化成工業(株)社製)2.5質量部を、クロロホルム300質量部とメタノール100質量部の混合溶媒中に添加して、均一溶液を得た。次に、得られた均一溶液を塗装用のスプレーガンを用いて霧状にして、良く撹拌して3000質量部のn−ヘキサンの液面に向かって吹き付けて溶質を析出させた。析出した固体を濾別し、n−ヘキサンで良く洗浄した後に、100℃の温度で24時間の真空乾燥を行い、エポキシ変性ナイロン粒子Aを得た。(平均粒径:12.5μm)。
【0092】
<導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子>
・カーボンブラック20%含有ナイロン6粒子(ガラス転移温度:48℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック50%含有ナイロン6粒子(ガラス転移温度:48℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック20%含有ナイロン12粒子(ガラス転移温度:50℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック50%含有ナイロン12粒子(ガラス転移温度:50℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック20%含有ナイロン11粒子(ガラス転移温度:37℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック50%含有ナイロン11粒子(ガラス転移温度:37℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック20%含有ナイロン66粒子(ガラス転移温度:50℃、平均粒径:25μm)
・カーボンブラック50%含有ナイロン66粒子(ガラス転移温度:50℃、平均粒径:25μm)
上記の導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子は、熱可塑性樹脂とカーボンブラックを押出により混練しカーボンブラックを含有した熱可塑性樹脂を得たあと、粉砕あるいは化学的手法により得た。
【0093】
カーボンブラックは、三菱化学(株)製のファーネスブラック(#3030B)を使用した。また、熱可塑性樹脂として、ナイロン6は、ユニチカ(株)製のA1030BRL、ナイロン12は、宇部興産(株)製のナイロン12(“UBESTA(登録商標)”−3020JX6)、ナイロン11は、ウンデカンラクタムを開環重合して得たηr=2.3のナイロン11、ナイロン66はユニチカ(株)製のA125を使用した。
【0094】
<導電性粒子>
・“ミクロパール(登録商標)”AU215(平均粒径:15.5μm)(特許文献3(特開2008−232395号公報)の実施例1に記載の導電性粒子と同一の導電性粒子)
・“ミクロパール(登録商標)”CU215(平均粒径:15.5μm)(特許文献5(特開2009−074075号公報)の実施例13に記載の導電性粒子と同一の導電性粒子)。
【0095】
<カップリング剤>
・Z−6011(東レ・ダウコーニング(株)製):3−アミノプロピルトリエトキシシラン。
【0096】
<導電性フィルム>
・導電性フィルムB(厚さ:13.7μm、体積固有抵抗値:3.8×10−5Ωcm)(特許文献4(特開2009−062473号公報)の実施例10に記載の導電性フィルムと同一の導電性フィルム)。
【0097】
(1)プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率
プリプレグを、2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に150℃迄温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状の樹脂硬化物を作製した。硬化後、密着面と垂直な方向から切断し、その断面を研磨後、光学顕微鏡で200倍以上に拡大しプリプレグの上下面が視野内に納まるようにして写真撮影した。同様な操作により、断面写真の横方向の5ヵ所でポリ四フッ化エチレン樹脂板間の間隔を測定し、その平均値(n=5)をプリプレグの厚さとした。
【0098】
プリプレグの両面について、プリプレグの表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引いた。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する粒子の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する粒子の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率を計算した。微粒子の合計面積は、断面写真から粒子部分を刳り抜き、その質量から換算して求めた。マトリックス樹脂中に分散する粒子の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子を染色する手段を用いた。
【0099】
(2)繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定
一方向プリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]3S構成で、擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して25個の積層体を作製した。これらの各積層体から、縦150mm×横100mm(厚み4.5mm)のサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R−94に従い、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。
【0100】
(3)繊維強化複合材料の導電性測定
一方向プリプレグを、それぞれ[+45°/0°/−45°/90°]2S構成で、擬似等方的に16プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して25個の積層体を作製した。これらの各積層体から、縦50mm×横50mm(厚み3mm)のサンプルを切り出し、両面に導電性ペースト“ドータイト(登録商標)”D−550(藤倉化成(株)製)を塗布したサンプルを作製した。これらのサンプルを、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて、四端子法で積層方向の抵抗を測定し、体積固有抵抗を求めた。
【0101】
(実施例1)
混練装置で、50質量部の“jER”825と50質量部のELM434に、10質量部のPES5003Pを配合して、熱可塑性樹脂をエポキシ樹脂中に溶解した。その後、20質量部のカーボンブラック含有ナイロン6を混練し、さらに硬化剤である4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0102】
表1に示す炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物(表中、数字は質量部を表す。)について、熱可塑性樹脂粒子、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を除くベース樹脂を調製し、ナイフコーターを用いて樹脂目付31g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを一方向に引き揃えた炭素繊維(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を含浸させ、一次プリプレグを得た。
【0103】
次に、最終的な炭素繊維強化複合材料用プリプレグのエポキシ樹脂組成が表1の配合量になるように、熱可塑性粒子、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子を加えて調整したエポキシ樹脂組成物で、ナイフコーターを用いて樹脂目付21g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一次プリプレグの両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を含浸させ、目的のプリプレグを得た。
【0104】
得られたプリプレグを用い、上記の(1)プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率、(2)繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定と(3)繊維強化複合材料の導電性測定に記載のとおりに実施して炭素繊維強化複合材料を得て、衝撃後圧縮強度と体積固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例2〜13、比較例1〜6)
エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂粒子、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子、導電性粒子、カップリング剤、また導電性フィルムの種類や配合量を表1、2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。作製した一方向プリプレグを用いて、プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する粒子の存在率、繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度および導電性を測定した。得られた結果を表1、2にまとめて示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
実施例1〜13と比較例1〜6との対比により、本発明の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いた炭素繊維強化複合材料は、導電性物質含有熱可塑性樹脂粒子とマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂との接着を強固なものとし、高い衝撃後圧縮強度と低い体積固有抵抗を実現し、高度な耐衝撃性と導電性を両立していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明よれば、優れた力学特性と導電性を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料が得られるため、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途等に広く展開でき、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子、を含む炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子がエポキシ樹脂組成物中に0.01〜50質量%含まれている、請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記導電性物質がカーボンブラックである、請求項1または2のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記導電性物質が(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子中に10〜80質量%含まれている、請求項1から3のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が180℃以下である、請求項1から4のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子の平均粒径が150μmより小さい、請求項1から5のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、炭素繊維に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項8】
(C)導電性物質を含有する熱可塑性樹脂粒子が表面側に偏在している、請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項7または8のいずれかに記載のプリプレグを硬化して得られる炭素繊維強化複合材料。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物と炭素繊維からなる炭素繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2011−144213(P2011−144213A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3662(P2010−3662)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】