炭素被覆金属微粒子の製造方法
【課題】アーク放電を行なわずに均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を提供すること。
【解決手段】金属微粒子を構成する金属材料を保持したカーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、該チャンバー内の圧力が100〜50000Paとなるように不活性ガスを導入した後、カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をする炭素被覆金属微粒子の製造方法、外部空間と遮断して設けられたチャンバー内で金属材料保持用カーボンロッドの一端を懸架するための導電性懸架材Aおよびカーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材Bが懸架されて外部電源と接続され、減圧管および不活性ガス導入管がチャンバーの内部空間と接続されている炭素被覆金属微粒子の製造装置。
【解決手段】金属微粒子を構成する金属材料を保持したカーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、該チャンバー内の圧力が100〜50000Paとなるように不活性ガスを導入した後、カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をする炭素被覆金属微粒子の製造方法、外部空間と遮断して設けられたチャンバー内で金属材料保持用カーボンロッドの一端を懸架するための導電性懸架材Aおよびカーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材Bが懸架されて外部電源と接続され、減圧管および不活性ガス導入管がチャンバーの内部空間と接続されている炭素被覆金属微粒子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆金属微粒子の製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、燃料電池用触媒、磁気記録媒体、電子デバイスなどに使用することが期待される炭素被覆金属微粒子の製造方法、該製造方法に好適に使用しうる炭素被覆金属微粒子の製造装置および該製造装置に好適に使用しうる金属材料保持用カーボンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
その表面に炭素が被覆された金属微粒子を製造する方法として、1気圧以上の圧力を有する不活性ガス雰囲気中で、グラファイト陰極と磁性金属を含む複合グラファイト陽極との間に電圧を印加し、アーク放電を行なう磁性金属内包カーボンナノカプセルの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、この方法には、得られる金属微粒子の粒子径にバラツキが生じるため、均一な粒子径を有する金属微粒子を得ることが困難であるという欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−67499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面に炭素が被覆された金属微粒子の製造方法であって、金属微粒子を構成する金属材料を保持した金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、前記金属材料に対して不活性な不活性ガスを該チャンバー内に導入して該チャンバー内の圧力を100〜50000Paに調整した後、前記金属材料保持用カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をすることを特徴とする炭素被覆金属微粒子の製造方法に関する。本発明の製造方法によれば、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0007】
本発明の製造方法において、金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、前記凸部側面カーボンロッドの凹部内に金属材料を保持した後、凸部側面カーボンロッドの凸部の端面と接触用カーボンロッドの側面とを接触させて前記金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架した場合には、均一な粒子径を有し、さらに表面に炭素被膜が均一に形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0008】
本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置は、炭素被覆金属微粒子を製造する際に用いられる炭素被覆金属微粒子の製造装置であって、炭素被覆金属微粒子を製造するためのチャンバーが外部空間と遮断して設けられ、該チャンバー内で金属材料保持用カーボンロッドの一端を懸架するための導電性懸架材Aおよび該金属材料保持用カーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材Bが懸架されてなり、チャンバーの内部空間を減圧するための減圧管およびチャンバーの内部空間に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管がそれぞれチャンバーの内部空間と接続されていることを特徴とする。本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置によれば、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0009】
本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置において、金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、凸部側面カーボンロッドの凸部と接触用カーボンロッドの側面とが接触して導電性懸架材Aおよび導電性懸架材Bによって固定されている場合には、均一な粒子径を有し、さらに表面に炭素被膜が均一に形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0010】
本発明の金属材料保持用カーボンロッドは、炭素被覆金属微粒子の製造装置内で懸架される金属材料保持用カーボンロッドであって、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該カーボンロッドの凸部と接触させて用いられる接触用カーボンロッドとからなる。本発明の金属材料保持用カーボンロッドは、前記構成を有するので、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素被覆金属微粒子の製造方法、炭素被覆金属微粒子の製造装置および金属材料保持用カーボンロッドによれば、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の表面に炭素が被覆された金属微粒子の製造方法は、金属微粒子を構成する金属材料を保持した金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、前記金属材料に対して不活性な不活性ガスを該チャンバー内に導入して該チャンバー内の圧力を100〜50000Paに調整した後、前記金属材料保持用カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をすることを特徴とする。
【0013】
本発明は、ただ単に通電加熱を行なうのではなく、あらかじめチャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧しておいた後、該チャンバー内の圧力が100〜50000Paとなるように前記金属材料に対して不活性なガスを導入する点に、1つの大きな特徴を有する。本発明は、前記特徴を有するので、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子が得られる。
【0014】
金属微粒子に用いられる金属は、本発明の方法によって微粒子が生成するのであればよく、特に限定がない。前記金属の代表例としては、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムなどの典型金属をはじめ、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、タングステン、銀、鉛、錫、白金、金などの遷移金属が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上からなる合金であってもよい。
【0015】
金属微粒子を構成する金属材料は、前記金属で構成される。金属材料の形状としては、例えば、ワイヤ状、粒子状、粉末状、プレート状などが挙げられるが、本発明は、かかる例示によって限定されるものではない。
【0016】
金属材料は、金属材料保持用カーボンロッドで保持される。金属材料保持用カーボンロッドとしては、本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置内で懸架することができるものが用いられる。
【0017】
金属材料保持用カーボンロッドとして、その内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなる金属材料保持用カーボンロッドを用いた場合には、表面に炭素が被覆され、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0018】
本発明の金属材料保持用カーボンロッドの一実施態様を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の金属材料保持用カーボンロッドの一実施態様を示す概略説明図である。図1に示される金属材料保持用カーボンロッド1は、凸部側面カーボンロッド2および接触用カーボンロッド3を有する。
【0019】
凸部側面カーボンロッド2は、その内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する。より具体的には、凸部側面カーボンロッド2の概略断面図を示す図2に表されているように、凸部2aの内部には、金属材料(図示せず)を保持するための凹部2bが形成されている。凸部側面カーボンロッド2の大きさおよび形状は、その凹部2bに挿入される金属材料の大きさや量などによって異なるので一概には決定することができない。凸部側面カーボンロッド2の大きさおよび形状は、通常、金属材料の大きさや量などに応じて決定することが好ましい。その一例として、凸部2aの外径が1.5〜3mm程度、凸部2aの長さが3〜15mm程度であり、凹部2bの内径が0.5〜1mm程度、凹部2bの奥行きが5〜15mm程度であり、凸部側面カーボンロッド2自体(本体)の外径が5〜10mm程度、その長さが20〜50mm程度であるものが挙げられる。凸部側面カーボンロッド2に設けられる凸部2aは、その両端に用いられていてもよいが、通常はその一方の端部に設けられていればよい。
【0020】
接触用カーボンロッド3は、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触させて用いられるものである。通常、接触用カーボンロッド3は、その側面と凸部側面カーボンロッド2の凸部2aの端面とを接触させて用いられる。したがって、接触用カーボンロッド3の側面は、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aの端面と均一に接触させる観点から、いずれも、面接触しうる平面であることが好ましい。接触用カーボンロッド3の大きさおよび形状は、特に限定されないが、その一例として、外径が5〜10mm程度、その長さが20〜50mm程度であるものが挙げられる。
【0021】
なお、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触用カーボンロッド3の側面とを接触させて通電したとき、両者の接触界面で発熱し、各カーボンロッドおよび金属材料が蒸発するため、両者間に間隙が生じて発熱しがたくなる。したがって、両者の接触界面で間隙が生じないようにするために、図1の金属材料保持用カーボンロッド1に示されるように、凸部側面カーボンロッド2および接触用カーボンロッド3を、それぞれ、スプリング4、5が挿入されているカーボンロッドホルダー6、7内に摺動自在となるように挿入し、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触用カーボンロッド3の側面とが押圧されるようにしておくことが好ましい。カーボンロッドホルダー6、7は、例えば、ステンレス鋼などのように耐熱性に優れている金属などで構成された円筒形状を有する部材で構成することができる。
【0022】
金属材料保持用カーボンロッド1は、本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置のチャンバー内で懸架される。本発明の炭素被覆金属微粒子の製造方法および該製造方法に用いられる製造装置を図面に基づいて説明する。
【0023】
図3は、本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【0024】
図3において、炭素被覆金属微粒子を製造するためのチャンバー8が外部空間と遮断して設けられている。チャンバー8内で、金属材料保持用カーボンロッド1の一端を懸架するための導電性懸架材A9およびカーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材B10が懸架されている。導電性懸架材A9および導電性懸架材B10は、それぞれ外部電源(図示せず)と接続され、蓋部14と電気的に絶縁されている。また、チャンバー8の内部空間を減圧するための減圧管11およびチャンバー8の内部空間に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管12がそれぞれチャンバー8の内部空間と接続されている。
【0025】
チャンバー8は、外部から金属材料保持用カーボンロッド1を容易に観察することができるようにするために、例えば、石英ガラスなどの耐熱性ガラスで構成されていることが好ましい。また、チャンバー8の上下に配設されている蓋部14および底板15は、それぞれ、例えば、ステンレス鋼などの金属からなるプレートで形成されていればよい。チャンバー8と蓋部14との境界およびチャンバー8と底板15との境界には、チャンバー8の密閉性を高めるために、シール部材16が配設されている。シール部材16としては、例えば、シリコーンゴムなどのゴムからなるOリングなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
チャンバー8の高さおよび外径は、特に限定されないが、通常、高さは25〜40cm程度、外径は15〜30cm程度であることが、炭素被覆金属微粒子を効率よく製造する観点から好ましい。
【0027】
チャンバー8内で金属材料保持用カーボンロッド1を懸架する位置は、特に限定されないが、金属材料保持用カーボンロッド1を通電加熱したときに炭素被覆金属微粒子を効率よく製造する観点から、チャンバー8の高さの中央部よりもやや下部であることが好ましく、チャンバー8の下からチャンバー8の全体の高さの25〜50%程度の位置であることがより好ましい。
【0028】
本発明においては、まず、減圧管11から脱気をすることにより、チャンバー8内を減圧する。チャンバー8内の減圧の程度は、金属微粒子が空気中に含まれている酸素などによって酸化されるのを防止する観点から、10−3Pa以下であり、減圧度が高くなるにしたがって減圧に要する時間が長くなるので生産性を高める観点から、10−5Pa以上である。チャンバー8内が所定の真空度に到達した後には、減圧管11に配設されているバルブ(図示せず)を閉にすることにより、減圧状態を維持する。
【0029】
次に、減圧されたチャンバー8内に金属材料に対して不活性な不活性ガスを導入することにより、その内圧が100〜50000Paとなるように調整する。
【0030】
金属材料に対して不活性な不活性ガスとは、金属材料と化学反応を起こさないガスを意味し、不活性ガスの種類は、金属材料の種類によって異なる。好適な不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが挙げられるが、これらのなかでは、種々の金属材料に対して不活性であるアルゴンガスおよびヘリウムガスが好ましく、アルゴンガスがより好ましい。チャンバー8内に不活性ガスを導入し、チャンバー8内の圧力を調整することにより、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径を所望の粒子径に容易に制御することができる。一般に、チャンバー8内の圧力を低くするにしたがって、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径が小さくなり、またチャンバー8内の圧力が高くなるにしたがって、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径が大きくなる傾向がある。チャンバー8内の圧力は、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を得る観点から、100Pa以上であり、粗大な炭素被覆金属微粒子が生成するのを抑制する観点から、50000Pa以下である。
【0031】
なお、チャンバー8内の圧力は、例えば、水銀マノメーターや真空計などの圧力計13で測定することができる。
【0032】
次に、チャンバー8内の金属材料保持用カーボンロッド1に電圧を印加する。金属材料保持用カーボンロッド1への電圧の印加は、導電性懸架材A9および導電性懸架材B10をそれぞれ金属材料保持用カーボンロッド1と接続し、導電性懸架材A9および導電性懸架材B10を外部電源(図示せず)と接続することによって行なうことができる。導電性懸架材A9および導電性懸架材B10は、例えば、ステンレス鋼、銅、真鍮、鉄などの導電性を有する金属で構成されていればよく、本発明は、かかる金属の種類によって限定されるものではない。なお、図3に示された炭素被覆金属微粒子の製造装置では、図1に示される金属材料保持用カーボンロッド1が使用されており、凸部側面カーボンロッド2および接触用カーボンロッド3がそれぞれ取り付けられているカーボンロッドホルダー6、7と導電性懸架材A9および導電性懸架材B10とをそれぞれ接続することにより、通電するように構成されている。
【0033】
導電性懸架材A9および導電性懸架材B10に接続されている外部電源(図示せず)から電圧を印加することにより、金属材料保持用カーボンロッド1を通電加熱する。金属材料保持用カーボンロッド1に通電するときの電流値は、炭素被覆金属微粒子を効率よく生成させる観点から、好ましくは10A以上、より好ましくは15A以上であり、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を得る観点から、好ましくは100A以下、より好ましくは80A以下である。また、金属材料保持用カーボンロッド1に電流を印加するときの電圧は、金属材料保持用カーボンロッド1が有する抵抗値などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、好ましくは5〜110V、より好ましくは10〜100Vである。電圧を印加する時間は、金属材料保持用カーボンロッド1の大きさや印加される電流値などによって異なるので一概には決定することができない。通常、電圧を印加する時間は、金属材料保持用カーボンロッド1および金属材料が蒸発するのに要する時間であればよい。
【0034】
このようにして金属材料保持用カーボンロッド1を通電加熱することにより、金属材料保持用カーボンロッド1および金属材料が蒸発し、チャンバー8内に存在している不活性ガスと衝突することにより、炭素被覆金属微粒子が生じる。生成した炭素被覆金属微粒子は、チャンバー8の内壁などに付着する。付着した炭素被覆金属微粒子は、チャンバー8内を大気圧に戻した後、例えば、刷毛などを用いて回収することができる。なお、金属材料として空気中の酸素などと反応するものを使用する場合には、チャンバー8内を大気圧に戻すときに不活性ガスを導入してもよいが、通常、得られた炭素被覆金属微粒子の表面には炭素被膜が形成されており、その内部に存在している金属微粒子が炭素被膜によって保護されているので、チャンバー8内に大気を導入することにより、チャンバー8内を大気圧に戻すことができる。
【0035】
回収された炭素被覆金属微粒子の粒子径は、その製造条件によって異なるので一概には決定することができない。炭素被覆金属微粒子の粒子径は、通常、3〜1000nm程度の範囲内にある。炭素被覆金属微粒子は、その表面上に厚さが1〜30nm程度の炭素被膜を有する。得られた炭素被覆金属微粒子は、炭素被膜を有するので、その内部の金属微粒子が外部の大気と遮断されているため、大気に含まれている酸素などとの化学反応が生じがたく、化学的に安定した状態で存在している。したがって、得られた炭素被覆金属微粒子は、例えば、燃料電池用触媒、磁気記録媒体、電子デバイスなどに使用することが期待される。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜8
図3に示される炭素被覆金属微粒子の製造装置を用いた。より具体的には、チャンバー8(石英ガラス製、外径:160mm、高さ:330mm)内に、図1に示される金属材料保持用カーボンロッド1(凸部側面カーボンロッド2:全長50mm、直径5mm、凸部の直径3mm、凸部の長さ8mm、凸部内の凹部の直径2mm、該凹部の深さ10mm、接触用カーボンロッド3:全長38mm、直径5mm)を、チャンバー8の底面から140mmの位置に、ステンレス鋼(SUS304)製の導電性懸架材A9および導電性懸架材B10で懸架し、金属材料保持用カーボンロッド1を構成している凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触用カーボンロッド3の側面とを接触させた。
【0038】
なお、金属材料として、表1に示される線状の金属材料を用い、金属材料保持用カーボンロッド1を構成している凸部側面カーボンロッド2の凹部2b内に挿入した。
【0039】
次に、減圧管11からチャンバー8内の空気を排気し、チャンバー8の内圧が1.0×10−4Paとなるまで減圧した後、不活性ガスとしてアルゴンガスを不活性ガス導入管12から導入し、チャンバー8の内圧を表1に示される圧力(不活性ガス導入後の内圧)となるように調整した。その後、金属材料保持用カーボンロッド1に表1に示される電流値および電圧を有する交流電流を30秒間印加した。その結果、チャンバー8内には、煙状の炭素被覆金属微粒子が生成し、チャンバー8の内壁に付着した。
【0040】
減圧管11から大気を導入することにより、チャンバー8の内圧を大気圧にまで戻した後、チャンバー8の内壁などに付着した炭素被覆金属微粒子を回収し、その物性として、炭素被覆金属微粒子の粒度分布、平均粒子径および炭素被膜の厚さを以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
【0041】
〔粒度分布〕
カーボン下地膜の上で、得られた炭素被覆金属微粒子を分散させ、透過電子顕微鏡で観察して求めた。この方法は、特に粒子径が数nmオーダーのときに適している。
【0042】
〔平均粒子径〕
炭素被覆金属微粒子の粒度分布が揃っている場合には100個程度の粒子を用いるが、通常は300〜400個の炭素被覆金属微粒子の粒子径を透過電子顕微鏡で観察して求め、その平均値を算出した。
【0043】
〔炭素被膜の厚さ〕
炭素被覆金属微粒子の界面を透過電子顕微鏡で20万倍に拡大して観察することにより、炭素被膜の厚さを求めた。これにより、厚さが1nm以下である表面層のカーボンの構造を測定することもできる。
【0044】
【表1】
【0045】
次に、実施例1〜8で得られた炭素被覆金属微粒子の透過電子顕微鏡写真をそれぞれ順に図4〜11に示す。
【0046】
表1および図4〜11に示された結果から、チャンバー内での不活性ガスの圧力を調整することにより、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径を所望の粒子径に容易に調整することができることがわかる。さらに、各実施例で得られた炭素被覆金属微粒子は、いずれも、粒度分布の幅が狭く、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の金属材料保持用カーボンロッドの一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】本発明の金属材料保持用カーボンロッドに用いられる凸部側面カーボンロッドの概略断面図である。
【図3】本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【図4】本発明の実施例1で得られた炭素が被覆された銀微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2で得られた炭素が被覆されたアルミニウム微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例3で得られた炭素が被覆されたニッケル微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例4で得られた炭素が被覆された鉄−ニッケル−コバルト複合微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例5で得られた炭素が被覆された鉄−ニッケル−コバルト複合微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例6で得られた炭素が被覆された錫微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例7で得られた炭素が被覆されたマグネシウム微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例8で得られた炭素が被覆された亜鉛微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 金属材料保持用カーボンロッド
2 凸部側面カーボンロッド
3 接触用カーボンロッド
8 チャンバー
9 導電性懸架材A
10 導電性懸架材B
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆金属微粒子の製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、燃料電池用触媒、磁気記録媒体、電子デバイスなどに使用することが期待される炭素被覆金属微粒子の製造方法、該製造方法に好適に使用しうる炭素被覆金属微粒子の製造装置および該製造装置に好適に使用しうる金属材料保持用カーボンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
その表面に炭素が被覆された金属微粒子を製造する方法として、1気圧以上の圧力を有する不活性ガス雰囲気中で、グラファイト陰極と磁性金属を含む複合グラファイト陽極との間に電圧を印加し、アーク放電を行なう磁性金属内包カーボンナノカプセルの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、この方法には、得られる金属微粒子の粒子径にバラツキが生じるため、均一な粒子径を有する金属微粒子を得ることが困難であるという欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−67499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面に炭素が被覆された金属微粒子の製造方法であって、金属微粒子を構成する金属材料を保持した金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、前記金属材料に対して不活性な不活性ガスを該チャンバー内に導入して該チャンバー内の圧力を100〜50000Paに調整した後、前記金属材料保持用カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をすることを特徴とする炭素被覆金属微粒子の製造方法に関する。本発明の製造方法によれば、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0007】
本発明の製造方法において、金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、前記凸部側面カーボンロッドの凹部内に金属材料を保持した後、凸部側面カーボンロッドの凸部の端面と接触用カーボンロッドの側面とを接触させて前記金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架した場合には、均一な粒子径を有し、さらに表面に炭素被膜が均一に形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0008】
本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置は、炭素被覆金属微粒子を製造する際に用いられる炭素被覆金属微粒子の製造装置であって、炭素被覆金属微粒子を製造するためのチャンバーが外部空間と遮断して設けられ、該チャンバー内で金属材料保持用カーボンロッドの一端を懸架するための導電性懸架材Aおよび該金属材料保持用カーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材Bが懸架されてなり、チャンバーの内部空間を減圧するための減圧管およびチャンバーの内部空間に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管がそれぞれチャンバーの内部空間と接続されていることを特徴とする。本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置によれば、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0009】
本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置において、金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、凸部側面カーボンロッドの凸部と接触用カーボンロッドの側面とが接触して導電性懸架材Aおよび導電性懸架材Bによって固定されている場合には、均一な粒子径を有し、さらに表面に炭素被膜が均一に形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0010】
本発明の金属材料保持用カーボンロッドは、炭素被覆金属微粒子の製造装置内で懸架される金属材料保持用カーボンロッドであって、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該カーボンロッドの凸部と接触させて用いられる接触用カーボンロッドとからなる。本発明の金属材料保持用カーボンロッドは、前記構成を有するので、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素被覆金属微粒子の製造方法、炭素被覆金属微粒子の製造装置および金属材料保持用カーボンロッドによれば、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の表面に炭素が被覆された金属微粒子の製造方法は、金属微粒子を構成する金属材料を保持した金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、前記金属材料に対して不活性な不活性ガスを該チャンバー内に導入して該チャンバー内の圧力を100〜50000Paに調整した後、前記金属材料保持用カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をすることを特徴とする。
【0013】
本発明は、ただ単に通電加熱を行なうのではなく、あらかじめチャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧しておいた後、該チャンバー内の圧力が100〜50000Paとなるように前記金属材料に対して不活性なガスを導入する点に、1つの大きな特徴を有する。本発明は、前記特徴を有するので、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子が得られる。
【0014】
金属微粒子に用いられる金属は、本発明の方法によって微粒子が生成するのであればよく、特に限定がない。前記金属の代表例としては、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムなどの典型金属をはじめ、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、タングステン、銀、鉛、錫、白金、金などの遷移金属が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上からなる合金であってもよい。
【0015】
金属微粒子を構成する金属材料は、前記金属で構成される。金属材料の形状としては、例えば、ワイヤ状、粒子状、粉末状、プレート状などが挙げられるが、本発明は、かかる例示によって限定されるものではない。
【0016】
金属材料は、金属材料保持用カーボンロッドで保持される。金属材料保持用カーボンロッドとしては、本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置内で懸架することができるものが用いられる。
【0017】
金属材料保持用カーボンロッドとして、その内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなる金属材料保持用カーボンロッドを用いた場合には、表面に炭素が被覆され、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を得ることができる。
【0018】
本発明の金属材料保持用カーボンロッドの一実施態様を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の金属材料保持用カーボンロッドの一実施態様を示す概略説明図である。図1に示される金属材料保持用カーボンロッド1は、凸部側面カーボンロッド2および接触用カーボンロッド3を有する。
【0019】
凸部側面カーボンロッド2は、その内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する。より具体的には、凸部側面カーボンロッド2の概略断面図を示す図2に表されているように、凸部2aの内部には、金属材料(図示せず)を保持するための凹部2bが形成されている。凸部側面カーボンロッド2の大きさおよび形状は、その凹部2bに挿入される金属材料の大きさや量などによって異なるので一概には決定することができない。凸部側面カーボンロッド2の大きさおよび形状は、通常、金属材料の大きさや量などに応じて決定することが好ましい。その一例として、凸部2aの外径が1.5〜3mm程度、凸部2aの長さが3〜15mm程度であり、凹部2bの内径が0.5〜1mm程度、凹部2bの奥行きが5〜15mm程度であり、凸部側面カーボンロッド2自体(本体)の外径が5〜10mm程度、その長さが20〜50mm程度であるものが挙げられる。凸部側面カーボンロッド2に設けられる凸部2aは、その両端に用いられていてもよいが、通常はその一方の端部に設けられていればよい。
【0020】
接触用カーボンロッド3は、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触させて用いられるものである。通常、接触用カーボンロッド3は、その側面と凸部側面カーボンロッド2の凸部2aの端面とを接触させて用いられる。したがって、接触用カーボンロッド3の側面は、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aの端面と均一に接触させる観点から、いずれも、面接触しうる平面であることが好ましい。接触用カーボンロッド3の大きさおよび形状は、特に限定されないが、その一例として、外径が5〜10mm程度、その長さが20〜50mm程度であるものが挙げられる。
【0021】
なお、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触用カーボンロッド3の側面とを接触させて通電したとき、両者の接触界面で発熱し、各カーボンロッドおよび金属材料が蒸発するため、両者間に間隙が生じて発熱しがたくなる。したがって、両者の接触界面で間隙が生じないようにするために、図1の金属材料保持用カーボンロッド1に示されるように、凸部側面カーボンロッド2および接触用カーボンロッド3を、それぞれ、スプリング4、5が挿入されているカーボンロッドホルダー6、7内に摺動自在となるように挿入し、凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触用カーボンロッド3の側面とが押圧されるようにしておくことが好ましい。カーボンロッドホルダー6、7は、例えば、ステンレス鋼などのように耐熱性に優れている金属などで構成された円筒形状を有する部材で構成することができる。
【0022】
金属材料保持用カーボンロッド1は、本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置のチャンバー内で懸架される。本発明の炭素被覆金属微粒子の製造方法および該製造方法に用いられる製造装置を図面に基づいて説明する。
【0023】
図3は、本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【0024】
図3において、炭素被覆金属微粒子を製造するためのチャンバー8が外部空間と遮断して設けられている。チャンバー8内で、金属材料保持用カーボンロッド1の一端を懸架するための導電性懸架材A9およびカーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材B10が懸架されている。導電性懸架材A9および導電性懸架材B10は、それぞれ外部電源(図示せず)と接続され、蓋部14と電気的に絶縁されている。また、チャンバー8の内部空間を減圧するための減圧管11およびチャンバー8の内部空間に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管12がそれぞれチャンバー8の内部空間と接続されている。
【0025】
チャンバー8は、外部から金属材料保持用カーボンロッド1を容易に観察することができるようにするために、例えば、石英ガラスなどの耐熱性ガラスで構成されていることが好ましい。また、チャンバー8の上下に配設されている蓋部14および底板15は、それぞれ、例えば、ステンレス鋼などの金属からなるプレートで形成されていればよい。チャンバー8と蓋部14との境界およびチャンバー8と底板15との境界には、チャンバー8の密閉性を高めるために、シール部材16が配設されている。シール部材16としては、例えば、シリコーンゴムなどのゴムからなるOリングなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
チャンバー8の高さおよび外径は、特に限定されないが、通常、高さは25〜40cm程度、外径は15〜30cm程度であることが、炭素被覆金属微粒子を効率よく製造する観点から好ましい。
【0027】
チャンバー8内で金属材料保持用カーボンロッド1を懸架する位置は、特に限定されないが、金属材料保持用カーボンロッド1を通電加熱したときに炭素被覆金属微粒子を効率よく製造する観点から、チャンバー8の高さの中央部よりもやや下部であることが好ましく、チャンバー8の下からチャンバー8の全体の高さの25〜50%程度の位置であることがより好ましい。
【0028】
本発明においては、まず、減圧管11から脱気をすることにより、チャンバー8内を減圧する。チャンバー8内の減圧の程度は、金属微粒子が空気中に含まれている酸素などによって酸化されるのを防止する観点から、10−3Pa以下であり、減圧度が高くなるにしたがって減圧に要する時間が長くなるので生産性を高める観点から、10−5Pa以上である。チャンバー8内が所定の真空度に到達した後には、減圧管11に配設されているバルブ(図示せず)を閉にすることにより、減圧状態を維持する。
【0029】
次に、減圧されたチャンバー8内に金属材料に対して不活性な不活性ガスを導入することにより、その内圧が100〜50000Paとなるように調整する。
【0030】
金属材料に対して不活性な不活性ガスとは、金属材料と化学反応を起こさないガスを意味し、不活性ガスの種類は、金属材料の種類によって異なる。好適な不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが挙げられるが、これらのなかでは、種々の金属材料に対して不活性であるアルゴンガスおよびヘリウムガスが好ましく、アルゴンガスがより好ましい。チャンバー8内に不活性ガスを導入し、チャンバー8内の圧力を調整することにより、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径を所望の粒子径に容易に制御することができる。一般に、チャンバー8内の圧力を低くするにしたがって、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径が小さくなり、またチャンバー8内の圧力が高くなるにしたがって、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径が大きくなる傾向がある。チャンバー8内の圧力は、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を得る観点から、100Pa以上であり、粗大な炭素被覆金属微粒子が生成するのを抑制する観点から、50000Pa以下である。
【0031】
なお、チャンバー8内の圧力は、例えば、水銀マノメーターや真空計などの圧力計13で測定することができる。
【0032】
次に、チャンバー8内の金属材料保持用カーボンロッド1に電圧を印加する。金属材料保持用カーボンロッド1への電圧の印加は、導電性懸架材A9および導電性懸架材B10をそれぞれ金属材料保持用カーボンロッド1と接続し、導電性懸架材A9および導電性懸架材B10を外部電源(図示せず)と接続することによって行なうことができる。導電性懸架材A9および導電性懸架材B10は、例えば、ステンレス鋼、銅、真鍮、鉄などの導電性を有する金属で構成されていればよく、本発明は、かかる金属の種類によって限定されるものではない。なお、図3に示された炭素被覆金属微粒子の製造装置では、図1に示される金属材料保持用カーボンロッド1が使用されており、凸部側面カーボンロッド2および接触用カーボンロッド3がそれぞれ取り付けられているカーボンロッドホルダー6、7と導電性懸架材A9および導電性懸架材B10とをそれぞれ接続することにより、通電するように構成されている。
【0033】
導電性懸架材A9および導電性懸架材B10に接続されている外部電源(図示せず)から電圧を印加することにより、金属材料保持用カーボンロッド1を通電加熱する。金属材料保持用カーボンロッド1に通電するときの電流値は、炭素被覆金属微粒子を効率よく生成させる観点から、好ましくは10A以上、より好ましくは15A以上であり、均一な粒子径を有する炭素被覆金属微粒子を得る観点から、好ましくは100A以下、より好ましくは80A以下である。また、金属材料保持用カーボンロッド1に電流を印加するときの電圧は、金属材料保持用カーボンロッド1が有する抵抗値などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、好ましくは5〜110V、より好ましくは10〜100Vである。電圧を印加する時間は、金属材料保持用カーボンロッド1の大きさや印加される電流値などによって異なるので一概には決定することができない。通常、電圧を印加する時間は、金属材料保持用カーボンロッド1および金属材料が蒸発するのに要する時間であればよい。
【0034】
このようにして金属材料保持用カーボンロッド1を通電加熱することにより、金属材料保持用カーボンロッド1および金属材料が蒸発し、チャンバー8内に存在している不活性ガスと衝突することにより、炭素被覆金属微粒子が生じる。生成した炭素被覆金属微粒子は、チャンバー8の内壁などに付着する。付着した炭素被覆金属微粒子は、チャンバー8内を大気圧に戻した後、例えば、刷毛などを用いて回収することができる。なお、金属材料として空気中の酸素などと反応するものを使用する場合には、チャンバー8内を大気圧に戻すときに不活性ガスを導入してもよいが、通常、得られた炭素被覆金属微粒子の表面には炭素被膜が形成されており、その内部に存在している金属微粒子が炭素被膜によって保護されているので、チャンバー8内に大気を導入することにより、チャンバー8内を大気圧に戻すことができる。
【0035】
回収された炭素被覆金属微粒子の粒子径は、その製造条件によって異なるので一概には決定することができない。炭素被覆金属微粒子の粒子径は、通常、3〜1000nm程度の範囲内にある。炭素被覆金属微粒子は、その表面上に厚さが1〜30nm程度の炭素被膜を有する。得られた炭素被覆金属微粒子は、炭素被膜を有するので、その内部の金属微粒子が外部の大気と遮断されているため、大気に含まれている酸素などとの化学反応が生じがたく、化学的に安定した状態で存在している。したがって、得られた炭素被覆金属微粒子は、例えば、燃料電池用触媒、磁気記録媒体、電子デバイスなどに使用することが期待される。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜8
図3に示される炭素被覆金属微粒子の製造装置を用いた。より具体的には、チャンバー8(石英ガラス製、外径:160mm、高さ:330mm)内に、図1に示される金属材料保持用カーボンロッド1(凸部側面カーボンロッド2:全長50mm、直径5mm、凸部の直径3mm、凸部の長さ8mm、凸部内の凹部の直径2mm、該凹部の深さ10mm、接触用カーボンロッド3:全長38mm、直径5mm)を、チャンバー8の底面から140mmの位置に、ステンレス鋼(SUS304)製の導電性懸架材A9および導電性懸架材B10で懸架し、金属材料保持用カーボンロッド1を構成している凸部側面カーボンロッド2の凸部2aと接触用カーボンロッド3の側面とを接触させた。
【0038】
なお、金属材料として、表1に示される線状の金属材料を用い、金属材料保持用カーボンロッド1を構成している凸部側面カーボンロッド2の凹部2b内に挿入した。
【0039】
次に、減圧管11からチャンバー8内の空気を排気し、チャンバー8の内圧が1.0×10−4Paとなるまで減圧した後、不活性ガスとしてアルゴンガスを不活性ガス導入管12から導入し、チャンバー8の内圧を表1に示される圧力(不活性ガス導入後の内圧)となるように調整した。その後、金属材料保持用カーボンロッド1に表1に示される電流値および電圧を有する交流電流を30秒間印加した。その結果、チャンバー8内には、煙状の炭素被覆金属微粒子が生成し、チャンバー8の内壁に付着した。
【0040】
減圧管11から大気を導入することにより、チャンバー8の内圧を大気圧にまで戻した後、チャンバー8の内壁などに付着した炭素被覆金属微粒子を回収し、その物性として、炭素被覆金属微粒子の粒度分布、平均粒子径および炭素被膜の厚さを以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
【0041】
〔粒度分布〕
カーボン下地膜の上で、得られた炭素被覆金属微粒子を分散させ、透過電子顕微鏡で観察して求めた。この方法は、特に粒子径が数nmオーダーのときに適している。
【0042】
〔平均粒子径〕
炭素被覆金属微粒子の粒度分布が揃っている場合には100個程度の粒子を用いるが、通常は300〜400個の炭素被覆金属微粒子の粒子径を透過電子顕微鏡で観察して求め、その平均値を算出した。
【0043】
〔炭素被膜の厚さ〕
炭素被覆金属微粒子の界面を透過電子顕微鏡で20万倍に拡大して観察することにより、炭素被膜の厚さを求めた。これにより、厚さが1nm以下である表面層のカーボンの構造を測定することもできる。
【0044】
【表1】
【0045】
次に、実施例1〜8で得られた炭素被覆金属微粒子の透過電子顕微鏡写真をそれぞれ順に図4〜11に示す。
【0046】
表1および図4〜11に示された結果から、チャンバー内での不活性ガスの圧力を調整することにより、得られる炭素被覆金属微粒子の粒子径を所望の粒子径に容易に調整することができることがわかる。さらに、各実施例で得られた炭素被覆金属微粒子は、いずれも、粒度分布の幅が狭く、均一な粒子径を有し、その表面に炭素被膜が形成された炭素被覆金属微粒子であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の金属材料保持用カーボンロッドの一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】本発明の金属材料保持用カーボンロッドに用いられる凸部側面カーボンロッドの概略断面図である。
【図3】本発明の炭素被覆金属微粒子の製造装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【図4】本発明の実施例1で得られた炭素が被覆された銀微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2で得られた炭素が被覆されたアルミニウム微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例3で得られた炭素が被覆されたニッケル微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例4で得られた炭素が被覆された鉄−ニッケル−コバルト複合微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例5で得られた炭素が被覆された鉄−ニッケル−コバルト複合微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例6で得られた炭素が被覆された錫微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例7で得られた炭素が被覆されたマグネシウム微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例8で得られた炭素が被覆された亜鉛微粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 金属材料保持用カーボンロッド
2 凸部側面カーボンロッド
3 接触用カーボンロッド
8 チャンバー
9 導電性懸架材A
10 導電性懸架材B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に炭素が被覆された金属微粒子の製造方法であって、金属微粒子を構成する金属材料を保持した金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、前記金属材料に対して不活性な不活性ガスを該チャンバー内に導入して該チャンバー内の圧力を100〜50000Paに調整した後、前記金属材料保持用カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をすることを特徴とする炭素被覆金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、前記凸部側面カーボンロッドの凹部内に金属材料を保持した後、凸部側面カーボンロッドの凸部の端面と接触用カーボンロッドの側面とを接触させて前記金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架する請求項1に記載の炭素被覆金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
炭素被覆金属微粒子を製造する際に用いられる炭素被覆金属微粒子の製造装置であって、炭素被覆金属微粒子を製造するためのチャンバーが外部空間と遮断して設けられ、該チャンバー内で金属材料保持用カーボンロッドの一端を懸架するための導電性懸架材Aおよび該金属材料保持用カーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材Bが懸架されてなり、チャンバーの内部空間を減圧するための減圧管およびチャンバーの内部空間に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管がそれぞれチャンバーの内部空間と接続されていることを特徴とする炭素被覆金属微粒子の製造装置。
【請求項4】
金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、凸部側面カーボンロッドの凸部と接触用カーボンロッドの側面とが接触して導電性懸架材Aおよび導電性懸架材Bによって固定されてなる請求項3に記載の炭素被覆金属微粒子の製造装置。
【請求項5】
炭素被覆金属微粒子の製造装置内で懸架される金属材料保持用カーボンロッドであって、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該カーボンロッドの凸部と接触させて用いられる接触用カーボンロッドとからなる金属材料保持用カーボンロッド。
【請求項1】
表面に炭素が被覆された金属微粒子の製造方法であって、金属微粒子を構成する金属材料を保持した金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架し、該チャンバー内を10−5〜10−3Paに減圧し、前記金属材料に対して不活性な不活性ガスを該チャンバー内に導入して該チャンバー内の圧力を100〜50000Paに調整した後、前記金属材料保持用カーボンロッドに電圧を印加して通電加熱をすることを特徴とする炭素被覆金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、前記凸部側面カーボンロッドの凹部内に金属材料を保持した後、凸部側面カーボンロッドの凸部の端面と接触用カーボンロッドの側面とを接触させて前記金属材料保持用カーボンロッドをチャンバー内で懸架する請求項1に記載の炭素被覆金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
炭素被覆金属微粒子を製造する際に用いられる炭素被覆金属微粒子の製造装置であって、炭素被覆金属微粒子を製造するためのチャンバーが外部空間と遮断して設けられ、該チャンバー内で金属材料保持用カーボンロッドの一端を懸架するための導電性懸架材Aおよび該金属材料保持用カーボンロッドの他端を懸架するための導電性懸架材Bが懸架されてなり、チャンバーの内部空間を減圧するための減圧管およびチャンバーの内部空間に不活性ガスを導入するための不活性ガス導入管がそれぞれチャンバーの内部空間と接続されていることを特徴とする炭素被覆金属微粒子の製造装置。
【請求項4】
金属材料保持用カーボンロッドが、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該凸部側面カーボンロッドの凸部と接触させる接触用カーボンロッドとからなり、凸部側面カーボンロッドの凸部と接触用カーボンロッドの側面とが接触して導電性懸架材Aおよび導電性懸架材Bによって固定されてなる請求項3に記載の炭素被覆金属微粒子の製造装置。
【請求項5】
炭素被覆金属微粒子の製造装置内で懸架される金属材料保持用カーボンロッドであって、内部に金属材料を保持するための凹部が形成された凸部を側面に有する凸部側面カーボンロッドと、該カーボンロッドの凸部と接触させて用いられる接触用カーボンロッドとからなる金属材料保持用カーボンロッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−68084(P2009−68084A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239043(P2007−239043)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
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