説明

炭素電極及び炭素電極の製造方法、有機トランジスタ及び有機トランジスタの製造方法

【課題】製造コストの低く、簡易な工程で微細加工が可能な炭素電極を備える有機トランジスタを製造する。
【解決手段】基体11上にゲート電極12を形成する工程と、ゲート電極12を覆ってゲート絶縁層13を形成する工程と、ゲート絶縁層13上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、炭素材料層にレーザ光18を照射して選択的に炭素薄膜を形成してソース電極15及びドレイン電極を形成する工程と、ソース電極15及びドレイン電極を覆って有機半導体層を形成する工程とにより有機トランジスタを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料から形成された電極、及び、有機半導体材料を用いた有機トランジスタに係わる。
【背景技術】
【0002】
有機電界効果トランジスタ(OFET)において、ソース・ドレイン電極を形成した後に有機活性層を作製するボトムコンタクト型デバイスでは、その逆順で作製したトップコンタクト型デバイスに比べて、性能が1桁以上低下することが大きな技術的問題のひとつとされてきた。
これは、ボトムコンタクト型デバイスのように、金属の上から有機半導体薄膜を作製すると、有機半導体と金属との界面におけるエネルギー障壁が1eV程度も大きくなるためと考えられている。
これ対してトップコンタクト型デバイスのように、有機半導体の上から金属を付けた場合には、金属が有機半導体層内部に浸透し表面状態が変わることや、金属蒸着の際の熱的効果などによって、エネルギー障壁はあまり生じない。
【0003】
しかしながら、デバイスとしてはボトムコンタクト型の方が、微細化や複雑なパターンへの応用性が高い。上述したボトムコンタクト型デバイスの問題点への解決策として、金電極のチオールによる表面処理、伝導性ポリマーや有機電荷移動錯体である(TTF)(TCNQ)(テトラチアフバレン)(テトラシアノキノジメタン)を電極材料として用いた報告がなされている。(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、チオール処理は効果や再現性に問題があり、伝導性ポリマーや有機電荷移動錯体も電極材料として問題が多かった。伝導性ポリマーではポリマー自体の伝導度がそれほど高いとはいえず、電荷移動錯体を用いる塗布型プロセスでは複数種の溶液を必要とするためプロセスが複雑であった。また、これらの有機電極は、機械的強度や熱的安定性にも問題があった。
【0005】
また、溶液法により形成される電極として銀ナノ粒子による電極が利用されているが、有機半導体と金属との界面を形成するという意味で、上述の金属電極を用いたボトムコンタクト型デバイスと同じ問題を抱えている。このため、最高の性能を出すためには、例えば、有機半導体薄膜を作製した後に、銀電極を印刷法などによって形成したトップコンタクト型のデバイスを作製する必要がある。
しかしながら、有機半導体薄膜の上から溶剤に分散させた銀ペーストを付けるため、有機半導体薄膜に対する影響が問題となる。
【0006】
一方、製造コストの低い溶液法を用いて、炭素薄膜による電極を製造することが提案されている(例えば、非特許文献5参照)。この方法では、ゲート絶縁層上にHMDS(ヘキサメチルジシラザン)の自己組織化単分子膜(SAMs)による電極パターンを形成し、SAMs上にカーボンペーストを塗布し、乾燥することにより炭素薄膜による電極が形成されている。このとき、SAMsの電極パターンは、ゲート絶縁層上の全面にSAMsを形成し、電極パターンが入ったシャドウマスクをSAMs上に被せてUV照射を行うことにより形成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】I. Kismiss, IEEE Trans. Electron Device, 48, 1060 (2001).
【非特許文献2】M. Lefenfeld, G. Blanchet, and J. A. Rogers, Adv. Mater. 15, 1188 (2003).
【非特許文献3】Y. Takahashi, T. Hasegawa, Y. Abe, Y. Tokura, K. Nishimura, G. Saito, Apl. Phys. Lett. 86, 063504 (2007).
【非特許文献4】K. Shibata, K. Ishikawa, H. Takezoe, H. Wada, and T. Mori, Appl. Phys. Lett. 92, 023305 (2008).
【非特許文献5】H. Wada, T. Mori, Appl. Phys. Lett. 93, 213303 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の炭素薄膜による電極を形成する方法では、電極パターンをSAMsで形成する際に、電極パターンが入ったシャドウマスクを用いる。このため、シャドウマスクのパターンの微細化の限界により、電極パターンの微細化が限界となり、炭素電極の微細化、及び、炭素電極を用いたトランジスタの微細化が難しい。
【0009】
上述した問題の解決のため、本発明においては、製造コストの低く、簡易な工程で微細加工が可能な、炭素電極及び炭素電極を備える有機トランジスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭素電極は、基体上にカーボン溶液が塗布され、このカーボン溶液から形成された炭素材料層に選択的にレーザ光が照射され、炭素材料層中の炭素材料をレーザ焼結させて形成された炭素薄膜からなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の炭素電極の製造方法は、基体上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、炭素材料層に選択的にレーザ光を照射し、炭素材料層中の炭素材料をレーザ焼結させて炭素薄膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の有機トランジスタは、有機半導体層と、有機半導体層にゲート絶縁層を介して形成されたゲート電極と、有機半導体層に接して対向する位置に形成されているソース電極及びドレイン電極とを備える。そして、ソース電極及びドレイン電極が、塗布されたカーボン溶液から形成された炭素材料層にレーザ光を照射することにより選択的に形成された炭素薄膜であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の有機トランジスタの製造方法は、基体上にゲート電極を形成する工程と、ゲート電極を覆ってゲート絶縁層を形成する工程と、ゲート絶縁層上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、炭素材料層にレーザ光を照射して選択的に炭素薄膜を形成してソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、ソース電極及びドレイン電極を覆って有機半導体層を形成する工程とを有する。
【0014】
また、本発明の有機トランジスタの製造方法は、基体上にゲート電極を形成する工程と、ゲート電極を覆ってゲート絶縁層を形成する工程と、ゲート絶縁層上に有機半導体層を形成する工程と、有機半導体層上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、炭素材料層にレーザ光を照射して選択的に炭素薄膜を形成してソース電極及びドレイン電極を形成する工程とを有する。
【0015】
上述の炭素電極の製造方法及び有機トランジスタの製造方法によれば、塗布されたカーボン溶液から炭素材料層を形成する。そして炭素材料層にレーザ照射を行うことにより、炭素電極となる炭素薄膜を作製することができる。このため、炭素電極を作製するための真空プロセスや高温プロセス等の工程が不要である。また、炭素材料層をカーボン溶液の塗布により形成しているため、高価な貴金属や、炭素材料以外の化合物を用いる必要が無いため、製造コストを低くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造コストの低く、簡易な工程により炭素電極を製造することができ、また、炭素電極を備える有機トランジスタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の有機トランジスタの構成を示す図である。
【図2】A〜Cは、本発明の実施の形態の有機トランジスタの製造工程図である。
【図3】D,Eは、本発明の実施の形態の有機トランジスタの製造工程図である。
【図4】Aは、レーザ照射によって形成した電極パターンの光学顕微鏡写真である。Bは、レーザ照射後に基体を洗浄して形成した炭素電極の光学顕微鏡写真である。
【図5】図4Bに示す炭素電極の断面プロファイルの測定結果を示す図である。
【図6】A,Bは、レーザ照射により形成することが可能な電極パターンの一例を示す画像である。
【図7】Aは、レーザ照射前の炭素材料をAFMにより観察した画像である。Bは、レーザ照射後の炭素電極をAFMにより観察した画像である。
【図8】A,Bは、実施例1で作製した有機トランジスタの出力特性及び伝達特性を示す図である。
【図9】Aは、実施例2で作製した炭素電極の光学顕微鏡写真である。Bは、実施例2で作製した炭素電極の透過率を表す図である。
【図10】本発明の他の実施の形態の有機トランジスタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
まず、図1に本発明の本実施の形態の有機トランジスタの構造を示す。
図1に示す有機トランジスタは、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁層13、ソース電極15及びドレイン電極16が順次積層され、その上に有機半導体層14が積層された、いわゆるボトムコンタクト型素子と呼ばれる構造である。
【0019】
図1に示す有機トランジスタは、基体11と、基体11上に形成されたゲート電極12と、ゲート電極12を被覆するゲート絶縁層13とを備える。また、ゲート絶縁層13上に形成されたソース電極15及びドレイン電極16と、ソース電極15及びドレイン電極16を被覆する有機半導体層14とを備える。
【0020】
有機トランジスタに用いられる基体11には、ガラスやシリコン、又は、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のフレキシブルなプラスチックシートを用いることができる。また、プラスチックシートを用いることにより軽量化及び衝撃に対する耐性を向上できる。
【0021】
ゲート電極12は、例えば、金属材料、炭素材料、導電性粒子をポリマーとともに液体中に分散させたポリマー混合物、カーボンペースト、導電性ポリマー、又は、ハイドープのシリコン等の導電性材料により形成される。
【0022】
上述の金属材料として、例えば、Cr,Al,Ta,Mo,Nb,Cu,Ag,Au,Pt,Pd,In,Ni,Nd等の金属材料やこれらの合金材料を挙げることができる。また、上述の炭素材料として、例えば、カーボンブラック、熱処理カーボンブラック、グラッシーカーボン、パイロリテイックグラファイト、グラファイト、鱗片状グラファイト等、及び、これらの混合物を挙げることができる。
また、金属材料、及び、炭素材料等の導電性材料からなるゲート電極12は、膜厚約10nm〜約500nmに形成される。
【0023】
また、上述のポリマー混合物としては、例えば、銀インクやグラファイトインク、銀ペースト、カーボンペースト等の導電性粒子をポリマーとともに液体中に分散させて使用することができる。また、上述の導電性ポリマーとしては、ポリアニリン塩、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン)のポリスチレンスルホン酸塩、又は、ドープされたポリピロールのような可溶性導電性ポリマーを挙げることができる。この場合、ゲート電極12は、ポリマー混合物を塗布又は印刷した後、溶媒を除去、乾燥することによって膜厚約30nm〜約1000nmに形成される。
【0024】
また、上述のハイドープのシリコンとしては、通常のLSIプロセスで用いられるシリコン基板から形成することができる。例えば、LSIプロセスで用いられるシリコン基板において、シリコン基板全体、又は、ゲート絶縁層が形成される近傍の領域をハイドープとすることで、このシリコン基板にゲート電極層12及び基板11を形成することができる。
【0025】
ゲート電極12を被覆するゲート絶縁層13は、無機材料、有機材料、又は、有機低分子アモルファス材料等の種々の絶縁性材料から形成される。ゲート絶縁層13の形成方法も材料に応じて、蒸着、スパッタリング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)ゲート電極12の陽極酸化、塗布、溶液からの付着等、種々の成膜方法を採用することができる。ゲート絶縁層13は、膜厚約10nm〜約500nmに形成される。
【0026】
無機材料としては、例えばSiO、Al、Ta、ZrO等の単金属酸化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウムバリウムなどの複合酸化物、SiNxなどの窒化物、酸化窒化物、フッ化物等を挙げることができる。
【0027】
有機材料としては、例えば、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリイミド、ベンゾシクロブテン、シアノエチルプルラン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデン−4フッ化エチレン共重合体、及びその他のポリマー材料を挙げることができる。
【0028】
有機低分子アモルファス材料としては、例えば、コール酸、コール酸メチル等を挙げることができる。この場合、ゲート絶縁層13は、膜厚約10nm〜約500nmに形成される。
【0029】
ソース電極15及びドレイン電極16は、カーボンペーストが極性有機溶媒に分散されたカーボン溶液を用いて、基板上にカーボン溶液塗布後、乾燥させて炭素材料層を形成し、この炭素材料層中の炭素材料をレーザ焼結することにより形成される。
炭素薄膜を形成する炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、熱処理カーボンブラック、グラッシーカーボン、パイロリテイックグラファイト、グラファイト、鱗片状グラファイト等、及び、これらの混合物を用いることができる。
【0030】
カーボンペーストとしては、例えば、炭素材料とバインダ樹脂と溶媒との混合物が使用される。カーボンペーストに使用されるバインダ樹脂としては、通常カーボンペーストのバインダとして用いられる熱硬化性樹脂等の樹脂を用いることができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等から、適宜選択して使用することができる。
【0031】
炭素薄膜からなる炭素電極は、例えば、カーボンペーストを極性有機溶媒に分散したカーボン溶液から炭素材料層を形成し、この炭素材料層に選択的にレーザ光を照射することにより形成する。
ゲート絶縁層13上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する。そして、ソース電極15及びドレイン電極16を形成する部分の炭素材料層に選択的にレーザ照射を行う。炭素材料層中の炭素材料は、レーザ光が照射された部分だけが焼結する。レーザ照射後、極性有機溶媒で、炭素材料層を洗浄することにより、レーザ焼結されていない部分の炭素材料が除去される。従って、レーザ照射された部分のみに、焼結された炭素材料からなる炭素薄膜が形成される。
このように、レーザ焼結により炭素薄膜からなるソース電極15及びドレイン電極16が形成される。
【0032】
レーザ照射により形成された炭素薄膜の膜厚は、例えば60nm程度である。また、その抵抗値は、特に限定されないが、0.06Ωcm程度であり、10−1Ωcm未満であることがより好ましい。
また、レーザ照射により形成された炭素薄膜は、厚さを薄くすることにより、半光透過性を持たせることができる。
【0033】
有機半導体層14は、例えば、ペンタセン、テトラセン、アントラセン、ペリレン、ピレン、コロネン、クリセン、デカシクレン、ビオランスレンなどの多環芳香族分子材料、フタロシアニン、トリフェニレン、チオフェンオリゴマー及びそれらの誘導置換体、ベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾテトラチアフルバレンなどのテトラチアフルバレン類、テトラチオテトラセン、及びレジオレギュラ・ポリ(3−アルキルチオフェン)等の電子供与性を有する結晶性有機半導体材料を加えて、p型有機トランジスタを構成することができる。
また、有機半導体層14としては、パーフルオロフタロシアニンF16CuPc、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、ジシアノキノンジイミン(DCNQI)、フルオロチオフェンオリゴマー及びそれらの誘導置換体、パーフルオロポリアセン、ナフタレン及びペリレンのテトラカルボン酸無水物及びテトラカルボン酸ジイミンとその誘導体、フラーレンC60等の電子受容性を有する結晶性有機半導体材料を加えて、n型有機トランジスタを構成することができる。
特に好ましくは、下記の化合物(1)〜(6)を用いることができる。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
また、上述の有機半導体材料以外にも、電子供与性を有する結晶性有機半導体材料であれば、有機半導体層14を構成する電子供与性の結晶性有機半導体材料として用いることができる。
【0041】
次に、上述の有機トランジスタの製造方法の一例を、図2,3を用いて説明する。
まず、図2Aに示すように、基板11上にゲート電極12及びゲート絶縁層13を形成する。
ゲート電極12は、上述の導電材料を、例えば、スパッタ法や蒸着法などにより膜厚約10nm〜約500nmに成膜する。そして、所定のゲート電極のパターンに、成膜した導電材料をパターニングして形成する。
または、ポリマー混合物や、粒径が数nmから数10nm程度の金属微粒子を分散させた溶剤を塗布し、基板温度400℃未満の工程で、膜厚約30nm〜約1000nmの金属薄膜を成膜する。そして、所定のゲート電極のパターンに、成膜した金属薄膜をパターニングしてゲート電極12を形成する。
【0042】
また、ゲート絶縁層13として、無機材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の方法で形成する。
また、ゲート絶縁層13として有機材料を用いる場合には、絶縁性の有機材料、又は、ポリマーの前駆体を溶解した溶液を作製し、この溶液をスピンコート法、スクリーン印刷法等により塗布する。
そして、溶剤を揮発させて膜厚約50nm〜約500nmのゲート絶縁層13を形成する。または、溶剤を揮発させて除去した後、加熱してポリマーの前駆体を所望のポリマーに変換することによって、膜厚約50nm〜約500nmのゲート絶縁層13を形成する。
【0043】
また、ゲート絶縁層13としてTaやAlを用いる場合には、ゲート電極12をTa又はAlにより構成し、ホウ酸アンモニウム水溶液等の電解液を用いてTa又はAl電極層を陽極酸化することによって形成する。
【0044】
次に、ゲート絶縁層13の表面を必要に応じて洗浄した後、図2Bに示すように、ゲート絶縁層13上にカーボン溶液を塗布して乾燥させ、カーボン溶液から炭素材料層17を形成する。
カーボン溶液の塗布は、例えば、カーボン溶液への基体の浸漬や、基体上へのカーボン溶液の印刷により形成する。また、基体表面にカーボン溶液による溶液層を形成した後、この溶液層を乾燥させ、さらに、カーボン溶液への基体を浸漬、乾燥を繰り返す等して、所望の厚さに炭素材料層17を形成する。
カーボン溶液は、例えば、カーボンペーストを必要に応じて、クロロホルムで洗浄し、余分なバインダ樹脂を取り除いた後、カーボン溶液中の炭素材料の濃度が所定の濃度となるように、酢酸エチル等の溶媒で希釈して使用する。
希釈する溶媒としては、カーボン溶液を塗布する基体に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、基体としてSiO基板を用いる場合には、酢酸エチル等の極性有機溶媒を用いることが好ましい。SiO基板に対して極性有機溶媒を使用することにより、カーボン溶液を塗布した際の濡れ性が良好となる。
【0045】
次に、図2Cに示すように、炭素材料層17に対して、例えば、Nd−YAGレーザ(335nm)を用いてレーザ光18を照射する。レーザ光18は、有機トランジスタのソース電極15を形成する部分に選択的に照射する。炭素材料層17中の炭素材料は、レーザ照射により焼結されて炭素薄膜となる。そして、形成された炭素薄膜により、有機トランジスタのソース電極15を形成する。
【0046】
また、ソース電極15と同様に、有機トランジスタのドレイン電極を形成する部分に選択的にレーザ光を照射する。炭素材料層中の炭素材料は、レーザ照射されたのみ焼結するため、有機トランジスタのソース電極又はドレイン電極を形成する部分にのみ、選択的にレーザ照射を行う。そして、レーザ焼結により形成された炭素薄膜により、炭素電極によるドレイン電極を形成する。
レーザ照射によって基体上に形成した電極パターンの光学顕微鏡写真を、図4Aに示す。図4Aに示すように、カーボン溶液から形成された炭素材料層17内に、ソース電極15及びドレイン電極16となる炭素薄膜が、所定のチャネル長を有する電極パターンに形成されている。
【0047】
次に、レーザ光を照射した基体を溶剤で洗浄し、レーザ焼結されていない部分の炭素材料層を除去する。これにより、図3Dに示すように、ゲート絶縁層13上に、ソース電極15及びドレイン電極16を形成する。
余剰な炭素材料層の洗浄には、炭素材料の溶解性が高い溶媒を用いた超音波洗浄を行う。溶媒としては、例えば、酢酸エチル等の極性有機溶媒が好ましい。また、使用するカーボンペーストや、カーボンペーストを希釈する際に用いる溶媒の種類に応じて、溶解性が高い溶媒を適宜選択することが好ましい。
一方、レーザ焼結された炭素薄膜は、溶剤に対して非常に強い耐性を有する。このため、溶解性の高い有機溶媒等を用いて基体を洗浄した場合にも、レーザ焼結された炭素電極が溶剤に侵されることがない。
【0048】
レーザ照射によって基体上に形成した、電極パターンの一例の光学顕微鏡写真を図4Aに示す。また、レーザ照射後に基体を洗浄して形成した、炭素電極の一例の光学顕微鏡写真を図4Bに示す。図4Bに示すように、レーザ照射されていない炭素材料層を洗浄することにより、基体11上に、炭素薄膜によるソース電極15及びドレイン電極16が残存する。
図4A及び図4Bに示す光学顕微鏡写真では、チャネル長を変えて、ソース電極15及びドレイン電極16を5組形成している。また、レーザ光の走査方向は、電極の長手方向、つまり図面の上下方向であり、レーザ光を複数回走査することにより、所定の面積の炭素薄膜を形成している。
図5に、図4Bに示す電極パターンのA−A’線における断面プロファイルの測定結果を示す。図5に示す断面プロファイルにおいて、高さが小さくなっている部分が、照射したレーザ光の中心部分である。このように、レーザ光を照射した部分の中心が周囲に比べて凹むような形状に、炭素薄膜が形成されている。このように、レーザ照射により炭素材料が焼結した炭素薄膜では、レーザ照射の走査間隔等に起因する凹凸が形成されている。
なお、この炭素薄膜表面の凹凸は、レーザ光を対処に照射する際の照射面積や走査間隔等を調整することにより、より平滑にすることができる。
【0049】
次に、図3Eに示すように、ゲート絶縁層13上において、ソース電極15及びドレイン電極16を被覆する有機半導体層14を形成する。
有機半導体層14は、上述の有機半導体材料を用いて、スピンコート法、キャスト法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクト印刷法等のウェットプロセスを用いて有機半導体層14を形成する。
【0050】
以上の工程により、図1に示す構成の有機トランジスタを製造することができる。
なお、上述の実施の形態では、カーボン溶液をゲート絶縁層上に直接塗布しているが、例えば、ゲート絶縁層上に自己組織化単分子膜(SAMs)を形成し、SAMs上にカーボン溶液を塗布することも可能である。
【0051】
まず、ゲート絶縁層13上に自己組織化単分子膜(SAMs)を形成する。SAMsは、例えば、ゲート絶縁層13の表面を、アセトン、2−プロパノール及び超純水で洗浄した後、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)の蒸気に暴露するSAMs処理を行うことにより形成することができる。
次に、SAMs上に直接カーボン溶液を塗布、乾燥して炭素材料層を形成する。そして、炭素材料層へのレーザ照射で炭素材料が焼結する際、レーザ照射されている部分のSAMsが分解されるため、炭素薄膜によるソース電極及びドレイン電極を形成することができる。
また、レーザ光が照射されていない部分のSAMsは、余剰なカーボンペーストを洗浄により除去した後にも、基体上から除去されずにそのまま残存している。このため、SAMs上に有機半導体層14を直接形成することができる。SAMs上に有機半導体層14を形成することにより、有機半導体層14中の分子配列が良好になる。
【0052】
上述の製造方法によれば、カーボン溶液の塗布及び乾燥により形成した炭素材料層に、レーザ光を照射して炭素材料をレーザ焼結し、炭素薄膜を形成する。このため、真空プロセスや高温過程を用いずに、カーボン溶液の塗布及び乾燥とレーザ照射という簡易な手法のみによって炭素電極を形成することができる。さらに、製造可能な電極のパターニングのサイズは、レーザースポットサイズに依存する。このため、レーザースポットサイズを1μm程度にすることによって、2μmのチャネル長を有するカーボン電極を製造することができる。またレーザ光を走査することにより、例えば、図6A,Bに示すような複雑なパターンの炭素電極を容易に製造することが可能である。
また、上述のレーザ焼結により得られる炭素薄膜は、高い耐溶媒性を有している。
上述の製造工程において、レーザ焼結前後の炭素材料の一例として、図7A,Bに炭素材料の表面形状のAFM(Atomic Force Microscopy)画像を示す。なお、AFMは、セイコーインスツルメンツ社製の走査型プローブ顕微鏡SPA−300/SPI3800、及び、Siのカンチレバーを用いて作製した試料を撮影した。
図7Aに示すレーザ照射前の炭素材料のAFM像では、100nm以下程度の粒子が観測されており、またその形状も比較的丸い。これに対して、図7Bに示すレーザ焼結された炭素材料のAFM像では、150〜200nm程度の角張った粒子が見られ、それらが互いに密着した状態になっていることがわかる。この結果から、レーザを照射することによって炭素材料同士が焼き付けられ、密に詰まったものと考えられる。またこのようなモルフォロジーの変化により、電気伝導性を高めることができたと考えられる。
【0053】
また、上述の製造方法において、レーザ照射により炭素材料を焼結する際、レーザ光のスポットサイズや作製する炭素電極の大きさに応じて、基体上を複数回走査させることにより、所定の大きさの炭素薄膜を形成することができる。例えば、上述の有機トランジスタに適用する微細電極パターンや、太陽電池に適用する大面積の透明電極パターンを形成することができる。
また、カーボン溶液の塗布及び乾燥により形成する炭素材料層の厚さや、炭素材料層中の炭素材料の濃度により、炭素薄膜の厚さを制御することが可能である。
【実施例1】
【0054】
以下、実際に図1に示したボトムコンタクト型の有機トランジスタを作製して特性を調査した。
まず、実施例で使用するカーボン溶液を以下の方法で調整した。
まず、カーボンペースト(藤倉化成社製、Dotite XC−12)を一度クロロホルム中に分散させた。この後、この溶液を濾過して得られたカーボンを真空乾燥し、得られたカーボン1gを酢酸エチル10mlに投入した。超音波洗浄器を用いて1時間、酢酸エチル中にカーボンを分散させた。さらに酢酸エチル40mlを加えて、カーボン溶液を調整した。
【0055】
表面にシリコンの酸化膜が形成されたシリコン基体(SiO/Si基体)の表面を、まずアセトンで洗浄し、続いて、2−プロパノール、及び、超純水で洗浄した後オーブンで乾燥し、さらに、UVオゾン洗浄を行った。次に、洗浄した基体を150℃のオーブン内でHMDS蒸気に1時間暴露し、基体表面にSAMs処理を行った。このSAMs処理により、基体表面にHMDSによるSAMsを形成した。基体をオーブンから取り出した後、基体上の余分なHMDSをアセトンで洗い流し、再び150℃のオーブン内で乾燥させた。
【0056】
このシリコン基体の表面に、上述の方法で調整したカーボン溶液に浸漬した後、150℃で1時間乾燥した。そして、再度基板をカーボン溶液に浸漬して乾燥させ、基板上に所望の厚さの炭素材料層を形成した。この炭素材料層に対し、チャネル長が50μm、18μm、及び、2.5μmとなるように、所定の電極パターンに合わせてレーザ光を照射した。
なお、レーザ照射は、Coherent社製、AVIA355−4500を用いて、Nd−YAGレーザ355nm,パルス幅5ns、25Hz、対物レンズ×100の条件で行った。
次に、レーザ照射により炭素材料を焼結した後、シリコン基体を酢酸エチル中で超音波洗浄器にかけ、余剰な炭素材料層を除去し、レーザ照射によって形成した炭素薄膜による電極パターンを得た。
【0057】
次に、有機半導体材料として昇華精製によって精製したペンタセンを使用し、蒸着法を用いて上述の方法で作製した炭素薄膜による電極パターン上に室温で有機半導体層を形成し、チャネル長が異なる3種類の電極パターンを有する、ボトムコンタクト型の有機トランジスタを作製した。
【0058】
各チャネル長で作製した有機トランジスタの出力特性及び伝達特性の測定結果について説明する。有機トランジスタの特性は、空気下において、Keithley 4200 semiconductor parameter analyzerを用いて測定を行った。
【0059】
チャネル長を50μmで作製した有機トランジスタは、キャリア移動度が0.22cm/Vs、オン/オフ比が3×10、閾値電圧Vthが9Vであった。チャネル長を18μmで作製した有機トランジスタは、キャリア移動度が0.054cm/Vs、オン/オフ比が10、閾値電圧Vthが1.9Vであった。また、チャネル長を2.5μmで作製した有機トランジスタは、キャリア移動度が0.02cm/Vsであった。
図8にチャネル長を18μmで作製した有機トランジスタの出力特性及び伝達特性を示す。図8に示すように、動作電圧が10Vの範囲での駆動が可能である。
【実施例2】
【0060】
SiO基板上に、約4mm角の炭素電極を作製した。
実施例2の炭素電極は、基体をSiO基板とし、HMDSによるSAMsを形成しなかったことを除いて、実施例1と同様の方法で作製した。電極となる炭素薄膜厚さは60nmであった。
【0061】
図9Aに、作製した炭素電極の光学顕微鏡写真を示す。また、図9Bに、作製した炭素電極の光透過率の波長依存性を示す。炭素電極の透過率は、オーシャンオプティクス社製、超小型スペクトロメータUSB4000を用いて測定した。
図9Bに示すように、炭素電極は波長に依らず60%程度の透過率を示した。
このように、60nm程度の薄膜に炭素電極を作製することができるため、炭素電極を光透過性の電極とすることができる。このような光透過特性を有する炭素電極は、電気伝導性材料として他のデバイスへの応用も考えられる。例えば、透明電極として、酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide;ITO)の代替品としての利用や、有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diodes;OLEDs)太陽電池用の電極等に利用することができる。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施の形態で説明したボトムコンタクト型素子以外にも、例えば、図10に示す、基板21上にゲート電極22、ゲート絶縁層23、及び、有機半導体材料が適用された有機半導体層24が順次積層され、有機半導体層24上にソース電極25及びドレイン電極26が形成された、いわゆるトップコンタクト型素子と呼ばれる構造にも適用することができる。
トップコンタクト型素子の場合においても、上述の製造方法と同様の方法によって、レーザ照射により形成された炭素薄膜からなるソース電極及びドレイン電極を形成することができる。
【0063】
また、本発明の有機トランジスタでは、上述したソース電極及びドレイン電極に炭素材料を適用するだけでなく、ゲート電極にも炭素材料を適用することができる。このため、本発明の有機トランジスタでは、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極のすべての電極を炭素材料から構成することができる。
例えばゲート電極を、カーボンペーストを用いた塗布法又は印刷法で形成することにより、有機トランジスタを構成する、ゲート電極、絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層のすべてを塗布法や印刷法で形成することが可能となる。
【0064】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
11,21 基体、12,22 ゲート電極、13,23 ゲート絶縁層、14,24有機半導体層、15,25 ソース電極、16,26 ドレイン電極、17 炭素材料層、18 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上にカーボン溶液が塗布され、前記カーボン溶液から形成された炭素材料層に選択的にレーザ光が照射され、前記炭素材料層中の炭素材料をレーザ焼結させて形成された炭素薄膜からなることを特徴とする炭素電極。
【請求項2】
基体上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、
前記炭素材料層に選択的にレーザ光を照射し、前記炭素材料層中の炭素材料をレーザ焼結させて、炭素薄膜を形成する工程と、を有する
ことを特徴とする炭素電極の製造方法。
【請求項3】
有機半導体層と、
前記有機半導体層にゲート絶縁層を介して形成されたゲート電極と、
前記有機半導体層に接して対向する位置に形成されているソース電極及びドレイン電極とを備え、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極が、塗布されカーボン溶液から形成された炭素材料層にレーザ光を照射することにより選択的に形成された炭素薄膜である
ことを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項4】
基体上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極を覆ってゲート絶縁層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁層上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、
前記炭素材料層にレーザ光を照射して選択的に炭素薄膜を形成してソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極を覆って有機半導体層を形成する工程と、を有する
ことを特徴とする有機トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記前記ゲート絶縁層上に自己組織化単分子膜を形成し、前記カーボン溶液を、前記自己組織化単分子膜上に塗布することを特徴とする請求項4に記載の有機トランジスタの製造方法。
【請求項6】
基体上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極を覆ってゲート絶縁層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁層上に有機半導体層を形成する工程と、
前記有機半導体層上にカーボン溶液を塗布して炭素材料層を形成する工程と、
前記炭素材料層にレーザ光を照射して選択的に炭素薄膜を形成してソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、を有する
ことを特徴とする有機トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−219114(P2010−219114A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61185(P2009−61185)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】