説明

無段変速機の制御装置、制御方法およびその方法をコンピュータで実現されるプログラムならびにそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】登坂路の走行中に、登坂性能を確保する変速制御とベルト戻り性能を確保する変速制御とを適切に選択する。
【解決手段】ECUは、登坂路での走行中に(S100にてYES)、車両の速度がVbltよりも大きく(S102にてYES)、登坂性能を確保する変速比γ(1)がベルト戻り性能を確保するγ(2)以下であるという条件が成立すると(S106にてNO)、ベルト戻り性能確保制御を実行するステップ(S110)と、条件が成立しないと(S102にてYESまたはS106にてYES)、登坂制御を実行するステップ(S104またはS108)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御に関し、特に、車両が登坂路を走行しているときに、登坂性能を確保する変速制御と車両の停止前に発進時の変速比までのベルト戻りを確保できる変速制御とを適切に選択する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機の1つにベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。このベルト式無段変速機は、V溝状のプーリ溝を備えた駆動側プーリ(プライマリプーリ)と従動側プーリ(セカンダリプーリ)とにベルトを巻掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。
【0003】
このようなベルト式無段変速機が搭載された車両において、変速は、車両の速度とアクセル操作量とに応じて設定される目標変速比になるように駆動側および従動側のプーリの溝幅が油圧アクチュエータにより変化されることにより行なわれる。
【0004】
また、目標変速比は、車両の走行抵抗に応じて補正される技術が公知である。たとえば、特開2004−162799号公報(特許文献1)は、路面勾配などの走行抵抗の変化に係わらずキックダウン加速時には運転者の加速意図に応じた車速の上昇を確実に提供する無段変速機の変速制御装置を開示する。この変速制御装置は、車速とアクセル操作量を含む車両の運転状態を検出する運転状態検出手段と、車速とアクセル操作量に応じた変速比を決定する変速比決定手段と、決定された変速比に基づいて無段変速機の変速比を制御する制御手段とを備える。変速制御装置は、加速要求の大きさを判定する加速要求判定手段と、加速要求の大きさに基づいてダウンシフトの変速特性とアップシフトの変速特性をそれぞれ決定する加速用変速特性決定手段と、加速要求が予め設定した基準値よりも大きいときには、ダウンシフト変速特性に基づいて変速比決定手段で決まる目標変速比よりも抑制された目標変速比へダウンシフトを行った後、アップシフト変速特性に基づいてアップシフトを行なう加速制御手段と、車両の走行抵抗を検出する走行抵抗検出手段と、この走行抵抗が予め設定した値を超える場合には、ダウンシフトの目標変速比を走行抵抗の大きさに応じて補正する変速比補正手段とを備える。
【0005】
上述した公報に開示された変速制御装置によると、加速途上のエンジン回転速度の過大な上昇と車両加速度の減少を抑制して、車両加速度の立ち上がりと落ち込みをバランスさせて、運転者の加速意図に応じた車両加速度を確実に得ることができ、走行抵抗が所定値を超えるときには、ダウンシフトの目標変速比を走行抵抗の大きさに応じて補正するので、走行抵抗(たとえば、路面勾配)の変化に係わらず、常時加速意図に応じた加速感を得ることができ、無段変速機を備えた車両の運転性を大幅に向上できるのである。
【特許文献1】特開2004−162799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、登坂路を走行している車両が停止する場合においては、運転者の制動操作により制動距離(制動時間)は、短くなる傾向にあるため、車両が停止するまでに変速比が発進前の初期位置(たとえば、最減速の変速比)まで戻らない可能性がある(以下の説明において、車両の停止時に変速比(ベルトの位置)が発進前の初期位置まで戻ることを「ベルト戻り」という)。変速比が発進前の初期位置まで戻らないと、次回の発進時の加速性能が低下するという問題がある。
【0007】
したがって、車両の速度とアクセル操作量とに基づく運転者が要求する登坂性能を満足する変速制御と、車両の停止前におけるベルト戻り性能を満足する変速制御とを適切に切り換えて実施する必要がある。
【0008】
上述した公報に開示された変速制御装置においては、車両の停止前のベルト戻りについて考慮されていないため、このような問題を解決することができない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、登坂路の走行中に、登坂性能を確保する変速制御とベルト戻り性能を確保する変速制御とを適切に選択する無段変速機の制御装置、制御方法およびその方法をコンピュータで実現されるプログラムならびにそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る無段変速機の制御装置は、溝幅がアクチュエータによって変更可能な駆動側プーリと従動側プーリとにベルトが巻き掛けられて、プーリにおけるベルトの掛かり径を変化させることにより変速比を変化させる、車両に搭載された無段変速機の制御装置である。この制御装置は、車両の状態に基づいて、無段変速機のベルト戻りに影響する度合が大きいか否かを判定するための判定手段と、車両が登坂路を走行中であるときに、度合が小さいと登板性能を確保する第1の変速制御を実行し、度合が大きいとベルト戻り性能を確保する第2の変速制御を実行するための制御手段とを含む。第10の発明に係る無段変速機の制御方法は、第1の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0011】
第1の発明によると、判定手段は、車両の状態(たとえば、車両の速度)に基づいて、ベルト戻りに影響する度合が大きいか否かを判定する。度合が大きいことが判定されると、ベルト戻り性能を確保する第1の変速制御が実行されるため、たとえば、車両の停止時において、無段変速機の変速比を発進前の初期位置まで戻すことができる。そのため、次回の発進時の加速性能の低下を抑制することができる。一方、度合が小さいことが判定されると、登坂性能を確保する第2の変速制御が実行されるため、車両の速度および路面の走行抵抗に応じた駆動力が発現することができる。したがって、登坂路の走行中に、登坂性能を確保する変速制御とベルト戻りを確保する変速制御とを適切に選択する無段変速機の制御装置および制御方法を提供することができる。
【0012】
第2の発明に係る無段変速機の制御装置は、第1の発明の構成に加えて、車両の速度に対応する物理量を検出するための手段をさらに含む。判定手段は、検出された速度が登坂路の勾配に応じて設定される設定速度以下であって、第1の変速制御において車両の状態に基づいて設定される第1の目標変速比が第2の変速制御において車両の状態に基づいて設定される第2の目標変速比以下であるという条件が成立すると、度合が大きいことを判定するための手段を含む。第11の発明に係る無段変速機の制御方法は、第2の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0013】
第2の発明によると、判定手段は、車両の速度が設定速度以下であって、第1の目標変速比が第2の目標変速比以下であるという条件が成立すると、ベルト戻りに影響する度合が大きいことを判定する。そのため、たとえば、車両の停止時において、無段変速機の変速比を発進前の初期位置まで戻すことができるため、次回の発進時の加速性能の低下を抑制することができる。
【0014】
第3の発明に係る無段変速機の制御装置においては、第2の発明の構成に加えて、判定手段は、条件が成立しないと、度合が小さいことを判定するための手段を含む。第12の発明に係る無段変速機の制御方法は、第3の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0015】
第3の発明によると、判定手段は、車両の速度が設定速度以下であって、第1の目標変速比が第2の目標変速比以下であるという条件が成立しないと、ベルト戻りに影響する度合が小さいことを判定する。このとき、第1の変速制御を実行されるため、無段変速機の変速比が第1の目標変速比になるように制御され、車両の速度および路面の走行抵抗に応じた駆動力を発現することができる。また、第1の目標変速比は、第2の目標変速比よりも減速側であるため、登坂性能を確保する第1の変速制御を実行することにより、ベルト戻り性能を確保することができる。
【0016】
第4の発明に係る無段変速機の制御装置は、第2または3の発明の構成に加えて、無段変速機の応答性に対応する物理量を検出するための応答性検出手段と、検出された物理量に基づいて設定速度、第1の目標変速比および第2の目標変速比を補正するための手段とをさらに含む。第13の発明に係る無段変速機の制御方法は、第4の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0017】
第4の発明によると、無段変速機の応答性が低い場合には、車両の速度および路面の勾配が同一であってもベルト戻りに影響する度合は大きくなる傾向にある。そのため、無段変速機の応答性に対応する物理量(たとえば、無段変速機の内部を流通する作動油の温度)に基づいて、設定速度、第1の目標変速比および第2の目標変速比を補正することにより、ベルト戻り性能を確保する変速制御と登坂性能を確保する変速制御とを無段変速機の応答性を考慮して適切に切り換えることができる。
【0018】
第5の発明に係る無段変速機の制御装置においては、第4の発明の構成に加えて、応答性検出手段は、無段変速機の内部を流通する作動油の温度を検出するための手段を含む。第14の発明に係る無段変速機の制御方法は、第5の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0019】
第5の発明によると、作動油の温度が低いほど作動油の粘度が増加するため、無段変速機の変速応答性が低下する。また、作動油の温度が高いほど作動油の粘度が減少するため、無段変速機の変速応答性が上昇する。無段変速機の応答性が低い場合には、車両の速度および路面の勾配が同一であってもベルト戻りに影響する度合は大きくなる傾向にある。そのため、作動油の温度に応じて設定速度、第1の目標変速比および第2の目標変速比を補正することにより、ベルト戻り性能を確保する変速制御と登坂性能を確保する変速制御とを無段変速機の応答性を考慮して適切に切り換えることができる。
【0020】
第6の発明に係る無段変速機の制御装置は、第2〜5のいずれかの発明の構成に加えて、車両が走行している路面の勾配に対応する物理量を検出するための手段と、検出された物理量に基づいて設定速度、第1の目標変速比および第2の目標変速比を補正するための手段とをさらに含む。第15の発明に係る無段変速機の制御方法は、第6の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0021】
第6の発明によると、勾配が大きくなるほど車両の停止時における制動距離が短くなるため、ベルト戻りに影響する度合が大きくなる。そのため、勾配に応じて設定速度、第1の目標変速比および第2の目標変速比を補正することにより、ベルト戻り性能を確保する変速制御と登坂性能を確保する変速制御とを車両の走行状態に応じて適切に切り換えることができる。
【0022】
第7の発明に係る無段変速機の制御装置は、第2〜6のいずれかの発明の構成に加えて、車両の駆動力の要求の度合を検出するための手段と、駆動側プーリの回転数を検出するための手段と、検出された要求の度合と検出された回転数と検出された速度とに基づいて第1の目標変速比および第2の目標変速比を設定するための手段とをさらに含む。第16の発明に係る無段変速機の制御方法は、第7の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0023】
第7の発明によると、第1の目標変速比および第2の目標変速比は、要求の度合(たとえば、アクセルペダル開度)と駆動側プーリの回転数と車両の速度と、駆動側プーリの回転数と車両の速度との予め定められた関係とに基づいて設定される。たとえば、ベルト戻り性能を確保する回転数と車両の速度との予め定められた関係および登坂性能を確保する回転数と車両の速度との予め定められた関係をそれぞれ予め設定しておくと、検出された要求の度合と駆動側プーリの回転数と車両の速度とから第1の目標変速比および第2の目標変速比を設定することができる。
【0024】
第8の発明に係る無段変速機の制御装置においては、第2〜7のいずれかの発明の構成に加えて、制御手段は、第1の目標変速比および第2の目標変速比のうちのいずれか高い方を実目標変速比に設定するための手段と、設定された実目標変速比になるように、無段変速機の変速比を制御するための変速比制御手段とを含む。第17の発明に係る無段変速機の制御方法は、第8の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0025】
第8の発明によると、車両の速度が設定速度を下回った場合であっても、第1の目標変速比と第2の目標変速比とのうちのいずれか高い方を実目標変速比に設定することにより、第1の変速制御が実行されても、第2の変速制御が実行されても、少なくともベルト戻り性能を確保することができる。そのため、次回発進時の加速性能の低下を抑制することができる。
【0026】
第9の発明に係る無段変速機の制御装置においては、第8の発明の構成に加えて、変速比制御手段は、設定された実目標変速比が、第1の目標変速比と第2の目標変速比との間で切り換わる際、変速比の変化率が登坂路の勾配に応じて設定される変化率を上回らないように、無段変速機の変速比を制御するための手段を含む。第18の発明に係る無段変速機の制御方法は、第9の発明に係る無段変速機の制御装置と同様の構成を有する。
【0027】
第9の発明によると、ベルト戻り性能を確保する第1の変速制御と登坂性能を確保する第2の変速制御とが切り換わる際に、変速比の変化が登坂路の勾配に応じた変化率に制限されることにより、実変速比の急激な変化を抑制することができる。そのため、運転者に違和感を感じさせることを抑制することができる。
【0028】
第19の発明に係るプログラムは、第10〜18のいずれかの発明に係る無段変速機の制御方法をコンピュータで実現されるプログラムであって、第20の発明に係る記録媒体は、第10〜18のいずれかの発明に係る無段変速機の制御方法をコンピュータで実現されるプログラムを記録した媒体である。
【0029】
第19または第20の発明によると、コンピュータ(汎用でも専用でもよい)を用いて、第10〜18のいずれかの発明に係る無段変速機の制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0031】
図1を参照して、本実施の形態に係る無段変速機の制御装置を含む車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る無段変速機の制御装置は、図1に示すECU1000により実現される。無段変速機はベルト式無段変速機である。
【0032】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機構300と、デファレンシャルギヤ800と、ECU1000と、油圧制御部1100とから構成される。無段変速機は、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機構300と、油圧制御部1100とから構成される。
【0033】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサ430により検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0034】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200とベルト式無段変速機構300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ400により検知される。
【0035】
ベルト式無段変速機構300は、前後進切換え装置290を介してトルクコンバータ200に接続される。ベルト式無段変速機構300は、入力側のプライマリプーリ500と、出力側のセカンダリプーリ600と、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とに巻き掛けられた金属製のベルト700とから構成される。プライマリプーリ500は、プライマリシャフトに固定された固定シーブおよびプライマリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。セカンダリプーリ700は、セカンダリシャフトに固定されている固定シーブおよびセカンダリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。ベルト式無段変速機構300の、プライマリプーリ500の回転数Ninは、プライマリプーリ回転数センサ410により、セカンダリプーリ700の回転数Noutは、セカンダリプーリ回転数センサ420により、検知される。
【0036】
これら回転数センサは、プライマリプーリ500やセカンダリプーリ700の回転軸やこれに繋がるドライブシャフトに取付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、ベルト式無段変速機構300の、入力軸であるプライマリプーリ500や出力軸であるセカンダリプーリ700の僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0037】
前後進切換え装置290は、ダブルピニオンプラネタリギヤ、リバース(後進用)ブレーキB1および入力クラッチC1を有している。プラネタリギヤは、そのサンギヤが入力軸に連結されており、第1および第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRがプライマリ側固定シーブに連結されており、そしてリングギヤRが後進用摩擦係合要素となるリバースブレーキB1に連結されており、またキャリヤCRとリングギヤRとの間に入力クラッチC1が介在している。この入力クラッチ310は、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、パーキング(P)ポジション、Rポジション、Nポジション以外の車両が前進するときに必ず係合状態で使用される。
【0038】
これらのパワートレーンを制御するECU1000および油圧制御部1100について説明する。ECU1000には、タービン回転数センサ400からタービン回転数NTを表わす信号が、プライマリプーリ回転数センサ410からプライマリプーリ回転数Ninを表わす信号が、セカンダリプーリ回転数センサ420からセカンダリプーリ回転数Noutを表わす信号が、それぞれ入力される。
【0039】
油圧制御部1100は、変速速度制御部1110と、ベルト挟圧力制御部1120と、ロックアップ係合圧制御部1130と、クラッチ圧制御部1140と、マニュアルバルブ1150とを含む。ECU1000から、油圧制御部1100の変速制御用デューティソレノイド(1)1200と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210と、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220と、ロックアップソレノイド1230と、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240に制御信号が出力される。この油圧回路の詳細は、周知な技術であるため、詳細な説明はここでは行なわない。
【0040】
ECU1000には、さらにアクセル開度センサ560から、運転者により踏まれているアクセルの開度を表わす信号、スロットルポジションセンサ(図示せず)から、電磁スロットルの開度を表わす信号、エンジン回転数センサ430から、エンジン100の回転数(NE)を表わす信号が、それぞれ入力される。
【0041】
油圧制御部1100においては、ECU1000からベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220に出力された制御信号に基づいて、ベルト挟圧力制御部1120がベルト式無段変速機構300のベルト700の挟圧力を制御する。ベルト700の挟圧力とは、プーリとベルトとが接する圧力のことである。
【0042】
車輪速センサ440は、車両の駆動輪(図示せず)の回転数を検出する。車輪速センサ440は、検出された駆動輪の回転数を示す車輪速信号をECU1000に送信する。なお、本実施の形態においては、車両の速度に対応する物理量が検出できれば、特に車両の駆動輪の回転数を検出することに限定されるものではなく、たとえば、セカンダリプーリ回転数と無段変速機から駆動輪までの減速比とに基づいて車両の駆動輪の回転数を算出するようにしてもよい。
【0043】
油温センサ450は、無段変速機の内部を流通する作動油の温度を検出する。油温センサ450は、検出された作動油の温度を示す油温信号をECU1000に送信する。なお、本実施の形態においては、無段変速機の変速応答性に対応する物理量が検出できれば、特に作動油の温度を検出することに限定されるものではない。
【0044】
図2に、本実施の形態に係る無段変速機の制御装置であるECU1000の機能ブロック図を示す。ECU1000は、入力インターフェース(以下、入力I/Fと記載する)1300と、演算処理部1400と、記憶部1500と、出力インターフェース(以下、出力I/Fと記載する)1600とを含む。
【0045】
入力I/F1300は、スロットルポジションセンサからのスロットル開度信号と、プライマリプーリ回転数センサ410からのプライマリプーリ回転数信号と、セカンダリプーリ回転数センサ420からのセカンダリプーリ回転数信号と、エンジン回転数センサ430からのエンジン回転数信号と、車輪速センサ440からの車輪速信号と、油温センサ450からの油温信号と、アクセル開度センサ460からのアクセル開度信号とを受信して、演算処理部1400に送信する。
【0046】
演算処理部1400は、登坂路判定部1402と、車速判定部1404と、変速比判定部1406と、登坂制御部1408と、ベルト戻り性能確保制御部1410とを含む。
【0047】
登坂路判定部1402は、入力I/F1300を経由して受信する車輪速信号と、スロットル開度信号とに基づいて、車両が走行している路面が登坂路であるか否かを判定する。
【0048】
具体的には、登坂路判定部1402は、車輪速信号に基づいて算出される実加速度と、スロットル開度信号と車輪速信号とに基づいて読み出される、記憶部1500に予め記憶された基準加速度との比較により車両が走行する路面が登坂路であるか否かを判定する。
【0049】
たとえば、登坂路判定部1402は、実加速度が基準加速度を下回ると、車両が走行する路面が登坂路であることを判定する。また、登坂路判定部1402は、実加速度が基準加速度以上であると、車両が走行する路面が登坂路ではないことを判定する。
【0050】
なお、Gセンサ等の路面の勾配に対応する物理量を検出するセンサを別途設けて、検出された物理量に基づいて車両が走行する路面が登坂路であるか否かを判定するようにしてもよい。登坂路判定部1402は、たとえば、車両が走行している路面が登坂路であることを判定すると、登坂路判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0051】
車速判定部1404は、入力I/F1300を経由して受信する車輪速信号に基づいて、車両の速度が速度Vbltよりも大きいか否かを判定する。速度Vbltは、ベルト戻り性能の低下が懸念される速度である。また、速度Vbltは、勾配に応じて設定される速度である。速度Vbltは、たとえば、勾配が大きくなるほど小さい速度に設定されるが、実験等により予め適合するようにすればよく、特に限定されない。
【0052】
なお、車速判定部1404は、たとえば、登坂路判定フラグがオンであると車両の速度の判定を実施し、検出された速度が速度Vbltよりも大きいと登坂制御実行フラグをオンするようにしてもよい。
【0053】
変速比判定部1406は、登坂性能を確保する変速比γ(1)がベルト戻り性能を確保する変速比γ(2)よりも大きい(減速側であるか)か否かを判定する。変速判定部1406は、登坂制御において設定されるプライマリプーリの目標回転数が、ベルト戻り性能確保制御において設定されるプライマリプーリの目標回転数よりも大きいか否かを判定するようにしてもよい。
【0054】
変速比判定部1406は、入力I/F1300を経由して受信する車輪速信号と、プライマリプーリ回転数信号と、登坂制御時に用いられるプライマリプーリの登坂制御用目標回転数のマップとから算出されるプライマリプーリの目標回転数に基づいて、登坂性能を確保する変速比γ(1)を算出する。
【0055】
登坂制御用目標回転数のマップは、たとえば、図3の破線により示される。図3は、横軸を車両の速度とし、縦軸をプライマリシーブ回転数NINとする。図3の破線に示すように、勾配レベルが大きくなるほど(勾配LV(1)から勾配LV(3)になるほど)、車両の速度に対して略線形の関係を有する登坂制御用目標回転数の傾きが大きくなるように設定される。登坂制御用目標回転数としては、勾配レベルに対して適切な加速性能が得られる回転数の下限値が設定される。
【0056】
なお、本実施の形態において、3つの勾配レベルに応じた登坂制御用目標回転数を設定することを一例として説明したが、特に3つに限定されるものではない。
【0057】
変速比判定部1406は、入力I/F1300を経由して受信する車輪速信号と、プライマリプーリ回転数信号と、ベルト戻り性能を確保する制御時に用いられるプライマリプーリ回転数の下限ガード値のマップとに基づいて、ベルト戻り性能を確保する変速比γ(2)を算出する。プライマリプーリ回転数の下限ガード値は、制動時に変速比を最減速まで戻すことができる回転数である。
【0058】
ベルト戻り性能を確保する制御時に用いられるプライマリプーリ回転数の下限ガード値のマップは、たとえば、図3の実線により示される。図3の実線に示すように、勾配レベルが大きくなるほど、車両の速度に対して略線形の関係を有するプライマリプーリ回転数の下限ガード値の傾きが大きくなるように設定される。本実施の形態において、3つの勾配レベルに応じたプライマリプーリ回転数の下限ガード値を設定することを一例として説明したが、特に3つに限定されるものではない。
【0059】
本実施の形態においては、図3に示すように、登坂制御用目標回転数は、同一の勾配レベルおよび車両の速度であるときのベルト戻り性能を確保する下限ガード値と比較して小さい。
【0060】
なお、図3において、図示されない勾配の下限ガード値または登坂制御用目標回転数は、図示された勾配の下限ガード値または登坂制御用目標回転数から線形補間等により算出すればよい。また、ベルト戻り性能を確保する制御時に用いられる下限ガード値および登坂制御用目標回転数は車両の速度に対して略線形の関係を有することに限定されるものではない。
【0061】
なお、変速比判定部1406は、登坂制御実行フラグがオフであると、変速比γ(1)およびγ(2)の比較を実施し、変速比γ(1)が変速比γ(2)よりも大きいと登坂制御実行フラグをオンし、変速比γ(1)が変速比γ(2)以下であると、ベルト戻り性能確保制御実行フラグをオンするようにしてもよい。
【0062】
登坂制御部1408は、実プライマリプーリ回転数が目標回転数になるように無段変速機を制御する。登坂制御部1408は、プライマリプーリに巻き掛けられるベルトに対する挟圧力およびセカンダリプーリに巻き掛けられるベルトに対する挟圧力に対応する油圧制御信号を生成して、出力I/F1600を経由して上述した各種ソレノイドに送信する。
【0063】
登坂制御部1408は、登坂制御中においては(すなわち、登坂制御実行フラグがオンであるときにおいては)、制御中に設定される下限ガード値を最小値としてプライマリプーリの目標回転数を設定する。登坂制御部1408は、プライマリプーリの目標回転数が登坂制御用目標回転数を上回るまでにおいては、下限ガード値を増速側(アップシフト側)に変化しないようにして、目標回転数の増加とともに下限ガード値を増加させていく。なお、下限ガード値は、設定された目標回転数以上には増加しない。登坂制御部1408は、少なくとも登坂制御用目標回転数以上の回転数を目標回転数として設定する。
【0064】
このような登坂制御時の目標回転数の変化について図4を参照しつつ説明する。たとえば、運転者がアクセルペダルを踏み込んで、アクセルペダル開度が略ゼロから増加している場合を想定する。時間T(0)において、車輪速センサ440により検出される車輪速に基づいて算出される実加速度がスロットル開度とプライマリプーリ回転数とに基づく基準加速度を下回る等の登坂制御の実行条件が成立すると、ECU1000は、登坂制御実行フラグをオンする。このとき、ECU1000は、勾配レベルに応じた登坂制御用目標回転数NINT(0)をマップから算出する。なお、車両が走行する路面の勾配レベルは一定であるとする。
【0065】
時間T(1)になるまで、運転者がアクセルペダル開度を増加させると、プライマリプーリの目標回転数が増加していく。このとき、ECU1000は、下限ガード値を目標回転数の増加とともに上昇させる。そのため、時間T(1)から時間T(2)までに、アクセルペダル開度が減少しても、目標回転数が低下することが抑制される。すなわち、無段変速機がアップシフト側に変速されることが抑制される。
【0066】
時間T(2)において、アクセルペダル開度と車両の速度とに基づいて設定される目標回転数が登坂制御用目標回転数NINT(0)を上回っても、ECU1000は、下限ガード値を登坂制御用目標回転数NINT(0)以上に増加させない。そのため、時間T(3)において、アクセルペダル開度が減少しても、目標回転数が登坂制御用目標回転数NINT(0)を下回ることがない。
【0067】
登坂制御部1408は、プライマリプーリ回転数センサ420により検出される実プライマリプーリ回転数と設定された目標回転数との差が減少するように油圧アクチュエータに対してフィードバック制御を実施する。
【0068】
さらに、登坂制御部1408は、実プライマリプーリ回転数のフィードバック制御に加えて、スイープ制御を実施する。すなわち、登坂制御部1408は、実プライマリプーリ回転数の変化率が車両が走行する路面の勾配レベルに応じて設定される変化率を上限ガード値として設定された変化率を上回らないように油圧アクチュエータを制御する。なお、スイープ制御は、目標回転数の変化率に対して上限ガード値を設定することにより実施するようにしてもよい。また、上限ガード値は、予め定められた値であってもよい。なお、車両が路面の勾配レベルに応じて設定される変化率は、実験等により予め適合すればよい。
【0069】
ベルト戻り性能確保制御部1410は、プライマリプーリの回転数が目標回転数になるようにしつつ、プライマリプーリ回転数センサ420により検出されるプライマリプーリの回転数が図4に示すマップから得られる下限ガード値を下回らないように無段変速機を制御する。ベルト戻り性能確保制御部1410は、プライマリプーリに巻き掛けられるベルトに対する挟圧力およびセカンダリプーリに巻き掛けられるベルトに対する挟圧力に対応する油圧制御信号を生成して、出力I/F1600を経由して油圧アクチュエータに送信する。
【0070】
ベルト戻り性能確保制御部1410は、ベルト戻り性能確保制御中においては(すなわち、ベルト戻り性能確保制御実行フラグがオンであるときにおいては)、勾配レベルに応じて設定される下限ガード値を最小値として、アクセルペダル開度および車両の速度に基づいて目標回転数を設定する。このときの下限ガード値は、車両の速度に対して略線形の関係を有する。
【0071】
このようなベルト戻り性能確保制御時の目標回転数の変化について図5を参照しつつ説明する。たとえば、ベルト戻り性能確保制御実行フラグがオフであって、アクセルペダル開度の車両の速度に応じて目標回転数NINT(1)が設定されている場合を想定する。
【0072】
時間T(4)において、ベルト戻り性能確保制御実行条件が成立するなどして、ベルト戻り性能確保制御実行フラグがオンになると、目標回転数は、NINT(1)から勾配レベルに応じて設定される下限ガード値NINT(2)まで強制的に引き上げられる。なお、目標回転数は、NINT(1)からNINT(2)までステップ的に上昇させるようにしてもよいし、図5に示すように、予め定められた変化率あるいは車両の走行状態(勾配レベル、車両の速度等)に応じて設定される変化率で上昇させるようにしてもよい。
【0073】
ベルト戻り制御部1410は、プライマリプーリ回転数センサ420により検出される実プライマリプーリ回転数と設定された目標回転数との差が減少するように油圧アクチュエータに対してフィードバック制御を実施する。
【0074】
なお、ベルト戻り性能確保制御部1410は、実プライマリプーリ回転数のフィードバック制御に加えて、上述したように、目標回転数がステップ的に上昇させられる場合には、スイープ制御を実施するようにしてもよい。
【0075】
すなわち、ベルト戻り性能確保制御部1410は、実プライマリプーリ回転数の変化率が車両が走行する路面の勾配レベルに応じて設定される変化率を上限ガード値として設定された変化率を上回らないように油圧アクチュエータを制御する。なお、上限ガード値は、予め定められた値であってもよい。
【0076】
スイープ制御により、たとえば、登坂制御からベルト戻り性能確保制御への切り換え時に目標回転数がステップ的に変化する場合であっても、実プライマリプーリ回転数の急激な変化が抑制される。
【0077】
本実施の形態において、登坂路判定部1402、車速判定部1404、変速比判定部1406、登坂制御部1408およびベルト戻り性能確保制御部1410は、いずれも演算処理部1400であるCPU(Central Processing Unit)が記憶部1500に記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両に搭載される。
【0078】
記憶部1500には、各種情報、プログラム、しきい値、マップ等が記憶され、必要に応じて演算処理部1400からデータが読み出されたり、格納されたりする。
【0079】
以下、図6を参照して、本実施の形態に係る無段変速機の制御装置であるECU1000で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0080】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECU1000は、車両が走行している路面が登坂路であるか否かを判定する。登坂路であると判定されると(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、この処理は終了する。
【0081】
S102にて、ECU1000は、車輪速センサ440により検出される車両の速度が勾配レベルに応じて設定されるVbltよりも大きいか否かを判定する。車両の速度がVbltよりも大きいと(S102にてYES)、処理はS104に移される。もしそうでないと(S102にてNO)、S106に移される。
【0082】
S104にて、ECU1000は、登坂制御を実行する。S106にて、ECU1000は、登坂性能を確保する変速比γ(1)がベルト戻り性能を確保する変速比γ(2)よりも大きいか否かを判定する。あるいは、ECU1000は、登坂制御が実行される場合に設定される目標回転数が車両が走行する路面の勾配レベルおよび車両の速度に基づく、ベルト戻り性能確保制御が実行される場合の下限ガード値よりも大きいか否かを判定する。変速比γ(1)が変速比γ(2)よりも大きいと(S106にてYES)、処理はS108に移される。もしそうでないと(S106にてNO)、処理はS110に移される。
【0083】
S108にて、ECU1000は、登坂制御を実行する。S110にて、ECU1000は、ベルト戻り性能確保制御を実行する。
【0084】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係る無段変速機の制御装置であるECU1000の動作について図7、図8および図9を参照しつつ説明する。
【0085】
たとえば、勾配レベル(1)に対応するVbltがV(1)であるとする。車両が勾配レベル(1)の路面を登坂中において(S100にてYES)、車両の速度がV(1)以上であるとき(S102にてYES)、登坂制御が実行される(S104)。このとき、アクセルペダル開度と車両の速度とに基づく目標回転数が、勾配レベル(1)に応じて設定される登坂制御用目標回転数を上回る場合には、勾配レベル(1)に応じて設定される目標回転数を下限ガード値として実プライマリプーリ回転数が制御される。
【0086】
図7に示すように、運転者がアクセルを緩めるなどして車両において発現する駆動力が低下すると、減速を開始するため、実プライマリプーリ回転数も減少する。
【0087】
時間T(5)において、実プライマリプーリ回転数がNIN(0)まで低下したときに、車両の速度がV(1)以下であって(S102にてNO)、登坂性能を確保する変速比γ(1)がベルト戻り性能を確保する変速比γ(2)以下になると(S106にてNO)、目標回転数は、実プライマリプーリ回転数NIN(0)から、ベルト戻り性能確保制御時に勾配レベル(1)に対応する下限ガード値NIN(1)まで強制的に引き上げられる。このとき、スイープ制御が実行されるため、実プライマリプーリ回転数は勾配レベル(1)に対応した変化率で上昇することとなる。そのため、時間T(6)において、実プライマリプーリ回転数は、この時点の車両の速度に対応する下限ガード値であるNIN(1)に到達する。時間T(6)以後においては、車両の速度の低下に応じて、ベルト戻り性能を確保する変速比が維持される。
【0088】
一方、図8に示すように、時間T(5)において、実プライマリプーリ回転数がNIN(3)まで低下したときに、車両の速度がV(1)以下であって(S102にてNO)、登坂性能を確保する変速比γ(1)がベルト戻り性能を確保する変速比γ(2)よりも大きいと(S102にてYES)、継続して登坂制御が実行されるため(S108)、目標回転数がステップ的に変化されることはない。
【0089】
また、車両の速度の低下により、登坂制御からベルト戻り性能確保制御へと切り換えられる場合のしきい値Vbltは、勾配レベルに応じて設定される。
【0090】
たとえば、図9に示すように、勾配レベル(1)においては、VbltはV(1)とし、勾配レベル(1)よりも大きい勾配を有する勾配レベル(2)においては、VbltはV(1)よりも小さいV(2)とし、勾配レベル(2)よりも大きい勾配を有する勾配レベル(3)においては、VbltはV(2)よりも小さいV(3)とする。
【0091】
このようにすると、車両が走行している路面の勾配がたとえば勾配レベル(1)であるときは、車両の速度がV(1)以下になるまでは、登坂制御が実行されるため、車両の速度の低下とともに、登坂制御時において設定される勾配レベル(1)の下限ガード値に沿って、車両の速度に対して略線形に低下することとなる。
【0092】
車両の速度がV(1)以下になると、登坂制御時の下限ガード値よりもベルト戻り性能確保制御時に勾配レベル(1)に応じて設定される下限ガード値が大きくなるため、ベルト戻り性能確保制御が実行される。このとき、実プライマリプーリ回転数は、ベルト戻り性能確保制御時に勾配レベル(1)に応じて設定される下限ガード値(破線に沿った下限ガード値)まで引き上げられる。このとき、実プライマリプーリ回転数の変化率は、勾配レベル(1)に応じて設定される予め定められた変化率である。これにより、実プライマリプーリ回転数の急激な変化を抑制することができるため、運転者に違和感を感じさせることを抑制することができる。
【0093】
勾配レベル(2)においては、登坂制御時における目標回転数の下限ガード値は、勾配レベル(1)における下限ガード値よりも大きい。そのため、車両の速度がV(1)よりも小さいV(2)以下になるまでは、登坂制御が実行されるため、車両の速度の低下とともに、勾配レベル(1)の下限ガード値よりも大きい勾配レベル(2)の下限ガード値に沿って、車両の速度に対して略線形に低下することとなる。
【0094】
車両の速度がV(2)以下になると、登坂制御時の下限ガード値よりもベルト戻り性能確保制御時に勾配レベル(2)に応じて設定される下限ガード値が大きくなるため、ベルト戻り性能確保制御が実行される。このとき、実プライマリプーリ回転数は、ベルト戻り性能確保制御時に勾配レベル(2)に応じて設定される下限ガード値(破線に沿った下限ガード値)まで引き上げられる。このとき、実プライマリプーリ回転数の変化率は、勾配レベル(2)に応じて設定される予め定められた変化率である。
【0095】
勾配レベル(3)においても、実プライマリプーリ回転数の車両の速度に対する変化は、勾配レベル(1)および勾配レベル(2)と同様の変化を示す。そのため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0096】
以上のようにして、本実施の形態に係る無段変速機の制御装置によると、ECUは、車両の速度がVblt以下であって、登坂性能を確保する変速比がベルト戻り性能を確保する変速比以下であるという条件が成立すると、ベルト戻りに影響する度合が大きいことを判定する。そのため、ECUがベルト戻り性能確保制御を実行することにより、車両の停止時において、無段変速機の変速比を発進前の初期位置まで戻すことができるため、次回の発進時の加速性能の低下を抑制することができる。
【0097】
一方、ECUは、車両の速度がVblt以下であって、登坂性能を確保する変速比がベルト戻り性能を確保する変速比以下であるという条件が成立しないと、ベルト戻りに影響する度合が小さいことを判定する。そのため、ECUが登坂制御を実行することにより、車両の速度および路面の走行抵抗に応じた駆動力を発現することができ、運転者の意図に応じた走行性能を実現することができる。
【0098】
したがって、登坂路の走行中に、登坂性能を確保する変速制御とベルト戻りを確保する速制御とを適切に選択する無段変速機の制御装置および制御方法を提供することができる。
【0099】
なお、無段変速機の応答性が低い場合には、車両の速度および路面の勾配が同一速度であってもベルト戻りに影響する度合は大きくなる傾向にある。そのため、好ましくは、無段変速機の応答性に対応する物理量に基づいて、Vblt、登坂性能を確保する変速比およびベルト戻り性能を確保する変速比を補正することが望ましい。
【0100】
無段変速機の応答性に対応する物理量とは、たとえば、無段変速機の内部を流通する作動油の温度である。作動油の温度が低いほど作動油の粘度が増加するため、無段変速機の変速応答性が低下する。また、作動油の温度が高いほど作動油の粘度が減少するため、無段変速機の変速応答性が上昇する。
【0101】
そのため、作動油の温度に応じてVblt、登坂性能を確保する変速比およびベルト戻り性能を確保する変速比を補正することにより、ベルト戻り性能を確保する変速制御と登坂性能を確保する変速制御とを無段変速機の変速応答性に応じて適切に切り換えることができる。たとえば、図10に示すように、縦軸をVbltとし、横軸を勾配としたときに、通常の油温時(たとえば、予め定められた範囲内の油温である場合)においては、勾配が大きくなるほどVbltが略線形に小さくなるように設定される。低油温時(たとえば、予め定められた範囲よりも低温である場合)においては、通常の油温時のVbltよりも大きくなるように設定される。高油温時(たとえば、予め定められた範囲よりも高温である場合)においては、通常の油温時のVbltよりも小さくなるように設定される。
【0102】
すなわち、たとえば、勾配がA(0)であるときには、通常の油温時においては、Vblt(2)が設定される。低油温時であれば、Vblt(2)よりも大きいVblt(3)が設定され、高油温時であれば、Vblt(2)よりも小さいVblt(1)が設定される。これにより、ベルト戻り性能を確保する変速制御と登坂性能を確保する変速制御とを無段変速機の変速応答性に応じて適切に切り換えることができる。
【0103】
また、勾配が大きくなるほど車両の停止時における制動距離が短くなるため、ベルト戻りに影響する度合が大きくなる。そのため、好ましくは、勾配に応じてVblt、登坂性能を確保する変速比およびベルト戻り性能を確保する変速比を補正することが望ましい。このようにすると、ベルト戻り性能を確保する変速制御と登坂性能を確保する変速制御とを車両の走行状態に応じて適切に切り換えることができる。
【0104】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本実施の形態に係る無段変速機の制御ブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る無段変速機の制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図3】登坂制御時およびベルト戻り性能確保制御時の、車速に対するプライマリプーリ回転数の変化を示す図である。
【図4】登坂制御時のアクセルペダル開度とプライマリプーリの目標回転数の変化を示すタイミングチャートである。
【図5】ベルト戻り性能確保制御時のプライマリプーリの目標回転数の変化を示すタイミングチャートである。
【図6】本実施の形態に係る無段変速機の制御装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図7】登坂制御からベルト戻り性能確保制御への切り換え時におけるプライマリプーリの実回転数の変化を示すタイミングチャート(その1)である。
【図8】登坂制御からベルト戻り性能確保制御への切り換え時におけるプライマリプーリの実回転数の変化を示すタイミングチャート(その2)である。
【図9】勾配レベルに応じた、車速に対するプライマリプーリの回転数の変化を示す図である。
【図10】油温に応じた、Vbltと勾配との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、290 前後進切換え装置、300 ベルト式無段変速機構、310 入力クラッチ、400 タービン回転数センサ、410 プライマリプーリ回転数センサ、420 セカンダリプーリ回転数センサ、430 エンジン回転数センサ、440 車輪速センサ、450 油温センサ、500 プライマリプーリ、600 セカンダリプーリ、700 ベルト、800 デファレンシャルギヤ、1000 ECU、1100 油圧制御部、1110 変速速度制御部、1120 ベルト挟圧力制御部、1130 ロックアップ係合圧制御部、1140 クラッチ圧力制御部、1150 マニュアルバルブ、1200,1210 変速制御用デューティソレノイド、1220 ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド、1230 ロックアップソレノイド、1240 ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド、1300 入力I/F、1400 演算処理部、1402 登坂路判定部、1404 車速判定部、1406 変速比判定部、1408 登坂制御部、1410 ベルト戻り性能確保制御部、1500 記憶部、1600 出力I/F。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝幅がアクチュエータによって変更可能な駆動側プーリと従動側プーリとにベルトが巻き掛けられて、前記プーリにおける前記ベルトの掛かり径を変化させることにより変速比を変化させる、車両に搭載された無段変速機の制御装置であって、
前記車両の状態に基づいて、前記無段変速機のベルト戻りに影響する度合が大きいか否かを判定するための判定手段と、
前記車両が登坂路を走行中であるときに、前記度合が小さいと登板性能を確保する第1の変速制御を実行し、前記度合が大きいとベルト戻り性能を確保する第2の変速制御を実行するための制御手段とを含む、無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記車両の速度に対応する物理量を検出するための手段をさらに含み、
前記判定手段は、前記検出された速度が前記登坂路の勾配に応じて設定される設定速度以下であって、前記第1の変速制御において前記車両の状態に基づいて設定される第1の目標変速比が前記第2の変速制御において前記車両の状態に基づいて設定される第2の目標変速比以下であるという条件が成立すると、前記度合が大きいことを判定するための手段を含む、請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記条件が成立しないと、前記度合が小さいことを判定するための手段を含む、請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記無段変速機の応答性に対応する物理量を検出するための応答性検出手段と、
前記検出された物理量に基づいて前記設定速度、前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比を補正するための手段とをさらに含む、請求項2または3に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記応答性検出手段は、前記無段変速機の内部を流通する作動油の温度を検出するための手段を含む、請求項4に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記車両が走行している路面の勾配に対応する物理量を検出するための手段と、
前記検出された物理量に基づいて前記設定速度、前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比を補正するための手段とをさらに含む、請求項2〜5のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記車両の駆動力の要求の度合を検出するための手段と、
前記駆動側プーリの回転数を検出するための手段と、
前記検出された要求の度合と前記検出された回転数と前記検出された速度とに基づいて前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比を設定するための手段とをさらに含む、請求項2〜6のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、
前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比のうちのいずれか高い方を実目標変速比に設定するための手段と、
前記設定された実目標変速比になるように、前記無段変速機の変速比を制御するための変速比制御手段とを含む、請求項2〜7のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項9】
前記変速比制御手段は、前記設定された実目標変速比が、前記第1の目標変速比と前記第2の目標変速比との間で切り換わる際、変速比の変化率が前記登坂路の勾配に応じて設定される変化率を上回らないように、前記無段変速機の変速比を制御するための手段を含む、請求項8に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項10】
溝幅がアクチュエータによって変更可能な駆動側プーリと従動側プーリとにベルトが巻き掛けられて、前記プーリにおける前記ベルトの掛かり径を変化させることにより変速比を変化させる、車両に搭載された無段変速機の制御方法であって、
前記車両の状態に基づいて、前記無段変速機のベルト戻りに影響する度合が大きいか否かを判定する判定ステップと、
前記車両が登坂路を走行中であるときに、前記度合が小さいと登板性能を確保する第1の変速制御を実行し、前記度合が大きいとベルト戻り性能を確保する第2の変速制御を実行する制御ステップとを含む、無段変速機の制御方法。
【請求項11】
前記制御方法は、前記車両の速度に対応する物理量を検出するステップを含み、
前記判定ステップは、前記検出された速度が前記登坂路の勾配に応じて設定される設定速度以下であって、前記第1の変速制御において前記車両の状態に基づいて設定される第1の目標変速比が前記第2の変速制御において前記車両の状態に基づいて設定される第2の目標変速比以下であるという条件が成立すると、前記度合が大きいことを判定するステップを含む、請求項10に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項12】
前記判定ステップは、前記条件が成立しないと、前記度合が小さいことを判定するステップを含む、請求項11に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項13】
前記制御方法は、
前記無段変速機の応答性に対応する物理量を検出する応答性検出ステップと、
前記検出された物理量に基づいて前記設定速度、前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比を補正するステップとをさらに含む、請求項11または12に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項14】
前記応答性検出ステップは、前記無段変速機の内部を流通する作動油の温度を検出するステップを含む、請求項13に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項15】
前記制御方法は、
前記車両が走行している路面の勾配に対応する物理量を検出するステップと、
前記検出された物理量に基づいて前記設定速度、前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比を補正するステップとをさらに含む、請求項11〜14のいずれかに記載の無段変速機の制御方法。
【請求項16】
前記制御方法は、
前記車両の駆動力の要求の度合を検出するステップと、
前記駆動側プーリの回転数を検出するステップと、
前記検出された要求の度合と前記検出された回転数と前記検出された速度とに基づいて前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比を設定するステップとをさらに含む、請求項11〜15のいずれかに記載の無段変速機の制御方法。
【請求項17】
前記制御方法は、
前記第1の目標変速比および前記第2の目標変速比のうちのいずれか高い方を実目標変速比に設定するステップと、
前記設定された実目標変速比になるように、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御ステップとを含む、請求項11〜16のいずれかに記載の無段変速機の制御方法。
【請求項18】
前記変速比制御ステップは、前記設定された実目標変速比が、前記第1の目標変速比と前記第2の目標変速比との間で切り換わる際、変速比の変化率が前記登坂路の勾配に応じて設定される変化率を上回らないように、前記無段変速機の変速比を制御するステップを含む、請求項17に記載の無段変速機の制御方法。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれかに記載の無段変速機の制御方法をコンピュータで実現されるプログラム。
【請求項20】
請求項10〜18のいずれかに記載の無段変速機の制御方法をコンピュータで実現されるプログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−261435(P2008−261435A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104742(P2007−104742)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】