説明

無段変速機の制御装置及び制御方法

【課題】無段変速機の油温が上昇した場合に、油温の速やかな低下を実現しつつ、より確実に所望の温度まで低下させることができるようにする。
【解決手段】変速機コントローラ12は、CVT1の油温が所定の高油温制御開始温度よりも高くなったか判断し、油温が所定の高油温制御開始温度よりも高くなったと判断された場合に、CVT1の変速比を小側に変更することでCVT1の入力回転速度を規制する第1の油温低減処理を実行し、第1の油温低減処理の実行中にCVT1の入力回転速度が所定の下限回転速度に到達した場合には、第1の油温低減処理を終了し、エンジン5のトルクを規制する第2の油温低減処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機の制御に関し、特に、高油温時における制御に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(以下、「CVT」という。)においては、高速走行・高負荷走行等によりCVTの油温が上昇すると、作動油の粘性が低下し、潤滑性能の低下や動力伝達容量の低下を招く。このため特許文献1では、CVTの油温が所定温度を上回ると、CVTの変速比を小側に変更することでCVTの入力回転速度を規制している。また、特許文献2では、CVTの油温が所定の温度領域に入ると、エンジントルクを規制して車両の速度を低下させ、CVTにおけるフリクションを低減している。いずれの方法によっても、CVTの発熱量が抑えられ、CVTの油温を低下させることが可能である。
【特許文献1】特開昭62−286847号公報
【特許文献2】特開2004−190492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
CVTの入力回転速度を規制する特許文献1の方法によれば、油温の速やかな低下が期待できる。また、入力回転速度を規制している間であっても、運転者がアクセルペダルを踏み込めばエンジントルクが増大し、そのときの車速を維持できるので、運転者に与える違和感も少ない。しかしながら、この方法では、CVTの変速比が当該CVTの最High変速比(最小変速比)に到達するとそれ以上の入力回転速度規制を行えなくなるので、CVTの油温を所望の温度まで下げることができない場合がありうる。
【0004】
また、エンジントルクを制限する特許文献2の方法によれば、CVTの油温を下げることは可能であるが、エンジントルクの低下が走行性能低下を招き、運転者に与える違和感が大きい。また、エンジントルクの低下による車速の減少率は上記入力回転速度を規制する場合における入力回転速度の減少率ほど大きくなく、また、エンジントルクの低下を受けて車速が低下するまでにタイムラグがあるため、回転速度を低下させる場合ほど油温の速やかな低下は期待できない。
【0005】
CVTの油温を所望の温度まで下げることができない場合、あるいは、所定の油温まで下げるのに時間がかかる場合は、高油温制御が運転者に与える違和感、高油温制御による走行性能の低下が長時間にわたって継続することになり、好ましくない。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、無段変速機の油温が上昇した場合に、油温の速やかな低下を実現しつつ、より確実に所望の温度まで低下させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、エンジンの出力回転が入力され、これを無段階に変速して出力する無段変速機の制御装置であって、前記変速機の油温が所定の高油温制御開始温度よりも高くなったか判断する高油温制御開始判断手段と、前記高油温制御開始判断手段によって前記油温が前記高油温制御開始温度よりも高くなったと判断された場合に、前記変速機の変速比を小側に変更することで前記変速機の入力回転速度を規制する第1の油温低減処理を実行する第1の油温低減手段と、前記第1の油温低減処理の実行中に前記変速機の入力回転速度が所定の下限回転速度に到達した場合に、前記第1の油温低減処理を終了し、前記エンジンのトルクを規制する第2の油温低減処理を実行する第2の油温低減手段
と、を備えたことを特徴とする無段変速機の制御装置が提供される。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、エンジンの出力回転が入力され、これを無段階に変速して出力する無段変速機の制御方法であって、前記変速機の油温が所定の高油温制御開始温度よりも高くなったか判断し、前記油温が前記高油温制御開始温度よりも高くなったと判断された場合に、前記変速機の変速比を小側に変更することで前記変速機の入力回転速度を規制する第1の油温低減処理を実行し、前記第1の油温低減処理の実行中に前記変速機の入力回転速度が所定の下限回転速度に到達した場合に、前記第1の油温低減処理を終了し、前記エンジンのトルクを規制する第2の油温低減処理を実行する、ことを特徴とする無段変速機の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のこれらの態様によれば、変速機の油温が高油温制御開始温度以上になると高油温制御が開始され、まず、第1の油温低減処理により変速機の入力回転速度が規制される。これにより、変速機の油温を速やかに低下させることができる。
【0010】
変速機の油温が所望の温度まで低下する前に変速機の入力回転速度が下限回転速度に到達した場合であっても、本発明のこれらの態様によれば、第2の油温低減処理が続けて実行され、エンジンのトルクが規制される。これにより、変速機の油温をさらに低下させることができ、変速機の油温を所望の温度までより確実に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、変速機の「変速比」は、当該変速機の入力回転速度を当該変速機の出力回転速度で割って得られる値を意味する。また、「最Low変速比」は当該変速機の最大変速比を意味し、「最High変速比」は当該変速機の最小変速比を意味する。
【0012】
図1はベルト式無段変速機(以下、「CVT1」という。)を搭載した車両の概略構成を示している。プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3が両者のV溝が整列するよう配設され、これらプーリ2、3のV溝にはVベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2の間には、エンジン5の側から順に、トルクコンバータ6、前後進切換え機構7が設けられている。
【0013】
プライマリプーリ2の回転はVベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て図示しない駆動輪へと伝達される。
【0014】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間の変速比を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。
【0015】
これら可動円錐板2b、3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a、3aに向けて押され、これによりVベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。
【0016】
変速に際しては、目標変速比に対応させて発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3のV溝の幅を変化させ、プ
ーリ2、3に対するVベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで目標変速比を実現する。
【0017】
プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecは油圧制御回路11によって制御される。油圧制御回路11は、複数の流路、複数の制御弁で構成され、変速機コントローラ12からの変速制御信号に応答してプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecの制御を行う。
【0018】
変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0019】
入力インターフェース123には、プライマリプーリ2の回転速度(以下、「入力回転速度Nin」という。)を検出する入力回転速度センサ21の出力信号、セカンダリプーリ3の回転速度(以下、「出力回転速度Nout」という。)を検出する出力回転速度センサ22の出力信号、CVT1の油温TMPを検出する油温センサ23の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ24の出力信号などが入力される。また、入力インターフェース123には、エンジンコントローラ13から、エンジン5のスロットルバルブの開度(以下、「スロットル開度TVO」という。)を表す信号を含むエンジン5の運転状態を示す信号が入力される。
【0020】
記憶装置122には、CVT1の変速制御のプログラム、変速制御のプログラムで用いる変速マップ(図3)、高油温制御のプログラム、高油温制御のプログラムで用いる各種テーブル(図5、図6)が格納されている。
【0021】
CPU121は、記憶装置122に格納されている各種プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して制御信号を生成し、生成した制御信号を出力インターフェース124を介して油圧制御回路11、エンジンコントローラ13に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0022】
変速制御においては、変速機コントローラ12は、入力回転速度Nin、車速VSP(∝出力回転速度Nout)、スロットル開度TVOに基づき、図3に示す変速マップを参照してCVT1の目標変速比を設定する。そして、変速機コントローラ12は、CVT1の実変速比が当該目標変速比となるよう制御信号を油圧制御回路11に出力し、プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを制御する。
【0023】
図3の変速マップには、簡単のため、スロットル開度TVOが最大のときの変速線である全負荷線、スロットル開度TVOが4/8のときのパーシャル線、CVT1の変速比が最小となる最High線、CVT1の変速比が最大となる最Low線、後述する自走可能下限回転速度に対応する自走可能下限回転速度線のみを示しているが、実際の変速マップ上にはスロットル開度TVO毎に変速線が設定されている。
【0024】
変速制御中、変速機コントローラ12はCVT1の油温TMPを監視する。そして、高速走行・高負荷走行等により油温TMPが上昇し、油温TMPが所定の高温度(例えば、120℃、以下、「高油温制御開始温度TMP1」という。)を超えた場合には、変速機コントローラ12は、油温TMPを下げるための高油温制御を開始する。
【0025】
高油温制御は第1の油温低減処理と第2の油温低減処理から構成され、変速機コントローラ12は、まず第1の油温低減処理を実行する。
【0026】
第1の油温低減処理においては、変速機コントローラ12は、CVT1の変速比を小側に変更することでCVT1の入力回転速度Ninを規制する(回転速度規制)。回転速度規制によりCVT1の入力回転速度Ninが低下すると、CVT1の油温TMPが下がり、油温TMPが所望の温度(例えば、100℃、以下、「高油温制御終了温度TMP2」という。)まで低下した場合には高油温制御を終了する。
【0027】
しかしながら、CVT1の入力回転速度Ninが所定の下限回転速度に到達してもCVT1の油温TMPが高油温制御終了温度TMP2まで低下しない場合は、変速機コントローラ12は、第2の油温低減処理を実行する。ここで、下限回転速度は、CVT1の変速比が最High変速比まで変化したときのCVT1の入力回転速度(以下、「最High回転速度」という。)、あるいは、車両が所定車速(例えば、60km/hに設定される。)で自走可能なCVT1の入力回転速度Ninの下限値(例えば、2000rpm〜3000rpmの値に設定され、以下、この下限値を「自走可能下限回転速度」という。)のうち、いずれか高い方に設定される。
【0028】
第2の油温低減処理においては、変速機コントローラ12は、まずエンジンコントローラ13にトルク制御信号を出力してエンジン5のトルクTeを規制する(トルク規制)。このとき、変速機コントローラ12は、CVT1の入力回転速度Ninがそのときの回転速度規制値に保持されるよう、油圧制御回路11に変速制御信号を出力する。
【0029】
トルク規制によりエンジン5のトルクTeが低下すると、車速VSPが低下し、CVT1の変速比が大側に変化する。この結果、CVT1の変速比を再び小側に変更してCVT1の入力回転速度Ninをさらに下げることが可能になるので、変速機コントローラ12は、このような状況になるとCVT1の変速比を小側に変更するよう油圧制御回路11に変速制御信号を出力し、CVT1の入力回転速度Ninをさらに規制する。
【0030】
以降、第2の油温低減処理では、変速機コントローラ12は、エンジン5のトルク規制とCVT1の回転速度規制とを交互に行い、これによって、CVT1の油温TMPをさらに低下させ、油温TMPが高油温制御終了温度TMP2まで低下したところで高油温制御を終了する。
【0031】
図4は変速機コントローラ12の高油温制御のプログラムの一例を示している。このプログラムは記憶装置122に格納され、変速制御中、CPU121において繰り返し実行される。これを参照しながら変速機コントローラ12が実行する高油温制御についてさらに説明する。
【0032】
ステップS1では、CVT1の油温TMPが読み込まれる。
【0033】
ステップS2では、高油温制御開始条件が成立しているか否かが判断される。高油温制御開始条件は、例えば、CVT1の油温TMPが所定の高油温制御開始温度TMP1以上となったときに成立したと判断される。高油温制御開始条件が成立していると判断された場合は、ステップS3以降に進み、CVT1の入力回転速度を規制する第1の油温低減処理が実行される。高油温制御開始条件が成立していないと判断された場合は、ステップS1に戻り、CVT1の油温TMPの監視を継続する。
【0034】
ステップS3では、回転速度規制値変化量が設定される。回転速度規制値変化量は図5に示すテーブルを参照して設定され、現在のCVT1の油温TMPと高油温制御終了温度TMP2との差ΔTが大きいほど大きな値に設定される。これは、現在のCVT1の油温TMPが高いほど後述する回転速度規制値を速やかに下げてCVT1の回転速度を速やか
に下げ、油温TMPを速やかに下げる必要があるからである。
【0035】
ステップS4では、回転速度規制値が設定される。回転速度規制値の前回値が存在する場合は、前回値からステップS3で設定された回転速度規制値変化量を減じて得られる値が新たな回転速度規制値に設定される。
【0036】
回転速度規制値の前回値が存在していない場合は、回転速度規制値の初期値として高油温制御開始条件が成立したときのCVT1の入力回転速度Ninが設定される。これは、CVT1の入力回転速度Ninの規制が、回転速度規制値を回転速度規制値変化量ずつ経時的に下げていき、後述するように、入力回転速度Ninが回転速度規制値を超える場合に入力回転速度Ninを回転速度規制値に制限することで行われるため、初期値を現在のCVT1の入力回転速度Ninに近い値に設定し、入力回転速度Ninの規制が速やかに開始されるようにするためである。
【0037】
ただし、高油温制御開始条件が成立したときのCVT1の入力回転速度Ninをそのまま初期値として用いると、高油温制御開始条件が成立する直前に運転者がアクセルペダルを操作していた場合に、入力回転速度Ninが実際に規制されるまでに時間がかかったり、回転速度規制が急激に行われる可能性がある。例えば、運転者がアクセルペダルを踏み込んでCVT1の入力回転速度が高くなっていると、初期値が大きな値になるので、回転速度規制値が下がって入力回転速度Ninの規制が行われるまでに時間を要する。逆に、運転者がアクセルペダルを離してCVT1の入力回転速度Ninが低くなっていると、初期値が小さな値になり、高油温制御開始と同時にCVT1の入力回転速度Ninが急激に下がって運転者に違和感を与える。
【0038】
このため、回転速度規制値の初期値としては、高油温制御開始条件が成立したときのCVT1の入力回転速度Ninに代えて、高油温制御開始条件が成立する前の所定期間(例えば、CVT1の油温TMPが高油温制御終了温度TMP2を超えてから高油温制御開始温度TMP1に到達するまでの期間)の入力回転速度Ninの平均値(加重平均値、単純平均値等)を用いるようにしてもよい。
【0039】
ステップS5では、CVT1の回転速度規制が実行される。回転速度規制においては、CVT1の入力回転速度NinとステップS4で設定された回転速度規制値とが比較され、入力回転速度Ninが回転速度規制値よりも大きい場合はCVT1の変速比を小側に変更するよう変速機コントローラ12から油圧制御回路11に変速制御信号が送られ、入力回転速度Ninが回転速度規制値に規制される。
【0040】
ステップS6では、高油温制御終了条件が成立しているか否かが判断される。高油温制御終了条件は、例えば、CVT1の油温TMPが所定の高油温制御終了温度TMP2よりも低くなったときに成立したと判断される。高油温制御終了条件が成立していると判断された場合は、ステップS13に進み、高油温制御が終了され(規制値の解除)、CVT1の変速比を現在の車速VSP、スロットル開度TVOから決まる目標変速比まで所定の変化率で変化させる通常制御復帰処理が行われる。
【0041】
高油温制御終了条件が成立していないときはステップS7に進み、第2の油温低減処理の開始条件が成立しているか否かが判断される。第1の油温低減処理では、上記のとおり、CVT1の入力回転速度Ninを規制することでCVT1の油温TMPを低下させるのであるが、CVT1の油温TMPが高油温制御終了温度TMP2まで低下する前に入力回転速度Ninが最High回転速度に到達したときは、入力回転速度Ninをそれ以上下げることができない。また、入力回転速度Ninが自走可能下限回転速度に到達したときは、それ以上、入力回転速度Ninを下げることは走行性能確保の観点から好ましくない

【0042】
そこで、変速機コントローラ12は、最High回転速度と自走可能下限回転速度のうちいずれか高い方を下限回転速度として設定する。そして、第1の油温低減処理実行中、入力回転速度Ninが下限回転速度に到達した場合には第2の油温低減処理の開始条件が成立したと判断して第1の油温低減処理を終了し、ステップS8以降に進んで第2の油温低減処理を実行する。第2の油温低減処理の開始条件が成立していない場合は、CVT1の入力回転速度Ninをさらに低下させてCVT1の油温TMPを下げることが可能なので、ステップS3に戻って第1の油温低減処理を継続し、CVT1の入力回転速度Ninの規制を継続する。
【0043】
第2の油温低減処理では、まず、ステップS8で、トルク規制値変化量が設定される。トルク規制値変化量は図6に示すテーブルを参照して設定され、現在のCVT1の油温TMPと高油温制御終了温度TMP2との差ΔTが大きいほど大きな値に設定される。これは、現在のCVT1の油温TMPが高いほど後述するトルク規制値を速やかに下げてエンジン5のトルクTeを速やかに下げ、油温TMPをより速やかに下げる必要があるからである。
【0044】
次のステップS9では、トルク規制値が設定される。トルク規制値の前回値が存在する場合は、前回値からステップS8で設定されたトルク規制値変化量を減じて得られる値が新たなトルク規制値に設定される。
【0045】
トルク規制値の前回値が存在していない場合は、トルク規制値の初期値として第2の油温低減処理の開始条件が成立したときのエンジン5のトルクTeが設定される。これは、エンジン5のトルク規制が、トルク規制値をトルク規制値変化量ずつ下げていき、後述するように、エンジン5のトルクTeがトルク規制値を超える場合にエンジン5のトルクTeをトルク規制値に制限することで行われるため、初期値を現在のエンジン5のトルクTeに近い値に設定し、エンジン5のトルクTeの規制が速やかに開始されるようにするためである。
【0046】
ただし、第2の油温低減処理の開始条件が成立したときのエンジン5のトルクTeをそのまま初期値として用いると、同条件が成立する直前に運転者がアクセルペダルを操作していた場合に、エンジン5のトルクTeの規制が遅れたり、トルク規制が急激に行われる可能性がある。例えば、運転者がアクセルペダルを踏み込んでエンジン5のトルクTeが大きくなっていると、初期値が大きな値になるので、トルク規制値が下がってエンジン5のトルクTeの規制が行われるまでに時間を要する。逆に、運転者がアクセルペダルを離してエンジン5のトルクTeが小さくなっていると、初期値が小さな値になり、トルク規制開始と同時にエンジン5のトルクTeが急激に下がって運転者に違和感を与えたり、走行性能の急激な低下を招く。
【0047】
このため、トルク規制値の初期値としては、第2の油温低減処理の開始条件が成立したときのエンジン5のトルクに代えて、同条件が成立する前の所定期間(例えば、高油温制御の開始条件が成立してから第2の油温低減処理の開始条件が成立までの期間)のエンジン5のトルクTeの平均値(加重平均値、単純平均値等)を用いるようにしてもよい。
【0048】
そして、ステップS10では、エンジン5のトルク規制が実行される。トルク規制においては、エンジン5のトルクTeとステップS9で設定されたトルク規制値とが比較され、エンジン5のトルクTeがトルク規制値よりも大きい場合はエンジン5のトルクTeを下げるよう変速機コントローラ12からエンジンコントローラ13にトルク制御信号が送られ、エンジン5のトルクTeがトルク規制値に規制される。なお、このとき、CVT1
の入力回転速度Ninがそのときの回転速度規制値に保持されるように変速機コントローラ12から油圧制御回路11に変速制御信号が送られ、CVT1の変速制御が併せて行われる。
【0049】
ステップS11では、高油温制御終了条件が成立しているか否かが判断される。高油温制御終了条件は、CVT1の油温TMPが所定の高油温制御終了温度TMP2よりも低くなったときに成立したと判断される。高油温制御終了条件が成立していると判断された場合は、ステップS13に進み、高油温制御が終了され(規制値の解除)、ステップS14で、CVT1の変速比、エンジン5のトルクを現在の車速VSP、スロットル開度TVOから決まる目標変速比、目標トルクまでそれぞれ所定の変化率で変化させる通常制御復帰処理が行われる。
【0050】
高油温制御終了条件が成立していない場合はステップS12に進み、回転速度制限が可能か否かが判断される。回転速度制限が可能か否かは、CVT1の入力回転速度Ninと下限回転速度との差ΔNinが所定値以上となっているか否かをみることで判断することができる。差ΔNinが所定値以上になっている場合は回転速度制限が可能と判断されてステップS3に戻り、CVT1の回転速度規制が再び行われる。第2の油温低減処理においてCVT1の回転速度規制を行う場合、エンジン5のトルクTeがそのときのトルク規制値に保持されるように変速機コントローラ12からエンジンコントローラ13にトルク制御信号が送られ、エンジン5のトルク制御が併せて行われる。
【0051】
例えば、下限回転速度が最High回転速度に設定されているときは、トルク規制により車速が低下し、CVT1の動作点が最High変速線から離れて差ΔNinが大きくなると、回転速度制限を行うことが可能となる。このような状況になった場合には、CVT1の回転速度規制が再び行われる。ただし、下限回転速度が自走可能下限回転速度に設定されているときは、トルク規制により車速が低下しても入力回転速度Ninが自走可能下限回転速度に保持されるので、回転速度制限を行うことが可能な状況になることは基本的になく、トルク規制のみが継続して行われる。
【0052】
回転速度制限が可能でないと判断されたときは、ステップS8に戻り、エンジン5のトルク規制を再び行う。
【0053】
したがって、第2の油温低減処理では、ステップS8からS10のトルク規制が行われ、トルク規制により回転速度制限が可能な状況になった場合にはステップS3からS5の回転速度規制が再び行われる。その後、トルク規制と回転速度規制は、高油温制御終了条件が成立するまで交互に実行される。
【0054】
続いて、上記高油温制御を行うことによる作用効果について説明する。
【0055】
図7はCVT1の油温TMPが上昇し、上記高油温制御が行われるときの様子を示したタイムチャートである。図8AはそのときのCVT1の動作点が変速マップ上でどのように移動するかを示した図であり、図8Bは図8Aの破線で囲んだ部分の拡大図である。
【0056】
高速走行・高負荷走行等でCVT1の油温TMPが上昇していき、時刻t1で油温TMPが高油温制御開始温度TMP1に到達すると、高油温制御開始条件が成立し、第1の油温低減処理が開始される。第1の油温低減処理では、CVT1の入力回転速度Ninが経時的に低減される回転速度規制値によって規制される。これにより、CVT1の動作点は、図8Aの変速マップ上で点X1から点X2に向けて移動する。なお、このとき運転者は車速VSPが維持されるようアクセルペダルを踏み込んでいるものとする。
【0057】
時刻t2でCVT1の変速比が最High変速比に到達し、入力回転速度Ninが下限回転速度(ここの例では最High回転速度)に到達すると、第1の油温低減処理が終了し、第2の油温低減処理が開始される。第2の油温低減処理では、エンジン5のトルクを経時的に低減されるトルク規制値によって規制するトルク規制と、第1の油温低減処理と同じく、CVT1の入力回転速度を経時的に低減される入力回転速度規制値によって規制する回転速度規制が交互に行われる。これにより、CVT1の動作点は、図8Aの変速マップ上で点X2から点X3に向けて移動する。
【0058】
なお、図7では、簡単のため、トルク規制が行われる時刻t2以降のCVT1の変速比が最High変速比で一定となるように描かれており、図8Aでは、CVT1の動作点が最High変速線に沿って移動するように描かれているが、上記のとおり、トルク規制と回転速度規制とは交互に実行されるので、CVT1の動作点は実際には図8Bで示すように階段状に移動する。
【0059】
時刻t3でCVT1の油温TMPが高油温制御終了温度TMP2よりも低くなると、高油温制御終了条件が成立し、高油温制御が終了する。
【0060】
高油温制御が終了すると通常制御復帰処理が実行され(時刻t3〜t4)、これによって、CVT1の変速比、エンジン5のトルクが、現在の車速VSP、スロットル開度TVOから決まる目標変速比、目標トルクまでそれぞれ所定の変化率で変化する。
【0061】
このように、上記高油温制御によれば、CVT1の油温TMPが高油温制御開始温度TMP1以上になると高油温制御が開始され、まず、第1の油温低減処理によりCVT1の入力回転速度Ninの規制が行われる。これにより、CVT1の油温TMPを速やかに下げることができる。
【0062】
CVT1の油温TMPが高油温制御終了温度TMP2まで低下する前に、入力回転速度Ninが下限回転速度に到達し、入力回転速度Ninをこれ以上低下させることができない、あるいは、低下させることが好ましくない状況になった場合であっても、上記高油温制御によれば、第2の油温低減処理が続けて実行され、エンジン5のトルク規制が行われる。これにより、CVT1の油温をさらに低下させ、CVT1の油温TMPを所望の温度までより確実に低下させることができる。
【0063】
したがって、上記高油温制御によれば、CVT1の油温TMPを所望の温度まで短時間かつより確実に下げることができ、CVT1を高油温から保護するとともに、高油温制御が運転者に与える違和感、高油温制御による走行性能の低下が長時間にわたって継続するのを防止することができる(請求項1、5に対応)。
【0064】
下限回転速度としては、CVT1の変速比が最High変速比まで変化したときのCVT1の入力回転速度Ninである最High回転速度が設定される。これにより、入力回転速度Ninが最High回転速度に到達し、入力回転速度Ninをこれ以上低下させることができない状況になっても、第2の油温低減処理によりエンジン5のトルク規制が行われ、CVT1の油温TMPを所望の温度まで下げることができる(請求項2に対応)。
【0065】
また、下限回転速度として、最High回転速度と、車両が所定車速で自走可能な前記変速機の入力回転速度の下限値である自走可能下限回転速度と、のうちいずれか高い方に設定すれば、入力回転速度Ninが先に自走可能下限回転速度に到達した場合にも第2の油温低減処理が実行され、入力回転速度Ninが自走可能下限回転速度よりも低くなることがなくなり、必要な走行性能を確保することができる。例えば、下限回転速度として最High回転速度のみを設定していると、登坂走行でCVT1の油温TMPが上昇するよ
うな場合に入力回転速度Ninが下がり過ぎて、登坂に必要な駆動力を確保できなくなる可能性があるが、下限回転速度として自走可能下限回転速度を設定することで、このような事態を回避することができる(請求項3に対応)。
【0066】
また、第2の油温低減処理でトルク規制と併せて回転速度規制を行うようにすれば、CVT1の油温をより一層速やかに低下させることが可能になる(請求項4に対応)。なお、第2の油温低減処理においては、上記実施形態のようにトルク規制と回転速度規制とを交互に行うようにしてもよいし、同時に行うようにしてもよい。ただし、第2の油温低減処理でトルク規制と回転速度規制とを併用することは必須ではなく、トルク規制のみ行うようにしてもよい。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0068】
例えば、本発明はベルト式無段変速機の制御装置に限定されず、トロイダル式無段変速機等、他の方式の無段変速機にも適用することができる。また、ベルト式無段変速機はこれに直列に設けられる副変速機を備えたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ベルト式無段変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図2】変速機コントローラ12の概略構成図である。
【図3】変速マップの一例である。
【図4】高油温制御のプログラムの一例を示したフローチャートである。
【図5】回転速度規制値変化量を設定するためのテーブルである。
【図6】トルク規制値変化量を設定するためのテーブルである。
【図7】高油温制御時の動作を説明するためのタイムチャートである。
【図8A】高油温制御時の動作を説明するための図である。
【図8B】図8Aの部分拡大図である。
【符号の説明】
【0070】
1 無段変速機(CVT)
5 エンジン
12 変速機コントローラ
23 油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力回転が入力され、これを無段階に変速して出力する無段変速機の制御装置であって、
前記変速機の油温が所定の高油温制御開始温度よりも高くなったか判断する高油温制御開始判断手段と、
前記高油温制御開始判断手段によって前記油温が前記高油温制御開始温度よりも高くなったと判断された場合に、前記変速機の変速比を小側に変更することで前記変速機の入力回転速度を規制する第1の油温低減処理を実行する第1の油温低減手段と、
前記第1の油温低減処理の実行中に前記変速機の入力回転速度が所定の下限回転速度に到達した場合に、前記第1の油温低減処理を終了し、前記エンジンのトルクを規制する第2の油温低減処理を実行する第2の油温低減手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記下限回転速度が、前記変速機の変速比が最High変速比まで変化したときの前記変速機の入力回転速度である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記下限回転速度が、前記変速機の変速比が最High変速比まで変化したときの前記変速機の入力回転速度、および、前記変速機を搭載した車両が所定車速で自走可能な前記変速機の入力回転速度の下限値のうち、いずれか高い方である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記第2の油温低減手段が、前記第2の油温低減処理において、前記エンジンのトルクを規制することに加え、前記変速機の変速比を小側に変更することで前記変速機の入力回転速度を規制する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
エンジンの出力回転が入力され、これを無段階に変速して出力する無段変速機の制御方法であって、
前記変速機の油温が所定の高油温制御開始温度よりも高くなったか判断し、
前記油温が前記高油温制御開始温度よりも高くなったと判断された場合に、前記変速機の変速比を小側に変更することで前記変速機の入力回転速度を規制する第1の油温低減処理を実行し、
前記第1の油温低減処理の実行中に前記変速機の入力回転速度が所定の下限回転速度に到達した場合に、前記第1の油温低減処理を終了し、前記エンジンのトルクを規制する第2の油温低減処理を実行する、
ことを特徴とする無段変速機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2010−90956(P2010−90956A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260421(P2008−260421)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】