説明

熱伝導性樹脂組成物、熱伝導性樹脂シート及びパワーモジュール

【課題】耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下でも良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持し得る熱伝導性樹脂層を与える熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂成分と絶縁性充填材とを含む熱伝導性樹脂組成物であって、前記マトリックス樹脂成分が、(A)トリアジン骨格とフェノール骨格とを有し、且つ重量平均分子量が50,000以下の化合物からなる硬化剤、(B)式(1):
【化1】


で表されるナフタレン骨格を有し、且つ分子内にエポキシ基を2〜5個もつエポキシ樹脂、及び(C)硬化促進剤を含み、且つ前記絶縁性充填材の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器等の発熱体から放熱部材へ熱を伝達させるのに用いる熱伝導性樹脂シートを与える熱伝導性樹脂組成物に関し、特に電力半導体素子等の発熱体からの熱を放熱部材に伝達し、且つ絶縁層としても機能する熱伝導性樹脂層(特に、熱伝導性樹脂シート)を与える熱伝導性樹脂組成物に関する。さらに、本発明は、この熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性樹脂シート及びパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の発熱体から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂層には、高い熱伝導性、絶縁性及び接着性が要求される。このような要求を満たす熱伝導性樹脂層として、無機充填材を含む熱硬化性樹脂組成物から形成された樹脂シートや塗布膜等が広く用いられている。例えば、パワーモジュールにおいては、電力半導体素子を搭載したリードフレームの裏面と放熱部材となる金属板との間に設ける熱伝導性樹脂層として、無機充填材を含む熱伝導性樹脂組成物を用いて塗布膜を形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、CPU等の発熱性電子部品と放熱フィンとの間に、高熱伝導性の無機充填材を含む熱伝導性樹脂組成物を用いて形成した熱伝導性樹脂シートを設けることが知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0003】
上述の熱伝導性樹脂組成物に用いられる樹脂としては、プリント配線基板に用いられる樹脂と同様の樹脂が用いられることが多い。かかる樹脂としては、例えば、ビスフェノール型やビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネート等の複素環式エポキシ樹脂が挙げられる。また、硬化剤としては、ジアミノジフェニルスルフォン、ジシアンジアミドが一般的に用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−196495号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−167560号公報(第3頁、図1)
【特許文献3】特開2002−121393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワーモジュールの製造では、リード上にチップ等の電子部品を接合したり、パワーモジュール自体のリードを回路基板上に搭載する際に、高温のリフロー炉による半田付けが一般的に行われているが、この半田付け工程における熱履歴によってリード等の金属部分と熱伝導性樹脂層との界面で応力が発生する。また、熱衝撃が繰り返されるような環境条件下でパワーモジュールが用いられる場合にも、リード等の金属部分と熱伝導性樹脂層との界面で応力が発生する。かかる応力が発生した場合、熱伝導性樹脂層にクラックや剥離が生じたり、熱伝導性樹脂層自体の分解によってボイドが発生したりすることがある。その結果、熱伝導性樹脂層の電気絶縁性、機械的強度又は熱伝導性が低下するという問題があった。
特に、上述の特許文献に開示された熱伝導性樹脂層(樹脂シートや塗布膜)のマトリックス樹脂は、接着性が高く吸湿特性が良好であっても、ガラス転移温度が低くて耐熱性が悪いか、又はガラス転移温度が高くて耐熱性が良好であっても、脆弱で吸湿特性が悪く、長期信頼性が確保できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持し得る熱伝導性樹脂層を与える熱伝導性樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持し得る熱伝導性樹脂シートを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、放熱性及び電気絶縁性の長期信頼性に優れたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、トリアジン骨格とフェノール骨格とを有する所定の化合物からなる硬化剤をマトリックス樹脂成分として用いることで、硬化反応の際に分子内のフェノール性水酸基及びアミノ基によって高架橋密度化が達成され、また、この硬化剤を所定のナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を組み合わせて用いることで、嵩高いトリアジン骨格及びナフタレン骨格によって分子運動が抑制され、マトリックス樹脂の高ガラス転移温度化と低吸湿性とを両立させ得ることを見出した。さらに、無機充填材の含有量を所定の範囲とすることで、高い熱伝導性が確保されることを見出した。
すなわち、本発明は、マトリックス樹脂成分と絶縁性充填材とを含む熱伝導性樹脂組成物であって、前記マトリックス樹脂成分が、(A)トリアジン骨格とフェノール骨格とを有し、且つ重量平均分子量が50,000以下の化合物からなる硬化剤、(B)式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
で表されるナフタレン骨格を有し、且つ分子内にエポキシ基を2〜5個もつエポキシ樹脂、及び(C)硬化促進剤を含み、且つ前記絶縁性充填材の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物である。
また、本発明は、マトリックス樹脂中に絶縁性充填材が分散された熱伝導性樹脂シートであって、前記マトリックス樹脂が、(A)トリアジン骨格とフェノール骨格とを有し、且つ重量平均分子量が50,000以下の化合物からなる硬化剤、(B)式(1):
【0010】
【化2】

【0011】
で表されるナフタレン骨格を有し、且つ分子内にエポキシ基を2〜5個もつエポキシ樹脂、及び(C)硬化促進剤を含み、且つ前記絶縁性充填材の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする熱伝導性樹脂シートである。
さらに、本発明は、一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記電力半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する、上記熱伝導性樹脂シートとを備えることを特徴とするパワーモジュールである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持し得る熱伝導性樹脂層を与える熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂成分と絶縁性充填材とを含む。ここで、マトリックス樹脂成分は、(A)硬化剤、(B)エポキシ樹脂及び(C)硬化促進剤を含む。
本発明で用いられる(A)硬化剤は、トリアジン骨格とフェノール骨格とを有し、且つ重量平均分子量が50,000以下の化合物である。重量平均分子量が50,000を超えると、組成物の粘度が増加したり、ガラス転移温度が低下してしまうため好ましくない。
(A)硬化剤に用いられる化合物としては、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スピログアナミン樹脂又はそれらの誘導体のトリアジン骨格と、フェノール樹脂又はその誘導体のフェノール骨格とがCHNH基を介して結合した化合物が挙げられる。より具体的には、(A)硬化剤に用いられる化合物は、下記の式(2)で表すことができる。
【0014】
【化3】

【0015】
上記式(2)中、Zは水素又は炭素数5以下のアルキル基(例えば、CH)であり、aは1〜20であり、bは1以上である。
(A)硬化剤は、分子内にアミノ基やフェノール性水酸基を有しているので、(B)エポキシ樹脂と効果的に反応することが可能であり、これにより高架橋密度化が達成される。
(A)硬化剤は、公知の方法により製造したものを用いればよいが、市販品を用いることもできる。市販品としては、EPICRON LA−7054(大日本インキ化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明で用いられる(B)エポキシ樹脂は、下記の式(1)で表されるナフタレン骨格を有し、且つ分子内にエポキシ基を2〜5個もつ。
【0017】
【化4】

【0018】
分子内にエポキシ基を3〜5個有する(B)エポキシ樹脂の例としては、以下のものが挙げられる。
【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
上記のような構造を有する(B)エポキシ樹脂は、公知の方法により製造したものを用いればよいが、市販品を用いることもできる。市販品としては、EPICLON HP−4032、HP−4700及びHP−4770(大日本インキ化学工業株式会社製)等が挙げられる。
かかる(B)エポキシ樹脂は、硬化反応の際に(A)硬化剤のフェノール性水酸基及びアミノ基と効率良く反応し、高ガラス転移温度化と低吸湿性とを両立したマトリックス樹脂を与える。
(B)エポキシ樹脂と(A)硬化剤との割合は、(B)エポキシ樹脂中のエポキシ基と(A)硬化剤中のフェノール性水酸基及びアミノ基との割合が1:0.8〜1:1.3の範囲であることが好ましい。上記範囲を外れる場合には、所望のガラス転移温度が得られず、マトリックス樹脂の耐熱性が低くなることがある。
【0023】
本発明で用いられる(C)硬化促進剤としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の有機ホスファイト化合物;エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のホスホニウム塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン;4−ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7(以下、DBUと略記する。)等のアミン化合物及びDBUとテレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸との塩;テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩;3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロルフェニル)−1,1−ジメチル尿素等の尿素化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ;カリウムフェノキシドやカリウムアセテート等のクラウンエーテルの塩等を用いることができる。これらは、単独又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(C)硬化促進剤の配合量は、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。硬化促進剤(C)の配合量が0.01質量部未満であると硬化反応速度が遅くなることがあり、5質量部より多いとエポキシ樹脂(B)の自己重合が生じてエポキシ樹脂(B)の硬化反応が阻害されることがある。
【0025】
マトリックス樹脂成分は、接着性を向上させる観点から、(D)カップリング剤や(E)接着性付与剤等をさらに含むことができる。
(D)カップリング剤は、マトリックス樹脂と絶縁性充填材との界面の接着性や、熱伝導性樹脂層と接する部材との接着性を向上させる成分である。本発明で用いられる(D)カップリング剤としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。これらは、単独又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
マトリックス樹脂成分における(D)カップリング剤の配合量は、使用する他のマトリック樹脂成分やカップリング剤等の種類にあわせて適宜調整すればよいが、(B)エポキシ樹脂100質量部に対して、一般的に0.01〜5質量%であることが好ましい。
【0026】
(E)接着性付与剤もまた、熱伝導性樹脂組成物から得られる熱伝導性樹脂層の接着性を向上させる成分である。本発明で用いられる(E)接着性付与剤は、下記の式(3)で表される熱可塑性樹脂である。
【0027】
【化8】

【0028】
上記式(3)中、YはCH、C(CH、SO又は直接結合であり、cは30〜400である。また、この熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、10,000〜100,000である。重量平均分子量が10,000未満であると、柔軟性が低くなり、接着対象物との界面で剥離やクラックが発生することがある。一方、重量平均分子量が100,000を超えると、所望のガラス転移温度が得られず、マトリックス樹脂の耐熱性が低くなることがある。
上記の熱可塑性樹脂は、公知の方法により製造したものを用いればよいが、市販品を用いることもできる。市販品としては、E1256B40(ジャパンエポキシレジン株式会社製)等が挙げられる。
マトリックス樹脂成分における(E)接着性付与剤の配合量は、5〜30質量%であることが好ましい。配合量が5質量%未満であると所望の接着性を有する熱伝導性樹脂層が得られないことがあり、30質量%より多いと熱伝導性樹脂層の耐熱性が低下することがある。
【0029】
マトリックス樹脂成分は、上記(B)エポキシ樹脂や(E)接着性付与剤以外のエポキシ樹脂をさらに含むことができ、この成分を配合することで熱伝導性樹脂層にしなやかさを付与することができる。このエポキシ樹脂としては、エピビス型のエポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂)が挙げられる。具体的には、このエポキシ樹脂は、下記の式(4)で表される。
【0030】
【化9】

【0031】
上記式(4)中、YはCH、C(CH、SO又は直接結合であり、cは0〜5である。また、このエポキシ樹脂の重量平均分子量は、310〜2,000である。重量平均分子量が310未満であると、架橋密度が高くなり、シート材料が脆弱でクラックが発生しやすくなることがある。一方、重量平均分子量が2,000を超えると、組成物の粘度が高くなり、シート化することが困難になることがある。
上記のエポキシ樹脂は、公知の方法により製造したものを用いればよいが、市販品を用いることもできる。市販品としては、jER−828やjER−807(ジャパンエポキシレジン株式会社製)等が挙げられる。
なお、上記のエポキシ樹脂の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されることはなく、各成分にあわせて適宜調整すればよい。
【0032】
本発明で用いられる絶縁性充填材としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素等を用いることができる。これらは、単独又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
絶縁性充填材の粒径及び形状は、特に限定されることはなく、熱伝導性樹脂層(樹脂シートや塗布膜)に一般的に配合されている粒径及び形状のものを用いればよい。具体的には、絶縁性充填材の形状は、略球形であることが好ましいが、粉砕されたような形状で多面形状、鱗片形状であってもよい。また、絶縁性充填材は、凝集したものや、顆粒状態のものを用いることができる。
熱伝導性樹脂組成物における絶縁性充填材の配合量は、40〜90質量%である。かかる範囲の配合量であれば、熱伝導性樹脂層において絶縁性充填材同士の接触により電熱路を確保して熱伝導性を高めることができる。配合量が40質量%未満であると、所望の熱伝導性を得ることができず、90質量%より多いとマトリックス樹脂中に絶縁性充填材を混合分散させることが困難となり、作業性や成形性に支障を生じる。
【0033】
熱伝導性樹脂組成物は、マトリックス樹脂成分及び絶縁性充填材を均一に混合するために溶剤をさらに含むことができる。溶剤としては、当該技術分野において公知のものであれば特に限定されることはない。例えば、メチルエチルケトン、イソプロパノール、トルエン、エチルカルビトール、ブチルカルビトール及びブチルカルビトールアセテート等を用いることができる。
熱伝導性樹脂組成物における溶剤の配合量は、使用するマトリックス樹脂成分及び絶縁性充填材の種類にあわせて適宜調整すればよいが、一般的に、マトリックス樹脂成分及び絶縁性充填材の合計100質量部に対して、40質量部〜85質量部である。なお、熱硬化性樹脂組成物の粘度が低い場合には、溶剤を加えなくてもよい。
【0034】
熱伝導性樹脂組成物の調製方法は、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、各成分を混合した後、3本ロールやニーダ等で混練すればよい。
【0035】
実施の形態2.
本発明の熱伝導性樹脂シートは、マトリックス樹脂中に絶縁性充填材が分散されたシートである。
本発明の熱伝導性樹脂シートについて、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態における熱伝導性樹脂シートの断面模式図である。図1において、熱伝導性樹脂シート1は、マトリックス樹脂2と、このマトリックス樹脂2中に分散された絶縁性充填材3とから構成されている。ここで、マトリックス樹脂2は、必須成分として、上述の(A)硬化剤、(B)エポキシ樹脂及び(C)硬化促進剤を含み、任意成分として、上述の(D)カップリング剤、(E)接着性付与剤、並びに(B)エポキシ樹脂及び(E)接着性付与剤以外のエポキシ樹脂を含むことができる。
【0036】
本発明の熱伝導性樹脂シートは、上述の熱伝導性樹脂組成物を用いて製造することができる。この熱伝導性樹脂シートの製造方法は、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、離型処理がされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや金属板等の基材に、上述の熱伝導性樹脂組成物をドクターブレード法等によって塗布する。次いで、この塗布物を乾燥し、溶剤を揮発させた後、加熱することによって熱伝導性樹脂シートを得ることができる。ここで、乾燥の際には、必要に応じて80℃以上150℃以下に加熱し、溶剤の揮発を促進させてもよい。また、熱伝導性樹脂シートをパワーモジュール等に組み込む場合、発熱部材及び放熱部材との接着性等の観点から、マトリックス樹脂がBステージ化するまで加熱することが好ましい。さらに、加熱は、加圧しながら行ってもよく、加熱後に加圧処理を別途施してもよい。
【0037】
本発明の熱伝導性樹脂シートでは、耐熱性(ガラス転移温度)が高く、接着性及び吸湿特性に優れたマトリックス樹脂2を用いているので、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても、リード等の金属部分と熱伝導性樹脂層との界面における応力の発生を防止することができる。また、絶縁性充填材3を高い充填率で配合しているので、良好な熱伝導性が確保される。よって、本発明の熱伝導性樹脂シートは、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持することができる。
【0038】
実施の形態3.
本発明のパワーモジュールは、一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記電力半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する上記熱伝導性樹脂シートとを備えている。
図2は、本実施の形態におけるパワーモジュールの断面模式図である。図2において、パワーモジュール10は、配線及び放熱部材の両方の機能を有するリードフレーム11に搭載された電力半導体素子12と、放熱部材であるヒートシンク部材13と、リードフレーム11とヒートシンク部材13との間に配置された上述の熱伝導性樹脂シート1とを備えている。さらに、電力半導体素子12と制御用半導体素子14との間、及び電力半導体素子12とリードフレーム11との間は、金属線15によって接続されている。また、リードフレーム11の端部、及びヒートシンク部材13の外部放熱のための部分以外はモールド樹脂16によって封止されている。
【0039】
パワーモジュール10の製造方法は、特に限定されることはなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、まず、リードフレーム11の一方の面に電力半導体素子12及び制御用半導体素子14を半田等により接合する。次に、リードフレーム11の他方の面とヒートシンク部材13との間に、上述したBステージ状態の熱伝導性樹脂シート1を配置し、加圧下で加熱して熱伝導性樹脂シート1を硬化させ、リードフレーム11及びヒートシンク部材13を熱伝導性樹脂シート1と接着させる。次に、電力半導体素子12及び制御用半導体素子14に金属線をワイヤボンド法によって接合して配線を行う。最後に、トランスファーモールド法等によってモールド樹脂16で封止することでパワーモジュール10を製造することができる。なお、本実施の形態では、リードフレーム11とヒートシンク部材13との間に熱伝導性樹脂シート1を配置しているが、この熱伝導性樹脂シート1は熱伝導性及び電気絶縁性に優れているので、ヒートシンク部材13を省略した構成とすることも可能である。
また、上述の熱伝導性樹脂組成物を発熱部材又は放熱部材上に直接塗布して熱伝導性樹脂層を形成する方法を用いることも可能である。
【0040】
パワーモジュール10では、発熱部材である電力半導体素子12を載置したリードフレーム11とヒートシンク部材13との間に、上述の熱伝導性樹脂シート1が配置されている。そして、この熱伝導性樹脂シート1は、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持することができるので、パワーモジュール10における放熱性及び電気絶縁性の長期信頼性が向上する。また、電力半導体素子12で発生した熱を高効率でヒートシンク部材13に伝達して放熱できるので、パワーモジュールの小型化及び高容量化を実現することも可能となる。
【0041】
図3は、本実施の形態における別のパワーモジュールの断面模式図である。図3において、パワーモジュール20は、ケースタイプのパワーモジュールであり、放熱部材であるヒートシンク部材22と、ヒートシンク部材22の表面に形成された回路基板23と、この回路基板23に載置された電力半導体素子24と、ヒートシンク部材22の周縁部に接着されたケース25と、ケース25内に注入され、回路基板23及び電力半導体素子24等を封止する注型樹脂26と、ヒートシンク部材22の回路基板23が設けられた面に対向する反対側の面に積層された熱伝導性樹脂シート1と、熱伝導性樹脂シート1を介してヒートシンク部材に接合された放熱部材であるヒートスプレッダー21とから構成されている。
パワーモジュール20の製造方法は、特に限定されることはなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、Bステージ状態の熱伝導性樹脂シート1を用いて、上述と同じようにして製造すればよい。このパワーモジュール20では、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下に曝されても良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持し得る熱伝導性樹脂シート1を用いているので、パワーモジュール20における放熱性及び電気絶縁性の長期信頼性が向上する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(1)熱硬化性樹脂組成物の調製
表1に記載の配合割合で所定のマトリックス樹脂成分を配合した後、メチルエチルケトン(MEK)100質量部を添加して撹拌し、マトリックス樹脂の溶液を調製した。次に、この溶液に表1に記載の配合割合で絶縁性充填材を添加し、十分混合することにより、実施例1〜18及び比較例1〜3の熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0043】
【表1】

【0044】
(2)熱伝導性樹脂シートの作製
上記熱伝導性樹脂組成物を、片面を粗化処理した厚さ100μmの銅箔上にドクターブレード法にて塗布し、90℃で20分間の加熱乾燥処理をした後、加圧プレスを行い、厚さが200μmでBステージ状態の熱伝導性樹脂シートを作製した。
次に、このBステージ状態の熱伝導性樹脂シート上に2mmの銅板を配置し、120℃で1時間加熱した後、180℃で3時間さらに加熱し、熱伝導性樹脂シートを完全に硬化させ、これを接着性の評価用サンプルとした。
ここで、接着性は、オートグラフ試験装置を用いて、上記接着性の評価用サンプルの引張りせん断強度(接着力)を測定することにより評価した。また、上記接着性の評価用サンプルを用いて、リフロー温度285℃における熱伝導性樹脂シートの膨れ発生時間も測定した。
【0045】
また、上記熱伝導性樹脂組成物を用い、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの離型剤処理面上にドクターブレード法にて塗布したこと以外は上記と同様にして、厚さが500μmでBステージ状態の熱伝導性樹脂シートを作製した。
次に、PETフィルム上に形成した熱伝導性樹脂シートを2枚重ねてプレスした後、120℃で1時間加熱した後、180℃で3時間さらに加熱し、熱伝導性樹脂シートを完全に硬化させ、これを吸湿特性の評価用サンプルとした。
吸湿特性は、130℃、2.7気圧の条件下でプレッシャークッカー試験を行い、試験前及び100時間後のサンプルの質量変化を測定することにより評価した。また、ガラス転移温度は、熱機械分析方法を用い、昇温速度3℃/分にて温度に対する膨張曲線を求め、ガラス転移温度以下及びガラス転移温度以上の直線部分の接線の交点から算出した。
実施例及び比較例のサンプルにおける接着性、膨れ発生時間、吸湿特性(吸湿量)及びガラス転移温度の評価結果を表2に示す。
また、実施例1及び8〜14のサンプルの結果を基に、マトリックス樹脂成分における接着性付与剤の含有量と、接着力及びガラス転移温度との関係を図4に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示されているように、実施例の熱伝導性樹脂組成物から得られる熱伝導性樹脂シートでは、接着性、膨れ発生時間及び吸湿特性が良好であった。これに対して、比較例の熱伝導性樹脂組成物から得られる熱伝導性樹脂シートでは、吸湿特性が悪いと共に、膨れ発生時間が短かった。
また、図4に示されているように、接着性付与剤を配合することにより接着力が向上するものの、その配合量が30質量%を超えると接着力が低下した。
以上の結果からわかるように、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、耐熱性、接着性及び吸湿特性に優れ、リフロー工程や高温多湿の条件下でも良好な熱伝導性及び電気絶縁性を維持し得る熱伝導性樹脂シートを与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態2における熱伝導性樹脂シートの断面模式図である。
【図2】実施の形態3におけるパワーモジュールの断面模式図である。
【図3】実施の形態3におけるパワーモジュールの断面模式図である。
【図4】マトリックス樹脂成分における接着性付与剤の含有量と、接着力及びガラス転移温度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 熱伝導性樹脂シート、2 マトリックス樹脂、3 絶縁性充填材、10、20 パワーモジュール、11 リードフレーム、12、24 電力半導体素子、13、22 ヒートシンク部材、14 制御用半導体素子、15 金属線、16 モールド樹脂、21 ヒートスプレッダー、23 回路基板、25 ケース、26 注型樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂成分と絶縁性充填材とを含む熱伝導性樹脂組成物であって、前記マトリックス樹脂成分が、
(A)トリアジン骨格とフェノール骨格とを有し、且つ重量平均分子量が50,000以下の化合物からなる硬化剤、
(B)式(1):
【化1】

で表されるナフタレン骨格を有し、且つ分子内にエポキシ基を2〜5個もつエポキシ樹脂、及び
(C)硬化促進剤
を含み、且つ前記絶縁性充填材の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)硬化剤が、式(2):
【化2】

(式中、Zは水素又は炭素数5以下のアルキル基であり、aは1〜20であり、bは1以上である)で表されることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂成分が、(D)カップリング剤をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記マトリックス樹脂成分が、(E)式(3):
【化3】

(式中、YはCH、C(CH、SO又は直接結合であり、cは30〜400である)で表される接着性付与剤を5〜30質量%さらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
マトリックス樹脂中に絶縁性充填材が分散された熱伝導性樹脂シートであって、前記マトリックス樹脂が、
(A)トリアジン骨格とフェノール骨格とを有し、且つ重量平均分子量が50,000以下の化合物からなる硬化剤、
(B)式(1):
【化4】

で表されるナフタレン骨格を有し、且つ分子内にエポキシ基を2〜5個もつエポキシ樹脂、及び
(C)硬化促進剤
を含み、且つ前記絶縁性充填材の含有量が40〜90質量%であることを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項6】
前記(A)硬化剤が、式(2):
【化5】

(式中、Zは水素又は炭素数5以下のアルキル基であり、aは1〜20であり、bは1以上である)で表されることを特徴とする請求項5に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項7】
前記マトリックス樹脂が、(D)カップリング剤をさらに含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂が、(E)式(3):
【化6】

(式中、YはCH、C(CH、SO又は直接結合であり、cは30〜400である)で表される接着性付与剤を5〜30質量%さらに含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項9】
一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記電力半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する、請求項5〜8のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂シートとを備えることを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227947(P2009−227947A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78715(P2008−78715)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】