説明

熱硬化性樹脂成形体の製造方法

【課題】機械的強度を低下させることなく、変色や発泡を抑え、表面平滑性に優れた、透明感のある熱硬化性樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤とともにチクソ性付与剤を必須成分として含有し、それら配合物のチクソトロビーインデックス(TI値)が1.1以上で、粘度が温度25℃において10000mPa・s以下である熱硬化性樹脂組成物を、熱伝導率が100W/m・℃以上の材質の型に注入して、加熱硬化することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住設機器や建材等に用いられているカウンター、浴槽、洗面ボウル、シンク、テーブル等には意匠的に優れた人工大理石が用いられている。現在上市されている人工大理石には、大別すると不飽和ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、ビニルエステル樹脂系、エポキシ樹脂系がある。このうちエポキシ樹脂系人工大理石については、液状エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤および硬化促進剤からなる配合物に無機充填材を添加してあるいは添加せずに、これら成分を含む樹脂組成物を成形して得る。ここで、無機充填材を添加する場合、通常液状配合物100重量部に対し200重量部程度添加するが、得られる成形体は透明感がなく機械的強度も低い。無機充填材を添加しない場合、得られる成形体が変色、あるいは発泡等が生じたり、表面平滑性が悪い等の問題があった。
【0003】
以上の問題を解決するために、例えば、エポキシ樹脂と、酸無水物硬化剤と、第4級ホスホニウム塩または二環式アミジン化合物の有機酸塩もしくはこれらの混合物等の硬化促進剤と、ホスファイトを基本骨格に持つものあるいは前記ホスファイトの混合物からなる配合物を着色防止剤とするエポキシ樹脂組成物を用いて成形したものが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−269645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のエポキシ樹脂組成物は、成形時の従来の問題点である、変色、発泡、表面平滑性が悪い等の不具合を解決し、透明感のある意匠性に優れたエポキシ樹脂系人工大理石を実現している。しかしながら、用いる硬化促進剤や着色防止剤の種類、量が限られており、配合の自由度がなく、得られる成形体の用途が限定されるという問題があった。また、十分な機械的強度を有するものではなかった。
【0005】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、硬化促進剤として第4級ホスホニウム塩または二環式アミジン化合物の有機酸塩もしくはこれらの混合物に限定されず、しかも着色防止剤を用いることなしに、機械的強度を低下させることなく、変色や発泡を抑え、表面平滑性に優れた、透明感のある熱硬化性樹脂成形体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0007】
第1に、本発明の熱硬化性樹脂成形体の製造方法は、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤とともにチクソ性付与剤を必須成分として含有し、それら配合物のチクソトロビーインデックス(TI値)が1.1以上で、粘度が温度25℃において10000mPa・s以下である熱硬化性樹脂組成物を、熱伝導率が100W/m・℃以上の材質の型に注入して、加熱硬化する。
【0008】
第2に、上記第1の発明の熱硬化性樹脂成形体の製造方法において、型の材質が、アルミニウム合金または亜鉛合金である。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の発明によれば、第4級ホスホニウム塩または二環式アミジン化合物の有機酸塩もしくはこれらの混合物の硬化促進剤に限定されず、また着色防止剤を用いることなしに、機械的強度を低下させることなく、変色や発泡を抑え、表面平滑性に優れた、透明感のある熱硬化性樹脂成形体を製造することができる。
【0010】
上記第2の発明によれば、上記の効果をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は前記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
本発明は、前記のとおり、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤とともにチクソ性付与剤を必須成分として含有し、それら配合物のチクソトロビーインデックス(TI値)が1.1以上で、粘度が温度25℃において10000mPa・s以下である熱硬化性樹脂組成物を用いる。
【0013】
チクソ性付与剤を添加することにより、ぬれ性、流れ性、粘度が変わる。チクソ性付与剤を含有していない、樹脂主体の熱硬化性樹脂組成物は、それを成形材料として注型型を用いて成形すると、成形材料の硬化反応が開始する部分が金型の内壁面から離れた中心付近から開始することになり、引けが発生する。本発明は特に所定の粘度を維持しつつ、チクソ性を付与することで、成形時においてその成形材料が金型に面している表面より硬化を開始させることで、樹脂成形体の表面の発泡を抑えるとともに引けをなくしている。これにより、機械的強度を低下させずに表面平滑性に優れた樹脂成形体を得ることができる。TI値が1.1未満では、成形時において、いまだ成形材料の硬化反応が開始する部分が型の内壁面から離れた中心付近から開始するため、引けが発生してしまう。TI値の上限値としては、特に限定するものではないが、一般的にチクソ性が高くなると粘度も高くなって流れ性が悪くなり、これに伴い成形性が悪くなるので、例えば、5程度であることが考慮される。
【0014】
なお、TI値は揺変度と呼ばれるもので、JIS K6901に準拠して測定することができる。
【0015】
以上のチクソ性付与剤は、無機系のものあるいは有機系のものであってもよく、特に制限されるものではない。無機系のチクソ性付与剤としては、微粉シリカ系やベントナイト系等が挙げられるが透明性の点から微粉シリカ系が好ましい。有機系のチクソ性付与剤としては、ひまし油系やポリアマイド系が使用できる。チクソ性付与剤の添加量としては、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤の種類や量によって異なり、得られる熱硬化性樹脂組成物のTI値が1.1以上で、かつ粘度が温度25℃において10000mPa・s以下となるように適宜に設定される。
【0016】
本発明は、上記熱硬化性樹脂組成物の粘度が、温度25℃において10000mPa・s以下となるように、各成分の配合量を適宜に設定している。本発明は後述するように無機充填材を配合してもよいが、配合しなくてもチクソ性付与剤を添加することで上記粘度に調整可能である。これにより、透明感のある樹脂成形体を得ることができる。また、上記粘度とすることで、熱硬化性樹脂組成物の注型型への流れ性が良好となる。粘度の下限値は特に限定するものではないが、粘度が低すぎると成形性が悪くなるおそれがあるので、一般的には3000程度であることが考慮される。温度25℃における熱硬化性樹脂組成物の粘度が10000mPa・sを超える場合には、注型型への流れ性が悪くなり、これに伴い成形性が悪くなる。
【0017】
上記熱硬化性樹脂組成物における熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂を用いる場合には、具体的には、汎用のビスフェノールAジグリシジルエーテルの他、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、環状脂肪族エポキシ樹脂等の透明性を有する樹脂が挙げられる。硬化物の着色性、硬化性およびコスト面を考慮すると、ビスフェノールAジグリシジルエーテルが好ましい。また、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリオレフィン型エポキシ樹脂等の樹脂成分、比較的低粘度のモノエポキシサイドやポリエポキシサイド等の反応性希釈剤を本発明の所定の効果に影響を及ぼさない範囲内で適宜配合することができる。
【0018】
硬化剤および硬化促進剤は、熱硬化性樹脂に応じて適宜に選択される。例えば、エポキシ樹脂を熱硬化性樹脂として用いたときの硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水メチルハイミック酸、無水マレイン酸等の酸無水物硬化剤が挙げられる。着色性や耐候性を考慮すると2重結合がないヘキサヒドロ無水フタル酸またはメチルヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましい。なお、両者を併用することも可能である。同様に、エポキシ樹脂を熱硬化性樹脂として用いたときの硬化促進剤としては、従来公知の化合物、第3級アミン類や第4級ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類、エポキシ−アミンダクト、尿素型アダクト等の潜在性硬化促進剤等が挙げられる。
【0019】
硬化剤および硬化促進剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物として一般的に用いられている範囲内で適宜に設定することができ、特に限定されるものではない。具体的には、熱硬化性樹脂100重量部に対して硬化剤50〜95重量部、硬化促進剤0.5〜5重量部配合することができる。
【0020】
本発明における熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、水酸化アルミニウム、シリカ、ガラスフリット等の充填材を添加してもよい。これにより、得られる樹脂成形体の曲げ弾性率を向上させることができる。その添加量としては、熱硬化性樹脂と硬化剤と硬化促進剤との配合物100重量部に対して、100重量部以下の範囲であることが考慮される。100重量部を超えると、樹脂成形体の曲げ強度が劣り、透明感が損なわれてしまう場合があるので好ましくない。充填材の添加量の下限値としては、特に限定されるものではない。充填材の添加量が少ないほど得られる樹脂成形体の透明感が向上し、曲げ強度が大きくなる傾向にある。なお、充填材の添加量が多ければ、その熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなる傾向にある。
【0021】
さらに必要に応じて酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加することもできる。
【0022】
本発明は、以上の熱硬化性樹脂組成物を熱伝導率が100W/m・℃以上の材質の型に注入して、例えば、90〜150℃程度の温度範囲で30分〜3時間加熱硬化している。これにより、成形時において、熱硬化性樹脂組成物の反応硬化がより金型表面から反応を開始させることができ、本発明のような樹脂主体の熱硬化性樹脂組成物においては引けの発生をより一層抑え、表面平滑性が優れた樹脂成形体を得ることができる。しかも金型の熱による変色を防ぐことができる。熱伝導率が100W/m・℃未難である場合には、成形時において、熱硬化性樹脂組成物への熱伝導が低下し、金型表面に近い熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が遅くなって、熱硬化性樹脂組成物全体に硬化反応が開始することになる。その結果、金型の内壁面から離れた熱硬化性樹脂組成物の中心付近の硬化反応による熱収縮が、金型に面している熱硬化性樹脂組成物の表面に影響することになり、表面平滑性が良好な樹脂成形体を得ることができない。
【0023】
熱伝導率の上限については、熱伝導率が高ければ高いほどよく特に限定されるものではないが、入手可能な型の材質を考慮すると一般的には200W/m・℃程度とすることができる。具体的な型の材質としては、アルミニウム合金、亜鉛合金等を例示することができる。これらは、いずれも上記効果をより確実に実現でき、入手の容易性、コスト等の見地からも好ましい。
【0024】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0025】
<実施例1>
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)100重量部、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量160)93重量部、2エチル4メチルイミダゾ−ル2重量部、チクソ性付与剤として微粉シリカ(比表面積380m/g)6重量部を混合し、減圧脱泡して得られた配合物を、2枚の厚み3ミリのアルミニウム合金板で10ミリのスペーサーを挟んだ注型型に注型した。
【0026】
この注型型を100℃の熱風乾燥機に60分、さらに110℃に昇温後30分、さらに130℃に昇温後30分放置し、取り出した後室温にて冷却し脱型して成形体を得た。
【0027】
この成形体は、機械的強度(曲げ強度、曲げ弾性率)に問題はなく、透明感が有り、変色や発泡の無い表面平滑性の良いものであった。
<実施例2>
実施例1において、注型型として、アルミニウム合金板の代わりに亜鉛合金板を用いた以外は同様である。
【0028】
この成形体は、機械的強度に問題はなく、透明感が有り、変色や発泡の無い表面平滑性の良いものであった。
<比較例1>
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)100重量部、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量160)93重量部、2エチル4メチルイミダゾ−ル2重量部、チクソ性付与剤として微粉シリカ(比表面積380m/g)1重量部を混合し、減圧脱泡して得られた配合物を、2枚の厚み3ミリの鉄板で10ミリのスペーサーを挟んだ注型型に注型した。
【0029】
この注型型を100℃の熱風乾燥機に60分、さらに110℃に昇温後30分、さらに130℃に昇温後30分放置し、取り出した後室温にて冷却し脱型して成形体を得た。
【0030】
この成形体は透明感が有るが、黄変、発泡が生じており、表面平滑性が良くなかった。機械的強度は実施例1〜2と同程度であった。
<比較例2>
比較例1において、注型型として、アルミニウム合金板の代わりにFRP(繊維強化プラスチック)板を用いた以外は同様である。
【0031】
この成形体は透明感が有るが、黄変、発泡が生じており、表面平滑性が良くなかった。機械的強度は実施例1〜2と同程度であった。
<比較例3>
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)100重量部、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量160)93重量部、2エチル4メチルイミダゾ−ル2重量部、平均粒径10ミクロンの水酸化アルミニウム250重量部を混合し減圧脱泡して得られた配合物を、2枚の厚み3ミリの鉄板で10ミリのスペーサーを挟んだ注型型に注型した。
【0032】
この注型型を100℃の熱風乾燥機に60分、さらに110℃に昇温後30分、さらに130℃に昇温後30分放置し、取り出した後室温にて冷却し脱型して成形体を得た。
【0033】
この成形体は変色や発泡が無く、表面平滑性が良好であったが、透明感はなく、曲げ強度が低かった。
【0034】
表1に、実施例と比較例の配合と各種物性の評価結果を示した。
【0035】
【表1】

【0036】
なお、各種物性は以下のとおり評価した。
配合物粘度(mPa・s/25℃):ビスコテスター VT550(メーカー:リオン)を用いて測定した。
TI値:JIS K6901に準拠して測定した。
透明感:5mm厚の平板の成形体を形成し、これを紙面上に成形体を配して目視により紙面の印刷を確認した。文字が読めれば「○」、読みづらければ「△」、読めなければ「×」とした。
変色:成形体を目視により判断した。
発泡:成形体を目視により判断した。
表面平滑性:上記透明感の評価に使用したサンプルを定盤上に配し、ひけ(熱収縮により発生する凹み)の発生を確認した。
曲げ強度(MPa):JIS K7171に準拠して測定した。
曲げ弾性率(MPa):JIS K7171に準拠して測定した。
【0037】
表1の結果より、配合物のTI値が1.1以上で、粘度が温度25℃において10000mPa・s以下である熱硬化性樹脂組成物を、熱伝導率が100W/m・℃以上の材質の型に注入して加熱硬化した実施例1〜2の成形体は、いずれも変色や発泡がなく、かつ表面平滑性や機械的強度に優れて、透明感のあることが確認できた。一方、熱伝導率が100W/m・℃未満の材質の型を用いた比較例1〜2の成形体は、変色、発泡が生じ、表面平滑性に問題があることが確認できた。また、粘度が温度25℃において10000mPa・sを超える熱硬化性樹脂組成物を、熱伝導率が100W/m・℃未満の材質の型に注入して加熱硬化した比較例3の成形体は、透明感がなく、曲げ強度が劣ることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤とともにチクソ性付与剤を必須成分として含有し、それら配合物のチクソトロビーインデックス(TI値)が1.1以上で、粘度が温度25℃において10000mPa・s以下である熱硬化性樹脂組成物を、熱伝導率が100W/m・℃以上の材質の型に注入して、加熱硬化することを特徴とする熱硬化性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
型の材質が、アルミニウム合金または亜鉛合金であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2008−207403(P2008−207403A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44697(P2007−44697)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】