説明

熱間長尺材の長さ測定方法および装置

【課題】熱間圧延後の長尺材がその長さ方向に搬送されつつある時に、その長さを精度良く、しかも安価に、測定することができる、熱間長尺材の長さ測定方法および装置を提供する。
【解決手段】後端センサとしてのロードセル10から搬送ライン下流側に順次所定のセンサ配置間隔で複数のアナログHMD12、12‥‥12を配置し、最上流側のアナログHMD12を用いて先端検出用の閾値を決定し、該決定した閾値を下流側のアナログHMD12‥‥12に設定してこれらを先端センサとして用いる。長尺材(鋼管)1の長さは、後端センサ(ロードセル)での後端検出時刻と、その直前に先端検出した先端センサ(アナログHMD)での先端検出時刻と、センサ配置間隔とから算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間長尺材の長さ測定方法および装置に関し、特に、熱間圧延直後の鋼管の長さ測定に好ましく適用できる、熱間長尺材の長さ測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管、棒鋼、厚鋼板などの熱間で製造された鋼材の搬送ラインでは、熱間圧延後搬送中の熱間鋼材の長さを測定することが行われている。
この長さ測定には、メジャーリングロールを用いる方法、光電センサ、撮像装置、あるいはHMD(Hot Metal Detector:熱塊検出器)を用いる方法が知られている。メジャーリングロールを用いる方法は、外周長が既知のメジャーリングロールを搬送中の被測定材に接触させて、回転数から鋼材の長さを算出する方法である。
【0003】
また、光電センサ、撮像装置、HMDを用いる方法は、被測定材の長さ方向を搬送方向として搬送ライン上を搬送される被測定材について、光電センサ、撮像装置、あるいはHMDにより先端および後端の検出を行い、さらに、先端および後端の検出タイミングの間の熱間鋼材の搬送量をタイマーおよび搬送ロールのロール周速から求めることで、熱間鋼材の長さを算出することで行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、熱間鋼管の先端部をリニアアレイカメラによって検出し、これと同時に熱間鋼管の後端部をHMDによって検出し、これらの検出信号に基づいて鋼管の長さを非接触で測定する方法が開示されている。
また、特許文献2には、搬送経路直上に搬送方向に沿って所定間隔で一列に、かつ、撮像装置の各視野を隙間が生じないように複数の撮像装置を配置し、撮像装置により被搬送材の長さを測定するようにした被搬送材の測長装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−169704号公報
【特許文献2】実開昭63−83609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、測定対象が熱間鋼材であり、熱間鋼材ではその温度が1000℃を超えるような場合があることを考慮すると、メジャーリングロールのような接触式の検出器を使用するのは、耐久性、保全性を考慮すると好ましくない。
光電センサにより先端および後端を検出する方法では、搬送ラインを挟んで投光器と受光器とを配置する必要があるが、圧延ライン等では搬送設備等の設備配列の制約から、投光器と受光器の双方を配置するスペースの確保が困難な場合もある。
【0007】
また、特許文献2に記載されているような撮像装置を搬送経路に沿って複数台配置する方法では、多数の撮像装置が必要となり設備コストが高くなるという問題や、設備配列の制約からも、設置スペースの確保が困難な場合もある。
一方、熱間圧延機出側の鋼管の長さを測定する方法として、後端センサには前記熱間圧延機のロードセル、先端センサには搬送方向に複数配置したHMDを用いる方法がある。この方法では、ロードセルのオン時刻(圧延材噛み込み)からオフ時刻(圧延材噛み抜け)までの間に、最後にオンしたHMDを基準とし、この基準HMDとその1つ前にオンしたHMDとのオン時間差で両HMD間の距離を割って、これを、基準のオン時刻からロードセルオフ時刻までの時間内の先端移動速度とし、これに該時間を掛けて、基準位置からの先端部長さとし、一方、ロードセルオフ時刻には後端がロードセル位置にあるとして基準位置とロードセル位置間の距離を基準位置からの後端部長さとし、これに前記先端部長さを加えて全長さとする。
【0008】
上記方法の例を図2に示す。鋼管1の後端センサは熱間圧延機のロードセル10であり、先端センサは搬送方向に複数(n個)配置したHMD11、11,11‥‥11である。この例の場合、ロードセル10のオフ時刻(後端オフ時刻)までに順次オンしたHMDのうち最後にオンしたのはHMD11であり、これが基準である。基準HMD11とその1つ前にオンしたHMD11とのオン時間差T1で両HMD間の距離M1(既知)を割った値Vを、基準HMD11オン時刻から後端オフ時刻までの時間Δt内の先端移動速度とみなすと、先端から基準HMD11位置までの距離L=V*Δtが先端部長さであり、一方、後端オフ時刻には後端がロードセル位置にあるから、残りの長さは基準HMD11位置からロードセル位置までの距離M(センサ配置間隔から算出)に等しい。そこで、全長Lは、L=L+M、なる式で算出する。かかる長さ演算処理は、通常の回路構成技術の範囲内で構成された制御乃至演算回路を有する長さ演算手段20によって自動的に実行される。
【0009】
しかし、熱間圧延後の鋼管1は先端や後端から炎2が噴出していることがある。HMDは熱材からの輻射光を検出してその熱材の有無を判別するが、熱材有無を判別するために設定される輻射光強度ゲインはオフラインでの設定値に固定されるものであるため、図2のように、鋼管1先端から炎2が噴出していると、炎2と鋼管1との区別ができない場合があり、例えば、最悪の場合、炎2の先端を鋼管1の先端であると誤検出してしまって、炎2の噴出長さ分に相当する大きな誤差を生じる場合がある。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、熱間圧延後の長尺材がその長さ方向に搬送されつつある時に、その長さを精度良く、しかも安価に、測定することができる、熱間長尺材の長さ測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、次の知見を得た。
・図2において、HMDの代わりに放射温度計を用いると、先端の検出精度が向上するのであるが、放射温度計は高価であり、設置環境上の配慮も必要(例えば水や空気による冷却装置の搭載などが必要)である。
・図2において、HMDの代わりに、アナログHMD(すなわち、熱材からの輻射光量をアナログ電圧に変換して出力する機能を有し、該アナログ電圧に閾値を設定できるHMD;例えば、竹中電子工業(株)製、ファイバ式・アナログHMD FD-A300AN)を用いることで、前記アナログ電圧に炎と鋼管とを区別するための閾値を設定することができ、先端の検出精度が向上する。このアナログHMDは、アナログ電圧を温度へ変換する電圧‐温度変換機能は具備していないので、かかる電圧‐温度変換機能を具備する放射温度計よりも格段に安価(価格が放射温度計価格の約1/10)であり、又、信号線の養生や、本体の冷却装置も不要で、メンテナンス性もよい。
・前記閾値は、搬送される鋼管の1本ごとに最上流側のアナログHMDのアナログ電圧出力データを基に決定し、該決定した値を下流側の各アナログHMDへ送信することによってオンラインで設定できる。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)
熱間の長尺材をその長手方向に搬送するラインに沿って上流側から、1個の後端センサとしてのロードセルと、複数個の先端センサとしてのアナログHMDとを、この順に所定の間隔で配置し、これらセンサを用いて前記長尺材の長さを測定する方法であって、
最上流側のアナログHMD位置を前記長尺材が通過している時に、当該最上流側のアナログHMDの出力するアナログ電圧を基に前記長尺材の先端検出用の閾値を決定し、該閾値を下流側の各アナログHMDに設定し、
該閾値設定後のアナログHMDの中、前記ロードセルでの後端検出時刻の直前の時刻に先端検出したアナログHMDを基準とし、該基準での先端検出時刻から前記後端検出時刻までの時間Δt内での先端移動距離Lと、
前記基準から前記ロードセルまでの距離Mとから、
前記長尺材の長さLを、L=L+M、なる式で算出することを特徴とする熱間長尺材の長さ測定方法。
(2)
熱間の長尺材をその長手方向に搬送するラインに沿って、上流側から順に所定の間隔で配置された、1個の後端センサとしてのロードセルと、複数個の先端センサとしてのアナログHMDとを有し、
且つ、最上流側のアナログHMD位置を前記長尺材が通過している時に、当該アナログHMDの出力するアナログ電圧を基に前記長尺材の先端検出用の閾値を決定し、該閾値を下流側の各アナログHMDに設定する閾値設定手段と、
前記ロードセルでの後端検出時刻及び前記閾値設定後のアナログHMDでの先端検出時刻を記録し、該記録した中の前記後端検出時刻の直前の先端検出時刻に対応するアナログHMDを基準とし、該基準での先端検出時刻から前記後端検出時刻までの時間Δt内での先端移動距離Lと、
前記基準から前記ロードセルまでの距離Mとから、
前記長尺材の長さLを、L=L+M、なる式で算出する長さ演算手段とを備えたことを特徴とする熱間長尺材の長さ測定装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱間圧延後搬送中の熱間長尺材の長さを精度良く、しかも安価に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の1例を示す概略図である。
【図2】従来技術の実施形態及び問題点を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態の1例を示す概略図である。図1(a)のように、熱間の長尺材(ここでは鋼管)1をその長手方向に搬送するラインに沿って、1個の後端センサとしてロードセル10(熱間圧延機に付属)と、複数個の先端センサとしてアナログHMD12、12、12、‥‥12とが、所定の間隔で配置されている。各アナログHMD12は、輻射光量の変化に対応して同様の変化パターンで変化するアナログ電圧を出力する。例えば、アナログHMDの出力するアナログ電圧Eが図1(b)のように変化するとき、この変化は輻射光量の変化を正しく反映したものとなっているので、このアナログ電圧Eに閾値を設け、アナログ電圧が閾値以上か未満かを判定することで、該閾値に対応する輻射光量以上の輻射光を発する熱材の有無を検出できる。
【0016】
本発明では、この閾値をオンラインで搬送中の鋼管1の個々毎に設定するために、最上流側のアナログHMDを用いる。すなわち、最上流側のアナログHMD12位置を鋼管1が通過している時に、当該アナログHMD12の出力するアナログ電圧Eは、鋼管1先端から炎2が噴出していると、炎2から鋼管1本体にかけての輻射光量の変化を反映し、図2(b)のように、時間と共に増加し安定値に達するが、この安定値に達する直前にアナログ電圧Eの立ち上がりの勾配が緩やかになり始める時点Bがあり、この時点Bにおいて鋼管1先端がアナログHMD12位置をまさに通過中であるとみられる。この時点Bにおけるアナログ電圧E(B)は前記安定値の90〜95%を示す。そこで、前記安定値の90〜95%のアナログ電圧値を閾値と決定する。該決定した閾値は、直ちに下流側の各アナログHMD12、12‥‥12に設定される。この閾値設定に係る一連の作業は、通常の回路構成技術の範囲内で構成された制御乃至演算回路を有する閾値設定手段30によって自動的に実行される。閾値設定後のアナログHMD12、12‥‥12は、それぞれの観測による輻射光量を変換してなるアナログ電圧が閾値以上となったときに、鋼管1の先端検出信号を出力する。すなわち、炎2があってもこれを無視し、鋼管1にのみ感応する。
【0017】
そして、閾値設定後のアナログHMD12、12‥‥12の中、ロードセル10での後端検出時刻の直前の時刻に先端検出したアナログHMD(図1の例ではアナログHMD12)を基準とし、該基準での先端検出時刻から前記後端検出時刻までの時間Δtと、該時間Δt内での先端移動速度Vとして、前記基準とその1つ手前のアナログHMDとの位置間隔M1(既知)及び先端検出時刻間隔T1から、V=M1/T1、なる式で算出した値から求めた時間Δt内での先端移動距離L=V*Δtと、前記基準から前記ロードセルまでの距離M(センサ配置間隔から算出)とから、前記長尺材の長さLを、L=L+M、なる式で算出する。この長さ算出に係る一連の作業は、通常の回路構成技術の範囲内で構成された制御乃至演算回路を有する長さ演算手段20によって自動的に実行される。この長さ演算手段20自体は、最上流側の先端センサの先端検出信号をとりこまないという点を除けば、従来のものと同じである。
【0018】
なお、本実施形態では、先端がアナログHMD12通過後にロードセルが後端を検出するまでの間の先端移動速度が、アナログHMD12とアナログHMD12(基準)との間の先端移動速度と等しいと見なし、時間Δt内での先端移動速度Vとして、基準アナログHMDとその一つ手前のアナログHMDとの距離M1及び先端検出時刻間隔T1から、V=M1/T1なる式で算出した値を用いたが、被測定材(本実施形態では鋼管1)の移動速度を速度計により実測し、その値を先端移動速度Vとして用いてもよい。この場合、時間Δtの間に速度が変化する場合には、この時間内の最大速度Vmaxと最小速度Vminとから(Vmax+Vmin)/2を速度Vとして、L=V*Δtの式によりΔt間の先端移動距離Lを算出したり、より、測定精度を向上させたい時には、時間Δt内の速度の時間変化V(t)から、
【0019】
【数1】

【0020】
但し、t1は基準アナログHMDの先端検出時刻、
t2はロードセルでの後端検出時刻、
により、Δt間の先端移動距離Lを算出するようにしてもよい。
以上のように、本発明では、熱間搬送される長尺材の1本ごとに、最上流側のアナログHMDを用いて長尺材先端通過検出のための閾値を求めてこれを下流側の各アナログHMDに設定するようにしたので、前記閾値設定後の下流側の各アナログHMDは、炎は無視して長尺材にのみ感応できるようになり、従って長尺材先端の通過を1本ごとに誤りなく検出することができて、長さ測定精度が向上する。
【0021】
尚、以上の実施形態説明では熱間長尺材が鋼管である場合を例に挙げて説明したが、鋼管以外の熱間長尺材に対しても本発明が適用できて同様の効果が得られることは自明である。
【実施例】
【0022】
本実施例に述べる本発明例と比較例とは共に、継目無鋼管の熱間圧延製造ラインの圧延機出側での鋼管長さ測定を対象とした。
本発明例では、図1に示したのと同じ本発明実施形態において、アナログHMD12は、圧延機出側の搬送ラインに沿って、圧延機のロードセル10から2mおきに計7個配置し、最上流側(ロードセルに最も近い側)の1個を閾値設定用、残りを鋼管先端通過検出用とした。尚、前記閾値は前記安定値の93%とした。
【0023】
比較例では、図2に示したのと同じ従来形態において、HMD11は、圧延機出側の搬送ラインに沿って、圧延機のロードセル10から2mおきに計7個配置し、鋼管先端通過検出用とした。
本発明例と比較例とで、同一圧延条件下の熱間圧延にて製造された目標長さ12000mmの継目無鋼管の長さ測定を行い、測定精度(測定データのばらつき程度)を測定データ(測定した鋼管本数=N)の標準偏差σで比較した。本発明例ではN=30の場合、σは51.8mmであった。比較例ではN=30の場合、σは90.5mmであった。このように、本発明によれば測定データのばらつきが小さくなること、すなわち熱間長尺材の長さ測定精度が向上することが分る。
【符号の説明】
【0024】
1 鋼管(長尺材)
2 炎
10 ロードセル
11 HMD(熱塊検出器)
12 アナログHMD
20 長さ演算手段
30 閾値設定手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間の長尺材をその長手方向に搬送するラインに沿って上流側から、1個の後端センサとしてのロードセルと、複数個の先端センサとしてのアナログHMDとを、この順に所定の間隔で配置し、これらセンサを用いて前記長尺材の長さを測定する方法であって、
最上流側のアナログHMD位置を前記長尺材が通過している時に、当該最上流側のアナログHMDの出力するアナログ電圧を基に前記長尺材の先端検出用の閾値を決定し、該閾値を下流側の各アナログHMDに設定し、
該閾値設定後のアナログHMDの中、前記ロードセルでの後端検出時刻の直前の時刻に先端検出したアナログHMDを基準とし、該基準での先端検出時刻から前記後端検出時刻までの時間Δt内での先端移動距離Lと、
前記基準から前記ロードセルまでの距離Mとから、
前記長尺材の長さLを、L=L+M、なる式で算出することを特徴とする熱間長尺材の長さ測定方法。
【請求項2】
熱間の長尺材をその長手方向に搬送するラインに沿って、上流側から順に所定の間隔で配置された、1個の後端センサとしてのロードセルと、複数個の先端センサとしてのアナログHMDとを有し、
且つ、最上流側のアナログHMD位置を前記長尺材が通過している時に、当該アナログHMDの出力するアナログ電圧を基に前記長尺材の先端検出用の閾値を決定し、該閾値を下流側の各アナログHMDに設定する閾値設定手段と、
前記ロードセルでの後端検出時刻及び前記閾値設定後のアナログHMDでの先端検出時刻を記録し、該記録した中の前記後端検出時刻の直前の先端検出時刻に対応するアナログHMDを基準とし、該基準での先端検出時刻から前記後端検出時刻までの時間Δt内での先端移動距離Lと、
前記基準から前記ロードセルまでの距離Mとから、
前記長尺材の長さLを、L=L+M、なる式で算出する長さ演算手段とを備えたことを特徴とする熱間長尺材の長さ測定装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−173132(P2012−173132A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35350(P2011−35350)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】