説明

燃料噴射装置

【課題】サプライポンプとコモンレールとの間を接続する各高圧管が破損した場合においても、破損箇所からの燃料の流出を規制し、さらに、エンジンの運転を継続して可能とするための構成を提案する。
【解決手段】サプライポンプ1と、コモンレール6とが、複数の高圧管4a・4b・4cにて接続される構成の燃料噴射装置であって、前記コモンレール6と各高圧管4a・4b・4cとの接続部には、それぞれ、コモンレール6内から各高圧管4a・4b・4c内へ向う燃料の流れを規制する規制手段としての逆止弁機構5a・5b・5cが設けられる構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サプライポンプとコモンレールが、複数の高圧管にて接続される構成とする燃料噴射装置に関するものであり、特に、前記高圧管の破損時、及び、サプライポンプの異常発生時においても、エンジンの運転を継続可能とするための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サプライポンプ、該サプライポンプと複数の高圧管を介して接続されるコモンレール、該コモンレールとそれぞれ高圧管を介して接続される複数のインジェクタを具備する燃料噴射装置は公知となっている(例えば、特許文献1参照。)。
また、前記コモンレールと各インジェクタを接続する各高圧管が破損した場合に備えて、各高圧管のコモンレールとの接続部にフローリミッタを設け、該フローリミッタにて燃料通路を閉塞し、高圧管の破損箇所からの燃料流出を防止することとしている。特許文献1においては、圧力規制装置にてこの機能が果たされるようになっている。
また、仮に、一本の高圧管が破損した場合であっても、他の高圧管を介してインジェクタに燃料を供給することができるため、出力は低下してしまうものの、エンジンを運転することはできることとなっている。
【特許文献1】特開平7−54733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように、従来技術においては、コモンレールと各インジェクタとの間を接続する高圧管の破損による燃料流出に対する対策は講じられている。
しかし、サプライポンプとコモンレールとの間を接続する高圧管の破損による燃料流出に対する対策は講じられていないものであった。
このため、サプライポンプとコモンレールとの間を接続する高圧管が破損してしまった場合には、破損した高圧管の破損箇所より燃料が流出してしまい、コモンレール内の燃料圧力が低下し、燃料噴射が行えず、エンジンを運転できないこととなってしまう。
また、高圧管が破損した場合において、サプライポンプより燃料を供給し続けてしまうと、破損した高圧管より燃料を流出させてしまうことになる。
そこで、本発明は、以上の問題点に鑑み、サプライポンプとコモンレールとの間を接続する各高圧管が破損した場合においても、破損箇所からの燃料の流出を規制し、さらに、エンジンの運転を可能とするための構成を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上のごとくであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1に記載のごとく、サプライポンプと、コモンレールとが、複数の高圧管にて接続される構成の燃料噴射装置であって、前記コモンレールと各高圧管との接続部には、それぞれ、コモンレール内から各高圧管内へ向う燃料の流れを規制する規制手段が設けられる燃料噴射装置とする。
【0006】
また、請求項2に記載のごとく、サプライポンプの各シリンダからの燃料の吐出量は、燃料噴射装置を制御するコントローラにより個別に制御可能に構成されることとする。
【0007】
また、請求項3に記載のごとく、前記サプライポンプは、複数台設けられることとする。
【0008】
また、請求項4に記載のごとく、前記各サプライポンプのポンプ容量は、同一とすることとする。
【0009】
また、請求項5に記載のごとく、前記サプライポンプは、複数台設けられ、少なくとも一台のサプライポンプは、他の高圧型のサプライポンプよりも低圧の燃料を吐出する低圧型のサプライポンプに構成されるとともに、前記他の高圧型のサプライポンプからの圧送を休止させた場合においても、前記低圧型のサプライポンプから吐出される燃料によって、エンジンの運転を可能とすることとする。
【0010】
また、請求項6に記載のごとく、前記低圧型のサプライポンプと、コモンレールとを接続する高圧管は、リリーフ弁を介して低圧回路に接続されており、前記リリーフ弁の設定圧力は、高圧型のサプライポンプより燃料が圧送される通常時におけるコモンレール内の圧力以下に設定されており、前記通常時では、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料は、前記リリーフ弁を介して前記低圧回路に送出され、低圧型のサプライポンプからのみ燃料が圧送される非常時では、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料は、その圧力が前記リリーフ弁によりエンジンを運転させるために最低限必要とされる圧力に設定されつつ、コモンレールへ圧送される構成とする。
【0011】
また、請求項7に記載のごとく、前記低圧型のサプライポンプと、コモンレールとを接続する高圧管は、燃料噴射装置を制御するコントローラによって開閉制御される制御弁を介して、前記低圧回路に接続されており、高圧型のサプライポンプより燃料が圧送される通常時では、前記制御弁は開かれて、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料が低圧回路に送出され、低圧型のサプライポンプからのみ燃料が圧送される非常時では、前記制御弁は閉じられて、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料がコモンレールへ圧送される構成とする。
【0012】
また、請求項8に記載のごとく、コモンレール内の燃料圧力の変化が、燃料噴射装置を制御するコントローラによってモニターされるとともに、前記燃料圧力が、規定値よりも下がった場合には、前記コントローラは、高圧管の破損、又は、サプライポンプの異常が生じたものと判定することとする。
【0013】
また、請求項9に記載のごとく、前記コントローラは、高圧管の破損、又は、サプライポンプに異常が生じたものと判定した場合には、サプライポンプの各シリンダからの個別の燃料の吐出を、所定時間づつ順に停止するとともに、コモンレール内の圧力変化を観測することにより、破損した高圧管や、サプライポンプにおける異常箇所を特定することとする。
【0014】
また、請求項10に記載のごとく、前記コントローラは、異常があるものと判定されたサプライポンプ、又は、破損が生じたものと判定された高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出を休止させるとともに、異常のあるサプライポンプの直前に燃料の圧送を行う異常のないサプラインポンプ、又は、破損が生じた高圧管と接続されるシリンダの直前に燃料の圧送を行う破損が生じていない高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出量を増加させることとする。
【0015】
また、請求項11に記載のごとく、前記コントローラは、異常のあるサプライポンプの直前に燃料の圧送を行う異常のないサプラインポンプ、又は、破損が生じた高圧管と接続されるシリンダの直前に燃料の圧送を行う破損が生じていない高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出量を、通常時の2倍に増加させるものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
即ち、請求項1に記載の発明では、高圧管が破損してしまった場合においても、破損箇所からコモンレール内の燃料の流出を防止することができる。
また、この場合、破損していない他の高圧管を介して、サプライポンプからコモンレールへ燃料を供給でき、コモンレール内の燃料の圧力を維持してエンジンを運転できることとなる。
【0018】
また、請求項2に記載の発明では、破損が生じた高圧管への燃料の吐出が行われないようにして、高圧管の破損箇所からの燃料の流出を防止することができる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明では、あるサプライポンプに故障が生じた場合においても、他のサプライポンプにて燃料の供給を行うことができ、コモンレール内の燃料の圧力を維持してエンジンを運転できることとなる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明では、各サプライポンプから同時に圧送する際の各サプライポンプの吐出量を決定するための制御ロジックや、あるサプライポンプからの圧送を休止させ他のサプライポンプから圧送を行う場合の吐出量を決定するための制御ロジックを簡易なものとすることができる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明では、低圧型のサプライポンプは、高圧型に構成する場合と比較して、材質、熱処理、構造等の強度設計において、自由度が広く、安価に構成することができるため、非常用として使用するサプライポンプとして好適なものとなる。
【0022】
また、請求項6に記載の発明では、リリーフ弁を用いた簡易な構成により、通常時において使用する高圧型のサプライポンプと、非常時において使用する低圧型のサプライポンプの使い分けを行うことができる。
【0023】
また、請求項7に記載の発明では、通常時においては、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料は、制御弁から大きな抵抗を受けることなく低圧回路に送出されるため、上述のリリーフ弁を用いた構成と比較して、低圧型のサプライポンプを少ない駆動力で駆動することができるようになる。低圧型のサプライポンプは、非常時のみ機能を果たすものであり、通常時において低圧型のサプライポンプの駆動によるエネルギーロスの削減を図ることは、エンジンの高出力化、高燃費化に非常に有効なものとなる。
【0024】
また、請求項8に記載の発明では、高圧管の破損や、サプライポンプの異常を認識することができ、これらに対する警告表示や、非常時における運転への切替え等の実行に移ることができる。
【0025】
また、請求項9に記載の発明では、破損した高圧管や、サプライポンプにおける異常箇所を特定することができるようになる。
【0026】
また、請求項10に記載の発明では、コモンレール内の燃料圧力の低下を抑えることができ、通常時に近い状態で運転できるようになる。
【0027】
また、請求項11に記載の発明では、簡単な構成で、通常時と同じ条件で、運転を安定して継続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は、実施例1の燃料噴射装置の構成について示すものである。
燃料タンク11内の燃料は、フィードポンプ10により汲み上げられ、サプライポンプ1へ供給される。
サプライポンプ1は、カム軸21の回転により複数のプランジャ2a・2b・2cを独立して上下摺動させるインライン型に構成されている。
各プランジャ2a・2b・2cが摺動されるシリンダ22a・22b・22cでは、電磁弁3a・3b・3cを介して燃料が吸入される。この電磁弁3a・3b・3cでは、コントローラ9(電子制御ユニット)による制御により、内部の弁の開閉が行われ、シリンダ22a・22b・22c内への燃料供給の有無の切替えが行われる。
また、各シリンダ22a・22b・22cは、それぞれ高圧管4a・4b・4cを介してコモンレール6と接続されており、各シリンダ22a・22b・22cより吐出される高圧燃料は、高圧管4a・4b・4cを介してコモンレール6へ供給され、コモンレール6内において、燃料の蓄圧が行われる。
また、コモンレール6には、コモンレール6内の圧力を検出するための圧力センサ13が設けられている。そして、コントローラ9は、該圧力センサ13により検出された圧力に基づいて、前記電磁弁3a・3b・3cの弁の開閉を行って燃料の吐出量を制御し、コモンレール6内の燃料圧力を所定の値に設定するようにしている。
また、エンジンの各気筒には、インジェクタ7a・7b・7cが設けられており、各インジェクタ7a・7b・7cは、それぞれ高圧管8a・8b・8cを介してコモンレール6と接続されている。これにより、コモンレール6内の燃料が高圧管8a・8b・8cを介してインジェクタ7a・7b・7cへ供給され、各インジェクタ7a・7b・7cのノズルより、燃料の噴射が行われる。尚、各インジェクタ7a・7b・7cには電磁弁が設けられており、この電磁弁の開閉制御を前記コントローラ9にて行うことにより、燃料の噴射制御が行われるものとしている。
【0030】
以上のように、サプライポンプ1と、コモンレール6とが、複数の高圧管4a・4b・4cにて接続される構成としている。
そして、前記コモンレール6と各高圧管4a・4b・4cとの接続部には、それぞれ、コモンレール6内から各高圧管4a・4b・4c内へ向う燃料の流れを規制する規制手段としての逆止弁機構5a・5b・5cが設けられる構成としている。
前記逆止弁機構5a・5b・5cは、各高圧管4a・4b・4c内からコモンレール6内へ向う燃料の流れを許容し、これにより、サプライポンプ1からコモンレール6への燃料の供給が行われるものとしている。
一方、前記逆止弁機構5a・5b・5cは、コモンレール6内から各高圧管4a・4b・4c内へ向う燃料の流れを規制する。これにより、例えば、高圧管4aが破損してしまった場合においても、破損箇所からコモンレール6内の燃料の流出を防止することができる。
また、この場合、破損していない他の高圧管4b・4cを介して、サプライポンプ1からコモンレール6へ燃料を供給でき、コモンレール6内の燃料の圧力を維持してエンジンを運転できることとなる。
【0031】
また、前記サプライポンプの各シリンダ22a・22b・22cからの燃料の吐出量は、コントローラ9により個別に制御可能に構成されるものとしている。
この吐出量の制御は、前記各電磁弁3a・3b・3cの開閉をコントローラ9により制御し、各シリンダ22a・22b・22cでの燃料の吸入量を制御することにより行われるものとなっている。尚、このように吸入量を制御する他、各シリンダ22a・22b・22cの燃料圧縮室内の燃料の溢流を制御する溢流制御弁を設け、該溢流制御弁の制御によって、各シリンダ22a・22b・22cからの燃料の吐出量を制御するものとしてもよい。
この構成により、例えば、高圧管4aに破損が生じた場合には、破損が生じた高圧管4aに燃料を吐出するシリンダ22aでの燃料の吸入量をゼロとする、即ち、電磁弁3aの弁を完全に閉じた状態を維持し、高圧管4aへの燃料の吐出が行われないようにして、高圧管4aの破損箇所からの燃料の流出を防止する。また、破損が生じていない他の高圧管4b・4cに燃料を吐出するシリンダ22b・22cでの燃料の吸入量については、1回前に圧送を行うシリンダについてのみ通常よりも多くなるようにする、即ち、電磁弁3b、又は、電磁弁3cの弁が開く時間を長く設定して吸入量を多くし、高圧管4b、又は、高圧管4cへの燃料の吐出量を増加させる。例えば、本実施例のように、三本の高圧管4a・4b・4cより構成する場合においては、高圧管4aへの吐出量をゼロとするとともに、1回前に圧送が行なわれる高圧管4bへの吐出量を2倍とすることなどにより対応するものである。
以上によれば、高圧管4a・4b・4cの一部に破損が生じた場合においても、コモンレール6内の燃料の圧力を維持してエンジンを運転することができる。
【実施例2】
【0032】
本実施例では、図2に示すごとく、前記サプライポンプは、複数台(本実施例では二台)設けられる構成としている。
各サプライポンプ1A・1Bにおける各高圧管4a・4b・・・への吐出量は、実施例1におけるものと同様、コントローラ9によって制御されるものとしている。
そして、このコントローラ9による制御は、例えば、通常時では一方のサプライポンプ1Bからの燃料の圧送は行わず、他方のサプライポンプ1Aのみにより燃料の圧送を行うこととし、プランジャの焼付き等により、サプライポンプ1Aからの燃料の圧送に支障が生じた場合(非常時)には、サプライポンプ1Aからの燃料の圧送を停止させるとともに、サプライポンプ1Bによる燃料の圧送を開始するなどを行うものである。つまり、一台のサプライポンプ1Bについては、待機状態とさせておき、他方のサプライポンプ1Aの故障時に稼動を開始させるものとするものである。この待機状態の維持、停止は、前記電磁弁3a・3b・・・の開閉制御を行うことにより行うことができる。
【0033】
また、このコントローラ9による制御の他の例として、通常時において、各サプライポンプ1A・1Bの吐出量を半分に設定して圧送を行うものとするとともに、非常時においては、故障したサプライポンプからの圧送を停止させるとともに、他方のサプライポンプからの吐出量を倍に設定することにより対応することが考えられる。
【0034】
以上のようにして、複数台のサプライポンプ1A・1Bを具備する構成とすることにより、あるサプライポンプに故障が生じた場合においても、他のサプライポンプにて燃料の供給を行うことができ、コモンレール6内の燃料の圧力を維持してエンジンを運転できることとなる。
また、各サプライポンプ1A・1Bのポンプ容量(総吐出量)を同一とすることによれば、各サプライポンプ1A・1Bから同時に圧送する際の各サプライポンプ1A・1Bの吐出量を決定するための制御ロジックや、あるサプライポンプからの圧送を休止させ他のサプライポンプから圧送を行う場合の吐出量を決定するための制御ロジックを簡易なものとすることができる。
尚、このように、複数台のサプライポンプ1A・1Bを備える構成とする場合においては、各サプライポンプ1A・1Bにつき、一つのプランジャを具備し、各サプライポンプ1A・1Bとコモンレール6とが、それぞれ、一本の高圧管にて接続されるものとしてもよい。
【実施例3】
【0035】
本実施例では、図3に示すごとく、前記サプライポンプは、複数台(本実施例では二台)設けられ、少なくとも一台のサプライポンプ1Cは、他の高圧型のサプライポンプ1Aよりも低圧の燃料を吐出する低圧型のサプライポンプに構成されるとともに、前記他の高圧型のサプライポンプ1Aからの圧送を休止させた場合においても、前記低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料によって、エンジンの運転を可能とすることとしている。
低圧型のサプライポンプ1Cは、高圧型に構成する場合と比較して、材質、熱処理、構造等の強度設計において、自由度が広く、安価に構成することができるため、非常用として使用するサプライポンプ1Cとして好適なものとなる。
また、非常時には低圧型のサプライポンプ1Cから圧送される燃料にてエンジンが運転できるように、該サプライポンプ1Cから吐出される燃料の圧力は、エンジンを運転させるために最低限必要とされる圧力、即ち、「エンジンのシリンダ内に燃料を必要量噴射させるために最低限必要な圧力」が確保できる圧力となるようにしている。
【0036】
また、図3に示すごとく、前記低圧型のサプライポンプ1Cと、コモンレール6とを接続する高圧管4f・4gは、バイパス管31f・31g、及び該バイパス管31f・31gに設けたリリーフ弁32f・32gを介して低圧回路(燃料タンク11)に接続されている。前記リリーフ弁32f・32gは、弁体とスプリングを具備して構成される。また、このリリーフ弁32f・32gは、前述のとおり、エンジンを運転させるために最低限必要とされる圧力が確保されるように設定されている。
また、該リリーフ弁32f・32gは、他の高圧型のサプライポンプ1Aより燃料が圧送される通常時では、前記リリーフ弁32f・32gは、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料の圧力により開かれ、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料は、前記リリーフ弁32f・32gを介して低圧回路に送出される。
一方、低圧型のサプライポンプ1Cからのみ燃料が圧送される非常時では、該サプライポンプ1Cから吐出される燃料は、その圧力が前記リリーフ弁32f・32gによりエンジンを運転させるために最低限必要とされる圧力に設定されつつ、コモンレール6へ圧送される構成としている。
尚、低圧型のサプライポンプ1Cには、一つのプランジャが具備されるものとし、低圧型のサプライポンプ1Cとコモンレール6とが、一本の高圧管にて接続される構成とするものであってもよく、この場合には、バイパス管は一本であり、また、リリーフ弁は1つ設けられるものとなる。
【0037】
以上の構成により、通常時、即ち、高圧型のサプライポンプ1Aより燃料が圧送されている場合においては、低圧型のサプライポンプ1Cより吐出される燃料は、圧力が低いため、コモンレール6内へは供給されず(逆止弁機構5e・5dが閉じられた状態となる)、バイパス管31f・31g、リリーフ弁32f・32gを介して、低圧回路へ燃料を送出することができる。
また、非常時、即ち、高圧型のサプライポンプ1Aからは燃料が圧送されず、低圧型のサプライポンプ1Cからのみ燃料が圧送される場合においては、コモンレール6内の圧力が低下するため、これにより、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出された燃料がコモンレール6内へ供給されることになる。また、この際、リリーフ弁32f・32gにより、コモンレール6内の圧力の値は、エンジンを運転させるために最低限必要とされる圧力の値に維持される。
【0038】
以上のようにして、前記通常時においては、高圧型のサプライポンプ1Aからコモンレール6へ燃料が圧送され、前記非常時においては、低圧型のサプライポンプ1Cからコモンレール6へ燃料が圧送される。つまり、通常時と非常時において、使用するサプライポンプを使い分けるものである。
また、前記非常時の圧力設定は、リリーフ弁32f・32gを用いた簡易な構成でできるものとなっている。
【0039】
また、図4に示す構成では、前記低圧型のサプライポンプ1Cと、コモンレール6とを接続する高圧管4f・4gは、燃料噴射装置を制御するコントローラ9によって開閉制御される制御弁42f・42gを介して、前記低圧回路(燃料タンク11)に接続されており、他の高圧型のサプライポンプ1Aより燃料が圧送される通常時では、前記制御弁42f・42gは開かれて、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料が低圧回路に送出され、低圧型のサプライポンプ1Cからのみ燃料が圧送される非常時では、前記制御弁42f・42gは閉じられて、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料がコモンレール6へ圧送される構成としている。
前記制御弁42f・42gは、コントローラ9と接続されており、前記非常時では、内部のソレノイドが通電されて閉じられ、バイパス管41f・41gと低圧回路の連通状態を分断し、低圧型のサプライポンプ1Cからコモンレール6への燃料の圧送が行われるものとなっている。
一方、前記通常時では、ソレノイドへの通電がなされず、前記制御弁42f・42gは開状態となっており、バイパス管41f・41gと低圧回路とが連通して、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料は、低圧回路に送出されるものとなっている。
尚、低圧型のサプライポンプ1Cには、一つのプランジャが具備されるものとし、低圧型のサプライポンプ1Cとコモンレール6とが、一本の高圧管にて接続される構成とするものであってもよく、この場合には、バイパス管は一本であり、また、制御弁は1つ設けられるものとなる。
【0040】
以上のようにして、前記通常時においては、高圧型のサプライポンプ1Aからコモンレール6へ燃料が圧送され、前記非常時においては、低圧型のサプライポンプ1Cからコモンレール6へ燃料が圧送される。つまり、通常時と非常時において、使用するサプライポンプを使い分けるものである。
また、制御弁42f・42gを用いた構成によれば、通常時においては、低圧型のサプライポンプ1Cから吐出される燃料は、制御弁42f・42gから大きな抵抗を受けることなく低圧回路に送出されるため、上述のリリーフ弁32f・32gを用いた構成と比較して、低圧型のサプライポンプ1Cを少ない駆動力で駆動することができるようになる。低圧型のサプライポンプ1Cは、非常時のみ機能を果たすものであり、通常時において低圧型のサプライポンプ1Cの駆動によるエネルギーロスの削減を図ることは、エンジンの高出力化、高燃費化に非常に有効なものとなる。
【実施例4】
【0041】
次に、サプライポンプ1とコモンレール6とを接続する高圧管4a・4b・4cの破損を判定する方法について説明する。
まず、前記圧力センサ13の検出値に基づいて、コモンレール6内の燃料圧力の変化が前記コントローラ9によってモニターされるとともに、前記燃料圧力が、規定値よりも下がった場合に、高圧管4a・4b・4cの破損、又は、サプライポンプの異常が生じたものと判定することとしている。
高圧管4a・4b・4cに破損が生じ、燃料の圧送量が減少した場合には、コモンレール6内の燃料圧力が低下することになるため、該燃料圧力の変化を基準として、高圧管4a・4b・4cの破損や、サプライポンプの異常を認識することとするものである。
【0042】
図5に示すごとく、例えば、通常エンジンが運転される場合において、コモンレール6内の圧力を設定値P1、噴射や漏れを考慮した刻々の最低圧力の限界値を圧力P2として、圧力が通常値よりも低下して、圧力P2に至ったときに、高圧管の破損や、サプライポンプに異常が発生したものとするものである。
これにより、高圧管4a・4b・4cの破損や、サプライポンプの異常を認識することができ、これらに対する警告表示や、非常時における運転への切替え等の実行に移ることができる。
【0043】
また、コントローラ9は、高圧管4a・4b・4cの破損、又は、サプライポンプに異常が生じたものと判定した場合には、前記サプライポンプ1の各電磁弁3a・3b・3cにて燃料の吸入を制御し、サプライポンプ1の各シリンダ22a・22b・22cからの個別の燃料の吐出を、所定時間づつ順に停止するとともに、前記圧力センサ13により検出されるコモンレール6内の圧力変化を観測する。
【0044】
図6に示すごとく、例えば、高圧管やサプライポンプに問題のない通常時において、各シリンダからの燃料の吐出を個別に停止させた場合において計測される圧力の変化が、曲線P3で示されるとする。
この場合において、各シリンダ22a・22b・22cを、所定時間づつ順に停止させたときに、例えば、シリンダ22aからの燃料の吐出を停止させた場合の圧力の変化が曲線P3と異なる曲線P4を描き、他のシリンダ22b・22cからの燃料の吐出を個別に停止させた場合の圧力の変化が曲線P3を描く場合には、該シリンダ22aに接続される高圧管4aの破損が生じたものであるとするものである。
以上によれば、破損した高圧管や、サプライポンプにおける異常箇所を特定することができるようになる。
【実施例5】
【0045】
本実施例は、上述のようなトラブル時、即ち、高圧管4a・4b・4cの破損や、サプライポンプの異常時においても、コモンレール6内の燃料圧力を通常時におけるものに極力近づけることにより、エンジンを通常時に近い状況で運転しようとするものである。
即ち、前記コントローラ9は、異常があるものと判定されたサプライポンプ、又は、破損が生じたものと判定された高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出を休止させるとともに、異常のあるサプライポンプの直前に燃料の圧送を行う異常のないサプラインポンプ、又は、破損が生じた高圧管と接続されるシリンダの直前に燃料の圧送を行う破損が生じていない高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出量を増加させるものである。
このようにして燃料の吐出量を増加させることとすれば、コモンレール6内の燃料圧力の低下を抑えることができ、コモンレール6内の燃料圧力を通常時に近い状態として運転できるようになる。
【0046】
また、上記において、コモンレール6内の燃料圧力が、通常時における規定値と同値となるように、異常のあるサプライポンプの直前に燃料の圧送を行う異常のないサプラインポンプ、又は、破損が生じた高圧管と接続されるシリンダの直前に燃料の圧送を行う破損が生じていない高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出量を、通常時の2倍に増加させるものとすることによれば、通常時と同じ条件で、運転を安定して継続することができる。
例えば、図1における構成において、シリンダ22c、シリンダ22b、シリンダ22a、・・・の順に燃料の圧送が行われるものとしており、高圧管4aが破損して、電磁弁3aの制御にてシリンダ22aからの燃料の圧送が停止された場合には、該シリンダ22aの直前に燃料の圧送を行うシリンダ22bからの燃料の吐出量が2倍となるように設定するものである。また、図2における構成においては、サプライポンプ1Aに異常が生じた場合には、該サプライポンプ1Aの直前に燃料の圧送を行うサプライポンプ1Bからの燃料の吐出量を2倍にするものである。
これにより、通常時と同量の燃料をコモンレール6に圧送することができ、コモンレール6内の燃料圧力を通常運転時における規定値に設定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1の燃料噴射装置の構成を示す図。
【図2】実施例2の燃料噴射装置の構成を示す図。
【図3】安全弁を備えた実施例3の燃料噴射装置の構成を示す図。
【図4】制御弁を備えた実施例3の燃料噴射装置の構成を示す図。
【図5】異常判定に用いるコモンレール内の燃料圧力の変化について示す図。
【図6】異常個所を特定する場合に用いるコモンレール内の燃料圧力の変化について示す図。
【符号の説明】
【0048】
1 サプライポンプ
2a プランジャ
3a 電磁弁
4a 高圧管
5a 逆止弁機構
6 コモンレール
7a インジェクタ
9 コントローラ
10 フィードポンプ
11 燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サプライポンプと、コモンレールとが、複数の高圧管にて接続される構成の燃料噴射装置であって、前記コモンレールと各高圧管との接続部には、それぞれ、コモンレール内から各高圧管内へ向う燃料の流れを規制する規制手段が設けられる燃料噴射装置。
【請求項2】
サプライポンプの各シリンダからの燃料の吐出量は、燃料噴射装置を制御するコントローラにより個別に制御可能に構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記サプライポンプは、複数台設けられる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記各サプライポンプのポンプ容量は、同一とする、ことを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記サプライポンプは、複数台設けられ、少なくとも一台のサプライポンプは、他の高圧型のサプライポンプよりも低圧の燃料を吐出する低圧型のサプライポンプに構成されるとともに、前記他の高圧型のサプライポンプからの圧送を休止させた場合においても、前記低圧型のサプライポンプから吐出される燃料によって、エンジンの運転を可能とする、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記低圧型のサプライポンプと、コモンレールとを接続する高圧管は、リリーフ弁を介して低圧回路に接続されており、
前記リリーフ弁の設定圧力は、高圧型のサプライポンプより燃料が圧送される通常時におけるコモンレール内の圧力以下に設定されており、
前記通常時では、
低圧型のサプライポンプから吐出される燃料は、前記リリーフ弁を介して前記低圧回路に送出され、
低圧型のサプライポンプからのみ燃料が圧送される非常時では、
低圧型のサプライポンプから吐出される燃料は、その圧力が前記リリーフ弁によりエンジンを運転させるために最低限必要とされる圧力に設定されつつ、コモンレールへ圧送される、ことを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記低圧型のサプライポンプと、コモンレールとを接続する高圧管は、
燃料噴射装置を制御するコントローラによって開閉制御される制御弁を介して、前記低圧回路に接続されており、
高圧型のサプライポンプより燃料が圧送される通常時では、
前記制御弁は開かれて、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料が低圧回路に送出され、
低圧型のサプライポンプからのみ燃料が圧送される非常時では、
前記制御弁は閉じられて、低圧型のサプライポンプから吐出される燃料がコモンレールへ圧送される構成とする、ことを特徴とする請求項5に記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
コモンレール内の燃料圧力の変化が、燃料噴射装置を制御するコントローラによってモニターされるとともに、前記燃料圧力が、規定値よりも下がった場合には、前記コントローラは、高圧管の破損、又は、サプライポンプの異常が生じたものと判定する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
前記コントローラは、高圧管の破損、又は、サプライポンプに異常が生じたものと判定した場合には、サプライポンプの各シリンダからの個別の燃料の吐出を、所定時間づつ順に停止するとともに、コモンレール内の圧力変化を観測することにより、破損した高圧管や、サプライポンプにおける異常箇所を特定する、ことを特徴とする請求項8に記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
前記コントローラは、異常があるものと判定されたサプライポンプ、又は、破損が生じたものと判定された高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出を休止させるとともに、異常のあるサプライポンプの直前に燃料の圧送を行う異常のないサプラインポンプ、又は、破損が生じた高圧管と接続されるシリンダの直前に燃料の圧送を行う破損が生じていない高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出量を増加させる、ことを特徴とする請求項9に記載の燃料噴射装置。
【請求項11】
前記コントローラは、異常のあるサプライポンプの直前に燃料の圧送を行う異常のないサプラインポンプ、又は、破損が生じた高圧管と接続されるシリンダの直前に燃料の圧送を行う破損が生じていない高圧管と接続されるシリンダからの燃料の吐出量を、通常時の2倍に増加させる、ことを特徴とする請求項10に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−83823(P2006−83823A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271643(P2004−271643)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】