説明

生体磁気センサー及びその製造方法

【課題】トンネル磁気抵抗素子を利用した生体磁気センサーにおいて、トンネル磁気抵抗素子の高感度を達成し、高精度に生体磁気を計測する。
【解決手段】ゼロ磁界での強磁性金属磁化自由層4の容易磁化軸4aは、強磁性金属磁化固定層6の容易磁化軸6aに対してねじれの位置にある。好ましくはねじれの角が45度から135度である。また、当該固定層が自由層より上層に積層され、固定層の面積は自由層の面積に対して小さくされる。当該固定層及び自由層がそれぞれ3層とされ、極薄非磁性体金属層を介して第1の強磁性体の磁化の向きと前記第2の強磁性体の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体とされる。絶縁層としてはMgO、極薄非磁性体金属層としてはRuが適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体から発生する磁界を感知する生体磁気センサー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体から発生する磁界を計測する装置として、SQUID(Superconducting Quantum Interference Device:超伝導量子干渉素子)センサーを用いた生体磁気計測装置が研究されている(特許文献1−5)。多数のSQUIDセンサーを配列させて生体磁気の計測に用いることで、脳磁図、心磁図等の2次元生体磁気情報を得ることができる。
SQUIDセンサーにより生体磁気計測を行うためには、SQUIDセンサーを液体ヘリウムなどの冷媒により超伝導状態に保つ必要がある。そのため、SQUIDセンサーは、冷媒が貯留されたデュワに内蔵され、この冷媒に浸漬された状態で計測に用いられる。
このデュワの冷媒槽の外壁部の一部を、生体の計測対象部位、例えば頭蓋に対応した形状に形成し、この外壁部の内側に多数のSQUIDセンサーを配列させて冷媒に浸漬し、外壁部の外側を生体に接触させることにより、多数のSQUIDセンサーを生体に対して一定の距離に近接させて計測し、脳磁図等を得ることができる生体磁気計測装置が提案されている。
【0003】
一方、特許文献6には、第1の強磁性体と、第2の強磁性体と、前記第1の強磁性体と前記第2の強磁性体との間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層とを具え、前記第1の強磁性体の磁化の向きと前記第2の強磁性体の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体、並びに、当該反平行結合膜構造体を磁化自由層又は磁化固定層に適用したトンネル磁気抵抗素子及び磁気デバイスが記載されており、反平行結合膜構造体により、磁化の熱揺らぎ及び書き込み電流の増大の問題が解決できることが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−40578号公報
【特許文献2】特開平3−1839号公報
【特許文献3】特開2000−193364号公報
【特許文献4】特開2004−65605号公報
【特許文献5】特開2007−17248号公報
【特許文献6】特開2010−10233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SQUIDセンサーを用いた生体磁気計測装置にあっては、センサーを低温に保つ冷媒が必要となり、そのために装置が大型化し、被検部に対してセンサーを近接して柔軟に対応することや、センサーを高密度に配置したりすることが難しいなどの問題がある。
そこで本願発明者らは、常温で使用可能で、小型軽薄化、高密度化等が可能なセンサーデバイスとして、トンネル磁気抵抗素子(TMR(Tunnel Magneto Resistive)素子)を生体磁気の計測に適用することを考える。
【0006】
しかし、生体磁気信号は非常に微弱であるため、生体磁気信号をトンネル磁気抵抗素子で検出するためには、トンネル磁気抵抗素子の強磁性金属磁化自由層の感度を極限まで高めなければならない。
従来技術にあっては、製造工程上、強磁性金属磁化自由層と強磁性金属磁化固定層は同時に磁場中にて熱処理されるためこの2つの層の容易磁化方向は同じ方向であった。
強磁性磁化自由層の磁化方向は、基本的には外部磁界によって変化するが、本願発明者らの研究により、強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸と強磁性磁化固定層の容易磁化軸が同じ方向の場合は、お互いからの漏れ磁界の影響で、強磁性金属磁化自由層は、磁気エネルギーの観点から不安定の状態になると考えられ、感度向上及びノイズ上昇に対する一つの阻害要因となり得るとの知見を得るに至った。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、トンネル磁気抵抗素子を利用した生体磁気センサーにおいて、トンネル磁気抵抗素子の高感度化を達成し、高精度に生体磁気を計測することができる生体磁気センサー及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、磁化の向きが固定された強磁性金属磁化固定層、外部からの磁界の影響を受けて磁化の向きが変化する強磁性金属磁化自由層、及び、前記強磁性金属磁化固定層と前記強磁性金属磁化自由層との間に配置された絶縁層を有し、前記強磁性金属磁化固定層の磁化の向きと前記強磁性金属磁化自由層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により前記絶縁層の抵抗を変化させるトンネル磁気抵抗素子を含む生体磁気センサーにおいて、
ゼロ磁界での前記強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸は、前記強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸に対してねじれの位置にあることを特徴とする生体磁気センサーである。
ここで、「ねじれの位置」とは、空間内の2直線が平行でなく、かつ、交わっていない位置関係、すなわち、同一平面に存在できない2直線の位置関係をいう。ねじれの位置にある2直線に直交する直線を「ねじれの軸」といい、ねじれの軸まわりの一方の直線に対する他方の直線の相対角を「ねじれの角」という。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記強磁性金属磁化固定層の面積は、前記強磁性金属磁化自由層の面積に対して小さいことを特徴とする請求項1に記載の生体磁気センサーである。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層はそれぞれ、第1の強磁性体と、第2の強磁性体と、前記第1の強磁性体と前記第2の強磁性体との間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層とを備え、前記第1の強磁性体の磁化の向きと前記第2の強磁性体の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体磁気センサーである。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層を含む積層体を支持する基板から見て、前記強磁性金属磁化固定層が前記強磁性金属磁化自由層より上層に形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の生体磁気センサーである。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記絶縁層は、MgOから成ることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の生体磁気センサーである。
【0013】
請求項6記載の発明は、前記極薄非磁性体金属層は、Ruから成ることを特徴とする請求項3に記載の生体磁気センサーである。
【0014】
請求項7記載の発明は、ゼロ磁界での前記強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸と、前記強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸とのねじれの角は、45度から135度であることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載の生体磁気センサーである。
【0015】
請求項8記載の発明は、磁化の向きが固定された強磁性金属磁化固定層、外部からの磁界の影響を受けて磁化の向きが変化する強磁性金属磁化自由層、及び、前記強磁性金属磁化固定層と前記強磁性金属磁化自由層との間に配置された絶縁層を有し、前記強磁性金属磁化固定層の磁化の向きと前記強磁性金属磁化自由層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により前記絶縁層の抵抗を変化させるトンネル磁気抵抗素子を作製し、
前記磁気抵抗素子に対して、外部磁界を印加しながら第1の温度で第1の熱処理を行い、該第1の熱処理よりも低い温度でかつ前記第1の熱処理とは向きを異ならせて外部磁界を印加しながら第2の熱処理を行うことで、ゼロ磁界での前記強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸を、前記強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸に対してねじれの位置にすることを特徴とする生体磁気センサーの製造方法である。
【0016】
請求項9記載の発明は、前記強磁性金属磁化固定層の面積を、前記強磁性金属磁化自由層の面積に対して小さく形成することを特徴とする請求項8に記載の生体磁気センサーの製造方法である。
【0017】
請求項10記載の発明は、前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層を、それぞれ、第1の強磁性体と、第2の強磁性体と、前記第1の強磁性体と前記第2の強磁性体との間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層とを備え、前記第1の強磁性体の磁化の向きと前記第2の強磁性体の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体として作製することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の生体磁気センサーの製造方法である。
【0018】
請求項11記載の発明は、前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層を含む積層体を支持する基板から見て、前記強磁性金属磁化固定層を前記強磁性金属磁化自由層より上層に形成することを特徴とする請求項8、請求項9又は請求項10に記載の生体磁気センサーの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸と強磁性体金属磁化固定層の容易磁化軸とが、ゼロ磁界で既に異なった方向に向いている状態であり、この状態に外部磁界が印加されると、強磁性金属磁化固定層から発生する漏れ磁場の影響が小さく抑えられて強磁性金属磁化自由層の外部磁界に対しての感度が向上する、即ち、トンネル磁気抵抗素子の高感度化を達成し、高精度に生体磁気を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体磁気センサーの構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るトンネル磁気抵抗素子の模式的斜視図であり、絶縁層を省略して描いている。
【図3】本発明の一実施形態に係るトンネル磁気抵抗素子の磁場中熱処理工程における炉中温度の変遷を示すグラフである。
【図4】比較例に係り、外部磁界(H(Oe)、横軸)に対するトンネル磁気抵抗素子の抵抗の変化率(MR(%)、縦軸)を示したグラフである。
【図5】比較例に係り、外部磁界(H(Oe)、横軸)に対するトンネル磁気抵抗素子の抵抗の変化率(MR(%)、縦軸)を示したグラフであり、図4のグラフに対し横軸を拡大している。
【図6】本発明の実施例に係り、外部磁界(H(Oe)、横軸)に対するトンネル磁気抵抗素子の抵抗の変化率(MR(%)、縦軸)を示したグラフである。
【図7】本発明の実施例に係り、外部磁界(H(Oe)、横軸)に対するトンネル磁気抵抗素子の抵抗の変化率(MR(%)、縦軸)を示したグラフであり、図6のグラフに対し横軸を拡大している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0022】
本実施形態の生体磁気センサーは、代表的な例としては、人の頭蓋から発せられる磁界を計測して脳磁図を得る生体磁気計測に利用されるものであり、必要な本数の生体磁気センサーが組み込まれ各種の生体磁気計測システムが構成され、生体から発せられる磁界の計測が実施される。
【0023】
図1に示すように本生体磁気センサー1は、トンネル磁気抵抗素子(以下「TMR素子」という。)10を含んで構成される。
図1に示すように本生体磁気センサー1は、基板2上に、下部電極層3、強磁性金属磁化自由層4、絶縁層5、強磁性金属磁化固定層6、固定化促進層7、上部電極層8が順次積層された積層構造を有する。
TMR素子10は、強磁性金属磁化固定層6の磁化の向きと強磁性金属磁化自由層4の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により絶縁層5の抵抗を変化させる。
上部電極層8と下部電極層3との間には、電流を入力するための電源11と定抵抗12とが直列に接続され、さらに絶縁層5の抵抗値の変化を電圧値の変化として検知する電圧計13に接続されて本生体磁気センサー1は実装される。なお、TMR素子10に対して電圧を印加し、TMR素子10の絶縁層5に流れる電流を検出することで絶縁層5の抵抗値の変化を検出するようにしても構わない。
【0024】
基板2としては、各層の形成に耐え得るものであれば特に材質に限定はないが、成膜時や熱処理等に耐え得る耐熱性と絶縁性とを兼ね備えたものが好ましい。また、磁束の吸い込みを防止するために非磁性であり、表面が比較的滑らかに形成されるものであることが好ましい。このような観点からは、例えば、Si、SiO2等が使用できる。
【0025】
下部電極層3は、3つの層31,32,33からなる。層31は、基板2の粗さを整えるためのものであり、例えば、Taが使用できる。層31の層厚は2nm〜10nm程度とすることが好ましい。層32としてはRu、層33としてはTaが使用できる。
【0026】
強磁性金属磁化自由層4は、外部からの磁束の影響を受けて磁化の向きが変化する強磁性金属磁化層で、第1の強磁性体層41と、極薄非磁性体金属層42と、第2の強磁性体層43とからなる。
第1の強磁性体層41としては、例えば、Ni79Fe21が使用できる。第1の強磁性体層41の層厚は10nm〜200nm程度が好ましい。
極薄非磁性体金属層42は、第1の強磁性体層41と第2の強磁性体層43とを磁気的に結合させるとともに、後者を前者の結晶構造から切り離すためのものであり、結晶構造を有さない薄膜層を用いるのが望ましい。具体的な材料の例としてはRuが挙げられる。極薄非磁性体金属層42の層厚は0.5〜1nm程度とすることが好ましい。
第2の強磁性体層43としては、各種のものが使用可能であるが、代表的なものとして、Co40Fe4020をアモルファス構造から熱処理して強磁性を発現させたものが使用できる。この層の結晶構造は例えば体心立方晶である。Feリッチの材料、例えば、Co16Fe6420を用いることもできる。第2の強磁性体層43の層厚は1〜10nm程度が好ましい。第2の強磁性体層43が絶縁層5の下面に接合する。
強磁性金属磁化自由層4は、以上のように第1の強磁性体層41と。第2の強磁性体層43と、これらの間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層42を備え、第1の強磁性体層41の磁化の向きと第2の強磁性体層43の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体を構成する。ここで「反平行」とは、磁界の向きが実質的に平行で、かつ逆方向を向いていることを意味し、実質的に磁界の向きが平行とみなせる範囲(例えば、前後へ10度傾いた範囲)にある場合も含む。
【0027】
絶縁層5は、強磁性金属磁化固定層6と強磁性金属磁化自由層4との間に配置される。絶縁層5としては、各種の絶縁材料を用いることができ、例えば、MgO、AlOx等が使用できる。素子の感度を向上させるという観点からはMgOが好ましく、特に、生体磁気信号のような微弱磁界をトンネル磁気抵抗素子で検出するためには、絶縁層5としてMgO膜を用いることが好ましい。絶縁層5の層厚は、1nm〜10nm程度にすることが望ましい。
【0028】
強磁性金属磁化固定層6は、磁化の向きが固定された強磁性金属磁化層で、第1の強磁性体層61と、極薄非磁性体金属層62と、第2の強磁性体層63とからなる。
第1の強磁性体層61としては、自由層4の第1の強磁性体層43と同様のもの、例えば、Co40Fe4020が使用できる。第1の強磁性体層61の層厚は1〜10nm程度が好ましい。第2の強磁性体層61は絶縁層5の上面に接合する。
極薄非磁性体金属層62は、第1の強磁性体層41と第2の強磁性体層43とを磁気的に結合させるとともに、後者を前者の結晶構造から切り離すためのものであり、結晶構造を有さない薄膜層を用いるのが望ましい。具体的な材料の例としてはRuが挙げられる。極薄非磁性体金属層62の層厚は0.5〜1nm程度とすることが好ましい。
第2の強磁性体層63としては、例えば、CoFeが使用できる。CoとFeの組成比は任意に設定できるが、典型的には、Co:Fe=75:25又はCo:Fe=50:50とすることができる。第2の強磁性体層63の結晶構造は例えば面心立方晶である。第2の強磁性体層63の層厚としては、0.5nm〜5nm程度とすることが好ましい。
強磁性金属磁化固定層6は、以上のように第1の強磁性体層61と、第2の強磁性体層63と、これらの間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層62を備え、第1の強磁性体層61の磁化の向きと第2の強磁性体層63の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体を構成する。
【0029】
固定化促進層7は、第2の強磁性体層63の固定化を促進するためのものであり、IrMn、プラチナマンガンなどの反強磁性膜が好適に用いられる。第2の強磁性体層63の結晶構造は例えば面心立方晶とする。固定化促進層7の層厚は5nm〜20nm程度とすることが好ましい。
【0030】
上部電極層8は、2つの層81,82からなる。層81は、層82の下地層で固定化促進層7の粗さを整えるためのものであり、例えば、Taが使用できる。層81の層厚は2nm〜10nm程度とすることが好ましい。層82は電極が接続される上層であり、例えば、Auが使用できる。層82の層厚は20nm〜40nm程度とすることが好ましい。
【0031】
各層は、例えば、マグネトロンスパッタリング法により形成することができる。また、所望の結晶構造を得る等の目的のために、必要に応じて熱処理を施すとよい。本実施形態にあっては、図2に示すように、ゼロ磁界での強磁性金属磁化自由層4の容易磁化軸4aは、強磁性金属磁化固定層6の容易磁化軸6aに対してねじれの位置にある。このような関係の容易磁化軸4a,6aを得るために、各層を積層した基板2を炉に納めるとともに磁界中に置き、図3に示すように温度条件の異なる2回の熱処理を行う。
まず、第1熱処理を行うことで強磁性金属磁化自由層4の容易磁化軸4aが形成される。第2熱処理の温度変遷グラフA2における頂点温度は、第1熱処理の温度変遷グラフA1における頂点温度より低く(好適には10℃以上低く)、第1熱処理の後、好ましくは室温付近まで冷却した後、第2熱処理を行うことで強磁性金属磁化固定層6の容易磁化軸6aが形成される。容易磁化軸4aは、第1熱処理時の磁界方向に沿って形成される。容易磁化軸6aは、第2熱処理時の磁界方向に沿って形成される。したがって、第1熱処理時の磁界方向に対し第2熱処理時の磁界方向を変えることで容易磁化軸6aを容易磁化軸4aに対してねじれの位置にすることができる。第1熱処理時の磁界方向及び第2熱処理時の磁界方向は層に平行である。したがって、基板2上の積層方向の軸(=基板2に垂直な軸)まわりに磁界方向を回転させることで、容易磁化軸6aを容易磁化軸4aに対してねじれの位置にすることができる。熱処理時間に特に制限はなく、例えば10分〜2時間程度行えばよく、また、第1熱処理よりも第2熱処理の時間を短くすることが好ましい。熱処理の際の磁界にも特に制限はなく、例えば0.01〜2[T]の範囲で行えばよく、また、第1熱処理よりも第2熱処理における外部磁界を小さくすることが好ましい。
【0032】
図2(a)に示すように容易磁化軸4aと容易磁化軸6aとのねじれの角φは90度を目標として作製すれば足りる。図2(b)に示すように容易磁化軸4aと容易磁化軸6aが並行でなければ、両者の成すねじれの各φが90度でなくても感度向上の効果はあるが、ねじれの角φは、45度から135度の範囲とすることが好ましい。
【0033】
また、強磁性金属磁化固定層6の面積は、強磁性金属磁化自由層4の面積と等しいか、図2に示すように、強磁性金属磁化自由層4の面積に対して小さくする。強磁性金属磁化固定層6の面積を相対的に小さくすることで、固定層6から自由層4への漏れ磁界の影響が小さくなり、磁気検出の感度をさらに向上させることができる。強磁性金属磁化固定層6の面積と、強磁性金属磁化自由層4の面積との比率は、これに限るものではないが、1:1〜1:10の範囲に設定することが好ましい。
【0034】
また、図1を参照して説明したように、強磁性金属磁化自由層4及び強磁性金属磁化固定層6を含む積層体を支持する基板2から見て、強磁性金属磁化固定層6が強磁性金属磁化自由層4より上層に(すなわち、基板2からより遠い側に)形成されている。このような上下関係とすることにより、強磁性金属磁化固定層6等が積層された基板表面からの選択的エッチングにより、強磁性金属磁化固定層6の面積を、強磁性金属磁化自由層4の面積に対して小さく形成することが容易である。
【0035】
以上説明した本実施形態の生体磁気センサー1によれば、強磁性金属磁化自由層4の容易磁化軸4aと強磁性体金属磁化固定層6の容易磁化軸6aとが、ゼロ磁界で既に異なった方向に向いている状態であり、この状態から外部磁界が発生すると、強磁性金属磁化固定層6から発生する漏れ磁界などの悪影響が小さく抑えられて強磁性金属磁化自由層4の磁化が外部磁界に対して高感度に変化する。
また本実施形態の生体磁気センサー1によれば、強磁性金属磁化固定層6の面積は、強磁性金属磁化自由層4の面積に対して小さいため、これによっても、固定層6から自由層4への漏れ磁界の影響が小さく抑えられる。
さらに本実施形態の生体磁気センサー1によれば、強磁性金属磁化固定層6は反平行結合膜構造体であるために漏れ磁界が少なくなり、これによっても、固定層6から自由層4への漏れ磁界の影響が小さく抑えられる。
また本実施形態の生体磁気センサー1によれば、強磁性金属磁化自由層4は同様に反平行結合膜構造体であるので、漏れ磁束のない安定した磁化膜を構成することができる。
以上の各技術要素の複合によって、TMR素子の高感度を達成することができ、高精度に生体磁気を計測することができる。
特に、ゼロ磁界近傍で高感度な生体磁気計測に好適な生体磁気センサーとすることができる。
【0036】
なお、本生体磁気センサー1はTMR素子を利用するため、常温で使用可能な磁気センサーであり、冷却のための冷媒も外部からの熱の侵入を断つための断熱材も不要となり、本生体磁気センサー1を実装したセンサユニットをより軽薄に構成できる。そして、センサユニットをより軽薄に構成できるので、人手で扱って被検者の計測対象部位に覆うように当てたり、被検者に装着させたりできる簡素で柔軟な形態に構成でき、ひいては、被験者の体の大きさや体型によらず、被験部に対して一定の距離にTMR素子が配置され正確な計測を行うことができる。また、SQUIDに比較して安価に構成でき、低消費電力である。
【実施例】
【0037】
以上説明した、強磁性金属磁化自由層4の容易磁化軸4aと,強磁性金属磁化固定層6の容易磁化軸6aとがねじれの位置関係にある、図1に示す構成を備える生体磁気センサー1と、容易磁化軸がねじれの位置関係にない生体磁気センサーとの磁気検出感度の比較を行った。
具体的には以下の手順で本発明実施例及び比較例の生体磁気センサーを作製した。
マクネトロンスパッタリング装置を用いて、SiO2基板上に、層31としてTaを5nm、層32としてRuを10nm、層33としてTaを5nm、層41としてNi79Fe21を10,20,70,150,200nm、層42としてRuを0.85nm、層43としてCo40Fe4020を3nm、層5としてMgOを2.5nm、層61としてCo40Fe4020を3nm、層62としてRuを0.85nm、層63としてCo75Fe25を5nm、層7としてIrMnを10nm、層81としてTaを5nm、層82としてAuを30nm、順次積層した。膜厚は成膜速度と成膜時間から換算して求めた。次に、層82の上にフォトリソプロセスでレジストパターニングをした後、層43に達するまでArイオンミリングを行うことで、強磁性金属磁化固定層6の面積と強磁性金属磁化自由層4の面積が1:3.5の比率になるように加工し、レジスト膜を除去した。
こうして得られた積層体を、第1熱処理として外部磁場1[T]を印加しながら325℃で50分間熱処理を行った。室温に冷却後、この積層体の配置方向を変えることにより、第1熱処理時の磁場の磁界方向とは90度交差する磁界方向の外部磁場0.1[T]を印加しながら、300℃で20分間熱処理を行った(第2熱処理)。室温まで冷却した後、抵抗、電源、電圧計を電気的に接続し、本発明実施例の生体磁気センサーとした。比較例にあっては、上述の第2熱処理における磁界方向を第1熱処理の磁界方向から変えないようにしたこと以外は上記実施例と同じ手順を実行することにより、強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸と、強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸とが同方向である生体磁気センサーを作製した。
【0038】
こうして得られた実施例及び比較例のセンサーについて磁気検出性能を測定した。具体的には、ヘルムホルツコイル内に測定対象のセンサーを配置し、センサーに数μAの定電流を流しながら、コイルの磁界を−1800[Oe]から、+1800[Oe]へ、次いで−1800[Oe]へと変化させ、センサーの出力電圧を検出することで、外部磁場に対するセンサーの抵抗変化率を測定した。
図4から図7は、こうして得られた外部磁界(H(Oe)、横軸)に対するTMR素子の抵抗の変化率(MR(%)、縦軸)を示したグラフである。図4及び図5は比較例に係り、図6及び図7は本発明例に係る。図5、図7は、それぞれ、図4、図6のゼロ磁界付近の拡大図である。それぞれ横軸の目盛りが異なることに留意する。これらのグラフにおいて、ゼロ磁界を含む直線的部分での変化によって生体磁気の検出を行う。比較例のグラフと本発明実施例のグラフとを比較すればわかるように、ゼロ磁界を含む直線的部分が、比較例より本発明実施例の方が急峻な傾きを持っていて、外部磁界の変化に対してTMR素子抵抗が大きく変化する、すなわち、高感度であり、微弱な生体磁気を高精度に測定することに有利である。
【0039】
なお、以上の実施形態に拘わらず、強磁性金属磁化層に反平行結合膜構造体を適用する場合にあっては、強磁性金属磁化自由層及び強磁性金属磁化固定層のうちいずれか一方のみに反平行結合膜構造体を適用してもよく、強磁性金属磁化自由層を反平行結合膜構造体とする効果、強磁性金属磁化固定層を反平行結合膜構造体とする効果がそれぞれ得られる。
また、強磁性金属磁化固定層の面積と、強磁性金属磁化自由層の面積との間の大小関係に条件を設けない場合にあっては、これらの層の積層における上下関係も任意であるが、固定層を上層として小面積とした方が有利であることは上述のとおりである。
【符号の説明】
【0040】
1 生体磁気センサー
2 基板
3 下部電極層
4 強磁性金属磁化自由層
4a 容易磁化軸
5 絶縁層
6 強磁性金属磁化固定層
6a 容易磁化軸
7 固定化促進層
8 上部電極層
10 トンネル磁気抵抗素子
13 電圧計
41 第1の強磁性体層
42 極薄非磁性体金属層
43 第2の強磁性体層
61 第1の強磁性体層
62 極薄非磁性体金属層
63 第2の強磁性体層
φ ねじれの角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化の向きが固定された強磁性金属磁化固定層、外部からの磁界の影響を受けて磁化の向きが変化する強磁性金属磁化自由層、及び、前記強磁性金属磁化固定層と前記強磁性金属磁化自由層との間に配置された絶縁層を有し、前記強磁性金属磁化固定層の磁化の向きと前記強磁性金属磁化自由層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により前記絶縁層の抵抗を変化させるトンネル磁気抵抗素子を含む生体磁気センサーにおいて、
ゼロ磁界での前記強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸は、前記強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸に対してねじれの位置にあることを特徴とする生体磁気センサー。
【請求項2】
前記強磁性金属磁化固定層の面積は、前記強磁性金属磁化自由層の面積に対して小さいことを特徴とする請求項1に記載の生体磁気センサー。
【請求項3】
前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層はそれぞれ、第1の強磁性体と、第2の強磁性体と、前記第1の強磁性体と前記第2の強磁性体との間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層とを備え、前記第1の強磁性体の磁化の向きと前記第2の強磁性体の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体磁気センサー。
【請求項4】
前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層を含む積層体を支持する基板から見て、前記強磁性金属磁化固定層が前記強磁性金属磁化自由層より上層に形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の生体磁気センサー。
【請求項5】
前記絶縁層は、MgOから成ることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の生体磁気センサー。
【請求項6】
前記極薄非磁性体金属層は、Ruから成ることを特徴とする請求項3に記載の生体磁気センサー。
【請求項7】
ゼロ磁界での前記強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸と、前記強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸とのねじれの角は、45度から135度であることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載の生体磁気センサー。
【請求項8】
磁化の向きが固定された強磁性金属磁化固定層、外部からの磁界の影響を受けて磁化の向きが変化する強磁性金属磁化自由層、及び、前記強磁性金属磁化固定層と前記強磁性金属磁化自由層との間に配置された絶縁層を有し、前記強磁性金属磁化固定層の磁化の向きと前記強磁性金属磁化自由層の磁化の向きとの角度差に従ってトンネル効果により前記絶縁層の抵抗を変化させるトンネル磁気抵抗素子を作製し、
前記磁気抵抗素子に対して、外部磁界を印加しながら第1の温度で第1の熱処理を行い、該第1の熱処理よりも低い温度でかつ前記第1の熱処理とは向きを異ならせて外部磁界を印加しながら第2の熱処理を行うことで、ゼロ磁界での前記強磁性金属磁化自由層の容易磁化軸を、前記強磁性金属磁化固定層の容易磁化軸に対してねじれの位置にすることを特徴とする生体磁気センサーの製造方法。
【請求項9】
前記強磁性金属磁化固定層の面積を、前記強磁性金属磁化自由層の面積に対して小さく形成することを特徴とする請求項8に記載の生体磁気センサーの製造方法。
【請求項10】
前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層を、それぞれ、第1の強磁性体と、第2の強磁性体と、前記第1の強磁性体と前記第2の強磁性体との間に挟まれて存在する極薄非磁性体金属層とを備え、前記第1の強磁性体の磁化の向きと前記第2の強磁性体の磁化の向きとが反平行になる交換結合力を有する反平行結合膜構造体として作製することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の生体磁気センサーの製造方法。
【請求項11】
前記強磁性金属磁化自由層及び前記強磁性金属磁化固定層を含む積層体を支持する基板から見て、前記強磁性金属磁化固定層を前記強磁性金属磁化自由層より上層に形成することを特徴とする請求項8、請求項9又は請求項10に記載の生体磁気センサーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−105825(P2013−105825A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247362(P2011−247362)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】