発光素子の製造方法
【課題】発光素子表面を粗面化して光出力を向上させるとともに、静電気による故障発生率を低減させた発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】GaAsと格子整合し、AlGaInPにて表される組成を有する化合物にて各々構成された第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序で積層されたダブルへテロ構造を有し、第二導電型クラッド層上に積層された透明半導体層とを有する発光素子ウェーハをダイシングすることで発光素子チップを形成し、その表面を、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素との合計質量含有率が水の質量含有率よりも高い第一のエッチング液にて第一のエッチング工程を行い、その後、等方性エッチング液を用いて発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下の第二のエッチング工程を行うことを特徴とする発光素子の製造方法。
【解決手段】GaAsと格子整合し、AlGaInPにて表される組成を有する化合物にて各々構成された第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序で積層されたダブルへテロ構造を有し、第二導電型クラッド層上に積層された透明半導体層とを有する発光素子ウェーハをダイシングすることで発光素子チップを形成し、その表面を、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素との合計質量含有率が水の質量含有率よりも高い第一のエッチング液にて第一のエッチング工程を行い、その後、等方性エッチング液を用いて発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下の第二のエッチング工程を行うことを特徴とする発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関し、具体的には、高輝度且つ静電気に対する耐性の高い発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(AlxGa1−x)yIn1−yP混晶(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1;以下、AlGaInP混晶、あるいは単にAlGaInPとも記載する)により発光層部が形成された発光素子は、薄いAlGaInP活性層を、それよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を採用することにより、例えば緑色から赤色までの広い波長域にわたって高輝度の素子を実現できる。
【0003】
ここで、発光層部への通電は、素子表面に形成された金属電極を介して行われる。しかし金属電極は遮光体として作用するため、例えば発光層部の第一主表面を主表面の中央部のみを覆う形で形成され、その周囲の電極非形成領域から光を取り出すようにする。
この場合、金属電極の面積をなるべく小さくしたほうが、電極の周囲に形成される光取り出し領域の面積を大きくできるので、光取り出し効率を向上させる観点において有利である。
【0004】
従来、電極形状の工夫により、素子内に効果的に電流を拡げて光取り出し量を増加させる試みがなされているが、この場合も電極面積の増大はいずれにしろ避けがたく、従って光取り出し領域の面積の減少により却って光取り出し量が制限されるジレンマに陥っている。
【0005】
また、クラッド層のドーパントのキャリア濃度、ひいては導電率は、活性層内でのキャリアの発光再結合を最適化するために多少低めに抑えられており、面内方向には電流が広がりにくい傾向がある。これは、電極被覆領域に電流密度が集中し、光取り出し領域における実質的な光取り出し量が低下してしまうことにつながる。
【0006】
そこで、クラッド層と電極との間に、クラッド層よりもドーパント濃度を高めた低抵抗率のGaP光取り出し層を形成する方法が採用されている。
このGaP光取り出し層は、一定以上に厚みを増加させた光取り出し層として形成すれば、素子面内の電流拡散効果が向上するばかりでなく、層側面からの光取り出し量も増加するので、光取り出し効率をより高めることができるようになる。
光取り出し層は、発光光束を効率よく透過させ、光取り出し効率を高めることができるよう、発光光束の光量子エネルギーよりもバンドギャップエネルギーの大きい化合物半導体で形成する必要がある。特にGaPはバンドギャップエネルギーが大きく発光光束の吸収が小さいので、AlGaInP系発光素子の光取り出し層として多用されている。
【0007】
また、発光層部の成長に用いるGaAs基板は、光吸収性基板(つまり不透明基板)なので、発光層部の成長後にGaAs基板を研削やエッチングで取り除き、代わりにGaP透明基板層を、GaP単結晶基板の貼り合わせや気相成長法により形成することも行われている。
また古くから、透明性の高いGaP基板に、GaP発光層、その上に30〜100μm程度の取り出し層としてのGaPエピタキシャル層を気相成長させ、取り出し効率を高めてきた。
【0008】
同様にAlGaInPの発光ダイオードにおいても、発光層部の第二主表面側の不透明基板がGaP透明基板層で置き換わり、その透明基板の側面からも光が取り出せるようになるし、該GaP透明基板の第二主表面側で反射層や電極により光を反射させ、その反射光を第一主表面側からの直接光束と合わせて取り出すこともできるので、素子全体の光取り出し効率を高めることができる。以下、GaP光取り出し層やGaP透明基板層を総称する概念を、GaP透明半導体層と称する。
【0009】
しかしながら、このように透明性の高い結晶を発光層の上下両側または一方に配しても、表面での多重反射などで、内部で吸収され外部に光が出にくくなる現象が発生することがある。
これを改善するために、特許文献1においては、発光素子の表面を粗面化し、取り出し効率を上げる方法を提供している。この効果としては、10%以上の発光量の増加が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−317664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、現在では、発光素子は、家電のみならず、屋外でディスプレイ、自動車、二輪車などにも用いられるが、環境によっては、劣化が誘発される。
そのひとつとして静電気による発光素子の故障がある。ひとたび静電気による素子の破壊が発生すると、逆方向、順方向の電流のリークの発生、逆方向電圧の低下などが発生し、無効電流が増加し発光出力は低下する。ときには全く発光しなくなる場合もある。
【0012】
そして上述の特許文献1に記載された粗面化された発光素子は、粗面化されていない発光素子に比べて静電気による素子の破壊が多くなることが判った。
本発明者が、粗面化された特許文献1の発光素子のESD試験を行ったところ、1000V程度の耐圧はあるものの、冬場、人間の衣類などで発生する静電気は3000V程度あることが知られている。そのため、3000V程度の静電気にも耐えうる発光素子が求められる。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、発光素子表面を粗面化して光出力を向上させるとともに、静電気による故障発生率を低減させた発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明では、組成式(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)にて表される化合物のうち、GaAsと格子整合する組成を有する化合物にて各々構成された第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序で積層されたダブルへテロ構造を有し、前記第二導電型クラッド層上に積層された厚さ10μm以上のGaPまたはGaAsPの透明半導体層とを有する発光素子ウェーハをダイシングすることで発光素子チップを形成し、該発光素子チップ表面を、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、前記酢酸と前記弗酸と前記硝酸と前記ヨウ素との合計質量含有率が前記水の質量含有率よりも高い第一のエッチング液にて第一のエッチング工程を行い、その後、等方性エッチング液を用いて前記発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下の第二のエッチング工程を行うことを特徴とする発光素子の製造方法を提供する。
【0015】
このように、まず発光素子チップの表面を、結晶方位依存性のある酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水からなる第一のエッチング液をGaP透明半導体層の表面や側面、GaP透明基板層の側面に接触させることで、異方性エッチング的な原理による凹凸の形成を顕著に進行させることができる。そしてその結果、GaP透明半導体層の表面や側面、GaP透明基板層の側面が面粗して突起部が顕著に形成された発光素子が得られる。これにより発光層で発光した光の取り出し効率を向上させることができ、発光素子の光出力を高めることができる。
ここで、第一のエッチング液における酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水の合計は90質量%以上とする必要がある。これ以下の含有率では面粗させて突起部を効率良く形成できない。また、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素との合計質量含有率が水の質量含有率より低くなっても、同様に面粗させた突起部を効率良く形成できない。
【0016】
その後、結晶方位依存性のない等方性エッチング液で、発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下であるエッチングを行う。これによって、表面の粗さをある程度保った状態でESD(Electro Static Discharge:静電気破壊)耐性を向上させた発光素子を製造することができる。また、粗面化の状態を維持させることができるため、光出力も高い状態を保つことができる。
エッチング取り代が0.12μmより大きいと、発光素子表面に形成された突起部の面積が素子表面全体の80%より少なくなり、ESD耐性は維持されるが、光取り出し効率が急速に低下してしまい光出力が大幅に低下してしまう。そのため、エッチング取り代は0.12μm以下とする。
【0017】
ここで、前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸が体積比30%以上の主成分で、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液を用いる工程とすることができる。
このように、第二のエッチング工程で用いる等方性エッチング液を、硫酸を体積比30%以上の主成分とし、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液とすることで、第二のエッチング工程でのエッチング取り代を確実に0.12μm以下とすることができる。
【0018】
また、前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水が体積割合で1〜30:1:1のエッチング液を用いる工程とすることができる。
このように、硫酸、過酸化水素水、水からなり、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水が体積割合で1〜30:1:1のエッチング液を第二のエッチング工程で用いることによっても、確実にエッチング取り代を0.12μm以下とすることができる。
【0019】
そして、前記第二のエッチング工程は、エッチング時間が1分以内の工程とすることが好ましい。
このように、エッチング時間を1分以内とすることによって、更に高輝度で、かつESD耐性が更に向上した発光素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のように高輝度粗面化処理と静電気に対する耐性を向上させることができる処理を行うことで、素子チップの結晶表面を粗面化させて光出力ないし発光量を大幅に向上させ、かつ湿度等の環境による静電気での破損による素子の故障をも低減させることができる発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フロー図である。
【図2】本発明の発光素子の製造方法の製造過程における発光素子ウェーハの概略を示した図である。
【図3】本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaAs基板及びGaAsバッファ層が除去された発光素子ウェーハの概略を示した図である。
【図4】本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaP透明基板層が形成された発光素子ウェーハの概略を示した図である。
【図5】本発明の発光素子の概略の一例を示した図である。
【図6】図5の発光素子の表面部Aでの第二のエッチング工程前後の突起の形状の変化を示した図である。
【図7】図5の発光素子の側面部B,Cでの第二のエッチング工程前後の突起の形状の変化を示した図である。
【図8】第二のエッチング工程前の発光素子チップの表面の状態を観察した写真である。
【図9】第二のエッチング工程後の発光素子チップの表面の状態を観察した写真である。
【図10】比較例4の発光素子の表面の状態を観察した写真である。
【図11】実施例1と比較例2の発光素子の順方向電流と順方向電圧の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、発光素子表面を粗面化して光出力を向上させるとともに、静電気による故障発生率を低減させた発光素子の製造方法の開発が待たれていた。
【0023】
そこで、本発明者は、発光素子の表面を粗面化することで得られる高輝度を維持しつつ、静電気破壊のない発光素子の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、異方性エッチング液で粗面化エッチングした後に、僅かな取り代での等方性エッチングを行ってエッチング取り代を0.12μm以下とすることで、発光効率をそれほど低下させることなく静電気破壊による故障率を大幅に低下させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フロー図である。図2は本発明の発光素子の製造方法の製造過程における発光素子ウェーハの概略、図3は本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaAs基板及びGaAsバッファ層が除去された発光素子ウェーハの概略、図4は本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaP透明基板層が形成された発光素子ウェーハの概略、図5は本発明の発光素子の概略の一例を示した図である。
【0025】
まず、図1の工程1に示すように、成長用基板として、n型のGaAs単結晶基板を用意する。
【0026】
次に、図1の工程2及び図2に示すように、そのGaAs単結晶基板11の主表面に、n型GaAsバッファ層12を例えば厚さ0.5μmでエピタキシャル成長させ、次いで、n型接続層13をエピタキシャル成長させる。
その後、発光層17として、各々(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)よりなる、厚さ1μmのn型クラッド層14(n型ドーパントはSi)を第一導電型クラッド層としてエピタキシャル成長させる。次に、厚さ0.6μmの活性層15(ノンドープ)をエピタキシャル成長させ、その後、厚さ1μmのp型クラッド層16(p型ドーパントはMg:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)を第二導電型クラッド層としてこの順序にてエピタキシャル成長させる。
ここで、p型クラッド層16とn型クラッド層14との各ドーパント濃度は、例えば1×1017/cm3以上2×1018/cm3以下とすることができる。
また、第一導電型クラッド層、活性層、第二導電型クラッド層は、このようにダブルヘテロ構造とする。
【0027】
さらに、図1の工程3に示すように、p型クラッド層16上にp型接続層18をエピタキシャル成長させる。
【0028】
上記各層のエピタキシャル成長は、公知のMOVPE法により行う事ができる。
Al、Ga、In(インジウム)、P(リン)の各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用することができる。
Al源ガス;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など、
Ga源ガス;トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など、
In源ガス;トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など、
P源ガス;トリメチルリン(TMP)、トリエチルリン(TEP)、ホスフィン(PH3)などが挙げられる。
【0029】
次いで、図1の工程4に進み、透明半導体層として、p型GaPよりなるGaP光取り出し層19を、HVPE法により成長させる。この時、気相成長させるGaP光取り出し層19の膜厚は10μm以上となるようにする。これはGaP光取り出し層が厚さ10μm以上に形成されている場合、その側面を粗面化することにより、GaP光取り出し層の厚さ増大によって側面の面積が増大していることとも相俟って、素子の光取り出し効率を大幅に高めることができるためである。
【0030】
このHVPE法は、具体的には、容器内にてIII族元素であるGaを所定の温度に加熱保持しながら、そのGa上に塩化水素を導入することにより、下記(1)式の反応によりGaClを生成させ、キャリアガスであるH2ガスとともに基板上に供給する。
Ga(液体)+HCl(気体) → GaCl(気体)+1/2H2‥‥(1)
成長温度は例えば640℃以上860℃以下に設定する。また、V族元素であるPは、PH3をキャリアガスであるH2とともに基板上に供給する。さらに、p型ドーパントであるZnは、DMZn(ジメチルZn)の形で供給する。GaClはPH3との反応性に優れ、下記(2)式の反応により、効率よくGaP光取り出し層を成長させることができる。
GaCl(気体)+PH3(気体)
→GaP(固体)+HCl(気体)+H2(気体)‥‥(2)
この段階で図2に示す発光素子ウェーハ20となる。
【0031】
GaP光取り出し層19の成長が終了したら、図1の工程5に進み、図3に示すようにGaAs基板11およびGaAsバッファ層12を、例えばアンモニア/過酸化水素混合液などのエッチング液を用いて化学エッチングすることにより除去する。
【0032】
そして、図1の工程6に進み、図4に示すように、GaAs基板11およびGaAsバッファ層12が除去された発光層17の第二主表面側(n型接続層13の第二主表面)に、別途用意されたn型GaP単結晶基板を貼り合わせてGaP透明基板層21とする。
ここで、このGaP透明基板層21の形成は、HVPE法によるエピタキシャル成長によって形成することもできる。
【0033】
以上の工程が終了すれば、図1の工程7及び図5に示すように、スパッタリングや真空蒸着法により、GaP光取り出し層19の第一主表面(p型接続層18とは反対側の表面)及びGaP透明基板層21の第二主表面(n型接続層13とは反対側の表面)に、接合合金化層形成用の金属層をそれぞれ形成し、さらに合金化の熱処理(いわゆるシンター処理)を行うことにより、接合合金化層24a、25aとする。そして、これら接合合金化層をそれぞれ覆うように、光取り出し領域側電極24及び裏面電極25を形成し、発光素子用ウェーハとする。
【0034】
続いて、工程8に示すように、GaP光取り出し層19の主光取り出し領域((100)主表面)に、面粗し用エッチング液を用いて異方性エッチングを施し、図6に示すような面粗し突起部22aを形成する事が望ましい。
この面粗し用エッチング液の組成は、後述する第一のエッチング液と同様の組成のエッチング液を用いることができる。
【0035】
次に、主光取り出し領域への面粗し突起部の形成が終了すれば、工程9に示すように、2つの<100>方向に沿って、発光素子用ウェーハの第一主表面側からダイシング刃により溝を形成する形で、個々のチップ領域にダイシングして、発光素子チップとする。
ここで、ダイシングの向きを<100>方向とすることによって、チップ領域のエッジに沿った割れや欠けが生じ難くなるため、<100>方向とすることが望ましい。
【0036】
また該ダイシング時には、結晶欠陥密度の比較的高い加工ダメージ層がダイシングによって露出した側面部に形成される。
この加工ダメージ層に含まれる多数の結晶欠陥は、発光通電時において電流リークや輝度の劣化となるため、工程10に示すように、該加工ダメージ層を、ダメージ層除去用エッチング液を用いた化学エッチングにより除去することが望ましい。
【0037】
このダメージ層除去用エッチング液としては、例えば硫酸−過酸化水素水溶液を使用することができる。またこのダメージ層除去用エッチング液としては、例えば硫酸:過酸化水素:水の質量配合比率が3:1:1のものを使用でき、液温は40℃以上60℃以下に調整され、6分程度のエッチングを必要とするものとすることができる。
このダイシングのダメージ層除去用エッチングを第一のエッチング工程後に行った場合、表面が鏡面になってしまうため、このダメージ層除去用エッチングは必ず第一のエッチング工程より前に行う必要がある。
【0038】
その後、工程11に示すように、加工ダメージ層を除去したチップの表面及び側面に、面粗し用の第一のエッチング液を接触させ、GaP光取り出し層19の表面や側面及びGaP透明基板層21の側面を異方性エッチングして面粗し突起部23aを形成する第一のエッチング工程を行う(図7参照)。
この第一のエッチング液の組成は、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素との合計質量含有率が水の質量含有率よりも高いものとする。例えば、酢酸81.7質量%、弗酸5質量%、硝酸5質量%、ヨウ素0.3質量%であり、水の含有率を8質量%に留めたものを用いることができる。また、液温は50℃、エッチング時間は120秒とすることができる。
なお、本実施形態では、発光素子ウェーハを、粘着シートを介して基材に貼り付け、その状態で発光素子ウェーハをフルダイシングしており、GaP透明基板層21の側面にも面粗し突起部23aが形成される。
【0039】
この面粗し用の第一のエッチング液の組成は、更に具体的には、
酢酸(CH3COOH換算):37.4質量%以上94.8質量%以下、
弗酸(HF換算):0.4質量%以上14.8質量%以下、
硝酸(HNO3換算):1.3質量%以上14.7質量%以下、
ヨウ素(I2換算):0.12質量%以上0.84質量%以下、
の範囲で含有し、かつ、水の含有量が2.4質量%以上45質量%以下のものを用いることが望ましい。より望ましくは、
酢酸(CH3COOH換算):45.8質量%以上94.8質量%以下、
弗酸(HF換算):0.5質量%以上14.8質量%以下、
硝酸(HNO3換算):1.6質量%以上14.7質量%以下、
ヨウ素(I2換算):0.15質量%以上0.84質量%以下、
の範囲で含有し、かつ、水の含有量が2.4質量%以上32.7質量%以下のものを採用することがより望ましい。液温は40℃以上60℃以下が適当である。
なお、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水との合計を100質量%から差し引いた残部は、GaPに対する異方性エッチング効果が損なわれない範囲内で、他の成分(例えば酢酸以外のカルボン酸等)で占められていてもよい。
【0040】
この第一のエッチングを行うことで、発光素子チップの表面及び側面には、図6,7に示すような、大きさが0.3〜10μmの突起部22a、23aが形成される。図8は第一のエッチング後のp型GaP層の状態を示す写真である。
【0041】
なお、側面への面粗し突起部23aの形成時のエッチングの影響を、既に面粗し突起部22aを形成済みの主表面側の光取り出し領域に及ぼしたくないときは、主表面側の光取り出し領域をエッチングレジストによりマスキングしておくとよい。
主表面側の光取り出し領域への面粗し突起部の形成前に先にダイシングを行い、主表面側の光取り出し領域と側面側の光取り出し領域とに一括して面粗し突起部22a、23aを形成することもできる。
【0042】
次に、工程12に示すように、GaP光取り出し層19の主面、側面およびGaP透明基板層21の側面に、第二のエッチングである等方性エッチングを施す。
このエッチングは、エッチング取り代が0.12μmより多い場合、面粗し突起部の面積が減少して最終的には鏡面になってしまい、粗面化によって得られた高い発光出力が得られなくなってしまうため、エッチング取り代を0.12μm以下とする。
【0043】
ここで、この等方性エッチング液としては、硫酸−過酸化水素水溶液を使用することができる。例えば、該水溶液の具体的な組成としては、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水の体積割合で、1〜30:1:1のエッチング液とすることができる。
また、硫酸を体積比30%以上の主成分とし、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液を用いることもできる。
このような組成のエッチング液を用いることによって、第二のエッチング工程でのエッチング取り代を確実に0.12μm以下とすることができる。
【0044】
この第二のエッチングを行うことで、図6、図7に示すようにGaP光取り出し層19の主面、側面およびGaP透明基板層21の側面における面粗し突起部(22a,23a)がエッチングされて22b,23bとなり、面粗し突起部の総面積が減少する。
しかし、エッチング取り代が0.12μm以下、すなわち面粗し突起部の面積が表面全体の80%以上となるようなエッチングを行うことで、発光出力を低下させることなく、静電気破壊による故障率を低減することができる。尚、面粗し突起部の面積が表面全体の80%以上とは、突起部の底面積が全表面積に占める割合が80%以上となることを表すものである。
また、本発明におけるエッチング取り代が0.12μm以下とは、粗面化された表面をエッチングした時の取り代を直接測定することは困難であることから、平坦な表面をエッチングした時の表面からのエッチング代が0.12μm以下となる条件でエッチングすることを意味する。
【0045】
ここで、エッチング時間を1分以内とすることができる。
そしてこれによって、第二のエッチング工程におけるエッチング代を、確実に0.12μm以下、つまりエッチング後に残留する突起部の面積が表面全体の80%以上とすることができる。
【0046】
ここで、図9に硫酸:過酸化水素:水の質量配合比率が20:1:1の水溶液で30秒間の第二のエッチングを行った場合の発光素子チップの表面の写真を示す。
図8に示すような第二のエッチング前の表面に比べて、若干凹凸の形状が変化しているのが判る。
【0047】
その後、分離後の発光素子チップに対して、第二主表面側(裏面電極25の表面)をAgペースト層を介して金属ステージに接着し、さらに、光取り出し側電極にボンディングワイヤ26を接続し、さらにエポキシ樹脂からなる図示しないモールド部を形成すれば、図5に示すような発光素子10が完成する。
【0048】
以上説明したような本発明の発光素子の製造方法によれば、GaP光取り出し層の表面や側面、GaP透明基板層の側面に、光の取り出し効率を向上させるための面粗し突起部が顕著に形成された発光素子が得られる。従って、発光層で発光した光の取り出し効率が向上した発光素子を得ることができる。また、表面の粗さをある程度保った状態で、ESD耐性を向上させた発光素子を製造することができる。
【0049】
以上、透明半導体層としてGaPを形成する場合を説明したが、この透明半導体層はGaAsPとすることもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1,2、比較例1−4)
図1の製造フロー図の工程10までは全て同じで発光素子を製造し、フッ酸、硝酸、ヨウ素、酢酸からなる粗面化エッチング(第一のエッチングおよび第二のエッチング)を行わないもの(比較例1)、第一のエッチングのみ行ったもの(比較例2)、また、粗面化エッチングの後、硫酸:過酸化水素:水が20:1:1、液温50℃のエッチング液で取り代が0.08μm、0.12μm、0.26μm、0.55μm(すなわちエッチング時間を30秒、1分、2分、5分、それぞれ実施例1,2、比較例3,4)の第2のエッチング工程を行った発光素子を製造した。
そして上記6種類の発光素子に対してESD試験、発光出力、表面の突起部密度を調べた。その結果を表1に示す。
【0051】
ここでESD試験は、順方向に電圧を印加した後に、逆方向に印加し、それを5回繰り返した。放電方式は、EIAJED4701/300の試験方法304(Human body model electro static discharge)であり、試験はそれに準拠して作られたLEDテスターを用いた。
試験における発光素子の状態は、結晶の表面を保護するための樹脂のない状態、すなわち結晶がむき出しのままの発光素子チップを、TO−18(Au鍍金品)にエポキシ銀ペーストでダイボンドし、金ワイヤーで表面の電極に超音波ボンダーで結線した。また、発光出力は粗面化エッチングを行わない比較例1の発光素子の発光出力を100%とした場合の相対値で示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、等方性エッチング液による第二のエッチング工程を行い、当該エッチング工程でのエッチング取り代を0.12μm以下、すなわち突起部の底面積が全表面積に占める割合が80%以上となるようにした場合、ESD故障率は顕著に低下しており、光出力も第一のエッチング工程のみを行った発光素子に比べてほとんど低下していないことが判った。
これに対し第一のエッチングのみ行った発光素子(比較例2)は、第一のエッチングを行っていない発光素子(比較例1)に比べて光出力が十分に高いものの、ESDが非常に悪く、静電気による故障が多く発生するものと考えられ、実用化できるものは得られなかった。
更に第2エッチングでのエッチング代が0.26μm(比較例3)、0.55μm(比較例4)の発光素子は、ESDも実施例に比べ劣る上に、光出力が実施例1,2の発光素子に比べて小さく、粗面化の効果が大幅に減ぜられていることが判った。
【0054】
また、同じ水溶液で5分間エッチングして、エッチング取り代を0.55μmとした比較例4の発光素子チップ表面の写真を図10に示す。このように、長時間エッチングすると、突起部がエッチングにより小さくなり、突起部間の平坦な部分が増加していることが判った。すなわち、平坦化部分が大きくなると、光の取り出し効率が低下し、光出力が低下する事が判った。
【0055】
更に、図11に、ESD故障品(比較例2)と良品(実施例1)の順方向電流に対する順方向電圧の特性を示す。
図11に示すように、故障した比較例2の発光素子は、1mA以下の領域で漏れ電流が発生していることが判った。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
10…発光素子、
11…n型GaAs単結晶基板、 12…n型GaAsバッファ層、 13…n型接続層、 14…第一導電型クラッド層(n型クラッド層)、 15…活性層、 16…第二導電型クラッド層(p型クラッド層)、 17…発光層、 18…p型接続層、 19…透明半導体層(GaP光取り出し層)、 20…発光素子ウェーハ、 21…GaP透明基板層、 22a,22b…、面粗し突起部(表面) 23a,23b…、面粗し突起部(側面) 24…光取り出し領域側電極、 24a…接合合金化層、 25…裏面電極、 25a…接合合金化層、 26…ボンディングワイヤ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関し、具体的には、高輝度且つ静電気に対する耐性の高い発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(AlxGa1−x)yIn1−yP混晶(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1;以下、AlGaInP混晶、あるいは単にAlGaInPとも記載する)により発光層部が形成された発光素子は、薄いAlGaInP活性層を、それよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を採用することにより、例えば緑色から赤色までの広い波長域にわたって高輝度の素子を実現できる。
【0003】
ここで、発光層部への通電は、素子表面に形成された金属電極を介して行われる。しかし金属電極は遮光体として作用するため、例えば発光層部の第一主表面を主表面の中央部のみを覆う形で形成され、その周囲の電極非形成領域から光を取り出すようにする。
この場合、金属電極の面積をなるべく小さくしたほうが、電極の周囲に形成される光取り出し領域の面積を大きくできるので、光取り出し効率を向上させる観点において有利である。
【0004】
従来、電極形状の工夫により、素子内に効果的に電流を拡げて光取り出し量を増加させる試みがなされているが、この場合も電極面積の増大はいずれにしろ避けがたく、従って光取り出し領域の面積の減少により却って光取り出し量が制限されるジレンマに陥っている。
【0005】
また、クラッド層のドーパントのキャリア濃度、ひいては導電率は、活性層内でのキャリアの発光再結合を最適化するために多少低めに抑えられており、面内方向には電流が広がりにくい傾向がある。これは、電極被覆領域に電流密度が集中し、光取り出し領域における実質的な光取り出し量が低下してしまうことにつながる。
【0006】
そこで、クラッド層と電極との間に、クラッド層よりもドーパント濃度を高めた低抵抗率のGaP光取り出し層を形成する方法が採用されている。
このGaP光取り出し層は、一定以上に厚みを増加させた光取り出し層として形成すれば、素子面内の電流拡散効果が向上するばかりでなく、層側面からの光取り出し量も増加するので、光取り出し効率をより高めることができるようになる。
光取り出し層は、発光光束を効率よく透過させ、光取り出し効率を高めることができるよう、発光光束の光量子エネルギーよりもバンドギャップエネルギーの大きい化合物半導体で形成する必要がある。特にGaPはバンドギャップエネルギーが大きく発光光束の吸収が小さいので、AlGaInP系発光素子の光取り出し層として多用されている。
【0007】
また、発光層部の成長に用いるGaAs基板は、光吸収性基板(つまり不透明基板)なので、発光層部の成長後にGaAs基板を研削やエッチングで取り除き、代わりにGaP透明基板層を、GaP単結晶基板の貼り合わせや気相成長法により形成することも行われている。
また古くから、透明性の高いGaP基板に、GaP発光層、その上に30〜100μm程度の取り出し層としてのGaPエピタキシャル層を気相成長させ、取り出し効率を高めてきた。
【0008】
同様にAlGaInPの発光ダイオードにおいても、発光層部の第二主表面側の不透明基板がGaP透明基板層で置き換わり、その透明基板の側面からも光が取り出せるようになるし、該GaP透明基板の第二主表面側で反射層や電極により光を反射させ、その反射光を第一主表面側からの直接光束と合わせて取り出すこともできるので、素子全体の光取り出し効率を高めることができる。以下、GaP光取り出し層やGaP透明基板層を総称する概念を、GaP透明半導体層と称する。
【0009】
しかしながら、このように透明性の高い結晶を発光層の上下両側または一方に配しても、表面での多重反射などで、内部で吸収され外部に光が出にくくなる現象が発生することがある。
これを改善するために、特許文献1においては、発光素子の表面を粗面化し、取り出し効率を上げる方法を提供している。この効果としては、10%以上の発光量の増加が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−317664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、現在では、発光素子は、家電のみならず、屋外でディスプレイ、自動車、二輪車などにも用いられるが、環境によっては、劣化が誘発される。
そのひとつとして静電気による発光素子の故障がある。ひとたび静電気による素子の破壊が発生すると、逆方向、順方向の電流のリークの発生、逆方向電圧の低下などが発生し、無効電流が増加し発光出力は低下する。ときには全く発光しなくなる場合もある。
【0012】
そして上述の特許文献1に記載された粗面化された発光素子は、粗面化されていない発光素子に比べて静電気による素子の破壊が多くなることが判った。
本発明者が、粗面化された特許文献1の発光素子のESD試験を行ったところ、1000V程度の耐圧はあるものの、冬場、人間の衣類などで発生する静電気は3000V程度あることが知られている。そのため、3000V程度の静電気にも耐えうる発光素子が求められる。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、発光素子表面を粗面化して光出力を向上させるとともに、静電気による故障発生率を低減させた発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明では、組成式(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)にて表される化合物のうち、GaAsと格子整合する組成を有する化合物にて各々構成された第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序で積層されたダブルへテロ構造を有し、前記第二導電型クラッド層上に積層された厚さ10μm以上のGaPまたはGaAsPの透明半導体層とを有する発光素子ウェーハをダイシングすることで発光素子チップを形成し、該発光素子チップ表面を、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、前記酢酸と前記弗酸と前記硝酸と前記ヨウ素との合計質量含有率が前記水の質量含有率よりも高い第一のエッチング液にて第一のエッチング工程を行い、その後、等方性エッチング液を用いて前記発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下の第二のエッチング工程を行うことを特徴とする発光素子の製造方法を提供する。
【0015】
このように、まず発光素子チップの表面を、結晶方位依存性のある酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水からなる第一のエッチング液をGaP透明半導体層の表面や側面、GaP透明基板層の側面に接触させることで、異方性エッチング的な原理による凹凸の形成を顕著に進行させることができる。そしてその結果、GaP透明半導体層の表面や側面、GaP透明基板層の側面が面粗して突起部が顕著に形成された発光素子が得られる。これにより発光層で発光した光の取り出し効率を向上させることができ、発光素子の光出力を高めることができる。
ここで、第一のエッチング液における酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水の合計は90質量%以上とする必要がある。これ以下の含有率では面粗させて突起部を効率良く形成できない。また、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素との合計質量含有率が水の質量含有率より低くなっても、同様に面粗させた突起部を効率良く形成できない。
【0016】
その後、結晶方位依存性のない等方性エッチング液で、発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下であるエッチングを行う。これによって、表面の粗さをある程度保った状態でESD(Electro Static Discharge:静電気破壊)耐性を向上させた発光素子を製造することができる。また、粗面化の状態を維持させることができるため、光出力も高い状態を保つことができる。
エッチング取り代が0.12μmより大きいと、発光素子表面に形成された突起部の面積が素子表面全体の80%より少なくなり、ESD耐性は維持されるが、光取り出し効率が急速に低下してしまい光出力が大幅に低下してしまう。そのため、エッチング取り代は0.12μm以下とする。
【0017】
ここで、前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸が体積比30%以上の主成分で、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液を用いる工程とすることができる。
このように、第二のエッチング工程で用いる等方性エッチング液を、硫酸を体積比30%以上の主成分とし、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液とすることで、第二のエッチング工程でのエッチング取り代を確実に0.12μm以下とすることができる。
【0018】
また、前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水が体積割合で1〜30:1:1のエッチング液を用いる工程とすることができる。
このように、硫酸、過酸化水素水、水からなり、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水が体積割合で1〜30:1:1のエッチング液を第二のエッチング工程で用いることによっても、確実にエッチング取り代を0.12μm以下とすることができる。
【0019】
そして、前記第二のエッチング工程は、エッチング時間が1分以内の工程とすることが好ましい。
このように、エッチング時間を1分以内とすることによって、更に高輝度で、かつESD耐性が更に向上した発光素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のように高輝度粗面化処理と静電気に対する耐性を向上させることができる処理を行うことで、素子チップの結晶表面を粗面化させて光出力ないし発光量を大幅に向上させ、かつ湿度等の環境による静電気での破損による素子の故障をも低減させることができる発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フロー図である。
【図2】本発明の発光素子の製造方法の製造過程における発光素子ウェーハの概略を示した図である。
【図3】本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaAs基板及びGaAsバッファ層が除去された発光素子ウェーハの概略を示した図である。
【図4】本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaP透明基板層が形成された発光素子ウェーハの概略を示した図である。
【図5】本発明の発光素子の概略の一例を示した図である。
【図6】図5の発光素子の表面部Aでの第二のエッチング工程前後の突起の形状の変化を示した図である。
【図7】図5の発光素子の側面部B,Cでの第二のエッチング工程前後の突起の形状の変化を示した図である。
【図8】第二のエッチング工程前の発光素子チップの表面の状態を観察した写真である。
【図9】第二のエッチング工程後の発光素子チップの表面の状態を観察した写真である。
【図10】比較例4の発光素子の表面の状態を観察した写真である。
【図11】実施例1と比較例2の発光素子の順方向電流と順方向電圧の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、発光素子表面を粗面化して光出力を向上させるとともに、静電気による故障発生率を低減させた発光素子の製造方法の開発が待たれていた。
【0023】
そこで、本発明者は、発光素子の表面を粗面化することで得られる高輝度を維持しつつ、静電気破壊のない発光素子の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、異方性エッチング液で粗面化エッチングした後に、僅かな取り代での等方性エッチングを行ってエッチング取り代を0.12μm以下とすることで、発光効率をそれほど低下させることなく静電気破壊による故障率を大幅に低下させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フロー図である。図2は本発明の発光素子の製造方法の製造過程における発光素子ウェーハの概略、図3は本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaAs基板及びGaAsバッファ層が除去された発光素子ウェーハの概略、図4は本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaP透明基板層が形成された発光素子ウェーハの概略、図5は本発明の発光素子の概略の一例を示した図である。
【0025】
まず、図1の工程1に示すように、成長用基板として、n型のGaAs単結晶基板を用意する。
【0026】
次に、図1の工程2及び図2に示すように、そのGaAs単結晶基板11の主表面に、n型GaAsバッファ層12を例えば厚さ0.5μmでエピタキシャル成長させ、次いで、n型接続層13をエピタキシャル成長させる。
その後、発光層17として、各々(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)よりなる、厚さ1μmのn型クラッド層14(n型ドーパントはSi)を第一導電型クラッド層としてエピタキシャル成長させる。次に、厚さ0.6μmの活性層15(ノンドープ)をエピタキシャル成長させ、その後、厚さ1μmのp型クラッド層16(p型ドーパントはMg:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)を第二導電型クラッド層としてこの順序にてエピタキシャル成長させる。
ここで、p型クラッド層16とn型クラッド層14との各ドーパント濃度は、例えば1×1017/cm3以上2×1018/cm3以下とすることができる。
また、第一導電型クラッド層、活性層、第二導電型クラッド層は、このようにダブルヘテロ構造とする。
【0027】
さらに、図1の工程3に示すように、p型クラッド層16上にp型接続層18をエピタキシャル成長させる。
【0028】
上記各層のエピタキシャル成長は、公知のMOVPE法により行う事ができる。
Al、Ga、In(インジウム)、P(リン)の各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用することができる。
Al源ガス;トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など、
Ga源ガス;トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など、
In源ガス;トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など、
P源ガス;トリメチルリン(TMP)、トリエチルリン(TEP)、ホスフィン(PH3)などが挙げられる。
【0029】
次いで、図1の工程4に進み、透明半導体層として、p型GaPよりなるGaP光取り出し層19を、HVPE法により成長させる。この時、気相成長させるGaP光取り出し層19の膜厚は10μm以上となるようにする。これはGaP光取り出し層が厚さ10μm以上に形成されている場合、その側面を粗面化することにより、GaP光取り出し層の厚さ増大によって側面の面積が増大していることとも相俟って、素子の光取り出し効率を大幅に高めることができるためである。
【0030】
このHVPE法は、具体的には、容器内にてIII族元素であるGaを所定の温度に加熱保持しながら、そのGa上に塩化水素を導入することにより、下記(1)式の反応によりGaClを生成させ、キャリアガスであるH2ガスとともに基板上に供給する。
Ga(液体)+HCl(気体) → GaCl(気体)+1/2H2‥‥(1)
成長温度は例えば640℃以上860℃以下に設定する。また、V族元素であるPは、PH3をキャリアガスであるH2とともに基板上に供給する。さらに、p型ドーパントであるZnは、DMZn(ジメチルZn)の形で供給する。GaClはPH3との反応性に優れ、下記(2)式の反応により、効率よくGaP光取り出し層を成長させることができる。
GaCl(気体)+PH3(気体)
→GaP(固体)+HCl(気体)+H2(気体)‥‥(2)
この段階で図2に示す発光素子ウェーハ20となる。
【0031】
GaP光取り出し層19の成長が終了したら、図1の工程5に進み、図3に示すようにGaAs基板11およびGaAsバッファ層12を、例えばアンモニア/過酸化水素混合液などのエッチング液を用いて化学エッチングすることにより除去する。
【0032】
そして、図1の工程6に進み、図4に示すように、GaAs基板11およびGaAsバッファ層12が除去された発光層17の第二主表面側(n型接続層13の第二主表面)に、別途用意されたn型GaP単結晶基板を貼り合わせてGaP透明基板層21とする。
ここで、このGaP透明基板層21の形成は、HVPE法によるエピタキシャル成長によって形成することもできる。
【0033】
以上の工程が終了すれば、図1の工程7及び図5に示すように、スパッタリングや真空蒸着法により、GaP光取り出し層19の第一主表面(p型接続層18とは反対側の表面)及びGaP透明基板層21の第二主表面(n型接続層13とは反対側の表面)に、接合合金化層形成用の金属層をそれぞれ形成し、さらに合金化の熱処理(いわゆるシンター処理)を行うことにより、接合合金化層24a、25aとする。そして、これら接合合金化層をそれぞれ覆うように、光取り出し領域側電極24及び裏面電極25を形成し、発光素子用ウェーハとする。
【0034】
続いて、工程8に示すように、GaP光取り出し層19の主光取り出し領域((100)主表面)に、面粗し用エッチング液を用いて異方性エッチングを施し、図6に示すような面粗し突起部22aを形成する事が望ましい。
この面粗し用エッチング液の組成は、後述する第一のエッチング液と同様の組成のエッチング液を用いることができる。
【0035】
次に、主光取り出し領域への面粗し突起部の形成が終了すれば、工程9に示すように、2つの<100>方向に沿って、発光素子用ウェーハの第一主表面側からダイシング刃により溝を形成する形で、個々のチップ領域にダイシングして、発光素子チップとする。
ここで、ダイシングの向きを<100>方向とすることによって、チップ領域のエッジに沿った割れや欠けが生じ難くなるため、<100>方向とすることが望ましい。
【0036】
また該ダイシング時には、結晶欠陥密度の比較的高い加工ダメージ層がダイシングによって露出した側面部に形成される。
この加工ダメージ層に含まれる多数の結晶欠陥は、発光通電時において電流リークや輝度の劣化となるため、工程10に示すように、該加工ダメージ層を、ダメージ層除去用エッチング液を用いた化学エッチングにより除去することが望ましい。
【0037】
このダメージ層除去用エッチング液としては、例えば硫酸−過酸化水素水溶液を使用することができる。またこのダメージ層除去用エッチング液としては、例えば硫酸:過酸化水素:水の質量配合比率が3:1:1のものを使用でき、液温は40℃以上60℃以下に調整され、6分程度のエッチングを必要とするものとすることができる。
このダイシングのダメージ層除去用エッチングを第一のエッチング工程後に行った場合、表面が鏡面になってしまうため、このダメージ層除去用エッチングは必ず第一のエッチング工程より前に行う必要がある。
【0038】
その後、工程11に示すように、加工ダメージ層を除去したチップの表面及び側面に、面粗し用の第一のエッチング液を接触させ、GaP光取り出し層19の表面や側面及びGaP透明基板層21の側面を異方性エッチングして面粗し突起部23aを形成する第一のエッチング工程を行う(図7参照)。
この第一のエッチング液の組成は、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素との合計質量含有率が水の質量含有率よりも高いものとする。例えば、酢酸81.7質量%、弗酸5質量%、硝酸5質量%、ヨウ素0.3質量%であり、水の含有率を8質量%に留めたものを用いることができる。また、液温は50℃、エッチング時間は120秒とすることができる。
なお、本実施形態では、発光素子ウェーハを、粘着シートを介して基材に貼り付け、その状態で発光素子ウェーハをフルダイシングしており、GaP透明基板層21の側面にも面粗し突起部23aが形成される。
【0039】
この面粗し用の第一のエッチング液の組成は、更に具体的には、
酢酸(CH3COOH換算):37.4質量%以上94.8質量%以下、
弗酸(HF換算):0.4質量%以上14.8質量%以下、
硝酸(HNO3換算):1.3質量%以上14.7質量%以下、
ヨウ素(I2換算):0.12質量%以上0.84質量%以下、
の範囲で含有し、かつ、水の含有量が2.4質量%以上45質量%以下のものを用いることが望ましい。より望ましくは、
酢酸(CH3COOH換算):45.8質量%以上94.8質量%以下、
弗酸(HF換算):0.5質量%以上14.8質量%以下、
硝酸(HNO3換算):1.6質量%以上14.7質量%以下、
ヨウ素(I2換算):0.15質量%以上0.84質量%以下、
の範囲で含有し、かつ、水の含有量が2.4質量%以上32.7質量%以下のものを採用することがより望ましい。液温は40℃以上60℃以下が適当である。
なお、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水との合計を100質量%から差し引いた残部は、GaPに対する異方性エッチング効果が損なわれない範囲内で、他の成分(例えば酢酸以外のカルボン酸等)で占められていてもよい。
【0040】
この第一のエッチングを行うことで、発光素子チップの表面及び側面には、図6,7に示すような、大きさが0.3〜10μmの突起部22a、23aが形成される。図8は第一のエッチング後のp型GaP層の状態を示す写真である。
【0041】
なお、側面への面粗し突起部23aの形成時のエッチングの影響を、既に面粗し突起部22aを形成済みの主表面側の光取り出し領域に及ぼしたくないときは、主表面側の光取り出し領域をエッチングレジストによりマスキングしておくとよい。
主表面側の光取り出し領域への面粗し突起部の形成前に先にダイシングを行い、主表面側の光取り出し領域と側面側の光取り出し領域とに一括して面粗し突起部22a、23aを形成することもできる。
【0042】
次に、工程12に示すように、GaP光取り出し層19の主面、側面およびGaP透明基板層21の側面に、第二のエッチングである等方性エッチングを施す。
このエッチングは、エッチング取り代が0.12μmより多い場合、面粗し突起部の面積が減少して最終的には鏡面になってしまい、粗面化によって得られた高い発光出力が得られなくなってしまうため、エッチング取り代を0.12μm以下とする。
【0043】
ここで、この等方性エッチング液としては、硫酸−過酸化水素水溶液を使用することができる。例えば、該水溶液の具体的な組成としては、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水の体積割合で、1〜30:1:1のエッチング液とすることができる。
また、硫酸を体積比30%以上の主成分とし、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液を用いることもできる。
このような組成のエッチング液を用いることによって、第二のエッチング工程でのエッチング取り代を確実に0.12μm以下とすることができる。
【0044】
この第二のエッチングを行うことで、図6、図7に示すようにGaP光取り出し層19の主面、側面およびGaP透明基板層21の側面における面粗し突起部(22a,23a)がエッチングされて22b,23bとなり、面粗し突起部の総面積が減少する。
しかし、エッチング取り代が0.12μm以下、すなわち面粗し突起部の面積が表面全体の80%以上となるようなエッチングを行うことで、発光出力を低下させることなく、静電気破壊による故障率を低減することができる。尚、面粗し突起部の面積が表面全体の80%以上とは、突起部の底面積が全表面積に占める割合が80%以上となることを表すものである。
また、本発明におけるエッチング取り代が0.12μm以下とは、粗面化された表面をエッチングした時の取り代を直接測定することは困難であることから、平坦な表面をエッチングした時の表面からのエッチング代が0.12μm以下となる条件でエッチングすることを意味する。
【0045】
ここで、エッチング時間を1分以内とすることができる。
そしてこれによって、第二のエッチング工程におけるエッチング代を、確実に0.12μm以下、つまりエッチング後に残留する突起部の面積が表面全体の80%以上とすることができる。
【0046】
ここで、図9に硫酸:過酸化水素:水の質量配合比率が20:1:1の水溶液で30秒間の第二のエッチングを行った場合の発光素子チップの表面の写真を示す。
図8に示すような第二のエッチング前の表面に比べて、若干凹凸の形状が変化しているのが判る。
【0047】
その後、分離後の発光素子チップに対して、第二主表面側(裏面電極25の表面)をAgペースト層を介して金属ステージに接着し、さらに、光取り出し側電極にボンディングワイヤ26を接続し、さらにエポキシ樹脂からなる図示しないモールド部を形成すれば、図5に示すような発光素子10が完成する。
【0048】
以上説明したような本発明の発光素子の製造方法によれば、GaP光取り出し層の表面や側面、GaP透明基板層の側面に、光の取り出し効率を向上させるための面粗し突起部が顕著に形成された発光素子が得られる。従って、発光層で発光した光の取り出し効率が向上した発光素子を得ることができる。また、表面の粗さをある程度保った状態で、ESD耐性を向上させた発光素子を製造することができる。
【0049】
以上、透明半導体層としてGaPを形成する場合を説明したが、この透明半導体層はGaAsPとすることもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1,2、比較例1−4)
図1の製造フロー図の工程10までは全て同じで発光素子を製造し、フッ酸、硝酸、ヨウ素、酢酸からなる粗面化エッチング(第一のエッチングおよび第二のエッチング)を行わないもの(比較例1)、第一のエッチングのみ行ったもの(比較例2)、また、粗面化エッチングの後、硫酸:過酸化水素:水が20:1:1、液温50℃のエッチング液で取り代が0.08μm、0.12μm、0.26μm、0.55μm(すなわちエッチング時間を30秒、1分、2分、5分、それぞれ実施例1,2、比較例3,4)の第2のエッチング工程を行った発光素子を製造した。
そして上記6種類の発光素子に対してESD試験、発光出力、表面の突起部密度を調べた。その結果を表1に示す。
【0051】
ここでESD試験は、順方向に電圧を印加した後に、逆方向に印加し、それを5回繰り返した。放電方式は、EIAJED4701/300の試験方法304(Human body model electro static discharge)であり、試験はそれに準拠して作られたLEDテスターを用いた。
試験における発光素子の状態は、結晶の表面を保護するための樹脂のない状態、すなわち結晶がむき出しのままの発光素子チップを、TO−18(Au鍍金品)にエポキシ銀ペーストでダイボンドし、金ワイヤーで表面の電極に超音波ボンダーで結線した。また、発光出力は粗面化エッチングを行わない比較例1の発光素子の発光出力を100%とした場合の相対値で示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、等方性エッチング液による第二のエッチング工程を行い、当該エッチング工程でのエッチング取り代を0.12μm以下、すなわち突起部の底面積が全表面積に占める割合が80%以上となるようにした場合、ESD故障率は顕著に低下しており、光出力も第一のエッチング工程のみを行った発光素子に比べてほとんど低下していないことが判った。
これに対し第一のエッチングのみ行った発光素子(比較例2)は、第一のエッチングを行っていない発光素子(比較例1)に比べて光出力が十分に高いものの、ESDが非常に悪く、静電気による故障が多く発生するものと考えられ、実用化できるものは得られなかった。
更に第2エッチングでのエッチング代が0.26μm(比較例3)、0.55μm(比較例4)の発光素子は、ESDも実施例に比べ劣る上に、光出力が実施例1,2の発光素子に比べて小さく、粗面化の効果が大幅に減ぜられていることが判った。
【0054】
また、同じ水溶液で5分間エッチングして、エッチング取り代を0.55μmとした比較例4の発光素子チップ表面の写真を図10に示す。このように、長時間エッチングすると、突起部がエッチングにより小さくなり、突起部間の平坦な部分が増加していることが判った。すなわち、平坦化部分が大きくなると、光の取り出し効率が低下し、光出力が低下する事が判った。
【0055】
更に、図11に、ESD故障品(比較例2)と良品(実施例1)の順方向電流に対する順方向電圧の特性を示す。
図11に示すように、故障した比較例2の発光素子は、1mA以下の領域で漏れ電流が発生していることが判った。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
10…発光素子、
11…n型GaAs単結晶基板、 12…n型GaAsバッファ層、 13…n型接続層、 14…第一導電型クラッド層(n型クラッド層)、 15…活性層、 16…第二導電型クラッド層(p型クラッド層)、 17…発光層、 18…p型接続層、 19…透明半導体層(GaP光取り出し層)、 20…発光素子ウェーハ、 21…GaP透明基板層、 22a,22b…、面粗し突起部(表面) 23a,23b…、面粗し突起部(側面) 24…光取り出し領域側電極、 24a…接合合金化層、 25…裏面電極、 25a…接合合金化層、 26…ボンディングワイヤ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)にて表される化合物のうち、GaAsと格子整合する組成を有する化合物にて各々構成された第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序で積層されたダブルへテロ構造を有し、前記第二導電型クラッド層上に積層された厚さ10μm以上のGaPまたはGaAsPの透明半導体層とを有する発光素子ウェーハをダイシングすることで発光素子チップを形成し、
該発光素子チップ表面を、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、前記酢酸と前記弗酸と前記硝酸と前記ヨウ素との合計質量含有率が前記水の質量含有率よりも高い第一のエッチング液にて第一のエッチング工程を行い、
その後、等方性エッチング液を用いて前記発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下の第二のエッチング工程を行うことを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸が体積比30%以上の主成分で、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液を用いる工程とすることを特徴とする請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水が体積割合で1〜30:1:1のエッチング液を用いる工程とすることを特徴とする請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第二のエッチング工程は、エッチング時間が1分以内の工程とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
【請求項1】
組成式(AlxGa1−x)yIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)にて表される化合物のうち、GaAsと格子整合する組成を有する化合物にて各々構成された第一導電型クラッド層、活性層及び第二導電型クラッド層がこの順序で積層されたダブルへテロ構造を有し、前記第二導電型クラッド層上に積層された厚さ10μm以上のGaPまたはGaAsPの透明半導体層とを有する発光素子ウェーハをダイシングすることで発光素子チップを形成し、
該発光素子チップ表面を、酢酸と弗酸と硝酸とヨウ素と水とを、その合計が90質量%以上となるように含有し、前記酢酸と前記弗酸と前記硝酸と前記ヨウ素との合計質量含有率が前記水の質量含有率よりも高い第一のエッチング液にて第一のエッチング工程を行い、
その後、等方性エッチング液を用いて前記発光素子チップ表面のエッチング取り代が0.12μm以下の第二のエッチング工程を行うことを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸が体積比30%以上の主成分で、塩酸、過酸化水素水、酢酸、水を含む混酸からなるエッチング液を用いる工程とすることを特徴とする請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第二のエッチング工程は、前記等方性エッチング液として、硫酸(濃度96%):過酸化水素水(濃度30%):水が体積割合で1〜30:1:1のエッチング液を用いる工程とすることを特徴とする請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第二のエッチング工程は、エッチング時間が1分以内の工程とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−199344(P2010−199344A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43278(P2009−43278)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】
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