説明

発光装置

【課題】小型化ができ、また構造が簡単なために製造が容易で、大きな発光効率を長期間安定して得ることができる発光素子を提供する。
【解決手段】GaN基板1は、その厚み方向とそのGaN基板1面内の1方向とに沿って連続して平面状に延びる板状結晶反転領域51を有し、そのGaN基板1内の板状結晶反転領域51と、GaN基板1上に形成されたn型およびp型窒化物半導体層2、6に伝播した板状結晶反転領域51とが、p型窒化物半導体層6側からn型窒化物半導体層2を経てGaN基板1内にいたる位置まで除去され、その除去されたあとに残ったp型窒化物半導体層6に接して、各p型窒化物半導体層6ごとに前記p電極12が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関し、より具体的には窒化物半導体から形成される発光装置に関するものである。なお、以後の説明において「発光装置」は、とくに断らない限り、「発光素子(チップ)」又は「その発光素子が含まれる発光素子の実装構造」をさす。
【背景技術】
【0002】
白色発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、携帯電話を含む携帯情報端末などの表示装置の照明に盛んに用いられている。携帯情報端末の表示装置の光源にLEDを用いる場合、とくに発光特性を良好にすることが求められる。このため、後述するサファイア基板を用い、GaN系発光素子を組み込んでnダウン(pトップ)実装したサイドビュー型LEDの作製にあたり、発光むらを防止する構成が提案されている(特許文献1参照)。この提案によれば、光取出側(トップ側)から発光装置を平面的に見たとき矩形の対向するコーナ部にそれぞれ位置する2つの電極が、サイドビュー型LEDの厚さ方向に沿うような配置、すなわちコーナ部で立つ配置などが開示されている。
【0003】
また、LEDは、今後、大きな空間または大面積の照明に用いられる可能性をも秘めているが、大面積の照明及び携帯情報端末のような用途を問わず、LEDの光の出力効率を大きくする必要がある。
【0004】
図51に、現在、提案されているGaN系LEDの構造を示す(特許文献2)。このGaN系LEDでは、サファイア基板101の上にn型GaN層102を設け、そのn型GaN層102とp型GaN層104との間に量子井戸構造103を形成している。発光はこの量子井戸構造103で発生する。p型GaN層104の上にはp電極105がオーミック接触するように形成され、また、n型GaN層102にはn電極106がオーミック接触するように形成されている。
【0005】
これらp電極105及びn電極106は、はんだボール107,108を介在させて実装部品109に接続されている。実装部品(サブマウント部品)109はSi基板から構成され、外部からのサージ電圧から保護するための回路が形成されている。すなわち、Ga、Al、InなどのIII族窒化物半導体についての回路故障の主要な要因が、過渡電圧や静電放電などのサージ電圧であることを重視して、発光素子に大きな順電圧及び逆電圧が印加されないように、発光素子保護のための電力分路回路をツェナーダイオードなどで形成している。サージ電圧からの保護についてはこのあと詳しく説明する。
【0006】
上記のGaN系LEDは、サファイア基板101の裏面側から光を放出するように(a1)p型GaN層104をダウン実装し、かつ(a2)n型GaN層102にn電極層106を形成している点に特徴を有する。このGaN系LEDの構造は、図51に見るとおり、非常に複雑である。このような複雑な構造の原因となる(a2)n型GaN層102にn電極層を形成した理由は、サファイア基板101が絶縁体なのでサファイア基板にn型電極を設けることができないからである。
【0007】
上述のサファイア基板を用いた発光素子だけでなく、発光素子に用いられるGaAs系、GaP系、GaN系の化合物半導体では、過渡電圧及び静電放電からの保護回路を発光素子に併設する提案が、これまで度々なされてきた(特許文献3−5参照)。とくにGaN系化合物半導体では、逆方向の耐圧が50V程度と低く、また順方向電圧も150V程度の耐圧しかないために、上記保護のための電力分路回路を設けることが重要視されている。すなわち、上記GaN系などの素子をサブマウントのSi基板上に形成し、そのSi基板にツェナーダイオードなどを含む保護回路を形成する。上記のような多くの保護回路の提案は、Ga、Al、InなどのIII族窒化物半導体についての回路故障の主要な要因が、過渡電圧や静電放電などのサージ電圧であることを示す証左であるといえる。
【0008】
また、上述の保護回路を設けた発光素子とは別に、導電体としたSiC基板上にGaN系発光素子を形成した例も知られている。すなわち、(SiC基板の裏面n電極/SiC基板/n型GaN層/量子井戸積層構造(発光層)/p型GaN層/p電極)の積層構造を用いて、p型GaN層から光を放出する構造のLEDも、広く用いられている。
【特許文献1】特開2000−223751号公報
【特許文献2】特開2003−8083号公報
【特許文献3】特開2000−286457号公報
【特許文献4】特開平11−54801号公報
【特許文献5】特開平11−220176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、上記の図51に示すサファイア基板を用いたGaN系LEDでは、構造が複雑となり、製造コストが高くなることは避けられない。多様な照明の用途に需要を開拓するためには、LEDは安価であることが必須であるので、上記の構造は好ましくない。また、ダウン実装面の側に、p電極105と、n電極106とが配置されるため、電極の面積、とくにp電極の面積が制限を受ける。大電流を流して高出力を得るためには、p電極はとくに大面積とすることが望ましいが、図51に示す構造では制限を受け、この結果、光出力に制限を受けることになる。さらに、電流にともなって発生する熱を逃がす上でも、片側の面に2つの電極層を配置することは好ましくない。
【0010】
また、n型GaN層102を基板と平行方向に電流が流れる際の抵抗が大きく、発熱や駆動電圧ひいては消費電力の増加の原因ともなる。とくに、成膜工程の短縮化を目的にn型GaN層の厚みを薄くすると、上記の発熱や消費電力増加の問題のほかに、そのn型GaN膜の露出の歩留りが非常に悪くなる。
【0011】
また、上記のサファイア基板を用いた発光素子を含めて発光素子全般に言えることであるが、放熱面積が制限され、また、熱抵抗(単位面積当たり単位エネルギー投入による温度上昇)も大きいため、1発光素子当たり注入電流を大きくとることができない。とくにサファイア基板を用いた場合には、上述のようにp電極の面積が制限を受けるため、余裕がほとんどない熱設計をするのが通例である。
【0012】
さらに、上記サファイア基板を用いたGaN系LEDの場合には、放熱面積が制約されるため、少しでも電気抵抗を下げて発熱量を低減するために、p電極とn電極とを櫛型状に入り組ませて接触面積を拡大する構造を採用する事態に追い込まれる。このような櫛型形状の電極は加工が容易ではなく、確実に製造コスト上昇につながる。
【0013】
上述のように、発光素子において熱的条件の設計は基本的な重要性を持ち、大出力を得ようとする場合、上記のような熱的条件によって制約を受け、それを少しでも緩和するために複雑な電極形状をあえて採用せざるをえない。
【0014】
さらに、次のような問題がある。サファイア基板上に形成されたGaN系発光素子をダウン実装して、サファイア基板の裏面を光の放出面にする場合、サファイアの屈折率が1.8程度であり、GaNの屈折率が2.4程度であるので、光を発生し伝播させてきたGaN層とサファイア基板との界面で、所定の入射角以上の光は全反射して、外に出ない。すなわち、入射角θ≧sin-1(1.8/2.4)≒42°の範囲の光は、GaN層内に止まり、外に出ない。このため、サファイア基板の主面における発光効率が低下する。しかし、発光効率の問題も重要であるが、それだけに止まらない。上記全反射した光はGaN層を伝播し、GaN層の側部から出射される。上記の全反射する光量はかなりの割合を占め、また、GaN層は薄いため、側部から出射される光のエネルギー密度は高くなる。GaN層の側部に位置してその光に照射される封止樹脂は損傷を受け、発光素子の寿命を短縮するという問題を生じる。
【0015】
また、p層側から光を取り出す(SiC基板裏面n電極/SiC基板/n型GaN層/量子井戸積層構造(発光層)/p型GaN層/p電極)の構造のGaN系LEDでは、p電極の光吸収率が大きいため光を効率よく外に放出することができない。p電極の被覆率を減少させ、すなわち開口率を増大させて光の放出量を増やそうとすると、p型GaN層は電気抵抗が高いため電流をp型GaN層全体にゆきわたらせて流すことができない。このため発光を量子井戸構造の全体にわたって活性化することができず、発光出力が低下する。また、電気抵抗が上昇し、発熱や電源容量の問題を生じる。さらに、電流をp型GaN層全体に一様に流すことを目的にp型GaN層の厚みを厚くすると、このp型GaN層による光の吸収が大きく、出力が制約される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、構造が簡単であるために製造が容易で、大きな発光効率を長時間にわたって安定して得ることができ、かつ小型化が容易にできる発光装置を提供することを目的とする。
【0017】
本発明の参考例の発光装置は、比抵抗0.5Ω・cm以下の窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層と、窒化物半導体基板から見てn型窒化物半導体層より遠くに位置するp型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層及びp型窒化物半導体層の間に位置する発光層とを備える。そして、窒化物半導体基板及びp型窒化物半導体層のいずれか一方を光を放出するトップ側に、また他方をダウン側に実装し、そのトップ側に位置する電極が1つで構成されている。
【0018】
上記の発光装置では、光を放出するトップ側に1つの電極を配置するので、電極に妨げられずに多くの光量を取り出すことができる。また、1つの電極を配置するだけでよいので、LEDの小型化、とくにサイドビュー型LEDの薄肉化を容易に行なうことができ、携帯電話を含む携帯情報端末の小型化を可能にする。なお、1つで構成される電極にパッド電極などが組み合わされて配置される場合もあるが、平面的に見て1領域で構成されていれば1つで構成されているとする。以後の説明でも同様である。
【0019】
上記の配置では、p電極側をダウン実装する場合、n型窒化物半導体基板の裏面側が光放出面になるので、たとえばn型窒化物半導体基板にGaN基板を用いた場合、電気抵抗を低くできるので小さなn電極を設ければよく、同じ電力投入量でも大きな光出力を得ることができる。すなわち、p電極側をダウン実装する場合、電気抵抗の低い窒化物半導体基板の裏面(第2の主表面)にn電極を設けるので、小さな被覆率すなわち大きな開口率でn電極を設けても電流を窒化物半導体基板全体にゆきわたらせて流すことができる。このため、放出面で光を吸収される率が小さくなり、発光効率を高くすることができる。光の放出は第2の主表面だけでなく側面からなされてもよいことは言うまでもない。以下の発光素子においても同様である。
【0020】
また、電流が非常に大きくない場合などでは、p型窒化物半導体層の側を光放出面にしてもよい。
【0021】
さらに、GaN基板が導電性に優れることから、サージ電圧に対する保護回路をとくに設ける必要がなく、また耐圧性も非常に優れたものにできる。
【0022】
また、複雑な加工工程を行なうことがないので、製造コストを低減することも容易化される。
【0023】
なお、上記の窒化物半導体基板はn導電型であることを前提とする。また、窒化物半導体「基板」は、独立して持ち運びできる厚みが相応に厚い板状物体をさし、持ち運びにおいて単独ではそれ自身の形状を保ち難い「膜」や「層」とは区別される。このあと説明する、GaN基板及びAlN基板についても同様である。
【0024】
本発明の発光装置は、転位密度が108/cm2以下の窒化物半導体基板GaN基板と、GaN基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層のn型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)と、GaN基板から見てn型AlxGa1-xN層より遠くに位置するp型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)と、n型AlxGa1-xN層及びp型AlxGa1-xN層の間に位置する発光層とを備える。そして、GaN基板の第1の主表面と反対側の主表面である第2の主表面に接してn電極を、またp型AlxGa1-xN層に接してp電極を有し、n電極及びp電極のいずれか一方を光を放出するトップ側に、また他方をダウン側に実装し、そのトップ側に位置する電極が1つで構成されている。GaN基板は、その厚み方向とそのGaN基板面内の1方向とに沿って連続して平面状に延びる板状結晶反転領域を有している。そのGaN基板内の板状結晶反転領域と、GaN基板上に形成されたn型およびp型窒化物半導体層に伝播した板状結晶反転領域とが、p型窒化物半導体層側からn型窒化物半導体層を経てGaN基板内にいたる位置まで除去され、その除去されたあとに残ったp型窒化物半導体層に接して、各p型窒化物半導体層ごとに前記p電極が設けられている。
【0025】
この構成によれば、やはり光を放出するトップ側に1つの電極を配置するので、電極に妨げられずに多くの光量を取り出すことができる。また、1つの電極を配置するだけでよいので、LEDの小型化、とくに薄肉化を容易に行なうことができ、携帯情報端末の小型化を可能にする。
【0026】
また、GaN基板は電気抵抗を低減することは容易なので、上述の発光装置における作用効果に加えて、GaN基板の転位密度が、108/cm2以下であるので結晶性が高いこと、及びp側ダウン実装した場合、高い開口率により第2の主表面からの光出力を高めることができる。また、側面からも光を放出する。
【0027】
高い電流を流すのでなければ、p側トップ実装(n側ダウン実装)して耐圧性能の向上、発熱抑制、サージ電圧に対する保護回路の不要性、製造コストの低減などの利点を得ることができることは言うまでもない。
【0028】
また、屈折率の連続性が保たれるので、上述した全反射の問題も生じない。
本発明の参考例の発光装置は、熱伝導率が100W/(m・K)以上の窒化物半導体基板AlN基板と、前記AlN基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層のn型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)と、前記AlN基板から見て前記n型AlxGa1-xN層より遠くに位置するp型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)と、前記n型AlxGa1-xN層及びp型AlxGa1-xN層の間に位置する発光層とを備える。そして、AlN基板の第1の主表面と反対側の主表面である第2の主表面に接してn電極を、またp型AlxGa1-xN層に接してp電極を有し、n電極及びp電極のいずれか一方を光を放出するトップ側に、また他方をダウン側に実装し、そのトップ側に位置する電極が1つで構成されている。
【0029】
AlNは非常に熱伝導率が高く、放熱性に優れているため、上記のp型AlxGa1-xN層からリードフレーム等に熱を伝達して、発光素子における温度上昇を抑制することができる。また、上記AlN基板からも熱を放散し、温度上昇の抑制に貢献することができる。なお、上記のAlN基板は導電性を持たせるために不純物を導入した導電性AlN基板を前提とする。上記高い熱伝導率による性能向上に加えて、上述の本発明の発光装置に得られる利点を得ることができる。
【0030】
本発明の参考例の発光装置は、比抵抗0.5Ω・cm以下の窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層と、窒化物半導体基板から見てn型窒化物半導体層より遠くに位置するp型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層及びp型窒化物半導体層の間に位置する発光層とを備える。そして、窒化物半導体基板の第1の主表面と反対側の主表面である第2の主表面に接してn電極を配置し、そのn電極をダウン側に実装し、p型窒化物半導体層を光を放出するトップ側に配置する。
【0031】
上記の構成によれば、p側トップ実装(n側ダウン実装)して耐圧性能の向上、発熱抑制、サージ電圧に対する保護回路の不要性、製造コストの低減などの利点を得ることができる。また、屈折率の連続を確保することができ、上記全反射の問題も生じない。上記発光装置は、上述のように、発光素子(チップ)そのものとしてもよいし、また発光素子を組み込んだ発光素子の実装構造ととってもよい。
【0032】
本発明の参考例の発光装置では、転位密度が108/cm2以下のGaN基板と、GaN基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層と、GaN基板から見てn型窒化物半導体層より遠くに位置するp型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層及びp型窒化物半導体層の間に位置する発光層とを備える。そして、GaN基板をダウン側に実装し、p型窒化物半導体層を光を放出するトップ側に有する。
【0033】
上記の構成によれば、低転位密度特有の高電流域で高い発光効率を得ることができる。また、上記pトップ実装の発光装置と同様に、耐圧性能の向上、発熱抑制、サージ電圧に対する保護回路の不要性、製造コストの低減などの利点を得ることができる。また、屈折率の連続を確保することができ、上記全反射の問題も生じない。上記と同様に、本発光装置は、発光素子(チップ)そのものとしてもよいし、また発光素子を組み込んだ発光素子の実装構造ととってもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の発光装置によれば、構造が簡単であるために製造が容易で、大きな発光効率を長時間にわたって安定して得ることができ、かつ小型化が容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0036】
実施例1では、GaN基板にp側トップ(n側ダウン)実装し、GaN基板の裏面にn電極を設けた本発明例の発光装置と、従来の発光装置とを用いてサイドビュー型LEDを作製し、サイズ及び光出力、輝度について比較を行なった。
【0037】
(本発明例A)
図1は本発明例Aの発光素子の積層構造を示す図である。GaN基板1の表面(第1主面)に下から順にエピタキシャル成膜され、n型GaN層2/n型AlxGa1-xN層3/(AlxGa1-xN/AlxInyGa1-x-yN)mの多重量子井戸層(活性層)4/p型AlxGa1-xN層5/p型GaN層6、の積層構造が形成されている。多重量子井戸層は(GaxN/InxGa1-xN)mで構成される場合もある。重ねる組数mは通常3にするが、より多くてもよい。光放出面はp型GaN層6の表面であり、この表面6aに後述するp電極が設けられる。また、GaN基板の裏面1aにn電極が設けられる。
【0038】
次に上記本発明例Aの発光装置の製造方法について詳細に説明する。
(1) C面から0.5°ずらしたGaNのオフ基板を使用した。比抵抗は0.01Ω・cmであり、転位密度は1E7/cm2、基板厚みは400μmである。ただし、上記のGaN基板は次に述べるn電極を形成する前に、厚み200μmに減厚した。
【0039】
(2) MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によりGaN基板のGa面上に、GaNバッファ層(図1では省略)/Siドープn型GaN層2/Siドープn型クラッドAl0.2Ga0.8N層3/GaNとIn0.15Ga0.85Nから構成される3組のMQW(Multi-Quantum Well)層4/Mgドープp型クラッドAl0.2Ga0.8N層5/Mgドープp型GaN層6を順にエピタキシャル成長させた(図1)。
【0040】
(3) 発光波長は450nm、低温4.2KでのPL(Photo Luminescence)強度と室温298KでのPL強度とを比較することにより便宜的に算出した内部量子効率は50%であった。
【0041】
(4) このウェハを活性化処理して、Mgドープp型層5の低抵抗化を行なった。ホール測定によるキャリア濃度は、Mgドープp型Al0.2Ga0.8N層5が5E17/cm3、Mgドープp型GaN層6が1E18/cm3であった。
【0042】
(5) p電極はまず、フォトリソグラフィ技術と蒸着とにより、p型GaN層6に厚み4nmのNiと、厚み4nmのAuの順に2層構造を形成し、間隔L2を350μmおきとして、300μm□の透明電極12をつけた(図2及び図3参照)。これを不活性雰囲気中で加熱処理することにより接触抵抗を5E-4Ω・cm2とした。さらにフォトリソグラフィ技術と蒸着とにより350μmおきに透明電極12の中心に直径100μmのパッド電極(図示せず)をつけた。
【0043】
(6) 図2を参照して、GaN基板1のN面1aの全面にn電極11をつけた。n電極は、GaN基板に接して、Ti20nm/Al100nm/Ti20nm/Au200nmの順に積層構造に形成した。n電極は直径Dを有し、素子の中心に間隔L2のピッチで位置する。これを不活性雰囲気中で加熱処理することにより、接触抵抗を1E-5Ω・cm2以下とした。
【0044】
(7) このウェハをさらに、フォトリソグラフィ技術とRIEとにより、Mgドープp型層側からSiドープn型層までCl系ガスで、図2及び図3に示すようにエッチングすることにより、所定の形状になるように幅L3の素子分離溝25を設けた。
【0045】
(8) その後に所定の形状になるように、スクライブを行なって劈開面50に沿って分離し、チップ化したものを発光素子とした。これによって得た発光素子は325μm□である。MQW発光部の面積が0.09mm2に対し、p側パッド電極が直径100μmであるので、光取出面のpパッド電極に覆われていない部分の割合(開口率)は、91%である。
【0046】
(サイドビュー型LED)
図4及び図5は、実施例1における本発明例Aの発光装置であるサイドビュー型LED30を示す図である。図4は斜視図であり、また図5は正面図である。このサイドビュー型LEDには上記の作製方法で作製された発光素子(チップ)10が搭載されている。発光素子10は矩形の辺が水平になるように配置され、その矩形の中心に位置するp側パッド電極22にAu線31が電気的に接続されている。このAu線31の他端は、リードフレーム32の光放出面側に突き出したリード部32bの電極(図示せず)に電気的に接続されている。GaN基板の裏面に設けられたn電極は、リードフレームのチップ配置部32aに接触して電気的に接続されている。リードフレーム32にはチップから後方に出射された光を前方へと反射する凹面状反射鏡が設けられ、チップ10はその凹状曲面の焦点に位置するのがよい。
【0047】
このようなサイドビュー型LEDを携帯情報端末の表示画面の照明用光源に用いる場合、その厚みまたは高さSが重視される。
【0048】
(9) 上述したように、上記発光素子は反射鏡を有するリードフレームの中心部にp層側から光を取出すように搭載されている。p型パッド電極22は素子の中心にあり、また同じトップ側にn電極を設ける必要がないので、ワイヤボンディングするためのスペースを考慮しても、実装後のLEDランプの厚みSを0.5mmとすることができた。
【0049】
(10) また搭載にあたっては、発光素子からの放熱性を良くするために、発光素子のGaN基板が接着剤を介在させて全面マウント部と接するように搭載した。また接着剤は熱伝導の良いAg系のものを、またリードフレームも熱伝導の良いCuW系のものを選択した。これらの方策により、得られた熱抵抗は8℃/Wである。
【0050】
(11) さらにこのn電極側に蛍光剤を搭載した後に、エポキシ樹脂33によりチップ及びAu線31を樹脂封止し、白色に発光するランプを作製した。たとえばチップから出る青色光を受けて、蛍光剤が黄色の蛍光を発して、全体で白色光を発光するように設計される。蛍光剤には450nmの光出力1W当たり180lmが得られる蛍光剤を使用した。筐体37のサイド面に開けられたサイドウィンドウ34に面する樹脂33は、レンズ作用を発現するように楕円曲面状となっており、チップから出た光がサイドウィンドウの長径方向により大きく拡大し、短径方向にはあまり拡大しない曲面とされている。
【0051】
(比較例B)
図6は比較例Bの発光装置の積層構造を示す図である。上述の特許文献1のサイドビュー型LEDにはこの比較例Bの発光装置が用いられている。比較例Bの発光装置の積層構造は、サファイア基板101の上に、上記本発明例Aと同じ、n型GaN層2/n型AlxGa1-xN層3/(AlxGa1-xN/AlxInyGa1-x-yN)mの多重量子井戸層(活性層)4/p型AlxGa1-xN層5/p型GaN層6、なる積層構造が形成されている。多重量子井戸層は(GaxN/InxGa1-xN)mで構成される場合もある。光放出面は、本発明例Aと同じp型GaN層6の表面6aであり、p電極はその表面6aに設けられる。しかし、サファイア基板101は絶縁体であるためn電極をサファイア基板に設けることはできない。このため、積層構造を縁部を表面6aからn型GaN層2の層内まで削って、n型GaN層2を露出させ、その露出させたn型GaN層2の面にn電極を設ける。
【0052】
次に上記比較例Bの発光装置の製造方法について詳細に説明する。
(1) C面から0.2°ずらしたサファイアの絶縁オフ基板101を使用した。基板厚みは400μmとした。ただし、本発明例Aと同様に、電極の形成前に厚み200μmに減厚した。
【0053】
(2)-(4) 上記本発明例Aの(2)-(4)と同じとした。
(5) 比較例Bの場合、基板が絶縁体であるためn電極はp電極と同じ成長膜側に設ける必要がある。そこで、図6の積層構造を有するウェハをさらに、フォトリソグラフィ技術とRIE(Reactive Ion Etching)とにより、Mgドープp型層6からSiドープn型層2までCl系ガスでエッチングすることにより、n電極を設けるためにn型GaN層2を露出させ、発明例Aと同様の素子分離を行なうための溝125を設けた(図7及び図8参照)。素子のサイズは325μm□で、p型GaN層6の上にはp電極112が形成される。露出した部分のn型GaN2は、平面的に見て1つの素子当たり150μm□の形状を有する。露出したn型GaN層の上には、フォトリソグラフィ技術と蒸着とにより直径100μmのn電極111を形成した。厚み、熱処理、接触抵抗は本発明例Aと同じであった。
【0054】
(6)及び(7) p電極は次のように形成した。まず、素子325μm□のうち、平面的に見て、素子分離に必要な分離代を除いた300μm□から、さらにn型GaN層2の露出部150μm□を除いた「く」の字形、またはL字形の部分に相当する、p型GaN層6の上に透明電極層112をつけた。厚み、熱処理、接触抵抗は発明例Aと同じである。p側パッド電極は、透明電極層の中央付近に直径100μmの電極層を形成した。
【0055】
(8) その後に所定の形状になるよう、スクライブを行ない、チップ化したものを発光素子とした。得た発光素子は325μm□である。MQW発光部の面積が0.0675mm2に対し、pパッド電極が直径100μmであるので、光取出面のpパッド電極に覆われていない部分の割合(開口率)は、88%である。
【0056】
(サイドビュー型LED)
図9及び図10は、実施例1の比較例Bにおける発光装置であるサイドビュー型LEDを示す図である。図9は斜視図であり、また図10は正面図である。このサイドビュー型LED130には上記の作製方法で作製された発光素子(チップ)110が搭載されている。発光素子110は矩形の対角線が水平になるように配置され、その矩形の中心に位置するp側パッド電極22にAu線31aが、またn電極111にAu線31bが電気的に接続されている。Au線31aの他端は、リードフレーム32の光放出面側に突き出したリード部32bの電極(図示せず)に電気的に接続され、Au線31bの他端は、リードフレームのチップ配置部32aの電極に電気的に接続されている。リードフレーム32にはチップから後方に出射された光を前方へと反射する凹面状反射鏡が設けられ、チップ110はその凹状曲面の焦点に位置するのがよい。
【0057】
(9) 上述したように、発光素子(チップ)を反射鏡を有するリードフレームの中心部にp層側から光を取出すように搭載した。この場合、トップ側にn電極とp電極とが両方とも配置されるので、各々をワイヤボンディングするスペースを設けるためにチップをLEDランプの長手方向に対して45°傾けて設置した。このため発明例Aと同様の実装を行なっても、ランプの厚みは45°傾けた分およそ0.14mm厚くなり、厚みSは0.64mmとなった。
【0058】
(10) また搭載にあたっては、発明例Aと同様に発光素子からの放熱性を良くするために、発光素子のサファイア基板が全面マウント部と接するように搭載した。ただし、接着剤、リードフレーム材質は発明例Aと同じである。基板の違いによる熱抵抗は10.4℃/Wと発明例Aの1.3倍と悪くなった。
【0059】
(11) 発明例Aと同じようにして白色発光ランプを作製した。
(実験内容及びその結果)
まず青色光の出力の比較をするために、蛍光剤を設置しない状態(樹脂封止は実施)の発明例Aと比較例Bとを、積分球内に搭載した後に所定の電流を印加し、発光させた。その発光を集光したディテクタから出力される光出力値を図11及び図12に示す。電流がリークすることなくMQW層に注入され、MQW層での非発光性再結合が比較的少なく、また発熱による素子の温度上昇が小さいような比較的理想的な状態では、光出力値は印加した電流の増加に比例して増加する。たとえば電流20mAの注入では発明例A及び比較例Bともに8mWの出力が得られた。さらに5倍の電流100mAを印加した場合、発明例Aでは5倍の40mWの出力が得られたが、比較例Bでは出力24mWしか得られなかった(図11)。
【0060】
この理由として次の理由が考えられる。すなわち、本発明例Aでは発熱面積が比較例Bに比べて広く、同じ電流注入量でも単位面積当たりの発熱量が小さいこと(注入電流100mAのときのMQW発光部での電流密度は、本発明例Aでは111A/cm2、比較例Bでは148A/cm2)、比較例Bのサファイア基板に比して比較的熱伝導の良いGaN基板を用いたこと、またn電極をGaN基板のN面側に設けたために電流密度が極端に大きくなる部位がない構造であることを挙げることができる。
【0061】
一方、本発明例Aの上記特徴を逆から見ることになるが、比較例Bでは、放熱面積が発明例Aよりも小さい上に、n電極をn型GaN層を露出させた上に設けたためにn型GaN層中を層に沿って流れる電流の密度が極端に大きくなり過ぎて発熱がさらに増加したこと、などを挙げることができる。
【0062】
さらに、メカニズムは必ずしも明らかではないが、基板に比較的低い転位密度のGaN基板を用いることにより、MQWなどのエピタキシャル成長膜の結晶性がよく、高電流注入時の発光効率の低下が起こらないことも理由に挙げることができる。
【0063】
そこで、熱の影響を分離するために、同じく蛍光剤を設置しないで樹脂封止した状態で、同様にパルス電流による試験を行なった。このとき、印加時間1μsとした。印加電流100mAでduty比を100%から徐々に下げてゆき出力を測定したところ、本発明例A及び比較例Bともにduty比を下げるにつれ出力が上昇した。しかし、duty比5%から1%の間ではともに出力が一定となり飽和したので熱の影響がなくなったと判断した。
【0064】
この結果を基に、同様にduty比1%でパルス印加電流値を変えてゆき、出力から外部量子効率を算出した結果を図13に示す。図13によれば、比較例Bでは電流の増加とともに外部量子効率が減少してゆく。これに比べて、本発明例Aでは100mAまでほぼ一定であった。
【0065】
上記のように、仮にチップサイズを大きくして放熱面積を同じにし、pダウン実装して基板を介した放熱差が出ないようにしたとしても、比較例Bでは、本発明例Aに特有の低い転位密度の基板に形成されたエピタキシャル成長膜の結晶性に由来する高電流域での高出力、を得ることができない。
【0066】
また本発明例Aは、比較例Bと異なりn電極とp電極とが対向する位置にあるため電気的短絡のおそれがない。一方、比較例Bではn電極とp電極とが同じ側に位置するので、たとえば短絡を防止するためにp電極とn電極との間に電気的絶縁するための膜を設ける必要性を生じる場合がある。本発明例では、その必要性がないので、余計な製造コストの増加を防ぐことができる。
【0067】
上記の光出力の結果は、発光波長450nmでの一例を示したにすぎず、発光波長や層構造を変えた場合でも、本発明例Aでは比較例に比して同様の効果を得ることができる。また、発光装置の基板としての特性が同等であれば、GaN基板の代わりにAlxGa1-xN基板を用いても同様の効果があることは言うまでもない。
【0068】
次に、蛍光剤を設けた、本発明例Aと比較例Bとについて光出力と等価な輝度を求めた結果を図14及び図15に示す。図14に示すように、電流100mAを印加した場合、本発明例Aでは7.2lmの輝度が得られたが、比較例Bでは4.3lmしか得られなかった。
【0069】
このように比較例Bに対して、本発明例は同じチップサイズでもサイドビュー形LEDランプの厚みを薄く、小型化できるとともに高出力を得ることができる。比較例Bでランプの厚みを薄くすることを目的にチップサイズを小さくしようとしても、n電極を設けるためのエッチングスペースやpパッド電極部の一定面積が必要となる結果、開口率が極端に小さくなり十分な光出力または輝度を得ることができない。
【0070】
また、比較例Bでは、チップの辺をサイドビュー型LEDランプの長手方向と平行に配置しようとした場合でも、チップの対向する2つのコーナの一方にn電極が、また他方にp電極があるので、ワイヤボンディングを行なうためのスペースが余分に必要となり、サイドビュー形LEDランプの厚みを発明例Aと同等にまで薄くことはできない。
【0071】
次に、上記の本発明例A及び比較例Bについて静電耐圧の試験を行なった。静電耐圧試験は、発光素子と、静電気がチャージされたコンデンサとを対向させて両者間に放電を生じさせ、放電が生じたときの両者間の電圧を測定する。
【0072】
結果は、比較例Bではおよそ100Vの静電圧で破壊が発生した。一方、本発明例Aではおよそ8000Vまで破壊することはなかった。したがって、本発明例Aでは比較例Bの約80倍の静電耐圧を有することがわかった。
【実施例2】
【0073】
本発明の実施例2では、本発明例C、本発明例D及び比較例Eについてpダウン実装して、n型層またはn型半導体基板裏面を光放出面とした点に特徴がある。本発明例Dは転位密度が1E9/cm2であり、とくに窒化物半導体基板の転位密度を低くするタイプの本発明の発光装置に対して転位密度が範囲外になるが、その他のタイプの本発明の発光装置に属する。本実施例では、比較例Eはサファイア基板を用いて、サファイア基板の積層構造側にn電極及びp電極を設け、それら2つの電極をダウン実装することを試みたが、n電極に本発明例C、Dと同様のサイズのものを形成できなかったので、作製を途中まで進めただけで終わった。比較はもっぱら本発明例Cと本発明例Dとの間で行ない、したがって転位密度の影響を検証することになった。
【0074】
(本発明例C)
本発明例Cの断面図を図16に、また平面図を図17に示す。
【0075】
(1) C面から0.5°ずらしたGaNのオフ基板を使用した。比抵抗0.01Ω・cm、転位密度1E6/cm2、基板厚み400μmのものを使用した。ただし、本発明例Aと同様に、電極形成前に厚み200μmに減厚した。
【0076】
(2)-(4) 本発明例Aと同じ処理を加えた。
(5) GaN基板のN面には、全面にフォトリソグラフィ技術と蒸着とにより250μmおきに素子の中心に直径100μmのn電極をつけた。n電極は、GaN基板に接して、Ti20nm/Al100nm/Ti20nm/Au200nmの順に成膜し積層構造とした。これを不活性ガス雰囲気中で加熱処理することにより、接触抵抗を1E-5Ω・cm2以下とした。
【0077】
(6) p電極はp型GaN層全面に厚み4nmのNiと、厚み4nmのAuとを順に成膜して2層構造とした。これを不活性雰囲気中で加熱処理することにより、接触抵抗を5E-4Ω・cm2とした。
【0078】
(7) このウェハをさらにフォトリソグラフィ技術とRIEとにより、Mgドープp型層側からSiドープn型層までCl系ガスでエッチングすることにより、所定の形状の素子分離溝を設けた。
【0079】
(8) その後に所定の形状になるよう、スクライブを行ない、チップ化したものを発光素子とした。得た発光素子は225μm□である。MQW発光部の面積が0.04mm2に対し、nパッド電極が直径100μmであるので、光取出面のnパッド電極に覆われていない部分の割合(開口率)は、80%である(図16及び図17参照)。
【0080】
(サイドビュー型LED)
(9) この発光素子を、図18に示すように反射鏡を有するリードフレームマウント部32aの中心部にn層側から光を取出すようpダウン実装し、サイドビュー型LEDを作製した(図19参照)。リードフレームへの搭載には導電性接着剤14を用いた。nパッド電極11は素子の中心に位置する。比較例Bのようにトップ側にp電極及びn電極をともに設ける必要がないので、ワイヤボンディングするためのスペースを考慮しても、実装後のサイドビュー型LEDランプの厚みを薄くすることができ、上記厚みSを0.4mmとすることができた。
【0081】
(10) また搭載にあたっては、発光素子からの放熱性を良くするために、上述のように、発光素子のGaN基板が全面マウント部と接するように搭載した。また導電性接着剤14は熱伝導の良いAg系のものを、またリードフレームも熱伝導の良いCuW系のものを用いた。この結果、得られた熱抵抗は9℃/Wであった。
【0082】
(11) さらにこのn電極側に蛍光剤を搭載した後にエポキシ系樹脂により樹脂封止を行なって、白色に発光するランプを作製した。これには450nmの光出力1W当たり180lmが得られる蛍光剤を使用した。
【0083】
(本発明例D)
(1) C面から0.5°ずらしたGaNのオフ基板を使用した。比抵抗0.01Ω・cm、転位密度1E9/cm2、基板厚み400μmのものを使用した。ただし、本発明例A、Cと同様に、厚み200μmに減厚した。
【0084】
(2)-(11) 本発明例Cと同じ処理を加えた。
(比較例E)
(1) C面から0.2°ずらしたサファイア基板の絶縁オフ基板を使用した。転位密度1E7/cm2、基板厚み400μmのものを使用した。ただし、本発明例A,C,Dと同様に厚み200μmに減厚した。
【0085】
(2)-(4) 本発明例Aと同じとした。
(5) 比較例Eでは、サファイア基板が絶縁体であるためn電極はp電極と同じ積層構造側に設ける必要がある。そこで、上記の処理を施したウェハをさらに、フォトリソグラフィ技術とRIEとにより、Mgドープp型層側からSiドープn型層までCl系ガスでエッチングすることにより、n電極を設けるためのn型GaN層露出と比較例Bと同様の素子分離溝を設けた。素子のサイズは225μm□で、その中で露出させた部分のn型GaN層の広さは1つの素子当たり150μm□である。露出させたn型GaN層上には、フォトリソグラフィ技術と蒸着とにより直径100μmのn電極を設けた。厚み、熱処理、接触抵抗は比較例Bと同じとした。
【0086】
(6) 電極は、まず、素子225μm□のうち、素子分離に必要な分離代を除いた200μm□から、さらにn型GaN層の露出部150μm□を除いた「く」の字形またはL字形の部分に相当する、p型GaN層の部分に透明電極を形成した。厚み、熱処理、接触抵抗は比較例Bと同じとした。パッド電極は「く」の字形またはL字形の透明電極の頂点部の中央付近に直径100μmのものを設けようとしたが、50μm□のスペースしかなく、比較例Bと同様の電極パターンのチップは作製することができなかった。
【0087】
(実験内容及びその結果)
実施例1と同じように蛍光剤を搭載しない樹脂封止のみを行なった状態で、光出力を測定した結果、本発明例C及び本発明例Dでは、印加電流20mAでともに7mWの出力を、また印加電流50mAでは各々17.5mW及び10.5mWの出力を得た。本発明例Cは、本発明例Dに比して転位密度が3桁程度低く、この低転位密度に起因して、本発明例Dより高い発光出力を得ることができる。本発明例Cと本発明例Dとでは、発熱や放熱は同じであるため、この差が熱の影響でないことを確認するため、duty比1%、印加時間1μsの100μsサイクルのパルス電流を印加して比較したが、同様に印加電流50mAでは各々17.5mW及び10.5mWの出力を得た。したがって、メカニズムは必ずしも明らかではないが、熱の影響ではなく上記転位密度の差によって、高電流での発光出力の差が得られたものと考えられる。
【0088】
また発光波長や層構造を変えた場合、及び蛍光剤を設けて白色とした場合、本発明例Cでは印加電流20mAで1.26lm、また印加電流50mAで3.15lmを、そして本発明例Dでは印加電流20mAで1.26ml、また印加電流50mAで1.89lmという結果を得た。すなわち、上記と同様に、低転位密度の効果が得られることを実験により確認した結果が得られた。
【0089】
また、比較例Eの場合、上述のようにスペースがないために、本発明例A、Cや比較例Bと同じ直径100μmの電極をつけることができなかった。仮にn型GaN層の露出部のサイズやn電極、pパッド電極のサイズを小さくして、本発明例C、Dと同じサイズのn電極などを形成できたとしても、大きさにもよるが、電極部での発熱や、MQWでの過大電流密度による発熱、p電極の開口率の確保難といった問題が生じ、本発明例Cほどの、さらには本発明例Dほどの光出力を得ることはできないと考えられる。
【実施例3】
【0090】
本発明の実施例3では、上記本発明例Cに非鏡面加工を施した発光装置である本発明例Fについて、発光層と実装部(リードフレームなど)との間に反射層を設けた発光装置について、光出力など性能を検証した。
【0091】
(本発明例F)
図20は、非鏡面処理が施された本発明に発光素子10から光が放出されるイメージを示す図である。光放出面であるGaN基板の裏面(N面)及び側面と、積層構造の側面とに非鏡面処理が施されている。すなわち、GaN基板のN面及び素子端面を非鏡面とした。比較のために、図21に、鏡面のままの発光素子10から光が放出されるイメージを示す。
【0092】
非鏡面とする方法はRIEなどのドライエッチやウェットエッチによる方法、機械的に研磨する方法などがあるが、本発明では、エッチャントとしてKOH水溶液を用いたウェットエッチによる方法を適用した。本発明例Fでは、濃度4mol/l(mol/dm3)のKOH水溶液を、温度を40℃に保った状態で十分に攪拌した後にウェハを30分間超音波洗浄機の中に浸漬し、GaN基板のN面及び素子端面を非鏡面とした。
【実施例4】
【0093】
本発明の実施例4では、本発明例Cのリードフレームと発光素子との間に設けた反射層の影響を調査した。
【0094】
(本発明例G)
本発明例Gは、図22に示すように、p電極の下に高反射膜35を配置した点に特徴がある。p電極12は、成膜時にp型GaN層6の上に、厚み4nmのNiと、厚み4nmのAuと、厚み100nmのAgの順に成膜し、3層の積層膜を形成した(実装の際、pダウン実装するので上下が逆になる)。これを不活性雰囲気中で加熱処理することにより、接触抵抗を5E-4Ω・cm2とした。
【0095】
また、上記電極の3層膜のうち、厚み4nmのNi膜と、厚み4nmのAu膜とをガラス板につけて同じ熱処理をした後に透過率を測定した。Ni側から波長450nmの入射光を照射したところ、その透過率は70%であった。また、厚み100nmのAg膜をガラス板につけて反射率を測定した。波長450nmの入射光を照射したところ、その反射率は88%であった。そこで、厚み4nmのNi膜と、厚み4nmのAu膜と、厚み100nmのAg膜とを順に積層して3層構造をガラス板上に形成し、上述の熱処理をした後に反射率を測定した。波長450nmの入射光を照射したところ、反射率は44%であった。これは波長450nmの入射光が4nm厚のNi膜と、4nm厚のAu膜とを、透過率70%で透過した後、Ag層で88%の反射率で反射し、再び4nm厚のNiと4nm厚のAu膜とを透過率70%で透過したとして算出した反射率とよく一致する。
【0096】
(本発明例H)
本発明例Hは、図22に示す本発明例Gの発光素子と同様に、p電極の下に高反射膜を配置した点に特徴がある。p電極12は、p型GaN層6に4nm厚のNi膜と、4nm厚のAu膜と、100nm厚のAl膜と、100nm厚のAu膜とを順に全面に成膜して形成した。これを不活性雰囲気中で加熱処理することにより、接触抵抗を5E−4Ω・cm2とした。
【0097】
上記積層膜のうち、4nm厚のNi膜と、4nm厚のAu膜とをガラス板につけて同じ熱処理をした後に透過率を測定した。その結果、Ni側からの450nmの入射光に対して70%の透過率を得た。さらに100nm厚のAl膜をガラス板につけて反射率を測定した結果、450nmの入射光に対して84%を得た。そこで4nm厚のNi膜、4nm厚のAu膜、100nm厚のAl膜、の順に成膜した積層構造をガラス板に形成した。その後、上記と同じ熱処理をした後に反射率を測定した。その結果、450nmの入射光に対して42%の反射率を得た。これは波長450nmの入射光が4nm厚のNi膜と、4nm厚のAu膜とを70%の透過率で透過した後、Al膜で42%の反射率で反射し、再び4nm厚のNi膜と、4nm厚のAu膜とを70%の透過率で透過したとして算出した反射率とよく一致する。
【0098】
(本発明例I)
本発明例Iは、本発明例Cのp電極に高反射率の材料Rhを用いた点に特徴がある(図23参照)。p電極12は、成膜時にp型GaN層6の上に、そのp型GaN層に対してオーミック接触し、かつ高反射率のRhを100nm厚で全面に成膜することにより形成した。接触抵抗は5E−4Ω・cm2であった。
【0099】
このp電極のRh膜をガラス板に成膜して透過率を測定した結果、450nmの入射光に対して60%であった。
【0100】
(実験内容及びその結果)
実施例1−2と同様に、各試験体について光出力を測定した結果、本発明例F、G、H、Iは、それぞれ20mAの印加で8.1mW、8.4mW、8.4mW、9.1mWの青色光を得た。反射材を配置しない本発明例Cでは、7mWであった。また蛍光剤を配置して白色光を放出した場合、それぞれ20mAの印加で1.45lm、1.51lm、1.51lm、1.64lmの輝度を得た。反射材を配置しない本発明例Cでは、1.26lmであった。
【0101】
上記の結果より、表面を非鏡面化した本発明例F、p電極の下に高反射膜を有する本発明例G、H、及びp電極に高反射材を用いた本発明例Iは、すべて発明例Cよりもさらに高い光出力を得ることができる。
【0102】
非鏡面化は、発光波長を変えた場合でも同様の効果があることは言うまでもない。なお、KOH水溶液を使用する場合、濃度が0.1〜8mol/l(mol/dm3)、温度が20〜80℃の範囲で行なうと同様の効果が得られることが実験により明らかにされている。
【0103】
反射電極の場合、発光波長を変えた場合、Ag層やAl層での反射率やAu及びNi層での吸収率が変わるので効果の程度は一概には言えないが、いずれの波長でも効果があることは言うまでもない。またRhの代わりに同等以上の仕事関数を持ち、同等以上の反射率がある元素を用いて同等以上の効果を得ることも可能である。
【実施例5】
【0104】
本発明の実施例5では、窒化物半導体基板を種々変化させ、厚みを薄くしたGaN基板及びAlxGa1-xN基板を用いて窒化物半導体基板の影響を検証した。また、厚みが薄く、横に細長いサイドビュー型LEDランプにおける特性を調査するため、厚みを薄くしたGaN基板の光放出面の形状の影響を検討した。
【0105】
(本発明例J)
本発明例JではGaN基板の厚みを薄くした点に特徴がある。また、この後に説明するように、光放出面の形状を正方形に加えて細長くしたものも含めて調査した。
【0106】
(1) C面から0.5°ずらしたGaNのオフ基板を使用した。比抵抗0.01Ω・cm、転位密度1E7/cm2、基板厚み100μmとした。
【0107】
(2) MOCVD法でGaN基板のGa面上に、GaNバッファ層、Siドープn型GaN層、Siドープn型クラッドAl0.2Ga0.8N層、GaNとIn0.05Ga0.95Nから構成される3組のMQW層、Mgドープp型クラッドAl0.2Ga0.8N層、Mgドープp型GaN層を順に成長させた。
【0108】
(3) 発光波長380nm、低温4.2KでのPL強度と室温298KでのPL強度とを比較することにより便宜的に算出した内部量子効率は50%であった。
【0109】
(4)-(7) 発明例Cと同じ処理を行なった。
(8) 所定の形状になるよう、スクライブを行ない、チップ化したものを発光素子とした。発光素子は、図24(a)及び図24(b)に示すように、光放出面、すなわち基板1の裏面1aが250μm□のものと250μm×1mmとを作製した。MQW発光部の面積は、上記基板から素子分離溝を除いたものと同じであり、それぞれ0.051mm2(225μm□)及び0.22mm2(225μm×975μm)となる。n電極が直径100μmであるので、光取出面(光放出面)のn電極に覆われていない部分の割合(開口率)は、それぞれ85%及び96%である。
【0110】
(サイドビュー型LED)
(9) この発光素子を反射鏡を有するリードフレームの中心部にn層側から光を取り出すようpダウン実装した(図25及び図26参照)。n電極は発光素子の中心にあり、また同じトップ側にp電極を設ける必要がないので、ワイヤボンディングするためのスペースを考慮しても、実装後のサイドビュー型LEDランプの厚みを薄くでき、厚みSを0.425mmとすることができた。図26は、250μm×1mmと細長い面の基板上に形成された発光素子を搭載したサイドビュー型LEDランプを示す図である。
【0111】
(10) また搭載にあたっては、発光素子からの放熱性を良くするために、発光素子のGaN基板が全面マウント部と接するように高熱伝導性接着剤を用いて搭載した。接着剤は熱伝導の良いAg系のものを、またリードフレームも熱伝導の良いCuW系のものを選択した。これにより、得られた熱抵抗は9℃/Wである。
【0112】
(11) さらにこのn電極側に蛍光剤を搭載した後にエポキシ系樹脂により樹脂封止を行なって、白色に発光するランプを作製した。これには380nmの光出力1W当たり180lmが得られる蛍光剤を使用した。
【0113】
(本発明例K)
本発明例Kでは、窒化物半導体基板にAlxGa1-xN基板を用いた点に特徴がある。
【0114】
(1) C面から0.5°ずらしたAlxGa1-xNのオフ基板を使用した。比抵抗0.01Ω・cm、転位密度1E7/cm2、基板厚み100μmのものを使用した。基板のAl組成はx=0.2、0.5、1と3種類のものを作製した。
【0115】
(2)-(11) 発明例Jと同様の処理を行なった。
(比較例L)
(1) C面から0.5°ずらしたGaNのオフ基板を使用した。比抵抗0.01Ω・cm、転位密度1E7/cm2、基板厚み1mm(1000μm)のものを使用した。
【0116】
(2)-(11) 発明例Jと同様の処理を行なった。なお、本比較例Lでは、本発明例Jのようにスクライブした後にブレークしてチップ化するのが困難なため、切断によりチップ化した。
【0117】
(実験内容及びその結果)
まず、基板厚みが上記実施例1-3のものより薄い、本発明例J(GaN基板100μm厚)及び本発明例K(AlxGa1-xN;x=0.2,0.5,1.0)と、非常に厚い比較例L(GaN基板1000μm厚)の各々の基板を用意し、図27(a)及び図27(b)に示すようにして波長380nmの入射光に対する透過率を測定した。本発明例J及びKについては、光放出面が250μm□と250μm×1mmとの2種類について測定した。その結果、図28に示すように、それぞれ本発明例Jが70%(光放出面の形状2種類ともに同じ)、本発明例Kが90%(光放出面の形状2種類ともに同じ、かつx=0.2,0.5,1.0の3種類すべて同じ)及び比較例Lが10%であった。
【0118】
そこで蛍光剤を搭載せず、樹脂封止のみを行なったものと、蛍光剤を搭載して白色化した本発明例Jと、本発明例Kと、比較例Lとを、積分球内に搭載した後に所定の電流を印加して集光されディテクタから出力される光出力値の比較及び輝度の比較を行なった。
【0119】
電流20mAを印加したところ、本発明例J、本発明例K、及び比較例Lの順に、4.2mW(輝度0.76lm:発光素子のサイズ2種類ともに同じ)、5.4mW(輝度0.97lm:発光素子の形状2種類ともに同じ、かつxの3種類すべて同じ)及び0.6mW(輝度0.11lm)の出力が得られた。また電流240mAを印加したところ、本発明例J及びKについて発光素子のサイズが250μm□のものは(電流密度474A/cm2)、熱の影響で時間の経過とともに光出力が小さくなってゆき、電流相応の光出力が得られなかった。しかし、250μm□×1mmのものは本発明例Jでは20mA印加時の12倍の50mW(9.1lm)が、また本発明例Kではやはり20mA印加時の12倍の64mW(11.6lm)が得られた。
【0120】
上記の結果において、20mA印加時の光出力の差は基板の透過率の差によるものである。GaN基板の場合、波長400nmより短波長域で光の透過率が極端に小さくなるため、波長域が400nmより短波長の場合、本発明例Kのように基板をAlxGa1-xN基板とすることにより、一層高い光の取り出しを得ることができる。また、GaN基板を薄くすることによっても、高い光の取り出しを得ることができる。しかし、n型層で電流を均一に広げる観点から、厚みは薄すぎても均一な発光が得られず十分な出力が得られなかったり、光が局所的に集まり樹脂を局所的に劣化させる場合がある。一方、厚すぎると前述のように取出し効率が悪くなるため、発光波長にもよるが、厚みは50μm〜500μmが望ましい。たとえば250μm□×1mmチップのように1mm近く均一に電流を広げようとする場合、厚み50〜100μmとすることがより望ましいことがこれまでの実験により判明している。
【0121】
また本発明例のようにGaN基板の厚みが薄いものを使用することにより、GaN基板の製造コストを低くすることができ、より低コストの発光素子を製造することが可能となる。この結果、発光波長によらず低コスト化できることは言うまでもない。さらにたとえば本発明例の250μm□×1mmのようにチップの光放出面を長方形とすることにより、サイドビュー型LEDランプの厚みSを0.425mmと薄くしたままで面積を大きくすることができ、面積に応じた高出力を得ることができる。長手側の寸法は前述のように、n型層で均一に電流が広がるように基板の厚みを厚くすればするほど寸法を長くすることが可能であることは言うまでもない。
【実施例6】
【0122】
本発明の実施例6の発光素子は、GaN基板の酸素濃度と比抵抗および光の透過率との関係を把握したことに基づいている。その関係に基づいてpダウン実装、すなわちGaN基板を光放出面とする発光素子において、所定の光放出面積の場合に最適なGaN基板厚みと酸素濃度との関係を樹立した点に特徴がある。上述のようにpダウン実装では光放出面がGaN基板となるので、つぎに示すように、比抵抗と光透過率とに大きな影響を有する酸素濃度はとくに重要である。
【0123】
図29は、GaN基板の比抵抗に及ぼす酸素濃度の影響を示す図である。図29より、比抵抗0.5Ωcm以下は、酸素濃度1E17個/cm3以上とすることにより実現できる。また、図30は、GaN基板400μmのときの波長450nmの光の透過率に及ぼす酸素濃度の影響を示す図である。同図より酸素濃度が2E19個/cm3を超えると波長450nmの光の透過率が急激に低下することが分かる。図29と図30とから、酸素濃度の増大は、GaN基板の比抵抗を減少させ、発光面を拡大するのに有効であるが光の透過率を低下させることが分かる。したがって、pダウン実装される発光素子に用いられるGaN基板としては酸素濃度、GaN基板の厚さ、発光の平面サイズをどのように設定するかが非常に重要となる。
【0124】
図31は、既述の本発明例CのGaN基板の厚みおよび酸素濃度を変化させ、(GaN基板+エピタキシャル積層構造)を形成し、それをpダウン実装して作製したランプにおける光出力および電流が均一に流れる平面サイズを測定した結果を示す図である。ランプの光出力についていえば、厚みが厚いほど、また酸素濃度が高いほど光出力は低下する傾向にある。また電流が均一に流れる最大の平面サイズについていえば、厚みが厚いほど、また酸素濃度が高いほど大きくなる傾向にある。
【0125】
図31から、たとえば電流が均一に流れる平面サイズが一辺0.5mm(一辺1mm)の正方形とする場合、光出力として発明例Cの大きさで20mA印加時に7mW相当以上を得たいとき、厚み50μmのGaN基板では酸素濃度を3E18個/cm3以上(一辺1mm正方形では7E18個/cm3以上)とすれば、本発明例Cの大きさで20mA印加時に光出力7mW以上を確保した上で、均一な発光を得ることができる。つまり本発明例Cの発光層の大きさ一辺200μmの正方形における20mA印加と電流密度を合わせた場合、一辺0.5mm(一辺1mm)の正方形では125mA(500mA)印加に相当し、125mA(500mA)印加時に印加電流に比例して光出力44mW(175mW)以上確保した上で、均一な発光を得ることができる。
【0126】
また、厚み200μmのGaN基板では、上記厚み50μmの場合と同じ目標性能としたとき、一辺0.5mm正方形では1E18個/cm3以上(一辺1mm正方形の場合、酸素濃度2E18個/cm3以上)とすればよい。ただし、厚み200μmでは酸素濃度を1E19個/cm3以下にしないと本発明例Cの大きさで20mA印加時に7mW相当以上の光出力を得ることができない。
【0127】
さらに、厚み400μmのGaN基板では、一辺0.5mm正方形の領域を電流が均一に流れる酸素濃度5E17個/cm3以上に比して、いかなる酸素濃度でも本発明例Cの大きさで20mA印加時に7mW相当以上には至らない。ただし酸素濃度1E19個/cm3以下であれば、本発明例Cの大きさで20mA印加時に6mW相当以上は確保でき極端に光出力が小さくなることなく、均一な発光を得ることができる。
【0128】
また、図31によれば、GaN基板の厚みが100μm〜300μmの場合、一辺0.5mmの正方形に均一に電流を流し、本発明例Cの大きさで20mA印加時に7mW相当以上の出力を得ることを可能にする酸素濃度範囲は実用上十分広いことが分かる。厚み100μmでは酸素濃度が2E18個/cm3より高く2E19個/cm3より低い酸素濃度で可能であることが分かる。また厚み300μmでは6E17個/cm3より高く5E18個/cm3より低い酸素濃度で可能である。
【0129】
同様に、図31によれば、GaN基板の厚みが200μm〜300μmの場合、一辺2mmの正方形に均一に電流を流し、本発明例Cの大きさで20mA印加時に7mW相当以上の出力を得ることを可能にする酸素濃度範囲についても実用上十分広いことが分かる。
【0130】
次に具体的な実施例について説明する。実施例では次の試験体を用いた。
(本発明例S1):1E19個/cm3の酸素濃度によりn型化されている厚み200μmのGaN基板を用いた。このGaN基板の比抵抗は0.007Ωcmであり、波長450nmの光に対する透過率は85%である。上記GaN基板を用いて発光素子に組み上げるに際し、上記以外の部分は既述の本発明例Cと同じ条件とした。すなわち、GaN基板の平面サイズは、光放出面が1辺の長さ0.2mmの正方形となるようにとり正方形となるようにとり(実施例2の(1)参照)、(a2)MOCVDでGaN基板の第1の主面であるGa面上に次の積層構造を形成した。(Siドープn型GaN層/クラッド層のSiドープn型Al0.2Ga0.8N層/GaN層とIn0.15Ga0.85N層との2層構造が3層重ねられたMQW/クラッド層のMgドープp型Al0.2Ga0.8N層/Mgドープp型GaN層)の積層構造を有する。
【0131】
(比較例T1):厚み400μmであり、酸素濃度5E19個/cm3によりn型化されているGaN基板を用いた。このGaN基板の比抵抗は0.002Ωcmであり、波長450nmの光に対する透過率は35%である。上記以外の条件は本発明例S1と同じである。
【0132】
(比較例T2):厚み400μmであり、酸素濃度2E16個/cm3によりn型化されているGaN基板を用いた。このGaN基板の比抵抗は1.0Ωcmであり、波長450nmの光に対する透過率は90%である。上記以外の条件は本発明例S1と同じである。
【0133】
(試験およびその結果):上記試験体のpダウン実装の発光素子を組み上げて20mAの電流を印加したところ、本発明例S1では7mWの光出力を得ることができた。これに比して比較例T1では2.9mW、また比較例T2では5mWの光出力しか得ることができなかった。比較例T1の2.9mWという光出力は、そのGaN基板の透過率に応じた出力ということができる。比較例T2について出光面であるGaN基板の第2主面側から発光の状態を観察したところ、面内に発光の強弱が認められた。すなわちn電極の周囲において発光強度が極端に強く、n電極から遠ざかるにつれて急激に発光強度は弱くなる。これは、GaN基板の比抵抗が大きいためにn電極を経由する電流が発光素子の面内に十分に広がらなかったからである。このため、発光は電流が集中するp電極周囲でのみ生じた。この結果、比較例T2の発光素子全体の発光出力は、本発明例S1より劣るものとなった。
【実施例7】
【0134】
本発明の実施例7は、pダウン実装の発光素子におけるGaN基板内の転位束の密度を限定して光出力を高めた点に特徴がある。GaN基板の形成の際に、大部分の領域の結晶性を高めるために、不可避的に発生する転位を集中化して集めて離散的に転位束を分布させることにより、その間の大部分の領域のGaN基板の結晶性を高める。pダウン実装の発光素子ではGaN基板が光放出側に配置されるために、転位束の密度が所定値(転位束密度4E2個/cm2)を超えると発光装置の製造歩留まりに、推定を超えて劇的に影響するという事象を確認することができた。
【0135】
上記GaN基板の転位束は、図32に示すようにp型GaN層などエピタキシャル膜のp型GaN層6にも継承され、エピタキシャル膜上にコア61として現れる。したがって、転位束密度とコア密度とはほぼ一致する。このコア61は、エピタキシャル膜の成膜条件によっては、図33に示すような孔状凹部となる。この孔状凹部の密度が、GaN基板を放出面とするpダウン実装発光装置では、製造歩留まりに劇的に影響する。
【0136】
用いた試験体は次のとおりである。
(本発明例S2):転位束が、平均して500μm×500μm当たり1個分布しているGaN基板を用いた。これは転位束密度4E6個/m2に(4E2個/cm2)対応する。他の条件は、本発明例S1と同じである。
【0137】
(比較例T3):比較例には転位束が10μm×10μm当たり1個分布しているGaN基板を用いた。これは転位束密度1E10個/m2(1E6個/cm2)の密度に対応する。他の条件は本発明例S2と同じとした。
【0138】
(試験およびその結果):上記のGaN基板を実生産ベースでそれぞれ複数の発光素子に組み上げた。各試験体に20mAの電流を印加し、光出力が7mW以上得られる歩留まりを調査した。その結果、本発明例S2では歩留まり97%であったが、比較例T3では歩留まり75%であった。すなわち転位束密度が4E6個/m2以下であれば、製造可能な歩留まりとすることができるが、上記密度を超えると実際に商業ベースで継続的に製造することが不可能となる。
【0139】
光出力が7mWに満たないデバイスとしての発光素子を分解してチップを取り出し調査した。取り出したチップを適当な酸溶液で電極を取り除き、p型半導体層側から観察すると、GaN基板の転位束が位置する箇所においてエピタキシャル成長層が形成されていないものが複数例、観察された。転位束が位置する箇所では、直径1μm程度の孔状凹部が観察された。上記孔状凹部は、光出力が7mW以上のものには認められなかった。
【0140】
また、上記の試験体に対して、両電極を形成した段階において、20mAの電流を印加したところ、上記孔状凹部を含む発光素子は駆動電圧がすべて1V未満であった。これは、孔状凹部を電極が埋めてp電極側とn電極側の層同士が電気的に短絡しており、その結果、電流が活性層全体に広がって十分な量供給されないために低い光出力となったと考えられる。
【0141】
歩留りが転位束密度によるので、チップサイズが大きいほど歩留りが悪くなる。比較例T3では光放出面が200μm□だったので歩留り75%に留まったが400μm□だと歩留り50%程度にまで低下することが発明者の実験により確認されている。
【実施例8】
【0142】
(実施例8−1)
本発明の実施例8−1は、GaN基板とn型AlGaNクラッド層3との間に、n型AlGaNバッファ層とn型GaNバッファ層とを配置した点に特徴がある。通常、基板には反りがあるが、GaN基板ではとくに反りが大きい。このためGaN基板では、オフ角も図34に示すように、基板面内で大きく変動する。図34は、20mm×20mmのGaN基板のc面からのオフ角分布例を示している。このGaN基板にエピタキシャル膜を形成して発光素子に個片化し、GaN基板を光放出面側(トップ側)にして光出力を測定すると、コーナに位置してオフ角が0.05°レベルと小さい領域R1、およびオフ角が1.5°レベルと大きい領域R2に形成された発光装置は、20mAの印加電流に対して光出力8mW以上を得ることができない。これは、GaN基板上に形成されたエピタキシャル膜の結晶性がよくないことに起因している。このため、図35に示すように、GaN基板1とAlGaNクラッド層3との間に、両者の中間の格子定数を有するn型AlGaNバッファ層71と、n型GaNバッファ層2とを配置して格子定数の相違を緩和する試みを行った。より具体的には、n型AlGaNバッファ層71を上記位置に配置した点に特徴がある。
【0143】
用いた試験体は次のとおりである。
(本発明例S3):用いたGaN基板は、図34に示すように20mm×20mmの面内で、c面からのオフ角度が0.05°の領域から1.5°の領域へと連続して変化している。このGaN基板の比抵抗は0.01Ω・cmであり、転位密度は1E7/cm2であり、厚みは400μmである。このようにオフ角度分布があるGaN基板を用いて、実施例1の本発明例Aのエピタキシャル層製造工程にしたがって、上記20mm×20mmの基板の各位置から発光素子を作製した。このとき図35に示すように、GaN基板1とn型GaNバッファ層2との間に厚み50nmのAl0.15Ga0.85Nバッファ層を配置した。
【0144】
(比較例T4):GaN基板は20mm×20mmの面内で、c面からのオフ角度が0.05°の領域から1.5°の領域へと連続したものを用いた。このGaN基板の比抵抗は0.01Ω・cmであり、転位密度は1E7/cm2であり、厚みは400μmである。実施例1の本発明例Aのエピタキシャル層製造工程にしたがって各位置から複数の発光素子を作製した。比較例T4では、GaN基板1に接してn型GaN層を形成し、GaN基板とn型GaN層との間にAl0.15Ga0.85Nバッファ層を配置しなかった。
【0145】
(試験およびその結果):発光素子に20mAの電流を印加したとき、本発明例S3では20mm×20mmのGaN基板の上記領域R1,R2を含む0.05〜1.5°の領域で、光出力8mW以上を得ることができた(図36参照)。しかし比較例T4では、オフ角度0.1°〜1.0°の領域上に形成された発光素子においてのみ光出力8mW以上を得ることができた。0.05°および1.5°のオフ角レベルでは光出力8mWに未達であった。これは、本発明例S3では、オフ角度が大きく変動するGaN基板を用いても、上記のようにAl0.15Ga0.85Nバッファ層を配置することにより結晶性に優れたエピタキシャル層を形成できるからである。
【0146】
(実施例8−2)
本発明の実施例8−2は、実施例8−1と同じくGaN基板とn型AlGaNクラッド層3との間に、n型AlGaNバッファ層とn型GaNバッファ層とを配置することで、実施例10のようなGaN基板の転位束の部分にエピタキシャル膜を形成したときに生じる図41に示した孔状凹部をなくした点に特徴がある。
【0147】
(本発明例S2−2)
比較例T3と同様、転位束が10μm×10μm当たり1個分布している直径2インチのGaN基板を用いた。これは転位束密度1E6個/cm2の密度に対応する。図43に示すように、GaN基板1とn型GaNバッファ層2との間に厚み50nmのAl0.15Ga0.85Nバッファ層を配置した。他の条件は本発明例S2と同じとした。
【0148】
(試験およびその結果)
エピタキシャル層を生成した後、微分干渉顕微鏡およびSEM(走査型電子顕微鏡)でエピタキシャル層側のウエハ面内を観察したが図41のような孔状凹部はひとつもなかった。上記の直径2インチのGaN基板を外周から縁5mm程度を除き、全て発光素子に組み上げた。発光素子を50個に1個の割合で抜取り20mAの電流を印加し、光出力が8mW以上得られる歩留まりを調査した。歩留まりは100%であった。
【実施例9】
【0149】
本発明の実施例9は、MQW4/p型AlGaNクラッド層5/p型GaN層6の外側に電導性を高めたp型AlGaN層を配置して、ダウン側に配置されるp電極として反射率の高いAg電極層のみを全面に配置した点に特徴がある。したがって仕事関数等を考慮した他の金属電極を設けていない。この構成によりダウン側底部において高い反射率を有するため、他の金属電極を用いた場合に生じる光の吸収が小さくなり、光放出効率を高めることができる。
【0150】
試験体は次のとおりである。
(本発明例S4(図37参照)):本発明例Cにおけるエピタキシャル積層構造と同様に、GaN基板の第1の主面であるGa面上に次の積層構造を有する(/MQW4/クラッド層のMgドープp型Al0.2Ga0.8N層5/Mgドープp型GaN層6/厚み5nmのMgドープInGaN層72)。
【0151】
上記の積層構造ではMgドープp型GaN層6に接して厚み5nmのMgドープInGaN層72を有する点に特徴がある。さらに本発明例S4では、ダウン側に配置されるp電極としてNi/Au電極層を形成せずに、代わりに厚みが100nmのAg層73を形成した。
【0152】
(比較例T5):ダウン側に配置されるp電極として、Ni/Au電極層に接してさらに厚み100nmのAg電極層を配置した。
【0153】
(試験およびその結果):本発明例S4では、p型GaN層6に接してp型InGaN層72があるためにアクセプタレベルが低くなる。このためキャリア濃度が増加し、それほど仕事関数が大きくないAg反射膜73をp電極としてp型InGaN層72に接して配置しても、Ag反射膜73とp型InGaN層72との接触抵抗はそれほど大きくならない。本発明例S4の発光素子の駆動電圧と、比較例T5の発光素子の駆動電圧とを比較したが、差は0.05V未満であり、有意な差を認めることはできなかった。
【0154】
本発明例S4では、20mAの電流を印加したとき10.1mWの光出力を得ることができたのに比して、比較例T5では8.4mWであった。なお、本発明例Aと同じ(GaN基板+エピタキシャル積層構造)をpダウン実装したランプの光出力は7mWであった。
【0155】
上記のように本発明例S4において大きな光出力が得られるのは、発光層からp半導体層側に向かう光が、Ni/Au電極層がないためにNi/Au電極層で吸収されることはなく、反射率88%のAg層に反射されるためである。一方、比較例T5では、p電極層における光の反射率=Ni/Auによる吸収70%×Ag反射率×再吸収70%=44%と低いものになる。この結果、本発明例S4では、外部に取り出すことができた光出力が、比較例T5の1.2倍に達した。
【0156】
なお、本実施例ではp電極にAg膜を用いたが、そのほか反射率が高くp型InGaN層72との接触抵抗がそれほど高くなければどのような材料を用いてもよく、たとえばAl、Rhを用いることができる。
【実施例10】
【0157】
本発明の実施例10では、ダウン側に配置されるp電極を、p型GaN層との接触抵抗が小さいNi/Au層を離散的に配置し、その間隙を埋めるようにAg膜を被覆して形成することにより光出力を向上させた点に特徴がある。図38はp電極に着目した断面図である。エピタキシャル層のダウン側底面に、所定のピッチでNi/Au電極層12aが離散的に配置されている。さらにその間を埋め、エピタキシャル層のダウン側底面およびNi/Au電極層12aを被覆するようにAg層73が配置されている。図39は、p電極の上側部分を透してp電極を見た平面図である。
【0158】
また、離散的なNi/Au電極層12aの典型的なピッチは3μmである。ピッチ3μmは、通常のp型GaN層やp型AlGaNクラッド層では、その比抵抗から電流が広がる範囲の直径がせいぜい6μmであることに基づいている。すなわちピッチ3μmとすることにより、1つの離散電極から隣りの離散電極に電流が届く。電流を電極層にわたって抜けのないように流すためには、ピッチ3μm以下とするのがよいが、あまりピッチを小さくすると離散配置のNi/Au電極層により光の有効取出量が減ることになる。
【0159】
たとえば離散的に配置されたNi/Au電極の面積率が20%のとき、図38および図39に示すp電極の構造によれば、光の反射率(計算)=反射率88%×面積率80%+反射率40%×面積率20%=78%(計算)が得られる。本試算をベースにして実際に上記構造のp電極を作製し、光出力を測定した。試験体は次のとおりである。
【0160】
(本発明例S5):実施例2の本発明例Cと同じ製造工程にしたがってエピタキシャル積層構造を作製したが、p電極の作製工程において、p型GaN層に接して厚み4nmのNi層を形成し、その上に厚み4nmのAu層を全面に形成した。次いで、レジストマスクをもちいてパターニングし、離散的に分布したNi/Au電極を形成した(図38、39参照)。次いで、不活性ガス雰囲気中で加熱処理することにより、接触抵抗を5E-4Ω・cm2とした。このあと、Ni/Au電極の間隙を埋め込み、かつNi/Au電極を覆うように全面にAg層を形成し、反射電極とした。離散的に配置されたNi/Au層のp型GaN層における占有率は20%とし、Agの占有率は80%とした。また、Ni/Au電極層12のピッチは3μmとした(図40参照)。
【0161】
(比較例T6):実施例2の本発明例Cと同じ製造工程にしたがって積層構造をGaN基板上に形成した。ただしp電極は、p型GaN層に接して全面にNi/Au層を配置し、熱処理を行った。次いで、本発明例Cの構成と異なり、さらにNi/Au層に接してAg層を全面に形成した(図41参照)。
【0162】
比較のために本発明例Cの発光素子について、ダウン側に向かった光の反射挙動を図42に示す。
【0163】
(試験およびその結果):上記のように作製された各発光素子に電流20mAを印加して光出力を測定した。本発明例S5では10.1mWの光出力が得られたが、比較例T6では8.4mWであった。また、活性層からマウント側(ダウン側)に向かった光のうちp電極で反射されて出射面から出射される比率は、本発明例では86%に達する(図40参照)。これに対して比較例T6では67%であった(図41)。一方、本発明例Cの発光素子における上記の比率は40%であった(図42)。
【0164】
本発明例S5ではダウン側に向かった光は、p電極の80%を占有するAgにより、その80%分が88%の反射率で反射され、またp電極の20%を占めるNi/Au層によりその20%分が40%を超える反射率(単純に反射率40%ではない)で反射される。この結果、本発明例S5では上記の比率は86%となる。比較例T6では、Ni/Au層のダウン側に位置するAg層によってさらに反射され、その反射分があるために本発明例Cよりも大きな比率となる。
【0165】
なお、比較例T6は、最も広くは本発明例に属することは言うまでもない。本実施例を説明するため便宜上比較例としているだけである。
【0166】
上記のNi/Au電極層は、Pt電極層またはPd電極層で置き換えてもよい。また、反射電極Ag層は、Pt層またはRh層で置き換えてもよい。
【0167】
同様にNi/Au電極の面積率が10%のとき20mA印加時の光出力は10.3mW、Ni/Au電極の面積率が40%のとき20mA印加時の光出力は9.3mWとその面積率に応じて比較例T6よりも大きい光出力が得られるが、Ni/Au電極の面積率が10%未満の2%の場合光出力は比較例T6と同じ8.4mWしか得られずNi/Au電極の周りで極端に発光が強いむらがあることが発明者の実験で確認されている。
【実施例11】
【0168】
本発明の実施例11は、GaN基板からエピタキシャル層に伝播した並行した複数の板状結晶反転領域を除去し、その板状結晶反転領域の間隙領域ごとにダウン側に配置されるp電極を配置した点に特徴がある。GaN基板には、GaN基板の厚み方向に並行に分布してストライプ状にGaN基板の主面に現れ、その結晶反転領域がエピタキシャル層2,3,4,5,6に伝播する。図43、図44に示す板状結晶反転領域は主面上で格子状に配置されている。
【0169】
本実施例では、上記エピタキシャル層中の結晶反転領域を完全除去し、またGaN基板の結晶反転領域を第1主面側の所定深さに至るまで除去し、各エピタキシャル層を隔て、隔てられたエピタキシャル層ごとにp電極を設けた点に特徴がある(図45参照)。板状結晶反転領域は、図43に示すように板状結晶反転領域が主面上で交差する格子状結晶反転領域から形成されていてもよいし、あとで説明するように主面上で一定方向に揃って分布する並行配置でもよい。板状結晶反転領域は、転位が高密度に密集する領域である。図32に示す転位束またはコア61と類似しているが、転位束はひも状または太さのある線状であるのに対して、板状結晶反転領域51は、厚みを有して面状に配置する。
【0170】
(本発明例S6):図43、図44に示すGaN基板では、エピタキシャル層側の第1の主表面は面方位が(0001)面つまりc面である。この第1の主表面と面対称の関係にある結晶反転領域は、(000-1)面つまり-c面であり、c軸が反転して成長している。c面では表面はGa原子が配列されたGa面であり、結晶反転領域ではその表面はN原子が配列されたN面である。本発明例S6では、第1の主表面において100μmおきに幅30μmの結晶反転領域が格子状に配列されたGaN基板を用いた。結晶反転領域は、GaN基板上に形成されたエピタキシャル膜に伝播する。
【0171】
上記GaN基板を用いて、本発明例Cにおける積層構造と同じ製造方法で本発明例S6の積層構造を形成した。p電極を形成する工程では、p型GaN層に図44のように伝播した結晶反転領域のみを被覆するマスクパターンを用いて、マスク間隙のc面の領域のみにp電極層を形成したのち、マスクパターンを取り除いた。
【0172】
次いで、上記GaN基板の第2の主面(裏面)全面にマスクを被覆した半導体基板を、8N(規定)80℃のKOH中に保持して、第1の主面側の結晶反転領域をp型GaN層などのエピタキシャル層を経てGaN基板の中にまでエッチングして除去して溝52を設けた。板状結晶反転領域51は転位密度が高い転位密集部なのでKOHによるエッチングが容易である。GaN基板内のエッチング深さは、エピタキシャル層とGaN基板との界面からGaN基板側に150μm入った位置までである。このあとマスクを取り除き、溝52を埋め込むように絶縁膜を堆積した(図45)。
【0173】
(試験および試験結果):上記の本発明例S6を発光素子に組み上げ、20mAの電流を印加したところ、8.4mWの光出力を得ることができた。これは本発明例Cの発光素子の光出力7mWの1.2倍である。
【0174】
上述したように、本発明例S6では板状結晶反転領域が格子状に配列されていたが、板状結晶反転領域は格子状である必要はなく、図46および図47に示すように、GaN基板の主面に一定方向に沿って並列的にのみ配置された板状結晶反転領域であってもよい。また点状(実際は面または小円状)の結晶反転領域が規則的に存在する基板を使用した場合でも、エッチング孔の大きさや深さに応じて発明例S6同様に本発明例Cよりも大きい光出力を得ることができる。
【実施例12】
【0175】
本発明の実施例12では、図48に示すように、半導体チップの上方に、GaN基板1に対面するように蛍光板46を配置して樹脂15によって封止した点に特徴がある。pダウン実装における放射面となるGaN基板に対面させて蛍光板を配置した構成に、斬新さがある。用いた試験体は、図48に示す本発明例S7、S8および比較例T7である。
【0176】
(本発明例S7):本発明例S7は基本的には、エピタキシャル積層構造を形成する段階では、本発明例Cにおいて対応する処理と同じ処理を行なった。その後に所定の形状になるようにスクライブを行ない、チップ化したものを発光装置とした。得た発光装置は225μm□である。図48に示すように、pダウン搭載したチップの上に蛍光板46をGaN基板1裏面に対面するように配置し、エポキシ系樹脂15で封止して白色発光装置とした。
【0177】
上記の蛍光板46は、次の製造方法で作製した。ハロゲン輸送法によりI(ヨウ素)が拡散された塊状のZnSSe結晶を作製し、この塊状ZnSSe結晶をZn、Cu雰囲気中で加熱することにより、ZnSSe内部にCuを拡散させた。ついでこの塊状ZnSSe結晶を粗い研磨盤を用いて厚さ0.5mmまで研磨したのち、リードフレームに収まる形状に切り出した。上記の方法で作製された蛍光板の表面および裏面の粗さは、Rmax=1μmであった。
【0178】
(本発明例S8):本発明例S8では、上記蛍光板46のGaN基板に対面する表面46aに凹凸を形成した(図49参照)。凹凸の高さは2μmとし、凹凸の平均的なピッチは5μmとした。他の構造は、本発明例S7と同じとした。
【0179】
(比較例T7):図50に示すように、pトップ搭載したチップの上方に蛍光板46をチップに対面するように配置し、エポキシ系樹脂15で封止して白色発光装置とした。
【0180】
(試験および試験結果):上記のGaN基板から組み上げた発光装置に電流20mAを印加したとき、得られた発光の輝度はつぎのとおりであった。本発明例S7では1.391m、本発明例S8では1.511mといずれも高い輝度を得ることができた。一方、比較例T7の輝度は1.051mであった。上記の結果は、pダウン搭載においてGaN基板に対面して蛍光板を配置する方が、pトップ搭載に蛍光板を配置するよりも高い輝度を確保できることを示すものであり、蛍光板のGaN基板に対面する表面を租面化することによりさらに輝度を向上させることが判明した。
【0181】
次に、上記の実施例と重複するものもあるが本発明の実施例を羅列的に挙げて説明する。
【0182】
上記のGaN基板は酸素ドープによりn型化されており、酸素濃度が、酸素原子1E17個/cm3〜2E19個/cm3の範囲にあり、GaN基板の厚みが100μm〜600μmであるようにできる。
【0183】
上述のように酸素濃度1E17個/cm3以上とすることにより、GaN基板の比抵抗を向上することができ、p電極から導入された電流をGaN基板に十分広げることができ、活性層の広さを十分使って発光を生じさせることができる。また酸素濃度2E19個/cm3以下とすることにより、波長450nmの光に対して60%以上の透過率を確保することができ、放射面となるGaN基板における透過率を高め、光出力を確保することができる。上記の酸素濃度範囲は、pダウン搭載した構造においてGaN基板の厚みが100μm〜600μmの場合、とくに有効に作用する。
【0184】
また、上記の酸素濃度が、酸素原子2E18個/cm3〜5E18個/cm3の範囲にあり、前記GaN基板の厚みが100μm〜300μmの範囲にあり、前記第2の主表面の光を放出する面の矩形状の面の両方の辺が0.5mm以下の範囲にあるようにできる。
【0185】
この構成により、発光面の全域にわたって発光させ、かつ十分な光出力を得ることができる。
【0186】
また、上記の酸素濃度が、酸素原子3E18個/cm3〜5E18個/cm3の範囲にあり、前記GaN基板の厚みが200μm〜300μmの範囲にあり、前記第2の主表面の光を放出する矩形状の面の両方の辺がら2mm以下の範囲にあり、前記第2の主表面の光を放出する面の矩形状の面の両方の辺が0.5mm以下の範囲にあるようにできる。
【0187】
この構成により、チップサイズが最大2mm□と大きくした場合でも発光面の全域にわたって発光させ、かつ十分な光出力を得ることができる。
【0188】
上記のGaN基板の大部分の領域の結晶性を高めるために、その形成時に不可避的に生成する転位を離散的にひも状に集中化して基板厚み方向に沿って分布させてできた転位束が、GaN基板の第1の主表面に平均4E6個/cm2以下の密度で分布するGaN基板を用いてもよい。
【0189】
この構成により、所定値以上の光出力を有する発光素子を高い製造歩留まりで製造することができる。
【0190】
上記の転位束が第1の主表面に平均4E2個/cm2以下の密度で分布し、第2の主表面の光を放出する面の短辺が200μm〜400μmの範囲にあるようにしてもよい。
【0191】
上記のような小型の発光素子では、転位束を含む場合、その特性劣化は避けられず、歩留まり低下に直結する。上記のように転位束の密度を低下させることにより、歩留まり低下を、実用上許容できる範囲にとどめることができる。
【0192】
また、上記のGaN基板とn型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)との間において、GaN基板に接してn型AlGaNバッファ層が、またそのn型AlGaNバッファ層に接してn型GaNバッファ層が位置し、そのn型GaNバッファ層に接してn型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)が位置する構成としてもよい。
【0193】
上記のようなヘテロエピタキシャル積層構造の場合、GaN基板と活性層のクラッド層であるn型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)との間に、上記のようにn型AlGaNバッファ層とn型GaNバッファ層とを配置してもよい。
【0194】
上記のようなGaN基板とクラッド層との間に、n型GaNバッファ層だけでなくn型AlGaNバッファ層を加えることにより、結晶性の良好なヘテロエピタキシャル積層構造を形成することができる。
【0195】
とくに上記の積層構造は、GaN基板において、オフ角が0.10°以下の領域と1.0°以上の領域とを有するような場合に、用いるのがよい。
【0196】
この構成により、GaN基板が反っており、上記のようにオフ角が変動する場合においても、n型GaN層に加えてn型AlGaNバッファ層を配置することにより、結晶性に優れたヘテロエピタキシャル積層構造を得ることができる。
【0197】
上記のp型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)に接してダウン側に位置するp型GaNバッファ層と、そのp型GaNバッファ層に接して位置するp型InGaNコンタクト層とを備えてもよい。
【0198】
上記の構成により、p電極層が載せられるその下層に電気伝導度に優れたp型InGaNコンタクト層を配置することができ、p電極層として仕事関数などを最重要視してその材料を選択する必要性が小さくなる。このため、たとえば反射率などを最重要視してp電極の材料を選択することができる。
【0199】
上記のp型InGaNコンタクト層のMg濃度が、Mg原子1E18個/cm3〜1E21個/cm3の範囲にあるようにできる。
【0200】
上記の構成により、電気伝導度を十分確保でき、p電極に導入された電流をエピタキシャル膜の全体にわたって広げることができる。
【0201】
上記のp型InGaNコンタクト層に接してAg層から構成されるp電極層を有する構成としてもよい。
【0202】
上記の構成により、搭載部すなわち発光素子底部からの反射率を大きくしてロスされる光を少なくすることにより、光出力を大きくすることができる。
【0203】
上記のGaN基板は、その厚み方向とそのGaN基板面内とにわたって連続して延びる板状結晶反転領域を有し、そのGaN基板内の板状結晶反転領域と、GaN基板上に形成されたn型およびp型窒化物半導体層に伝播した板状結晶反転領域とが、p型窒化物半導体層側からn型窒化物半導体層を経てGaN基板内にいたる位置まで除去され、その除去されたあとに残ったp型窒化物半導体層に接して、各p型窒化物半導体層ごとにp電極が設けられているようにできる。
【0204】
この構成によれば光取り出し面を増大できるので光出力を向上させることができる。
上記のp型窒化物半導体層に接してそのp型窒化物半導体層の表面にわたって離散的に配置される第1のp電極と、その第1のp電極の間隙を充填して、p型窒化物半導体層と第1のp電極とを被覆するAgからなる第2のp電極とを備えてもよい。
【0205】
この構成により、p電極に導入された電流を面内にわたって十分広げた上で、反射率を高めて光出力を向上させることができる。
【0206】
上記の離散的に配置される第1のp電極のp型窒化物半導体層の表面における被覆率が、10〜40%の範囲にあるようにしてもよい。
【0207】
この構成により、電気伝導度を確保した上で導入された電流を面内にわたって広げることができる。上記被覆率が10%未満では電流をエピタキシャル層にわたって抜けなく流すことができない。また、40%を超えると離散的に配置されたp電極層による光の取出し効率に対する悪影響を無視できなくなる。
【0208】
上記の窒化物半導体基板から離れて窒化物半導体基板の第2の主表面に対面するように蛍光板が配置されてもよい。
【0209】
pダウン搭載の光放射部を構成する窒化物半導体基板の直上に蛍光板を配置することにより、蛍光板の裏面で反射して戻ってきた光が窒化物半導体表面で再反射され、蛍光板側に向かうようにできる。この結果、光出力を向上させることができる。
【0210】
上記の蛍光板の窒化物半導体基板の第2の主表面に面する表面が凹凸化処理されるようにできる。
【0211】
上記の構成により、さらに光の取り出し効率を高めることができる。
上記の発光装置は樹脂により密封され、発光装置のいずれかの部分及び上記の樹脂のいずれかの部分に蛍光体を含み、蛍光体は光を受けて蛍光を発し、樹脂から外部に放出される光が白色光とされていてもよい。
【0212】
この構成により、本発明の上述の利点を備えた、白色光を発光する装置を簡単に得ることができる。
【0213】
また上記のトップ側に位置する1つの電極が、各層を平面的に見て発光装置の中央部に位置するようにしてもよい。
【0214】
上記の構成により、ワイヤボンディングを行なうスペースを十分でき、かつサイドビュー型LEDを形成した場合に厚みを薄くすることができる。
【0215】
また、上記の発光装置が、その発光装置を組み込んで形成したサイドビュー型LEDランプの厚みが0.5mm以下、又は0.4mm以下となるように構成されていてもよい。
【0216】
この結果、例えば携帯電話を含む携帯情報端末などの表示装置を小型化することができる。
【0217】
上記の発光装置の静電耐圧が3000V以上あるようにしてもよい。
この構成により、外部からのサージ電圧に対して耐久性を有し、安定して高性能を維持することができる。また、外部からのサージ電圧から発光装置を保護する保護装置を設ける必要がなくなる。すなわち、上記の窒化物半導体基板と、p型窒化物半導体層の側との間に加わる過渡電圧または静電放電から発光素子を保護するための保護回路をとくに備えなくてもよい。とくに上記過渡電圧または静電放電に対処するための、ツェナーダイオードを含む電力分路回路を備えなくてもよくなる。
【0218】
また、上記の発光装置は4V以下の電圧を印加することにより発光するようにしてもよい。
【0219】
電気伝導度が高い、すなわち電気抵抗の小さい窒化物半導体基板を用いることにより、低い電圧印加で発光に十分な電流を発光層に注入し、発光させることができる。このため、より少ない個数の電池の搭載で済むので、発光素子を組み込んだ照明装置の小型化、軽量化、低コスト化に資することができる。また、消費電力の抑制にも有効である。
【0220】
上記の窒化物半導体基板の厚みが50μm以上500μm以下であるようにしてもよい。
【0221】
この構成により、点状または小面積のn電極から電子を流す場合、電子はGaN基板またはn型窒化物半導体基板の表面から内部に入るにしたがって広がってゆく。このため、GaN基板またはn型窒化物半導体基板は厚いほうが望ましい。上記基板の厚みが50μm未満ではn電極の面積を小さくした場合、量子井戸構造の活性層に到達したときに十分に広がらず、活性層において発光しない部分または発光が十分でない部分を生じる。上記の基板の厚みを50μm以上とすることにより、低い電気抵抗によりn電極の面積を小さくしても上記基板内において電流が十分な広がりをみせて、活性層での発光部分を十分拡大することができる。より好ましくは75μm以上とするのがよい。しかし、あまり厚くしすぎると基板による吸収が無視できなくなるので、500μm以下にする。さらに、400μm以下、より好ましくは300μm以下とする。
【0222】
上記のトップ側における電極は占有率50%未満であり、その開口率または透明部分が50%以上あるようにしてもよい。
【0223】
この構成により、光放出面からの光の放出効率を高めることができる。開口率は大きいほどn電極で吸収される光量が減るので光出力を増大させることができる。このため、開口率は、より望ましくは75%以上、さらに望ましくは90%以上とするのがよい。
【0224】
上記のトップ側の面の少なくとも一辺を350μm以下としてもよい。この構成により、サイドビュー型LEDの高さを0.5mm以下に小型化することができる。
【0225】
さらに、上記トップ側の面の少なくとも一辺を250μm以下としてもよい。この構成により、サイドビュー型LEDの高さを0.4mm以下に小型化することができる。
【0226】
上記のトップ側の面を縁どり、相対向する辺がともに400μm以上の長さを有するようにしてもよい。
【0227】
上記構成により、矩形の相対向する2辺の間隔を一定に保ったまま光放出面を細長くすることができ、その結果、面積を増大させ、光出力を増大させることができる。
【0228】
上記のトップ側の面を縁どり、相対向する辺が1.6mm以下の長さを有するようにしてもよい。
【0229】
窒化物半導体基板の最小厚みを50μmとしてpダウン実装するとき、光放出面の中央に位置する1つの電極から電流を注入して、矩形の短辺に沿う方向だけでなく細長い方向にわたっても電流を発光層全面に行き渡らせるためには、細長い方向の長さを1.6mm以下にするのがよい。
【0230】
上記の熱抵抗が30℃/W以下となるように構成されてもよい。
発光装置は温度上昇により発光効率が低下し、また、過度に温度上昇が生じる場合には、発光装置が損傷を受ける。このため、発光装置において、温度または熱抵抗は重要な設計要素である。従来、熱抵抗はほぼ60℃/Wとされていた(上記特許文献1)。しかし、上記のように、熱抵抗が30℃/W以下となるように設定することにより、発光装置への投入電力を十分行なっても発光効率の低下をいちじるしく生じたり、また発光装置の損傷を生じることがなくなる。上記のような熱抵抗の半減化は、上記のように比抵抗の小さいGaN基板を用いることによりはじめて実現されたのである。
【0231】
さらに、連続発光状態で最も温度が上昇する部分の温度が、150℃以下であるようにしてもよい。
【0232】
この構成により、最も温度が上昇する部分、すなわち発光層の温度を150℃以下にして、十分高い発光効率を確保することができる。さらに従来の発光素子に比較して寿命の大幅延長を得ることが可能になる。
【0233】
上記のn型窒化物半導体層の厚みを3μm以下としてもよい。
このn型窒化物半導体層は、窒化物半導体基板の上にエピタキシャル成長させるものであり、むやみに厚くすると成膜処理に長時間を要し、原料費用も増大する。上記のようにn型窒化物半導体層の厚みを3μm以下とすることにより、大きなコスト減を得ることができる。さらに望ましくは2μm以下とするのがよい。
【0234】
上記のp型窒化物半導体層がダウン実装されており、光放出面である、上記の窒化物半導体基板の第2の主表面(裏面)において、電極が被覆していない部分に非鏡面処理が施されていてもよい。
【0235】
この構成により、第2の主表面、すなわち放出面において、発光層で発生した光が全反射により上記基板内に閉じ込められ効率が低下するのを防ぐことができる。積層構造の側面にも非鏡面処理を施してもよいことは言うまでもない。
【0236】
上記の非鏡面処理が施された表面が、水酸化カリウム(KOH)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、アンモニア(NH3)水溶液またはその他のアルカリ水溶液を用いて非鏡面化された表面としてもよい。
【0237】
上記の非鏡面化処理によりGaN基板のN面だけを凹凸の大きな表面を能率よく得ることができる。Ga面側はエッチングされない。
【0238】
上記の非鏡面処理が施された表面が、硫酸(H2SO4)水溶液、塩酸(HCl)水溶液、リン酸(H2PO4)水溶液、フッ酸(HF)水溶液及びその他の酸水溶液の少なくとも1つを用いて非鏡面化された表面であってもよい。
【0239】
また、上記の非鏡面処理が施された表面が、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)を用いて非鏡面化された表面であってもよい。これにより、ドライプロセスにより面積の寸法精度に優れた非鏡面を得ることができる。さらには、ドライエッチングのRIEおよびアルカリ水溶液による湿式エッチングのいずれによっても、フォトリソグラフィ技術と組み合わせることにより、所定の凹凸間隔を得ることができる。
【0240】
上記の実装側に配置される電極が反射率0.5以上の反射率の材質で形成されていてもよい。
【0241】
この構成により、実装面側での光の吸収を防ぎ、上記基板の第2の主面に向けて反射する光量を多くすることができる。この反射率はより高いほうが好ましく、0.7以上とするのがよい。
【0242】
上記の窒化物半導体基板の第2の主表面を覆うように蛍光体が配置されていてもよい。また、窒化物半導体基板に蛍光を発する不純物および欠陥の少なくとも一方を含ませてもよい。
【0243】
上記の構成により、ともに白色LEDを形成することができる。
本発明の発光装置は、上記に挙げたいずれかの発光装置の構造を2つ以上含み、それらの発光装置の構造が直列接続されていてもよい。
【0244】
上記の構成により、高電圧電源を用いて、上述の高効率の発光装置を複数、リードフレーム等に搭載した照明部品を得ることができる。
【0245】
また、本発明の別の発光装置は、上述の発光装置の構造を2つ以上含み、それらの発光装置の構造が並列接続されていてもよい。
【0246】
上記の構成により、高電流電源を用いて、上述の高効率の発光装置から構成される照明部品を得ることができる。
【0247】
本発明のさらに別の発光装置と、それらの発光装置を発光させるための電源回路とを含み、電源回路において、発光装置が2つ以上並列に接続された2以上の並列部が直列に接続される構成をとってもよい。
【0248】
この構成により、個々の発光装置の発光条件を満たしながら照明部品の容量と電源容量との整合をとることが可能になる。なお、上記の電源回路では、照明装置の容量を可変とする場合、並直切換部を備え、その並直切換部により、発光装置に印加される配線が切り換えられてもよい。
【0249】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明の発光素子は、導電性の高い窒化物半導体基板を用いることにより、pダウン実装及びnダウン実装によらず(1)光放出面に電極を1つだけ設けることが可能となり、サイドビュー型LEDに組み上げたとき薄厚化を一層推進することができる。また、(2)上記導電性の高い窒化物半導体基板を用い、かつnダウン実装することにより小型化した発光素子を得ることができる。さらにpダウン実装した場合には、(3)放熱性に優れ、複雑な電極構造を設ける必要がなく、大出力の発光を可能にし、(4)導電性に優れ、過渡電圧や静電放電から発光素子を保護するための保護回路を設ける必要がなく、大面積発光及び静電耐圧に優れ、(5)発光層から基板にかけて屈折率の大から小への大きな不連続性がないため、発光層から放出面にいたる間で全反射が生じ難く、したがって全反射に起因する、効率低下や側面部の樹脂劣化がなく、(6)その構造が簡単なために、製造しやすく安価であり、メインテナンス性にも優れている。このため、今後、携帯電話などを含めた携帯情報端末の照明部品に広範に利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0251】
【図1】本発明の実施例1における本発明例Aの積層構造を示す図である。
【図2】本発明例Aの製造においてウエハに素子分離溝を設けた状態を示す図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】本発明例Aの発光素子を搭載したサイドビュー型LEDランプを示す斜視図である。
【図5】図4のサイドビュー型LEDランプの正面図である。
【図6】本発明の実施例1における比較例Bの積層構造を示す図である。
【図7】比較例Bの製造においてウエハに素子分離溝を設けた状態を示す図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】比較例Bの発光素子を搭載したサイドビュー型LEDランプを示す斜視図である。
【図10】図9のサイドビュー型LEDランプの正面図である。
【図11】実施例1における印加電流と光出力との関係を示す図である。
【図12】実施例1におけるMQWでの電流密度と光出力との関係を示す図である。
【図13】発熱の影響を除いたときの外部量子効率の比較を示す図である。
【図14】実施例1で蛍光剤を搭載したときの白色LEDにおける印加電流と輝度との関係を示す図である。
【図15】実施例1で蛍光剤を搭載したときの白色LEDにおけるMQWでの電流密度と輝度との関係を示す図である。
【図16】本発明の実施例2における本発明例Cの積層構造を示す図である。
【図17】図16の平面図である。
【図18】本発明の実施例2における本発明例Cの実装構造を示す図である。
【図19】本発明例Cのサイドビュー型LEDの正面図である。
【図20】本発明の実施例3の本発明例Fにおける光の取り出しのイメージを示す図である。
【図21】非鏡面処理がない発光素子の光の取り出しのイメージを示す図である。
【図22】本発明の実施例4における本発明例G、Hの実装構造を示す図である。
【図23】本発明の実施例4における本発明例Iの実装構造を示す図である。
【図24】本発明の実施例5における本発明例J、Kの窒化物半導体基板の形状を示す図であり、(a)は正方形であり、(b)は細長い長方形を示す図である。
【図25】本発明例J及びKの実装構造を示す図である。
【図26】本発明例J及びKの発光素子を搭載したサイドビュー型LEDの正面図である。
【図27】本発明の実施例5において各窒化物半導体基板の透過率を測定する方法を説明する図である。
【図28】本発明の実施例5における各窒化物半導体基板の透過率を示す図である。
【図29】本発明の実施例6においてGaN基板の比抵抗に及ぼす酸素濃度の影響を示す図である。
【図30】本発明の実施例6においてGaN基板の光(波長450nm)の透過率に及ぼす酸素濃度の影響を示す図である。
【図31】厚みおよび酸素濃度を変化させたGaN基板から発光素子を作製したときのその発光素子の光出力および電流が均一に流れる平面サイズを示す図である。
【図32】本発明の実施例7におけるGaN基板中のコアがエピタキシャル層に継承された状態を示す図である。
【図33】孔状凹部となったエピタキシャル層に継承されたコアを示す図である。
【図34】本発明の実施例8において、20mm×20mmのGaN基板のc面からのオフ角度分布を示す図である。
【図35】本発明の実施例8における、GaN基板とAlGaNクラッド層との間にバッファ層を配置した構造を示す図である。
【図36】本発明の実施例8において、光出力8mW以上を得ることができるオフ角範囲を広げた結果を示す図である。
【図37】本発明の実施例9における発光素子を示す図である。
【図38】本発明の実施例10における発光素子のp電極に着目した断面図である。
【図39】図38の発光素子のp電極を透視した平面図である。
【図40】実施例10の本発明例S5における発光および反射を示す図である。
【図41】実施例10の比較例T6における発光および反射を示す図である。
【図42】実施例10の比較例として挙げられた本発明例Aにおける発光および反射を示す図である。
【図43】本発明の実施例11において、板状結晶反射領域が格子状に現れているGaN基板の主面を示す図である。
【図44】図43の板状結晶反射領域を示すGaN基板の断面図である。
【図45】本発明の実施例11の本発明例S6を示す断面図である。
【図46】本発明の実施例11に含まれる、図43とは別の並列配置の板状結晶領域を示す平面図である。
【図47】図46の断面図である。
【図48】本発明の実施例12の本発明例S7における発光および反射を示す断面図である。
【図49】本発明の実施例12における他の実施例である本発明例S8での発光および反射を示す断面図である。
【図50】比較例T7における発光および反射を示す断面図である。
【図51】従来のLEDを示す図である。
【符号の説明】
【0252】
1 GaN基板、1a GaN基板の裏面、2 n型GaN層、3 n型AlxGa1-xN層、4 MQW(発光層)、5 p型AlxGa1-xN層、6 p型GaN層、10 チップ(発光素子)、11 n電極、12 p電極、12a 離散配置のNi/Auのp電極、14 導電性接着剤、15 エポキシ系樹脂、22 pパッド電極、25 素子分離溝、30 サイドビュー型LED、31,31a,31b 金線、32a リードフレームのマウント部、32b リードフレームのリード部、33 樹脂、34 サイドビュー型LEDの窓、35 高反射膜、37 筐体、46 蛍光板、46a 蛍光板の凹凸面、50 チップ境界、51 板状結晶反転領域、52 トレンチ、61 コア(孔状凹部)、71 n型AlGaNバッファ層、72 p型InGaN層、73 Ag電極層、R1 オフ角0.05°領域、R2 オフ角1.44°領域、S サイドビュー型LEDの厚み(高さ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転位密度が108/cm2以下の窒化物半導体基板GaN基板と、前記GaN基板の第1の主表面の側に、n型窒化物半導体層のn型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)と、前記GaN基板から見て前記n型AlxGa1-xN層より遠くに位置するp型AlxGa1-xN層(0≦x≦1)と、前記n型AlxGa1-xN層及びp型AlxGa1-xN層の間に位置する発光層とを備え、
前記GaN基板の前記第1の主表面と反対側の主表面である第2の主表面に接してn電極を、また前記p型AlxGa1-xN層に接してp電極を有し、
前記n電極及びp電極のいずれか一方を光を放出するトップ側に、また他方をダウン側に実装し、そのトップ側に位置する電極が1つで構成され、
前記GaN基板は、その厚み方向とそのGaN基板面内の1方向とに沿って連続して平面状に延びる板状結晶反転領域を有し、そのGaN基板内の板状結晶反転領域と、前記GaN基板上に形成された前記n型およびp型窒化物半導体層に伝播した板状結晶反転領域とが、前記p型窒化物半導体層側から前記n型窒化物半導体層を経て前記GaN基板内にいたる位置まで除去され、その除去されたあとに残った前記p型窒化物半導体層に接して、各前記p型窒化物半導体層ごとに前記p電極が設けられている、発光装置。
【請求項2】
前記板状結晶反転領域をKOH水溶液で除去した、請求項1に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【公開番号】特開2008−227540(P2008−227540A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147217(P2008−147217)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【分割の表示】特願2004−279980(P2004−279980)の分割
【原出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】