説明

真空装置および固体検出器の製造装置ならびに固体検出器の製造方法

【課題】所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバを含む複数の真空チャンバを備えた真空装置を低コストに構成する。
【解決手段】高真空チャンバ2を備えた真空装置1において、高真空チャンバ2に開閉自在のバルブ3、4を介してそれぞれ接続された少なくとも2つのバッファチャンバ5、6と、該バッファチャンバ5、6のそれぞれに、開閉自在のバルブ7、8を介して接続された真空チャンバ9、10と、バッファチャンバ5、6のそれぞれに接続された、該バッファチャンバ5、6内を排気する真空ポンプ11、12とを備え、適宜バルブ3、4、7、8を開閉させ、高真空チャンバ2を同時に2つの真空ポンプ11、12により排気を可能とするとともに、高真空チャンバを含む複数の真空チャンバを少数の真空ポンプにより適宜排気可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空装置に関し、特に高排気能力での排気を要する高真空チャンバを含む複数の真空チャンバを備えた真空蒸着装置に関するものである。
【0002】
また、本発明は真空装置を備えた固体検出器の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
複数の真空チャンバを備えた真空装置においては、従来チャンバ毎に真空ポンプを備えており、真空排気能力を向上するために1つのチャンバに対して複数台の真空ポンプを備えることもある(特許文献1、図3参照)。このような真空装置は、蒸着、スパッタ、半導体プロセスなど様々な分野において使用されうるものである。
【0004】
さて一方、医療分野などにおいて、被写体を透過した放射線の照射を受けて電荷を発生し、その電荷を蓄積することにより被写体に関する放射線画像を記録する放射線画像検出器(固体検出器)が各種提案、実用化されている。
【0005】
そして、上記のような放射線画像検出器としては、たとえば特許文献2に、放射線を透過する電極層、放射線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層、潜像電荷に対しては絶縁体として作用し、かつ潜像電荷と逆極性の輸送電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層、および読取光を透過する線状に延びる透明線状電極と読取光を遮光する線状に延びる遮光線状電極とが平行に交互に配列された電極層をこの順に積層してなる放射線画像検出器が提案されている。
【0006】
記録用光導電層、電荷輸送層および読取用光導電層を含むデバイス層としてはアモルファスセレンが一般に用いられており、このセレンデバイス層を蒸着により形成する方法が特許文献3などに提案されている。
【特許文献1】特開平5−44034号公報
【特許文献2】特開2000−284056号公報
【特許文献3】特開2000−319773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来より、真空蒸着装置は知られているが、多くは光学レンズなど小さな部材に対する蒸着コーティングを行うものであり、その蒸着膜はnmオーダーから数μmオーダーの薄膜である。一方、上述の固体検出器の場合、17インチ程度以上の大きな基板上に一様に100μm以上(数百μm〜数mmオーダー)の厚膜を成膜する必要がある。
【0008】
厚膜を形成する真空チャンバは通常の真空チャンバと比較して大きな排気能力による排気を要し、そのために2台以上の真空ポンプを備える必要がある。固体検出器の製造にはセレンデバイス層の蒸着のみならず、絶縁層や電極層などの他の層もそれぞれ蒸着により形成する。セレンデバイス層、絶縁層および電極層は異なる真空蒸着室(真空チャンバ)で蒸着処理を行うことが一般的であり、蒸着装置としては、真空蒸着室を複数備える必要がある。従来、個々の真空蒸着室毎に1台あるいは複数台の真空ポンプを備えていることから、装置全体のコストは非常に高価なものであった。なお、これは蒸着室として用いられる真空チャンバを備えた蒸着装置に限らず、複数の真空チャンバを備えた真空装置においても同様である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、装置全体としてのコストを抑制することができる構成の真空装置を提供することを目的とするものである。
【0010】
また、本発明は、装置コストを抑えかつ、効率的に固体検出器を製造することができる固体検出器の製造装置および製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の真空装置は、所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバと、該高真空チャンバに、開閉自在のバルブを介してそれぞれ接続された少なくとも2つのバッファチャンバと、前記バッファチャンバのそれぞれに、開閉自在のバルブを介して接続された真空チャンバと、前記バッファチャンバのそれぞれに接続された、該バッファチャンバ内を排気する真空ポンプとを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第2の真空装置は、所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバと、該高真空チャンバに、開閉自在のバルブを介して接続された少なくとも1つのバッファチャンバと、該バッファチャンバに、開閉自在のバルブを介して接続された真空チャンバと、前記バッファチャンバに接続された、該バッファチャンバ内を排気する真空ポンプと、前記高真空チャンバに接続された、該高真空チャンバ内を排気する真空ポンプとを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
なお、ここで「所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバ」とは、他の真空チャンバと比較して大きな排気能力による排気を必要とする真空チャンバであることを意味するものであり、具体的には、他の真空チャンバの排気には十分な真空ポンプを用いた場合に、排気不十分となるような真空チャンバをいうものとする。
【0014】
本発明の第1および第2の真空装置は、前記高真空チャンバと、前記真空チャンバとが、前記バッファチャンバを介して一列に配置したインライン型装置として構成してもよいし、あるいは、前記高真空チャンバおよび真空チャンバへの基板の搬入出を行う搬送手段を備えた基板搬送室をさらに備え、前記高真空チャンバおよび真空チャンバが、前記基板搬送室とそれぞれ接続され、該基板搬送室を囲むように配置したクラスタ型装置として構成してもよい。
【0015】
本発明の真空装置は、特に、前記高真空チャンバおよび前記真空チャンバが、基板上に厚膜層を含む複数の層を成膜するための真空蒸着室であり、前記高真空チャンバにおいて前記厚膜層の蒸着がなされるものとすることができる。
【0016】
本発明の固体検出器の製造装置は、画像情報を担持する記録光の照射を受けて該画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力する、基板上に少なくとも第1の電極層、絶縁層、厚膜のセレン層を含むセレンデバイス層、および第2の電極層が順次積層されてなる固体検出器の製造装置であって、上記真空蒸着室を備えた真空装置を備え、前記第1の電極層が積層された前記基板に、前記真空チャンバもしくは前記高真空チャンバ内において、前記絶縁層、前記セレンデバイス層および前記第2の電極層を、順次蒸着成膜するものであることを特徴とする。
【0017】
本発明の固体検出器の製造方法は、画像情報を担持する記録光の照射を受けて該画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力する、基板上に少なくとも第1の電極層、絶縁層、厚膜のセレン層を含むセレンデバイス層、および第2の電極層が順次積層されてなる固体検出器の製造方法であって、上記真空蒸着室を備えた真空装置を用いて、前記第1の電極層が積層された前記基板に、前記真空チャンバもしくは前記高真空チャンバ内において、前記絶縁層、前記セレンデバイス層および前記第2の電極層を、順次蒸着成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の真空装置は、所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバと、該高真空チャンバに、開閉自在のバルブを介してそれぞれ接続された少なくとも2つのバッファチャンバと、バッファチャンバのそれぞれに、開閉自在のバルブを介して接続された真空チャンバと、バッファチャンバのそれぞれに接続された、該バッファチャンバ内を排気する真空ポンプとを備えているので、真空ポンプは、適宜バルブの開閉を行うことにより、該真空ポンプを備えたバッファチャンバが隣接する真空チャンバおよび/または高真空チャンバの排気を行うことが可能であり、高真空チャンバは少なくとも2つの真空ポンプにより同時に排気することができる。
【0019】
本発明の第2の真空装置は、所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバと、該高真空チャンバに、開閉自在のバルブを介して接続された少なくとも1つのバッファチャンバと、該バッファチャンバに、開閉自在のバルブを介して接続された真空チャンバと、バッファチャンバに接続された、該バッファチャンバ内を排気する真空ポンプと、高真空チャンバに接続された、該高真空チャンバ内を排気する真空ポンプとを備えているので、バッファチャンバ内を排気する真空ポンプは、適宜バルブの開閉を行うことにより、真空チャンバおよび/または高真空チャンバの排気を行うことが可能であり、高真空チャンバは少なくとも2つの真空ポンプにより同時に排気することができる。
【0020】
本発明の第1および第2の真空装置は、上記構成により、各真空チャンバおよび高真空チャンバにそれぞれ1つもしくは2つの真空ポンプを備える場合と比較して真空ポンプの台数を抑制することができる。なお、高真空チャンバに対して2つの真空ポンプを備えず、他よりも大きな排気能力の真空ポンプを備えることにより真空ポンプの台数を減らすことは可能であるが、大きな排気能力の真空ポンプは高価であることから装置全体としてのコスト抑制効果は少ない、一方、本発明の第1および第2の真空装置によれば、高真空チャンバを他の真空チャンバの排気を行う真空ポンプを利用しつつ、台数を減らすことができるので、コスト抑制効果が高い。
【0021】
本発明の固体検出器の製造装置は、高真空チャンバおよび真空チャンバが、基板上に厚膜層を含む複数の層を成膜するための真空蒸着室であり、高真空チャンバにおいて厚膜層の蒸着がなされるような上述の第1あるいは第2の真空装置を備えているので、従来の構成の装置と比較して真空ポンプの数を低減し、全体としてコストを抑えて構成することができる。
【0022】
なお、本発明の固体検出器の製造方法によれば、高真空チャンバを含む複数の真空チャンバを備えた真空装置を用いているので、固体検出器製造時において蒸着により成膜される絶縁層、セレンデバイス層および電極層を外気に曝すことなく順次蒸着させることができるため、固体検出器の表面の突起状欠陥の発生および画像欠陥の発生を抑制することができる。突起状欠陥は絶縁層、セレンデバイス層上に付着する塵埃等のゴミに起因すると考えられ、すべての蒸着層を外気に曝すことなく一貫して積層することにより突起状欠陥を大幅に抑制することができるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の第1の実施形態の真空装置1は、所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバ2と、高真空チャンバ2に、開閉自在のバルブ3、4を介してそれぞれ接続された2つのバッファチャンバ5、6と、バッファチャンバ5、6のそれぞれに、開閉自在のバルブ7、8を介して接続された真空チャンバ9、10と、バッファチャンバ5、6にそれぞれ接続された、バッファチャンバ5、6内を排気する真空ポンプ11、12とを備えている。
【0024】
本真空装置1において、高真空チャンバ2内で所定の処理を行う(高真空チャンバ2を使用する)場合、バルブ3、4を開とし、バルブ7、8を閉とし、真空ポンプ11、12
を作動させる。真空ポンプ11、12はそれぞれ接続されているバッファチャンバ5、6内の排気を行うことにより、該バッファチャンバ5および6と接続されている高真空チャンバ2内の排気を行う。すなわち、高真空チャンバ2は同時に2台の真空ポンプ11、12により排気される。真空チャンバ9内にて処理を行う場合、バルブ3を閉じ、バルブ7を開とし、真空ポンプ11を作動させる。真空ポンプ11はバッファチャンバ5内の排気を介して真空チャンバ9内の排気を行う。同様に、真空チャンバ10内にて処理を行う場合、バルブ4を閉じ、バルブ8を開とし、真空ポンプ12を作動させる。真空ポンプ12はバッファチャンバ6内の排気を介して真空チャンバ10内の排気を行う。このように、適宜、使用される高真空チャンバ2内の排気は2つの真空ポンプ11、12により、真空チャンバ9、10内の排気は1つの真空ポンプによりそれぞれ行うことができる。
【0025】
従来の装置構成によれば、高真空チャンバ2に対して2つ、真空チャンバ9、10に対して1つずつの計4つの真空ポンプが必要であったが、本実施形態によれば、2つの真空ポンプで各真空チャンバ2、9、10に対する排気を行うことができ、全体としての装置コストを従来と比較して抑制することができる。
【0026】
本発明の第2の実施形態の真空装置21は、所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバ22と、該高真空チャンバ22に、開閉自在のバルブ23を介して接続された1つのバッファチャンバ24と、該バッファチャンバ24に、開閉自在のバルブ25を介して接続された真空チャンバ26と、バッファチャンバ24に接続された、該バッファチャンバ24内を排気する真空ポンプ27と、高真空チャンバ22に接続された、該高真空チャンバ22内を排気する真空ポンプ28とを備えている。
【0027】
本真空装置21において、高真空チャンバ22内で所定の処理を行う(高真空チャンバ22を使用する)場合、バルブ23を開とし、バルブ25を閉とし、真空ポンプ27、28を作動させる。真空ポンプ27は接続されているバッファチャンバ24内の排気を行うことにより、該バッファチャンバ24と接続されている高真空チャンバ22内の排気を行い、真空ポンプ28は直接高真空チャンバ22の排気を行う。これにより、高真空チャンバ22は同時に2台の真空ポンプ27、28により排気される。真空チャンバ26内にて処理を行う場合、バルブ23を閉じ、バルブ25を開とし、真空ポンプ27を作動させる。真空ポンプ27はバッファチャンバ24内の排気を介して真空チャンバ26内の排気を行う。このように、高真空チャンバ22を用いる場合には2つの真空ポンプ27、28により、真空チャンバ26を用いる場合には、1つの真空ポンプ27により適宜排気を行うことができる。
【0028】
従来の装置構成によれば、高真空チャンバ22に対して2つ、真空チャンバ26に対して1つの計3つの真空ポンプが必要であったが、本実施形態によれば、真空ポンプを2つで各真空チャンバに対する排気を行うことができ、全体としての装置コストを従来と比較して抑制することができる。
【0029】
なお、上記第1および第2の実施形態の真空装置1、21の、各真空チャンバ内で行う所定の処理としては、蒸着、スパッタ、半導体プロセスの各処理いかなるものであってもよい。
【0030】
次に、本発明の真空装置を固体検出器の製造に用いた実施形態を第3の実施形態として説明する。図3は、固体検出器の製造装置に備えられる本発明の第3の実施形態の真空装置の概略構成を示す図である。
【0031】
本実施形態の真空装置30は、基板45が最初に搬入される真空チャンバであり、外気に露出されていた基板45を成膜室へ搬入する前に真空引きをするための基板仕込み室31、基板45上に絶縁層を蒸着により成膜するための真空チャンバである絶縁層成膜室32、第1のバッファチャンバ33、デバイス層を蒸着により成膜するための高真空チャンバであるデバイス層成膜室34、第2のバッファチャンバ35、電極層を成膜するための真空チャンバである電極層成膜室36、第3のバッファチャンバ38が開閉自在のバルブ37a〜37fを介して1列に配置されたインライン型の真空装置である。バッファチャンバ33、35、38および基板仕込み室31にはそれぞれ真空ポンプ41、42、44が接続されている。基板仕込み室31に備えられる真空ポンプ43は、バッファチャンバ33、35、38に備えられる真空ポンプ41、42、44と比較して排気能力の低い安価なものであってもよい。
【0032】
絶縁層成膜室32、デバイス層成膜室34および電極層成膜室36は、真空蒸着室であり、特に、デバイス層成膜室34は厚膜の層を形成するため、他の真空チャンバよりも高い排気能力で排気すべき高真空チャンバである。このデバイス層成膜室34は第1および第2のバッファチャンバ33、35にバルブ37c、37dを介して接続されており、バッファチャンバ33、35内を排気するための真空ポンプ41、42の2つの真空ポンプにより排気可能とされている。
【0033】
なお、基板45は基板仕込み室31に最初に搬入され、各バルブ、バッファチャンバ、各成膜室を順次搬送され、蒸着工程終了後、基板仕込み室31に戻されて該基板仕込み室31から搬出されるので、各バルブは最大開口径およびバッファチャンバの大きさは基板が通過するために十分な程度の大きさを有する。
【0034】
本真空装置30を用いて製造される固体検出器は、画像情報を担持する記録光の照射を受けて該画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力する、基板上に少なくとも第1の電極層、絶縁層、厚膜のセレン層を含むセレンデバイス層、および第2の電極層が順次積層されてなるものであり、その具体例を図4に示し説明する。図4は、具体的な固体検出器の一例であり、その一部の断面図を示すものである。
【0035】
固体検出器50は、ガラス等の光透過性の基板51上に、第1電極層52、CeOからなる絶縁層54、Se−As層55、a−Seからなる読取用光導電層56、AsSeからなる電荷輸送層57、a−Seからなる記録用光導電層58、Auからなる第2電極層59をこの順に積層した構造を有する。
【0036】
第1電極層52は、読取光を透過するIZOからなる複数の第1の線状電極52aと該第1の線状電極52aの間にそれぞれ設けられた複数の第2の線状電極52bと該各第2の線状電極52bの基板51側に設けられた赤レジストからなる線状遮光絶縁体52cとを有し、さらに、線状遮光絶縁体52cと第1の線状電極52aおよび第2の線状電極52bとの間には絶縁膜53を有している。
【0037】
読取用光導電層56は、読取光の照射により導電性を呈し電荷対を発生する層であり、電荷輸送層57は、たとえば負電荷に対して略絶縁体として作用し、正電荷に対して略導電体として作用する機能を有するものであり、記録用光導電層58は、記録用の電磁波(光または放射線)の照射によって導電性を呈し電荷対を発生するものである。
【0038】
各層の厚みは例えば、CeO絶縁層54の厚さは0.1μm、Se−As層55の厚さは0.05μm、読取用光導電層56の厚さは10μm、電荷輸送層57の厚さは0.2μm、記録用光導電層58の厚さは200μmである。また、Se−As層55は、SeにAsを10%ドープしたものである。
【0039】
以下、上記固体検出器50の製造方法を真空装置30の作用と併せて説明する。まず、別工程において基板51上に第1電極層52を形成する。この第1電極層52が積層された状態で基板45は真空装置30内に搬送される。第1電極層52が積層された基板45は、まず、基板仕込み室31に搬入される。基板仕込み室31と絶縁層成膜室32との間のバルブ37aが閉とされ、真空ポンプ43を作動させて基板仕込み室31の排気を行う。
【0040】
基板45を基板仕込み室31において所定時間真空引きを行った後、バルブ37cを閉、バルブ37a、37bを開として、基板45を絶縁層成膜室32に搬送した後、バルブ37aを閉とする。絶縁層成膜室32はバッファチャンバ33を介して真空ポンプ42により排気され、この絶縁層成膜室32において、基板45上に設けられた第1電極層52上にCeO絶縁層54を蒸着形成する。絶縁層54が蒸着された基板45を、バルブ37eを閉とし、バルブ37b、37c、37dを開とした状態でバッファチャンバ33を通過させてデバイス層成膜室34に搬送した後、バルブ37bを閉とする。デバイス層成膜室34は、開状態のバルブ37c、37dおよび隣接するバッファチャンバ33および35を介して2つの真空ポンプ41および42により排気される。デバイス層成膜室34において、絶縁層54上にSe−As層55、a−Se読取用光導電層56、AsSe電荷輸送層57およびa−Se記録用光導電層58を順次蒸着形成する。デバイス層を構成するこれらの層55〜58のうち、特に記録用光導電層58の厚さは感度向上のため厚膜に形成する。
【0041】
デバイス層が蒸着された基板45を、バルブ37eを開とした状態でバッファチャンバ35を通過させて電極層成膜室36に搬送した後、バルブ37eを閉とする。一方、バルブ37fは開とされており、電極層成膜室36はバッファチャンバ38を介して真空ポンプ44により排気される。この電極層成膜室36において、デバイス層上にAu第2電極層59を蒸着形成する。このようにして、基板45は、絶縁層54からAu第2電極層59までの各層が蒸着により形成された後、基板仕込み室31に戻されて真空装置30から搬出される。
【0042】
このように、本実施形態の真空装置30においては、各層の蒸着処理の間、基板および各層を外気に曝すことなく順次成膜することができる。これにより欠陥の少ない安定した膜を形成することができ、また、画像欠陥も低減することができる。
【0043】
また、各成膜室毎に真空ポンプを備え、特に高真空チャンバであるデバイス層成膜室に高排気能力の真空ポンプあるいは、2つの真空ポンプを備えていた従来の真空装置と比較してコストを抑えた真空装置であるため、固体検出器の製造装置としても全体としてコストを抑制することができる。
【0044】
なお、上記実施形態の真空装置30において、電極層成膜室36にバルブ37fを介して隣接するバッファチャンバ38を備えず、真空ポンプ44を直接真空チャンバ44に接続する構成とすることもできる。さらには、真空ポンプ44を備えない構成も可能である。これにより、さらにコストを下げることができる。なお、真空ポンプ44を備えない場合、電極層成膜室36の排気する際には、適宜バルブ37dを閉、バルブ37eを開として真空ポンプ41を作動させ該真空ポンプ41による排気を行えばよい。
【0045】
さらに別の層を蒸着したい場合等により蒸着工程が増えた場合には、バッファチャンバ38の後(図面において右側)に真空チャンバを増設していくことも可能である。また、上記においては真空装置30に対して基板仕込み室31から基板45を搬入し、また搬出する形態について説明したが、バッファチャンバ38の後に基板仕込み室と同様の真空ポンプを備えた基板取り出し室を備えるようにしてもよい。この場合、基板45は真空装置内を往復するのではなく、一方向に搬送する形態とすることができるので、複数の基板について順次真空装置に搬入し、複数の基板への各蒸着室における蒸着処理を順次行うことが可能となり、作業効率の向上を図ることができる。
【0046】
なお、上記実施形態の真空装置30は、デバイス層成膜室34を2つの真空ポンプで排気可能な構成を特徴とするものであるが、デバイス層成膜室34において、必ずしも2つの真空ポンプで排気する必要がない場合には、いずれか一方の真空ポンプのみで排気するように使用することも可能である。
【0047】
以下において、本実施形態の装置により製造された固体検出器50と、絶縁層成膜室、デバイス層成膜室、電極層成膜室が連結されず、それぞれ別個の真空蒸着装置に備えられ、各成膜室での処理後に基板を一旦外気に曝す従来の方法で製造した固体検出器との比較評価を行った結果を説明する。
【0048】
比較例の固体検出器の層構成は実施例である上述の実施形態の固体検出器と同一とした。ただし、第1の電極層が形成された基板を、絶縁層成膜室で絶縁膜を蒸着成膜後、一旦外気に曝し、その後デバイス層成膜室に搬入してデバイス層を蒸着成膜し、さらに、一旦外気に曝した後、電極層成膜室に搬入し電極層を蒸着成膜して形成した。なお、各成膜室における真空度(真空排気量)は実施例と同様とした。
【0049】
第1の評価方法として、固体検出器の成膜表面すなわち第2電極層表面を顕微鏡で観察し、100cm2当たりの様々なサイズの突起状欠陥の個数をカウントした。図6は実施例および比較例について各サイズの突起状欠陥の個数を示したグラフである。
【0050】
第2の評価方法として、5画素、6画素および7画素の大きさの欠陥サイズの画像欠陥の個数をそれぞれカウントした。ここで、1画素のサイズは50μm角である。図7は実施例および比較例について各サイズの画像欠陥の個数を示したグラフである。第2の評価は、図8(A)に示すように、固体検出器50の第2の電極層59に高圧電源60によって−2kVの電圧を印加した状態で、第2の電極層59側から200mRの放射線を照射して一様露光した後、図8(B)に示すように、第2の電極層59を接地した状態で、第1の電極層側から青色の読取光L1を照射し画像化し、画像欠陥を検出した。なお、青色の読取光L1は50μW/mmで1ms照射した。
【0051】
各成膜室を連結し、基板を外気に曝すことなく絶縁層54から第2の電極層59まで成膜することにより、突起状欠陥数、画像欠陥数を大幅に低減することができたことが図6および図7から明らかである。
【0052】
本発明の真空装置を固体検出器の製造に用いた別の実施形態を第4の実施形態として説明する。図8は、固体検出器の製造装置に備えられる本発明の第4の実施形態の真空装置の概略構成を示す図である。
【0053】
本実施形態の真空装置70は、基板45が最初に搬入される真空チャンバであり、外気に露出されていた基板を成膜室へ搬入する前に真空引きをするための基板仕込み室72、基板上に絶縁膜を蒸着により成膜するための真空チャンバである絶縁層成膜室73、デバイス層を蒸着により成膜するための高真空チャンバであるデバイス層成膜室74、電極層を成膜するための真空チャンバである電極層成膜室75が、基板45を各チャンバに搬入出を行う図示しない搬入出手段である搬送ロボットを備えた搬送室71にそれぞれ接続するように該搬送室71を囲むように配置されたクラスタ型の真空装置である。
【0054】
搬送室71を囲み、互いに隣り合う真空チャンバ72、73、75および高真空チャンバ74は、互いに開閉自在のバルブ78a〜78hとバッファチャンバ76a〜76dを介して接続されている。各バッファチャンバ76a〜76dにはそれぞれバッファチャンバ内を排気する真空ポンプ80a〜80dが備えられている。基板仕込み室72に隣接するバッファチャンバ76a、76dのいずれか一方の真空ポンプ80a、80dは必ずしも備えていなくてもよい。
【0055】
各真空チャンバ72、73、74および75への基板の搬入出は搬送室71を介して行うので、バルブ78a〜78hおよびバッファチャンバ76a〜76dは、バルブの開閉により必要に応じて各真空チャンバ内を排気可能であればよく、基板が通過する大きさは必要ない。また、搬送室71には該搬送室71内を排気する図示しない真空ポンプが接続されている。
【0056】
また、搬送室71と各真空チャンバ72、73、74、および75との間には図示しないシャッタが備えられており、シャッタは搬送室71からの基板45の搬入出時以外は閉じておく。なお、真空装置70への基板の搬入出は、基板仕込み室72から行われる。
【0057】
以下、上記固体検出器50を製造する際の真空装置70の作用を簡単に説明する。まず、別工程において基板51上に第1電極層52を形成する。この第1電極層52が積層された状態で基板45は真空装置70内に搬送される。第1電極層52が積層された基板45は、まず、基板仕込み室72に搬入される。バルブ78b、78hを閉、バルブ78aを開とし、真空ポンプ80aを作動させて基板仕込み室72の排気を行う。
【0058】
基板45を基板仕込み室72において所定時間真空引きを行った後、仕込み室72と搬送室71間のシャッタを開き、搬送ロボットにより基板45を搬送室71に搬送する。その後、仕込み室72と搬送室71間のシャッタを閉じ、絶縁層成膜室73のシャッタを開き、搬送ロボットにより基板45を絶縁層成膜室73に搬入する。このとき、バルブ78a、78cは閉、78bは開とし、絶縁層成膜室73はバッファチャンバ76aを介して真空ポンプ80aにより排気する。絶縁層成膜室73において、基板45上に設けられた第1電極層52上にCeO絶縁層54を蒸着形成する。その後それぞれ搬送室71を経由してデバイス層成膜室74、電極層成膜室75で順次デバイス層56〜58、第2電極層59の蒸着形成を行う。デバイス層成膜室74で絶縁層54上にSe−As層55、a−Se読取用光導電層56、AsSe電荷輸送層57およびa−Se記録用光導電層58を順次蒸着形成する際にはバルブ78d、78eを開、バルブ78c、78fを閉とし、バッファチャンバ76b、76cを介して2つの真空ポンプ80b、80cによる排気を行う。一方、電極層成膜室75で第2電極層59の蒸着を行う際には、バルブ78gを開、バルブ78f、78hを閉とし、バッファチャンバ76dを介して真空ポンプ80dによる排気を行う。第2電極層が形成された基板45は、再び基板仕込み室72に搬入されて、該仕込み室72から真空装置70の外部に搬出される。
【0059】
このように、本実施形態の真空装置70においても、各層の蒸着処理の間、基板および各層を外気に曝すことなく順次成膜することができるので、上述の第3の実施形態の場合と同様に、欠陥の少ない安定した膜を形成することができ、また、画像欠陥も低減することができる。
【0060】
図9は、本発明の第5の実施形態の真空装置の概略構成を示す図である。本実施形態の真空装置90は、基板の搬入出を行う搬入出手段である搬送ロボットを備えた搬送室91と、該搬送室91にそれぞれ接続され、該搬送室91を囲むように配置された8つの真空チャンバ92と、開閉自在のバルブ95を介して各真空チャンバ92と接続された8つのバッファチャンバ93と、各バッファチャンバ93に備えられた、該バッファチャンバ93内の排気を行う8つの真空ポンプ97とを備えている。さらに、搬送室91と各真空チャンバの間には図示しないバルブを備え、搬送室91は該搬送室内の排気を行う図示しない真空ポンプを備えている。
【0061】
各真空チャンバ92はいずれも真空ポンプを備えたバッファチャンバが2つ隣接されているため、適宜バルブ95を開閉させることにより、随時必要な真空チャンバ92の排気能力を向上させ、いずれの真空チャンバ92であっても高真空チャンバとして利用可能である。
【0062】
また、複数の真空チャンバ92のうち、1つの真空チャンバ92Aのみが高真空チャンバであるような場合には、その両隣のバッファチャンバ93には真空ポンプ97を備えるが、それ以外の真空チャンバ92の両隣のバッファチャンバについては、いずれか一方にのみ真空ポンプを備えるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態の真空装置の概略構成を示す図
【図2】本発明の第2の実施形態の真空装置の概略構成を示す図
【図3】本発明の第3の実施形態の真空装置の概略構成を示す図
【図4】固体検出器の一例を示す断面図
【図5】固体検出器の第2の評価方法を説明するための図
【図6】実施例および比較例の突起状欠陥サイズ別の欠陥個数を示すグラフ
【図7】実施例および比較例の画像欠陥サイズ別の欠陥個数を示すグラフ
【図8】本発明の第4の実施形態の真空装置の概略構成を示す図
【図9】本発明の第5の実施形態の真空装置の概略構成を示す図
【符号の説明】
【0064】
1、21、30、70、90 真空装置
2、22 高真空チャンバ
3、4、7、8、23、25 バルブ
5、6、24 バッファチャンバ
9、10、26 真空チャンバ
11、12、27、28 真空ポンプ
31 基板仕込み室
32 絶縁層成膜室
33、35、37 バッファチャンバ
34 デバイス層成膜室
36 電極層成膜室
37a〜37f バルブ
41、42、43、44 真空ポンプ
45 基板
50 固体検出器
51 基板
52 第1電極層
54 絶縁層
55 Se−As層
56 読取用光導電層
57 電荷輸送層
58 記録用光導電層
59 第2電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバと、
該高真空チャンバに、開閉自在のバルブを介してそれぞれ接続された少なくとも2つのバッファチャンバと、
前記バッファチャンバのそれぞれに、開閉自在のバルブを介して接続された真空チャンバと、
前記バッファチャンバのそれぞれに接続された、該バッファチャンバ内を排気する真空ポンプとを備えたことを特徴とする真空装置。
【請求項2】
所定以上の大きな排気能力による排気を必要とする高真空チャンバと、
該高真空チャンバに、開閉自在のバルブを介して接続された少なくとも1つのバッファチャンバと、
該バッファチャンバに、開閉自在のバルブを介して接続された真空チャンバと、
前記バッファチャンバに接続された、該バッファチャンバ内を排気する真空ポンプと、
前記高真空チャンバに接続された、該高真空チャンバ内を排気する真空ポンプとを備えたことを特徴とする真空装置。
【請求項3】
前記高真空チャンバと、前記真空チャンバとが、前記バッファチャンバを介して一列に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空装置。
【請求項4】
前記高真空チャンバおよび真空チャンバへの基板の搬入出を行う搬送手段を備えた基板搬送室をさらに備え、
前記高真空チャンバおよび真空チャンバが、前記基板搬送室とそれぞれ接続され、該基板搬送室を囲むように配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空装置。
【請求項5】
前記高真空チャンバおよび前記真空チャンバが、基板上に厚膜層を含む複数の層を成膜するための真空蒸着室であり、
前記高真空チャンバにおいて前記厚膜層の蒸着がなされるものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の真空装置。
【請求項6】
画像情報を担持する記録光の照射を受けて該画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力する、基板上に少なくとも第1の電極層、絶縁層、厚膜のセレン層を含むセレンデバイス層、および第2の電極層が順次積層されてなる固体検出器の製造装置であって、
請求項5記載の真空装置を備え、
前記第1の電極層が積層された前記基板に、前記真空チャンバもしくは前記高真空チャンバ内において、前記絶縁層、前記セレンデバイス層および前記第2の電極層を、順次蒸着成膜するものであることを特徴とする固体検出器の製造装置。
【請求項7】
画像情報を担持する記録光の照射を受けて該画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力する、基板上に少なくとも第1の電極層、絶縁層、厚膜のセレン層を含むセレンデバイス層、および第2の電極層が順次積層されてなる固体検出器の製造方法であって、
請求項5記載の真空装置を用いて、前記第1の電極層が積層された前記基板に、前記真空チャンバもしくは前記高真空チャンバ内において、前記絶縁層、前記セレンデバイス層および前記第2の電極層を、順次蒸着成膜することを特徴とする固体検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−254831(P2007−254831A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81861(P2006−81861)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】