説明

磁気抵抗効果膜、磁気ヘッド及び磁気記録装置

【課題】リード特性を損なうことなく磁気抵抗効果膜の薄膜化を可能とし、これによってリードギャップを狭くし、記録媒体の高記録密度化を可能にする。
【解決手段】本発明に係る磁気抵抗効果膜は、反強磁性層12と、該反強磁性層12に積層された固定磁化層13aとを備え、前記反強磁性層12が、多結晶構造を備えるL12型規則合金であるMn3Irからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反強磁性層の構造を特徴とする磁気抵抗効果膜、及びこの磁気抵抗効果膜を用いた磁気ヘッド、及びこの磁気ヘッドを用いた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置に用いられる磁気ヘッドは、記録媒体に記録された情報を読み取るリードヘッドを備える。リードヘッドには、記録媒体に記録された磁化信号に応答して抵抗値が変化する磁気抵抗効果膜が用いられている。この磁気抵抗効果膜は、固定磁化層(ピン層)と、媒体からの磁界によって磁化方向が変化する自由磁化層(フリー層)を備え、媒体の磁化信号の作用によってフリー層の磁化方向がピン層の磁化方向に対して変化することによる抵抗変化を検出して信号を読み取る。
【0003】
磁気抵抗効果素子には、CIP(Current In Plane)型の素子と、TMR(Tunneling Magneto Resistance)素子のようなCPP(Currnt Perpendicular to Plane)型の素子がある。
図9に、TMR素子の膜構成例を示す。この磁気抵抗効果素子は、下部シールド層10と上部シールド層18との間に磁気抵抗効果膜20として、下地層11、反強磁性層12、第1ピン層13a、反強磁性結合層14、第2ピン層13b、トンネルバリア層15、フリー層16、キャップ層17を形成したものである。なお、CIP形の磁気抵抗効果素子の場合は、下部シールド層と下地層との間に絶縁層を設けた構造となる。
【0004】
磁気抵抗効果膜は、ピン層の磁化方向に対してフリー層の磁化方向が変化した際に抵抗値が変化することを検知するものであるから、ピン層についてはその磁化方向が完全に固定されている必要がある。第1ピン層13aの磁化方向を一方向に固定する作用は、反強磁性層12と第1ピン層13aとの間に生じる交換異方性と、第1ピン層13a自体の保磁力による。したがって、第1ピン層13aの磁化方向をより強く固定するには、反強磁性材料は大きな交換異方性を備えること、ピン層の強磁性材料は高い保磁力を有することが求められる。第1ピン層13aの磁化方向が固定されることにより、第2ピン層13bも磁化方向が固定されるようになる。
【特許文献1】特開平10−284321号公報
【特許文献2】特開平11−233344号公報
【特許文献3】特開2001−102215号公報
【特許文献4】特開2001−24251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年は、記録媒体の高記録密度化にともない記録媒体のビット幅がますます狭くなってきた。このため、記録媒体に記録されている信号を読み取る分解能を上げるために、磁気抵抗効果素子のリードギャップをより狭くすることが求められている。下部シールド層と上部シールド層は、磁気抵抗効果膜により記録媒体に記録されているビット情報を読み取る際に、隣接するビットからの漏洩磁界を吸収し、読み取るべきビットからの磁気情報のみが読み取られるようにする作用を有する。この下部シールド層と上部シールド層との間隔がリードギャップであり、図9において、リードギャップGは、下地層11からキャップ層17までの膜厚を加え合わせたものに相当する。
【0006】
したがって、リードギャップGを狭くするには、下地層11からキャップ層17までの全膜厚を薄くする必要がある。下地層11からキャップ層17のうち、もっとも膜厚が厚いものは反強磁性層12であり、リードギャップを狭くするには、まず反強磁性層12の膜厚Tを薄くすることが考えられる。
たとえば、TMR型の磁気抵抗効果素子におけるリードギャップが25nm程度の場合、反強磁性層12の膜厚は6nm程度であり、反強磁性層12の膜厚はリードギャップの相当部分を占めている。
【0007】
しかしながら、反強磁性層12の膜厚Tを薄くすると、反強磁性層12による交換磁気異方性が低下し、ブロッキング温度が低くなるため、ピン層の磁化方向を十分に固定する作用が失われてしまう。反強磁性層12によるピン層の磁化方向を固定する作用が低下すると、磁気抵抗効果素子の出力ノイズが大きくなり、所要の再生特性が得られなくなるという問題が生じる。なお、ブロッキング温度とは、反強磁性層を加熱した際に磁化方向を固定する作用が消失する温度であり、ブロッキング温度が低くなることは、反強磁性層による磁化固定作用が安定しなくなることを意味する。
【0008】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、リード特性を損なうことなく磁気抵抗効果膜の薄膜化を可能とし、これによってリードギャップを狭くし、記録媒体の高記録密度化を可能にする磁気抵抗効果膜及び磁気ヘッド並びに磁気記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の一観点によれば、反強磁性層と、該反強磁性層に積層された固定磁化層とを備え、前記反強磁性層が、多結晶構造を備えるL12型規則合金であるMn3Irからなる磁気抵抗効果膜が提供される。
また、前記磁気抵抗効果膜は、磁気ヘッドの再生ヘッドを構成する磁気抵抗効果膜として利用することができる。
また、前記磁気抵抗効果膜を備える磁気ヘッドは、磁気記録装置に搭載して好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁気抵抗効果膜は、反強磁性層として多結晶構造を備えるL12型規則合金であるMn3Irを使用することにより、反強磁性層に積層される固定磁化層の磁化方向を確実に固定することができ、反強磁性層の膜厚を薄くすることを可能にしてリードギャップを狭くすることができる。これによって、磁気ヘッドおよび磁気ヘッドを搭載した磁気記録装置の高記録密度化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(磁気抵抗効果膜)
図1は、本発明に係る磁気抵抗効果膜の一実施形態の構成を示している。
図示例の磁気抵抗効果膜の膜構成は、図9に示した従来の磁気抵抗効果膜の膜構成と基本的な構成は同一である。すなわち、下部シールド層10と上部シールド層18との間に、磁気抵抗効果膜20として、下地層11、反強磁性層12、第1ピン層13a、反強磁性結合層14、第2ピン層13b、トンネルバリア層15、フリー層(自由磁化層)16、キャップ層17を積層している。第2ピン層13bがフリー層16に対するリファレンス層である。反強磁性層12には、従来、たとえばMn系の反強磁性材料として、IrMn、PtMn、PdPtMn、PdMn等が用いられる。本実施形態の磁気抵抗効果素子においては、反強磁性層12として多結晶のL12型規則合金であるMn3Irを使用する。
【0012】
この反強磁性層12について説明する前に、まず、下地層11からキャップ層17までの各層の構成について説明する。
下地層11は反強磁性層12を成膜する際の下地として使用するものである。下地層としては、たとえばTa、Ruの2層膜が用いられる。
第1ピン層13a及び第2ピン層13bは固定磁化層であり、CoFeあるいはCoFeBといった強磁性材料が用いられる。
反強磁性結合層14は、第1ピン層13aと第2ピン層13bを反強磁性的に結合させる層であり、たとえばRuが用いられる。反強磁性結合層14を介して第1ピン層13aと第2ピン層13bを積層することにより、単層のピン層と比較して固定磁化層の磁化方向をより強固に固定することができる。
【0013】
トンネルバリア層15には、アルミナ、MgOが用いられる。トンネルバリア層15はトンネル効果により膜厚方向にセンス電流を流すためのものであり、きわめて薄厚に形成される。
フリー層16には、たとえばCoFe/NiFeの2層膜が用いられる。
キャップ層17は磁気抵抗効果膜の保護層として設けられる。たとえば、Ta膜とRu膜の2層膜が用いられる。
下部シールド層10及び上部シールド層18には、好適なシールド作用が得られる、NiFe等の軟磁性材料が用いられる。
【0014】
前述したように、本実施形態の磁気抵抗効果膜においては、反強磁性層12として多結晶構造のL12型規則合金であるMn3Irを使用する。
L12型規則合金とは、Mn原子が単位格子の面心(face center)位置にあり、Ir原子が単位格子の頂点位置にある結晶構造である。多結晶のMn3Irを使用するとは、反強磁性層12を単結晶として形成する必要はなく、多結晶として形成すればよいという意味である。多結晶のL12型規則合金Mn3Irは、スパッタリング法によって形成することができる。
【0015】
磁気抵抗効果膜の反強磁性層として、従来IrMn合金が使用されてきた。しかしながら、反強磁性層12に従来使用されているIrMn合金は、Mn原子と、Ir原子がランダムに配置された不規則型の合金である。本実施形態においては、L12型規則合金であるMn3Irを使用する点が異なる。
L12型規則合金としてMn3Irを成膜するには、規則型合金が形成されるように成膜条件を設定する必要がある。IrMnをターゲットとしてスパッタリング法により成膜する際に、基板を100〜300℃程度に加熱すること、成膜時のArガスのスパッタガス圧を10〜30mTorrに設定することによって、多結晶のL12型規則合金Mn3Irを形成することができる。
IrMnを反強磁性層として成膜する場合における、従来のスパッタガス圧は0.4〜0.5mTorr程度である。これは、本実施形態の反強磁性層12の成膜条件とくらべて、かなりスパッタガス圧が低い条件となっている。
【0016】
図2は、上述した成膜条件によって基板上にIrMn合金を成膜し、その結晶構造を調べるために、X線回折測定(XRD)を行った結果を示す。IrMn合金は、L12型規則合金Mn3Irである場合のみ、2θχ=33°付近にfcc(110)に起因する回折ピークが観測される。図2に示す測定結果は、2θχ=33°付近にピークがあらわれ、基板に成膜されたIrMn合金がL12型規則合金Mn3Irとなっていることを示す。
【0017】
このL12型規則合金であるMn3Irは、測定の結果、従来の反強磁性層に使用されている不規則型のIrMn合金とくらべて、より大きな交換異方性と高いブロッキング温度を有することが確かめられた。
図3は、反強磁性層上に形成したピン層の保磁力(Hc)を従来のIrMn合金を使用した場合と、L12型規則合金であるMn3Irを使用した場合とでどのように変化するかを測定した結果を示す。この測定は、シリコン基板上に、図1における、下地層11と、反強磁性層12と、第1ピン層13aに相当する各層を形成し、反強磁性層12の膜厚によって保磁力がどのように変化するかを測定したものである。なお、下地層11にはTa(3nm)とRu(2nm)を使用し、第1ピン層13aとしてはCoFe(4nm)を使用した。
【0018】
図3に示す測定結果は、、本実施形態、すなわちL12型規則型のMn3Irを反強磁性層として使用すると、従来例、すなわち不規則型のIrMn合金を反強磁性層として使用した場合と比較してピン層の保磁力が高まることを示している。
本実施形態のMn3Irを反強磁性層とした場合は、反強磁性層の膜厚が3nmにおいてピン層の保磁力(Hc)は800エルステッド(Oe)を示し、膜厚5nm〜10nmにおいては500エルステッド(Oe)前後の値となる。
これに対して、従来の不規則型のIrMn合金を反強磁性層とした場合は、反強磁性層の膜厚が3nmにおいてピン層の保磁力(Hc)は380エルステッド(Oe)、膜厚5nm〜10nmにおいては100エルステッド(Oe)前後を示している。
図3に示す測定結果は、Mn3Irを反強磁性層とすることによって、ピン層の保磁力が効果的に増大すること、いいかえればピン層の磁化方向がより強く固定されることを示している。
【0019】
図4は、ピン層における保磁力を考慮して、反強磁性層の一方向異方性定数Jk’の反強磁性層の膜厚依存性を示す。
反強磁性層の一方向異方性定数JkはJ=Ms×dF×Hex(M:ピン層の飽和磁化、dF:ピン層の膜厚、Hex:交換結合磁界)によって表わされる。ピン層の磁化方向を反転させる実効磁界は交換結合磁界Hexにピン層の保磁力Hcを加えた磁界になるため、実効的な一方向異方性定数Jk’をJk’=Ms×dF×(Hex+Hc)によって定義する。図4はこの実効的な一方向異方性定数Jk’が、反強磁性層の膜厚によってどのように変化するかを示している。
【0020】
図4において従来例とあるのは、不規則型のIrMn合金を反強磁性層とした場合、実施例とあるのは、L12型規則型のMn3Irを反強磁性層とした場合を示す。
図4は、すべての膜厚範囲にわたって、L12型規則型のMn3Irを反強磁性層に使用した場合に、一方向異方性定数Jk’が従来例を上回ることを示している。一方向異方性定数Jk’は、反強磁性層による一方向異方性による作用とピン層の保磁力による作用を反映している。従来の磁気抵抗効果膜において、反強磁性層の膜厚を6nm程度に設定しているのは、反強磁性層の厚さをある程度厚くすることによって、実効的な一方向異方性定数Jk’の値を確保するためである。
【0021】
反強磁性層としてL12型規則型のMn3Irを使用すると、従来例にくらべてJk’の値を大きくすることができる。したがって、従来と同程度のJk’の値を維持するのであれば、反強磁性層の厚さを3nm程度にすればよい。すなわち、従来よりも反強磁性層の厚さを薄くしても所要の一方向異方性定数Jk’を確保することができ、ピン層の磁化方向を固定する作用をなすことができる。もちろん、L12型規則型のMn3Irを使用して従来と同程度の厚さに反強磁性を形成すれば、ピン層の磁化方向を固定する作用がさらに確実になる。
【0022】
図5は、ブロッキング温度が反強磁性層の膜厚によってどのように変化するかを、反強磁性層に不規則型のIrMn合金を使用した従来例と、反強磁性層にL12型規則型のMn3Irを使用した実施例について測定した結果を示す。測定サンプルは、上述した、シリコン基板上に、下地層としてTa膜とRu膜を成膜し、反強磁性層を積層した後、ピン層としてCoFe膜を成膜したものである。
【0023】
図5に示す測定結果は、反強磁性層としてL12型規則型のMn3Irを使用することによって、従来例と比較してブロッキング温度が約60℃上昇することを示す。ブロッキング温度が上昇することは、磁気抵抗効果膜の耐熱性が向上し、磁気抵抗効果膜の熱安定性が良好になることを意味する。
従来例におけるブロッキング温度と同程度のブロッキング温度を得るとすると、本実施形態の反強磁性層によれば反強磁性層の膜厚を薄くして達成することが可能となる。
【0024】
図9に示す従来の磁気抵抗効果膜20における反強磁性層12の膜厚は6nm程度であり、リードギャップは25nm程度である。上述したように、本実施形態においては、反強磁性層12の膜厚を6nm以下に設定しても、従来と同程度の強さによってピン層の磁化方向を固定することが可能である。たとえば、反強磁性層12の厚さを6nmから3nmに薄くすれば、リードギャップを25nmから22nmにまで狭くすることができ、かつ従来と同程度の強さによってピン層の磁化方向を固定することができる。
【0025】
反強磁性層12を薄くしてリードギャップを狭くする方法は、記録媒体の信号を読み取る分解能を向上させる上で有効である。これによって、記録媒体の高記録密度化に対応することができる。本実施形態の反強磁性層を使用する磁気抵抗効果膜は、リード特性を損なうことなくリードギャップを狭くすることができるという利点がある。
なお、リードギャップを狭くしない場合であっても、本実施形態の反強磁性層12を使用することにより、ピン層の磁化方向を従来に比べてさらに確実に固定することが可能となり、磁気抵抗効果膜によるリード特性を向上させることができるという利点がある。
【0026】
上記実施形態においては、CPP型のTMR素子についての膜構成を例に説明したが、本発明はTMR素子以外のCPP型の磁気抵抗効果膜に適用することもできるし、CIP型の磁気抵抗効果膜についても適用することができる。いずれの場合も、固定磁化層の磁化方向を固定するための反強磁性層を備え、固定磁化層の磁化方向を確実に固定し、かつリードギャップを狭くするという共通の課題を有している。
図6は、CIP型のGMR素子についての膜構成例を示す。図示例の磁気抵抗効果膜20は、下部シールド層10と上部シールド層18との間に、絶縁層19、下地層11、反強磁性層12、第1ピン層13a、反強磁性結合層14、第2ピン層13b、中間層15a、フリー層16、キャップ層17を積層したものである。第2ピン層13bがフリー層16に対するリファレンス層である。
【0027】
図6に示す磁気抵抗効果膜20の構成において、絶縁層19は下部シールド層10と磁気抵抗効果膜とを電気的に絶縁するためのものであり、アルミナ等の絶縁材によって形成される。下地層11から第2ピン層13bまでの構造は上述した実施形態における磁気抵抗硬化膜と同様である。中間層15aは、第2ピン層13bとフリー層16との中間層として設けられるもので、たとえば銅層からなる。
CIP型の磁気抵抗効果膜の場合は、磁気抵抗効果膜が形成されている面に平行にセンス電流を流し、記録媒体のビット磁界の作用による磁気抵抗の変化を検出する。
【0028】
CIP型の磁気抵抗効果膜の場合もリードギャップGは、下部シールド層10と上部シールド層18とによって挟まれた間隔部分である。
反強磁性層12が交換結合磁界によって第1ピン層13aの磁化方向を固定するように作用することについても上述したCPP型の磁気抵抗効果膜の場合とまったく同様である。すなわち、反強磁性層12として、L12型規則型のMn3Irを使用することにより、反強磁性層12の膜厚を薄くし、かつ第1ピン層13aの磁化方向を従来と同様に固定することができる。すなわち、CIP型の磁気抵抗効果膜においても、L12型規則型のMn3Irを反強磁性層に使用することによってリードギャップを狭くすることができ、記録媒体の高密度化に対応することができる。
【0029】
なお、磁気抵抗効果膜の膜構成には、さまざまな構成が提案されている。上述した実施形態におけるピン層の構成は、第1ピン層13aと第2ピン層13bの中間に反強磁性結合層14を介在させたいわゆる積層フェリ構造のものである。このピン層の構造についても、単層の磁性層とすることも可能であり、また、さらに多層の積層構造とすることも可能である。これらの種々の積層構造に磁気抵抗効果膜を形成する場合であっても、反強磁性層とピン層とを積層する構造において、本発明のようにL12型規則型のMn3Irを反強磁性層として使用することは、リードギャップを狭くすること、磁気抵抗効果膜のリード特性を改善する上で有効に作用する。
【0030】
(磁気ヘッド)
図7は、上述した磁気抵抗効果膜を備える磁気ヘッドの構成を、ABS面(A-A線位置)に対して垂直な面方向の断面図として示す。
この磁気ヘッドは、再生ヘッド30と記録ヘッド40とから構成される。再生ヘッド30は、下部シールド層10及び上部シールド層18と、下部シールド層10及び上部シールド層18に挟まれて形成されている磁気抵抗効果膜20とを備える。
【0031】
記録ヘッド40は、主磁極41、第1リターンヨーク42及び第2リターンヨーク43とを備える。第2リターンヨーク43の前端部にはトレーリングシールド44が設けられる。主磁極41の後方のヨーク部にはコイル45が巻回されている。
【0032】
(磁気記録装置)
図8は上述した磁気ヘッドを備えた磁気記録装置を示す。
磁気記録装置50は、矩形の箱状に形成されたケーシング51内に、スピンドルモータによって回転駆動される複数の磁気記録媒体52を備える。磁気記録媒体52の側方には、媒体面に平行に揺動可能に支持されたアクチュエータアーム53が配されている。アクチュエータアーム53の先端には、アクチュエータアーム53の延長方向にサスペンション54が取り付けられ、サスペンション54の先端にヘッドスライダ55が磁気ヘッドを媒体面に向けて取り付けられている。
【0033】
ヘッドスライダ55には、前述した磁気抵抗効果膜20を備える再生ヘッド30が形成された磁気ヘッドが形成されている。
磁気ヘッドはサスペンション54に形成された配線、及びアクチュエータアーム53に付設されたフレキシブルケーブル56を介して、磁気記録媒体に信号を記録し、磁気記録媒体に記録された信号を再生する制御回路に接続される。
磁気ヘッドにより磁気記録媒体52に情報を記録し、情報を再生する処理は、アクチュエータ57により、アクチュエータアーム53を所定位置に揺動させる操作(シーク動作)とともになされる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】CPP型の磁気抵抗効果膜の構成例を示す説明図である。
【図2】XRDによりIrMn合金の結晶構造を測定した結果を示すグラフである。
【図3】反強磁性層上に形成したピン層の保磁力(Hc)を示すグラフである。
【図4】ピン層における保磁力を考慮した反強磁性層の一方向異方性定数Jk’についての膜厚依存性を示すグラフである。
【図5】反強磁性層の膜厚によるブロッキング温度の変化を示すグラフである。
【図6】CIP型の磁気抵抗効果膜の構成例を示す説明図である。
【図7】磁気ヘッドの構成を示す断面図である。
【図8】磁気記録装置の構成を示す平面図である。
【図9】CPP型の磁気抵抗効果膜の従来の膜構成例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10 下部シールド層
11 下地層
12 反強磁性層
13a 第1ピン層
13b 第2ピン層
14 反強磁性結合層
15 トンネルバリア層
15a 中間層
16 フリー層(自由磁化層)
17 キャップ層
18 上部シールド層
19 絶縁層
20 磁気抵抗効果膜
30 再生ヘッド
40 記録ヘッド
50 磁気記録装置
52 磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性層と、該反強磁性層に積層された固定磁化層とを備え、
前記反強磁性層が、多結晶構造を備えるL12型規則合金であるMn3Irからなる磁気抵抗効果膜。
【請求項2】
前記固定磁化層は、強磁性層により反強磁性結合層を挟む配置とした、積層フェリ構造に形成されている請求項1記載の磁気抵抗効果膜。
【請求項3】
前記固定磁化層をリファレンス層とする自由磁化層を備え、CPP型として形成された請求項1または2記載の磁気抵抗効果膜。
【請求項4】
前記固定磁化層に積層されたトンネルバリア層と、該トンネルバリア層に積層された自由磁化層とを備える請求項3記載の磁気抵抗効果膜。
【請求項5】
前記固定磁化層をリファレンス層とする自由磁化層を備え、CIP型として形成された請求項1または2記載の磁気抵抗効果膜。
【請求項6】
再生ヘッドと記録ヘッドとを備える磁気ヘッドであって、
前記再生ヘッドを構成する磁気抵抗効果膜が、反強磁性層と、該反強磁性層に積層された固定磁化層とを備え、前記反強磁性層が、多結晶構造を備えるL12型規則合金であるMn3Irからなる磁気ヘッド。
【請求項7】
前記磁気抵抗効果膜は、固定磁化層をリファレンス層とする自由磁化層を備え、CPP型として形成されている請求項6記載の磁気ヘッド。
【請求項8】
前記磁気抵抗効果膜は、固定磁化層に積層されたトンネルバリア層と、該トンネルバリア層に積層された自由磁化層とを備える請求項6記載の磁気ヘッド。
【請求項9】
前記磁気抵抗効果膜は、固定磁化層をリファレンス層とする自由磁化層を備え、CIP型として形成されている請求項6記載の磁気ヘッド。
【請求項10】
磁気ヘッドを備えるヘッドスライダが搭載された磁気記録装置であって、
前記磁気ヘッドは、再生ヘッドと記録ヘッドとを備え、
前記再生ヘッドを構成する磁気抵抗効果膜が、反強磁性層と、該反強磁性層に積層された固定磁化層とを備え、
前記反強磁性層が、多結晶構造を備えるL12型規則合金であるMn3Irからなる磁気記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−34322(P2010−34322A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195331(P2008−195331)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】