説明

積層リングの検査方法

【課題】無端状の金属リングを複数積層して形成される積層リングを光学的に検査する方法であって、各金属リングの側縁の状態に加えて、金属リングの積層状態も検査できるようにする。
【解決手段】撮像手段2により撮像された積層リングの側縁の画像を2値化し、2値化された画像に表れる各金属リングに対応する各リング像に基づいて各金属リングの側縁の状態を検査し、また、複数のリング像間の相対位置関係に基づいて金属リングの積層状態を検査する。積層検査工程では、2値化された画像から隣接する各2個のリング像を順に選択し、金属リングの周方向に合致する方向をX軸方向、金属リングの径方向に合致する方向をY軸方向として、選択された2個のリング像の重心間距離と2個のリング像の重心間距離のX軸方向における変化量との内の1つ以上を夫々の閾値と比較して金属リングの積層状態を判別する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用無段変速機のベルト等に使用される、無端状の金属リングを複数積層して形成される積層リングの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機用のベルトは、所定形状に形成された多数のエレメントと、これらエレメントを環状に結束するリング部材とで構成される。そして、リング部材は、一般に、無端状の薄肉の金属リングを複数積層して形成される積層リングで構成されている。ここで、金属リングには、製造工程、搬送工程、積層工程等に際し、その側縁に打痕等の傷部を生ずることがある。
【0003】
そこで、従来、金属リングの積層工程前に、単層の金属リングの側縁に光を当てて側縁をカメラにより撮像し、その画像から金属リングの側縁の傷部を検出するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
然し、この従来例では単層の金属リングの検査しか行わないため、積層工程で金属リングの側縁に傷部が発生してもこれを検出できず、また、積層工程で金属リング間にゴミ等の異物が噛み込む等の積層不良を生じてもこれを検出できない。
【特許文献1】特開2004−77425号公報(0012,0016、図3〜5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、各金属リングの側縁の傷部に加えて積層不良も検出できるようにした積層リングの検査方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、無端状の金属リングを複数積層して形成される積層リングの検査方法であって、積層リングの側縁を照明手段により照明した状態で撮像手段により撮像する撮像工程と、撮像された積層リングの側縁の画像を2値化する2値化工程と、2値化された画像に表れる各金属リングに対応する各リング像に基づいて各金属リングの側縁の状態を検査する側縁検査工程と、複数のリング像間の相対位置関係に基づいて金属リングの積層状態を検査する積層検査工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、側縁検査工程において、各リング画像から各金属リングの側縁の傷部を検出することができる。また、金属リングの積層工程で異物の噛み込み等の積層不良を生ずると、隣接するリング像間の間隔が変化する。従って、積層検査工程において、リング像間の相対位置関係に基づいて金属リングの積層不良を検出することができる。
【0008】
ここで、積層検査工程は、2値化された画像から隣接する各2個のリング像を順に選択する工程と、金属リングの周方向に合致する方向をX軸方向、金属リングの径方向に合致する方向をY軸方向として、選択された2個のリング像の重心間のY軸方向距離と、選択された2個のリング像のX軸方向各位置での重心間のY軸方向距離のX軸方向における変化量との内の1つ以上を夫々の閾値と比較して金属リングの積層状態を判別する工程とを備えることが望ましい。
【0009】
金属リングの側縁は断面アール形状に面取りされており、撮像手段に入る金属リングの側縁からの反射光は側縁の厚さ方向中央部から離れるに従って漸減する。そのため、2値化前のリング像のY軸方向両側の境界は明瞭には現われず、2値化画像に現れるリング像のY軸方向両側の明暗境界線(リング像の縁)の位置はY軸方向に多少ともばらつく。そのため、隣接する2個のリング像の内側縁間の距離を計測した場合、金属リング間の実際の隙間は正常でも、各リング像の内側縁が相対的に遠ざかるように変位して、2個のリング像の内側縁間の距離が閾値以上になってしまうことがある。また、金属リングの軸方向へのずれにより、2値化画像に現われるリング像のY軸方向幅が変化し、2個のリング像の内側縁間の距離が閾値以上になってしまうこともある。これに対し、2値化画像のリング像の重心(リング像のY軸方向幅の中心)は金属リングの厚さ方向の中心にほぼ一致する。従って、2値化画像の2個のリング像の重心間距離(重心間のY軸方向距離)は2個の金属リング間の隙間量を正確に表すパラメータになり、この重心間距離に基づいて異物噛み込み等による積層不良の有無を正確に判別できる。また、金属リングの曲がりや金属リング間への微小な異物の噛み込み等により金属リング間の隙間量が局部的に変化することもあるが、2個のリング像の重心間距離のX軸方向における変化量に基づいて、このような金属リング間の隙間量の局部的な変化も検出できる。
【0010】
また、側縁検査工程は、2値化された画像から各1個のリング像を順に選択する工程と、金属リングの周方向に合致する方向をX軸方向、金属リングの径方向に合致する方向をY軸方向として、選択されたリング像について、リング像のY軸方向幅、面積、重心及びY軸方向における明暗変化数の内の1つ以上をX軸方向の各位置で計測する工程と、リング像のY軸方向幅と平均幅との偏差、リング像のY軸方向幅のX軸方向における変化量、リング像の面積の最小値、リング像の面積のX軸方向における変化量、リング像の重心のX軸方向における変化量及び明暗変化数の内の1つ以上を夫々の閾値と比較して金属リングの側縁の状態を判別する工程とを備えることが望ましい。
【0011】
ここで、金属リングの側縁に生ずる可能性がある傷部の大きさ形状は多種多様であり、画像に表れる傷部の形態も多様になり、パターンマッチング等の一様な画像処理では見逃されてしまう傷部も出てくる。上記の如くリング像のY軸方向幅と平均幅との偏差、リング像のY軸方向幅のX軸方向における変化量、リング像の面積の最小値、リング像の面積のX軸方向における変化量、リング像の重心のX軸方向における変化量及び明暗変化数という多様な項目の判定を行うことにより、傷部の検出漏れを防止することができる。
【0012】
尚、2値化の手法として、2値化画像に現われる像の形・大きさが撮像画像の輝度のばらつきで大きく変わることを防止するため、それ以上の輝度の部分を明部とする明部用閾値と、それ以下の輝度の部分を暗部とする暗部用閾値との2つの閾値を用い、明部用閾値と暗部用閾値との間の輝度の部分を輝度に応じた明度のグレーになるように2値化する方法がある。この場合、2値化された画像のグレー部分を明部と看做して連続した明部の部分を各1個のリング像としてラベリングするのが妥当である。そして、側縁検査工程でリング像の面積を計測する場合、リング像に含まれるグレー部分の面積を実際の面積にグレー部分の明度に応じた係数を乗算した値として算出すれば、金属リングの側縁の浅い窪み状の傷部に対応するグレーの傷像がリング像に含まれているときに、リング像の面積が傷像の部分で小さくなり、リング像の面積の最小値やリング像の面積のX軸方向における変化量に基づいて傷像の存在を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1を参照して、1は回転テーブルであり、この回転テーブル1上に、図3に示す如く無端状の金属リングWを複数(図示例では12個)積層して成る積層リングW´をセット自在としている。尚、各金属リングWは夫々隣り合う金属リングWと僅かな隙間を存して積層されている。また、各金属リングWの側縁は断面アール形状に面取りされている。回転テーブル1の上方には、積層リングW´の側縁に対向するように、撮像手段2と照明手段3とから成る撮像ユニットが配置されている。また、撮像手段2で撮像された画像の処理を行う画像処理装置4と、回転テーブル1の回転を制御する回転テーブル制御装置5とが設けられており、これら回転テーブル1と撮像ユニットと画像処理装置4と回転テーブル制御装置5とで積層リングW´の検査装置が構成される。
【0014】
回転テーブル1には、図示しないが、積層リングW´の内周面に当接して積層リングW´を円環状に保持する保持具が設けられている。また、回転テーブル1の側方には、積層リングW´に向けて進退するマーカ6aを有するマーキング装置6が設けられている。
【0015】
撮像手段2は、CMOSカメラ等のデジタルカメラで構成され、ケーブルを介して画像処理装置4に接続されている。照明手段3は、光拡散フィルタ31aを装着したリング状照射ヘッド31と、該照射ヘッド31に光ファイバ32を介して接続される光源33とで構成され、光源33からの光がリング状照射ヘッド31から積層リングW´の側縁に向けて照射される。撮像手段2は、リング状照射ヘッド31の内周空間を通して積層リングW´の側縁を撮像する。
【0016】
画像処理装置4は、図2に示すように、機能的構成として、画像記憶手段41、2値化手段42、側縁検査手段43、積層検査手段44、結果表示手段45及び位置通知手段46を備えている。結果表示手段45は画像処理装置4に設けられたモニタ47に接続され、位置通知手段46は回転テーブル制御装置5に接続されている。
【0017】
回転テーブル制御手段5は、マーキング装置6に接続されるマーキング制御手段51を内蔵している。そして、金属リングWの傷部や積層不良が検出された場合、位置通知手段46から送信される傷部等の位置情報に基づき、回転テーブル1の回転で傷部等が存在する積層リングW´の部分がマーキング装置6に正対したところでマーカ6aが動作するようにマーキング装置6を制御し、積層リングW´の傷部等が存在する部分にマーキングを施す。
【0018】
次に、積層リングW´の検査手順について説明する。積層リングW´の検査に際しては、先ず、積層リングW´を回転テーブル1に載置した状態で回転テーブル制御装置5により回転テーブル1を所定速度で回転させ、撮像手段2により積層リングW´の側縁を連続的に撮像する(図4のSTEP1)。この撮像は、例えば標準周長615mmの金属リングWを複数積層した積層リングW´である場合、積層リングW´の周長の6mmを1画像とし、各画像が1mmのラップ代を持つようにして、全周を123の分割画像とするようにして行う。
【0019】
撮像手段2による撮像は照明手段3により積層リングW´の側縁を照明した状態で行う。これにより撮像手段2の画像には、積層リングW´を構成する複数の金属リングWに対応する明るい帯状の複数の像が現われる。尚、金属リングWの側縁は上記の如く断面アール形状に面取りされているため、金属リングWの側縁の厚さ方向側方部分に入射された光は撮像手段2側には反射されず、明るい帯状の像の間の部分は暗くなる。撮像手段2の画像は順次画像処理装置4に送られ、画像記憶手段41に記憶される。
【0020】
次に、画像記憶手段41に記憶されている画像が2値化手段42により2値化される(図4のSTEP2)。この2値化処理では、明部(白)用閾値(これ以上の輝度の部分を2値化で白にする閾値)と、暗部(黒)用閾値(これ以下の輝度の部分を2値化で黒にする閾値)とを用い、明部用閾値と暗部用閾値との間の輝度の部分は輝度に応じた明度のグレーになるように画像を2値化している。2値化画像には、図5に示す如く、各金属リングWの側縁に対応する各リング像wが明部となって現われる。尚、2値化画像にはグレーの部分も表れるが、図5では便宜上、グレー部分を含む明部を白、暗部(黒)を網掛けで表している。また、2値化手段42は、2値化画像に現われたリング像wに対するラベリング処理を行う。尚、ラベリング処理では、グレー部分を明部と看做して連続する明部の一つの纏まりを1個のリング像wとして、各リング像wに対するラベリングを行う。また、後記する図6でも特に断らない限り網掛け部分は暗部を表している。
【0021】
次に、側縁検査手段43により、各金属リングWの側縁の状態をリング像wに基づいて検査する側縁検査処理を実行する。側縁検査処理では、先ず、ラベリングされた複数のリング像wから所定の順序で1個のリング像wを選択する(図4のSTEP3)。そして、2値化画像における金属リングWの周方向に合致する方向をX軸方向、金属リングWの径方向に合致する方向をY軸方向として、選択されたリング像wのX軸方向長さを計測し(図4のSTEP4)、この長さが所定の閾値未満であるか否かを判別する(図4のSTEP5)。図6(a)に示す如く、金属リングWの割れや傷等でリング像が#1のリング像wと#2のリング像wに分断され、リング像wのX軸方向長さが短くなることがあり、この場合は不合格とされる(図4のSTEP32)。尚、図6(a)の#3のリング像wのX軸方向長さが正規の長さである。
【0022】
リング像wのX軸方向長さが所定の閾値以上であれば、次に、1画像をX軸方向に等幅(例えば、1画素幅)で複数に区分して、各区分でのリング像wの面積を計測する。尚、リング像wにグレー部分が含まれる可能性があることを考慮し、白を1、黒を0とする明度に応じた明度係数を設定し、各部の面積にその部分の明度に対応する明度係数を乗算して、リング像wの面積を求めるようにしている。次に、全区分のうちの最低面積を求め(図4のSTEP6)、リング像wの最低面積が所定の閾値未満であるか否かを判別する(図4のSTEP7)。金属リングWの側縁に打痕・欠け・削れ等の傷部が存在すると、図6(b)に示す如く、傷部に対応する暗部像たる傷像waがリング像wに入り込み、リング像wの面積が小さくなって不合格とされる。尚、面積が最低になる区分以外の区分でも面積が閾値未満になることはあるが、処理時間の短縮化のため、最低面積以外は合否の判別対象にしていない。ここで、検査処理は、積層リングW´の全周を上記の如く123分割した各分割部分の画像に対し実行されるものであり、或る画像の検査で不合格とされたときは、この画像に対応する積層リングW´の分割部分にマーキングして、後工程で目視検査するようにしており、この分割部分の最低面積以外の部分にも傷部が存在する場合、この傷部は目視検査で容易に確認できるため、最低面積のみを合否の判別対象としても実用上問題はない。
【0023】
リング像wの最低面積が所定の閾値以上であれば、次に、上記各区分のリング像面積とこれに隣接する区分のリング像面積との差をリング像面積のX軸方向における変化量として算出し、1画像におけるリング像面積のX軸方向変化量の最大値(面積最大変化量)を求め(図4のSTEP8)、この面積最大変化量が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP9)。金属リングWの側縁に浅い窪み状の傷部が存在する場合、図6(c)に示す如く、リング像w内に傷部に対応するグレーの傷像wbが現われることがある。尚、図6(c)では暗部を黒、グレー部分を網掛けで表している。傷像wbの部分では、上記の如く明度係数を乗算して面積が算出されるため、傷像wbが存在する部分でリング像wの面積が減少し、傷像wbの境界部でリング像面積のX軸方向変化量が大きくなる。そして、面積最大変化量が上記閾値を上回った場合は不合格とされる。
【0024】
面積最大変化量が閾値以下であれば、次に、上記各区分のリング像wの重心(面積重心)の位置を求め、各区分の重心位置とこれに隣接する区分の重心位置との差をリング像wの重心のX軸方向における変化量として算出し、1画像におけるリング像wの重心のX軸方向変化量の最大値(重心最大変化量)を求め(図4のSTEP10)、この重心最大変化量が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP11)。金属リングWに製造機器との干渉等で曲がりを生じていると、図6(d)に示す如くリング像wが屈曲し、この屈曲部分で重心変化量が大きくなる。そして、重心最大変化量が上記閾値を上回った場合は不合格とされる。
【0025】
重心最大変化量が閾値以下であれば、次に、上記各区分のリング像wのY軸方向幅(リング像幅)を計測する。尚、リング像幅の計測に際しては、グレー部分も明部と看做し、Y軸方向最下方の明部と暗部の境界からY軸方向最上方の明部と暗部の境界までのY軸方向距離を求め、これをリング像幅とする。そして、各区分のリング像幅とこれに隣接する区分のリング像幅との差をリング像幅のX軸方向における変化量として算出し、1画像におけるリング像幅のX軸方向変化量の最大値(幅最大変化量)を求め(図4のSTEP12)、この幅最大変化量が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP13)。この場合、傷部の形状によっては図6(e)に示す如くリング像wが幅広になり、この部分で幅変化量が大きくなる。そして、幅最大変化量が上記閾値を上回った場合は不合格とされる。また、傷部の中央部が浅く窪んでいる場合、図6(e)に示す如くリング像wの幅広部にグレー部分wcが現われることがある。尚、図6(e)では暗部を黒、グレー部分を網掛けで表している。この場合、リング像wの面積は、グレー部分wcで明度係数を乗算するため左程大きくならず、上記した面積最大変化量に基づく判別では傷部が見落とされてしまう可能性がある。従って、幅最大変化量に基づく判別を行うことは、傷部の見落としを防止する上で役立つ。
【0026】
幅最大変化量が閾値以下であれば、次に、上記各区分においてY軸方向における明暗変化数を計測する(図4のSTEP14)。明暗変化数の計測に際しては、グレー部分も明部と看做し、各区分をY軸方向上方から下方に走査して、暗部から明部に移行したとき及び暗部から明部に移行したときに夫々明暗変化数のカウンタに1宛加算する。通常、明暗変化数は2になるが、リング像wに図6(f)に示す如く暗部となる傷像wdが入り込んでいると、同図の矢印線に沿って走査したとき明暗変化数は4になる。そして、明暗変化数が閾値たる2を上回る区分が存在するか否かを判別し(図4のSTEP15)、明暗変化数が3以上になる区分が存在するときは不合格とされる。尚、明部から暗部に移行して更に明部に移行したときにカウント数を1とし、カウント数が1の区分が存在するときに不合格とするようにしても良い。
【0027】
明暗変化数が2以下であれば、次に、上記各区分のリング像幅の全区分における平均値(平均幅)を求め(図4のSTEP16)、各区分のリング像幅のうち平均幅より大きなものについて平均幅との偏差(+方向幅偏差)を算出し(図4のSTEP17)、+方向幅偏差が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP18)。金属リングWの側縁にハンドリングミス等による側方への張り出し傷が存在する場合、図6(g)に示す如く、リング像wに張り出し傷に対応するY軸方向への張り出し部weが現われ、張り出し部weの部分で+方向幅偏差が大きくなる。そして、+方向幅偏差が上記閾値を上回った場合は不合格とされる。
【0028】
+方向幅偏差が閾値以下であれば、次に、各区分のリング像幅のうち平均幅より小さなものについて平均幅との偏差(−方向幅偏差)を算出し(図4のSTEP19)、−方向幅偏差が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP20)。図6(h)に示す如くリング像wに金属リングWの側縁の傷部に対応する暗部となる傷像waが入り込んでいる場合、傷像waの部分で−方向幅偏差が大きくなる。そして、−方向幅偏差が上記閾値を上回った場合は不合格とされる。
【0029】
ここで、平均幅に対するリング像幅の偏差に基づく合否判別を行うのは、金属リングWの軸方向へのずれに対する対策である。即ち、何れかの金属リングWが軸方向上方(撮像手段2に接近する方向)にずれていた場合、この金属リングWに対応するリング像wの幅が広がり、リング像wの面積が傷像waの存在箇所でも比較的大きくなる。従って、STEP7での最低面積に基づく判別では不合格とされない可能性がある。これに対し、平均幅に対するリング像幅の偏差に基づく判別を行うことにより、金属リングWのずれによるリング像幅の変化の影響で傷部の存在が見落とされることを可及的に回避できる。
【0030】
−方向幅偏差が閾値以下であれば、次に、検査したリング像wの数をカウントするリングカウンタに1を加算した後(図4のSTEP21)、全てのリング像wの検査が完了したか否かを判別し(図4のSTEP22)、全てのリング像wの検査が完了するまではSTEP3に戻り、上記の側縁検査処理を繰り返す。
【0031】
全てのリング像wの検査が完了したときは、リングカウンタのカウント数が積層リングW´として積層すべき金属リングWの数(リング本数=12)と一致しているか否かを判別する(図4のSTEP23)。何れかの金属リングWが抜け落ちていたり、金属リングWが余分に積層されている場合、カウント数はリング本数に一致せず、この場合は不合格とされる。
【0032】
カウント数がリング本数に一致していれば、次に、積層検査手段44により複数のリング像間の相対位置関係に基づいて金属リングWの積層状態を検査する積層検査処理を実行する。積層検査処理では、先ず、ラベリングされた複数のリング像wから所定の順序でY軸方向に隣接する各2個のリング像w,wを選択する(図4のSTEP24)。次に、選択した2個のリング像w,wの1画像における夫々の重心(面積重心)の位置を求め、一方のリング像wの重心と他方のリング像wの重心との間のY軸方向距離(重心間距離)を算出して(図4のSTEP25)、重心間距離が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP26)。金属リングW,W間への異物の噛み込みや金属リングWの曲がりを生ずると、図6(i)に示す如く、異物の噛み込みや曲がりの存在する金属リングに対応する#1のリング像wと#2のリング像wの重心間距離が大きくなる。尚、#2のリング像wと#3のリング像wの重心間距離が正規の大きさである。そして、重心間距離が上記閾値を上回っている場合は不合格とされる。
【0033】
重心間距離が閾値以下であれば、次に、1画像をX軸方向に等幅で複数(例えば6つ)に区分し、各区分における2個のリング像w,wの夫々の重心(面積重心)の位置を求めて、各区分での一方のリング像wの重心と他方のリング像wの重心との間のY軸方向距離(重心間距離)を算出する(図4のSTEP27)。そして、各区分での重心間距離とこれに隣接する区分での重心間距離の差として重心間距離のX軸方向変化量を算出し、1画像における重心間距離のX軸方向変化量の最大値(重心間距離最大変化量)を求め(図4のSTEP28)、この重心間距離最大変化量が所定の閾値を上回っているか否かを判別する(図4のSTEP29)。金属リングWの曲がりを生ずると、図6(j)に示す如く重心間距離の変化量が大きくなる。そして、重心間距離最大変化量が上記閾値を上回っている場合は不合格とされる。
【0034】
尚、隣接する2個のリング像w,wの重心位置に代えてリング像w,wの隣接方向内側の明暗境界線の位置を計測し、2個のリング像w,wの明暗境界線間のY軸方向距離やこの距離のX軸方向における変化量に基づいて金属リングWの積層状態を判別することも可能である。然し、2値化画像における各リング像wの明暗境界線の位置は撮像手段2の画像の輝度のバラツキで変位し、また、金属リングWの軸方向へのずれに伴うリング像wのY軸方向幅の変化よっても変位する。その結果、隣接する2個の金属リングW,W間の隙間が正常であっても2個のリング像w,wの明暗境界線間のY軸方向距離やこの距離のX軸方向における変化量が夫々の閾値を上回って不合格と誤判別されたり、隣接する2個の金属リングW,W間の隙間が不正常であっても2個のリング像w,wの明暗境界線間のY軸方向距離やこの距離のX軸方向における変化量が夫々の閾値以下となって合格と誤判別される可能性がある。これに対し、2値化画像における各リング像wの重心位置は、撮像手段2の画像の輝度のバラツキの影響や、金属リングWの軸方向へのずれに伴うリング像wのY軸方向幅の変化の影響を左程受けず、各金属リングWの厚さ方向中心にほぼ一致する。従って、本実施形態のように、隣接する2個のリング像w,wの重心位置を計測し、2個のリング像w,wの重心間距離及び重心間距離の変化量に基づいて積層状態を判別した方が誤判別を防止する上で有利である。
【0035】
重心間距離最大変化量が閾値以下であれば、次に、隣接する2個のリング像w,wの全ての組み合わせについての検査が完了したか否かを判別し(図4のSTEP30)、完了するまではSTEP24に戻って上記の積層検査処理を繰り返す。このようにして隣接する2個のリング像w,wの全ての組み合わせについての積層検査処理を行い、これが完了した段階で不合格と判別されていない場合に合格とされる(図4のSTEP31)。そして、積層リングW´を分割して撮像した全ての画像に対し上記の側縁検査処理と積層検査処理を行い、何れの画像の検査でも合格とされたとき、積層リングW´が組み付け工程等の次工程に払い出される。一方、何れかの段階で不合格とされた場合には、その旨がモニタに表示されると共に、検査した画像に対応する積層リングW´の部分にマーキングが施される。そして、検査員によりマーキングを目印にして積層リングW´の目視検査が行われ、傷部等が存在する金属リングWを取り除いたり、金属リング間に噛み込んだ異物を除去するなどの修正作業を行う。
【0036】
尚、上記実施形態では、側縁検査処理におけるリング像wの面積変化量、重心変化量及び幅変化量を、X軸方向の各区分とこれに隣接する区分とでのリング像wの面積、重心位置及び幅の差として求めているが、各区分とこれからX軸方向に所定距離離れた区分とでのリング像wの面積、重心位置及び幅の差として求めることも可能である。また、上記実施形態では、照明手段3としてリング状光照射ヘッド31を用い、積層リングW´の側縁の撮像手段2による撮像箇所にその周囲全方向から光が照射されるようにしているが、これに限るものではなく、例えば、リング状照射ヘッド31からの光に加えて、積層リングW´の軸方向に対しその径方向に傾斜した方向からスポット光を照射するようにしても良く、また、リング状照射ヘッド31を用いずに、積層リングW´の軸方向に対しその周方向に傾斜した方向からスポット光や拡散光を照射するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明検査方法に実施に用いる検査装置を示すシステム構成図。
【図2】図1の検査装置の画像処理装置と回転テーブル制御装置の機能的構成を示すブロック図。
【図3】積層リングの一部の切断斜視図
【図4】本発明検査方法の検査手順を示すフロー図。
【図5】図1の検査装置の撮像手段で撮像した積層リングの2値化画像を示す説明図。
【図6】(a)〜(j)2値化画像に現われるリング像の各種形態を示す説明図。
【符号の説明】
【0038】
W…金属リング、W´…積層リング、w…リング像、2…撮像手段、3…照明手段、4…画像処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の金属リングを複数積層して形成される積層リングの検査方法であって、
積層リングの側縁を照明手段により照明した状態で撮像手段により撮像する撮像工程と、
撮像された積層リングの側縁の画像を2値化する2値化工程と、
2値化された画像に表れる各金属リングに対応する各リング像に基づいて各金属リングの側縁の状態を検査する側縁検査工程と、
複数のリング像間の相対位置関係に基づいて金属リングの積層状態を検査する積層検査工程とを備えることを特徴とする積層リングの検査方法。
【請求項2】
前記積層検査工程は、前記2値化された画像から隣接する各2個のリング像を順に選択する工程と、金属リングの周方向に合致する方向をX軸方向、金属リングの径方向に合致する方向をY軸方向として、選択された2個のリング像の重心間のY軸方向距離と、選択された2個のリング像のX軸方向各位置での重心間のY軸方向距離のX軸方向における変化量との内の1つ以上を夫々の閾値と比較して金属リングの積層状態を判別する工程とを備えることを特徴とする請求項1記載の積層リングの検査方法。
【請求項3】
前記側縁検査工程は、前記2値化された画像から各1個のリング像を順に選択する工程と、金属リングの周方向に合致する方向をX軸方向、金属リングの径方向に合致する方向をY軸方向として、選択されたリング像について、リング像のY軸方向幅、面積、重心及びY軸方向における明暗変化数の内の1つ以上をX軸方向の各位置で計測する工程と、リング像のY軸方向幅と平均幅との偏差、リング像のY軸方向幅のX軸方向における変化量、リング像の面積の最小値、リング像の面積のX軸方向における変化量、リング像の重心のX軸方向における変化量及び明暗変化数の内の1つ以上を夫々の閾値と比較して金属リングの側縁の状態を判別する工程とを備えることを特徴とする請求項1または2記載の積層リングの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−47117(P2006−47117A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228831(P2004−228831)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】