説明

窒化物半導体発光ダイオード素子

【課題】大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制する。
【解決手段】n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、活性層は、量子井戸層と、p型窒化物半導体層に接する障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、障壁層は、AlGaN層と、GaN層との2層構造からなり、障壁層のAlGaN層が量子井戸層のp型窒化物半導体層側に接している窒化物半導体発光ダイオード素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光ダイオード素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化物半導体発光ダイオード素子などの窒化物半導体発光素子の活性層には、窒化物半導体発光素子の高い発光効率を確保するため、量子井戸層と、障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造が採用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開2007−201146号公報)には、多重量子井戸構造からなる活性層の障壁層にAlGaN層を用いた窒化物半導体発光素子が記載されている。
【0004】
特許文献1においては、AlGaNからなる障壁層を用いることによって、活性層中の量子井戸層の歪を緩和することができ、さらにAlGaNからなる障壁層の厚さを薄くすることによって電子および正孔を効率良く活性層に供給することができるため、窒化物半導体発光素子の発光効率が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−201146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化物半導体発光ダイオード素子の共通の課題として、大電流密度の電流を活性層に注入した場合に、窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率が低下するdroop現象が挙げられる。
【0007】
droop現象が生じる理由としては、電子と正孔の拡散距離の差異によって引き起こされるp型窒化物半導体層への電子のオーバーフローが挙げられる。また、多重量子井戸構造の活性層の厚さ方向にキャリアが均一に分配されず、活性層のp型窒化物半導体層側にキャリアが局在してその部分のキャリア密度が局所的に高くなるために、droop現象が強められることも挙げられる。
【0008】
しかしながら、近年では、LED照明などの用途に大電流密度で駆動させる窒化物半導体発光ダイオード素子の需要が高まってきているため、大電流密度で駆動させた場合でもdroop現象による発光効率の低下を抑制することができる窒化物半導体発光ダイオード素子の要望が大きくなっている。
【0009】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制することができる窒化物半導体発光ダイオード素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、活性層は、量子井戸層と、p型窒化物半導体層に接する障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、障壁層は、AlGaN層と、GaN層との2層構造からなり、障壁層のAlGaN層が量子井戸層のp型窒化物半導体層側に接しており、AlGaN層中のAl原子の含有量が10原子%以上である窒化物半導体発光ダイオード素子を提供することができる。
【0011】
ここで、本発明の第1の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、AlGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、活性層は、量子井戸層と、量子井戸層のn型窒化物半導体層側に接するInGaN層を含む第1の障壁層と、量子井戸層のp型窒化物半導体層側に接するAlGaN層を含む第2の障壁層とを含む多重量子井戸構造を有する窒化物半導体発光ダイオード素子を提供することができる。
【0013】
ここで、本発明の第2の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、第1の障壁層のInGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の第2の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、量子井戸層がInを含み、第1の障壁層のInGaN層中のIn原子の含有量が、量子井戸層中のIn原子の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0015】
また、本発明の第2の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、第1の障壁層のInGaN層中のIn原子の含有量が、量子井戸層中のIn原子の含有量の0.3倍以上0.7倍以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の第2の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、第2の障壁層のAlGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の第3の態様によれば、n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、活性層は、量子井戸層と、p型窒化物半導体層に接する障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、障壁層は、AlGaN層と、GaN層との2層構造からなり、障壁層のAlGaN層が、量子井戸層のp型窒化物半導体層側に接しており、AlGaN層が、MgおよびInの少なくとも一方を含む窒化物半導体発光ダイオード素子を提供することができる。
【0018】
ここで、本発明の第3の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、AlGaN層のMg濃度が、1×1018/cm3以上1×1020/cm3以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の第3の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、AlGaN層のIn原子の含有量が、0.01原子%以上5原子%以下であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の第3の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、AlGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の第4の態様によれば、n型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、活性層は、量子井戸層と、GaN層の単層からなる第1の障壁層と、AlGaN層とGaN層との2層構造からなる第2の障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、量子井戸層は、量子井戸層のうちn型窒化物半導体層に最も近い位置に配置された第1の量子井戸層と、量子井戸層のうちp型窒化物半導体層に最も近い位置に配置された第2の量子井戸層とを含み、第1の量子井戸層のp型窒化物半導体層側および第2の量子井戸層のp型窒化物半導体層側にそれぞれ第1の障壁層が配置されており、第1の量子井戸層および第2の量子井戸層以外の量子井戸層は第2の障壁層と接して形成されている窒化物半導体発光ダイオード素子を提供することができる。
【0022】
また、本発明の第1〜第4の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、多重量子井戸構造の周期数が6以上20以下であることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の第1〜第4の態様の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、n型窒化物半導体層、p型窒化物半導体層および活性層は、それぞれ、c面を主面とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制することができる窒化物半導体発光ダイオード素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。
【図2】実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【図3】実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図4】実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図5】実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図6】実施の形態2の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。
【図7】実施の形態3の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。
【図8】実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。
【図9】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【図10】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図11】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図12】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図13】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図14】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図15】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例の製造工程の他の一部について図解する模式的な断面図である。
【図16】実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0027】
<実施の形態1>
図1に、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の一例である実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図を示す。ここで、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子は、基板1と、基板1上に設けられたn型窒化物半導体層2と、n型窒化物半導体層2上に設けられた活性層3と、活性層3上に設けられたp型窒化物半導体層4と、p型窒化物半導体層4上に設けられた透明導電層5と、透明導電層5上に設けられたp側電極6と、n型窒化物半導体層2上に設けられたn側電極7とを備えている。
【0028】
ここで、活性層3は、n型窒化物半導体層2とp型窒化物半導体層4との間に設けられており、n型窒化物半導体層2側から量子井戸層11と障壁層12とが交互に積層された構造を有している。活性層3は、複数の量子井戸層11を含む多重量子井戸構造を有している。
【0029】
また、障壁層12は、AlGaN層12aと、AlGaN層12a上に設けられたGaN層12bとの2層構造から形成されており、活性層3の最上層の障壁層12のGaN層12bがp型窒化物半導体層4と接している。一方、活性層3の最下層となる量子井戸層11がn型窒化物半導体層2と接しており、最下層の量子井戸層11のp型窒化物半導体層4側の表面に障壁層12のAlGaN層12aが接している。すなわち、活性層3においては、n型窒化物半導体層2側からp型窒化物半導体層4側にかけて、量子井戸層11、AlGaN層12aおよびGaN層12bがこの順序で繰り返して積層された構造を有している。
【0030】
以下、図2〜図5の模式的断面図を参照して、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例について説明する。まず、図2に示すように、基板1上に、n型窒化物半導体層2を積層する。ここで、n型窒化物半導体層2は、たとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などによって基板1上に形成することができる。
【0031】
基板1としては、たとえば、サファイア(Al23)基板、GaN自立基板、SiC基板、スピネル(MgAl24)基板またはZnO基板などを用いることができる。
【0032】
n型窒化物半導体層2としては、たとえば、Alx1Gay1Inz1N(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦z1≦1、x1+y1+z1≠0)の式で表わされる窒化物半導体にSiなどのn型ドーパントをドープさせた窒化物半導体結晶などを用いることができる。n型窒化物半導体層2は単層に限定されず、たとえば、低温バッファ層、アンドープ層および超格子層などの組成および/またはn型ドーパントのドーピング濃度が異なる複数層であってもよい。なお、n型窒化物半導体層2がその一部にアンドープ層を含む場合には、n型窒化物半導体層2全体でn型の導電型を示せばよい。
【0033】
次に、図3に示すように、n型窒化物半導体層2上に活性層3を積層する。ここで、活性層3は、たとえばMOCVD法などによってn型窒化物半導体層2上に、量子井戸層11、AlGaN層12aおよびGaN層12bをこの順序で繰り返して積層することによって形成することができる。
【0034】
量子井戸層11としては、たとえば、Alx2Gay2Inz2N(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦z2≦1、x2+y2+z2≠0)の式で表わされる窒化物半導体結晶などを用いることができ、特にGay2Inz2N(0<y2<1、0<z2<1、y2+z2<1)の式で表わされる窒化物半導体結晶を用いることが好ましい。
【0035】
AlGaN層12aとしては、Alx3Gay3N(0.1≦x3<1、0<y3<1、x3+y3≠0)の式で表わされる窒化物半導体結晶が用いられる。すなわち、AlGaN層12aのAl原子の含有量は10原子%以上とされる。
【0036】
なお、AlGaN層12aおよびGaN層12bのバンドギャップは、それぞれ、量子井戸層11のバンドギャップよりも大きくなっており、AlGaN層12aのバンドギャップはGaN層12bのバンドギャップよりも大きくなっている。
【0037】
次に、図4に示すように、活性層3上にp型窒化物半導体層4を積層し、p型窒化物半導体層4上に透明導電層5を積層する。ここで、p型窒化物半導体層4は、たとえばMOCVD法などによって活性層3上に形成することができる。また、透明導電層5は、たとえばスパッタリング法などによってp型窒化物半導体層4上に形成することができる。
【0038】
p型窒化物半導体層4としては、たとえば、Alx5Gay5Inz5N(0≦x5≦1、0≦y5≦1、0≦z5≦1、x5+y5+z5≠0)の式で表わされる窒化物半導体にMgなどのp型ドーパントをドープさせた窒化物半導体結晶などを用いることができる。
【0039】
透明導電層5としては、たとえば、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を用いることができる。
【0040】
次に、図5に示すように、n型窒化物半導体層2、活性層3、p型窒化物半導体層4および透明導電層5のそれぞれの一部をフォトエッチングすることによってn型窒化物半導体層2の表面を露出させる。
【0041】
次に、図1に示すように、透明導電層5の表面上にp側電極6を形成するとともに、n型窒化物半導体層2の露出表面上にn側電極7を形成する。ここで、p側電極6としては、たとえば、透明導電層5の表面上にTi層、Al層およびAu層をこの順序で積層したものなどを用いることができる。また、n側電極7としては、たとえば、n型窒化物半導体層2の露出表面上にTi層、Al層およびAu層をこの順序で積層したものなどを用いることができる。
【0042】
以上により、図1に示す実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子が製造される。
【0043】
実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、活性層3の量子井戸層11のp型窒化物半導体層4側の表面に接する障壁層12のAlGaN層12aのAl原子の含有量を10原子%以上としている。これにより、量子井戸層11とAlGaN層12aとの間の伝導帯間のエネルギ差を大きくして、活性層3に注入された電子のp型窒化物半導体層4へのオーバーフローを抑えることができる。一方、活性層3に注入された正孔は、量子井戸層11の価電子帯からAlGaN層12aの価電子帯までにその中間のエネルギ帯であるGaN層12bの価電子帯を介してn型窒化物半導体層2側に移動することができるため、電子と比べて容易に活性層3中を移動することができ、活性層3中における電子に対する正孔の拡散距離を長くすることができる。そのため、実施の形態1においては、AlGaN層12aを形成しない場合と比べて、活性層3における電子と正孔との拡散距離の差異を小さくすることができるため、p型窒化物半導体層4への電子のオーバーフローを抑えることができるだけでなく、多重量子井戸構造を有する活性層3の厚さ方向にキャリアを均一に分配して活性層3のp型窒化物半導体層4側にキャリアが局在するのを抑えることができる。
【0044】
以上の理由により、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、大電流密度で駆動させた場合でもdroop現象による発光効率の低下を抑制することができるため、大電流密度の電流を活性層3に注入した場合の窒化物半導体発光ダイオード素子の発光効率の低下を抑制することができる。
【0045】
図1に示す実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子において、AlGaN層12aの厚さt1は、1nm以上4nm以下であることが好ましい。AlGaN層12aの厚さt1が1nm以上4nm以下である場合には、正孔がAlGaN層12aをトンネルしやすくなって、正孔が活性層3の内部に拡散しやすくなるため、活性層3へのキャリアの分配の均一性を向上させることができ、droop現象による発光効率の低下をさらに抑制することができる傾向にある。
【0046】
また、活性層3の多重量子井戸構造の周期数は、6以上20以下であることが好ましい。活性層3の多重量子井戸構造の周期数が6以上である場合には、活性層3の厚さ方向にキャリアを均一に分配することができる傾向が大きくなる。また、活性層3の多重量子井戸構造の周期数が20以下である場合には、活性層3の厚さがキャリアの拡散長よりも厚くなり過ぎない傾向にある。そのため、活性層3の多重量子井戸構造の周期数が6以上20以下である場合には、droop現象による発光効率の低下をさらに抑制することができる傾向にある。
【0047】
なお、n型窒化物半導体層2、活性層3およびp型窒化物半導体層4がそれぞれc面を主面(成長面)とする場合には、窒化物半導体発光ダイオード素子に生じるピエゾ電界が正孔の輸送を妨げる。しかしながら、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、このようなピエゾ電界が生じている場合でも、高い発光効率を発現することができる点で有用である。
【0048】
<実施の形態2>
図6に、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の一例である実施の形態2の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図を示す。ここで、実施の形態2の窒化物半導体発光ダイオード素子は、活性層3の構造が実施の形態1と異なっている点に特徴がある。
【0049】
すなわち、実施の形態2の窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層3においては、n型窒化物半導体層2側から、量子井戸層11、AlGaN層12c、GaN層12dおよびInGaN層12eがこの順序で繰り返して積層されており、GaN層12dで積層が完了する多重量子井戸構造を形成している。
【0050】
また、活性層3の最下層に位置する量子井戸層11以外の量子井戸層3のn型窒化物半導体層2側の表面にはInGaN層12eが接しており、p型窒化物半導体層4側の表面にはAlGaN層12cが接している。
【0051】
実施の形態2の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、活性層3の最下層である障壁層12は、量子井戸層11側からn型窒化物半導体層2側にかけて、バンドギャップが次第に大きくなるように窒化物半導体層が配置(InGaN層12e、GaN層12dおよびAlGaN層12cの順に配置)されている。
【0052】
したがって、量子井戸層11から障壁層12に正孔が拡散するときに、量子井戸層11の価電子帯からAlGaN層12cの価電子帯までに、順次大きくなる2段階の中間のエネルギ帯であるInGaN層12eおよびGaN層12dの価電子帯を介してn型窒化物半導体層2側に移動することができるため、電子と比べて容易に活性層3中を移動することができ、活性層3中における電子に対する正孔の拡散距離を長くすることができる。
【0053】
そのため、実施の形態2の窒化物半導体発光ダイオード素子においても、p型窒化物半導体層4への電子のオーバーフローを抑えることができるだけでなく、多重量子井戸構造を有する活性層3の厚さ方向にキャリアを均一に分配して活性層3のp型窒化物半導体層4側にキャリアが局在するのを抑えることができることから、droop現象による発光効率の低下を抑制することができる。
【0054】
また、量子井戸層11に接するAlGaN層12cの厚さt2は、1nm以上4nm以下であることが好ましい。この場合には、量子井戸層11に接するAlGaN層12cの厚さを十分に薄くすることができるため、量子井戸層11に接する障壁層12上に形成される量子井戸層11の結晶性の悪化を防止することができる。
【0055】
また、量子井戸層11がInを含む窒化物半導体結晶からなる場合には、障壁層12のInGaN層12e中のIn原子の含有量は、量子井戸層11中のIn原子の含有量よりも少ないことが好ましく、障壁層12のInGaN層12e中のIn原子の含有量は、量子井戸層11中のIn原子の含有量の0.3倍以上0.7倍以下であることがより好ましい。この場合には、InGaN層12eおよびGaN層12dの2段階の中間のエネルギ帯を設けたことによるdroop現象に起因する発光効率の低下の抑制効果をさらに高めることができる傾向にある。
【0056】
また、量子井戸層11に接するInGaN層12eの厚さt3は、1nm以上4nm以下であることが好ましい。この場合には、量子井戸層11に接するInGaN層12eの厚さを十分に薄くすることができるため、量子井戸層11に接する障壁層12上に形成される量子井戸層11の結晶性の悪化を防止することができる。
【0057】
AlGaN層12cとしては、たとえば、Alx6Gay6Inz6N(0≦x6≦1、0≦y6≦1、0≦z6≦1、x6+y6+z6≠0)の式で表わされる窒化物半導体結晶などを用いることができる。
【0058】
InGaN層12eとしては、たとえば、Gay8Inz8N(0<y8<1、0<z8<1、y8+z8<1)の式で表わされる窒化物半導体結晶などを用いることができる。
【0059】
本実施の形態における上記以外の説明は、実施の形態1と同様であるため、その説明については省略する。
【0060】
<実施の形態3>
図7に、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の一例である実施の形態3の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図を示す。ここで、実施の形態3の窒化物半導体発光ダイオード素子は、多重量子井戸構造を有する活性層3の障壁層として、MgおよびInの少なくとも一方を含むAlGaN層12fと、GaN層12bとの2層構造からなる障壁層42を用いている点に特徴がある。
【0061】
すなわち、実施の形態3の窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層3は、n型窒化物半導体層2側から、量子井戸層11、AlGaN層12fおよびGaN層12bがこの順に繰り返して積層された多重量子井戸構造を有している。ここで、活性層3の最下層である量子井戸層11はn型窒化物半導体層2に接しており、活性層3の最上層の障壁層42のGaN層12bはp型窒化物半導体層4に接している。また、障壁層42のAlGaN層12fが、当該障壁層42上の量子井戸層11のp型窒化物半導体層4側の表面に接している。
【0062】
量子井戸層11としてInを含む窒化物半導体結晶を用いる場合には、量子井戸層11からのInの蒸発を抑制するために、AlGaN層12fを低温(たとえば700℃〜800℃)で成長させる必要がある。このような低温で窒化物半導体結晶を成長させた場合には、平坦な成長面を得ることが難しいが、MgおよびInの少なくとも一方を含むAlGaN層12fについてはこのような低温(たとえば700℃〜800℃)で成長させた場合にも平坦な成長面が得られる傾向にある。これは、AlGaN層の成長中にMgおよびInの少なくとも一方を含ませることによりAlGaN層の2次元成長が促進されるためである。
【0063】
実施の形態3の窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層3においても、実施の形態1と同様に、AlGaN層12fとGaN層12bとの2層構造からなる障壁層42が用いられているため、活性層3中における電子に対する正孔の拡散距離を長くすることができる。
【0064】
そのため、実施の形態3の窒化物半導体発光ダイオード素子においても、p型窒化物半導体層4への電子のオーバーフローを抑えることができるだけでなく、多重量子井戸構造を有する活性層3の厚さ方向にキャリアを均一に分配して活性層3のp型窒化物半導体層4側にキャリアが局在するのを抑えることができることから、droop現象による発光効率の低下を抑制することができる。
【0065】
ここで、AlGaN層12fがMgを含む場合には、AlGaN層12fのMg濃度は1×1018/cm3以上1×1020/cm3以下であることが好ましい。AlGaN層12fのMg濃度が1×1018/cm3以上である場合には、Mgが界面活性剤として機能することにより、AlGaN層12fを低温で成長させた場合でも平坦な表面を有するAlGaN層12fが得られる傾向が大きくなる。また、AlGaN層12fのMg濃度が1×1020/cm3以下である場合には、AlGaN層12fの結晶性を悪化させるので、それ以下であることが好ましい。
【0066】
また、AlGaN層12fがInを含む場合には、AlGaN層12fのIn原子の含有量は0.01原子%以上5原子%以下であることが好ましい。AlGaN層12fのIn原子の含有量が0.01原子%以上である場合には、Inが界面活性剤として機能することにより、AlGaN層12fを低温で成長させた場合でも平坦な表面を有するAlGaN層12fが得られる傾向が大きくなる。また、AlGaN層12fのIn原子の含有量が5原子%以下である場合には、AlGaN層12fのバンドギャップを小さくしすぎることがないため、droop現象による発光効率の低下をさらに抑制することができる傾向にある。
【0067】
なお、本明細書において、AlGaN層のIn原子の含有量が0.01原子%以上5原子%以下であるとは、AlGaN層のAlとGaとInの総原子数を100としたときのInの原子数の比率が0.01以上5以下であることを意味する。
【0068】
また、量子井戸層11のp型窒化物半導体層4側の表面に接するAlGaN層12fの厚さt4は、1nm以上4nm以下であることが好ましい。この場合には、活性層3へのキャリアの分配の均一性を向上させることができることから、droop現象による発光効率の低下をさらに抑制することができる傾向にある。
【0069】
AlGaN層12fとしては、たとえば、Alx9Gay9N(0<x9<1、0<y9<1、x9+y9<1)の式で表わされる窒化物半導体結晶などを用いることができる。
【0070】
本実施の形態における上記以外の説明は、実施の形態1と同様であるため、その説明については省略する。
【0071】
<実施の形態4>
図8に、本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子の一例である実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図を示す。ここで、実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子は、活性層3の構造が実施の形態1〜3と異なっている点に特徴がある。
【0072】
すなわち、実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子の活性層3は、n型窒化物半導体層2側から、量子井戸層11、第1の障壁層52a、量子井戸層11および第2の障壁層52bがこの順に繰り返して積層されており、第1の障壁層52aで積層が完了する多重量子井戸構造を形成している。ここで、第1の障壁層52aはGaN層の単層からなり、第2の障壁層52bはAlGaN層12aと、AlGaN層12a上に設けられたGaN層12bとの2層構造からなる。また、活性層3の最下層である量子井戸層11は、n型窒化物半導体層2に接しており、活性層3の最上層である第1の障壁層52aは、p型窒化物半導体層4に接している。
【0073】
また、実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、活性層3を構成する量子井戸層11のうち、n型窒化物半導体層2に最も近い位置に配置された量子井戸層11のp型窒化物半導体層4側に第1の障壁層52aが設けられている。また、実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、活性層3を構成する量子井戸層のうち、p型窒化物半導体層4に最も近い位置に配置された量子井戸層11のp型窒化物半導体層4側に第1の障壁層52aが設けられている。そして、n型窒化物半導体層2に最も近い位置に配置された量子井戸層11およびp型窒化物半導体層4に最も近い位置に配置された量子井戸層11以外の量子井戸層11は、第2の障壁層52bと接して形成されている。
【0074】
したがって、実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、AlGaN層12aとGaN層12bとの2層構造からなる第2の障壁層52bが、活性層3の厚さ方向におけるn型窒化物半導体層2側の端部およびp型窒化物半導体層4側の端部には設けられておらず、活性層3の内部に設けられている。そのため、上述した活性層3における電子と正孔との拡散距離の差異を小さくする効果を活性層3の内部で発現させて、活性層3の厚さ方向の中央部に電子および正孔を集めることができる。
【0075】
これにより、実施の形態4の窒化物半導体発光ダイオード素子においても、p型窒化物半導体層4への電子のオーバーフローを抑えることができるだけでなく、多重量子井戸構造を有する活性層3の厚さ方向にキャリアを均一に分配して活性層3のp型窒化物半導体層4側にキャリアが局在するのを抑えることができることから、droop現象による発光効率の低下を抑制することができる。
【0076】
なお、第1の障壁層52aを構成するGaN層としては、第2の障壁層52bの一部を構成するGaN層12bと同様のものを用いることができる。
【0077】
本実施の形態における上記以外の説明は、実施の形態1と同様であるため、その説明については省略する。
【実施例1】
【0078】
以下、図9〜図16の模式的断面図を参照して、実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法の一例について説明する。まず、図9に示すように、サファイア基板21を用意し、MOCVD装置内にサファイア基板21を設置する。そして、MOCVD装置内に設置されたサファイア基板21を水素雰囲気下で1000℃に加熱することによって、サファイア基板21の表面のサーマルクリーニングを行なう。
【0079】
次に、図10に示すように、サファイア基板21の温度を500℃に低下させ、MOCVD装置内にTMG(トリメチルガリウム)ガスおよびNH3(アンモニア)ガスを供給することによって、サファイア基板21の表面上に低温GaNバッファ層22を20nmの厚さに成長させる。
【0080】
次に、図10に示すように、サファイア基板21の温度を1000℃に上昇させ、MOCVD装置内に、TMGガスおよびNH3ガスを供給することによって、低温GaNバッファ層22の表面上にアンドープGaN層23を2μmの厚さに成長させる。
【0081】
次に、図11に示すように、サファイア基板21の温度を1000℃に維持したまま、MOCVD装置内に、TMGガス、NH3ガスおよびSiH4(シラン)ガスを供給することによって、アンドープGaN層23の表面上に高ドープn型GaN層24を3μmの厚さに成長させる。ここで、SiH4ガスは、高ドープn型GaN層24中のSi濃度が7×1018/cm3となるようにMOCVD装置内に供給される。
【0082】
次に、サファイア基板21の温度を700℃に低下させ、図12に示すように、MOCVD装置内に、TMGガス、NH3ガスおよびTMI(トリメチルインジウム)ガスを供給することによって、高ドープn型GaN層24上にIn0.2Ga0.8Nからなる量子井戸層61を2.5nmの厚さに成長させる。そして、MOCVD装置内に、TMGガス、NH3ガスおよびTMA(トリメチルアルミニウム)ガスを供給することによって、量子井戸層61上にAl0.1Ga0.9N層を2nmの厚さに成長させる。その後、MOCVD装置内に、TMGガスおよびNH3ガスを供給することによって、Al0.1Ga0.9N層上にGaN層を6nmの厚さに成長させる。これにより、AlGaN層とGaN層との積層体からなる障壁層62を量子井戸層61上に形成する。
【0083】
このように、高ドープn型GaN層24上に、量子井戸層61と障壁層62とを交互に6周期繰り返して成長させることによって、活性層25を形成する。
【0084】
次に、サファイア基板21の温度を950℃まで上昇させ、MOCVD装置内に、TMAガス、TMGガス、NH3ガスおよびCP2Mg(ジシクロペンタジエニルマグネシウム)ガスを供給することによって、障壁層62上にp型Al0.2Ga0.8N層を20nmの厚さに成長させ、その後、TMGガス、NH3ガスおよびCP2Mgガスを供給することによって、p型Al0.2Ga0.8N層上にp型GaN層を100nmの厚さに成長させる。これにより、図13に示すように、活性層25上に、p型Al0.2Ga0.8N層とp型GaN層との積層体からなるp型窒化物半導体層26を成長させる。
【0085】
次に、サファイア基板21の温度を室温まで低下させた後、p型窒化物半導体層26まで形成されたサファイア基板21をMOCVD装置から取り出し、スパッタリング装置内に設置する。
【0086】
次に、図14に示すように、p型窒化物半導体層26の表面上にスパッタリング法によってITOからなる透明導電層27を200nmの厚さに形成する。
【0087】
次に、フォトリソグラフィ技術により透明導電層27の表面の一部にマスクを形成した後、RIE(Reactive Ion Etching)をすることによって、図15に示すように、透明導電層27、p型窒化物半導体層26、活性層25および高ドープn型GaN層24のそれぞれの一部を除去して、高ドープn型GaN層24の表面を露出させる。
【0088】
その後、図16に示すように、透明導電層27および高ドープn型GaN層24の露出表面上に、それぞれ、Ti層、Al層およびAu層をこの順に積層することによって、透明導電層27上にp側パッド電極28を形成し、高ドープn型GaN層24の露出表面上にn側パッド電極29を形成する。以上により、実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子が完成する。
【0089】
また、比較として、厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層を形成せずに厚さ6nmのGaN層のみを障壁層としたこと以外は実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子と同様にして比較例1の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0090】
上記のようにして作製した実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、比較例1の窒化物半導体発光ダイオード素子と比べて、上述したように、電子の拡散長に対する正孔の拡散長を相対的に長くすることができる。
【0091】
そのため、実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、ピーク電流位置を大電流側にシフトさせることができることから、大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制することができる。
【実施例2】
【0092】
実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の最上層の障壁層62を厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層および厚さ4nmのGaN層の2層構造とし、最上層の障壁層62以外の障壁層62を高ドープn型GaN層24側から、厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層、厚さ4nmのGaN層、および厚さ2nmのIn0.1Ga0.9N層の3層構造に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0093】
また、比較として、厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層および厚さ2nmのIn0.1Ga0.9N層を形成せずに厚さ6nmのGaN層のみを障壁層としたこと以外は実施例2の窒化物半導体発光ダイオード素子と同様にして、比較例2の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0094】
上記のようにして作製した実施例2の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、比較例2の窒化物半導体発光ダイオード素子と比べて、上述したように、電子の拡散長に対する正孔の拡散長を相対的に長くすることができる。
【0095】
そのため、実施例2の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、ピーク電流位置を大電流側にシフトさせることができることから、大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制することができる。
【実施例3】
【0096】
実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の障壁層62の厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層にCP2Mgガスを用いてMgを5×1018/cm3の濃度にドーピングすること以外は実施例1と同様にして、実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0097】
また、比較として、厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層を形成せずに厚さ6nmのGaN層のみを障壁層としたこと以外は実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子と同様にして比較例3の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0098】
上記のようにして作製した実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、比較例3の窒化物半導体発光ダイオード素子と比べて、上述したように、電子の拡散長に対する正孔の拡散長を相対的に長くすることができる。
【0099】
そのため、実施例3の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、ピーク電流位置を大電流側にシフトさせることができることから、大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制することができる。
【実施例4】
【0100】
実施例1の窒化物半導体発光ダイオード素子の障壁層62の厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層にInを加え、Al0.1Ga0.9N層のIn原子の含有量を0.5原子%とすること以外は実施例1と同様にして、実施例4の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0101】
また、比較として、厚さ2nmのAl0.1Ga0.9N層を形成せずに厚さ6nmのGaN層のみを障壁層としたこと以外は実施例4の窒化物半導体発光ダイオード素子と同様にして比較例4の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製する。
【0102】
上記のようにして作製した実施例4の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、比較例4の窒化物半導体発光ダイオード素子と比べて、上述したように、電子の拡散長に対する正孔の拡散長を相対的に長くすることができる。
【0103】
そのため、実施例4の窒化物半導体発光ダイオード素子においては、ピーク電流位置を大電流側にシフトさせることができることから、大電流密度の電流を活性層に注入した場合における発光効率の低下を抑制することができる。
【0104】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の窒化物半導体発光ダイオード素子は、照明などに使用される大電流駆動の発光ダイオード素子に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 基板、2 n型窒化物半導体層、3 活性層、4 p型窒化物半導体層、5 透明導電層、6 p側電極、7 n側電極、11 量子井戸層、12 障壁層、12a AlGaN層、12b GaN層、12c AlGaN層、12d GaN層、12e InGaN層、12f AlGaN層、21 サファイア基板、22 低温GaNバッファ層、23 アンドープGaN層、24 高ドープn型GaN層、25 活性層、26 p型窒化物半導体層、27 透明導電層、28 p側パッド電極、29 n側パッド電極、32 障壁層、42 障壁層、52a 第1の障壁層、52b 第2の障壁層、61 量子井戸層、62 障壁層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層と前記p型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、
前記活性層は、量子井戸層と、前記p型窒化物半導体層に接する障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、
前記障壁層は、AlGaN層と、GaN層との2層構造からなり、
前記障壁層の前記AlGaN層が前記量子井戸層の前記p型窒化物半導体層側に接しており、
前記AlGaN層中のAl原子の含有量が10原子%以上である、窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項2】
前記AlGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下である、請求項1に記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項3】
n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層と前記p型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、
前記活性層は、量子井戸層と、前記量子井戸層の前記n型窒化物半導体層側に接するInGaN層を含む第1の障壁層と、前記量子井戸層の前記p型窒化物半導体層側に接するAlGaN層を含む第2の障壁層とを含む多重量子井戸構造を有する、窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項4】
前記第1の障壁層の前記InGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下である、請求項3に記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項5】
前記量子井戸層はInを含み、
前記第1の障壁層の前記InGaN層中のIn原子の含有量が、前記量子井戸層中のIn原子の含有量よりも少ない、請求項3または4に記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項6】
前記第1の障壁層の前記InGaN層中の前記In原子の含有量が、前記量子井戸層中の前記In原子の含有量の0.3倍以上0.7倍以下である、請求項5に記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項7】
前記第2の障壁層の前記AlGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下である、請求項3から6のいずれかに記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項8】
n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層と前記p型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、
前記活性層は、量子井戸層と、前記p型窒化物半導体層に接する障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、
前記障壁層は、AlGaN層と、GaN層との2層構造からなり、
前記障壁層の前記AlGaN層が、前記量子井戸層の前記p型窒化物半導体層側に接しており、
前記AlGaN層が、MgおよびInの少なくとも一方を含む、窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項9】
前記AlGaN層のMg濃度が、1×1018/cm3以上1×1020/cm3以下である、請求項8に記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項10】
前記AlGaN層のIn原子の含有量が、0.01原子%以上5原子%以下である、請求項8または9に記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項11】
前記AlGaN層の厚さが、1nm以上4nm以下である、請求項8から10のいずれかに記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項12】
n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層と前記p型窒化物半導体層との間に設けられた活性層とを備え、
前記活性層は、量子井戸層と、GaN層の単層からなる第1の障壁層と、AlGaN層とGaN層との2層構造からなる第2の障壁層とを含む多重量子井戸構造を有し、
前記量子井戸層は、前記量子井戸層のうち前記n型窒化物半導体層に最も近い位置に配置された第1の量子井戸層と、前記量子井戸層のうち前記p型窒化物半導体層に最も近い位置に配置された第2の量子井戸層とを含み、
前記第1の量子井戸層の前記p型窒化物半導体層側および前記第2の量子井戸層の前記p型窒化物半導体層側にそれぞれ前記第1の障壁層が配置されており、前記第1の量子井戸層および前記第2の量子井戸層以外の前記量子井戸層は前記第2の障壁層と接して形成されている、窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項13】
前記多重量子井戸構造の周期数が6以上20以下である、請求項1から12のいずれかに記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。
【請求項14】
前記n型窒化物半導体層、前記p型窒化物半導体層および前記活性層は、それぞれ、c面を主面とする、請求項1から13のいずれかに記載の窒化物半導体発光ダイオード素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−234891(P2012−234891A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100952(P2011−100952)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】