説明

窒化物半導体素子の製造方法

【課題】工程途中での基板の破損を抑制または防止しつつ、基板を薄型化して分割することができる窒化物半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】サファイアウエハ20上に、複数の個別素子21に対応したIII族窒化物半導体層3が成長させられる。次に、サファイアウエハ20の内部に、たとえば波長355nmのレーザ光によって、切断予定ライン25に沿う加工領域35が形成される。その後、サファイアウエハ20が薄型化され、その過程で、サファイアウエハ20自身の持つ応力によって、加工領域35を起点として、サファイアウエハ20が自発的に分割され、複数の個別素子21に対応した複数の個別チップ1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板上にIII族窒化物半導体層を形成した構造の窒化物半導体素子を製造するための方法に関する。III族窒化物半導体とは、III-V族半導体においてV族元素として窒素を用いた半導体であり、その代表例は、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)である。一般には、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)と表わすことができる。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた素子には、青色系の発光ダイオードやレーザダイオードのような発光素子、パワートランジスタや高電子移動度トランジスタのようなトランジスタ等がある。このような窒化物半導体素子は、たとえば、サファイア基板上にGaN等のIII族窒化物半導体を成長させて作製される。より具体的には、サファイアウエハ上にGaN半導体が成長させられる。その後、サファイアウエハが研磨されてたとえば厚さ80μm程度まで薄型化された後に、個々のチップに分割される。
【0003】
サファイアウエハの分割は、たとえば、レーザ光をサファイアウエハの内部に集光させ、集光点で生じる多光子吸収によりサファイアウエハ内に加工領域(改質領域)を形成する工程と、その後、サファイアウエハに外力を加え、前記加工領域を起点としてサファイア基板を割る工程とを含む(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−338468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GaN半導体が成膜されたサファイア基板を研磨して薄型化すると、サファイア基板の持つ大きな応力のために、基板に反りが生じる。そのため、基板のハンドリングが困難になり、工程途中で基板が破損するおそれがある。
そこで、この発明の目的は、工程途中での基板の破損を抑制または防止しつつ、基板を薄型化して分割することができる窒化物半導体素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程と、前記基板の内部にレーザ光によって加工領域を形成する工程と、前記基板を薄型化することにより、前記基板の持つ応力によって、前記加工領域を起点として前記基板を自発的に分割させる工程とを含む、窒化物半導体素子の製造方法である。
この方法によれば、基板の内部に予めレーザ光による加工領域(改質領域)を形成しておき、その後に、基板を薄型化する過程で、基板自身の応力を利用して基板の分割が行われる。これにより、薄型化された状態の基板(分割前の状態の基板)をハンドリングする必要がないので、薄い基板のハンドリングに起因する破損を抑制または防止できる。このようにして、工程が安定し、歩留まりを向上することができる。
【0006】
前記基板は、請求項2に記載されているように、サファイア基板またはSiC基板であるであってもよい。サファイア基板やSiC基板では、表面にIII族窒化物半導体層を形成したときに大きな応力が発生する。そのため、これらの基板を薄型化することによって、加工領域を起点とする自発的な分割を良好に生じさせることができる。
サファイア基板が用いられる場合には、レーザ光の波長はサファイア基板内で多光子吸収を生じさせることができる波長(たとえば、355nm)とすることが好ましい。また、SiC基板が用いられる場合には、レーザ光の波長はSiC基板内で多光子吸収を生じさせることができる波長(たとえば、532nm)とすることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の製造工程において用いられるサファイアウエハの図解的な斜視図である。また、図2は、前記製造工程を説明するための図解的な断面図である。
サファイアウエハ20上に、個々の窒化物半導体素子チップ1に対応する個別素子21が複数個一括して形成される。すなわち、図2(a)に示すように、サファイアウエハ20の表面にIII族窒化物半導体層3がエピタキシャル成長させられる。その後、必要に応じて、III族窒化物半導体層3に接触する電極等(図示せず)が形成される。こうして複数個の個別素子21がサファイアウエハ20上に形成される。
【0008】
たとえば、発光ダイオード素子を作製する場合には、III族窒化物半導体層3は、サファイアウエハ20に接するn型GaNバッファ層(たとえば4μm)と、このn型GaNバッファ層に積層されるn型GaNコンタクト層(たとえば1μm〜10μm)と、このn型GaNコンタクト層に積層される活性層(発光層)と、この活性層に積層されるp型GaNコンタクト層(たとえば0.2μm〜1μm)とを順にエピタキシャル成長させて形成される。活性層は、たとえば、InGaN層(たとえば1nm〜3nm)からなる量子井戸層とノンドープGaN層(たとえば10nm〜20nm)からなるバリア層とを交互に繰り返し(たとえば3〜8周期)形成した多重量子井戸構造(MQW:multiple-quantum well。たとえば全体で0.05μm〜0.3μmの厚さ)を有するものであってもよい。
【0009】
次に、個別素子21間の境界線である切断予定ライン25に沿ってサファイアウエハ20を分割するためのウエハ分割工程が行われる。ウエハ分割工程は、切断予定ライン25に沿って、レーザ光で加工するレーザ加工工程(図2(b))と、サファイアウエハ20を薄型化し、同時にサファイアウエハ20のもつ応力によってサファイアウエハ20を自発的に分割させる薄型化・分割工程(図2(c))とを含む。
【0010】
レーザ加工工程では、図2(b)に示すように、III族窒化物半導体層3が形成されたサファイアウエハ20に向けて、レーザ加工機によってレーザ光が照射される。詳細な図示は省略するが、レーザ加工機は、レーザ光発生ユニットと、このレーザ光発生ユニットからのレーザ光をサファイアウエハ20内で集光させる集光レンズ30と、ウエハ20を担持するXYステージ機構31とを備えている。
【0011】
レーザ光発生ユニットは、たとえば、YAGレーザやエキシマレーザなどのレーザ光源と、このレーザ光源が発するレーザ光を平行光に変換する光学系とを備えている。集光レンズ30は、レーザ光発生ユニットからの平行レーザ光を集光する。集光レンズ30とサファイアウエハ20との関係は、集光レンズ30の焦点位置がサファイアウエハ20の内部、より具体的には、薄型化・分割工程において薄型化された後に残される部分に位置するように調整される。この調整は、集光レンズ30の焦点距離の調整によって行ってもよいし、集光レンズ30とサファイアウエハ20との距離の調整によって行ってもよい。集光レンズ30とサファイアウエハ20との距離の調整は、集光レンズ30をXYステージ機構31のステージ32に対して接近/離反させて行ってもよいし、XYステージ機構31のステージ32を集光レンズ30に対して接近/離反させて行ってもよい。
【0012】
XYステージ機構31は、集光レンズ30に対向する位置でウエハ20を担持するステージ32と、このステージ32をX方向およびこれに直交するY方向に沿って2次元移動させるステージ移動機構とを備えている。X方向およびY方向は、たとえば、いずれも水平面に沿う方向である。XYステージ機構31は、必要に応じて、集光レンズ30に接近/離反する方向であるZ方向(たとえば上下方向)に沿ってステージ32を移動させる機構をさらに備えていてもよい。ウエハ20は、III族窒化物半導体層3側をステージ32に対向させた姿勢で、支持シート33を介してステージ32の載置面に固定される。支持シート33は、たとえば、両面に感圧接着層を有するものである。
【0013】
レーザ光発生ユニットは、たとえば、サファイアに多光子吸収を生じさせることができる波長(たとえば、355nm)のレーザ光を発生する。また、レーザ光発生ユニットは、III族窒化物半導体層3またはサファイアウエハ20において、集光レンズ30の焦点位置近傍以外ではレーザ光の吸収が生じず、焦点位置において多光子吸収が生じる強度でレーザ光を発生させる。より具体的には、集光レンズ30の焦点位置におけるレーザ光のエネルギー密度が、5.0×109W/cm2〜2.0×1010W/cm2の範囲となるようにレーザ光発生ユニットの出力を調整すればよい。これにより、焦点位置において多光子吸収を確実に生じさせることができる。また、III族窒化物半導体層3内やサファイアウエハ20の表面でのエネルギー密度が、1.0×107W/cm2以下となるようにレーザ光発生ユニットの出力が調整されることが好ましい。これにより、焦点位置以外でのレーザ光の吸収を回避でき、サファイアウエハ20の表面が加工されてしまったり、III族窒化物半導体層3内に加工領域が形成されたりすることを回避できる。
【0014】
レーザ加工機からレーザ光をウエハ20に照射する一方で、レーザ光の照射位置が切断予定ライン25に沿って移動するように、ウエハ20がレーザ光照射位置に対して相対移動させられる。すなわち、XYステージ機構31によって、ウエハ20が切断予定ライン25に沿う方向に移動させられる。これにより、レーザ光は切断予定ライン25に沿って、ウエハ20を走査することになる。その結果、サファイアウエハ20の内部においてIII族窒化物半導体層3に近い領域では、集光レンズ30の焦点位置が切断予定ライン25に沿って移動し、この焦点位置の軌跡に対応する加工領域(改質領域)35が形成されることになる。加工領域35は、たとえば、サファイアウエハ20の厚さ方向の長さが2μm〜3μmである。
【0015】
走査の過程において、レーザ光は常時ウエハ20に照射されていてもよいし、レーザ光発生ユニットをオン/オフすることによって、間欠的にレーザ光が照射されるようにしてもよい。走査時にレーザ光を常時照射していれば、加工領域35は連続形状となり、走査時に間欠的にレーザ光を照射すれば走査方向に所定の間隔を隔ててミシン目状に分割された複数の加工領域35が切断予定ライン25に沿って形成されることになる。
【0016】
次に、図1(c)に示す薄型化・分割工程が行われる。薄型化前のサファイアウエハ20の厚さは、たとえば、350μmであり、その主面にたとえば厚さ3μm〜5μm程度のIII族窒化物半導体層3がエピタキシャル成長させられる。その後、サファイアウエハ20は、たとえば、80μm程度の厚さまで薄型化される。サファイアウエハ20の薄型化は、研削処理または研磨処理(化学的機械的研磨など)によって行うことができる。
【0017】
図1(c)には、グラインダーによってサファイアウエハ20を薄型化する装置が示されている。サファイアウエハ20は、保持台40の載置面41上に固定される。より具体的には、たとえば、載置面41上にワックスを塗布し、III族窒化物半導体層3を載置面41に対向するようにサファイアウエハ20を下向きにして、当該ウエハ20を載置面41に押し付ける。これにより、ウエハ20を保持台40に固定できる。ワックスを用いる代わりに、両面に感圧接着層を有するキャリヤテープを用いて、ウエハ20を載置面41に固定してもよい。
【0018】
次に、グラインダーの円盤状砥石42が回転させられ、サファイアウエハ20の裏面(III族窒化物半導体層3とは反対側の主面)に押し付けられる。これにより、サファイアウエハ20は、その裏面側から研削されて薄型化されていく。図1(c)において、薄型化前のサファイアウエハ20の厚みを二点鎖線で示す。
この薄型化の過程で、サファイアウエハ20自身の持つ応力により、レーザ加工領域35から亀裂が生じ、サファイアウエハ20が自発的に分割される。これにより、サファイアウエハ20が個別素子21毎の領域のサファイア基板2に分割され、III族窒化物半導体層3もそれに対応して分割される。こうして、複数の窒化物半導体素子チップ1が得られる。このようにして、サファイアウエハ20の薄型化および分割を同一工程で行うことができる。
【0019】
サファイアウエハ20の持つ応力は、III族窒化物半導体層3側に凸の湾曲形状にサファイアウエハ20を変形させようとする。そのため、III族窒化物半導体層3の近くに形成されている加工領域35から容易に亀裂が生じる。したがって、サファイアウエハ20の自発的な分割は、薄型化の過程で確実に生じさせることができる。
サファイアウエハ20が分割された後は、個々のチップ1が保持台40から取り外される。ワックスでサファイアウエハ20を固定した場合には、たとえば、ワックスを100℃程度まで加熱して溶融させれば、チップ1を容易に保持台40から取り外すことができる。また、キャリヤテープを用いている場合には、キャリヤテープを保持台40から取り外し、別の伸展装置でキャリヤテープを伸展させ、このキャリヤテープから個々のチップ1を取り外せばよい。
【0020】
研削による研磨屑を洗浄除去する場合には、チップ1をたとえばアルカリ洗浄液に浸漬して、表面の研磨屑を除去すればよい。キャリヤテープを用いてサファイアウエハ20を保持台40に固定する場合には、複数のチップ1をキャリヤテープごとアルカリ洗浄液に浸漬し、研磨屑を除去した後に、キャリヤテープからチップ1を取り外すようにするとよい。
【0021】
以上のように、この実施形態によれば、サファイアウエハ20に予めレーザ加工領域35を形成した後に、サファイアウエハ20の薄型化が行われる。これにより、サファイアウエハ20が薄型化される過程で、その内部の応力により、サファイアウエハ20が自発的に割れて、個々のチップ1に分割される。したがって、薄いウエハをロボット等でハンドリングする必要がないので、ハンドリング中にウエハが割れてしまったりするようなことがない。したがって、工程が安定し、歩留まりを向上することができる。
【0022】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、前述の実施形態では、サファイアウエハ20の裏面側からレーザ光を照射しているが、III族窒化物半導体層3側の表面からレーザ光を照射し、III族窒化物半導体層3を透過させて、サファイアウエハ20の内部にレーザ光を集光させるようにしてもよい。
【0023】
また、前述の実施形態では、サファイア基板2上にIII族窒化物半導体層3が形成された構成のチップ1について説明したが、基板としては、SiC基板その他の基板を用いることができる。
また、前述の実施形態では、発光ダイオードを構成する窒化物半導体チップの製造にこの発明が適用された例について説明したが、半導体レーザチップその他の発光素子に対しても、この発明を同様に適用することができる。さらには、発光素子に限らず、パワートランジスタや高電子移動度トランジスタ等のトランジスタの製造にも、この発明を同様に適用することができる。
【0024】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の製造工程において用いられるサファイアウエハの図解的な斜視図である。
【図2】前記製造工程を説明するための図解的な断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 窒化物半導体素子チップ
2 サファイア基板
3 III族窒化物半導体層
20 サファイアウエハ
21 個別素子
25 切断予定ライン
30 集光レンズ
31 XYステージ機構
32 ステージ
33 支持シート
35 加工領域
40 保持台
41 載置面
42 円盤状砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程と、
前記基板の内部にレーザ光によって加工領域を形成する工程と、
前記基板を薄型化することにより、前記基板の持つ応力によって、前記加工領域を起点として前記基板を自発的に分割させる工程とを含む、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記基板が、サファイア基板またはSiC基板である、請求項1記載の窒化物半導体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−32970(P2009−32970A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196423(P2007−196423)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】