説明

窒化物系半導体装置用多層電極構造

【課題】窒化物系半導体層に対する優れた付着力を有しかつ電解液に対する優れた耐腐食性をも有する窒化物系半導体装置用多層電極構造を提供する。
【解決手段】窒化物系半導体装置用多層電極構造は、窒化物系半導体層(101)上に順次積層される第1、第2、第3、および第4の電極層(102、103、104、105)を含み、第1電極層(102)は金属窒化物を含み、第2電極層(103)は相対的に低い標準電極電位を有する金属を含み、第4電極層(105)は相対的に高い標準電極電位を有する金属を含み、第2と第4の電極層に挟まれた第3電極層(104)は相対的に中間の標準電極電位を有する金属を含んでいることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系半導体装置用の多層電極構造に関し、特に、窒化物系半導体層に対する付着力に優れかつ電解液に対する耐腐食性に優れた多層電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、窒化物系半導体装置の一例として、典型的なヘテロ接合電界効果型トランジスタ(HFET)を模式的な断面図で示している。このHFETにおいては、基板1上にn型GaN層2とn型AlGaN層3がこの順に積層されている。そして、AlGaN層3上には、一対のソース・ドレイン電極11とそれらの間のゲート電極12が形成されている。
【0003】
この基板1としては、周知のように、例えばサファイア基板、GaN基板(サファイア上にGaN層を含む基板でもよい)、シリコン基板、SiC基板などの種々の基板が利用され得る。
【0004】
AlGaN結晶は、GaN結晶に比べて小さな格子定数を有するので、n型GaN層2とn型AlGaN層3との界面では、格子定数の不一致による格子歪に起因して、キャリア(電子)を生じやすい傾向にある。また、AlGaNはGaNに比べて大きなエネルギバンドギャップを有するので、生じた電子はn型GaN層2とn型AlGaN層3との界面のGaN層側において2次電子雲として存在しやすい傾向になる。そして、GaN結晶中においては電子の移動度が大きいので、図1に示されているようなHFETは高速スイッチグトランジスタとして利用され得る。
【0005】
一対のソース・ドレイン電極11は、半導体と電極とのいずれの方向へも電流を通過させなければならないので、n型AlGaN層3に対してオーミック接触しなければならない。
【0006】
他方、ゲート電極12は、n型AlGaN層3からの電流漏れを防止するために、ショットキ電極でなければならない。したがって、n型半導体層に対してショットキ接合を形成するためには、大きな仕事関数を有する物質が接合される。周知のように、仕事関数は、物質の表面から1個の電子を真空中で無限遠まで取出すのに要するエネルギを意味する。大きな仕事関数を有する金属としては、例えばニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、金(Au)、白金(Pt)などの比較的高融点の金属が知られている。
【0007】
しかし、これらの金属と窒化物系半導体との接合によってショットキ電極を形成した場合、窒化物系半導体に対するショットキ電極の付着力が弱いという問題がある。この問題を解決するために、特許文献1の特開2000−196109号公報は、金属窒化物を窒化物系半導体に接合させてショットキ電極を形成する方法を教示している。すなわち、窒化物系半導体層とショットキ電極の金属窒化物層とが、窒素原子を介して強固に結合され得ると考えられている。そして、そのような金属窒化物としては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)などの窒化物を利用し得ることが示唆されている。
【0008】
また、当然ながら、ショットキ電極にはリード線をボンディングしなければならない。ところが、リード線を金属窒化物層にボンディングすることは容易ではなく、ボンディングができたとしても低い接触抵抗を得ることができない。そこで、ワイヤボンディングを容易にするとともにリード線との接触抵抗を低減させるために、特許文献1は、ショットキ電極の金属窒化物層をAuまたはAu合金の表面層で被覆することをも教示している。
【特許文献1】特開2000−196109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に開示されたショットキ電極においては、金属窒化物層とAu層との界面において密着性が弱いという問題の有ることが判明した。
【0010】
より具体的には、例えば金属窒化物層上にAu、Ag、Cu、Alなどの表面層を堆積した場合、その後で適用されるリフトオフ行程の際にその表面層が剥離したり、ワイヤボンディング後のリード線の引っ張りに対する耐久性が弱いという問題が生じる。
【0011】
このような問題に鑑み、金属窒化物層とAuなどの表面層との密着性を改善のために、金属窒化物層と表面層との間に高融点金属単体の中間層を挿入して、金属窒化物層、高融点金属中間層、およびAu表面層の積層によってショットキ電極構造を構成することが考えられる。なお、中間層に高融点金属を用いることは、高温にさらされても安定した特性を維持し得る電極が得られる観点から好ましい。
【0012】
しかしながら、本発明者が金属窒化物層、高融点金属中間層、およびAu表面層の積層構造を有するショットキ電極を含む窒化物系半導体装置の作製を行なったところ、Au表面層が剥がれやすいことが分かった。より具体的には、例えばリフトオフ行程のレジストの現像液(電解液)にそのショットキ電極が浸された場合に、高融点金属中間層が異常にエッチングされ、Au表面層が剥がれてしまうという問題が生じ得ることが分かった。
【0013】
本発明者が見出したこのような課題に鑑み、本発明は、窒化物系半導体層に対する優れた付着力を有しかつ電解液に対する優れた耐腐食性をも有する窒化物系半導体装置用多層電極構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による窒化物系半導体装置用多層電極構造は、窒化物系半導体層上に順次積層される第1、第2、第3、および第4の電極層を含み、第1電極層は金属窒化物を含み、第2電極層は相対的に低い標準電極電位を有する金属を含み、第4電極層は相対的に高い標準電極電位を有する金属を含み、第2と第4の電極層に挟まれた第3電極層は相対的に中間の標準電極電位を有する金属を含んでいることを特徴としている。
【0015】
なお、第3電極層は標準電極電位が−0.3V以上0.4V以下である金属を含み、第4電極層は標準電極電位が0.7V以上の金属を含むことが好ましい。
【0016】
第1電極層の金属窒化物は、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、およびニオブ(Nb)の少なくとも1種を含む窒化物であることが好ましい。
【0017】
第2電極層は、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、およびニオブ(Nb)の少なくとも1種の高融点金属を含むことが好ましい。
【0018】
第3電極層は、標準電極電位が−0.3V以上0.4V以下である金属として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、および銅(Cu)の少なくとも1種を好ましく含み得る。
【0019】
第4電極層は、標準電極電位が0.7V以上の金属として、金(Au)、白金(Pt)、および銀(Ag)の少なくとも1種を好ましく含み得る。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明による窒化物系半導体装置用多層電極構造おいては、金属窒化物の第1電極層上に形成される高融点金属の第2電極層と標準電極電位が0.7V以上の金属の第4電極層との間に、−0.3V以上0.4V以下の中間の標準電極電位を有する金属の第3電極層を挿入しているので、多層電極構造内の異なる金属層間の接触部における標準電極電位の差を減少させることができ、それによって電解液中でも金属層の腐食の進行を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
前述のような金属窒化物層、高融点金属中間層、およびAu表面層の積層構造を有する多層電極の電解液による腐食の問題に関して本発明者が研究を重ねたところ、高融点金属層の腐食にはいわゆるガルバニック腐食が関係していることが見出された。
【0022】
すなわち、そのようなガルバニック腐食においては、Au層と高融点金属層との間で標準電極電位による電位差が生じて電流が流れる。その結果、卑な金属である高融点金属がイオン化して電解液中に溶出することによって、高融点金属層の腐食が進行することが判明した。
【0023】
したがって、窒化物系半導体装置の作製過程において異なる金属の複数層を含む多層のショットキゲート電極を形成した後にリフトオフ法を適用する場合、その多層のショットキ電極中の少なくとのいずれかの金属層がレジストの現像液(電解液)で腐食してしまうことになる。
【0024】
半導体装置と異なる他の技術分野においては、異種金属の接合を含む複合金属構造のガルバニック腐食を抑制する方法として、複合金属構造の全表面を耐腐食性の金属メッキで覆って防食する方法や、複合金属構造中の腐食しやすい金属に異種金属を合金化して耐腐食性を向上させる方法が知られている。しかし、他の技術分野におけるそれらの防食方法を半導体装置の電極に適用すれば電極の特性や性能が変化してしまうので、他分野の防食方法を半導体装置の多層電極構造の防食にそのまま流用することはできない。
【0025】
このような状況において、前述のような金属窒化物層、高融点金属中間層、およびAu表面層の積層構造を有する多層電極の電解液による腐食の問題に関して本発明者がさらに研究を重ねたところ、高融点金属層とAu層との間に中間の標準電極電位を有する金属層を挟み込むことによって、電解液に多層電極を漬けたときに生じるガルバニック腐食が抑制されて耐腐食性が向上し得ることが見出され、その結果として本発明に想到したのである。
【0026】
図2の模式的断面図は、本発明者が実験した本発明による窒化物系半導体用多層電極構造の一例を模式的な断面図で示している。なお、図2における基板101としては、実際の窒化物系半導体装置の窒化物系半導体層を用いることが望ましい。しかし、本発明は、金属窒化物層が窒化物系半導体層に対して良好な付着力を有することを前提として、多層の金属層を含む電極構造における腐食の問題の解決を主目的としている。そこで、図2に関する実験おいては、窒化物系半導体に比べて安価なシリコンの基板101が採用された。
【0027】
この基板101上に、第1電極層102、第2電極層103、第3電極層104、および第4電極層105が順次堆積された。
【0028】
まず、スパッタ装置のチャンバ内にシリコン基板101を設置し、ターゲットとしてタングステンを用い、アルゴン流量と窒素流量をそれぞれ16.8sccmと50sccmに設定して、チャンバ内圧力5.0Paにおいて、投入電力300Wで反応性スパッタリングを行った。これによって、基板101上に窒化タングステン層を厚さ50nmまで堆積した。引続いて、チャンバ内圧力のみを0.5Paに変更して、窒化タングステン層をさらに10nm堆積し、これによって基板101上の第1電極層102の形成を完了させた。
【0029】
この第1電極層102の堆積の後半以降において窒素を含むチャンバ内圧力が5.0Paから0.5Paに低減されたことから理解されるであろうように、第1電極層102のうちで、厚さ50nmまでの窒化タングステン層に比べて、その上の厚さ10nmの窒化タングステン層は窒素含有量が少なくされている。これは、窒化タングステン層の第1電極層102上に堆積されるタングステン層の第2電極層との付着性を良好にするためである。
【0030】
すなわち、第1電極層102の形成後には、ターゲットとしてタングステンを用い、アルゴン流量を50sccmに設定して、チャンバ内圧力0.5Paにおいて、投入電力300Wでスパッタリングを行った。これによって、窒化タングステン層の第1電極層102上に、厚さ10nmのタングステン層が第2電極層103として堆積された。
【0031】
その後、ターゲットを銅に変更して、アルゴン流量を30sccmに設定して、チャンバ内圧力0.8Paにおいて、投入電力300Wでスパッタリングを行った。これによって、タングステン層の第2電極層103上に、厚さ500nmの銅層が第3電極層104として堆積された。
【0032】
さらに、ターゲットを金に変更して、アルゴン流量を30sccmに設定して、チャンバ内圧力0.8Paにおいて、投入電力300Wでスパッタリングを行った。これによって、銅層の第3電極層104上に、厚さ100nmの金層が第4電極層105として堆積された。
【0033】
以上のようにして積層された本発明による多層電極構造は、幅2μmの電極パターンに加工された。
【0034】
他方、図2の多層電極構造との比較のために、銅層の第3電極層104を省略したことのみにおいて異なる多層電極構造も比較例として作製されて、幅2μmの電極パターンに加工された。
【0035】
以上のようにして作製された本発明による多層電極構造と比較例による多層電極構造とをリフトオフ行程で使用される電解液に漬けた後に、光学顕微鏡を用いて観察して比較を行った。
【0036】
その結果、銅層の第3電極層104を含まない比較例の多層電極構造では、電解液中への90秒の浸漬時間でタングステン層からタングステンが溶出して金層が剥離してしまっていた。他方、本発明による図2の銅層の第3電極層104を含む多層電極構造では、電解液中への360秒の浸漬時間が経過しても、いずれの金属電極層の剥離も観察されなかった。
【0037】
このことは、銅層を含まない比較例の多層電極構造に比べて、銅層を含む本発明の多層電極構造では電解液に対して少なくとも4倍以上も腐食速度の遅いことを意味している。
【0038】
なお、以上の実験例では窒化タングステン層の第1電極層、タングステン層の第2電極層、銅層の第3電極層、および金層の第4電極層がこの順に積層された多層電極構造が一例として説明されたが、本発明はこの例に限定されないことが当業者にとって自明であろう。
【0039】
より具体的には、窒化物系半導体層に対する良好な付着性を有する第1電極層102の金属窒化物として、タングステン(W)の窒化物に限られず、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの窒化物をも利用することができる。これらの窒化物も、窒素原子を介して、窒化物系半導体層に対して良好に付着し得るからである。
【0040】
また、標準電極電位が低い卑金属の第2電極層103と標準電極電位の高い貴金属の第4電極層105との間に中間の標準電極電位を有する金属の第3電極層104を挿入することによって、ガルバニック腐食を抑制することができる。
【0041】
第2電極層103としては、第1電極層102の窒化物層中の金属元素との共通性に鑑みて、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの高融点金属を利用することができる。また、これらの高融点金属は、前述のように電極が高温にされされても安定した特性を維持し得る観点からも好ましい。そして、これらの高融点金属は、−0.3未満の標準電極電位を有している。
【0042】
第4電極層105にはリード線がボンディングされるので、リード線とのボンディングの容易さと接触抵抗の低さの観点から、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)などの貴金属が好ましく用いられ得る。そして、これらの貴金属は、0.7以上の標準電極電位を有している。
【0043】
以上の状況において、卑金属の第2電極層103と貴金属の第4電極層105との間に挟まれる第3電極層としては、中間の標準電極電位を有する銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などを利用することができ、これらの金属は−0.3V以上で0.4V以下の標準電極電位を有している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明によれば、窒化物系半導体層に対する優れた付着力を有しかつ電解液に対する優れた耐腐食性を有する窒化物系半導体装置用多層電極構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】典型的なヘテロ接合電界効果型トランジスタの一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明による窒化物系半導体装置用多層電極構造の一例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 基板、2 GaN層、3 AlGaN層、11 オーミック接触によるソース・ドレイン電極、12 ショットキ接合によるゲート電極、101 基板、102 窒化タングステンの第1電極層、103 タングステンの第2電極層、104 銅の第3電極層、105 金の第4電極層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物系半導体層上に順次積層される第1、第2、第3、および第4の電極層を含み、
前記第1電極層は金属窒化物を含み、
前記第2電極層は相対的に低い標準電極電位を有する金属を含み、
前記第4電極層は相対的に高い標準電極電位を有する金属を含み、
前記第2と第4の電極層に挟まれた前記第3電極層は相対的に中間の標準電極電位を有する金属を含んでいることを特徴とする窒化物系半導体装置用多層電極構造。
【請求項2】
前記第3電極層は標準電極電位が−0.3V以上0.4V以下である金属を含み、前記第4電極層は標準電極電位が0.7V以上の金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体装置用多層電極構造。
【請求項3】
前記第1電極層の前記金属窒化物が、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、およびニオブ(Nb)の少なくとも1種を含む窒化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物系半導体装置用多層電極構造。
【請求項4】
前記第2電極層は、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、およびニオブ(Nb)の少なくとも1種の高融点金属を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の窒化物系半導体装置用多層電極構造。
【請求項5】
前記第3電極層は、標準電極電位が−0.3V以上0.4V以下である金属として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、および銅(Cu)の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の窒化物系半導体装置用多層電極構造。
【請求項6】
前記第4電極層は、標準電極電位が0.7V以上の金属として、金(Au)、白金(Pt)、および銀(Ag)の少なくとも1種の貴金属を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の窒化物系半導体装置用多層電極構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−130046(P2009−130046A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301913(P2007−301913)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】