説明

筒型防振装置

【課題】流体室の容積を充分に確保しつつ、本体ゴム弾性体のゴムボリュームも充分に確保することが出来る、新規な構造の筒型防振装置を提供すること。
【解決手段】筒状ハウジング38の開口部を弾性ゴム壁46と可撓性膜56で閉塞し、弾性ゴム壁46と可撓性膜56の間に流体を封入した流体室60を形成すると共に、流体室60を仕切部材62で二分して壁部の一部を弾性ゴム壁46で構成した主液室88と壁部の一部を可撓性膜56で構成した副液室90を形成して、両室88,90をオリフィス通路98,102で連通せしめた液封ユニット20を備えており、アウタ筒部材14に開口窓22を形成し、アウタ筒部材14に筒状ハウジング38を固着することで、開口窓22を通じて弾性ゴム壁46をインナ軸部材12に当接せしめて、振動入力時に弾性ゴム壁46をインナ軸部材12で押圧して弾性変形せしめることにより主液室88に圧力変動を及ぼすようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のエンジンマウント等として好適に採用され得る筒型防振装置に係り、特に内部に封入された流体の流動作用に基づく防振効果を利用した流体封入式の筒型防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられるインナ軸部材の周りに振動伝達系を構成する他方の部材に取り付けられるアウタ筒部材を離隔配置して、それらを本体ゴム弾性体で相互に連結した構造の筒型防振装置が知られている。
【0003】
また、更なる防振性能の向上を目的として、防振装置の内部に非圧縮性流体を封入し、封入流体の流動作用に基づく防振効果を得られるようにした流体封入式筒型防振装置も提案されている。このような流体封入式防振装置としては、例えば、インナ軸部材と、その外周側に離隔配置される中間スリーブを本体ゴム弾性体で相互に連結すると共に、中間スリーブに複数の窓部を設けて、該窓部を通じて該本体ゴム弾性体に形成された複数のポケット部を外周側に開口せしめる一方、該中間スリーブにアウタ筒部材を外嵌固定せしめて、該ポケット部を該アウタ筒部材で流体密に覆蓋することにより、非圧縮性流体が封入された複数の流体室を形成すると共に、それら複数の流体室を相互に連通するオリフィス通路を設けた構造を有しており、例えば、特許文献1(特開2006−266438号公報)等にも開示されている。
【0004】
ところで、一般的に流体封入式防振装置では、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の流動作用を利用して防振効果が発揮されるようになっていることから、充分な容積を有する流体室を備えていることが望ましい。一方、インナ軸部材とアウタ筒部材を相互に連結する本体ゴム弾性体は、繰り返し入力される振動に対する充分な耐久性や必要とされるばね特性を実現するために、適当なゴムボリュームをもって形成されることが必要となる。
【0005】
ところが、特許文献1に記載された流体封入式の筒型防振装置のように、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間の限定された領域に対して、本体ゴム弾性体を配設すると共に流体室を形成する構造では、流体室の容積を充分に大きく確保しつつ、本体ゴム弾性体のゴムボリュームを充分に確保することが難しい場合もあり、必要とされる防振性能を充分に満たすことが難しくなったり、要求される耐久性等を実現することが難しくなるおそれがあった。特に、最近では、防振装置の配設スペースが小さくなっていること等を背景として、防振装置自体が小型であることが重要視されつつあり、アウタ筒部材の直径を大きくしてインナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間の領域を大きく確保することも難しくなってきている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−266438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、流体室の容積を充分に確保しつつ、本体ゴム弾性体のゴムボリュームも充分に確保することが出来る、新規な構造の筒型防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0009】
すなわち、本発明は、インナ軸部材と該インナ軸部材の外周側に離隔配置したアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、振動伝達系を構成する一方の部材に該インナ軸部材が取り付けられると共に他方の部材に該アウタ筒部材が取り付けられることによって、かかる振動伝達系を構成する部材間に装着される筒型防振装置において、筒状ハウジングの一方の開口部が弾性ゴム壁で閉塞されると共に、該筒状ハウジングの他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、それら弾性ゴム壁と可撓性膜の対向面間に非圧縮性流体が封入された流体室が形成されており、該流体室内に配設されて該流体室を二分する仕切部材が該筒状ハウジングで支持されて、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が該弾性ゴム壁で構成された主液室が形成されていると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された副液室が形成されて、それら主液室と副液室がオリフィス通路で相互に連通せしめられた構造の液封ユニットを備えており、前記アウタ筒部材の周上には開口窓が形成されて、該アウタ筒部材に対して該液封ユニットの該筒状ハウジングが固着されることによって、該液封ユニットの該弾性ゴム壁が該アウタ筒部材の開口窓を通じて該インナ軸部材に当接されるようになっており、該インナ軸部材と該アウタ筒部材の間への軸直角方向の振動入力時に該液封ユニットの該弾性ゴム壁が該インナ軸部材で押圧されて弾性変形せしめられることにより該主液室に圧力変動が及ぼされるようになっていることを特徴とする。
【0010】
このような本発明に従う構造とされた筒型防振装置においては、非圧縮性流体が封入された液封ユニットが別体として形成されて、アウタ筒部材に外付けされるようになっている。これにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の対向面間に本体ゴム弾性体と流体室が設けられている構造に比して、本体ゴム弾性体の周方向での厚さ寸法を大きくすることが可能となる。それ故、本体ゴム弾性体の耐久性の向上やばね特性の設計自由度の向上等を実現することが出来る。
【0011】
しかも、流体室を別体の液封ユニット内に設けることにより、本体ゴム弾性体のゴムボリュームを充分に大きく確保しつつ、流体室の容積も大きく確保することが出来る。これにより、流体の流動作用に基づいて目的とする防振効果を有効に得ることが出来る。換言すれば、液封ユニットを別体とすることにより、本体ゴム弾性体の構造と、主液室や副液室,オリフィス通路等の構造を、何れも高い自由度で設計することが出来る。
【0012】
また、主液室および副液室を含む流体室やオリフィス通路を備えた液封ユニットを、インナ軸部材やアウタ筒部材,本体ゴム弾性体を含んで構成された防振装置の本体部分とは別体とすることにより、構造及び防振特性が異なる複数種類の液封ユニットを準備して、それら準備された液封ユニットのうちから要求される性能に応じて選択された液封ユニットを採用することにより、防振特性の異なる複数種類の防振装置を一部の部品を共用して容易に実現することも出来得る。
【0013】
なお、弾性ゴム壁のインナ軸部材に対する当接は、振動入力時にインナ軸部材がアウタ筒部材に対して軸直角方向で相対変位せしめられることにより、弾性ゴム壁に弾性変形が及ぼされる状態であれば良く、弾性ゴム壁がインナ軸部材の外周面に対して直接に当接されている他、インナ軸部材の外周面に被着された本体ゴム弾性体等の他部材を介して間接的に当接されていても良い。
【0014】
また、本発明に係る筒型防振装置において、前記インナ軸部材と前記筒状ハウジングの対向間には、それらインナ軸部材と筒状ハウジングの少なくとも一方の側から突出するストッパゴムが設けられていることが望ましい。
【0015】
このようなストッパゴムを設けることにより、大振幅振動の入力に際して、インナ軸部材とアウタ筒部材が軸直角方向で相対変位せしめられて、アウタ筒部材に固定される筒状ハウジングがインナ軸部材に対して接近する方向に相対変位せしめられると、ストッパゴムが筒状ハウジングとインナ軸部材の間で挟み込まれて圧縮される。これにより、インナ軸部材と筒状ハウジング、延いてはアウタ筒部材の相対変位が緩衝的に制限されて、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位による本体ゴム弾性体の弾性変形が制限される。それ故、本体ゴム弾性体の耐久性を向上せしめることが出来る。
【0016】
また、本発明に係る筒型防振装置では、前記アウタ筒部材において径方向で対向位置する部分に前記開口窓の一対が形成されており、それら一対の開口窓の形成部位に対してそれぞれ前記液封ユニットが取り付けられていても良い。
【0017】
このような構造とされた筒型防振装置においても、本体ゴム弾性体のゴムボリュームと流体室の容積を両立して有利に確保することが出来る。それ故、本体ゴム弾性体の耐久性向上を図りつつ、流体の流動作用に基づく防振効果を有効に発揮させることが出来る。
【0018】
また、本発明に係る筒型防振装置において、振動伝達系を構成する一方の部材に前記インナ軸部材が取り付けられると共に、振動伝達系を構成する他方の部材に前記アウタ筒部材が取り付けられた装着状態下において、前記弾性ゴム壁が該インナ軸部材に対して圧縮状態で当接せしめられるようにしても良い。
【0019】
このようにインナ軸部材に対して弾性ゴム壁を圧縮状態で圧接せしめることにより、通常の振動入力によってインナ軸部材とアウタ筒部材が軸直角方向で相対変位せしめられて、インナ軸部材が筒状ハウジングから離隔する方向に相対変位せしめられた場合にも、インナ軸部材と弾性ゴム壁の離隔が有利に防がれる。それ故、振動入力によるインナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位が、別体とされた液封ユニットの弾性ゴム壁に速やかに伝達されて、主液室内の圧力変動が生ぜしめられることにより、流体の流動作用に基づく防振効果が入力振動に対して有効に発揮される。更に、インナ軸部材と弾性ゴム壁が当接状態に維持されることにより、インナ軸部材と弾性ゴム壁の打当たりによる異音や振動の発生を回避することが出来る。
【0020】
なお、より好適には、防振すべき振動の入力時にインナ軸部材と弾性ゴム壁が離れないだけの予圧縮を弾性ゴム壁に与えるように、インナ軸部材と弾性ゴム壁が当接せしめられる。
【0021】
また、本発明に係る筒型防振装置において、前記弾性ゴム壁が前記インナ軸部材に対して非接着で当接せしめられている構造も採用できる。
【0022】
これによれば、衝撃的な振動荷重の入力に際して、インナ軸部材とアウタ筒部材が軸直角方向で相対変位せしめられて、インナ軸部材と筒状ハウジングが相互に離隔する方向に大きく相対変位せしめられると、非接着とされたインナ軸部材と弾性ゴム壁が離隔せしめられて弾性ゴム壁の変形が防がれる。それ故、主液室内の容積が大きくなって、主液室内の圧力が低下するのを防ぐことが出来る。従って、キャビテーションによる気泡の発生を低減乃至は回避して、気泡の崩壊に際して問題となる程度の異音や振動が生じるのを防ぐことが出来る。
【0023】
また、本発明に係る筒型防振装置では、前記インナ軸部材を挟んで前記弾性ゴム壁と反対側において、該インナ軸部材と前記アウタ筒部材の対向面間には、それらインナ軸部材とアウタ筒部材の少なくとも一方の側から突出する弾性ストッパが設けられていることが望ましい。
【0024】
このような筒型防振装置では、大振幅の振動入力に際して、インナ軸部材と筒状ハウジングが離隔する方向でインナ軸部材とアウタ筒部材が相対変位せしめられると、弾性ストッパがインナ軸部材とアウタ筒部材の間で挟み込まれるように両部材間で当接せしめられて圧縮される。これにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸直角方向での相対変位が緩衝的に制限されて、本体ゴム弾性体の過大な弾性変形による破損等の問題を低減乃至は回避することが出来る。
【0025】
なお、弾性ストッパは、前述のゴムストッパと組み合わせて採用することにより、本体ゴム弾性体の耐久性向上をより有利に図ることが出来る。また、ゴムストッパや弾性ストッパは、主たる振動入力方向となるインナ軸部材の軸直角方向一方向でインナ軸部材を挟んだ両側に設けられていることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1〜3には、本発明に係る筒型防振装置の一実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、インナ軸部材としての内筒金具12とアウタ筒部材としての外筒金具14を本体ゴム弾性体16で連結した構造のマウント本体18と、マウント本体18に組み付けられる液封ユニットとしての液封カセット20を含んで構成されている。そして、内筒金具12が振動伝達系を構成する一方の部材としての図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、外筒金具14が振動伝達系を構成する他方の部材としての図示しない車両ボデーに取り付けられて、エンジンマウント10がそれらパワーユニットと車両ボデーの間に介装されることにより、パワーユニットが車両ボデーで防振支持されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、図1中の上下方向を言うものとする。
【0028】
より詳細には、内筒金具12は、鉄やアルミニウム合金等の金属で形成された高剛性の部材とされており、厚肉小径の略円筒形状を有している。また、内筒金具12は、図3中における左右方向で直線的に延びて形成されている。なお、内筒金具12の中央孔に図示しない取付ボルトが挿通されて、該取付ボルトが防振連結すべき一方の部材である図示しないパワーユニット側の部材に螺着されること等により、内筒金具12がパワーユニット側に固定的に取り付けられるようになっている。
【0029】
また、外筒金具14は、内筒金具12と同様に鉄やアルミニウム合金等の金属で形成された高剛性の部材とされており、全体として薄肉大径の略円筒形状を有している。また、外筒金具14の周上の一部には、開口窓としての切欠部22が形成されている。この切欠部22によって、本実施形態における外筒金具14は周上の一部において周方向で分断されており、略一定のC字断面をもって軸方向に延びる形状となっている。なお、外筒金具14には、後述するブラケット104が組み付けられるようになっており、ブラケット104が防振連結すべき他方の部材である図示しない車両ボデーに固定されること等により、外筒金具14がブラケット104を介して車両ボデー側に固定的に取り付けられるようになっている。
【0030】
このような内筒金具12と外筒金具14は、内筒金具12と外筒金具14が略同一中心軸上に配置されて、外筒金具14が内筒金具12の外周側を取り囲むように配設される。そして、それら内筒金具12と外筒金具14は、径方向間に配設される本体ゴム弾性体16によって相互に連結されている。
【0031】
本体ゴム弾性体16は、内筒金具12と外筒金具14の径方向対向面間において、径方向一方向(図2中、略左右方向)で延びるように設けられている。また、本実施形態における本体ゴム弾性体16は、内筒金具12を径方向一方向で挟んだ両側部分が外周側に行くに従って周方向で次第に厚肉となっている。そして、本体ゴム弾性体16の中央部分に内筒金具12が加硫接着されると共に、本体ゴム弾性体16の外周面に外筒金具14が加硫接着されることにより、内筒金具12と外筒金具14が本体ゴム弾性体16によって径方向で相互に連結されている。
【0032】
また、本実施形態における本体ゴム弾性体16において、本体ゴム弾性体16による内筒金具12と外筒金具14の連結方向(図2中、略左右)に対して直交する径方向(主たる振動入力方向)には、図2中の上方に向かって突出するように弾性当接部24が一体形成されていると共に、図2中の下方に向かって弾性ストッパ26が一体形成されている。
【0033】
弾性当接部24は、略円錘台形状を有するゴム弾性体で形成されており、本実施形態では、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。また、弾性当接部24は、その突出先端面が略平坦面とされている。更に、弾性当接部24は、外筒金具14の周上において切欠部22が形成された部分に向かって内筒金具12側から突出せしめられており、本実施形態では上下方向に対して僅かに傾斜して突出せしめられている。
【0034】
また、弾性ストッパ26は、略矩形ブロック形状を有するゴム弾性体で形成されており、本実施形態では、本体ゴム弾性体16及び弾性当接部24と一体形成されている。また、本実施形態において、弾性ストッパ26は、内筒金具12と外筒金具14の対向面間において内筒金具12側から外筒金具14側に向かって突出せしめられており、その突出先端面が外筒金具14の内周面の湾曲に沿って湾曲する円弧状湾曲面とされている。更に、弾性ストッパ26は、内筒金具12側から下方に向かって僅かに傾斜して突出せしめられており、外筒金具14に対して所定距離だけ内周側に離隔して位置せしめられている。なお、本実施形態において、弾性当接部24と弾性ストッパ26は、内筒金具12を挟んで相互に反対側に向かって突出せしめられている。また、本実施形態における弾性ストッパ26には、その突出先端面に半球形状を有する多数の小突起が一体形成されている。
【0035】
また、外筒金具14には、カセット支持金具28が固着されている。このカセット支持金具28は、支持筒部30と一対の固定板部32,32を有している。支持筒部30は、高剛性の金属材で形成されて、大径の略円筒形状を有している。また、支持筒部30には、一対の固定板部32,32が一体形成されている。この固定板部32は、高剛性の金属材で形成されて、略板形状を有しているている。また、本実施形態では、支持筒部30の周上において径方向一方向で対向する部分から一対の固定板部32,32が軸方向下方に向かって延び出すように設けられている。更に、一対の固定板部32,32は、上側部分が下方に向かってストレートに延び出して支持筒部30の周方向での湾曲に応じて湾曲する支持板部34,34とされていると共に、下側部分が上下方向で円弧状に湾曲して延び出す湾曲固着部36,36とされている。なお、本実施形態では、湾曲固着部36,36の対向面の曲率が、外筒金具14の外周面の曲率と略等しくされている
【0036】
そして、一対の固定板部32,32における湾曲固着部36,36を外筒金具14の外周面に対して上方から重ね合わせて、外筒金具14を一対の固定板部32,32の対向面間で挟み込むように組み付けると共に、溶接等の手段で一対の湾曲固着部36,36を外筒金具14に固着せしめることにより、外筒金具14に対してカセット支持金具28が取り付けられている。このようなカセット支持金具28の外筒金具14への取付状態下において、支持筒部30の下側開口部が外筒金具14における切欠部22の形成部分と位置合わせされている。更に、支持筒部30の中心軸上に弾性当接部24が位置せしめられており、本体ゴム弾性体16と一体形成された弾性当接部24が、外筒金具14に形成された切欠部22と支持筒部30の中央孔を通じて外部に露出せしめられている。また、本実施形態において、カセット支持金具28は、図1にも示されているように、上下方向に対して所定の角度で僅かに傾斜した状態で外筒金具14に取り付けられている。
【0037】
また、カセット支持金具28には、マウント本体18とは別体で形成された液封カセット20が取り付られる。液封カセット20は、図4に示されているように、筒状ハウジングとしてのハウジング金具38を有している。ハウジング金具38は、高剛性の金属材で形成されており、薄肉大径の略円筒形状を有している。また、ハウジング金具38の下端開口縁部には、ストッパ当接部40が一体形成されている。ストッパ当接部40は、略円環板形状を有しており、ハウジング金具38の下端縁部から径方向内方に向かって延び出す内フランジ状に設けられている。更に、ハウジング金具38の上端開口縁部には、かしめ部41が一体形成されている。かしめ部41は、径方向内方に向かって屈曲して延び出すように設けられており、後述するシールゴム層42の内周面よりも僅かに内方にまで突出するように形成されている。なお、本実施形態において、かしめ部41は、後述するハウジング金具38への縮径加工時に、ハウジング金具38の下端部を径方向内側に向かって屈曲させることにより形成される。
【0038】
さらに、ハウジング金具38の内周面には、シールゴム層42が被着形成されている。シールゴム層42は、薄肉筒状のゴム弾性体で形成されており、ハウジング金具38の内周面を略全面に亘って覆うように形成されている。また、ハウジング金具38のストッパ当接部40には、ストッパゴム44が設けられている。ストッパゴム44は、ストッパ当接部40から下方に向かって突出するように形成されたゴム弾性体であって、本実施形態では、ストッパ当接部40の上面を覆うように形成されたゴム層を介してシールゴム層42と一体形成されている。なお、本実施形態において、ストッパゴム44は、突出先端側(図4中、下)に向かって次第に狭幅となっている。
【0039】
また、ハウジング金具38の下側開口部には、弾性ゴム壁46が取り付けられている。弾性ゴム壁46は、全体として略円板形状を呈する薄肉のゴム弾性体であって、弾性ゴム壁46の中央部分を構成する入力部48と、その外周縁部から延び出す支持部50を有している。入力部48は、ゴム弾性体で形成されて略カップ形状を有しており、周壁部が開口側である上方に向かって次第に薄肉となっている。一方、支持部50は、薄肉大径の円環板形状を有しており、入力部48と一体形成されている。なお、弾性ゴム壁46は、本体ゴム弾性体16とは別体として形成されており、本実施形態では、それら本体ゴム弾性体16と弾性ゴム壁46がそれら各部材に要求される性能(耐荷重性能や後述する封入流体に対する耐侵食性等)に応じて各別に異なる組成のゴム材料で形成されている。
【0040】
また、弾性ゴム壁46の中央部分には、補強金具52が固着されている。本実施形態における補強金具52は、薄肉小径の円形形状を有する金属製の部材であって、弾性ゴム壁46の中央部分において入力部48の底壁に埋設固着されている。また、弾性ゴム壁46の外周縁部には、支持金具54が加硫接着されている。支持金具54は、高剛性の金属材で形成されて略円環形状を有しており、弾性ゴム壁46における支持部50の外周面に全周に亘って加硫接着されている。これにより、支持金具54の中央孔が弾性ゴム壁46で流体室に閉塞されている。なお、本実施形態において、弾性ゴム壁46は、補強金具52と支持金具54を備えた一体加硫成形品とされている。
【0041】
また、ハウジング金具38の上側開口部には、可撓性膜としてのダイヤフラム56が取り付けられている。ダイヤフラム56は、波紋状の充分な弛みをもった薄肉円板形状のゴム膜で形成されており、変形が容易に許容されるようになっている。また、ダイヤフラム56の外周縁部には、筒状の固着部が一体形成されており、該固着部の外周面が固定金具58に加硫接着されている。固定金具58は、略円環形状を有する高剛性の部材であって、全周に亘ってダイヤフラム56に固着されている。これにより、固定金具58の中央孔がダイヤフラム56で流体密に閉塞されている。なお、本実施形態において、ダイヤフラム56は、固定金具58を備えた一体加硫成形品とされている。
【0042】
そして、弾性ゴム壁46とダイヤフラム56は、それぞれハウジング金具38に内嵌固定されている。即ち、弾性ゴム壁46の外周縁部に加硫接着された支持金具54がハウジング金具38の下端部に挿し入れられて配置されると共に、ダイヤフラム56の外周縁部に加硫接着された固定金具58がハウジング金具38の上端部に挿し入れられて配置される。そして、ハウジング金具38に対して八方絞り等の縮径加工が施されることにより、支持金具54および固定金具58がハウジング金具38に対して嵌着固定されて、弾性ゴム壁46とダイヤフラム56がハウジング金具38に対して固定的に取り付けられる。なお、本実施形態では、ハウジング金具38への組付け状態下において、弾性ゴム壁46は、支持部50がストッパ当接部40の上面に対してストッパゴム44と一体形成されたゴム層を介して重ね合わされていると共に、入力部48がストッパ当接部40よりも内周側の中央孔を通じて下方に向かって突出せしめられている。
【0043】
また、ハウジング金具38に対する弾性ゴム壁46およびダイヤフラム56の組付け状態下では、支持金具54および固定金具58がシールゴム層42を介してハウジング金具38に密着せしめられることにより、ハウジング金具38の軸方向一方(図4中、下)の開口部が弾性ゴム壁46で流体密に閉塞されていると共に、他方(図4中、上)の開口部がダイヤフラム56で流体密に閉塞されている。これにより、ハウジング金具38の内周側において、弾性ゴム壁46とダイヤフラム56の対向面間には、外部から密閉された流体室としての流体封入領域60が形成されている。この流体封入領域60には、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いはそれらの混合液等の非圧縮性流体が封入されている。なお、封入流体は、特に限定されるものではないが、後述するオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用等に基づく防振効果を有利に得るために、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。また、このような流体の封入は、弾性ゴム壁46とダイヤフラム56、更には後述する仕切部材62のハウジング金具38への組付けを非圧縮性流体中で行うことにより、有利に実現することが出来る。
【0044】
また、流体封入領域60には、仕切部材62が収容配置されている。この仕切部材62は、全体として厚肉の円板形状を有しており、仕切部材本体64を含んで構成されている。
【0045】
仕切部材本体64は、厚肉の円板形状を有する高剛性材で形成されており、本実施形態では硬質の合成樹脂材で形成されている。また、仕切部材本体64の外周縁部には、周方向に延びる上下の周溝66,68が形成されている。上下の周溝66,68は、仕切部材本体64の外周面に開口して周方向で所定の長さに亘って延びている。また、上下の周溝66,68の周方向一方の端部は、周方向で相互に位置合わせされており、透孔69を通じて相互に連通せしめられている。これにより、上下の周溝66,68によって周方向に一周弱の長さで延びる外周凹溝70が形成されている。
【0046】
また、仕切部材本体64の径方向中央部分には、大径凹所72が形成されている。大径凹所72は、浅底の円形凹所であって、仕切部材本体64の中央部分において上方に向かって開口するように形成されている。更に、大径凹所72の底壁面中央には、中央凹所74が開口形成されている。この中央凹所74は、大径凹所72よりも小径の円形凹所であって、上方に向かって開口するように形成されている。なお、このような中央凹所74が大径凹所72の底壁部に形成されることにより、中央凹所74の開口部付近には大径凹所72の底壁面を利用して環状の段差面75が形成されている。
【0047】
また、仕切部材本体64の径方向中間部分には、連通凹溝76が形成されている。連通凹溝76は、仕切部材本体64の下端面に開口して周方向に所定長さで延びる凹溝であって、上周溝66と中央凹所74の径方向間に位置せしめられている。なお、本実施形態では、連通凹溝76が周方向に1/4周強の長さで形成されている。
【0048】
また、仕切部材本体64には、その上端面に重ね合わされるようにして保持金具78が組み付けられている。保持金具78は、薄肉の略円環板形状を呈しており、金属板にプレス加工を施すこと等により好適に形成される。また、保持金具78は、径方向中間部分において段差が設けられた段付き円環板形状とされており、該段差を挟んだ内側が外側に比して下方に位置せしめられている。また、保持金具78には、周上の複数箇所に図示しない係止孔が形成されており、仕切部材本体64の下端面に突設された係止爪80が挿し入れられて係合せしめられることにより、保持金具78が仕切部材本体64に対して重ね合わされた状態で固定されるようになっている。
【0049】
また、段差面75には、可動ゴム膜82が重ね合わされて配設されている。可動ゴム膜82は、ゴム弾性体で形成されて略円板形状を呈している。また、可動ゴム膜82の外周縁部には、略一定の円形断面を有する係止部84が一体形成されており、可動ゴム膜82の外周縁部が中央部分よりも厚肉とされている。そして、可動ゴム膜82の外周部分が段差面75に重ね合わされて、段差面75と保持金具78の内周部分の間で挟み込まれることにより、可動ゴム膜82が仕切部材本体64に対して組み付けられている。これにより、可動ゴム膜82を備えた本実施形態における仕切部材62が構成されている。
【0050】
さらに、可動ゴム膜82の組付状態下においては、中央凹所74の開口部が可動ゴム膜82によって閉塞せしめられている。これにより、中央凹所74を利用して壁部の一部が可動ゴム膜82で構成された中間室86が形成されている。
【0051】
そして、このような構造とされた仕切部材62は、ハウジング金具38に挿し入れられて、ハウジング金具38の軸方向中間部分に位置せしめられると共に、ハウジング金具38に対して八方絞り等の縮径加工が施されることにより、ハウジング金具38に対して固定されている。なお、支持金具54がゴム層を介してストッパ当接部40に上方から当接せしめられると共に、固定金具58がハウジング金具38の上端に設けられたかしめ部41に下方から当接せしめられて、更に、仕切部材62が支持金具54と固定金具58の軸方向間で挟み込まれることにより、それら支持金具54と仕切部材62と固定金具58が、ストッパ当接部40とかしめ部41の軸方向間で位置決め固定されている。
【0052】
また、仕切部材62とハウジング金具38の間には、シールゴム層42が介在せしめられており、仕切部材62の外周面がハウジング金具38の内周面に対してシールゴム層42を介して流体密に重ね合わされている。これにより、ハウジング金具38の内周側において弾性ゴム壁46とダイヤフラム56の間に形成された流体封入領域60が、仕切部材62で上下に二分されており、仕切部材62を挟んだ一方の側(図2中、下側)には、壁部の一部が弾性ゴム壁46で構成されて、振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる主液室としての受圧室88が形成されていると共に、仕切部材62を挟んだ一方の側(図2中、下側)には、壁部の一部がダイヤフラム56で構成されて、容積変化が容易に許容される副液室としての平衡室90が形成されている。
【0053】
また、仕切部材62の外周面がハウジング金具38の内周面に対して流体密に重ね合わされていることにより、仕切部材62の外周面に開口するように設けられた外周凹溝70の開口部がハウジング金具38によって流体密に覆蓋されている。これにより、外周凹溝70を利用して周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。更に、該トンネル状の流路は、図3に示されているように、その一方の端部が連通孔92を通じて連通凹溝76に連通せしめられて受圧室88に連通せしめられていると共に、他方の端部が連通孔96を通じて平衡室90に連通せしめられている。これにより、周方向に所定の長さで延びて、受圧室88と平衡室90を相互に連通する第一のオリフィス通路98が形成されている。
【0054】
また、第一のオリフィス通路98の中間部分には、内周側の壁部を貫通する連通路100が形成されている。この連通路100は、仕切部材本体64の内部を径方向に延びて形成されており、一方の端部が下周溝68に連通せしめられていると共に、他方の端部が中央凹所74に連通せしめられている。これにより、第一のオリフィス通路98と中間室86が連通路100を通じて相互に連通せしめられている。これにより、第一のオリフィス通路98の一部と連通路100を利用して受圧室88と平衡室90を相互に連通する第二のオリフィス通路102が形成されている。
【0055】
なお、中間室86は、可動ゴム膜82によって平衡室90と隔てられており、可動ゴム膜82の弾性変形によって、中間室86内の液圧が平衡室90に伝達されるようになっている。これにより、中間室86と平衡室90は、小振幅振動の入力に際して、実質的に連通状態とされて、受圧室88と平衡室90が第二のオリフィス通路102を通じて実質的に連通せしめられるようになっている。
【0056】
なお、本実施形態においては、第一のオリフィス通路98が10Hz程度の低周波数域にチューニングされて、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されるようになっていると共に、第二のオリフィス通路102が20〜40Hz程度の中乃至高周波数域にチューニングされて、アイドリング時振動等の中乃至高周波小振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されるようになっている。また、第一,第二のオリフィス通路98,102のチューニング周波数は、通路長と通路断面積の比を調節すること等により設定することが出来る。
【0057】
このような構造とされた液封カセット20は、マウント本体18を構成する外筒金具14に固定されたカセット支持金具28に取り付けられることにより、外筒金具14、延いてはマウント本体18に組み付けられる。より詳細には、液封カセット20のハウジング金具38がカセット支持金具28の支持筒部30に圧入固定されることにより、液封カセット20がカセット支持金具28に嵌着されて、外筒金具14に固定されている。
【0058】
ここにおいて、液封カセット20のマウント本体18への装着状態下では、弾性ゴム壁46の入力部48が外筒金具14に形成された切欠部22を通じて挿し入れられており、入力部48の底壁下面が、内筒金具12から突出せしめられた弾性当接部24の突出先端面に対して当接せしめられている。これにより、弾性ゴム壁46が内筒金具12に対して間接的に当接せしめられている。特に本実施形態では、弾性ゴム壁46の入力部48と弾性当接部24が非接着で当接せしめられている。また、本実施形態では、補強金具52が入力部48に埋設固着されていることにより、入力部48の形状の安定化が図られており、内筒金具12と弾性ゴム壁46の当接状態が安定して実現されるようになっている。
【0059】
なお、本実施形態において、弾性ゴム壁46と弾性当接部24は、予圧縮状態で当接せしめられている。即ち、弾性ゴム壁46の入力部48が弾性当接部24を介した内筒金具12と弾性ゴム壁46の当接によって上方に変位せしめられると共に、支持部50が上向きに作用する外力によって弾性変形せしめられた状態で、液封カセット20がマウント本体18に対して組み付けられている。特に本実施形態では、防振すべき振動の入力に際して、それら弾性当接部24と弾性ゴム壁46が離隔しない程度の押圧力をもって圧接せしめられている。
【0060】
また、液封カセット20のマウント本体18への装着状態において、ストッパゴム44がハウジング金具38側から内筒金具12側に向かって突出するように設けられており、内筒金具12に対して弾性当接部24を挟んだ軸方向両側で対向位置せしめられている。そして、後述する衝撃的な振動荷重の入力時には、ストッパ当接部40がストッパゴム44を介して内筒金具12に当接せしめられることにより、内筒金具12と外筒金具14の相対変位が制限されるようになっている。
【0061】
また、外筒金具14には、ブラケット104が取り付けられている。このブラケット104は、鉄やアルミニウム合金等の金属材や繊維補強された硬質の合成樹脂材等で形成された高剛性の部材であって、外筒金具14に固着されるアウタ固着部106と、防振連結すべき他方の部材に取り付けられる取付部108を有している。
【0062】
より詳細には、アウタ固着部106は、一対の挟持板110,110を備えている。一対の挟持板110,110は、相互に平行に広がるように対向して配置されており、ブラケット104の外筒金具14への装着状態下において、外筒金具14を軸方向両側から挟み込むように対向位置せしめられている。更に、挟持板110は、基端部112と一対の突出挟持部114,114を有している。基端部112は、略平板形状であって、ブラケット104の外筒金具14への装着状態下において、外筒金具14の軸方向に対して直交する方向で広がっている。また、基端部112には、一対の突出挟持部114,114が一体形成されている。一対の突出挟持部114,114は、基端部112の幅方向(図1中、左右)両端部から上方に向かって突出するように形成されており、基端部112と同一の平面上で広がる板状とされている。また、突出挟持部114は、外筒金具14の周方向での湾曲に応じて上下方向で湾曲しており、突出方向において一対の突出挟持部114,114の離隔距離が変化している。
【0063】
また、一対の挟持板110,110の対向面間には、一対の支持板116,116が設けられている。支持板116は、挟持板110と直交して、図2中の上下方向に広がる略矩形平板形状を有しており、一対の挟持板110,110の基端部112,112間に設けられて、それら基端部112,112を相互に連結せしめている。また、本実施形態では、一対の支持板116,116が図2中の左右方向で所定距離を隔てて対向位置せしめられている。これにより、一対の挟持板110,110が一対の支持板116,116によって相互に連結されて、本実施形態におけるアウタ固着部106が形成されている。
【0064】
また、一対の挟持板110,110と支持板116,116で構成されたアウタ固着部106には、取付部108が固着されている。取付部108は、逆向きの略有底円筒形状を有するベース部118と、ベース部118の周上の複数箇所に固着された取付脚部120を備えている。そして、ベース部118の上底壁部に対してアウタ支持部50の下端面が溶接等の手段によって接着されることにより、本実施形態におけるブラケット104が構成されている。
【0065】
そして、ブラケット104には、外筒金具14が固定的に嵌め付けられる。即ち、一対の挟持板110,110の対向面間に外筒金具14が嵌め入れられると共に、外筒金具14が一対の支持板116,116に対して上方から載置される。そして、溶接等の手段によって外筒金具14をブラケット104に対して固着せしめることにより、外筒金具14にブラケット104が固定されている。
【0066】
また、ブラケット104の取付脚部120が図示しない固定ボルト等を用いて図示しない車両ボデー等の防振連結すべき他方の部材に取り付けられるようになっており、外筒金具14がブラケット104を介して車両ボデー側に取り付けられるようになっている。
【0067】
ここにおいて、内筒金具12と外筒金具14の間に振動が入力されると、内筒金具12と外筒金具14が軸直角方向で相対変位せしめられる。これにより、内筒金具12に対して間接的に当接せしめられた弾性ゴム壁46と、外筒金具14に対して固定されたハウジング金具38が相対的に変位せしめられて、受圧室88に内圧変動が生ぜしめられるようになっている。そして、受圧室88と平衡室90の間での相対的な圧力変動によって第一,第二のオリフィス通路98,102を通じて両室88,90間で流体流動が生ぜしめられて、第一,第二のオリフィス通路98,102を通じて流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0068】
すなわち、自動車の走行状態下において主に問題となるエンジンシェイク等の低周波数域の振動が内筒金具12と外筒金具14の間に入力されると、低周波数域にチューニングされた第一のオリフィス通路98を通じて受圧室88と平衡室90の間で流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用等の流動作用に基づく高減衰効果等の防振効果が有効に発揮されるようになっている。
【0069】
また、自動車の停車状態下において主に問題となるアイドリング時振動等の中乃至高周波数域の振動が内筒金具12と外筒金具14の間に入力されると中乃至高周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路102を通じて受圧室88と中間室86の間で流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用等の流動作用に基づく低動ばね効果等の防振効果が有効に発揮されるようになっている。
【0070】
なお、本実施形態では、第二のオリフィス通路102によって受圧室88と連通せしめられる中間室86が平衡室90に対して可動ゴム膜82で仕切られている。これにより、中乃至高周波数域の振動入力に際しては、可動ゴム膜82の微小な弾性変形による液圧吸収作用を利用して中間室86内の液圧が平衡室90側に逃されるようになっており、第二のオリフィス通路102が実質的に受圧室88と平衡室90を相互に連通する連通状態とされて、流体流動による有効な防振効果が発揮されるようになっている。一方、低周波数域の振動入力に際しては、入力振動の振幅が比較的に大きいことから、可動ゴム膜82の微小変形による液圧吸収作用が有効に発揮され得ず、第二のオリフィス通路102が実質的に閉塞状態とされる。これにより、第一のオリフィス通路98を通じての流体流動が有利に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるようになっている。従って、本実施形態に係るエンジンマウント10では、低周波数域の振動と中乃至高周波数域の振動の何れに対しても目的とする防振効果を有効に得ることが出来る。
【0071】
また、本実施形態に係るエンジンマウント10では、主たる振動入力方向であるハウジング金具38の軸方向で衝撃的な振動荷重が入力されて、内筒金具12が外筒金具14に対して図2中の略上方に向かって大きく相対変位せしめられると、ハウジング金具38の下側開口部に形成されたストッパ当接部40がストッパゴム44を介して外筒金具14に当接せしめられる。これによって、内筒金具12とハウジング金具38、延いては外筒金具14の相対変位が緩衝的に制限されて、本体ゴム弾性体16の過大な弾性変形が防がれるようになっており、本体ゴム弾性体16の耐久性向上が有利に図られている。特に本実施形態では、ストッパゴム44が突出先端側に向かって次第に狭幅となる断面形状を有している。それ故、ストッパゴム44と内筒金具12の当接が緩衝的に実現されて、それらストッパゴム44と内筒金具12の当接による乗り心地の悪化が低減乃至は回避されるようになっている。
【0072】
また、本実施形態に係るエンジンマウント10では、主たる振動入力方向であるハウジング金具38の軸方向で衝撃的な振動荷重が入力されて、内筒金具12が外筒金具14に対して図2中の略下方に向かって大きく相対変位せしめられると、内筒金具12側から下方に向かって突出する弾性ストッパ26が外筒金具14に当接せしめられる。これによって、内筒金具12と外筒金具14の相対変位が緩衝的に制限されて、本体ゴム弾性体16の過大な弾性変形が防がれるようになっており、本体ゴム弾性体16の耐久性向上が有利に図られている。特に本実施形態では、弾性ストッパ26の突出先端面に多数の小突起が形成されている。それ故、弾性ストッパ26と外筒金具14の当接が緩衝的に実現されて、それら弾性ストッパ26と外筒金具14の当接による乗り心地の悪化が低減乃至は回避されるようになっている。
【0073】
さらに、本実施形態に係るエンジンマウント10では、弾性ゴム壁46と弾性当接部24が非接着で圧接されている。それ故、主たる振動入力方向であるハウジング金具38の軸方向で衝撃的な振動荷重が入力されて、内筒金具12が外筒金具14に対して図2中の略下方に向かって大きく相対変位せしめられると、弾性ゴム壁46と弾性当接部24が離隔せしめられるようになっている。これにより、受圧室88内の圧力が著しく低下するのを防いで、キャビテーションと解される気泡が原因であると考えられる異音や振動の発生を効果的に防ぐことが出来る。
【0074】
なお、本実施形態では、弾性ゴム壁46と弾性当接部24が予圧縮状態で当接せしめられて、防振すべき通常の振動荷重が入力された場合に弾性ゴム壁46と弾性当接部24の当接状態が維持されるようになっている。それ故、通常の振動入力時には、内筒金具12の外筒金具14に対する相対変位が弾性ゴム壁46に安定して伝達されて、受圧室88内の圧力変動が有効に生ぜしめられるようになっている。しかも、弾性ゴム壁46において弾性当接部24との当接部分である入力部48は、補強金具52で形状が安定せしめられていることから、弾性当接部24との当接状態が安定して実現される。
【0075】
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント10においては、非圧縮性流体が封入された液封カセット20が、内筒金具12と外筒金具14を本体ゴム弾性体16で連結してなるマウント本体18とは別体で設けられている。そして、振動入力による内筒金具12と外筒金具14の相対的な変位に伴って、液封カセット20内で流体の流動が生ぜしめられるようになっている。これにより、本体ゴム弾性体16と流体封入領域60を分離せしめることが出来て、本体ゴム弾性体16のサイズや形状の設計自由度を確保して、本体ゴム弾性体16に要求される耐久性やばね特性を有利に実現しつつ、流体封入領域60の容積を大きく確保して、流体の流動作用に基づいて発揮される防振効果を有効に得ることが出来る。
【0076】
さらに、本体ゴム弾性体16と一体形成された弾性ストッパ26のゴムボリュームも、非圧縮性流体の封入領域の容積に関らず、充分に確保することが出来る。それ故、弾性ストッパ26の耐久性を有利に確保することが出来て、ストッパ効果を安定して発揮せしめることが出来る。従って、本体ゴム弾性体16の耐久性向上を図ることが出来る。
【0077】
しかも、本実施形態では、内筒金具12と外筒金具14の径方向間の領域を大きく確保することなく、別体の液封カセット20をマウント本体18に組み付けることにより、本体ゴム弾性体16のゴムボリュームや流体封入領域60の容積の確保を実現している。それ故、外筒金具14の直径を大きくすることなく、高い設計自由度を実現することが出来て、特に本実施形態で示されたエンジンマウント10では、幅方向(図1中、左右)での大型化を有利に回避することが出来る。
【0078】
また、本体ゴム弾性体16と弾性ゴム壁46が別部材として形成されていることにより、本体ゴム弾性体16を形成するゴム材料の組成と、弾性ゴム壁46を形成するゴム材料の組成を異ならせることが出来る。それ故、本体ゴム弾性体16に要求される耐荷重性能や減衰性能等の特性と、弾性ゴム壁46に要求される封入流体に対する耐液性能や流体のシール性能等の特性を、両立してそれぞれ高度に実現することが出来る。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0080】
例えば、前記実施形態においては、弾性ゴム壁46と内筒金具12の当接が非接着で実現されており、衝撃的な振動荷重の入力に際して、内筒金具12と弾性ゴム壁46が離隔可能とされている。しかしながら、内筒金具12と弾性ゴム壁46は、必ずしも非接着で離隔可能に当接せしめられていなくても良く、常時当接状態に維持されるようになっていても良い。具体的には、例えば、内筒金具12と弾性ゴム壁46を接着剤等によって相互に接着しても良いし、弾性ゴム壁46側に固定用の金具を固着せしめて、該固定用の金具を内筒金具12側にボルト固定や溶接、係止等の手段で固着することにより、内筒金具12側と弾性ゴム壁46側を機械的に連結固定する等しても良い。このように弾性ゴム壁46と内筒金具12を相互に常時連結した状態で固定する構造を採用すれば、内筒金具12の外筒金具14に対する相対変位をより確実に弾性ゴム壁46に伝達することが出来て、入力振動に対する防振効果を安定して得ることが出来る。
【0081】
また、前記実施形態では、外筒金具14の周上の一部に切欠部22が形成されており、切欠部22の形成箇所において、外筒金具14に液封カセット20が組み付けられている。しかし、外筒金具14の周上に複数の切欠部22が形成されていても良く、更に、それら複数の切欠部22の形成箇所にそれぞれ液封カセット20が組みつけられるようになっていても良い。具体的には、例えば、外筒金具において径方向で対向する両側にそれぞれ窓状の切欠部が形成されており、それら一対の切欠部を通じて弾性ゴム壁46が挿し入れられるように一対の液封カセット20,20が組み付けられた構造も採用することが出来る。このような一対の液封カセット20,20を備えた構造によっても、流体の流動作用に基づく優れた防振効果をより有効に得ることが出来る。
【0082】
また、前記実施形態では、外筒金具14に形成された切欠部22が外筒金具14の軸方向全長に亘って延びるように形成されて、外筒金具14が周方向で分断された略C字断面を有しているが、例えば、外筒金具14の軸方向中間部分において周上の一部で開口する窓状の切欠部を形成して、かかる窓状の切欠部を通じて弾性ゴム壁46が内筒金具12に当接せしめられるようになっていても良い。
【0083】
また、前記実施形態で示された液封カセット20のマウント本体18に対する組付方法は、あくまでも一例であって、何等限定的に解釈されるものではない。更に、前記実施形態では、外筒金具14が特定構造のブラケット104を介して車両ボデーに組み付けられるようになっていたが、必ずしもブラケット104を介して車両ボデー側に取り付けられるようになっていなくても良いし、ブラケット104の具体的な構造も何等限定されるものではない。
【0084】
また、前記実施形態では、ハウジング金具38に一体形成されたストッパ当接部40を設けると共に、ストッパ当接部40にストッパゴム44を固着せしめて、ストッパ当接部40がストッパゴム44を介して内筒金具12に当接することにより内筒金具12とハウジング金具38の接近方向での相対変位を制限するストッパ機構が構成されている。しかしながら、このようなストッパ機構は、本発明において必須の構造ではなく、例えば、設けられていなくても良いし、ハウジング金具38や内筒金具12とは別体として形成されたストッパ部材をハウジング金具38や内筒金具12に取り付けることにより、ストッパ機構が構成されるようになっていても良い。更に、前記実施形態において、ストッパゴム44は、ハウジング金具38に固着されて、内筒金具12側に向かって突出するように設けられている。しかし、例えば、ストッパゴムは、内筒金具12に固着されて、ハウジング金具38側に向かって突出するように設けられていても良いし、内筒金具12とハウジング金具38の両方に設けられていても良い。
【0085】
また、前記実施形態では、内筒金具12と弾性ゴム壁46が弾性当接部24を介して間接的に当接せしめられているが、内筒金具12と弾性ゴム壁46は直接的に当接せしめられるようになっていても良い。
【0086】
また、前記実施形態では、液封カセット20として、受圧室88と平衡室90を相互に連通する第一,第二のオリフィス通路98,102を備えた構造が例示されている。しかしながら、液封カセットの具体的な構造は、特に限定されるものではなく、例えば、オリフィス通路が一つのシングルオリフィス構造とされていても良いし、三つ以上のオリフィス通路を備えた構造や、高周波数域の振動入力に対して液圧吸収作用による防振効果を発揮する可動板等を備えた構造とされていても良い。更に、例えば、第一,第二のオリフィス通路98,102を備えると共に、空気圧式のアクチュエータや電磁式のアクチュエータ等の各種アクチュエータを備えており、第二のオリフィス通路の連通状態と遮断状態をアクチュエータを利用して切換えることにより防振特性を変化させることが出来る、切換型の液封カセットを採用することも出来る。なお、例えば、前記実施形態に記載のエンジンマウント10において、ハウジング金具38の外径が略等しく、且つ、上述の如き内部構造(流体封入領域60や仕切部材62、オリフィス通路98,102等の構造)が異なる複数種類の液封カセットを準備して、準備された各種構造の液封カセットのうちから要求される防振性能等に応じた液封カセットを選択し、選択された液封カセットをマウント本体18に組み付けることにより、マウント本体18部分を共通化してコストの低減等を実現しつつ、異なる防振特性を有する複数種類のエンジンマウントを実現することも出来る。
【0087】
また、前記実施形態では、本発明を自動車用のエンジンマウントに適用した例が示されているが、本発明は、エンジンマウント以外に用いられる筒型防振装置にも適用することが可能である。また、本発明は、自動車以外に用いられる筒型防振装置にも適用可能である。
【0088】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す正面図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントの図3におけるII−II線断面図。
【図3】図1に示されたエンジンマウントの図2におけるIII−III線断面図。
【図4】図1に示されたエンジンマウントを構成する液封カセットを示す縦断面図。
【符号の説明】
【0090】
10:自動車用エンジンマウント,12:内筒金具,14:外筒金具,16:本体ゴム弾性体,18:マウント本体,20:液封カセット,22:切欠部,24:弾性当接部,26:弾性ストッパ,38:ハウジング金具,44:ストッパゴム,46:弾性ゴム壁,56:ダイヤフラム,60:流体封入領域,62:仕切部材,88:受圧室,90:平衡室,98:第一のオリフィス通路,102:第二のオリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材と該インナ軸部材の外周側に離隔配置したアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、振動伝達系を構成する一方の部材に該インナ軸部材が取り付けられると共に他方の部材に該アウタ筒部材が取り付けられることによって、かかる振動伝達系を構成する部材間に装着される筒型防振装置において、
筒状ハウジングの一方の開口部が弾性ゴム壁で閉塞されると共に、該筒状ハウジングの他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、それら弾性ゴム壁と可撓性膜の対向面間に非圧縮性流体が封入された流体室が形成されており、該流体室内に配設されて該流体室を二分する仕切部材が該筒状ハウジングで支持されて、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が該弾性ゴム壁で構成された主液室が形成されていると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された副液室が形成されて、それら主液室と副液室がオリフィス通路で相互に連通せしめられた構造の液封ユニットを備えており、
前記アウタ筒部材の周上には開口窓が形成されて、該アウタ筒部材に対して該液封ユニットの該筒状ハウジングが固着されることによって、該液封ユニットの該弾性ゴム壁が該アウタ筒部材の開口窓を通じて該インナ軸部材に当接されるようになっており、該インナ軸部材と該アウタ筒部材の間への軸直角方向の振動入力時に該液封ユニットの該弾性ゴム壁が該インナ軸部材で押圧されて弾性変形せしめられることにより該主液室に圧力変動が及ぼされるようになっていることを特徴とする筒型防振装置。
【請求項2】
前記インナ軸部材と前記筒状ハウジングの対向間には、それらインナ軸部材と筒状ハウジングの少なくとも一方の側から突出するストッパゴムが設けられている請求項1に記載の筒型防振装置。
【請求項3】
前記アウタ筒部材において径方向で対向位置する部分に前記開口窓の一対が形成されており、それら一対の開口窓の形成部位に対してそれぞれ前記液封ユニットが取り付けられている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項4】
振動伝達系を構成する一方の部材に前記インナ軸部材が取り付けられると共に、振動伝達系を構成する他方の部材に前記アウタ筒部材が取り付けられた装着状態下において、前記弾性ゴム壁が該インナ軸部材に対して圧縮状態で当接せしめられるようにした請求項1乃至3の何れか一項に記載の筒型防振装置。
【請求項5】
前記弾性ゴム壁が前記インナ軸部材に対して非接着で当接せしめられている請求項1乃至4の何れか一項に記載の筒型防振装置。
【請求項6】
前記インナ軸部材を挟んで前記弾性ゴム壁と反対側において、該インナ軸部材と前記アウタ筒部材の対向面間には、それらインナ軸部材とアウタ筒部材の少なくとも一方の側から突出する弾性ストッパが設けられている請求項1乃至5の何れか一項に記載の筒型防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−232220(P2008−232220A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70754(P2007−70754)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】