説明

結像素子の射出成形金型および結像素子の製造方法

【課題】
射出成形における成形サイクルタイムの短縮と、スプル詰まり現象の抑制に好適な金型とこれを用いた結像素子を得るための射出成形方法の提供。
【解決手段】
射出成形用ノズルからキャビティ内に溶融樹脂を注入する際に樹脂導入路となるスプルを形成するスプルブッシュを備え、前記スプルブッシュのキャビティ側の端面(D)は楕円形状の開口部を有し、かつ該楕円形状の長半径Daと短半径Dbの比Da/Dbが1.1≦Da/Db≦2.0であり、前記スプルの断面の最大短半径bmが2.5mm〜7.5mmである、結像素子の射出成形用金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形用金型およびこれを用いる結像素子の製造方法に関する。より詳しくは糸引き及びスプル詰まり現象の起こらない結像素子の射出成形用金型およびこの金型を用いた結像素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形用金型は、溶融樹脂の流路であるスプル部を有し、射出成形機のノズルから吐出された溶融樹脂が、このスプルおよびこれに続くランナを介して金型内のキャビティと呼ばれる空間に導入されて冷却されることにより成形品が製造される構造をしている。金型のスプル部は高温高圧の溶融樹脂が高速で流れる部分である為、摩耗が激しく、通常はスプルブッシュと呼ばれる部品を取り付け、交換可能としている例がある。
射出成形のプロセスは、溶融樹脂の充填、冷却、離形の三つのプロセスからなり、溶融樹脂の充填から離形までのプロセスを1サイクルとして、これを繰り返し行う。溶融樹脂の充填から離形までの1サイクルに要する時間をサイクルタイムと呼んでいる。
射出成形において、生産性を向上させるには、成形サイクルを短縮することが必要であり、中でも、冷却時間の短縮が重要な課題となっている。
冷却時間は成形時における金型温度と密接な関係があり、冷却時間の短縮の観点からは金型温度を低く設定する方が好ましいが、金型温度の低下と共に溶融樹脂の流動性が悪くなり、得られる生計品の残留歪や密度分布が生じ易くなるため、成形品の強度などの機械物性や複屈折などの光学特性の観点から、金型温度を低くすることは好ましくない。
一方、成形時における金型温度を高くすると、スプル部に残存する溶融樹脂の冷却不足に起因して、型開時に成形品のスプル部からスプルの射出成形用ノズルの間に溶融樹脂が糸を引く、糸引きと呼ばれる成形不具合が生じやすくなる。
「糸引き」という現象は、冷却固化した樹脂成形品を金型から取り出す際にスプルの先から細い糸状の樹脂が付着した状態を言う。スプルの先端は金型および射出成形機のノズル部の熱の影響を受けて樹脂が十分に冷却されにくく、成形品を金型から取り出す際に、十分固化していない樹脂がスプル先端に存在すると、その部分がひっぱられることによって「糸引き」という現象が起こる。
糸引きが起こると製品に糸状の樹脂が付着し不良品が発生したり、特に自動取り出し装置を用いて成形する場合は、糸状の樹脂が金型に残るため成形が停止したり、金型を破損する場合もある。
糸引きは冷却時間を長くすることで解決可能であるが、これによって成形サイクルタイムは長くなり生産性は低下してしまう。
そこで上記問題点を解決する為に様々な提案がなされてきた。
【0003】
たとえば、特許文献1および2には、スプルブッシュの樹脂導入口に仕切り板を設けて冷却を早め、スプルとノズルとの間に起きる糸引きを抑える方法が開示されている。
また、特許文献3には熱伝導率の高いスプルブッシュにすることで、ノズル部の樹脂を冷却して糸引きを抑える方法が開示されている。
また、特許文献4には射出成形機のノズル先端部に良熱伝導性の口金を取り付けて、ノズル側の樹脂を冷却して糸引きを抑える方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−246649号公報
【特許文献2】特開2003−154552号公報
【特許文献3】特開2007−83462号公報
【特許文献4】特開2002−347075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1または2に記載された方法のように、スプルブッシュの樹脂導入口に仕切り板を設けたり、シリンダの内径を小さくした構成にすると、射出圧が上がり易くなってしまい、成形品に残留応力や密度分布が生じやすくなり、その結果、成形品の機械物性や光学特性が悪化することがあった。
また、本発明者の検討によると、上記特許文献3や特許文献4に記載の方法を適用して、金型温度を上げて射出成形を行った場合、糸引き防止には効果がある反面、スプル詰まりと呼ばれる現象が起こりやすい状況になることがわかった。また、特許文献3に記載のスプルブッシュは、導光板などの薄肉で、且つ複屈折性が問題とならない成形品を得る金型に対しては効果があるものの、肉厚で、且つ複屈折性低減の観点から高温での成形が要求されるレンズやプリズムなどの結像素子用の金型に対してはスプル詰まり防止効果が不十分であった。
特許文献4に記載された良熱伝導性の口金は、ノズルのように樹脂の溶融温度近傍で動作する部位に用いると、溶融状態に近い樹脂を糸引きが起きない程度に冷却することができるものの、金型のようにガラス転移温度以下で動作する部位に用いた場合は、固化状態の樹脂をスプル詰まりを起こさず、且つ成形品に複屈折を発現することなく冷却することは困難であった。
「スプル詰まり」という現象は、スプルブッシュ内で固化した樹脂がスプルブッシュの途中やランナ部等で折れて、スプルブッシュ内に詰まる現象を指す。金型を開くと、射出成形品は可動側の金型にもっていかれるように設計されており、その際にスプルブッシュから固化した樹脂が抜き取られるが、樹脂が抜き取られる離型抵抗に比べて射出成形品の強度が低い場合、スプルとランナの接続部やスプルの途中で樹脂が折れて樹脂がスプルブッシュ内に残ってしまう。このようにスプルがスプルブッシュ内に詰まると連続成形が不可能となるため著しく生産性を悪化させてしまう。
従って、本発明の目的は、肉厚の結像素子の成形に際し、糸引きおよびスプル詰まり現象の抑制による成形サイクルタイムの短縮に好適な金型と、この金型を用いる結像素子の射出成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、金型に用いるスプルブッシュの開口部の形状に着目し、スプルブッシュのキャビティ側に位置する端面の開口部の形状を所定の短半径/長半径比の楕円形状とし、かつスプルブッシュの全長における短半径の最大値を所定の値にすることによって、成形品の糸引きおよびスプル詰まりを抑制できることがわかった。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の結像素子の射出成形用金型によれば、冷却効率の高いスプルブッシュが用いられている為、射出成形時にスプルの冷却硬化速度が早く、スプル詰まりおよび糸引き現象が起き難く、これによって射出成形のサイクルタイムを短縮でき、光学特性に優れる結像素子の生産性を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施する為の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
図1は従来の金型を用いて行われる射出成形、図2は本発明に係る金型、図3は本発明に係る金型を用いる射出成形の一形態を示す図である。
金型1は固定型2と移動型3から構成されており、成形は可動型3を固定型2に接合した状態で、接合部分に形成されるキャビティ4と呼ばれる空間に溶融樹脂を充填することにより行う。キャビティ4への樹脂の充填は、固定型2に設けられた樹脂導入路であるスプル5へ、射出成形用ノズル9を用いて、樹脂を注入することにより行う。スプル5より注入された溶融樹脂は、例えば一組の金型で一度に複数個の成形品を得る場合には、更にランナー6と呼ばれる溶融樹脂の流路に枝分かれした後キャビティ4へ導入される。
キャビティ4に導入された溶融樹脂は金型により冷却され固化する。固化後、移動型3は固定型2より分離され(図1の状態)、成形品12となる結像素子が押し出されてキャビティ4から取り出される。
スプル5はスプルブッシュ7と呼ばれるスプルの磨耗・変形を防止するための部品が交換可能な形で装着され構成されている。
【0011】
本発明の結像素子の射出成形用金型は、射出成形用ノズルからキャビテイ内へ溶融樹脂を注入する際に樹脂導入部となるスプルを形成するスプルブッシュを備え、前記スプルブッシュのキャビティ側の端面(D)は楕円形状の断面を有し、かつ該楕円形状の長半径Daと短半径Dbの比Da/Dbが1.1≦Da/Db≦2.0であり、前記スプルの断面の最大短半径bmが、2.5mm〜7.5mmである。
【0012】
図4に本発明の金型に用いられるスプルブッシュの一例を示す。スプルブッシュのキャビティ側の端面(D)が楕円形状の開口部を有するとは、溶融樹脂の流路を軸として、これに直交する面でスプルブッシュを切断した時、スプルブッシュのキャビティ側端面(D)とノズル側端面(S)の間においてキャビティ側に最も近い位置の断面の開口部が楕円であることを指す。
【0013】
スプルブッシュのキャビティ側の開口部の長半径Daと短半径Dbの比Da/Dbは、好ましくは、1.1≦Da/Db≦1.8であり、より好ましくは1.3≦Da/Db≦1.7である。Da/Dbがこれ以上であると、成形に必要な樹脂量が増えるため、生産効率上好ましくない。Da/Dbがこれ以下であると、スプルブッシュ内で固化した樹脂をスプルブッシュから抜き取る時の離型抵抗が増すため、スプル詰まりを起こしやすくなる傾向がある
【0014】
スプルの断面の最大短半径bmは、スプルブッシュのキャビティ側端面(D)からノズル側端面(S)の距離をスプルブッシュの全長Lとし、溶融樹脂の流路を軸として、これに直交する面でスプルブッシュを切断した時、全長Lの間でスプル断面の面積が最大となる位置の短半径を指す。
【0015】
前記スプルブッシュの全長Lにおける開口部の最大短半径bmは、2.0〜7.5mmであり、より好ましくは、4.0〜6.0mmである。bmがこれ以上であると、冷却に要する時間が長くなり、また投入する樹脂量が増え、生産性が悪化する傾向がある。bmがこれ以下であると、成形に要する射出圧力が高くなり、複屈折性が増加する傾向がある。
【0016】
スプルブッシュの全長Lに対するキャビティ側端面(D)の開口部の短半径Dbの比Db/Lは、1/100〜1/10程度が好ましい。スプルブッシュの全長に対するキャビティ側端面(D)の開口部の短半径の比がこの範囲にあることで、容易に成形品を金型から抜くことができる。Db/Lがこれ以下であると、離型抵抗が増し、また断面積も小さくなるためスプル部で成形品が折れ、スプル詰まりが起こりやすくなる。Db/Lがこれ以上であると、離型性は著しく向上する反面、断面積が増えるため冷却時間が長くなりサイクルタイムが長くなる傾向がある。また成形に必要となる樹脂量も増えるため生産効率の点で好ましくない。
【0017】
スプルの断面積は、射出成形用ノズル側からキャビティ側に向かって拡がっていることが好ましい。また、射出成形用ノズル側端面(S)とキャビティ側端面(D)との間における断面開口部の形状は楕円であることが好ましい。射出成形用ノズル側端面(S)とキャビティ側端面(D)との間における断面開口部の長半径aと短半径bの比a/bは、Da/Dbと等しくても異なっていてもよい。
【0018】
スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面(S)の開口部の形状は真円であっても楕円であってもよいが、溶融樹脂の滞留を防ぐ観点から真円にできる限り近いことが好ましい。ここで真円とは、スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面(S)の開口部の長半径、短半径をそれぞれSa、Sbとした時、長半径/短半径の比Sa/Sbが1.0≦Sa/Sb≦1.05の範囲にあるものを指す。
スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面(S)の開口部の半径は、好ましくは0.5〜5.0mm、より好ましくは1.0〜3.0mmである。スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面の開口部(S)の半径がこれ以上であると、スプルが太くなり樹脂の冷却速度が遅くなる傾向がある。逆に、スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面の開口部(S)の半径が小さすぎると、溶融樹脂の流れが悪くなり、キャビティへの溶融樹脂の充填不良が生じる傾向がある。ノズルからの射出圧力を大きくしなければならなかったり、スプルブッシュの摩耗が起こりやすくなる。
【0019】
更に、スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面の開口部(S)の半径Sbはノズル先端部の射出口の直径より0.05〜1.0mm大きくすることが好ましい。スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面の開口部(S)の半径をノズル先端の半径より大きくすることで、射出成形ノズルから射出された高圧の溶融樹脂が、スプル側に流通し易くなり、外部に漏れにくくすることが可能となる。
【0020】
スプルブッシュはスプルブッシュのキャビティ側の端面(D)の開口部の長半径Daがランナの流動方向と平行になるようにスプルに設置することが好ましい。長半径をランナの流動方向と垂直になるように設置すると樹脂の流れが悪くなり、結像素子の光学特性が悪化する傾向がある。
【0021】
スプルブッシュを構成する材料は熱伝導率が大きいものであれば特に制限が無いが、熱伝導率35W/m・K以上である材料であることが好ましく、さらに好ましくは100W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導率の高いスプルブッシュを用いることで冷却時間が短縮されることに加え、金型温度の安定化に効果があるため、成形品のバラツキを抑制することができる。
【0022】
熱伝導率が35W/m・K以上である材料の具体的な例としては、ベリリウム銅などの銅合金、銅、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、強靭鋳鉄、亜鉛合金、モリブデン合金、マグネシウム合金が挙げられる。スプルブッシュを構成する材料は、用いる樹脂、サイクルタイムなどの射出成形条件、要求する耐久性、スプルの形状等との兼ね合いで適宜選択すればよいが、中でも、熱伝導率の高さから、ニッケル、ニッケル合金、ベリリウム銅などの銅合金が好ましく、ベリリウム銅合金がより好ましい。
【0023】
本発明の金型には、金型の温度を一定に保持する目的で、金型内部に温調配管を設けてもよい。温調配管は、金型の温度を調節する為の液体を通す流路である。本発明において、スプルブッシュと温調配管との距離は50mm以下とすることが好ましい。
【0024】
本発明の金型は、結像素子の成形に用いられる。
結像素子は、該素子に入射する光束の向きを該素子内で変換した後、該素子より出射光束として取り出すことにより、入射光束が持つ光情報の伝達を行う素子である。
結像素子の具体例としては、カメラレンズ、コリメーターレンズ、ピックアップレンズ、フレネルレンズ、プロジェクターレンズ、fθレンズ、ペンタプリズム、ダイクロックプリズム、ポリゴンプリズム、ビームスプリッタ等が挙げられる。
【0025】
本発明の金型は、最大厚みが5mm以上である結像素子の製造に好適に用いられる。最大厚みとは、光束が入射する面を基準として測定した結像素子の高さの最大値である。
【0026】
本発明の金型は、光束として波長380〜660nmのレーザー光を使用する光学機器に用いられる結像素子の製造に好適である。
【0027】
光学機器としては、コンパクトディスクプレーヤー(CD)やデジタルビデオディスクプレーヤー(DVD)等が挙げられる。本発明の金型は、波長が380〜660nmのレーザー光を使用して読み・書きを行うピックアップレンズの成形に好適であり、380〜450nmの範囲のレーザー光を使用して読み・書きを行うピックアップレンズの成形により好適に用いられる。
本発明の金型を用いて成形された結像素子を、光学機器のピックアップレンズとして用いた場合には、データの記録時及び読み出し時のビットエラーレートを小さくすることができる。
【0028】
本発明の金型を用いる結像素子の製造方法においては、加熱シリンダー部、射出成形用ノズルを備えた射出成形機を用い、樹脂を前記加熱シリンダー部において溶融樹脂とし、前記溶融樹脂を射出成形用ノズルの先端から吐出させ、前述の本発明の結像素子の射出成形用金型に注入する。
【0029】
本発明の結像素子の射出成形用金型を用いた、成形方法の一態様を図を用いて説明する。
射出成形機は、図3に示すように成形品の素材となる樹脂を溶融混練するスクリュー付きの加熱シリンダ部7と、溶融混練された樹脂をその先端から射出するノズル8とを備え付けた射出成形機本体に、成形品を形成する金型1が取り付けられた構造をしている。
【0030】
加熱シリンダー7において、樹脂を加熱し溶融させる。シリンダ内における樹脂温度は、用いる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg+100)℃以上、(Tg+300)℃以下とするのが好ましい。加熱シリンダーは従来公知のものを使用することができる。
【0031】
溶融樹脂はノズル8より射出され、スプルより注入される。ノズルの温度は、溶融樹脂の温度に対して、5〜100℃低いことが好ましく、溶融樹脂の温度に対して、10〜30℃低いことがより好ましい。ノズルの温度がこれ以上であると、糸引きを起す傾向があり、ノズルの温度がこれ以下であると成形品に外観不良が発生する傾向がある。
【0032】
金型の温度は、ガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg−20)℃以上、Tg℃以下であることがより好ましい。金型の温度がこれ以上であると、冷却時間が長くなり、生産性が低下したり、ヒケ等の外観不良が発生する傾向がある。金型の温度がこれ以下であると、転写性が悪化する傾向がある。
【0033】
射出成形用ノズルをスプルブッシュの開口部に押し当てた状態で、溶融した樹脂を金型内へ射出する。ノズルの温度、射出速度、射出圧力は適宜設定することができる。射出成形用ノズルは従来公知のものを使用することができる。
【0034】
本発明に用いることのできる樹脂としては、透明性の高い熱可塑性樹脂であれば特に制限されず、具体的には、脂環式構造を有する樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性、低複屈折性、流動性の観点から脂環式構造を有する樹脂が好ましい。
【0035】
脂環式構造を有する樹脂は、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有する樹脂である。
脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などを挙げることができる。機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械的強度、耐熱性や、結像素子の成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式構造を有する樹脂の具体例としては、
(1)ノルボルネン系単量体の開環重合体及びノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体、並びにこれらの水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体及びノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体などのノルボルネン系重合体、
(2)単環の環状オレフィン系重合体及びその水素添加物、
(3)環状共役ジエン系重合体及びその水素添加物、
(4)ビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びビニル脂環式炭化水素系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との共重合体、並びにこれらの水素添加物、ビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環の水素添加物及びビニル芳香族単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との共重合体の芳香環の水素添加物などのビニル脂環式炭化水素系重合体、などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体が特に好ましい。
このようなノルボルネン系重合体としては、具体的には特開平5−279554号公報に記載されている開環重合体およびその水素添加物、特開2004−067985号公報に記載のメタクリル基を側鎖にもつノルボルネン誘導体をメタロセン触媒等で開環重合させた後、水素化して得られる重合体、特開2001−26693号公報に記載されるエチレンと環状オレフィンの共重合体が挙げられる。
また、日本ゼオン社製のゼオネックス(ZEONEX;登録商標)、JSR社製のアートン(ARTON;登録商標)、三井化学製のアペル(APEL;登録商標)等の市販品を使用してもよい。
【0036】
本発明に用いる樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。配合量は、結像素子の用途に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
上述した本発明の金型を備えた射出成形機により樹脂を定法に従って射出成形すれば、容易に射出成形品が製造できる。この金型を用いるとスプル側の冷却硬化が早く、金型温度を高くしても、スプルとノズル先端部における樹脂の糸引きやスプル詰まりがほとんど起こらない為、強度が比較的低い樹脂を用い、且つ金型温度を高めに設定して射出成形するような場合に好適である。
【実施例】
【0038】
実施例により本発明の金型および成形品の製造方法について、更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
【0039】
(スプル詰まり評価)
成形条件を変えずに20回の連続成形を各冷却時間毎に行い、スプル詰まりの有無を目視で確認した。
A:いずれの冷却時間でもスプル詰まりは確認されない。
B:冷却時間100秒及び120秒でスプル詰まりは確認されない。冷却時間80秒でスプル詰まりが一回以上。
C:冷却時間120秒でスプル詰まりは確認されない。冷却時間100秒でスプル詰まりが一回以上。
D:冷却時間120秒でスプル詰まりが一回以上。
【0040】
(糸引き)
成形品を冷却後、ノズルを後退させ、樹脂スプルとノズルとの間に糸引きが見られるかどうか目視で確認した。
A:いずれの冷却時間でも糸引きは確認されない。
B:冷却時間100秒及び120秒で糸引きは確認されない。冷却時間80秒で糸引きが確認される。
C:冷却時間120秒で糸引きは確認されない。冷却時間100秒で糸引きが確認される。
D:冷却時間120秒で糸引きが確認される。
【0041】
(複屈折性)
複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−CCD/X)を用いて波長650nmにおけるレタデーションを測定した。同様の測定を成形品の長さ方向に10mmピッチで測定し、平均値を算出し以下の基準で判定した。
○:レタデーションが150nm未満。
×:レタデーションが150nm以上。
【0042】
(実施例1)
下記の成形機を用いて成形を行った。
射出成形機:FANUC社製100tタイプ(スクリュ形状φ32mm)
金型:6mm厚み(80mm長さ×15mm幅×6mm厚み)短冊成形用金型
スプルブッシュ:図4に示すような、楕円円錐状(スカート状)に連続的に拡がった形状のものを用いた。
ノズル側形状(S):真円、Sb2.1mm。
キャビティ側形状(D):楕円、Da/Dbは1.4(長半径6.75mm、短半径4.9mm。開口部の短半径の最大値は4.9mm)。
材質:SUS420J(熱伝導率30W/m・k)。
樹脂として、ZEONEX E48R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体の水素添加物、ガラス転移温度138℃)を成形機に投入し、280℃に加熱した溶融樹脂を、射出速度10mm/秒、射出圧力60MPaの条件で、130℃に保持された金型へ充填し成形を行った。そして、120秒間冷却した後、金型から成形品を取り出し、スプル詰まり及び糸引き発生の有無を確認した。その後、得られた成形品の複屈折性を評価した。
また、同様の成形を、冷却時間のみを100秒および80秒に変更した場合のそれぞれについて行い、スプル詰まり及び糸引き発生の有無について確認した。
評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
実施例1において、スプルブッシュを、同一形状でニッケル製(熱伝導率80W/m・k)のスプルブッシュに変更した以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
実施例2において、スプルブッシュを、Da/Dbが1.6(長半径8.0mm、短半径4.9mm。スプル断面の短半径の最大値は4.9mm)のスプルブッシュに代えた以外は実施例2と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
実施例1において、スプルブッシュを、同一形状でベリリウム銅合金製(熱伝導率140W/m・k)のスプルブッシュに変更した以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示した。
【0046】
(実施例5)
実施例1において、 ZEONEX E48Rに代えて、APEL 5014DP(三井化学社製ノルボルネン系付加重合体、ガラス転移温度135℃)を用い、射出速度を30mm/秒とした以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、スプルブッシュを長半径と短半径の比が1.0(長半径と短半径が共に4.9mm)スプルブッシュとした以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
実施例4において、スプルブッシュをDa/Dbが2.4であるスプルブッシュ(長半径120mm、短半径4.9mm。開口部の短半径の最大値は4.9mm)のスプルブッシュとした以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
実施例1において、スプルブッシュをDa/Dbが1.4であるスプルブッシュ(短半径が2.0mm、長半径2.8mm)とした以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0050】
(比較例4)
実施例1において、スプルブッシュをDa/Dbが1.4であるスプルブッシュ(短半径が8.0mm、長半径11.0mm)とした以外は実施例1と同様にして成形を行った。
評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

以上のように、本願が規定する形状のスプルブッシュを備える金型を用いた成形では、実施例1〜4にあるように、糸引きおよびスプル詰まりをおこすことなく成形を行うことができることがわかる。
これに対し、スプルブッシュのキャビティ側の端面の開口部の長半径/短半径比が本願の規定から外れるか、スプル断面の短半径の最大が本願の規定に満たないスプルブッシュを備える金型を用いた成形では、比較例1および2から判るようにスプル詰まりが発生すると共に得られる成形品の複屈折が大きくなることがわかり、スプル断面の短半径の最大が本願の規定を超えるスプルブッシュを用いた場合にはスプル詰まりおよび糸引きが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、従来の金型を用いて行われる射出成形法を模したものである。
【図2】図2は、本発明に係る金型である。
【図3】図3は、本発明に係る金型を用いて行われる射出成形法を模したものである。
【図4】図4は、スプルブッシュの断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1:金型
2:固定型
3:移動型
4:キャビティ
5:スプル
6:ランナー
7:スプルブッシュ
8:シリンダー
9:ノズル
10:スプル詰まり
11:糸引き
12:成形品
13:スプルブッシュ
14:キャビティ側端面開口部の長半径 Da
15:キャビティ側端面開口部の短半径 Db
16:スプル断面の最大短半径 bm
17:ノズル側端面開口部の半径 Sb
18:スプルブッシュ全長 L

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形用ノズルからキャビティ内に溶融樹脂を注入する際に樹脂導入路となるスプルを形成するスプルブッシュを備え、前記スプルブッシュのキャビティ側の端面(D)は楕円形状の開口部を有し、かつ該楕円形状の長半径Daと短半径Dbの比Da/Dbが1.1≦Da/Db≦2.0であり、前記スプルの断面の最大短半径bmが2.5mm〜7.5mmである、結像素子の射出成形用金型。
【請求項2】
スプルブッシュが、熱伝導率が35W/m・K以上の材質からなる請求項1に記載の結像素子の射出成形用金型
【請求項3】
スプルブッシュの射出成形用ノズル側端面の開口部の形状が、半径Sb0.5〜5.0mmの真円である請求項1または2に記載の結像素子の射出成形用金型。
【請求項4】
加熱シリンダー部、射出成形用ノズルを備えた射出成形機を用い、樹脂を加熱シリンダー部により溶融樹脂とし、前記溶融樹脂を請求項3に記載の結像素子の射出成形用金型を用いて射出成形する結像素子の製造方法。
【請求項5】
前記射出成形時の金型温度Yが、樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して(Tg−20)≦Y<Tgの範囲にある請求項4に記載の結像素子の製造方法。
【請求項6】
樹脂が、脂環式構造を有する樹脂である請求項4または5に記載の結像素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233943(P2009−233943A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80860(P2008−80860)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】