説明

繊維強化合成樹脂パイプ

【課題】優れた強度を有しながらも安価で作業性に優れた繊維強化合成樹脂パイプの提供を課題としている。
【解決手段】筒形状を有し、繊維と該繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている繊維強化樹脂層を前記筒形状の周方向に積層させて複数有する繊維強化合成樹脂パイプであって、前記繊維強化樹脂層として、ガラス繊維と該ガラス繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されているガラス繊維強化樹脂層と、有機材料が用いられてなる有機不織布と該有機不織布に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている有機不織布層とを有し、該有機不織布層が繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に備えられていることを特徴とする繊維強化合成樹脂パイプを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化合成樹脂パイプに関し、特に、内周側から外周側への積層構造が形成された繊維強化合成樹脂パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂を繊維で強化した繊維強化合成樹脂(以下「FRP」ともいう)は、合成樹脂の軽量さと、繊維による強靭さとを併せ持つことから種々の用途に用いられている。
このFRPにおいては、繊維方向と並行する方向に加えられた力に対して特に繊維の補強作用が高く発揮されることとなる。
そのため、繊維強化合成樹脂板(FRP板)や繊維強化合成樹脂パイプ(FRPパイプ)においては、繊維方向を複数方向とすべく、繊維が適当な長さにカットされシート化された不織布や織布に樹脂が含浸されて形成されたものが用いられたり、あるいは繊維方向が一方向に合成樹脂中に備えられている繊維強化樹脂層を複数積層させ、しかも、互いの繊維方向を交差させるように積層させて、全体として繊維が縦横に交差している状態となるように形成されたものが用いられたりしている。
また、従来、FRP板やFRPパイプは、不織布や織布が用いられてなる繊維強化樹脂層と繊維が一方向に用いられてなる繊維強化樹脂層とが積層されて形成されたりもしている。
【0003】
また、このようなFRPに用いられる繊維としては、連続した一方向に引き揃えられた繊維としてガラスロービングやガラスヤーンを使用でき、不織布(マット)または織布(クロス)繊維として、ガラスマット(ストランドを適当な長さにカットし、それを不織布状にプレスしたもの)、ガラスクロス(ガラスヤーンを製織した布)、ガラスロービングクロス(ガラスロービングを製織した布)などが用いられたりしている。また、これらのガラス繊維に代えて、炭素繊維材やアラミド繊維材が用いられたりもしている。
なかでも、ガラス繊維は、安価で補強効果が高いことから広く用いられている。
【0004】
ところで、FRPパイプでは、ガラスロービングなどの連続した繊維にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させてマンドレルと呼ばれる芯体の上に巻き重ねたものを、このマンドレルごと加熱炉に入れて熱硬化性樹脂を硬化させた後に、マンドレルを取り除くフィラメントワインディング法と呼ばれる方法や、ガラス不織布やガラスマットなどのシート状に形成された繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたものをマンドレルに巻きつけて上記と同様に熱硬化させるシートワインディング法、マンドレルの一端部側において熱硬化性樹脂を含浸させたガラスロービングやガラスマットを巻きつけて筒形状に形成させ、この筒形状に形成されたものをマンドレルの他端側に配された加熱炉を通過させて引き抜くなどして連続的に熱硬化されたパイプを製造する連続引き抜き法や連続引き抜きフィラメントワインディング法などの方法が用いられて形成されている。
【0005】
下記特許文献1には、連続引き抜きフィラメントワインディング法により、内周側から外周側への五層の積層構造(特許文献1の図1参照)が形成された繊維強化合成樹脂パイプをケーブル保護管に用いることが記載されている。この特許文献1のFRPパイプは、最内層側にFRPパイプの長手方向に沿って繊維を延在させた繊維強化樹脂層である縦方向繊維層が形成され、その外周側に、連続した繊維がFRPパイプの円周方向にスパイラル状に巻回された繊維強化樹脂層である横巻繊維層が積層されてこの縦方向繊維層と横巻繊維層とで繊維方向を直交させている。また、この横巻繊維層の外周側に、さらに縦方向繊維層、マットまたはクロス繊維層、表面層の三層が積層されて前述のように五層の積層構造に形成されている。
従来、このようなFRPパイプには、より高い強度に形成されることが求められており、繊維強化樹脂層の樹脂や繊維の材質や、繊維強化樹脂層の積層構造などについて種々の検討がなされている。
このことに対し、上記のようにガラス繊維を用いることでFRPパイプのコストアップを抑制しつつ強度向上を図ることができる。しかし、ガラス繊維を用いるとFRPパイプを取り扱う作業者がガラス繊維で怪我をしたり、怪我には到らないまでもガラス繊維によるチクチクとした不快な刺激を受けたりするおそれを有している。したがって、このことを防止すべく厳重な保護具を着用しなければならず、取り扱い作業の作業性が低下してしまうという問題を有している。
すなわち、従来のFRPパイプにおいては、優れた強度を有しながらも安価で作業性に優れたものを得ることが困難であるという問題を有している。
【0006】
【特許文献1】特開平10−336839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた強度を有しながらも安価で作業性に優れた繊維強化合成樹脂パイプの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、繊維強化合成樹脂パイプの積層構造の構成に着目して鋭意検討を行った結果、所定の位置に有機材料が用いられた有機不織布と該有機不織布に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている有機不織布層を備えさせることによりガラス繊維を用いながらも繊維強化合成樹脂パイプを作業性に優れたものとさせ得ることを見出し本発明の完成に到ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、筒形状を有し、繊維と該繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている繊維強化樹脂層を前記筒形状の周方向に積層させて複数有する繊維強化合成樹脂パイプであって、前記繊維強化樹脂層として、ガラス繊維と該ガラス繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されているガラス繊維強化樹脂層と、有機材料が用いられてなる有機不織布と該有機不織布に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている有機不織布層とを有し、該有機不織布層が繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に備えられていることを特徴とする繊維強化合成樹脂パイプを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維強化樹脂層として、ガラス繊維と該ガラス繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されているガラス繊維強化樹脂層が備えられていることから、繊維強化合成樹脂パイプを安価で優れた強度とさせ得る。しかも、有機材料が用いられてなる有機不織布と該有機不織布に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている有機不織布層が繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に備えられていることから繊維強化合成樹脂パイプの内面側にガラス繊維が露出することを防止でき、繊維強化合成樹脂パイプを取り扱う作業者がガラス繊維で怪我をしたり不快な刺激を受けたりすることを抑制させることができ、繊維強化合成樹脂パイプの取り扱いを容易なものとし得る。
すなわち、繊維強化合成樹脂パイプを、優れた強度を有しながらも安価で作業性に優れたものとさせ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
本実施形態における繊維強化合成樹脂パイプ10は、繊維と該繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている繊維強化樹脂層が内周側から外周側に向かって六層積層されて形成された筒形状を有している。
【0011】
この六層の内、繊維強化合成樹脂パイプ10の最内層と最外層には有機材料が用いられてなる有機不織布が用いられて形成された繊維強化樹脂層である有機不織布層1,6が備えられており、内周側の有機不織布層1(以下「内周側不織布層」ともいう)の外周側で内周側不織布層1に接する層にはガラスクロスが用いられて形成された繊維強化樹脂層であるガラスクロス層2が備えられている。
このガラスクロス層2の外周側の次層の繊維強化樹脂層は、連続した繊維が繊維強化合成樹脂パイプの筒形状に沿ってスパイラル状に巻回されて形成されている横巻繊維層(内周側低角横巻繊維層)3であり、該横巻繊維層3の外周側には連続した繊維を繊維強化合成樹脂パイプの長手方向に沿って延在させて形成された繊維強化樹脂層である縦方向繊維層4が備えられている。
またこの縦方向繊維層4の外周側には、連続した繊維が筒形状に沿ってスパイラル状に巻回されて形成されている横巻繊維層(外周側低角横巻繊維層)5が備えられており、この横巻繊維層5の外周側に前記有機不織布層6(以下「外周側不織布層」ともいう)が備えられている。
すなわち、繊維強化合成樹脂パイプ10は、内周側から、有機不織布層1(内周側不織布層1)、ガラスクロス層2、横巻繊維層3(内周側低角横巻繊維層3)、縦方向繊維層4、横巻繊維層5(外周側低角横巻き繊維層5)、有機不織布層6(外周側不織布層6)の順に六層の繊維強化樹脂層が備えられている。
【0012】
前記内周側不織布層1と前記外周側不織布層6とは、互いに同じ材料かあるいは異なった材料を用いて形成することができ、例えば、両者にガラス繊維などの無機繊維ではなく両者にガラス繊維などの無機繊維ではなくポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンなどの有機材料が用いられた有機不織布を用いる。
なお、この有機不織布には、本発明の効果を損ねない範囲においては顔料やフィラーなどの微量の無機材料が含有されていてもよい。
前記内周側不織布層1は、通常、繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して0.5〜5%の厚さに形成され、前記外周側不織布層6は、通常、繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して0.5〜5%の厚さに形成される。
なお、ガラス繊維が内周面に露出するおそれをより確実に防止させ得る点からは、この
内周側不織布層1は、0.1mm以上の厚さに形成させることが好ましい。
また、ガラス繊維が外周面に露出するおそれをより確実に防止させ得る点からは、この
外周側不織布層6は、0.1mm以上の厚さに形成させることが好ましい。
この内周側不織布層1、外周側不織布層6に含浸させる樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂あるいはエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができ、これらの熱硬化性樹脂は、メラミン変性やゴム変性などの各種の変性がされたものであってもよい。
【0013】
前記ガラスクロス層2のガラスクロスには、例えば、ガラスヤーンを製織したものや、ガラスロービングを製織したガラスロービングクロスなどとも呼ばれるものなどを使用することができ、通常、繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して0.5〜10%の厚さに形成される。
このガラスクロス層に含浸させる樹脂も、前記内周側不織布層1に含浸させる樹脂と同様に、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂あるいはそれらの変性樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0014】
前記横巻繊維層3,5は、いずれもスパイラル状に巻回されている繊維が10度以下の低角度で巻回されている低角横巻繊維層である。
この繊維の巻回される角度とは、本明細書中においては、繊維強化合成樹脂パイプ10の断面方向とスパイラル状に巻きつけられている繊維の巻き付け方向とがなす角度を意図しており、繊維強化合成樹脂パイプ10を水平に配置して側方から観察した場合に、繊維強化合成樹脂パイプ10上端部での繊維の位置と下端部での繊維の位置とを結んだ直線と垂直線とがなす角度を測定することにより求めることができる角度を意図している。
【0015】
この内周側低角横巻繊維層3および外周側低角横巻繊維層5も互いに同じ材料あるいは異なった材料を用いて形成することができ、使用される繊維は、一般に繊維強化合成樹脂パイプに用いられる繊維を使用することができる。このような繊維としては、たとえば、ガラス繊維、カーボン繊維、珪素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、金属ウイスカなどが挙げられる。これらの繊維は、好ましくは、ロービングなどの連続繊維として使用される。ロービングとして使用する場合には、その太さが、280〜16000TEX(g/km)であることが好ましい。280TEX(g/km)未満、すなわち細過ぎると、フィラメントワインディング法によって巻回するときに、厚みが出ずに時間がかかって生産性が低下する場合がある。また、16000TEX(g/km)を越える、すなわち太過ぎると、樹脂にクラックが発生する場合がある。生産性と作業性を考えると、ガラス繊維の場合は1100〜9600TEX(g/km)が望ましい。
これらのうち、好ましくは、ガラス繊維が挙げられ、より具体的には、ガラスロービングが好ましい。ガラスロービングを使用することにより、強度の向上を図りつつ、コストの低減を図ることができる。
【0016】
この内周側低角横巻繊維層3および外周側低角横巻繊維層5の繊維に含浸させる樹脂も、前記内周側不織布層1に含浸させる樹脂と同様に、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂あるいはそれらの変性樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができ、この内周側低角横巻繊維層3の厚さは、通常、繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して5〜50%とされ、外周側低角横巻繊維層5の厚さは繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して5〜50%とされる。
【0017】
この内周側低角横巻繊維層3と外周側低角横巻繊維層5との厚さは、繊維強化合成樹脂パイプ10に外力に対する優れた強度を発揮させ得る点において、それぞれ繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して35%以上の厚さに形成されていることが好ましい。
また、繊維強化合成樹脂パイプに外側から加えられた力に対する反発力を外周側低角横巻繊維層と内周側低角横巻繊維層とにバランスよく配分させることができ、繊維強化合成樹脂パイプ10の強度を低下させてしまうというおそれを抑制させ得る点において、これらの内周側低角横巻繊維層3と外周側低角横巻繊維層5とに用いられる繊維強化合成樹脂パイプ10の単位長さあたりのガラス繊維量は、(内周側低角横巻繊維層のガラス繊維量:外周側低角横巻繊維層のガラス繊維量)が10:90〜90:10(重量比)とされることが好ましい。
【0018】
前記縦方向繊維層4の繊維も内周側低角横巻繊維層3に用いた繊維と同様に、例えば、ガラスロービングやガラスヤーンなどの引き束ねられた連続したガラス繊維を使用でき、縦方向繊維層4にはこれらのガラス繊維が繊維強化合成樹脂パイプ10の長手方向に縦添えされた状態で備えられている。
この縦方向繊維層4の繊維に含浸させる樹脂も、前記内周側不織布層1に含浸させる樹脂と同様に、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂あるいはそれらの変性樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができ、この縦方向繊維層4の厚さは、通常、繊維強化合成樹脂パイプ10全体の厚さに対して5〜50%とされる。
なお、この縦方向繊維層4は、繊維強化合成樹脂パイプ10に外側から加えられた力を外周側低角横巻繊維層5の内周側で十分に周方向に分散させて内周側低角横巻繊維層3に伝達させることができ、外周側低角横巻繊維層5と内周側低角横巻繊維層3とにおける応力集中を十分抑制させ得る点において繊維強化合成樹脂パイプ10の全体厚さの10%以上の厚さに形成されていることが好ましい。
【0019】
次いで、有機不織布、ガラスクロス、ガラスロービングが用いられて内周側不織布層1、ガラスクロス層2、内周側低角横巻繊維層3、縦方向繊維層4、外周側低角横巻き繊維層5、外周側不織布層6の六層の繊維強化樹脂層が形成されている繊維強化合成樹脂パイプ10の製造方法について説明する。
前記繊維強化合成樹脂パイプ10は、通常、連続引き抜きフィラメントワインディング法により製造され、図2に示すように、マンドレル20の一端部側において未硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させたガラスロービングやガラスクロス、あるいは、ガラス不織布などによりマンドレル20上に筒形状の積層体X1を形成し、該積層体を加熱金型30に導入して該加熱金型20により成形するとともに熱硬化性樹脂の加熱硬化を行い、該加熱硬化された積層体X2を引取りロール40により引き取りつつ定尺カッター50で定尺切断させる。
【0020】
なお、このとき用いる加熱金型30としては、繊維強化合成樹脂パイプの外径とほぼ同じかわずかに径小な内径を有する円筒状内面を有し、該円筒状内面により繊維強化合成樹脂パイプを加熱硬化させるとともに外形成形を行うべく内部に加熱手段が内蔵され、滑らかな内周面を有しており、前記マンドレル20の他端は、この加熱金型30の出口に達する位置にまで延在されて配されている。そして、この加熱金型30とマンドレル20との間のクリアランスを前記硬化前の積層体X1の断面積よりも小さな面積となるように調整することにより前記硬化前の積層体X1を硬化時に加圧状態とさせる。
このことにより、繊維間に合成樹脂をより確実に含浸させることができ、例えば、繊維強化合成樹脂パイプ中に繊維間の合成樹脂の含浸が不十分な個所が形成されることを抑制できて繊維強化合成樹脂パイプ全体の強度を均一なものとさせ得る。
しかも、この加圧状態での熱硬化を行うことで各層の繊維同士が密接された状態で合成樹脂が熱硬化されることから繊維強化合成樹脂パイプの強度をよりいっそう向上させることができる。
すなわち、このようにして加圧状態での熱硬化を行うことで全体的に均一な強度を有し、しかも従来のものよりも高い強度を有する繊維強化合成樹脂パイプを製造させ得る。
このような点において、この加熱金型30とマンドレル20との間のクリアランスを調整するなどして、硬化前の積層体X1の体積を100%としたときにこの加熱金型30とマンドレル20との間の面積が97%以下となるようにして繊維強化合成樹脂パイプを製造することが好ましい。
【0021】
この図2において、60はエポキシ樹脂浴、70は縦方向繊維層用のガラスロービングを、80,85は横巻繊維層用のガラスロービングを、90,95は、有機不織布を100は、ガラスクロスをそれぞれ示し、上記引取りロール40による硬化後の積層体X2の引取りにともない各材料が繰り出され、それぞれがエポキシ樹脂浴60で浸漬含浸され、マンドレル20の全周上に縦添えされるか、または周方向に横巻されて未硬化の合成樹脂(エポキシ樹脂)の含浸された積層体X1が形成され、この未硬化の積層体X1を加熱金型30通過の間に外形成形するとともに樹脂硬化して、硬化後の積層体X2を引取りロール40で引き取り、定尺カッター50で定尺切断する。
【0022】
すなわち、マンドレル20上にエポキシ樹脂に含浸させた有機不織布を縦添えし、その外周側にエポキシ樹脂に含浸させたガラスクロスを縦添えして積層する。そのガラスクロス上にエポキシ樹脂に含浸させたガラスロービングをスパイラル状に巻回して積層させたものにエポキシ樹脂に含浸させたガラスロービングを縦添えして、さらにエポキシ樹脂に含浸させたガラスロービングをスパイラル状に巻回して積層する。その外周側に、さらに有機不織布を積層して積層体X1を形成した後に、加熱金型30を通過させて外形成形するとともに樹脂を硬化させて、硬化後の積層体X2を引取りロール40で引き取り、定尺カッター50で定尺切断する。
このとき、硬化前の積層体X1の外径よりも小さな内径を有する加熱金型30を用いて該加熱金型30に積層体X1を通過させる。またこのとき、積層体X1の外径と加熱金型30の内径との差や引取り速度などの製造条件により積層体X1に加わる圧力ならびに加熱時間を調整することができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、内周面側のみならず外周面側においてもガラス繊維が表面に露出することを防止して、よりいっそう繊維強化合成樹脂パイプの取り扱い作業性を良好なものとさせ得る点から、最外層の層に有機不織布層が備えられている場合を例に説明したが、この最外層の層を合成樹脂のみにより形成させる場合にも有機不織布層を備えている場合と同様の効果を得ることができる。また、この最外層の層に有機不織布層や合成樹脂のみにより形成された合成樹脂層以外の層が備えられている場合も本発明の意図する範囲である。
【0024】
また、本実施形態においては、外力に対する優れた強度を発揮させ得る点において、横巻繊維層を二層備えた場合を例に説明したが、本発明においては、横巻繊維層の層数を二層に限定するものではなく一層の場合や、三層以上の場合、あるいはこの横巻繊維層が備えられていない場合も本発明の意図する範囲である。
さらに、横巻繊維層に加わる外力をこの二層の横巻繊維層の間の横巻繊維層以外の繊維強化樹脂層で分散させることができ、外周側の横巻繊維層と内周側の横巻繊維層とにおける応力集中を防止させることができて、外力に対するいっそう優れた強度を発揮させ得る点において、二層の横巻繊維層の間に横巻繊維層以外の繊維強化樹脂層が備えられている場合を例に説明したが、本発明においては、繊維強化合成樹脂パイプに二層の横巻繊維層とその間の横巻繊維層以外の繊維強化樹脂層と備えている場合に限定するものではない。
【0025】
さらに、本実施形態においては、繊維強化合成樹脂パイプに外力が加えられた場合に、外周側の横巻繊維層の受ける力を、その内周側で周方向に分散させることが容易で、内周側の横巻繊維層外表面側に加わる力を十分分散させることができ、しかも、横巻繊維層の繊維方向と直交する方向に繊維が延在されていることから繊維強化合成樹脂パイプに屈曲方向の力が加えられた場合にも優れた強度を発揮させ得る点において、二層の横巻繊維層の間に縦方向繊維層を一層備えた場合を例に説明したが、本発明においては、繊維強化合成樹脂パイプを二層の横巻繊維層と、その間の縦方向繊維層一層とを備えているものに限定するものではない。
【0026】
また、本実施形態においては、これらの横巻繊維層として横巻繊維層自体の反発強度を高めて繊維強化合成樹脂パイプの強度を向上させ得る点において繊維が10度以下の巻き付け角度で巻回されている低角横巻繊維層を例に説明したが、本発明においては、横巻繊維層が低角横巻繊維層であることに限定するものではない。
【0027】
また、本実施形態においては、繊維強化合成樹脂パイプに外力が加えられた際に、内周側の低角横巻繊維層にかかる力をこの内周側低角横巻繊維層のさらに内周側でバックアップさせることができ、繊維強化合成樹脂パイプの強度をより向上させ得る点において、内周側低角横巻き繊維層の内周側で、この内周側低角横巻繊維層に接触する層としてガラスクロス層を備えた場合を例に説明したが本発明においては、繊維強化合成樹脂パイプをこのようなガラスクロス層が備えられているものに限定するものではない。
【0028】
また、本実施形態においては、繊維強化合成樹脂パイプの強度を優れたものとし得る点において、低角横巻繊維層、縦方向繊維層の繊維としてガラス繊維を用いた場合を例に説明したが本発明においては、繊維強化樹脂層としてガラス繊維と該ガラス繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されているガラス繊維強化樹脂層が他に備えられておれば、これら低角横巻繊維層、縦方向繊維層の繊維をガラス繊維に限定するものではなく、カーボン繊維、珪素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、金属ウイスカなどを用いる場合も本発明の意図する範囲である。
【0029】
また本実施形態においては、全体で六層の繊維強化樹脂層を備えている場合を例に説明したが、ガラス繊維強化樹脂層と該ガラス繊維強化樹脂層の内周側に有機不織布層が備えられている合計二層で構成されている場合も本発明の意図する範囲であり、三層乃至五層の場合や七層以上の多層の場合も本発明の意図する範囲である。
【0030】
さらに、本実施形態においては、繊維強化合成樹脂パイプの製造方法として、全体的に均一な強度を有し、しかも従来のものよりも高い強度を有する繊維強化合成樹脂パイプを製造させ得る点において、合成樹脂に熱硬化性樹脂が用い、しかも、硬化前の前記熱硬化性樹脂が含浸された繊維により、少なくとも、前記二層の横巻繊維層とその間の層が積層された積層体を形成させた後に該積層体を加圧状態で加熱して前記熱硬化性樹脂を熱硬化させて形成させる場合を例に説明したが本発明においては繊維強化合成樹脂パイプの製造方法をこのような方法に限定するものではない。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜3、比較例1〜3)
各実施例、比較例の繊維強化合成樹脂パイプを表1の構成で作成した。
(実施例1)
すなわち、内周側から有機不織布層、横巻繊維層、縦方向繊維層、横巻繊維層の4層構造を形成させた。
このとき、有機不織布には、スパンボンド不織布で材質はポリエステル、厚さは0.28mm、目付けが50g/m2を用いた。
また、内周側横巻繊維層、縦方向繊維層、外周側横巻繊維層は、ガラスロービングを用いて形成し、この内周側横巻繊維層、縦方向繊維層、外周側横巻繊維層の3層の厚さの内、内周側横巻繊維層が40%厚さとなり、縦方向繊維層が30%厚さとなり、外周側横巻繊維層が30%厚さとなるように形成した。
なお、これら有機不織布層、横巻繊維層、縦方向繊維層に含浸させる樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂を用いた。
また、このとき作成した繊維強化合成樹脂パイプの内径は、150mm、外径は、164mm(肉厚7mm)であった。
【0032】
(実施例2)
有機不織布層と内周側横巻繊維層との間にガラスクロス層を形成させた以外は、実施例1と同様に繊維強化合成樹脂パイプを作成した。
また、このガラスクロス層に用いたガラスクロスは、0.17mmの厚さで平織、目付けが200g/m2として形成されているものを用いた。
【0033】
(実施例3)
内周側に用いている有機不織布層と同一材料同一厚さで繊維強化合成樹脂パイプの最外周側にさらに有機不織布層を設けたこと以外は、実施例2と同様に繊維強化合成樹脂パイプを作成した。
【0034】
(比較例1)
繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に有機不織布層を設けていないこと以外は、実施例1と同様に繊維強化合成樹脂パイプを作成した。
【0035】
(比較例2)
内周側横巻繊維層を設けずに、縦方向繊維層と、該縦方向繊維層の外周側の横巻繊維層との2層で繊維強化合成樹脂パイプを作成し、しかも、縦方向繊維層と横巻繊維層とを同じ厚さに形成した以外は比較例1と同様に繊維強化合成樹脂パイプを作成した。
【0036】
(比較例3)
繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に有機不織布層を設けていないこと以外は、実施例2と同様に繊維強化合成樹脂パイプを作成した。
【0037】
(評価)
(初期評価)
製造された直後の各実施例、比較例の繊維強化合成樹脂パイプの内周面を指触にて確認しガラス繊維によるチクチクとした刺激を指先に感じるかどうかを評価した。
(内面チャック使用後評価)
この繊維強化合成樹脂パイプを長さ1.6mに切断し、両端部で内周面側から三つ爪鉄製チャック部材を当接させ、荷重を500kgかけた後50rpmで10分回転させた後、再度取り外す事を10回実施後に前記支持部材から取り外し、確認繊維強化合成樹脂パイプの内周側にガラス粉が発生していないかどうかを目視にて観察するとともに、内周面を初期評価と同様に指触にて評価した。
【0038】
初期評価、内面チャック使用後評価の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

※表中の数値は、製造された繊維強化合成樹脂パイプの内周側横巻繊維層、縦方向繊維層、外周側横巻繊維層の3層の合計厚さを100としたときの各層の厚さを表す。
【0040】
このことからも、有機材料が用いられてなる有機不織布と該有機不織布に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている有機不織布層が繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に備えられていることから繊維強化合成樹脂パイプの内面側にガラス繊維が露出することを防止でき、繊維強化合成樹脂パイプを取り扱う作業者がガラス繊維で怪我をしたり不快な刺激を受けたりすることを抑制させることができ、繊維強化合成樹脂パイプの取り扱いを容易なものとし得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一実施形態の繊維強化合成樹脂パイプを示す概略構造図。
【図2】同実施形態の繊維強化合成樹脂パイプの製造方法を示す概略フロー図。
【符号の説明】
【0042】
1:有機不織布層、2:ガラスクロス層、3:内周側低角横巻繊維層、4:縦方向繊維層、5:外周側低角横巻繊維層、6:有機不織布層、10:繊維強化合成樹脂パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を有し、繊維と該繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている繊維強化樹脂層を前記筒形状の周方向に積層させて複数有する繊維強化合成樹脂パイプであって、
前記繊維強化樹脂層として、ガラス繊維と該ガラス繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されているガラス繊維強化樹脂層と、有機材料が用いられてなる有機不織布と該有機不織布に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている有機不織布層とを有し、該有機不織布層が繊維強化合成樹脂パイプの最内周側の層に備えられていることを特徴とする繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項2】
合成樹脂のみにより形成されている合成樹脂層をさらに有し、該合成樹脂層が繊維強化合成樹脂パイプの最外周側の層に備えられている請求項1に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項3】
有機不織布層が繊維強化合成樹脂パイプの最外周側の層にさらに備えられている請求項1に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項4】
前記筒形状に沿ってスパイラル状に巻回されている連続した繊維と該繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されている横巻繊維層を二層さらに有しており、該二層の横巻繊維層が前記最内周側の層よりも外周側で且つ前記最外周側の層よりも内周側に備えられている請求項2または3に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項5】
前記二層の横巻繊維層の間に横巻繊維層以外の繊維強化樹脂層を少なくとも一層有しており、前記二層の横巻繊維層が繊維強化合成樹脂パイプの内周側と外周側とに互いに離間されて備えられている請求項4に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項6】
繊維強化合成樹脂パイプの長手方向に沿って延在されている連続した繊維と該繊維に含浸されている合成樹脂とが用いられて形成された繊維強化樹脂層である縦方向繊維層をさらに有し、該縦方向繊維層が前記二層の横巻繊維層の間に備えられている請求項5に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項7】
前記横巻繊維層と前記縦方向繊維層とに用いられている繊維がいずれもガラス繊維である請求項6に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項8】
前記二層の横巻繊維層は、繊維が10度以下の低角度で巻回されている低角横巻繊維層である請求項7に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項9】
ガラス繊維強化樹脂層として、ガラスクロスと該ガラスクロスに含浸されている合成樹脂とが用いられて形成されたガラスクロス層をさらに有し、該ガラスクロス層が、繊維強化合成樹脂パイプに備えられている全ての縦方向繊維層と横巻繊維層よりも内周側且つ前記有機不織布層が備えられている最内周側の層よりも外周側に備えられている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。
【請求項10】
前記合成樹脂には熱硬化性樹脂が用いられており、しかも、硬化前の前記熱硬化性樹脂が含浸された繊維により、少なくとも、前記二層の横巻繊維層とその間の層が積層された積層体が形成された後に該積層体が加圧状態で加熱されて前記熱硬化性樹脂が熱硬化されて形成されている請求項5乃至9のいずれか1項に記載の繊維強化合成樹脂パイプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−216555(P2007−216555A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40941(P2006−40941)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(504411041)福島日東シンコー株式会社 (7)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】