説明

繊維状活性炭およびこれよりなる不織布

表面に細孔を有する活性炭において、その細孔直径が0.1〜200nmの範囲にあり、かつ、活性炭が繊維形状で、その繊維径が1000nm以下である、繊維状活性炭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は繊維状活性炭およびこれよりなる不織布に関し、更に詳しくは、例えば上水用、排水処理用、大気用などの不純物除去フィルター、電気二重層キャパシターの材料、燃料電池電極用の材料として好適に用いることの出来る、繊維状活性炭およびそれよりなる不織布に関する。
現在、機能性を更に向上させた活性炭が要求されつつあり、各種の検討がなされている。
従来の繊維状活性炭は、粒状活性炭の製造と同じく、原理的には繊維状の炭素を800℃以上の高温下において、ガス化反応、いわゆる賦活反応させることで製造される。その繊維径は一般的に5〜20μmである。また、吸着速度が粒状活性炭の100〜1000倍という特徴を有している。しかし、一方で、細孔径のほとんどが2nm未満のミクロ孔から構成されている。このため、例えば排水処理において、フマル酸のような巨大分子を捕捉することが出来ず、後の塩素処理でトリハロメタンなどの有害物質を作り出すなどの問題があった。
また、例えば電気二重層キャパシターの電極材料(正極及び負極)として使用する場合においても、静電容量には細孔直径2nm以上の細孔の比表面積部分が関与しているといわれている。また、硫酸水溶液を溶媒とする水溶液系キャパシターでも、高電流密度、低温での性能は2nm以上の細孔の比表面積部分が静電容量に寄与していると考えられている。このため、細孔直径2nm以上の繊維状活性炭の製造が望まれていた。
上記を解決する方法として、例えば炭素質原料を水蒸気賦活したものを更にアルカリ賦活する、あるいは炭素質原料を炭化した後、酸化処理し、更にアルカリ賦活することで、細孔径2nm以上のメソ孔の比表面積が1000m/g以上である活性炭を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1等参照。)。また、ピッチ、フェノール樹脂等の炭素前駆体に希土類金属錯体を添加し、水蒸気賦活することによりメソ孔の発達した活性炭を製造する方法などが開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
しかし、これらの方法で得た活性炭は粒状であるため、成型性・加工性が悪いといった問題があった。また、従来の繊維状活性炭は先に述べたように、その繊維径が5〜20μmであって、見かけの表面積は小さく、さらなる繊維径の極細化が望まれていた。
【特許文献1】特開平8−119614号公報
【非特許文献1】第29回炭素材料学会年会要旨集(2002)92頁
【発明の開示】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題を解決し、成型、加工性に優れるとともに、見掛け表面積の大きな活性炭を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の繊維状活性炭を製造するための装置構成の一態様を模式的に示した図である。
第2図は、本発明の繊維状活性炭を製造するための装置構成の一態様を模式的に示した図である。
第3図は、実施例1の操作で得られた繊維状活性炭(不織布状)の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(6000倍)して得られた写真図であって、図右下の目盛りは5μmである。
第4図は、実施例2の操作で得られた繊維状活性炭(不織布状)の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(6000倍)して得られた写真図であって、図右下の目盛りは5μmである。
第5図は、実施例3の操作で得られた繊維状活性炭(不織布状)の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(1000倍)して得られた写真図であって、図右下の目盛りは50μmである。
第6図は、実施例4の操作で得られた繊維状活性炭(粉末状)の表面を走査型電子顕微鏡で撮影(20000倍)して得られた写真図であって、図右下の目盛りは2μmである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維状活性炭は、直径が0.1〜200nmの細孔を有する。ここで、繊維状活性炭の細孔直径が0.1nm未満であると、分子をほとんど吸着することが出来ず、一方で200nmを越えると、巨大分子を吸着することは出来るが、全比表面積が非常に小さくなり、活性炭としての効果が低下する。該細孔直径の好ましい範囲は0.3〜150nmである。
また、本発明の繊維状活性炭は、形状が繊維状であって、その繊維径が1000nm未満であることが必要である。本発明の繊維状活性炭は例えば、炭素前駆体繊維に賦活処理を施すことで製造されるが、この時、繊維状活性炭の繊維径が極細化するにつれて見かけの表面積が増大する。このため、極細化が進むにつれて繊維状活性炭の全比表面積も増大する。繊維状活性炭の全比表面積を増大させるためには繊維径は細いほど好ましいが、細孔径よりも細くなると繊維状活性炭の切断が生じる。このため、繊維状活性炭の繊維径としては、細孔直径よりも大きく800nm以下、更には細孔直径よりも大きく500nm以下であることが好ましい。
本発明の繊維状活性炭は、窒素吸着等温線から求めた細孔直径2nm以上の細孔の比表面積と繊維状活性炭の全比表面積との比が0.3以上であることが好ましい。細孔直径2nm以上の細孔の比表面積と繊維状活性炭の全比表面積との比が0.3以上であるときには、巨大分子をほぼ吸着することが出来る。
また、電気二重層キャパシタに用いられる電解質イオンは、通常溶媒和された状態で1nm程度であることが知られている。このため、電解質イオンを効率的に活性炭表面に蓄電するためには、2nm以上のメソ孔が有効と言われている。しかしながら、大きなメソ孔は比表面積の低下を引き起こすため、静電容量の低下を引き起こす。本発明の繊維状活性炭は、細孔直径が2〜5nmである細孔容積が全細孔容積の40%以上となることが好ましい。細孔径が2nm未満であると、先に述べた如く電気二重層キャパシタに用いられる電解質イオンが、通常溶媒和された状態で1nm程度であることから、十分拡散・吸着することが出来ず好ましくない。一方、5nmを超えると活性炭の比表面積が低下し、その結果十分な容量を得ることができず好ましくない。細孔直径が2〜5nmである細孔容積は、全細孔容積の45%以上、更には50%以上であることが好ましい。
本発明の繊維状活性炭は、全比表面積が100〜50000m/gの範囲にあることが好ましい。全比表面積が100m/g以上であると、吸着量が更に向上する。全比表面積のより好ましい範囲としては500〜50000m/g、更には1000〜50000m/gである。
本発明においては、上記の繊維状活性炭を不織布とすることもできる。 次に、本発明の繊維状活性炭を製造方法のうち、好ましいいくつかの態様について説明する。
本発明の繊維状活性炭の出発原料としては、特に限定はされないが、例えばピッチ、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾールおよびアラミドなどを例示することが出来る。これらの中でも、ピッチとポリアクリロニトリルが好ましい。なお、ピッチの中ではメソフェーズのピッチが特に好ましい。
上記繊維状活性炭の出発原料から繊維状活性炭を製造する方法を、(1)繊維状活性炭の前駆体繊維の製造方法、(2)繊維状活性炭の前駆体繊維から繊維状活性炭を製造する方法の順に詳述する。
(1)「繊維状活性炭の前駆体の製造方法」
繊維状活性炭の前駆体を製造する一例としては、例えば静電紡糸法、ブレンド紡糸法を挙げることができる。以下、静電紡糸法、ブレンド紡糸法の順に詳述する。
「静電紡糸法」
静電紡糸法では、溶媒に溶解した繊維状活性炭の出発原料溶液を電極間に形成された静電場中に吐出し、形成される繊維状物質を捕集基板に累積することで、繊維状活性炭の前駆体を製造することができる。なお、繊維状活性炭の前駆体繊維とは、既に溶液の溶媒が留去され、多孔質繊維、繊維積層体となっている状態のみならず、いまだ溶液の溶媒を含んでいる状態も指している。
ここで、静電紡糸法で用いる装置について説明する。本発明で用いる電極は、金属、無機物、または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば良い。また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物の薄膜を持つものであっても良い。本発明における静電場は一対又は複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3本を越える数の電極を使う場合も含むものとする。
次に静電紡糸法による繊維状活性炭の前駆体の製造手法について更に詳細に説明する。まず、繊維状活性炭の出発原料を溶媒に溶解した溶液を製造する段階がある。繊維状活性炭の出発原料を溶解した溶液の濃度は、1〜30重量%であることが好ましい。濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため繊維構造体を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より大きいと得られる繊維構造体の繊維径が大きくなり好ましくない。より好ましい濃度は2〜20重量%である。
静電紡糸法による繊維状活性炭の前駆体の製造においては、溶媒は単独で用いても良く、複数の溶媒を組み合わせても良い。該溶媒としては、繊維状活性炭の出発原料を溶解し、かつ静電紡糸法にて紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成するものであれば特に限定されないが、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、塩化メチレン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
また、繊維状活性炭の出発原料としては上記溶媒に溶解するものであって、活性炭となりうるものであればいずれを用いることができるが、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリカルボジイミド、ポリベンゾアゾールを好ましく用いることができる。
次に前記溶液を静電紡糸法にて紡糸する段階について説明する。該溶液を静電場中に吐出するには、任意の方法を用いることが出来る。
以下、第1図を用いて更に具体的に説明する。
注射器の筒状の溶液保持槽(第1図中3)の先端部に適宜の手段、例えば高電圧発生器(第1図中6)にて電圧をかけた注射針状の溶液噴出ノズル(第1図中1)を設置して、溶液(第1図中2)を溶液噴出ノズル先端部まで導く。接地した繊維状物質捕集電極(第1図中5)から適切な距離で該溶液噴出ノズル(第1図中1)の先端を配置し、溶液(第1図中2)が該溶液噴出ノズル(第1図中1)の先端部から噴出させ、このノズル先端部分と繊維状物質捕集電極(第1図中5)との間で繊維状物質を形成させることができる。静電紡糸法においては、電極間に静電場を形成できれば電解の向きには依存しないため、注射針状の溶液噴出ノズルを接地し、繊維状物質捕集電極に電圧をかけても良い。
また他の態様として、第2図を以って説明すると、該溶液の微細滴(図示せず。)を静電場中に導入することもでき、その際の唯一の要件は溶液(第2図中2)を静電場中に置いて、繊維化が起こりうるような距離に繊維状物質捕集電極(第2図中5)から離して保持することである。例えば、溶液噴出ノズル(第2図中1)を有する溶液保持槽(第2図中3)中の溶液(第2図中2)に直接、繊維状物質捕集電極に対抗する電極(第2図中4)を挿入することもできる。
該溶液をノズルから静電場中に供給する場合、数個のノズルを並列的に用いて繊維状物質の生産速度を上げることもできる。また、電極間の距離は、帯電量、ノズル寸法、溶液のノズルからの噴出量、溶液濃度等に依存するが、電極間の電位差が10kV程度のときには5〜20cmの距離が適当であった。また、印加される静電気電位差は、一般に3〜100kV、好ましくは5〜50kV、一層好ましくは5〜30kVである。所望の電位差は従来公知の任意の適切な方法で作れば良い。
上記二つの態様は、電極が捕集基板を兼ねる場合であるが、電極間に捕集基板となりうる物を設置することで、電極と別に捕集基板を設け、そこに繊維積層体を捕集することも出来る。この場合、例えばベルト状物質を電極間に設置して、これを捕集基板とすることで、連続的な生産も可能となる。
次に捕集基板に累積される繊維積層体を得る段階について説明する。本発明においては、該溶液を捕集基板に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であれば捕集基板上に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。この捕集基板上に捕集された時点では少なくとも前記繊維平均径と繊維長とを満足する繊維構造体(通常は不織布状)が形成されている。また、曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃の範囲である。
上記の方法で得られた繊維状活性炭の前駆体を焼成し次いで賦活処理することで目的とする繊維状活性炭または繊維状活性炭からなる不織布を製造することができる。焼成条件としては、不活性ガス雰囲気下で100〜1500℃の処理を行うのが好ましい。なお、上記処理を施す前に、前もって酸素存在雰囲気下で処理を行っておくことも好ましい。
賦活処理条件としては、後述の「ブレンド紡糸法」にて記載する条件を採用することができる。
「ブレンド紡糸法」
ブレンド紡糸法では、繊維状活性炭の出発原料と熱可塑性樹脂とから実質的になる混合物を紡糸後、繊維状活性炭の出発原料を安定化処理し、次いで熱可塑性樹脂を除去することで、繊維状炭素前駆体を製造することができる。
以下、ブレンド紡糸法に関して詳細に説明する。ブレンド紡糸法では、まず熱可塑性樹脂と繊維状活性炭の出発原料とから実質的になる混合物を製造する。
ここで、熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン−1などのポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート等が好ましく使用される。これらの中でも、特にポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン−1などのポリオレフィン系が好ましく使用される。
また、繊維状活性炭の出発原料としてはピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾールおよびアラミドなどが好ましく使用されるが、これらの中でもポリアクリロニトリル、ピッチが特に好ましく、メソフェーズのピッチが最も好ましく使用される。
熱可塑性樹脂と繊維状活性炭の出発原料とのブレンド比率は、熱可塑性樹脂100重量部に対して繊維状活性炭の出発原料を1〜150重量部仕込むのが好ましい。上記熱可塑性樹脂と繊維状活性炭の出発原料の混合方法としては、溶融混練が好ましく、例えば一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の従来の設備で混合物を製造することができる。
次に上記で得た熱可塑性樹脂と繊維状活性炭の出発原料の混合物を紡糸する。この工程では、溶融状態にある混合物を紡糸することで繊維状活性炭の出発原料が熱可塑性樹脂中で繊維状に引き伸ばされる。なお、紡糸で得た成型体を延伸しても良い。
次に紡糸で得た成型体を安定化(不融化、耐炎化とも称する)する。この工程は、繊維状活性炭の前駆体繊維を製造するのに必要な工程であって、この工程を実施せずに次工程である熱可塑性樹脂の除去を行った場合、繊維状活性炭の出発原料が熱分解したり、メルトしたりして繊維状形態を崩壊させるなどの問題が生じる。安定化の方法としては酸素などのガス気流処理、酸性水溶液などの溶液処理など、公知の方法で行うことが出来るが、生産性の面からガス気流下での安定化が好ましい。なお、繊維状活性炭の出発原料を速やかに安定化させるという点から、酸素および/または沃素、臭素ガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。上記安定化により、繊維状活性炭の出発原料の軟化点は著しく上昇するが、目的とする繊維状活性炭の前駆体繊維を得るために、軟化点が350℃以上好ましくは450℃以上であることが良い。
次に安定化処理した成型体から熱可塑性樹脂を除去することで、目的とする繊維状活性炭の前駆体繊維を得ることが出来る。熱可塑性樹脂の除去の方法としては特に限定はされないが、熱分解もしくは溶媒による溶解により達成されることが好ましく、いずれの方法を取るかは使用する熱可塑性樹脂により決まる。熱分解の条件としては使用する熱可塑性樹脂により異なるが、400℃以上好ましくは450℃以上で処理するのが好ましい。また、溶媒溶解の条件としても使用される熱可塑性樹脂により異なり、より溶解性の高い溶媒を使用することが好ましい。例えば、ポリカーボネートにおいては塩化メチレンやテトラヒドロフランであり、ポリエチレンにおいてはデカリンやトルエンなどが好ましく使用されうる。なお、熱可塑性樹脂を除去した後に得られる繊維状活性炭の前駆体繊維を、窒素雰囲気下で更に450〜1500℃で処理しても良い。
(2)繊維状活性炭の前駆体繊維から繊維状活性炭を製造する方法
上記で得た繊維状活性炭の前駆体繊維から繊維状活性炭を製造する方法としては、通常の賦活方法、水蒸気賦活やアルカリ賦活あるいはこれら二つの方法を組み合わせた方法により製造することができる。
水蒸気賦活の方法としては、通常の粒状活性炭の賦活方法であり、水蒸気の存在下で700℃〜1500℃の温度で行われる。より好ましい温度範囲は、800℃〜1300℃である。賦活処理の時間としては、3〜180分間実施するのが良い。
該賦活処理の時間が3分未満であると、比表面積が著しく低下し好ましくない。一方、180分より長時間であると、生産性の低下を引き起こすだけでなく、炭化収率を著しく低下させるため好ましくない。
繊維状活性炭の前駆体繊維から繊維状活性炭を製造するもう一つの方法としては、アルカリ賦活がある。アルカリ賦活法とは、原料に水酸化アルカリや炭酸アルカリを含浸させ、所定の温度域まで等速昇温させることにより活性炭を得る手法である。アルカリ賦活で用いられる賦活剤としては、例えばKOH,NaOH等のアルカリ金属の水酸化物、Ba(OH)等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられるが、これらの中でもKOH、NaOHが好ましい。アルカリ賦活する時の条件は、用いる賦活剤により異なるため一概に言えないが、例えばKOHを用いた場合には温度400〜1000℃、好ましくは550〜800℃まで昇温する。
アルカリ賦活の処理時間も昇温速度、処理温度に応じて適宜選定すればよいが、550〜800℃で1秒間〜数時間、好ましくは1秒間〜1時間であることが好ましい。賦活剤は通常水溶液の状態として用いられ、濃度としては0.1〜90wt%程度が採用される。
賦活剤の水溶液濃度が0.1wt%未満であると、高比表面積の繊維状活性炭を製造することができず好ましくない。また、90wt%を超えると、高比表面積の繊維状活性炭を製造することができないだけでなく、炭化収率を低減させるため好ましくない。より好ましくは1〜50wt%である。
繊維状活性炭の前駆体繊維をアルカリ水溶液に含浸させ、所定の温度域まで等速昇温させることで目的とする繊維状活性炭を得ることが出来る。上記の方法で得た繊維状活性炭表面には、アルカリやアルカリ塩などが存在することがある。それゆえ、水洗、乾燥などの処理を行っても良い。
繊維状活性炭の前駆体繊維に、上記で述べた水蒸気賦活またはアルカリ賦活またはこれら二つの組み合わせを実施することで、2nm以上の細孔直径を有し、かつその繊維径が500nm以下である繊維状活性炭を得ることが出来る。
上述のようにして得られる本発明の繊維状活性炭は、電極(正極及び負極)、セパレーター及び電解液を備える電気二重層キャパシタにおいて、電極材料として使用することができ、繊維状活性炭にバインダー、導電材を必要に応じ加え、成形することにより電極が得られ、例えば、金属箔、金属網等の集電体上の片面、あるいは両面に形成すればよい。
上記バインダーとしては電気二重層キャパシタ電極として効果を奏する限り、いずれを用いてもよいが、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフッ化エチレン、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂等を用いることが出来る。また、導電材としては、人造黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック)、ニッケル粉末などが好適に用いられる。
他の構成部品であるセパレーター、電解液については、従来公知の電気二重層キャパシタに用いるものをいずれも使用することができる。
また、前記のようにして得られる本発明の繊維状活性炭は、更に、金属錯体とともに、超臨界状態にあるCOに浸漬し、次いで焼成することにより、燃料電池電極用材料ともなる。
ここで、金属錯体の金属イオンとしては、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウムからなる群から選ばれた少なくとも1つの金属のイオンであることが好ましい。燃料電池用電極材料は、燃料電池における酸化還元反応のための触媒活性と電極として機能するための導電性とを有するが、上記イオンを使用することにより、主として触媒活性を確保することが容易になる。
具体的には、白金族アンミン錯体、塩化白金酸カリウム等の白金族塩化物、白金族アセチルアセトナート、白金族シクロオクタジエンジメチルなどを例示することができる。これらの中でも、白金族アセチルアセトナート、白金族シクロオクタジエンジメチルが特に好ましい。
得られる燃料電池用電極材料が電極として良好に機能するための導電性の程度は、用途に応じて適宜決めることができるが、一般的には1×10〜5×10S/mが好ましい。このような導電性は、燃料電池電極材料となった段階で発揮できれば十分であり、その以前の段階では導電性を有している必要は無い。
燃料電池電極材料として良好な触媒活性と導電性とを得るための重要な要件としては、更に、繊維状活性炭に金属錯体を均一に分散させることがある。このためには、金属錯体を溶解した溶液に繊維状活性炭を接触させることが好ましい。しかしながら、通常の溶媒の場合、溶媒の表面張力と繊維状活性炭の表面張力との差が大きく、単に金属錯体を溶解した溶液に繊維状活性炭を接触させただけでは、繊維状活性炭中に金属錯体を均一に浸透させることは困難であるが、超臨界状態にあるCOを溶媒に用いた場合には、短時間で金属錯体をナノオーダーの微粒子として担持することが可能である。更に、溶媒の乾燥工程などを省くことができるため、非常に優れた方法である。なお、予め金属錯体を溶媒に溶解した溶液を使用することもできるが、この場合の溶媒は、金属錯体の浸透に役立つというよりは、超臨界状態にあるCO中に金属錯体を均一に分散させるためのものである。
超臨界状態にあるCOを用いる温度条件としては32℃以上であり、圧力が7.5〜50MPaの範囲にあり、浸漬処理時間として0.3〜10時間の範囲とすることが好ましい。温度条件の上限は使用する金属錯体により変動するが、金属錯体の分解を抑えるという観点から300℃以下である場合が多い。
また、最終的には、超臨界状態にあるCOに浸漬した後、焼成処理を行う。この焼成処理は、実質的に酸素を含まない雰囲気下、200〜3500℃で実施することが好ましく、より好ましくは200〜2800℃である。適切な温度は、実情に応じて見いだすことができる。
実質的に酸素を含まない雰囲気下の温度としては、酸素濃度が20ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましい。このような雰囲気は、系に高純度の窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流通させることで実現できる。
得られる燃料電池電極用材料の全体的な構造については、当該電極用材料として用いるにあたって支障が無い限りどのような形態をとっていてもよいが、取り扱い性の観点から、不織布状であることが好ましく、この場合、超臨界状態のCOへの浸漬時に不織布状であることが好ましい。
このようにして作成した燃料電池電極用材料は、従来の燃料電池電極用材料が、炭素繊維がフェノール樹脂の炭化物で結合してなり、繊維と繊維とが点で接触した網状の多孔質構造をとっている構造と異なり、網状の多孔質構造としては同じであるものの、構成する繊維自体を活性炭とすることで、活性炭の細孔に触媒となる金属を容易に担持させることを容易にするばかりでなく、燃料電池電極用材料としてガス配流性、導電性、熱伝導性、機械的強度、耐腐食性のいずれかに優れたものとすることも容易である。
燃料電池用の電極は、この燃料電池電極用材料を加工することにより作成することができる。また、この燃料電池電極用材料を作成する際に、例えば焼成処理前の中間体の形状を燃料電池用の電極の形状に適したもの、例えば粉砕処理により金属を担持した繊維状の燃料電池電極用材料としておくことにより、焼成処理により得られる燃料電池用材料をそのまま燃料電池用の電極として使用できるようにすることも可能である。
この燃料電池電極用材料からなる燃料電池用電極、そのような燃料電池用電極を備えた燃料電池は、性能、安定性、寿命、コストの面で優れたものとなる。
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれによって何等限定を受けるものではない。
繊維状活性炭または繊維状活性炭からなる不織布の繊維径は走査電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)にて測定した。
また、繊維状活性炭または繊維状活性炭からなる不織布の全比表面積、細孔径分布は、比表面積・細孔分布測定装置(ユアサ アイオニクス株式会社製「NOVA1200」)を用い、NOVA強化データ解析パッケージに付随したBJH法により算出した。なお、細孔径分布、総細孔容積等の算出は脱離レグを解析することで実施した。
(1)繊維状活性炭の前駆体繊維の製造
繊維状活性炭の前駆体繊維1の製造
ポリアクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製)1重量部、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社、試薬特級)9重量部よりなる溶液を作成した。第2図にしめす装置を用いて、該溶液を繊維状物質捕集電極に30分間吐出することで、不織布を作成した。なお、溶液噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、溶液噴出ノズルから繊維状物質捕集電極5までの距離は10cmであった。
上記不織布を空気中30℃から300℃まで1℃/分で昇温した後、次いで窒素雰囲気下5℃/分で300℃から1300℃まで昇温することで、炭化した不織布を得た。なお、炭化した不織布を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)で測定したところ、平均繊維径は100nmであった。上記で得た炭化した不織布を以下、繊維状活性炭の前駆体繊維1とする。
繊維状活性炭の前駆体繊維2の製造
熱可塑性樹脂としてポリ−4−メチルペンテン−1(TPX:グレードRT−18[三井化学株式会社製])100重量部とメソフェーズピッチAR−HP(三菱ガス化学株式会社製)11.1部を同方向二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX−30、バレル温度290℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を作成した。上記樹脂組成物を300℃で紡糸口金より紡糸し、複合繊維を得た。
次に、得られた複合繊維を空気中、200℃で20時間保持して安定化処理した複合繊維を得た。次に、安定化処理した複合繊維を窒素雰囲気下1℃/分で500℃まで昇温して熱可塑性樹脂を除去した。熱可塑性樹脂を除去後、窒素雰囲気下で30℃から700℃まで5℃/分で焼成することで繊維状活性炭の前駆体繊維2を得た。なお、電子顕微鏡写真から評価した平均繊維径は200nmであった。
[実施例1]
繊維状活性炭の前駆体繊維1に対し、水蒸気賦活を850℃で1時間処理することによって行い、繊維状活性炭からなる不織布を作成した。この電子顕微鏡写真図を第3図に示す。電子顕微鏡で評価した繊維状活性炭の平均繊維径は100nmであった。なお、窒素吸着量から評価した全比表面積は1300m/gであった。また、窒素吸着等温線から求める細孔径分布において、細孔直径2nm以上の比表面積が550m/gであり、細孔直径2nm以上の比表面積と全比表面積との比が0.3以上であった。また、全細孔容積は0.8cc/gであり、2〜5nmの細孔容積は全細孔容積の56%となる0.45cc/gであった。
[実施例2]
1重量部の繊維状活性炭の前駆体繊維1を5重量部の2.5wt%水酸化カリウム水溶液に浸漬させた。次いで、この溶液を窒素雰囲気下5℃/分で800℃まで昇温、30分間保持した。その後、水洗を3回繰り返した後、200℃で1昼夜真空乾燥を実施し、繊維状活性炭からなる不織布を作成した。この繊維状活性炭の電子顕微鏡写真を第4図に示す。
電子顕微鏡で評価した繊維状活性炭の平均繊維径は100nmであった。窒素吸着量から評価した全比表面積は2200m/gであった。また、窒素吸着等温線から求める細孔径分布において、細孔直径2nm以上の比表面積が1200m/gであり、細孔直径2nm以上の比表面積と全比表面積との比が0.3以上であった。また、全細孔容積は0.70cc/gであり、2〜5nmの細孔容積は全細孔容積の42%となる0.29cc/gであった。
[実施例3]
1重量部の繊維状活性炭の前駆体繊維2を5重量部の30wt%水酸化カリウム水溶液に浸漬させた。次いで、この溶液を窒素雰囲気下5℃/分で800℃まで昇温、30分保持した。その後、水洗を3回繰り返した後、200℃で1昼夜真空乾燥を実施し、繊維状活性炭を作成した。この電子顕微鏡写真を第5図に示す。電子顕微鏡で評価した繊維状活性炭の平均繊維径は200nmであった。窒素吸着量から評価した全比表面積は980m/gであった。また、窒素吸着等温線から求める細孔径分布において、細孔直径2nm以上の比表面積が350m/gであり、細孔直径2nm以上の比表面積と全比表面積との比が0.3以上であった。また、全細孔容積は0.58cc/gであり、2〜5nmの細孔容積は全細孔容積の43%となる0.25cc/gであった。
[比較例1]
比表面積1204m/gを有する活性炭粉末(二村化学工業株式会社製)を50%濃度の水酸化カリウム水溶液に浸漬した。その後、このスラリーを窒素雰囲気下、650℃に昇温、60分間保持した後、室温に冷却した。水洗を実施した後、乾燥機に入れて115℃で乾燥し、得られた活性炭を粉砕した。
得られた活性炭粉末の全比表面積は1655m/gであった。また、窒素吸着等温線から求める細孔径分布において、細孔直径2nm以上の比表面積が1420m/gであり、細孔直径2nm以上の比表面積と全比表面積との比が0.3以上であった。
得た活性炭は粒状であるため、成型性・加工性に乏しく、本願のような不織布状とすることができなかった。
[実施例4]
実施例1の操作によって得られた繊維状活性炭1gと白金アセチルアセトナート50mgとをオートクレーブに仕込み、70℃、50MPaの超臨界状態にあるCO中で2時間処理を施した。
次に、オートクレーブから取り出した繊維状活性炭を、アルゴンガス中で、室温(25℃)から2000℃まで20℃/分で昇温した。2000℃に到達後、0.5時間保持して燃料電池用電極材料を得た。なお、上記処理の間、アルゴンガスを流通させ、酸素濃度を10ppm以下に保った。
電子線プローブ微小X線分析装置で白金の担持分布について評価したところ、この燃料電池用電極材料の断面に均一に白金が担持されていることが確認できた。また、走査型電子顕微鏡で観察される金属粒子の数と大きさを測定し、その大きさの平均を求めて得た担持金属の平均粒径は20nmであった。金属は良好に分散しており、凝集は認められなかった。
[実施例5]
実施例1の操作によって得られた繊維状活性炭にバインダーとしての5wt%のポリテトラフルオロエチレンを添加して混練し、10mmΦ、180μmの電気二重層キャパシター用の電極を調整した。電解液にテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液を用い、セパレーターとして、セルロース紙を用いて電気二重層キャパシターを得た。5mAで3Vまで充電し、20mAの定電流放電を0Vまで行った。キャパシタンスは放電曲線において1.8−1.2Vの電位・時間による変化から求めたところ、35F/gであった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に細孔を有する活性炭において、その細孔直径が0.1〜200nmの範囲にあり、かつ、活性炭が繊維形状で、その繊維径が1000nm未満であることを特徴とする、繊維状活性炭。
【請求項2】
細孔直径2nm以上の細孔の比表面積と繊維状活性炭の全比表面積との比が0.3以上である、請求の範囲第1項記載の繊維状活性炭。
【請求項3】
全比表面積が100〜50000m/gの範囲にある、請求の範囲第1項記載の繊維状活性炭。
【請求項4】
細孔直径が2〜5nmである細孔容積が全細孔容積の40%以上となる、請求の範囲第1項記載の繊維状活性炭。
【請求項5】
請求の範囲第1項記載の繊維状活性炭からなる不織布。
【請求項6】
請求の範囲第1項に記載の繊維状活性炭を電極材料として組み込んでなる電気二重層キャパシタ。
【請求項7】
請求の範囲第1項記載の繊維状活性炭に、金属が平均粒径で0.5〜500nmの範囲にある微粒子として担持されている、燃料電池電極用材料。
【請求項8】
請求の範囲第7項に記載の燃料電池電極用材料を組み込んでなる燃料電池。
【請求項9】
溶媒に溶解した繊維状活性炭の出発原料溶液を製造する段階と、前記溶液を静電紡糸法にて紡糸する段階と、前記紡糸によって捕集基板に累積される繊維状活性炭の前駆体を製造する段階と、前記前駆体を焼成し、次いで賦活処理に付して繊維状活性炭を得る段階とを含む、繊維状活性炭の製造方法。
【請求項10】
賦活処理を、水蒸気賦活及び/又はアルカリ賦活によって行う、請求の範囲第9項記載の製造方法。
【請求項11】
賦活処理を施す前に、酸素存在雰囲気下で処理を行う、請求の範囲第9項記載の製造方法。
【請求項12】
繊維状活性炭の出発原料がポリアクリロニトリルである、請求の範囲第9項記載の製造方法。
【請求項13】
熱可塑性樹脂と繊維状活性炭の出発原料とから実質的になる混合物を紡糸して前駆体繊維を形成する段階と、該前駆体繊維を安定化処理に付して該前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体繊維を形成する段階と、安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する段階と、繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化処理して炭素繊維を得る段階と、得られた炭素繊維を賦活して繊維状活性炭を得る段階とを含む、繊維状活性炭の製造方法。
【請求項14】
賦活処理を、水蒸気賦活及び/又はアルカリ賦活によって行う、請求の範囲第13項記載の製造方法。
【請求項15】
繊維状活性炭の出発原料がポリアクリロニトリルである、請求の範囲第13項記載の製造方法。
【請求項16】
繊維状活性炭の出発原料がピッチである、請求の範囲第13項記載の製造方法。
【請求項17】
ピッチがメソフェーズピッチである、請求の範囲第13項記載の製造方法。
【請求項18】
請求の範囲第1項記載の繊維状活性炭を、金属錯体と共に、超臨界状態にあるCOに浸漬し、次いで焼成する処理を含む、燃料電池用電極用材料の製造方法。
【請求項19】
前記金属錯体の金属イオンが、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスミウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属のイオンである、請求の範囲第18項記載の製造方法。
【請求項20】
前記超臨界状態にあるCOの温度が32℃以上であり、圧力が7.5〜50MPaの範囲にあり、浸漬処理時間が0.3〜10時間の範囲にある、請求の範囲第18項記載の製造方法。
【請求項21】
前記焼成処理を、実質的に酸素を含まない雰囲気下、200〜3500℃で実施する、請求の範囲第18項記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/028719
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514120(P2005−514120)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013978
【国際出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】