説明

脂肪酸無水物を含有する分散粉末

本発明は、ポリマー粉末組成物の全質量に対して1つ以上の脂肪酸無水物0.1〜70質量%を含有する、水中で分散可能なポリマー粉末組成物、および水硬性結合材系中での前記粉末の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸無水物を含有する、水中で分散可能なポリマー粉末組成物および水硬性結合材系中での前記粉末の使用に関する。
【0002】
ビニルエステル、塩化ビニル、(メタ)アクリレートモノマー、スチレン、ブタジエンおよびエチレンを基礎とする重合体は、とりわけ、その水性分散液の形または水中に再分散可能なポリマー粉末の形で、多岐にわたる用途に、例えば種々異なる支持体用の被覆剤または接着剤として使用される。鉱物質材料の疎水化のために、前記分散粉末は、一般に脂肪酸エステルおよび/またはシランを含有する。
【0003】
欧州特許出願公開第1193287号明細書A2は、建築材料の疎水化のための、少なくとも1つのカルボン酸エステルを含有する粉末組成物の使用に関する。WO 02/30846A1の記載から、脂肪酸または脂肪酸エステルを、場合によってはオルガノポリシロキサンと組み合わせてキャリヤー粒子上に塗布して含有する、疎水化のためのグラニュールは、公知である。脂肪酸または脂肪酸エステルを含有する、水中で分散可能な疎水性添加剤は、WO 2004/103928A1中に記載されている。
【0004】
遊離脂肪酸を使用する場合には、鉱物質材料を早期に硬化しかつもはや可能不可能のままにする危険がしばしば存在する。同様の危険は、脂肪酸の相応するアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を使用する場合にも存在する。この問題を回避させるために、しばしば脂肪酸のエステルの使用が求められる。典型的には、これは、メチルエステルまたはエチルエステル、または低分子量ポリアルキレングリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコールおよび類似の化合物のエステルである。全ての前記化合物は、該化合物がアルカリ条件下で鹸化し、それによって疎水性に作用するが、しかし、同時に望ましくない放出関連物質、例えばメタノール、エタノールまたはエチレングリコールを遊離することが共通している。
【0005】
従って、公知技術水準の欠点を回避する分散粉末を開発するという課題が課された。
【0006】
本発明の対象は、ポリマー粉末組成物の全質量に対して1つ以上の脂肪酸無水物0.1〜70質量%を含有する、水中で分散可能なポリマー粉末組成物である。
【0007】
適した脂肪酸無水物は、それぞれ8〜22個のC原子を有する分枝鎖状または非分枝鎖状の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸の無水物である。前記の脂肪酸の混合された(非対称)無水物を使用することもできる。同様に、前記の脂肪酸と2〜6個のC原子を有するカルボン酸、例えば酢酸またはプロピオン酸との混合された無水物を使用することができる。対称脂肪酸無水物が好ましい。特に好ましいのは、それぞれ10〜18個のC原子を有する飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸、例えばラウリン酸(n−ドデカン酸)、ミリスチン酸(n−テトラデカン酸)、パルミチン酸(n−ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(n−オクタデカン酸)ならびにオレイン酸(9−ドデセン酸)の対称脂肪酸無水物である。
【0008】
前記無水物の製造は、当業者によく知られた方法により行なわれる。1つの好ましい方法は、遊離する塩酸の放出下での酸クロリドと酸との反応である。2個の脂肪酸分子と強い鉱酸との反応によって、無水物を得ることもできる。この場合、2つの異なる脂肪酸を使用する場合には、対称無水物と非対称無水物との混合物を得ることができる。
【0009】
1つの好ましい実施態様において、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物は、それぞれポリマー粉末組成物の全質量に対して、
a)1〜15C原子を有する非分枝鎖状または分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステル、1〜15C原子を有するアルコールのメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエンおよびビニルハロゲン化物を含む群からの1つ以上のモノマーの単独重合体または共重合体を基礎とする1つ以上の水不溶性の被膜形成性ベースポリマー60〜99.9質量%、
b)1つ以上の脂肪酸無水物0.1〜30質量%および
c)1つ以上の保護コロイド0〜30質量%を含有する。
【0010】
特に好ましいのは、脂肪酸無水物b)0.1〜10質量%、殊に1〜5質量%を有するポリマー粉末組成物である。
【0011】
ベースポリマーa)に適したビニルエステルは、1〜15個のC原子を有するカルボン酸のビニルエステルである。好ましいビニルエステルは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル−2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1−メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび9〜13個のC原子を有するα−分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)またはVeoVa10(登録商標)(Resolutions社の商品名)である。特に酢酸ビニルが好ましい。
【0012】
好適なメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルは、1〜15個のC原子を有する非分枝鎖状または分枝鎖状のアルコールのエステル、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノルボルニルアクリレートである。好ましいのは、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートである。
【0013】
オレフィンおよびジエンの例は、エチレン、プロピレンおよび1,3−ブタジエンである。好ましいビニル芳香族化合物は、スチレンおよびビニルトルエンである。好適なビニルハロゲン化物は、塩化ビニルである。
【0014】
場合によっては、ベースポリマーの全質量に対してさらに0.05〜50質量%、特に1〜10質量%の補助モノマーが共重合されてよい。補助モノマーのための例は、エチレン系不飽和のモノカルボン酸およびジカルボン酸、特にアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸およびマレイン酸;エチレン系不飽和のカルボン酸アミドおよびカルボン酸ニトリル、特にアクリルアミドおよびアクリルニトリル;フマル酸およびマレイン酸のモノエステルおよびジエステル、例えばジエチルエステルおよびジイソプロピルエステルならびに無水マレイン酸、エチレン系不飽和のスルホン酸もしくはそれらの塩、特にビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸である。更に、例は、予備架橋性コモノマー、例えばポリエチレン系不飽和のコモノマー、例えばジビニルアジペート、ジアリルマレエート、アリルメタクリレートまたはトリアリルシアヌレート、または後架橋性コモノマー、例えばアクリルアミドグリコール酸(AGA)、メチルアクリルアミドグリコール酸メチルエステル(MAGME)、N−メチロールアクリルアミド(NMA)、N−メチロールメタクリルアミド(NMMA)、N−メチロールアリルカルバメート、アルキルエーテル、例えばイソブトキシエーテルまたはN−メチロールアクリルアミドのエステル、N−メチロールメタクリルアミドのエステルおよびN−メチロールアリルカルバメートのエステルである。また、エポキシ官能性のコモノマー、例えばグリシジルメタクリレートおよびグリシジルアクリレートも適している。更に、例は、ケイ素官能性のコモノマー、例えばアクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シランおよびメタクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン、ビニルトリアルコキシシランおよびビニルメチルジアルコキシシランであり、この場合、アルコキシ基として、例えばメトキシ基、エトキシ基およびエトキシプロピレングリコールエーテル基が含まれていてよい。また、ヒドロキシ基またはCO基を有するモノマー、例えばメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルおよびアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、例えばヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートもしくはヒドロキシブチルアクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートもしくはヒドロキシブチルメタクリレートならびにジアセトンアクリルアミドおよびアセチルアセトキシエチルアクリレートもしくはアセチルアセトキシエチルメタクリレートのような化合物が挙げられる。
【0015】
好適な単独重合体および共重合体のための例は、ビニルアセテート−単独重合体、ビニルアセテートとエチレンとの共重合体、ビニルアセテートとエチレンおよび1つ以上の他のビニルエステルとの共重合体、ビニルアセテートとエチレンおよびアクリル酸エステルとの共重合体、ビニルアセテートとエチレンおよび塩化ビニルとの共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体であり、前記共重合体は、場合によっては記載された補助モノマーをさらに含有していてよい。
好ましいのは、ビニルアセテート−単独重合体;ビニルアセテートとエチレン1〜40質量%との共重合体、ビニルアセテートとエチレン1〜40質量%およびカルボン酸基中に1〜15個のC原子を有するビニルエステル、例えばビニルプロピオネート、ビニルラウレート、9〜13個のC原子を有するα位で分枝したカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9、Veova10、Veova11の群からの1種以上の他のコモノマー1〜50質量%との共重合体、ビニルアセテート、エチレン1〜40質量%および特に1〜15個のC原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレート1〜60質量%の共重合体、ならびにビニルアセテート30〜75質量%、ビニルラウレートまたは9〜13個のC原子を有するα位で分枝したカルボン酸のビニルエステル1〜30質量%および1〜15個のC原子を有する非分枝鎖状または分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、殊にn−ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレート1〜30質量%を有し、さらにエチレン1〜40質量%を有する共重合体;ビニルアセテート、エチレン1〜40質量%および塩化ビニル1〜60質量%を有する共重合体であり、この場合、これらの重合体は、さらに前記の補助モノマーを前記の量で含有してよく、かつ質量%での表記は加算して、それぞれ100質量%とする。
【0016】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体、例えばn−ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートの共重合体またはメチルメタクリレートとn−ブチルアクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレートとの共重合体ならびに特にメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートの群からの1種以上のモノマーを有するスチレン−アクリル酸エステル−共重合体、特にメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートおよび場合によりエチレンの群からの1種以上のモノマーを有するビニルアセテート−アクリル酸エステル−共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体が好ましく、この場合、これらの重合体は、さらに前記の補助モノマーを前記の量で含有してよく、かつ質量%での表記は加算して、それぞれ100質量%とする。
【0017】
この場合、モノマーの選択あるいはコモノマーの質量割合の選択は、一般に−50℃〜+50℃、有利には−30℃〜+40℃のガラス転移温度Tgが生じるように行なわれる。該重合体のガラス転移温度Tgは、公知のように、示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。Tgは、Foxの式によって近似的に見積もることもできる。Fox T.G.,Bull.Am.Physics Soc.1,3,第123頁(1956)によれば、
1/Tg=x1/Tg1+x2/Tg2+…+xn/Tgn
[式中、
xnは、モノマーnの質量分率(質量%/100)を表わし、かつ
Tgnは、モノマーnの単独重合体のケルビンでのガラス転移温度である]が適用される。単独重合体についてのTg値は、Polymer Handbook 2nd Edition,J.Wiley&Sons,New York(1975)に挙げられている。
【0018】
単独重合体および共重合体の製造は、乳化重合法または懸濁重合法、特に乳化重合法により行なわれ、この場合重合温度は、一般に40℃〜100℃、特に60℃〜90℃である。ガス状コモノマー、例えばエチレン、1,3−ブタジエンまたは塩化ビニルを共重合する場合には、圧力下で、一般に5バール〜100バールで作業することもできる。
【0019】
重合の開始は、乳化重合もしくは懸濁重合に一般に用いられる水溶性もしくはモノマー可溶性の開始剤またはレドックス開始剤組合せ物を用いて行なわれる。水溶性の開始剤のための例は、ペルオキソ二硫酸のナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩、過酸化水素、t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ペルオキソ二リン酸カリウム、t−ブチルペルオキソピバレート、クメンヒドロペルオキシド、イソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド アゾビスイソブチロニトリルである。モノマー可溶性開始剤の例は、ジセチルペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、過酸化ジベンゾイルである。前記の開始剤は、一般に、それぞれモノマーの全質量に対して0.001〜0.02質量%、有利には0.001〜0.01質量%の量で使用される。
【0020】
レドックス開始剤としては、前記の開始剤と還元剤との組合せ物が使用される。好適な還元剤は、アルカリ金属およびアンモニウムの亜硫酸塩および重亜硫酸塩、例えば亜硫酸ナトリウム、スルホキシル酸の誘導体、例えば亜鉛またはアルカリのホルムアルデヒドスルホキシル酸塩、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムおよびアスコルビン酸である。還元剤の量は、それぞれモノマーの全質量に対して、一般に、0.001〜0.03質量%、有利には0.001〜0.015質量%である。
【0021】
分子量の制御のために、重合の間に、調節物質を使用することができる。調節剤を使用する場合に、これは、通常、重合されるべきモノマーに対して0.01〜5.0質量%の量で使用され、この調節剤は反応成分とは別々に供給されるかまたは反応成分と予め混合して供給される。このような物質の例は、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メチルエステル、イソプロパノールおよびアセトアルデヒドである。
【0022】
重合に適した保護コロイドc)は、ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリビニルピロリドン;水溶性の形の多糖類、例えばデンプン(アミロースおよびアミロペクチン)、セルロースおよびそのカルボキシメチル誘導体、メチル誘導体、ヒドロキシエチル誘導体、ヒドロキシプロピル誘導体;タンパク質、例えばカゼインまたはカゼイン塩、大豆タンパク質、ゼラチン;リグニンスルホネート;合成ポリマー、例えばポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートとカルボキシ官能性のコモノマー単位との共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸およびその水溶性コポリマー;メラミンホルムアルデヒドスルホネート、ナフタリンホルムアルデヒドスルホネート、スチレンマレイン酸コポリマーおよびビニルエーテルマレイン酸コポリマーである。
【0023】
好ましいのは、部分鹸化または完全鹸化された、加水分解度80〜100モル%を有するポリビニルアルコール、殊に部分鹸化された、加水分解度80〜95モル%を有し、かつヘプラー粘度1〜30mPas(4%の水溶液中)(ヘプラーによる20℃での方法、DIN53015)を有するポリビニルアルコールである。また、部分鹸化された、疎水変性された、加水分解度80〜95モル%を有し、かつヘプラー粘度1〜30mPas(4%の水溶液中)を有するポリビニルアルコールが好ましい。このための例は、酢酸ビニルと疎水性のコモノマー、例えばイソプロペニルアセテート、ビニルピバレート、ビニルエチルヘキサノエート、5または9〜11個のC原子を有する飽和のα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、ジアルキルマレイネートおよびジアルキルフマレート、例えばジイソプロピルマレイネートおよびジイソプロピルフマレート、塩化ビニル、ビニルアルキルエーテル、例えばビニルブチルエーテル、オレフィン、例えばエテンおよびデセンとの部分鹸化された共重合体である。疎水性単位の割合は、部分鹸化されたポリビニルアルコールの全質量に対して、有利には0.1〜10質量%である。また前記のポリビニルアルコールの混合物を使用することもできる。
【0024】
最も有利には、加水分解度85〜94モル%と、ヘプラー粘度3〜15mPas(4%の水溶液中)(ヘプラーによる20℃での方法、DIN53015)を有するポリビニルアルコールである。前記の保護コロイドは、当業者に公知の方法により得ることができ、一般に、該保護コロイドは、重合の際に、モノマーの全質量に対して全部で1〜20質量%の量で添加される。
【0025】
乳化剤の存在下に重合させる場合には、この乳化剤の量は、モノマー量に対して1〜5質量%である。好適な乳化剤は、アニオン系、カチオン系の乳化剤ならびに非イオン系の乳化剤であり、例えばアニオン系界面活性剤、例えば8〜18個のC原子の鎖長を有するアルキルスルフェート、疎水性基中に8〜18個のC原子を有し、かつ40個までのエチレンオキシド単位またはプロピレンオキシド単位を有するアルキルエーテルスルフェートまたはアルキルアリールエーテルスルフェート、8〜18個のC原子を有するアルキルスルホネートまたはアルキルアリールスルホネート、スルホコハク酸と一価のアルコールまたはアルキルフェノールとのエステルおよび半エステル、または非イオン系界面活性剤、例えば8〜40個のエチレンオキシド単位を有するアルキルポリグリコールエーテルまたはアルキルアリールポリグリコールエーテルである。
【0026】
重合の終結後に、残留モノマーの除去のために、この用途で知られた方法で後重合させてよく、一般にレドックス触媒により開始された後重合によって行なってよい。揮発性の残留モノマーは、蒸留によって、特に減圧下で、かつ場合により不活性な連行ガス、例えば空気、窒素又は水蒸気を通過するように導くかまたは上方に導きながら除去することもできる。こうして得られた水性分散液は、30〜75質量%、有利には50〜60質量%の固体含量を有する。
【0027】
水中に再分散可能なポリマー粉末組成物を製造するために、脂肪酸無水物成分b)は、任意の方法で重合体a)の水性分散液と混合され、引続きこの分散液は、乾燥される。乾燥は、例えば渦動床乾燥、凍結乾燥または噴霧乾燥により行なわれる。好ましいのは、噴霧乾燥である。この場合、噴霧乾燥は、通常の噴霧乾燥装置中で行なわれ、その際、噴霧は、1成分系ノズル、2成分系ノズルまたは多成分系ノズルを用いてかまたは回転噴霧器を用いて実施することができる。出口温度は、一般に、装置と樹脂のTgと所望の乾燥度に応じて、45℃〜120℃の範囲、有利には60℃〜90℃の範囲で選択される。
【0028】
更に、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物を製造する場合、さらに保護コロイドc)を乾燥助剤として使用することができる。好適な乾燥助剤の群は、重合のための保護コロイドc)の前記群と等しい。ポリマー粉末組成物中には、特にポリマー粉末組成物の全質量に対して保護コロイドc)が1〜30質量%含有されている。
【0029】
噴霧乾燥の場合、しばしば、ベースポリマーに対して1.5質量%までの消泡剤の含量は、有利であることが判明した。
【0030】
噴霧すべき供給材料の粘度は、固体含量により、1000mPas未満(20回転および23℃でのブルックフィールド粘度)、有利には350mPas未満の値が得られるように調節される。噴霧すべき分散液の固体含量は、30%を上廻り、好ましくは40%を上廻る。
【0031】
もう1つの好ましい実施態様において、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物は、ポリマー含量a)を含有せずに、それぞれポリマー粉末組成物の全質量に対してb)1つ以上の脂肪酸無水物5〜70質量%およびc)1つ以上の保護コロイド30〜95質量%を含有する。
【0032】
この実施態様の製造のために、脂肪酸無水物は、一般に保護コロイドの水溶液と混合され、引続きこの混合物は、乾燥され、特に噴霧乾燥される。適当な好ましい脂肪酸無水物、適当な好ましい保護コロイドおよび適当な好ましい乾燥方法は、既に記載された実施態様に相当する。
【0033】
水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の組成とは無関係に、使用技術的な性質を改善するために、乾燥中に他の添加剤を添加することができる。有利な実施態様で含まれるポリマー粉末組成物の他の成分は、例えば消泡剤、顔料、気泡安定剤である。
【0034】
有利な実施態様で含まれる、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の他の成分は、有機添加剤および無機添加剤である。可能な添加剤は、次のものであってよいが、しかし、次に記載の化合物に限定されるものではない:消泡剤、無機または鉱物質の粘着防止剤または充填剤。前記添加剤は、それぞれ水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の全質量に対して50質量%まで、有利に30質量%まで、特に有利に20質量%まで含有されていてよい。消泡剤は、通常、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物中に5質量%までの割合で含有されている。
【0035】
無機または鉱物質の化合物は、有利に水中に再分散可能なポリマー粉末組成物中に5〜30質量%の割合で含有されていてもよい。この無機添加剤は、殊に低いガラス転移温度を有する粉末の場合にポリマー粉末組成物の貯蔵能を粘着安定性の改善によって上昇させる。従来の粘着防止剤(焼き付き防止剤)のための例は、有利に10nm〜100μmの範囲の粒度を有する炭酸カルシウムもしくは炭酸マグネシウム、タルク、石膏、ケイ酸、カオリン、ケイ酸塩である。
【0036】
水中に再分散可能なポリマー粉末組成物は、そのために典型的な使用分野で使用されてよい。この水中に再分散可能なポリマー粉末組成物は、単独で使用されてもよいし、従来の再分散粉末と組合せて使用されてもよい。例えば建築化学的製品中で、場合によっては水硬性結合材、例えばセメント(ポルトランドセメント、アルミン酸塩セメント、トラスセメント(Trasszement)、スラグセメント、マグネシアセメント、リン酸塩セメント)、石膏および水ガラスと組み合わせて、建築用接着剤、殊にタイル用接着剤および断熱用接着剤(Vollwaermeschutzkleber)、プラスター、スキムコート(Scim-coat)、スパチュラフィラー(Spachtelmasse)、床用スパチュラフィラー(Fussbodenspachtelmasse)、レベリング材(Verlaufsmasse)、封止スラリー、目地モルタルおよびペイントの製造のために使用されてよい。他の使用は、高層建築および地表工事構築物のためのならびにトンネル壁の内張りのための吹き付け用モルタル及び吹き付け用コンクリートである。更に、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物は、砂、粘土、紙、織物、天然繊維または合成繊維のための疎水化剤として使用されることができる。水中に再分散可能なポリマー粉末組成物を用いた場合には、コーティングおよび塗装の用途において表面も変性または被覆させることができる。
【0037】
意外なことに、このポリマー粉末組成物を用いた場合には、流動性の脂肪酸エステル誘導体または直接に水相中に存在する酸を用いた場合よりも良好に疎水化特性を得ることができる。有機ポリマーから境界面に到達しかつ鹸化するために、脂肪酸無水物が殆んど水溶性でなく、また、殆んど流動性でないとしても、それにも拘わらず優れた疎水性の性質を得ることができる。この場合、無水物の分子からそれぞれ作用を有する脂肪酸塩の2個の分子が生じることは、有利であることが判明した。更に、利点は、放出関連化合物が生じないことである。
【0038】
実施例:
粉末:
エチレン−酢酸ビニル共重合体のポリビニルアルコール安定化された分散液を噴霧乾燥することにより、88モル%の鹸化度および4mPasのヘプラーによる粘度を有するポリビニルアルコール6質量%を添加しながら、および脂肪酸誘導体を記載された量で添加しながら粉末を製造した。
【0039】
次に、分散液を2成分系ノズルを用いて噴霧した。噴霧成分としては、4バールに予め圧縮された空気を用い、形成された小滴を125℃に加熱された空気を用いて並流で乾燥させた。得られた乾燥粉末を、市販の粘着防止剤の炭酸カルシウムマグネシウム10質量%と混合した。
粉末P1:無水ラウリン酸1質量%を用いる。
粉末P2:無水ラウリン酸4質量%を用いる。
粉末P3:無水パルミチン酸1質量%を用いる。
粉末P4:ラウリン酸と酢酸とからなる混合された無水物2質量%を用いる。
比較粉末P5:疎水化剤としてのラウリン酸メチル1質量%を用いる。
比較粉末P6:疎水化剤としてのラウリン酸メチル4質量%を用いる。
【0040】
試験:
疎水性の測定:
疎水性の測定のために、セメント30質量%と砂68質量%と分散粉末2質量%とからなる鉱物質材料を混合した。水の添加後、試験体を製造し、かつ乾燥させた。次に、この試験体上にピペットで水滴を載せ、この水滴の滞留時間を試験体の表面上で測定した。
【0041】
【表1】

【0042】
このデータから、本発明による生成物での疎水化が標準生成物と比較して明らかに卓越していることを確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粉末組成物の全質量に対して1つ以上の脂肪酸無水物0.1〜70質量%を含有する、水中で分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項2】
それぞれ8〜22個のC原子を有する分枝鎖状または非分枝鎖状の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸の1つ以上の脂肪酸無水物が含有されている、請求項1記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項3】
非対称脂肪酸無水物が含有されている、請求項2記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項4】
8〜22個のC原子を有する脂肪酸および2〜6個のC原子を有するカルボン酸の非対称脂肪酸無水物が含有されている、請求項3記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項5】
それぞれ10〜18個のC原子を有する飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸の対称脂肪酸無水物が含有されている、請求項1または2記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項6】
それぞれポリマー粉末組成物の全質量に対して、
a)1〜15個のC原子を有する非分枝鎖状または分枝鎖状のアルキルカルボン酸のビニルエステル、1〜15個のC原子を有するアルコールのメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエンおよびビニルハロゲン化物を含む群からの1つ以上のモノマーの単独重合体または共重合体を基礎とする1つ以上の水不溶性の被膜形成性ベースポリマー60〜99.9質量%、
b)1つ以上の脂肪酸無水物0.1〜30質量%および
c)1つ以上の保護コロイド0〜30質量%が含有されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項7】
ポリマー含量a)を含有せずに、それぞれポリマー粉末組成物の全質量に対して
b)1つ以上の脂肪酸無水物5〜70質量%および
c)1つ以上の保護コロイド30〜95質量%が含有されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の製造法において、ポリマーa)の水性分散液と脂肪酸無水物b)の水性分散液の混合物または脂肪酸無水物b)だけを、場合によってはそれぞれ保護コロイドc)の存在下に乾燥させることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の製造法。
【請求項9】
建築化学的製品中に水硬性結合材、例えばセメント、石膏および水ガラスと組み合わせて用いる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の水中に分散可能なポリマー粉末組成物の使用。
【請求項10】
建築用接着剤、殊にタイル用接着剤および断熱用接着剤、プラスター、スキムコート、スパチュラフィラー、床用スパチュラフィラー、レベリング材、封止スラリー、目地モルタル、ペイントの製造のため、ならびに高層建築および地表工事構築物のためのならびにトンネル壁の内張りのための吹き付け用モルタル及び吹き付け用コンクリートのための請求項1から7までのいずれか1項に記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の使用。
【請求項11】
砂、粘土、紙、織物、天然繊維または合成繊維のための疎水化剤として、ならびに表面の変性または被覆のための請求項1から7までのいずれか1項に記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物の使用。

【公表番号】特表2009−513759(P2009−513759A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537044(P2008−537044)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067289
【国際公開番号】WO2007/048707
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】