腐食構造物の強度劣化予測方法
【課題】 簡便で精度を向上できる腐食構造物の強度劣化測定方法と、将来予測方法とを実現する。
【解決手段】 腐食構造物の腐食表面形状を、非接触式、かつ三次元にて測定する(ステップ2)。パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測する(ステップ3、4、11、12)。
【解決手段】 腐食構造物の腐食表面形状を、非接触式、かつ三次元にて測定する(ステップ2)。パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測する(ステップ3、4、11、12)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食により、表面形状が変化して強度が低下する、橋等の腐食鋼構造物といった腐食構造物における将来的な強度変化を予測するための腐食構造物の強度劣化予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国において、鋼橋等の既設の鋼を主とする構造物の多くにおいては、それらの供用期間が40年〜60年以上になり、上記構造物の腐食による強度低下が問題となっており、腐食構造物の補修などといった適切な維持管理が必要になってきた。
【0003】
上記維持管理では、上記腐食構造物の崩壊の危険性が大きくなると上記腐食構造物を更新することも含まれており、よって、上記腐食構造物の現時点での強度測定だけではなく、先々の補修や更新を予め計画しておいてライフサイクルコストをできるだけ小さくするために、腐食構造物の将来の強度劣化予測方法が求められている。
【0004】
そのような将来の強度劣化予測方法としては、現在の強度に対し、仮想的に関数(例えばルートT(Tは時間)にて強度の計測数値を割る)を当てはめて、将来の強度を仮想的に想定する方法や、今までの強度の経時的な変化を高次関数(3次や4次)に当てはめ、将来の強度を予測する方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法では、腐食構造物の将来の腐食状態ではなく、その将来の強度変化(劣化)を予測しているため、将来の実際の腐食状態による強度と予測した強度との間にずれが生じ易く、強度劣化予測が正確にできないという課題を生じている。
【0006】
その上、従来では、対象となっている腐食構造物のライフサイクルコストを評価し、経済合理性を有する構造物の維持管理に好適な強度劣化予測のために、将来の腐食表面形状を、今までの腐食表面形状の計測データからより正確に予測できる表面形状作成モデルは知られていなかった。
【0007】
本発明は、上記の各課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的、簡便な構成にて、現在の腐食表面形状を計測し、その現在の腐食表面形状から将来の腐食表面形状をより正確に予測して、その予測された腐食表面形状から、将来の強度を評価できる表面形状作成モデルを含む、腐食構造物の強度劣化予測方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測方法は、上記課題を解決するために、(1) 腐食構造物の腐食表面形状を、非接触かつ三次元的に測定し、(2) パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、(3) 上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、(4) 上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測することを特徴としている。
【0009】
上記方法によれば、三次元的にて実際に測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出することで、上記腐食表面形状が置かれた環境や、上記腐食構造物の素材や塗膜の有無も含めた状態での、腐食の進行状態を示すことが可能な表面形状作成モデルを上記算出されたパラメータにより作成できる。
【0010】
これにより、上記方法では、腐食の進行状態を実情に合わせて示すことが可能な表面形状作成モデルを用いることで、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出して上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測することが、より正確に可能となる。
【0011】
この結果、上記方法は、上記強度の測定を、非接触式にて、腐食表面から離れた位置から実行できるから、上記測定を非破壊的に実行できると共に、現在までの実際の凹凸量を含む腐食表面形状により、将来の腐食構造物の強度をより正確に算出できるから、経済合理性を有する構造物の維持管理に好適な強度劣化予測を、今までの腐食表面形状の計測データからより正確に予測できることにより、対象となっている腐食構造物のライフサイクルコストをより正確に評価できる。
【0012】
上記強度劣化予測方法においては、前記表面形状作成モデルは、所定間隔の格子点を複数想定し、上記各格子点での凹凸量にそれぞれ換算して上記各凹凸量を腐食形状として測定するものであってもよい。上記強度劣化予測方法では、前記所定間隔を、5mm以下に設定してもよい。上記所定間隔としては、2mm以下が好ましく、上記所定間隔が0.1mm未満と小さくなると計算量が大きくなるがそれに見合う精度の向上が認められないので、0.1mm以上、より望ましくは0.5mm以上が挙げられる。
【0013】
前記表面形状作成モデルでは、対象の腐食表面上に、パラメータとしての深さFの仮想腐食孔をランダムに、パラメータとしての単位時間当たりの所定数を、仮想的にそれぞれ形成してもよい。上記強度劣化予測方法においては、前記仮想腐食孔に、パラメータとしての半径rの影響半径を設定してもよい。
【0014】
上記強度劣化予測方法では、前記表面形状作成モデルにおいて、上記格子点に対する前記各仮想腐食孔による影響を空間的自己相関モデルにより考慮した上記各格子点での凹凸量を腐食形状として測定するとき、上記影響する仮想腐食孔の体積を用いてもよい。
【0015】
上記強度劣化予測方法においては、前記腐食表面形状を非接触式、かつ三次元にて測定することは、腐食構造物の表面に光パターンを投影し、上記腐食表面上の光パターンを撮像して撮像パターンを得た後、上記光パターンと撮像パターンとにより腐食構造物の表面形状を三次元にて測定してもよい。
【0016】
上記強度劣化予測方法では、前記腐食構造物の腐食表面形状の測定を、互いに異なる時期に複数回実施してもよい。上記強度劣化予測方法においては、前記腐食構造物は、腐食鋼構造物であってもよい。
【0017】
上記強度劣化予測方法においては、前記腐食表面形状は、塗装の塗膜の状態であり、上記塗膜の劣化を、塗膜表面上の格子点にて数値化して上記格子点での防食能力を算出し、経時的な塗膜劣化を格子点での時間経過と共に変化する防食能力として算出し、上記防食能力が所定値以下となったとき、腐食進展が発生したと認定するものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測方法は、以上のように、腐食構造物の腐食表面形状を非接触かつ三次元的に測定し、パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測する方法である。
【0019】
それゆえ、上記方法は、腐食表面形状が置かれた環境や、上記腐食構造物の素材や塗膜の有無も含めた状態での、腐食の進行状態を示すことが可能な表面形状作成モデルを上記算出されたパラメータにより作成できる。
【0020】
これにより、上記方法では、腐食の進行状態を実情に合わせて示すことが可能な表面形状作成モデルを用いることで、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測することをより正確に可能となる。
【0021】
この結果、上記方法は、上記強度の測定を、非接触式にて、腐食表面から離れた位置から実行できるから、上記測定を非破壊的に実行できると共に、現在までの実際の凹凸量を含む腐食表面形状により、将来の腐食構造物の強度劣化をより正確に算出できるから、経済合理性を有する構造物の維持管理に好適な強度劣化予測を、今までの腐食表面形状の計測データからより正確に予測できて、対象となっている腐食構造物のライフサイクルコストをより正確に評価できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測方法の一実施形態について図1ないし図49に基づいて説明すると以下の通りである。上記強度劣化予測方法は、時を経ることにより腐食が進行した、橋などの鋼構造物といった腐食構造物に関する、実体に即した損傷評価、残存耐力評価、ライフサイクルコスト評価などの精度を向上できて実用化でき、上記腐食構造物の維持・管理・更新の技術の体系化に好適なものである。損傷評価(健全度評価)とは、発見された腐食損傷が、対象となる構造物に要求される性能(例えば、構造物の強度)をどの程度低下させているかを評価することである。
【0023】
上記強度劣化予測方法は、図1に示すように、点検工程(ステップ1、以下、ステップをSと略記する、S2)、評価工程(S3、S4)およびメンテナンス計画工程(S11〜13)を有している。また、現時点での、腐食構造物の強度評価方法としては、上記点検工程、上記評価工程および対処工程(S5、S7、S8、S9およびS10)を備えていればよい。
【0024】
上記点検工程では、まず、強度劣化予測対象となる腐食構造物の腐食表面の塗膜や錆びを除去する(ステップ1、以下、ステップをSと略記する)。上記腐食表面の凹凸形状を、非接触式にかつ三次元的に腐食表面上の凹凸形状を計測する(S2)。上記腐食表面上の凹凸形状の計測には、後述する表面形状計測方法を用いることができるが、他の測定方法、例えばレーザラインプローブを用いた多関節式三次元計測装置を用いることもできる。上記計測では、非接触式が好ましいが、接触式も使用できる。
【0025】
なお、上記S1は、計測に支障がなければ省くことができるし、また、塗膜の保護機能の劣化を測定する場合には、その塗膜の表面形状(塗膜の保護機能劣化)を予測対象としてそのまま測定してもよい。また、上記対象となる腐食表面としては、例えば鋼構造物の腐食は水仕舞の悪い箇所に集中して現れることがすでにわかっているので、点検における腐食表面形状は、腐食しやすい箇所で、強度解析上必要な箇所に限って測定すればよい。
【0026】
その後、計測結果の統計評価(S3)により表面形状の評価を行う。上記統計評価では、計測した腐食表面形状を、不規則波形として解析する。つまり、計測された仮想の腐食表面に対し、互いに平行な10本以上の、通常は1000本以下の測線を仮想的にそれぞれ設定する。その後、各側線上で256点以上の、通常は25600点以下での各腐食量に基づく不規則波形に対するフーリエ解析からパワースペクトル、クロススペクトルをそれそれ求める。
【0027】
上記パワースペクトル分析は、SZ:パワースペクトル密度(mm3)、Zavg:平均腐食量(mm)、σZ:標準偏差(mm)、λ:波数(1/mm)とすると、
{[λSZ(λ)]/σZ2}=f(λ・Zavg)
にて表される。上記パワースペクトル分析では、平均腐食量と支配的波長との間に比例関係、すなわち平均腐食量が小さければ波長は短く、反対に平均腐食量が大きければ波長は長くなることが分かっている。
【0028】
上記表面形状の評価のときには、別に、可変な各パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用いる。上記表面形状作成モデルは、可変な各パラメータを変化させることで、対象の腐食表面の形状を再現したり、復元したりできるものである。上記表面形状作成モデルを用い、三次元的にて実際に測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出する。この算出方法については後述する。上記パラメータとしては、位置的にランダムに設定される各仮想腐食孔の、深さ(強さ)F、単位時間(通常は1年)当たりの所定の設定数、周囲(腐食表面の表面方向)への空間的な影響の程度を示す影響半径rがそれぞれ挙げられる。
【0029】
また、求めた各スペクトルを元に空間的自己相関(Spatial Auto-Correlation)法で計測した腐食面と同じ統計量を有する腐食面を適切なメッシュ(格子)間隔(通常は5mm以下、より好ましくは2mm以下)にて生成する。上記空間的自己相関法とは、腐食表面形状の不規則波形を、定常正規確率過程と見なして、その腐食量の各統計値(平均値、標準偏差、自己相関関数、相互相関関数)により不規則波面を生成する方法である。上記統計評価においては、各腐食深さに対応する出現頻度を示すヒストグラムも使用される。上記統計評価に基づき、表面形状の評価を解析する(S4)。このとき、上記パワースペクトルの波長は、仮想腐食孔の影響半径rに対応しており、上記波長から上記半径rを算出することが可能である。
【0030】
続いて、上記S4に記載の解析結果から、対象となる腐食構造物が健全の範囲内である、要観察すなわち健全な範囲と危険な範囲との中間の範囲内である、および、危険な範囲内である、の何れであるか判別する(S5)。上記判別の結果、対象となる腐食構造物が健全の範囲内であれば、その使用を継続する供用となる(S6)。このとき、上記腐食対象物の表面形状の計測による強度劣化を、通常点検時の間隔によって経時的に順次計測する。
【0031】
一方、上記判別結果が要観察、すなわち健全な範囲と危険な範囲との中間の範囲内の場合、対象の腐食構造物をモニタリングつまり表面計測の間隔を、通常点検時の間隔より短くして経時的に順次計測する(S7)。
【0032】
また、上記判別結果が危険な範囲内の際には、その危険の程度を判断し(S8)、上記S8において、当面の間、補修・補強で危険な範囲外とすることができると判断されるとき、上記腐食構造物を補修・補強して(S9)、健全な範囲内または要観察の範囲内とする。上記S8において、補修・補強で危険な範囲外とすることができないと判断されるとき、上記腐食構造物を廃棄したり、架け替え等の更新したりする(S10)。上記S5、S7、S8、S9およびS10は対処工程という。
【0033】
続いて、前記S3に記載の表面形状の解析による今までの経時的な複数の各結果データである各表面形状から、それら各表面形状の凹凸量に合うように表面形状形成モデルの各パラメータを算出し、それら各パラメータによる上記表面形状形成モデルによる、将来の表面形状を将来時間の外挿により上記腐食構造物の腐食劣化の進展程度を示す将来の表面形状を予測する(S11)。
【0034】
その後、上記将来の表面形状に基づき、腐食構造物の将来の強度劣化を経時的に予測する(S12)。その強度劣化予測に基づき、上記腐食構造物に対する、検査計画や補修計画を立案する(S13)。その後は、所定期間毎に、前述のS1に戻り、S1〜S13を繰り返す。上記S11、S12およびS13は、メンテナンス計画工程という。
【0035】
このように本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法では、対象となる構造物において、発見された初期の腐食に対して、できるだけ詳しくその腐食の程度の変化を経時的に計測しておき、それらの結果データを統計的に処理し、点検工程毎に、その計測結果を蓄積しておく。
【0036】
得られた各計測結果から、FEM(有限要素)解析などにより強度の要求性能解析を行って、現時点での保有性能が要求性能を満たしているか否かを判断し、適切な対策を講じる。パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、さらに蓄積された結果データである、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出する。
【0037】
続いて、上記パラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出して上記腐食構造物における将来の腐食進展の変化(強度劣化)を上記将来の腐食表面形状から予測し、それを元に保有性能(強度)の劣化予測を行う。
【0038】
上記予測された将来の腐食表面形状からの保有性能(強度)の劣化予測の方法としては、上記予測された将来の腐食表面形状に対する有限要素法解析、あるいは簡易強度推定法などが挙げられる。上記有限要素法解析は、板要素あるいは立体要素を用い、板要素にて有限要素法解析を行う場合、要素の大きさは1辺20mm以下が好ましく、板厚は要素内における予測された表面形状の格子点での板厚の平均板厚、および中央面の位置は、予測された表面形状の格子点での偏心量の平均値を用いてよい。また、簡易強度推定法は、上記予測された将来の腐食表面形状から得られる厚さの平均値や標準偏差などの統計指標を用いたものである。
【0039】
その後、上記保有性能の劣化予測に基づき、社会情勢(景気など)や最新技術(新規で安価な工法の開発)などもふまえて維持管理計画を見直し、修正して、対象となる構造物のライフサイクルコストをできるだけ小さく設定、つまりライフサイクルコストの最適化(極小化)を図ることができる。
【0040】
次に、本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法に用いた表面形状計測方法の一例について説明する。まずは、上記表面形状計測方法に用いた表面形状計測装置の構成について説明する。上記表面形状計測装置では、図2に示すように、計測対象の腐食表面1に対し、予め設定された投影パターン情報に基づく投影パターン(光パターン)3aを投影するための液晶プロジェクタ(投影部)3が、その光学的な基点(光源の位置)を仮想基準線2上に配置して設けられている。
【0041】
液晶プロジェクタ3は、図示しないが、光源と、その光源からの光に対し、上記投影パターン情報に基づく投影パターン3aを形成するための液晶パネルとを有している。上記投影パターン情報は、アナログ情報でもデジタル情報でもよいが、投影パターンに関する位置情報と共に色情報を含むデジタル情報が後述の画面処理の利便性から好ましい。
【0042】
上記投影パターン3aは、投影パターン情報に基づいて、腐食表面1の表面の色と相違し、腐食表面1の表面の色に対して識別できる測定色(望ましくは対照色(補色))の光点を標点として含むものであればよく、例えば繰り返し構造を有するメッシュ状(四角の格子状、グリッド状)のパターンに設定されている。よって、投影パターン3aの色は、腐食表面1が腐食表面のように黒または濃い灰色の場合は、白色が好ましい。上記パターンとしては、四角の格子状以外に、三角形や五角形でもよく、また、間隔が予め設定された点の集合体でもよい。上記投影パターン3aが格子状の各標点を有する場合、互いに隣り合う各標点の間隔は、上記腐食表面の状態により異なるが、10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに再現性高めるには2mm以下が望ましい。
【0043】
また、液晶プロジェクタ3は、上記投影パターンの形状や間隔といった細部の位置情報をデジタル情報により記憶しておくためのメモリ(記憶部)と、上記投影パターンのデジタル情報から、上記投影パターン3aを液晶パネルの各画素にて形成するためのドライバとを、図示していないが、備えている。
【0044】
さらに、上記投影パターン情報は、上記腐食表面1上において、パターン画像と光学的に区別できる、例えば輝度、色度、および彩度の少なくとも一つが相違するドット状の光点である特異標点をさらに上記投影パターン3a内の予め設定された位置に含むようになっていてもよい。また、上記特異標点は、輝度、色度、および彩度の内、色度を相違させること(投影パターン3aが例えば青色の場合、赤色や黄色)が望ましく、さらに腐食表面1の表面とも識別できる色度(例えば赤色や黄色)に設定されることが好ましい。
【0045】
その上、上記特異標点は、予め設定された配列(例えば、直線上にて互いに等間隔の三連星状の配列)にて複数(図2では、A〜C)であってもよい。上記複数の特異標点A〜Cでも、繰り返し構造を有することが望ましい。このような特異標点を設けることで、投影パターン情報に基づく投影パターン3aと、後述の撮影パターン(撮像パターン)6aとの間での相関、対応関係を、より確実に正確に決定できて、実際の腐食表面1の表面形状に近い測定結果である計測された表面形状の再現性を向上できる。
【0046】
上記表面形状計測装置においては、腐食表面1に対する液晶プロジェクタ3からの投影光4の中心軸である光軸4aの上述した仮想基準線2に対する鋭角である投影角度αを測定または設定するための投影角度設定部(図示せず)が設けられていることが好ましい。
【0047】
また、上記表面形状計測装置では、上記投影パターン3aが投影された状態の腐食表面1の表面からの画像光5を受光して撮影し、得られた撮影パターン6aをデジタル画像信号として出力するデジタルカメラ(カメラ部)6が、その光学的な基点(レンズの位置)を仮想基準線2上に配置して設けられている。デジタルカメラ6としては、画素(ピクセル)数が、100万〜1000万の、例えば300万のカラーCCDカメラが挙げられ、さらに2〜10倍程度の光学ズームを備えたものであってもよい。
【0048】
上記デジタル画像信号には、前記投影パターン3aが腐食表面1の表面形状に応じて変形した撮影パターン6aのデジタル情報が含まれている。さらに、上記デジタル画像信号においては、前記各標点A〜Cの互いの位置関係が腐食表面1の表面形状に応じて変形した各標点A’〜C’のデジタル情報も含まれている。
【0049】
上記デジタルカメラ6への画像光5における光軸5aの仮想基準線2に対する鋭角である受光角度βを測定、または設定するための受光角度設定部(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、上記液晶プロジェクタ3の仮想基準線2上の基点とデジタルカメラ6の仮想基準線2上の基点との間隔lを測定または設定するための間隔設定部(図示せず)が設けられていてもよい。
【0050】
このような仮想基準線2は、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6との相互間の位置関係を決めるためのものであり、よって、腐食表面1の平均化された仮想平面に対して、仮想基準線2は、垂直に設定されると測定が困難になるため好ましくなく、平行であることが望ましいが、特に平行でなくとも計測は可能である。つまり、平行でない場合でも、得られたデジタル画像信号に含まれる撮影パターン6aのデータから補正により平行とすることができる。
【0051】
また、腐食表面1に対する、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6の配置としては、液晶プロジェクタ3から映写されて、腐食表面1上に投影パターン3aが結像され、その結像された投影パターン3aをデジタルカメラ6にて撮影できればよいが、液晶プロジェクタ3からの光4の光軸4aと、デジタルカメラ6への画像光5の光軸5aとが交差するように配置されていることが望ましく、その交差点が腐食表面1の表面より遠くにあることが好ましい。
【0052】
また、前記の投影角度αと受光角度βとが互いに略等しくなるように液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6と互いに配置されていることが望ましい。投影角度αと受光角度βとの各角度が腐食表面1の平均化された仮想計測平面の法線方向に一致することは、腐食表面1上に結像された投影パターン3aが腐食表面1の形状(凹凸)に応じて殆ど変形しなくなるので好ましくない。よって、投影角度αと受光角度βとの各角度は、各光軸4a、5aが、上記法線の向きと一致しない、上記法線に対し傾いた状態に設定されることが望ましい。投影角度αの角度範囲としては、精度上45度程度が望ましいが、90度未満であればよく、受光角度βの角度範囲としては、精度上45度程度が望ましいが、90度未満であればよい。
【0053】
さらに、腐食表面1に対する、液晶プロジェクタ3およびデジタルカメラ6の各仰角はそれぞれゼロが望ましい。各仰角がゼロとは、各光軸4a、5aを含む仮想光軸平面が前述の仮想計測平面の法線方向と平行となることである。
【0054】
上記投影パターン3aおよび撮影パターン6aの各デジタル情報が入力され、上記各デジタル情報に基づき、上記腐食表面1の表面形状を計測するためのパソコン(計測部)7が液晶パネル等の表示部7aを有して設けられている。本実施の形態では、上記パソコン7での上記表面形状の計測において、必要に応じ、投影角度α、受光角度β、および間隔lをデジタルデータとして、ユーザの入力または前述の測定による入力によって加えてもよい。また、上記パソコン7は、投影角度α、受光角度β、および間隔lを設定するために、投影角度設定部、受光角度設定部、間隔設定部を制御する制御部としての機能を予め格納されたプログラム、またはユーザの入力に沿って制御するものであってもよい。
【0055】
上記実施の形態では、液晶プロジェクタ3を用いた例を挙げたが、投影パターン3aを腐食表面1上に形成できるものであればよく、レーザ光を所望する方向に反射するポリゴンミラーにより投影パターン3aを腐食表面1上に形成できる、レーザ投光器であってもよい。上記ポリゴンミラーは、周面が鏡面仕上げされた多角柱形状のものであり、その中心軸を回転軸として回転し、かつ、回転軸を変位して、上記回転している周面に対し、レーザ光を所定のタイミングにて照射し所望の方向に反射させて、所望する位置に照射して所定のパターンを形成できるものである。
【0056】
本発明に係る表面形状計測装置の一実施例としては、例えば図3に示すように、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6との間隔lを50cm、液晶プロジェクタ3の焦点距離を2.62cm、デジタルカメラ6の焦点距離を11.7cm、腐食表面1に対する液晶プロジェクタ3の投影角度αを75度、腐食表面1よりのデジタルカメラ6の受光角度βを75度に設定したものが挙げられる。また、デジタルカメラ6の画素(ピクセル)数は300万のものを用いた。
【0057】
次に、本実施の形態に記載の表面形状計測装置を用いた画像計測による表面形状計測方法について、図4に示すフローチャートに基づき説明する。図3に示すように、まず、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6との間隔l、投影角度αおよび受光角度βを、例えば前記一実施例のように設定して液晶プロジェクタ3およびデジタルカメラ6を固定する(S31)。
【0058】
続いて、鋼の腐食面である腐食表面1に対し液晶プロジェクタ3で、前記の赤色の特異標点を含む、青色の投影パターン3aを互いに隣り合う格子状の各標点の間隔を2mmに設定して投影する(S32)。その後、投影された投影パターン3aをデジタルカメラ6で撮影する(S33)。このとき、デジタルカメラ6では、投影パターン3aは、図5に示すように、腐食表面1の表面形状に応じて変形しており撮影パターン6aとなっている。また、上記の赤色の特異標点は、直線上に連なる赤色ドット6bとなっている。
【0059】
その次に、デジタルカメラ6で撮影した撮影パターン6aを含む画像のデジタル画像信号を、パソコン7にて、上記撮影パターン6a上での標点(例えば、格子の格子点)や特異標点の画素(ピクセル)の位置を、例えば投影パターン3aの格子点といった各標点や各特異標点における、予め設定されている間隔や色度を利用して決定する(S34)。
【0060】
続いて、パソコン7は、パソコン7に予め格納されている表面座標解析プログラムに対し、以下の(1) 投影角度α、受光角度β、(2) 各焦点距離fL、fR、(3) 間隔l、(4) 標点の投影パターン3a上における座標値、(5) 撮影パターン6a上での標点の画素(ピクセル)位置の各データを入力する(S35)。
【0061】
その後、パソコン7は、上記各データ、液晶プロジェクタ3の投影パターン3aの各座標、およびデジタルカメラ6でのCCDの撮影パターン6aの各座標に基づき、各標点の三次元座標を算出して、腐食表面1上の凹凸を計測する。上記生成した腐食面として、図6に示すように、腐食表面1の表面形状を再現した再現表面8が得られる(S36)。再現表面8上では、比較のために、撮影パターン6aに対応した再現撮影パターン8aも示した。
【0062】
以下に、上記腐食面の腐食表面1に対する、上記画像計測により再現された表面形状と、同一の腐食表面1に対する、精度が高いが高価なレーザー計測による表面形状とを比較した。それらの結果は、図7に示すように、上記両者間には高い相関が観察された。つまり、本発明に係る表面形状計測装置および表面形状計測方法は、光学的な手法により非接触での計測であり、かつ、腐食表面1の再現性が優れていることがわかった。
【0063】
よって、本発明の表面形状計測装置および表面形状計測方法は、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6という廉価で、かつ携帯が容易なものを用いることが可能なことにより、低コスト化および計測利便性の向上が可能になると共に、計測の優れた再現性も確保できるものであることが分かる。
【0064】
上記腐食表面1について上記のような表面形状を再現することで、上記腐食面での腐食の程度を計測でき、その腐食の程度によって上記腐食表面1を備えた実構造物の残存耐荷力の評価が可能となる。
【0065】
なお、上記では、腐食表面1としては、鋼を主とする構造物の表面を挙げたが、本発明は、上記構造物の表面形状の計測のみに限定的に適用されるものではなく、凹凸を備えた対象物であれば適用可能であり、例えば、歯車など精密部品、車両の表面計測、顔や指紋の表面計測が挙げられる。
【0066】
さらに、本発明では、測定表面の位置情報もデジタルにて測定できることから、橋やビルディングやダムといった、常に負荷が印加されている建造物(構造物)に対し、経時的な定点観測をすることにより、上記建造物の変形の程度も計測できる。よって、本発明は、上記建造物の経時的な変形の検出にも好適に利用できる。
【0067】
次に、投影パターン3a上と撮影パターン6a上とにおける、互いに対応する同一点の決定方法の一例について説明する。同一点の決定には、各画素(ピクセル)に含まれるRGB値(テキスト化されたもの)を利用する。投影パターン3aのピクセルのRGB値をLR(K,L)、撮影パターン6aのピクセルのRGB値をRR(I,J)とする。図8に示した位置関係にある点を対応点とすると、下記の式(1)のように、対応点同士のRGB値の差の二乗和が最小となるときに、点(I,J)と点(K,L)とが同一点であるとした。この作業をマッチングと呼称する。上記マッチングでは、周囲何ピクセルまで二乗和を取るかは、プログラムの中で自由に設定できるようになっている。
【0068】
【数1】
【0069】
続いて、腐食表面1での凹凸の算出方法の一例について図3、図9ないし図13を用いて説明する。図9において、点Aは、液晶プロジェクタ3の光源位置、点Bはデジタルカメラ6のレンズ位置、点Cは液晶プロジェクタ3の光軸4aとデジタルカメラ6の光軸5aとの交点、点Dは腐食表面1上の点、点Eは、投影パターン3aの原点、点Fは撮影パターン6aの原点、点Gは、投影パターン3a上における点Dに対応する位置、点Hは撮影パターン6a上における点Dに対応する位置を表している。
【0070】
このような撮影条件については図3に示したものを用い、間隔l、α、β、fL、fRは既知であるとする。また、液晶プロジェクタ3、デジタルカメラ6の各仰角はゼロとした。
【0071】
投影パターン3aを示す図10において、点GのX、Y座標をXL、YLとすると、γ、δは次式で表される。
【0072】
γ=tan-1(XL/fL) …(2)
δ=tan-1(YL/(fL2+XL2)1/2) …(3)
撮影パターン6aを示す図11において、点HのX、Y座標をXR、YRとすると、ε、φは次式で表される。
【0073】
ε=tan-1(XR/fR) …(4)
φ=tan-1(YR/(fR2+XR2)1/2) …(5)
図12において、θ1、θ2は、α、β、γ、εを用いて
θ1=α−γ …(6)
θ2=β+ε …(7)
と表すことができる。したがって、θ3は、
θ3=π−(θ1+θ2) …(8)
で表される。
【0074】
また、正弦定理より、
【0075】
【数2】
【0076】
が成り立つので、b、cは、
【0077】
【数3】
【0078】
で表される。
【0079】
したがって、x、zは、θ1、bを用いて、
x=bcosθ1 …(12)
z=bsinθ1 …(13)
で表される。
【0080】
図13において、yは、b、δを用いて、
y=btanδ …(14)
と表すことができる。
【0081】
式(2)ないし式(14)を用いて、x、y、zを書き換えると、
【0082】
【数4】
【0083】
と表される。式(15)ないし式(17)中の記号の内、l、α、β、fL、fRは既知であるので、各点G、Hの各座標(XL、YL)、(XR、YR)が分かれば、点Aを原点としたときの点Dの座標、すなわち腐食表面1上の任意の点での座標が求まることになる。したがって、投影パターン3a、撮影パターン6a上における同一点を決定できれば、撮影された腐食表面1の凹凸を算出することができる。
【0084】
本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法では、前述の再現表面8の生成に続いて、再現表面8をもとに腐食構造物の残存耐荷力解析モデルを作成し、残存耐荷力を評価する。残存耐荷力解析モデルによる、腐食構造物の耐荷力評価は、次の、a)、およびb)の何れかで行う。
【0085】
a)もし、耐荷力を支配する部位と破壊モードが推定できる場合、その部位に限定して簡便に耐荷力を計測することができる。すなわち、特定の部位の形状が、棒状、長方形板状、円筒シェル状であれば、その形状寸法、あるいは形状比のみで既往の解析結果などから耐荷力を求めることができる。
【0086】
例えば、鋼プレートガーター(橋の主桁などに使用されている)の場合、
a−1)その部位が圧縮を受けるフランジであれば、(平均板厚+2×標準偏差)で板厚を定めて座屈評価すればよい。
【0087】
a−2)その部位が引っ張りを受けるフランジであれば、荷重作用方向と直交する幾つかの断面で平均板厚をそれぞれ調べ、それらの最小値を用いて強度評価をすればよい。
【0088】
a−3)その部位が、せん断を受けるウエブであれば、平均板厚を用いて解析すればよい。
【0089】
b)耐荷力を支配する部位と破壊モードとが複数あり、その何れが構造物全体の破壊を支配するか不明のときには、構造物全体に腐食面を生成し、生成した腐食面を用いて有限要素モデル(FEM)解析で耐荷力を算出し、耐荷力を求めればよい。
【0090】
次に、腐食構造物の腐食表面の凹凸形状とその統計的特徴との関係を図14ないし図23に基づき説明する。従来、腐食鋼材の保有強度は、腐食した箇所数点の板厚測定結果から得られた平均板厚を用いて推定されることが多く、これに安全率を考慮した上で維持管理上の判断基準として利用されてきた。
【0091】
このように、平均板厚などの統計量を用いて保有強度を推定することは、簡便であり実務の点で有効であると考えられるが、より高精度で腐食鋼材の保有強度を評価するためには、腐食表面の凹凸状態をより詳細に測定し、その統計的特徴を強度評価に反映させる必要がある。
【0092】
ところが、これまでに腐食表面の凹凸状態を詳細に測定し、その統計的特色について検討した例は少ない。そこで、本発明者らは、約100年共用され廃棄処分となった、腐食が進んだ橋の主桁であるプレートガーターを入手し、そのプレートガーターの各部位の腐食面の凹凸を測定することで、腐食表面の凹凸形状とその統計的特徴との関係を調べた。以下の図14ないし図23に記載の各略号は以下の通りである。tavgは平均板厚、στは板厚の標準偏差、t0は最大板厚(腐食前の板厚)、tminは最小板厚を示す。
【0093】
上記プレートガーターにおける、ウエブ、端補剛板、上フランジおよび下フランジを、それぞれ、せん断実験供試体として、それらの板厚ヒストグラムの測定結果を図14ないし図17にそれぞれ示した。
【0094】
図14に示す、ウエブの板厚ヒストグラムの分布形は、ほぼ左右対称で、最大頻度発生板厚と平均板厚とがほぼ一致している。また、平均腐食深(=1mm)と標準偏差(=0.58mm)は、図14ないし図17に示した4つの供試体中、最小となった。
【0095】
図15に示す、端補剛板の板厚ヒストグラムでは、平均板厚で、最大頻度発生板厚が発生しているが、標準偏差(=0.83mm)が上記ウエブと比較して大きい。これは、端補剛板では、目視にて全体の大きな孔食と層状錆びとが発生しており、より大きい凹凸が形成されていたためと考えられる。
【0096】
図16に示す、上フランジの板厚ヒストグラムにおいては、最大頻度発生板厚と平均板厚とが一致しておらず、標準偏差(=2.49mm)は、図14ないし図17に示した4つの供試体中、最大となった。これは、上フランジでは、目視にて、枕木による局所腐食が支配的な腐食となっていることに起因すると考えられた。
【0097】
図17に示す、下フランジの板厚ヒストグラムでは、平均板厚付近の頻度が群を抜いて高くなっているのが分かる。この下フランジにおいては、目視にて、桁北側の下フランジの上面全体が小さい凹凸を持って腐食しており、この部分の板厚が支配的になっているためと考えられる。また、上記下フランジでは、垂直補剛剤近傍と端補剛板近傍において局所的に減肉しているため、標準偏差も比較的大きくなっている。
【0098】
次に、上記プレートガーターにおける、ウエブ、フランジA1およびフランジA2を、それぞれ、曲げ実験供試体Aとして、それらの板厚ヒストグラムの測定結果を図18ないし図20にそれぞれ示した。なお、これら各供試体Aでは、リベットを有していたが、リベット部の板厚の測定結果は統計量の算定には勘案していない。
【0099】
図18ないし図20から、軽微な腐食が全面に分布するウエブにおいては、せん断実験供試体のウエブと同じ統計的特徴がみられ、平均板厚付近で最大頻度が現れ、かつ標準偏差の小さいヒストグラムの分布形状となった。また、フランジでは、A1、A2ともに腐食が著しく、特にA1では大きな孔食が多数存在することから、標準偏差の大きい分布となっており、必ずしも平均板厚付近に最大頻度は発生していない、つまり平均板厚付近と異なる位置に最大頻度は発生している。
【0100】
最後に、上記プレートガーターにおける、ウエブ、フランジB1およびフランジB2を、それぞれ、曲げ実験供試体Bとして、それらの板厚ヒストグラムの測定結果を図21ないし図23にそれぞれ示した。供試体Bでは、フランジB2以外の腐食は、図21および図22に示すように比較的軽微であり、図21および図22からも平均板厚付近で最大頻度板厚となる分布形が確認された。一方、フランジB2は、供試体Aのフランジとほぼ同じ平均板厚にまで腐食しているが、局所腐食がほとんど存在しないために、フランジB2の標準偏差の値は、各フランジA1、A2の標準偏差の各値より小さいことが分かる。
【0101】
上記の図17ないし図23に示す各結果から、平均板厚と最大頻度板厚との差を平均板厚または最大頻度板厚にて除して標準化した標準化平均値や、標準偏差を最大板厚または平均板厚で除して標準化した標準化偏差値により、腐食構造物の強度を測定できることが分かる。すなわち、上記各結果による、標準化平均値や標準化偏差値の大小によって、腐食の程度および局所腐食の程度も把握できることが分かる。
【0102】
次に、前述の表面形状作成モデルについて説明する。
【0103】
本モデルでは、実構造物は、構造上の特徴や架設箇所などの局地的な環境要因の影響を受けて腐食し、環境要因としては温度や湿度などの気候の影響があるが、海洋環境においては飛来塩分の影響が大きいことから、飛来塩分のような腐食を引き起こす外的因子をアタック因子と呼び、鋼材における腐食表面の腐食進展を上記アタック因子によりモデル化している。すなわち、アタック因子を、腐食表面上において二次元的な各位置へランダムに降らせ、1つのアタック因子は腐食表面に同じ腐食量を与えると仮定している。腐食表面上の腐食は連続的に扱うべきであるが、腐食表面の凹凸形状の表現やその統計的処理を行うために離散化して考えるのが計算量を低減できて好適である。
【0104】
そこで、本モデルにおいては、連続的な腐食表面を図24のように格子点に区切り、上記アタック因子は正方形メッシュを有する格子点上に生成される一方、腐食は腐食表面の深さ方向だけでなく、腐食表面の表面方向の空間的な分布を考慮すれば、より正確度が高くなると考え、上記アタック因子による腐食に対し広がりを考慮して後述するように補正している。
【0105】
アタック因子がある期間ΔTの間に鋼などの腐食表面の格子点に対し、ランダムにn個降り注ぐと仮定する。アタック因子1個による格子点の腐食量は、アタック因子の強さFに起因すると想定する。アタック因子の強さFは、
F(mm/個)=q(mm/(個・mm2))・A(mm2) …(式18)
で表される。
【0106】
ここで、qは単位面積あたりの腐食強さ、Aは格子点の一つの面積である。格子点面積Aは、図24に示すように、灰色の部分の面積を表しており、格子点幅により決まる。
【0107】
また、ある期間ΔTにおける総アタック量は、
Q(mm)=F(mm/個)・n(個) …(式19)
となる。
【0108】
本モデルでの腐食構造物の腐食は、ある期間ΔTごとにこの総アタック量が与えられて、進行していくと仮定している。また腐食進展は、年単位の変化を表せれば十分であると考えて、ΔT=1年とする。
【0109】
経時劣化モデルの概念を図25に示す。ここでは、経過時間T=10(年)、アタック因子の数n=3(個/年)、単位時間ΔT=1(年)を与えている。図25中の○印は、アタック因子を表し、アタック因子が当たった格子点にはアタック因子の強さF(mm)の深さだけの腐食深(仮想腐食孔)ができる。また図25におけるアタック因子の色の変化は、その格子点上にアタック因子が複数回当たっていることを示す。こうして経過時間Tにおける各格子点の独立腐食深が得られる。この隣接点の独立腐食深に空間的な相関関係を持たせるために、空間的自己相関モデル(式20)を適用し統合腐食深を生成する。
【0110】
【数5】
【0111】
続いて、本発明の強度劣化予測方法に係る空間的自己相関モデルについて説明する。まず、腐食がかなり進んだ鋼板の表面形状を観察すると、腐食の激しい領域が広がりを持って分布していることが分かる。奥村、藤井ら(奥村誠、藤井堅、塚井誠人:空間的自己相関を考慮した鋼板腐食形状のモデル化、土木学会論文集 pp109-116,2001.)の空間的自己相関の考え方を適用することにより、空間的に連続して起こる腐食現象を表し、腐食構造物の表面形状を想定した。
【0112】
各々の点での腐食深は、その点だけではなく隣接点からの影響を加味して、腐食深を想定する方がよいと思われる。空間的自己相関モデルでは、その点での独立的な腐食(独立腐食深)を考えることにより、それらが着目点間で空間的に作用され、腐食深を形成すると想定する。空間的自己相関を適用することで、空間的な関連性を持つ腐食深を求めることができる。空間的自己相関モデルは式(20)で表され、これを行列表示すると、以下のようになる。
【0113】
【数6】
【0114】
また、腐食表面における空間的自己相関モデルの概念を図26に示す。腐食表面を格子に区切り、離散化する。空間的自己相関モデルでは、i点の腐食深Ziは、i点自身の独立腐食深viと、その点からある距離(i、j点間の距離dij)離れた格子点jの独立腐食深vjの影響から成り立つと想定する。ρは距離減衰の強さを表すパラメータであり、隣接点からの影響度合いを示す。これまでの研究(前述の土木学会論文集 pp109-116,2001.)によれば、減衰パラメータρは、0.3〜0.5、例えば0.4が好ましいものとして得られている。
【0115】
また、j点からの影響は、二点間の距離によって変化する。j点と着目点iの距離が近ければ、大きく影響しあい、距離が遠くなれば相互の影響は小さくなる。図27では、図26のi点からの距離が異なる点を色分けした3点を用いて、距離減衰の影響の違いを示している。また、前述の式(21)中のΩは空間的な影響を及ぼす領域である。以前までの研究においては、それぞれの点に対し半径50mmの領域を想定している。
【0116】
上記研究に記載の空間的自己相関モデルでは、腐食表面を離散化した格子に置き換え、各格子点に生成される独立腐食深に対して空間的自己相関を適用することにより、腐食表面を作成する。
【0117】
しかし、これまでの空間的自己相関モデルでは、メッシュ幅を変えると、同一点に同じ独立腐食深を与えても、生成される腐食深が異なるという問題が生じる。例として100mm×100mmの鋼板を腐食構造物としてメッシュに区切り、空間的自己相関モデルを用いて、腐食深を生成した場合を検討する。メッシュ幅は10mm、5mm、4mm、2mm、1mmと変えるが、同じ格子点上での独立腐食深は等しくなるようにする。このメッシュ幅を変えて生成した腐食深のある断面の変化を図28に示す。
【0118】
図28から分かるように、メッシュ幅が細かくなればなるほど、腐食深は大きくなる。これは、図29に示すように、図29(a)の5mmメッシュのモデルに比べ、図29(b)の1mmメッシュのモデルの方が、i点でより多くの点から影響を受けるためである。つまり、従来の空間的自己相関モデルでは、格子点に離散化した腐食深を与えており、連続した腐食表面に適用できるようにはなっていない。すなわち、連続した腐食表面において、上記従来の空間的自己相関を適用すると、図30に示すようにi点の腐食深は、ある面積dAを有するj点の独立腐食深の影響を受けることになる。
【0119】
そのため、連続した腐食表面を考えるには、独立腐食深も連続的なものである必要がある。よって、i点の腐食深Ziは、下記の式(22)
【0120】
【数7】
【0121】
と表される。つまり、本発明の空間的自己相関モデルにおいては、連続的なものとしての上記腐食深Ziの体積を、離散化した格子状の各腐食深から算出するために、格子点上の独立腐食深の体積を用い近似して得られている。上記体積は、独立腐食深の深さ(強さ)に独立腐食深の面積をかけて近似的に得られる。例えば、図31(a)に示すように、独立腐食深に格子点の面積をかけて得られた体積と、上記i点との距離とにより、近傍の各独立腐食深の影響を考慮した、上記i点での連続した独立腐食深の体積を近似できる。また図31(b)のように、格子点幅を細かくすれば、各独立腐食深による腐食体積は、上記従来と比べてより正確に実際の腐食体積に近づく。つまり、i点の腐食深Ziは、j点の腐食体積(独立腐食深vと格子点の面積dAの積)に影響を受けることになるが、本発明の空間的自己相関モデルでは、上記の体積を用いる算出により、ある面積におけるi点への影響はメッシュ幅に対する依存性を解消できることになる。
【0122】
本発明の空間的自己相関モデルを、上記のように従来から修正することにより、任意のメッシュに区切って離散化しても、連続的な腐食表面と同等に扱えることが分かる。この修正を行ったモデルによる腐食深は、メッシュ幅を細かくするほど、連続した腐食表面に収斂する。例として、前述と同様に100mm×100mmの鋼板を腐食構造物としてメッシュに区切り、空間的自己相関モデルを用い腐食深を生成し、ある断面における腐食深の変化を図32に示す。図32から分かるように、格子点幅を細かくするにつれ、ある一定の値に収斂しているのが分かる。メッシュ幅を10mmに設定した場合は、生成腐食深の差が大きく精度が低いが、メッシュ幅が5mmであれば、メッシュ幅が1mmとの腐食深の差は0.3mm程であることから、本発明の空間的自己相関モデルで用いる5mm以下のメッシュ幅はほぼ妥当であると判断できる。
【0123】
上記の独立腐食深vは、前述したように、算出した実測腐食深zのデータを用いて、前述の空間的自己相関モデルの逆行列である式(23)から算出できる。
【0124】
【数8】
【0125】
次に、本発明の表面形状作成モデルについて説明する。まず、各格子点での独立腐食深がその格子点での深さ方向にのみ作用するものを表面形状作成モデルとして想定した。このとき、図33(a)〜(d)に示すように、腐食表面1上に想定された格子11の格子幅が小さくなると、格子11の格子点での各独立腐食深の面積11aも小さくなる。図33(a)、(c)は5mm幅、図33(b)、(d)は1mm幅の格子11である。よって、格子点での面積11aは、図33(a)では25mm2であり、図33(b)では1mm2となる。格子点の幅が小さくなれば、全腐食量を一定とすると、格子点数は多くする必要がある。
【0126】
そこで、上記表面形状作成モデルでは、格子点数の変化に応じてアタック因子の数を変化させていた。つまり、アタック因子の数nと全格子点数Nの比n/Nをアタック因子が表面に及ぼす影響面積率とすると、これが一定となるようにアタック因子の数を変化させていた。このアタック因子の数の変化において、5mmメッシュの1つの格子点面積25mm2(図33(a))における独立腐食深の体積は、同じ領域にある1mmメッシュの格子点面積1mm2(図33(b))25個分の独立腐食深の体積と同じでなければならない。従って、図33(c)、(d)に示すように、5mm幅でのアタック因子1個は1mm幅では52倍の25個になり、これが各々の点に降れば得られる独立腐食深の体積は同じものとなる。
【0127】
例えば100mm×100mmの鋼板の場合、格子点幅が5mmであるならば、全格子点数Nは(21×21)の441個になる。格子点幅が1mmであるならば、全格子点数Nは(101×101)の10201個になる。格子点幅5mmのときのnを50個と仮定すると、格子点幅が1mmの時は、(1mmのN=10201)×(5mmのn=50)/(5mmのN=441)となり、1mm幅におけるnは1156個となる。1mmでの打撃点1156個と5mmでの打撃441個を格子点にランダムに与えて、プロットした図が図34である。5mmと1mmにおいて、独立腐食深の総体積は同じであるが、図34から分かるように、アタック因子をランダムに降らせると、独立腐食深の表面形状は全く異なったものとなるのが図34から分かる。
【0128】
この問題を解決するために、本発明の表面形状作成モデルでは、アタック因子に対し、一パラメータとして影響半径rを持たせることで格子11の幅に依存しないモデルを構築している。ここで、アタック因子1個の持つ影響半径をr(mm)とする。アタック因子の強さF、アタック因子の個数nはメッシュ幅に依存せず。単位時間における腐食構造物全体の総アタック体積は
Q=F(mm/個)×πr2(mm2)×n(個) (式24)
となる。
【0129】
また、上述した最初に想定したモデルでは、アタック因子は格子11の各格子点に降ると仮定していたが、本発明の表面形状作成モデルでは、図35に示すように、各格子点ではなく、乱数によって発生させたx、y座標にランダムに降らすことにしている。これにより、腐食の格子幅に依存せずにアタック因子の数と座標を決めることができる。
【0130】
1つのアタック因子は、アタック因子の影響半径r(mm)内にF(mm)の腐食を引き起こすと仮定する。よって、その影響半径r内に存在する格子点に、F(mm)だけの独立腐食深を与える。図35(d)に示すように、一年目のアタック因子によって、影響半径r内にある格子点に独立腐食深□が生成される。
【0131】
また、2年目のアタック因子によって、同じく独立腐食深○が生成される。□と○とが重複している格子点は2年続けてアタックを受けたことを示す。この影響半径r(mm)を大きくすると、アタック因子1個により多くの格子点に腐食を発生させることになる。この独立腐食深を、以前のモデルと同じく、ある一定期間について積分すると、各格子点にアタック量が蓄積されていき、経過時間Tにおける独立腐食深が生成される。
【0132】
このようにして、求めた独立腐食深に空間的な広がりを考慮するために、本発明の表面形状作成モデルにおいては、補正した空間的自己相関(式25)の考えを取り入れて腐食深を求めている。
【0133】
【数9】
【0134】
次に、上記アタック因子の打撃点の設定法について説明する。一様整数乱数の発生法としては、本発明では、乗算合同式法により(0、1)間の一様実数乱数列を作成した。乗算合同式法は、
漸化式:Nj+1=K*Nj mod M …(式26)
によって、数列を作る方法である。これは、K、Mを整定数として、整数NjをK倍した数をMで割った余りを次のNj+1として数列を与えるものである。しかし、同じ初期値からは完全に一致した数列しか与えられないし、M回繰り返せば初期値と同じ値が表れて周期数列になってしまう。そこで、この周期をできるだけ長くするように、
K=48828125、M=231 …(式27)
とした擬似一様乱数を用いた。これを1、2、3・・・Nの一様整数乱数にするために、N倍して整数部を取り出して用いた。
【0135】
次に、打撃点の生成について説明する。まず、本発明の表面形状作成モデルでは、打撃点の座標軸を0.1mmピッチで考えている。例えば、x座標が0から100までであった場合、これを、0.0から100.0までの0.1mmピッチの1000個の値とする。これを10倍し、0から1000までとみなす。この範囲の中で、一様整数乱数を発生させた後、再び10で割ることにより出てきた数値をx座標値とした。こうすれば、0.1mmピッチの乱数列が得られる。また初期値を変えて同様の方法を行えば、y座標も乱数列で発生させることができる。この座標値で表せる点を、腐食表面の平面上に落ちる打撃点の座標値とした。x座標(0〜100)、y座標(0〜−100)において、打撃点を一様乱数で発生させた時の頻度分布が図36である。本来一様乱数は範囲内において、どの値も出現頻度は等しくなくてはならない。図36に示すように、作成した一様乱数の頻度には多少のばらつきがあるものの、平均して均等に発生できていると思われる。
【0136】
続いて、表面形状作成モデルにおけるパラメータについての検討結果を以下に示す。
(1)アタック因子の影響半径rと格子11のメッシュ幅について
図37(a)に示すように、前節で述べた独立腐食深の生成法において、アタック因子1個につき半径r(mm)以内にF(mm)の深さの腐食が生成される。図37(b)のように、経過時間T後の累計総アタック体積は、下記の式(28)
【0137】
【数10】
【0138】
と表せる。dAは格子点面積である。独立腐食深は連続的なものであるが、本モデルでは離散的な点の集まりとして扱っている。図37(c)のように、メッシュ幅を密に取れば、(c)のように粗く取ったときよりも、累計総アタック体積は実際の腐食深を区分求積した値に近くなる。そこで、メッシュ幅と影響半径rとの関係について調べるために、10cm四方の腐食面にメッシュ幅を変えながら独立腐食深を与えてみた。メッシュ幅は、基準となる0.5mmの他に、1、3、5、10mmとする。パラメータはn=100(個)、F=0.01(mm/個)、T=20(年)として、影響半径r=1.0mm、3.0mm、5.0mm、10.0mmと変化させた。その結果を、x座標軸において、各格子点で独立腐食深をプロットした図が、図38である。図38に示すように、r=1.0mmやr=3.0mmの場合、メッシュ幅が5mmや10mmのときは、この独立腐食深の形状を十分には捉えておらず、大きな差が現れているのが分かる。
【0139】
これに対して、図39に示すように、影響半径がr=5.0mmやr=10.0mmであれば、メッシュ幅が大きくても、独立腐食深の変化を大まかに捉えることが可能である。メッシュ幅2mmのときは、r=3.0mm以上でメッシュ幅0.5mmとほぼ同じ独立腐食深の形状を捉えており、またメッシュ幅5mmの時もr=5.0mm以上であれば、形状を捉えることができることが図39から分かる。
【0140】
つまり、(影響半径r/メッシュ幅)>1.0を超えれば、総アタック体積に近い値を取り出すことができる。しかし、メッシュ幅を10mmのように粗く取った場合は、やはり総アタック体積との差が大きくなることが分かる。
【0141】
続いて、アタック量Fとアタック数nと影響半径rとの関係について説明する。まず、本発明のモデルの腐食表面形状はアタック因子の強さFとその半径r、及びアタック因子の個数nによって、決定される。単位時間当たりの総アタック体積(前述の式24)を一定とした場合、経過時間が同じであれば平均腐食量はほとんど同じである。例として、腐食構造物(鋼板)の寸法100mm×100mmでメッシュ幅を2mmとして、総アタック量を一定にして、表1に示すように、n、F、rをそれぞれ変化させた。n=100(個)、F=0.001(mm/年(year))、r=5(mm)を基準として、これを、表1の(a)とする。rを一定としてn、Fを変化させたものが、表1の(b)、(c)である。nを一定としてr、Fを変化させたものが、表1の(d)、(e)である。さらに、Fを一定として、n、rを変化させたものが、表1の(f)、(g)となる。
【0142】
アタック因子の数nを多くするか、またはアタック因子の影響半径rを狭くすると、標準偏差が小さくなる。一方、アタック因子の数nを少なくするか影響半径rを広くすると、標準偏差が大きくなるのが表1から分かる。
【0143】
【表1】
【0144】
次に、本発明の表面形状作成モデルによる予測腐食深と実測腐食深との比較結果について説明する。まず、本来であれば塗膜無しのモデル化の場合、塗膜がない耐候性鋼材などの腐食データとの比較を行うべきであるが、そのような鋼材の形状のデータを得られなかったので、前述したプレートガーダー橋の100年経過時の腐食表面とを比較する。プレートガーダー橋の部材の実腐食データから一部(100mm×100mm)を切りだして、比較を行った。パラメータの決め方は以下の方法で決める。
【0145】
前述の式(23)で述べたように、実測腐食深に、空間的自己相関モデルの逆行列をか けることにより、各点での独立腐食深が求まる。この独立腐食深の全積分値(総和)が式(28)におけるアタック体積Qであり、Qは、F、n、rによって決定される。
【0146】
いままでに、スペクトルから、影響半径rは、3mm〜8mmでよいことが分かっているので、r=3mm、5mm、8mmとそれぞれ設定し、Qを実測値に合わせてFとnとを変化させて、平均腐食深と標準偏差(凹凸量の指標値)を求めると、図40および図41に示すようになる。実測値による標準偏差は、nにより変化するから、実測値の標準偏差と図中の曲線との交点に対応するnが求まり、式(24)からアタック因子の強さFを求めることができる。
【0147】
図42ないし図45は、実測板厚のヒストグラムおよび等高線と、上記の手法で求めた板厚のヒストグラムおよび等高線とをそれぞれ比較したものである。図42ないし図45から分かるように、モデルで作成した板厚は、実測値をよく表現していることが分かる。
【0148】
すなわち、前述の式(23)で述べたように、実測腐食深に、空間的自己相関モデルの逆行列をかけることにより、各点での独立腐食深が求まる。この独立腐食深の総和が総アタック体積である(図37(b)、式28)。この総アタック体積Qの値から、nとFを変化させて、実際の腐食表面の標準偏差(凹凸量の指標値)に近くなるようにnとFとを決める。
【0149】
図46、図47、図48に、フランジ、ウェブ、エンドプレートの等高線図、及び腐食深のヒストグラムを示す。図46〜48の(a)は、それぞれ実測腐食深であり、図46〜48の(c)、(e)は、それぞれ予測腐食深(腐食表面モデル)を表す。
【0150】
上記実測腐食深や各予測腐食深を、それらの深さ(mm)毎に示す図46〜48の各(b)、(d)、(f)の各ヒストグラムから分かるように、平均値・標準偏差を等しくすれば、実測腐食深とモデルによる予測腐食深のヒストグラムの形状はほぼ等しいものが生成される。
【0151】
ただし、ウェブでは、最大頻度が大きく異なる。しかし、等高線図を見る限り、似たような形状を表現できているといえる。また、図46〜48の(c)、(d)を比較すると、影響半径rにより、生成される腐食表面は異なるといえる。この影響半径rを変えることで、実際の腐食表面の波形に近い形を表現できると考えられる。影響半径rの値は、今後実腐食表面とモデルによる腐食表面の波形を示す前述のパワースペクトルを用いて、決定できる。
【0152】
次に、塗膜劣化を考慮した、本発明の強度劣化予測方法の表面形状作成モデルの適用性について説明する。まず、塗装の塗膜が十分な防食効果を果たしている状態である間は、腐食の進行は緩やかになる。腐食進展をモデル化するには、塗膜の防食性能の劣化(つまり、塗膜の一状態である、ピンホールの発生や、ひび割れ、はがれの発生による劣化)を考慮する必要がある。そこで、上述した表面形状作成モデルに塗膜の影響を考慮することにより、腐食の進展を予測できるモデルを作成する。さらに、腐食橋梁部材の実測腐食深と比較することにより、このモデルの適用性について検討した。
【0153】
塗膜を考慮した腐食表面のモデル化
実際の橋梁では表面に塗膜処理が施されており、塗装が防食の役目を果たしている。そのため、実際の腐食の進行を考える上で塗膜の防食効果を考える必要がある。塗膜があれば、腐食のスピードは緩やかになるし、塗膜が劣化するにつれ腐食が進みやすくなる。つまり、実際のプレートガーダー橋の腐食表面と比較を行うためにはこのような塗膜による腐食スピードの差を考慮しなければならない。また、塗膜は定期的に塗り替えが行われており、その都度、腐食の進行が変わる。塗膜の影響を考慮することにより、腐食の進展を実現象に近い形で表せることが可能となる。
【0154】
塗膜の耐久年数は塗装の種類によって異なるが、大体以下の表2のようになる。
【0155】
【表2】
【0156】
そこで本モデルの塗膜劣化の想定法を以下に示す。まず、腐食構造物に施された塗膜は、時間がたつにつれ徐々に剥がれ落ちるものと想定され、塗膜の劣化は、塗膜に生じる細かいピット(腐食孔)に起因すると考えられる。塗膜のピットでは腐食要因の影響を受け、腐食が進行する。時間経過と共に塗膜が劣化すれば、この塗膜のピット数は多くなり、腐食の影響を強く受けるようになる。また、塗膜が剥がれた場所では、周りの塗膜も徐々に剥がれ落ちると考えられる。
【0157】
本表面形状作成モデルでは、全格子点に対し塗膜能力TMを与えて、塗膜の劣化を表現する。図49に示すように、塗膜の耐用年数期間内で、ある期間毎(図49では互いに隣り合う各○印の間の時間)に、この塗膜能力(防食能力)を1づつ減らす。つまり、TM値が0(所定値)以下になると、塗膜がない状態で、TM=1なら最初の○印の時間後に塗膜がなくなる、つまり防食能力が無いと認定されることを示している。
【0158】
また、塗膜は初期状態ではほとんど劣化しておらず、時間経過に従い急激に劣化するもとと想定される。よって、最初に格子点に塗膜能力を与える際に、TM=0の塗膜能力を持つ格子点は少なく、TM=5の塗膜能力を持つ格子点は多くなるように、割合を変える。塗膜の塗り替えが行われれば、塗膜能力を再び全格子点に与えて繰り返す。また、ある点の塗膜が剥がれると、徐々に周りの塗膜も剥がれていくと設定されている。
【0159】
本表面形状作成モデルでは、この塗膜の広がりを図50のように考えている。ピットにアタック因子が落ちると同時に、一年ごとにそのピットは徐々に広がっていくと想定する。このピットの広がりにおいて、隣接する格子点がこの広がりの中に入った場合は、塗膜能力が0になる。ただし、ピットがどのように広がるか調べた先行技術はなく、本発明ではアタック因子が落ちた後、ピットが1年に1mmずつ広がっていくと想定している。
【0160】
続いて、塗膜を考慮した表面形状作成モデルによる予測腐食深と実測腐食深との比較結果を以下に示す。以上のことを踏まえ、100年経過した実測腐食深の平均値と標準偏差が、同じになるように表面形状作成モデルを作成する。今回、腐表面測定に用いた供試体は、幾度か塗膜塗り替えが行われていると思われるが、実際の塗膜履歴は十分に把握できていない。そこで、本発明では塗膜の塗替えを30年と仮定した。塗膜の耐用年数は塗膜の種類によって異なるが、表2に示すように、海岸部に配置された腐食構造物の場合約20年ほどである。よって、塗膜の耐用年数は20年とした。
【0161】
また、最初と、途膜塗り替えの時に与える塗膜能力の割合は、TM=1が全体の2%、TM=2が5%、TM=3が8%、TM=4が10%、TM=5が75%と仮定した。このようにして、モデル化を行った結果を示す。図51は、実際のフランジの腐食深と、本発明の表面形状作成モデルによる予測腐食深の等高線図とヒストグラムとをそれぞれ比較したものである。実測腐食深とモデルの予測腐食深の各ヒストグラムと比較すると、よく似ているといえる。
【0162】
また、本モデルによる塗膜の劣化を、塗膜劣化率曲線として示したものが図52である。最初の10年ほどは、ピット数も少なく塗膜劣化率は小さいが、耐用年数の20年が近くなると、塗膜の広がりと塗膜能力の減少により、塗膜劣化が急激に進んでいる。これは、図49のような塗膜劣化曲線をうまく表現できていると思われる。
【0163】
また、パラメータを一定にして、経過年数を変化させることで、図53に示すように、各経過時間(20年後、60年後)における予測腐食表面をそれぞれ作成できる。
【0164】
また、エンドプレートについても上記の方法で、腐食表面を再現した結果を、図54に示す。また、図55には、100年後のモデルから求めた20年後、60年後として、予測した各予測腐食表面のモデルをそれぞれ示す。エンドプレートにおいても、等高線図による比較において視覚的に、またヒストグラムにおいても、実際の腐食表面のヒストグラムと似たような形状を捉えることができていると判断される。
【0165】
以上のように、本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法では、アタック因子という概念を用いて空間的にまた時間的に変化する腐食表面を、塗装の防食効果を考慮して表面形状作成モデル化した。この表面形状作成モデルによる予測腐食深と腐食構造物(鋼材)の実測腐食深とを比較することにより、その適用性について検討された結果を以下に示す。
【0166】
(1)腐食深は周囲の腐食体積に影響を受けるように空間的自己相関モデルを補正し、またアタック因子に影響半径を持たせることにより、表面形状作成モデルをより一般性のあるモデルにできた。その結果、本表面形状作成モデルは、腐食表面をメッシュに区切って離散化してもメッシュ間隔に対する依存性を低減できて、再現性を向上できることを示した。
【0167】
(2)アタック因子の強さF、個数n、影響半径rを各パラメータとして用いることにより、経時劣化を考慮できる表面形状作成モデルを開発した。本表面形状作成モデルでは、パラメータを変化させることにより、種々の腐食表面形状を作成できる。得られた予測腐食深と、実測腐食深の表面形状を比較した結果、表面形状作成モデルで生成した予測腐食深は、実際の腐食表面に近い腐食状態を作成できることが分かった。この腐食進展のモデル化は、強度解析による腐食構造物の耐力低下を推定する際に有効である。
【0168】
(3)塗膜による防食性能の低下を、塗膜能力TMを用いることにより表現した。この塗膜能力による塗膜の劣化は、実際の塗膜劣化を十分に表現できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の腐食構造物における強度劣化測定方法は、対象の腐食構造物に係る腐食表面の将来の表面形状を再現性よく予測できるので、上記腐食構造物における将来の強度劣化を、上記将来の表面形状から、より正確に予測できる。
【0170】
この結果、本発明の強度劣化測定方法は、鋼橋、各種の鉄管、鋼製水門、鉄塔、貯蔵タンク、ビルディングなどの対象構造物の表面形状を、再現性よく、かつ非接触にて計測できるから、上記対象構造物の経年劣化や腐食度の診断と、その診断結果に基づく補修・補強対策、更新などの判断に有用な表面形状に関する将来データを、より確実に提供できるので、土木や建築の用途に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測測定方法を示すフローチャートである。
【図2】上記強度劣化予測方法に用いる表面形状計測装置を示す概略構成図である。
【図3】上記表面形状計測装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図4】本発明に係る強度劣化予測方法の実施の一形態を示すフローチャートである。
【図5】上記強度劣化予測方法での一ステップを示す、投影パターンが投影された腐食表面の平面図である。
【図6】上記強度劣化予測方法での他のステップを示す、腐食表面1の表面形状を再現した再現表面と、再現表面上に比較のための撮影パターンに対応した再現撮影パターンとを示した斜視図である。
【図7】上記画像計測により再現された表面形状と、同一の腐食表面に対するレーザー計測による表面形状とを比較したグラフである。
【図8】上記強度劣化予測方法における、投影パターン上と撮影パターン上とにおける、互いに対応する同一点の決定方法の一例を示す、投影パターンおよび撮影パターンの正面図である。
【図9】上記強度劣化予測方法における、腐食表面の凹凸を計測する方法を示す概略構成図である。
【図10】上記図9の要部概略構成図である。
【図11】上記図9の他の要部概略構成図である。
【図12】上記強度劣化予測方法における、計算式のための概略構成図である。
【図13】上記強度劣化予測方法における、他の計算式のための概略構成図である。
【図14】上記強度劣化予測方法における、腐食構造物としてのプレートガーターのせん断実験供試体としての対象部位(ウエブ)の板厚ヒストグラムである。
【図15】上記プレートガーターにおけるせん断実験供試体としての他の対象部位(端補剛板)の板厚ヒストグラムである。
【図16】上記プレートガーターにおけるせん断実験供試体としてのさらに他の対象部位(上フランジ)の板厚ヒストグラムである。
【図17】上記プレートガーターにおけるせん断実験供試体としてのさらに他の対象部位(下フランジ)の板厚ヒストグラムである。
【図18】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Aとしての対象部位(ウエブ)の板厚ヒストグラムである。
【図19】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Aとしての他の対象部位(フランジA1)の板厚ヒストグラムである。
【図20】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Aとしてのさらに他の対象部位(フランジA2)の板厚ヒストグラムである。
【図21】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Bとしての対象部位(ウエブ)の板厚ヒストグラムである。
【図22】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Bとしての他の対象部位(フランジB1)の板厚ヒストグラムである。
【図23】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Bとしてのさらに他の対象部位(フランジB2)の板厚ヒストグラムである。
【図24】上記強度劣化予測方法における、格子点の面積を示す平面図である。
【図25】上記強度劣化予測方法における、表面形状形成モデルの経時的な概念を示す平面図であり、(a)は1年目、(b)は2年目、(c)は10年目を示す。
【図26】上記強度劣化予測方法における、空間的自己相関モデルの概念を示す平面図である。
【図27】上記強度劣化予測方法における、一つの腐食深と、その周囲の他の腐食深との距離による影響を示すグラフである。
【図28】上記強度劣化予測方法における、メッシュ幅の違いによる予測腐食深の深さをそれぞれ示すグラフである。
【図29】上記メッシュ幅の違いによる、周囲の他の腐食深からの影響をそれぞれ示すグラフであり、(a)はメッシュ幅が5mmのとき、(b)はメッシュ幅が1mmのときを示す。
【図30】上記連続的な空間的自己相関モデルの概念を示す平面図である。
【図31】上記空間的自己相関モデルでの、メッシュ幅の違いによる独立腐食深の体積の近似を示す概略断面図を示し、(a)メッシュ幅が5mmのとき、(b)はメッシュ幅が1mmのときを示す。
【図32】上記空間的自己相関モデルでの、メッシュ幅の違いによる予測腐食深の深さをそれぞれ示すグラフである。
【図33】上記強度劣化予測方法における、メッシュ(格子点)幅の違いによるアタック因子の影響を示し、(a)はメッシュ幅が5mmのときの平面図、(b)はメッシュ幅が1mmのときの平面図、(c)はメッシュ幅が5mmのときの断面図、(d)はメッシュ幅が1mmのときの断面図を示す。
【図34】上記強度劣化予測方法における、腐食平面に対する各アタック因子による打撃点の各プロットを示す平面図である。
【図35】上記強度劣化予測方法における、表面形状形成モデルの経時的な概念を示す平面図である。
【図36】上記強度劣化予測方法における、アタック因子のランダムな配置のための、座標値の一様乱数列のヒストグラムであり、(a)はx座標、(b)はy座標を示す。
【図37】上記強度劣化予測方法における、アタック因子による予測腐食深の形成を示し、(a)はアタック因子の概念断面図、(b)は上記アタック因子による予測腐食深の断面図、(c)はメッシュ幅が小さい場合の予測腐食深の断面図、(d)はメッシュ幅が大きい場合の予測腐食深の断面図を示す。
【図38】上記強度劣化予測方法における、パラメータの影響半径rの変化による、独立の予測腐食深の変化を示すグラフであり、(a)はr=1.0mmのときを示し、(b)はr=3.0mmのときを示す。
【図39】上記強度劣化予測方法における、パラメータの影響半径rの変化による、独立の予測腐食深の変化を示すグラフであり、(a)はr=5.0mmのときを示し、(b)はr=10mmのときを示す。
【図40】上記強度劣化予測方法における、各影響半径(r=3mm、5mm、8mm)のとき、nを変化させたときの平均腐食量の変化を示すグラフである。
【図41】上記強度劣化予測方法における、各影響半径(r=3mm、5mm、8mm)のとき、nを変化させたときの標準偏差の変化を示すグラフである。
【図42】腐食表面の実測値を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図43】上記強度劣化予測方法における、影響半径(r=3mm)としたときの予測腐食量を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図44】上記強度劣化予測方法における、影響半径(r=5mm)としたときの予測腐食量を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図45】上記強度劣化予測方法における、影響半径(r=8mm)としたときの予測腐食量を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図46】上記強度劣化予測方法における、用いたフランジでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は他のモデル化による予測腐食深の等高線図、(f)は上記他のモデル化での予測腐食深のヒストグラム、(g)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図47】上記強度劣化予測方法における、用いたウェブでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は他のモデル化による予測腐食深の等高線図、(f)は上記他のモデル化での予測腐食深のヒストグラム、(g)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図48】上記強度劣化予測方法における、用いたエンドプレートでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は他のモデル化による予測腐食深の等高線図、(f)は上記他のモデル化での予測腐食深のヒストグラム、(g)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図49】上記強度劣化予測方法における、塗膜劣化の概念を示すグラフである。
【図50】上記強度劣化予測方法における、アタック因子による塗膜劣化の広がりを示す平面図である。
【図51】上記強度劣化予測方法における、塗膜を有するフランジでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図52】上記強度劣化予測方法における、30年毎に塗り替えられる塗膜劣化の経時的な予測を示すグラフである。
【図53】上記フランジにおける、100年経過の腐食表面からの各パラメータによる表面形状作成モデルに基づく予測腐食表面を示し、(a)は20年後の上記予測腐食表面の等高線図、(b)は60年後の上記予測腐食表面の等高線図、(c)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図54】上記強度劣化予測方法における、塗膜を有するエンドプレートでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図55】上記エンドプレートにおける、100年経過の腐食表面からの各パラメータによる表面形状作成モデルに基づく予測腐食表面を示し、(a)は20年後の上記予測腐食表面の等高線図、(b)は60年後の上記予測腐食表面の等高線図である。
【符号の説明】
【0172】
S2 腐食表面計測
S3 計測結果の統計評価
S4 強度評価解析
S11 腐食劣化進展予測
S12 強度劣化予測
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食により、表面形状が変化して強度が低下する、橋等の腐食鋼構造物といった腐食構造物における将来的な強度変化を予測するための腐食構造物の強度劣化予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国において、鋼橋等の既設の鋼を主とする構造物の多くにおいては、それらの供用期間が40年〜60年以上になり、上記構造物の腐食による強度低下が問題となっており、腐食構造物の補修などといった適切な維持管理が必要になってきた。
【0003】
上記維持管理では、上記腐食構造物の崩壊の危険性が大きくなると上記腐食構造物を更新することも含まれており、よって、上記腐食構造物の現時点での強度測定だけではなく、先々の補修や更新を予め計画しておいてライフサイクルコストをできるだけ小さくするために、腐食構造物の将来の強度劣化予測方法が求められている。
【0004】
そのような将来の強度劣化予測方法としては、現在の強度に対し、仮想的に関数(例えばルートT(Tは時間)にて強度の計測数値を割る)を当てはめて、将来の強度を仮想的に想定する方法や、今までの強度の経時的な変化を高次関数(3次や4次)に当てはめ、将来の強度を予測する方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法では、腐食構造物の将来の腐食状態ではなく、その将来の強度変化(劣化)を予測しているため、将来の実際の腐食状態による強度と予測した強度との間にずれが生じ易く、強度劣化予測が正確にできないという課題を生じている。
【0006】
その上、従来では、対象となっている腐食構造物のライフサイクルコストを評価し、経済合理性を有する構造物の維持管理に好適な強度劣化予測のために、将来の腐食表面形状を、今までの腐食表面形状の計測データからより正確に予測できる表面形状作成モデルは知られていなかった。
【0007】
本発明は、上記の各課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的、簡便な構成にて、現在の腐食表面形状を計測し、その現在の腐食表面形状から将来の腐食表面形状をより正確に予測して、その予測された腐食表面形状から、将来の強度を評価できる表面形状作成モデルを含む、腐食構造物の強度劣化予測方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測方法は、上記課題を解決するために、(1) 腐食構造物の腐食表面形状を、非接触かつ三次元的に測定し、(2) パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、(3) 上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、(4) 上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測することを特徴としている。
【0009】
上記方法によれば、三次元的にて実際に測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出することで、上記腐食表面形状が置かれた環境や、上記腐食構造物の素材や塗膜の有無も含めた状態での、腐食の進行状態を示すことが可能な表面形状作成モデルを上記算出されたパラメータにより作成できる。
【0010】
これにより、上記方法では、腐食の進行状態を実情に合わせて示すことが可能な表面形状作成モデルを用いることで、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出して上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測することが、より正確に可能となる。
【0011】
この結果、上記方法は、上記強度の測定を、非接触式にて、腐食表面から離れた位置から実行できるから、上記測定を非破壊的に実行できると共に、現在までの実際の凹凸量を含む腐食表面形状により、将来の腐食構造物の強度をより正確に算出できるから、経済合理性を有する構造物の維持管理に好適な強度劣化予測を、今までの腐食表面形状の計測データからより正確に予測できることにより、対象となっている腐食構造物のライフサイクルコストをより正確に評価できる。
【0012】
上記強度劣化予測方法においては、前記表面形状作成モデルは、所定間隔の格子点を複数想定し、上記各格子点での凹凸量にそれぞれ換算して上記各凹凸量を腐食形状として測定するものであってもよい。上記強度劣化予測方法では、前記所定間隔を、5mm以下に設定してもよい。上記所定間隔としては、2mm以下が好ましく、上記所定間隔が0.1mm未満と小さくなると計算量が大きくなるがそれに見合う精度の向上が認められないので、0.1mm以上、より望ましくは0.5mm以上が挙げられる。
【0013】
前記表面形状作成モデルでは、対象の腐食表面上に、パラメータとしての深さFの仮想腐食孔をランダムに、パラメータとしての単位時間当たりの所定数を、仮想的にそれぞれ形成してもよい。上記強度劣化予測方法においては、前記仮想腐食孔に、パラメータとしての半径rの影響半径を設定してもよい。
【0014】
上記強度劣化予測方法では、前記表面形状作成モデルにおいて、上記格子点に対する前記各仮想腐食孔による影響を空間的自己相関モデルにより考慮した上記各格子点での凹凸量を腐食形状として測定するとき、上記影響する仮想腐食孔の体積を用いてもよい。
【0015】
上記強度劣化予測方法においては、前記腐食表面形状を非接触式、かつ三次元にて測定することは、腐食構造物の表面に光パターンを投影し、上記腐食表面上の光パターンを撮像して撮像パターンを得た後、上記光パターンと撮像パターンとにより腐食構造物の表面形状を三次元にて測定してもよい。
【0016】
上記強度劣化予測方法では、前記腐食構造物の腐食表面形状の測定を、互いに異なる時期に複数回実施してもよい。上記強度劣化予測方法においては、前記腐食構造物は、腐食鋼構造物であってもよい。
【0017】
上記強度劣化予測方法においては、前記腐食表面形状は、塗装の塗膜の状態であり、上記塗膜の劣化を、塗膜表面上の格子点にて数値化して上記格子点での防食能力を算出し、経時的な塗膜劣化を格子点での時間経過と共に変化する防食能力として算出し、上記防食能力が所定値以下となったとき、腐食進展が発生したと認定するものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測方法は、以上のように、腐食構造物の腐食表面形状を非接触かつ三次元的に測定し、パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測する方法である。
【0019】
それゆえ、上記方法は、腐食表面形状が置かれた環境や、上記腐食構造物の素材や塗膜の有無も含めた状態での、腐食の進行状態を示すことが可能な表面形状作成モデルを上記算出されたパラメータにより作成できる。
【0020】
これにより、上記方法では、腐食の進行状態を実情に合わせて示すことが可能な表面形状作成モデルを用いることで、上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測することをより正確に可能となる。
【0021】
この結果、上記方法は、上記強度の測定を、非接触式にて、腐食表面から離れた位置から実行できるから、上記測定を非破壊的に実行できると共に、現在までの実際の凹凸量を含む腐食表面形状により、将来の腐食構造物の強度劣化をより正確に算出できるから、経済合理性を有する構造物の維持管理に好適な強度劣化予測を、今までの腐食表面形状の計測データからより正確に予測できて、対象となっている腐食構造物のライフサイクルコストをより正確に評価できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測方法の一実施形態について図1ないし図49に基づいて説明すると以下の通りである。上記強度劣化予測方法は、時を経ることにより腐食が進行した、橋などの鋼構造物といった腐食構造物に関する、実体に即した損傷評価、残存耐力評価、ライフサイクルコスト評価などの精度を向上できて実用化でき、上記腐食構造物の維持・管理・更新の技術の体系化に好適なものである。損傷評価(健全度評価)とは、発見された腐食損傷が、対象となる構造物に要求される性能(例えば、構造物の強度)をどの程度低下させているかを評価することである。
【0023】
上記強度劣化予測方法は、図1に示すように、点検工程(ステップ1、以下、ステップをSと略記する、S2)、評価工程(S3、S4)およびメンテナンス計画工程(S11〜13)を有している。また、現時点での、腐食構造物の強度評価方法としては、上記点検工程、上記評価工程および対処工程(S5、S7、S8、S9およびS10)を備えていればよい。
【0024】
上記点検工程では、まず、強度劣化予測対象となる腐食構造物の腐食表面の塗膜や錆びを除去する(ステップ1、以下、ステップをSと略記する)。上記腐食表面の凹凸形状を、非接触式にかつ三次元的に腐食表面上の凹凸形状を計測する(S2)。上記腐食表面上の凹凸形状の計測には、後述する表面形状計測方法を用いることができるが、他の測定方法、例えばレーザラインプローブを用いた多関節式三次元計測装置を用いることもできる。上記計測では、非接触式が好ましいが、接触式も使用できる。
【0025】
なお、上記S1は、計測に支障がなければ省くことができるし、また、塗膜の保護機能の劣化を測定する場合には、その塗膜の表面形状(塗膜の保護機能劣化)を予測対象としてそのまま測定してもよい。また、上記対象となる腐食表面としては、例えば鋼構造物の腐食は水仕舞の悪い箇所に集中して現れることがすでにわかっているので、点検における腐食表面形状は、腐食しやすい箇所で、強度解析上必要な箇所に限って測定すればよい。
【0026】
その後、計測結果の統計評価(S3)により表面形状の評価を行う。上記統計評価では、計測した腐食表面形状を、不規則波形として解析する。つまり、計測された仮想の腐食表面に対し、互いに平行な10本以上の、通常は1000本以下の測線を仮想的にそれぞれ設定する。その後、各側線上で256点以上の、通常は25600点以下での各腐食量に基づく不規則波形に対するフーリエ解析からパワースペクトル、クロススペクトルをそれそれ求める。
【0027】
上記パワースペクトル分析は、SZ:パワースペクトル密度(mm3)、Zavg:平均腐食量(mm)、σZ:標準偏差(mm)、λ:波数(1/mm)とすると、
{[λSZ(λ)]/σZ2}=f(λ・Zavg)
にて表される。上記パワースペクトル分析では、平均腐食量と支配的波長との間に比例関係、すなわち平均腐食量が小さければ波長は短く、反対に平均腐食量が大きければ波長は長くなることが分かっている。
【0028】
上記表面形状の評価のときには、別に、可変な各パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用いる。上記表面形状作成モデルは、可変な各パラメータを変化させることで、対象の腐食表面の形状を再現したり、復元したりできるものである。上記表面形状作成モデルを用い、三次元的にて実際に測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出する。この算出方法については後述する。上記パラメータとしては、位置的にランダムに設定される各仮想腐食孔の、深さ(強さ)F、単位時間(通常は1年)当たりの所定の設定数、周囲(腐食表面の表面方向)への空間的な影響の程度を示す影響半径rがそれぞれ挙げられる。
【0029】
また、求めた各スペクトルを元に空間的自己相関(Spatial Auto-Correlation)法で計測した腐食面と同じ統計量を有する腐食面を適切なメッシュ(格子)間隔(通常は5mm以下、より好ましくは2mm以下)にて生成する。上記空間的自己相関法とは、腐食表面形状の不規則波形を、定常正規確率過程と見なして、その腐食量の各統計値(平均値、標準偏差、自己相関関数、相互相関関数)により不規則波面を生成する方法である。上記統計評価においては、各腐食深さに対応する出現頻度を示すヒストグラムも使用される。上記統計評価に基づき、表面形状の評価を解析する(S4)。このとき、上記パワースペクトルの波長は、仮想腐食孔の影響半径rに対応しており、上記波長から上記半径rを算出することが可能である。
【0030】
続いて、上記S4に記載の解析結果から、対象となる腐食構造物が健全の範囲内である、要観察すなわち健全な範囲と危険な範囲との中間の範囲内である、および、危険な範囲内である、の何れであるか判別する(S5)。上記判別の結果、対象となる腐食構造物が健全の範囲内であれば、その使用を継続する供用となる(S6)。このとき、上記腐食対象物の表面形状の計測による強度劣化を、通常点検時の間隔によって経時的に順次計測する。
【0031】
一方、上記判別結果が要観察、すなわち健全な範囲と危険な範囲との中間の範囲内の場合、対象の腐食構造物をモニタリングつまり表面計測の間隔を、通常点検時の間隔より短くして経時的に順次計測する(S7)。
【0032】
また、上記判別結果が危険な範囲内の際には、その危険の程度を判断し(S8)、上記S8において、当面の間、補修・補強で危険な範囲外とすることができると判断されるとき、上記腐食構造物を補修・補強して(S9)、健全な範囲内または要観察の範囲内とする。上記S8において、補修・補強で危険な範囲外とすることができないと判断されるとき、上記腐食構造物を廃棄したり、架け替え等の更新したりする(S10)。上記S5、S7、S8、S9およびS10は対処工程という。
【0033】
続いて、前記S3に記載の表面形状の解析による今までの経時的な複数の各結果データである各表面形状から、それら各表面形状の凹凸量に合うように表面形状形成モデルの各パラメータを算出し、それら各パラメータによる上記表面形状形成モデルによる、将来の表面形状を将来時間の外挿により上記腐食構造物の腐食劣化の進展程度を示す将来の表面形状を予測する(S11)。
【0034】
その後、上記将来の表面形状に基づき、腐食構造物の将来の強度劣化を経時的に予測する(S12)。その強度劣化予測に基づき、上記腐食構造物に対する、検査計画や補修計画を立案する(S13)。その後は、所定期間毎に、前述のS1に戻り、S1〜S13を繰り返す。上記S11、S12およびS13は、メンテナンス計画工程という。
【0035】
このように本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法では、対象となる構造物において、発見された初期の腐食に対して、できるだけ詳しくその腐食の程度の変化を経時的に計測しておき、それらの結果データを統計的に処理し、点検工程毎に、その計測結果を蓄積しておく。
【0036】
得られた各計測結果から、FEM(有限要素)解析などにより強度の要求性能解析を行って、現時点での保有性能が要求性能を満たしているか否かを判断し、適切な対策を講じる。パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、さらに蓄積された結果データである、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出する。
【0037】
続いて、上記パラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出して上記腐食構造物における将来の腐食進展の変化(強度劣化)を上記将来の腐食表面形状から予測し、それを元に保有性能(強度)の劣化予測を行う。
【0038】
上記予測された将来の腐食表面形状からの保有性能(強度)の劣化予測の方法としては、上記予測された将来の腐食表面形状に対する有限要素法解析、あるいは簡易強度推定法などが挙げられる。上記有限要素法解析は、板要素あるいは立体要素を用い、板要素にて有限要素法解析を行う場合、要素の大きさは1辺20mm以下が好ましく、板厚は要素内における予測された表面形状の格子点での板厚の平均板厚、および中央面の位置は、予測された表面形状の格子点での偏心量の平均値を用いてよい。また、簡易強度推定法は、上記予測された将来の腐食表面形状から得られる厚さの平均値や標準偏差などの統計指標を用いたものである。
【0039】
その後、上記保有性能の劣化予測に基づき、社会情勢(景気など)や最新技術(新規で安価な工法の開発)などもふまえて維持管理計画を見直し、修正して、対象となる構造物のライフサイクルコストをできるだけ小さく設定、つまりライフサイクルコストの最適化(極小化)を図ることができる。
【0040】
次に、本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法に用いた表面形状計測方法の一例について説明する。まずは、上記表面形状計測方法に用いた表面形状計測装置の構成について説明する。上記表面形状計測装置では、図2に示すように、計測対象の腐食表面1に対し、予め設定された投影パターン情報に基づく投影パターン(光パターン)3aを投影するための液晶プロジェクタ(投影部)3が、その光学的な基点(光源の位置)を仮想基準線2上に配置して設けられている。
【0041】
液晶プロジェクタ3は、図示しないが、光源と、その光源からの光に対し、上記投影パターン情報に基づく投影パターン3aを形成するための液晶パネルとを有している。上記投影パターン情報は、アナログ情報でもデジタル情報でもよいが、投影パターンに関する位置情報と共に色情報を含むデジタル情報が後述の画面処理の利便性から好ましい。
【0042】
上記投影パターン3aは、投影パターン情報に基づいて、腐食表面1の表面の色と相違し、腐食表面1の表面の色に対して識別できる測定色(望ましくは対照色(補色))の光点を標点として含むものであればよく、例えば繰り返し構造を有するメッシュ状(四角の格子状、グリッド状)のパターンに設定されている。よって、投影パターン3aの色は、腐食表面1が腐食表面のように黒または濃い灰色の場合は、白色が好ましい。上記パターンとしては、四角の格子状以外に、三角形や五角形でもよく、また、間隔が予め設定された点の集合体でもよい。上記投影パターン3aが格子状の各標点を有する場合、互いに隣り合う各標点の間隔は、上記腐食表面の状態により異なるが、10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに再現性高めるには2mm以下が望ましい。
【0043】
また、液晶プロジェクタ3は、上記投影パターンの形状や間隔といった細部の位置情報をデジタル情報により記憶しておくためのメモリ(記憶部)と、上記投影パターンのデジタル情報から、上記投影パターン3aを液晶パネルの各画素にて形成するためのドライバとを、図示していないが、備えている。
【0044】
さらに、上記投影パターン情報は、上記腐食表面1上において、パターン画像と光学的に区別できる、例えば輝度、色度、および彩度の少なくとも一つが相違するドット状の光点である特異標点をさらに上記投影パターン3a内の予め設定された位置に含むようになっていてもよい。また、上記特異標点は、輝度、色度、および彩度の内、色度を相違させること(投影パターン3aが例えば青色の場合、赤色や黄色)が望ましく、さらに腐食表面1の表面とも識別できる色度(例えば赤色や黄色)に設定されることが好ましい。
【0045】
その上、上記特異標点は、予め設定された配列(例えば、直線上にて互いに等間隔の三連星状の配列)にて複数(図2では、A〜C)であってもよい。上記複数の特異標点A〜Cでも、繰り返し構造を有することが望ましい。このような特異標点を設けることで、投影パターン情報に基づく投影パターン3aと、後述の撮影パターン(撮像パターン)6aとの間での相関、対応関係を、より確実に正確に決定できて、実際の腐食表面1の表面形状に近い測定結果である計測された表面形状の再現性を向上できる。
【0046】
上記表面形状計測装置においては、腐食表面1に対する液晶プロジェクタ3からの投影光4の中心軸である光軸4aの上述した仮想基準線2に対する鋭角である投影角度αを測定または設定するための投影角度設定部(図示せず)が設けられていることが好ましい。
【0047】
また、上記表面形状計測装置では、上記投影パターン3aが投影された状態の腐食表面1の表面からの画像光5を受光して撮影し、得られた撮影パターン6aをデジタル画像信号として出力するデジタルカメラ(カメラ部)6が、その光学的な基点(レンズの位置)を仮想基準線2上に配置して設けられている。デジタルカメラ6としては、画素(ピクセル)数が、100万〜1000万の、例えば300万のカラーCCDカメラが挙げられ、さらに2〜10倍程度の光学ズームを備えたものであってもよい。
【0048】
上記デジタル画像信号には、前記投影パターン3aが腐食表面1の表面形状に応じて変形した撮影パターン6aのデジタル情報が含まれている。さらに、上記デジタル画像信号においては、前記各標点A〜Cの互いの位置関係が腐食表面1の表面形状に応じて変形した各標点A’〜C’のデジタル情報も含まれている。
【0049】
上記デジタルカメラ6への画像光5における光軸5aの仮想基準線2に対する鋭角である受光角度βを測定、または設定するための受光角度設定部(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、上記液晶プロジェクタ3の仮想基準線2上の基点とデジタルカメラ6の仮想基準線2上の基点との間隔lを測定または設定するための間隔設定部(図示せず)が設けられていてもよい。
【0050】
このような仮想基準線2は、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6との相互間の位置関係を決めるためのものであり、よって、腐食表面1の平均化された仮想平面に対して、仮想基準線2は、垂直に設定されると測定が困難になるため好ましくなく、平行であることが望ましいが、特に平行でなくとも計測は可能である。つまり、平行でない場合でも、得られたデジタル画像信号に含まれる撮影パターン6aのデータから補正により平行とすることができる。
【0051】
また、腐食表面1に対する、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6の配置としては、液晶プロジェクタ3から映写されて、腐食表面1上に投影パターン3aが結像され、その結像された投影パターン3aをデジタルカメラ6にて撮影できればよいが、液晶プロジェクタ3からの光4の光軸4aと、デジタルカメラ6への画像光5の光軸5aとが交差するように配置されていることが望ましく、その交差点が腐食表面1の表面より遠くにあることが好ましい。
【0052】
また、前記の投影角度αと受光角度βとが互いに略等しくなるように液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6と互いに配置されていることが望ましい。投影角度αと受光角度βとの各角度が腐食表面1の平均化された仮想計測平面の法線方向に一致することは、腐食表面1上に結像された投影パターン3aが腐食表面1の形状(凹凸)に応じて殆ど変形しなくなるので好ましくない。よって、投影角度αと受光角度βとの各角度は、各光軸4a、5aが、上記法線の向きと一致しない、上記法線に対し傾いた状態に設定されることが望ましい。投影角度αの角度範囲としては、精度上45度程度が望ましいが、90度未満であればよく、受光角度βの角度範囲としては、精度上45度程度が望ましいが、90度未満であればよい。
【0053】
さらに、腐食表面1に対する、液晶プロジェクタ3およびデジタルカメラ6の各仰角はそれぞれゼロが望ましい。各仰角がゼロとは、各光軸4a、5aを含む仮想光軸平面が前述の仮想計測平面の法線方向と平行となることである。
【0054】
上記投影パターン3aおよび撮影パターン6aの各デジタル情報が入力され、上記各デジタル情報に基づき、上記腐食表面1の表面形状を計測するためのパソコン(計測部)7が液晶パネル等の表示部7aを有して設けられている。本実施の形態では、上記パソコン7での上記表面形状の計測において、必要に応じ、投影角度α、受光角度β、および間隔lをデジタルデータとして、ユーザの入力または前述の測定による入力によって加えてもよい。また、上記パソコン7は、投影角度α、受光角度β、および間隔lを設定するために、投影角度設定部、受光角度設定部、間隔設定部を制御する制御部としての機能を予め格納されたプログラム、またはユーザの入力に沿って制御するものであってもよい。
【0055】
上記実施の形態では、液晶プロジェクタ3を用いた例を挙げたが、投影パターン3aを腐食表面1上に形成できるものであればよく、レーザ光を所望する方向に反射するポリゴンミラーにより投影パターン3aを腐食表面1上に形成できる、レーザ投光器であってもよい。上記ポリゴンミラーは、周面が鏡面仕上げされた多角柱形状のものであり、その中心軸を回転軸として回転し、かつ、回転軸を変位して、上記回転している周面に対し、レーザ光を所定のタイミングにて照射し所望の方向に反射させて、所望する位置に照射して所定のパターンを形成できるものである。
【0056】
本発明に係る表面形状計測装置の一実施例としては、例えば図3に示すように、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6との間隔lを50cm、液晶プロジェクタ3の焦点距離を2.62cm、デジタルカメラ6の焦点距離を11.7cm、腐食表面1に対する液晶プロジェクタ3の投影角度αを75度、腐食表面1よりのデジタルカメラ6の受光角度βを75度に設定したものが挙げられる。また、デジタルカメラ6の画素(ピクセル)数は300万のものを用いた。
【0057】
次に、本実施の形態に記載の表面形状計測装置を用いた画像計測による表面形状計測方法について、図4に示すフローチャートに基づき説明する。図3に示すように、まず、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6との間隔l、投影角度αおよび受光角度βを、例えば前記一実施例のように設定して液晶プロジェクタ3およびデジタルカメラ6を固定する(S31)。
【0058】
続いて、鋼の腐食面である腐食表面1に対し液晶プロジェクタ3で、前記の赤色の特異標点を含む、青色の投影パターン3aを互いに隣り合う格子状の各標点の間隔を2mmに設定して投影する(S32)。その後、投影された投影パターン3aをデジタルカメラ6で撮影する(S33)。このとき、デジタルカメラ6では、投影パターン3aは、図5に示すように、腐食表面1の表面形状に応じて変形しており撮影パターン6aとなっている。また、上記の赤色の特異標点は、直線上に連なる赤色ドット6bとなっている。
【0059】
その次に、デジタルカメラ6で撮影した撮影パターン6aを含む画像のデジタル画像信号を、パソコン7にて、上記撮影パターン6a上での標点(例えば、格子の格子点)や特異標点の画素(ピクセル)の位置を、例えば投影パターン3aの格子点といった各標点や各特異標点における、予め設定されている間隔や色度を利用して決定する(S34)。
【0060】
続いて、パソコン7は、パソコン7に予め格納されている表面座標解析プログラムに対し、以下の(1) 投影角度α、受光角度β、(2) 各焦点距離fL、fR、(3) 間隔l、(4) 標点の投影パターン3a上における座標値、(5) 撮影パターン6a上での標点の画素(ピクセル)位置の各データを入力する(S35)。
【0061】
その後、パソコン7は、上記各データ、液晶プロジェクタ3の投影パターン3aの各座標、およびデジタルカメラ6でのCCDの撮影パターン6aの各座標に基づき、各標点の三次元座標を算出して、腐食表面1上の凹凸を計測する。上記生成した腐食面として、図6に示すように、腐食表面1の表面形状を再現した再現表面8が得られる(S36)。再現表面8上では、比較のために、撮影パターン6aに対応した再現撮影パターン8aも示した。
【0062】
以下に、上記腐食面の腐食表面1に対する、上記画像計測により再現された表面形状と、同一の腐食表面1に対する、精度が高いが高価なレーザー計測による表面形状とを比較した。それらの結果は、図7に示すように、上記両者間には高い相関が観察された。つまり、本発明に係る表面形状計測装置および表面形状計測方法は、光学的な手法により非接触での計測であり、かつ、腐食表面1の再現性が優れていることがわかった。
【0063】
よって、本発明の表面形状計測装置および表面形状計測方法は、液晶プロジェクタ3とデジタルカメラ6という廉価で、かつ携帯が容易なものを用いることが可能なことにより、低コスト化および計測利便性の向上が可能になると共に、計測の優れた再現性も確保できるものであることが分かる。
【0064】
上記腐食表面1について上記のような表面形状を再現することで、上記腐食面での腐食の程度を計測でき、その腐食の程度によって上記腐食表面1を備えた実構造物の残存耐荷力の評価が可能となる。
【0065】
なお、上記では、腐食表面1としては、鋼を主とする構造物の表面を挙げたが、本発明は、上記構造物の表面形状の計測のみに限定的に適用されるものではなく、凹凸を備えた対象物であれば適用可能であり、例えば、歯車など精密部品、車両の表面計測、顔や指紋の表面計測が挙げられる。
【0066】
さらに、本発明では、測定表面の位置情報もデジタルにて測定できることから、橋やビルディングやダムといった、常に負荷が印加されている建造物(構造物)に対し、経時的な定点観測をすることにより、上記建造物の変形の程度も計測できる。よって、本発明は、上記建造物の経時的な変形の検出にも好適に利用できる。
【0067】
次に、投影パターン3a上と撮影パターン6a上とにおける、互いに対応する同一点の決定方法の一例について説明する。同一点の決定には、各画素(ピクセル)に含まれるRGB値(テキスト化されたもの)を利用する。投影パターン3aのピクセルのRGB値をLR(K,L)、撮影パターン6aのピクセルのRGB値をRR(I,J)とする。図8に示した位置関係にある点を対応点とすると、下記の式(1)のように、対応点同士のRGB値の差の二乗和が最小となるときに、点(I,J)と点(K,L)とが同一点であるとした。この作業をマッチングと呼称する。上記マッチングでは、周囲何ピクセルまで二乗和を取るかは、プログラムの中で自由に設定できるようになっている。
【0068】
【数1】
【0069】
続いて、腐食表面1での凹凸の算出方法の一例について図3、図9ないし図13を用いて説明する。図9において、点Aは、液晶プロジェクタ3の光源位置、点Bはデジタルカメラ6のレンズ位置、点Cは液晶プロジェクタ3の光軸4aとデジタルカメラ6の光軸5aとの交点、点Dは腐食表面1上の点、点Eは、投影パターン3aの原点、点Fは撮影パターン6aの原点、点Gは、投影パターン3a上における点Dに対応する位置、点Hは撮影パターン6a上における点Dに対応する位置を表している。
【0070】
このような撮影条件については図3に示したものを用い、間隔l、α、β、fL、fRは既知であるとする。また、液晶プロジェクタ3、デジタルカメラ6の各仰角はゼロとした。
【0071】
投影パターン3aを示す図10において、点GのX、Y座標をXL、YLとすると、γ、δは次式で表される。
【0072】
γ=tan-1(XL/fL) …(2)
δ=tan-1(YL/(fL2+XL2)1/2) …(3)
撮影パターン6aを示す図11において、点HのX、Y座標をXR、YRとすると、ε、φは次式で表される。
【0073】
ε=tan-1(XR/fR) …(4)
φ=tan-1(YR/(fR2+XR2)1/2) …(5)
図12において、θ1、θ2は、α、β、γ、εを用いて
θ1=α−γ …(6)
θ2=β+ε …(7)
と表すことができる。したがって、θ3は、
θ3=π−(θ1+θ2) …(8)
で表される。
【0074】
また、正弦定理より、
【0075】
【数2】
【0076】
が成り立つので、b、cは、
【0077】
【数3】
【0078】
で表される。
【0079】
したがって、x、zは、θ1、bを用いて、
x=bcosθ1 …(12)
z=bsinθ1 …(13)
で表される。
【0080】
図13において、yは、b、δを用いて、
y=btanδ …(14)
と表すことができる。
【0081】
式(2)ないし式(14)を用いて、x、y、zを書き換えると、
【0082】
【数4】
【0083】
と表される。式(15)ないし式(17)中の記号の内、l、α、β、fL、fRは既知であるので、各点G、Hの各座標(XL、YL)、(XR、YR)が分かれば、点Aを原点としたときの点Dの座標、すなわち腐食表面1上の任意の点での座標が求まることになる。したがって、投影パターン3a、撮影パターン6a上における同一点を決定できれば、撮影された腐食表面1の凹凸を算出することができる。
【0084】
本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法では、前述の再現表面8の生成に続いて、再現表面8をもとに腐食構造物の残存耐荷力解析モデルを作成し、残存耐荷力を評価する。残存耐荷力解析モデルによる、腐食構造物の耐荷力評価は、次の、a)、およびb)の何れかで行う。
【0085】
a)もし、耐荷力を支配する部位と破壊モードが推定できる場合、その部位に限定して簡便に耐荷力を計測することができる。すなわち、特定の部位の形状が、棒状、長方形板状、円筒シェル状であれば、その形状寸法、あるいは形状比のみで既往の解析結果などから耐荷力を求めることができる。
【0086】
例えば、鋼プレートガーター(橋の主桁などに使用されている)の場合、
a−1)その部位が圧縮を受けるフランジであれば、(平均板厚+2×標準偏差)で板厚を定めて座屈評価すればよい。
【0087】
a−2)その部位が引っ張りを受けるフランジであれば、荷重作用方向と直交する幾つかの断面で平均板厚をそれぞれ調べ、それらの最小値を用いて強度評価をすればよい。
【0088】
a−3)その部位が、せん断を受けるウエブであれば、平均板厚を用いて解析すればよい。
【0089】
b)耐荷力を支配する部位と破壊モードとが複数あり、その何れが構造物全体の破壊を支配するか不明のときには、構造物全体に腐食面を生成し、生成した腐食面を用いて有限要素モデル(FEM)解析で耐荷力を算出し、耐荷力を求めればよい。
【0090】
次に、腐食構造物の腐食表面の凹凸形状とその統計的特徴との関係を図14ないし図23に基づき説明する。従来、腐食鋼材の保有強度は、腐食した箇所数点の板厚測定結果から得られた平均板厚を用いて推定されることが多く、これに安全率を考慮した上で維持管理上の判断基準として利用されてきた。
【0091】
このように、平均板厚などの統計量を用いて保有強度を推定することは、簡便であり実務の点で有効であると考えられるが、より高精度で腐食鋼材の保有強度を評価するためには、腐食表面の凹凸状態をより詳細に測定し、その統計的特徴を強度評価に反映させる必要がある。
【0092】
ところが、これまでに腐食表面の凹凸状態を詳細に測定し、その統計的特色について検討した例は少ない。そこで、本発明者らは、約100年共用され廃棄処分となった、腐食が進んだ橋の主桁であるプレートガーターを入手し、そのプレートガーターの各部位の腐食面の凹凸を測定することで、腐食表面の凹凸形状とその統計的特徴との関係を調べた。以下の図14ないし図23に記載の各略号は以下の通りである。tavgは平均板厚、στは板厚の標準偏差、t0は最大板厚(腐食前の板厚)、tminは最小板厚を示す。
【0093】
上記プレートガーターにおける、ウエブ、端補剛板、上フランジおよび下フランジを、それぞれ、せん断実験供試体として、それらの板厚ヒストグラムの測定結果を図14ないし図17にそれぞれ示した。
【0094】
図14に示す、ウエブの板厚ヒストグラムの分布形は、ほぼ左右対称で、最大頻度発生板厚と平均板厚とがほぼ一致している。また、平均腐食深(=1mm)と標準偏差(=0.58mm)は、図14ないし図17に示した4つの供試体中、最小となった。
【0095】
図15に示す、端補剛板の板厚ヒストグラムでは、平均板厚で、最大頻度発生板厚が発生しているが、標準偏差(=0.83mm)が上記ウエブと比較して大きい。これは、端補剛板では、目視にて全体の大きな孔食と層状錆びとが発生しており、より大きい凹凸が形成されていたためと考えられる。
【0096】
図16に示す、上フランジの板厚ヒストグラムにおいては、最大頻度発生板厚と平均板厚とが一致しておらず、標準偏差(=2.49mm)は、図14ないし図17に示した4つの供試体中、最大となった。これは、上フランジでは、目視にて、枕木による局所腐食が支配的な腐食となっていることに起因すると考えられた。
【0097】
図17に示す、下フランジの板厚ヒストグラムでは、平均板厚付近の頻度が群を抜いて高くなっているのが分かる。この下フランジにおいては、目視にて、桁北側の下フランジの上面全体が小さい凹凸を持って腐食しており、この部分の板厚が支配的になっているためと考えられる。また、上記下フランジでは、垂直補剛剤近傍と端補剛板近傍において局所的に減肉しているため、標準偏差も比較的大きくなっている。
【0098】
次に、上記プレートガーターにおける、ウエブ、フランジA1およびフランジA2を、それぞれ、曲げ実験供試体Aとして、それらの板厚ヒストグラムの測定結果を図18ないし図20にそれぞれ示した。なお、これら各供試体Aでは、リベットを有していたが、リベット部の板厚の測定結果は統計量の算定には勘案していない。
【0099】
図18ないし図20から、軽微な腐食が全面に分布するウエブにおいては、せん断実験供試体のウエブと同じ統計的特徴がみられ、平均板厚付近で最大頻度が現れ、かつ標準偏差の小さいヒストグラムの分布形状となった。また、フランジでは、A1、A2ともに腐食が著しく、特にA1では大きな孔食が多数存在することから、標準偏差の大きい分布となっており、必ずしも平均板厚付近に最大頻度は発生していない、つまり平均板厚付近と異なる位置に最大頻度は発生している。
【0100】
最後に、上記プレートガーターにおける、ウエブ、フランジB1およびフランジB2を、それぞれ、曲げ実験供試体Bとして、それらの板厚ヒストグラムの測定結果を図21ないし図23にそれぞれ示した。供試体Bでは、フランジB2以外の腐食は、図21および図22に示すように比較的軽微であり、図21および図22からも平均板厚付近で最大頻度板厚となる分布形が確認された。一方、フランジB2は、供試体Aのフランジとほぼ同じ平均板厚にまで腐食しているが、局所腐食がほとんど存在しないために、フランジB2の標準偏差の値は、各フランジA1、A2の標準偏差の各値より小さいことが分かる。
【0101】
上記の図17ないし図23に示す各結果から、平均板厚と最大頻度板厚との差を平均板厚または最大頻度板厚にて除して標準化した標準化平均値や、標準偏差を最大板厚または平均板厚で除して標準化した標準化偏差値により、腐食構造物の強度を測定できることが分かる。すなわち、上記各結果による、標準化平均値や標準化偏差値の大小によって、腐食の程度および局所腐食の程度も把握できることが分かる。
【0102】
次に、前述の表面形状作成モデルについて説明する。
【0103】
本モデルでは、実構造物は、構造上の特徴や架設箇所などの局地的な環境要因の影響を受けて腐食し、環境要因としては温度や湿度などの気候の影響があるが、海洋環境においては飛来塩分の影響が大きいことから、飛来塩分のような腐食を引き起こす外的因子をアタック因子と呼び、鋼材における腐食表面の腐食進展を上記アタック因子によりモデル化している。すなわち、アタック因子を、腐食表面上において二次元的な各位置へランダムに降らせ、1つのアタック因子は腐食表面に同じ腐食量を与えると仮定している。腐食表面上の腐食は連続的に扱うべきであるが、腐食表面の凹凸形状の表現やその統計的処理を行うために離散化して考えるのが計算量を低減できて好適である。
【0104】
そこで、本モデルにおいては、連続的な腐食表面を図24のように格子点に区切り、上記アタック因子は正方形メッシュを有する格子点上に生成される一方、腐食は腐食表面の深さ方向だけでなく、腐食表面の表面方向の空間的な分布を考慮すれば、より正確度が高くなると考え、上記アタック因子による腐食に対し広がりを考慮して後述するように補正している。
【0105】
アタック因子がある期間ΔTの間に鋼などの腐食表面の格子点に対し、ランダムにn個降り注ぐと仮定する。アタック因子1個による格子点の腐食量は、アタック因子の強さFに起因すると想定する。アタック因子の強さFは、
F(mm/個)=q(mm/(個・mm2))・A(mm2) …(式18)
で表される。
【0106】
ここで、qは単位面積あたりの腐食強さ、Aは格子点の一つの面積である。格子点面積Aは、図24に示すように、灰色の部分の面積を表しており、格子点幅により決まる。
【0107】
また、ある期間ΔTにおける総アタック量は、
Q(mm)=F(mm/個)・n(個) …(式19)
となる。
【0108】
本モデルでの腐食構造物の腐食は、ある期間ΔTごとにこの総アタック量が与えられて、進行していくと仮定している。また腐食進展は、年単位の変化を表せれば十分であると考えて、ΔT=1年とする。
【0109】
経時劣化モデルの概念を図25に示す。ここでは、経過時間T=10(年)、アタック因子の数n=3(個/年)、単位時間ΔT=1(年)を与えている。図25中の○印は、アタック因子を表し、アタック因子が当たった格子点にはアタック因子の強さF(mm)の深さだけの腐食深(仮想腐食孔)ができる。また図25におけるアタック因子の色の変化は、その格子点上にアタック因子が複数回当たっていることを示す。こうして経過時間Tにおける各格子点の独立腐食深が得られる。この隣接点の独立腐食深に空間的な相関関係を持たせるために、空間的自己相関モデル(式20)を適用し統合腐食深を生成する。
【0110】
【数5】
【0111】
続いて、本発明の強度劣化予測方法に係る空間的自己相関モデルについて説明する。まず、腐食がかなり進んだ鋼板の表面形状を観察すると、腐食の激しい領域が広がりを持って分布していることが分かる。奥村、藤井ら(奥村誠、藤井堅、塚井誠人:空間的自己相関を考慮した鋼板腐食形状のモデル化、土木学会論文集 pp109-116,2001.)の空間的自己相関の考え方を適用することにより、空間的に連続して起こる腐食現象を表し、腐食構造物の表面形状を想定した。
【0112】
各々の点での腐食深は、その点だけではなく隣接点からの影響を加味して、腐食深を想定する方がよいと思われる。空間的自己相関モデルでは、その点での独立的な腐食(独立腐食深)を考えることにより、それらが着目点間で空間的に作用され、腐食深を形成すると想定する。空間的自己相関を適用することで、空間的な関連性を持つ腐食深を求めることができる。空間的自己相関モデルは式(20)で表され、これを行列表示すると、以下のようになる。
【0113】
【数6】
【0114】
また、腐食表面における空間的自己相関モデルの概念を図26に示す。腐食表面を格子に区切り、離散化する。空間的自己相関モデルでは、i点の腐食深Ziは、i点自身の独立腐食深viと、その点からある距離(i、j点間の距離dij)離れた格子点jの独立腐食深vjの影響から成り立つと想定する。ρは距離減衰の強さを表すパラメータであり、隣接点からの影響度合いを示す。これまでの研究(前述の土木学会論文集 pp109-116,2001.)によれば、減衰パラメータρは、0.3〜0.5、例えば0.4が好ましいものとして得られている。
【0115】
また、j点からの影響は、二点間の距離によって変化する。j点と着目点iの距離が近ければ、大きく影響しあい、距離が遠くなれば相互の影響は小さくなる。図27では、図26のi点からの距離が異なる点を色分けした3点を用いて、距離減衰の影響の違いを示している。また、前述の式(21)中のΩは空間的な影響を及ぼす領域である。以前までの研究においては、それぞれの点に対し半径50mmの領域を想定している。
【0116】
上記研究に記載の空間的自己相関モデルでは、腐食表面を離散化した格子に置き換え、各格子点に生成される独立腐食深に対して空間的自己相関を適用することにより、腐食表面を作成する。
【0117】
しかし、これまでの空間的自己相関モデルでは、メッシュ幅を変えると、同一点に同じ独立腐食深を与えても、生成される腐食深が異なるという問題が生じる。例として100mm×100mmの鋼板を腐食構造物としてメッシュに区切り、空間的自己相関モデルを用いて、腐食深を生成した場合を検討する。メッシュ幅は10mm、5mm、4mm、2mm、1mmと変えるが、同じ格子点上での独立腐食深は等しくなるようにする。このメッシュ幅を変えて生成した腐食深のある断面の変化を図28に示す。
【0118】
図28から分かるように、メッシュ幅が細かくなればなるほど、腐食深は大きくなる。これは、図29に示すように、図29(a)の5mmメッシュのモデルに比べ、図29(b)の1mmメッシュのモデルの方が、i点でより多くの点から影響を受けるためである。つまり、従来の空間的自己相関モデルでは、格子点に離散化した腐食深を与えており、連続した腐食表面に適用できるようにはなっていない。すなわち、連続した腐食表面において、上記従来の空間的自己相関を適用すると、図30に示すようにi点の腐食深は、ある面積dAを有するj点の独立腐食深の影響を受けることになる。
【0119】
そのため、連続した腐食表面を考えるには、独立腐食深も連続的なものである必要がある。よって、i点の腐食深Ziは、下記の式(22)
【0120】
【数7】
【0121】
と表される。つまり、本発明の空間的自己相関モデルにおいては、連続的なものとしての上記腐食深Ziの体積を、離散化した格子状の各腐食深から算出するために、格子点上の独立腐食深の体積を用い近似して得られている。上記体積は、独立腐食深の深さ(強さ)に独立腐食深の面積をかけて近似的に得られる。例えば、図31(a)に示すように、独立腐食深に格子点の面積をかけて得られた体積と、上記i点との距離とにより、近傍の各独立腐食深の影響を考慮した、上記i点での連続した独立腐食深の体積を近似できる。また図31(b)のように、格子点幅を細かくすれば、各独立腐食深による腐食体積は、上記従来と比べてより正確に実際の腐食体積に近づく。つまり、i点の腐食深Ziは、j点の腐食体積(独立腐食深vと格子点の面積dAの積)に影響を受けることになるが、本発明の空間的自己相関モデルでは、上記の体積を用いる算出により、ある面積におけるi点への影響はメッシュ幅に対する依存性を解消できることになる。
【0122】
本発明の空間的自己相関モデルを、上記のように従来から修正することにより、任意のメッシュに区切って離散化しても、連続的な腐食表面と同等に扱えることが分かる。この修正を行ったモデルによる腐食深は、メッシュ幅を細かくするほど、連続した腐食表面に収斂する。例として、前述と同様に100mm×100mmの鋼板を腐食構造物としてメッシュに区切り、空間的自己相関モデルを用い腐食深を生成し、ある断面における腐食深の変化を図32に示す。図32から分かるように、格子点幅を細かくするにつれ、ある一定の値に収斂しているのが分かる。メッシュ幅を10mmに設定した場合は、生成腐食深の差が大きく精度が低いが、メッシュ幅が5mmであれば、メッシュ幅が1mmとの腐食深の差は0.3mm程であることから、本発明の空間的自己相関モデルで用いる5mm以下のメッシュ幅はほぼ妥当であると判断できる。
【0123】
上記の独立腐食深vは、前述したように、算出した実測腐食深zのデータを用いて、前述の空間的自己相関モデルの逆行列である式(23)から算出できる。
【0124】
【数8】
【0125】
次に、本発明の表面形状作成モデルについて説明する。まず、各格子点での独立腐食深がその格子点での深さ方向にのみ作用するものを表面形状作成モデルとして想定した。このとき、図33(a)〜(d)に示すように、腐食表面1上に想定された格子11の格子幅が小さくなると、格子11の格子点での各独立腐食深の面積11aも小さくなる。図33(a)、(c)は5mm幅、図33(b)、(d)は1mm幅の格子11である。よって、格子点での面積11aは、図33(a)では25mm2であり、図33(b)では1mm2となる。格子点の幅が小さくなれば、全腐食量を一定とすると、格子点数は多くする必要がある。
【0126】
そこで、上記表面形状作成モデルでは、格子点数の変化に応じてアタック因子の数を変化させていた。つまり、アタック因子の数nと全格子点数Nの比n/Nをアタック因子が表面に及ぼす影響面積率とすると、これが一定となるようにアタック因子の数を変化させていた。このアタック因子の数の変化において、5mmメッシュの1つの格子点面積25mm2(図33(a))における独立腐食深の体積は、同じ領域にある1mmメッシュの格子点面積1mm2(図33(b))25個分の独立腐食深の体積と同じでなければならない。従って、図33(c)、(d)に示すように、5mm幅でのアタック因子1個は1mm幅では52倍の25個になり、これが各々の点に降れば得られる独立腐食深の体積は同じものとなる。
【0127】
例えば100mm×100mmの鋼板の場合、格子点幅が5mmであるならば、全格子点数Nは(21×21)の441個になる。格子点幅が1mmであるならば、全格子点数Nは(101×101)の10201個になる。格子点幅5mmのときのnを50個と仮定すると、格子点幅が1mmの時は、(1mmのN=10201)×(5mmのn=50)/(5mmのN=441)となり、1mm幅におけるnは1156個となる。1mmでの打撃点1156個と5mmでの打撃441個を格子点にランダムに与えて、プロットした図が図34である。5mmと1mmにおいて、独立腐食深の総体積は同じであるが、図34から分かるように、アタック因子をランダムに降らせると、独立腐食深の表面形状は全く異なったものとなるのが図34から分かる。
【0128】
この問題を解決するために、本発明の表面形状作成モデルでは、アタック因子に対し、一パラメータとして影響半径rを持たせることで格子11の幅に依存しないモデルを構築している。ここで、アタック因子1個の持つ影響半径をr(mm)とする。アタック因子の強さF、アタック因子の個数nはメッシュ幅に依存せず。単位時間における腐食構造物全体の総アタック体積は
Q=F(mm/個)×πr2(mm2)×n(個) (式24)
となる。
【0129】
また、上述した最初に想定したモデルでは、アタック因子は格子11の各格子点に降ると仮定していたが、本発明の表面形状作成モデルでは、図35に示すように、各格子点ではなく、乱数によって発生させたx、y座標にランダムに降らすことにしている。これにより、腐食の格子幅に依存せずにアタック因子の数と座標を決めることができる。
【0130】
1つのアタック因子は、アタック因子の影響半径r(mm)内にF(mm)の腐食を引き起こすと仮定する。よって、その影響半径r内に存在する格子点に、F(mm)だけの独立腐食深を与える。図35(d)に示すように、一年目のアタック因子によって、影響半径r内にある格子点に独立腐食深□が生成される。
【0131】
また、2年目のアタック因子によって、同じく独立腐食深○が生成される。□と○とが重複している格子点は2年続けてアタックを受けたことを示す。この影響半径r(mm)を大きくすると、アタック因子1個により多くの格子点に腐食を発生させることになる。この独立腐食深を、以前のモデルと同じく、ある一定期間について積分すると、各格子点にアタック量が蓄積されていき、経過時間Tにおける独立腐食深が生成される。
【0132】
このようにして、求めた独立腐食深に空間的な広がりを考慮するために、本発明の表面形状作成モデルにおいては、補正した空間的自己相関(式25)の考えを取り入れて腐食深を求めている。
【0133】
【数9】
【0134】
次に、上記アタック因子の打撃点の設定法について説明する。一様整数乱数の発生法としては、本発明では、乗算合同式法により(0、1)間の一様実数乱数列を作成した。乗算合同式法は、
漸化式:Nj+1=K*Nj mod M …(式26)
によって、数列を作る方法である。これは、K、Mを整定数として、整数NjをK倍した数をMで割った余りを次のNj+1として数列を与えるものである。しかし、同じ初期値からは完全に一致した数列しか与えられないし、M回繰り返せば初期値と同じ値が表れて周期数列になってしまう。そこで、この周期をできるだけ長くするように、
K=48828125、M=231 …(式27)
とした擬似一様乱数を用いた。これを1、2、3・・・Nの一様整数乱数にするために、N倍して整数部を取り出して用いた。
【0135】
次に、打撃点の生成について説明する。まず、本発明の表面形状作成モデルでは、打撃点の座標軸を0.1mmピッチで考えている。例えば、x座標が0から100までであった場合、これを、0.0から100.0までの0.1mmピッチの1000個の値とする。これを10倍し、0から1000までとみなす。この範囲の中で、一様整数乱数を発生させた後、再び10で割ることにより出てきた数値をx座標値とした。こうすれば、0.1mmピッチの乱数列が得られる。また初期値を変えて同様の方法を行えば、y座標も乱数列で発生させることができる。この座標値で表せる点を、腐食表面の平面上に落ちる打撃点の座標値とした。x座標(0〜100)、y座標(0〜−100)において、打撃点を一様乱数で発生させた時の頻度分布が図36である。本来一様乱数は範囲内において、どの値も出現頻度は等しくなくてはならない。図36に示すように、作成した一様乱数の頻度には多少のばらつきがあるものの、平均して均等に発生できていると思われる。
【0136】
続いて、表面形状作成モデルにおけるパラメータについての検討結果を以下に示す。
(1)アタック因子の影響半径rと格子11のメッシュ幅について
図37(a)に示すように、前節で述べた独立腐食深の生成法において、アタック因子1個につき半径r(mm)以内にF(mm)の深さの腐食が生成される。図37(b)のように、経過時間T後の累計総アタック体積は、下記の式(28)
【0137】
【数10】
【0138】
と表せる。dAは格子点面積である。独立腐食深は連続的なものであるが、本モデルでは離散的な点の集まりとして扱っている。図37(c)のように、メッシュ幅を密に取れば、(c)のように粗く取ったときよりも、累計総アタック体積は実際の腐食深を区分求積した値に近くなる。そこで、メッシュ幅と影響半径rとの関係について調べるために、10cm四方の腐食面にメッシュ幅を変えながら独立腐食深を与えてみた。メッシュ幅は、基準となる0.5mmの他に、1、3、5、10mmとする。パラメータはn=100(個)、F=0.01(mm/個)、T=20(年)として、影響半径r=1.0mm、3.0mm、5.0mm、10.0mmと変化させた。その結果を、x座標軸において、各格子点で独立腐食深をプロットした図が、図38である。図38に示すように、r=1.0mmやr=3.0mmの場合、メッシュ幅が5mmや10mmのときは、この独立腐食深の形状を十分には捉えておらず、大きな差が現れているのが分かる。
【0139】
これに対して、図39に示すように、影響半径がr=5.0mmやr=10.0mmであれば、メッシュ幅が大きくても、独立腐食深の変化を大まかに捉えることが可能である。メッシュ幅2mmのときは、r=3.0mm以上でメッシュ幅0.5mmとほぼ同じ独立腐食深の形状を捉えており、またメッシュ幅5mmの時もr=5.0mm以上であれば、形状を捉えることができることが図39から分かる。
【0140】
つまり、(影響半径r/メッシュ幅)>1.0を超えれば、総アタック体積に近い値を取り出すことができる。しかし、メッシュ幅を10mmのように粗く取った場合は、やはり総アタック体積との差が大きくなることが分かる。
【0141】
続いて、アタック量Fとアタック数nと影響半径rとの関係について説明する。まず、本発明のモデルの腐食表面形状はアタック因子の強さFとその半径r、及びアタック因子の個数nによって、決定される。単位時間当たりの総アタック体積(前述の式24)を一定とした場合、経過時間が同じであれば平均腐食量はほとんど同じである。例として、腐食構造物(鋼板)の寸法100mm×100mmでメッシュ幅を2mmとして、総アタック量を一定にして、表1に示すように、n、F、rをそれぞれ変化させた。n=100(個)、F=0.001(mm/年(year))、r=5(mm)を基準として、これを、表1の(a)とする。rを一定としてn、Fを変化させたものが、表1の(b)、(c)である。nを一定としてr、Fを変化させたものが、表1の(d)、(e)である。さらに、Fを一定として、n、rを変化させたものが、表1の(f)、(g)となる。
【0142】
アタック因子の数nを多くするか、またはアタック因子の影響半径rを狭くすると、標準偏差が小さくなる。一方、アタック因子の数nを少なくするか影響半径rを広くすると、標準偏差が大きくなるのが表1から分かる。
【0143】
【表1】
【0144】
次に、本発明の表面形状作成モデルによる予測腐食深と実測腐食深との比較結果について説明する。まず、本来であれば塗膜無しのモデル化の場合、塗膜がない耐候性鋼材などの腐食データとの比較を行うべきであるが、そのような鋼材の形状のデータを得られなかったので、前述したプレートガーダー橋の100年経過時の腐食表面とを比較する。プレートガーダー橋の部材の実腐食データから一部(100mm×100mm)を切りだして、比較を行った。パラメータの決め方は以下の方法で決める。
【0145】
前述の式(23)で述べたように、実測腐食深に、空間的自己相関モデルの逆行列をか けることにより、各点での独立腐食深が求まる。この独立腐食深の全積分値(総和)が式(28)におけるアタック体積Qであり、Qは、F、n、rによって決定される。
【0146】
いままでに、スペクトルから、影響半径rは、3mm〜8mmでよいことが分かっているので、r=3mm、5mm、8mmとそれぞれ設定し、Qを実測値に合わせてFとnとを変化させて、平均腐食深と標準偏差(凹凸量の指標値)を求めると、図40および図41に示すようになる。実測値による標準偏差は、nにより変化するから、実測値の標準偏差と図中の曲線との交点に対応するnが求まり、式(24)からアタック因子の強さFを求めることができる。
【0147】
図42ないし図45は、実測板厚のヒストグラムおよび等高線と、上記の手法で求めた板厚のヒストグラムおよび等高線とをそれぞれ比較したものである。図42ないし図45から分かるように、モデルで作成した板厚は、実測値をよく表現していることが分かる。
【0148】
すなわち、前述の式(23)で述べたように、実測腐食深に、空間的自己相関モデルの逆行列をかけることにより、各点での独立腐食深が求まる。この独立腐食深の総和が総アタック体積である(図37(b)、式28)。この総アタック体積Qの値から、nとFを変化させて、実際の腐食表面の標準偏差(凹凸量の指標値)に近くなるようにnとFとを決める。
【0149】
図46、図47、図48に、フランジ、ウェブ、エンドプレートの等高線図、及び腐食深のヒストグラムを示す。図46〜48の(a)は、それぞれ実測腐食深であり、図46〜48の(c)、(e)は、それぞれ予測腐食深(腐食表面モデル)を表す。
【0150】
上記実測腐食深や各予測腐食深を、それらの深さ(mm)毎に示す図46〜48の各(b)、(d)、(f)の各ヒストグラムから分かるように、平均値・標準偏差を等しくすれば、実測腐食深とモデルによる予測腐食深のヒストグラムの形状はほぼ等しいものが生成される。
【0151】
ただし、ウェブでは、最大頻度が大きく異なる。しかし、等高線図を見る限り、似たような形状を表現できているといえる。また、図46〜48の(c)、(d)を比較すると、影響半径rにより、生成される腐食表面は異なるといえる。この影響半径rを変えることで、実際の腐食表面の波形に近い形を表現できると考えられる。影響半径rの値は、今後実腐食表面とモデルによる腐食表面の波形を示す前述のパワースペクトルを用いて、決定できる。
【0152】
次に、塗膜劣化を考慮した、本発明の強度劣化予測方法の表面形状作成モデルの適用性について説明する。まず、塗装の塗膜が十分な防食効果を果たしている状態である間は、腐食の進行は緩やかになる。腐食進展をモデル化するには、塗膜の防食性能の劣化(つまり、塗膜の一状態である、ピンホールの発生や、ひび割れ、はがれの発生による劣化)を考慮する必要がある。そこで、上述した表面形状作成モデルに塗膜の影響を考慮することにより、腐食の進展を予測できるモデルを作成する。さらに、腐食橋梁部材の実測腐食深と比較することにより、このモデルの適用性について検討した。
【0153】
塗膜を考慮した腐食表面のモデル化
実際の橋梁では表面に塗膜処理が施されており、塗装が防食の役目を果たしている。そのため、実際の腐食の進行を考える上で塗膜の防食効果を考える必要がある。塗膜があれば、腐食のスピードは緩やかになるし、塗膜が劣化するにつれ腐食が進みやすくなる。つまり、実際のプレートガーダー橋の腐食表面と比較を行うためにはこのような塗膜による腐食スピードの差を考慮しなければならない。また、塗膜は定期的に塗り替えが行われており、その都度、腐食の進行が変わる。塗膜の影響を考慮することにより、腐食の進展を実現象に近い形で表せることが可能となる。
【0154】
塗膜の耐久年数は塗装の種類によって異なるが、大体以下の表2のようになる。
【0155】
【表2】
【0156】
そこで本モデルの塗膜劣化の想定法を以下に示す。まず、腐食構造物に施された塗膜は、時間がたつにつれ徐々に剥がれ落ちるものと想定され、塗膜の劣化は、塗膜に生じる細かいピット(腐食孔)に起因すると考えられる。塗膜のピットでは腐食要因の影響を受け、腐食が進行する。時間経過と共に塗膜が劣化すれば、この塗膜のピット数は多くなり、腐食の影響を強く受けるようになる。また、塗膜が剥がれた場所では、周りの塗膜も徐々に剥がれ落ちると考えられる。
【0157】
本表面形状作成モデルでは、全格子点に対し塗膜能力TMを与えて、塗膜の劣化を表現する。図49に示すように、塗膜の耐用年数期間内で、ある期間毎(図49では互いに隣り合う各○印の間の時間)に、この塗膜能力(防食能力)を1づつ減らす。つまり、TM値が0(所定値)以下になると、塗膜がない状態で、TM=1なら最初の○印の時間後に塗膜がなくなる、つまり防食能力が無いと認定されることを示している。
【0158】
また、塗膜は初期状態ではほとんど劣化しておらず、時間経過に従い急激に劣化するもとと想定される。よって、最初に格子点に塗膜能力を与える際に、TM=0の塗膜能力を持つ格子点は少なく、TM=5の塗膜能力を持つ格子点は多くなるように、割合を変える。塗膜の塗り替えが行われれば、塗膜能力を再び全格子点に与えて繰り返す。また、ある点の塗膜が剥がれると、徐々に周りの塗膜も剥がれていくと設定されている。
【0159】
本表面形状作成モデルでは、この塗膜の広がりを図50のように考えている。ピットにアタック因子が落ちると同時に、一年ごとにそのピットは徐々に広がっていくと想定する。このピットの広がりにおいて、隣接する格子点がこの広がりの中に入った場合は、塗膜能力が0になる。ただし、ピットがどのように広がるか調べた先行技術はなく、本発明ではアタック因子が落ちた後、ピットが1年に1mmずつ広がっていくと想定している。
【0160】
続いて、塗膜を考慮した表面形状作成モデルによる予測腐食深と実測腐食深との比較結果を以下に示す。以上のことを踏まえ、100年経過した実測腐食深の平均値と標準偏差が、同じになるように表面形状作成モデルを作成する。今回、腐表面測定に用いた供試体は、幾度か塗膜塗り替えが行われていると思われるが、実際の塗膜履歴は十分に把握できていない。そこで、本発明では塗膜の塗替えを30年と仮定した。塗膜の耐用年数は塗膜の種類によって異なるが、表2に示すように、海岸部に配置された腐食構造物の場合約20年ほどである。よって、塗膜の耐用年数は20年とした。
【0161】
また、最初と、途膜塗り替えの時に与える塗膜能力の割合は、TM=1が全体の2%、TM=2が5%、TM=3が8%、TM=4が10%、TM=5が75%と仮定した。このようにして、モデル化を行った結果を示す。図51は、実際のフランジの腐食深と、本発明の表面形状作成モデルによる予測腐食深の等高線図とヒストグラムとをそれぞれ比較したものである。実測腐食深とモデルの予測腐食深の各ヒストグラムと比較すると、よく似ているといえる。
【0162】
また、本モデルによる塗膜の劣化を、塗膜劣化率曲線として示したものが図52である。最初の10年ほどは、ピット数も少なく塗膜劣化率は小さいが、耐用年数の20年が近くなると、塗膜の広がりと塗膜能力の減少により、塗膜劣化が急激に進んでいる。これは、図49のような塗膜劣化曲線をうまく表現できていると思われる。
【0163】
また、パラメータを一定にして、経過年数を変化させることで、図53に示すように、各経過時間(20年後、60年後)における予測腐食表面をそれぞれ作成できる。
【0164】
また、エンドプレートについても上記の方法で、腐食表面を再現した結果を、図54に示す。また、図55には、100年後のモデルから求めた20年後、60年後として、予測した各予測腐食表面のモデルをそれぞれ示す。エンドプレートにおいても、等高線図による比較において視覚的に、またヒストグラムにおいても、実際の腐食表面のヒストグラムと似たような形状を捉えることができていると判断される。
【0165】
以上のように、本発明の腐食構造物の強度劣化予測方法では、アタック因子という概念を用いて空間的にまた時間的に変化する腐食表面を、塗装の防食効果を考慮して表面形状作成モデル化した。この表面形状作成モデルによる予測腐食深と腐食構造物(鋼材)の実測腐食深とを比較することにより、その適用性について検討された結果を以下に示す。
【0166】
(1)腐食深は周囲の腐食体積に影響を受けるように空間的自己相関モデルを補正し、またアタック因子に影響半径を持たせることにより、表面形状作成モデルをより一般性のあるモデルにできた。その結果、本表面形状作成モデルは、腐食表面をメッシュに区切って離散化してもメッシュ間隔に対する依存性を低減できて、再現性を向上できることを示した。
【0167】
(2)アタック因子の強さF、個数n、影響半径rを各パラメータとして用いることにより、経時劣化を考慮できる表面形状作成モデルを開発した。本表面形状作成モデルでは、パラメータを変化させることにより、種々の腐食表面形状を作成できる。得られた予測腐食深と、実測腐食深の表面形状を比較した結果、表面形状作成モデルで生成した予測腐食深は、実際の腐食表面に近い腐食状態を作成できることが分かった。この腐食進展のモデル化は、強度解析による腐食構造物の耐力低下を推定する際に有効である。
【0168】
(3)塗膜による防食性能の低下を、塗膜能力TMを用いることにより表現した。この塗膜能力による塗膜の劣化は、実際の塗膜劣化を十分に表現できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の腐食構造物における強度劣化測定方法は、対象の腐食構造物に係る腐食表面の将来の表面形状を再現性よく予測できるので、上記腐食構造物における将来の強度劣化を、上記将来の表面形状から、より正確に予測できる。
【0170】
この結果、本発明の強度劣化測定方法は、鋼橋、各種の鉄管、鋼製水門、鉄塔、貯蔵タンク、ビルディングなどの対象構造物の表面形状を、再現性よく、かつ非接触にて計測できるから、上記対象構造物の経年劣化や腐食度の診断と、その診断結果に基づく補修・補強対策、更新などの判断に有用な表面形状に関する将来データを、より確実に提供できるので、土木や建築の用途に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】本発明に係る腐食構造物の強度劣化予測測定方法を示すフローチャートである。
【図2】上記強度劣化予測方法に用いる表面形状計測装置を示す概略構成図である。
【図3】上記表面形状計測装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図4】本発明に係る強度劣化予測方法の実施の一形態を示すフローチャートである。
【図5】上記強度劣化予測方法での一ステップを示す、投影パターンが投影された腐食表面の平面図である。
【図6】上記強度劣化予測方法での他のステップを示す、腐食表面1の表面形状を再現した再現表面と、再現表面上に比較のための撮影パターンに対応した再現撮影パターンとを示した斜視図である。
【図7】上記画像計測により再現された表面形状と、同一の腐食表面に対するレーザー計測による表面形状とを比較したグラフである。
【図8】上記強度劣化予測方法における、投影パターン上と撮影パターン上とにおける、互いに対応する同一点の決定方法の一例を示す、投影パターンおよび撮影パターンの正面図である。
【図9】上記強度劣化予測方法における、腐食表面の凹凸を計測する方法を示す概略構成図である。
【図10】上記図9の要部概略構成図である。
【図11】上記図9の他の要部概略構成図である。
【図12】上記強度劣化予測方法における、計算式のための概略構成図である。
【図13】上記強度劣化予測方法における、他の計算式のための概略構成図である。
【図14】上記強度劣化予測方法における、腐食構造物としてのプレートガーターのせん断実験供試体としての対象部位(ウエブ)の板厚ヒストグラムである。
【図15】上記プレートガーターにおけるせん断実験供試体としての他の対象部位(端補剛板)の板厚ヒストグラムである。
【図16】上記プレートガーターにおけるせん断実験供試体としてのさらに他の対象部位(上フランジ)の板厚ヒストグラムである。
【図17】上記プレートガーターにおけるせん断実験供試体としてのさらに他の対象部位(下フランジ)の板厚ヒストグラムである。
【図18】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Aとしての対象部位(ウエブ)の板厚ヒストグラムである。
【図19】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Aとしての他の対象部位(フランジA1)の板厚ヒストグラムである。
【図20】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Aとしてのさらに他の対象部位(フランジA2)の板厚ヒストグラムである。
【図21】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Bとしての対象部位(ウエブ)の板厚ヒストグラムである。
【図22】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Bとしての他の対象部位(フランジB1)の板厚ヒストグラムである。
【図23】上記プレートガーターにおける曲げ実験供試体Bとしてのさらに他の対象部位(フランジB2)の板厚ヒストグラムである。
【図24】上記強度劣化予測方法における、格子点の面積を示す平面図である。
【図25】上記強度劣化予測方法における、表面形状形成モデルの経時的な概念を示す平面図であり、(a)は1年目、(b)は2年目、(c)は10年目を示す。
【図26】上記強度劣化予測方法における、空間的自己相関モデルの概念を示す平面図である。
【図27】上記強度劣化予測方法における、一つの腐食深と、その周囲の他の腐食深との距離による影響を示すグラフである。
【図28】上記強度劣化予測方法における、メッシュ幅の違いによる予測腐食深の深さをそれぞれ示すグラフである。
【図29】上記メッシュ幅の違いによる、周囲の他の腐食深からの影響をそれぞれ示すグラフであり、(a)はメッシュ幅が5mmのとき、(b)はメッシュ幅が1mmのときを示す。
【図30】上記連続的な空間的自己相関モデルの概念を示す平面図である。
【図31】上記空間的自己相関モデルでの、メッシュ幅の違いによる独立腐食深の体積の近似を示す概略断面図を示し、(a)メッシュ幅が5mmのとき、(b)はメッシュ幅が1mmのときを示す。
【図32】上記空間的自己相関モデルでの、メッシュ幅の違いによる予測腐食深の深さをそれぞれ示すグラフである。
【図33】上記強度劣化予測方法における、メッシュ(格子点)幅の違いによるアタック因子の影響を示し、(a)はメッシュ幅が5mmのときの平面図、(b)はメッシュ幅が1mmのときの平面図、(c)はメッシュ幅が5mmのときの断面図、(d)はメッシュ幅が1mmのときの断面図を示す。
【図34】上記強度劣化予測方法における、腐食平面に対する各アタック因子による打撃点の各プロットを示す平面図である。
【図35】上記強度劣化予測方法における、表面形状形成モデルの経時的な概念を示す平面図である。
【図36】上記強度劣化予測方法における、アタック因子のランダムな配置のための、座標値の一様乱数列のヒストグラムであり、(a)はx座標、(b)はy座標を示す。
【図37】上記強度劣化予測方法における、アタック因子による予測腐食深の形成を示し、(a)はアタック因子の概念断面図、(b)は上記アタック因子による予測腐食深の断面図、(c)はメッシュ幅が小さい場合の予測腐食深の断面図、(d)はメッシュ幅が大きい場合の予測腐食深の断面図を示す。
【図38】上記強度劣化予測方法における、パラメータの影響半径rの変化による、独立の予測腐食深の変化を示すグラフであり、(a)はr=1.0mmのときを示し、(b)はr=3.0mmのときを示す。
【図39】上記強度劣化予測方法における、パラメータの影響半径rの変化による、独立の予測腐食深の変化を示すグラフであり、(a)はr=5.0mmのときを示し、(b)はr=10mmのときを示す。
【図40】上記強度劣化予測方法における、各影響半径(r=3mm、5mm、8mm)のとき、nを変化させたときの平均腐食量の変化を示すグラフである。
【図41】上記強度劣化予測方法における、各影響半径(r=3mm、5mm、8mm)のとき、nを変化させたときの標準偏差の変化を示すグラフである。
【図42】腐食表面の実測値を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図43】上記強度劣化予測方法における、影響半径(r=3mm)としたときの予測腐食量を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図44】上記強度劣化予測方法における、影響半径(r=5mm)としたときの予測腐食量を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図45】上記強度劣化予測方法における、影響半径(r=8mm)としたときの予測腐食量を示し、(a)は腐食深のヒストグラム、(b)は腐食深の等高線図を示す。
【図46】上記強度劣化予測方法における、用いたフランジでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は他のモデル化による予測腐食深の等高線図、(f)は上記他のモデル化での予測腐食深のヒストグラム、(g)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図47】上記強度劣化予測方法における、用いたウェブでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は他のモデル化による予測腐食深の等高線図、(f)は上記他のモデル化での予測腐食深のヒストグラム、(g)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図48】上記強度劣化予測方法における、用いたエンドプレートでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は他のモデル化による予測腐食深の等高線図、(f)は上記他のモデル化での予測腐食深のヒストグラム、(g)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図49】上記強度劣化予測方法における、塗膜劣化の概念を示すグラフである。
【図50】上記強度劣化予測方法における、アタック因子による塗膜劣化の広がりを示す平面図である。
【図51】上記強度劣化予測方法における、塗膜を有するフランジでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図52】上記強度劣化予測方法における、30年毎に塗り替えられる塗膜劣化の経時的な予測を示すグラフである。
【図53】上記フランジにおける、100年経過の腐食表面からの各パラメータによる表面形状作成モデルに基づく予測腐食表面を示し、(a)は20年後の上記予測腐食表面の等高線図、(b)は60年後の上記予測腐食表面の等高線図、(c)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図54】上記強度劣化予測方法における、塗膜を有するエンドプレートでの腐食表面での腐食程度を示し、(a)は実測での腐食深の等高線図、(b)は上記実測での腐食深のヒストグラム、(c)はモデル化による予測腐食深の等高線図、(d)は上記モデル化での予測腐食深のヒストグラム、(e)は上記等高線図の明度と高さの関係を示すバー図である。
【図55】上記エンドプレートにおける、100年経過の腐食表面からの各パラメータによる表面形状作成モデルに基づく予測腐食表面を示し、(a)は20年後の上記予測腐食表面の等高線図、(b)は60年後の上記予測腐食表面の等高線図である。
【符号の説明】
【0172】
S2 腐食表面計測
S3 計測結果の統計評価
S4 強度評価解析
S11 腐食劣化進展予測
S12 強度劣化予測
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食構造物の腐食表面形状を、非接触かつ三次元的に測定し、
パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、
上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、
上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測する、ことを特徴とする腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項2】
前記表面形状作成モデルにおいては、所定間隔の格子点を複数想定し、上記各格子点での凹凸量にそれぞれ換算して上記各凹凸量を腐食形状として測定する、請求項1記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項3】
前記所定間隔を、5mm以下に設定する、請求項2記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項4】
前記表面形状作成モデルでは、対象の腐食表面上に、パラメータとしての深さFの仮想腐食孔を、ランダムに、パラメータとしての単位時間当たりの所定数、仮想的に形成する、請求項2または3記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項5】
前記仮想腐食孔に、パラメータとしての半径rの影響半径を設定する、請求項4記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項6】
前記表面形状作成モデルにおいては、上記格子点に対する前記各仮想腐食孔による影響を空間的自己相関モデルにより考慮した上記各格子点での凹凸量を腐食形状として測定するとき、上記影響する仮想腐食孔の体積を用いる、請求項2ないし5の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項7】
前記腐食表面形状を非接触式、かつ三次元にて測定することは、腐食構造物の腐食表面に光パターンを投影し、上記腐食表面上の光パターンを撮像して撮像パターンを得た後、上記光パターンと撮像パターンとにより腐食構造物の腐食表面形状を三次元にて測定する、請求項1ないし6の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項8】
前記腐食構造物の腐食表面形状の測定を、互いに異なる時期に複数回実施する、請求項1ないし7の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項9】
前記腐食構造物は、腐食鋼構造物である、請求項1ないし8の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項10】
前記腐食表面形状は、塗装の塗膜の状態であり、
上記塗膜の劣化を、塗膜表面上の格子点にて数値化して上記格子点での防食能力を算出し、
経時的な塗膜劣化を格子点での時間経過と共に変化する防食能力として算出し、
上記防食能力が所定値以下となったとき、腐食進展が発生したと認定する、ことを特徴とする請求項1ないし8の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項1】
腐食構造物の腐食表面形状を、非接触かつ三次元的に測定し、
パラメータを変化させて種々な凹凸表面形状を再現するための表面形状作成モデルを用い、三次元的にて測定された上記腐食表面形状の凹凸に合うように、上記表面形状作成モデルに関するパラメータを算出し、
上記算出されたパラメータによる上記表面形状作成モデルに基づく将来の腐食表面形状を算出し、
上記腐食構造物における将来の強度劣化を上記将来の腐食表面形状によって予測する、ことを特徴とする腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項2】
前記表面形状作成モデルにおいては、所定間隔の格子点を複数想定し、上記各格子点での凹凸量にそれぞれ換算して上記各凹凸量を腐食形状として測定する、請求項1記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項3】
前記所定間隔を、5mm以下に設定する、請求項2記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項4】
前記表面形状作成モデルでは、対象の腐食表面上に、パラメータとしての深さFの仮想腐食孔を、ランダムに、パラメータとしての単位時間当たりの所定数、仮想的に形成する、請求項2または3記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項5】
前記仮想腐食孔に、パラメータとしての半径rの影響半径を設定する、請求項4記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項6】
前記表面形状作成モデルにおいては、上記格子点に対する前記各仮想腐食孔による影響を空間的自己相関モデルにより考慮した上記各格子点での凹凸量を腐食形状として測定するとき、上記影響する仮想腐食孔の体積を用いる、請求項2ないし5の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項7】
前記腐食表面形状を非接触式、かつ三次元にて測定することは、腐食構造物の腐食表面に光パターンを投影し、上記腐食表面上の光パターンを撮像して撮像パターンを得た後、上記光パターンと撮像パターンとにより腐食構造物の腐食表面形状を三次元にて測定する、請求項1ないし6の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項8】
前記腐食構造物の腐食表面形状の測定を、互いに異なる時期に複数回実施する、請求項1ないし7の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項9】
前記腐食構造物は、腐食鋼構造物である、請求項1ないし8の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【請求項10】
前記腐食表面形状は、塗装の塗膜の状態であり、
上記塗膜の劣化を、塗膜表面上の格子点にて数値化して上記格子点での防食能力を算出し、
経時的な塗膜劣化を格子点での時間経過と共に変化する防食能力として算出し、
上記防食能力が所定値以下となったとき、腐食進展が発生したと認定する、ことを特徴とする請求項1ないし8の何れか1項に記載の腐食構造物の強度劣化予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【公開番号】特開2006−194792(P2006−194792A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8306(P2005−8306)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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