説明

膜形成用組成物、及びこれを含む絶縁膜

【課題】低誘電率性、耐湿性、耐水性及び耐熱性という、いずれの特性にも優れた被膜を形成するのに適当な材料となる化合物を含む膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】ボラジン環及びアダマンタン環を含む化合物、並びに前記ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物とを含むか、ボラジン環を含有する化合物とアダマンタン環を含有する化合物とを含むか、前記ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物とボラジン環を含有する化合物及び/またはアダマンタン環を含有する化合物とを含むかのいずれかである膜形成用組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物、及びこれを含む絶縁膜に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関して言えば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられ得る、新たな低誘電材料の開発が所望されていた。層間絶縁膜として使用されるためには、低誘電率性をはじめとして、耐湿性、耐水性、耐熱性や機械強度といった特性に優れている必要がある。
【0004】
かような要望に対して、分子分極率が小さく低誘電率であり、耐熱性や機械強度に優れたボラジン環の性質に着目し、ボラジン環骨格を有する化合物を材料とする被膜が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
一方、分子分極率が小さく低誘電率であり、耐湿性、耐水性、耐熱性や機械強度にも優れたアダマンタン環の持つ性質に着目し、アダマンタン環骨格を有する化合物を材料とする被膜が提案されている(特許文献3、特許文献4)。
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2002−317049号公報
【特許文献3】特開2000−100808号公報
【特許文献4】特開2004−307803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなボラジン環からなる化合物、並びに特許文献2のようなボラジン環骨格を有する化合物および有機ケイ素化合物からなるポリマーを材料として得られる被膜を、微細なLSIにおける層間絶縁膜として用いた場合、当該被膜は耐湿性や耐水性の点において品質上満足しうるものとは言い難い。一方、特許文献3のような、主鎖骨格がアダマンタン環とベンゼン環とからなるポリマーを材料として被膜を形成し、当該被膜を微細なLSIにおける層間絶縁膜として用いた場合、ベンゼンの耐熱性がそれほど高くないことに起因して、当該被膜は耐熱性の点において品質上満足しうるものとは言い難い。特許文献4においても、主鎖骨格がアダマンタン環とベンゼン環とからなるポリマーを材料として被膜を形成する旨が開示されており、やはり当該被膜は耐熱性の点において品質上満足しうるものとは言い難い。すなわち、いずれの被膜を用いても、半導体装置の欠陥や性能低下が招来しうる。換言すれば、得られた被膜を用いて製造される半導体装置の信頼性の低下が引き起こされてしまう。特に、今後さらに微細なLSIが開発されるにつれて、半導体装置の欠陥や性能低下が頻発しうる。
【0007】
以上の問題を解決するため、本発明の一目的は、低誘電率性、耐湿性、耐水性及び耐熱性という、いずれの特性にも優れた被膜を形成するのに適当な化合物を含む膜形成用組成物を提供することである。
【0008】
また、本発明の他の目的は、かような膜形成用組成物を用いて得られる絶縁膜を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、かような絶縁膜を用いて得られる半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ボラジン環を含有する化合物とアダマンタン環を含有する化合物とを含むか、ボラジン環とアダマンタン環とを直接または間接に結合させて得られる新規な化合物(以下、「複合化合物」とも称する)を含むか、あるいは前記複合化合物とボラジン環を含有する化合物及び/またはアダマンタン環を含有する化合物とを含み、これらに溶媒等を用いて得られる被膜を微細なLSIにおける層間絶縁膜として用いた場合、低誘電率性、耐湿性、耐水性、耐熱性及び機械強度という、いずれの特性においても品質上満足のいくものとなることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物とを含む、膜形成用組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、ボラジン環を含有する化合物と、アダマンタン環を含有する化合物とを含む、膜形成用組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物及び/またはアダマンタン環を含有する化合物とを含む、膜形成用組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記膜形成用組成物を用いてなる絶縁膜を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記絶縁膜を含む半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、低誘電率性、耐湿性、耐水性、耐熱性及び機械特性という、いずれの特性にも優れた絶縁膜を形成するのに適当な材料となりうる膜形成用組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第一の態様は、膜形成用組成物に関する。
【0019】
本発明の膜形成用組成物は、(1)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物とを含む組成物、(2)ボラジン環を含有する化合物(アダマンタン環を有しない)と、アダマンタン環を含有する化合物(ボラジン環を有しない)とを含む組成物、並びに(3)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物及び/またはアダマンタン環を含有する化合物とを含む組成物に類別することができる。
【0020】
前記膜形成用組成物は新規な物質であって、ボラジン環とアダマンタン環とが相互に性能を補完し合うという特徴を有することを、本発明者らは見出したのである。かような膜形成用組成物の特徴について詳述する。まず、前記膜形成用組成物における耐湿性及び耐水性の点で言えば、耐湿性及び耐水性が若干劣るボラジン環に対し、アダマンタン環が耐湿性及び耐水性に優れているため、アダマンタン環により補完される。一方で、アダマンタン環からなる高架橋ポリマーは溶媒への溶解性が低いのに対し、ボラジン環や置換基の導入によって、当該低溶解性を解消することができる。
【0021】
次に、前記膜形成用組成物における耐熱性は、ボラジン環とアダマンタン環との共存によって、主鎖骨格がアダマンタン環とベンゼン環とからなるポリマーと比較して有意に向上する。これは、低誘電特性だが耐熱性が低いベンゼン環ではなく、低誘電特性と高耐熱性とを併せ持つボラジン環に起因するものである。
【0022】
このようなボラジン環とアダマンタン環との相互補完関係により、本発明の膜形成用組成物は、低誘電率性、耐湿性、耐水性、耐熱性及び機械特性に優れている。以下、前記膜形成用組成物の構成成分について説明する。
【0023】
[ボラジン環]
本明細書において「ボラジン環」とは、ベンゼンにおける炭素の代わりに窒素とホウ素が3つずつ交互に配置された六員環を意味する。ボラジン環は、環上に窒素及びホウ素という異なる原子が存在していることから、部分的なイオン性を示すが、全体として共鳴構造であることに起因して低誘電率性を示す。また、ボラジン環は、ベンゼンと比較して有意に高い耐熱性を有する。さらには機械強度にも優れている。また、前記「ボラジン環」は単環構造を有していても縮合環構造を有していてもよい。以下に、ボラジン環からなる縮合環化合物の例(2つのボラジン骨格が縮合した形態)を示す。
【0024】
【化1】

【0025】
一の縮合環を構成するボラジン骨格の個数は特に制限されない。以降、便宜的にボラジン環を単環で表すが、単環でなく縮合環であってもよい。
【0026】
前記ボラジン環を含有する化合物(上記(2)及び(3))については、アダマンタン環を含まずにボラジン骨格を有していれば特に制限されることはないが、好ましい形態として以下のように表すことができる。
【0027】
【化2】

【0028】
式中、R、R、R、R、R及びRは、特に制限されることはないが、例えば、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、チオシアナート基、シアナート基、アシル基、カルバモイル基、炭素数2〜20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換または非置換の炭素数6〜18のアリールチオ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換または非置換の炭素数2〜20のアルキルカルボニルアミノ基、あるいは置換または非置換の炭素数7〜20のアリールカルボニルアミノ基などが挙げられる。各原子または基の具体例については、後述の「R、R、R、R、R及びR」と同様である。また、隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0029】
また、上記R、R、R、R、R及びRの一部が、単結合、O、NH、NR、BH、BR、S、O−R−O、NH−R10−NH、BH−R11−BH、S−R12−S、−CH−若しくはCH−CH、またはN、B、N−R10−NH、N−R10−N、B−R11−BH、B−R11−B、CH−CH、CH−CH、C−CH若しくはC−Cから選択される結合手であることにより、前記ボラジン環を含有する化合物は、前記結合手を介して、単環状のボラジン環からなるポリマーの形態、または前記ボラジン環の縮合環構造からなる形態をとりうる。なお、本明細書における「ポリマー」は、重合度の低いポリマー、すなわちオリゴマーも含む。
【0030】
[アダマンタン環]
本明細書において「アダマンタン環」とは、10個の炭素がダイヤモンド構造と同様に配置された基本骨格を持つ環を意味する。全ての炭素が六員環(六角形)を形成し、全ての六員環がいす形配座をとっているため、環内部に分子レベルの空孔を多数有することに起因して、構造上極めて安定な化合物であり低誘電率性を示す。また、かような構造のため融点が約270℃と非常に高く、優れた耐熱性を有する。さらには、耐湿性、耐水性や機械強度にも優れ、縮合環構造であるが故に、耐熱性を低下させずに膜密度も低減できる。
【0031】
前記アダマンタン環を含有する化合物(上記(2)及び(3))は、ボラジン環を含まない限り特に制限されることはないが、入手容易性などの観点から、例えば、1−アセトアミドアダマンタン、1−アセチルアダマンタン、1−アダマンタンアミン塩酸塩、2−アダマンタンアミン塩酸塩、1−アダマンタンアミン硫酸塩、アダマンタン、1−アダマンタン酢酸塩、1−アダマンタンカルボニルクロライド、1−アダマンタンカルボン酸塩、1−アダマンタンカルボン酸エチルエステル、1,3−アダマンタン二酢酸塩、1,3−アダマンタン二カルボン酸塩、1,3−アダマンタンジオール、1−アダマンタンエタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、2−アダマンタノン、1−(1−アダマンチル)エチルアミン塩酸塩、N−(1−アダマンチル)エチレンジアミン、またはアダマンタンチオールが好ましい。
【0032】
一方、ボラジン環及びアダマンタン環を含む複合化合物(上記(1)及び(3))は、ボラジン環とアダマンタン環とが直接または間接に結合した構造を有する。換言すれば、ボラジン骨格のホウ素原子または窒素原子に、アダマンタン環を有する基(AD)が結合したものととらえることができる。アダマンタン環を有する基(AD)もまた、上記したもの(1−アセトアミドアダマンタン等)に由来する基が好ましい。ここで、「由来する基」とは、例えば1−アダマンタノールを例として挙げると、(i)1−アダマンタノールの水酸基の部分を介してアダマンタン環がボラジン環と結合(エーテル結合)しているような場合、または(ii)1−アダマンタノールの水酸基の部分以外でボラジン環とアダマンタン環とが直接または上記水酸基以外の結合基を介して間接に結合している場合のいずれかを意味する。
【0033】
[溶媒]
本発明の膜形成用組成物は、好ましくは溶媒を含む。前記溶媒の例として、以下に制限されることはないが、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンが挙げられる。また、上記溶媒は、成膜時にも用いられうる。該組成物の合成時及び成膜時に用いる溶媒は同一でも異なっていてもよい。
【0034】
[その他の成分]
本発明の膜形成用組成物は、さらに上記した成分以外のものを含んでもよい。例えば、上記した(1)〜(3)の(複合)化合物の効果を損なわない程度に、他の(高分子)材料や、成膜の質を向上させるために防汚剤などがありうる。
【0035】
上記した、(1)ボラジン環及びアダマンタン環を含む(複合)化合物、(2)ボラジン環を含有する化合物(アダマンタン環を有しない)とアダマンタン環を含有する化合物(ボラジン環を有しない)、または(3)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物(アダマンタン環を有しない)及び/またはアダマンタン環を含有する化合物(ボラジン環を有しない)の各々の合計の含有率は、本発明の膜形成用組成物の質量に対して、0.01〜100質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましく、0.5〜20質量%であることが特に好ましい。
【0036】
以上の観点から、本発明におけるボラジン環及びアダマンタン環は、ボラジン骨格及びアダマンタン骨格を有してさえいれば、置換基の有無などについて特に制限されることはない。前記ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物、前記ボラジン環を含有する化合物、及び前記アダマンタン環を含有する化合物は、モノマーであってもポリマーであってもよい。また、ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物(複合化合物)であれば全て本発明に含まれる。好ましい形態として、本発明による複合化合物は、ボラジン環に原子(水素原子など)や基(アルキル基やアダマンタン環を有する基など)が結合した形態(以下、「第一の形態」と称す)と、任意で原子(水素原子など)や基(アルキル基やアダマンタン環を有する基など)の結合したボラジン環同士、並びに/またはボラジン環及びアダマンタン環が、架橋構造を介して結合した形態(以下、「第二の形態」と称す)とが挙げられる。以下、それぞれの形態について詳細に説明する。なお、上記した通り、以下では便宜的にボラジン環を単環で表すが、単環でなく縮合環であってもよい。縮合環である場合、ボラジン骨格を構成するホウ素原子及び窒素原子における置換基は、下記で説明されるR、R、R、R、R及びR、並びに後述するR、R、R10、R11、R12及びR13の条件と同一である。
【0037】
<第一の形態>
ボラジン環に原子や基が結合した第一の形態は、下記の化学式1で示される。
【0038】
【化3】

【0039】
化学式1中、R、R、R、R、R及びRは、特に制限されることはないが、例えば、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、チオシアナート基、シアナート基、アシル基、カルバモイル基、炭素数2〜20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換または非置換の炭素数6〜18のアリールチオ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換または非置換の炭素数2〜20のアルキルカルボニルアミノ基、置換または非置換の炭素数7〜20のアリールカルボニルアミノ基、あるいはアダマンタン環を有する基(AD)などが挙げられる。また、隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていてもよい。ただし、R、R、R、R、R及びRのうち一以上がADである。
【0040】
また、R、R、R、R、R及びRは、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、またはADである。R、R、R、R、R及びRは、互いに同一であっても異なってもよい。以下、R、R、R、R、R、R及びRが取り得る原子や基について、より具体的に例示する。
【0041】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、アシル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、p−tert−ブチルベンゾイル基などが挙げられる。
【0042】
置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基の例としては、特に制限されることはないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、cyclo−ヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−iso−プロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−iso−プロピルブチル基、2−メチル−1−iso−プロピル基、1−tert−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、等の炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状の炭化水素基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、メトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、ジメトキシメチル基、ジエトキシメチル基、ジメトキシエチル基、ジエトキシエチル基等のアルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシアルコキシアルキル基、クロロメチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基等のハロゲン化アルキル基、炭素数2〜20のアルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルキルアミノカルボニルアルキル基、アルコキシスルホニルアルキル基などが挙げられる。
【0043】
また、置換または非置換の炭素数1〜20のアルコキシ基の例としては、特に制限されることはないが、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、neo−ペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロピルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、cyclo−ヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、1−iso−プロピルプロピルオキシ基、1,2−ジメチルブチルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、1,4−ジメチルペンチルオキシ基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピルオキシ基、1−エチル−3−メチルブチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3−メチル-1−iso−プロピルブチルオキシ基、2−メチル−1−iso−プロピルオキシ基、1−tert−ブチル−2−メチルプロピルオキシ基、n−ノニルオキシ基などの炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、ブトキシエトキシ基、3−メトキシプロピルオキシ基、3−エトキシプロピルオキシ基、ジメトキシメトキシ基、ジエトキシメトキシ基、ジメトキシエトキシ基、ジエトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基、ブチルオキシエトキシエトキシ基などのアルコキシアルコキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシアルコキシアルコキシ基、クロロメトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、トリフルオロメトキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルオキシ基などのハロゲン化アルコキシ基、ジメチルアミノエトキシ基、ジエチルアミノエトキシ基などのアルキルアミノアルコキシ基、ジアルキルアミノアルコキシ基などが挙げられる。
【0044】
置換または非置換の炭素数6〜20のアリール基の例としては、フェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、トリクロロフェニル基、ブロモフェニル基、フロロフェニル基、ペンタフロロフェニル基、ヨウ化フェニル基等のハロゲン化フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、エチルフェニル基、ジメチルエチルフェニル基、iso−プロピルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、tert−ブチルメチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、トリフロロメチルフェニル基などのアルキル誘導体置換フェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、プロポキシフェニル基、ヘキシルオキシフェニル基、シクロヘキシルオキシフェニル基、オクチルオキシフェニル基、2−エチルヘキシルオキシフェニル基、3,5,5−トリメチルヘキシルオキシフェニル基、メチルエトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、1−エトキシ−4−メトキシフェニル基、クロロメトキシフェニル基、エトキシエトキシフェニル基、エトキシエトキシエトキシフェニル基などのアルコキシ基置換フェニル基、メチルチオフェニル基、エチルチオフェニル基、tert−ブチルチオフェニル基、ジ−tert−ブチルチオフェニル基、2−メチル−1−エチルチオフェニル基、2−ブチル−1−メチルチオフェニル基などのアルキルチオ基置換フェニル基、N,N−ジメチルアミノフェニル基、N,N−ジエチルアミノフェニル基、N,N−ジプロピルアミノフェニル基、N,N−ジブチルアミノフェニル基、N,N−ジアミルアミノフェニル基、N,N−ジヘキシルアミノフェニル基、N−メチル−N−エチルアミノフェニル基、N−ブチル−N−エチルアミノフェニル基、N−ヘキシル−N−エチルアミノフェニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)−エチルフェニル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)−メチルフェニル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)−エチルフェニル基、2−(N,N−ジメチルアミノ)−エチルフェニル基などのアルキルアミノフェニル基、ナフチル基、クロロナフチル基、ジクロロナフチル基、トリクロロナフチル基、ブロモナフチル基、フロロナフチル基、ペンタフロロナフチル基、ヨウ化ナフチル基などのハロゲン化ナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルエチルナフチル基、iso−プロピルナフチル基、tert−ブチルナフチル基、tert−ブチルメチルナフチル基、オクチルナフチル基、ノニルナフチル基、トリフロロメチルナフチル基などのアルキル誘導体置換ナフチル基、メトキシナフチル基、エトキシナフチル基、プロポキシナフチル基、ヘキシルオキシナフチル基、シクロヘキシルオキシナフチル基、オクチルオキシナフチル基、2−エチルヘキシルオキシナフチル基、3,5,5−トリメチルヘキシルオキシナフチル基、メチルエトキシナフチル基、ジメトキシナフチル基、クロロメトキシナフチル基、エトキシエトキシナフチル基、エトキシエトキシエトキシナフチル基などのアルコキシ基置換ナフチル基、メチルチオナフチル基、エチルチオナフチル基、tert−ブチルチオナフチル基、メチルエチルチオナフチル基、ブチルメチルチナフチル基などのアルキルチオ基置換ナフチル基、N,N−ジメチルアミノナフチル基、N,N−ジエチルアミノナフチル基、N,N−ジプロピルアミノナフチル基、N,N−ジブチルアミノナフチル基、N,N−ジアミルアミノナフチル基、N,N−ジヘキシルアミノナフチル基、N−メチル−N−エチルアミノナフチル基、N−ブチル−N−エチルアミノナフチル基、N−ヘキシル−N−エチルアミノナフチル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)−エチルナフチル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)−メチルナフチル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)−エチルナフチル基、2−(N,N−ジメチルアミノ)−エチルナフチル基などのアルキルアミノナフチル基、ピリジル基、ピペリジル基、チオフェニル基、イミダゾリル基、ピローリジル基、フリル基などが挙げられる。また、置換または非置換のアリールオキシ基の例としては、特に制限されることはないが、フェノキシ基、ナフトキシ基、アルキルフェノキシ基などが挙げられる。
【0045】
置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基としては、特に制限されることはないが、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、iso−ペンチルチオ基、neo−ペンチルチオ基、1,2−ジメチルプロピルチオ基、n−ヘキシルチオ基、cyclo−ヘキシルチオ基、1,3−ジメチルブチルチオ基、1−iso−プロピルプロピルチオ基、1,2−ジメチルブチルチオ基、n−ヘプチルチオ基、1,4−ジメチルペンチルチオ基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピルチオ基、1−エチル−3−メチルブチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、3−メチル−1−iso−プロピルブチルチオ基、2−メチル−1−iso−プロピルチオ基、1−tert−ブチル−2−メチルプロピルチオ基、n−ノニルチオ基などの炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキルチオ基、メトキシメチルチオ基、メトキシエチルチオ基、エトキシエチルチオ基、プロポキシエチルチオ基、ブトキシエチルチオ基、3−メトキシプロピルチオ基、3−エトキシプロピルチオ基、メトキシエトキシエチルチオ基、エトキシエトキシエチルチオ基、ジメトキシメチルチオ基、ジエトキシメチルチオ基、ジメトキシエチルチオ基、ジエトキシエチルチオ基などのアルコキシアルキルチオ基、アルコキシアルコキシアルキルチオ基、アルコキシアルコキシアルコキシアルキルチオ基、クロロメチルチオ基、2,2,2−トリクロロエチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルチオ基などのハロゲン化アルキルチオ基、ジメチルアミノエチルチオ基、ジエチルアミノエチルチオ基などのアルキルアミノアルキルチオ基、ジアルキルアミノアルキルチオ基などが挙げられる。置換または非置換のアリールチオ基の例としては、特に制限されることはないが、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アルキルフェニルチオ基などが挙げられる。
【0046】
置換または非置換の炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基の例としては、特に制限されることはないが、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、iso−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、iso−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、iso−ペンチルオキシカルボニル基、neo−ペンチルオキシカルボニル基、1,2−ジメチル−プロピルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、cyclo−ヘキシルオキシカルボニル基、1,3−ジメチル−ブチルオキシカルボニル基、1−iso−プロピルプロピルオキシカルボニル基、1,2−ジメチルブチルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、1,4−ジメチルペンチルオキシカルボニル基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピルオキシカルボニル基、1−エチル−3−メチルブチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、3−メチル−1−iso−プロピルブチルオキシカルボニル基、2−メチル−1−iso−プロピルオキシカルボニル基、1−tert−ブチル−2−メチルプロピルオキシカルボニル基、n−ノニルオキシカルボニル基などの炭素数2〜20の直鎖または分岐のアルキルオキシカルボニル基、メトキシメトキシカルボニル基、メトキシエトキシカルボニル基、エトキシエトキシカルボニル基、プロポキシエトキシカルボニル基、ブトキシエトキシカルボニル基、γ−メトキシプロポキシカルボニル基、γ−エトキシプロポキシカルボニル基、メトキシエトキシエトキシカルボニル基、エトキシエトキシエトキシカルボニル基、ジメトキシメトキシカルボニル基、ジエトキシメトキシカルボニル基、ジメトキシエトキシカルボニル基、ジエトキシエトキシカルボニル基等のアルコキシアルコキシカルボニル基、アルコキシアルコキシアルコキシカルボニル基、アルコキシアルコキシアルコキシアルコキシカルボニル基、クロロメトキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロポキシカルボニル基などのハロゲン化アルキルオキシカルボニル基、炭素数3〜20のアルキルアミノアルキルオキシカルボニル基、ジアルキルアミノアルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキルオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニルアルキルオキシカルボニル基、アルコキシスルホニルアルキルオキシカルボニル基、アルキルスルホニルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0047】
炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基の例としては、特に制限されることはないが、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、キシリルオキシカルボニル基、クロロフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0048】
炭素数2〜20のアルキルアミノカルボニル基の例としては、特に制限されることはないが、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、n−プロピルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、sec−ブチルアミノカルボニル基、n−ペンチルアミノカルボニル基、n−ヘキシルアミノカルボニル基、n−ヘプチルアミノカルボニル基、n−オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジ−n−プロピルアミノカルボニル基、ジ−n−ブチルアミノカルボニル基、ジ−sec−ブチルアミノカルボニル基、ジ−n−ペンチルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘキシルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘプチルアミノカルボニル基、ジ−n−オクチルアミノカルボニル基などが挙げられる。
【0049】
置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基としては、特に制限されることはないが、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−ヘプチルアミノ基、n−オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−n−ペンチルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、ジ−n−ヘプチルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基などが挙げられる。置換または非置換のアリールアミノ基としては、特に制限されることはないが、フェニルアミノ基、p−メチルフェニルアミノ基、p−tert−ブチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ−p−メチルフェニルアミノ基、ジ−p−tert−ブチルフェニルアミノ基などが挙げられる。
【0050】
置換または非置換の炭素数2〜20のアルキルカルボニルアミノ基としては、特に制限されることはないが、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n−プロピルカルボニルアミノ基、iso−プロピルカルボニルアミノ基、n−ブチルカルボニルアミノ基、iso−ブチルカルボニルアミノ基、sec−ブチルカルボニルアミノ基、tert−ブチルカルボニルアミノ基、n−ペンチルカルボニルアミノ基、n−ヘキシルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、n−ヘプチルカルボニルアミノ基、3−ヘプチルカルボニルアミノ基、n−オクチルカルボニルアミノ基などが挙げられる。置換または非置換のアリールカルボニルアミノ基としては、特に制限されることはないが、ベンゾイルアミノ基、p−クロロベンゾイルアミノ基、p−メトキシベンゾイルアミノ基、p−tert−ブチルベンゾイルアミノ基、p−トリフロロメチルベンゾイルアミノ基、m−トリフロロメチルベンゾイルアミノ基などが挙げられる。
【0051】
また、合成反応の収率や取り扱いの容易性の観点から、
(1)R、R及びRの一以上が、それぞれ独立してADを有し、R、R及びRが、それぞれ独立してAD以外の上記した原子または基を有すること、
(2)R、R及びRの一以上が、それぞれ独立してADを有し、R、R及びRが、それぞれ独立してAD以外の上記した原子または基を有すること、
(3)R、R、R、R、R及びRが全て、それぞれ独立してADを有すること、
が好ましく、
(4)R、R及びRが全て、それぞれ独立してADを有し、R、R及びRが、それぞれ独立してAD以外の上記した原子または基を有すること、
(5)R、R及びRが全て、それぞれ独立してADを有し、R、R及びRが、それぞれ独立してAD以外の上記した原子または基を有すること、
(6)R、R、R、R、R及びRが全て、同一のADを有すること、
がより好ましく、
(7)R、R及びRが全て、同一のADを有し、R、R及びRが、それぞれ独立してAD以外の上記した原子または基を有すること、
(8)R、R及びRが全て、同一のADを有し、R、R及びRが、それぞれ独立してAD以外の上記した原子または基を有すること、
が特に好ましい。
【0052】
なお、R、R、R、R、R及びRが取り得るAD以外の上記した原子や基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、同一の原子ないし基である方が好ましい。
【0053】
本形態で得られる化合物の具体例を示すため、ボラジンにアダマンタンを有する基(AD)が置換基として結合してなる複合化合物を以下に示す。
【0054】
化学式3ないし5のように表すことができる。
【0055】
【化4】

【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
化学式3ないし5中、ADはアダマンタン環を有する基を表す。また、上記の例ではいずれもボラジンのホウ素原子とADとが結合しているが、ボラジンの窒素原子とADとが結合してなる化合物も本発明に含まれることはいうまでもない。
【0059】
<第二の形態>
第二の形態は、下記の化学式2で表される化合物が、R、R、R10、R11、R12及びR13のうち一以上を結合手(−X−)として重合されてなるポリマーであることを特徴とする。本形態では、任意で原子や基が結合したボラジン環同士、並びに/またはボラジン環及びアダマンタン環が、架橋構造を介して結合する。前記ポリマーを構成するボラジン構造単位(モノマー)には、アダマンタン環が置換基及び/若しくは結合手として結合している単位、並びに/またはアダマンタン環が置換基及び結合手のいずれとしても結合していない単位が含まれる。ただし、前記ポリマー中、少なくとも1つのボラジン構造単位には、アダマンタン環が置換基及び/若しくは結合手として結合している。
【0060】
【化7】

【0061】
式中、R〜R13は、それぞれ独立して、結合手Xまたは非結合手Xであって、一以上がXである。
【0062】
としてのR、R、R10、R11、R12及びR13は、特に制限されることはないが、それぞれ独立して、単結合、O、NH、NR14、SまたはADであることが好ましく、O、NH、NR14、SまたはADであることがより好ましい。特に好ましい場合、すなわち、ボラジン環同士、並びに/またはボラジン環及びアダマンタン環の間に、O、NH、NR14またはSからなる結合手(−X−)が存在する場合、該ポリマーは柔軟性や熱可塑性が向上し、薄膜形成に有利となる。なお、2つのボラジン骨格を結ぶR、R、R10、R11、R12及びR13が共に結合手(結合基)である場合、−X−X−と表せるが、−X−X−の場合、各Xは、同一の結合基であっても異なる結合基であってもよい。また、以下で「−X−」と表す場合、−X−X−のうち少なくとも一方のXが単結合であることを意味する。さらに、2個のボラジン骨格のホウ素原子同士、窒素原子同士、及びホウ素原子と窒素原子とが直接結合しているような場合には、かかる直接結合は単結合(結合子)に相当し、−X−X−中の2つのXは共に単結合である。すなわち、本明細書において、「単結合」(結合子)とは、隣り合う原子同士の直接結合を意味する。
【0063】
化学式2で表される複合化合物(ポリマー)中、少なくとも一以上のボラジン構造単位(モノマー)においては、R、R、R10、R11、R12及びR13、並びにR14のうち一以上がアダマンタン環を有することを必須の条件とする。
【0064】
「Xとしての、化学式2中に示されたR、R、R10、R11、R12及びR13」、並びに「上記したR14」は、特に制限されることはないが、例えば、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、チオシアナート基、シアナート基、アシル基、カルバモイル基、炭素数2〜20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換または非置換の炭素数6〜18のアリールチオ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換または非置換の炭素数2〜20のアルキルカルボニルアミノ基、置換または非置換の炭素数7〜20のアリールカルボニルアミノ基、あるいはアダマンタン環を有する基(AD)などが挙げられる。ただし、全てのXがADを含まない場合、XとしてのR、R、R10、R11、R12及びR13のうち一以上はADでありうる。また、「XとしてのR、R、R10、R11、R12及びR13」、並びに「上記したR14」は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、またはADであることが好ましい。R、R、R10、R11、R12及びR13は、互いに同一であっても異なってもよい。
【0065】
また、合成反応の収率や取り扱いの容易性の観点から、
(1)R、R10及びR12の一以上が、それぞれ独立して結合手としてのADを有し、R、R11及びR13が、それぞれ独立して、結合手としてのAD以外の上記した原子または基を有すること、
(2)R、R11及びR13の一以上が、それぞれ独立して結合手としてのADを有し、R、R10及びR12が、それぞれ独立して、結合手としてのAD以外の上記した原子または基を有すること、
(3)R、R、R10、R11、R12及びR13が全て、それぞれ独立して結合手としてのADを有すること、
が好ましく、
(4)R、R10及びR12が全て、それぞれ独立して結合手としてのADを有し、R、R11及びR13が、それぞれ独立して、結合手としてのAD以外の上記した原子または基を有すること、
(5)R、R11及びR13が全て、それぞれ独立して結合手としてのADを有し、R、R10及びR12が、それぞれ独立して、結合手としてのAD以外の上記した原子または基を有すること、
(6)R、R、R10、R11、R12及びR13が全て、同一の、結合手としてのADを有すること、
がより好ましく、
(7)R、R10及びR12が全て、同一の、結合手としてのADを有し、R、R11及びR13が、それぞれ独立して、結合手としてのAD以外の上記した原子または基を有すること、
(8)R、R11及びR13が全て、同一の、結合手としてのADを有し、R、R10及びR12が、それぞれ独立して、結合手としてのAD以外の上記した原子または基を有すること、
が特に好ましい。
【0066】
なお、R、R、R10、R11、R12及びR13が取り得る、結合手としてのAD以外の上記した原子や基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、同一の原子ないし基である方が好ましい。
【0067】
さらに、本形態で得られるポリマーは、直鎖、分岐鎖の双方がありうる。
【0068】
本形態で得られる化合物(ポリマー)は、例えば、化学式6及び7のように表すことができる。
【0069】
【化8】

【0070】
【化9】

【0071】
化学式6及び7中、Y(化学式6)はXとしてのR、R、R10、R11、R12またはR13のいずれかであり、Xは結合手を表し、ADまたはAD以外の原子若しくは基である。
【0072】
化学式6は、主鎖骨格中にボラジン環を含むモノマー単位からなる直鎖ポリマーである。各モノマー単位はそれぞれ独立して、アダマンタン環をボラジン環とともに主鎖骨格として含むか、アダマンタン環を、主鎖骨格を形成するボラジン環の置換基として含むか、またはそれらの双方を含む。このうち、主鎖骨格中にボラジン環とアダマンタン環とを1:1で含むモノマー単位からなるポリマーは、化学式8で表される。
【0073】
【化10】

【0074】
そして、化学式7は、主鎖骨格中にボラジン環を含むモノマー単位からなる分岐鎖ポリマーである。各モノマー単位はそれぞれ独立して、アダマンタン環をボラジン環とともに主鎖骨格として含むか、アダマンタン環を「側鎖」として含むか、またはそれらの双方を含む。なお、化学式7に示されたモノマー単位中の2つのXは、互いに同一であっても異なってもよい。また、上記の例ではいずれもボラジンのホウ素原子とXとが結合しているが、ボラジンの窒素原子とXとが結合してなる化合物も本発明に含まれることはいうまでもない。
【0075】
また、上記化学式3〜5及び6〜8では、結合基X(ADを含む)及び置換基Y、AD以外の基は全て水素原子で示しているが、非結合手Xがとり得る原子(水素原子以外)または基であってもよい。
【0076】
nは、モノマーの繰り返し単位数を表す。nの値は2以上であればよい。また、ポリマーの重量平均分子量が300〜50,000となるような整数であることが好ましく、300〜30,000となるような整数であることがより好ましく、300〜10,000となるような整数であることが特に好ましい。かかる場合、溶媒に対する溶解性に特に優れ、塗布膜を製造する際に有利となりうる。なお、本明細書中、重量平均分子量は、例えばGPCにより測定することができる。
【0077】
以上が第二の形態のうち好ましい形態であるが、その他、ボラジン環、アダマンタン環及びその他の置換基がビニル重合により結合してなるポリマーもありうる。前記その他の置換基は特に制限されることはないが、例えば、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、チオシアナート基、シアナート基、アシル基、カルバモイル基、炭素数2〜20のアルキルアミノカルボニル基、炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換または非置換の炭素数6〜18のアリールチオ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキルアミノ基、置換または非置換の炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換または非置換の炭素数2〜20のアルキルカルボニルアミノ基、あるいは置換または非置換の炭素数7〜20のアリールカルボニルアミノ基などが挙げられる。各原子または基の具体例については上記した通りである。当該ポリマーは、例えば、化学式9のように表すことができる。
【0078】
【化11】

【0079】
化学式9で表されるポリマーの重量平均分子量の範囲については、例示として挙げた上記化学式6ないし8の場合と同様である。一方、モノマーの繰り返し単位数p、q、rについては、pを100とした時の相対比として、qが1〜10,000であることが好ましく、rが0〜10,000であることが好ましい。
【0080】
また、上記(3)の場合について詳説する。上記(3)が採り得る形態として、(イ)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物(アダマンタン環を含まない)とからなる形態、(ロ)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、アダマンタン環を含有する化合物(ボラジン環を含まない)とからなる形態、及び(ハ)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物(アダマンタン環を含まない)及びアダマンタン環を含有する化合物(ボラジン環を含まない)とからなる形態がありうる。上記(イ)の場合に、ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物を100重量部とした時、ボラジン環を含有する化合物が1〜10,000重量部であることが好ましい。また、上記(ロ)の場合に、ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物を100重量部とした時、アダマンタン環を含有する化合物が1〜10,000重量部であることが好ましい。さらに、上記(ハ)の場合に、ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物を100重量部とした時、ボラジン環を含有する化合物とアダマンタン環を含有する化合物とがそれぞれ1〜10,000重量部であることが好ましい。
【0081】
[合成方法]
本発明の第二の態様として、本発明による複合化合物の合成方法について以下、例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明の合成方法の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0082】
<第一の形態に関する合成方法>
第一の形態によれば、ボラジン環に原子(水素原子など)や基(アルキル基やアダマンタン環を有する基など)が結合した化合物が得られる。なお、本合成方法は、上記した本発明の複合化合物についての第一の形態の合成方法に対応する。
【0083】
(第一の合成例)
下記反応式1に示されるように、ボラジン環の合成と同時に、アダマンタン環を有する基をボラジン骨格に結合させる。以下、「Ad」はアダマンチル基を、「MBH」は水素化ホウ素アルカリ(Mはアルカリ金属)を示す。
【0084】
【化12】

【0085】
第一段階として、冷却管を備えていてもよい反応容器に、窒素ガス等で置換しながらアダマンタン環を有する化合物(AdNHHCl)と第一の溶媒とを仕込み、反応容器内を昇温させる。
【0086】
前記冷却管を備えた反応容器の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよいため、特に限定されることはない。また、前記アダマンタン環を有する化合物の例として、AdNHHCl、すなわちアダマンタナミン塩酸塩を挙げたが、これらに制限されることはなく、他に、上述のアダマンタン環を有する基(AD)として挙げた化合物であればいずれも使用可能である。これらの化合物は、従来公知の方法により合成することも可能であるし、またメーカーから商業上購入することもできる。
【0087】
前記溶媒の例として、以下に制限されることはないが、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンが挙げられる。
【0088】
前記昇温の温度(到達温度)は、特に制限されることはないが、100〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、140〜170℃が特に好ましい。
【0089】
続いて、第二段階として、水素化ホウ素アルカリ(MBH)と第二の溶媒を供給する。
【0090】
前記水素化ホウ素アルカリにおいて、Mはリチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリとしては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0091】
前記溶媒の例として、以下に制限されることはないが、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどが挙げられる。なお、既に反応容器に添加した第一の溶媒と同一種であっても異種であってもかまわない。
【0092】
その後、第三段階として、反応容器内の反応溶液を昇温して、好ましくはさらに熟成させることにより、上記反応式1に記載の生成物が得られる。
【0093】
前記熟成の時間は、特に制限されることはないが、1〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましく、1〜2時間が特に好ましい。また、熟成の際の温度は、特に制限されることはないが、120〜250℃の範囲内であることが好ましく、150〜200℃の範囲内であることがより好ましく、170〜200℃の範囲内であることが特に好ましい。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0094】
使用するアダマンタン環を有する化合物及び水素化ホウ素アルカリは、合成する化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する3つの窒素原子にアダマンタンが結合しているN,N’,N”−トリ(1−アダマンチル)ボラジンを製造する場合には、アダマンタン環を有する化合物として1−アダマンタナミン塩酸塩などを使用し、水素化ホウ素アルカリとして水素化ホウ素ナトリウムなどを使用すればよい。
【0095】
さらに、ホウ素原子に結合した水素原子(水素化ホウ素アルカリ由来)をさらにアルキル基等に置換することも可能である。かような手法としては、例えば、上記反応式1で得られた化合物をグリニャール試薬と反応させればよい。
【0096】
アダマンタン環を有する化合物と水素化ホウ素アルカリとの反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは140〜250℃、より好ましくは120〜200℃、特に好ましくは140〜170℃である。
【0097】
ここで、上記した反応を促進するために触媒を用いてもよい。触媒の種類は特に制限されることはないが、例えば、公知の酸、塩基等の触媒、金属触媒や硬化触媒などを用いることができる。また、触媒は1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。触媒の使用量は、特に制限されないが、合成材料としてのアダマンタン環を有する化合物と水素化ホウ素アルカリの合計量に対して、0.001〜100質量%が好ましく、0.001〜10質量%がより好ましく、0.001〜1質量%が特に好ましい。
【0098】
第四段階として、合成された複合化合物は、必要に応じて精製されうる。複合化合物の精製方法としては、例えば、晶析法(有結晶法)が用いられる。
【0099】
(第二の合成例)
下記反応式2に示される反応は、脱水素反応を利用した合成方法である。
【0100】
【化13】

【0101】
第一段階として、冷却管を備えていてもよい反応容器に、上記反応式2中のボラジン環を有する化合物と第一の溶媒とを仕込み、アダマンタン環を有する化合物として上記反応式2中のアダマンタン化合物(AdYH)を滴下する。
【0102】
前記冷却管を備えた反応容器の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよいため、特に限定されることはない。また、上記反応式2中のボラジン環を有する化合物において、Y、Y及びYはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基から選択される。Y、Y及びYは同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。なお、Y、Y及び/またはYが塩素原子の場合には、第三級アミンを脱塩酸剤(塩酸捕捉剤)として別途添加するとよい。
【0103】
、R10及びR12は、化合物に関する「第二の形態」のR、R10及びR12に相当するため、詳細についての説明は省略する。なお、前記ボラジン環を有する化合物の合成法については従来公知の方法が適用されうる。
【0104】
上記反応式2中のAdYHは、従来公知の方法により合成することも可能であるし、またメーカーから商業上購入することもできる。「YH」は、水酸基(OH)、アミノ基(NH)、NHR14またはチオール基(SH)である。なお、R14は化合物に関する「第二の形態」のR14に相当する。
【0105】
前記溶媒の例として、以下に制限されることはないが、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)などが挙げられる。
【0106】
前記滴下の際の温度については、特に制限されることはないが、−80〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、1〜30℃(室温)が特に好ましい。また、前記滴下の速度としては反応容器内に各成分が均一に存在しうる限り、特に制限されることはない。
【0107】
続いて、第二段階として、上記第一合成例の第三段階と同様、反応容器内の反応溶液を昇温して、好ましくはさらに熟成させることにより、上記反応式2に記載の生成物が得られる。
【0108】
(第三、第四の合成例)
また、下記のような反応式もありうる。
【0109】
【化14】

【0110】
【化15】

【0111】
反応式3及び4中、Y、Y及びY並びにR、R10及びR12については、上記「第二の合成例」の記載がそのまま適用される。また、反応式3では、前記アダマンタン環を有する化合物の例として、AdMtを挙げたが、これらに制限されることはなく、他に、上述のアダマンタン環を有する基(AD)とMtとを含む化合物であればいずれも使用可能である。なお、Mtの例として、MgBr、Li、MgCl、MgIが挙げられる。その他の反応条件などは、上記「第一の合成例」と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0112】
<第二の形態に関する合成方法>
複合化合物における第二の形態によれば、任意で原子(水素原子など)や基(アルキル基やアダマンタン環を有する基など)が結合したボラジン環同士、並びに/またはボラジン環及びアダマンタン環が、架橋構造を介して結合した化合物が得られる。なお、本合成方法は、上記した本発明の化合物についての第二の形態の合成方法に対応する。
【0113】
具体的には、モノマーから、有機合成において通常用いられる方法を利用して容易に調製することができる。例えば、溶媒中で触媒を使ってモノマー同士を反応させることで所望のポリマーを得ることができる。使用可能なモノマーが多様に存在するため、以下、数例を挙げて説明するが、かような実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0114】
(第一の合成例)
下記反応式5に示される反応は、脱水素反応または脱塩反応を利用した重合方法である。
【0115】
【化16】

【0116】
第一段階として、冷却管を備えていてもよい反応容器に、ボラジン環を有する化合物と第一の溶媒とを仕込み、アダマンタン環を有する化合物(Y−Ad−Y)を滴下する。
【0117】
前記冷却管を備えた反応容器の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよいため、特に限定されることはない。また、ボラジン環を有する化合物において、Y、Y及びYはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基から選択される。Y、Y及びYは同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。なお、Y、Y及び/またはYが塩素原子の場合には、第三級アミンを脱塩酸剤(塩酸捕捉剤)として別途添加するとよい。
【0118】
、R10及びR12は、化合物に関する「第二の形態」のR、R10及びR12に相当するため、詳細についての説明は省略する。なお、前記ボラジン環を有する化合物の合成法については従来公知の方法が適用されうる。
【0119】
−Ad−Yは、従来公知の方法により合成することも可能であるし、またメーカーから商業上購入することもできる。Y及びYはそれぞれ独立して、水酸基(OH)、アミン基(NH)、NHR14及びチオール基(SH)から選択され、R14は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、またはADであり、好ましくは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基である。Y及びYは同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0120】
前記溶媒の例として、以下に制限されることはないが、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)などが挙げられる。
【0121】
前記滴下の際の温度については重合反応が開始しない限り、特に制限されることはないが、−80〜100℃が好ましく、0〜50℃がより好ましく、1〜30℃(室温)が特に好ましい。また、前記滴下の速度としては反応容器内に各成分が均一に存在しうる限り、特に制限されることはない。
【0122】
続いて、第二段階として、反応容器内を昇温させて攪拌することで重合反応を進行させる。本合成例においては、ボラジン環を有する化合物のホウ素原子に結合している置換基と、Y−Ad−YのうちY及びY由来の基とが脱水素反応または脱塩反応を起こすことにより逐次重合反応が進行し、上記反応式5に示した生成物が得られる。
【0123】
前記昇温の温度(到達温度)は、特に制限されることはないが、0〜300℃が好ましく、50〜250℃がより好ましく、100〜200℃が特に好ましい。
【0124】
前記攪拌の時間は、昇温の温度(到達温度)と関連して決定され、重合反応が十分に進行する限り、特に制限されることはない。好ましくは1〜72時間、より好ましくは1〜24時間、特に好ましくは1〜12時間である。また、攪拌の速度は、重合反応が十分に進行するような速度であれば何ら制限されることはなく、また、攪拌翼などの幅や長さによって当業者であれば適宜調整可能な要素である。また、重合反応中の温度は、好ましくは0〜300℃、より好ましくは50〜250℃、特に好ましくは100〜200℃の範囲で制御される。
【0125】
重合体形成材料としてのアダマンタン環を有する化合物(Y−Ad−Y)とボラジン環を有する化合物との混合比は、特に限定されないが、アダマンタン環を有する化合物の使用量を1モルとした場合に、ボラジン環を有する化合物の使用量を0.5〜2.0モルとすることが好ましく、0.7〜1.5モルとすることがより好ましい。
【0126】
ここで、上記した重合反応を促進するため、触媒を用いてもよい。触媒の種類も特に制限されることはないが、例えば、公知の酸、塩基等の触媒、金属触媒や硬化触媒などを用いることができる。また、触媒は1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。触媒の使用量は、特に制限されないが、重合体形成材料としてのアダマンタン環を有する化合物とボラジン環を有する化合物の合計量に対して、0.001〜100質量%が好ましく、0.001〜10質量%がより好ましく、0.001〜1質量%が特に好ましい。
【0127】
なお、本発明における、「第二の形態に関する合成方法」は、上記の方法に限られず、上記化学式2(より具体的には上記化学式4ないし7)の例として挙げられている複合化合物を製造するための方法であれば、いずれも本発明の合成方法に含まれる。
【0128】
さらに、第三段階として、合成された複合化合物(ポリマー)は、必要に応じて精製されうる。複合化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。詳細については上記した「第一の形態に関する合成方法」と同様である。
【0129】
(第二の合成例)
第二の合成例はビニル重合を利用した重合方法であり、一具体例として、下記反応式6を挙げる。
【0130】
【化17】

【0131】
前記ボラジン環及びアダマンタン環と結合する置換基の例として、エチレン基を挙げたが、これに制限されることはなく、他に、炭素数3〜10のアルケニル基であってもよい。
【0132】
本反応は、光(紫外線)照射または加熱によるラジカル重合によって反応を進行させる。ここで、上記した重合反応を促進するため、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤の種類は特に制限されることはないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や過酸化ベンゾイルなどを用いることができる。
【0133】
[絶縁膜]
本発明の第三の態様として、本発明の膜形成用組成物を含む絶縁膜が提供される。本発明の絶縁膜は、前記膜形成用組成物の3つの類別に対応するように3つに類別することができる。
【0134】
まず、(1)ボラジン環及びアダマンタン環を含む(複合)化合物と、好ましくはさらに溶媒とを含む組成物の場合、絶縁膜は前記(複合)化合物から得られる。また、(2)ボラジン環を含有する化合物(アダマンタン環を有しない)と、アダマンタン環を含有する化合物(ボラジン環を有しない)と、好ましくはさらに溶媒とを含む組成物の場合、絶縁膜は上記化合物群から得られる。さらに、(3)ボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物及び/またはアダマンタン環を含有する化合物と、好ましくはさらに溶媒とを含む組成物の場合、絶縁膜を構成する少なくとも一部は前記複合化合物である。上記(1)〜(3)いずれの場合においても、膜形成用組成物中の化合物と、絶縁膜中の化合物とは、組成や架橋度等が同じ場合も異なる場合もありうる。特に、上記(3)の場合、膜形成用組成物中の化合物と前記絶縁膜中の化合物とは、化合物の組成や架橋度等の点で相違しうる。好ましくは、上記(1)の膜形成用組成物を用いて得られる絶縁膜である。
【0135】
前記膜形成用組成物は、ボラジン環とアダマンタン環とを含む。アダマンタン環は熱的に安定であるとともに、ひずみの全くない縮合環構造に起因して、耐熱性を低下させることなく膜密度を低減できる。ボラジン環とアダマンタン環とを主成分とする組成物は極性が極めて小さいため、SiOF膜に見られるような誘電率の経時的な上昇の原因となる吸湿が生じない。したがって、前記組成物は、耐熱性、耐湿性及び低誘電率などを兼ね備えており、前記組成物を含む絶縁膜は、誘電率が3.0以下となる。このようにして、本発明の絶縁膜は半導体装置の層間絶縁膜に適用可能であり、応答速度の大きな半導体装置が得られる。
【0136】
[絶縁膜の製造方法]
本発明の第四の態様として、前記絶縁膜は、本発明の膜形成用組成物を適当な塗布用溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法等、従来公知の塗布法により基板上に塗布することにより製造することが好ましい。前記塗布用溶媒は、前記膜形成用組成物が溶解すれば特に限定されない。塗布用溶媒の例として、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどが挙げられる。
【0137】
本発明の絶縁膜は、低誘電率性、耐湿性、耐水性、耐熱性及び機械特性という、いずれの特性にも優れた被膜である。
【0138】
[半導体装置]
本発明の第五の態様として、本発明の絶縁膜を含む、半導体装置が提供される。本発明の半導体装置は、半導体基板上に絶縁層と配線層とを交互に積層させた構造を有し、前記絶縁層のうち一以上が上記絶縁膜である。本発明の半導体装置は、前記絶縁膜の特性に起因して、配線構造における寄生容量を低減する効果があり、半導体装置の高集積化と高速化が実現されうる。
【実施例】
【0139】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。しかし、本発明が下記の実施例に限定されることはなく、本明細書の記載に接した当業者であれば多様な変形や改良などが可能である。
【0140】
<誘電率の測定方法>
誘電率は、被膜に金電極を蒸着して測定した。
【0141】
<耐熱性試験方法>
500℃で加熱後、誘電率の変化を観察することにより評価した。
【0142】
<耐湿性試験方法>
20℃、20%RHの条件下での外観変化を観察した。
【0143】
[実施例1]
本実施例は、上記した「第一の形態の製造方法」の「第一の合成例」に記載の反応系に従うものである。
【0144】
第一段階として、冷却管を備えた反応容器に、窒素置換をしながら、1−アダマンタナミン塩酸塩187.7g、及び溶媒としてトリグライム250gを仕込み、10℃/分の速度で150℃まで昇温した。
【0145】
続いて、第二段階として、水素化ホウ素ナトリウム42.6gとトリグライム150gとの混合物を90分かけて供給した。
【0146】
その後、第三段階として、当該反応容器内の反応溶液を2℃/分の速度で170℃まで昇温した。その後、168〜172℃の範囲内で温度調節しつつ2時間熟成させることにより、N,N’,N”−トリ(1−アダマンチル)ボラジンを144g得た。また、得られた膜形成用組成物の誘電率は2.7であった。さらに、耐熱性試験の結果として変化は観察されず、耐湿性試験の結果として2日経過後も変化が見られなかった。
【0147】
[実施例2]
本実施例は、上記した「第二の形態の製造方法」の「第一の合成例」に記載の反応系に従うものである。
【0148】
第一段階として、冷却管を備えた反応容器に、N,N’,N”−トリメチルボラジン10gと、溶媒として乾燥トルエン86.6g(100ml、比重0.866g/ml)を仕込み、1,3−アダマンタンジオール10gを室温(25℃)で滴下した。
【0149】
続いて、第二段階として、反応容器内を1〜5℃/分の速度で60℃まで昇温させて3時間攪拌することで重合反応を進行させた。なお、重合反応中の温度は58〜62℃の範囲で制御した。その結果、下記化学式10で示されるポリマーを18g得た。また、得られたポリマーの誘電率は2.8であった。さらに、耐熱性試験の結果として変化は観察されず、耐湿性試験の結果として2日経過後も変化が見られなかった。
【0150】
【化18】

【0151】
[実施例3]
本実施例は、上記した「第二の形態に関する製造方法」の「第一の合成例」に記載の反応系に従うものである。
【0152】
第一段階として、冷却管を備えた反応容器に、N,N’,N”−トリメチル−B,B’,B”−トリクロロボラジン10gと、溶媒として乾燥トルエン86.6g(100ml、比重0.866g/ml)を仕込み、1,3−ジアミノアダマンタン20gとトリエチルアミン50gとを0℃で60分かけて滴下した。
【0153】
続いて、第二段階として、反応容器内を1〜2℃/分の速度で60℃まで昇温させて、昇温後3時間攪拌することで重合反応を進行させた。なお、重合反応中の温度は58〜62℃の範囲で制御した。その結果、下記化学式11で示されるポリマーを26g得た。また、得られたポリマーの誘電率は2.7であった。さらに、耐熱性試験の結果として変化は観察されず、耐湿性試験の結果として2日経過後も変化が見られなかった。
【0154】
【化19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボラジン環及びアダマンタン環を含有する、化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物を含む、膜形成用組成物。
【請求項3】
ボラジン環を含有する化合物と、アダマンタン環を含有する化合物を含む、膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のボラジン環及びアダマンタン環を含有する化合物と、ボラジン環を含有する化合物及び/またはアダマンタン環を含有する化合物とを含む、膜形成用組成物。
【請求項5】
溶媒をさらに含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン及びシクロペンタノンから選択される一種以上である、請求項5に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
請求項2〜6に記載の膜形成用組成物を用いてなる、絶縁膜。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁膜を含む、半導体装置。

【公開番号】特開2009−105099(P2009−105099A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273195(P2007−273195)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】