説明

膜形成用組成物およびシリカ系膜

【課題】保存期間中に変性し難い膜形成用組成物、および当該組成物から得られるシリカ系膜を提供する。
【解決手段】膜形成用組成物は、ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖を有し、かつ、下記一般式(1)で表される構造単位、および(1)式のHがCHおよびOHおよびOR(Rは1価の炭化水素基を示す)に置換わった構造単位をそれぞれ含むポリカルボシランと、下記一般式(5)で表される化合物群から選ばれた少なくとも1つの有機溶剤と、を含む。


・・・・・(1)R1O(CHCHCHO)a ・・・・・(5)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボシランを含む塗布用シリカ系膜形成用組成物、および当該組成物から得られるシリカ系膜に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素繊維やセラミックス材料の前駆体としてポリカルボシランが着目され、工業的に利用されている。特に、主鎖がケイ素原子と炭素原子との繰り返し構造からなるポリカルボシランは耐熱性に優れており、広く利用されている。また、ポリカルボシランは、光機能材料や導電性材料などへの応用が期待されている。
【0003】
ケイ素原子と炭素原子との繰り返し構造からなる主鎖を有するポリカルボシランの製造方法としては、例えば、ポリ(ジメチルシラン)の熱転位による方法が挙げられる(非特許文献1)。この方法では、ポリ(ジメチルシラン)中のケイ素原子に結合するメチル基の一部が主鎖のSi−Si結合に挿入されて、Si−C結合を形成するとともに、転位したSi−CH部分がSi−H結合に置き換わる。
【0004】
このようなポリカルボシランは基本骨格が疎水性である一方で、硬化性向上のためヒドロキシ基やアルコキシ基を具有することが要求されることがあり、この際溶液中でのポリマーとしての安定性や溶解性が不十分な場合があった。
【非特許文献1】ジャーナル オブ マテリアルズ サイエンス,1978年,第13巻,p.2569−2576(Journal of Materials Science, 2569-2576, Vol.13, 1978)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、保存期間中に変性し難い膜形成用組成物、および当該組成物から得られるシリカ系膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の膜形成用組成物は、
ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖を有し、かつ、
下記一般式(1)で表される構造単位、下記一般式(2)で表される構造単位、下記一般式(3)で表される構造単位、および下記一般式(4)で表される構造単位を含むポリカルボシランと、
下記一般式(5)で表される化合物群から選ばれた少なくとも1つの有機溶剤と、を含む。
【0007】
【化10】

・・・・・(1)
【0008】
【化11】

・・・・・(2)
【0009】
【化12】

・・・・・(3)
【0010】
【化13】

・・・・・(4)
【0011】
〔式中、Rは1価の炭化水素基を示す。〕
1O(CHCHCHO) ・・・・・(5)
〔R1およびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはCHCO−から選ばれる1価の有機基を示し、aは1〜2の整数を表す。〕
上記本発明の第1の態様の膜形成用組成物において、ポリカルボシランは下記一般式(6)〜(10)で表される構造単位のうち少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0012】
【化14】

・・・・・(6)
【0013】
【化15】

・・・・・(7)
【0014】
【化16】



・・・・・(8)
【0015】
【化17】

・・・・・(9)
【0016】
【化18】

・・・・(10)
【0017】
上記本発明の第1の態様の膜形成用組成物において、
一般式(5)において、R1およびRのうち、一方は炭素数1〜8のアルキル基であり、他方は水素原子またはCHCO−であることができる。
【0018】
上記本発明の第1の態様の膜形成用組成物において、
ポリカルボシランの重量平均分子量は、300〜300,000であり、
ポリカルボシランは、有機溶剤に可溶であることができる。
【0019】
上記本発明の第1の態様の膜形成用組成物において、
一般式(5)で表される化合物群から選ばれた有機溶剤を、ポリカルボシラン100重量部に対して50重量部以上含むことができる。
【0020】
本発明の第2の態様のシリカ系膜は、上記本発明の第1の態様の膜形成用組成物を用いて形成された塗膜を硬化させることにより得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の態様の膜形成用組成物は、上記有機溶剤とを含むことにより、上記ポリカルボシランを十分に溶解し、かつ当該ポリカルボシランの保存中の変性を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の第1の態様の膜形成用組成物によれば、上記一般式(1)で表される構造単位、下記一般式(2)で表される構造単位、上記一般式(3)で表される構造単位、および下記一般式(4)で表される構造単位を含むことにより、粗大粒子が少なく、かつ、硬化性が良好である。
【0023】
また、本発明の第1の態様の膜形成用組成物によれば、Si−H結合およびSi−O結合の両方を含むことにより、不活性ガス雰囲気や減圧下など酸化雰囲気でない環境下での焼成でも、ポリマーの架橋・硬化が可能になる。また、Si−Me部位が含まれているため、耐エッチング性、アッシング性が良好である。
【0024】
また、本発明の第1の態様の膜形成用組成物は、例えば、セラミックス、耐熱性プラスチック、電子材料などへの利用が可能である。特に、粗大粒子が少なく、かつ、硬化性が良好であることから、例えば、電子材料用途(半導体素子用層間絶縁膜やエッチングストッパー膜、半導体素子の表面コート膜などの保護膜、多層レジストを用いた半導体作製工程の中間層、多層配線基板の層間絶縁膜、液晶表示素子用の保護膜や絶縁膜、光機能材料、導電性材料など)における膜形成用組成物として有用である。
【0025】
本発明の第2の態様のシリカ系膜は、上記本発明の第1の態様の膜形成用組成物を用いて形成された塗膜を硬化させることにより得られるため、均質である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る膜形成用組成物およびその製造方法、当該膜形成用組成物を含む塗布用シリカ系膜について説明する。
【0027】
1.膜形成用組成物
本発明に係る膜形成用組成物は、以下に示すポリカルボシランおよび有機溶剤を含む。ポリカルボシランは、有機溶剤に溶解あるいは分散させることができる。さらに、本発明に係る膜形成用組成物には、必要に応じてさらに添加剤を含有させてもよい。
【0028】
ポリカルボシランおよび有機溶剤の詳細について以下に説明する。
【0029】
1.1.ポリカルボシラン
本実施の形態に係るポリカルボシランは、ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖を有し、下記一般式(1)で表される構造単位、下記一般式(2)で表される構造単位、下記一般式(3)で表される構造単位、および下記一般式(4)で表される構造単位を含む。すなわち、本発明のポリカルボシランは、ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖と、主鎖のケイ素原子に結合する水素原子、酸素原子、および炭素原子を含む側鎖とを含む。
【0030】
なお、本発明のポリカルボシランにおいて、下記一般式(1)〜(4)で表される構造単位のうち同じ構造単位が連続していてもよく、または、異なる構造単位が隣り合って存在していてもよく、あるいは、同じ構造単位が連続している部分と、異なる構造単位が隣り合って存在している部分との両方を含んでいてもよい。
【0031】
【化19】

・・・・・(1)
【0032】
【化20】

・・・・・(2)
【0033】
【化21】

・・・・・(3)
【0034】
【化22】

・・・・・(4)
【0035】
〔式中、Rは1価の炭化水素基を示す。〕
すなわち、本実施の形態に係るポリカルボシランは、上記一般式(1)〜(4)で表される構造単位をそれぞれ少なくとも1つ有する。より具体的には、本発明のポリカルボシランは、下記一般式(1)〜(4)に表されるように、−H、−CH、−OH、および−ORを側鎖に含み、これらの側鎖はいずれも主鎖のSiと結合している。
【0036】
また、上記一般式(4)において、Rとして示される1価の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、特に、Rがアルキル基である場合、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0037】
本発明において、「ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖」とは、例えば下記一般式(11)で表される構造を有する。なお、下記一般式(11)においては、主鎖に結合する側鎖の記載は省略する。また、主鎖に含まれるケイ素原子および炭素原子の数はこれに限定されるわけではない。前記主鎖において、側鎖の種類は特に限定されないが、側鎖としては例えば、−H、−OH、−O−Si、−OR’(ここで、R’は1価の炭化水素基を示し、例えば上記一般式(4)においてRとして例示された基であってもよく、より具体的には、本発明のポリカルボシランを製造する際に用いるアルコール由来であってもよい。)であってもよい。
【0038】
【化23】

・・・・・(11)
本発明のポリカルボシランにおいて、上記一般式(1)〜(4)で表される構造単位の数はそれぞれ、(1)5〜70%、(2)30〜80%、(3)5〜50%、(4)5〜30%であることが好ましい。
【0039】
上記本発明のポリカルボシランにおいて、下記一般式(6)〜(10)で表される構造単位のうち少なくとも1つをさらに含むことができる。この場合、本発明のポリカルボシランにおいて、下記一般式(6)〜(10)で表される構造単位のうち同じ構造単位が連続していてもよく、または、異なる構造単位が隣り合って存在していてもよく、あるいは、同じ構造単位が連続している部分と、異なる構造単位が隣り合って存在している部分との両方を含んでいてもよい。
【0040】
【化24】

・・・・・(6)
【0041】
【化25】

・・・・・(7)
【0042】
【化26】

・・・・・(8)
【0043】
【化27】

・・・・・(9)
【0044】
【化28】

・・・・・(10)
【0045】
上記一般式(7)および(8)において、酸素原子は、水素原子、ケイ素原子、および炭素原子のいずれかに結合可能である。また、上記一般式(9)および(10)において、メチレン(−CH−)の炭素原子は、酸素原子、ケイ素原子、および炭素原子のいずれかに結合可能である。
【0046】
本発明のポリカルボシランは有機溶剤に可溶であり、かつ、その重量平均分子量は300〜300,000であることが好ましく、500〜100,000であることがより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、焼成時にポリマーが揮発することがあり、一方、重量平均分子量が300,000を超えると、ポリマーが溶液に不溶になり、塗布組成物を得ることができない。
【0047】
1.2.ポリカルボシランの製造方法
本発明のポリカルボシランの製造方法は、ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖を有し、下記一般式(1)で表される構造単位および下記一般式(2)で表される構造単位を有する原料ポリマーを、有機溶剤中で塩基性触媒の存在下でアルコールと反応させた後、水と反応させる工程を含む。
【0048】
【化29】


・・・・・(1)
【0049】
【化30】

・・・・・(2)
【0050】
ここで、塩基性触媒の存在下でアルコールおよび水と反応させると、縮合反応において粗大粒子が生成し、ゲル化する場合がある。これに対して、本実施の形態に係るポリカルボシランの製造方法によれば、ゲル化することがないため、粗大粒子が少ないポリカルボシランを製造することができる。
【0051】
1.2.1.原料ポリマー
本実施の形態に係るポリカルボシランの製造方法において使用される原料ポリマーは、上記一般式(1)および(2)で表される構造単位をそれぞれ少なくとも1つ有する。この場合、原料ポリマーにおいて、一般式(1)および(2)で表される構造単位のうち同じ構造単位が連続していてもよく、または、異なる構造単位が隣り合って存在していてもよく、あるいは、同じ構造単位が連続している部分と、異なる構造単位が隣り合って存在している部分との両方を含んでいてもよい。
【0052】
また、前記原料ポリマーは、下記一般式(6)で表される構造単位、下記一般式(9)で表される構造単位、および下記一般式(10)で表される構造単位のうち少なくとも1つを有することができる。この場合においても、同じ構造単位が連続していてもよく、または、異なる構造単位が隣り合って存在していてもよく、あるいは、同じ構造単位が連続している部分と、異なる構造単位が隣り合って存在している部分との両方を含んでいてもよい。
【0053】
【化31】

・・・・・(6)
【0054】
【化32】

・・・・・(9)
【0055】
【化33】

・・・・・(10)
【0056】
本発明のポリカルボシランの製造において、前記原料ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(12)、一般式(13)、および一般式(14)に示すものがある。なお、下記一般式(12)〜(14)において、同じ構造単位が連続していてもよく、または、異なる構造単位が隣り合って存在していてもよく、あるいは、同じ構造単位が連続している部分と、異なる構造単位が隣り合って存在している部分との両方を含んでいてもよい。このことは、後述する一般式(15)〜(17)にも同様に適用される。
【0057】
【化34】

・・・・・(12)
〔一般式(12)において、x,yはそれぞれ1以上の整数を示す。〕
【0058】
【化35】

・・・・・(13)
〔一般式(13)において、a,bはそれぞれ1以上の整数を示し、c,dはいずれも整数を示し、少なくとも一方が1以上である。〕
【0059】
【化36】

・・・・・(14)
〔上記一般式(14)において、a,bはそれぞれ1以上の整数を示し、c,dはいずれも整数を示し、少なくとも一方が1以上である。〕
【0060】
1.2.2.塩基性触媒
本実施の形態のポリカルボシランの製造において使用可能な塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクラン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、尿素、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、などを挙げることができる。これらの中で、アンモニア、有機アミン類、アンモニウムハイドロオキサイド類を好ましい例として挙げることができ、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドが特に好ましい。これらの塩基性触媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0061】
塩基性触媒の使用量は、原料ポリカルボシランに含まれるケイ素―水素結合の数によって決定される。
【0062】
1.2.3.アルコール
本実施の形態のポリカルボシランの製造において使用可能なアルコールとしては、脂肪族(直鎖、環状)アルコールおよび芳香族アルコールのいずれであってもよく、例えば、炭素数1〜6のアルコールが挙げられ、より具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、sec−ブタノール、n−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0063】
1.2.4.有機溶剤
本実施の形態に係るポリカルボシランの製造においては、下記の有機溶剤を使用することができる。本発明に使用する有機溶剤としては、使用するアルコールおよび水、ならびに原料ポリマーをいずれも溶解させることができるものが好ましい。あるいは、有機溶剤としてアルコールを使用することにより、有機溶剤とアルコールとを兼用してもよい。
【0064】
ここで、有機溶剤としては、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、i−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンセン、i−プロピルベンセン、ジエチルベンゼン、i−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−i−プロピルベンセン、n−アミルナフタレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒(炭化水素系溶媒を用いる場合であって、水を使用する場合、炭化水素系溶媒と他の溶媒とを組み合わせて使用可能である);アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−i−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、フェンチョンなどのケトン系溶媒;エチルエーテル、i−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドンなどの含窒素系溶媒;硫化ジメチル、硫化ジエチル、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−プロパンスルトンなどの含硫黄系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、sec−ブタノール、n−プロパノールなどのアルコール系溶媒(この場合、アルコール系溶媒は反応剤としての作用も有する。)などを挙げることができる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。また上記溶剤との混合で用いる場合は、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、i−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンセン、i−プロピルベンセン、ジエチルベンゼン、i−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−i−プロピルベンセン、n−アミルナフタレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒などを使用することもできる。
【0065】
1.2.5.水との反応
本実施の形態に係るポリカルボシランの製造においては、具体的には、塩基性触媒の存在下、有機溶剤中で原料ポリマーと、アルコール(ROH;Rはアルキル基)とを反応させることにより、Si−H結合の一部をアルコキシシラン部位(Si−OR)に変換させた後、水と反応させることにより、Si−OR部位の一部(場合によってはさらに、Si−H結合の一部)を、シラノール部位(Si−OH)およびSi−O−Si結合のいずれかに変換することができる。すなわち、上述の水との反応により、シラノール部位形成後に、当該シラノール部位同士の脱水縮合反応が起こることにより、Si−O−Si結合が形成されることがある。
【0066】
ここで、上述の水との反応としては、例えば、反応系内に酸性水溶液を加える方法が挙げられる。この方法によれば、生成が予想されるシラノール部位の更なる脱水縮合を抑制することができる。酸性水溶液としては特に限定されないが、例えば、有機酸または無機酸が例示できる。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、メサコン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸の加水分解物、無水マレイン酸の加水分解物、無水フタル酸の加水分解物などを挙げることができる。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸などを挙げることができる。なかでも、ポリマーの析出やゲル化のおそれが少ない点で有機酸が好ましく、このうち、カルボキシル基を有する化合物がより好ましく、なかでも、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、メサコン酸、シトラコン酸、リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、無水マレイン酸の加水分解物が特に好ましい。これらは1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0067】
1.2.6.合成例
本実施の形態に係るポリカルボシランの第1〜第3の合成例を下記一般式に示すが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明のポリカルボシランの第1の合成例を下記一般式(A)に示す。第1の合成例においては、原料ポリマーが上記一般式(12)で表される場合を例にとり説明する。
【0069】
【化37】

・・・・・(A)
【0070】
上記一般式(A)において、z,wは1以上の整数(ここで、x>z+wを満たす。)であり、Rは上記一般式(4)で定義した通りであり、x,yは上記一般式(12)で定義した通りである。すなわち、上記一般式(12)で表される原料ポリマーにおいて、アルコール(ROH)との反応によりSi−H結合の一部がSi−OR部位に変換された後、水との反応によりSi−OR部位の一部(場合によってはさらに、Si−H結合の一部)がSi−OH部位に変換されることにより、上記一般式(A)で表されるポリカルボシランが得られる。
【0071】
本発明のポリカルボシランの第2の合成例を下記一般式(B)に示す。第2の合成例においては、原料ポリマーが上記一般式(13)で表される場合を例にとり説明する。
【0072】
【化38】


・・・・・(B)
【0073】
上記一般式(B)において、e,fは1以上の整数(ここで、a>e+fを満たす。)であり、g,hはc≧g+hを満たす整数であり、Rは上記一般式(4)で定義した通りであり、a,b,c,dは上記一般式(13)で定義した通りであり、酸素原子は、水素原子、ケイ素原子、および炭素原子のいずれかに結合可能である。すなわち、上記一般式(13)で表される原料ポリマーにおいて、アルコール(ROH)との反応によりSi−H結合の一部がSi−OR部位に変換された後、水との反応によりSi−OR部位の一部(場合によってはさらに、Si−H結合の一部)がSi−OH部位またはSi−O−Si結合に変換されることにより、上記一般式(B)で表されるポリカルボシランが得られる。
【0074】
本発明のポリカルボシランの第3の合成例を下記一般式(C)に示す。第3の合成例においては、原料ポリマーが上記一般式(14)で表される場合を例にとり説明する。
【0075】
【化39】


・・・・・(C)
【0076】
上記一般式(C)において、e,fは1以上の整数(ここで、a>e+fを満たす。)であり、g,hはc≧g+hを満たす整数であり、Rは上記一般式(4)で定義した通りであり、a,b,c,dは上記一般式(14)で定義した通りであり、酸素原子は、水素原子、ケイ素原子、および炭素原子のいずれかに結合可能である。すなわち、上記一般式(14)で表される原料ポリマーにおいて、アルコール(ROH)との反応によりSi−H結合の一部がSi−OR結合に変換された後、水との反応によりSi−OR結合の一部(場合によってはさらに、Si−H結合の一部)がSi−OH部位またはSi−O−Si結合に変換されることにより、上記一般式(C)で表されるポリカルボシランが得られる。
【0077】
2.有機溶剤
本実施の形態に係る膜形成用組成物は、下記一般式(5)に表される化合物群から選ばれた少なくとも1つの有機溶剤を含む。
1O(CHCHCHO)a ・・・・・(5)
〔R1およびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはCHCO−から選ばれる1価の有機基を示し、aは1〜2の整数を表す。〕
上述した製造方法により製造されたポリカルボシランに下記一般式(5)に表される化合物群から選ばれた少なくとも1つの有機溶剤を追加することにより、本実施の形態に係る膜形成用組成物が得られる。
【0078】
一般式(5)において、R1およびRのうち、一方は炭素数1〜8のアルキル基であり、他方は水素原子またはCHCO−であることが好ましい。R1およびRをこのようにすることで、ポリカルボシランに対して親水性と疎水性のバランスが取れた有機溶剤とすることができる。
【0079】
上記一般式(5)において、炭素数1〜8のアルキル基としては、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基を挙げることができ、好ましくは炭素数3〜6であり、これらのアルキル基は鎖状でも、分岐していてもよく、さらに水素原子がフッ素原子などに置換されていてもよい。
【0080】
上記一般式(5)で表される有機溶剤としては、具体例には、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノヘプチルエーテル、プロピレングリコールモノオクチルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-sec-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテートなどが挙げられ、特にプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートが好ましい。これらは1種または2種以上を同時に使用することができる。
【0081】
上述した有機溶剤は、上述したポリカルボシランに対して、疎水性と親水性のバランスがよいため、ポリカルボシランが有するシラノール基を安定させ、かつ、ポリカルボシランを十分に溶解することができる。
【0082】
また、膜形成用組成物は、上述したポリカルボシラン100重量部に対して、当該有機溶剤を50重量部以上含むことが好ましい。50重量部以上含むことによって、ポリカルボシランが有するシラノール基を十分に安定化させることができる。
【0083】
3.シリカ系膜
本発明のシリカ系膜は、本発明の膜形成用組成物を用いて形成された塗膜を硬化させることにより得られる。より具体的には、上記膜形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化させることにより、本発明のシリカ系膜を得ることができる。ここで、本発明の塗布用シリカ系組成物を、基材(例えば、シリコンウエハ、SiOウエハ、SiNウエハなど)に塗布する際には、スピンコート法、浸漬法、ロールコート法、スプレー法などの塗装手段を用いることができる。なお、ここで、「基材」とは、本発明のシリカ系膜が形成される部材をいい、その用途および材質は特に限定されない。
【0084】
ここで、前記塗膜を硬化させる方法としては、例えば、加熱、高エネルギー線照射などの方法が挙げられる。加熱を行なう場合、加熱手段としては例えば、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することができ、加熱雰囲気としては例えば、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行なうことができる。また、前記塗膜の硬化速度を制御するため、必要に応じて、段階的に加熱したり、あるいは窒素、空気、酸素、減圧などの雰囲気を選択したりすることができる。
【0085】
また、前記塗膜を硬化させる方法として、加熱および高エネルギー線照射の両方を用いてもよい。例えば、本発明の塗布用シリカ系組成物を基材に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を高エネルギー線照射下で30〜450℃に加熱することにより、前記塗膜を硬化させることができる。
【0086】
本発明のシリカ系膜は均質であることから、例えば、セラミックス、耐熱性プラスチック、電子材料用途(LSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAMなどの半導体素子用層間絶縁膜やエッチングストッパー膜、半導体素子の表面コート膜などの保護膜、多層レジストを用いた半導体作製工程の中間層、多層配線基板の層間絶縁膜、液晶表示素子用の保護膜や絶縁膜、光機能材料、導電性材料など)に有用である。なお、本発明のシリカ系膜の用途はこれらに限定されない。
【0087】
4.実施例および比較例
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実験例および比較例における各評価は以下に示す方法で行なった。
【0088】
4.1.分子量
ポリカルボシランの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、下記条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。
試料:テトラヒドロフランを溶媒として使用し、重合体1[g]を、100[cc]のテトラヒドロフランに溶解して調製した。
標準ポリスチレン:米国プレッシャーケミカル社製の標準ポリスチレンを使用した。
装置:米国ウオーターズ社製の高温高速ゲル浸透クロマトグラム(モデル150−CALC/GPC)
カラム:昭和電工(株)製のSHODEX A−80M(長さ50cm)
測定温度:40℃流速:1cc/分
4.2.NMRスペクトル
下記の装置を用いて、H NMRスペクトル(500MHz)および29Si NMRスペクトル(100MHz)の測定を行なった。
装置:BRUKER AVANCE 500型(ブルカー(Bruker)社製)
4.3.ガスクロマトグラフィー
装置本体:Agilent technologies社製6890N
カラム:Supelco社製SPB−35)
により、溶液中の溶剤組成を調べた。
【0089】
4.4.実施例1
原料ポリマー((株)日本カーボン社製、商品名「ニプシType−S」)20gをテトラヒドロフランに溶解させて400gとし、ここに、濃度が1.0mol/lのTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)のメタノール溶液5.0mlを加えた後、この反応液を50℃で3時間加熱した。次に、この反応液を室温まで冷却した後、2.0mol/lのシュウ酸水溶液10mlを加えて反応を停止させた。次いで、この反応液にジイソプロピルエーテル200gおよび0.02mol/lのシュウ酸水溶液400gを加えて振り混ぜた後、静置して有機相と水相とに分離した。
【0090】
この有機相にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート400gを加え、次に濃縮することにより、重量固形分10%のポリカルボシラン溶液195.7gを得た。
【0091】
実施例1に係るポリカルボシラン溶液の理化学的データを以下に示す。
【0092】
29Si NMR(重ベンゼン中)スペクトルデータ:-40〜-30ppm(broad),-20〜10ppm(broad),10〜30ppm(broad);後者2つのピークは重なっている。3つのピーク
の積分比はおよそ2:6:2であった。
【0093】
分子量(GPC):Mw=3,200, Mn=600
IRスペクトルデータ(液膜法):3670cm−1(Si-OHに対応), 2950cm−1, 2900cm−1, 2830cm−1(Si-OMeに対応), 2096cm−1, 1360cm−1, 1250cm−1, 1030cm−1, 820cm−1
ガスクロマトグラフィー:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに由来するピークが面積比で99%以上であった。
【0094】
4.5.実施例2
原料ポリマー((株)日本カーボン社製、商品名「ニプシType−S」)20gをテトラヒドロフランに溶解させて400gとし、ここに、濃度が1.0mol/lのTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)のメタノール溶液5.0mlを加えた後、この反応液を50℃で3時間加熱した。次に、この反応液を室温まで冷却した後、2.0mol/lのシュウ酸水溶液10mlを加えて反応を停止させた。次いで、この反応液に酢酸ブチル200gおよび0.02mol/lのシュウ酸水溶液400gを加えて振り混ぜた後、静置して有機相と水相とに分離した。
【0095】
この有機相に酢酸ブチル200gを加え、次に濃縮することにより、重量固形分11%のポリカルボシラン溶液とし、次いでプロピレングリコールモノプロピルエーテルを17.3g加えて、重量固形分10%のポリカルボシラン溶液199.1gを得た。
【0096】
実施例2に係るポリカルボシラン溶液の理化学的データを以下に示す。
【0097】
29Si NMR(重ベンゼン中)スペクトルデータ:-40〜-30ppm(broad),-20〜10ppm(broad),10〜30ppm(broad);後者2つのピークは重なっている。3つのピークの積分比はおよそ2:6:2であった。
【0098】
分子量(GPC):Mw=3,100, Mn=610
IRスペクトルデータ(液膜法):3670cm−1(Si-OHに対応), 2950cm−1, 2900cm−1, 2830cm−1(Si-OMeに対応), 2096cm−1, 1360cm−1, 1250cm−1, 1030cm−1, 820cm−1
ガスクロマトグラフィー:酢酸ブチル/プロピレングリコールモノプロピルエーテルの面積比で87/13であり、他の化合物に由来するピークは1%未満であった。
【0099】
4.6.実施例3
原料ポリマー((株)日本カーボン社製、商品名「ニプシType−S」)20gをテトラヒドロフランに溶解させて400gとし、ここに、濃度が1.0mol/lのTPAH(テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド)の水溶液5.0mlを加えた後、この反応液を50℃で3時間加熱した。次に、この反応液を室温まで冷却した後、2.0mol/lのマレイン酸水溶液10mlを加えて反応を停止させた。次いで、この反応液に酢酸ブチル200gおよび0.02mol/lのマレイン酸水溶液400gを加えて振り混ぜた後、静置して有機相と水相とに分離した。
【0100】
この有機相にプロピレングリコールモノブチルエーテル400gを加え、次に濃縮することにより、重量固形分10%のポリカルボシラン溶液193.8gを得た。
【0101】
実施例3に係るポリカルボシラン溶液の理化学的データを以下に示す。
【0102】
29Si NMR(重ベンゼン中)スペクトルデータ:-40〜-30ppm(broad),-20〜10ppm(broad),10〜30ppm(broad);後者2つのピークは重なっている。3つのピークの積分比はおよそ2:6:2であった。
【0103】
分子量(GPC):Mw=6,500, Mn=1,200
IRスペクトルデータ(液膜法):3670cm−1(Si-OHに対応), 2950cm−1, 2900cm−1, 2096cm−1, 1360cm−1, 1250cm−1, 1030cm−1, 820cm−1
ガスクロマトグラフィー:プロピレングリコールモノブチルエーテルに由来するピークが面積比で99%以上であった。
【0104】
4.7.比較例1
原料ポリマー((株)日本カーボン社製、商品名「ニプシType−S」)20gをテトラヒドロフランに溶解させて400gとし、ここに、濃度が1.0mol/lのTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)のメタノール溶液5.0mlを加えた後、この反応液を50℃で3時間加熱した。次に、この反応液を室温まで冷却した後、2.0mol/lのシュウ酸水溶液10mlを加えて反応を停止させた。次いで、この反応液に酢酸ブチル200gおよび0.02mol/lのシュウ酸水溶液400gを加えて振り混ぜた後、静置して有機相と水相とに分離した。
【0105】
この有機相に酢酸ブチル200gをさらに加え、次に濃縮することにより、重量固形分10%のポリカルボシラン溶液196.2gを得た。
【0106】
比較例1に係るポリカルボシラン溶液の理化学的データを以下に示す。
【0107】
29Si NMR(重ベンゼン中)スペクトルデータ:-40〜-30ppm(broad),-20〜10ppm(broad),10〜30ppm(broad);後者2つのピークは重なっている。3つのピークの積分比はおよそ2:6:2であった。
【0108】
分子量(GPC):Mw=3,100, Mn=610
IRスペクトルデータ(液膜法):3670cm−1(Si-OHに対応), 2950cm−1, 2900cm−1, 2830cm−1(Si-OMeに対応), 2096cm−1, 1360cm−1, 1250cm−1, 1030cm−1, 820cm−1
ガスクロマトグラフィー:酢酸ブチルに由来するピークが面積比で99%以上であった。
【0109】
4.8.比較例2
原料ポリマー((株)日本カーボン社製、商品名「ニプシType−S」)20gをテトラヒドロフランに溶解させて400gとし、ここに、濃度が1.0mol/lのTPAH(テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド)の水溶液5.0mlを加えた後、この反応液を50℃で3時間加熱した。次に、この反応液を室温まで冷却した後、2.0mol/lのマレイン酸水溶液10mlを加えて反応を停止させた。次いで、この反応液にシクロヘキサノン200gおよび0.02mol/lのマレイン酸水溶液400gを加えて振り混ぜた後、静置して有機相と水相とに分離した。
【0110】
この有機相にシクロヘキサノン200gをさらに加え、次に濃縮することにより、重量固形分10%のポリカルボシラン溶液194.4gを得た。
【0111】
比較例1に係るポリカルボシラン溶液の理化学的データを以下に示す。
【0112】
29Si NMR(重ベンゼン中)スペクトルデータ:-40〜-30ppm(broad),-20〜10ppm(broad),10〜30ppm(broad);後者2つのピークは重なっている。3つのピークの積分比はおよそ2:6:2であった。
【0113】
分子量(GPC):Mw=6,300, Mn=1,100
IRスペクトルデータ(液膜法):3670cm−1(Si-OHに対応), 2950cm−1, 2900cm−1, 2096cm−1, 1360cm−1, 1250cm−1, 1030cm−1, 820cm−1
ガスクロマトグラフィー:シクロヘキサノンに由来するピークが面積比で99%以上であった。
【0114】
4.9.参考例1
原料ポリマーであるポリカルボシラン((株)日本カーボン社製、商品名「ニプシType−S」)の理化学的データを以下に示す。
【0115】
29Si NMR(重ベンゼン中)スペクトルデータ:-40〜-30ppm(broad),-20〜10ppm(broad);2つのピークの積分比はおよそ4:6であった。
【0116】
IRスペクトルデータ(液膜法):2950cm−1, 2900cm−1, 2096cm−1, 1360cm−1, 1250cm−1, 1030cm−1, 820cm−1
分子量(GPC):Mw=3,000, Mn=500
4.10.分子量の測定および結果
実施例1〜3、比較例1,2で得られた重量固形分10%のポリカルボシラン溶液を、それぞれ25℃、湿度40%で管理された恒温恒湿器内に保管し、14日後ならびに30日後の分子量を測定した結果を下記に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
表1から明らかなように、溶剤としてプロピレングリコール誘導体を用いた実施例1および3では、室温での長期保管を経ても分子量がほとんど変わらないのに対し、他種の溶剤を用いた比較例1ないし2では分子量の増大が見られ、とりわけ比較例1では30日の保管で溶液がゲル化してしまうほどであった。
【0119】
また、実施例2のように主溶剤はプロピレングリコール誘導体でない場合でも、一部溶剤として当該化合物が用いられている場合には分子量の増加が抑制されることがわかった。
【0120】
このことから、Si−H結合をSi−OMeやSi−OHに誘導したポリカルボシラン溶液の保管は、プロピレングリコール誘導体が含まれる溶剤を用いるのが良いことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子と炭素原子とが交互に連続してなる主鎖を有し、かつ、
下記一般式(1)で表される構造単位、下記一般式(2)で表される構造単位、下記一般式(3)で表される構造単位、および下記一般式(4)で表される構造単位を含むポリカルボシランと、
下記一般式(5)で表される化合物群から選ばれた少なくとも1つの有機溶剤と、
を含む、膜形成用組成物。
【化1】

・・・・・(1)

【化2】

・・・・・(2)

【化3】

・・・・・(3)

【化4】

・・・・・(4)
〔式中、Rは1価の炭化水素基を示す。〕

1O(CHCHCHO) ・・・・・(5)
〔R1およびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはCHCO−から選ばれる1価の有機基を示し、aは1〜2の整数を表す。〕
【請求項2】
請求項1において、ポリカルボシランは下記一般式(6)〜(10)で表される構造単位のうち少なくとも1つをさらに含む、膜形成用組成物。
【化5】

・・・・・(6)

【化6】

・・・・・(7)

【化7】

・・・・・(8)

【化8】

・・・・・(9)

【化9】

・・・・(10)
【請求項3】
請求項1ないし2において、
一般式(5)において、R1およびRのうち、一方は炭素数1〜8のアルキル基であり、他方は水素原子またはCHCO−である、膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1または3において、
ポリカルボシランの重量平均分子量は、300〜300,000であり、
ポリカルボシランは、有機溶剤に可溶である、膜形成用組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4において、
一般式(5)で表される化合物群から選ばれた有機溶剤を、ポリカルボシラン100重量部に対して50重量部以上含む、膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5に記載の膜形成用組成物を用いて形成された塗膜を硬化させることにより得られる、シリカ系膜。

【公開番号】特開2009−108285(P2009−108285A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285005(P2007−285005)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】