説明

自動二輪車用ブレーキ装置および自動二輪車

【課題】自動二輪車用ブレーキ装置において、ライダーのブレーキ操作に影響を与えることなく緊急時のブレーキアシストが可能であること。
【解決手段】通常時において、前輪ブレーキ系統200のマスターシリンダ4からの作動液を第1の主液路10を介して前輪6の主ホイールシリダ7に供給する。ブースタ88が、第1の主液路10の一部により構成されるパイロット室30内のパイロット圧を用いてアキュームレータ17からの作動液を液圧調整して前輪6の副ホイールシリンダ29に供給するレギュレータ21を備える。緊急時、アキュームレータ17からレギュレータ21をバイパスして副ホイールシリンダ29に作動液を供給する。ABS制御時の減圧状態で、モジュレータ90の還流路95のポンプ94が主ホイールシリンダ7の作動液を吸引加圧し帰還部10dを介してマスターシリンダ4側に還流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチロック機能および緊急ブレーキアシスト機能を有する自動二輪車用ブレーキ装置、およびこれを含む自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車では、例えば、手によるブレーキレバーの操作で前輪を制動し、足のブレーキペダルの操作で後輪を制動する場合がある。また、左右の手でそれぞれ対応するブレーキレバーを操作して前輪および後輪を制動する場合がある。
人間の手がブレーキレバーを握る力は、足先がブレーキペダルを踏む力と比較して非常に弱い。また、足によるブレーキ操作にしても、自動車では、脚全体の力でブレーキを操作できるのに対して、二輪車では、足首の力のみでブレーキを操作する。したがって、同じ足によるブレーキ操作であっても、二輪車ではあまり踏力を出せない。また、握力や脚力のない非力なライダーが操作する場合もある。
【0003】
少ない操作力で高い制動力を発生させるために、マスターシリンダのシリンダ径を小さくして入力に対して相対的に大きなブレーキ液圧を発生させる方法がある。しかし、ブレーキ作動に必要な吐出液量を確保するために、マスターシリンダのピストンのストロークを長くしなければならず、マスターシリンダの全長が伸びてレイアウトが困難になったり、ブレーキレバーやブレーキペダルのストロークが大きくなり過ぎて、レバーやペダルの操作が困難になったりするという問題がある。
【0004】
また、自動二輪車においても、多様な路面での走行を補助するために、車輪のロックを防止するアンチロック機能を装備する場合がある。一方、近年、自動車でのブレーキアシストに倣って、緊急のブレーキ操作があったときに通常時よりも高いブレーキ力を加勢する緊急ブレーキアシスト機能を付加することが研究課題として提案されている。
従来、アンチロック装置にハイドロブースタを接続したブレーキ液圧制御装置が提供されている(特許文献1)。
【0005】
また、自動車用として、緊急ブレーキアシスト機能とアンチロック機能を有するブレーキ装置が提供されている(例えば、特許文献2,3,4)。
また、自動二輪車用として、電動モータと遊星ギヤ機構との組合せで、緊急ブレーキアシストとアンチロックとを達成するブレーキ装置が提供されている(例えば特許文献5)。
【0006】
また、自動二輪車用として、アンチロック用の還流式のモジュレータのポンプを用いて、低圧リザーバから作動液を吸い上げ、これを緊急ブレーキアシストに用いるブレーキ装置が提供されている(例えば特許文献6,7,8,9)。
【特許文献1】特許第2740221号公報
【特許文献2】特開平9−24818号公報
【特許文献3】特開平9−24819号号公報
【特許文献4】特開平9−30398号公報
【特許文献5】特開2000−142343号公報
【特許文献6】特開2000−6778号公報
【特許文献7】特開2000−6779号公報
【特許文献8】特許第3457190号公報
【特許文献9】特開2003−25978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1は、いわゆる直列式のブースタであるので、大きなブレーキ踏力が必要となる。このような大きな踏力をライダーの足首のみの力で得ることは困難である。
また、二輪車では、ホイールベースに対する重心高が乗用車などに対して高く、制動操作などで前後輪の接地力が変動しやすいうえに、前輪と後輪では、ブレーキ操作による車両姿勢の変動が異なるため、ブレーキ操作系統を前後で別々に持つ必要性がある。したがって、このような特殊性を有する二輪車に、入力系統が1系統である自動車用の特許文献2,3,4を適用することは困難である。
【0008】
また、特許文献2,3,4では、ABS制御時にマスターシリンダとブレーキ回路との連通を遮断するようにしており、その結果、当該マスターシリンダを操作するブレーキ操作部材に対してABS作動に伴うブレーキ液圧の変化が伝達されない。このため、ライダーは、前輪および後輪の何れのブレーキ系統に対するブレーキ操作が過剰になっているかを判断できない。
【0009】
上記の特許文献5においては、ABS作動時にモジュレータのカットバルブによってマスターシリンダとホイールシリンダとの連通が断たれるようになっており、したがって、特許文献5も、特許文献2,3,4と同様に、ライダーが何れのブレーキ系統のブレーキ操作が過剰になっているかを判断できない。
上記の特許文献6,7,8,9では、還流式のモジュレータのポンプを緊急ブレーキアシストに用いるため、緊急ブレーキアシスト時にマスターシリンダからアシスト用の作動液が奪われる。このようなときに、マスターシリンダを作動させるべくライダーがブレーキ操作をすると、既に作動液が排出されているためにレバーストロークは、マスターシリンダのみを作動させたときよりも小となる。すなわち、ブレーキ操作のストロークのバラツキが大きい。また、ライダーがブレーキ操作をしていないにもかかわらず、ブレーキ操作部材がストロークする(いわゆる、入り込み現象の発生)等、ライダーのブレーキ操作に影響を及ぼし、ライダーが違和感を覚えるおそれがある。
【0010】
ところで、従来より、前輪と後輪のブレーキを連動させるブレーキシステムが提案されている。このシステムでは、前輪および後輪のホイールシリンダの消費液量を、単一のマスターシリンダからの供給によってまかなうことになる。この場合、マスターシリンダにおいて必要な供給液量を確保するためには、ホイールシリンダの径に対するマスターシリンダの径の比率を増大することが必要である一方、必要な制動力を確保するためには、上記の比率を減少することが必要である。したがって、供給液量および制動力の確保を両立させることが困難である。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ライダーのブレーキ操作に影響を与えることなく緊急時のブレーキアシストが可能である自動二輪車用ブレーキ装置、およびこれを含む自動二輪車を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ブレーキ操作部材の操作に応じて作動するマスターシリンダから主液路を介して作動液が供給される主ホイールシリダと、ブースト用の副ホイールシリンダと、マスターシリンダよりも高圧を発生する液圧源からの作動液を主液路と隔てられた副液路を介して副ホイールシリンダに供給するためのブースタと、アンチロック用の還流式のモジュレータとを備え、上記ブースタは、主液路の一部からなるパイロット室、液圧源に接続される入力ポート、副ホイールシリンダに接続される出力ポートおよびリザーバに接続される排出ポートを含むと共にパイロット室内のパイロット圧を用いて液圧源からの作動液をマスターシリンダの発生液圧に応じた圧力に調整して副ホイールシリンダへ供給するためのレギュレータと、レギュレータの排出ポートをリザーバに接続する液路に配置された常開の第1の電磁弁と、レギュレータの入力ポートと出力ポートとの間を迂回するバイパス路に配置された常閉の第2の電磁弁とを含み、第2の電磁弁の開放に伴って液圧源の作動液を上記バイパス路を介して副ホイールシリンダに供給する緊急ブレーキアシストが実行されることを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置を提供するものである。
【0013】
本発明によれば、通常時、ブレーキ操作によりマスターシリンダからの作動液が主液路を介して主ホイールシリンダに供給される一方、液圧源からの作動液が主液路と隔てられた副液路を介して液圧調整されて副ホイールシリンダに供給される。マスターシリンダとしては主ホイールシリンダの消費液量を供給すれば足りるので、ブレーキ操作のストローク量を増大することなく少ない操作力で主ホイールシリンダおよび副ホイールシリンダを働かせて制動力を向上することができる。
【0014】
一方、緊急ブレーキアシスト時に、第2の電磁弁を開放させることにより、液圧源の作動液をレギュレータを介さずに副ホイールシリンダに供給し、緊急時の制動力を向上させることができる。緊急ブレーキアシストのための作動液が主液路に出入りしないので、緊急ブレーキシアスト中であっても、上記の通常時と同様にして、マスターシリンダの液圧をパイロット室を介する主液路を通じて主ホイールシリンダに付加することができ、ライダーによるブレーキ操作の追加が可能である。また、ブレーキ操作中に緊急ブレーキアシストが発生してもマスターシリンダの液圧に変化がなく、ライダがブレーキ操作に違和感を感じることがない。
【0015】
また、本発明において、上記レギュレータは、調圧弁と、調圧弁により液圧調整された作動液が導かれると共に出力ポートに連通するレギュレータ室と、レギュレータ室およびパイロット室を相互に仕切るスプール弁とをさらに含み、緊急ブレーキアシスト時に第2の電磁弁が開閉を繰り返し、その第2の電磁弁の閉じ状態で、レギュレータが、パイロット圧の増大に伴うスプール弁の変位に応じて、入力ポートと出力ポートを連通し且つ出力ポートと排出ポートの連通を遮断する状態に切り換えられる場合がある(請求項2)。この場合、緊急ブレーキアシスト中に第2の電磁弁を間欠的に開放しながら、副ホイールシリンダに段階的に作動液を供給する。第2の電磁弁の閉じ状態では、ライダーのブレーキ操作によりパイロット圧が高まると、スプール部材が差動する結果、液圧源からレギュレータを介して副ホイールシリンダに作動液を供給することができる。すなわち、緊急ブレーキアシスト中であっても、ライダーのブレーキ操作に応じたブースト力を付加することができる。
【0016】
また、本発明において、上記モジュレータは、主液路においてマスターシリンダとパイロット室との間に設けられる分岐部からこの分岐部よりもマスターシリンダ側にあってマスターシリンダに常時連通する帰還部へ作動液を還流させるための還流路と、還流路に配置されアンチロック作動時に上記主ホイールシリンダから排出された作動液を吸引し帰還部を介して主液路に還流させるためのポンプとを含む場合がある(請求項3)。この場合、ABS作動時において、モジュレータのポンプの働きで主ホイールシリンダの作動液が還流路を介して主液路の帰還部に戻されると、この帰還部に連通するマスターシリンダの液圧変化が対応するブレーキ操作部材を介してライダーに与えられ、その結果、ライダーはABSの作動状態を感じとることができ、ひいては、そのブレーキ操作部材によるブレーキ操作が過剰であると判断することができる。
【0017】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を互いに独立して備え、上記ブースタは前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統の少なくとも一方に設けられ、ブースタが設けられた側のブレーキ系統に当該ブースタのレギュレータに対応する副ホイールシリンダが設けられる場合がある(請求項4)。この場合、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作の操作力や操作ストローク量を相対的に少なくして相対的に高い前輪の制動力を得ることができる。
【0018】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータを含み、上記副ホイールシリンダは前輪および後輪にそれぞれ配置される場合がある(請求項5)。この場合、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作によって前後のブレーキを連動させて働かせることができる。また、ブースタを前後のブレーキ系統で兼用でき、構造の簡素化に好ましい。また、上記後輪に配置される副ホイールシリンダは、上記前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータの出力ポートから圧力制御弁を介して作動液の供給を受けることが、前後の制動力の配分を調整するうえで好ましい(請求項6)。
【0019】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータを含み、上記副ホイールシリンダは前輪に配置され、後輪ブレーキ系統は主ホイールシリンダと別のホイールシリンダを含み、上記別のホイールシリンダは、前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータのパイロット室を介して前輪ブレーキ系統のマスターシリンダから作動液の供給を受ける場合がある(請求項7)。この場合、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作の操作力や操作ストローク量を相対的に少なくして相対的に高い前輪の制動力を得ることができ、しかも、前輪ブレーキ系統のブレーキ操作によって前後のブレーキを連動させて働かせることができる。また、上記前輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応して設けられたレギュレータのパイロット室を前輪ブレーキ系統の主ホーイルシリンダに接続する部分を含み、この部分に設けられる分岐部を上記別のホイールシリンダに接続する接続路に、圧力制御弁が配置されることが、前後の制動力の配分を調整するうえで好ましい(請求項8)。
【0020】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、上記ブースタは後輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータを含み、上記副ホイールシリンダは前輪に配置される場合がある(請求項9)。この場合、後輪ブレーキ系統のブレーキ操作によって前輪の主および副ホイールシリンダを働かせて、前輪の制動力を向上させることができる前後連動ブレーキを提供することができる。また、上記後輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応するレギュレータのパイロット室を後輪ブレーキ系統の主ホイールシリンダに接続する部分を含み、この部分に圧力制御弁が配置されることが、前後の制動力の配分を調整するうえで好ましい(請求項10)。
【0021】
また、本発明において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダ、モジュレータおよびブースタをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統のブースタでリザーバおよび液圧源の少なくとも一方が兼用される場合がある(請求項11)。この場合、構造を簡素化することができる。
【0022】
また、上記の自動二輪車用ブレーキ装置を含むことを特徴とする自動二輪車であれば、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
第1の実施の形態
全体構成
図1は本発明の第1の実施の形態の自動二輪車用ブレーキ装置1(以下では、単にブレーキ装置1ともいう)の模式図である。図1を参照して、本ブレーキ装置1は、フロントのブレーキ操作部材としてのブレーキレバー2と、リヤのブレーキ操作部材としてのブレーキペダル3と、ブレーキレバー2の操作によって第1の液圧を発生するフロントのマスターシリンダ4と、ブレーキペダル3の操作によって第1の液圧を発生するリヤのマスターシリンダ5と、前輪6に配置されフロントのマスターシリンダ4から作動液の供給を受けるフロントの主ホイールシリンダ7と、後輪8に配置されリヤのマスターシリンダ5から作動液の供給を受けるリヤの主ホイールシリンダ9とを備える。
【0024】
フロントおよびリヤの主ホイールシリンダ7,9はそれぞれ前輪6および後輪8に設けられた対応するキャリパ101,102に配置されている。また、前輪6に設けられたキャリパ103に、後述する副ホイールシリンダ29が配置されている。本実施の形態では、フロントの主ホイールシリンダ7と副ホイールシリンダ29が互いに独立したキャリパ101,103に配置されているが、共通のキャリパに配置されるようにしても良い。
【0025】
フロントのマスターシリンダ4から第1の主液路10を介してフロントの主ホイールシリンダ7に作動液が供給される一方、リヤのマスターシリンダ5から第2の主液路11を介してリヤの主ホイールシリンダ9に作動液が供給されるようになっている。
本ブレーキ装置1は、第1のブレーキ系統としての前輪ブレーキ系統200、および第2のブレーキ系統としての後輪ブレーキ系統300を互いに独立した油圧系統として備える。
【0026】
すなわち、前輪ブレーキ系統200は、上記ブレーキレバー2と、マスターシリンダ4と、第1の主液路10と、主ホイールシリンダ7と、主ホイールシリンダ7の発生液圧に応じた液圧を発生するブースタ88と、ブースタ88から作動液が供給される上記した副ホイールシリンダ29と、主ホイールシリンダ7へのブレーキ液圧の減圧、保持又は加圧を行って制動力を制御するためのアンチロック用のモジュレータ90とを備える。
【0027】
後輪ブレーキ系統300は、上記ブレーキペダル3と、マスターシリンダ5と、主ホイールシリンダ9と、第2の主液路11と、主ホイールシリンダ9へのブレーキ液圧の減圧、保持又は加圧を行って制動力を制御するためのアンチロック用のモジュレータ90Aとを備える。
前輪6、後輪8、フロントおよびリヤのマスターシリンダ4,5、並びにアキュームレータ17にはそれぞれ対応するセンサが配置されている。すなわち、前輪6および後輪8の回転速度をそれぞれ検出するためのホイールセンサ114,115、フロントおよびリヤのマスターシリンダ4,5の加圧室の圧力をそれぞれ検出するための緊急ブレーキ操作検出手段としての圧力センサ116,117、並びにアキュームレータ17の内圧を検出するための圧力センサ118が設けられている。
【0028】
ブースタ
上記ブースタ88は、ブレーキレバー2の操作とは無関係に上記の第1の液圧よりも高い第2の液圧を発生することのできる液圧源12と、作動液を貯蔵するためのリザーバ13とを備える。
上記液圧源12は、リザーバ13から液路14を介して供給される作動液を加圧可能なポンプ15と、液路16を介してポンプ15に接続されポンプ15によって加圧された作動液の供給を受けてこれを蓄えることのできるアキュームレータ17とを備える。上記のポンプ15は例えば電動モータ18によって回転駆動される。液路14には、リザーバ13からポンプ15への作動液の流れのみを許容する逆止弁19が設けられており、液路16には、ポンプ15からアキュームレータ17への作動液の流れのみを許容する逆止弁20が設けられている。
【0029】
また、ブースタ88は、第1の主液路10の一部をパイロット室30として含み、パイロット室30内のパイロット圧を用いて液圧源12からの作動液を液圧調整して副ホイールシリンダ29へ供給するためのレギュレータ21を備える。
レギュレータ21は、入力ポート22、出力ポート23および排出ポート24を含み、また、パイロット室30に連通する第1および第2のパイロットポート25,26を含む。
【0030】
上記の第1の主液路10は、マスターシリンダ4を第1のパイロットポート25に接続する第1の部分10aと、第2のパイロットポート26を主ホイールシリンダ7に接続する第2の部分10bとを含む。
入力ポート22は、液路16において逆止弁20とアキュームレータ17との間に配置される分岐部16aに、液路27を介して接続されており、入力ポート22には液圧源12から第2の液圧が提供されている。排出ポート24は液路28を介してリザーバ13に接続されており、排出ポート24にはリザーバ13から大気圧に等しい液圧が供給されている。一方、レギュレータ21の出力ポート23が液路81を介して副ホイールシリンダ29に接続されている。
【0031】
上記のアキュームレータ17から分岐部16aまでの液路16の部分、液路27、レギュレータ21内において入力ポート22と出力ポート23とを接続する経路、および液路81を含んで、アキュームレータ17から副ホイールシリンダ29に作動液を供給するための副液路105が構成されている。この副液路105は第1の主液路10から隔てられており、互いの間で作動液の授受がない。
【0032】
上記液路28には、常開(ノーマリオープン)の第1の電磁弁110が配置されている。また、レギュレータ21の入力ポート22と出力ポート23の間をバイパスするバイパス路111が設けられ、このバイパス路111に常閉(ノーマリクローズ)の第2の電磁弁112が配置されている。具体的には、バイパス路111は、上記の液路27の途中の分岐部27aを上記の液路81の途中の分岐部81aに接続している。
【0033】
一方、レギュレータ21は、液圧源12から入力ポート22を介して入力される第2の液圧を調整し、出力ポート23から液路81を介して副ホイールシリンダ29に提供する。
すなわち、レギュレータ21は、マスターシリンダ4からパイロット室30に導かれる第1の液圧をパイロット圧として用いて、上記第3の液圧を第1の液圧に対して所定の圧力差内の圧力に調整する機能を有する。具体的には、本実施の形態では、第3の液圧は第1の液圧と同等レベルに調整される。
【0034】
モジュレータ
前輪ブレーキ系統200および後輪ブレーキ系統300の各モジュレータ90,90Aは同様の構成であるので、代表して、前輪ブレーキ系統200のモジュレータ90に則して説明する。
モジュレータ90は、2位値切換弁をなす常開の第3の電磁弁91と、同じく2位置切換弁をなす常閉の第4の電磁弁92と、主ホイールシリンダ7から減圧した作動液を一時的に貯蔵するためのバッファチャンバ93と、バッファチャンバ93に貯蔵された作動液を第1の主液路10に還流させるためのポンプ94とを備える。
【0035】
また、モジュレータ90は、上記第1の主液路10の第1の部分10aに設けられる分岐部10cから、この分岐部10cよりもマスターシリンダ4側にあってマスターシリンダ4に常時連通する帰還部10dへ作動液を還流させるための還流路95を備える。
第3の電磁弁91は、主液路10において分岐部10cと帰還部10dとの間に配置される。第3の電磁弁91と帰還部10dとの間には固定絞り89が配置される。また、上記第3の電磁弁91をバイパスして上記帰還部10dに至る還流路96が形成され、この還流路96には上記分岐部10cから帰還部10dへの液流のみを許容する逆止弁97が配置される。
【0036】
還流路95には、分岐部10cの側から第4の電磁弁92およびポンプ94がこの順で配置されており、還流路95において、第4の電磁弁92とポンプ94との間に形成される分岐部95aに上記バッファチャンバ93が接続されている。また、還流路95において、上記分岐部95aとポンプ94との間にはポンプ94側への液流のみを許容する逆止弁98が配置され、ポンプ94と帰還部10dとの間には、帰還部10d側への液流のみを許容する逆止弁99が配置されている。
【0037】
後輪ブレーキ系統300のモジュレータ90Aについては、その還流路95が第2の主液路11の分岐部11cから帰還部11dに至るように設けられる点を除いて、前輪ブレーキ系統200のモジュレータ90と同様の構成であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。なお、本実施の形態では、各モジュレータ90,90Aのポンプ94は、共通の電動モータ100により回転駆動されるが、各ポンプ94が個別の電動モータにより駆動されるものとしても良い。
電気的構成
次いで、図2を参照して、本ブレーキ装置1の主たる電気的構成について説明する。上述した各センサ114〜118はECU(Electronic Control Unit : 電子制御ユニット)120に接続されている。ECU120は、CPU、ROM、RAMおよびバスを含むコンピュータ、A/Dコンバータ、ドライバ等を主体として構成されており、各センサ114〜118の出力信号がECU120に入力される。
【0038】
ECU120には、ブースタ88の第1および第2の電磁弁110,112がそれぞれのソレノイド121,122において接続される。また、ECU120には、フロント側のモジュレータ90の第3および第4の電磁弁91,92がそれぞれのソレノイド123,124において接続されると共に、リヤ側のモジュレータ90Aの第3および第4の電磁弁91,92がそれぞれのソレノイド125,126において接続されている。また、ECU120には、ABS用のポンプ94のモータ100をオンオフするためのリレー127が接続されると共に液圧源12のポンプ15のモータ18をオンオフするためのリレー128が接続され、また、ABS故障警告灯129およびEBA(Emergency Brake Assist: 緊急ブレーキアシスト)作動警告灯130が接続されている。
【0039】
ECU120は、上記の各ソレノイド121〜126、各モータリレー127,128および各警告灯129,130に信号を出力する。ECU120は対応するソレノイドの励磁のオンオフを通じて対応する電磁弁をオンオフし、対応するリレーのオンオフを通じて対応するポンプをオンオフする。
ECU120は、アキュームレータ圧力制御、通常ブレーキ制御、ABS制御およびEBA制御を実行する。
【0040】
アキュームレータ圧力制御は、液圧源12のアキュームレータ17の圧力を所定の圧力範囲に維持する機能を実現する制御である。具体的には、圧力センサ118の検出値が所定の下限値以下になると、モータリレー127のオンにより電動モータ18が駆動されてポンプ15が作動し、作動したポンプ15によってリザーバ13の作動液をアキュームレータ17内に加圧供給して蓄える。一方、圧力センサ118の検出値が所定の上限値を超えると、モータリレー127のオフにより電動モータ18の駆動が停止されてポンプ15が停止する。これにより、アキュームレータ17内の圧力が下限値と上限値との間の範囲の圧力に保たれる。アキュームレータ圧力制御は、通常ブレーキ制御、ABS制御およびEBA制御の各制御の実行とは無関係に実行される。
【0041】
通常ブレーキ制御は、通常ブレーキ機能を実現するための制御である。通常ブレーキ機能は、図1に示すように全ての電磁弁をオフするように、全てのソレノイドの励磁をオフすることで実現される。
EBA制御は、EBA機能を実現するための制御である。EBA機能は、後述する図70および図8に示すように、第1の電磁弁110をオンして閉じた状態で第2の電磁弁112をオンオフして開閉を繰り返すことにより実現される。
【0042】
ABS制御は、ABS機能を実現するための制御である。ABS機能は、後述する図9、図10および図11に示すように、ABS用の各モジュレータ90,90Aのポンプ94のモータ100をオン状態とし、且つフロントおよびリヤの少なくとも一方のモジュレータ90,90Aにおいて、対応する第3および第4の電磁弁91,92をABSの要求に応じてオンオフすることで実現される。その動作については、後に詳述する。
レギュレータ
次いで、図3を参照して、レギュレータ21について説明する。レギュレータ21は、閉塞端31aおよび開放端31bを有する有底円筒状をなすハウジング31を備える。このハウジング31内には収容孔32が区画されており、この収容孔32は、ハウジング31の開放端31bにねじ込み固定されたプラグ33により閉塞されている。
【0043】
ハウジング31の胴部には、閉塞端31aに対応して上述の第1およひ第2のパイロットポート25,26がそれぞれ設けられている。その閉塞端31aから開放端31bに向かうにしたがって、上述の排出ポート24、出力ポート23および入力ポート22がこの順で並んで設けられている。各ポート22〜26はそれぞれハウジング31の径方向に延びるように形成された対応する連通孔を介して収容孔32内に連通している。
【0044】
また、収容孔32には、閉塞端31aに隣接して軸方向に摺動自在なスプール部材34が収容されている。このスプール部材34は、収容孔32の内部を閉塞端31a側の上述のパイロット室30と、これと反対側のレギュレータ室35とに互いに仕切っており、パイロット室30とレギュレータ室35の圧力を互いに均衡させるバランスピストンとして機能している。スプール部材34は閉塞端31a側の端部の外周に環状溝341を設けており、この環状溝341とハウジング31との間にパイロット室30の少なくとも一部が区画されている。第1および第2のパイロットポート25,26はパイロット室30を介して常に互いに連通している。
【0045】
スプール部材34は、軸方向に延びる液路36を有している。この液路36の一端は例えばプラグからなる閉塞部材37により閉塞されていると共に、他端は絞りとして機能するドレーンポート38を介してレギュレータ室35に開口している。
スプール部材34の軸方向の中間部の外周に形成される環状溝とハウジング31の内周とによって環状室39が区画されており、この環状室39は排出ポート24に連通している。スプール部材34は、上記の液路36の途中部を環状溝39に連通するために径方向に延びる1ないし複数の液路40を形成している。これにより、排出ポート24が液路40,36を介してドレーンポート38に連通している。
【0046】
スプール部材34の外周面には、環状溝39とパイロット室30とを互いに仕切るために互いに逆向きに指向して配置される一対のカップシール41,42が配置されている。各カップシール41,42は、スプール部材34の外周面に形成された対応する環状の保持溝に保持されている。
また、スプール部材34の外周面には、上記排出ポート24に連通する環状溝39とレギュレータ室35とを互いに仕切るシール部材43が配置され、対応する保持溝に保持されている。シール部材43としては、Oリングの外周に摺動性に優れた低摩擦係数の合成樹脂のリングを嵌めたものを例示することができる。
【0047】
また、収容孔32内において上記のスプール部材34とプラグ33との間には、レギュレータ室35と入力ポート22との間の連通/遮断を切り換えるためのバルブ機構44が設けられている。バルブ機構44は、ハウジング31内に嵌められて軸方向移動が規制された筒状のバルブボディ45を備える。
このバルブボディ45内には軸方向の中間部に配置された仕切り壁46により互いに仕切られる第1および第2の空洞45a,45bが形成され、スプール部材34側の第1の空洞45aはレギュレータ35に通じている。プラグ33側の第2の空洞45bの一部にはプラグ33の凸部33aが挿入されており、第2の空洞45bの残りの部分によって、液圧源12から第2の液圧の供給を受ける高圧室60が構成されている。凸部33aの外周面とバルブボディ45の内周面との間は例えばOリングからなるシール部材47によって封止されており、高圧室60の液密が確保されている。
【0048】
上記の仕切り壁46には両空洞45a,45b間を互いに連通させる弁孔48が形成され、この弁孔48は通常時はチェック弁49により閉塞されている。具体的には、弁孔48は高圧室45側の半部が拡径されて、弁座50を形成している。チェック弁49は弁座50に押し付けられて弁孔48を閉塞することのできる弁体としてのボール51と、プラグ33の凸部33aとボール51との間に介在しボール51を弁座50に付勢する圧縮コイルばねからなる付勢部材52とを含む。
【0049】
バルブボディ45の軸方向中間部の外周には、周方向に延びる環状溝53が形成され、この環状溝53は入力ポート22に連通している。また、バルブボディ45は、径方向に延びて環状溝53と上述の高圧室60とを連通する少なくとも1つの液路54を形成している。これにより、高圧室60に入力ポート22、環状溝53および液路54を介して液圧源12からの第2の液圧が導かれている。
【0050】
バルブボディ45の外周面には、上記の環状溝53を挟んだ両側に一対のシール部材55,56が装着され、これらのシール部材55,56がバルブボディ45の外周面とハウジング31の内周面との間を封止している。チェック弁49によって弁孔48が閉塞された状態でシール部材47,55,56によって高圧室60の液密が確保され、高圧室60が入力ポート22のみに連通する状態となっている。
【0051】
バルブボディ45とスプール部材34の互いに対向する端部の外周面にそれぞれ形成される環状溝によって、収容孔32内に、出力ポート23に液密的に連通する環状室57が区画されている。この環状室57は上述のレギュレータ室35の一部を構成する。環状室57内には、一端がバルブボディ45に係止する共に他端がスプール部材34に係止して、スプール部材34をパイロット室30側へ付勢する例えば圧縮コイルばねからなる付勢部材58が収容されている。
【0052】
バルブボディ45内の第1の空洞45aには、バルブボディ45の軸方向に移動可能な調圧弁59が収容されている。調圧弁59の一端には弁孔48内に一部が挿入された操作軸61が延びており、操作軸61の先端はチェック弁49のボール51と僅かな隙間を有して対向している。操作軸61は弁孔48内で液路を絞る絞り部材として機能する。
調圧弁59の他端は末拡がり状に拡径された拡径部62に構成されており、拡径部62の端面の中央部には弁体としてのボール63がかしめにより固定されている。このボール63は所要時に上述のドレーンポート38を閉塞することができるようにドレーンポート38に対向している。
【0053】
一方、第1の空洞45a内には筒状のガイド64が嵌め入れられており、このガイド64は上記の調圧弁59の外周を隙間を設けて取り囲んでおり、その隙間に、調圧弁59をスプール部材34側に付勢するための圧縮コイルばねからなる付勢部材65が収容されている。
調圧弁59は付勢部材65を介してガイド64によって支持されている。ガイド64の周囲にはシール部材66が装着されている。ガイド64の一端がバルブボディ45に固定された止め輪67に当接することで、ガイド64が所定位置に位置決めされ、この所定位置を超えてガイド64がスプール部材34側に移動することが規制されている。また、ガイド61の外周面とバルブボディ45の内周面との間はシール部材によって封止されている。
動作
次いで、ブレーキ装置1の動作を説明する。本ブレーキ装置1は、液圧回路内に配置された各電磁弁の状態を切り換えることにより、上述した如く、通常ブレーキ機能、ABS機能、EBA機能を実現する。
【0054】
通常ブレーキ機能
通常ブレーキ機能は、図1に示すように、全ての電磁弁110,112,91,92をオフ状態とすることにより実現される。すなわち、常開の第1および第3の電磁弁110,91は開放のままで、常閉の第2および第4の電磁弁112,92は閉じたままである。
【0055】
通常ブレーキ機能の動作について上記のレギュレータ21の動作を中心として図3,図4および図5に基づいて説明する。具体的には、マスターシリンダ4の加圧状態によって、スプール弁34が図3に示す第1の位置、図4に示す第2の位置、および図5に示す第3の位置に変位することに応じて、レギュレータ21の状態が下記の第1、第2および第3の状態に切り換わるようになっている。
【0056】
まず、図3はマスターシリンダ4が加圧されていない状態を示している。このとき、付勢部材58の働きでスプール弁34は最もパイロット室30寄りの第1の位置に変位しており、レギュレータ21は、入力ポート22とレギュレータ室35との連通を遮断し且つ出力ポート23を排出ポート24に連通する第1の状態となっている。
すなわち、この第1の状態では、ドレーンポート38が調圧弁59のボール63から離れているため、開放されたドレーンポート38を介してレギュレータ室35がリザーバ13に連通しており、レギュレータ35は大気圧に等しい圧力となっている。すなわち、マスターシリンダ4、並びに主ホイールシリンダ7および副ホイールシリンダ29は何れも大気圧と等しい圧力となっている。
【0057】
一方、液圧源12のアキュームレータ17には通常のブレーキに必要な圧力以上の高圧としての第2の液圧が蓄えられており、その第2の液圧は高圧室60に導かれているが、チェック弁49によって弁孔48を閉じられているので、高圧室60とレギュレータ室35との間は遮断されている。
次いで、図4はブレーキレバー2の操作によりマスターシリンダ4が加圧されてマスターシリンダ4から作動液が常開の第3の電磁弁91を配する第1の主液路10へと送出され始めた状態を示している。すなわち、マスターシリンダ4からの第1の液圧P1の作動液がパイロット室30を経由して主ホイールシリンダ7に導かれる。また、パイロット室30内に導かれた第1の液圧P1によってスプール部材34が第2の位置に変位し、レギュレータ21は、入力ポート22とレギュレータ室35との連通を遮断し且つ出力ポート23と排出ポート24との連通を遮断する第2の状態となる。
【0058】
すなわち、第1の位置よりもレギュレータ室35側の第2の位置へ変位したスプール部材34のドレーンポート38が、調圧弁59のボール63に当接して閉塞され、その結果、レギュレータ室35とリザーバ13との連通が遮断され、レギュレータ室35が密閉される。このとき、調圧弁59の操作軸61は未だチェック弁49のボール51に当接しておらず、高圧室60とレギュレータ室35との間は遮断されている。
【0059】
次いで、図5はブレーキレバー2の操作によりマスターシリンダ4からパイロット室30にさらに第1の液圧P1の作動液が供給された状態を示している。作動液の供給により、スプール部材34が第2の位置よりもさらにレギュレータ室35側の第3の位置に変位する。その結果、レギュレータ21が入力ポート22をレギュレータ室35に連通し且つ出力ポート23と排出ポート24との連通を遮断する第3の状態になる。
【0060】
すなわち、スプール部材34の第3の位置への変位により、スプール部材34が調圧弁59を押してチェック弁49側へ一体的に変位する。これに伴って、調圧弁59の操作軸61がチェック弁49のボール51を押して弁座50から離隔させることで、弁孔48を開放させる。これにより、高圧室60とレギュレータ室35とが弁孔48を介して連通する。その結果、液圧源12のアキュームレータ17に蓄えられている高圧としての第2の液圧P2の作動液が、図1に示す液路16の分岐部16a、液路27および入力ポート22を介して高圧室60に導入される。高圧室60に導入された作動液は、操作軸61によって断面積が絞られた弁孔48内を通過することで、圧力降下を受けて、第3の液圧P3に調整されてレギュレータ室35内に導入される。この第3の液圧P3の作動液が出力ポート23を介して副ホイールシリンダ29に導入されることになる。
【0061】
なお、弁孔48内の液路は操作軸61により狭められているので、弁孔48を通過する液の流れは比較的緩やかである。
そして、レギュレータ室35内の第3の液圧、すなわち副ホイールシリンダ29の圧力が、マスターシリンダ4の第1の液圧P1、すなわち主ホイールシリンダ7の圧力に等しくなると、スプール部材34は付勢部材58により第1の位置に押し戻される。その結果、レギュレータ21は第2の状態に戻り、ドレーンポート38が封鎖される。ここでマスターシリンダ4の圧力が下がると、スプール部材34は更に押し戻されて第1の位置に変位し、ドレーンポート38が開放される。その結果、副ホイールシリンダ29の中に込められていた作動液は出力ポート23、レギュレータ室35、ドレーンポート38および排出ポート24を介してリザーバ13側に逃がされる。
【0062】
以上の動きを通じて、スプール部材34により互いに仕切られるパイロット室30とレギュレータ室35の圧力、すなわち第1の液圧P1と第3の液圧P3は、図6において実線で示すように、常に互いに同等レベルに調節されることになる。
EBA機能
所定のEBA発生条件が満たされると、EBA制御が実行される。本実施の形態のEBA制御では、前輪6のブレーキ力が加勢されることになる。EBA発生条件には、緊急ブレーキ操作検出手段としての、フロントおよびリヤのマスターシリンダ4,5の圧力センサ116,117によりぞれぞれ検出される増圧時の圧力の変化速度の少なくとも一方が所定の域値を超えていることが含まれる。
【0063】
緊急ブレーキ操作検出手段として、マスターシリンダ4,5の圧力センサ116,117に代えて、マスターシリンダ4,5のピストンのストロークをそれぞれ検出するストロークセンサを用いたり、ブレーキ操作部材としてのブレーキレバー2およびブレーキペダル3のストロークをそれぞれ検出するストロークセンサを用いることができる。
また、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサを設け、操舵角センサにより検出される操舵角が所定の閾値以下であることをEBA発生条件に含むようにしても良い。
【0064】
また、車体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサを設け、ヨーレイトセンサにより検出されるヨーレイトが所定の閾値以下であることを、EBA発生条件に含むようにしても良い。
また、前輪ブレーキ系統200および後輪ブレーキ系統300に、ABSのためのモジュレータ90,90Aを配し、前輪ブレーキ系統200のみにEBAのためのブースタ88を配する本実施の形態において、フロントのABS作動中に、フロントの緊急ブレーキ操作が検出された場合、EBAを作動させないことが好ましい。
【0065】
一方、EBA作動中に、フロントのABS発生条件が満たされてABSが作動する場合、そのABS作動による主ホイールシリンダ7の加圧、減圧と、EBA作動による副ホイールシリンダ29の加圧、減圧とは同期して行われてもよいし、同期して行われなくてもよい。
また、EBA禁止フラッグがセットされていないことを、EBA発生条件に含むようにしても良い。そのEBA禁止フラッグは、例えば、フラッシャが点滅している場合にセットされ、フラッシャが消灯している場合にリセットされる。
【0066】
次いで、図7および図8は、ABSが非作動のときにEBA機能を実現するときのブレーキ装置1の状態を示している。
図7および図12に示すように、常開の第1の電磁弁110がオンされて閉じることで、レギュレータ21の排出ポート24とリザーバ13との連通が断たれる。一方、レギュレータ21を迂回して液圧源12と副ホイールシリンダ29を接続するパイパス路111において、常閉の第2の電磁弁112がオンされて開放することで、アキュームレータ17に蓄えられていた液圧がバイパス路111を介して副ホイールシリンダ29に供給され、前輪6の制動力を向上させる。
【0067】
図12に示すように、第2の電磁弁112の開放は間欠的に行われ、第2の電磁弁112は、図7の示す開放状態と図8に示す閉じ状態を一定のサイクルで交互に繰り返し、副ホイールシリンダ29へ一定量ずつ作動液が供給されるようにする。これにより、副ホイールシリンダ29は徐々に加圧されていく。
第1の電磁弁110を閉じるのは、仮に開放しているとすると、アキュームレータ17からの作動液がレギュレータ21の出力ポート23および排出ポート24を介してリザーバ13側へ逆流するので、これを防止するためである。
【0068】
図7の状態において、ライダーがブレーキレバー2の操作をしていないとすると、レギュレータ21のスプール部材34は、図3に示すように、第1の位置に変位している。この場合において、ライダーはブレーキレバー2を操作することで、図中矢符で示すように、マスターシリンダ4から、レギュレータ21のパイロット室30を含む第1の主液路10を介して、主ホイールシリンダ7へ作動液を供給し、前輪6に対するブレーキ力を付加することができる。
【0069】
また、図8に示すように、第2の電磁弁112が閉じている状態では、ライダーのブレーキレバー2の操作により、マスターシリンダ4の圧力が高まると、図5に示すように、スプール部材34が第3の位置に変位し、アキュームレータ17からの作動液が入力ポート22、弁孔48、レギュレータ室35および出力ポート23を介し、調圧された状態で図8に示すように副ホイールシリンダ29に導かれる。その結果、レギュレータ室35とパイロット室30の圧力が等しくなると、スプール部材34は弁孔8を閉じる第2の位置へ退く。そして、再び図7に示すように、第2の電磁弁112が開放されて、副ホイールシリンダ29の圧力が高まると、スプール部材34はさらに退いて第1の位置へ戻る。
【0070】
ABS機能
所定のABS発生条件が満たされると、ABS制御が開始される。上記ABS発生条件としては、各ブレーキ系統200,300において、対応するホイールセンサ114,115の検出値に基づいて演算されるスリップ率が所定の閾値を超える場合を例示することができる。また、上記の所定の閾値を車輪の減速度(車両の減速度に相当)に応じて可変するようにすること等、スリップ率と車輪の減速度の組合せにてABS制御を実行するか否かを判断する場合を例示することができる。ABS発生条件が満たされた側のブレーキ系統200,300のモジュレータ90,90AがABS動作をする。
【0071】
前輪ブレーキ系統200のモジュレータ90のABS動作について、図9〜図12に基づいて説明する。ここでは、ブレーキ操作による主ホイールシリンダ7の加圧と、EBA作動による副ホイールシリンダ29の加圧によって、前輪6がロック傾向に入り、その結果、ABSが作動する場合に則して説明する。
そのABS機能は、モジュレータ90,90Aのポンプ94をオン状態とし、フロントのモジュレータ90の第3および第4の電磁弁91,92をABSの要求に応じてオンオフすることで実現される。
【0072】
すなわち、ABS制御時には、そのABS要求に応じて、第3および第4の電磁弁91,92を図9〜図11に示すように駆動することで、フロントの主ホイールシリンダ7へのブレーキ液圧を減圧してロック傾向を回避し、その後、加圧と保持を繰り返す。このとき、図12に示すように、EBA機能を果たすための第1および第2の電磁弁110,112のうち、第1の電磁弁110は、ABSの減圧に合わせて開放し、ABSの加圧および保持に合わせて閉じる。一方、第2の電磁弁112は、EBAの加圧中の液圧をコントロールするために開閉を行うが、その開閉は、第3の電磁弁91の開閉と同期して行われてもよいが、図12に示すように同期していなくてもよい。
【0073】
図9は、その減圧の状態を示している(図12で、例えばタイミングt1の状態に相当)。減圧の状態では、常開の第1の電磁弁110が開放され、常閉の第2の電磁弁112が閉じられる。また、常開の第3の電磁弁91が閉じられるとともに、常閉の第4の電磁弁92が開放される。これにより、マスターシリンダ4から主ホイールシリンダ7への供給経路が閉じられた状態で、分岐部10cから帰還部10dに至る還流路95が開放される。
【0074】
その結果、主ホイールシリンダ7の作動液はレギュレータ21のパイロット室30、第4の電磁弁92を介してバッファチャンバ93に一時的に貯蔵され、バッファチャンバ93に貯蔵された作動液は既に作動を開始しているポンプ94により吸引され還流路95を介してマスターシリンダ4に還流される。
この状態では、レギュレータ21のパイロット30室の圧力は急降下するので、スプール部材34が図3に示す第1の位置に変位し、ドレーンポート38が開放する。その結果、副ホイールシリンダ29内の作動液がレギュレータ21の出力ポート23、レギュレータ室35、ドレーンポート38および排出ポート24を介してリザーバ13に戻される。
【0075】
次いで、図10は減圧に続く加圧の状態を示している(図12で、例えばタイミングt2の状態に相当)。加圧の状態では、第4の電磁弁92が閉じられるとともに、第3の電磁弁91が開放されて第1の主液路10が開放される。その結果、マスターシリンダ4からの作動液が第1の主液路10を介して主ホイールシリンダ7に供給される。また、マスターシリンダ4からの作動液の供給によりレギュレータ21のパイロット室30内に圧力がレギュレータ室35内の圧力よりも高くなる場合には、スプール部材34は第2の位置を経て第3の位置へ変位する。その結果、チェック弁49が開放され、液圧源12からの作動液が入力ポート22、高圧室60、レギュレータ室35および出力ポート23を介して副ホイールシリンダ29に導かれる。
【0076】
また、加圧の状態では、第1の電磁弁110は閉じられ、第4の電磁弁112は例えば複数回、開閉を繰り返し、EBA作動を継続する。
次いで、図11は保持の状態を示している(図12で、例えばタイミングt3の状態に相当)。保持の状態では、常開の第1および第3の電磁弁110,91が閉じられることで、前輪ブレーキ系統200の全ての電磁弁が閉じられる。その結果、フロントの主ホイールシリンダ7へのブレーキ供給経路が閉じられて主ホイールシリンダ7のブレーキ液圧が保持されると共に、バイパス路111を介する作動液の供給が断たれて副ホイールシリンダ29のブレーキ液圧が保持される。
【0077】
また、マスターシリンダ4とレギュレータ21のパイロット室30との間の連通が遮断されることから、レギュレータ21において、パイロット室30とレギュレータ室35とが相等しい圧力となり、スプール部材34は再び第2の位置(図4参照)に変位し、ドレーンポート38を閉鎖する。
図12に示すように、加圧および保持は交互に繰り返されて、前輪6の主ホイールシリンダ7および副ホイールシリンダ29のブレーキ液圧を段階的に高めるようになっている。これにより制動力が高まり再びロック傾向になると、再び、減圧が行われることになる。
【0078】
ABS制御中に、ライダーがブレーキ液圧の低下を望んでブレーキ操作力を緩めた場合、第3の電磁弁91と並列に配置された逆止弁97が開放し、主ホイールシリンダ7内の作動液が還流路96を介してマスターシリンダ4に戻される。このとき、レギュレータ21のスプール部材34は第1の位置へ押し戻され、これにより、ドレーンポート38が開放され、副ホイールシリンダ29の作動液は、出力ポート23および排出ポート24を介してリザーバ13に戻される。
【0079】
以上説明した本実施の形態によれば、通常時、ブレーキレバー2のブレーキ操作によりマスターシリンダ4からの作動液が第1の主液路10を介して主ホイールシリンダ7に供給される一方、アキュームレータ17からの作動液が第1の主液路10と隔てられた副液路105のレギュレータ21を介して液圧調整されて副ホイールシリンダ29に供給される。マスターシリンダ4としては主ホイールシリンダ7の消費液量を供給すれば足りるので、ブレーキ操作のストローク量を増大することなく少ない操作力で主ホイールシリンダ7と副ホイールシリンダ29を働かせて制動力を向上することができる。
【0080】
一方、EBA作動時に、アキュームレータ17の作動液をレギュレータ21を介さずに副ホイールシリンダ29に供給し、緊急時の制動力を向上させることができる。EBAのための作動液が第1の主液路10に出入りしないので、EBA作動中であっても、上記の通常時と同様にして、マスターシリンダ4の液圧をパイロット室30を介する第1の主液路10を通じて主ホイールシリンダ7に付加することができ、ライダーによるブレーキ操作の追加が可能である。また、そのブレーキ操作に伴って、アキュームレータ17からレギュレータ21を介する通常のブースト力を付加することも可能である。
【0081】
また、ブレーキ操作中にEBAが発生してもマスターシリンダ4の液圧に変化がなく、ライダがブレーキ操作に違和感を感じることがない。
また、ABS作動時において、モジュレータ90のポンプ94の働きで主ホイールシリンダ7の作動液が還流路95を介して第1の主液路10の帰還部10dに戻される。すると、この帰還部10dに連通するマスターシリンダ4の液圧変化が、当該マスターシリンダ4に対応するブレーキレバー2を介してライダーに与えられることになる。その結果、ライダーはABS作動を感じとることができ、ひいては、ブレーキレバー2によるブレーキ操作が過剰であると判断することができる。
【0082】
一般に、自動二輪車では、フロントのブレーキ操作が過大であると、フロントがロックして車両の挙動が不安定となる。したがって、ライダーは、緊急時においても、フロントのブレーキを強く掛けずに、リヤブレーキを主に用いて止まろうとする傾向にある。この傾向は、ABS採用車においても同様である。これに対して、本実施の形態では、フロント側にEBA機能を持たせることで、緊急時の実質的な制動力を大きく向上させることができる。
【0083】
第2の実施の形態
次いで、図13は本発明の第2の実施形態としてレギュレータの変更形態を示している。図13を参照して、本実施の形態が図2の実施の形態と主に異なるのは、スプール部材34Aとして、いわゆる段付きピストン状のものを用いた点にある。すなわち、スプール部材34Aは、パイロット室30に臨む第1の受圧部68と、レギュレータ室35に臨む第2の受圧部69とを含んでいる。第1の受圧部68の径D1が第2の受圧部の径D2よりも大きくされることにより、第1の受圧部68の断面積が第2の受圧部69の断面積よりも大きくされている。
【0084】
これにより、図6において破線で示すように、レギュレータ室35の圧力としての第3の液圧P3をパイロット圧としての第1の液圧P1の所定倍の圧力として第1の液圧P1よりも高くすることができ、その結果、ブースト用の副ホイールシリンダ29の制動力を主ホイールシリンダ7による制動力よりも高くすることができる。また、マスターシリンダ4からの相対的に少ない供給液量で前輪6において相対的に高い制動力を得ることができる。
【0085】
実際には、第1および第2の受圧部68,69の断面積比を所定比とすると、第3の液圧P3は、第1の液圧P1に上記の所定比を乗じた圧力から、付勢部材58の付勢力により生ずる所定の圧力差を減じた圧力となる。しかるに、付勢部材58の付勢力により生ずる圧力差は殆ど無視できるレベルであるので、第3の液圧P3は第1の液圧P1の所定比倍の圧力であるとみなして差し支えない。すなわち、第3の液圧P3は第1の液圧P1に比例することになり、これによりABS制御との組み合わせが実質的に可能となる。
【0086】
スプール部材34の形状変更に応じて、レギュレータ室35の径をパイロット室30の径よりも小さくすることが必要であり、そのために、収容孔32の開放端31b側の半部が大径化され、この大径化された部分にスリーブ70が嵌め入れられている。このスリーブ70の内径がスプール部材34の第1の受圧部68の内径と等しくされ、スリーブ70の内周面に第1の受圧部68が嵌め合わされている。また、バルブ機構44のバルブボディ45の大部分がスリーブ70の内周面に嵌め合わされ、シール部材55,56はスリーブ70の内周面とバルブボディ45の外周面との間を封止するようになっている。
【0087】
また、スプール部材34を付勢するための付勢部材58の一端はスリーブ70の端面に係止している。スリーブ70の外周面70aには、入力ポート22に対応して環状溝71が形成されており、この環状溝71は、スリーブ70を径方向に貫通する液路72を介して、バルブボディ45の外周の環状溝53に連通している。これにより、入力ポート22が環状溝71、液路72、環状溝53および液路54を介して高圧室60に連通するようになっている。
【0088】
一方、スリーブ70の外周面70aには、出力ポート23に連通する環状溝73が形成され、この環状溝73は、スリーブ70を径方向に貫通する液路74を介してレギュレータ室35に連通している。これにより、出力ポート23は環状溝73および液路74を介してレギュレータ35に連通するようになっている。
また、スリーブ70の外周面70aには、上記の環状溝71、73を挟んだ両側に一対の例えばOリングからなるシール部材75,76が装着されており、これらのシール部材75,76はハウジング31の内周面とスリーブ70の外周面70aとの間を封止している。
【0089】
なお、他の構成については図3の実施の形態と同様であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。
第3の実施の形態
次いで、図14は本発明の第3の実施の形態を示している。本第3の実施の形態が図1の第1の実施の形態と異なるのは、後輪8に設けられたキャリパ104に、リヤの主ホイールシリンダ9および前後連動用のホイールシリンダ77を配置した点と、第1の液路10の第2の部分10bの中途に設けられた分岐部78を上記前後連動用のホイールシリンダ77に接続する接続路79を設けた点と、上記の接続路79に、例えば後述する図20に示すプロポーショニングバルブ(Pバルブ、液圧調整弁ともいう)140を用いた圧力制御弁80を配置した点にある。圧力制御弁80として、図21に示す、減圧ピストンを含む複合バルブ160を用いることもできる。
【0090】
他の構成については第1の実施の形態と同様である。リヤの主ホイールシリンダ9および前後連動用のホイールシリンダ77が後輪8に設けられた相異なるキャリパに配置されるようにしても良い。
本第3の実施の形態によれば、通常時において、前側のブレーキレバー2の操作によって、前後のブレーキを連動させて働かせることができ、いわゆるフロント操作型の前後連動ブレーキを提供することができる。すなわち、前輪6に主ホイールシリンダ7と副ホイールシリンダ29を配置して、ブレーキレバー2の相対的に少ない操作力および相対的に少ない操作ストロークにて前輪6の制動力を向上する。一方、前輪6の主ホイールシリンダ7に提供されている第1の液圧を圧力制御弁80により所定の液圧に調整し、この調整された液圧を後輪8に配置される上記前後連動用のホイールシリンダ77に供給することにより、後輪8の制動力も向上することができる。
【0091】
また、EBA時において、ライダーのブレーキレバー2の操作でフロントのマスターシリンダ4の加圧によるブレーキ力を前輪6および後輪8に追加することができる。
また、フロントの主ホイールシリンダ7側の第1の液圧が入力される圧力制御弁80の機能としては、上記第1の液圧が所定値未満では第1の液圧に等しい液圧を出力し、第1の液圧が所定値を超えると、第1の液圧を比例的に減じた液圧を出力するものが好ましい。これにより、前後の制動力の配分特性を図15に実線で示すように設定することが可能である。
【0092】
すなわち、制動力の配分特性を図15に一点鎖線で示す1名乗車時の理想配分曲線および二点鎖線で示す2名乗車時の理想配分曲線を超えないように設定することで、フロントが先にロックするように設定することができる。具体的には、制動力の配分特性を1名乗車時の理想配分曲線を超えない範囲でこれに近似させることが好ましい。
通常ブレーキ機能として前輪6にブースト力を付加するため、通常時において、車両の減速度が非常に高まる結果、前輪6側へ偏った荷重配分へ移行し易い。その結果、後輪の接地荷重が減少する傾向にあるが、通常のフロントのブレーキ操作で、リヤ側にも制動力を配分することができるので、制動時の車両の安定に効果がある。また、非力なレバー操作でも高い減速度を得ることができる。
【0093】
第4の実施の形態
次いで、図16は本発明の第4の実施の形態を示している。本第4の実施の形態が図14の第3の実施の形態と異なるのは下記である。すなわち、第3の実施の形態では、第1の液路10の第2の部分10bを前後連動用のホイールシリンダ77に接続する構成を採用したが、本第4の実施の形態では、上記構成に代えて、レギュレータ21の出力ポート23を前輪6に配置される副ホイールシリンダ29および後輪8に配置される副ホイールシリンダ29Aに接続する構成を採用し、リヤの副ホイールシリンダ29Aが前後連動用のホイールシリンダとして機能するようにした。
【0094】
換言すると、前輪ブレーキ系統200の第1の主液路10に対応するレギュレータ21を含むブースタ88から作動液の供給を受けるブースト用の副ホイールシリンダとして、複数の副ホイールシリンダを設け、前輪6および後輪8にそれぞれ配置した。ブースタ88は前輪ブレーキ系統200と後輪ブレーキ系統300とで兼用されることになる。
具体的には、ブースタ88のレギュレータ21の出力ポート23とフロントの副ホイールシリンダ29とを接続する液路81の中途に分岐部81aを設け、この分岐部81aをリヤの副ホイールシリンダ29Aに接続する接続路82を設け、この接続路82に上記の第3の実施の形態の圧力制御弁80と同様の構成の圧力制御弁83を配置するようにした。
【0095】
本第4の実施の形態においても、第3の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。特に、前後連動用のリヤの副ホイールシリンダ29Aに対して液圧源12から作動液を供給するようにすることで、フロントのマスターシリンダ4の供給液量を相対的により少なくした状態で前後の連動ブレーキを実現することができるという利点がある。
特に、後輪の分布荷重が相対的に大きいスクータ型の車両、車両後部への積載量の大きな業務用の車両、ツーリング用途などの車両に適用した場合、通常時やEBA時に後輪にもブースト力やアシスト力を付加することで、安定した制動を達成することができる。
【0096】
第5の実施の形態
次いで、図17は本発明の第5の実施の形態を示している。本第5の実施の形態が図1の第1の実施の形態と異なるのは、下記である。すなわち、第1の実施の形態のブースタ88では、前輪ブレーキ系統200の第1の主液路10の一部をパイロット室30として含むレギュレータ21を設けたが、本第5の実施の形態では、これに代えて、後輪ブレーキ系統300の第2の主液路11の一部をパイロット室30として含むレギュレータ21Aを備えるものとしてブースタ88Aを設けた。
【0097】
第2の主液路11は、リヤのマスターシリンダ5をレギュレータ21Aの第1のパイロットポート25に接続する第1の部分11aと、レギュレータ21Aの第2のパイロットポート26をリヤの主ホイールシリンダ9に接続する第2の部分11bとを含む。第2の主液路11の第2の部分11bには、上述の圧力制御弁80,83と同様の構成の圧力制御弁84が配置されている。レギュレータ21Aの出力ポート23は、液路81を介して、当該レギュレータ21Aに対応して前輪6に配置されたブースト用の副ホイールシリンダ29Bに接続されている。レギュレータ21Aの内部構成については、レギュレータ21と同様である。また、他の構成については、第1の実施の形態と同様であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。
【0098】
本実施の形態によれば、通常時において、リヤ側のブレーキ操作部材としてのブレーキペダル3の操作により作動するマスターシリンダ5からの供給液圧がパイロット圧としてレギュレータ21Aに導かれ、液圧源12からの作動液がレギュレータ21Aを介して第3の液圧に調整されて、前輪6に配置された副ホイールシリンダ29Bへ供給される。これにより、ブレーキペダル3の操作で、後輪8の主ホイールシリンダ9に加えて、前輪6の副ホイールシリンダ29Bにも液圧を供給でき、いわゆるリヤ操作型の前後連動ブレーキを提供することができる。また、圧力制御弁84によって前、後輪6,8への制動力配分を調整することができる。
【0099】
いわゆるリヤ操作型の前後連動ブレーキにおいて、ブレーキペダル3の相対的に少ない操作力と操作ストローク量で、リヤの主ホイールシリンダ9およびフロントの副ホイールシリンダ29Bに作動液を供給でき、制動力を高めることができる。
また、レギュレータ21Aの第2のパイロットポート26とリヤの主ホイールシリンダ9との間に介在する圧力制御弁84は、リヤの主ホイールシリンダ9への液圧を制限する機能を果たす。例えば、リヤのマスターシリンダ5から供給される第1の液圧が所定値未満では第1の液圧に等しい液圧を出力し、第1の液圧が所定値を超えると、第1の液圧を比例的に減じた液圧として出力するものが好ましい。これにより、前後の制動力の配分特性を図18に実線で示すように設定することが可能である。すなわち、当該配分特性を図18に一点鎖線で示す1名乗車時の理想配分曲線および二点鎖線で示す2名乗車時の理想配分曲線よりも高く設定することにより、後輪8が先にロックするように設定することができる。具体的には、2名乗車時の理想配分曲線を下回らない範囲でこれに近似させるように配分特性を設定することが好ましい。
【0100】
圧力制御弁84の働きにより、ABSの故障時やABS制御の禁止時にも確実にリヤ側が先にロックするようにし、車両の安定を維持することができる。また、圧力制御弁84の働きにより、EBA時においても、リヤ側が先にロックするようにし、車両の安定を維持することができる。
第6の実施の形態
次いで、図19は本発明の第6の実施の形態を示している。本第6の実施の形態が図1の第1の実施の形態と異なるのは、後輪ブレーキ系統300の第2の主液路11に対応するレギュレータ21Aを備えるブースタ88Aを追加した点にあり、そのレギュレータ21Aは、リヤ側のマスターシリンダ5と主ホイールシリンダ9とを接続する第2の主液路11の一部を構成するパイロット室30を含む。また、各ブースタ80,80Aには、共通のリザーバ13および共通の液圧源12が対応するように、液圧回路を構成し、構造の簡素化を図っている。
【0101】
具体的には、第2の主液路11は、リヤのマスターシリンダ5をレギュレータ21Aの第1のパイロットポート25に接続する第1の部分11aと、レギュレータ21Aの第2のパイロットポート26を主ホイールシリンダ9に接続する第2の部分11bとを含む。 ブースタ88のバイパス路111には、固定絞り113よりも分岐部27a側に分岐部111aが設けられており、この分岐部111aをリヤのレギュレータ21Aの入力ポート22に接続する液路85が設けられている。これにより、液路85を介して液圧源12から第2の液圧がレギュレータ21Aの入力ポート22に提供されるようになっている。
【0102】
また、液路14においてリザーバ13と逆止弁19との間に分岐部14aが設けられ、この分岐部14aをリヤのレギュレータ21Aの排出ポート24に接続する液路86が設けられている。これにより、レギュレータ21Aの排出ポート24がリザーバ13に連通するようになっている。また、この液路86には、ブースタ88Aに含まれる第3の電磁弁110が配置されている。
【0103】
また、リヤのレギュレータ21Aの出力ポート23をリヤの副ホイールシリンダ29Cに接続する液路81の途中に分岐部81bが設けられ、この分岐部81bを上記の液路85の途中に設けられる分岐部85aに接続するバイパス路87が設けられる。この液路87にブースタ88Aに含まれる第4の電磁弁112および固定絞り113が配置される。 リヤのレギュレータ21Aに対応する副液路105Aは、液路16においてアキュームレータ17と分岐部16aとの間の部分、液路27おいて分岐部16aと分岐部27aとの間の部分、液路85、レギュレータ21A内において入力ポート22と出力ポート23とを接続する内部経路、および液路81を含む液路である。
【0104】
各レギュレータ21,21Aの内部構成については同様である。また、他の構成については、第1の実施の形態と同様であるので、図に同一符号を付してその説明を省略する。 本実施の形態によれば、通常時において、対応するマスターシリンダ4,5から作動液の供給を独立して受けるフロントおよびリヤの主ホイールシリンダ7,9を前輪6および後輪8にそれぞれ配置し、これに加えて、前輪6および後輪8にブースト用の副ホイールシリンダ29,29Cをそれぞれ配置する。さらに、これらの副ホイールシリンダ29,29Cに、それぞれに対応するレギュレータ21,21Aを介して液圧源12からの作動液を調圧して供給することにより、前後輪ともに制動力を向上することができる。マスターシリンダ4,5からの相対的に少ない供給液量で高い制動力を得ることができる。
【0105】
また、EBA時において、少なくとも一方の副ホイールシリンダ29,29Cに液圧源12からの作動液を対応するレギュレータ21,21Aを介さないで供給し、制動力を高めることができる。
緊急ブレーキアシストのための液圧源12は共通であるが、各ブースタ88,88Aを独立に制御することができるので、前輪6および後輪8に任意にブレーキアシストを付加することができる。なお、液圧源12のリザーバ13およびポンプ15の何れか一方を各ブースタ88,88Aで兼用するようにしても良い。
圧力制御弁の一例
図20は、上記の第3、第4および第5の実施の形態(すなわち、図14、図16および図17の実施の形態)において、圧力制御弁80,83,84として用いるプロポーショニングバルブ(Pバルブ)の一例を示す。
【0106】
図20を参照して、プロポーショニングバルブ140は、ボディ141と、ボディ141の内部に配置されたプランジャ142と、プランジャ142と共働作用を行うことで弁機構を得るための弾性弁座143と、プランジャ142の弁機構を開放方向へと付勢するための付勢部材としてのばね144とを備える。
ボディ141は、上記プランジャ142を摺動自在に収容する弁収容孔145と、弁収容孔145の一端を液密的に閉塞するプラグ146と、弁収容孔145の一端近傍に通ずる入口液路147と、弁収容孔145の他端に設けられる出口液路148とを備える。
【0107】
プランジャ142は、第1および第2の端部142a,142bと、第1および第2の端部142a,142b間の中間部で第1の端部142a寄りに設けられたピストン142cと、ばね144の一端を受けるばね座142dとを備える。
ばね144は、プランジャ142のばね座142dとプラグ146によって受けられたばね座149との間に介在する圧縮コイルばねからなる。また、ボディ141は、プランジャ142の第1および第2の端部142a,142bをそれぞれ摺動可能に支持するための第1および第2の受け部151,152を備える。
【0108】
このような構成のプロポーショニングバルブ140の入口液路147に付与された液圧は、弁収容孔145内においてピストン142cの上流側領域に伝達され、さらにばね144によって開放されている弁部153を通過して出口液路148へと伝えられる。このときは弁部153が開放されているので、入口液路147に加わったブレーキ液圧がほぼそのまま出口液路148へ伝えられる。
【0109】
一方、入口液路147からのブレーキ液圧がさらに上昇し、一定値に達すると、ピストン142cの下流側の液受圧面積A1(ピストン142cが弾性弁座143に当接するときの接触部直径面積)と、上流側の液受圧面積A2= A1×π/4×d2 (dはピストン142cの外径)との面積差によりピストン142cはばね144の付勢力に勝って図19の下方に移動し、弁部153が閉じられる。このポイントが折れ点である。
【0110】
さらに上流側液圧がΔPだけ上昇すると、上昇液圧ΔPによりピストン142cは上方へ僅かに移動し、弁は開く。
すなわち、上流側液圧の上昇液圧ΔPは下流側液受圧面積A1と上流側受圧面積A2との面積差によるピストン142cへの下方向への作用力ΔP×A2/A1がばね144の付勢力に達するまでの間、液の流れが許容されて、再び弁は閉じる。
【0111】
この様に弁の開閉動作は繰返し行われてプロポーショニングバルブ140は折れ点液圧以上の入力液圧に対してある一定の割合でブレーキ液圧を減圧させて、出力液路148側に接続されるホイールシリンダに伝達する作用を有する。
圧力制御弁の別の例
次いで、図21は、上記の第3、第4および第5の実施の形態(すなわち、図14、図16および図17の実施の形態)において、圧力制御弁80,83,84として用いる複合バルブ160を示す。
【0112】
複合バルブ160は、プロポーショニングバルブ収容室161および減圧ピストン収容室162を有するボディ163と、プロポーショニングバルブ収容室161に収容されるプロポーショニングバルブ164と、減圧ピストン収容室162に収容される減圧ピストン165とを備える。
プロポーショニングバルブ収容室161は、第1室166、第2室167、第3室168および第4室169を順次に連ねて含む。第1室166および第2室167が弁室となっている。第4室169の端部はプラグ170により液密的に閉塞されている。
【0113】
また、減圧ピストン収容室162は、大径の第1ピストン収容室171と、小径の第2ピストン収容室172とを含む。第2ピストン収容室172は、後述する第2ピストン196の先端部と液密的に嵌め合わされるシリンダ部172aと、後述する第2ピストン196の残りの部分の回りを取り囲み第1ピストン収容室171に近づくにしたがって漸次拡径する液室172bとを有する。第1ピストン収容室171の端部はプラグ174によって液密的に塞がれている。
【0114】
ボディ163は入口ポート175および出口ポート176を含む。入口ポート175は、液路177、液室172bおよび液路178を順次に介して、プロポーショニングバルブ収容室161の弁室としての第2室167に連通している。出口ポート176は液路179を介して、プロポーショニングバルブ収容室161の弁室としての第1室166の端部に連通している。
【0115】
プロポーショニングバルブ164は、第1室166から第4室169までを挿通して摺動自在に配置されたプランジャ180と、プランジャ180と共働作用を行うことで弁機構を得るための弁座形成体181と、プランジャ180の弁機構を開放方向へ付勢するための付勢部材としてのばね182とを備える。
プランジャ180は、第1の端部180aと第2の端部180bとを有する。プランジャ180の第1の端部180aには、第1室166に摺動自在に嵌合された大径部183が形成されており、第2の端部180bは第4室169に摺動自在に嵌合されている。また、プランジャ180の第2の端部180bには、環状段部からなるばね座184が設けられている。上記のばね182は、ばね座184と第4室169の底との間に介在する圧縮コイルばねからなる。
【0116】
また、プランジャ180は上記大径部183に小径部185を介して連なる中径部186を有しており、中径部186は第2の端部180bまで延びている。小径部185は第1室166から第2室167に跨がり、中径部186は第2室167から第4室169に跨がるように配置されている。
大径部183の先端部を除く部分の外周の全周には、凹部183aが形成され、この凹部183aと第1室166の内周との間に、環状液室187が形成されている。この環状液室187は液路179を介して出口ポート176に連通している。
【0117】
一方、弁座形成体181は、第1室166に近い側の第2室167の端部に保持されている。具体的には、弁座形成体181の端面が第2室167の内端面に設けられるストッパ部167aに当接することで、弁座形成体181がホームポジションに位置決めされている。弁座形成体181は、プランジャ180の小径部185を所定の環状隙間を設けて挿通させる挿通孔188を有する環状体からなる。弁座形成体181の端面の一部が第1室166に面することで、弁座189を構成している。弁座形成体181の外周と第2室167の内周との間は、例えばOリングからなるシール部材190により封止されている。
【0118】
また、プランジャ180は、大径部183と小径部185との間に、上記弁座189に対向する環状段部191を形成しており、この環状段部191に、環状の弾性板からなる弁体192が貼り付けられている。
ばね182により付勢されたプランジャ180は、その大径部183の端面が第1室166の端部のストッパ部193に当接することで、弁体192と弁座189との間に所定の隙間が設けられる状態に位置決めされる。また、第3室168の内周とこれを挿通する中径部186の部分との間は、環状のシール部材194によって封止されている。シール部材194はプランジャ180の中径部186の摺動を許容する。
【0119】
次いで、減圧ピストン165は、第1ピストン収容室171に摺動自在に収容された大径の第1ピストン195と、第1ピストン195から同心状に延設され第2ピストン収容室172の液室172bを隙間を設けて挿通して第2ピストン収容室172のシリンダ部172aに摺動自在に収容された第2ピストン196とを備える。
第1ピストン195の外周に形成される周溝に例えばOリングからなるシール部材197が収容され、このシール部材197によって、第1ピストン195の外周と第1ピストン収容室171の内周との間が封止されている。
【0120】
また、第2ピストン196の先端部の外周に形成される周溝に例えばOリングからなるシール部材198が収容され、このシール部材198によって、第2ピストン196の先端部の外周と第2ピストン収容室172のシリンダ部172aとの間が封止されている。 第1ピストン195は、付勢部材としてのばね199によって、第1ピストン収容室171の一端に設けられるストッパ部171a側へ付勢され、ストッパ部200に当接することによって位置決めされる。
【0121】
このような構成の複合バルブ160を例えば図14の圧力制御弁80に適用した場合に則して説明すると、入口ポート175に付与された液圧は、液路177、液室172b、液路178および第2室167に伝達され、さらにばね182の働きで開放されている、弁体192と弁座189との間を通過し、さらに環状液室187および液路179を介して出口ポート176へと伝えられる。このときは、弁体192が開放されているので、入口ポート175に伝わったブレーキ液圧がほぼそのまま出口ポート176に伝えられ、後輪のホイールシリンダ77に伝達される。
【0122】
入口ポート175に伝えられるブレーキ液圧が増加し、後輪の制動力が図22のA点に達すると、弁体192が弁座189に接するときの液受圧面積(弁座189よりも下流側の液受圧面積)と、中径部の断面積から小径部の断面積を差し引いた液受圧面積(弁座189よりも上流側の液受圧面積)との面積差により、プランジャ180がばね182の付勢力に打ち勝って図21において下方に移動し、弁体192が弁座189に密接して弁部が閉じられる。
【0123】
その結果、入口ポート175と出口ポート176との連通が一時的に遮断されるが、入口ポート175に付与されるブレーキ液圧がさらに増加すると、第2室167の圧力が高まって、プランジャ180が押し上げられ、入口ポート175と出口ポート176とが再び連通する。
このようにして、入口ポート175に付与される液圧の増加に伴って、プランジャ180が上下に振動することにより、弁体192と弁座189との間の隙間が断続的に開閉され、出口ポート176に伝達されるブレーキ液圧の増加率が減少する。
【0124】
入口ポート175に付与されるブレーキ液圧がさらに増加し、後輪の制動力がB点に達すると、弁体192が弁座189に密接した状態で、プランジャ180および弁座形成体181が一体的に図21において下降する。これにより、大径部183の凹部183aと液路179との連通が遮断され、入口ポート175と出口ポート176の連通が完全に断たれるため、それ以後、入口ポート175に付与されるブレーキ液圧が増加しても、出口ポート176から後輪のホイールシリンダ77に伝達されるブレーキ液圧は一定に維持される。
【0125】
入口ポート175に付与されるブレーキ液圧がさらに増加し、後輪の制動力がC点に達すると、減圧ピストン165がばね199に抗して下降する。これにより、第2ピストン196の先端部が下降してシリンダ部172a内に液路179と連通する液室が形成されることになる。その結果、出口ポート176に伝達されるブレーキ液圧は減少する。このようにして、出口ポート176から出力されるブレーキ液圧が4段階に変化する。
【0126】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図14、図16および図17の実施の形態において、対応する圧力制御弁80,83,84をそれぞれ廃止することもできる。
また、図1、図14、図16および図17の各実施の形態において、前輪ブレーキ系統200と後輪ブレーキ系統300の構成を互いに入れ換えた構成を採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】自動二輪車用ブレーキ装置の電気的構成の要部を示すブロック図である。
【図3】主にブースタのレギュレータの内部構成を示す模式的断面図であり、第1の状態にあるレギュレータを示している。
【図4】主にブースタのレギュレータの内部構成を示す模式的断面図であり、第2の状態にあるレギュレータを示している。
【図5】主にブースタのレギュレータの内部構成を示す模式的断面図であり、第3の状態にあるレギュレータを示している。
【図6】パイロット圧として用いられる第1の液圧とレギュレータにより調整された第3の液圧との関係を示すグラフ図である。
【図7】緊急ブレーキアシスト時の一状態のブレーキ装置の模式図である。
【図8】緊急ブレーキアシスト時の他の状態のブレーキ装置の模式図である。
【図9】アンチロック制御時のブレーキ装置がブレーキ液圧を減圧する状態を示す模式図である。
【図10】アンチロック制御時のブレーキ装置がブレーキ液圧を加圧する状態を示す模式図である。
【図11】アンチロック制御時のブレーキ装置がブレーキ液圧を保持する状態を示す模式図である。
【図12】緊急ブレーキアシスト時およびアンチロック制御時の各電磁弁の動作を示すタイミングチャートである。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係るレギュレータの内部構成を示す断面図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図15】図14の実施の形態において、制動力配分特性と理想配分曲線との関係を示すグラフ図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図17】本発明の第5の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図18】図17の実施の形態において、制動力配分特性と理想配分曲線との関係を示すグラフ図である。
【図19】本発明の第6の実施の形態に係る自動二輪車用ブレーキ装置の概略構成を示す模式図である。
【図20】第3、第4および第5の実施の形態において、圧力制御弁として用いるプロポーショニングバルブ(Pバルブ)の断面図である。
【図21】第3、第4および第5の実施の形態において、圧力制御弁として用いる複合バルブの断面図である。
【図22】図21の複合バルブを図14の実施の形態の圧力制御弁に適用した場合の制動力配分特性と理想配分曲線との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0128】
1 自動二輪車用ブレーキ装置
2 ブレーキレバー(ブレーキ操作部材)
3 ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)
4 マスターシリンダ(フロント)
5 マスターシリンダ(リヤ)
6 前輪
7 主ホイールシリンダ(フロント)
8 後輪
9 主ホイールシリンダ(リヤ)
10 第1の主液路
10a 第1の部分
10b 第2の部分
10c 分岐部
10d 帰還部
11 第2の主液路
11a 第1の部分
11b 第2の部分
11c 分岐部
11d 帰還部
12 液圧源
13 リザーバ
15 ポンプ装置
17 アキュームレータ
18 電動モータ
21,21A レギュレータ
22 入力ポート
23 出力ポート
24 排出ポート
25 第1のパイロットポート
26 第2のパイロットポート
29,29A,29B,29C 副ホイールシリンダ
30 パイロット室
34 スプール部材
35 レギュレータ室
38 ドレーンポート
44 バルブ機構
45 バルブボディ
48 弁孔
49 チェック弁
50 弁座
51 ボール
52 付勢部材
58 付勢部材
59 調圧弁
60 高圧室
61 操作軸
63 ボール
68 第1の受圧部
69 第2の受圧部
70 スリーブ
77 ホイールシリンダ(別のホイールシリンダ)
78 分岐部
79 接続路
80 圧力制御弁
81 液路
82 接続路
83 圧力制御弁
84 圧力制御弁
87 液路(バイパス路)
88,88A ブースタ
90,90A モジュレータ
91 第1の電磁弁
92 第2の電磁弁
93 バッファチャンバ
94 ポンプ
95 還流路
95a 分岐部
97,98,99 逆止弁
100 電動モータ
105,105A 副液路
111 バイパス路
140 プロポーショニングバルブ(圧力制御弁)
160 複合バルブ(圧力制御弁)
200 前輪ブレーキ系統
300 後輪ブレーキ系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材の操作に応じて作動するマスターシリンダから主液路を介して作動液が供給される主ホイールシリダと、ブースト用の副ホイールシリンダと、マスターシリンダよりも高圧を発生する液圧源からの作動液を主液路と隔てられた副液路を介して副ホイールシリンダに供給するためのブースタと、アンチロック用の還流式のモジュレータとを備え、
上記ブースタは、主液路の一部からなるパイロット室、液圧源に接続される入力ポート、副ホイールシリンダに接続される出力ポートおよびリザーバに接続される排出ポートを含むと共にパイロット室内のパイロット圧を用いて液圧源からの作動液をマスターシリンダの発生液圧に応じた圧力に調整して副ホイールシリンダへ供給するためのレギュレータと、レギュレータの排出ポートをリザーバに接続する液路に配置された常開の第1の電磁弁と、レギュレータの入力ポートと出力ポートとの間を迂回するバイパス路に配置された常閉の第2の電磁弁とを含み、
第2の電磁弁の開放に伴って液圧源の作動液を上記バイパス路を介して副ホイールシリンダに供給する緊急ブレーキアシストが実行されることを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置
【請求項2】
請求項1において、上記レギュレータは、調圧弁と、調圧弁により液圧調整された作動液が導かれると共に出力ポートに連通するレギュレータ室と、レギュレータ室およびパイロット室を相互に仕切るスプール弁とをさらに含み、
緊急ブレーキアシスト時に第2の電磁弁が開閉を繰り返し、その第2の電磁弁の閉じ状態で、レギュレータが、パイロット圧の増大に伴うスプール弁の変位に応じて、入力ポートと出力ポートを連通し且つ出力ポートと排出ポートの連通を遮断する状態に切り換えられる自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記モジュレータは、主液路においてマスターシリンダとパイロット室との間に設けられる分岐部からこの分岐部よりもマスターシリンダ側にあってマスターシリンダに常時連通する帰還部へ作動液を還流させるための還流路と、還流路に配置されアンチロック作動時に上記主ホイールシリンダから排出された作動液を吸引し帰還部を介して主液路に還流させるためのポンプとを含む自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を互いに独立して備え、
上記ブースタは前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統の少なくとも一方に設けられ、ブースタが設けられた側のブレーキ系統に当該ブースタのレギュレータに対応する副ホイールシリンダが設けられる自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1,2又は3において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータを含み、
上記副ホイールシリンダは前輪および後輪にそれぞれ配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5において、上記後輪に配置される副ホイールシリンダは、上記前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータの出力ポートから圧力制御弁を介して作動液の供給を受ける自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1,2又は3において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
上記ブースタは前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータを含み、
上記副ホイールシリンダは前輪に配置され、
後輪ブレーキ系統は主ホイールシリンダと別のホイールシリンダを含み、
上記別のホイールシリンダは、前輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータのパイロット室を介して前輪ブレーキ系統のマスターシリンダから作動液の供給を受ける自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項7において、上記前輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応して設けられたレギュレータのパイロット室を前輪ブレーキ系統の主ホーイルシリンダに接続する部分を含み、この部分に設けられる分岐部を上記別のホイールシリンダに接続する接続路に、圧力制御弁が配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1,2又は3において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダおよびモジュレータをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
上記ブースタは後輪ブレーキ系統の主液路に対応するレギュレータを含み、
上記副ホイールシリンダは前輪に配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項9において、上記後輪ブレーキ系統の主液路は、当該主液路に対応するレギュレータのパイロット室を後輪ブレーキ系統の主ホイールシリンダに接続する部分を含み、この部分に圧力制御弁が配置される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項1,2又は3において、上記マスターシリンダ、主液路、主ホイールシリンダ、モジュレータおよびブースタをそれぞれ含む前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統を備え、
前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統のブースタでリザーバおよび液圧源の少なくとも一方が兼用される自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか1項に記載の自動二輪車用ブレーキ装置を含むことを特徴とする自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−69303(P2006−69303A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253262(P2004−253262)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】