説明

自動変速機の変速制御方法および変速制御装置

【課題】発電により自動変速機に入力される走行トルクが減少しても良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られ、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加を抑制できる自動変速機の変速制御方法を提供する。
【解決手段】エンジンと発電電動機と自動変速機と変速制御装置とを備えたハイブリッド車両用パワートレイン装置で、エンジンからの駆動により車両の走行と発電電動機の発電とを並行して実施するときの自動変速機の変速制御方法であって、発電電力に必要な発電トルクを演算する工程S5と、エンジンの出力トルクを演算する工程S6と、出力トルクから発電トルクを減算して車両の走行に使用される走行トルクを演算する工程S7と、走行トルクに基づいて補正した発電時スロットル開度を演算する工程S8と、発電時スロットル開度に基づいて自動変速機を制御する変速制御工程S9と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速制御方法および変速制御装置に関し、より詳細には、エンジンおよび発電電動機を備えたハイブリッド車両用パワートレイン装置内の自動変速機の変速制御方法および変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行駆動源としてエンジンおよび発電電動機を備えたハイブリッド車両で、各種方式のパワートレイン装置が提案されている。例えば、エンジンの出力軸と発電電動機のロータとをクラッチを介して結合し、ロータを自動変速機に直接あるいはトルクコンバータを介して結合することで、駆動輪に至るパワートレイン装置を構成することができる。また、自動変速機は、遊星歯車装置を適宜組み合わせるとともに、油圧制御回路を設けて係合要素(クラッチ)および制動要素(ブレーキ)を係脱操作するようにして構成することができる。上記パワートレイン装置の構成により、車両はエンジン単独あるいは発電電動機単独で走行したり、大きな駆動力が必要なときにエンジン駆動に発電電動機の機械出力を併用して走行したりできる。さらに、エンジンの駆動や車両制動時のエネルギ回生により発電電動機で発電を行い、バッテリを充電したり車載の電気負荷に電源を供給したりできる。
【0003】
この種のハイブリッド車両用パワートレイン装置では、エンジン駆動による走行中に並行して発電を行うか否かによって、自動変速機に入力される走行トルクが変化する。すなわち、非発電時にはエンジンの出力トルクの全てが走行トルクとして自動変速機に入力され、並行発電時には出力トルクの一部が発電トルクとして発電電動機で消費され、その分だけ走行トルクが減少する。一方、従来の自動変速機の変速制御では、エンジンのスロットル開度および自動変速機の出力回転数に基づいて変速段を定めたり、変速段を変更するために油圧制御回路の油圧制御を行ったりしている。このとき、スロットル開度が一定であっても、自動変速機に入力される走行トルクは並行発電時に減少するため、車速が減少して走行性能が低下したり、変速操作時に変速ショックが生じて変速フィーリングが低下したりするおそれがある。このおそれを解消するための対策が、例えば特許文献1などに開示されている。
【0004】
特許文献1の車両用自動変速機の制御装置は、バッテリの容量が低下した際に自動変速機の変速パターンをエンジンの回転速度が増加する側へ変更する充電増加手段と、所定の走行状態が検出された場合に充電増加手段を作動させる許可手段とを備えている。これにより、車速が所定値以下である等の変速ショックが小さいと判断されるときにのみ変速パターンを変更して、発電機の発電容量を増加することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−244666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の技術に限らず、発電を考慮して自動変速機の変速パターンを変更する技術では、非発電時と異なる変速パターンを用いるため必ずしも良好な変速制御を行えるとは限らない。例えば、特許文献1の技術は、発電時に発電量を増加することに主眼を置いて非発電時よりも大きな回転数まで変速操作を行わず、また走行トルクの変化に十分な配慮をしていないため、車両の走行性能が悪化したり、自動変速機の変速ショックが発生したりする懸念がある。
【0007】
また、発電量に応じて変速パターンを変更する場合、変速制御装置は少なくとも2通りの変速パターンを予め記憶しておき、実際の変速制御時に変速パターンを使い分ける必要がある。このため、変速制御装置の記憶部に格納するデータ量が増加し、また演算処理部の演算負荷が増加して処理に時間を要するとともに、ソフトウェア自身も長大化してその格納エリアの制約が厳しくなる。したがって、従来の変速制御装置のハードウェアを使えなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、発電により自動変速機に入力される走行トルクが減少しても良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られ、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加を抑制できる自動変速機の変速制御方法および変速制御装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する請求項1に係る自動変速機の変速制御方法の発明は、エンジンと、前記エンジンからの駆動により発電可能でかつ電源部からの駆動により機械出力可能である発電電動機と、前記エンジンおよび前記発電電動機に連結される自動変速機と、前記エンジンのスロットル開度および前記自動変速機の出力回転数に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御装置とを備えたハイブリッド車両用パワートレイン装置で、前記エンジンからの駆動により車両の走行と前記発電電動機の発電とを並行して実施するときの前記自動変速機の変速制御方法であって、前記発電電動機に要求される発電電力に必要な発電トルクを演算する発電トルク演算工程と、前記エンジンの前記スロットル開度および回転数から出力トルクを演算する出力トルク演算工程と、前記出力トルクから前記発電トルクを減算して前記車両の走行に使用される走行トルクを演算する走行トルク演算工程と、前記走行トルクに基づいて補正した発電時スロットル開度を演算する発電時スロットル開度演算工程と、前記発電時スロットル開度に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記発電時スロットル開度演算工程で、前記エンジンの各スロットル開度における回転数と出力トルクとの関係に基づいて、前記エンジンの回転数、前記出力トルク、および前記走行トルクから前記発電時スロットル開度を演算することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記発電時スロットル開度演算工程で、前記走行トルクを前記出力トルクで除してトルク減少率を求め、前記エンジンの前記スロットル開度に前記トルク減少率を乗じて前記発電時スロットル開度とすることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する請求項4に係る自動変速機の変速制御装置の発明は、エンジンと、前記エンジンからの駆動により発電可能でかつ電源部からの駆動により機械出力可能である発電電動機と、前記エンジンおよび前記発電電動機に連結される自動変速機と、前記エンジンのスロットル開度および前記自動変速機の出力回転数に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御装置とを備えたハイブリッド車両用パワートレイン装置で、前記エンジンからの駆動により車両の走行と前記発電電動機の発電とを並行して実施するときの前記自動変速機の変速制御装置であって、前記発電電動機に要求される発電電力に必要な発電トルクを演算する発電トルク演算手段と、前記エンジンの前記スロットル開度および回転数から出力トルクを演算する出力トルク演算手段と、前記出力トルクから前記発電トルクを減算して前記車両の走行に使用される走行トルクを演算する走行トルク演算手段と、前記走行トルクに基づいて補正した発電時スロットル開度を演算する発電時スロットル開度演算手段と、前記発電時スロットル開度に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る自動変速機の変速制御方法では、発電トルクおよび出力トルクを演算し、出力トルクから発電トルクを減算して走行トルクを演算し、走行トルクに基づいて実際のスロットル開度よりも小さい仮想的な発電時スロットル開度を演算する。このため、発電時スロットル開度は、エンジンの出力トルクよりも小さく自動変速機に入力される正味の走行トルクに近い値を意味することになる。つまり、変速制御工程で、発電時スロットル開度および自動変速機の出力回転数に基づいて自動変速機を制御すれば正味の走行トルクを考慮したことになる。したがって、自動変速機は、非発電時に出力トルクが走行トルクに概ね一致するときと同じ変速パターンで同じ挙動を示して作動し、良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られる。
【0014】
また、本発明では、発電時および非発電時を問わず同一の変速パターンでの制御が可能であり、各工程における演算内容は従来から用いられている特性マップや特性計算式の適用ならびに四則演算程度である。したがって、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加が抑制され、従来の装置ハードウェアを踏襲できる。
【0015】
請求項2に係る発明では、予め得られているエンジンの各スロットル開度における回転数と出力トルクとの関係に基づいて発電時スロットル開度を演算するので、演算された発電時スロットル開度は自動変速機に入力される正味の走行トルクを正確に意味することになる。したがって、変速制御工程で、発電時スロットル開度および自動変速機の出力回転数に基づいて自動変速機を制御することにより、確実に良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られる。
【0016】
請求項3に係る発明では、走行トルクを出力トルクで除してトルク減少率を求め、エンジンのスロットル開度にトルク減少率を乗じて発電時スロットル開度としている。このような簡易な演算でも、正味の走行トルクを意味する発電時スロットル開度を演算できる。したがって、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加はごく軽微であり、従来の装置ハードウェアを踏襲できる。
【0017】
請求項4に係る自動変速機の変速制御装置では、請求項1の各工程を変速制御装置のソフトウェアによって実行される機能手段に置き換えることができる。つまり、本発明は装置としても実現でき、効果は請求項1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態の自動変速機の変速制御方法の対象となるハイブリッド車両用パワートレイン装置を模式的に説明する図である。
【図2】エンジンの出力トルク−回転数特性を示すグラフの図である。
【図3】自動変速機の変速パターンを説明する図である。
【図4】実施形態の自動変速機の変速制御方法を説明するフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の自動変速機の変速制御方法について、図1〜図4を参考にして説明する。図1は、実施形態の自動変速機の変速制御方法の対象となるハイブリッド車両用パワートレイン装置1を模式的に説明する図である。図1において、破線の矢印は制御の流れを示している。ハイブリッド車両用パワートレイン装置1は、回転軸心を共通にして一列に配設されるエンジン2、クラッチ3、発電電動機4、および自動変速機5と、自動変速機5の出力軸52に駆動される駆動輪6と、ハイブリッドECU7を始めとする制御装置、などにより構成されている。
【0020】
エンジン2は、一般的な4サイクルエンジンである。エンジン2は、各気筒に空気を供給するスロットルボデー、空気の供給量を調節するスロットルバルブ、およびスロットルバルブの開度すなわちスロットル開度Aを検出するスロットルセンサ22を備えている。エンジン2の出力軸21は、クラッチ3の入力側部材31に結合されている。出力軸21の近傍には、出力軸21の回転数NEを検出するエンジン回転数センサ23が設けられている。また、エンジン2の運転を制御するエンジンECU27が設けられている。エンジンECU27には、スロットルセンサ22およびエンジン回転数センサ23が接続されており、検出したスロットル開度Aおよび回転数NEの情報が取り込まれるようになっている。エンジン2の出力特性は予め得られており、例えば、図2の出力トルク−回転数特性として示される。
【0021】
図2は、エンジン2の出力トルク−回転数特性を示すグラフの図である。図中の横軸はエンジン2の回転数NE、縦軸は出力トルクTEであり、パラメータとしてスロットル開度Aを4つの段階A1〜A4(A1<A2<A3<A4)に設定している。図示されるようにスロットル開度Aが一定の条件下で、エンジンの回転数NEの増加に伴い、出力トルクTEは始めのうち増加し、次いで概ね一定値に落ち着き、やがて減少に転じる略台形状の特性を有している。また、スロットル開度AがA1からA4へと順次増加するのに伴い、出力トルクTEの台形状の特性は、出力トルクTEの大きい側にかつ回転数NEの大きい側に拡がっている。
【0022】
発電電動機4は三相同期形であり、ロータコア内に永久磁石を埋め込んだロータ41を内周側に配置し、ステータコアのティースにコイルを巻回形成したステータ42を外周側に配置して構成されている。ロータ41の中心に貫設された回転軸の一端43はクラッチ3の出力側部材32に結合され、他端44は自動変速機5の入力軸51に結合されている。ステータ42のコイルは、電源部45に電気接続されている。電源部45は、図略のインバータ装置およびバッテリなどで構成されている。また、電源部45を制御して発電電動機4の運転を制御する電動機ECU47が設けられている。電動機ECU47の制御にしたがい、発電電動機4は発電機および電動機のいずれとしても機能し得る。
【0023】
クラッチ3は多板摩擦クラッチであり、エンジン2の出力軸21と発電電動機4のロータ41との間に配設されて、両者21、41を係脱操作するものである。クラッチ3の入力側部材31および出力側部材32の係脱操作を油圧により行うために、電動オイルポンプ33が設けられている。電動オイルポンプ33は、電動機ECU47に制御されるようになっている。クラッチ3は、油圧が供給されない常態で係合するノーマルクローズタイプとなっている。
【0024】
クラッチ3を係合させたとき、発電電動機4の動作状態により次の3ケースの走行モードが派生する。すなわち、発電電動機4が停止していればエンジン2単独の走行モードとなり、発電電動機4が電動機として機能していれば併用の走行モードとなり、発電電動機4が発電機として機能していれば発電並行走行モードとなる。また、クラッチ3を切ったとき、発電電動機4単独の走行モードあるいは、惰性走行モードまたは制動時回生走行モードのいずれかとなる。本発明は、クラッチ3を係合し発電電動機4を発電機として機能させた発電並行走行モードを対象としている。
【0025】
自動変速機5は、複数組の遊星歯車装置、遊星歯車装置の回転要素を連結操作するクラッチ、遊星歯車装置の回転要素を制動操作するブレーキ、などにより構成されている。各クラッチおよび各ブレーキを油圧により係脱操作するために、油圧制御回路55が設けられている。自動変速機5の入力軸51は、モータ4の回転軸の他端44に直接あるいはトルクコンバータを介して結合され、出力軸52は駆動輪6まで連結されている。出力軸52の近傍には、出力軸52の出力回転数NOを検出する出力回転数センサ53が設けられている。また、油圧制御回路55を制御して変速機5の変速動作を制御する変速機ECU57が設けられている。変速機ECU57には、出力回転数センサ53が接続されており、検出した出力回転数NOの情報が取り込まれるようになっている。自動変速機5の変速パターンは予め定められており、前進1速から4速を有する場合の例が図3に示されている。
【0026】
図3は、自動変速機5の変速パターンを説明する図である。図中の横軸は自動変速機5の出力回転数NO、縦軸はエンジン2のスロットル開度Aであり、シフトアップ変速パターンL12(1速から2速への変速、以下同様)、L23、L34が実線で示され、シフトダウン変速パターンL43、L32、L21が破線で示されている。図3は、発電電動機4による発電が行われないエンジン2単独の走行モードにおいて良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られ、かつ燃費も良好となるように定められたものである。
【0027】
走行中の車両では、出力回転数NO1およびスロットル開度A1の値に対応して、図3上に走行動作点P1(NO1、A1)をプロットすることができる。そして、走行動作点P1が図中の左方からシフトアップ変速パターン、例えばL34のライン上に到達すると、変速機ECU57は自動変速機5を3速から4速に変速制御する。また、走行動作点P1が図中の右方からシフトダウン変速パターン、例えばL32のライン上に到達すると、変速機ECU57は自動変速機5を3速から2速に変速制御する。
【0028】
ハイブリッドECU7は、パワートレイン装置1全体の運転を制御する制御装置であり、エンジンECU27、電動機ECU47、および変速機ECU57の上位装置となっている。すなわち、ハイブリッドECU7は、エンジンECU27、電動機ECU47、および変速機ECU57に対して指令を発するとともに、相互に必要となる情報を受け渡している。4つのECU7、27、47、57はそれぞれ、コンピュータを内蔵してソフトウェアで動作する電子制御装置である。実施形態の自動変速機の変速制御方法は、変速機ECU57を中心とし、他の3つのECU7、27、47の協働制御によって実施される。したがって、以降の説明ではこれらを区別せずに、まとめて変速制御装置と呼称する。図2のトルク−回転数特性および図3の変速パターンは、変速制御装置内に一覧表形式の特性マップや特性計算式の形態で記憶されて適宜利用される。
【0029】
なお、ハイブリッド車両用パワートレイン装置1は、上述の3つのセンサ22、23、53と電動オイルポンプ43および油圧制御回路55の他に様々なセンサやアクチュエータを有しているが、本発明との関連性が低いので説明は省略する。
【0030】
次に、実施形態の自動変速機の変速制御方法について説明する。図4は、実施形態の自動変速機の変速制御方法を説明するフローチャートの図である。図中のS1〜S9は、変速制御装置が行う制御の各工程を示している。また、工程S5が発電トルク演算工程、工程S6が出力トルク演算工程、工程S7が走行トルク演算工程、工程S8が発電時スロットル開度演算工程、工程S9が変速制御工程にそれぞれ対応している。
【0031】
図4の工程S1で、変速制御装置は、エンジン2の駆動による走行中に発電電動機4で発電が行われているか否か判定する。条件が満たされないとき工程S2に進み、スロットルセンサ22からスロットル開度A1の情報を取り込み、出力回転数センサ53から出力回転数NO1の情報を取り込む。次に、工程S3のエンジン単独走行時変速制御で、図3上の走行動作点P1(NO1、A1)を求め、変速パターンL12、L23、L34、L43、L32、L21と照合して必要な変速制御を行う。
【0032】
工程S1で条件が満たされたときには工程S4に進み、エンジン回転数センサ23から回転数NEの情報を取り込み、スロットルセンサ22からスロットル開度Aの情報を取り込み、出力回転数センサ53から出力回転数NOの情報を取り込む。次に、発電トルク演算工程S5で、次式により発電トルクTGを演算する。
【0033】
発電トルクTG=W/(2×π×NE×η)
ここで、Wは発電電動機4に要求される発電電力であり、電源部45のバッテリの状態および車載の電気負荷の稼働状況を参考にして電動機ECU47が設定する量である。また、πは円周率、ηは発電電動機4の回転数NEにおける機械入力から電気出力への変換効率である。
【0034】
次の出力トルク演算工程S6では、エンジンの回転数NEおよびスロットル開度Aの値を図2に適用し、エンジン2の出力トルクTEを読み取る。図2には、エンジンの回転数NE=NE2、スロットル開度A=A2のときに得られる出力トルクTE2が例示されている。次の走行トルク演算工程S7では、次式により走行トルクTDを演算する。
【0035】
走行トルクTD=TE−TG
上式のTEは出力トルク演算工程S6で得られ、TGは発電トルク演算工程S5で得られた値である。図2には、出力トルクTE=TE2、発電トルクTG=TG2のときの走行トルクTD2が例示されている。
【0036】
次の発電時スロットル開度演算工程S8では、変速制御装置は、走行トルクTDがエンジン2の出力トルクTEに相当するものと判断し、図2からスロットル開度Aを読み取り、前記走行トルクTDに基づき補正した発電時スロットル開度AGを演算する。図2には、走行トルクTD=TD2のときに得られる仮想的な発電時スロットル開度AG2が例示されている。
【0037】
最後の変速制御工程S9では、発電並行走行モードにおける変速制御を実施する。まず、出力回転数NOおよび発電時スロットル開度AGの値に対応して、図3上に走行動作点PG(NO、AG)をプロットする。次に、走行動作点PGを変速パターンL12、L23、L34、L43、L32、L21と照合して必要な変速制御を行う。図3には、出力回転数NO=NO2で発電時スロットル開度AG2のときの実施形態の走行動作点PG2(NO2、AG2)と、出力回転数NO=NO2でスロットル開度A2のときの従来技術の走行動作点P2(NO2、A2)とが例示されている。
【0038】
図示されるように、本実施形態の走行動作点PG2はシフトアップ変速パターンL12のライン上に達しており、変速制御装置は自動変速機5を1速から2速に変速制御する。一方、従来技術の走行動作点P2は1速の領域内にあるため、従来技術によれば変速制御は行われず、車両走行性能は低下する。
【0039】
なお、図2および図3を用いて説明した図式的な演算は、実際には変速制御装置内で特性マップ内の該当するデータを検索したり、特性計算式内の未知数を解いたり、得られた量を基準量と大小比較したりすることによって実行される。
【0040】
次に、上述の実施形態の自動変速機の変速制御方法の効果について説明する。前述したように、図3の走行動作点PG2(NO2、AG2)で1速から2速への変速制御が行われ、このとき自動変速機5に入力される走行トルクTD=TD2である。この走行トルクTD2は、図2をみればわかるように非発電時にスロットル開度A=AG2でエンジン2から出力されて自動変速機5に入力される出力トルクTEに一致している。つまり、発電時に小さい側に補正した発電時スロットル開度AGを用いることで、自動変速機5に入力される正味の走行トルクを非発電時と同じにできる。したがって、変速制御工程で、自動変速機5は非発電時と同じ変速パターンで同じ挙動を示して作動し、良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られる。
【0041】
また、本実施形態では、発電時および非発電時を問わず図3に示される同一の変速パターンでの制御が可能であり、各工程S1〜S9における演算内容は従来から用いられている特性マップや特性計算式の適用ならびに四則演算程度である。したがって、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加が抑制され、従来の装置ハードウェアを踏襲できる。
【0042】
なお、発電時スロットル開度演算工程S8で、次式により発電時スロットル開度AGを演算してもよい。
【0043】
発電時スロットル開度AG=A×(TD/TE)
ここで、走行トルクTDを出力トルクTEで除した値はトルク減少率であり、これをスロットル開度Aに乗じて発電時スロットル開度AGとしてもよい。このような簡易な演算でも、正味の走行トルクを意味する発電時スロットル開度AGを演算できる。したがって、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加はごく軽微であり、従来の装置ハードウェアを踏襲できる。
【0044】
また、自動変速機5の出力軸52で検出している出力回転数NOは、より駆動輪に近い位置で検出する車両走行速度に置き換えてもよい。その他、本発明は様々な応用、変形が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1:ハイブリッド車両用パワートレイン装置
2:エンジン
21:出力軸 22スロットルセンサ 23:エンジン回転数センサ
3:クラッチ
31:入力側部材 32:出力側部材 33:電動オイルポンプ
4:発電電動機
41:ロータ 42:ステータ 43:回転軸の一端
44:回転軸の他端 45:電源部 47:電動機ECU
5:自動変速機
51:入力軸 52:出力軸 53:出力回転数センサ
55:油圧制御回路 57:変速機ECU
6:駆動輪
7:ハイブリッドECU
A、A1〜A4:エンジンのスロットル開度 AG2:発電時スロットル開度
NE:エンジンの回転数 NO:自動変速機の出力回転数
L12、L23、L34:シフトアップ変速パターン
L43、L32、L21:シフトダウン変速パターン
TE、TE2:エンジンの出力トルク
TG2:発電トルク TD2:走行トルク
P1、P2、PG2:走行動作点
S5:発電トルク演算工程 S6:出力トルク演算工程
S7:走行トルク演算工程 S8:発電時スロットル開度演算工程
S9:変速制御工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンからの駆動により発電可能でかつ電源部からの駆動により機械出力可能である発電電動機と、前記エンジンおよび前記発電電動機に連結される自動変速機と、前記エンジンのスロットル開度および前記自動変速機の出力回転数に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御装置とを備えたハイブリッド車両用パワートレイン装置で、前記エンジンからの駆動により車両の走行と前記発電電動機の発電とを並行して実施するときの前記自動変速機の変速制御方法であって、
前記発電電動機に要求される発電電力に必要な発電トルクを演算する発電トルク演算工程と、
前記エンジンの前記スロットル開度および回転数から出力トルクを演算する出力トルク演算工程と、
前記出力トルクから前記発電トルクを減算して前記車両の走行に使用される走行トルクを演算する走行トルク演算工程と、
前記走行トルクに基づいて補正した発電時スロットル開度を演算する発電時スロットル開度演算工程と、
前記発電時スロットル開度に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御工程と、を有することを特徴とする自動変速機の変速制御方法。
【請求項2】
請求項1において、前記発電時スロットル開度演算工程で、前記エンジンの各スロットル開度における回転数と出力トルクとの関係に基づいて、前記エンジンの回転数、前記出力トルク、および前記走行トルクから前記発電時スロットル開度を演算することを特徴とする自動変速機の変速制御方法。
【請求項3】
請求項1において、前記発電時スロットル開度演算工程で、前記走行トルクを前記出力トルクで除してトルク減少率を求め、前記エンジンの前記スロットル開度に前記トルク減少率を乗じて前記発電時スロットル開度とすることを特徴とする自動変速機の変速制御方法。
【請求項4】
エンジンと、前記エンジンからの駆動により発電可能でかつ電源部からの駆動により機械出力可能である発電電動機と、前記エンジンおよび前記発電電動機に連結される自動変速機と、前記エンジンのスロットル開度および前記自動変速機の出力回転数に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御装置とを備えたハイブリッド車両用パワートレイン装置で、前記エンジンからの駆動により車両の走行と前記発電電動機の発電とを並行して実施するときの前記自動変速機の変速制御装置であって、
前記発電電動機に要求される発電電力に必要な発電トルクを演算する発電トルク演算手段と、
前記エンジンの前記スロットル開度および回転数から出力トルクを演算する出力トルク演算手段と、
前記出力トルクから前記発電トルクを減算して前記車両の走行に使用される走行トルクを演算する走行トルク演算手段と、
前記走行トルクに基づいて補正した発電時スロットル開度を演算する発電時スロットル開度演算手段と、
前記発電時スロットル開度に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御手段と、を有することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−61883(P2012−61883A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205627(P2010−205627)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】