説明

自動車の前部構造

【課題】タイヤとサイドシルとの間の前後間隔が狭い場合でも、タイヤに入力された衝撃荷重を後方の車体に伝達、分散させることができる自動車の前部構造を提供する。
【解決手段】フロントタイヤWの後方に設けられたフロントヒンジピラー3と、該フロントヒンジピラー3の上部から前方に延びるエプロンレインフォースメント4と、前記フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部近傍に、これらの部材3,4の少なくとも一方に連結された状態で移動可能に設けられた移動部材70と、略車体前方から衝撃荷重が入力されたときに、前記移動部材70を、前記フロントタイヤWの後部に近接する位置に移動させ、この移動位置で保持する移動保持手段71とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体前部の衝撃吸収構造に関し、車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体前部へ前突等により衝撃荷重が入力されたときに、この荷重を、車体前部において車体前後方向に延びるフロントサイドフレームの軸方向クラッシュにより吸収可能に構成する場合があるが。この衝撃吸収能力を上げようとすると、フロントサイドフレームの断面積やクラシュストロークを増大させる必要があり、いずれの場合においても車体の大型化が生じる。
【0003】
このような車体の大型化を回避しつつ、衝撃吸収能力の増大を図ったものとして、例えば、特許文献1には、前突時には車体前端部が後退してフロントタイヤの前部に当接すると共に該タイヤもこれに伴って後退することに着目し、フロントタイヤ後方の車体を構成するサイドシルの前端部に、該前端部からホイールハウスの後部内面に沿って上方に延びるプレート部材を取付けて、フロントタイヤが後退したときに該タイヤの後部とプレート部材とが当接するように構成し、これにより、車体前端部に入力された衝撃荷重を、フロントタイヤ及びプレート部材を介してサイドシルに伝達、分散させるようにしたものが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平06−16154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車体の形状等によっては前記タイヤとサイドシルとの間の前後間隔がプレート部材を設けるには不十分な場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、前記タイヤとサイドシルとの間の前後間隔が狭い場合でも、タイヤに入力された衝撃荷重を後方の車体に伝達、分散させることができる自動車の前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0008】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、フロントタイヤの後方に設けられたフロントヒンジピラーと、該フロントヒンジピラーの上部から前方に延びるエプロンレインフォースメントと、前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの接続部近傍に、これらの部材の少なくとも一方に連結された状態で移動可能に設けられた移動部材と、略車体前方から衝撃荷重が入力されたときに、前記移動部材を、前記フロントタイヤの後部に近接する位置に移動させ、この移動位置で保持する移動保持手段とが設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の自動車の前部構造において、前記タイヤの後方上方において前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとを筋交い状に連結する連結部材が設けられており、前記移動部材は、該連結部材に移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の自動車の前部構造において、前記移動部材は、前記フロントヒンジピラーに連結された状態で移動可能に設けられており、前記移動保持手段は、前記移動部材を、前記フロントヒンジピラーの前部と前記タイヤの後部との間に向けて移動させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の自動車の前部構造において、前記移動保持手段は、前記移動部材を、前記タイヤの後部へ向けて前方下方に移動させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の自動車の前部構造において、前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの接続部近傍と、前記連結部材の長手方向略中間部分とを連結する補強部材が設けられており、前記移動保持手段は、前記移動部材を、該補強部材に沿って前方下方に移動させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の自動車の前部構造において、前記フロントヒンジピラーの上端部から後方上方にフロントピラーが延びており、前記補強部材は、前記フロントピラーの延長線上に概ね位置するように配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の自動車の前部構造において、前記フロントタイヤの車幅方向内方で車体前後方向に延びるフロントサイドフレームが設けられていると共に、該フロントサイドフレームに、車体前方からの衝撃荷重の入力時に該フレームを車外側に向けて折曲させる折曲予定部が設けられており、かつ、該折曲予定部は、フロントサイドフレームが車外側に折曲したときに、該フレームが前記フロントタイヤ用のサスペンションのダンパに前方から当接するように、該ダンパよりも前方に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について説明する。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの接続部近傍にこれらの部材の少なくとも一方に連結された状態で移動可能に設けられた移動部材が、車体への衝撃荷重の入力時にフロントタイヤの後部に近接する位置に移動するから、フロントタイヤが後退するときに移動部材に当接することとなる。
【0017】
したがって、前突時に車体前端部側からフロントタイヤに入力された衝撃荷重は、移動部材を介して、前記エプロンレインフォースメントとフロントヒンジピラーとの少なくとも一方の部材に伝達される。なお、エプロンレインフォースメントとフロントヒンジピラーとは接続されているので、他方の部材にも衝撃荷重は分散される。そして、これらの部材を介して、その後方の車体(例えばフロントピラーやサイドシル)にも伝達、分散されることとなる。なお、以下適宜、この後方の車体を含めてエプロンレインフォースメント、フロントヒンジピラー等という。
【0018】
このように、本発明によれば、前記フロントタイヤとその後方の例えばサイドシルとの間の前後間隔が狭い場合でも、フロントタイヤに入力された荷重を、該タイヤ後方等の車体に伝達、分散させることができる。また、移動部材が設けられていない場合よりも早く、該荷重を、後方の車体に伝達、分散させることができる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記タイヤの後方上方において前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとを筋交い状に連結する連結部材が設けられており、前記移動部材は、該連結部材に移動可能に設けられているから、タイヤとの移動部材との当接により移動部材に入力された衝撃荷重は、連結部材を介して前記フロントヒンジピラー及びエプロンレインフォースメントに伝達、分散されることとなる。その場合に、連結部材は、剛性が通常高いフロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの間に設けられているから、後方上方に移動しようとするフロントタイヤが移動部材を介して該連結部材により確実に受け止められることとなる。
【0020】
また、連結部材が設けられていることにより、車体前部の通常時の車体剛性が向上して走行安定性等が向上すると共に、前突時における車体前部の衝突耐力が向上するという効果も得られる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記移動部材は、前記フロントヒンジピラーに連結された状態で移動可能に設けられており、前記移動保持手段は、前記移動部材を、前記フロントヒンジピラーの前部と前記タイヤの後部との間に向けて移動させるから、移動部材を介して前記フロントヒンジピラーに早期に衝突荷重を伝達、分散させることができる。
【0022】
ここで、フロントタイヤの後退時には、左右のタイヤが、後退するにつれて平面視でハの字状(後方が広くなる)に傾いていく場合があるが、本発明では、前記フロントヒンジピラーの前部と前記タイヤの後部との間に移動部材が移動し、タイヤが後退し始めると早期に移動部材に当接することとなるので、タイヤの後部側が移動部材により拘束され、左右のタイヤが前述のようにハの字状に開くのが抑制されることとなる。したがって、タイヤから移動部材を介してその後方の車体へ衝撃荷重が良好に伝達されることとなる。
【0023】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記移動保持手段は、前記移動部材を、前記タイヤの後部へ向けて前方下方に移動させるから、後方上方に移動しようとするタイヤからの衝撃荷重を効果的に受けることができる。
【0024】
ここで、フロントタイヤの後退時には、前述のように左右のタイヤが、平面視でハの字状(後方が広くなる)に傾く場合があり、この場合、タイヤの後部がフロントヒンジピラーの前部に正面から当接しにくくなるが、本発明では、タイヤの後部と移動部材とが前突後早期に当接することにより、タイヤの後部側が移動部材により拘束されて、左右のタイヤが前述のようにハの字状に開くのが抑制されることとなる。したがって、左右のタイヤの後部がフロントヒンジピラーに良好に当接することとなり、タイヤからフロントヒンジピラーへの衝撃荷重の伝達が良好に行われることとなる。
【0025】
また、請求項5に記載の発明によれば、前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの接続部近傍と、前記連結部材の長手方向略中間部分とを連結する補強部材が設けられているから、衝撃荷重が、この補強部材をも介してフロントヒンジピラーやエプロンレインフォースメント等に伝達、分散されることとなる。
【0026】
また、この補強部材を利用して前記移動部材を前方下方に移動させることができる。
【0027】
また、請求項6に記載の発明によれば、前記補強部材は前記フロントピラーの延長線上に概ね位置するように配置されているから、補強部材に入力された荷重がフロントピラーにも効率的に伝達、分散されることとなる。
【0028】
また、請求項7に記載の発明においては、前記フロントタイヤの車幅方向内方で車体前後方向に延びるフロントサイドフレームに、車体前方からの衝撃荷重の作用時に該フレームを車外側に向けて折曲させる折曲予定部が設けられており、かつ、該折曲予定部は、フロントサイドフレームが車外側に折曲したときに、該フレームが前記サスペンションのダンパに前方から当接するように、該ダンパよりも前方に設けられている。この場合、ダンパにフロントサイドフレームが当接すると、フロントサイドフレームからダンパを介してフロントタイヤに車体前方からの大きな衝撃荷重が入力されることとなるが、本発明によれば、この大きな荷重を、前記移動部材を介してフロントヒンジピラーやエプロンレインフォースメント等に効果的に伝達、分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車の前部構造について説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態に係る自動車1の車体前部には、エンジンが収容されるエンジンルームZ1と乗員が搭乗する車室Z2とを仕切るダッシュパネル2が設けられている。
【0031】
ダッシュパネル2の左右両端部にはそれぞれ、上下方向に延び、フロントドア(図示せず)を枢支するフロントヒンジピラー3(一方のみ図示されている)が設けられている。フロントヒンジピラー3は、上下に延びる閉断面構造とされている。
【0032】
左右のヒンジピラー3の上端部側から前方に左右一対のエプロンレインフォースメント4,4が延びている。
【0033】
エプロンレインフォースメント4,4に対して平面視でほぼ平行に、かつ車幅方向内方に離間した位置で、左右一対のフロントサイドフレーム5,5が車体前後方向に延びている。
【0034】
車幅方向でエプロンレインフォースメント4とフロントサイドフレーム5との間には、フロントタイヤ用のホイールハウス6が設けられている。
【0035】
フロントサイドフレーム5及びエプロンレインフォースメント4の前端部には、これらに跨って平板状のプレート7が取り付けられている。左右のプレート7,7間には、クラッシュカン8,8を介して、車幅方向に延びるバンパレインフォースメント9が取り付けられている。クラッシュカン8,8は、車体前後方向の衝撃荷重が入力されたときに車体前後方向に圧縮変形するように構成されている。
【0036】
ダッシュパネル2の下部は、後方へ湾曲して、下端部がフロアパネル10の前端部に接合されている。ダッシュパネル2の下部及びフロアパネル10には、車幅方向ほぼ中央において前後方向に延び、かつ上方へ膨出するトンネル部11が設けられている。
【0037】
フロントサイドフレーム5の後部側は、ホイールハウス6の側方において下方に湾曲していると共に、後端部が、フロアパネル10の下面側で車体前後方向に延びるフロアフレーム12の前端部に接続されている。フロアフレーム12は、断面ハット状の形状をしており、フロアパネル10とで車体前後方向に延びる閉断面を形成している。
【0038】
フロントヒンジピラー3の下端部から後方にサイドシル13が延びている。サイドシル13は、車体前後方向に延びる閉断面構造とされている。
【0039】
フロントヒンジピラー3の上端部から後方上方にフロントピラー17が延びている。フロントピラー17は、後方上方に延びる閉断面構造とされている。
【0040】
ダッシュパネル2の下部側及び上部側には、左右のフロントヒンジピラー3,3を連結すると共に、該パネル2とで車幅方向に延びる閉断面を形成するロアダッシュクロスメンバ14、及びアッパダッシュクロスメンバ(図示せず)が設けられている。
【0041】
ホイールハウス6は、エプロンパネル19の後部側をアーチ状に上方に膨出させることにより形成されている。エプロンパネル19は、車幅方向外端側がエプロンレインフォースメント4に接合され、車幅方向内端部がフロントサイドフレーム5に接合されている。ホイールハウス6の上部には、エプロンパネル19をタワー状に上方に膨出させることにより、サスペンションタワー部6aが形成されている。
【0042】
ダッシュパネル2の上部には、車幅方向に延びるカウル部40が設けられている。
【0043】
次に、図2、図3を用いて、前記フロントタイヤ30用のフロントサスペンション30及びその取付構造について説明する。フロントサイドフレーム5の下方には、サスペンション支持フレーム20が設けられている。このサスペンション支持フレーム20は、平面視略矩形の枠状形状をしており、その左右の側辺部20a,20aが、フロントサイドフレーム5,5の略下方で前後に延びている。そして、左右の側辺部20a,20aの前端側がフロントサイドフレーム5,5の前端部近傍の下部に、前後方向中間よりも後方側がフロントサイドフレーム5,5の湾曲部5a,5aの下部に、後端側がフロアパネル10の前端側に設けられたクロスメンバ(図示せず)に、ブラケットやマウントラバー等を介して取り付けられている。
【0044】
フロントサスペンション30は、ダブルウィッシュボーン式のものであり、フロントタイヤWを回転自在に支持するホイールサポート31(図2では省略している)と、上下に離間して配置されたアッパアーム32及びロアアーム33と、緩衝装置34とを有している。
【0045】
エプロンパネル19におけるサスペンションタワー部6a部分の反エンジンルームZ1側の面には、サスペンション支持部材37,38が取り付けられている。
【0046】
アッパアーム32は、A型形状をしており、車幅方向内端部32a,32aが、ブラケット37,38に支持された車体前後方向に延びる軸部材32A,32Aを中心として回動可能に取り付けられている。一方、車幅方向外端部32b,32bは、ホイールサポート31に形成された上方延設部31aの上端部にボールジョイントを介して取り付けられている。
【0047】
ロアアーム33は、アッパアーム32同様、A型形状をしており、車幅方向内端部33a,33aが、サスペンション支持フレーム20の側辺部20a,20aに設けられた支持壁に、車体前後方向に延びる軸部材33A,33Aを中心として回動可能に取り付けられている。一方、車幅方向外端部33b,33bは、ホイールサポート31に形成された下方延長部31bの下端部にボールジョイントを介して取り付けられている。
【0048】
緩衝装置34は、ダンパ35と、コイルスプリング36とを有している。ダンパ35は、上端部がサスペンションタワー部6aのトップ部6a′に固定され、下端部がロアアーム33の車幅方向中間部に、車体前後方向に延びる軸部材35Aを中心として揺動可能に取り付けられている。コイルスプリング36は、ダンパ35に伸縮可能に取り付けられている。
【0049】
サスペンションタワー部6aのトップ部6a′の上面には、緩衝装置34の取付部を補強するサスペンション取付部補強部材23が設けられている。
【0050】
次に、フロントヒンジピラー3、エプロンレインフォースメント4、フロントサイドフレーム5の構造について順次説明する。
【0051】
フロントヒンジピラー3は、図4に示すように、車幅方向外側に膨出する外側部材31と、車幅方向内側に膨出する内側部材32とを接続することにより、上下方向に延びる閉断面構造体として構成されている。なお、フロントピラー17は、フロントヒンジピラー3とほぼ同様の構造とされている。
【0052】
エプロンレインフォースメント4は、図1、図2からわかるように、サスペンションタワー部6aよりも前方の部分4Aと、後方部分4Bとで構成されている。前方部分4A及び後方部分4Bは車体前後方向に連続的に延びる閉断面構造とされている。
【0053】
例えば後方部分4Bは、図3に示すように、ホイールハウス6の上部の外側面を構成するエプロンアウタパネル41と、車幅方向外側に膨出する断面ハット状のエプロンレイン部材42とで、車体前後方向に延びる閉断面を構成している。また、後方部分4Bは、車体前方からの衝撃荷重に対する耐荷重が前方部分4Aよりも大きくされている。
【0054】
フロントサイドフレーム5は、図3からわかるように、車幅方向外側に膨出する断面ハット状の外側部材51と、車幅方向内側に膨出する断面ハット状の内側部材52とを接合することにより、車体前後方向に延びる断面略矩形の中空閉断面体として構成されている。
【0055】
なお、フロントサイドフレーム5は、図1、図2からわかるように、サスペンションタワー部6aよりも前方の部分5Aと、後方の部分5Bとで構成されていいる。前方部分5Aと後方部分5Bとは、異なる素材が用いられており、例えば、前方部分5Aは、通常運転時における所要の剛性を保ちつつ、衝撃荷重が入力されたときには蛇腹状に圧縮変形可能なように、例えばハイテンション材等の素材を用いて形成されている。一方。後方部分5Bは、例えば、素材の厚みを厚くすることで、車体前方からの衝撃荷重に対する耐荷重が前方部分5Aよりも大きくなるように構成されており、圧縮変形が生じにくくなっている。
【0056】
また、前方部分5Aの外側部材51及び内側部材52にはそれぞれ、車体前後方向に延びる凹状のビード5e,5fが形成されている。ここで、このビード5e,5fは、フロントサイドフレーム5の前方部分5Aの車体前後方向の圧縮変形時における衝撃エネルギーの吸収量を多くするために設けられている。
【0057】
また、図2からわかるように、前記ビード5e,5fの後端位置は、車幅方向内側のビード5fの方が後方に位置している。したがって、フロントサイドフレーム5は、車体前方から衝撃荷重が作用したときに、この部位の内外の剛性差により、その後方部分が車幅方向外側に折曲しやすくなっている。すなわち、フロントサイドフレーム5に、前方部分5Aの後端近傍において折曲予定部T1が構成される。
【0058】
また、図1、図2からわかるように、フロントサイドフレーム5の後方部分5Bの車幅方向内側の側面部5b(以下、適宜、この車幅方向内側の側面部5bを内側面部5b、車幅方向外側の側面部5aを外側面部5aという。)には、サスペンションタワー部6aの側方において、上下方向に延びるビード5gが形成されている。このビード5gは、図5(a)からわかるように、車幅方向外方に凹んでおり、車体前方から衝撃荷重がフロントサイドフレーム5に加わったときに、ビード5gを起点として車幅方向外側に突出するように折れ曲がるようになっている。すなわち、ビード5gにより折曲予定部T2が構成される。折曲予定部T2は、フロントサイドフレーム5が車外側に折曲したときに、フロントサスペンション30のダンパ35に前方から当接するように、該ダンパ35よりも所定量前方の位置に設けられている。
【0059】
また、図2からわかるように、フロントサイドフレーム5の車幅方向外側の側面部5aには、湾曲部5wの途中において、上下方向に延びるビード5hが形成されている。このビード5hは、図5(b)からわかるように、車幅方向内方に凹んでおり、後述するように車体前方から衝撃荷重がフロントサイドフレーム5に加わったときに、このビード5hを起点として、その前方部分が車幅方向外側に折れ曲がるようになっている。すなわち、ビード5hにより折曲予定部T3が構成される。
【0060】
また、図1、図3からわかるように、フロントサイドフレーム5の湾曲部5wの内側面部5bと、前記ロアダッシュクロスメンバ14におけるフロントサイドフレーム5との接続部近傍部分との間には、筋交い状の補強部材18が設けられている。この補強部材18は、フロントサイドフレーム5の折曲時に、該フレーム5の折曲予定部T3近傍部分が車幅方向内方に変位するのを抑制するために設けられている。なお、前方の折曲予定部T1側においては、左右のフロントサイドフレーム5,5間に、エンジンが配設されていると共に、該フレーム5における折曲予定部T1近傍部分にエンジンが固定されており、これにより、該フレーム5の折曲予定部T1近傍部分が車幅方向内方に変位するのが抑制される。
【0061】
ここで、本実施の形態においては、図1〜図3からわかるように、前記フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部近傍に、移動部材70と、略車体前方から衝撃荷重が入力されたときに、該移動部材70を下方に移動させる移動保持機構71とが備えられている。
【0062】
この移動保持機構71は、図6に示すように、これらの部材3,4にボルト固定(図示せず)されたケース72と、フロントヒンジピラー3の前部に沿って上下方向に延び、前記移動部材70を上下方向に移動可能に支持するレール73と、ケース72の上面に取り付けられ、下面にガス噴出口が形成されたガス発生装置74と、該ガス発生装置74の下面に取り付けられ、ガス噴出口から噴出するガスにより下方に伸長可能な蛇腹袋状の蛇腹部材75とを有している。
【0063】
レール73は、図3や図7からわかるように、前面73aに上下方向に形成されたスリット73bを有する水平断面略C字状の部材である。
【0064】
移動部材70は、図6、図7からわかるように、例えば水平断面が略矩形の中空箱状の本体部70aと、該本体部70aの後面に取り付けられ、ローラ76,76を支持するローラ支持部70bとを有している。ローラ支持部70bは、前記レール73のスリット73bを介してレール73内の空間に嵌り、ローラ76,76はレールの前面73bと後面73cとの間に嵌り、これにより、移動部材70が、レール73に沿って滑らかに移動可能なようになっている。
【0065】
レール73には、図2に示すように、スリット73bの下端部を閉じることにより、移動部材70のそれ以上の下方移動を阻止する(すなわち移動位置で保持する)ストッパ部73dが形成されている。
【0066】
ケース72の下面側は、前記移動部材70が下方へ移動可能なように開放されているが、該ケース72の側面の下端には係止部72aが設けられ、これにより、前記移動部材70がケース72内に収容した状態で保持されるようになっている。ここで、係止部72aは、車両運転時における通常振動では係止が解除されないが、前記ガス発生装置74から発生した蛇腹部材75が下方に展開するときの圧力により係止が解除される程度の剛性に設定されている。
【0067】
また、移動保持機構71は、車体への衝撃荷重の入力を検出するGセンサ77と、該Gセンサ77の出力信号が入力されたときに、前記ガス発生装置74にガス発生信号を出力するECU78とを有している。
【0068】
次に、本実施の形態に係る自動車の前後構造による作用、効果について説明する。
【0069】
すなわち、例えば自動車1と障害物Mとの前突等が生じて、バンパレインフォースメント9に前方から衝撃荷重が入力されると、クラッシュカン8,8を介してフロントサイドフレーム5,5に衝撃荷重が入力される。
【0070】
そうすると、クラッシュカン8,8は、図8に示すように、車体前後方向に圧縮変形する。また、フロントサイドフレーム5は、前方部分5Aにおいて車体前後方向に圧縮変形すると共に、後方部分5Bにおいて各折曲予定部T1,T2,T3で車幅方向に折曲することとなる。詳しくは、フロントサイドフレーム5における折曲予定部T1とT3との間において、折曲予定部T2(前後位置P3)が車幅方向外側に突出するように折曲する。そして、この圧縮変形及び折曲により、衝撃荷重の一部が吸収される。
【0071】
その場合に、折曲予定部T2は、サスペンション30のダンパ35よりも所定量前方に位置しているから、フロントサイドフレーム5における折曲予定部T2とT3との間の部分が、ダンパ35に前方から当接することとなる。
【0072】
したがって、ダンパ35(特に下部側)が、当接したフロントサイドフレーム5によって後方に押されて後方に移動する、すなわちタイヤWが後方に移動することとなる。
【0073】
ここで、本実施の形態においては、前突によりGセンサ77で車体への衝撃荷重の入力が検出されると、ガス発生装置74からガスが発生する。そして、このガスが蛇腹部材75の空間内に流入して、該蛇腹部材75が下方へ展開する。また、このとき、蛇腹部材75の展開圧力により係止部72aが変形して、前記移動部材70に対する係止が解除され、該移動部材70がレール73に沿って、レール73のストッパ部73bに当接するまで下方に移動する。
【0074】
そして、前述のようにフロントタイヤWが後方に移動してくると、該フロントタイヤWの後部と移動部材70がと当接することとなる。
【0075】
したがって、フロントサイドフレーム5を介してタイヤWに入力された衝撃荷重は、移動部材70及びレール73を介してフロントヒンジピラー3に伝達される。また、該ヒンジピラー3を介して、エプロンレインフォースメント4や、サイドシル13や、フロントピラー17に伝達されることとなる。
【0076】
このように、本実施の形態によれば、フロントタイヤWの後部とフロントヒンジピラー3の前端部との間の空間(フロントタイヤWの後部とサイドシル13の前端部との間の空間)が狭い場合でも、フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部近傍の空間を利用して、移動部材70及び移動保持機構71を配設することができ、フロントタイヤWに入力された荷重を、該タイヤW後方のフロントヒンジピラー3等の後方の車体に伝達、分散させることができる。また、移動部材70が設けられていない場合よりも早く、該荷重を、後方の車体に伝達、分散させることができる。
【0077】
ここで、フロントタイヤWの後退時には、左右のタイヤW,Wが、後退するにつれて平面視でハの字状(後方が広くなる)に傾いていく場合があるが、本実施の形態では、タイヤWが後退し始めると早期に移動部材70に当接するので、タイヤWの後部側が移動部材70により拘束され、左右のタイヤW,Wが前述のようにハの字状に開くのが抑制されることとなる。したがって、タイヤWから移動部材70を介してその後方のフロントヒンジピラー3等へ衝撃荷重が良好に伝達されることとなる。
【0078】
また、本実施の形態においては、前述のようにフロントサイドフレーム5に折曲予定部T2が設けられており、かつ、該折曲予定部T2は、フロントサイドフレーム5が車外側に折曲したときに、該フレーム5がサスペンション30のダンパ35に前方から当接するように設けられており、この場合、ダンパ35にフロントサイドフレーム5が当接すると、フロントサイドフレーム5からダンパ35を介してフロントタイヤWに車体前方からの大きな衝撃荷重が入力されることとなるが、本発明によれば、この大きな荷重を、前記移動部材70を介してフロントヒンジピラー3等に効果的に伝達、分散させることができる。
【0079】
また、本実施の形態においては、フロントヒンジピラー3の前部にレール73が設けられているので、フロントヒンジピラー3の剛性が向上する。また、これにより、フロントヒンジピラー3にフロントタイヤWが当接したときに伝達され荷重を確実に受け止めることができる。
【0080】
なお、本実施の形態においては、ガス発生装置74は移動保持機構71専用に設けられているが、例えば前突時等にボンネットの後部側を持ち上げるエアバッグ装置が設けられている場合、エアバッグ展開用のガス発生装置からガスを供給してもよい。
【0081】
次に、第2の実施の形態に係る自動車の前部構造について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成要素については、詳しい説明を省略すると共に、引用する必要があるときは同一の符号を用いる。
【0082】
この第2の実施の形態は、請求項1における移動部材及び移動保持手段を、第1の実施の形態とは異なる構造で実現したものであり。なお、これに伴ってフロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部近傍の構造が若干変更されており、これについても説明する。
【0083】
すなわち、図10〜図12に示すように、フロントタイヤWの後方上方において前記フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4とを筋交い状に連結する連結部材61が設けられている。
【0084】
この連結部材61は、図13、図14に示すように、断面ハット状の部材であり、エプロンアウタパネル41の車幅方向外側の面に取り付けられ、該面とで閉断面構造を形成している。エプロンアウタパネル41の後端部は、フロントヒンジピラー3の外側部材31と内側部材32との接合フランジ部に重ねて接合されている。連結部材61の後端部(下端部)は、外側部材31の前面部に突き当てて接合されている。また、連結部材61の前端部(上端部)は、図2からわかるように、エプロンレイン部材42の下面部に突き当てて接合されている。
【0085】
また、本実施の形態においては、図10〜図12に示すように、フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部と、連結部材61の長手方向略中間部分とを連結する補強部材62が設けられている。
【0086】
この補強部材62は、概ねフロントピラー17の延長線上に位置するように設けられている。また、図13、図14からわかるように、略断面矩形の中空閉断面部材であり、下部が、連結部材61を貫通すると共に該貫通開口の縁部に接合されている。
【0087】
また、本実施の形態においては、図11、図15に示すように、フロントヒンジピラー3の内部空間における前記連結部材61の接続部位に、該空間を上下に仕切る節を形成する節部材63が設けられている。
【0088】
また、本実施の形態においては、第1の実施の形態の構成に加え、図14に示すように、前記補強部材62の下端部の空間内(連結部材61の内部空間でもある)に移動部材80が配設されていると共に、略車体前方から車体に衝撃荷重が入力されたときに、前記移動部材80を、補強部材62の長手方向に沿ってフロントタイヤWの後部へ向けて移動させると共にこの移動位置で保持する移動保持機構81とが設けられている。
【0089】
移動保持機構81は、補強部材62の内部空間(連結部材61の内部でもある)における前記移動部材80の後方上方に設けられたシリンダ装置82及びガス発生装置83と、車体への衝撃荷重の入力を検出するGセンサ84と、該Gセンサ85から衝撃荷重の検出信号が入力されたときに、ガス発生装置83にガス発生信号を出力するECU85とを有している。
【0090】
シリンダ装置82のシリンダ86は、連結部材61の内面に固定されていると共に、ピストン87のロッド87aの先端には、前記移動部材80が固定されている。また、シリンダ86の底面には、ガス発生装置83で発生したガスを連結管88を介してシリンダ86内の空間に導入する連通孔86aが形成されている。
【0091】
また、ピストン87のストロークSは、前記移動部材80が、衝撃荷重により略後方に移動するフロントタイヤWの後部と当接することとなる位置まで移動可能なように設定されている。
【0092】
次に、第2の実施の形態に係る自動車の前後構造による作用、効果について説明する。
【0093】
すなわち、例えば自動車1と障害物Mとの前突等が生じて、バンパレインフォースメント9に前方から衝撃荷重が入力されると、第1の実施の形態で説明したように、クラッシュカン8,8の圧縮変形やフロントサイドフレーム5の折曲変形等により、衝撃荷重の一部が吸収されると共に、フロントサイドフレーム5における折曲予定部T2とT3との間の部分が、ダンパ35に前方から当接する。したがって、ダンパ35(特に下部側)が、当接したフロントサイドフレーム5によって後方に押されて後方に移動する、すなわちタイヤWが後方に移動することとなる。
【0094】
ここで、前突時には、車体にノーズダイブが発生する場合があり、この場合、タイヤWは、後方に移動しつつ車体に対して上方に相対移動することとなる。したがって、フロントヒンジピラー3やサイドシル13の前端部に当接しにくくなり、あるいは当接が遅れる虞がある。
【0095】
しかし、本実施の形態においては、前突等が発生すると、Gセンサ84で衝撃荷重が検出され、ガス発生装置83からガスが発生する。そして、このガスがシリンダ86内の空間内に流入して、仮想線で示すように、ピストン87が補強部材62の長手方向に沿って移動する。すなわち、前記移動部材80が、補強部材62の長手方向に沿ってフロントタイヤWの後部へ向けて前記ストロークS分、移動する。また、前記移動部材80はガス圧により、この移動位置で保持される。
【0096】
そして、フロントタイヤWが上方後方へ移動して来ると、図14や図16に示すように、該フロントタイヤWの後部は、移動部材80に当接することとなる。したがって、前突時にフロントサイドフレーム5からダンパ35を介して(車体前端部側から)フロントタイヤWに入力された衝撃荷重は、移動部材80、前記連結部材61及び補強部材62を介して、フロントヒンジピラー3やエプロンレインフォースメント4等に伝達、分散されることとなる。そしてさらに、このエプロンレインフォースメント4、及びフロントヒンジピラー3を介して、その後方の車体(例えばフロントピラー17やサイドシル13)にも伝達、分散されることとなる。
【0097】
このように、本実施の形態によれば、フロントタイヤWの後部とフロントヒンジピラー3の前端部との間の空間(フロントタイヤWの後部とサイドシル13の前端部との間の空間)が狭い場合でも、フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部近傍の空間、より詳しくは補強部材62の内部空間(連結部材61の内部空間でもある)を利用して、移動部材80及び移動保持機構81を配設することができ、フロントタイヤWに入力された荷重を、該タイヤW後方のフロントヒンジピラー3等の後方の車体に伝達、分散させることができる。また、移動部材80が設けられていない場合よりも早く、該荷重を、後方の車体に伝達、分散させることができる。
【0098】
また、連結部材61は、剛性が通常高いフロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との間に設けられているから、後方上方に移動しようとするフロントタイヤWが、移動部材80を介して連結部材61により確実に受け止められることとなる。
【0099】
しかも、連結部材61は、閉断面構造とされているから、該部材61の剛性が上り、前記効果がより確実に得られることとなる。
【0100】
また、前記フロントヒンジピラー3とエプロンレインフォースメント4との接続部近傍と、前記連結部材61の長手方向略中間部分とを連結する補強部材62が設けられているから、移動部材80に入力された衝撃荷重は、この補強部材62をも介してフロントヒンジピラー3やエプロンレインフォースメント4等に伝達、分散されることとなる。
【0101】
また、前記補強部材62はフロントピラー17の延長線上に概ね位置するように配置されているから、補強部材62に入力された荷重がフロントピラー17にも効率的に伝達、分散されることとなる。また、この補強部材62を利用して移動部材80を前方下方に移動させることができる。
【0102】
また、移動保持機構81は、前記移動部材80を、前記フロントタイヤWの後部へ向けて前方下方に移動させるから、後方上方に移動しようとするタイヤWからの衝撃荷重を効果的に受けることができる。
【0103】
また、前記フロントヒンジピラー3は、上下に延びる閉断面構造とされており、その内部空間における前記連結部材61の接続部位に、該空間を上下に仕切る節を形成する節部材63が設けられているから、前記フロントヒンジピラー3における連結部材61の接続部の剛性が上り、その結果、連結部材61を介してフロントヒンジピラー3に入力される荷重が、該ピラー3により確実に受け止められることとなる。
【0104】
また、本実施の形態においては、前述のようにフロントサイドフレーム5に折曲予定部T2が設けられており、かつ、該折曲予定部T2は、フロントサイドフレーム5が車外側に折曲したときに、該フレーム5がサスペンション30のダンパ35に前方から当接するように設けられており、この場合、ダンパ35にフロントサイドフレーム5が当接すると、フロントサイドフレーム5からダンパ35を介してフロントタイヤWに車体前方からの大きな衝撃荷重が入力されることとなるが、本発明によれば、この大きな荷重を、前記移動部材80、連結部材61や補強部材62を介してフロントヒンジピラー3やエプロンレインフォースメント4等に効果的に伝達、分散させることができる。
【0105】
また、タイヤWと移動部材80との当接により、タイヤWはそれ以上の上方への移動が規制されるので、フロントヒンジピラー3へ向かって後方に移動し、連結部材61の下部側及びフロントヒンジピラー3に当接することとなる。したがって、フロントヒンジピラー3や、車体の中でも比較的剛性の高いサイドシル13に衝撃荷重を効率的に伝達、分散させることができる。
【0106】
ここで、フロントタイヤWの後退時には、左右のタイヤW,Wが、平面視でハの字状(後方が広くなる)に傾く場合があり、この場合、タイヤWの後部がフロントヒンジピラー3の前部に正面から当接しにくくなるが、本実施の形態では、タイヤWの後部と移動部材80とが前突後早期に当接することにより、タイヤWの後部側が移動部材80により拘束されて、左右のタイヤW,Wが前述のようにハの字状に開くのが抑制されることとなる。したがって、左右のタイヤW,Wの後部がフロントヒンジピラー3に良好に当接することとなり、タイヤWからフロントヒンジピラー3への衝撃荷重の伝達が良好に行われることとなる。
【0107】
なお、前記作用の説明では、ノーズダイブが発生した場合について説明したが、ノーズダイブが発生しなかった場合は、タイヤWは、後方に移動して主としてフロントヒンジピラー3やサイドシル13の前端部に直接当接することとなり、この場合、フロントヒンジピラー3やサイドシル13に衝撃荷重が直接、分散、伝達され、従来同様の効果が得られることとなる。
【0108】
また、第2の実施の形態においては、前記連結部材61及び補強部材62が設けられていることにより、車体前部の通常時の車体剛性が向上して、走行安定性等が向上すると共に、前突時における車室Z2前部近傍の車体の衝突耐力が向上するという効果も得られる。
【0109】
なお、連結部材61及び補強部材62は、第2の実施の形態においてのみ設けられているが、第1の実施の形態において設けてもよく、この場合、これらの部材の内部に、移動部材71及び移動保持機構72を設ければよい。
【0110】
また、節部材63は、第2の実施の形態においてのみ設けられているが、第1の実施の形態において設けてもよい。この場合、節部材63を設ける高さ位置は、フロントタイヤWのタイヤ中心位置またはこれよりも若干高い位置に設ければよい。若干高い位置に設けるのは、車体に若干ノーズダイブが発生した場合でも対応可能とするためである。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、前記タイヤとサイドシルとの間の前後間隔が狭い場合でも、タイヤに入力された衝撃荷重を車体の後部側に伝達、分散させることができる自動車の前部構造を提供することができ、自動車産業に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動車の前部構造を示す車体前方からの斜視図である。
【図2】本自動車の車体前部右側部分の側面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】図2のC−C断面図((a)図)、D−D断面図((b)図)である。
【図6】図2の矢印E部分の拡大図である。
【図7】図2のF−F断面図である。
【図8】作用の説明図である(その1)。
【図9】作用の説明図である(その2)。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る自動車の前部構造を示す車体前方からの斜視図である。
【図11】本自動車の車体前部右側部分の側面図である。
【図12】図11のG−G断面図である。
【図13】図11のH−H断面図である。
【図14】図11のJ−J断面図である。
【図15】図11のK−K断面図である。
【図16】作用の説明図である。
【符号の説明】
【0113】
1 自動車
3 フロントヒンジピラー
4 エプロンレインフォースメント
17 フロントピラー
30 サスペンション
35 ダンパ
61 連結部材
62 補強部材
63 節部材(節)
70,80 移動部材
71,81 移動保持機構(移動保持手段)
T2 折曲予定部
W フロントタイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントタイヤの後方に設けられたフロントヒンジピラーと、
該フロントヒンジピラーの上部から前方に延びるエプロンレインフォースメントと、
前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの接続部近傍に、これらの部材の少なくとも一方に連結された状態で移動可能に設けられた移動部材と、
略車体前方から衝撃荷重が入力されたときに、前記移動部材を、前記フロントタイヤの後部に近接する位置に移動させ、この移動位置で保持する移動保持手段とが設けられていることを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の自動車の前部構造において、
前記タイヤの後方上方において前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとを筋交い状に連結する連結部材が設けられており、
前記移動部材は、該連結部材に移動可能に設けられていることを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の自動車の前部構造において、
前記移動部材は、前記フロントヒンジピラーに連結された状態で移動可能に設けられており、
前記移動保持手段は、前記移動部材を、前記フロントヒンジピラーの前部と前記タイヤの後部との間に向けて移動させることを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項4】
前記請求項1または請求項2に記載の自動車の前部構造において、
前記移動保持手段は、前記移動部材を、前記タイヤの後部へ向けて前方下方に移動させることを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項5】
前記請求項4に記載の自動車の前部構造において、
前記フロントヒンジピラーとエプロンレインフォースメントとの接続部近傍と、前記連結部材の長手方向略中間部分とを連結する補強部材が設けられており、
前記移動保持手段は、前記移動部材を、該補強部材に沿って前方下方に移動させることを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項6】
前記請求項5に記載の自動車の前部構造において、
前記フロントヒンジピラーの上端部から後方上方にフロントピラーが延びており、
前記補強部材は、前記フロントピラーの延長線上に概ね位置するように配置されていることを特徴とする自動車の前部構造。
【請求項7】
前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の自動車の前部構造において、
前記フロントタイヤの車幅方向内方で車体前後方向に延びるフロントサイドフレームが設けられていると共に、
該フロントサイドフレームに、車体前方からの衝撃荷重の入力時に該フレームを車外側に向けて折曲させる折曲予定部が設けられており、
かつ、該折曲予定部は、フロントサイドフレームが車外側に折曲したときに、該フレームが前記フロントタイヤ用のサスペンションのダンパに前方から当接するように、該ダンパよりも前方に設けられていることを特徴とする自動車の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−255704(P2009−255704A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106395(P2008−106395)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】