説明

自動車内装用部材

【課題】優れた吸音性を発現し、なおかつ易リサイクル性と低環境負荷性を両立させた自動車内装用部材を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸繊維を主体とする繊度が1〜30dtex、目付が50〜1000g/mである表皮材と、天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在した見かけ密度が0.4〜1.5g/cmである基材と、ポリ乳酸繊維を主体とする目付150〜1500g/mの範囲である吸音材とを積層した三層構造を少なくとも有することを特徴とする自動車内装用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然循環型の環境対応素材であるポリ乳酸を用い、吸音性にも優れた非石油系自動車内装用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されており、地球規模にて環境に対する意識が高まりつつある。このような背景において、植物由来原料(バイオマス)からなり、使用後は自然環境中で最終的に水と二酸化炭素にまで分解する、自然循環型の環境対応素材が切望されている。
【0003】
しかしながら、このようなバイオマス利用の生分解性ポリマーは、製造コストが高く、また力学特性や耐熱性が低いという問題があり、汎用プラスチックとして利用されることはなかった。
【0004】
これらを解決できるバイオマス利用の生分解性ポリマーとして、現在、最も注目されているのは脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸である。ポリ乳酸は、植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では、力学特性、耐熱性およびコストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した樹脂製品、繊維、フィルムおよびシート等の開発が急ピッチで行われている。
【0005】
かかる状況下において、ポリ乳酸繊維の開発としては、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途や衛生材料用途、寝装用途、さらには自動車用途への応用も期待されている。
【0006】
特に、2005年1月に自動車リサイクル法の施行が決定されてより、自動車およびその部材の易リサイクル性、環境負荷低減化が強く求められている。
【0007】
非石油系素材を用いた自動車内装用部材においては、生分解素材を用いたヘッドレスト(例えば、特許文献1参照)、生分解繊維からなる複合材料(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの提案は、低環境負荷、易リサイクル部材であるが、自動車内装部材に用いるためには、車外からの音を低減する必要があり、その点においては、十分とは言い難かった。このように、環境に対する負荷が低い原料からなり、かつ十分な吸音性を有する自動車内装用部材は未だ提案されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−009994号公報
【特許文献2】特開2004−130796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる従来の問題点を解消し、易リサイクル性、低環境負荷に加えて、低周波から高周波領域にかけて良好な吸音特性を発揮する自動車内装用部材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の自動車内装用部材は、ポリ乳酸繊維を主体とする繊度が1〜30dtex、目付が50〜1000g/mである表皮材と、天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、見かけ密度が0.4〜1.5g/cmである基材と、ポリ乳酸繊維を主体とする目付150〜1500g/mの範囲である吸音材とを積層した三層構造を少なくとも有することを特徴とする。
【0011】
また、本部材は自動車リヤパーセルシェルフ、トランク部材として用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリ乳酸繊維を主体とする不織布を適切な構成および組み合わせとすることにより、易リサイクル性、低環境負荷、および低周波から高周波まで良好な吸音特性を有する自動車内装部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を実行するため鋭意検討した結果、上記課題を解決するために、ポリ乳酸繊維を主体とする繊度が1〜30dtex、目付が50〜1000g/mである表皮材と、天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在し、見かけ密度が0.4〜1.5g/cmである基材と、ポリ乳酸を主体とする目付150〜1500g/mの範囲である吸音材とを積層した三層構造を少なくとも有する自動車内装用部材とすることでかかる課題を一挙に解決することを見出した。
【0014】
以下、本発明の自動車内装部材の実施態様について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明の表皮材、基材、吸音材に使用される繊維としては、本発明ではいずれもポリ乳酸から製造されたものであることが重要である。ポリ乳酸繊維は、コスト、紡糸性、カード通過性などの点で他の非石油系ポリマーより優れているためである。また、部材に使用する素材を同一にすることでリサイクルを行いやすくすることができる。
【0016】
ここで「ポリ乳酸繊維」とは、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいい、L体あるいはD体の光学純度は、融点が高くなり、耐熱性が向上する90%以上が好ましく、97%以上がより好ましい。また、L体の光学純度90%以上のポリ乳酸とD体の光学純度90%以上のポリ乳酸を70/30〜30/70の比率でブレンドしたものは融点がさらに向上するため好ましい態様である。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、消臭剤、抗菌剤、抗酸化剤あるいは着色顔料等の添加物を含有していても良い。また、染色等の熱水処理によるポリ乳酸の加水分解抑制や製品の経時による物性低下抑制を目的として、カルボジイミド化合物等の末端封鎖剤を含有していても良い。
【0017】
ポリ乳酸ポリマーの分子量は、力学特性と成形性のバランスが良い重量平均分子量で5万〜50万が好ましく、10万〜35万がより好ましい。
【0018】
次に、本発明の自動車内装用部材を構成要素毎に説明する。
【0019】
まず、表皮材について述べる。
【0020】
表皮材を構成する繊維は、ポリ乳酸繊維を主体とするものである。好ましくは、ポリ乳酸繊維が50〜100重量%の範囲で混合されているものである。
【0021】
さらに、摩耗性、形態安定性を向上させるといった点から、混率が50重量%を超えない範囲で他のポリマーからなる繊維が混合されていても良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、芳香族ポリアミド繊維、耐炎化繊維などの繊維である。ただし、これらの素材の中で、非石油系原料を用いて製造されたものは、環境負荷低減という本発明のコンセプトに反しないため、50重量%を超えて用いても構わない。例えば、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の原料であるプロピレングリコールは、非石油系原料より製造する方法も知られており、このような製造法にて製造されたポリトリメチレンテレフタレート繊維は50重量%を超えて混合しても構わない。
【0022】
表皮材の形態としては、ニードルパンチ不織布またはカーペットが好ましい。
【0023】
表皮材として用いるニードルパンチ不織布は、ポリ乳酸繊維を主体とする短繊維で構成される。その繊度は1〜30dtexの範囲内の繊維で形成されている。好ましくは1〜15dtexの範囲内の繊維で形成されているものである。さらに好ましくは、3〜10dtexの範囲にある。繊度が1dtex未満になると、表皮材の要求特性である耐摩耗性が著しく低下し、また、30dtexを超えると風合い、手触りが悪くなる。
【0024】
ポリ乳酸短繊維を構成する繊維長は10〜150mmの範囲であることがカード通過性、ニードルパンチ不織布と成ったときの風合いの点から好ましい。さらに好ましくは、30〜70mmの範囲である。
【0025】
ニードルパンチ不織布の目付は50〜1000g/mであることが好ましい。
【0026】
本発明で用いるポリ乳酸短酸繊維は、平滑剤を含有する紡糸油剤が付与されていることが好ましい。平滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、ポリエーテル、シリコーンおよび鉱物油等が挙げられる。また、これらの平滑剤は単一成分で用いても良いし、複数の成分を混合して用いても良い。ポリ乳酸短繊維に上記のような平滑剤を含有させた油剤を付与することによって、ポリ乳酸短繊維の滑り性はさらに向上し、紡糸や延伸をはじめ、カードや紡績での工程通過性、および得られる短繊維自体の捲縮斑や毛羽等の品位を向上させるとともに、短繊維の開繊性や繊維構造体中での短繊維の分散性をさらに向上させることができる。また、その付着量は、0.1〜2.0重量%であることが、カード通過性および不織布制作時の生産性がよく好ましい。より好ましくは、0.2〜0.7重量%であることが好ましい。
【0027】
本発明では、油剤を構成する成分は平滑剤に加えて、油剤を水に乳化させ、低粘度化して糸条への付着や浸透性を向上させる乳化剤、また必要に応じて帯電防止剤、イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤あるいは酸化防止剤を適宜配合したものを使用することができる。
【0028】
さらに、本発明のニードルパンチ不織布には、熱接着成分として、主体とするポリ乳酸繊維よりも低い融点を有する熱可塑性ポリマーを鞘部分に配された芯鞘複合繊維を混合することが、不織布にしたときの強度および形態安定性を高める上で好ましい。この熱接着性芯鞘複合繊維は、低融点成分を30〜70重量%の範囲であることが熱接着の効果が良好であることから好ましい。さらに、低融点成分の融点は、熱接着後の形態安定性の点からポリ乳酸繊維よりも40℃以上低いことが好ましい。
【0029】
表皮材として用いるカーペットは、ポリ乳酸繊維を主体とする繊維の繊度が1〜30dtex、目付が50〜1000g/mのものであることが好ましい。
【0030】
さらに、少なくともパイルの一部に、融点が130℃以上のポリ乳酸繊維を主体とするマルチフィラメント捲縮糸であって、該マルチフィラメント捲縮糸の沸騰水処理後の捲縮伸長率が3〜35%、破断強度が1〜5cN/デシテックスであることを特徴とするカーペット用ポリ乳酸繊維を用いることで、高発色、高光沢、高バルキーで適度なソフト感を備えるカーペットを得ることができる。
【0031】
ここで、本発明の表皮材として用いるカーペットは、その加工形態は限定されるものではなく、例えば、段通、ウイルトン、ダブルフェイス、アキスミンスター等の織りカーペットや、タフティング、フックドラグ等の刺繍カーペットや、ボンデッド、電着、コード等の接着カーペットや、ニット、ラッセル等の編みカーペットや、ニードルパンチ等の圧縮カーペットに代表されるパイルをもつカーペット、あるいはその組み合わせを用いることができるが、より低コストでボリューム感に富むカーペットを得るためには、少なくともパイル繊維糸である表糸と、この表糸をタフトした基布と、この基布の裏に張り付けたバッキング材から構成されるタフティングカーペットとすることが好ましい。
【0032】
さらに、環境負荷低減効果を向上させるための好ましいタフティングカーペットの形態は、基布およびバッキング材の一部、好ましくは、50%以上をポリ乳酸繊維により構成させることで達成できる。
【0033】
上述のソフトな触感、高光沢、高バルキーでかつ生分解性に優れたカーペットは、カーペットとしても用いることができ、その使用目的は特に限定されるものでなく、各種の目的下や場所に設置され、例えば、居室、キッチン、玄関、ダストコントロール、ベランダ等の住居用、オフィス、学校、美術館、劇場、ホテル、レストラン、銀行、デパート、小売店等の商業用、鉄道、乗用車、バス、船舶、航空機等の輸送用、陸上競技場、野球場、ゴルフ場、テニスコート、フィットネスクラブ、プールサイド等の屋内外スポーツ用等に適応される。
【0034】
また、本発明の表皮材として用いるカーペットはフェースヤーンの形態は特に限定されず、例えばカットパイル、ループパイルあるいはそれらの組み合わせを用いることができ、また本発明で用いるポリ乳酸マルチフィラメント捲縮糸を複数撚糸したものを用いてもよく、さらに本発明で用いるポリ乳酸マルチフィラメント捲縮糸の効果が損なわれない範囲であれば、他の繊維や素材と組み合わせて用いてもよい。
【0035】
続いて、本発明で用いる基材について説明する。
【0036】
本発明で用いられる、基材において、主材料の天然繊維としては、各種のセルロース系繊維、例えば木質系や草本系のセルロース系繊維を用いることができる。具体的には、木材パルプ、バガス、麦ワラ、アシ、パピルス、タケ類等のイネ科植物パルプ、ケナフ、ローゼル、麻、アマ、ラミー、ジュート、ヘンプ等の靱皮繊維、サイザルアサ、マニラアサ等の葉脈繊維等が挙げられる。これらの中で、一年草であって、熱帯地方および温帯地方での成長が極めて早く容易に栽培できる草木類に属するケナフから採取される繊維を採用することが好ましい。
【0037】
一方、天然繊維のバインダとしては、天然物を原料とする、ポリ乳酸系樹脂を用いる。ポリ乳酸系樹脂は、植物から合成されるプラスチックであり、最終的に燃やして二酸化炭素を発生させても、プラスチックは植物由来であるから、地球上の二酸化炭素を増やすことがなく、化石燃料より作られるプラスチックと比べ、環境に対する影響を小さくすることができる。また、ポリ乳酸樹脂は、融点が170℃程度であって適度な耐熱性を有するとともに、成型性に優れ、天然繊維との接着性に優れている。さらに、ポリ乳酸系樹脂はボードに成型した後に曲げ強さおよび老化特性に優れている。
【0038】
本発明で用いる基材は、見かけ密度が0.4〜1.5g/cmの範囲にあるものである。なお、見かけ密度の測定方法は以下の方法で実施したものである。
【0039】
見かけ密度(g/cm)=基材の質量(g)/ボードの体積(cm
見かけ密度が0.4g/cmよりも小さくなると自動車内装用部材として必要とする曲げ強度を得ることができず、1.5g/cmより大きくなると自動車内装部材として重すぎるだけでなく、コストパフォーマンスが悪くなる。
【0040】
本発明では、基材に用いるポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基末端量が10当量/t(トン)以下であることが好ましい。該カルボキシル基末端量が10当量/t以下であると、ポリ乳酸系樹脂の加水分解を抑制でき、基材の老化と区営、特に高温高湿下で放置したあとの曲げ強さの低下を抑えることができる。ポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基末端量を10当量/t以下にする方法としては、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物や、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型化合物などをポリ乳酸系樹脂のカルボキシル基末端に反応させて封鎖すればよい。
【0041】
本発明における基材中のポリ乳酸系樹脂の混率は10〜90重量%が好ましい。10〜90重量%の範囲内であれば該基材の剛性、曲げ強さ、風合いなどの要求に応じて任意に選ぶことができる。この混率を10重量%以上とすることでバインダとしての役割を十分果たすことができる。また、混率を90重量%以下とすることで、該基材の性質がポリ乳酸系樹脂単独の性質とは異なり、剛性、曲げ強さの強い基材を得ることができる。ポリ乳酸系樹脂の混率は、20〜60重量%がより好ましく、さらに好ましくは30〜50重量%である。
【0042】
本発明で用いられる基材の通気度は、1〜40cc/cm/secの範囲であることが好ましい。該基材の通気度を1〜40cc/cm/secの範囲とすることで、基材に吸音性を有する自動車内装用部材を得ることができる。基材と吸音材の相乗効果によって、従来の自動車部材には得られなかった良好な吸音性を得ることができるのである。該基材の通気度が1cc/cm/sec以下または、40cc/cm/sec以上であると目標とする吸音性が得られず好ましくない。
【0043】
続いて、本発明で用いる吸音材を構成要素毎に説明する。
【0044】
本発明で用いられる吸音材は、ポリ乳酸繊維を主体とするものからなる。好ましくは、ポリ乳酸繊維が50〜100重量%の範囲で混合されているものである。
【0045】
また、該吸音材は、目付150〜1500g/mの範囲であることが重要である。さらに、該吸音材の厚みは5〜50mmの範囲内であり、かつ通気度が10〜30cc/cm/secの範囲であることが好ましい。。
【0046】
該条件を満たす手段の1つとして、ポリ乳酸繊維を主体とした特定の繊度、目付、厚みを有する不織布Aと、ポリ乳酸繊維を主体とした特定の繊度、目付、通気度を有する不織布Bとを積層することにより目標とする吸音性を達成することができる。
【0047】
本発明で用いられる不織布Aとしては、その繊度が0.5〜10dtexの範囲内の繊維で形成されることが重要である。繊度が10dtexより大きくなると、吸音構造体としたとき、十分な吸音性を得ることができず、0.5dtexより小さくなると、通常の溶融紡糸法では製造が困難となり、コストアップとなるだけでなく、取り扱い性も低下するといった問題が発生するからである。不織布Aを形成する繊維の断面形状は、特に限定されず、例えば、丸、三角、扁平など、のものを用いることができる。また、その繊維長は、短繊維をカードに通過させるときの通過性が良好である5〜200mmの範囲が好ましく、30〜150mmがより好ましい。さらに、不織布Aを構成する繊維は、厚み、目付の調整が行いやすい、捲縮を付与した短繊維を用いるのが良い。
【0048】
また、上記の不織布Aは、目付が150〜1500g/mの範囲であり、好ましくは100〜1000g/mの範囲であり、かつ厚みが5〜50mmの範囲内であるものである。目付が150g/m、および厚みが5mmよりも小さくなると、吸音効果を得るための密度、厚みが損なわれ十分な吸音性を得ることができなくなる。一方、目付が1500g/m、および厚みが50mmよりも大きくなると、重量、厚みが大きくなりすぎることから、自動車内装材として用いることが難しくなる。
【0049】
さらに、上記の不織布Aには、熱接着成分として、主体とするポリ乳酸繊維よりも低い融点を有する熱可塑性ポリマーを鞘部分に配された芯鞘複合繊維を混合することが、不織布にしたときの強度および形態安定性を高める上で好ましい。この熱接着性芯鞘複合繊維は、低融点成分が芯鞘複合繊維全体の30〜70重量%の範囲であることが熱接着の効果が良好であることから好ましい。さらに、低融点成分の融点は、熱接着後の形態安定性の点からポリ乳酸繊維よりも40℃以上低いことが好ましい。
【0050】
次に、本発明の吸音材に用いる不織布Bについて述べる。
【0051】
不織布Bは、不織布としたときの摩耗性、形態安定性を向上させるため、不織布Aと同様、ポリ乳酸繊維を主体とするものからなる。好ましくは、ポリ乳酸繊維が50〜100重量%の範囲で混合されているものである。また、混率が50重量%を超えない範囲で他繊維が混合されていても良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、芳香族ポリアミド繊維、耐炎化繊維など公知の繊維を使用することができる。これらの繊維が、50重量%を超えて混合された場合、非石油系繊維を用いた利点が損なわれるため、好ましくない。ただし、これらの素材の中で、非石油系原料を用いて製造された場合、その環境負荷低減というコンセプトに反しないため、50重量%を超えて用いることができる。例えば、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の原料であるプロピレングリコールは、非石油系原料より製造する方法も公知となっており、このような製造法にて製造されたポリトリメチレンテレフタレート繊維は50重量%を超えて混合することができる。
【0052】
上記の吸音材に用いる不織布Bは、繊度が0.1〜5dtexである繊維で形成されることが好ましい。繊度が5dtexより大きいと、十分な吸音性が得られない。また、0.1dtexより小さいと製造が困難となり、コストアップとなるだけでなく、取り扱い性も低下するため好ましくない。
【0053】
また、不織布Bの目付は50〜500g/mの範囲内であることが重要である。50g/mより小さくなると、通気度が大きくなり十分な吸音性を得ることができなくなり、500g/mより大きくなると、吸音材の重量がアップしてしまうため、自動車内装材として好ましくない。
【0054】
さらに、不織布Bの通気度は、10〜30cc/cm/secの範囲内であることが好ましい。通気度が、10cc/cm/secより小さくなると、高周波領域での吸音性が著しく低下してしまうため、好ましくなく、30cc/cm/secよりも大きくなると、今度は逆に中〜高周波領域における吸音性が低下してしまうため、好ましくない。
【0055】
ところで、本発明で用いる吸音材の構成要素である不織布Aと不織布Bは、いずれもポリ乳酸繊維を主体とする不織布からなるが、本発明で用いる吸音材において、不織布Aは適切な繊度、目付および厚みとすることで、主に低周波領域の吸音性を向上させる役割を担い、不織布Bは適切な繊度、目付、通気度に調整することで、主に高周波領域の吸音効果を向上させる役割を担うものである。
【0056】
次に、本発明で用いる吸音材は、上述した不織布Aと不織布Bとが積層されていることが重要である。積層順位としては、不織布Bを表側すなわち音源側に配すると、吸音材表面の通気度が少なくなり、空気の移動を妨げ、吸音効果を発揮するので好ましい。その結果、低周波領域から高周波領域まで良好な吸音性を有する吸音材を得ることができる。
【0057】
また、勿論、上記の吸音材に難燃加工、防炎加工等の公知の機能加工を付与しても良い。
【0058】
かくして得られる本発明の自動車内層用部材は、ポリ乳酸を主体とする特定の繊度、目付、厚さを有する不織布Aと、特定の繊度、目付、通気度を有する不織布Bという2種類の異なる不織布を積層することにより、易リサイクル性、低環境負荷性に加え、低周波領域から高周波領域まで優れた吸音性を達成できる。
【0059】
本発明の自動車内層部材の製造方法により、易リサイクル性、低環境負荷性に加え、低周波領域から高周波領域といった広範囲において優れた吸音性を有する吸音材を容易に得ることができる。
【0060】
本発明の自動車内装用部材は、自動車リヤパーセルシェルフ、トランク部分に用いられることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の吸音材の実施例を説明する。
【0062】
なお、実施例中における特性の測定方法としては、以下の方法を用いた。
A.目付(g/m
JIS L 1096(1999) 8.4.2に基づいて測定した。
B.厚み(mm)
JIS L 1096(1999) 8.5.1に基づいて測定した。
C.曲げ強度
JIS A 5905(2003) 6.6に基づいて測定した。
D.通気度 (cc/cm/sec)
JIS L 1096(1999) 8.27.1に基づいて測定した。
E.吸音性
JIS A 1405(1998)に基づいて、垂直入射吸音率(%)を測定した。
F.ホルムアルデヒド発生量
10cm×10cmの部材を500mlポリ容器に入れ、24h放置した後のホルムアルデヒド濃度を検知管にて測定した。
【0063】
実施例に用いたニードルパンチカーペット、PLA/ケナフボード基材、吸音材の製造を以下の参考例に示した。
【0064】
参考例1
ポリ乳酸樹脂を公知の方法で繊維化し、捲縮付与後カットして繊度6.6dtex、繊維長64mmのポリ乳酸短繊維90g、繊度4.4dtex、繊維長51mmのポリエステルバインダ繊維10gを均一に混ざるよう開繊機を2回通過させた後、この繊維を軽量しパラレルカードマシンにてウエッブを形成した。作成したウエッブをニードルパンチマシンにて1回通過させ、繊維を絡合させ、表面にループ意匠を配したニードルパンチ不織布を作成した。
【0065】
参考例2
ポリ乳酸樹脂を公知の方法で繊維化し、捲縮付与後カットして繊度6.6dtex、繊維長51mmの短繊維を得た。このポリ乳酸繊維とケナフ靱皮を65mmにカットしたものを30:70の重量比で混綿、開繊してシート状にしたものを積層し、目付870g/mの積層体を得た。この積層体を2枚の金型の間に厚さ4.3mmのスペーサと共に挟み込み、230℃加熱下のプレス機で圧力2.4MPa、1分間加熱加圧成型を行った。得られた繊維系ボードの目付は870g/m、厚さ4.3mmのPLA/ケナフボード基材を得た。
【0066】
参考例3
繊度9dtex×繊維長64mmのポリ乳酸短繊維90gと、繊度4.4dtex×繊維長51mmのポリエステルバインダ繊維10gを均一に混ざるよう、開繊機を2回通過させた後、この繊維を軽量しパラレルカードマシンにてウエッブを作成した。作成したウエッブをニードルパンチマシン(針本数50本/cm)にて片面より1回通過させ、繊維を絡合させ、ニードルパンチ不織布を作成し、これを不織布Aとした。
【0067】
また、目付150g/m、繊度2.2detexのポリ乳酸スパンボンド不織布を不織布Bとした。
【0068】
次に、不織布Aに対し、スプレー法により接着剤であるアクリル樹脂を10g/m塗布して、不織布AとBを接着させることにより積層し、吸音材を得た。
【0069】
実施例1
PLA/PETバインダ繊維ニードルパンチカーペット(目付250g/m、PLA90重量%、PETバインダ繊維10重量%)をPLA/ケナフボード(目付870g/m、厚み4.3mm)(目付を基材にPLA接着樹脂を塗布量20g/mで塗布した後、張り合わせた。その後、目付350g/m、厚み10mのPLA/PET吸音材をカーペットと同様に塗布量20g/mにてPLA接着樹脂を張り合わせることで、自動車内装部材1を得た。
得られた自動車内装部材の特性および評価結果を表1に示す。
【0070】
実施例2
カーペットの目付を330g/mとする以外は実施例1と同様に自動車内装部材を得た。得られた自動車内装部材は更に吸音性に優れるものとなった。
実施例3〜5は、基材となるPLA/ケナフボードの目付、厚みを変更して自動車内装部材を得た。ボードの厚みが増すほど、低音領域からの吸音性に優れた自動車内装部材を得ることができる。
【0071】
実施例3
基材の目付、厚みを少なくし、その他は、実施例1と同様に部材を作成し、その吸音性を確認した、基材曲げ強度、吸音性共に良好であった。
【0072】
実施例4
基材の目付を少なくし、基材の厚みを大きくして、その他は実施例1と同様に部材を作成し、その吸音性を確認した。基材曲げ強度はやや弱くなったが、基材厚みが増すことでより良好な吸音性を得ることができた。
【0073】
実施例5
基材の厚みを実施例4よりも更に厚くし、その他は実施例1と同様に部材を作成し、その吸音性を確認した。基材曲げ強度は実施例1と比べやや弱くなったが、基材厚みが増すことで良好な吸音性を得ることができた。
【0074】
実施例6〜8
実施例6〜8は、吸音材の目付、厚みを変更して自動車内装部材を得た。吸音材の目付、厚みが増すほど吸音性に優れた自動車内装部材を得ることができる。
【0075】
実施例6
吸音材の厚みを薄くする他は、実施例1と同様に部材を作成した。薄い吸音材を用いても、良好な吸音性を得ることができた。
【0076】
実施例7
吸音材の厚みを厚くする他は、実施例1と同様に部材を作成した。実施例1と比べ更に良好な吸音性を持つ部材を得ることができた。
【0077】
実施例8
吸音材をポリ乳酸不織布の代わりに、PLA/ケナフ基材の密度を少ないものを用い、その吸音性を確認した。該基材は吸音材としても優れていることがわかった。
【0078】
実施例9
実施例9は、すべての構成部材を非石油系とする以外は、実施例1と同様に自動車内装部材を得た。
【0079】
比較例1
自動車内装部材に良く用いられている木質系接着ボード(目付850g/m、厚み3.5mm)を基材として用い、一般的に自動車内装用カーペットとして用いられているポリエチレンテレフタレート製ニードルパンチ不織布(目付250g/m)、吸音材としてPP(ポリプロピレン繊維)メルトブロー不織布(3M社製 “シンサレート”(登録商標)、目付350g/m、厚み10mm)を用いた自動車内装部材を作成した。この部材の特性および評価結果を表2に示す。
【0080】
比較例2、3
基材をABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、PP(ポリプロピレン樹脂)を内装基材として用い、アクリル系接着剤を用い、自動車内装部材を作成するほかは、比較例1と同様に部材を作成した。この部材の特性および評価結果を表2に示す。
【0081】
比較例2
自動車内装部材に良く用いられる、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、PP(ポリプロピレン樹脂)を内装基材として用い、アクリル系接着剤を用い、自動車内装部材を作成するほかは、比較例1と同様に部材を作成した。この部材の特性および評価結果を表2に示す。
【0082】
比較例3
自動車内装部材に良く用いられる、(ポリプロピレン樹脂)を内装基材として用い、アクリル系接着剤を用い、自動車内装部材を作成するほかは、比較例1と同様に部材を作成した。この部材の特性および評価結果を表2に示す。
【0083】
表1,2から明らかなように、本発明の吸音材は、非石油系の素材であるポリ乳酸を用い、優れた吸音性を発現する。
【0084】
一方、比較例の吸音材は、実施例に対し吸音性に劣ること、または石油系素材を用いることから、環境負荷の点で吸音材として不向きである。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸繊維を主体とする繊度が1〜30dtex、目付が50〜1000g/mである表皮材と、天然繊維にバインダとしてポリ乳酸系樹脂が混在した見かけ密度が0.4〜1.5g/cmである基材と、ポリ乳酸繊維を主体とする目付150〜1500g/mの範囲である吸音材とを積層した三層構造を少なくとも有することを特徴とする自動車内装用部材。
【請求項2】
表皮材にポリ乳酸繊維が50〜100重量%の範囲で混合されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車内装用部材。
【請求項3】
基材の通気度が1〜40cc/cm/secの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車内装用部材。
【請求項4】
吸音材の通気度が10〜30cc/cm/secの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動車内装用部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車内装用部材が自動車リヤパーセルシェルフ、トランク部分に用いられることを特著とする自動車内装用部材。

【公開番号】特開2006−264436(P2006−264436A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83234(P2005−83234)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】