説明

色素増感型光電変換素子の製造方法および色素増感型光電変換素子

【課題】Cu導線をTiで被覆した線材を用いた布状電極において集電を行う色素増感型光電変換素子において、集電時の接触抵抗を低減する。
【解決手段】色素増感型光電変換素子の集電部3の製造する際、作用極5から延在する集電用配線4と複数の外周基材20とが網目状に編まれてなる領域19に対してCu箔21を重ね、さらに領域19とCu箔21とを挟むように2つのTi箔22a、22bを重ねた後、Ti箔22a、22bと垂直をなす方向より抵抗溶接法を用いて圧着し、Cu箔21と線材8とからなる溶融部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触抵抗が低減された集電部の色素増感型光電変換素子の製造方法、および集電部の接触抵抗が低減された色素増感型光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、スイスのグレッツェルらのグループなどから提案されたもので、高い変換効率を得られる光電変換素子として着目されている(例えば、非特許文献1を参照)。
色素増感型太陽電池は、シリコン系の従来型の太陽電池と比較して大幅な低価格化が可能とされているが、発電部に使用される導電性基板の価格が低価格化の障害となっている。従来構造の色素増感型太陽電池においては、特に光が入射する側の電極(窓電極)には、可視光の透過性と高い伝導性が要求されるため、ガラス基板やプラスチック基板上にスズドープ酸化インジウムやフッ素ドープ酸化スズといった透明導電性金属酸化物を塗布した基板が用いられてきた。したがって、このような透明導電性基板を用いていない、全く新しい構造の色素増感型太陽電池が実現するならば、太陽電池の大幅な低価格化が可能であるとして研究開発が進められている。
【0003】
これらの解決手段として、金属線を発電部の作用極に用いる新規な素子構造(特許文献1、2、3、4参照)が提案されている。しかし、これらの構造においては、作用極に金属線を採用したがゆえに、大面積の太陽電池モジュールの構成が困難となり、本来、色素増感型光電変換素子が有する、大面積化が容易であるという利点を損なう結果となった。そのため、上記の利点を損なうことのない素子構造の開発が必要とされている。
さらに、大面積素子を可能とする構造として、特許文献5、特許文献6に記載されたように、金属線をメッシュ状に編みこむ構造も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−181690号公報
【特許文献2】特開2008−181691号公報
【特許文献3】特開2005−196982号公報
【特許文献4】特表2005−516370号公報
【特許文献5】特開2001−283941号公報
【特許文献6】特開2001−283944号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】O'Regan B., Graetzel M., Alow cost, high-efficiency solar cell based on dye-sensitized colloidal TiO2 films, Nature, 1991年, 353号, 737-739ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような金属細線を用いた色素増感型太陽電池の場合、使用される金属細線には電解質に対する耐食性が必要とされるため、TiやWなどの限られた金属しか使用することができなかった。しかし、これらの線材は概して導電率が低く、また、線材の価格が高いといった問題があった。この問題に対しては、Cu線をTiで被覆した金属線(以下、Ti被覆Cu線)を作製することで、導電性に関する問題、および価格の問題は克服できる。しかし、Ti被覆Cu線を使用する場合においては、Tiは、はんだ付けが難しい材料である上、接触抵抗も高いため、集電が困難であるという問題があった。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、複数の金属線を網目状に編まれてなる布状構造の作用極を有する色素増感型光電変換素子において、確実な集電構造を提供し、ひいては光電変換効率が向上した色素増感型光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の色素増感型光電変換素子の製造方法は、導電性を有するとともに線状をなす複数の第1基材および第2基材が網目状に編まれてなる領域からなる作用極と、前記領域から前記第1基材および/または前記第2基材が、その長手方向に延在された部位から構成される集電用配線と、該集電用配線の端部近傍をまとめて電気的に接続する集電部とを有し、導電性を有するとともに線状をなす複数の外周基材と前記集電用配線とが網目状に編まれてなる他の領域を有する色素増感型光電変換素子の製造方法であって、前記第1基材、前記第2基材、および前記外周基材として、Cu導線をTiで被覆したものを用い、前記他の領域にCu箔を重ね、さらに前記他の領域と前記Cu箔を挟むように2つのTi箔を重ねた後、各々のTi箔と垂直をなす方向より抵抗溶接用電極を当接させ、抵抗溶接法を用いて圧着し、前記集電部の内部に溶融部を形成することを特徴とする。
本発明の色素増感型光電変換素子の製造方法は、前記圧着がスポット状になされてもよい。
本発明の色素増感型光電変換素子の製造方法は、前記圧着がライン状になされてもよい。
【0009】
本発明の色素増感型光電変換素子は、導電性を有するとともに線状をなす複数の第1基材および第2基材が網目状に編まれてなる領域からなる作用極と、前記第1基材または前記第2基材の一方の一端側が、前記領域からその長手方向に延在された部位から構成される集電用配線と、該集電用配線の端部近傍をまとめて電気的に接続する集電部とを有し、導電性を有するとともに線状をなす複数の外周基材と前記集電用配線とが網目状に編まれてなる他の領域を有する色素増感型光電変換素子であって、前記第1基材、前記第2基材、および前記外周基材は、Cu導線をTiで被覆したものであり、前記集電部は、前記他の領域とCu箔とからなる溶融部が、Ti箔で挟まれた構造を有することを特徴とする。
本発明の色素増感型光電変換素子は、前記集電部に前記構造がスポット状に点在してもよい。
本発明の色素増感型光電変換素子は、前記集電部に前記構造がライン状に延在してもよい。
【発明の効果】
【0010】
色素増感型光電変換素子の製造方法において、集電部を、線状の基材が網目状に編まれてなる領域に対してCu箔を重ね、さらに領域とCu箔を挟むようにTi箔を重ねた後、抵抗溶接法を用いて圧着し溶融部を形成する製造方法としたため、Cu箔より簡単に集電することができ、さらに接触抵抗が低減されるという効果が得られる。
また、抵抗溶接するにあたって、ライン溶接を行うことによって、溶融部の面積が広がり、より接触抵抗が低減される。
さらに、本発明の集電構造を備えてなる色素増感型光電変換素子は、集電部における接触抵抗が低減されることにより、光電変換効率が向上するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る光電変換素子の概略構成図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】光電変換素子の集電部の断面図であって(a)は抵抗溶接前、(b)は抵抗溶接中、(c)は抵抗溶接後の断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る光電変換素子の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施形態の集電部を備えた光電変換素子を示す概略構成図、図2は、図1のII−II線に沿う、光電変換素子の断面図である。
【0013】
図1、図2に示すように、本実施形態の光電変換素子1は、平面視矩形の発電部2と該発電部2の外部に設けられた集電部3とから構成されており、発電部2において発生した電子が、発電部2の一辺より延在する集電用配線4を介して集電部3において集電される構成である。
発電部2は、平面視矩形の布状構造の作用極5と、平面視矩形の板状の対極6とがセパレータ10を介して重ね合わされるように構成されている。布状構造の作用極5は、導電性を有する複数の第1基材8と複数の第2基材9と、該第1基材8と第2基材9の周囲に配され色素を担持した多孔質酸化物半導体層13とから構成されており、該多孔質酸化物半導体層13は、増感色素とともに電解質18をも含浸している。
第1基材8と第2基材9とはともに線状をなし、これら第1基材8と第2基材9とが網目状に編まれることで矩形の布状構造をなしている。
【0014】
対極6は、板状の導電性基材であり、セパレータ10を介して作用極5と重ね合わされている。また対極6は、集電部3と対となる引出電極6aを有しており、この引出電極6aは、発電部2の外側に延出している。
作用極5と対極6、およびその間に挿入されているセパレータ10は、支持シート15とともに収納袋14内に収納されており、収納袋14内は電解質18で満たされている。
【0015】
支持シート15は、絶縁体からなるシートであり、前記収納袋14と前記作用極5との間、及び/又は前記収納袋14と前記対極6との間に挿入されていてもよい。該支持シート15が挿入されていることにより、該収納袋14を平面的な形状に支持することがより容易となり、該収納袋14と該作用極5及び/又は該対極6とが機械的に擦れて該収納袋14が傷つくことを低減できる。
前記支持シート15としては、透光性を有し、電解質18に対して化学的に安定な材料であれば特に制限されず、例えばPET、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。該支持シート15の厚さは、例えば10μm以上100μm以下でよい。
【0016】
作用極5を構成する複数の第1基材8の全ては、作用極5より延長されることで外方へ引き出され集電用配線4となり、外部において集電領域19(他の領域)を有している。
集電領域19は、集電用配線4を構成する第1基材8と、導電性を有する複数の外周基材20とから構成されている。外周基材20は線状をなしており、集電用配線4と網目状に編まれてなる部位を構成する。
【0017】
集電領域19にはCu箔21が重ねられ、さらに集電領域19とCu箔21とは、2枚のTi箔22a、22bにより挟み込まれている。集電領域19とCu箔21とTi箔22a、22bとは、抵抗溶接法により圧着され、複数のスポット溶接部24において一体化されている。Cu箔21は、その一部が外部へ引き出されており、この部分より集電が可能となっている。
【0018】
以下、各構成要素について、詳細に説明する。
第1基材8、第2基材9、および外周基材20は直径0.05mmのCu線をTiで被覆した金属線(以下、Ti被覆Cu線)である。以下、Ti被覆金属線としてTi被覆Cu線の製造方法の一例を記す。
まず、Tiを押出成型等によってパイプ状に形成すると共に、Cuを押出成型等によって線状に形成し、これらTiパイプとCu線を同時に走行させつつTi製パイプの内部にCuを挿入し、これらを絞って、両者間を密着させて、Ti被覆Cu線を得る。
【0019】
作用極5は、所定本数の第1基材8および第2基材9が互いに網目状に編まれてなる構造を有している。第1基材8と第2基材9とは、重複部において互いが十分接触するように編まれ、矩形をなす布状構造を有している。
第1基材8、第2基材9、および外周基材20はTi被覆Cu線に限ることはなく、W被覆Cu線など、電解液に対し腐食性を有する線材も使用可能である。Ti被覆Al線など、導電率の高い線材も使用可能である。
このような基材の太さ(直径)は、例えば、10μm〜10mmとするのが好ましい。ただし、柔軟性を十分に発揮させるためには、基材の太さは細いほどよい。
【0020】
発電部2において、複数の第2基材9は、図1における上下方向に延在しているとともに、図1における左右方向に所定本数列設されている。
複数の第1基材8は、図1における上下方向に所定本数列設されているとともに、図1における左右方向に集電部3まで延在している。つまり、作用極5を構成する基材のうち第1基材8の全ては、矩形をなす発電部2の一辺より発電部2から延長されるように、外部に引き出されている。
延長された第1基材8は、所定位置で外周基材20と互いに交差するように網目状に編まれることで、布状構造を形成する。外周基材20は、布状構造の形成が可能となるように、3本以上からなることが好ましい。
【0021】
第1基材8および第2基材9のうち、作用極5の布状構造をなす部分には、その表面に多孔質酸化物半導体層13が配されており、その表面には少なくとも一部に増感色素及び電解質18が担持されている。第1基材8のうち、集電用配線部4には多孔質酸化物半導体層13が配されることはない
多孔質酸化物半導体層13を形成する半導体は、酸化チタン(TiO)である。この酸化チタンの膜厚は約5μmとしたが、特に限定されるものではなく、例えば、1μm〜50μmであってよい。
多孔質酸化物半導体層13を形成する半導体としては酸化チタンに限ることはなく、一般に色素増感型太陽電池に用いられるものであれば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タングステン(WO)など様々な半導体電極が制限なく使用可能である。
【0022】
増感色素としては、例えば、N719、N3、ブラックダイなどのルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニン等の含金属錯体をはじめ、エオシン、ローダミン、メロシアニン等の有機色素などを適用することができ、これらの中から用途、使用半導体に適した励起挙動をとるものを適宜選択すれば良い。
【0023】
多孔質酸化物半導体層13内には、電解液が含浸されており、この電解液も前記電解質18の一部を構成している。この場合、多孔質酸化物半導体層13内の電解質18は、多孔質酸化物半導体層13内に電解液を含浸させてなるものか、または、多孔質酸化物半導体層13内に電解液を含浸させた後に、この電解液を適当なゲル化剤を用いてゲル化(擬固体化)して、多孔質酸化物半導体層13と一体に形成されてなるもの、あるいは、イオン液体をベースとしたもの、さらには、酸化物半導体粒子及び導電性粒子を含むゲル状の電解質などが用いられる。
【0024】
上記電解液としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒やイオン液体に溶解されてなるものが用いられる。
この電解液をゲル化する際に用いられるゲル化剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などが挙げられる。
また、揮発性電解質溶液に代えて、一般に色素増感型太陽電池に用いられるものであれば、溶媒がイオン液体であるものやゲル化したものだけではなく、p型無機半導体や有機ホール輸送層といった固体であっても制限なく使用可能である。
【0025】
上記イオン液体としては、特に限定されるものではないが、室温で液体であり、例えば、四級化された窒素原子を有する化合物をカチオンとした常温溶融塩が挙げられる。
常温溶融塩のカチオンとしては、四級化イミダゾリウム誘導体、四級化ピリジニウム誘導体、四級化アンモニウム誘導体などが挙げられる。
常温溶融塩のアニオンとしては、BF,PF,(HF)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド[N(CFSO]、ヨウ化物イオンなどが挙げられる。
イオン液体の具体例としては、四級化イミダゾリウム系カチオンとヨウ化物イオンまたはビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオンなどからなる塩類を挙げることができる。
【0026】
上記酸化物半導体粒子としては、物質の種類や粒子サイズなどは特に限定されるものではないが、イオン液体を主体とする電解液との混和性に優れ、この電解液をゲル化させるようなものが用いられる。また、酸化物半導体粒子は、電解質18の半導電性を低下させることがなく、電解質18に含まれる他の共存成分に対する科学的安定性に優れることが必要である。特に、電解質18がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合であっても、酸化物半導体粒子は、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
【0027】
このような酸化物半導体粒子としては、TiO、SnO、SiO、ZnO、Nb、In、ZrO、Al、WO、SrTiO、Ta、La、Y、Ho、Bi、CeOからなる群から選択される1種または2種以上の混合物が好ましく、その平均粒径は2nm〜1000nm程度が好ましい。
【0028】
上記導電性微粒子としては、導電体や半導体など、導電性を有する粒子が用いられる。
また、導電性粒子の種類や粒子サイズなどは特に限定されるものではないが、イオン液体を主体とする電解液との混和性に優れ、この電解液をゲル化するようなものが用いられる。さらに、電解質18に含まれる他の共存成分に対する化学的安定性に優れることが必要である。
特に、電解質18がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合であっても、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
【0029】
このような導電性微粒子としては、カーボンを主体とする物質からなるものが挙げられ、具体例としては、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラックなどの粒子を例示できる。これらの物質の製造方法はいずれも公知であり、また、市販品を用いることもできる。
【0030】
対極6は、導電性を有する板状をなし、その表面が不導態となる厚み0.1mmのTi板から構成される。また、対極6は、表面にPtからなる触媒膜(不図示)を有している。なお、集電のため、端部に引出電極6aが設けられている。
作用極5と対極6との間には、作用極5と対極6との短絡を防止するために、非導電性の材料からなる、厚さ20μmのセパレータ10が挿入されている。
【0031】
さらに作用極5、対極6、およびセパレータ10は、PET、またはPEN(ポリエチレンナフタレート)からなる収納袋14内に収納されている。該収納袋14に用いられる材料としては、PET、PENに限ることはなく、透光性を有し、電解液に耐えられる材料であれば、適宜変更可能である。
収納袋14内には、電解質18が封入されており、作用極5の集電用配線4および対極6の引出電極6aを外部に出すようにして、接着剤で封止されている。接着剤の材料としては、電解質に耐え、収納袋14およびTiと良好な接着力が得られるものが好ましい。
【0032】
次に、本発明の光電変換素子の集電部3の構造および製造方法について説明する。図3は、集電部3の構造と製造方法を示す図である。
本発明の光電変換素子の集電部3は、発電部2と同様に布状電極を有している。集電を実施するために、Cu箔21が用いられており、Cu箔21と布状電極をなす集電領域19重ね合わされた上で、抵抗溶接法を用いて一体化されている。
【0033】
ただし、Cu箔21と布状電極である集電領域19との間で直接抵抗溶接法を用いて圧着を行うと、CuはTiと比較して融点が低いため、抵抗溶接時にTiより先に溶融してしまう。この場合、溶融したCuが抵抗溶接法で使用される抵抗溶接用電極25に溶着してしまうため、集電領域19とCuとは接合しない。また、布状電極の集電領域19と抵抗溶接用電極25とを直接接触させて抵抗溶接を行うと、接触状態によって接合状態に差が生じるため、溶接が安定しない。
【0034】
そこで、本発明においては、図3(a)に示すように、集電領域19とCu箔21とを重ね合わせた上に、さらにこの集電領域19とCu箔21とを一対のTi箔22a、22bで挟み込んだ状態で抵抗溶接を行った。図2(b)は、集電領域19とCu箔21と一対のTi箔22a、22bとを、一対の抵抗溶接用電極25で加圧した上で電流を流し、抵抗溶接を実施している様子を示す図である。
その結果、図2(c)に示すように、抵抗溶接時に、内側の集電部3とCu箔21が溶融することで溶融部23を形成し、Cu箔21と集電部3とが完全に接合した。その一方で、抵抗溶接用電極25はTi箔22a、22bのみと接触するので、抵抗溶接用電極25にCuが溶着することはなかった。
溶接後は、接触抵抗の低いCu箔21の部分から集電するため、集電が容易となる。
【0035】
上述したような構成の光電変換素子1は、集電部3を構成する布状の集電領域19とCu箔21とが抵抗溶接法を用いて圧着され、集電領域19とCu箔21とが溶融されることによって、集電領域19とCu箔21の間の接触抵抗が大幅に低減され、光電変換効率が著しく向上する。
また、Cu箔21に電気機器などを接続導体を介して接続した場合、太陽光などの光線を入射させると、発電部2において発生した電子のうち、第1基材8に発生した電子の全てを取り出すことが可能となるため、光電変換効率が向上する。
また、発電部2は、布状構造の作用極5、薄板状の対極6、およびPETからなる収納袋14の組合せであるため、フレキシブル性に優れた光電変換素子1の製造が可能となる。また、光電変換素子1の薄型化も可能となる。
また、第1基材8と第2基材9とからなる作用極5を互いに交差するように網目状に編む際、同時に集電部3を網目状に編むことによって、より短時間で作用極5と集電領域19を形成することが可能となる。
【0036】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について詳細に説明する。図4は本発明の第2の実施形態の集電部を備えた光電変換素子を示す概略構成図である。
【0037】
本実施形態は、溶接部がライン状であること以外は、第1の実施形態とほぼ同様である。すなわち、本実施形態の集電部3の製造の際は、第11の実施形態と同様に抵抗溶接法を用いて圧着を行うが、第1の実施形態がスポット溶接を実施していたことに対して、ライン溶接を実施しており、その結果、溶接部は、図4の符合24aに示すように、ライン状をなしている。
【0038】
上述したような構成の、第2の実施形態の光電変換素子1は、抵抗溶接するに当たってライン溶接を行うことによって、溶融部の面積が広がり、より接触抵抗が低減される。
【0039】
(実施例)
図1に示す構造の光電変換素子を作製した。
まず、直径0.050mmまで伸線したTi被覆Cu線を、図1のように織機により密な平織り構造の布状電極に製織した。縦横のTi被覆Cu線が織り重ねられる矩形部分(発電部)のサイズは10cm×10cmとし、Ti被覆Cu線の本数は縦横それぞれ1500〜2000本とした。
集電部を構成するTi被覆Cu線の本数は1500〜2000本とし、集電部の幅は1cmとした。
【0040】
この発電部をTiOペースト(触媒化成製、PST-21NR)中に浸漬した後に引き上げて仮乾燥(完全に乾燥させない状態)させた。その後、電気炉にて500℃、1時間焼結して多孔質TiO膜付きTi布状部を得た。TiOの膜厚はおよそ15μmであった。なお、作用極を構成する発電部(10cm×10cm)以外の部分は、ペーストへの浸漬の際には、テープなどによりマスキングを行うことによって、TiOが形成されるのは、発電部のみとなった。
【0041】
次に、上記電極を、ルテニウム色素(Solaronix社製、RutheAlum535-bisTBA、一般には
N719と呼ばれる)の0.3mM、アセトニトリル/tert-ブタノール=1:1溶液に浸漬し、室温で24時間放置してTiO表面に色素を担持した。色素溶液から引き上げた後、上記混合溶媒で洗浄し、これを作用極とした。
【0042】
一方、三元RFスパッタ装置を用いて10cm×10cmの矩形Ti板上にPtを蒸着させたものを対極とした。作用極と対極とは、厚さ20μmのポリオレフィン(旭化成ケミカルズ、ハイポア)からなるセパレータを介して重ね合わせた。
PETからなる収納袋内に、作用極と対極を挿入し、接着剤で封止を行った。
【0043】
集電部においては、集電領域に集電領域の長手方向の長さより所定寸法長く形成されたCu箔を重ね合わせ、さらにこれらをTi箔で挟んだ上で、所定のスポット溶接機を使用して抵抗溶接法を用いて圧着を行った。スポット溶接の間隔は、集電部3の長手方向に沿って約2mm間隔とした。
【0044】
以上のようにして作製された光電変換素子の発電特性を測定したところ、変換効率は、3.2%(JSC=5.6mA/cm、VOC=730mV、ff=0.71)であった。
【0045】
(比較例)
集電領域とAuメッキしたCu箔とをクリップで挟み込んで、Cu箔から集電を行う構造の光電変換素子を作製した。
この構造の光電変換素子においては、変換効率は、0.5%(JSC=1.5mA/cm、VOC=620mV、ff=0.51)となり、実施例と比較して、大きく性能が低下した。
【0046】
なお、集電部3は四角形状の発電部2の一辺より延出した基材の端部近傍に形成するとしたが、これに限ることはなく、例えば四角形状の発電部2の四辺より四方に延出した基材のそれぞれの端部近傍に形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、金属線を電極に用いた光電変換素子に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…光電変換素子、2…発電部、3…集電部、4…集電用配線、5…作用極、6…対極、8…第1基材、9…第2基材、10…セパレータ、13…多孔質酸化物半導体層、14…収納袋、18…電解質、19…集電領域、20…外周基材、21…Cu箔、22…Ti箔、23…溶融部、24…スポット溶接部、25…抵抗溶接用電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するとともに線状をなす複数の第1基材および第2基材が網目状に編まれてなる領域からなる作用極と、
前記領域から前記第1基材および/または前記第2基材が、その長手方向に延在された部位から構成される集電用配線と、
該集電用配線の端部近傍をまとめて電気的に接続する集電部とを有し、
導電性を有するとともに線状をなす複数の外周基材と前記集電用配線とが網目状に編まれてなる他の領域を有する色素増感型光電変換素子の製造方法であって、
前記第1基材、前記第2基材、および前記外周基材として、Cu導線をTiで被覆したものを用い、
前記他の領域にCu箔を重ね、さらに前記他の領域と前記Cu箔を挟むように2つのTi箔を重ねた後、各々のTi箔と垂直をなす方向より抵抗溶接用電極を当接させ、抵抗溶接法を用いて圧着し、前記集電部の内部に溶融部を形成することを特徴とする色素増感型光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記圧着は、スポット状になされることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記圧着は、ライン状になされることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
導電性を有するとともに線状をなす複数の第1基材および第2基材が網目状に編まれてなる領域からなる作用極と、
前記第1基材または前記第2基材の一方の一端側が、前記領域からその長手方向に延在された部位から構成される集電用配線と、
該集電用配線の端部近傍をまとめて電気的に接続する集電部とを有し、
導電性を有するとともに線状をなす複数の外周基材と前記集電用配線とが網目状に編まれてなる他の領域を有する色素増感型光電変換素子であって、
前記第1基材、前記第2基材、および前記外周基材は、Cu導線をTiで被覆したものであり、
前記集電部は、前記他の領域とCu箔とからなる溶融部が、Ti箔で挟まれた構造を有することを特徴とする色素増感型光電変換素子。
【請求項5】
前記集電部には、前記構造がスポット状に点在していることを特徴とする請求項4に記載の色素増感型光電変換素子。
【請求項6】
前記集電部には、前記構造がライン状に延在していることを特徴とする請求項4に記載の色素増感型光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−60664(P2011−60664A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210811(P2009−210811)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】