説明

薄板の製造方法、および薄板製造用の下地板

【課題】下地板を用いた薄板の製造において、下地板を融液から引き上げるときの薄板の剥がれおよび割れを防止する。
【解決手段】主面110と、主面110を取り囲む側面とを有する下地板100が準備される。側面は、先端部121と、先端部121につながる側方部131と、先端部121に対向する後端部141とを有する。後端部141は側方部131に後端角部151を介してつながっている。後端角部151は、側方部131と後端部141との間の角が面取りされた部分である。次に、薄板の材料の融液中に主面110を浸漬することによって、主面110上に薄板が成長させられる。そして、融液から先端部121を引き上げた後に後端部141を引き上げることによって、融液から主面110が取り出される。融液から取り出された主面110から薄板が取り外される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板の製造方法および薄板製造用の下地板に関し、特に、融液中への下地板の浸漬による薄板の製造方法と、その下地板とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1によれば、固相シート成長用基体(下地板)を用いて固相シート(薄板)を製造する方法が開示されている。この方法によれば、下地板の主面上に薄板を融液成長させた後に下地板が融液から取り出される。その後に下地板から薄板が取り外されることで薄板が得られる。
【0003】
この薄板は、たとえば、太陽電池用ウェハの製造に用いられる多結晶シリコン薄板である。この場合、上記の融液は、リンまたはボロンなどのドーパントが添加された高純度シリコンからなる。この融液を材料として下地板の主面上に薄板が形成される。形成された薄板は、下地板より剥離され、さらに、所望のサイズにレーザーもしくはダイサーなどを用いて切断されることで、太陽電池用ウェハとされる。
【0004】
下地板の一例である下地板100Z(図10)は、太陽電池用ウェハなどの製品となる部分が形成される主面110と、融液から最初に引き上げられる先端部121と、融液から最後に引き上げられる後端部141と、先端部121および後端部141をつなぐ側方部131とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4073941号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下地板を融液から引き上げるときには、融液の表面張力に起因して、下地板と液面との間で融液が局所的に引き上げられる。引き上げられた融液は、下地板と液面との距離が十分に大きくなるまで存在し続け、その間、下地板の上に形成された薄板は融液から張力を受け続ける。従来の技術においては、この張力に起因して、薄板が剥がれたり割れたりすることがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、下地板を用いた薄板の製造において、下地板を融液から引き上げるときの薄板の剥がれおよび割れを防止することができる薄板の製造方法、および薄板製造用の下地板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薄板の製造方法は、以下の工程を有する。
主面と、主面を取り囲む側面とを有する下地板が準備される。側面は、先端部と、先端部につながる側方部と、先端部に対向する後端部とを有する。後端部は側方部に後端角部を介してつながっている。後端角部は、側方部と後端部との間の角が面取りされた部分である。次に、薄板の材料の融液中に主面を浸漬することによって、主面上に薄板が成長させられる。そして、融液から先端部を引き上げた後に後端部を引き上げることによって、融液から主面が取り出される。融液から取り出された主面から薄板が取り外される。
【0009】
本発明によれば、下地板の側方部と後端部との間の角が面取りされている。これにより、下地板が融液の液面から分離される際、下地板および液面の間で局所的に引き上げられた融液と雰囲気との界面の位置(後述するメニスカス位置)の移動が、側方部に沿ったものから後端部に沿ったものへと円滑に移行する。そのため、下地板および液面の間で局所的に引き上げられた融液の量がより速やかに減少する。この結果、後端部において薄板が融液の張力で下方向へ引っ張られる力が低減されるので、下地板を融液から引き上げる際に薄板が剥がれたり割れたりすることが防止される。
【0010】
好ましくは、平面視において、側方部は第1の仮想直線上に延在し、後端部は第1の仮想直線に交差する第2の仮想直線上に延在し、側方部および後端部の各々と、第1および第2の仮想直線の交点との距離は10mm以上である。後端角部は平面視において4分円の円弧であってもよい。あるいは平面視において、後端角部が少なくとも1つの直線形状を有してもよく、この場合、少なくとも1つの直線形状のうち側方部につながるものと側方部との各々の延在方向の相違に対応する角度は30°以下であることが好ましい。
【0011】
上記の薄板の製造方法において好ましくは、下地板は、主面を周辺部と周辺部よりも内側の内側部とに区画する周縁溝を有する。より好ましくは、下地板は、周辺部と内側部とを互いにつなぐように周縁溝の一部を埋める橋渡し部を有する。さらに好ましくは、平面視において、側方部は第1の仮想直線上に延在し、後端部は第1の仮想直線に交差する第2の仮想直線上に延在し、第1および第2の仮想直線の交点と内側部および橋渡し部が互いにつながる位置とを結ぶ第3の仮想直線と、第2の仮想直線とのなす角度は45°以上である。
【0012】
これにより、薄板が剥離落下することを防ぎつつ、薄板が冷却収縮することで下地板を挟み込むことに起因する薄板の割れを防止し、また薄板の後端部の内部応力に起因した強度劣化を低減することができる。
【0013】
本発明の薄板製造用の下地板は、主面および側面を有する。主面は、薄板の材料の融液中に浸漬されることによって薄板を成長させるためのものである。側面は主面を取り囲んでいる。側面は、先端部と、先端部につながる側方部と、先端部に対向する後端部とを有する。後端部は側方部に後端角部を介してつながっている。後端角部は、側方部と後端部との間の角が面取りされた部分である。
【0014】
本発明の薄板製造用の下地板を用いることによって、上述した薄板の製造方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、下地板を用いた薄板の製造において、下地板を融液から引き上げる際に薄板が剥がれたり割れたりすることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態における下地板の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の下地板の概略的な部分平面図である。
【図3】図1の下地板を用いた薄板の製造方法を模式的に示す図である。
【図4】比較例の下地板の後端部が融液から引き上げられていく様子を概略的に示す断面図(A)、後端部が融液から引き上げられた様子を下地板の先端部側から見た図(B)、後端部が融液からさらに引き上げられた様子を下地板の先端部側から見た図(C)である。
【図5】図1の下地板の後端部が融液から引き上げられていく様子を概略的に示す断面図(A)、後端部が融液から引き上げられた様子を下地板の先端部側から見た図(B)、後端部が融液からさらに引き上げられた様子を下地板の先端部側から見た図(C)である。
【図6】図1の下地板の上に形成された薄板の内部応力を模式的に示す図である。
【図7】比較例の下地板の上に形成された薄板の内部応力を模式的に示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態における下地板の構成を概略的に示す斜視図である。
【図9】図8の下地板の概略的な部分平面図である。
【図10】比較例の下地板の構成を示す斜視図である。
【図11】図10の下地板の部分平面図(A)、およびその変形例(B)である。
【図12】下地板の後端角部の円弧形状の半径と薄板製造歩留との関係の一例を、比較例の薄板製造歩留と共に示すグラフ図である。
【図13】下地板の橋渡し部の位置と薄板製造歩留との関係の一例を、比較例の薄板製造歩留と共に示すグラフ図である。
【図14】下地板の後端角部の直線形状と側方部との各々の延在方向の相違に対応する角度と、薄板製造歩留との関係の一例を、比較例の薄板製造歩留と共に示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
<第1の実施形態>
(下地板を用いた薄板製造方法の概要)
図3を参照して、本実施の形態の薄板製造装置は、容器(図示せず)内に設けられた、浸漬機構300および坩堝201を有する。坩堝201は、カーボンまたはシリカなどの耐熱性を有する材料から作られている。坩堝201にはまず固体原料が充填される。固体原料としては、たとえば太陽電池用薄板を製造する場合、シリコン塊が用いられ得る。充填された固体原料は、ヒーター加熱、ランプ加熱、または誘導加熱などにより融解される。これにより坩堝201内に、液面LSを有する融液202が形成される。融液202が不足する場合や、薄板製造によって融液202が減少した場合は、原料追加装置(図示せず)によって原料が坩堝201に追加されればよい。このとき追加される原料は、固体状態および融液状態のいずれの状態を有してもよい。
【0018】
上記容器(図示せず)内の雰囲気は、坩堝201や融液202と雰囲気ガスとの反応を防ぐために、不活性ガス雰囲気とされることが望ましい。これにより、たとえば黒鉛製坩堝やシリコン融液と酸素などとの反応が抑制され、よって坩堝201および融液202の消耗や、望ましくない反応物の生成を防ぐことができる。
【0019】
浸漬機構300は、横行軸301に沿って横行機構302が横行動作を行なうよう、横行軸と一体化された横行駆動機構を有する。横行機構302に備わる昇降駆動機構303によって、昇降機構305および昇降軸304が昇降動作を行なう。昇降機構305には回転駆動機構が一体化され、回転アーム306が回転するに伴い、支持アーム307も回転動作を行なう。支持アーム307の回転に伴い、支持アーム端と昇降軸端に接続された下地板保持台308が回転する。なお下地板保持台には、詳しくは後述する下地板100が保持されている。下地板100は、図示しない交換機構によって新しい下地板と交換され得ることが望ましい。
【0020】
コンピュータやPLC、サーボモータのモーションコントロールなどを用いることで、横行駆動機構と、昇降駆動機構と、回転駆動機構とは、各々独立した動作を行なうことが可能である。下地板100の軌道が所定のものとなるよう、横行、昇降、および回転のそれぞれに対応する3軸について動作プログラムを作成し、それを各軸の間でリンクさせて動作させることで、保持された下地板100を紙面平面内にて自由に上下左右回転動作させることができ、任意の軌道で動作させることが可能である。
【0021】
下地板100は、下地板保持台308が上向きの位置で下地板保持台308に取り付けられ、その後、矢印320に沿って横行、昇降、および回転動作を行なう。これにより、下地板100の主面は先端部側から融液202に浸漬される。融液202に浸漬された主面(図中における下面)上には、融液202を原料として薄板が成長する。次に下地板100の主面は、先端部側から融液202と分離される。そして下地板100は、再度上向きの交換位置に戻される。その後、下地板100を下地板保持台308から取り出し、容器外にて薄板を剥離することで、薄板が得られる。次に、下地板保持台308に、この薄板が剥離された下地板100、または別個の新たな下地板100を取り付けることで、さらに薄板を製造することができる。剥離された薄板は、所望のサイズに、レーザーまたはダイサーなどで切断され、たとえば太陽電池用ウェハとされる。
【0022】
なお上記の浸漬機構300は一例に過ぎず、下地板100の主面を融液202に浸漬した後に取り出すことができる他の構成が用いられてもよい。
【0023】
(下地板の構成の概要)
図1を参照して、下地板100は、互いに対向する主面110および裏面と、主面110および裏面の間をつなぐように主面110を取り囲む側面とを有する。
【0024】
側面は、先端部121と、先端部121につながる側方部131と、先端部121に対向する後端部141とを有する。後端部141は側方部131に後端角部151を介してつながっている。後端角部151は、側方部131と後端部141との間の角が面取りされた部分であり、かつ平面視において外側に凸の曲線状に面取りされた部分である。いわゆるR面取りが行われる場合も本実施の形態に含まれる。
【0025】
先端部121は、融液202(図3)に最初に浸漬され、かつ融液202から最初に引き上げられる部分である。後端部141は、融液202に最後に浸漬され、かつ融液202から最後に引き上げられる部分である。側方部131は、下地板100が融液202に浸漬されている際の下地板100の進行方向と平行な部分である。
【0026】
また先端部121には、融液202(図3)から引き上げられた下地板100上に形成された薄板が搬送中に外れないようにするために、窪み形状の掴み部122が形成されている。
【0027】
また側方部131および後端部141上にはスリット132が形成されている。スリット132は、周縁溝113から分離していることが望ましい。スリット132によって、周辺部112や側方部131、後端部141表面上に成長する凝固物の体積を減少させることが可能である。また、この凝固物が融液202に剥離落下した場合、この落下物にスリット132に対応する溝が形成されていることで、この落下物が速やかに溶解し、よってこの落下物が次の薄板の生産の障害になりにくくなる。
【0028】
主面110は周縁溝113によって、周辺部112と、周辺部112よりも内側の内側部111とに区画されている。周縁溝113の機能について、以下に説明する。下地板100が融液202(図3)に浸漬されると、主面110上だけでなく、先端部121、側方部131、および後端部141の上にも融液から薄板が形成される。この薄板は、融液202中から取り出されると、その温度が低下するに従い収縮する。この収縮が下地板100を挟みこむように生じると、薄板は収縮応力に負けて破損し得る。周縁溝113が設けられることによって、主面110の主要部である内側部111が側方部131および後端部141から分離されるので、上記のような破損が生じにくくなる。
【0029】
また主面110上に、周辺部112と内側部111とを互いにつなぐように、周縁溝113の一部を埋める橋渡し部161が設けられている。橋渡し部161の機能について、以下に説明する。
【0030】
仮に周縁溝113によって内側部111と周辺部112とが互いに完全に分離されると、薄板製造時に薄板の後端部側で剥離を防止することができず、薄板が製造直後に剥離落下する可能性が高い。これに対して後端角部151付近に橋渡し部161が設けられていると、橋渡し部161上に形成された凝固物によって、内側部111上に形成された薄板と、周辺部112上に形成された凝固物とは一体化される。これにより内側部111上の薄板は、橋渡し部161上の凝固物と掴み部122との各々から支持され、よって、先端部121が融液202(図3)から引き上げられて上向きになるまでに剥離落下することが抑制される。
【0031】
また橋渡し部161上の凝固物の強度は適度に小さい方が好ましい。なぜならば、橋渡し部161上の凝固物の強度が過度に大きいと、この凝固物は先端部121が上向きになった後も割れずに存在し続けることで薄板に大きな応力をかけてしまい、その結果、薄板が割れることがあるからである。橋渡し部161上の凝固物の強度が小さければ、薄板が割れる前にこの凝固物が割れることで上記の応力を解放することができる。この凝固物の強度を抑えるためには、橋渡し部161の幅を過度に大きくしなければよい。具体的には、橋渡し部161の幅が1mm以上5mm以下とされることが好ましい。
【0032】
図2を参照して、平面視において、側方部131は仮想直線LN1(第1の仮想直線)上に延在し、後端部141は仮想直線LN1に交差する仮想直線LN2(第2の仮想直線)上に延在している。仮想直線LN1およびLN2は、交点154において直交している。好ましくは、側方部131と交点154との距離B1は10mm以上であり、後端部141と交点154との距離B2は10mm以上である。また後端角部151は、図2に示すように、平面視において4分円の円弧であってもよい。この円弧の半径Rは、距離B1およびB2の各々に対応し、好ましくは10mm以上である。
【0033】
また好ましくは、平面視において、交点154と、内側部111および橋渡し部161が互いにつながる位置とを結ぶ仮想直線LN3(第3の仮想直線)と、仮想直線LN2とのなす角度A1(橋渡し角度)は45°以上である。
【0034】
(下地板の後端角部の詳細)
比較例として、面取りされていない直角の後端角部151Zを有する下地板100Z(図10)が融液から取り出される場合について、以下に説明する。
【0035】
図4(A)の右側に示すように、下地板100Zの主面110が融液の液面LS下に浸漬されている間に、主面110と先端部121とに薄板Pが形成される。より詳しくは、薄板Pは先端部121の掴み部122に回り込むように形成され、これにより薄板Pは下地板100Zから剥離落下しにくくなっている。
【0036】
次に図4(A)の中央に示すように、まず先端部121が液面LSから引き上げられる。このとき、融液の表面張力によって、下地板100Zと液面LSとの間で融液が局所的に引き上げられた部分LPが生じる。この結果、部分LPの張力Tが薄板Pに作用する。すなわち薄板Pに対して融液の方に向かう力が作用する。
【0037】
次に図4(A)の左側に示すように、次に後端部141も液面LSから引き上げられる。この引き上げにともなって、側方部131(図4(A)において図示せず)から見た、部分LPと雰囲気との界面の位置(メニスカス位置)は、先端部121から後端部141の方へと移動する。
【0038】
さらに図4(B)を参照して、このときの融液の様子を先端部121から見ると、メニスカス位置MPは、図中矢印D1に示すように、側方部131に沿って移動して後端角部151Zに達する。
【0039】
図4(C)を参照して、後端部141がさらに引き上げられても、メニスカス位置MPは後端角部151Zの位置に比較的長い間留まる。この後、後端部141がさらに大きく引き上げられると、メニスカス位置MPは、破線矢印D2に示すように後端部141の中央側へ移動し、やがて部分LPは消失する。
【0040】
メニスカス位置MPが後端角部151Zに長時間留まる理由は、次のように推察される。上記のメニスカス位置MPの移動は、矢印D1(図4(B))に沿う第1段階と、破線矢印D2(図4(C))に沿う第2段階とに2分され、第1段階から第2段階への移行には、矢印D1から矢印D2への方向転換、すなわち90°の急激な方向転換を要する。このため第1段階から第2段階への移行は円滑に行われず、よってメニスカス位置MPの移動は第1および第2段階の間で長時間留まってしまう。その結果、メニスカス位置MPは後端角部151Zに長時間留まる。
【0041】
メニスカス位置MPが後端角部151Zに長時間留まることは、後端角部151Z上において薄板Pが大きな張力Tに長時間引っ張られ続けることを意味し、この結果、薄板Pが割れたり、落下したりし得る。薄板Pの割れは、特に掴み部122の近傍で生じやすい。この理由は、張力Tによって落下しようとする薄板Pを掴み部122が保持し続けようとする結果、掴み部122の近傍において薄板Pに大きな応力がかかるためである。
【0042】
次に本実施の形態の下地板100(図1)が融液から取り出される場合について、以下に説明する。
【0043】
図5(A)および(B)を参照して、まずは比較例(図3(A))とほぼ同様に、後端部141が液面LSから取り出される。これにより、メニスカス位置MPは、後端角部151に達する。
【0044】
図5(C)を参照して、後端部141がさらに引き上げられると、矢印D3に示すように、メニスカス位置MPは後端角部151を速やかに通過し、その移動方向が後端部141に沿ったものとなり、やがて融液が引き上げられた部分LPは消失する。
【0045】
メニスカス位置MPが後端角部151を速やかに通過する理由は、後端角部151が面取りされているために、メニスカス位置MPが移動する際に急激な方向転換を必要とせず、このためメニスカス位置MPが円滑に移動するからと考えられる。この結果、下地板100が融液から引き上げられる際、融液が薄板Pを下方向に引っ張る張力Tの累積は、比較例に比して低減される。これにより、薄板Pの割れや剥離落下の発生が抑制できる。
【0046】
上記の効果を十分に得るためには、距離B1およびB2(図2)が10mm以上であることが望ましい。ただしこれらの距離を大きくし過ぎると、主面110の面積が減少するので、得られる薄板Pの面積も減少してしまう。また得られる薄板Pの平面形状も大きく面取りされたものとなるため、薄板Pが最終的に正方形または長方形などに整形される場合は、整形時に除去される部分が増えてしまう。このため距離B1およびB2は、メニスカス位置MPを円滑に移動させることと、主面110の面積を確保することとのバランスを考慮して定められることが好ましい。
【0047】
次に本実施の形態の下地板100の橋渡し部161(図1および図2)について詳しく説明する。
【0048】
前述のように、内側部111上に成長した薄板Pと、周辺部112上に成長した凝固物とは、橋渡し部161上に成長した凝固物によって、先端部121が上向きになるまでは一体化していることが好ましい。また橋渡し部161上の凝固物は、先端部121が上向きになった後は、薄板Pの収縮に伴い割れ得ることが望ましい。橋渡し部161上の凝固物が割れるまでの薄板Pの収縮による応力は、薄板Pのうち最後に融液から出てくる部分である後端部141近傍に集中する。この応力は、薄板P冷却後に内部応力となることで薄板Pの強度不足を引き起こす可能性がある。そのため、橋渡し部161については、その幅だけでなく、その配置も非常に重要である。
【0049】
図6を参照して、本実施の形態の下地板100においては、橋渡し部161は後端部141近くではなく側方部131近くに配置されている。これにより後端部141近傍で薄板Pが固定されないので、後端部141から中央部に向けて薄板が比較的自由に収縮することができ、この結果、図中点線で囲った後端部141付近において、薄板に残留する内部応力SRが緩和される。
【0050】
一方、後端部141近くに配置された橋渡し部161Yを有する下地板100Y(図7)の場合は、後端部141の両端で薄板が固定されるため、後端部141から中央部に向けて薄板が収縮するための自由度が小さく、この結果、橋渡し部161Yから中央に向かう収縮による大きな応力が残留し、内部応力SCとなる。融液から引き上げられた薄板は、通常、自動的に剥離され、レーザー加工などによってその周辺部が切断され、その後、外観、重量、および強度などの検査が行なわれる。内部応力SCが大きいと、これら剥離工程、切断工程、および検査工程での衝撃により内部応力SCが開放されることで薄板が割れてしまうことがある。
【0051】
よって薄板の検査工程まで考慮した薄板の歩留を向上させるためには、図6に示すように、橋渡し部161が後端部141近くでなく側方部131近くに配置されることが望ましい。具体的には、前述したように、角度A1(図2)が45°以上とされることが望ましい。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態によれば、下地板100(図1)の側方部131と後端部141との間に、面取りされた後端角部151が設けられている。これにより、下地板100が融液202の液面LSから分離される際、メニスカス位置MP(図5(C))の移動が、側方部131に沿ったものから後端部141に沿ったものへと、矢印D3に示すように円滑に移行する。そのため、下地板100および液面LSの間で局所的に引き上げられた融液の部分LPの量がより速やかに減少する。この結果、後端部141において薄板Pを下方向へ引っ張る融液202の張力Tの累積が低減されるので、下地板100を融液202から引き上げる際に薄板Pが剥がれたり割れたりすることが防止される。
【0053】
<第2の実施形態>
(下地板の構成の概要)
図8および図9を参照して、本実施の形態の下地板100vは後端角部151vを有する。後端角部151vは、側方部131と後端部141との間の角が面取りされた部分であり、かつ平面視において少なくとも1つの直線を有する形状に面取りされた部分である。後端角部151vは、平面視において複数の直線(図9においては3つの直線)を有する形状に面取りされてもよく、この場合、隣り合う直線は外側に凸の角をなすようにつながっている。あるいは後端角部151vは平面視において1つの直線を有する形状に面取りされてもよい。
【0054】
本実施の形態によれば、面取り部分が平面視において直線形状を有する。よって面取り部分を形成するための加工は直線的な加工でよく、よって面取りの加工を容易に行うことができる。
【0055】
(下地板の後端角部の詳細)
第1の実施形態の後端角部151(図2)は曲線形状を有するので、平面視において、側方部131側から後端部141側へ連続的に縁の延在方向が変化している。
【0056】
これに対して本実施の形態の後端角部151vは直線形状を有するので、平面視において、段階的に縁の延在方向が変化している。たとえば図8に示す形状の場合、縁の延在方向は、側方部131に沿う方向から、反時計方向に4段階の方向の変化を経て、後端部141に沿う方向となっている。これらの方向の変化のうち特に重要なのは、側方部131に沿う方向に対する最初の方向変化であり、言い換えれば、図中、角度A2(側面角度)によって示される方向変化である。この理由は、角度A2の大きさによって、メニスカス位置MPの後端部141中央への移行(図5(C))のしやすさが大きく変化するためである。
【0057】
比較例の下地板100Zの後端角部151Z(図11(A))は平面視において1つの頂点であり、この場合、角度A2に相当する方向変化の角度は90°である。このように方向変化が大きいと、第1の実施形態の欄において説明したように、メニスカス位置MPが速やかに移動しない。このため角度A2は90°よりも小さくされる必要があり、好ましくは30°以下とされる。これにより第1の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。
【0058】
なお平面視における下地板100vの縁の延在方向の段階的な変化の各々の角度が等しい場合、後端角部151vの直線形状が有する直線の数が増えるにつれて、角度A2が小さくなる。たとえば、この数が1つの場合は90°/(1+1)=45°、2つの直線の場合は90°/(1+2)=30°である。よって角度A2を30°以下とするためには、この直線の数が2以上とされることが好ましい。直線の数をさらに増やしていくと、角度A2は0°に近づき、また後端角部151vの平面視における形状は第1の実施形態の後端角部151の形状に近づく。
【0059】
距離B1、B2、および角度A1の各々の好ましい範囲は、第1の実施形態の場合と同様である。また上記以外の構成については、上述した第1の実施形態の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【実施例1】
【0060】
比較例としての下地板100Zv(図11(B))と、下地板100(図1および図2)の実施例との各々を用いて、薄板の製造歩留を調べた。ここで下地板100Zvは、下地板100Z(図11(A))に橋渡し部161Mが橋渡し角度A1=45°で付加された構造を有する。また下地板100の実施例としては、半径R(図2)が、5mm、10mm、および20mmの各々を有するものが用いられた。なお下地板100の橋渡し角度A1(図2)は45°以上とされた。
【0061】
これらの下地板の各々について、融液202への浸漬による薄板の形成と、薄板の下地板からの取り外しと、取り外された薄板のレーザー加工による周辺切断と、打音による割れ検査とが行われた。また歩留は、下地板の融液への浸漬を行った総数を分母とし、得られた薄板のうち検査に合格したものの数を分子として算出した。
【0062】
図12を参照して、比較例の下地板によると、歩留は約80%強であった。これに対して本実施例の歩留りは、半径R=5mmの場合、比較例に対して若干の向上が見られ、また半径R=10mm以上の場合、比較例に対して顕著な向上が見られた。具体的には本実施例の歩留は、半径R=10mmの場合は約90%強、半径R=20mmの場合は約93%であった。この結果から、円弧状の後端角部151(図2)が用いられることによって歩留りが向上し、またこの円弧の半径が10mm以上、言い換えると距離B1およびB2(図2)の各々が10mm以上とされることで顕著に歩留りが向上することがわかった。
【実施例2】
【0063】
図13を参照して、下地板100(図1および図2)の実施例として、半径Rを20mmに固定しつつ、橋渡し角度A1=45°未満、45°、および45°超の各々を有するものが用いられた。その他の条件は実施例1と同様とされた。橋渡し角度A1=45°未満の場合は比較例に対して歩留の低下が見られたが、橋渡し角度A1=45°以上の場合は比較例に対して顕著な歩留の向上が見られた。具体的には、比較例の歩留が約80%であるのに対して、橋渡し角度A1=45°の場合の歩留は約90%、45度超の場合の歩留は約93%であった。この結果から、橋渡し角度A1を45°以上とすることで、歩留りが顕著に向上することがわかった。
【実施例3】
【0064】
比較例としての下地板100Zv(図11(B))と、下地板100v(図8および図9)の実施例との各々を用いて、薄板の製造歩留を調べた。下地板100vの実施例としては、側面角度A2(図9)が45°および30°の各々を有するものが用いられた。なお下地板100vの橋渡し角度A1(図9)は45°以上とされた。
【0065】
図14を参照して、側面角度A2=45°の場合は、比較例に対して若干の歩留の向上が見られ、また側面角度A2=30°の場合は比較例に対して顕著な歩留の向上が見られた。具体的には、比較例の歩留が約80%であるのに対して、側面角度A2=30°の場合の歩留は約90%であった。この結果から、後端角部を少なくとも1つの直線形状を有するものとすることによって歩留りを向上させることができ、特に側面角度A2を30°以下とすることによって歩留りを顕著に向上させることができることがわかった。
【0066】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、融液中への下地板の浸漬による薄板の製造方法と、その下地板とに、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0068】
100,100v 下地板、110 主面、111 内側部、112 周辺部、113 周縁溝、121 先端部、122 掴み部、131 側方部、132 スリット、141 後端部、151,151v 後端角部、154 交点、161 橋渡し部、201 坩堝、202 融液、300 浸漬機構、301 横行軸、302 横行機構、303 昇降駆動機構、304 昇降軸、305 昇降機構、306 回転アーム、307 支持アーム、308 下地板保持台、LN1〜LN3 第1〜第3の仮想直線、LS 液面、MP メニスカス位置、P 薄板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板の製造方法であって、
主面と、前記主面を取り囲む側面とを有する下地板を準備する工程を備え、
前記側面は、先端部と、前記先端部につながる側方部と、前記先端部に対向する後端部とを有し、前記後端部は前記側方部に後端角部を介してつながっており、前記後端角部は前記側方部と前記後端部との間の角が面取りされた部分であり、さらに
前記薄板の材料の融液中に前記主面を浸漬することによって、前記主面上に前記薄板を成長させる工程と、
前記融液から前記先端部を引き上げた後に前記後端部を引き上げることによって前記融液から前記主面を取り出す工程と、
前記融液から取り出された前記主面から前記薄板を取り外す工程とを備える、薄板の製造方法。
【請求項2】
平面視において、前記側方部は第1の仮想直線上に延在し、前記後端部は前記第1の仮想直線に交差する第2の仮想直線上に延在し、前記側方部および前記後端部の各々と、前記第1および第2の仮想直線の交点との距離は10mm以上である、請求項1に記載の薄板の製造方法。
【請求項3】
平面視において前記後端角部は4分円の円弧である、請求項2に記載の薄板の製造方法。
【請求項4】
平面視において、前記後端角部は少なくとも1つの直線形状を有し、前記少なくとも1つの直線形状のうち前記側方部につながるものと前記側方部との各々の延在方向の相違に対応する角度は30°以下であるである、請求項1または2に記載の薄板の製造方法。
【請求項5】
前記下地板は、前記主面を周辺部と前記周辺部よりも内側の内側部とに区画する周縁溝を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄板の製造方法。
【請求項6】
前記下地板は、前記周辺部と前記内側部とを互いにつなぐように前記周縁溝の一部を埋める橋渡し部を有する、請求項5に記載の薄板の製造方法。
【請求項7】
平面視において、前記側方部は第1の仮想直線上に延在し、前記後端部は前記第1の仮想直線に交差する第2の仮想直線上に延在し、前記第1および第2の仮想直線の交点と前記内側部および前記橋渡し部が互いにつながる位置とを結ぶ第3の仮想直線と、前記第2の仮想直線とのなす角度は45°以上である、請求項6に記載の薄板の製造方法。
【請求項8】
薄板製造用の下地板であって、
前記薄板の材料の融液中に浸漬されることによって前記薄板を成長させるための主面と、
前記主面を取り囲む側面とを備え、
前記側面は、先端部と、前記先端部につながる側方部と、前記先端部に対向する後端部とを有し、前記後端部は前記側方部に後端角部を介してつながっており、前記後端角部は前記側方部と前記後端部との間の角が面取りされた部分である、薄板製造用の下地板。
【請求項9】
平面視において、前記側方部は第1の仮想直線上に延在し、前記後端部は前記第1の仮想直線に交差する第2の仮想直線上に延在し、前記側方部および前記後端部の各々と、前記第1および第2の仮想直線の交点との距離は10mm以上である、請求項8に記載の薄板製造用の下地板。
【請求項10】
平面視において前記後端角部は4分円の円弧である、請求項9に記載の薄板製造用の下地板。
【請求項11】
平面視において、前記後端角部は少なくとも1つの直線形状を有し、前記少なくとも1つの直線形状のうち前記側方部につながるものと前記側方部との各々の延在方向の相違に対応する角度は30°以下である、請求項8または9に記載の薄板製造用の下地板。
【請求項12】
前記下地板は、前記主面を周辺部と前記周辺部よりも内側の内側部とに区画する周縁溝を有する、請求項8〜11のいずれか1項に記載の薄板製造用の下地板。
【請求項13】
前記下地板は、前記周辺部と前記内側部とを互いにつなぐように前記周縁溝の一部を埋める橋渡し部を有する、請求項12に記載の薄板製造用の下地板。
【請求項14】
平面視において、前記側方部は第1の仮想直線上に延在し、前記後端部は前記第1の仮想直線に交差する第2の仮想直線上に延在し、前記第1および第2の仮想直線の交点と前記内側部および前記橋渡し部が互いにつながる位置とを結ぶ第3の仮想直線と、前記第2の仮想直線とのなす角度は45°以上である、請求項13に記載の薄板製造用の下地板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−41242(P2012−41242A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185893(P2010−185893)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】