説明

薄膜ガスセンサ

【課題】ダイアフラム構造の薄膜ガスセンサにおけるガス選択性を、従来のものより向上させる。
【解決手段】感知層7を、第1層としてドナーとなる+5価または+6価の元素を添加したSnO2層9、その上の第2層として触媒となる元素を添加したSnO2層10の、2層構造とするものは既に公知であるが、ガス選択性の点でいまだ不十分なので、この発明では、第2層10における触媒添加量を10wt%を超え60wt%以下とすることにより、水素ガス選択性,メタンガス選択性ともに向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電池駆動を念頭においた低消費電力型薄膜ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスセンサは、ガス漏れ警報器などの用途に用いられ、ある特定ガス、例えばCO,CH4,C38,CH3OH等に選択的に感応するデバイスであり、その性格上、高感度,高選択性,高応答性,高信頼性,低消費電力が必要不可欠である。
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガス検知を目的としたものと、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的としたもの、または、両方の機能を合わせ持ったものなどがあるが、いずれもコストや設置性の問題から普及率はそれほど高くない。そういったことから、普及率の向上を図るべく設置性の改善、具体的には電池駆動としコードレス化することが望まれている。
【0003】
電池駆動を実現するためには低消費電力化が最も重要であるが、接触燃焼式や半導体式のガスセンサでは、100℃〜500℃の高温に加熱し検知する必要がある。これから、SnO2などの粉体を焼結した従来の方法では、スクリーン印刷等の方法を用いて厚みを薄くするには限界があり、電池駆動に用いるには熱容量が大きすぎた。そこで、ヒーター,感知膜を1μm以下の薄膜で形成し、さらに、微細加工プロセスによりダイアフラム構造などの低熱容量構造とした薄膜ガスセンサの実現が待たれていた。その結果、低熱容量構造とした薄膜ガスセンサが例えば特許文献1で提案されている。
【0004】
図3に特許文献1と基本的に同様の薄膜ガスセンサの断面構造を示す。
これは、例えば以下のように作製されたものである。
まず、両面に熱酸化膜が付いたシリコン(Si)ウエハ1上に、ダイアフラム構造の支持層および熱絶縁層2としてSi34とSiO2膜を順次CVD法にて形成する。次にヒーター層3,SiO2絶縁層4の順にスパッタ法で形成する。その上に、接合層5,感知層電極6,感知層7を形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行なう。成膜条件は接合層(TaまたはTi)5,感知層電極(PtまたはAu)6とも同じで、Arガス圧力1Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は接合層5/感知層電極6=500Å/2000Åである。
【0005】
次に、感知層7を成膜し、感知層7の上にはAl23などの多孔質金属酸化物に触媒を担持した選択燃焼層8が、スクリーン印刷法により塗布され、500℃で1時間以上焼成される。選択燃焼層8の大きさは感知層7を十分に覆えること、焼成後の厚さが20ないし30μm程度になることが望ましい。最後に、シリコンウエハ1の裏面からエッチングによりシリコンを除去し、ダイアフラム構造とする。
【0006】
以上のような構造の薄膜ガスセンサの寿命を、電池の交換無しで5年以上保証するためには、ヒーター3の間欠駆動が必須となる。CO検出用のCOセンサとして用いる場合には、150秒に一回の検知が必要であり、さらにオフ時間に感知層7の表面に付着した水分その他の吸着物を脱離させるために、感知層7の表面を一旦クリーニングすることが経時安定性を向上する上で重要である。そこで、薄膜COセンサでは、CO検出前にヒーター3の温度をクリーニングの目的で、50〜200msecの間400〜500℃に一旦加熱し、その直後に、CO検出温度である100℃前後に200〜1000msecの間保持すると言う温度パターンによりCO検出を行なっている。
【0007】
このような薄膜ガスセンサをCO検出用のCOセンサとして用いる場合、COに対する感度が良好であることはもちろんのこと、CH4やH2などの異種ガスに対する選択性や、センサの長寿命を保証する耐久性など種々の要求を満たさなければならない。
ここで、CO感度(CO濃度勾配)とは、例えばCO=300ppmとCO=500ppm時のセンサ抵抗値、CH4選択性は、例えばCH4=4000ppm時とCO=100ppm時のセンサ抵抗値の比、H2選択性は、例えばH2=1000ppm時とCO=100ppm時のセンサ抵抗値の比で定義する。
【0008】
そこで、ガス選択性を向上させるため、出願人は特許文献2に示すものを提案している。これは、ドナーとなる+5価または6価の元素を添加したSnO2層(第1層)と、触媒をドープしたSnO2層(第2層)を組み合わせたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−298108号公報(第4頁、図1)
【特許文献2】特開2000−292399号公報(第4−5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2に記載のものにも未だ改良の余地が残されている。
したがって、この発明の課題は、薄膜ガスセンサにおけるガス選択性をより向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、薄膜状の支持膜の外周部または両端部をSi基板により支持し、外周部または両端部が厚く中央部が薄く形成されたダイアフラム様の支持基板上に、薄膜のヒーターを形成し、この薄膜のヒーター層を電気絶縁膜で覆い、その上に第1層としてドナーとなる+5価または+6価の元素を添加したSnO2層、さらにその上に第2層として触媒となる元素を添加したSnO2層を積層した2層構造のガス感知層を形成し、このガス感知層に接し所定間隔おいて1対の貴金属からなる感知電極層を設けてなる薄膜ガスセンサにおいて、前記ガス感知層を外界から覆うように形成される選択燃焼層を備え、前記ガス感知層を形成する第2層の触媒の添加量を10wt%を超え60wt%以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、2層構造の薄膜ガスセンサおいて、特に第2層への触媒添加濃度を最適化することで、従来不十分であったガス選択性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態を示す断面図
【図2】Ptの膜表面からの深さ方向の濃度分布の説明図
【図3】従来例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1はこの発明の実施の形態を示す構成図である。
図1からも明らかなように、感知層電極6を形成するところまでは従来例と同じなので、ここでは異なる点について説明する。なお、8は選択燃焼層を示す。
ターゲットとなる感知層7として、ドナードープの第1層9にはSbを0.5重量パーセント(wt%)有するSnO2を用い、また、触媒ドープの第2層10にはPtを16wt%有するSnO2を用いる。
成膜条件は、Ar+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は第1,第2とも400nmである。さらに、最後に基板裏面よりドライエッチャーを用いてエッチングしてダイアフラム部のSiを除去し、ダイアフラム構造とした。
【0015】
表1に、従来例と実施例における感知層の形成条件を記した。
感知層の第1層はドナーとして例えばSbを添加したSnO2膜であり、膜厚は400nmである。これは、従来例も実施例も同じである。また、第2層については添加した触媒はPtであり、従来例40nm、実施例40または400nmである。同表中の形成条件で第2層触媒濃度としている値は、第2層最表面から厚さ方向に30nm以上の深い位置における触媒元素の濃度を、X線光電子分光分析装置(ESCA)により測定した結果
から重量%に換算した値である。また、図2に従来例と実施例における膜厚方向のPt濃度分布を示す。同図から、濃度は第2層最表面からの深さが約30nm以上になると、安定することが分かる。
【0016】
【表1】

【0017】
表2に各条件におけるガスセンサの諸特性を、各形成条件で作製したサンプルの内で平均的な特性を有する1個について取り上げて示す。ここで示す特性は、先の段落〔0006〕に記載した温度パターンにて検知した結果である。諸特性として、CO濃度依存性,水素選択性およびメタン選択性を比較した。
【表2】

【0018】
CO濃度勾配(CO濃度依存性)は、CO=300ppm時とCO=500ppm時のセンサ抵抗値の比で定義し、メタン選択性は、CH4=4000ppm時とCO=100ppm時のセンサ抵抗値の比で定義し、また、水素選択性は、H2=1000ppm時とCO=100ppm時のセンサ抵抗値の比でそれぞれ定義する。CO濃度依存性の値が大きいことは高感度であると同時に、センサ抵抗値の経時的な変動に対して検知濃度の変動幅が小さくなることも意味し、ガス漏れ警報器にとっては望ましい。また、ガス選択性は対象ガスのみを選択的に検知する指標であり、ガス漏れ警報器に搭載した場合に、他のガスにより誤報を発することを防止するためには、値が少なくとも「1」以上である必要がある。
【0019】
実施例1は従来例に対し、第2層の膜厚が10倍の400nmで、第1層と同じ厚さに成膜する。これにより、表2に示すように水素選択性が2倍に向上している。
実施例2では第2層の膜厚は従来例と同じであるが、触媒濃度を従来例の4wt%に対して11wt%とした。表2によれば水素選択性は2.9倍、メタン選択性は5倍に向上している。
実施例3では、触媒活性を大幅に高くすることをねらい、第2層の膜厚を従来例の10倍、触媒濃度を従来例の約2.7倍とした。表2からCO濃度依存性は従来例とほぼ同じに保たれ、ガス選択性は水素で16倍、メタンでは50倍以上も改善されていることが分かる。
【0020】
また、実施例4,5は第2層の触媒濃度を格段に高くしたもので、実施例4の場合は水素選択性,メタン選択性ともに大幅に改善されているが、実施例5の場合はメタン選択性は大幅に改善されているが、水素選択性はほぼ同じか低くなっている。
すなわち、従来例と実施例2との比較から、第2層の触媒濃度を上げることでガス選択性を改善でき、また、実施例2と3との比較から、第2層の触媒濃度が同じなら、膜厚の大きい実施例3の方がガス選択性を大幅に改善できる。また、実施例4,5の結果から、第2層の触媒濃度を上げていくと、或るところまではガス選択性を大幅に改善できるが、これにも上限があり、結局10wt%を超え60wt%以下の範囲でガス選択性が改善できることが分かる。
【符号の説明】
【0021】
1…Siウエハ、2…支持層および熱絶縁層、3…ヒーター層、4…絶縁層、5…接合層、6…感知層電極、7…感知層、8…選択燃焼層、9…ドナー添加SnO2層、10…触媒添加SnO2層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状の支持膜の外周部または両端部をSi基板により支持し、外周部または両端部が厚く中央部が薄く形成されたダイアフラム様の支持基板上に、薄膜のヒーターを形成し、この薄膜のヒーター層を電気絶縁膜で覆い、その上に第1層としてドナーとなる+5価または+6価の元素を添加したSnO2層、さらにその上に第2層として触媒となる元素を添加したSnO2層を積層した2層構造のガス感知層を形成し、このガス感知層に接し所定間隔おいて1対の貴金属からなる感知電極層を設けてなる薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層を外界から覆うように形成される選択燃焼層を備え、前記ガス感知層を形成する第2層の触媒の添加量を10wt%を超え60wt%以下とすることを特徴とする薄膜ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−175564(P2010−175564A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107328(P2010−107328)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【分割の表示】特願2003−370933(P2003−370933)の分割
【原出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】