薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造方法
【課題】薄膜形状を工夫することにより電池性能を確保し、製造時間を短縮する。またリード線等を用いずに電極の取り出しを行う。
【解決手段】基板10上に、正極集電体層20A、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、負極集電体層20Bを積層した薄膜固体二次電池1において、正極集電体層20Aと負極集電体層20Bは、それぞれ一端側が電池可動部分よりも外側に延出し、大気に露出されて電極取り出し部21a,21bとなっている。電極取り出し部21a,21bの形状および位置を工夫することで、リード線等を用いずに薄膜のみで複数の電池セルを直列、並列に接続できる。
【解決手段】基板10上に、正極集電体層20A、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、負極集電体層20Bを積層した薄膜固体二次電池1において、正極集電体層20Aと負極集電体層20Bは、それぞれ一端側が電池可動部分よりも外側に延出し、大気に露出されて電極取り出し部21a,21bとなっている。電極取り出し部21a,21bの形状および位置を工夫することで、リード線等を用いずに薄膜のみで複数の電池セルを直列、並列に接続できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造方法に係り、特に、薄膜形状を工夫することにより、電池性能を確保し、構成を簡素化して作製時間を短縮することが可能な薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯機器等の電子機器を中心にリチウムイオン二次電池が広く用いられている。これはリチウムイオン二次電池が、ニッカド電池等と比較して、高い電圧を有し、充放電容量が大きく、メモリ効果等の弊害がないことによる。
そして、電子機器等はさらなる小型化・軽量化が進められており、この電子機器等に搭載されるバッテリーとしてリチウムイオン二次電池も小型化・軽量化の開発が進められている。例えばICカードや医療用小型機器等に搭載可能な薄型・小型のリチウムイオン二次電池の開発が進められている。そして、今後もより一層薄型化・小型化が求められることが予想される。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池は、正電極および負電極に金属片または金属箔を用い、これらを電解液に浸積させて容器で覆って使用していた。このため、薄型化や小型化には限界があった。現実的には、薄さ1mm、体積1cm3程度が限界とされている。
しかし、最近ではさらに薄型化、小型化を可能とするために、電解液ではなく、ゲル状の電解質を用いるポリマー電池(例えば、特許文献1参照)や固体電解質を用いる薄膜固体二次電池(例えば、特許文献2参照)が開発されている。
【特許文献1】特開平10−74496号公報(第3−6頁、図1−2)
【特許文献2】特開平10−284130号公報(第3−4頁、図1−4)
【0004】
特許文献1に記載のポリマー電池は、外装体内部に、正極集電体、内部に高分子固体電解質を含有する複合正極、イオン電導性高分子化合物からなる電解質層、内部に高分子固体電解質を含有する複合負極、負極集電体を順に配置して構成されている。
このようなポリマー電池は、電解液を使う通常のリチウムイオン二次電池よりは薄型化、小型化が可能であるものの、ゲル状の電解質や接合剤、封口部材等を必要とするため、厚さとしては0.1mm程度が限界であり、より一層の薄型化、小型化を進めるには適当ではなかった。
【0005】
一方、薄膜固体二次電池の構成は、特許文献2に記載のように、基板上に集電体薄膜、負極活物質薄膜、固体電解質薄膜、正極活物質薄膜、集電体薄膜の各層を順に積層した構成、または、基板上に上記各層を逆の順で積層した構成である。
このような構成により、薄膜固体二次電池は、基板を除けば1μm程度の薄さにすることが可能である。また、基板の厚さを薄くしたり、薄膜化した固体電解質フィルムを基板の代わりに使用したりすれば、全体としてより薄型化、小型化を図ることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の薄膜固体二次電池では、特許文献2のように、下部電極膜の成膜面積を大きく、上部電極膜の成膜面積を小さくして、ピラミッド型構造を形成している。このように構成することにより、正極活物質薄膜と負極活物質薄膜の電気的な短絡を避けることができる。
しかしながら、ピラミッド型構造とした場合、外部に接続するための電極端子を上部集電体薄膜に設けるためには、上部集電体薄膜に銀ペースト等を用いてリード線等を接着する必要があった。このため、電池本体の作製時間に加えて、銀ペースト等の乾燥時間が必要となっていた。
【0007】
また、ピラミッド型構造を形成するためには、薄膜の成膜面積を制御して、各層の大きさが異なるように形成する必要がある。そのためには、薄膜を成膜する際に、一層ごとにマスク交換を行う必要がある。そして、大気中でのマスク交換に時間がかかると、薄膜の劣化が避けられず、電池性能の確保が困難であるという問題があった。
また、薄膜固体二次電池を構成する薄膜には、水分によって劣化するリチウム遷移金属酸化物を使用しているため、膜の最表面に水分防止膜を成膜することが望ましい。しかしながら、ピラミッド型構造において上部集電体に外部に接続するための電極取り出し部分を確保するためには、水分防止膜の成膜時に部分的なマスクを設ける必要があり、水分防止膜の成膜が困難になるという問題があった。
また、上記各特許文献では、集電体薄膜の形状を工夫することにより、リード線等を使用せずに複数の薄膜固体二次電池同士を直接または並列に接続することについては記載されていなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、薄膜固体二次電池の製造工程の短縮と簡素化を図り、電池性能を確保することにある。
また、本発明の他の目的は、リード線等を用いずに電池セル同士の直列接続や並列接続が可能な薄膜固体二次電池を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、電池セルと外部の電子デバイス等との接続を容易とし、設計の自由度が大きく、省スペース対応が可能な薄膜固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池であって、前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことによって解決される。
【0010】
このように、本発明では、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層して薄膜固体二次電池を形成し、上下(正極側と負極側)に設けた集電体薄膜の一端が、その中間に設けた電池可動部分(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)の外側まで延出されるように成膜し、電極取り出し部を形成する。本発明では、上下(正極側と負極側)の電極取り出し部同士が互いに重ならないように形成されているため、上下の集電体薄膜がショートしないようになっている。
このように、電極取り出し部を薄膜とすると、メタルクリップ等を使用して電極の取り出しを容易に行うことができる。その為、銀ペースト等の接着剤でリード線を接着する必要がなく、リード線の接着作業と接着剤の乾燥に要する時間を省略できる。
【0011】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池セルを、平面方向に複数配列した薄膜固体二次電池であって、前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、前記複数の薄膜固体二次電池セルのうち、隣り合う2枚の薄膜固体二次電池セルは、一方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部と、他方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部とが重なることにより直列接続または並列接続されたことによって解決される。
【0012】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に形成した集電体層の上に、正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層をこの順またはこの逆順に積層してなる電池可動部分が集電体層を介して上下に複数積層され、該複数積層された電池可動部分には直列接続または並列接続された電池可動部分が含まれ、最上層の電池可動部分の上にさらに集電体層を形成した薄膜固体二次電池であって、前記集電体層は、前記電池可動部分の正極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する正極集電体層と、前記電池可動部分の負極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する負極集電体層と、を含み、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことによって解決される。
【0013】
このように、本発明では、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層した薄膜固体二次電池セルを、基板上に平面方向に複数並べて配列し、隣り合う電池セル同士を直列または並列に接続する。また、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層を積層した薄膜固体二次電池セルの電池可動部分を、基板上において上下に重ねて配列し、上下に連なる電池セル同士を直列または並列に接続する。このとき、電池可動部分間の接続は、薄膜からなる集電体層により行っている。
このように構成すると、基板上における複数の電池セル同士の直列、並列接続を、リード線を使わずに薄膜のみで実現することができる。よって、薄膜固体二次電池の構成材料を削減することができ、構成が簡素化される。また、絶縁層を設けたことにより、下層電池セルまたは上層電池セルの正極側と負極側の集電体が短絡しないようになっているので、電池セル内を電流が流れずにリークしてしまうことが防止されている。
【0014】
また、本発明では、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、前記基板上の異なる辺側または同一辺側に設けられ、互いに重ならない幅寸法に形成された構成とすることができる。
このように、正極集電体層の電極取り出し部と負極集電体層の電極取り出し部とを基板上の異なる辺側に設けていれば、上下の電極取り出し部同士が重なることがなく、上下の集電体薄膜がショートしない。また、正極側と負極側の電極取り出し方向が異なる方向となるので、正極側と負極側の配線を異なる方向から電池セルに接続することができる。
また、正極集電体層の電極取り出し部と負極集電体層の電極取り出し部とを基板上の同一辺側に設けた場合でも、互いに重ならない幅寸法に形成すれば、上下の電極取り出し部同士が重なることがないため、上下の集電体薄膜がショートしない。また、正極側と負極側の電極取り出し方向が同一方向となるので、正極側と負極側の配線を同一方向から電池セルに接続することができる。
【0015】
このように、本発明では、集電体薄膜の成膜形状や成膜位置を工夫することにより、基板上における正極側と負極側の電極取り出し部分の位置を重ならない範囲で任意に決定することができる。これにより、組み合わせる電子デバイスに合わせて、電極の取り出し方向を決定することができ、省スペースでの薄膜固体二次電池の組み込みに対応することができる。
【0016】
また、本発明では、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層が略同一平面形状を有し、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜されるように構成することができる。このように構成されていると、これら3層の薄膜を同一のマスクを使用して真空成膜装置内で連続成膜することができる。従って、成膜時に大気中で行うマスク交換の回数を減らすことができ、マスク交換に時間を要さない。よって、薄膜の大気中における水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。また、薄膜固体二次電池の製造時間を短縮することができる。
【0017】
また、本発明では、大気に露出する面が、前記電極取り出し部を除いて絶縁性及び耐湿性を有する水分防止膜で被覆されていると好適である。このように構成すると、水分防止膜によってリチウムイオン可動部分を密封することができるので、電池性能の劣化を抑えることができる。
【0018】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、前記正極集電体層と前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部を有し、前記正極集電体層と前記負極集電体層を形成する工程では、同一のマスクを平面方向を変えてまたは裏返すことによって前記基板上において開口位置が異なるように設置して使用することにより、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが互いに重ならないように成膜することにより解決される。
このように、本発明では、正極集電体層と負極集電体層を同一のマスクを使用して成膜することができる。そして、正極集電体層と負極集電体層の電極取り出し部を互いに重ならないように成膜することができる。これにより、リード線を接着する必要がなく、リード線の接着作業と接着剤の乾燥に要する時間を省略できる。
【0019】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の3層を同一のマスクを使用して連続成膜することにより、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜する工程を行うことにより解決される。
このように、3層の薄膜を同一のマスクを使用して真空成膜装置内で連続成膜すれば、成膜中における大気中でのマスク交換の回数を減らすことができ、マスク交換に時間を要さない。よって、薄膜の大気中での水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。また、薄膜固体二次電池の製造時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の薄膜固体二次電池によれば、以下の効果を奏する。
(1)本発明では、上下の集電体薄膜の一辺をそれぞれ電池可動部分(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)よりも外側に成膜して電極取り出し部とすることにより、電極の取り出しをする為に銀ペースト等の接着剤でリード線を接着する必要がない。よって、構成材料を削減することができ、構成が簡素化される。また、製造工程を短縮することができる。また、メタルクリップ等を使用して電極の取り出しを容易に行うことができる。
(2)正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の3層を連続成膜することができるので、従来のピラミッド型構造に比べてマスク交換の回数を減らすことができる。よって、薄膜固体二次電池の製造時間を短縮することができる。また、薄膜の大気中での水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。
(3)集電体薄膜の成膜形状や成膜位置を工夫することにより、基板上における正極側と負極側の電極取り出し部分の位置を任意に決定することができる。これにより、組み合わせる電子デバイスに合わせて、電極の取り出し方向を決定することができ、省スペースでの薄膜固体二次電池の組み込みに対応することができる。また、基板上での電池セル同士の直列、並列接続をリード線を使わずに薄膜のみで接続することができる。
(4)水分防止膜でリチウムイオン可動部分を密封することができるので、電池性能の劣化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1は本発明の一実施形態に係る薄膜固体二次電池を示す平面図、図2は図1のX−X断面図である。また、図3は図1の薄膜固体二次電池の表面に水分防止膜を設けた状態を示す断面図である。
また、図4〜図9は本発明の薄膜固体二次電池の製造工程における各状態を示す平面図であり、図4は基板上に正極集電体層を形成した状態を示す平面図、図5は正極集電体層の上に正極活物質層を形成した状態を示す平面図、図6は正極活物質層の上に固体電解質層を形成した状態を示す平面図、図7は固体電解質層の上に負極活物質層を形成した状態を示す平面図、図8は負極活物質層の上に負極集電体層を形成した状態を示す平面図、図9は負極集電体層の上から水分防止膜で被覆した状態を示す平面図である。
また、図10、図11は本発明の薄膜固体二次電池の電池性能を示す図であり、図10は充放電特性のグラフ、図11は放電容量の変化を示すグラフである。
図12は他の実施形態の薄膜固体二次電池の断面図である。また、図13〜図18は改変例の薄膜個体二次電池の平面図、図19、図20は改変例の薄膜個体二次電池の断面図である。
【0022】
(第一実施形態)
図2に示すように、本実施形態の薄膜固体二次電池1は、基板10上に、集電体層20(正極側の集電体層20A)、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20(負極側の集電体層20B)が順に積層されて形成されている。なお、基板10上への積層順序は、正極活物質層30と負極活物質層50とを入れ替えた順序、すなわち、集電体層20(負極側の集電体層20B)、負極活物質層50、固体電解質層40、正極活物質層30、集電体層20(正極側の集電体層20A)の順であってもよい。
【0023】
基板10は、ガラス、半導体シリコン、セラミック、ステンレス鋼、樹脂等の物質を用いて形成されている。樹脂基板としては、例えばポリイミドやPET等を用いることができる。なお、導電性の良いステンレス基板を用いる場合には、電池電極から基板を介して外部ショートしてしまうことを避ける為に、基板10とその上に設けられた第一層目の集電体層20との間に、絶縁膜を設ける必要がある。また、基板10は、折り曲げ可能な程度に薄いフィルム上に形成することもできる。
【0024】
集電体層20(20A,20B)は、正極活物質層30、負極活物質層50、及び固体電解質層40の各々と密着性がよく、電気抵抗が低い金属薄膜を用いることができる。集電体層20が取り出し電極として良好に機能するためには、そのシート抵抗が1kΩ/□以下であることが望ましい。集電体層20の膜厚を0.1μm程度以上に設定すると、集電体層20は抵抗率が1×10−2Ω・cm程度以下の物質によって形成する必要がある。このような物質として、例えば、バナジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、金等を使用することができる。これらの物質によって集電体層20は、できるだけ薄くて電気抵抗も低くなる0.1〜0.5μm程度の膜厚に形成することができる。
【0025】
正極活物質層30は、リチウムイオンの離脱、挿入が可能な金属酸化物薄膜を用いることができる。例えば、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を使用することができる。正極活物質層30の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.1〜1μm程度とするとよい。
【0026】
固体電解質層40は、リチウムイオンの伝導性が良いリン酸リチウム(Li3PO4)やこれに窒素を添加した物質(LiPON)等を用いることができる。固体電解質層40の膜厚は、ピンホ−ルの発生が低減され且つできるだけ薄い0.1〜1μm程度が好ましい。
【0027】
負極活物質層50は、半導体、金属、金属合金または金属酸化物を用いることができる。
半導体としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等を用いることができる。
金属、金属合金としては、リチウム金属(Li)、マグネシウム金属(Mg)、アルミニウム金属(Al)、シリコン−マンガン合金(Si−Mn)、シリコン−コバルト合金(Si−Co)、シリコン−ニッケル合金(Si−Ni)、マグネシウム−リチウム合金(Mg−Li)、アルミニウム−リチウム合金(Al−Li)等を用いることができる。
金属酸化物としては、五酸化バナジウム(V2O5)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、リチウム−チタン酸化物(LiTi2O4,Li4Ti5O12等)、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)等を用いることができる。
負極活物質層50の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.1〜1μm程度とするとよい。
【0028】
また、図3に示すように、上記薄膜固体二次電池1の大気に露出する表面を被覆するように、水分防止効果のある水分防止膜60を設けるとよい。このようにすると、電池性能をより長く保つことができる。水分防止膜60としては、酸化珪素(SiO2)や窒化珪素(SiNX)等を使用することができる。水分防止膜60の膜厚は、できるだけ薄くて水分防止効果も高い0.3μm程度が好ましい。
【0029】
上記の各薄膜の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
また、本実施形態では、成膜の際、少なくとも集電体層20以外の層の結晶化を防ぐため、いずれの構成層も無加熱で成膜を行い、基板の成膜終了時の温度が150℃以下に保たれる。このように本例の薄膜固体二次電池1では、少なくとも集電体層20以外の層が非晶質に形成されることにより、内部応力が低減され、膜剥がれが生じ難くなっている。
【0030】
上記各層の薄膜を形成する際には、ステンレス製のマスクを使用して、以下のように成膜面積の制御を行う。
まず、基板10の上に下部(正極側)の集電体層20Aを成膜する際には、長方形の開口を有するマスクを使用し、この開口の一辺が基板10の一辺と重なるようにマスクを位置決めする。そして、図4に示すように、長方形型の集電体層20Aを、その一辺が基板10の一辺に届くように成膜する。次に、この集電体層20Aの上に、略正方形の開口を有するマスクを使用して、図5に示すように、基板10の略中央に略正方形の正極活物質層30を成膜する。続いて、この正極活物質層30の上に、正極活物質層30よりも一回り面積の大きい開口を有するマスクを使用して、図6に示すように、正極活物質層30よりも一回り大きい固体電解質層40を成膜する。
【0031】
そして、この固体電解質層40の上に負極活物質層50を成膜する際には、正極活物質層30を成膜した際に使用したマスクを使用して、図7に示すように正極活物質層30と平面視で略同一位置、略同一形状に成膜する。さらに、この負極活物質層50の上に、長方形の開口を有するマスクを、集電体層20Aとは異なる側でマスクの一辺が基板10の一辺に届くように配置する。そして、図8に示すように、集電体層20Aとショートしないように上部(負極側)の集電体層20Bを成膜する。具体的には、集電体層20Aを成膜した際に使用したマスクの平面方向を変えて(180度回転させて)配置し、上部(負極側)の集電体層20Bを成膜する。
このように、本発明の薄膜固体二次電池1の製造方法では、各層の薄膜を、それぞれ上述したような所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することによって、基板10の上に積層して形成する。
【0032】
このような製造工程では、正極活物質層30と負極活物質層50を同一のマスクを使用して成膜することができる。また、固体電解質層40を成膜する際には、それらよりも一回り成膜面積の大きいマスクを使用することにより、正極活物質層30と負極活物質層50とがショートしない構成とすることができる。これにより、電池内部でのショートを妨げることができる。
そして、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50を積層することにより、リチウムイオンが動作することができる電池可動部分が作製される。
【0033】
また、マスクを180度回転させて配置することができれば、正極側と負極側の集電体層20A,20Bを同一のマスクを使用して成膜することができる。
正極側と負極側の集電体層20A,20Bは、それぞれの一端側が、基板10の端部まで、すなわち電池可動部分(正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50)よりも外側まで延出されている。この部分が、薄膜固体二次電池1の正極と負極をそれぞれ外部に接続するための電極取り出し部21a,21bとなっている。また、正極活物質層30、負極活物質層50と重なって面接触している部分は、それぞれ、集電体本体部22a,22bとなっている。
電極取り出し部21a,21bは、基板10の反対側の端部に設けられて互いに重ならないようになっている。つまり、電極取り出し部における下部(正極側)の集電体層20Aと上部(負極側)の集電体層20Bとのショートを妨げる配置となっている。なお、集電体層20A,20Bの電極取り出し部以外の部分は、電池可動部分の外周よりも内側となるように成膜されている。
【0034】
このように、薄膜からなる集電体層20A,20Bの一端が電池可動部分の外側に延出されて大気に露出された電極取り出し部21a,21bが形成されていると、集電体層から電極の取り出しをするために銀ペースト等の接着剤でリード線を接着する必要がなく、メタルクリップ等を使用して電極の取り出しを容易に行うことができる。従って、リード線の接着作業と接着剤の乾燥に要する時間を省略できる。
【0035】
更に、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50の各薄膜の大気に露出する表面を被覆するように水分防止膜60を成膜する際には、これらの各層を成膜する際に使用したマスクよりもさらに成膜面積が大きい略正方形の開口を有するマスクを使用して、図9に示すように水分防止膜60を成膜する。これにより、リチウムイオン可動部分の薄膜を保護膜により密封することができるので、好適である。
なお、図9では電極取り出し部21a,21bは水分防止膜60の外側に露出している。つまり、このような構成では、電極取り出し部分を確保するために水分防止膜60に部分的なマスクを設ける必要がない。
【0036】
また、本実施形態の薄膜固体二次電池1は、上記構成により、充電時には、正極活物質層30からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層40を介して負極活物質層50に吸蔵される。このとき、正極活物質層30から外部へ電子が放出される。また、放電時には、負極活物質層50からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層40を介して正極活物質層30に吸蔵される。このとき、負極活物質層50から外部へ電子が放出される。
なお、上記構成では、図2に示すように集電体層20(20A,20B)と固体電解質層40は電気的に短絡しているが、固体電解質層40では電子の伝導が発生しない為に、電池内部での短絡は発生しない。
【0037】
次に、上記実施形態に係る実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1では、図2の構成をなすように、基板10上に、集電体層20(正極側の集電体層20A)、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20(負極側の集電体層20B)をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池1を作製した。
基板10は、縦50mm、横50mm、厚さ1mmの無アルカリガラスを用いた。
集電体層20(20A,20B)は、バナジウム金属ターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、集電体層20(20A,20B)として0.1μmのバナジウム薄膜を形成した。
【0038】
正極活物質層30は、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmのマンガン酸リチウム薄膜を形成した。
固体電解質層40は、リン酸リチウム(Li3PO4)の焼結体ターゲットを用い、窒素ガスを導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmの窒素が添加されたリン酸リチウム薄膜を形成した。
【0039】
負極活物質層50は、リチウム−チタン酸化物(Li4Ti5O12)の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmのLi4Ti5O12薄膜を形成した。
【0040】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池1について、X線回折測定を行い、この結果、回折ピークが現れないことを確認した。これにより、いずれの構成層も非晶質であることが確認できた。
【0041】
本例の薄膜固体二次電池1の電池性能を評価するために、充放電測定器を用いて充放電特性を測定した。測定条件は、充電および放電時の電流をいずれも0.02mAとし、充電および放電の終止電圧はそれぞれ3.5V,0.3Vとした。
その結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。図10に、安定して充放電動作を示した10サイクル目の充放電特性のグラフを示す。この図に示すように、充放電動作が安定する10サイクル目の放電開始電圧,充電開始電圧はそれぞれ3.1V,0.7Vであり、充電容量,放電容量は、それぞれ0.17mAh,0.16mAhであった。このように、本例では充電容量と放電容量にほとんど差がなく、電池動作は良好であった。また、通常のデバイス駆動に必要な1V以上の電圧を維持できる放電容量は約0.14mAhであり、放電容量全体の9割に近い値を示していた。さらに、本例では100サイクルまで充放電測定を行ったが、安定して略一定の充放電曲線を示すことが確認できた。
【0042】
(実施例2)
実施例2は、図3、図9に示すように、上記実施例1の薄膜固体二次電池1の大気に露出する表面を被覆するように水分防止膜60を設けたものである。
本例の薄膜固体二次電池1Aを形成するためには、まず、実施例1と同様に、基板10上に、集電体層20(正極側の集電体層20A)、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20(負極側の集電体層20B)をこの順にスパッタリング法により形成した。薄膜の成膜条件は実施例1と同様とした。その後、図3に示すように負極側の集電体層20Bの上から水分防止膜60を形成した。これにより、図9に示すように電極取り出し部21a,21bを除く部分が被覆された状態となる。
水分防止膜60は、窒化珪素(SiN)の焼結体ターゲットを用い、窒素ガスを導入してRFマグネトロンスパッタ法にて形成した。RFパワーは0.6KW、無加熱で成膜した。これにより、0.3μmの窒化珪素(SiN)薄膜を形成した。
【0043】
本例の水分防止膜60の効果を評価するために、実施例1の薄膜固体二次電池1と、本例の薄膜固体二次電池1Aを作製し、湿度60%の恒湿炉に同時に入れて充放電特性を測定した。測定条件は、実施例1と同様に、電流を0.02mAとし、充電、放電の終止電圧をそれぞれ3.5V,0.3Vとした。
その結果、実施例1で作製した薄膜固体二次電池1は、大気に露出している膜表面に水分の付着が原因と考えられる膜むらが発生したが、本例の薄膜固体二次電池1Aでは、膜表面にさほどの変化が見られなかった。図11は、実施例1の薄膜固体二次電池1と本例の薄膜固体二次電池1Aにおける充放電を繰り返した際の放電容量の変化を示すグラフである。本例の薄膜固体二次電池1Aでは、特性の劣化(放電容量の低下)がほとんど見られなかった。このことから、水分防止膜が電池性能の維持に有効であることが分かった。
【0044】
(第二実施形態)
本実施形態の薄膜固体二次電池2は、作製時間の短縮と電池特性および可動率の向上を目的として、第一実施形態とはマスク形状を変更して作製したものである。以下、上記第一実施形態と同一の構成は説明を省略し、上記第一実施形態と異なる構成についてのみ説明する。
上記第一実施形態の薄膜固体二次電池1では、図1、図2のように構成するために、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50をそれぞれ成膜する前にマスクの交換作業を行う必要がある。薄膜固体二次電池1を構成する薄膜は、耐湿性に問題があるリチウム系の酸化物を主に使用して形成されているので、大気への露出を伴うマスクの交換作業をできるだけ避けた方が膜質の劣化が少なくなり、結果として薄膜固体二次電池の電池特性および可動率が向上する。
【0045】
そこで、本実施形態の薄膜固体二次電池2は、図12に示すような断面構成を備えたものとし、正極活物質層230、固体電解質層240、負極活物質層250を成膜する際に同一のマスクを共通に使用して、真空成膜装置内でこれら3層の薄膜を連続して成膜した。
なお、正極活物質層230、固体電解質層240、負極活物質層250は、それぞれ、同一のマスクを用いた以外の点については、上記正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50と同様に形成された薄膜である。
【0046】
図12に示すように、本実施形態では、上部の集電体層20(負極側の集電体層20B)を介して正極活物質層230と負極活物質層250が短絡しているような構成となっている。通常、このような状態では、正極と負極の間に電位差が生じずに電池としては機能しないようにも考えられる。
しかしながら、正極活物質層230に用いているリチウム系の酸化物や負極活物質層250に用いている金属酸化物は導電性がそれほど高くないため、このような構成でも短絡せず、電池動作が可能と考えられる。すなわち、正極活物質層230や負極活物質層250内のリチウムイオンは、上下の集電体層や固体電解質層240との境界部で隣の層へ移動するが、導電性が低い薄膜内において平面方向にリチウムイオンが移動することはないため、正極または負極の活物質層の薄膜端部を介して集電体層との間でリチウムイオンの流出または流入が発生することはなく、また、集電体を除く各層とも電子の絶縁性が高く、電子の伝導も起こらないため、短絡しない。
そこで、実際に図12の構成をなすように薄膜固体二次電池2を作製したところ、電池動作が可能であった。すなわち、本例の薄膜固体二次電池2の可動率は90%以上であり、電池動作には問題がないことが分かった。
【0047】
以上のように、本実施形態では従来必要とされていた成膜時のマスク交換の回数を減らして連続成膜することができるので、薄膜固体二次電池2の作製時間を短縮することができる。また、薄膜の大気中での水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。
なお、本実施形態の薄膜固体二次電池2についても、上記第一実施形態の実施例2と同様に水分防止膜60を設けると好適である。
【0048】
次に、改変例について説明する。
上記第一実施形態および第二実施形態の実施例は、それぞれ、以下のように改変することができる。改変例1、2は、図1における電極取り出し部21a,21bの位置をショートしない範囲内で自由に決定するようにしたものである。また、改変例3〜7は、複数の電池セルの電極取り出し部同士を接続することにより、リード線等を使用せずに薄膜のみで直列接続、並列接続するようにしたものである。
【0049】
(改変例1)
上記第一実施形態および第二実施形態に係る実施例では、図1に示すように、電池セル(薄膜固体二次電池1、2)の外周に延出された上部の集電体層20Bの電極取り出し部21bが、下部の集電体層20Aの電極取り出し部21aが設けられた側と反対側に設けられていた。
本例では、図13、図14に示すように、上部の集電体層20Bの電極取り出し部21bを、図1とは異なる位置に設けて電池セル(薄膜固体二次電池3)を作製した。成膜条件、膜厚等は上記各実施例と同様とした。
【0050】
本例では、上部の集電体層20Bの電極取り出し部21bを、下部の集電体層20Aの電極取り出し部21aが設けられた側と略直角をなす側に設けている。このように形成するために、本例の薄膜二次電池の製造方法では、集電体層20Bを成膜するときに、集電体層20Aを成膜した際に使用したマスクの平面方向を変えて(90度回転させて)配置して成膜する。
このような構成により、図1の180度方向を変えた構成と同様に、上部の集電体層20Bと下部の集電体層20Aがショートしないように構成されている。そして、本例の電池セル(薄膜固体二次電池3)と、図1の構成の電池セルをそれぞれ充放電測定した結果、その充放電特性にはほとんど差異が見られなかった。
このように、本例では、電子デバイス等の端子形状、方向等に合わせて、電池セルに設ける電極取り出し部の方向を、ショートしない範囲内で自由に決定することが可能である。
【0051】
(改変例2)
上記各実施例では、電極取り出し部21a,21bを集電体層20A,20Bと略同一幅に形成しているため、正極側と負極側の電極取り出し部をショートさせずに同一方向に設けることはできなかった。
本例の電池セル(薄膜固体二次電池4)は、図15に示すように、集電体層420A,420Bが、集電体本体部422a,422b(422aは不図示)の一端に、その全体の幅よりも狭いタブ形状の電極取り出し部421a,421bを有する形状に形成されている。そして、電極取り出し部421bと電極取り出し部421aは、同一方向を向くように形成され、かつ、互いに重ならないように位置をずらして形成されている。このように形成するために、本例の薄膜二次電池の製造方法では、集電体層420Bを成膜するときに、集電体層420Aを成膜した際に使用したマスクを裏返して配置して成膜する。これにより、電極取り出し部421a,421bが重ならない位置に形成される。
【0052】
本例では、このような構成により、上記各実施例と同様に、上部の集電体層420Bと下部の集電体層420Aがショートしない構成となっている。そして、本例の電池セル(薄膜固体二次電池4)と、実施例1の電池セルをそれぞれ充放電測定した結果、その充放電特性にはほとんど差異が見られなかった。
このように、電極取り出し部421a,421bが同一方向に設けられていると、一方向から正極と負極の両方に接続可能となる。これにより、電子デバイス側の接続端子を同一方向に設けることができる。従って、配線を簡易化することができ、省スペースでの薄膜固体二次電池の組み込みに対応することができる。
【0053】
(改変例3)
本例は基板平面上に2つ以上の薄膜固体二次電池セルを並べて形成して直列接続したものであり、例えば、図16に示すように、基板10上に、3枚の薄膜固体二次電池セルC1(以下、電池セルC1)が隣り合うように設けられている。この電池セルC1は、それぞれ図1、図2に示す薄膜固体二次電池1に用いられている5層の薄膜からなり、各層の薄膜は実施例1と同様に成膜されている。
本例では、基板平面上で隣り合う2つの電池セルC1のうち、一方の電池セルC1の上部(負極側)の電極取り出し部21bと、他方の電池セルC1の下部(正極側)の電極取り出し部21aとが、少なくともその端部同士が重なり合うようにマスクを使用して成膜されている。これにより、隣り合う電池セルC1の正極と負極が接続されている。よって、外部にリード線を必要とせず、薄膜のみで電池セルC1の直列接続が可能となる。
【0054】
以上のように作製した図16のように直列接続された薄膜固体二次電池の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧10V、放電終止電圧1Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧9.1V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.22mAh程度であった。このように、放電電圧が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約3倍となっていることから、電池セルC1が直列接続されていることが確認できた。
【0055】
(改変例4)
本例は基板平面上に2つ以上の電池セルを並べて形成して並列接続したものであり、例えば、図17に示すように、基板10上に、3枚の薄膜固体二次電池セルC2(以下、電池セルC2)が隣り合うように設けられている。
本例では、電池セルC2を構成する正極側と負極側の集電体層520A,520Bが、それぞれ、上記薄膜固体二次電池1とは異なる形状のマスクを使用して形成されており、上記薄膜固体二次電池1とは異なる形状の電極取り出し部521a,521bを備えている。電極取り出し部521a,521bは、図17に示すように、その先端が隣り合う電池セル側に向かって延出されており、上部(負極側)の電極取り出し部521bの端部同士と、下部(正極側)の電極取り出し部521aの端部同士が、それぞれ互いに重なりあうように成膜されている。これにより、隣り合う電池セルC2の正極と正極、負極と負極が接続される。よって、外部にリード線を必要とせず、薄膜のみで電池セルC2の並列接続が可能となる。
なお、電池セルC2は、集電体層520A,520Bの形状以外については上記電池セルC1と同様に形成されている。
【0056】
以上のように作製した図17のように並列接続した薄膜固体二次電池の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧3.5V、放電終止電圧0.3Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧3.2V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.64mAh程度であった。このように、放電容量が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約3倍となっていることから、電池セルC2が並列接続されていることが確認できた。
【0057】
(改変例5)
本例は、直列、並列接続を併用して複数の電池セルC2を接続したものであり、例えば、図18に示すように、基板10上に複数の電池セルC2が縦横に格子状に並べて設けられている。図18の構成では、図17で示した電池セルC2を3枚縦に並べて並列接続したユニットが複数横に並べて形成され、更に、横に並んだ電池セル同士が、図16で示したように直列接続されている。
以上のように構成すると、リード線を必要とせず、薄膜のみで直列接続と並列接続の併用が可能となる。従って、放電容量、放電電圧を単体の電池セルよりも増加させた薄膜固体二次電池を作製することができる。
【0058】
なお、上記改変例3〜5のような構成は、例えば複数の開口を設けたマスクを使用することにより、複数の電池セルの各層の薄膜を一度に成膜するようにすれば、単体の電池セルと同一の工程数で作製することができる。
また、複数の電池セルの配列パターンは図16〜図18に示すようなものに限定されず、様々なパターンが可能である。例えば、図13、図14に示すような構成の薄膜からなる電池セルを使用すれば、縦横複数列に配列したものを全て直列接続することができる。また、並列接続するための電極取り出し部の形状についても、図17、図18に示す電極取り出し部521a,521bのような形状に限定されない。要は、正極と負極がショートしない範囲であれば、自由な方向に延出することができる。
【0059】
(改変例6)
本例は、基板平面上に複数の電池セルを積層して形成し、これらが直列接続されるように作製したものである。なお、各々の電池セルは、最上層と最下層がそれぞれ集電体層となっているので、そのまま積層すると、上層側の電池セルと下層側の電池セルの境界で集電体層が2層重なった状態となり、薄膜の無駄が生じる。そこで、本例では、上層側の電池セルの最下層の集電体層と、下層側の電池セルの最上層の集電体層とを共用の集電体層となる薄膜一層で兼用した。
例えば、図19に示す直列積層型薄膜固体二次電池5は、基板10上に集電体層20Aが設けられ、その上に、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50の順で薄膜を積層した電池可動部分が、その中間に集電体層20を介して2つ積層されている。本例では直列接続とするため、上下層の電池可動部分の成膜順序が同順となっている。そして、上層側の電池可動部分の上にさらに集電体層20Bが成膜されて最上層を形成している。
【0060】
本例の電池可動部分を構成する各薄膜は、それぞれ実施例1と同様の成膜条件で作製されている。そして、上下に積層された2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20を除いて、実施例1と同様のマスクを使用して作製されている。2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20は、その上下に設けられた正極活物質層30および負極活物質層50と平面視略同一形状、同一位置に形成されている。すなわち、この正極活物質層30、集電体層20、負極活物質層50は、同一のマスクを使用して連続成膜することができる。
また、最上層の負極側の集電体層20Bは、実施例1と同様に一端側が基板10の端部まで延出されており、負極側の電極取り出し部21bとなっている。また、基板10上に形成された正極側の集電体層20Aは、負極側の電極取り出し部21bの逆方向に延出されており、正極側の電極取り出し部21aとなっている。そして、2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20には電極取り出し部は形成されていない。
【0061】
本例では、以上のような構成により、上層側の電池可動部分とその上下の集電体層20B,20により上層側の電池セルが構成され、下層側の電池可動部分とその上下の集電体層20,20Aにより下層側の電池セルが構成される。
そして、上層側の電池セルの正極側の集電体層と、下層側の電池セルの負極側の集電体層とが、一層の集電体層20により兼用されているので、上層側の電池セルの正極と下層側の電池セルの負極を接続した構成となっている。つまり、リード線等を使用せずに、薄膜のみで上層と下層の電池セルが直列接続されている。
また、本例では、2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20の端面が、固定電解質層40によって完全に覆われている。従って、この集電体層20を介して電流が外部にリークすることがない。また、最上層の集電体層20Bの電極取り出し部21bと、基板10上の集電体層20Aの電極取り出し部21aとが逆方向に延出され、互いに重なっていない。つまり、正極側の電極取り出し部21aと負極側の電極取り出し部21bが短絡しないように構成されている。
【0062】
以上のように作製した図19の直列積層型薄膜固体二次電池5の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧7V、放電終止電圧1Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧6.2V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.15mAh程度であった。このように、放電電圧が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約2倍となっていることから、電池セルが直列接続されていることが確認できた。
【0063】
(改変例7)
本例は、基板平面上に複数の電池セルを積層して形成し、これらが並列接続されるように作製したものである。なお、本例でも、上記改変例6と同様に、上層側の電池セルと下層側の電池セルの境界で集電体層が2層重なった状態とならないように、上層側の電池セルの最下層の集電体層と、下層側の電池セルの最上層の集電体層とを共用の集電体層となる薄膜一層で兼用した。
例えば、図20に示す並列積層型薄膜固体二次電池6は、基板10上に、集電体層20A、電池可動部分、集電体層20B、電池可動部分、集電体層20A、の順で積層されている。つまり、電池可動部分が集電体層20Bを介して2つ積層されている。本例では、並列接続とするため、上下層の電池可動部分の成膜順序が逆順となっている。
【0064】
すなわち、本例では、下層の電池可動部分は正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50の順で下から上に成膜され、上層の電池セルは負極活物質層50、固体電解質層40、正極活物質層30の順で下から上に成膜されている。従って、上層と下層の電池可動部分の負極側と負極側が、集電体層20Bを介して接続されている。また、最上層および基板10上の集電体20Aの電極取り出し部21aの方向が一致するように積層されている点が図19の構成と異なっている。これにより、上層と下層の電池可動部分の正極側と正極側が、集電体層20Aを介して接続される。
このように、本例の構成では、リード線等を使用せずに、薄膜のみで上層と下層の電池セルが並列接続されている。また、最上層及び基板10上の集電体層20Aの電極取り出し部21aと、集電体層20Bの電極取り出し部21bとが逆方向に延出され、互いに重なっていない。つまり、正極側の電極取り出し部21aと負極側の電極取り出し部21bが短絡しないように構成されている。
なお、本例および上記改変例6において、上記改変例2と同様に電極取り出し部21bと電極取り出し部21aを互いに重ならない幅及び位置に形成するようにすれば、同一方向に延出しても短絡することがなく、好適である。
【0065】
以上のように作製した図20の並列積層型薄膜固体二次電池6の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧3.5V、放電終止電圧0.3Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧3.0V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.32mAh程度であった。このように電池容量が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約2倍となっていることから、電池セルが並列接続されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第一実施形態に係る薄膜固体二次電池の平面図である。
【図2】第一実施形態に係る薄膜固体二次電池の断面図である。
【図3】水分防止膜を設けた薄膜固体二次電池の断面図である。
【図4】正極集電体層を形成した状態を示す平面図である。
【図5】正極集電体層の上に正極活物質層を形成した状態を示す平面図である。
【図6】正極活物質層の上に固体電解質層を形成した状態を示す平面図である。
【図7】固体電解質層の上に負極活物質層を形成した状態を示す平面図である。
【図8】負極活物質層の上に負極集電体層を形成した状態を示す平面図である。
【図9】負極集電体層の上から水分防止膜で被覆した状態を示す平面図である。
【図10】実施例1における薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフである。
【図11】実施例1、2における薄膜固体二次電池の放電容量の変化を示すグラフである。
【図12】第二実施形態に係る薄膜固体二次電池の断面図である。
【図13】改変例1の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図14】改変例1の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図15】改変例2の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図16】改変例3の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図17】改変例4の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図18】改変例5の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図19】改変例6の薄膜個体二次電池の断面図である。
【図20】改変例7の薄膜個体二次電池の断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,2,3,4‥薄膜固体二次電池
5‥‥直列積層型薄膜固体二次電池
6‥‥並列積層型薄膜固体二次電池
10‥基板
20‥集電体層
20A,420A,520A‥集電体層(正極側)
20B,420B,520B‥集電体層(負極側)
21a,421a,521a‥電極取り出し部(正極側)
21b,421b,521b‥電極取り出し部(負極側)
22a‥集電体本体部(正極側)
22b,422b‥集電体本体部(負極側)
30,230‥正極活物質層
40,240‥固体電解質層
50,250‥負極活物質層
60‥水分防止膜
C1,C2‥電池セル(薄膜固体二次電池セル)
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造方法に係り、特に、薄膜形状を工夫することにより、電池性能を確保し、構成を簡素化して作製時間を短縮することが可能な薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯機器等の電子機器を中心にリチウムイオン二次電池が広く用いられている。これはリチウムイオン二次電池が、ニッカド電池等と比較して、高い電圧を有し、充放電容量が大きく、メモリ効果等の弊害がないことによる。
そして、電子機器等はさらなる小型化・軽量化が進められており、この電子機器等に搭載されるバッテリーとしてリチウムイオン二次電池も小型化・軽量化の開発が進められている。例えばICカードや医療用小型機器等に搭載可能な薄型・小型のリチウムイオン二次電池の開発が進められている。そして、今後もより一層薄型化・小型化が求められることが予想される。
【0003】
従来のリチウムイオン二次電池は、正電極および負電極に金属片または金属箔を用い、これらを電解液に浸積させて容器で覆って使用していた。このため、薄型化や小型化には限界があった。現実的には、薄さ1mm、体積1cm3程度が限界とされている。
しかし、最近ではさらに薄型化、小型化を可能とするために、電解液ではなく、ゲル状の電解質を用いるポリマー電池(例えば、特許文献1参照)や固体電解質を用いる薄膜固体二次電池(例えば、特許文献2参照)が開発されている。
【特許文献1】特開平10−74496号公報(第3−6頁、図1−2)
【特許文献2】特開平10−284130号公報(第3−4頁、図1−4)
【0004】
特許文献1に記載のポリマー電池は、外装体内部に、正極集電体、内部に高分子固体電解質を含有する複合正極、イオン電導性高分子化合物からなる電解質層、内部に高分子固体電解質を含有する複合負極、負極集電体を順に配置して構成されている。
このようなポリマー電池は、電解液を使う通常のリチウムイオン二次電池よりは薄型化、小型化が可能であるものの、ゲル状の電解質や接合剤、封口部材等を必要とするため、厚さとしては0.1mm程度が限界であり、より一層の薄型化、小型化を進めるには適当ではなかった。
【0005】
一方、薄膜固体二次電池の構成は、特許文献2に記載のように、基板上に集電体薄膜、負極活物質薄膜、固体電解質薄膜、正極活物質薄膜、集電体薄膜の各層を順に積層した構成、または、基板上に上記各層を逆の順で積層した構成である。
このような構成により、薄膜固体二次電池は、基板を除けば1μm程度の薄さにすることが可能である。また、基板の厚さを薄くしたり、薄膜化した固体電解質フィルムを基板の代わりに使用したりすれば、全体としてより薄型化、小型化を図ることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の薄膜固体二次電池では、特許文献2のように、下部電極膜の成膜面積を大きく、上部電極膜の成膜面積を小さくして、ピラミッド型構造を形成している。このように構成することにより、正極活物質薄膜と負極活物質薄膜の電気的な短絡を避けることができる。
しかしながら、ピラミッド型構造とした場合、外部に接続するための電極端子を上部集電体薄膜に設けるためには、上部集電体薄膜に銀ペースト等を用いてリード線等を接着する必要があった。このため、電池本体の作製時間に加えて、銀ペースト等の乾燥時間が必要となっていた。
【0007】
また、ピラミッド型構造を形成するためには、薄膜の成膜面積を制御して、各層の大きさが異なるように形成する必要がある。そのためには、薄膜を成膜する際に、一層ごとにマスク交換を行う必要がある。そして、大気中でのマスク交換に時間がかかると、薄膜の劣化が避けられず、電池性能の確保が困難であるという問題があった。
また、薄膜固体二次電池を構成する薄膜には、水分によって劣化するリチウム遷移金属酸化物を使用しているため、膜の最表面に水分防止膜を成膜することが望ましい。しかしながら、ピラミッド型構造において上部集電体に外部に接続するための電極取り出し部分を確保するためには、水分防止膜の成膜時に部分的なマスクを設ける必要があり、水分防止膜の成膜が困難になるという問題があった。
また、上記各特許文献では、集電体薄膜の形状を工夫することにより、リード線等を使用せずに複数の薄膜固体二次電池同士を直接または並列に接続することについては記載されていなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、薄膜固体二次電池の製造工程の短縮と簡素化を図り、電池性能を確保することにある。
また、本発明の他の目的は、リード線等を用いずに電池セル同士の直列接続や並列接続が可能な薄膜固体二次電池を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、電池セルと外部の電子デバイス等との接続を容易とし、設計の自由度が大きく、省スペース対応が可能な薄膜固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池であって、前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことによって解決される。
【0010】
このように、本発明では、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層して薄膜固体二次電池を形成し、上下(正極側と負極側)に設けた集電体薄膜の一端が、その中間に設けた電池可動部分(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)の外側まで延出されるように成膜し、電極取り出し部を形成する。本発明では、上下(正極側と負極側)の電極取り出し部同士が互いに重ならないように形成されているため、上下の集電体薄膜がショートしないようになっている。
このように、電極取り出し部を薄膜とすると、メタルクリップ等を使用して電極の取り出しを容易に行うことができる。その為、銀ペースト等の接着剤でリード線を接着する必要がなく、リード線の接着作業と接着剤の乾燥に要する時間を省略できる。
【0011】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池セルを、平面方向に複数配列した薄膜固体二次電池であって、前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、前記複数の薄膜固体二次電池セルのうち、隣り合う2枚の薄膜固体二次電池セルは、一方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部と、他方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部とが重なることにより直列接続または並列接続されたことによって解決される。
【0012】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に形成した集電体層の上に、正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層をこの順またはこの逆順に積層してなる電池可動部分が集電体層を介して上下に複数積層され、該複数積層された電池可動部分には直列接続または並列接続された電池可動部分が含まれ、最上層の電池可動部分の上にさらに集電体層を形成した薄膜固体二次電池であって、前記集電体層は、前記電池可動部分の正極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する正極集電体層と、前記電池可動部分の負極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する負極集電体層と、を含み、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことによって解決される。
【0013】
このように、本発明では、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を積層した薄膜固体二次電池セルを、基板上に平面方向に複数並べて配列し、隣り合う電池セル同士を直列または並列に接続する。また、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層を積層した薄膜固体二次電池セルの電池可動部分を、基板上において上下に重ねて配列し、上下に連なる電池セル同士を直列または並列に接続する。このとき、電池可動部分間の接続は、薄膜からなる集電体層により行っている。
このように構成すると、基板上における複数の電池セル同士の直列、並列接続を、リード線を使わずに薄膜のみで実現することができる。よって、薄膜固体二次電池の構成材料を削減することができ、構成が簡素化される。また、絶縁層を設けたことにより、下層電池セルまたは上層電池セルの正極側と負極側の集電体が短絡しないようになっているので、電池セル内を電流が流れずにリークしてしまうことが防止されている。
【0014】
また、本発明では、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、前記基板上の異なる辺側または同一辺側に設けられ、互いに重ならない幅寸法に形成された構成とすることができる。
このように、正極集電体層の電極取り出し部と負極集電体層の電極取り出し部とを基板上の異なる辺側に設けていれば、上下の電極取り出し部同士が重なることがなく、上下の集電体薄膜がショートしない。また、正極側と負極側の電極取り出し方向が異なる方向となるので、正極側と負極側の配線を異なる方向から電池セルに接続することができる。
また、正極集電体層の電極取り出し部と負極集電体層の電極取り出し部とを基板上の同一辺側に設けた場合でも、互いに重ならない幅寸法に形成すれば、上下の電極取り出し部同士が重なることがないため、上下の集電体薄膜がショートしない。また、正極側と負極側の電極取り出し方向が同一方向となるので、正極側と負極側の配線を同一方向から電池セルに接続することができる。
【0015】
このように、本発明では、集電体薄膜の成膜形状や成膜位置を工夫することにより、基板上における正極側と負極側の電極取り出し部分の位置を重ならない範囲で任意に決定することができる。これにより、組み合わせる電子デバイスに合わせて、電極の取り出し方向を決定することができ、省スペースでの薄膜固体二次電池の組み込みに対応することができる。
【0016】
また、本発明では、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層が略同一平面形状を有し、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜されるように構成することができる。このように構成されていると、これら3層の薄膜を同一のマスクを使用して真空成膜装置内で連続成膜することができる。従って、成膜時に大気中で行うマスク交換の回数を減らすことができ、マスク交換に時間を要さない。よって、薄膜の大気中における水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。また、薄膜固体二次電池の製造時間を短縮することができる。
【0017】
また、本発明では、大気に露出する面が、前記電極取り出し部を除いて絶縁性及び耐湿性を有する水分防止膜で被覆されていると好適である。このように構成すると、水分防止膜によってリチウムイオン可動部分を密封することができるので、電池性能の劣化を抑えることができる。
【0018】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、前記正極集電体層と前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部を有し、前記正極集電体層と前記負極集電体層を形成する工程では、同一のマスクを平面方向を変えてまたは裏返すことによって前記基板上において開口位置が異なるように設置して使用することにより、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが互いに重ならないように成膜することにより解決される。
このように、本発明では、正極集電体層と負極集電体層を同一のマスクを使用して成膜することができる。そして、正極集電体層と負極集電体層の電極取り出し部を互いに重ならないように成膜することができる。これにより、リード線を接着する必要がなく、リード線の接着作業と接着剤の乾燥に要する時間を省略できる。
【0019】
また、前記課題は、本発明によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の3層を同一のマスクを使用して連続成膜することにより、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜する工程を行うことにより解決される。
このように、3層の薄膜を同一のマスクを使用して真空成膜装置内で連続成膜すれば、成膜中における大気中でのマスク交換の回数を減らすことができ、マスク交換に時間を要さない。よって、薄膜の大気中での水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。また、薄膜固体二次電池の製造時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の薄膜固体二次電池によれば、以下の効果を奏する。
(1)本発明では、上下の集電体薄膜の一辺をそれぞれ電池可動部分(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)よりも外側に成膜して電極取り出し部とすることにより、電極の取り出しをする為に銀ペースト等の接着剤でリード線を接着する必要がない。よって、構成材料を削減することができ、構成が簡素化される。また、製造工程を短縮することができる。また、メタルクリップ等を使用して電極の取り出しを容易に行うことができる。
(2)正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の3層を連続成膜することができるので、従来のピラミッド型構造に比べてマスク交換の回数を減らすことができる。よって、薄膜固体二次電池の製造時間を短縮することができる。また、薄膜の大気中での水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。
(3)集電体薄膜の成膜形状や成膜位置を工夫することにより、基板上における正極側と負極側の電極取り出し部分の位置を任意に決定することができる。これにより、組み合わせる電子デバイスに合わせて、電極の取り出し方向を決定することができ、省スペースでの薄膜固体二次電池の組み込みに対応することができる。また、基板上での電池セル同士の直列、並列接続をリード線を使わずに薄膜のみで接続することができる。
(4)水分防止膜でリチウムイオン可動部分を密封することができるので、電池性能の劣化を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1は本発明の一実施形態に係る薄膜固体二次電池を示す平面図、図2は図1のX−X断面図である。また、図3は図1の薄膜固体二次電池の表面に水分防止膜を設けた状態を示す断面図である。
また、図4〜図9は本発明の薄膜固体二次電池の製造工程における各状態を示す平面図であり、図4は基板上に正極集電体層を形成した状態を示す平面図、図5は正極集電体層の上に正極活物質層を形成した状態を示す平面図、図6は正極活物質層の上に固体電解質層を形成した状態を示す平面図、図7は固体電解質層の上に負極活物質層を形成した状態を示す平面図、図8は負極活物質層の上に負極集電体層を形成した状態を示す平面図、図9は負極集電体層の上から水分防止膜で被覆した状態を示す平面図である。
また、図10、図11は本発明の薄膜固体二次電池の電池性能を示す図であり、図10は充放電特性のグラフ、図11は放電容量の変化を示すグラフである。
図12は他の実施形態の薄膜固体二次電池の断面図である。また、図13〜図18は改変例の薄膜個体二次電池の平面図、図19、図20は改変例の薄膜個体二次電池の断面図である。
【0022】
(第一実施形態)
図2に示すように、本実施形態の薄膜固体二次電池1は、基板10上に、集電体層20(正極側の集電体層20A)、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20(負極側の集電体層20B)が順に積層されて形成されている。なお、基板10上への積層順序は、正極活物質層30と負極活物質層50とを入れ替えた順序、すなわち、集電体層20(負極側の集電体層20B)、負極活物質層50、固体電解質層40、正極活物質層30、集電体層20(正極側の集電体層20A)の順であってもよい。
【0023】
基板10は、ガラス、半導体シリコン、セラミック、ステンレス鋼、樹脂等の物質を用いて形成されている。樹脂基板としては、例えばポリイミドやPET等を用いることができる。なお、導電性の良いステンレス基板を用いる場合には、電池電極から基板を介して外部ショートしてしまうことを避ける為に、基板10とその上に設けられた第一層目の集電体層20との間に、絶縁膜を設ける必要がある。また、基板10は、折り曲げ可能な程度に薄いフィルム上に形成することもできる。
【0024】
集電体層20(20A,20B)は、正極活物質層30、負極活物質層50、及び固体電解質層40の各々と密着性がよく、電気抵抗が低い金属薄膜を用いることができる。集電体層20が取り出し電極として良好に機能するためには、そのシート抵抗が1kΩ/□以下であることが望ましい。集電体層20の膜厚を0.1μm程度以上に設定すると、集電体層20は抵抗率が1×10−2Ω・cm程度以下の物質によって形成する必要がある。このような物質として、例えば、バナジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、金等を使用することができる。これらの物質によって集電体層20は、できるだけ薄くて電気抵抗も低くなる0.1〜0.5μm程度の膜厚に形成することができる。
【0025】
正極活物質層30は、リチウムイオンの離脱、挿入が可能な金属酸化物薄膜を用いることができる。例えば、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を使用することができる。正極活物質層30の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.1〜1μm程度とするとよい。
【0026】
固体電解質層40は、リチウムイオンの伝導性が良いリン酸リチウム(Li3PO4)やこれに窒素を添加した物質(LiPON)等を用いることができる。固体電解質層40の膜厚は、ピンホ−ルの発生が低減され且つできるだけ薄い0.1〜1μm程度が好ましい。
【0027】
負極活物質層50は、半導体、金属、金属合金または金属酸化物を用いることができる。
半導体としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等を用いることができる。
金属、金属合金としては、リチウム金属(Li)、マグネシウム金属(Mg)、アルミニウム金属(Al)、シリコン−マンガン合金(Si−Mn)、シリコン−コバルト合金(Si−Co)、シリコン−ニッケル合金(Si−Ni)、マグネシウム−リチウム合金(Mg−Li)、アルミニウム−リチウム合金(Al−Li)等を用いることができる。
金属酸化物としては、五酸化バナジウム(V2O5)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、リチウム−チタン酸化物(LiTi2O4,Li4Ti5O12等)、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)等を用いることができる。
負極活物質層50の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.1〜1μm程度とするとよい。
【0028】
また、図3に示すように、上記薄膜固体二次電池1の大気に露出する表面を被覆するように、水分防止効果のある水分防止膜60を設けるとよい。このようにすると、電池性能をより長く保つことができる。水分防止膜60としては、酸化珪素(SiO2)や窒化珪素(SiNX)等を使用することができる。水分防止膜60の膜厚は、できるだけ薄くて水分防止効果も高い0.3μm程度が好ましい。
【0029】
上記の各薄膜の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
また、本実施形態では、成膜の際、少なくとも集電体層20以外の層の結晶化を防ぐため、いずれの構成層も無加熱で成膜を行い、基板の成膜終了時の温度が150℃以下に保たれる。このように本例の薄膜固体二次電池1では、少なくとも集電体層20以外の層が非晶質に形成されることにより、内部応力が低減され、膜剥がれが生じ難くなっている。
【0030】
上記各層の薄膜を形成する際には、ステンレス製のマスクを使用して、以下のように成膜面積の制御を行う。
まず、基板10の上に下部(正極側)の集電体層20Aを成膜する際には、長方形の開口を有するマスクを使用し、この開口の一辺が基板10の一辺と重なるようにマスクを位置決めする。そして、図4に示すように、長方形型の集電体層20Aを、その一辺が基板10の一辺に届くように成膜する。次に、この集電体層20Aの上に、略正方形の開口を有するマスクを使用して、図5に示すように、基板10の略中央に略正方形の正極活物質層30を成膜する。続いて、この正極活物質層30の上に、正極活物質層30よりも一回り面積の大きい開口を有するマスクを使用して、図6に示すように、正極活物質層30よりも一回り大きい固体電解質層40を成膜する。
【0031】
そして、この固体電解質層40の上に負極活物質層50を成膜する際には、正極活物質層30を成膜した際に使用したマスクを使用して、図7に示すように正極活物質層30と平面視で略同一位置、略同一形状に成膜する。さらに、この負極活物質層50の上に、長方形の開口を有するマスクを、集電体層20Aとは異なる側でマスクの一辺が基板10の一辺に届くように配置する。そして、図8に示すように、集電体層20Aとショートしないように上部(負極側)の集電体層20Bを成膜する。具体的には、集電体層20Aを成膜した際に使用したマスクの平面方向を変えて(180度回転させて)配置し、上部(負極側)の集電体層20Bを成膜する。
このように、本発明の薄膜固体二次電池1の製造方法では、各層の薄膜を、それぞれ上述したような所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することによって、基板10の上に積層して形成する。
【0032】
このような製造工程では、正極活物質層30と負極活物質層50を同一のマスクを使用して成膜することができる。また、固体電解質層40を成膜する際には、それらよりも一回り成膜面積の大きいマスクを使用することにより、正極活物質層30と負極活物質層50とがショートしない構成とすることができる。これにより、電池内部でのショートを妨げることができる。
そして、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50を積層することにより、リチウムイオンが動作することができる電池可動部分が作製される。
【0033】
また、マスクを180度回転させて配置することができれば、正極側と負極側の集電体層20A,20Bを同一のマスクを使用して成膜することができる。
正極側と負極側の集電体層20A,20Bは、それぞれの一端側が、基板10の端部まで、すなわち電池可動部分(正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50)よりも外側まで延出されている。この部分が、薄膜固体二次電池1の正極と負極をそれぞれ外部に接続するための電極取り出し部21a,21bとなっている。また、正極活物質層30、負極活物質層50と重なって面接触している部分は、それぞれ、集電体本体部22a,22bとなっている。
電極取り出し部21a,21bは、基板10の反対側の端部に設けられて互いに重ならないようになっている。つまり、電極取り出し部における下部(正極側)の集電体層20Aと上部(負極側)の集電体層20Bとのショートを妨げる配置となっている。なお、集電体層20A,20Bの電極取り出し部以外の部分は、電池可動部分の外周よりも内側となるように成膜されている。
【0034】
このように、薄膜からなる集電体層20A,20Bの一端が電池可動部分の外側に延出されて大気に露出された電極取り出し部21a,21bが形成されていると、集電体層から電極の取り出しをするために銀ペースト等の接着剤でリード線を接着する必要がなく、メタルクリップ等を使用して電極の取り出しを容易に行うことができる。従って、リード線の接着作業と接着剤の乾燥に要する時間を省略できる。
【0035】
更に、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50の各薄膜の大気に露出する表面を被覆するように水分防止膜60を成膜する際には、これらの各層を成膜する際に使用したマスクよりもさらに成膜面積が大きい略正方形の開口を有するマスクを使用して、図9に示すように水分防止膜60を成膜する。これにより、リチウムイオン可動部分の薄膜を保護膜により密封することができるので、好適である。
なお、図9では電極取り出し部21a,21bは水分防止膜60の外側に露出している。つまり、このような構成では、電極取り出し部分を確保するために水分防止膜60に部分的なマスクを設ける必要がない。
【0036】
また、本実施形態の薄膜固体二次電池1は、上記構成により、充電時には、正極活物質層30からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層40を介して負極活物質層50に吸蔵される。このとき、正極活物質層30から外部へ電子が放出される。また、放電時には、負極活物質層50からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層40を介して正極活物質層30に吸蔵される。このとき、負極活物質層50から外部へ電子が放出される。
なお、上記構成では、図2に示すように集電体層20(20A,20B)と固体電解質層40は電気的に短絡しているが、固体電解質層40では電子の伝導が発生しない為に、電池内部での短絡は発生しない。
【0037】
次に、上記実施形態に係る実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1では、図2の構成をなすように、基板10上に、集電体層20(正極側の集電体層20A)、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20(負極側の集電体層20B)をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池1を作製した。
基板10は、縦50mm、横50mm、厚さ1mmの無アルカリガラスを用いた。
集電体層20(20A,20B)は、バナジウム金属ターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、集電体層20(20A,20B)として0.1μmのバナジウム薄膜を形成した。
【0038】
正極活物質層30は、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmのマンガン酸リチウム薄膜を形成した。
固体電解質層40は、リン酸リチウム(Li3PO4)の焼結体ターゲットを用い、窒素ガスを導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmの窒素が添加されたリン酸リチウム薄膜を形成した。
【0039】
負極活物質層50は、リチウム−チタン酸化物(Li4Ti5O12)の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.4μmのLi4Ti5O12薄膜を形成した。
【0040】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池1について、X線回折測定を行い、この結果、回折ピークが現れないことを確認した。これにより、いずれの構成層も非晶質であることが確認できた。
【0041】
本例の薄膜固体二次電池1の電池性能を評価するために、充放電測定器を用いて充放電特性を測定した。測定条件は、充電および放電時の電流をいずれも0.02mAとし、充電および放電の終止電圧はそれぞれ3.5V,0.3Vとした。
その結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。図10に、安定して充放電動作を示した10サイクル目の充放電特性のグラフを示す。この図に示すように、充放電動作が安定する10サイクル目の放電開始電圧,充電開始電圧はそれぞれ3.1V,0.7Vであり、充電容量,放電容量は、それぞれ0.17mAh,0.16mAhであった。このように、本例では充電容量と放電容量にほとんど差がなく、電池動作は良好であった。また、通常のデバイス駆動に必要な1V以上の電圧を維持できる放電容量は約0.14mAhであり、放電容量全体の9割に近い値を示していた。さらに、本例では100サイクルまで充放電測定を行ったが、安定して略一定の充放電曲線を示すことが確認できた。
【0042】
(実施例2)
実施例2は、図3、図9に示すように、上記実施例1の薄膜固体二次電池1の大気に露出する表面を被覆するように水分防止膜60を設けたものである。
本例の薄膜固体二次電池1Aを形成するためには、まず、実施例1と同様に、基板10上に、集電体層20(正極側の集電体層20A)、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50、集電体層20(負極側の集電体層20B)をこの順にスパッタリング法により形成した。薄膜の成膜条件は実施例1と同様とした。その後、図3に示すように負極側の集電体層20Bの上から水分防止膜60を形成した。これにより、図9に示すように電極取り出し部21a,21bを除く部分が被覆された状態となる。
水分防止膜60は、窒化珪素(SiN)の焼結体ターゲットを用い、窒素ガスを導入してRFマグネトロンスパッタ法にて形成した。RFパワーは0.6KW、無加熱で成膜した。これにより、0.3μmの窒化珪素(SiN)薄膜を形成した。
【0043】
本例の水分防止膜60の効果を評価するために、実施例1の薄膜固体二次電池1と、本例の薄膜固体二次電池1Aを作製し、湿度60%の恒湿炉に同時に入れて充放電特性を測定した。測定条件は、実施例1と同様に、電流を0.02mAとし、充電、放電の終止電圧をそれぞれ3.5V,0.3Vとした。
その結果、実施例1で作製した薄膜固体二次電池1は、大気に露出している膜表面に水分の付着が原因と考えられる膜むらが発生したが、本例の薄膜固体二次電池1Aでは、膜表面にさほどの変化が見られなかった。図11は、実施例1の薄膜固体二次電池1と本例の薄膜固体二次電池1Aにおける充放電を繰り返した際の放電容量の変化を示すグラフである。本例の薄膜固体二次電池1Aでは、特性の劣化(放電容量の低下)がほとんど見られなかった。このことから、水分防止膜が電池性能の維持に有効であることが分かった。
【0044】
(第二実施形態)
本実施形態の薄膜固体二次電池2は、作製時間の短縮と電池特性および可動率の向上を目的として、第一実施形態とはマスク形状を変更して作製したものである。以下、上記第一実施形態と同一の構成は説明を省略し、上記第一実施形態と異なる構成についてのみ説明する。
上記第一実施形態の薄膜固体二次電池1では、図1、図2のように構成するために、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50をそれぞれ成膜する前にマスクの交換作業を行う必要がある。薄膜固体二次電池1を構成する薄膜は、耐湿性に問題があるリチウム系の酸化物を主に使用して形成されているので、大気への露出を伴うマスクの交換作業をできるだけ避けた方が膜質の劣化が少なくなり、結果として薄膜固体二次電池の電池特性および可動率が向上する。
【0045】
そこで、本実施形態の薄膜固体二次電池2は、図12に示すような断面構成を備えたものとし、正極活物質層230、固体電解質層240、負極活物質層250を成膜する際に同一のマスクを共通に使用して、真空成膜装置内でこれら3層の薄膜を連続して成膜した。
なお、正極活物質層230、固体電解質層240、負極活物質層250は、それぞれ、同一のマスクを用いた以外の点については、上記正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50と同様に形成された薄膜である。
【0046】
図12に示すように、本実施形態では、上部の集電体層20(負極側の集電体層20B)を介して正極活物質層230と負極活物質層250が短絡しているような構成となっている。通常、このような状態では、正極と負極の間に電位差が生じずに電池としては機能しないようにも考えられる。
しかしながら、正極活物質層230に用いているリチウム系の酸化物や負極活物質層250に用いている金属酸化物は導電性がそれほど高くないため、このような構成でも短絡せず、電池動作が可能と考えられる。すなわち、正極活物質層230や負極活物質層250内のリチウムイオンは、上下の集電体層や固体電解質層240との境界部で隣の層へ移動するが、導電性が低い薄膜内において平面方向にリチウムイオンが移動することはないため、正極または負極の活物質層の薄膜端部を介して集電体層との間でリチウムイオンの流出または流入が発生することはなく、また、集電体を除く各層とも電子の絶縁性が高く、電子の伝導も起こらないため、短絡しない。
そこで、実際に図12の構成をなすように薄膜固体二次電池2を作製したところ、電池動作が可能であった。すなわち、本例の薄膜固体二次電池2の可動率は90%以上であり、電池動作には問題がないことが分かった。
【0047】
以上のように、本実施形態では従来必要とされていた成膜時のマスク交換の回数を減らして連続成膜することができるので、薄膜固体二次電池2の作製時間を短縮することができる。また、薄膜の大気中での水分劣化を防ぐことができ、電池特性と可動率を向上させることができる。
なお、本実施形態の薄膜固体二次電池2についても、上記第一実施形態の実施例2と同様に水分防止膜60を設けると好適である。
【0048】
次に、改変例について説明する。
上記第一実施形態および第二実施形態の実施例は、それぞれ、以下のように改変することができる。改変例1、2は、図1における電極取り出し部21a,21bの位置をショートしない範囲内で自由に決定するようにしたものである。また、改変例3〜7は、複数の電池セルの電極取り出し部同士を接続することにより、リード線等を使用せずに薄膜のみで直列接続、並列接続するようにしたものである。
【0049】
(改変例1)
上記第一実施形態および第二実施形態に係る実施例では、図1に示すように、電池セル(薄膜固体二次電池1、2)の外周に延出された上部の集電体層20Bの電極取り出し部21bが、下部の集電体層20Aの電極取り出し部21aが設けられた側と反対側に設けられていた。
本例では、図13、図14に示すように、上部の集電体層20Bの電極取り出し部21bを、図1とは異なる位置に設けて電池セル(薄膜固体二次電池3)を作製した。成膜条件、膜厚等は上記各実施例と同様とした。
【0050】
本例では、上部の集電体層20Bの電極取り出し部21bを、下部の集電体層20Aの電極取り出し部21aが設けられた側と略直角をなす側に設けている。このように形成するために、本例の薄膜二次電池の製造方法では、集電体層20Bを成膜するときに、集電体層20Aを成膜した際に使用したマスクの平面方向を変えて(90度回転させて)配置して成膜する。
このような構成により、図1の180度方向を変えた構成と同様に、上部の集電体層20Bと下部の集電体層20Aがショートしないように構成されている。そして、本例の電池セル(薄膜固体二次電池3)と、図1の構成の電池セルをそれぞれ充放電測定した結果、その充放電特性にはほとんど差異が見られなかった。
このように、本例では、電子デバイス等の端子形状、方向等に合わせて、電池セルに設ける電極取り出し部の方向を、ショートしない範囲内で自由に決定することが可能である。
【0051】
(改変例2)
上記各実施例では、電極取り出し部21a,21bを集電体層20A,20Bと略同一幅に形成しているため、正極側と負極側の電極取り出し部をショートさせずに同一方向に設けることはできなかった。
本例の電池セル(薄膜固体二次電池4)は、図15に示すように、集電体層420A,420Bが、集電体本体部422a,422b(422aは不図示)の一端に、その全体の幅よりも狭いタブ形状の電極取り出し部421a,421bを有する形状に形成されている。そして、電極取り出し部421bと電極取り出し部421aは、同一方向を向くように形成され、かつ、互いに重ならないように位置をずらして形成されている。このように形成するために、本例の薄膜二次電池の製造方法では、集電体層420Bを成膜するときに、集電体層420Aを成膜した際に使用したマスクを裏返して配置して成膜する。これにより、電極取り出し部421a,421bが重ならない位置に形成される。
【0052】
本例では、このような構成により、上記各実施例と同様に、上部の集電体層420Bと下部の集電体層420Aがショートしない構成となっている。そして、本例の電池セル(薄膜固体二次電池4)と、実施例1の電池セルをそれぞれ充放電測定した結果、その充放電特性にはほとんど差異が見られなかった。
このように、電極取り出し部421a,421bが同一方向に設けられていると、一方向から正極と負極の両方に接続可能となる。これにより、電子デバイス側の接続端子を同一方向に設けることができる。従って、配線を簡易化することができ、省スペースでの薄膜固体二次電池の組み込みに対応することができる。
【0053】
(改変例3)
本例は基板平面上に2つ以上の薄膜固体二次電池セルを並べて形成して直列接続したものであり、例えば、図16に示すように、基板10上に、3枚の薄膜固体二次電池セルC1(以下、電池セルC1)が隣り合うように設けられている。この電池セルC1は、それぞれ図1、図2に示す薄膜固体二次電池1に用いられている5層の薄膜からなり、各層の薄膜は実施例1と同様に成膜されている。
本例では、基板平面上で隣り合う2つの電池セルC1のうち、一方の電池セルC1の上部(負極側)の電極取り出し部21bと、他方の電池セルC1の下部(正極側)の電極取り出し部21aとが、少なくともその端部同士が重なり合うようにマスクを使用して成膜されている。これにより、隣り合う電池セルC1の正極と負極が接続されている。よって、外部にリード線を必要とせず、薄膜のみで電池セルC1の直列接続が可能となる。
【0054】
以上のように作製した図16のように直列接続された薄膜固体二次電池の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧10V、放電終止電圧1Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧9.1V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.22mAh程度であった。このように、放電電圧が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約3倍となっていることから、電池セルC1が直列接続されていることが確認できた。
【0055】
(改変例4)
本例は基板平面上に2つ以上の電池セルを並べて形成して並列接続したものであり、例えば、図17に示すように、基板10上に、3枚の薄膜固体二次電池セルC2(以下、電池セルC2)が隣り合うように設けられている。
本例では、電池セルC2を構成する正極側と負極側の集電体層520A,520Bが、それぞれ、上記薄膜固体二次電池1とは異なる形状のマスクを使用して形成されており、上記薄膜固体二次電池1とは異なる形状の電極取り出し部521a,521bを備えている。電極取り出し部521a,521bは、図17に示すように、その先端が隣り合う電池セル側に向かって延出されており、上部(負極側)の電極取り出し部521bの端部同士と、下部(正極側)の電極取り出し部521aの端部同士が、それぞれ互いに重なりあうように成膜されている。これにより、隣り合う電池セルC2の正極と正極、負極と負極が接続される。よって、外部にリード線を必要とせず、薄膜のみで電池セルC2の並列接続が可能となる。
なお、電池セルC2は、集電体層520A,520Bの形状以外については上記電池セルC1と同様に形成されている。
【0056】
以上のように作製した図17のように並列接続した薄膜固体二次電池の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧3.5V、放電終止電圧0.3Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧3.2V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.64mAh程度であった。このように、放電容量が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約3倍となっていることから、電池セルC2が並列接続されていることが確認できた。
【0057】
(改変例5)
本例は、直列、並列接続を併用して複数の電池セルC2を接続したものであり、例えば、図18に示すように、基板10上に複数の電池セルC2が縦横に格子状に並べて設けられている。図18の構成では、図17で示した電池セルC2を3枚縦に並べて並列接続したユニットが複数横に並べて形成され、更に、横に並んだ電池セル同士が、図16で示したように直列接続されている。
以上のように構成すると、リード線を必要とせず、薄膜のみで直列接続と並列接続の併用が可能となる。従って、放電容量、放電電圧を単体の電池セルよりも増加させた薄膜固体二次電池を作製することができる。
【0058】
なお、上記改変例3〜5のような構成は、例えば複数の開口を設けたマスクを使用することにより、複数の電池セルの各層の薄膜を一度に成膜するようにすれば、単体の電池セルと同一の工程数で作製することができる。
また、複数の電池セルの配列パターンは図16〜図18に示すようなものに限定されず、様々なパターンが可能である。例えば、図13、図14に示すような構成の薄膜からなる電池セルを使用すれば、縦横複数列に配列したものを全て直列接続することができる。また、並列接続するための電極取り出し部の形状についても、図17、図18に示す電極取り出し部521a,521bのような形状に限定されない。要は、正極と負極がショートしない範囲であれば、自由な方向に延出することができる。
【0059】
(改変例6)
本例は、基板平面上に複数の電池セルを積層して形成し、これらが直列接続されるように作製したものである。なお、各々の電池セルは、最上層と最下層がそれぞれ集電体層となっているので、そのまま積層すると、上層側の電池セルと下層側の電池セルの境界で集電体層が2層重なった状態となり、薄膜の無駄が生じる。そこで、本例では、上層側の電池セルの最下層の集電体層と、下層側の電池セルの最上層の集電体層とを共用の集電体層となる薄膜一層で兼用した。
例えば、図19に示す直列積層型薄膜固体二次電池5は、基板10上に集電体層20Aが設けられ、その上に、正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50の順で薄膜を積層した電池可動部分が、その中間に集電体層20を介して2つ積層されている。本例では直列接続とするため、上下層の電池可動部分の成膜順序が同順となっている。そして、上層側の電池可動部分の上にさらに集電体層20Bが成膜されて最上層を形成している。
【0060】
本例の電池可動部分を構成する各薄膜は、それぞれ実施例1と同様の成膜条件で作製されている。そして、上下に積層された2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20を除いて、実施例1と同様のマスクを使用して作製されている。2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20は、その上下に設けられた正極活物質層30および負極活物質層50と平面視略同一形状、同一位置に形成されている。すなわち、この正極活物質層30、集電体層20、負極活物質層50は、同一のマスクを使用して連続成膜することができる。
また、最上層の負極側の集電体層20Bは、実施例1と同様に一端側が基板10の端部まで延出されており、負極側の電極取り出し部21bとなっている。また、基板10上に形成された正極側の集電体層20Aは、負極側の電極取り出し部21bの逆方向に延出されており、正極側の電極取り出し部21aとなっている。そして、2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20には電極取り出し部は形成されていない。
【0061】
本例では、以上のような構成により、上層側の電池可動部分とその上下の集電体層20B,20により上層側の電池セルが構成され、下層側の電池可動部分とその上下の集電体層20,20Aにより下層側の電池セルが構成される。
そして、上層側の電池セルの正極側の集電体層と、下層側の電池セルの負極側の集電体層とが、一層の集電体層20により兼用されているので、上層側の電池セルの正極と下層側の電池セルの負極を接続した構成となっている。つまり、リード線等を使用せずに、薄膜のみで上層と下層の電池セルが直列接続されている。
また、本例では、2つの電池可動部分の間に設けられた集電体層20の端面が、固定電解質層40によって完全に覆われている。従って、この集電体層20を介して電流が外部にリークすることがない。また、最上層の集電体層20Bの電極取り出し部21bと、基板10上の集電体層20Aの電極取り出し部21aとが逆方向に延出され、互いに重なっていない。つまり、正極側の電極取り出し部21aと負極側の電極取り出し部21bが短絡しないように構成されている。
【0062】
以上のように作製した図19の直列積層型薄膜固体二次電池5の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧7V、放電終止電圧1Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧6.2V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.15mAh程度であった。このように、放電電圧が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約2倍となっていることから、電池セルが直列接続されていることが確認できた。
【0063】
(改変例7)
本例は、基板平面上に複数の電池セルを積層して形成し、これらが並列接続されるように作製したものである。なお、本例でも、上記改変例6と同様に、上層側の電池セルと下層側の電池セルの境界で集電体層が2層重なった状態とならないように、上層側の電池セルの最下層の集電体層と、下層側の電池セルの最上層の集電体層とを共用の集電体層となる薄膜一層で兼用した。
例えば、図20に示す並列積層型薄膜固体二次電池6は、基板10上に、集電体層20A、電池可動部分、集電体層20B、電池可動部分、集電体層20A、の順で積層されている。つまり、電池可動部分が集電体層20Bを介して2つ積層されている。本例では、並列接続とするため、上下層の電池可動部分の成膜順序が逆順となっている。
【0064】
すなわち、本例では、下層の電池可動部分は正極活物質層30、固体電解質層40、負極活物質層50の順で下から上に成膜され、上層の電池セルは負極活物質層50、固体電解質層40、正極活物質層30の順で下から上に成膜されている。従って、上層と下層の電池可動部分の負極側と負極側が、集電体層20Bを介して接続されている。また、最上層および基板10上の集電体20Aの電極取り出し部21aの方向が一致するように積層されている点が図19の構成と異なっている。これにより、上層と下層の電池可動部分の正極側と正極側が、集電体層20Aを介して接続される。
このように、本例の構成では、リード線等を使用せずに、薄膜のみで上層と下層の電池セルが並列接続されている。また、最上層及び基板10上の集電体層20Aの電極取り出し部21aと、集電体層20Bの電極取り出し部21bとが逆方向に延出され、互いに重なっていない。つまり、正極側の電極取り出し部21aと負極側の電極取り出し部21bが短絡しないように構成されている。
なお、本例および上記改変例6において、上記改変例2と同様に電極取り出し部21bと電極取り出し部21aを互いに重ならない幅及び位置に形成するようにすれば、同一方向に延出しても短絡することがなく、好適である。
【0065】
以上のように作製した図20の並列積層型薄膜固体二次電池6の電池性能を確認するために、充放電測定を行った。測定条件を測定電流0.02mA、充電終止電圧3.5V、放電終止電圧0.3Vとして充放電を行ったところ、放電開始電圧3.0V以上で動作することが可能であった。また、放電容量は0.32mAh程度であった。このように電池容量が単体の薄膜固体二次電池1の場合と比較して約2倍となっていることから、電池セルが並列接続されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第一実施形態に係る薄膜固体二次電池の平面図である。
【図2】第一実施形態に係る薄膜固体二次電池の断面図である。
【図3】水分防止膜を設けた薄膜固体二次電池の断面図である。
【図4】正極集電体層を形成した状態を示す平面図である。
【図5】正極集電体層の上に正極活物質層を形成した状態を示す平面図である。
【図6】正極活物質層の上に固体電解質層を形成した状態を示す平面図である。
【図7】固体電解質層の上に負極活物質層を形成した状態を示す平面図である。
【図8】負極活物質層の上に負極集電体層を形成した状態を示す平面図である。
【図9】負極集電体層の上から水分防止膜で被覆した状態を示す平面図である。
【図10】実施例1における薄膜固体二次電池の充放電特性のグラフである。
【図11】実施例1、2における薄膜固体二次電池の放電容量の変化を示すグラフである。
【図12】第二実施形態に係る薄膜固体二次電池の断面図である。
【図13】改変例1の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図14】改変例1の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図15】改変例2の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図16】改変例3の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図17】改変例4の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図18】改変例5の薄膜個体二次電池の平面図である。
【図19】改変例6の薄膜個体二次電池の断面図である。
【図20】改変例7の薄膜個体二次電池の断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,2,3,4‥薄膜固体二次電池
5‥‥直列積層型薄膜固体二次電池
6‥‥並列積層型薄膜固体二次電池
10‥基板
20‥集電体層
20A,420A,520A‥集電体層(正極側)
20B,420B,520B‥集電体層(負極側)
21a,421a,521a‥電極取り出し部(正極側)
21b,421b,521b‥電極取り出し部(負極側)
22a‥集電体本体部(正極側)
22b,422b‥集電体本体部(負極側)
30,230‥正極活物質層
40,240‥固体電解質層
50,250‥負極活物質層
60‥水分防止膜
C1,C2‥電池セル(薄膜固体二次電池セル)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池であって、
前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、
前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項2】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池セルを、平面方向に複数配列した薄膜固体二次電池であって、
前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、
前記複数の薄膜固体二次電池セルのうち、隣り合う2枚の薄膜固体二次電池セルは、一方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部と、他方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部とが重なることにより直列接続または並列接続されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項3】
基板上に形成した集電体層の上に、正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層をこの順またはこの逆順に積層してなる電池可動部分が集電体層を介して上下に複数積層され、該複数積層された電池可動部分には直列接続または並列接続された電池可動部分が含まれ、最上層の電池可動部分の上にさらに集電体層を形成した薄膜固体二次電池であって、
前記集電体層は、前記電池可動部分の正極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する正極集電体層と、前記電池可動部分の負極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する負極集電体層と、を含み、
前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項4】
前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、前記基板上の異なる辺側または同一辺側に設けられ、互いに重ならない幅寸法に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層が略同一平面形状を有し、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項6】
大気に露出する面が、前記電極取り出し部を除いて絶縁性及び耐湿性を有する水分防止膜で被覆されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項7】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、
前記正極集電体層と前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部を有し、
前記正極集電体層と前記負極集電体層を形成する工程では、同一のマスクを平面方向を変えてまたは裏返すことによって前記基板上において開口位置が異なるように設置して使用することにより、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが互いに重ならないように成膜することを特徴とする薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項8】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、
前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の3層を同一のマスクを使用して連続成膜することにより、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜する工程を行うことを特徴とする薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項1】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池であって、
前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、
前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項2】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層をこの順またはこの逆順に積層してなる薄膜固体二次電池セルを、平面方向に複数配列した薄膜固体二次電池であって、
前記正極集電体層および前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層または前記負極活物質層と重なるように成膜された集電体本体部と、該集電体本体部の一端から前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部と、を有し、
前記複数の薄膜固体二次電池セルのうち、隣り合う2枚の薄膜固体二次電池セルは、一方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部と、他方の薄膜固体二次電池セルの電極取り出し部とが重なることにより直列接続または並列接続されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項3】
基板上に形成した集電体層の上に、正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層をこの順またはこの逆順に積層してなる電池可動部分が集電体層を介して上下に複数積層され、該複数積層された電池可動部分には直列接続または並列接続された電池可動部分が含まれ、最上層の電池可動部分の上にさらに集電体層を形成した薄膜固体二次電池であって、
前記集電体層は、前記電池可動部分の正極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する正極集電体層と、前記電池可動部分の負極活物質層と重なる集電体本体部,前記電池可動部分の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部,を有する負極集電体層と、を含み、
前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、互いに重ならないように形成されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項4】
前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが、前記基板上の異なる辺側または同一辺側に設けられ、互いに重ならない幅寸法に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層が略同一平面形状を有し、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項6】
大気に露出する面が、前記電極取り出し部を除いて絶縁性及び耐湿性を有する水分防止膜で被覆されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池。
【請求項7】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、
前記正極集電体層と前記負極集電体層のそれぞれは、前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の外側まで延出され大気に露出されるように成膜された電極取り出し部を有し、
前記正極集電体層と前記負極集電体層を形成する工程では、同一のマスクを平面方向を変えてまたは裏返すことによって前記基板上において開口位置が異なるように設置して使用することにより、前記正極集電体層の電極取り出し部と前記負極集電体層の電極取り出し部とが互いに重ならないように成膜することを特徴とする薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項8】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層の各層を、それぞれ所定形状の開口を有するマスクを使用してその開口部分に成膜することにより、この順またはこの逆順に積層する薄膜固体二次電池の製造方法であって、
前記正極活物質層,前記固体電解質層,前記負極活物質層の3層を同一のマスクを使用して連続成膜することにより、前記基板上において平面視で略同一位置に成膜する工程を行うことを特徴とする薄膜固体二次電池の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−103129(P2007−103129A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290237(P2005−290237)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]