説明

薄膜形成方法及び薄膜形成装置

【課題】反応性スパッタリングにより所定の薄膜を形成する際に、処理基板全面に亘って膜厚分布や比抵抗値などの膜質を略均一にできるようにスパッタリング装置を構成する。
【解決手段】同数のターゲット31a乃至31hが等間隔で並設された複数のスパッタ室11a、11bの間で、各ターゲットに対向した位置に処理基板Sを搬送し、この処理基板が存するスパッタ室内の各ターゲットに電力投入して各ターゲットをスパッタリングし、処理基板表面に同一または異なる薄膜を積層する。その際、相互に連続するスパッタ室の間で処理基板表面のうち各ターゲット相互の間の領域と対向する箇所がずれるように処理基板の停止位置を変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の処理基板、特に大面積の処理基板表面に所定の薄膜や積層膜を形成するための薄膜形成方法及び薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の処理基板表面に所定の薄膜を形成する薄膜形成方法の一つとしてスパッタリング法があり、このスパッタリング法では、プラズマ雰囲気中のイオンを、処理基板表面に成膜しようする膜の組成に応じて所定形状に作製したターゲットに向けて加速させて衝撃させ、ターゲット原子を処理基板に向かって飛散させて処理基板表面に薄膜を形成する。近年では、この種のスパッタリング装置は、FPD製造用のガラス基板のように面積の大きい処理基板に対し所定の薄膜を形成することに多く利用されている。
【0003】
大面積の処理基板に対して一定の膜厚で所定の薄膜を効率よく形成するものとして、真空チャンバ内で処理基板に対向させて複数枚のターゲットを等間隔で並設し、各ターゲットに電力投入してスパッタリングにより所定薄膜を形成する間、各ターゲットを一体にかつ処理基板に対し平行に一定速度で往復動させることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
複数枚のターゲットを一定の間隔で並設した場合、ターゲット相互の間の領域からスパッタ粒子が放出されないため、処理基板表面での膜厚分布や反応性スパッタリングの際の膜質分布が波打つように(例えば膜厚分布の場合、同一の周期で膜厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように)不均一になる。このため、上記のものでは、スパッタリング中、各ターゲットを一体に移動させてスパッタ粒子が放出されない領域を変えることで、上記膜厚分布や膜質分布の不均一を改善している。
【0005】
それに加えて、上記のものでは、膜厚分布や膜質分布の均一性をより高めるために、各ターゲット前方(スパッタ面側)にトンネル状の磁束をそれぞれ形成すべく、ターゲットの後方に設けた磁石組立体を、ターゲットに平行に一体かつ一定速度で往復動させ、スパッタレートが高くなるトンネル状の磁束の位置をかえることも提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−346388号公報(例えば、特許請求の範囲の記載参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スパッタリング中、ターゲットはイオン衝撃を受けて高温となり、これに起因してターゲットが融解したり、割れたりすることがある。このため、一般に、ターゲットは、インジウムやスズなどの熱伝導率が高い材料からなるボンディング材を介して銅製でかつ内部に冷媒循環路が形成されたバッキングプレートに接合され、ターゲット組立体とした状態でカソード電極に取付けられる。その結果、ターゲット組立体の重量は重い。
【0008】
従って、上記従来の技術のように、並設したターゲット、つまり、ターゲット組立体の複数個を一体に往復動させるときのターゲット組立体の総重量は多大となる。このため、等速かつ等間隔で精度よく各ターゲット組立体を一体に往復動させるには、高トルクかつ高性能のモータ等が必要になり、コスト高を招くという問題がある。また、スパッタリング中、ターゲット組立体や磁石組立体を連続して移動させると、ターゲット前方のプラズマが揺らぐ場合があり、プラズマが揺らぐと、異常放電(アーク放電)を誘発し、良好な薄膜形成が阻害される虞がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、一のまたは複数のチャンバに、複数枚のターゲットを一定の間隔で並設し、スパッタリングにより所定の薄膜や積層膜を形成する際に、処理基板表面の薄膜に波打つ膜厚分布や膜質分布が生じることが抑制でき、良好な薄膜形成が可能な薄膜形成方法及び薄膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の薄膜形成方法は、同数のターゲットが等間隔で並設された複数のスパッタ室間で、各スパッタ室の各ターゲットに対向した位置に処理基板を搬送し、この処理基板が存するスパッタ室内の各ターゲットに電力投入して各ターゲットをスパッタリングし、処理基板表面に同一または異なる薄膜を積層する薄膜形成方法において、連続して薄膜を形成する各スパッタ室相互の間で処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向で相互にずれるように処理基板の停止位置を変えることを特徴とする。
【0011】
これによれば、一のスパッタ室内において、等間隔で並設した各ターゲットに対向した位置に処理基板を移動させ、各ターゲットに電力投入してスパッタリングにより処理基板表面に一の薄膜を形成する。この状態では、各ターゲット相互の間の領域からスパッタ粒子が放出されないため、一の薄膜は、同一の周期で膜厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように不均一になっている。次いで、一の薄膜が形成された処理基板を他のスパッタ室内に搬送し、他のスパッタ室内で各ターゲットに電力投入してスパッタリングにより他の薄膜を積層する。
【0012】
この他のスパッタ室内では、処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向でずらして処理基板の停止位置が位置決めされているため、つまり、例えば一の薄膜が形成された処理基板のうち膜厚の厚い部分をターゲット相互の間の領域に対向させ、かつ、薄い部分をターゲットのスパッタ面と対向させているため、略同一の膜厚で他の薄膜を積層したときに膜厚の厚い部分と薄い部分とを入れ替わることで、積層膜としての膜厚が処理基板全面で略均一になり、その結果、処理基板表面での膜厚分布や反応性スパッタリングの際の膜質分布が波打つように不均一になることが防止できる。各スパッタ室内で薄膜形成する場合、ターゲット組立体は静止状態であるため、上記同様、異常放電の発生を誘発することはなく、良好な薄膜形成が可能となる。
【0013】
尚、上記スパッタリングに際しては、前記並設された複数枚のターゲットのうち対をなすターゲット毎に所定の周波数で交互に極性をかえて交流電圧を印加し、各ターゲットをアノード電極、カソード電極に交互に切替え、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気を形成し、各ターゲットをスパッタリングすれば、ターゲット表面に蓄積する電荷を、反対の位相電圧を印加して打ち消することでより安定的な放電が得られ、異常放電の発生を防止できることと相俟って一層良好な薄膜形成が可能となる。
【0014】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の薄膜形成装置は、相互に隔絶された複数のスパッタ室と、各スパッタ室内に同数かつ同じ間隔でそれぞれ並設した複数枚のターゲットと、各スパッタ室の各ターゲットと対向した位置に処理基板を搬送する基板搬送手段とを備え、相互に連続して薄膜を形成するスパッタ室間で、処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向で相互にずれるように、各スパッタ室内で処理基板の位置決めを行う位置決め手段を設けたことを特徴とする。
【0015】
前記各スパッタ室内で基板搬送手段とターゲットとの間に処理基板が臨む開口部を有するマスクプレートをそれぞれ設け、各マスクプレートの開口部が、連続して薄膜を形成するスパッタ室間で、処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向で相互にずらして形成され、処理基板がマスクプレートの開口部を臨む位置に搬送されたことを検出する検出手段を設けて前記位置決め手段を構成すればよい。
【0016】
また、前記並設したターゲットの後方に、各ターゲットの前方にトンネル状の磁束を形成する磁石組立体をそれぞれ設け、前記磁石組立体を、ターゲットに平行に往復動させる駆動手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の薄膜形成方法及び薄膜形成装置は、一のまたは複数のチャンバに、複数枚のターゲットを一定の間隔で並設し、スパッタリングにより所定の薄膜または積層膜を形成する際に、処理基板表面の薄膜に波打つ膜厚分布や膜質分布が生じることが抑制でき、その上、異常放電の発生を防止して良好な薄膜形成が可能になるという効果を奏する。本発明は、真空チャンバ内に設けられる電極と、電極に電力投入する電源と、電極に冷媒を循環させる冷却手段とを備え、この電極に電力投入して真空チャンバ内にプラズマ雰囲気を形成し、電極を冷却しながら所定処理を施すプラズマ処理装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の薄膜形成装置を模式的に示す図。
【図2】複数枚のターゲットを並設してスパッタリングにより薄膜形成した場合の膜厚分布を説明する図。
【図3】マスクプレートを説明する図。
【図4】本発明の薄膜形成装置の変形例を模式的に示す図。
【図5】実施例2で作製した積層膜の処理基板面内での膜質分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照して説明すれば、1は、本発明のマグネトロン方式のスパッタリング装置(以下、「スパッタ装置」という)である。スパッタ装置1は、インライン式のものであり、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空度に保持できる真空チャンバ11を有する。真空チャンバ11の中央部には仕切板12が設けられ、この仕切板12によって、相互に隔絶された略同容積の2個のスパッタ室11a、11bが画成されている。真空チャンバ11の上部には、基板搬送手段2が設けられている。この基板搬送手段2は、公知の構造を有し、例えば、処理基板Sが装着されるキャリア21を有し、図示しない駆動手段を間欠駆動させて、各スパッタ室11a、11b内で後述するターゲットに対向した位置に処理基板Sを順次搬送できる。
【0020】
各スパッタ室11a、11bには、基板搬送手段2とターゲットとの間に位置してマスクプレート13がそれぞれ取付けられている。各マスクプレート13には、処理基板が臨む開口部13a、13bを有し、後述するターゲットに対向した位置に処理基板Sを搬送し、スパッタリングにより所定の薄膜を形成する際に、キャリア21の表面などにスパッタ粒子が付着することを防止する。また、各スパッタ室11a、11bの下側には、同一構造のカソード電極Cが配置されている。
【0021】
カソード電極Cは、処理基板Sに対向して配置される8枚のターゲット31a乃至31hを有する。各ターゲット31a乃至31hは、Al、Ti、MoやITOなど、処理基板S表面に形成しようとする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製され、例えば略直方体(上面視において長方形)など同形状で形成されている。各ターゲット31a乃至31hは、スパッタリング中、ターゲット31a乃至31hを冷却するバッキングプレート32に、インジウムやスズなどのボンディング材を介して接合され、ターゲット組立体としてそれぞれ構成されている。各ターゲット31a乃至31hは、未使用時のスパッタ面311が処理基板Sに平行な同一平面上に位置するように等間隔で並設され、バッキングプレート32の背面側(スパッタ面311と背向する側、図1で下側)で各ターゲット31a乃至31hの並設方向に延在する支持板33に取付けられている。
【0022】
支持板33上には、ターゲット31a乃至31hの周囲をそれぞれ囲うシールド板34が設けられ、シールド板34がスパッタリングの際にアノードとしての役割を果たすと共に、ターゲット31a乃至31hのスパッタ面311の前方にプラズマを発生させたときにターゲット31a乃至31hの裏側へのプラズマの回り込みを防止する。ターゲット31a乃至31hは、真空チャンバ11外側に設けたDC電源(スパッタ電源)35にそれぞれ接続され、各ターゲット31a乃至31hに独立して所定値のDC電圧を印加できる。
【0023】
また、カソード電極Cは、ターゲット31a乃至31hの後方(スパッタ面311と背向する方向、図1で下方)にそれぞれ位置させて設けた磁石組立体4を有する。同一構造の各磁石組立体4は、各ターゲット31a乃至31hに平行に設けられた支持板41を有する。ターゲット31a乃至31hが正面視で長方形であるとき、この支持板41は、各ターゲット31a乃至31haの横幅より小さく、ターゲット31a乃至31hの長手方向に沿ってその両側に延出するように形成した長方形状の平板から構成され、磁石の吸着力を増幅する磁性材料製である。支持板41上には、その中央部で棒状に配置された中央磁石42と、支持板41の外周に沿って配置された周辺磁石43とがスパッタ面311側の極性を変えて設けられている。
【0024】
中央磁石42の同磁化に換算したときの体積は、例えば周辺磁石42の同磁化に換算したときの体積の和(周辺磁石:中心磁石:周辺磁石=1:2:1)に等しくなるように設計され、各ターゲット31a乃至31hのスパッタ面311前方に、釣り合った閉ループのトンネル状の磁束がそれぞれ形成される。これにより、各ターゲット31a乃至31hの前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、各ターゲット31a乃至31h前方での電子密度を高くしてプラズマ密度が高まり、スパッタレートを高くできる。
【0025】
各磁石組立体4は、モータやエアーシリンダなどから構成される駆動手段5a、5bの駆動軸51にそれぞれ連結され、ターゲット31a乃至31hの並設方向に沿った2箇所の位置の間で平行かつ等速で一体に往復動できるようになっている。これにより、スパッタレートが高くなる領域をかえて各ターゲット31a乃至31hの全面に亘って均等に侵食領域が得られる。
【0026】
真空チャンバ11には、Ar等の希ガスからなるスパッタガスをスパッタ室11a、11bにそれぞれ導入するガス導入手段6a、6bが設けられている。同一構造のガス導入手段6a、6bは、例えば真空チャンバ11の側壁に取付けられたガス管61を有し、ガス管61は、マスフローコントローラ62を介してガス源63に連通している。尚、反応性スパッタリングにより処理基板S表面に所定の薄膜を形成する場合には、酸素や窒素などの反応性ガスをスパッタ室11a、11bにそれぞれ導入する他のガス導入手段が設けられる。
【0027】
そして、基板搬送手段2によって処理基板Sがセットされたキャリア21を、一方のスパッタ室11aでターゲット31a乃至31hと対向した位置に搬送する(このとき、処理基板Sとマスクプレート13の開口13aとが上下方向で相互に一致した位置に位置決めされる)。次いで、所定の圧力下でガス導入手段5aを介してスパッタガス(や反応ガス)を導入し、ターゲット31a乃至31hにDC電源35を介して負の直流電圧を印加すると、処理基板S及びターゲット31a乃至31hに垂直な電界が形成され、ターゲット31a乃至31hの前方にプラズマ雰囲気が形成される。そして、プラズマ雰囲気中のイオンが各ターゲット31a乃至31hに向けて加速させて衝撃させ、スパッタ粒子(ターゲット原子)が処理基板Sに向かって飛散されて処理基板S表面に一の薄膜が形成される。
【0028】
次いで、一の薄膜が形成された処理基板Sを他のスパッタ室11bに搬送し、上記と同様、ターゲット31a乃至31hにDC電源35を介して負の直流電圧を印加してスパッタリングにより、処理基板S表面に形成された一の薄膜の表面に、同一または異なる種類の他の薄膜が積層される。
【0029】
ところで、上記スパッタリング装置1では、各ターゲット31a乃至31h相互の間の領域R1からスパッタ粒子が放出されない。このため、図2に示すように、処理基板S表面に所定の薄膜を形成すると、膜厚分布が波打つように、つまり、同一の周期で膜厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように不均一になり、この不均一は、所定の薄膜を積層するとより顕著になる。この場合、例えばガラス基板に透明電極(ITO)を形成し、液晶を封入してFPDを製作したとき、表示面にむらが発生するという不具合が生じることから、上記膜厚分布や膜質分布の不均一を改善する必要がある。
【0030】
本実施の形態では、各スパッタ室11a、11bの間で、処理基板S表面のうち各ターゲット31a乃至31h相互の間の領域R1と対向する箇所が、基板搬送方向で相互にずれるように各スパッタ室11a、11bでの処理基板Sの停止位置を変えることとした。即ち、一のスパッタ室11a内で等間隔で並設したターゲット31a乃至31hに対向した所定位置に処理基板Sを移動させてスパッタリングにより一の薄膜を形成する。この状態では、一の薄膜は、同一の周期で膜厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように不均一になっている。
【0031】
次いで、一の薄膜が形成された処理基板Sを他のスパッタ室11a内で、各ターゲット31a乃至31hに対向した位置に処理基板を移動させるとき、各ターゲット31a乃至31h相互の間の領域R1と対向する箇所が処理基板Sの基板搬送方向で相互にずれるように処理基板Sの停止位置を変えて位置決めする。つまり、他のスパッタ室11bでは、一の薄膜が形成された処理基板Sのうち膜厚の厚い部分をターゲット31a乃至31h相互の間の空間23にそれぞれ対向させ、かつ、薄い部分をターゲット31a乃至31hのスパッタ面311と対向させる。これにより、略同一の膜厚で他の薄膜を積層したときに膜厚の厚い部分と薄い部分とを入れ替わることで、二層膜としての膜厚が処理基板S全面で略均一になり、その結果、処理基板S表面での膜厚分布や反応性スパッタリングの際の膜質分布が波打つように不均一になることが防止できる。
【0032】
上記薄膜形成のために本実施の形態では、一のスパッタ室11a内のマスクプレート13の開口部13aと、他のスパッタ室11bマスクプレート13の開口部13aとを、基板搬送方向で相互にずらして形成し、各スパッタ室11a、11bでターゲット31a乃至31hと対向した位置に搬送されてくる処理基板Sの停止位置を定める基準をなすようにした(図3参照)。そして、処理基板Sがマスクプレート13の各開口13a、13bを臨む位置(処理基板Sと開口13aとが上下方向で一致する位置)にキャリア21が移動されたとき、これを検出する検出手段、例えば公知の構造のポジションセンサ6を真空チャンバ11に設けて、位置決め手段を構成した。これにより、処理基板Sを複数のスパッタ室11a、11bを順次搬送する際に、膜厚の厚い部分と薄い部分とが入れ替わるように各スパッタ室11a、11bで処理基板Sを精度よく位置決めできる。
【0033】
尚、本実施の形態では、処理基板Sを2個のスパッタ室11a、11bを順次搬送して波打つ膜厚分布や膜質分布の不均一を防止することとしたが、これに限定されるものではない。例えば3個のスパッタ室を設け、基板搬送手段2によって各スパッタ室内に処理基板Sを搬送し、三層膜を形成する場合には、ターゲット相互間の領域と対向する箇所が3個のスパッタ室で相互にずれるように各スパッタ室内で処理基板を停止させればよい。
【0034】
例えば、三層膜のうち第一及び第二の薄膜を形成する場合に、上記と同様、ターゲット相互間の領域と対向する箇所が相互にずれるように、各スパッタ室内の処理基板の停止位置を相互にずらして薄膜形成し、その後、残りの第三の膜を形成するときに、第一及び第二の各薄膜と、第三の薄膜との膜厚が1:1に近づくように調整して、第三の薄膜を形成すればよい。これにより、処理基板S表面での膜厚分布や反応性スパッタリングの際の膜質分布が波打つように不均一になることが防止される。
【0035】
また、本実施の形態では、複数のスパッタ室間で処理基板を搬送させて薄膜形成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図4に示すように、一つのスパッタ室110内で、基板搬送手段2の駆動手段を制御して、並設したターゲット31a乃至31hに平行に一定の間隔Dかつ所定速度(例えば、1〜110mm/s)で処理基板Sがセットされたキャリア21を往復動させるようにスパッタ装置10を構成してもよい。
【0036】
上記構成によれば、スパッタリング中、処理基板Sを各ターゲット31a乃至31hに平行に一定の間隔で移動させるため、処理基板Sの全面に亘ってターゲット31a乃至31h表面のスパッタ粒子が放出される領域R1と対向させることができる。その結果、一つのスパッタ室110において、処理基板S表面での膜厚分布や反応性スパッタリングの際の膜質分布が波打つように不均一になることが抑制できる。
【0037】
処理基板Sが往復動の折返し位置P1、P2に到達したとき、基板搬送手段2の駆動手段を制御して、この処理基板Sを所定時間(例えば60秒以内)停止するようにしてもよい。これにより、ターゲット種、即ち、各ターゲットのスパッタリング時の飛散分布に基づく処理基板Sに向かうスパッタ粒子の量に応じて、各折返し点P1、P2での処理基板Sの停止時間を適宜設定するだけで、処理基板S表面に形成した薄膜に微小に波打つ膜厚分布や膜質分布が生じることがさらに抑制できる。このとき、磁石組立体4を少なくとも一往復動させることが好ましく、また、波打つ膜厚分布や膜質分布の発生を抑制する制御の自由度を高めるために、処理基板Sが一方の折返し位置P1(またはP2)から他方P2(またはP1)に向かって移動するとき、ターゲット31a乃至31hへの電力投入を停止し、処理基板Sが停止している場合にだけ薄膜形成するようにしてもよい。
【0038】
上記いずれの構成のスパッタリング装置1、10においても、スパッタリング中、ターゲット組立体31、32は静止状態であるため、プラズマが揺らぎに起因した異常放電(アーク放電)の発生が防止でき、良好な薄膜形成が可能になる。また、複数のターゲット31、32より重量の軽い処理基板Sを移動させているため、複数個のターゲット組立体31、32を一体に往復動させるときのような高精度かつ高トルクのモータ等の駆動手段は必要ない。特に、本実施の形態のインライン式のスパッタ装置1の場合、基板搬送手段2を用いて、処理基板Sを往復動させれば、処理基板Sの往復動用に他の駆動手段を別途設ける必要はなく、コスト低減が図れてよい。
【0039】
さらに、本実施の形態では、スパッタ電源としてDC電源35を用いているが、これに限定されるものではなく、並設した各ターゲット31a乃至31hのうち、2個が対をなし、一対のターゲット31a乃至31hに、交流電源から出力ケーブルをそれぞれ接続し、一対のターゲット31a乃至31hに、所定の周波数(1〜400KHz)で交互に極性をかえて電圧を印加するようにしてもよい。これにより、各ターゲット31a乃至31hがアノード電極、カソード電極に交互に切替え、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気が形成され、プラズマ雰囲気中のイオンがカソード電極となった一方のターゲット31a乃至31hに向けて加速されて衝撃し、ターゲット原子が飛散され、処理基板S表面に付着、堆積して所定の薄膜が形成できる。
【0040】
他方、反応性スパッタリングにより処理基板S表面に所定の薄膜を形成する場合、反応性ガスが偏ってスパッタ室11a、11bに導入されると、処理基板S面内で反応性にむらが生じるため、並設した各磁石組立体4の後方に、ターゲット31a乃至31hの並設方向に延びる少なくとも1本のガス管を設け、このガス管の一端を、マスフローコントローラを介して酸素等の反応性ガスのガス源に接続し、反応性ガス用のガス導入手段を構成してもよい。
【0041】
そして、ガス管のターゲット側に、同径でかつ所定の間隔を置いて複数個の噴射口を開設し、ガス管に形成した噴射口から反応性ガスを噴射して、各ターゲット31a乃至31hの後方の空間で反応性ガスが一旦拡散させ、次いで、並設した各ターゲット31a乃至31hd相互間の各間隙を通って処理基板Sに向かって供給する。
【実施例1】
【0042】
本実施例1では、図1に示すスパッタ装置1を用い、スパッタリングにより処理基板にAl膜を2層積層した。各スパッタ室11a、11b内のターゲット31a乃至31hとして、99.99%のAlを用い、公知の方法で200mm×2300mm×厚さ16mmの平面視略長方形に成形し、バッキングプレート32に接合し、270mmの間隔を置いて支持板33上に配置した。他方、処理基板として、1500mm×1350mmの外形寸法を有するガラス基板を用いた。ターゲットと処理基板との間の距離を160mmに設定した。
【0043】
スパッタリング条件として、真空排気されているスパッタ室11a、11b内の圧力が0.5Paに保持されるように、マスフローコントローラを制御してArをスパッタ室11a、11bにそれぞれ導入し、処理基板S温度を120℃に設定した。また、一のスパッタ室11aでは、並設したターゲットの外枠と同心となるように処理基板Sを停止させ、他のスパッタ室11bでは、処理基板搬送方向に135mm移動させた位置に処理基板Sを停止させることとした。そして、各スパッタ室11a、11bで各ターゲットに30kWの電力を投入し、50秒間スパッタリングして、処理基板表面に150nmの膜厚で2層のAl膜を積層し、300nmのAl膜を得た。(比較例1)
【0044】
比較例1として、図1に示すスパッタ装置1を用い、実施例1と同条件で処理基板表面に150nmの膜厚を2層積層し、300nmのAl膜を得た。尚、各スパッタ室11a、11bで、並設したターゲットと略同心となるように処理基板Sをそれぞれ停止させた。
【0045】
これによれば、比較例1では、同一の周期でシート抵抗値の高い部分と低い部分とが繰返し、その膜厚分布は±12.3%であった。それに対し、実施例1では、波打つ膜厚分布の振幅が略半分に抑制され、その膜厚分布は±6.6%であり、処理基板表面での膜厚分布や膜質分布が波打つように不均一になることを抑制できたことが判る。
【実施例2】
【0046】
本実施例2では、図4に示すスパッタ装置10を用い、スパッタリングにより処理基板にAl膜を形成したが、ターゲットの並設枚数を12枚とした。また、各ターゲットとして99.99%のAlを用い、公知の方法で180mm×2650mm×厚さ16mmの平面視略長方形に成形し、バッキングプレートに接合し、202mmの間隔を置いて支持板33上に配置した。他方、処理基板として、1950mm×2250mmの外形寸法を有するガラス基板を用いた。ターゲットと処理基板との間の距離を150mmに設定した。
【0047】
スパッタリング条件として、真空排気されているスパッタ室10内の圧力が0.3Paに保持されるように、マスフローコントローラを制御してArをスパッタ室110に導入し、処理基板S温度を120℃、各ターゲットへの投入電力を75kWに設定した。薄膜形成に際しては、先ず、基板搬送手段2の駆動手段を制御して一方の折返し位置P1に処理基板を移動し、この状態で、スパッタ時間を40秒に設定してスパッタリングにより処理基板表面に300nmの膜厚で第一のAl膜を形成した。
【0048】
次いで、一旦ターゲットへの電力投入を停止した後、基板搬送手段2によって処理基板を他方の折返し位置P2に移動し、この状態で、スパッタ時間を40秒に設定してスパッタリングにより処理基板表面に300nmの膜厚で第二のAl膜を積層し、全体で600nmの膜厚のAl膜を得た(つまり、処理基板の往復動の折返し位置で処理基板を停止すると共に各折返し位置でのみターゲットへの電力投入を行った)。尚、折返し位置相互の間の間隔を100mmに設定した。
【0049】
図5は、実施例2で得たAl膜のその長手方向に沿ったシート抵抗値の分布(膜質分布)を、各折返し位置P1、P2において上記と同じスパッタ条件でAl膜(300nm)をぞれぞれ得たときのシート抵抗値の分布と共に示すグラフである。これによれば、各折返し位置でAl膜を形成したとき、同一の周期でシート抵抗値の高い部分と低い部分とが繰り返し、そのシート抵抗値の分布は±6.5%であった。それに対し、実施例2では、薄膜形成の際に、並設したターゲットに対する処理基板の位置を基板搬送方向(ターゲットの並設方向)でずらすことで、シート抵抗値の分布は±2.7%であり、処理基板表面での膜厚分布や膜質分布が波打つように不均一になることを抑制できることが判る。
【符号の説明】
【0050】
1…スパッタ装置、11a,11b…スパッタ室、13…マスクプレート、13a,13b…開口部、2…基板搬送手段、21…キャリア、31a乃至31d…ターゲット、35…スパッタ電源、5a、5b…ガス導入手段、S…処理基板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同数のターゲットが等間隔で並設された複数のスパッタ室間で、各スパッタ室の各ターゲットに対向した位置に処理基板を搬送し、この処理基板が存するスパッタ室内の各ターゲットに電力投入して各ターゲットをスパッタリングし、処理基板表面に同一または異なる薄膜を積層する薄膜形成方法において、連続して薄膜を形成する各スパッタ室相互の間で処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向で相互にずれるように処理基板の停止位置を変えることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記並設された複数枚のターゲットのうち対をなすターゲット毎に所定の周波数で交互に極性をかえて交流電圧を印加し、各ターゲットをアノード電極、カソード電極に交互に切替え、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気を形成し、各ターゲットをスパッタリングすることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項3】
相互に隔絶された複数のスパッタ室と、各スパッタ室内に同数かつ同じ間隔でそれぞれ並設した複数枚のターゲットと、各スパッタ室の各ターゲットと対向した位置に処理基板を搬送する基板搬送手段とを備え、相互に連続して薄膜を形成するスパッタ室間で、処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向で相互にずれるように、各スパッタ室内で処理基板の位置決めを行う位置決め手段を設けたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項4】
前記各スパッタ室内で基板搬送手段とターゲットとの間に処理基板が臨む開口部を有するマスクプレートをそれぞれ設け、各マスクプレートの開口部が、連続して薄膜を形成するスパッタ室間で、処理基板表面のうち各ターゲットと対向する領域が基板搬送方向で相互にずらして形成され、処理基板がマスクプレートの開口部を臨む位置に搬送されたことを検出する検出手段を設けて前記位置決め手段を構成したことを特徴とする請求項3記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記並設したターゲットの後方に、各ターゲットの前方にトンネル状の磁束を形成する磁石組立体をそれぞれ設け、前記磁石組立体を、ターゲットに平行に往復動させる駆動手段を備えたことを特徴とする請求項3または請求項4記載の薄膜形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−184511(P2012−184511A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141323(P2012−141323)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2009−502513(P2009−502513)の分割
【原出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】