説明

薄膜形成装置、薄膜形成方法、圧電素子の形成方法、液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置

【課題】液滴表面にレーザ光を直接照射することで乾燥・焼成して薄膜形成を行う、従来のインクジェット法において生じる特性劣化を低減させることを可能とする。
【解決手段】インクジェット法により基板上の所定の領域に薄膜形成にかかるインク滴Iを塗布し、そのインク滴Iが塗布された領域に対応した位置の、そのインク滴Iが塗布された面の裏面にレーザ光源213からのレーザ光Lを照射し、そのインク滴Iを加熱して焼成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置、薄膜形成方法、圧電素子の形成方法、液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置の液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する構成とを備え、インクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させている。インクを加圧する構成としては、電気−機械変換素子(以下、圧電素子)、或いはヒータなどの電気熱変換素子、若しくはインク流路の壁面を形成する振動板とこれに対向する電極からなるエネルギー発生手段などである。
【0003】
ここで、圧電素子を用いた液滴吐出ヘッドの構成を例示する。図16は、液滴吐出ヘッド400の構成を例示する断面図である。図16に示すように、液滴吐出ヘッド400は、ノズル板410、圧力室基板420(Si基板)、振動板430により圧力室421を形成している。ノズル板410には圧力室421と連通するノズル411が設けられ、振動板430には密着層441を介して圧電素子440が設けられている。液滴吐出ヘッド400は、圧電素子440により振動板430を振動させて圧力室421を加圧することで、ノズル板410のノズル411からインク滴を吐出する構成である。インクジェット記録装置は、画素対応の液滴吐出ヘッド400が所定の間隔で並べられた記録ヘッドにより、用紙などの記録媒体に画像形成を行う。
【0004】
液滴吐出ヘッド400の主要部である圧電素子440は、密着層441上に下部電極442、電気−機械変換膜443及び上部電極444を薄膜形成により積層してなる。下部電極442、上部電極444は、電気−機械変換膜443に電気的入力を行う電極である。電気−機械変換膜443は、下部電極442、上部電極444による電気的入力を機械的な変形に変換する。具体的には、電気−機械変換膜443は、チタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconate titanate,PZT)セラミックスなどが用いられ、これらは複数の金属酸化物を主成分としているので一般に金属複合酸化物と称される。
【0005】
従来の圧電素子440の形成方法は次のとおりである。先ず、下部電極442上に各種の真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法(金属有機化合物を用いた化学的気相成長法)、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、AD(エアロゾルデポジション)法、塗布・熱分解法(MOD)などの周知の成膜技術により堆積させ、引き続き、上部電極444を形成した後、フォトリソグラフィー・エッチングにより、上部電極444のパターニングを行い、同様に電気−機械変換膜443、下部電極442のパターニングを行い個別化を実施している。
【0006】
金属複合酸化物、特にPZTのドライエッチングは容易な加工材ではない。RIE(反応性イオンエッチング)でSi半導体デバイスは容易にエッチング加工できるが、この種の材料はイオン種のプラズマエネルギーを高める為、ICPプラズマ、ECRプラズマ、ヘリコンプラズマを併用した特殊なRIEが成される(これは製造装置のコスト高を招く)。また下地電極膜との選択比は稼げない。特に大面積基板ではエッチング速度の不均一性は致命的である。あらかじめ、所望する部位のみに難エッチング性のPZT膜を配置すれば、上記加工工程が省略できるが、その試みは一部を除いて成されていない。PZT膜を個別に生成する方法としては、水熱合成法、真空蒸着法、AD法、インクジェット法がある。
【0007】
水熱合成法:Ti金属上にPZTが選択成長する。Ti電極をパターニングしておけば、その部位のみにPZT膜が成長する。この方法で十分な耐圧を有するPZT膜を得るには、膜厚が5μm以上の比較的厚い膜が好ましい(これ以下の膜厚では、電界印加で容易に絶縁破壊してしまう、所望する任意の薄膜が得られない)。またSi基板上に素子を形成する場合、水熱合成が強アルカリ性の水溶液下で合成されるため、Si基板の保護が必須となる。
【0008】
真空蒸着法:有機ELの製造にシャドウマスクが用いられ、発光層のパターニングが成されているが、PZT(成)膜は基板温度500〜600℃にした状態で実行される。これは圧電性出現の為には複合酸化物が結晶化している必要があり、その結晶化膜を得るのに上記基板温度が必須となる。一般的なシャドウマスクはステンレス製であり、Si基板とステンレス材の熱膨張差から、十分なマスキングが出来ない、使い捨てシャドウマスクは実現性が低い。特にMO−CVD法やスパッタリング法では堆積膜の回り込み現象が大きく、さらに不向きである。
【0009】
AD法:あらかじめフォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成し、レジストの無い部位にPZTを成膜する方法が知られている。AD法は先述の水熱合成法と同様に厚膜に有利であり、5um以下の薄膜には不向きである。また、レジスト膜上にもPZT膜が堆積するので、研磨処理により一部の堆積膜を除去した後、リフトオフ工程を行う。大面積の均一研磨工程も煩雑、さらにレジスト膜は耐熱性が無い為、室温でAD成膜を実行し、ポストアニール処理を経て、圧電性を示す膜に変換している。
【0010】
インクジェット法:液滴吐出により金属配線パターンを形成した後、レーザを用いて乾燥及び焼成を行うプロセスであるインクジェット法に関する従来技術としては、特許文献1〜4、非特許文献1及び非特許文献2が知られている。特許文献1には、インクジェット機構とレーザ照射機構を併せ持つ薄膜生成装置で、液滴をワークに吐出する描画系と、吐出された液滴とレーザスポットの位置合わせを正確かつ迅速にすることが記載されている。特許文献2には、吐出した機能材料を含む液滴に、レーザ光を精度よく照射し、効率のよい乾燥・焼成を行うことが記載されている。特許文献3には、液滴からの蒸発成分を液滴の流動性に対応した吸引速度で吸引することで、パターンの形成制御性を向上させることが記載されている。特許文献4には、レーザ光の照射口に開閉機構を設けてレーザ光を照射しない場合は閉じるようにすることで、レーザの光学特性を維持することが記載されている。非特許文献1には、ゾルゲル法による金属複合酸化物の薄膜形成に関する技術が紹介されている。非特許文献2には、Au膜上にアルカンチオールが自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)として形成できること、この現象を用いたマイクロコンタクトプリント法でSAMパターンを転写し、その後のエッチングなどのプロセスに利用することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来のインクジェット法では、液滴表面にレーザを直接照射することで乾燥・焼成して薄膜形成を行うため、表面から乾燥することによる特性劣化が生じることがわかった。この特性劣化が生じた圧電素子を用いる液滴吐出ヘッドやインクジェット記録装置では画像品質が低減することとなる。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、インクジェット法において生じる特性劣化を低減させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一側面は、インクジェット法により基板上に薄膜形成を行う薄膜形成装置であって、基板上の所定の領域に薄膜形成にかかるインク滴を塗布するインク塗布手段と、前記インク滴を加熱して薄膜形成を行うための少なくとも1つ以上のレーザ光源と、前記インク滴が塗布された領域に対応した位置の、当該インク滴が塗布された面の裏面に前記レーザ光源からのレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の他の側面は、インクジェット法により基板上に薄膜形成を行う薄膜形成方法であって、基板上の所定の領域に薄膜形成にかかるインク滴を塗布するインク塗布工程と、前記インク滴が塗布された領域に対応した位置の、当該インク滴が塗布された面の裏面にレーザ光源からのレーザ光を照射して前記インク滴を加熱して焼成させる焼成工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インクジェット法において生じる特性劣化を低減させることを可能とする、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1−1】図1−1は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図1−2】図1−2は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図1−3】図1−3は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図1−4】図1−4は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図2−1】図2−1は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図2−2】図2−2は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図2−3】図2−3は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図2−4】図2−4は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図3−1】図3−1は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図3−2】図3−2は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図3−3】図3−3は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図3−4】図3−4は、SAM膜のパターニング工程の一工程を示す模式図である。
【図4−1】図4−1は、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布する一工程を示す模式図である。
【図4−2】図4−2は、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布する一工程を示す模式図である。
【図4−3】図4−3は、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布する一工程を示す模式図である。
【図4−4】図4−4は、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布する一工程を示す模式図である。
【図4−5】図4−5は、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布する一工程を示す模式図である。
【図4−6】図4−6は、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布する一工程を示す模式図である。
【図5】図5は、本実施形態にかかる薄膜形成装置の斜視図である。
【図6】図6は、薄膜形成装置のレーザ照射機構を説明する概念図である。
【図7】図7は、レーザ照射機構の変形例を説明する概念図である。
【図8】図8は、SAM膜形成部位における水の接触角の測定写真図である。
【図9】図9は、SAM膜除去部位における水の接触角の測定写真図である。
【図10】図10は、本実施形態の薄膜形成で作成した圧電素子のP−Eヒステリシス曲線を示すグラフである。
【図11】図11は、基板上にインク滴をパターニングして成膜する時の断面図である。
【図12】図12は、裏面に構造を持つ基板上にインク滴をパターニングして成膜する時の断面図である。
【図13】図13は、本実施形態にかかる薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッドの構成を示す断面図である。
【図14】図14は、本実施形態にかかるインクジェット記録装置の斜視説明図である。
【図15】図15は、本実施形態にかかるインクジェット記録装置の機構部分の側面説明図である。
【図16】図16は、液滴吐出ヘッドの構成を例示する断面図である。
【図17】図17は、変形例にかかる薄膜形成装置の斜視図である。
【図18】図18は、変形例にかかる薄膜形成装置のレーザ照射機構を説明する概念図である。
【図19】図19は、レーザ照射機構の変形例を説明する概念図である。
【図20】図20は、裏面及び表面へのレーザ光の照射を例示する概念図である。
【図21】図21は、レーザ光の照射タイミングと強度とを示すグラフである。
【図22】図22は、レーザ光の照射タイミングと強度とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる薄膜形成装置、薄膜形成方法、圧電素子の形成方法、液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置の一実施形態を詳細に説明する。
【0018】
インクジェット記録装置には、騒音が極めて小さくかつ高速印字が可能であり、更にはインクの自由度があり安価な普通紙を使用できるなど多くの利点がある。このために、インクジェット記録装置は、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として広く用いられている。インクジェット記録装置に使用される液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する構成とを備え、インクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させている。インクを加圧する構成としては、圧電素子を用いて加圧室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型の構成、加圧室内に配設した発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いてインクの膜沸騰でバブルを発生させてインク滴を吐出させるバブル型(サーマル型)のものなどがある。
【0019】
更にピエゾ型のものにはd33方向の変形を利用した縦振動型、d31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型、更には剪断変形を利用したシェアモード型等がある。また、最近では半導体プロセスやMEMSの進歩により、Si基板に直接液室及びピエゾ素子を作り込んだ薄膜アクチュエータが考案されている。
【0020】
以下の実施形態では、d31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型の圧電素子を例に、薄膜形成装置、薄膜形成方法、圧電素子の形成方法、液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置を説明する。
【0021】
<ゾルゲル法による圧電体層の形成>
圧電体層がPZTの場合は、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし(非特許文献1参照)、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得る。この均一溶媒をPZT前駆体溶液と呼ぶ。
【0022】
PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体であり、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成は、PbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般にPZT(53/47)と示される。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物の出発材料は、この化学式に従って秤量される。
【0023】
金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定剤を適量、添加しても良い。
【0024】
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
【0025】
下地となる基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施す。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
【0026】
液滴吐出ヘッドの圧電素子として用いる場合、このPZT膜の膜厚は1μm〜2μmが要求される。前述の方法でこの膜厚を得るには十数回、工程を繰り返す。
【0027】
ゾルゲル法によるパターン化した圧電体層の形成の場合には、下地となる基板の濡れ性を制御したPZT前駆体溶液の塗り分けをする。
【0028】
(非特許文献2に示されているアルカンチオールの特定金属上に自己配列する現象)
・白金族金属にチオールはSAM膜形成する。
・下部電極にPtを用い、その全面にSAM処理を行う。
・SAM膜上はアルキル基が配置しているので、疎水性になる。
・周知のフォトリソグラフィー・エッチングにより、このSAM膜をパターニングする。
・レジスト剥離後も、パターン化SAM膜は残っているので、この部位は疎水性である。
・SAM除去した部位は白金表面なので親水性である。
・この表面エネルギーのコントラストを利用してPZT前駆体溶液の塗り分けをする。
・コントラストの程度にもよるが、PZT前駆体溶液はスピンコート法で全面塗布してもパターン状に塗り分けられる場合もある。
・なお、ドクターブレード塗工でも良い。
・また、ディップコートでもよい。
・PZT前駆体溶液の消費量を低減したい場合はインクジェット塗工でも良い。
・同様に凸版印刷でも可能である。
【0029】
図1−1〜図3−4を参照して、3種類の方法(図1−1〜図1−4、図2−1〜図2−4、図3−1〜図3−4)でアルカンチオールのSAM膜をパターニングする工程を示す。図1−1、図2−1、図3−1に示す、パターニングを開始する基板1の最表面は、言うまでもなくチオールとの反応性に優れた白金として説明する。
【0030】
アルカンチオールは分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性が異なるものの、CからC18の分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に溶解させる(濃度数モル/l)。この溶液中に基板1を浸漬させ、所定時間後に取り出した後、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することで白金表面にSAM膜2を形成できる(図1−2、図3−2)。
【0031】
図1−1〜図1−4の方法では、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト3をパターン形成し(図1−3)、ドライエッチングによってフォトレジスト3でマスクされていないSAM膜2を除去し、加工に用いたフォトレジスト3を除去してSAM膜2のパターニングを終える(図1−4)。
【0032】
図2−1〜図2−4の方法では、先にフォトレジスト3を形成し(図2−2)、次いでSAM処理を行う。SAM処理後の状態において、フォトレジスト3上にはSAM膜2は形成されない(図2−3)。次いで、フォトレジスト3を除去することで、SAM膜2のパターニングを終える(図2−4)。
【0033】
図3−1〜図3−4の方法では、先ず、図1−1〜図1−4で例示した方法と同じ工程を経てSAM膜2を形成する(図3−2)。次いで、フォトマスク4を介して紫外線を照射し、露光を行う(図3−3)。この露光により、未露光部分にはSAM膜2が残り、露光部分のSAM膜2が消失する(図3−4)。
【0034】
次いで、インクジェット法でPZT前駆体を繰り返して塗布して薄膜形成を行う(図4−1〜図4−6)。図4−1に示すように、SAM膜2の表面は疎水部分であり、SAM膜2で覆われていない基板1の表面は親水部分である。
【0035】
先ず、インクジェット法により、第1のパターン化PZT前駆体塗膜5を形成する(図4−2)。次いで、通常のゾルゲルプロセスに従って熱処理を行う。前駆体熱処理温度は有機物の燃焼温度:500℃、PZT結晶化温度:700℃などの高温処理によりSAM膜2が消失し、PZT膜6が焼成される(図4−3)。
【0036】
2回目以降の工程は以下の理由から簡便化できる(図4−4〜図4−6参照)。
・SAM膜2は酸化物薄膜上には形成できない。よって、1回目の処理の後は、PZT膜6が無く、露出している基板1上のみにSAM膜2が形成される。
・本実施形態では、この自己組織化現象を用いる。従来のSAM膜2のパターン化とこれを利用した機能性色材(カラーフィルター、ポリマー有機EL、ナノメタル配線)のパターニングは1回のSAM処理と引き続き行われる機能性色材の配置で完了していたが、ゾルゲル法では一度に成膜出来る膜厚が少ないので、複数回繰り返す必要がある。毎回、フォトリソグラフィー・エッチングによるパターン化SAM膜形成は工程が煩雑になる。本実施形態は、特にSAM膜が形成できない酸化物薄膜と、圧電素子として下部電極が構成要素であり、その下部電極にSAM膜が形成可能な組合せで初めて実現できるものである。
・1回目のパターン形成した基板1にSAM処理を行った後(図4−4)、PZT前駆体溶液の塗り分け塗工を行い(図4−5)、熱処理を施す(図4−6)。
・所望の膜厚になるまでこの工程を繰り返す。
・この方法によるパターン化は、セラミックス膜厚が5μmの厚さまで形成できる。
【0037】
下部電極として用いられる材料は耐熱性かつアルカンチオールとの反応によりSAM膜を形成する金属が選ばれる。銅や銀はSAM膜を形成するが大気下中、500℃以上の熱処理により変質してしまうので用いることは出来ない。さらに金は両条件を満たすものの、積層するPZT膜の結晶化に不利に働くので使えない。白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、の単金属や白金-ロジウムなどの白金を主成分とした他の白金族元素との合金材料も有効である。
【0038】
シリコン基板上に配置する振動板は厚さ数ミクロンでシリコン酸化膜や窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、およびこれら各膜を積層した膜でも良い。また熱膨張差を考慮した酸化アルミニウム膜、ジルコニア膜などのセラミック膜でも良い。これら材料は絶縁体である。
【0039】
下部電極は圧電素子に信号入力する際の共通電極として電気的接続をするので、その下にある振動板は絶縁体か、もしくは導体であれば絶縁処理を施して用いることになる。
【0040】
シリコン系絶縁膜は熱酸化膜、CVD堆積膜を用い、金属酸化膜はスパッタリング法で成膜することが出来る。
【0041】
これら振動板上に白金族下部電極を配置する場合、膜密着力を強めるための密着層が必要となる(図16参照)。密着層として可能な材料はチタン、タンタル、酸化チタン、酸化タンタル、窒化チタン、窒化タンタルやこれら積層膜が有効である。
【0042】
次に、上述したインクジェット法を実施する薄膜形成装置について説明する。図5は、本実施形態にかかる薄膜形成装置20の斜視図である。
【0043】
図5に示すように、薄膜形成装置20において、架台200上にはY軸駆動手段201が設置されている。このY軸駆動手段201により、基板202を搭載するステージ203はY−Y’方向に駆動される。なお、ステージ203は、真空や静電気などによって基板202をステージ203に固定するための吸着手段(図示しない)を備える。基板202は、この吸着手段によってステージ203で固定されている。なお、基板202の裏面側へレーザ光を照射するため(詳細は後述する)、ステージ203は、開口部分に基板202を嵌め込んで基板202を支える構成となっている。
【0044】
また、架台200上にはX軸支持部材204がY軸駆動手段201によりY−Y’方向に駆動されるステージ203を跨ぐように設置されている。X軸支持部材204には、X軸駆動手段205が取り付けられている。X軸駆動手段205にはZ軸駆動手段211に搭載されたヘッドスペース206が取り付けられている。このため、ヘッドスペース206は、ステージ203上においてX−X’方向及びZ−Z’方向に駆動される。ヘッドスペース206には、ステージ203に固定された基板202上にインク滴を吐出させるIJヘッド208(IJ;インクジェット)と、アライメント用カメラ215とが搭載されている。IJヘッド208にはインク供給用パイプ210が接続されている。IJヘッド208には、図示しないインクタンクからインク供給用パイプ210を介して機能性材料インク(PZT前駆体溶液など)が供給される。これにより、IJヘッド208は、ステージ203に設置された基板202の表面にPZT前駆体溶液などのインク滴を吐出させる。また、架台200上にはIJヘッド208の洗浄を行うためのヘッド洗浄機構212が設置されている。
【0045】
アライメント用カメラ215は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどのデジタルカメラであり、Y軸駆動手段201、X軸駆動手段205、Z軸駆動手段211などの駆動を制御するCPU(Central Processing Unit)等の制御装置に接続されている。薄膜形成装置20では、アライメント用カメラ215によりステージ203に設置された基板202の表面を撮像し、その撮像画像をもとに制御装置が駆動を制御することで、基板202の表面に対するIJヘッド208のアライメントを行う。また、基板202の裏面に照射されるレーザ光を撮像し、その撮像画像をもとに制御装置が駆動を制御することで、そのレーザ光とIJヘッド208により基板202上に吐出されたインク滴とのアライメントを行う。なお、アライメント用カメラ215は複数のカメラを備える構成であってもよい。すなわち、IJヘッド208のアライメントと、レーザ光とインク滴のアライメントとを行うカメラを別々とした構成であってもよい。例えば、レーザ光を撮像するためのアライメント用カメラ215をステージ203側に設置し、基板202の裏側からの撮像を行ってもよい。アライメント用カメラ215を基板202の上部に設置する構成では、レーザ光の照射が基板202の裏面に行われることから、赤外線カメラ等での熱検知によるアライメントを行う。
【0046】
ヘッドスペース206のY−Y’方向反対側には、レーザヘッド213を備え、Z軸駆動手段211と連動して駆動するレーザ用Z軸駆動手段214が配されている。レーザ用Z軸駆動手段214は、X軸駆動手段205に取り付けられており、X−X’方向の動きをヘッドスペース206と共有する。したがって、ヘッドスペース206とレーザヘッド213とは、ステージ203に設置された基板202に対するY−Y’方向及びX−X’方向における動きが同期したものとなる。架台200上の、X−X’方向に駆動するレーザヘッド213の真下には、反射板216が設置されている。反射板216は、レーザヘッド213が照射するレーザ光を反射して基板202の真下まで導く。
【0047】
図6は、薄膜形成装置20のレーザ照射機構を説明する概念図である。図6に示すように、レーザヘッド213からは下方にレーザ光Lが照射される。照射されたレーザ光Lは、反射板216によって基板202と略平行に反射され、ステージ203の下、すなわち基板202の下へ導かれる。ステージ203の下には、前述した制御装置で制御される駆動機構(図示しない)によって、Y−Y’方向に駆動される反射板301が設置されている。反射板301は、基板202の下に導かれたレーザ光Lを反射し、基板202の裏面へ照射する。制御装置の制御のもと、反射板301がY−Y’方向に駆動されることで、レーザ光Lが基板202の裏面へ照射されるタイミングは任意に制御される。すなわち、IJヘッド208が吐出して基板202の表面に付着したインク滴Iを、その裏面側からレーザ光Lで乾燥・焼成するタイミングは、任意に制御されてよい。
【0048】
このとき、レーザヘッド213は多チャンネルのものでも、単一口のものでも構わないが、多チャンネルのものが好ましい。レーザの波長は赤外線の領域もしくは紫外線の領域が好ましく、基板202もしくは基板202上に成膜された層の吸収係数の高い波長であれば尚好ましい。
【0049】
<レーザ照射機構の変形例>
なお、上述した実施形態におけるレーザ照射機構については、レーザ光Lを基板202の裏面へ照射するものであればいずれであってもよい。図7は、レーザ照射機構の変形例を説明する概念図である。図7に示すように、レーザヘッド213は、IJヘッド208とは別位置に固定されており、IJヘッド208と連動して移動しなくてもよい。レーザヘッド213から照射されたレーザ光Lは、ポリゴンミラー302によって走査され、レンズ303によって平行光にされた後、反射板301によって基板202の裏面へ照射される。このような変形例であっても、基板202の裏面へレーザ光Lを照射することには変わりなく、図6の例と同等の効果を得ることができる。
【0050】
次に、上述した薄膜形成装置20を用いた薄膜形成を説明する。この薄膜形成では、シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、密着層としてチタン膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。引続き下部電極として白金膜(膜厚200nm)をスパッタ成膜した。次いで、アルカンチオールにCH(CH−SHを用い、濃度0.01モル/l(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、SAM処理を行った。その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥後、パターニングの工程に移る。
【0051】
SAM処理後の疎水性は接触角測定を行い、SAM膜上での水の接触角は92.2°であった(図8参照)。一方、SAM処理前の白金スパッタ膜のそれは5°以下(完全濡れ)であり、SAM膜処理がなされたことがわかる。
【0052】
東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、酸素プラズマ処理を行い露出部のSAM膜を除去した。処理後の残渣レジストはアセトンにて溶解除去し、同様の接触角評価を行ったところ、除去部では5°以下(完全濡れ、図9参照)、レジストでカバーされていた部位のそれは92.4°の値を示し、SAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
【0053】
他方式のパターニングとして、同様のレジストワークによりあらかじめレジストパターンを形成し、同様のSAM膜処理を実施後、アセトンにてレジストを除去し、接触角を測定した。レジストカバーされた白金膜上の接触角は5°以下(完全濡れ)、他の部位のそれは92.0°となり、SAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
【0054】
もうひとつの他方式として、シャドウマスクを用いた紫外線照射を行った。用いた紫外線はエキシマランプによる波長176nmの真空紫外光を10分間照射した。照射部の接触角は5°以下(完全濡れ)、未照射部のそれは92.2°でありSAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
【0055】
圧電層としてPZT(53/47)を成膜する。前駆体塗布液の合成は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
【0056】
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1モル/lにした。
【0057】
一度のゾルゲル成膜で得られる膜厚は100nmが好ましく、前駆体濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される(従って0.1モル/lに限定されるものではない)。
【0058】
この前駆体溶液を先のパターン化SAM膜上にインクジェット法で塗布した(図4−2参照)。インクジェット法によりSAM膜上には液滴を吐出せず親水部のみ吐出することで接触角のコントラストにより親水部上にのみ塗膜ができた。この塗膜に際して、裏面よりレーザー照射を行うことで基板を加熱しパターニングされた前駆体インクの乾燥、結晶化(焼成)を行った(図4−3参照)。
【0059】
インクジェット法により、繰り返し同じ場所に液滴を吐出、レーザー照射することで重ね塗りを行うことができた(図4−4〜図4−6参照)。
【0060】
先記工程を15回繰り返し500nmの膜を得た。このとき作製された膜にはクラックなどの不良は生じなかった。さらに15回のPZT前駆体の選択塗布とレーザー照射とを行い、結晶化処理をした。膜にクラックなどの不良は生じなかった。膜厚は1000nmに達した。
【0061】
このパターン化膜に上部電極(白金)を成膜し電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。図10は、本実施形態の薄膜形成で作成した圧電素子のP−Eヒステリシス曲線を示すグラフである。膜の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3uC/cm、抗電界は36.5kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持つことがわかった。
【0062】
電気−機械変換能は電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は、−120pm/Vとなり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。これは液滴吐出ヘッドとして十分設計できうる特性値である。
【0063】
なお、電極膜として白金やSrRuOやLaNiOなどの酸化物を溶媒に溶かし、インクジェット法で塗布、レーザー照射することで圧電体層と同様に電極膜も形成することができる。
【0064】
図11は、基板202上にインク滴Iをパターニングして成膜する時の断面図である。図11に示すように、インク滴Iがパターニングされた基板202の裏面からレーザ光Lが照射されることで、その照射により生じる熱が、基板202を伝導して基板202表面に付着したインク滴Iを加熱する。この場合、レーザ光Lのスポット径を基準として加熱されることになるため、パターン精度に合わせてレーザ光Lのスポット径を調整する必要がある。上述したインク滴Iの加熱により、結晶化部位Kは、基板202の表面に接する部分からレーザ光Lの表面に向かって広がる。このため、インク滴Iの表面側から結晶化部位Kが広がる場合に比べて、クラックなどの不良が生じにくくなる。
【0065】
図12は、裏面に構造を持つ基板202上にインク滴Iをパターニングして成膜する時の断面図である。図12に示すように、基板202の裏面側から圧力室421と振動板430が形成されている場合は、基板202の裏面から内部を経て表面に達する熱伝導と、振動板430を経て表面に達する熱伝導との間の差によって、振動板430上のインク滴I部分に効果的に熱が伝わるため、圧電素子にかかる薄膜を容易に精度よく成膜できる。
【0066】
図13は、本実施形態にかかる薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド40の構成を示す断面図である。図13に示すように、液滴吐出ヘッド40は、一つが一画素分のインク滴を吐出するものとして、所定の間隔で並べて形成される。本実施形態では、図中の圧電素子440が簡便な製造工程で(かつバルクセラミックスと同等の性能を持つ)形成でき、その後の圧力室421のための裏面からのエッチング除去、ノズル411を有するノズル板410を接合することで液滴吐出ヘッド40ができる。なお、図13では、圧力室421へインク液を供給するための供給手段、流路、流体抵抗についての記述は省略している。
【0067】
次に、上述した液滴吐出ヘッド40を搭載したインクジェット記録装置の一例について図14及び図15を参照して説明する。図14は、本実施形態にかかるインクジェット記録装置の斜視説明図である。図15は、本実施形態にかかるインクジェット記録装置の機構部分の側面説明図である。
【0068】
図14、15に示すように、インクジェット記録装置50は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載し、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド94、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0069】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0070】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0071】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0072】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0073】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
【0074】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0075】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0076】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示しない)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0077】
上述したインクジェット記録装置50においては、前述した薄膜形成で形成した液滴吐出ヘッドを用いた記録ヘッド94を搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
【0078】
[変形例]
次に、薄膜形成装置の変形例について説明する。図17は、変形例にかかる薄膜形成装置20aの斜視図である。なお、前述した構成と同一の構成には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0079】
図17に示すように、薄膜形成装置20aのヘッドスペース206には、第2のレーザヘッド217が搭載されている。第2のレーザヘッド217は、ステージ203に設置された基板202の表面にレーザ光を照射して、基板202上に吐出されたインク滴を加熱する。第2のレーザヘッド217はヘッドスペース206に設置されていることから、第2のレーザヘッド217とIJヘッド208とは、ステージ203に設置された基板202に対するY−Y’方向及びX−X’方向における動きが同期したものとなる。すなわち、第2のレーザヘッド217によるレーザ光の走査位置とIJヘッド208によるインク滴の吐出位置とは連動する。なお、第2のレーザヘッド217はヘッドスペース206に設置されている必要はなく、第2のレーザヘッド217によるレーザ光の走査位置とIJヘッド208によるインク滴の吐出位置とが連動できればよい。
【0080】
図18は、変形例にかかる薄膜形成装置20aのレーザ照射機構を説明する概念図である。図18に示すように、レーザヘッド213からは下方にレーザ光L1が照射される。照射されたレーザ光L1は、反射板216によって基板202と略平行に反射され、ステージ203の下、すなわち基板202の下へ導かれる。ステージ203の下には、前述した制御装置で制御される駆動機構(図示しない)によって、Y−Y’方向に駆動される反射板301が設置されている。反射板301は、基板202の下に導かれたレーザ光L1を反射し、基板202の裏面へ照射する。
【0081】
このとき、レーザ光L1は、目的とするパターン(インク滴Iのパターン)よりも大きな完全に絞られていない状態(デフォーカス状態)で照射される。このデフォーカス状態は、反射板301の反射面や第1のレーザヘッド213に取り付けられた光学レンズなどを予め調整することで実現される。
制御装置の制御のもと、反射板301がY−Y’方向に駆動されることで、レーザ光L1が基板202の裏面へ照射されるタイミングは任意に制御される。すなわち、IJヘッド208が吐出して基板202の表面に付着したインク滴Iを、その裏面側からレーザ光L1で乾燥・焼成するタイミングは、任意に制御されてよい。
【0082】
このとき、レーザヘッド213は多チャンネルのものでも、単一口のものでも構わないが、多チャンネルのものが好ましい。レーザの波長は赤外線の領域もしくは紫外線の領域が好ましく、基板202もしくは基板202上に成膜された層の吸収係数の高い波長であれば尚好ましい。
【0083】
そして、レーザヘッド213によるレーザ光L1と同時もしくは時間をずらして第2のレーザヘッド217による第2のレーザ光L2を基板202の表面に付着したインク滴Iに照射する。この第2のレーザ光L2は、インク滴Iのパターンに合わせて光線の形状を調整する、又はインク滴Iのパターンに合わせて走査するなどして、目的とするパターンに合わせた照射が行われる。
【0084】
このように、乾燥・焼成するインク滴Iのパターンよりも照射範囲の大きなデフォーカス状態でレーザ光L1を基板202の裏面から照射し、第2のレーザ光L2をインク滴Iのパターンに合わせて照射することで、パターン周辺にエネルギーを常時供給することができ、パターン周辺の熱伝導等による基板202の熱散逸を抑え、安定した熱量供給を行うことができる。また、過度なレーザ照射によるクラックやアブレーションを抑えることができ、スムーズでダメージレスな乾燥・焼成プロセスを実現できる。
【0085】
<レーザ照射機構の変形例>
なお、上述した変形例におけるレーザ照射機構については、レーザ光L1を基板202の裏面へ照射するものであればいずれであってもよい。図19は、レーザ照射機構の変形例を説明する概念図である。図19に示すように、レーザヘッド213は、IJヘッド208とは別位置に固定されており、IJヘッド208と連動して移動しなくてもよい。レーザヘッド213から照射されたレーザ光L1は、ポリゴンミラー302によって走査され、レンズ303によって平行光にされた後、反射板301によって基板202の裏面へ照射される。このような変形例であっても、基板202の裏面へレーザ光L1を照射することには変わりなく、図18の例と同等の効果を得ることができる。
【0086】
図20は、裏面及び表面へのレーザ光の照射を例示する概念図である。図20に示すように、基板202の裏面及び表面へのレーザ光L、第2のレーザ光L2の照射は、先ずインク滴Iのある基板202の裏面へレーザ光Lを照射した後に、インク滴Iの表面へ第2のレーザ光L2を照射する。図21は、レーザ光の照射タイミングと強度とを示すグラフである。図21に示すように、裏面及び表面へ照射するレーザ光L、第2のレーザ光L2の時間差は、レーザによるインク滴Iの昇温速度に依存するが、おおよそ数msからサブms程度が好ましい。このとき、レーザ波長は可視光から赤外線波長が好ましい。特に、機能性材料の吸収波長が好ましい。このように、インク滴Iのある基板202の裏面へレーザ光Lを照射した後に、インク滴Iの表面へ第2のレーザ光L2を照射することで、過度なレーザ照射によるクラックやアブレーションを抑えることができ、スムーズでダメージレスな乾燥・焼成プロセスを実現できる。
【0087】
また、裏面及び表面へ照射するレーザ光L、第2のレーザ光L2を時間差無く照射し、表面へ照射する第2のレーザ光L2よりも裏面へ照射するレーザ光Lの強度を強くする(裏面へ照射するレーザ光Lよりも表面へ照射する第2のレーザ光L2の強度を弱くする)場合であっても、スムーズでダメージレスな乾燥・焼成プロセスを実現できる。図22は、レーザ光の照射タイミングと強度とを示すグラフである。図22に示すように、照射は同時にするが、照射するレーザ光の強度を(裏面へ照射するレーザ光L)>(表面へ照射する第2のレーザ光L2a)とすることで、乾燥・焼成プロセスにおけるクラックやアブレーションを抑えることができる。さらに、表面へ照射する第2のレーザ光L2bのように、表面側における乾燥・焼成プロセスにかかるエネルギーを時間とともに増大させることが好ましい。
【符号の説明】
【0088】
1 基板
2 SAM膜
5 第1のパターン化PZT前駆体塗膜
6 PZT膜
20 薄膜形成装置
40 液滴吐出ヘッド
50 インクジェット記録装置
94 記録ヘッド
200 架台
201 Y軸駆動手段
202 基板
203 ステージ
204 X軸支持部材
205 X軸駆動手段
206 ヘッドスペース
208 IJヘッド
211 Z軸駆動手段
213 レーザヘッド
215 アライメント用カメラ
216 反射板
301 反射板
302 ポリゴンミラー
303 レンズ
400 液滴吐出ヘッド
440 圧電素子
I インク滴
L レーザ光
【先行技術文献】
【特許文献】
【0089】
【特許文献1】特許第4353145号公報
【特許文献2】特許第4232753号公報
【特許文献3】特開2007−152250号公報
【特許文献4】特開2007−105661号公報
【非特許文献】
【0090】
【非特許文献1】K. D. Budd, S. K. Dey, D. A. Payne, Proc. Brit. Ceram. Soc. 36, 107 (1985)
【非特許文献2】A. Kumar and G. M. Whitesides, Appl.Phys.Lett., 63, 2002 (1993)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により基板上に薄膜形成を行う薄膜形成装置であって、
基板上の所定の領域に薄膜形成にかかるインク滴を塗布するインク塗布手段と、
前記インク滴を加熱して薄膜形成を行うための少なくとも1つ以上のレーザ光源と、
前記インク滴が塗布された領域に対応した位置の、当該インク滴が塗布された面の裏面に前記レーザ光源からのレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、を備えること、
を特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記基板上を撮像する撮像手段を更に備え、
前記撮像された画像をもとに、前記基板上に前記インク滴を塗布する位置のアライメントと、前記インク滴が塗布された領域と、前記レーザ光照射手段により照射されるレーザ光とのアライメントを行うこと、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記薄膜形成にかかるインク滴は、セラミックスの前駆体溶液であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記インク塗布手段は、前記基板上に撥液部と親液部のパターンを形成するための撥液性を有する自己組織化単分子膜材料を塗布し、
前記レーザ光照射手段により照射されるレーザ光で前記自己組織化単分子膜材料を除去することで撥液部と親液部のパターンを形成すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記インク滴が塗布された領域に対応した位置の、当該インク滴が塗布された面の表面にレーザ光を照射する第2のレーザ光照射手段を更に備え、
前記レーザ光照射手段により前記裏面にレーザ光を照射した後に、前記第2のレーザ光照射手段により前記表面にレーザ光を照射すること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記インク滴が塗布された領域に対応した位置の、当該インク滴が塗布された面の表面にレーザ光を照射する第2のレーザ光照射手段を更に備え、
前記裏面に照射するレーザ光の方が、前記表面に照射するレーザ光よりも強度が強いこと、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
インクジェット法により基板上に薄膜形成を行う薄膜形成方法であって、
基板上の所定の領域に薄膜形成にかかるインク滴を塗布するインク塗布工程と、
前記インク滴が塗布された領域に対応した位置の、当該インク滴が塗布された面の裏面にレーザ光源からのレーザ光を照射して前記インク滴を加熱して焼成させる焼成工程と、
を含むことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項8】
前記インク塗布工程は、撥液部と親液部のパターンを形成した基板上に前記インク滴を塗布すること、
を特徴とする請求項7に記載の薄膜形成方法。
【請求項9】
前記インク塗布工程は、撥液部と親液部のパターンを形成した基板上に、撥液性を有する自己組織化単分子膜材料を塗布し、
前記焼成工程は、レーザ光の照射により前記自己組織化単分子膜材料を除去することで撥液部と親液部の領域を形成すること、
を特徴とする請求項7又は8に記載の薄膜形成方法。
【請求項10】
前記焼成工程は、前記裏面にレーザ光を照射した後に、前記インク滴が塗布された面の表面にレーザ光を照射して前記インク滴を加熱して焼成させること、
を特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【請求項11】
前記焼成工程は、前記インク滴が塗布された面の表面に、前記裏面に照射するレーザ光よりも強度が弱いレーザ光を照射すること、
を特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【請求項12】
請求項7に記載の薄膜形成方法で基板上に圧電素子を形成することを特徴とする圧電素子の形成方法。
【請求項13】
請求項12に記載の圧電素子の形成方法で形成された圧電素子を用いたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項13に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図1−3】
image rotate

【図1−4】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図2−4】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図3−4】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図4−3】
image rotate

【図4−4】
image rotate

【図4−5】
image rotate

【図4−6】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−45539(P2012−45539A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61625(P2011−61625)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】