説明

薄膜製造方法及び前記薄膜製造方法により製造された六方晶系圧電薄膜

【課題】結晶構造が六方晶系となった結晶薄膜をc軸面内配向させて成膜することのできる薄膜製造方法を提供する。
【解決手段】矩形のターゲット22の下面には矩形タイプのマグネトロン回路23を配置する。ターゲット22の片半分を遮蔽板51によって覆い、その下のエロージョン領域39(磁束密度の最も大きな領域)から飛び出たスパッタ粒子が基板28へ飛来しないように遮断する。真空チャンバ21内のプラズマ領域の内部に位置する高さに基板28を配置し、エロージョン領域39の遮蔽板51から露出している領域から飛び出たスパッタ粒子を基板28の表面に入射させる。こうしてガス圧を小さくすれば、スパッタ粒子の平均自由工程が長くなってエネルギーの高いスパッタ粒子が大量に入射する結果、エネルギーの高いスパッタ粒子の入射による損傷を受けにくい結晶面である(11−20)面を持つ結晶粒が優先的に成長してc軸面内配向膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜製造方法及び前記薄膜製造方法により製造された六方晶系圧電薄膜に関し、具体的にいうと、面方向に配向した多結晶薄膜又は単結晶薄膜の製造方法、当該方法により得られた酸化亜鉛薄膜等の六方晶系圧電薄膜、圧電素子、トランスデューサ及びSAWデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンスパッタリングはスパッタ法の一種であり、産業界で広く利用されている。マグネトロンスパッタリング装置では、チャンバ内に基板とターゲットを対向させて配置し、チャンバ内にArガスを流してチャンバ内圧力を数Pa〜数10Pa程度に保つ。ターゲットの背面には磁石を配置し、ターゲット位置に磁界を発生させる。Arガス雰囲気中でターゲットに数kVの負の高電圧を印加し放電させると、Arガスが電離してターゲットと基板との間にプラズマ領域が生成する。そして、正イオン(Ar)がターゲットに衝突し、ターゲットの原子または分子を叩き出す(スパッタリング現象)。ターゲットから飛び出たスパッタ粒子は基板の表面に堆積し、ターゲットの構成原子からなる薄膜が基板表面に形成される。このときマグネトロンスパッタリングでは、ターゲット位置に磁界が集中しているためにターゲットの表面近傍におけるプラズマ密度が高くなり、ターゲットから飛び出るスパッタ粒子が増加し、薄膜の堆積速度が大きくなる。
【0003】
従来より、上記のようなマグネトロンスパッタリング装置を用いてZnOの薄膜を成膜することが試みられている。このような報告としては、例えば特許文献1(特開平11−284242号公報)がある。特許文献1には、2層のZnO薄膜からなる圧電性薄膜が開示されており、その段落0041には、基板加熱を行なわず、RFパワー500ワット、プロセスガスの圧力0.6Paという成膜条件の下で、Ar雰囲気中におけるマグネトロンRFスパッタリングにより導電性ZnO薄膜を成膜し、またAr+O雰囲気中においてマグネトロンRFスパッタリングにより絶縁性ZnO薄膜を成膜することが記載されている。
【0004】
なお、c軸面内配向したZnO薄膜を得るための技術としては、特許文献2(特許第3561745号公報)や特許文献3(特開2006−83010号公報)に開示されたものもある。しかし、前者は基板に温度勾配を付与することによって結晶配向を制御するものであり、後者は基板を傾斜させて薄膜を得ることによって大面積でc軸面内配向したZnO薄膜を得ようとするものであり、本発明とは本質的に異なる原理によるものである。
【0005】
【特許文献1】特開平11−284242号公報
【特許文献2】特許第3561745号公報
【特許文献3】特開2006−83010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
六方晶系のc軸が薄膜の表面に垂直な方向を向いた(このような結晶配向をc軸配向という。)ZnO薄膜は、1970年代より圧電性薄膜として広く応用されている。しかし、用途やデバイスの種類(例えば、SH型SAWデバイス)によっては、c軸(分極方向)が薄膜の表面と平行な方向を向いているもの(このような結晶配向をc軸面内配向という。)、特にc軸が薄膜の表面と平行で且つ薄膜全体で一方向に揃ったものが必要とされる。そのためには、ZnO薄膜の成膜時にc軸を薄膜表面と平行な方向に揃える必要がある。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1で得られたZnO薄膜は、その段落0010、0026に記載されているように、いずれもc軸が薄膜の表面に垂直な方向を向いており、c軸配向している。また、特許文献1の図2に示されているX線回折結果を示す図には、(0002)面におけるc軸配向を示すピークは顕著に表れているが、c軸面内配向を示すピークは見られない。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、結晶構造が六方晶系となった結晶薄膜をc軸面内配向させて成膜することのできる薄膜製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明の薄膜製造方法は、スパッタリング法により基板の表面に薄膜を製造する方法であって、粒子発生源に対向させて前記基板を配置し、前記粒子発生源から出射したエネルギー粒子を前記基板に入射させ、所定の結晶軸方向が前記基板の表面と平行となるように前記エネルギー粒子を前記基板の表面に入射させて前記エネルギー粒子を含む薄膜を形成することを特徴としている。
【0010】
この薄膜製造方法は、六方晶系の薄膜、たとえば酸化亜鉛のような圧電性薄膜を形成するのに適している。特に、六方晶系のc軸方向が薄膜表面と平行で、かつ、c軸方向が一方向に揃っているような薄膜を得る用途に用いると効果がある。また、粒子発生源は、スパッタされて薄膜の構成元素を供給するものであって、例えばスパッタリング用のターゲットである。
【0011】
薄膜を作製するにあたっては、チャンバ内の圧力を下げてガスを希薄にすると、粒子発生源から出射したエネルギー粒子の平均自由工程が長くなり、基板にはエネルギーの高い粒子が大量に入射する。六方晶系の材料は(0001)面に、最も表面エネルギーが低くなる最密面を持ち、薄膜にするとc軸配向する性質がある。そのため、少量のエネルギー粒子が入射した場合には、基板上に最密面、例えば六方晶系の(0001)面が優先的に成長するが、大量のエネルギー粒子が基板に入射した場合には、最密面を持つ結晶粒はエネルギー粒子の衝突により損傷する確率が高く、その成長が抑制される。その結果、エネルギー粒子の入射による影響が小さいチャネリング効果を持つ結晶面、例えば六方晶系の(11−20)面を持つ結晶粒が優先的に成長して面内配向膜が形成される。このような成長メカニズムはZnOにおいて顕著であるが、ZnO以外にも適用が可能である。また、エネルギーを持った粒子の入射方向やコリメート性により、基板に形成される薄膜の配向方向や配向バラツキをコントロールすることができる。
【0012】
本発明の薄膜製造方法においては、ガス圧を下げることにより、エネルギーを持った粒子の平均自由工程が長くなり、エネルギーを持ったより多くの粒子が基板に入射するように0.15Pa以下(より好ましくは、0.1Pa以下)の低い雰囲気圧力中で粒子発生源をスパッタしてエネルギー粒子を出射させたり、基板を粒子発生源の近傍に配置したりすることにより、エネルギーを有するより多くの粒子を基板に入射させて薄膜を形成することで、基板全面においてc軸方向が薄膜の表面と平行な方向に配向したc軸面内配向薄膜を得ることができた。なお、基板を配置する粒子発生源近傍とは、プラズマ領域内であれば十分に条件を満たす。
【0013】
この薄膜製造方法においては、粒子発生源は1つに限らず、少なくとも1つの粒子発生源から出射したエネルギー粒子によって成膜するようにしてもよい。
【0014】
また、粒子発生源から出射したエネルギー粒子とプラズマガス粒子とを反応させて基板表面に薄膜を形成することもできる。
【0015】
なお、本発明の薄膜製造方法においては、前記エネルギー粒子の、前記基板に対する入射角度、入射方向または入射方向の拡がりを制御することによって良質な薄膜を得ることができる。また、前記基板と前記粒子発生源との間の空間に遮蔽板又はスリットを設置することにより、前記エネルギー粒子の、前記基板に対する入射角度、入射方向または入射方向の拡がりを制御することによっても良質な薄膜を得ることができる。
【0016】
上記のような薄膜製造方法によれば、基板全面において薄膜をc軸面内配向させることができるが、磁気回路の形状など(例えば、円形のマグネトロン回路)によってはc軸方向が一方向に揃わず、基板全面でc軸方向がランダムになることがある。
【0017】
本発明の薄膜製造方法のある実施態様においては、前記粒子発生源の背後に磁気回路を設け、前記磁気回路によって発生する磁界の磁束密度が高い領域のうち直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって前記基板の表面に前記薄膜を形成する。このような磁気回路を用いたスパッタリング法は、マグネトロンスパッタリング法を含むものであり、成膜速度を向上させることができる。また、この実施態様では、磁束密度が高い領域のうち直線部分で粒子発生源から出射したエネルギー粒子のみによって薄膜を形成しているので、粒子発生源の複数箇所から飛来したエネルギー粒子で薄膜が形成された領域では、c軸方向もランダムになる。しかし、磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分からのエネルギー粒子のみで薄膜が形成されている領域では、エネルギー粒子の入射方向がほぼ均一となるので、その領域全体ではc軸方向が一方向に揃う。よって、この実施形態により得られる薄膜は、基板全体においてc軸面内配向しており、基板の少なくとも一部領域においては領域全体でc軸方向が一方向に揃っていた。また、基板の位置や基板の大きさによっては、基板全面においてc軸面内配向しており、かつ、基板全面においてc軸方向が一方向に揃った薄膜を得ることができた。
【0018】
本発明の薄膜製造方法の別な実施態様においては、前記粒子発生源の背後に磁気回路を設け、前記磁気回路によって発生する磁界の磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって前記基板の表面に前記薄膜を形成する。この実施態様では、磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で粒子発生源から出射したエネルギー粒子のみによって薄膜を形成しているので、基板のいずれの領域もほぼ一定の方向から飛来したエネルギー粒子が入射して薄膜が形成される。その結果、この実施態様によれば、基板全面においてc軸面内配向しており、かつ、基板全面においてc軸方向が一方向に揃った薄膜を得ることができた。
【0019】
磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって薄膜を形成できるようにするには、磁気回路を1つのN極と1つのS極によって構成し、当該N極と当該S極との間にのみ磁束密度が高い直線領域が生じるようにすればよい。
【0020】
あるいは、粒子発生源の一部領域を遮蔽板により覆って粒子発生源のうち遮蔽板で覆われた領域から出射されたエネルギー粒子を基板の表面に到達させないようにし、粒子発生源のうち遮蔽板によって覆われていない領域にあって、磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみが基板に到達するようにしてもよい。
【0021】
あるいはまた、粒子発生源の一部領域を難スパッタ材により覆って粒子発生源のうち難スパッタ材で覆われた領域から出射されたエネルギー粒子を基板の表面に到達させないようにし、粒子発生源のうち難スパッタ材によって覆われていない領域にあって、磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみが基板に到達するようにしてもよい。
【0022】
また、N極とS極のうちいずれか一方の極を挟んでその両側に他方の極を配置した磁気回路の場合には、いずれか一方のN極とS極間の領域では粒子発生源として難スパッタ材を用いてもよい。難スパッタ材からはエネルギー粒子が出射されないので、残る一方の磁束密度が高い領域の直線部分のみからエネルギー粒子が出射されて薄膜が形成される。
【0023】
また、N極とS極のうちいずれか一方の極を挟んでその両側に他方の極を配置した磁気回路の場合には、いずれか一方のN極とS極間の領域だけに粒子発生源を設けるようにしてもよい。粒子発生源の無い部分からはエネルギー粒子が出射されないので、残る一方の磁束密度が高い領域の直線部分のみで粒子発生源からエネルギー粒子が出射されて薄膜が形成される。
【0024】
また、磁束密度が高い領域のうち1つの直線部分と前記基板の交差する角度が常に一定となるような配置してもよい。
【0025】
なお、このような酸化亜鉛薄膜は、圧電素子、トランスデューサ、SAWデバイス、薄膜共振子(FBAR)などに用いることができる。
【0026】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。また、本発明は圧電薄膜として好適な窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ガリウムを用いた圧電薄膜の形成にも適用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置101の構造を示す概略断面図である。このマグネトロンスパッタリング装置101においては、真空チャンバ21内の下部にZnO焼結体からなる円板状のターゲット22(粒子発生源)を配置している。ターゲット22の下面には、マグネトロン回路23(磁気回路)が設けられている。マグネトロン回路23は円形タイプとなっており、中心に位置する一方の磁極(以下、S極24とする。)とS極24を中心とする円環状の磁極(以下、N極25とする。)とをヨーク26で結合させたものであって、S極24とN極25との間には磁界(磁束)が発生している。真空チャンバ21内の天井部分には基板ホルダ27が設けられており、基板ホルダ27の下面は薄膜形成用の基板28を取付け可能となっている。また、ターゲット22と基板ホルダ27との間には、高周波電界を発生させるための電源29を設けている。
【0029】
真空チャンバ21にはガス流入口30とガス排出口31が設けられている。ガス流入口30には、混合ガス流量調整バルブ32を介して2つに分岐したガス供給管33が接続され、その一方には流量調整バルブ34を介してArガス供給源35が接続され、他方には流量調整バルブ36を介してOガス供給源37が接続されている。
【0030】
実施形態1においては、上記マグネトロンスパッタリング装置101を用いて次のような成膜条件により下記のようにしてZnO薄膜を成膜した。
RFパワー密度: 2.5W/cm
成膜圧力: 0.1Pa〜0.01Pa
/Ar比: 2
ガス流量: 32sccm
Arガス流量: 16sccm
【0031】
まず、真空チャンバ21内の基板ホルダ27下面に基板28を固定した。基板28の種類は選ばないが、例えばSi基板やパイレックス(登録商標)ガラス基板などを用いることができる。成膜時にはターゲット22と基板ホルダ27との間にプラズマ領域38(プラズマ柱)が生じるが、基板28をプラズマ領域38内に位置させ、通常よりもターゲット22に近い位置に基板28を配置した。ついで、真空チャンバ21内を排気して真空状態とした後、流量調整バルブ34、36及び混合ガス流量調整バルブ32を開いて真空チャンバ21内にArガスとOガスを流した。このとき、流量調整バルブ34と流量調整バルブ36を調節することによってOガスとArガスの流量比が2:1となるように調整し、混合ガス流量調整バルブ32を調節することによって混合ガス流量が48sccm(Oガス流量32sccm、Arガス流量16sccm)となるように調整し、成膜圧力(チャンバ内ガス圧)を0.1Pa〜0.01Paに保った。また、成膜時には電源29をオンにしてターゲット22と基板ホルダ27の間に2.5W/cmに相当する高周波電界を加えた。
【0032】
高周波電界を印加すると、真空チャンバ21内に磁界及び電界が形成され、Arガス及びOガスがその電界により電離して電子を放出する。この電子はターゲット22近傍の電界及び磁界によりトロイダル曲線を描きながら運動し、これによりターゲット22の近傍にプラズマが発生してターゲット22がスパッタされる。スパッタされてターゲット22から叩き出されたスパッタ粒子(ZnO)はプラズマ中において基板28側に向かう一軸方向の流れを形成する。このスパッタ粒子は基板28の表面に入射し、基板28の表面にZnO薄膜を形成する。
【0033】
また、マグネトロン回路23による磁束密度の最も強い領域ではプラズマ密度が大きくなるので、この領域ではターゲット22に正イオンが集中的に衝突し、ターゲット22からスパッタ粒子が叩き出される。その結果、磁束密度の最も強い領域でターゲット22が浸食されることになるので、以下においては、この浸食される領域をエロージョン領域39と呼ぶ。このエロージョン領域39から飛び出たスパッタ粒子は基板28の表面に入射し、基板28の表面にZnO薄膜が形成される。
【0034】
図2はマグネトロンスパッタリング装置101により成膜されたZnO薄膜(実施形態1)と比較例によるZnO薄膜(比較例)とのX線回折実験の結果(XRDパターン)を示す図である。図2の横軸は照射X線の回折角2θ、縦軸はX線回折強度(任意スケール)である。比較例のZnO薄膜は、プラズマ領域38から離れた位置に基板を配置して成膜したものである。
【0035】
また、図3の(a)、(b)及び(c)は六方晶系のZnO結晶が配向する様子を表わしている。図3(c)にはc軸が薄膜表面40と垂直な方向を向いてc軸配向したZnO結晶を表わしており、ZnO結晶の(0001)面が薄膜表面40に並んでいる。この場合には、X線回折実験では、回折角2θ=34.4°あたりに(0002)面の強度ピークが現れる。c軸面内配向には、図3(a)及び(b)に示すとおり2通りの配向の仕方がある。図3(a)はZnO結晶の(10−10)面が薄膜表面40に並んでc軸面内配向しており、この場合には、X線回折実験では、回折角2θ=31.8°あたりに強度ピークが現れる。図3(b)はZnO結晶の(11−20)面が薄膜表面40に並んでc軸面内配向しており、この場合には、X線回折実験では、回折角2θ=56.6°あたりに強度ピークが現れる。
【0036】
よって、図2のX線回折実験によれば、比較例のZnO薄膜ではc軸配向を表わす(0002)面のピークが顕著に表れており、c軸面内配向を示すピークは全く見られない。これに対し、実施形態1のZnO薄膜では(11−20)面によるc軸面内配向のピークが顕著に表れており、c軸配向を示すピークは見られない。従って、真空チャンバ21内を高真空化し、かつ、基板28をプラズマ領域38中に置いてターゲット22に近づけることで、基板28の全面にわたってc軸面内配向したZnO薄膜が得られた。
【0037】
こうして基板28にZnO薄膜を作製するにあたっては、真空チャンバ21内のガス圧を小さくしているので、ターゲット22から出射したスパッタ粒子の平均自由工程が長くなり、基板28にはエネルギーの高いスパッタ粒子が大量に入射する。少量のスパッタ粒子が入射した場合には、基板28上には最密面である(0001)面が優先的に成長するが、エネルギーの高いスパッタ粒子が大量に基板28に入射した場合には、最密面である(0001)面の結晶粒の成長(c軸配向)が抑制される。その結果、エネルギーの高いスパッタ粒子の入射による影響が小さい結晶面、すなわち(11−20)面(チャネリング効果)を持つ結晶粒が優先的に成長してc軸面内配向膜が形成される。なお、薄膜の配向方向や配向バラツキは、スパッタ粒子の入射方向やコリメート性によりコントロールすることができる。
【0038】
ただし、実施形態1のZnO薄膜を用いて(11−22)極点図を作成した結果、図4のような結果を得た。図4に示す(11−22)極点図によれば、実施形態1のZnO薄膜は(11−20)面でc軸面内配向しているものの、そのc軸方向は一定方向に整列しておらず、ランダム配向していることが分かった。これは円形タイプのマグネトロン回路23を用いているため、場所によってZnO粒子の飛来方向が変化するためである。
【0039】
なお、図4の(11−22)極点図は、薄膜の仰角Ψを0°としたときのX線の入射角度を(11−22)面の回折条件である33.98°(2θ=67.96°)に固定し、薄膜の仰角Ψ及び方位角φを走査して、検出したX線回折の強度をマッピングしたものである。この図4の表示ではグレーの領域が最も強度が低く(強度ゼロ)、黒色の領域が中間の強度を有し、白色の領域が最も強度が高くなっている。この極点図によれば、Ψが(11−20)面と(11−22)面のなす角である約32°の方向で任意の方位角に(11−22)面の極が同心円状に分布しており、c軸が薄膜表面と平行な面内でランダムな方向を向いていることを表わしている。
【0040】
この実施形態1のように真空チャンバ内を高真空化し、かつ、基板をプラズマ領域中に配置してターゲット22に近づけると、ターゲット22から飛び出したスパッタ粒子が他のスパッタ粒子やガスと衝突しにくくなり、基板28にほぼ一定方向から大量に入射し、基板表面にc軸面内配向すると考えられる。その一方で、円形タイプのマグネトロン回路23を用いた場合には、場所によってスパッタ粒子の基板28への入射方向が変化するので、c軸方向が基板全体で1方向に揃わず、ランダムになると考えられる。
【0041】
(実施形態2)
図5は本発明の実施形態2による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置102の構造を示す概略断面図である。実施形態2のマグネトロンスパッタリング装置102も実施形態1のマグネトロンスパッタリング装置101と同様な構造を有しており、同じ構成要素には同じ符号を付している。実施形態2のマグネトロンスパッタリング装置102では、図6に示すような矩形状をした矩形タイプのマグネトロン回路23と矩形状のターゲット22を使用している。
【0042】
マグネトロン回路23は、図6に示すように矩形状となっており、中央部に配置されたS極24と、S極24を取り囲むように矩形環状に形成されたN極25と、S極24及びN極25を結合するヨーク26とを備えている。また、当該N極25のうち少なくとも対向する2辺の長さは、基板28の直径に比較して十分な直線長さを有している。ターゲット22もマグネトロン回路23に合わせてZnO焼結体により矩形状に形成されている。このような矩形タイプのマグネトロン回路23を用いたマグネトロンスパッタリング装置102では、N極25が直線状に長く伸びている部分の上方に基板28を配置する。
【0043】
なお、以下においては、基板28の配置される領域におけるN極25の長さ方向をy方向と呼び、y方向に垂直な面内で水平方向をx方向、上下方向をz方向と呼ぶ。
【0044】
成膜条件は、実施形態1と同じく
RFパワー密度: 2.5W/cm
成膜圧力: 0.1Pa〜0.01Pa
/Ar比: 2
ガス流量: 32sccm
Arガス流量: 16sccm
とし、基板28はプラズマ領域38の内部となる高さに配置している。
【0045】
マグネトロン回路23のN極25が直線状に延びている領域では、S極24とN極25の間に生じる磁界はN極25の長さ方向に垂直な面(zx面)内にあるので、エロージョン領域39から飛び出るスパッタ粒子の飛散方向もほぼzx面内となり、y方向ではスパッタ粒子の広がりが非常に小さい。しかし、エロージョン領域39から飛び出すZnO粒子は、zx面内では図5に示すように広がりが大きいので、図上で左右に位置するエロージョン領域39(以下、長辺部分39a、39bと呼ぶ。)間の中央部上方では、左右のエロージョン領域39から飛び出たスパッタ粒子が混在し合う領域41が生じる。基板28の表面にはランダムな方向から飛来したスパッタ粒子が入射する結果、基板28の表面にはランダムな配向のZnO多結晶が成長する。
【0046】
また、エロージョン領域39の左右の長辺部分39a、39bから飛び出るスパッタ粒子の分布密度42は、図5に示すように長辺部分39a、39bの直上方向(z方向)で大きく、直上方向からの傾きが大きくなるに従って減少する。
【0047】
従って、実施形態2においては、エロージョン領域39の直上方向に基板を配置したとき、前記混在領域41に基板が位置しない程度まで基板28をターゲット22に近づけ、さらに基板28をターゲット22の中心よりもx方向(他のエロージョン領域から遠くなる方向)に偏らせて配置している。
【0048】
このようなマグネトロンスパッタリング装置102によって基板28の表面にZnO薄膜を成膜すると、図7に示す基板28の表面のうち前記混在領域41に位置していた領域28aにはc軸方向がランダムな方向を向いたc軸面内配向の薄膜が生成される。これに対し、エロージョン領域39の一方の長辺部分39aから飛来したスパッタ粒子のみが入射する領域28bでは、ほぼ一定の方向からスパッタ粒子が飛来して基板28の表面に入射するので、領域全体でc軸方向が一方向に揃ったc軸面内配向のZnO薄膜が得られた。よって、実施形態2によれば、薄膜28は基板全体でc軸面内配向しているが、c軸方向が一方向に揃った領域は基板28の一部でしか得ることができなかった。
【0049】
図8(a)、(b)及び(c)は、上記のようにして成膜された実施形態2のZnO薄膜サンプルを用い、エロージョン領域39のうち一方の長辺部分39aから飛来したZnO粒子のみが入射する領域28bにおけるZnO薄膜の(11−22)極点図を作成した結果を表わしている。図8(a)、(b)及び(c)はy方向に沿った3点の(11−22)極点図であって、図8(a)は図7のP1点における(11−22)極点図、図8(b)は図7のP2点における(11−22)極点図、図8(c)は図7のP3点における(11−22)極点図を表わす。これらの(11−22)極点図によれば、仰角Ψが(11−20)面と(11−22)面のなす角である約32°の方向において、方位角φ=0°の近傍と方位角φ=180°の近傍においてそれぞれ(11−22)面極と(−1−122)面極による強度分布が集中しており、ZnO薄膜のc軸が面内でφ=0°とφ=180°を結ぶ方向に一方向に配向していて(11−20)面でc軸面内配向していることが観察された。そして、図8(a)、(b)及び(c)のいずれの極点図もほぼ同じ方位角φに強度分布が集まっており、ZnO薄膜が(11−20)面でc軸面内配向しており、かつc軸方向が基板の一部領域の全体で同じ方向に揃っていることを確認できる。
【0050】
(実施形態3)
図9は本発明の実施形態3による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置103の構造を示す概略断面図である。実施形態3のマグネトロンスパッタリング装置103も実施形態2のマグネトロンスパッタリング装置102と同様な構造を有しており、矩形タイプのマグネトロン回路23を備えている。
【0051】
成膜条件も、実施形態2と同じく
RFパワー密度: 2.5W/cm
成膜圧力: 0.1Pa〜0.01Pa
/Ar比: 2
ガス流量: 32sccm
Arガス流量: 16sccm
とし、基板28はプラズマ領域38の内部となる高さに配置している。
【0052】
実施形態3のマグネトロンスパッタリング装置103の特徴は、エロージョン領域39のうちの互いに平行に対向する長辺部分39a、39bの一方を空間を隔てて非磁性体金属からなる遮蔽板51で覆っている点にある。具体的には、図10に示すように、ターゲット22の片側半分の上に遮蔽板51を設け、エロージョン領域39の長辺部分39b全体と短辺部分39c、39dの半分を遮蔽板51で覆い隠している。
【0053】
このマグネトロンスパッタリング装置103では、エロージョン領域39の一方の長辺部分39bを遮蔽板51で覆っているので、電源29をオンにすると、ここでは遮蔽板51とその下のターゲット22との間に高周波電界が発生し、エロージョン領域39の長辺部分39bから飛び出たスパッタ粒子は遮蔽板51の下面に衝突する。よって、この長辺部分39bから飛び出たスパッタ粒子は基板28の表面には入射しない。
【0054】
一方、遮蔽板51の外側では、ターゲット22と基板ホルダ27の間に高周波電界が発生し、遮蔽板51の外側に位置する長辺部分39aから飛び出たスパッタ粒子は基板28の表面に入射する。
【0055】
矩形タイプのマグネトロン回路23を用いた場合には、前記のようにエロージョン領域39から飛び出るスパッタ粒子の飛散方向がほぼzx面内にあり、y方向では広がりが非常に小さい。しかも、実施形態3の場合には、zx面内で考えると、基板28に飛来するスパッタ粒子は遮蔽板51から露出している単一のエロージョン領域39(長辺部分39a)から叩き出されたものだけであり、さらに真空チャンバ21内を高真空に保ってスパッタ粒子どうしの衝突確率やスパッタ粒子とガスとの衝突確率を小さくしているので、基板28の表面には、単一の長辺部分39aから飛び出てほぼ一定の方向から飛来したスパッタ粒子が入射する。その結果、基板28の表面全体には、同一方向にc軸が整列したc軸面内配向のZnO薄膜が得られる。
【0056】
図11は実施形態3のマグネトロンスパッタリング装置103により成膜されたZnO薄膜のX線回折実験の結果(XRDパターン)を示す図である。図11の横軸は入射X線の回折角2θ、縦軸はX線回折強度である。また、図11に示す3つのX線回折強度は、基板28の中心Oからy方向へそれぞれY=+40mm(図7における基板上のQ1点)、Y=0mm(図7における基板上のO点)、Y=−40mm(図7における基板上のQ2点)の各位置におけるZnO薄膜の回折強度を表わす。これら3つのX線回折強度を見ると、いずれも回折角2θ=34.4°あたりにc軸配向による(0002)面のピークがわずかに観察され、回折角2θ=56.5°あたりに(11−20)面によるc軸面内配向による大きなピークが観察される。
【0057】
また、図12(a)、(b)及び(c)は、実施形態3のマグネトロンスパッタリング装置103により成膜されたZnO薄膜の(11−22)極点図を表わしている。図12(a)は基板28の中心OからY=+40mmの点における(11−22)極点図、図12(b)は基板28の中心OからY=0mmの点における(11−22)極点図、図12(c)は基板28の中心OからY=−40mmの点における(11−22)極点図を表わす。これらの(11−22)極点図によれば、仰角Ψが約32°の方向において、ほぼ同じ方位角φに強度分布が集まっており、ZnO薄膜が(11−20)面でc軸面内配向しており、かつc軸方向が同一方向に揃っていることが分かる。
【0058】
なお、図示例では、遮蔽板51は水平板部52と垂直板部53によって断面逆L字状に形成されており、垂直板部53の下端とターゲット22の上面との間にはガスを流通させるための隙間54が設けられている。遮蔽板51は水平板部52のみで構成されていてもよいが、遮蔽板51を水平板部52と垂直板部53によって構成し、一方の長辺部分39bを包み込むような形状にすれば、この長辺部分39bから叩き出されたスパッタ粒子が遮蔽板51内の空間から漏れにくくなる。
【0059】
また、遮蔽板51に代えて、長辺部分39aから飛び出たスパッタ粒子のみを通過させるようなスリットを設けてもよい。
【0060】
図13は実施形態3の変形例を示す概略平断面図である。この変形例では、略矩形状をしたエロージョン領域39のうち一方の長辺部分39bと2つの対向する短辺部分39c、39dとを遮蔽板51で覆い、遮蔽板51を平面視でコ字状に配置している。このような変形例によれば、エロージョン領域39の短辺部分39c、39dから飛び出たスパッタ粒子が基板28に飛来しないように遮蔽でき、基板28の表面にc軸面内配向したZnO薄膜のc軸方向をより均一に揃えることができる。
【0061】
(実施形態4)
図14は本発明の実施形態4による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置104の構造を示す概略断面図であり、図15はその概略平断面図である。実施形態4のマグネトロンスパッタリング装置104も実施形態2と同様な構造を有しており、矩形タイプのマグネトロン回路23を備えている。なお、図14においては、ガスの供給系統や電源等は図示を省略している(以下の実施形態についても同じ)。
【0062】
実施形態4では、図15に示すように、ターゲット22の片側半分の上面に難スパッタ材61を積層してエロージョン領域39の一方の長辺部分39bを覆っている。難スパッタ材61としては、アルミナ、カーボン、ステンレス等の硬くてスパッタされない材質のものを用いればよい。あるいは、難スパッタ材61として絶縁材料を用い、電源29に直流電源を用いてもよい。ターゲット22の片側半分を絶縁材料からなる難スパッタ材61で覆い、ターゲット22と基板ホルダ27の間に直流電界を印加すると、難スパッタ材61に入射した正イオンがチャージアップされることによって難スパッタ材61で覆われた側では放電が停止し、難スパッタ材61がスパッタされなくなる。
【0063】
このマグネトロンスパッタリング装置104では、エロージョン領域39の一方の長辺部分39bを難スパッタ材61で覆い、他方の長辺部分39aの上方に基板28を配置しているので、難スパッタ材61で覆われていない長辺部分39aから叩き出されたスパッタ粒子だけが基板28の表面に入射する。その結果、実施形態3と同様な理由により、基板28の表面には、単一の長辺部分39aから飛び出てほぼ一定の方向から飛来したZnO粒子が入射し、基板28の表面全体に同一方向に沿ってc軸が整列したc軸面内配向のZnO薄膜が得られる。
【0064】
なお、図示しないが、実施形態4の場合にも実施形態3の図12と同様な(11−22)極点図が得られた。
【0065】
図16は実施例4の変形例であり、ターゲット22の片側半分を難スパッタ材61で覆う代わりにターゲット22を2分割し、一方をZnO焼結体からなるターゲット22aとし、他方を難スパッタ材22bとしている。このようなターゲット22を用いることによっても実施例4と同様な作用効果を得ることができ、基板28の全面で同一方向に沿ってc軸が整列したc軸面内配向のZnO薄膜を得ることができる。
【0066】
(実施形態5)
図17は本発明の実施形態5による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置105の構造を示す概略断面図であり、図18はその概略平断面図である。このマグネトロンスパッタリング装置105も実施形態2のマグネトロンスパッタリング装置102と同様な構造を有しており、矩形タイプのマグネトロン回路23を備えている。
【0067】
実施形態5では、複数枚の垂直な仕切り壁を平面視で「エ」状となるように組み合わせて構成した遮蔽板71を真空チャンバ21内に配設し、遮蔽板71によって矩形状をしたエロージョン領域39の2つの長辺部分39a、39bと2つの短辺部分39c、39dを区画している。また、エロージョン領域39の各長辺部分39aと39bの上方には、それぞれ基板28を配置している。遮蔽板71の上端は、少なくとも基板28の配置されている高さよりも上方まで延びていることが好ましいが、遮蔽板71の下端とターゲット22上面との間にはガス流通用の隙間72をあけている。
【0068】
このマグネトロンスパッタリング装置105では、エロージョン領域39の一方の長辺部分39a(または39b)に配置された基板28では、その下の長辺部分39a(または39b)から叩き出されたスパッタ粒子が飛来するが、他方の長辺部分39b(または39a)から叩き出されたスパッタ粒子は遮蔽板71で遮られて当該基板28には到達しない。その結果、実施形態3と同様な理由により、基板28の表面には単一の長辺部分39aから飛び出てほぼ一定の方向から飛来したスパッタ粒子が入射し、基板28の表面全体には同一方向に沿ってc軸が整列したc軸面内配向のZnO薄膜が得られる。また、このマグネトロンスパッタリング装置105では、エロージョン領域39の2つの長辺部分39a、39bでそれぞれZnO薄膜を成膜することができるので、ZnO薄膜製造工程のスループットが向上する。
【0069】
(実施形態6)
図19は本発明の実施形態6による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置106の構造を示す概略断面図である。このマグネトロンスパッタリング装置106も実施形態2と同様な構造を有しており、矩形タイプのマグネトロン回路23を備えている。
【0070】
このマグネトロンスパッタリング装置106は、マグネトロン回路81に特徴を有している。このマグネトロン回路81では、直線状に延びたN極82と直線状に延びたS極83とが平行に配置され、N極82とS極83とがヨーク84によって結合されている。
【0071】
このマグネトロンスパッタリング装置106では、直線状に延びたエロージョン領域39が1本しか生じないので、実施形態3と同様な理由により、基板28の表面には単一のエロージョン領域39から飛び出てほぼ一定の方向から飛来したZnO粒子が入射し、基板28の表面全体には同一方向に沿ってc軸が整列したc軸面内配向のZnO薄膜が得られる。
【0072】
(実施形態7)
図20は本発明の実施形態7による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置107の構造を示す概略断面図、図21はその概略平断面図である。このマグネトロンスパッタリング装置107は、基板28の直径に比較して非常に大きなターゲット22を備えており、それに対応して大きな矩形タイプのマグネトロン回路23を有している。
【0073】
このような大型のマグネトロンスパッタリング装置107では、エロージョン領域39の平行な2つの長辺部分39a、39bから飛び出たスパッタ粒子どうしが混じり合わない領域も基板28のサイズに比べて十分に大きな面積を持つので、一方の長辺部分39a又は39bからのスパッタ粒子しか飛来しない領域に複数枚の基板28を配置することができる。よって、実施形態7のように基板28に比べてターゲット22等が十分に大きい場合には、一方の長辺領域39a又は39bを覆ったりしなくても基板全体でc軸面内配向し、かつc軸方向が基板全体で一方向に揃った薄膜を得ることができる。また、複数枚の基板28の表面に一度に、基板全面で同一方向に沿ってc軸が整列したc軸面内配向のZnO薄膜を得ることができるので、高いスループットを実現できる。
【0074】
(実施形態8)
図22は本発明の実施形態8による薄膜製造方法を実施するためのマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。実施形態8のマグネトロンスパッタリング装置では、ターゲット22aとしてZnターゲットを用いており、ターゲット22aから出射されたスパッタ粒子(Zn)と、真空チャンバ21内のプラズマガスの内のOとによって基板28上に成膜を行なう。
【0075】
すなわち、基板ホルダ27とターゲット22aとの間に直流電界を印加すると、真空チャンバ21内の雰囲気ガス(Ar+O)が電離してプラズマガスが発生する。このプラズマガスのうち、Arはターゲット22aに引き付けられてターゲット22aに衝突し、ターゲット22aからZnを叩き出す。ターゲット22aの一方のエロージョン領域39(長辺部分39a)から出射したスパッタ粒子(Zn)は、対向して配置されている基板28に入射する。一方、プラズマガスのうちOは基板ホルダ27に引き付けられ、基板28に入射する。
【0076】
こうして基板28に入射したスパッタ粒子であるZnとOとは、基板28に入射し化学反応を起こし、基板28の表面にZnOの薄膜を形成する。
【0077】
なお、上記実施形態3〜8においては、基板をZnO薄膜のc軸方向と平行な方向に向けて水平に平行移動させながら成膜することも有効である。
【0078】
また、本発明の薄膜製造方法は、ZnOに限らず、窒化アルミ、酸化亜鉛、窒化ガリウム等からなる圧電薄膜を成膜するのにも有効である。その場合、薄膜の組成によっては2種以上のターゲットから出射されたスパッタ粒子を基板上で結晶化させて薄膜を形成することも可能である。
【0079】
また、上記実施形態1〜8においては、いずれも基板を水平に配置していたが、基板を真空チャンバ内において基板を傾けて配置してもよい。即ち、磁束密度が高い領域(エロージョン領域)のうち1つの直線部分と基板の交差する角度が常に一定となるように基板を配置して成膜を行なってもよい。
【0080】
(応用分野)
つぎに、c軸面内配向したZnO薄膜の応用例を示す。図23及び図24はSH型SAW(横波型弾性表面波)デバイス108を表わしており、図23はその斜視図、図24はその側面図である。このSAWデバイス108は、基板28の表面にZnO薄膜85を形成し、その上に電極材料によって一対のIDT(櫛歯状電極)86、反射電極87及びアンテナ88を形成している。IDT86は一定のピッチで平行に延びた複数本の電極指を有しており、一対のIDT86は電極指どうしを交互に噛み合わせるようにして配置されている。また、ZnO薄膜85は、c軸面内配向しており、さらにIDT86の電極指の長さ方向と平行な方向にc軸方向が揃っている。
【0081】
このSAWデバイス108においては、様々な周波数が重畳した高周波信号がアンテナ88で受信すると、アンテナ88からIDT86間に高周波信号が印加される。これにより、電極指に平行な方向に振動する横波型SAWが生成される。この横波型SAWは、波長が各IDT86の電極指間の間隔と等しい場合以外は打ち消される。この横波型SAWの波長は高周波信号の周波数に依存する。従って、このSAWデバイス108は、高周波信号に重畳した所定周波数以外の信号を排除して、所定周波数の信号のみからなる横波型SAWを生成するフィルタとなる。この横波型SAWは、同様なSAWデバイス108を用いて高周波電気信号に変換し、アンテナ88から電波として発信することができる。
【0082】
図25はトランスデューサ109の断面図である。このトランスデューサ109は、空洞90が貫通した支持部89の上面に薄膜状のメンブレン91(ダイヤフラム)を張設したものである。メンブレン91は、金属基板や表面に金属を蒸着させた金属膜蒸着基板などの基板91aの上に本発明にかかるZnO薄膜91bを形成したものである。ZnO薄膜91bの上下両面はそれぞれ引出線92によって計測器93に接続されている。
【0083】
このトランスデューサ109が例えば圧力センサとして用いられる場合には、上面で圧力を受けてメンブレン91が撓むことによってZnO薄膜91bに圧電効果による電位差が生じるので、計測器93によって電位差を計測することで圧力を測定することができる。
【0084】
図26は別なトランスデューサ110の断面図である。このトランスデューサ110は、支持部94の上面に薄膜状のカンチレバー95の基端部を固定し、カンチレバー95を片持ち状に支持したものである。カンチレバー95は、金属基板や表面に金属を蒸着させた金属膜蒸着基板などの基板95aの上に本発明にかかるZnO薄膜95bを形成したものである。ZnO薄膜95bの上下両面は引出線96によって計測器97に接続されている。
【0085】
このトランスデューサ110が例えば負荷センサとして用いられる場合には、先端部で負荷を受けてカンチレバー95が撓むことによってZnO薄膜95bに圧電効果による電位差が生じるので、計測器97によって電位差を計測することでカンチレバー95の先端に加わっている負荷の大きさを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明の実施形態1にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図2】図2は、実施形態1のマグネトロンスパッタリング装置により成膜されたZnO薄膜と比較例によるZnO薄膜とのX線回折実験の結果(XRDパターン)を示す図である。
【図3】図3は、六方晶系のZnO結晶が薄膜表面に配向する様子を表わした図である。
【図4】図4は、実施形態1によるZnO薄膜の(11−22)極点図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態2にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図6】図6は、実施形態2のマグネトロンスパッタリング装置の概略平断面図である。
【図7】図7は、基板の形状と基板上の位置を示す図である。
【図8】図8(a)、(b)及び(c)は、実施形態2によるZnO薄膜の(11−22)極点図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態3にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図10】図10は、実施形態3のマグネトロンスパッタリング装置の概略平断面図である。
【図11】図11は、実施形態3のZnO薄膜のX線回折実験の結果(XRDパターン)を示す図である。
【図12】図12(a)、(b)及び(c)は、実施形態3によるZnO薄膜の(11−22)極点図である。
【図13】図13は、実施形態3の変形例を示す概略平断面図である。
【図14】図14は、本発明の実施形態4にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図15】図15は、実施形態4のマグネトロンスパッタリング装置の概略平断面図である。
【図16】図16は、実施例4の変形例を示す概略断面図である。
【図17】図17は、本発明の実施形態5にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図18】図18は、実施形態5のマグネトロンスパッタリング装置の概略平断面図である。
【図19】図19は、本発明の実施形態6にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図20】図20は、本発明の実施形態7にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図21】図21は、実施形態7のマグネトロンスパッタリング装置の概略平断面図である。
【図22】図22は、本発明の実施形態8にかかるマグネトロンスパッタリング装置の構造を示す概略断面図である。
【図23】図23は、本発明にかかるSAWデバイスの斜視図である。
【図24】図24は、同上のSAWデバイスの側面図である。
【図25】図25は、本発明にかかるトランスデューサの断面図である。の概略断面図である。
【図26】図26は、本発明にかかる別なトランスデューサの断面図である。の概略断面図である。
【符号の説明】
【0087】
21 真空チャンバ
22 ターゲット
23 マグネトロン回路
27 基板ホルダ
28 基板
29 電源
30 ガス流入口
31 ガス排出口
38 プラズマ領域
39 エロージョン領域
39a、39b エロージョン領域の長辺部分
39c、39d エロージョン領域の短辺部分
40 薄膜表面
51 遮蔽板
52 水平板部
53 垂直板部
61 難スパッタ材
71 遮蔽板
81 マグネトロン回路
85 ZnO薄膜
86 IDT
87 反射電極
88 アンテナ
91 メンブレン
91b ZnO薄膜
95 カンチレバー
95b ZnO薄膜
101〜107 マグネトロンスパッタリング装置
108 SAWデバイス
109、110 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法により基板の表面に薄膜を製造する方法であって、
粒子発生源に対向させて前記基板を配置し、前記粒子発生源から出射したエネルギー粒子を前記基板に入射させ、所定の結晶軸方向が前記基板の表面と平行となるように前記エネルギー粒子を前記基板の表面に入射させて前記エネルギー粒子を含む薄膜を形成することを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
前記薄膜は、少なくとも1つの粒子発生源から出射した前記エネルギー粒子によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記薄膜は、少なくとも1つの粒子発生源から出射したエネルギー粒子と、前記基板に入射したプラズマガス粒子によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記基板の表面に六方晶系の前記薄膜を形成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記六方晶系のc軸方向が前記薄膜の表面と平行で、かつ、前記c軸方向が一方向に揃っていることを特徴とする、請求項4に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
前記薄膜が圧電性薄膜であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
前記薄膜が酸化亜鉛からなることを特徴とする、請求項6に記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
前記粒子発生源がスパッタリング用のターゲットであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項9】
0.15Pa以下の圧力のガス中において放電を行なうことにより前記粒子発生源をスパッタして、前記粒子発生源からエネルギー粒子を出射させることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項10】
前記基板を前記粒子発生源の近傍に配置することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項11】
ガス中における放電により生じるプラズマ領域内に前記基板を配置することを特徴とする、請求項9に記載の薄膜製造方法。
【請求項12】
前記エネルギー粒子の、前記基板に対する入射角度、入射方向または入射方向の拡がりを制御することを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項13】
前記基板と前記粒子発生源との間の空間に遮蔽板又はスリットを設置することにより、前記エネルギー粒子の、前記基板に対する入射角度、入射方向または入射方向の拡がりを制御することを特徴とする、請求項12に記載の薄膜製造方法。
【請求項14】
前記粒子発生源の背後に磁気回路を設け、前記磁気回路によって発生する磁界の磁束密度が高い領域のうち直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって前記基板の表面に前記薄膜を形成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項15】
前記粒子発生源の背後に磁気回路を設け、前記磁気回路によって発生する磁界の磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって前記基板の表面に前記薄膜を形成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項16】
前記磁気回路は、1つのN極と1つのS極を有し、当該N極と当該S極との間にのみ前記磁束密度が高い直線領域を生成することを特徴とする、請求項15に記載の薄膜製造方法。
【請求項17】
前記粒子発生源の一部領域を遮蔽板によって覆うことにより、前記粒子発生源のうち前記遮蔽板で覆われた領域から出射されたエネルギー粒子を前記基板の表面に到達させず、
前記粒子発生源のうち前記遮蔽板によって覆われていない領域にあって、前記磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって前記基板の表面に前記薄膜を形成することを特徴とする、請求項15に記載の薄膜製造方法。
【請求項18】
前記粒子発生源の一部領域を難スパッタ材によって覆うことにより、前記粒子発生源のうち前記難スパッタ材で覆われた領域から出射されたエネルギー粒子を前記基板の表面に到達させず、
前記粒子発生源のうち前記難スパッタ材によって覆われていない領域にあって、前記磁束密度が高い領域のうち単一の直線部分で前記粒子発生源から出射されたエネルギー粒子のみによって前記基板の表面に前記薄膜を形成することを特徴とする、請求項15に記載の薄膜製造方法。
【請求項19】
前記磁気回路は、N極とS極のうちいずれか一方の極を挟んでその両側に他方の極を配置したものであり、いずれか一方のN極とS極間の領域では前記粒子発生源として難スパッタ材を用いることを特徴とする、請求項15に記載の薄膜製造方法。
【請求項20】
前記磁気回路は、N極とS極のうちいずれか一方の極を挟んでその両側に他方の極を配置したものであり、いずれか一方のN極とS極間の領域だけに前記粒子発生源を設けることを特徴とする、請求項15に記載の薄膜製造方法。
【請求項21】
前記磁束密度が高い領域のうち1つの直線部分と前記基板の交差する角度が常に一定となるような配置にすることを特徴とする、請求項14又は15に記載の薄膜製造方法。
【請求項22】
酸化亜鉛からなる前記粒子発生源を用いて請求項13から21のいずれか1項に記載の薄膜製造方法により前記基板の表面に製造された酸化亜鉛薄膜であって、
c軸方向が前記基板の表面に平行で、かつ、前記基板の表面内で一方向に配向していることを特徴とする酸化亜鉛薄膜。
【請求項23】
金属基板もしくは金属膜蒸着基板の上に請求項22に記載の酸化亜鉛薄膜を成膜したことを特徴とする圧電素子。
【請求項24】
請求項22に記載の酸化亜鉛薄膜を備えたトランスデューサ。
【請求項25】
請求項22に記載の酸化亜鉛薄膜を備えたSAWデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−133145(P2008−133145A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318720(P2006−318720)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】