説明

表皮材及び自動車用内装品

【課題】表皮の表面に可塑剤がブリードアウトすることを抑制でき、長期的に熱にさらしても、柔軟性を維持できる表皮材及び自動車用内装品を提供することを課題とした。
【解決手段】 表皮材6は自動車用内装品の表皮として使用されるものであり、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材7と、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材8とを有する。可塑剤保持材8は基材7中に分散しており、可塑剤保持材8に保持されている可塑剤は、基材7中に移行可能である。表皮材6は、エアバッグカバー等の自動車用内装品の表皮材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材及び自動車用内装品に関するものであって、その中でも、特にインストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム等の自動車用内装品に使用される表皮材、及び当該表皮材を備えた自動車用内装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム等の自動車用内装品は、硬質材料からなる芯材と、発泡ウレタン樹脂等からなる発泡層と、塩化ビニル系樹脂等からなる表皮材とがこの順番に積層された樹脂成型品からなる。このうち表皮材は、従来から、真空成形やスラッシュ成形などの成形法で製造されている。特にパウダースラッシュ成形法は、ソフトな触感の製品が得られること、皮シボやステッチを製品に設けることができること、設計自由度が大きいこと、意匠性が良好な製品が得られることなどから、表皮材の成型に広く用いられている。
【0003】
パウダースラッシュ成形法とは、原料となる粉末状樹脂を加熱した金型内面に付着させて溶融させ、その後に冷却固化して成形体を取り出す方法である。パウダースラッシュ成形法に用いられる粉末状樹脂材料には、金型の細部まで行き渡らせる必要性から、良好な粉体特性と、成形温度で容易に溶融し所望の形状となる溶融流動性(成形性)が求められる。
【0004】
ところで最近の自動車では、インストルメントパネルと助手席側のエアバッグカバーとが一体化されていることが多い(例えば、特許文献1)。ところが、このような助手席側のエアバッグが膨出すると、エアバッグカバーの表皮材が割れて飛散するおそれがある。そのため、エアバッグ膨出時に乗員に危害が加わるようなことがないように、熱や光による老朽化後でも表皮材の柔軟性を保持する必要がある。そこで、表皮材に触感や風合い、及び機械的強度を付与するために、可塑剤を添加して柔軟性を与えている。例えば、塩化ビニル系樹脂からなる表皮材の場合には、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル等からなる可塑剤が用いられている。ところが、従来の表皮材では、自動車使用時の発熱や太陽熱などにより表皮材表面の可塑剤が揮発してしまい、結果として表皮材の柔軟性が失われるという問題が生じている。
【0005】
この問題の解決策の1つとして、分子量が大きく、熱による揮発が起こりにくいトリメリット酸エステルからなる可塑剤(例えば、特許文献2)を主として用いたり、さらに揮発による可塑剤の減少を考慮して、可塑剤の添加量を増やしたりすることが行われている。例えば、トリメリット酸エステルからなる可塑剤を従来の1.5倍程度添加することにより、表皮材の柔軟性を維持することが行われている。具体的には、粉末状の塩化ビニル系樹脂原料に多量の可塑剤を添加して吸着させ、これを加熱された金型に導入してパウダースラッシュ成形に供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−105525号公報
【特許文献2】特開平5−279485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、塩化ビニル系樹脂原料にトリメリット酸エステルを過剰に吸着させると、表皮材の成形直後に可塑剤が過飽和状態となり、成形した表皮の表面に可塑剤がブリードアウトしてきて、べたべたした触感になってしまう問題がある。また、ブリードアウトした可塑剤にゴミが付着しやすく、成形時に不良品が生じたり、自動車の使用時に埃が付着しやすいという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、表皮材の表面に可塑剤がブリードアウトすることを抑制でき、かつ、長期的に熱にさらしても柔軟性を維持できる表皮材、及び当該表皮材を備えた自動車用内装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、自動車用内装品の表皮として使用される表皮材であって、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材と、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材とを有し、可塑剤保持材は基材中に分散しており、可塑剤保持材に保持されている可塑剤は、基材中に移行可能であることを特徴とする表皮材である。
【0010】
本発明の表皮材は自動車用内装品の表皮として用いられるものであり、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材と、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材とを有している。そして、当該可塑剤保持材は基材中に分散しており、可塑剤保持材に保持されている可塑剤は、基材中に移行可能である。本発明の表皮材では、可塑剤を多孔性材料に吸着させているので、添加する可塑剤の量を適切な量に抑えることができ、多量に添加する必要がない。そのため、表皮成形直後に可塑剤が過飽和状態になるのを防止でき、成形直後に可塑剤がブリードアウトすることを防止することができる。その結果、本発明の表皮材は、べたべたした触感となることがなく、またゴミの付着も少ない。
【0011】
さらに本発明の表皮材においては、可塑剤保持材に保持されている可塑剤が基材中に移行可能である。そのため、長期的に熱にさらされて基材から可塑剤が揮発しても、可塑剤保持材から可塑剤が基材中に移行し、可塑剤を補充できる。その結果、本発明の表皮材は、長期間にわたって柔軟性を維持することができる。
【0012】
ここで、「塩化ビニル系樹脂」とは、慣用的に用いられている塩化ビニル系樹脂の原料を用いて成形される樹脂である。即ち、「塩化ビニルの単独重合体」又は「塩化ビニルを50重量パーセント以上含有し、塩化ビニルと共重合し得る他の単量体との共重合体」を意味する。
【0013】
同様の課題を解決するための請求項2に記載の発明は、自動車用内装品の表皮として使用される表皮材であって、所望形状に対応する内面を有する金型を加熱し、粉末状の塩化ビニル系樹脂原料と可塑剤と可塑剤を吸着させた多孔性材料との混合物を、前記金型内面に付着させて溶融し、金型を冷却後、所望形状に成形してなるものであり、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材と、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材とを有し、可塑剤保持材に保持されている可塑剤は、基材中に移行可能であることを特徴とする表皮材である。
【0014】
本発明の表皮材においても、可塑剤を多孔性材料に吸着させているので、添加する可塑剤の量を適切な量に抑えることができ、多量に添加する必要がない。そのため、表皮成形直後に可塑剤が過飽和状態になるのを防止でき、成形直後に可塑剤がブリードアウトすることを防止することができる。その結果、本発明の表皮材は、べたべたした触感となることがなく、またゴミの付着も少ない。さらに本発明の表皮材においても、可塑剤保持材に保持されている可塑剤が基材中に移行可能であるから、長期的に熱にさらされて基材から可塑剤が揮発しても、可塑剤保持材から可塑剤が基材中に移行し、可塑剤を補充できる。その結果、本発明の表皮材は、長期間にわたって柔軟性を維持することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明において、前記混合物は、下記工程(1)〜(3):
(1)粉末状の塩化ビニル系樹脂原料と可塑剤とを混合して、基材原料を調製する工程、
(2)多孔性材料と可塑剤とを混合して、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材を調製する工程、
(3)工程(1)で調製した基材原料と工程(2)で調製した可塑剤保持材とを混合する工程、
を包含する方法で調製されたものであることが好ましい(請求項3)。
【0016】
請求項4に記載の発明は、可塑剤保持材における多孔性材料に対する可塑剤の配合割合は、基材における塩化ビニル系樹脂原料に対する可塑剤の配合割合よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表皮材である。
【0017】
本発明の表皮材では、可塑剤保持材における多孔性材料に対する可塑剤の配合割合は、基材における塩化ビニル系樹脂原料に対する可塑剤の配合割合よりも大きい。そのため、塩化ビニル系樹脂原料に添加する可塑剤の使用量は従来の可塑剤の使用量よりもさらに低減できる。また、長期的に熱にさらして、基材から可塑剤が揮発した場合、多孔性材料に対する配合割合が大きいので、基材へ可塑剤の移行がより速やかに行われる。
【0018】
請求項1〜4のいずれかに記載の表皮材において、多孔性材料は、炭、シリカゲル、及びゼオライトからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい(請求項5)。
【0019】
請求項6に記載の発明は、多孔性材料の粒子径は、20〜120μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表皮材である。
【0020】
かかる構成により、パウダースラッシュ成形を行う際に、多孔性材料を金型の隅々まで充填することができる。
ここでいう「粒子径」は、平均粒子径を表し、レーザー回折を用いて粒子径を測定し、算出したものである。
【0021】
請求項1〜6のいずれかに記載の表皮材において、可塑剤は、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、及びトリメリット酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい(請求項7)。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の表皮材を備えたことを特徴とする自動車用内装品である。
【0023】
本発明は自動車用内装品に係るものであり、上記した本発明の表皮材を備えたことを特徴とする。本発明の自動車用内装品によれば、表皮材がエアバッグカバーと一体化されたものの場合でも、エアバッグの膨出時に表皮材が割れて飛散するおそれが小さい。
【0024】
請求項8に記載の自動車用内装品は、エアバッグカバーであることが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0025】
本発明の表皮材によれば、使用する可塑剤の量を適切な量に抑えることができるので、表皮成形直後に可塑剤が過飽和状態になるのを防止でき、成形直後に可塑剤がブリードアウトすることを防止することができる。その結果、本発明の表皮材は、べたべたした触感となることがなく、またゴミの付着も少ない。さらに本発明の表皮材によれば、塑剤保持材に保持されている可塑剤が基材中に移行可能であるから、長期的に熱にさらされて基材から可塑剤が揮発しても、可塑剤保持材から可塑剤が基材中に移行し、可塑剤を補充できる。その結果、本発明の表皮材は、長期間にわたって柔軟性を維持することができる。
【0026】
本発明の自動車用内装品によれば、表皮材がエアバッグカバーと一体化されたものの場合でも、エアバッグの膨出時に表皮材が割れて飛散するおそれが小さい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エアバッグカバーが一体化されたインストルメントパネルを表す斜視図である。
【図2】図1のインストルメントパネル及びエアバッグカバーの積層構造を表す断面図である。
【図3】表皮材の構造を模式的に表す説明図である。
【図4】表皮材形成工程で用いるスラッシュ成形工法の説明図である。
【図5】表皮材形成工程の説明図であり、(a)は表皮層形成工程の開始位置における図、(b)は(a)を時計回りに90度回転した図、(c)は(a)を時計回りに180度回転した図、(d)は(a)を時計回りに270度回転した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、インストルメントパネル等の自動車用内装品に用いられる表皮材と、当該表皮材を備えた自動車用内装品に係るものである。図1は、本発明の一実施形態に係るインストルメントパネルとエアバッグカバーを示している。
図1に示すインストルメントパネル(自動車用内装品)1は、車室内の左右全域に渡って配置されている。インストルメントパネル1の左側、すなわち助手席側には、エアバッグカバー2が設けられている。エアバッグカバー2は、インストルメントパネル1と一体成形されている。
【0029】
図2に示すように、インストルメントパネル1とエアバッグカバー2は、芯材3と発泡層5と表皮材6がこの順番に積層された三層構造を有している。
【0030】
芯材3は、ABS樹脂やポリプロピレン(PP)等の樹脂からなるものであり、射出成形等を用いて成形されたものである。一部端部を除き、芯材3の全面には発泡層5が積層されている。
【0031】
発泡層5は、インストルメントパネル1にクッション性を付与するものであり、ポリウレタン等の発泡樹脂からなる。
芯材3と発泡層5は、いずれも公知のものである。
【0032】
インストルメントパネル1とエアバッグカバー2においては、表皮材6に特徴的な構成を有している。表皮材6は、基本的に塩化ビニル系樹脂で構成されたものであるが、その中に不溶性微粒子である可塑剤保持材8を含んでいる。図3に示すように、表皮材6は、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材7と、可塑剤を保持させた多孔性材料からなる可塑剤保持材8を有している。そして可塑剤保持材8は、基材7中に分散している。
【0033】
基材7は、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる。前述のとおり、「塩化ビニル系樹脂」とは、「塩化ビニルの単独重合体」又は「塩化ビニルを50重量パーセント以上含有し、塩化ビニルと共重合し得る他の単量体との共重合体」を意味する。塩化ビニル系樹脂の例としては、懸濁重合、塊状重合、乳化重合などの方法で得られた塩化ビニルの単独重合体、あるいは塩化ビニルとエチレン、プロピレン、ビニルアセテートなどの共重合可能な単量体1種以上との共重合体などを挙げることができる。
可塑剤については後述する。
【0034】
可塑剤保持材8は、多孔性材料に可塑剤を吸着させてなるものである。そして、可塑剤保持材8は、基材7中に可塑剤を放出可能なものである。換言すれば、可塑剤保持材8に保持されている可塑剤は、基材7中に移行可能である。
【0035】
多孔性材料の例としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質、セラミック多孔質体等が挙げられるが、多孔質体であれば、これらに限定されるものではない。また、活性炭、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔質体の酸化物から構成されることがより好ましい。
【0036】
多孔性材料の粒子径としては、基材7中に分散して表皮材6を構成できるものであれば特に限定はないが、好ましくは20〜120μm、より好ましくは50〜100μmである。すなわち、粒子径がこれらの範囲内であれば、パウダースラッシュ成形の際に金型の隅々まで可塑剤保持材8を充填することが容易となる。
【0037】
平均粒子径は20μmから120μm程度であるのに対して、中心粒子径は60μmから80μm程度が好ましい。なお、50μmから100μm程度の平均粒子径に対して、60μmから80μm程度の中心粒子径がより好ましい。
平均粒子径及び中心粒子径はレーザー回折を用いて測定し、算出したものである。以下、特に別段の記載がない場合は同様の計測方法で粒子径を算出する。
【0038】
基材7に含有させる可塑剤や多孔性材料に保持させる可塑剤としては、塩化ビニル系樹脂に対して用いられるものであれば特に限定はない。例えば、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペートなどのアジピン酸エステル系可塑剤;ジ−n−ヘキシルアゼレート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジイソオクチルアゼレートなどのアゼライン酸エステル系可塑剤;ジ−n−ブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケートなどのセバシン酸エステル系可塑剤;ジ−n−ブチルマレエート、ジ−2−エチルヘキシルマレエートなどのマレイン酸エステル系可塑剤;ジ−n−ブチルフマレート、ジ−2−エチルヘキシルフマレートなどのフマル酸エステル系可塑剤;トリ−n−ヘキシルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリ−n−オクチルトリメリテートなどのトリメリット酸エステル系可塑剤;テトラ−2−エチルヘキシルピロメリテート、テトラ−n−オクチルピロメリテートなどのピロメリット酸エステル系可塑剤;トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−2−エチルヘキシルシトレートなどのクエン酸エステル系可塑剤;ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ−2−エチルヘキシルイタコネートなどのイタコン酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトールの各種脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸エステル系可塑剤;トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール系可塑剤;グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ系可塑剤;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤、あるいは部分水添ターフェニル、接着性可塑剤、さらにはジアリルフタレート、アクリル系モノマーやオリゴマーなどの重合性可塑剤などを挙げることができる。これらの可塑剤については、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
本発明においては、これらの中でフタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、トリメリット酸エステル系の可塑剤を特に好適に使用することができる。
【0039】
上述のように、表皮材6においては、基材7と可塑剤保持材8の両方に可塑剤が含有または保持されている。両者の配合割合については、可塑剤保持材8における多孔性材料に対する可塑剤の配合割合(A)が、基材7における塩化ビニル系樹脂原料に対する可塑剤の配合割合(B)よりも大きい(A>B)ことが好ましい。この好ましい実施形態によれば、可塑剤保持材8から基材7への可塑剤の移行が、より速やかに行われる。
AとBの具体的な比としては、例えば、Aを1とするとBは0.8〜5.0である。
【0040】
なお、基材7に含有させる可塑剤と可塑剤保持材8に保持させる可塑剤とは、同じ種類であることが好ましいが、別の種類であってもかまわない。
【0041】
次に、本実施形態に係る表皮材6の製造方法について説明する。表皮材6の製造方法については特に限定はないが、パウダースラッシュ成形による方法が好ましく採用される。以下、パウダースラッシュ成形による表皮材6の製造方法について説明する。
【0042】
本製造方法の概要は、加熱したスラッシュ成形用の金型内面に、粉末状の塩化ビニル系樹脂と可塑剤と可塑剤保持材との混合物(以下、「表皮原料」と称することがある。)を付着させて溶融し、金型を冷却後、所望形状に成形された表皮材6を得るものである。
【0043】
具体的には、まず、粉末状の塩化ビニル系樹脂原料と可塑剤とを混合し、基材原料を調製する。ここで用いる粉末状塩化ビニル系樹脂原料の粒子径としては、平均粒子径が50μm〜200μm程度、中心粒子径が160μm〜180μm程度であることが好ましい。平均粒子径が100μm〜200μm程度、中心粒子径が160μm〜180μm程度であることがより好ましい。粒子径がこれらの範囲内であれば、パウダースラッシュ成形の際に金型の隅々まで粉末状表皮原料中の粉末状塩化ビニル系樹脂原料を充填することが容易となる。また、塩化ビニル系樹脂原料に対する可塑剤の添加率(重量比)は、塩化ビニル系樹脂原料を1とすると可塑剤は0.6〜1.2であり、好ましくは0.75〜1.0である。
【0044】
一方、多孔性材料と可塑剤とを混合して多孔性材料に可塑剤を吸着させ、可塑剤保持材8を調製する。多孔性材料の粒子径については上述したとおりであり、平均粒子径が好ましくは20〜120μm、より好ましくは50〜100μmである。すなわち、粒子径がこれらの範囲内であれば、パウダースラッシュ成形の際に金型の隅々まで粉末状表皮原料中の可塑剤保持材8を充填することが容易となる。多孔性材料に対する可塑剤の添加率(重量比)は、多孔性材料を1とすると可塑剤は1〜3であり、好ましくは1.5〜2.5である。
【0045】
次に、調製した基材原料と可塑剤保持材8とを混合し、表皮原料12を調製する。すなわち表皮原料12は、粉末状の塩化ビニル系樹脂と可塑剤と可塑剤保持材との混合物である。ここで、基材原料と可塑剤保持材8との混合割合(重量比)は、基材原料を1とすると可塑剤保持材8は0.05〜0.15であり、好ましくは0.08である。
【0046】
最後に、表皮原料12をパウダースラッシュ成形に供する(表皮材形成工程)。具体的には、まず、図4に示すような所望形状に対応する内面を有するニッケル電鋳型10(金型)を準備する。このニッケル電鋳型10の内側面を熱風により加熱し、昇温する。続いて、図4に示すような、ニッケル電鋳型10の開口面に嵌合するように形成された表皮原料収容体11を準備し、この表皮原料収容体11に表皮原料12を収容する。そして、ニッケル電鋳型10の開口部に向けて表皮原料収容体11を移動させ、表皮原料収容体11の上面部をニッケル電鋳型10の開口部に嵌合させることにより型締めを行う。
【0047】
次に、図5(a)〜(d)に示すように、ニッケル電鋳型10と表皮原料収容体11とを型締めした状態で回転させる。これにより、加熱されたニッケル電鋳型10に表皮原料12が接触し、表皮原料12が加熱されて液状化する。その後、液状化した表皮原料12がニッケル電鋳型10の内側面に融着する。このようにして、ニッケル電鋳型10の内側面に表皮材6が形成される。その後、図5(a)に示すように、表皮原料収容体11が下側に位置するように配置し、未吸着の表皮原料12を表皮原料収容体11に落下させることによって、ニッケル電鋳型10の内側面に所定の厚みの表皮材6だけが残るようにする。そして、表皮原料収容体11をニッケル電鋳型10から取り外す。その後、冷却し、所望形状に成形された表皮材6を得る。
【0048】
このようにして製造された表皮材6は、図3に示すように、基材7中に可塑剤保持材8が分散したものとなり、可塑剤保持材8に保持された可塑剤が基材7中に移行可能なものとなる。
【0049】
インストルメントパネル1とエアバッグカバー2は、表皮材6を装着した金型を用いて、一体成形することができる。すなわち、表皮材6を一方の金型に、芯材3を他方の金型にそれぞれ装着し、型合わせする。その後、この状態の成形型にポリオールとポリイソシアネートの混合物を注入し、成形型内で原料の反応を進めて発泡ウレタン樹脂を形成する。このようにして発泡層5が形成され、インストルメントパネル1又はエアバッグカバー2が完成する。
【0050】
エアバッグカバー2においては、表皮材6が可塑剤保持材8を有し、長期間にわたって、柔軟性を維持することができるから、エアバッグ膨出時にもエアバッグカバーの表皮材が割れて飛散して乗員に危害を与えるのを防止することができる。
【0051】
以下に実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
上記した実施形態の方法により、エアバッグカバー2を作製し、以下の試験に供した。
【0053】
塩化ビニル系樹脂の原料として平均粒子径が170μmの粉末状の塩化ビニルを、多孔性材料として中心粒子径100μmのゼオライト粉末を、可塑剤としてトリメリット酸トリオクチルを、それぞれ用いた。
まず、容器に塩化ビニルを入れ、トリメリット酸トリオクチルを添加していき、塩化ビニルに吸着させた(基材原料)。なお、塩化ビニルとトリメリット酸トリオクチルの混合割合は、重量比で100(塩化ビニル)対75(トリメリット酸トリオクチル)とした。
また、別の容器にゼオライト粉末を入れ、トリメリット酸トリオクチルを添加していき、ゼオライト粉末に吸着させた(可塑剤保持材)。なお、ゼオライト粉末とトリメリット酸トリオクチルの混合割合は、重量比で100(ゼオライト粉末)対200(トリメリット酸トリオクチル)とした。
【0054】
次に、基材原料と可塑剤保持材を重量比で100(基材原料)対8(可塑剤保持材)の割合で混合し、さらに顔料を加えた(表皮原料)。
【0055】
表皮原料を摂氏約230度に加熱されたニッケル電鋳型に投入し、約60秒後に余分な原料を排出し、摂氏約60度まで水で冷却後に粉末が溶けて固まった表皮材6を得た。
【0056】
得られた表皮材6を用いて、加熱老化試験前後(110℃、1000時間)の表皮材6の破断時の伸び率(%)、並びに、エアバック展開試験での飛散物の有無を調べた。各試験方法の詳細は以下の通りとした。
【0057】
〔伸び率測定〕
加熱老化試験前(0時間)と加熱老化試験後(1000時間)について測定した。
比較例として、塩化ビニルに多量の可塑剤を添加した塩化ビニル樹脂(比較例1)と塩化ビニルに通常量の可塑剤を添加した塩化ビニル樹脂(比較例2)を用いて同様の実験を行った。
【0058】
測定結果を表1に記す。
【0059】
【表1】

【0060】
本発明の表皮材6は可塑剤を通常量加えたものよりもきわめて高い耐久性を示し、可塑剤を過剰に加えたものと同等の耐久性を示した。このことから、表皮を110℃で加熱老化させると塩化ビニルに添加したトリメリット酸トリオクチルは揮発して減るが、ゼオライトに吸着したトリメリット酸トリオクチルはあまり揮発せず、基材中に適度に移行して表皮材6の柔軟性を保ったことが示された。
【0061】
エアバッグ展開試験の結果から本発明の塩化ビニル樹脂の表皮にひび割れ、表皮の飛散もなく、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0062】
1 インストルメントパネル(自動車用内装品)
2 エアバッグカバー
6 表皮材
7 基材
8 可塑剤保持材
10 ニッケル電鋳型(金型)
12 表皮原料(混合物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用内装品の表皮として使用される表皮材であって、
可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材と、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材とを有し、
可塑剤保持材は基材中に分散しており、
可塑剤保持材に保持されている可塑剤は、基材中に移行可能であることを特徴とする表皮材。
【請求項2】
自動車用内装品の表皮として使用される表皮材であって、
所望形状に対応する内面を有する金型を加熱し、粉末状の塩化ビニル系樹脂原料と可塑剤と可塑剤を吸着させた多孔性材料との混合物を、前記金型内面に付着させて溶融し、金型を冷却後、所望形状に成形してなるものであり、
可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂からなる基材と、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材とを有し、
可塑剤保持材に保持されている可塑剤は、基材中に移行可能であることを特徴とする表皮材。
【請求項3】
前記混合物は、下記工程(1)〜(3):
(1)粉末状の塩化ビニル系樹脂原料と可塑剤とを混合して、基材原料を調製する工程、
(2)多孔性材料と可塑剤とを混合して、可塑剤を吸着させた多孔性材料からなる可塑剤保持材を調製する工程、
(3)工程(1)で調製した基材原料と工程(2)で調製した可塑剤保持材とを混合する工程、
を包含する方法で調製されたものであることを特徴とする請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
可塑剤保持材における多孔性材料に対する可塑剤の配合割合は、基材における塩化ビニル系樹脂原料に対する可塑剤の配合割合よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表皮材。
【請求項5】
多孔性材料は、炭、シリカゲル、及びゼオライトからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表皮材。
【請求項6】
多孔性材料の粒子径は、20〜120μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表皮材。
【請求項7】
可塑剤は、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、及びトリメリット酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の表皮材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の表皮材を備えたことを特徴とする自動車用内装品。
【請求項9】
エアバッグカバーであることを特徴とする請求項8に記載の自動車用内装品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−35741(P2012−35741A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177343(P2010−177343)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(304053957)日本IAC株式会社 (46)
【Fターム(参考)】