説明

表面処理装置

【課題】表面処理時では被処理物以外の箇所に副生成物が堆積することを抑制し、クリーニング処理時では堆積した副生成物が効率的に除去される表面処理装置を提供する。
【解決手段】筐体部10内に設けられる円筒状の試料保持台12上の基板18に対して表面処理に利用される原料流体が供給される際には、試料保持台12の側方周囲に設けられる隔壁14は、試料保持台12の側面を覆う位置に移動し、基板18に対して筐体部10内のクリーニング処理に利用されるクリーニング流体が供給される際には、隔壁14は、試料保持台12の側面が露出する位置に移動する表面処理装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理及びクリーニング処理を実施する表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体素子等を製造するために、適当な反応ガス等の原料流体を基板上に供給して、基板上に半導体層や絶縁膜、導電体層等を形成し、あるいは、基板の表面をエッチングし、あるいはコーティング材料を形成することが行われる。このような処理は半導体素子の製造以外にも広く行われており、これらの処理を広義の表面処理と呼ぶことができ、この表面処理を行う装置を広義の表面処理装置と呼ぶことができる。
【0003】
例えば、半導体ウェハあるいは絶縁体ウェハ等に半導体層をエピタキシャル成長させるエピタキシャル装置、半導体ウェハ上に適当な酸化膜等の絶縁膜を堆積させる気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)装置、半導体ウェハ上に形成された薄膜等を除去するドライエッチング装置等は、広義の表面処理装置である。
【0004】
このような表面処理装置を用いて、例えば製品量産時等に長時間の表面処理を行うと、被処理物(基板)以外の不要な箇所(表面処理装置の内壁)で表面処理が行われ、該表面処理によって、副生成物が表面処理装置の内壁等に堆積する場合がある。そして、この堆積物(副生成物)が剥がれて被処理物に付着することで、被処理物の品質が劣化するといった問題が生じる虞がある。
【0005】
まず、表面処理時において、不要な箇所に副生成物が堆積することを抑制するためには、表面処理時に被処理物に与えられる熱が被処理物以外の不要な箇所へ伝熱することを抑え、また、不要な箇所での原料流体の拡散性を低下させる必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1では、筐体部内に設置した試料保持台の側方に設けられる隔壁と筐体部の内壁との間に、被処理物に供給される原料流体を排出するための排出流路部が形成された表面処理装置が提案されている。このような排出流路部を形成することにより、原料流体が、筐体部内で擾乱を起こすことなく外部へ速やかに排出される。また、試料保持台が加熱される場合には、試料保持台の熱が隔壁により遮られ、筐体部の内壁への伝熱が抑制される。すなわち、表面処理時において、被処理物以外の不要な箇所への熱伝達性及び該不要な箇所での流体の拡散性が抑制されるため、該不要な箇所に副生成物が堆積することを抑制することが可能となる。
【0007】
しかし、表面処理によって不要な箇所に副生成物が堆積した場合には、このような堆積物(副生成物)を化学的或いは物理的に除去するために、クリーニング処理を実施する必要がある。クリーニング処理は、筐体部内に堆積した堆積物にクリーニング処理用の流体を接触させ、化学反応等により堆積物を除去する方法である。このクリーニング処理により効率的に堆積物を除去するためには、被処理物以外の不要な箇所への熱伝達性を向上させたり、該不要な箇所でのクリーニング流体の拡散性を増加させたりすることが望ましい。
【0008】
このように、表面処理時において、被処理物以外の不要な箇所への熱伝達性及び流体の拡散性を抑制することができる装置構成は、堆積物の堆積を抑える点で有効であるが、クリーニング処理時においては、表面処理の時とは逆に、被処理物以外の不要な箇所への熱伝達性や流体の拡散性を向上させることができる装置構成とすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−135159号公報
【特許文献2】特表平6−506762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、表面処理時では被処理物以外の箇所に副生成物が堆積することを抑制し、クリーニング処理時では堆積した副生成物が効率的に除去される表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の表面処理装置は、円筒状の周囲壁を形成する筐体部と、前記筐体部の内部に設けられ、表面処理を行う対象物である基板を保持する円筒状の試料保持台と、前記筐体部において前記試料保持台の上方側に設けられ、前記試料保持台の前記基板に対し流体を供給する流体供給流路部と、前記試料保持台の側方周囲に設けられる隔壁と、前記筐体部において前記隔壁の外周側に設けられ、前記試料保持台の上方から前記基板に向かって供給される流体を前記隔壁の外周側から流出させる流出流路部と、を備え、前記隔壁は、前記流体として前記基板の表面処理に利用される原料流体が前記基板に対して供給される際には前記試料保持台の側面を覆う位置に移動し、前記流体として前記筐体部内のクリーニング処理に利用されるクリーニング流体が前記基板に対して供給される際には前記試料保持台の側面が露出する位置に移動する。
【0012】
また、前記表面処理装置において、前記試料保持台を回転駆動する回転機構を備え、前記クリーニング流体が前記基板に対して供給される際に、前記回転機構により前記試料保持台を回転駆動させることが好ましい。
【0013】
また、前記表面処理装置において、前記試料保持台を加熱する加熱機構を備え、前記クリーニング流体が前記基板に対して供給される際に、前記加熱機構により前記試料保持台を加熱することが好ましい。
【0014】
また、前記表面処理装置において、前記流出流路部の流路幅(d)に対する前記試料保持台の円筒高さ(h)の比(h/d)は0.026以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面処理時では被処理物以外の箇所に副生成物が堆積することを抑制し、クリーニング処理時では堆積した副生成物が効率的に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る表面処理装置の構成の一例を説明するための模式図である。
【図2】本実施形態に係る表面処理装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】本実施形態の表面処理装置における表面処理工程を説明するための図である。
【図4】本実施形態の表面処理装置におけるクリーニング処理工程を説明するための図である。
【図5】テイラークエット流の模式図である。
【図6】被処理物表面温度とクリーニング速度との関係をシミュレーションにより求めた図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下で説明する表面処理装置は、表面処理用の原料流体を基板上に供給して、基板上に半導体層や絶縁膜、導電体層等を形成し、あるいは、基板の表面をエッチングし、あるいはコーティング材料を形成する等の表面処理工程と、クリーニング流体を基板上に供給して、表面処理により基板以外の箇所に堆積した堆積物(副生成物)等を除去するクリーニング処理工程と、を実施するものである。例えば、シリコン単結晶のエピタキシャル成長を目的とする場合には、表面処理用の原料流体として、SiHCl3+H2の混合ガス等を用い、クリーニング流体として、HCl+H2の混合ガス等を用いる。
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る表面処理装置の構成の一例を説明するための模式図である。図1に示すように、表面処理装置1は、円筒状の周囲壁を形成する筐体部10と、筐体部10の内部に設けられる円筒状の試料保持台12と、試料保持台12の側方周囲に設けられる円筒状の隔壁14と、を備える。隔壁14の形状は試料保持台12の側方周囲に設けられるものであれば円筒状に限定されるものではなく、角型筒状等であってもよい。
【0020】
円筒状の試料保持台12の上面には、不図示の試料保持機構が設けられ、その試料保持機構により、シリコン単結晶を成長させるシリコンウェハ等の基板18が保持される。試料保持機構としては、例えば、基板18の外形に合わせた窪み、機械的に基板18の外周を固定する機構、真空で基板18を吸引して固定する機構等が挙げられる。
【0021】
円筒状の試料保持台12には、ヒータ20及び加熱部22を有する加熱機構が設置され、加熱機構により試料保持台12を所定の温度に加熱することができる。本実施形態では、円筒状の試料保持台12の下面側に凹部が形成されており、その凹部の中にヒータ20が収納されている。ヒータ20には加熱部22が接続されており、加熱部22はヒータ20を通電制御して、試料保持台12を予め定めた温度に制御することができるものである。
【0022】
また、円筒状の試料保持台12には回転部24が設けられている。回転部24は、モータ、試料保持台12とモータとを接続するための動力伝達機構等から構成され、試料保持台12の平面に垂直な回転軸周りに回転させる機能を有する回転機構である。試料保持台12の平面に垂直な回転軸は、円筒状の筐体部10の中心軸とすることが望ましい。
【0023】
隔壁14には移動装置26が設けられている。詳細は後述するが、移動装置26により、試料保持台12の側面を隔壁14で覆うように隔壁14を上方に移動させたり、或いは試料保持台12の側面を露出させるように隔壁14を下方に移動させたりすることができる。移動装置26の構成としては、例えば、シリンダと、シリンダに出没可能に設けられたピストンとを備えるアクチュエータ等が挙げられる。アクチュエータは、シリンダに対しピストンが出没することにより伸縮する構成になっている。そして、シリンダは筐体部10の内壁に固定され、ピストンの一端が隔壁14に取り付けられる。このようなアクチュエータに駆動信号を入力することで、シリンダ内からピストンを突出させ、試料保持台12の側面を隔壁14で覆う位置まで隔壁14を上方へ移動させる。また、アクチュエータの非動作時には、ピストンがシリンダ内に没入し、試料保持台12の側面が露出する位置まで隔壁14が下方へ移動することとなる。なお、隔壁14の外周にレール等の支持部材を設けて、そのレールに沿って、隔壁14を上方または下方に移動させてもよい。上記移動装置26は一例であってその装置構成は特に制限されるものではなく、試料保持台12の側面を覆うように隔壁14を移動させたり、試料保持台12の側面を露出させるように隔壁14を移動させたりすることができるものであればよい。
【0024】
また、本実施形態では、移動装置26を設置しない構成であってもよい。例えば、隔壁14を脱着可能なように筐体部10に設置して、隔壁14を装着することにより、試料保持台12の側面を隔壁14により覆い、隔壁14を取り外すことにより、試料保持台12の側面を露出させる等でもよい。また、隔壁14を蛇腹状の伸縮部材として、その伸縮動作により、試料保持台12の側面を覆ったり露出させたりする等でもよい。
【0025】
筐体部10において試料保持台12の上方側に設けられる円筒状部分28は、試料保持台12上の基板18に対し原料流体32やクリーニング流体34を供給する流体供給流路部である(以下、流体供給流路部28とする)。
【0026】
筐体部10において隔壁14の外周に設けられる流路部は、流出流路部30である。流出流路部30は、流体供給流路部28から基板18に向かって供給される原料流体32又はクリーニング流体34が基板18の表面に沿って流れた後、隔壁14の外周側から流出させる機能を有する流路である。
【0027】
筐体部10の流体供給流路部28には供給部36が設置されている。供給部36は、基板18の表面処理時には基板18に表面処理を施すための原料流体32を、筐体部10内のクリーニング処理時には筐体部10内に堆積した堆積物を除去するためのクリーニング流体34を、所望の圧力及び流量で供給する機能を有するガス供給装置である。例えば、シリコン単結晶を結晶させる際の反応ガスとしては、SiHCl3+H2の混合ガス等が用いられ、筐体部10内をクリーニング処理する際のクリーニングガスとしては、HCl+H2の混合ガス等が用いられる。
【0028】
筐体部10の流出流路部30の下流側(排出口)には、不図示の排出部を設置することが望ましい。排出部は、流出流路部30を通る流体を適当な排出無害化処理を施して外部に排出する機能を有する排出処理装置である。排出部には、流体を外部に導きやすくするための排出ポンプ等を備えることが望ましい。また、排出無害化処理としては、例えば、希釈処理や流出流路部30を通る流体中に含まれる有害成分を沈殿反応等によって取り除く除去処理等が挙げられる。
【0029】
次に、図1に示す表面処理装置1の動作について説明する。
【0030】
図2は、本実施形態に係る表面処理装置の動作を説明するフローチャートである。まず、基板18に表面処理を施す表面処理工程を実施する場合には、ステップS10において、移動装置26により、回転部24の側面が隔壁14で覆われる位置まで隔壁14を移動させる(隔壁14を上昇させる)。ステップS12では、回転部24により試料保持台12を回転させ、加熱部22により試料保持台12を加熱させると共に、供給部36から原料流体32を供給する。原料流体32は、流体供給流路部28を通って基板18と接触し、基板18の表面処理が行われる。表面処理工程を継続すると、筐体部10の内壁等でも表面処理が行われ、内壁に副生成物が堆積するため、表面処理工程を終了して、必要があれば基板18を表面処理装置1から取り出し、クリーニング処理工程に移行する。この場合には、ステップS14において、回転部24の回転及び原料流体32の供給を停止し、必要があれば基板18を表面処理装置1から取り出す。ステップS16では、移動装置26により隔壁14を回転部24の側面が露出する位置まで移動させる(隔壁14を下降させる)。ステップS18では、回転部24により試料保持台12を回転させ、供給部36からクリーニング流体34を供給する。クリーニング流体34は、流体供給流路部28を通り、基板18の表面に沿って流れ、流出流路部30から排出される。クリーニング流体34が流出流路部30から排出される際には、後述するテイラークエット流が形成される。このようクリーニング流体を筐体部10内に供給排出することにより、筐体部10の内壁等に堆積した堆積物が除去される。クリーニング処理工程を終了し、表面処理工程に移行する場合には、ステップS20において、回転部24の回転及びクリーニング流体34の供給を停止した後、ステップS10に戻る。
【0031】
次に、本実施形態の表面処理装置1における表面処理工程、クリーニング処理工程時の流体及び熱の移動について説明する。図3は、本実施形態の表面処理装置における表面処理工程を説明するための図であり、図4は、本実施形態の表面処理装置におけるクリーニング処理工程を説明するための図である。
【0032】
表面処理工程時には、前述したように、供給部36から供給された原料流体32(ガス又は液体)が、流体供給流路部28を通り、流体供給流路部28から基板18に供給される。ここで、回転部24により試料保持台12が回転しているため、基板18の表面の近くでは境界層が形成される。そして、原料流体32との反応は基板18表面もしくは境界層内で行われ、基板18が表面処理される。また、原料流体32は基板18の表面に沿って流れ、流出流路部30へ排出され、排出部に送られる。
【0033】
ここで、表面処理工程の際には、反応効率の向上の点で、加熱部22により試料保持台12が加熱されているが、本実施形態では、図3に示すように、移動装置26により隔壁14は上方に押し上げられ、試料保持台12の側面を覆う位置に移動しているため、加熱された試料保持台12から筐体部10の内壁への熱の移動は抑制される。
【0034】
また、流出流路部30を流れる原料流体32は、試料保持台12の側面を覆う位置に隔壁14が存在することにより、後述するような試料保持台12の回転に伴って生じるテイラークエット流と呼ばれる特徴的なガス流れとはならず、図3に示すように、おおよそ単純な下向流となっている。そのため、流出流路部30での原料流体32の拡散性は小さいものとなる。すなわち、本実施形態の表面処理装置1では、表面処理工程時では、加熱された試料保持台12から筐体部10への熱の移動、筐体部10内での原料流体32の拡散性(特に流出流路部30を流れる原料流体32の拡散性)が小さいため、筐体部10の内壁で表面処理が行われて副生成物が堆積することが抑制される。
【0035】
クリーニング処理工程時には、前述したように、供給部36から供給されたクリーニング流体34(ガス又は液体)が、流体供給流路部28を通り、流体供給流路部36から基板18に供給され、基板18の表面に沿って流れ、流出流路部30に送られる。
【0036】
本実施形態では、図4に示すように、移動装置26により、隔壁14は試料保持台12の側面が露出する位置に移動しているため、加熱された試料保持台12から筐体部10の内壁へ熱は移動し易い。ここで、筐体部10の熱伝達量を増加させるために、クリーニング処理工程の際に、加熱部22により試料保持台12を加熱させることが望ましい。但し、表面処理工程で試料保持台12が十分に加熱されている状態であれば、クリーニング処理工程時では、試料保持台12の加熱を停止してもよい。
【0037】
また、回転部24により試料保持台12を回転させ、試料保持台12の側面が露出する位置に隔壁14を移動させて、回転する試料保持台12とクリーニング流体34とが接触する場合、流出流路部30を流れるクリーニング流体34は、単純な下向流だけではなく、図4に示すようにテイラークエット流が形成される。このテイラークエット流により、筐体部10への熱伝達量及び流出流路部30でのクリーニング流体の拡散性がさらに増加し、後述するようにクリーニング速度を向上させ、筐体部10の内壁に堆積した堆積物を効率的に除去することができる。
【0038】
まず、テイラークエット流について説明する。図5は、テイラークエット流の模式図である。図5の模式図(Paritam K. Dutta and Ajay K. Ray, Chemical Engineering Science, vol59, pp.5249-5259(2004)より抜粋)に示されるように、テイラークエット流とは中心軸Zを供給する二つの同軸円筒において、内側の円筒Aのみが角速度ωで回転した状態(或いは、内側の円筒が外側の円筒よりも速く回転している状態)で円筒間に流体を流した場合に、円筒間に形成されるセル状の渦列TQを有する流れである。なお、テイラークエット流なる用語を用いる場合、層流状態の流れを指す場合が多いが、元来、層流や乱流に限られず、層流及び乱流状態双方の流れも含まれるものである。したがって、本明細書で用いるテイラークエット流なる用語も層流及び乱流状態双方の流れを含む概念である。
【0039】
そして、図4に示す表面処理装置1では、隔壁14を下方に移動させ、円筒状の試料保持台12を回転させて、回転する円筒状の試料保持台12とクリーニングガスとが接している状態が形成されているため、流出流路部30においてテイラークエット流が形成される。この流出流路部30に形成されるテイラークエット流は、試料保持台12と筐体部10の内壁との間を循環するため、加熱された試料保持台12の熱を筐体部10の内壁へと輸送され易くなり、円筒状の試料保持台12を静止させて隔壁14を下方に移動させた状態より、筐体部10の内壁を効果的に加熱することができる。Kataoka, K. Journal of Chemical Engineering of Japan, vol.8, No.4, pp.271-276(1975)の非特許文献には、回転部24の回転数、回転部24の径の増加に伴って増加する量(レイノルズ数Re)と熱伝達量(ヌッセルト数Nu)との分布が求められている。そして、その分布には、回転部24を回転させテイラークエット流を形成させることにより熱伝達量が増加することが示されている。また、その分布には、回転部24の回転数を上昇させればさせるほど、熱伝達量が増加する傾向が示されている。なお、本実施形態では、クリーニング処理工程において、試料保持台12の回転を停止させてもよい。これにより、テイラークエット流は形成されないが、隔壁14が下降し試料保持台12の側面が露出していれば、表面処理時等で加熱された試料保持台12の熱を筐体部10の内壁へ伝達し易い状態となっているため、隔壁14により試料保持台12の側面が覆われている場合より、筐体部10の内壁は加熱されるためである。
【0040】
このように、筐体部10の内壁を効率的に加熱することにより、クリーニング速度が向上し、筐体部10の内壁に堆積した堆積物を効率的に除去することが可能となる。図6は、被処理物表面温度とクリーニング速度との関係をシミュレーションにより求めた図である。図6から判るように、被処理物表面温度が上昇すると、クリーニング速度が向上する結果が得られている。また、Habuka, H. et al., Thin Solid Films, vol.489, pp.104-110(2005)の非特許文献には、被処理物表面温度とクリーニング速度との関係が実験により求められており、被処理物表面温度が上昇すると、クリーニング速度が向上する結果が得られている。すなわち、本実施形態の表面処理装置1のように、流出流路部30にテイラークエット流を形成する等して、熱伝達量を増加させ、内壁の温度を上げることにより、クリーニングガスと内壁に堆積した堆積物との反応が促進されクリーニング速度を向上させることができる。
【0041】
また、Kataoka, K. Journal of Chemical Engineering of Japan, vol.8, No.4, pp.271-276(1975)の非特許文献には、物質の拡散性能を示す量(シャーウッド数Sh)と回転部24の回転数、回転部24の径の増加に伴って増加する量(レイノルズ数Re)との分布が求められている。そして、その分布には、回転部24を回転させテイラークエット流を形成させることにより物質の拡散性が増加することが示されている。すなわち、流出流路部30に形成されたテイラークエット流により、流出流路部30を通るクリーニング流体34の拡散性は向上する。その結果、クリーニング流体34は筐体部10の内壁とより多くの接触機会を確保することができ、筐体部10の内壁に堆積した堆積物を効率的に除去することが可能となる。
【0042】
また、クリーニング流体34と筐体部10の内壁に堆積した堆積物との反応により、一般的には、クリーニング処理の反応を阻害させる作用を有する副生成ガスが、筐体部10の内壁から発生する。しかし、前述したように、流出流路部30を通るクリーニング流体34は、テイラークエット流により、流体の拡散性が高いため、筐体部10の内壁から発生した副生成ガスを流出流路部30から効率よく排出することができる。その結果、クリーニング処理の反応が阻害されることなく、筐体部10の内壁に堆積した堆積物を効率的に除去することが可能となる。
【0043】
テイラークエット流の形成、熱伝達量の増加や流体の拡散性の向上等の点で、流出流路部30の流路幅(図4のd)に対する隔壁14の移動により露出された円筒状の試料保持台12の円筒高さ(図4のh)の比(h/d)は0.026以上に設定することが好ましい。h/dが0.026未満であると、テイラークエット流の形成が困難となる場合や、試料保持台12から筐体部10の内壁への熱伝達量が低下する場合や、流体流路部でのクリーニング流体34の拡散性が低下する場合等がある。上記数値は、Abrahasou, S. D., Eaton, J. K., and Koga, D. J., Physics of Fluids A, vol.1, pp.241-251(1989)の非特許文献により、実験で観察されている中で最小の値である。
【0044】
円筒状の試料保持台12の回転数が高ければ高いほど、乱流状態のテイラークエット流が形成され、試料保持台12から筐体部10の内壁への熱伝達量が増加し、流体流路部でのクリーニング流体34の拡散性が向上する。円筒状の試料保持台12の回転数は、例えば、基板18がある場合は、その安定保持が確保でき、また、流体が供給流路部28より上方側(供給部36側)へ戻らない状況を確保できる範囲で、可能な限り増加させることが好ましい。
【符号の説明】
【0045】
1 表面処理装置、10 筐体部、12 試料保持台、14 隔壁、18 基板、20ヒータ、22 加熱部、24 回転部、26 移動装置、28 円筒状部分(流体供給流路部)、30 流出流路部、32 原料流体、34 クリーニング流体、36 供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の周囲壁を形成する筐体部と、
前記筐体部の内部に設けられ、表面処理を行う対象物である基板を保持する円筒状の試料保持台と、
前記筐体部において前記試料保持台の上方側に設けられ、前記試料保持台の前記基板に対し流体を供給する流体供給流路部と、
前記試料保持台の側方周囲に設けられる隔壁と、
前記筐体部において前記隔壁の外周側に設けられ、前記試料保持台の上方から前記基板に向かって供給される流体を前記隔壁の外周側から流出させる流出流路部と、を備え、
前記隔壁は、前記流体として前記基板の表面処理に利用される原料流体が前記基板に対して供給される際には前記試料保持台の側面を覆う位置に移動し、前記流体として前記筐体部内のクリーニング処理に利用されるクリーニング流体が前記基板に対して供給される際には前記試料保持台の側面が露出する位置に移動することを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記試料保持台を回転駆動する回転機構を備え、
前記クリーニング流体が前記基板に対して供給される際に、前記回転機構により前記試料保持台を回転駆動させることを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記試料保持台を加熱する加熱機構を備え、
前記クリーニング流体が前記基板に対して供給される際に、前記加熱機構により前記試料保持台を加熱することを特徴とする請求項1又は2記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記流出流路部の流路幅(d)に対する前記試料保持台の円筒高さ(h)の比(h/d)は0.026以上であることを特徴とする請求項2記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−204685(P2012−204685A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68903(P2011−68903)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】