説明

表面洗浄装置

【課題】比較的簡単な構成でチャージアップ現象の発生を防止するプラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】高周波信号が供給される第1電極(11)と、プラズマを発生させるための第2電極(12)と、第2電極の周囲にプラズマガスを供給するガス供給装置(13、10)と、を備え、第2電極(12)は、所定の周波数成分を通過させ直流成分を遮断するフィルタ回路(15)を介して接地されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャージアップによるダメージを防止するプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生産現場においてプラズマ発生装置が用いられている。例えば、半導体回路の製造分野では、プラズマ発生装置によって発生させたプラズマをボンディング対象となる半導体回路の表面に作用させて、エッチング処理やアッシング処理をしている。
【0003】
ここでプラズマによってチャージアップ現象が生じていると、半導体装置にダメージを与えることが知られている。チャージアップ現象とは、プラズマガスが励起されて生じた電子およびイオンの分布が不均一な場合に、半導体装置表面に電荷が蓄積され半導体内部に電流が流れることによりトランジスタ等にダメージを与える現象である。
【0004】
プラズマ発生装置においても、半導体装置にチャージアップ現象が生じないような工夫がされている。例えば、特開平6−84844号公報には、円筒状の外部電極と内部電極とを有し、内部電極に直流電圧を印加する直流電源が接続されたプラズマ処理装置が開示されている(特許文献1)。内部電極と直流電源との間には交流成分を遮断するチョークコイルが接続されており、また、チョークコイルの両端は交流成分を逃がすコンデンサを介して接地されている(図1、段落0011)。このプラズマ処理装置では、プラズマ処理中に内部電極に負電圧を印加することにより、プラズマ中で励起された電子が内部電極内に入り込むことを防ぎ、プラズマにチャージアップ現象が生じることを回避していた。
【0005】
また、特開平10−150025号公報には、高い周波数のRF電力と低い周波数のRF電力とを交代に印加するプラズマ反応装置が開示されている(特許文献2)。一般にRF電力の周波数が高いとエッチングレートが高い反面、チャージアップ現象を生じやすく、RF電力の周波数が低いとその反対となる。そこで、このプラズマ反応装置では、高い周波数のRF電力を使用して高いエッチングレートで半導体装置をエッチングする一方で、低い周波数のRF電力に切り換えている間にチャージアップ現象を抑制するように機能させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−84844号公報
【特許文献2】特開平10−150025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたプラズマ処理装置では、内部電極に直流電圧を印加する直流電源や直流電源に交流成分が流れることを防止するチョークコイルが必要であった。また内部電極に負電圧を印加する工程も必要であった。
【0008】
特許文献2に記載されたプラズマ反応装置では、2つの異なる周波数でRF電力を発生させる回路が必要であった。また、高い周波数のRF電力を利用している間はチャージアップ現象の発生を許容しているため、チャージアップによる半導体装置へのダメージはある程度覚悟しなければならなかった。
【0009】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明は、比較的簡単な構成でチャージアップ現象の発生を防止するプラズマ発生装置を提供することを目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のプラズマ発生装置は、高周波信号が供給される第1電極と、プラズマを発生させるための第2電極と、前記第2電極の周囲にプラズマガスを供給するガス供給装置と、を備え、前記第2電極は、所定の周波数成分を通過させ直流成分を遮断するフィルタ回路を介して接地されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、第1電極と第2電極との間に印加される高周波信号でプラズマガスが励起されプラズマが発生した場合に、第2電極は、高周波成分に対して低ピーダンスであるため高周波成分の信号に対しては接地されるが、直流成分については遮断されるため、励起した電子が第2電極に流れることを阻止する。そのため、励起されたプラズマのイオンと電子との分布が不均一となることが防止され、マクロ的に電気的に中性なプラズマが供給されるので、処理対象の半導体装置においてチャージアップ現象を生じることが防止される。
【0012】
ここで上記フィルタ回路は、コンデンサにより構成されていてもよい。また上記コンデンサは、所定の絶縁抵抗との間でハイパスフィルタを形成し、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、前記高周波信号が含む周波数成分より低いように設定することが好ましい。
【0013】
本発明のプラズマ発生装置は、さらにプラズマガスが流通するセラミックチューブを備え、前記第1電極は、前記セラミックチューブの外周に配置されて前記第2電極の一部と対向しており、前記第2電極は、前記セラミックチューブの内部に設けられている構成を採ることができる。
【0014】
また本発明のプラズマ発生装置は、前記セラミックチューブを複数本備えており、前記第2電極は、各前記セラミックチューブの内部にそれぞれ設けられており、各前記セラミックチューブに延在する前記第2電極は、互いに電気的に接続され、前記フィルタを介して接地されている構成を採ることも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発生したプラズマにおいて励起した電子が第2電極に流れることを阻止され、イオンと電子との分布が不均一となることが防止され、電気的に中性なプラズマが供給されるので、処理対象の半導体装置においてチャージアップ現象を生じることを効果的に防止することが可能である。
本発明は、上記プラズマ発生装置を備えた表面洗浄装置でもある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1のプラズマ発生装置の構成図。
【図2】フィルタ回路にコンデンサを適用した場合の等価回路図。
【図3】図2に示す等価回路においてコンデンサの種々のキャパシタンスに応じた周波数特性。
【図4】比較例のプラズマ発生装置によって発生させたプラズマを照射した被照射物表面の電位波形(f1)と実施例のプラズマ発生装置によって発生させたプラズマの電位波形(f2)の各波形図。
【図5】X線光電子分光法(ESCA)により実施例のプラズマ発生装置を備える表面洗浄装置における洗浄性能を測定した図(洗浄部および未洗浄部それぞれの炭素原子のカウント数の比較)。
【図6】X線光電子分光法(ESCA)により実施例のプラズマ発生装置を備える表面洗浄装置における洗浄性能を測定した図(洗浄部および未洗浄部それぞれの酸素原子、炭素原子、および金原子の構成比比較)。
【図7】実施形態2のプラズマ発生装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本願発明の技術的範囲を当該実施の形態に限定して解するべきではない。
【0018】
(実施形態1)
本発明の実施形態1は、プラズマガスが流通するセラミックチューブを一つ備えたプラズマ発生装置に関する。
【0019】
図1に、本実施形態におけるプラズマ発生装置の構成図を示す。プラズマ発生装置1は、例えば、洗浄対象である半導体装置の洗浄面に対向して配置され、プラズマを発生させて半導体装置の洗浄面を洗浄するために用いられる。
【0020】
図1に示すように、本実施形態1におけるプラズマ発生装置1は、ガスチャンバ10、負荷電極11、接地電極12、セラミックチューブ13、接地配線14、およびフィルタ回路15を備えて構成される。
【0021】
(ガスチャンバ10)
ガスチャンバ10は、セラミックチューブ13にプラズマガスを供給するためのガス充填室である。ガスチャンバ10は、隔壁16によりガス室18と前室19とに分離されている。ガスチャンバ10は、全体が金属で構成されており、導電性を有する。ガス室18には、ガス供給口17からプラズマガスが供給されるようになっている。プラズマガスとしては、H2、O2、N2、またはこれらと不活性ガスとの混合ガスを用いることが可能である。特に不活性ガスを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、キセノン(Xe)、ネオン(Ne)が利用可能であり、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)が最もよく利用される。なおプラズマガスは、図示しないガスボンベ、コンプレッサ、圧力計、流量計、配管等を備える任意のガス供給系統を通じてプラズマガス供給口17に所定の気圧、例えば大気圧から3気圧程度までに加圧されて供給されるようになっている。なお、プラズマ発生装置は、大気圧雰囲気下でプラズマを供給する大気圧プラズマ発生装置として構成されていても、真空(減圧)雰囲気下でプラズマを供給する真空(減圧)プラズマ発生装置として構成されていても、いずれでもよい。
【0022】
(負荷電極11)
負荷電極11は、本発明の第1電極に相当し、高周波信号発生装置20から高周波信号HSが印加されるようになっている。負荷電極11は接地電極12の対となる電極である。負荷電極11は、セラミックチューブ13の外側から接地電極12の一部を囲むように形成されており、本実施形態では、断面管形状(円環状)を有している。負荷電極11は、耐酸化性のある金属、例えばステンレスまたはメッキ等により耐酸化性を付与された金属で形成されている。負荷電極11と接地電極12との距離は、印加する高周波信号の電力と発生させたいプラズマ密度との関係に基づき設定されている。負荷電極11は、断面円環状に形成する他、セラミックチューブ13に巻回等したコイル状に形成されていてもよい。
【0023】
(接地電極12)
接地電極12は、本発明の第2電極に相当し、プラズマを発生させるために接地される電極である。接地電極12は、負荷電極11の対になる電極である。接地電極12は、セラミックチューブ13の内部に設けられている。接地電極12の先端部は、負荷電極11の覆う範囲に位置していても、負荷電極11の覆う範囲を超えてセラミックチューブ13の先端付近まで延在していてもよい。接地電極12は、周囲の発生するプラズマの高温に耐えられるような高融点を有する金属、例えばプラチナやタングステン等のワイヤにより構成されている。接地電極12は、ガスチャンバ10を経て外部で電気的に接地されている。
【0024】
(セラミックチューブ13)
セラミックチューブ13は、プラズマで発生する高温や高反応性に耐性のある絶縁体材料であるセラミックで構成された構造物であり、プラズマ発生に適した所定の径に成形されている。セラミックチューブ13の材料としては、セラミックスの他、石英ガラス等も利用可能である。セラミックチューブ13には、内部に接地電極12が設けられている。セラミックチューブ13はガスチャンバ10のガス室18に連通しており、ガス室18内部の加圧されたプラズマガスが接地電極11の周囲を高速に流通するように構成されている。セラミックチューブ13の開口(図1における左側端面)に対向させてプラズマ照射すべき面(半導体装置の被洗浄面等)が配置される。
【0025】
(接地配線14)
接地配線14は、導電部材であるガスチャンバ10の外壁に接続されてガスチャンバ10および接地電極12を電気的に接地電位に接地する配線である。
【0026】
(高周波信号発生装置20)
高周波信号発生装置20は、例えば、高周波電源、進行波・反射波検出装置、高電圧発生装置、重畳コイル等を備えて構成され、プラズマを点火するための高電圧HVおよびプラズマを発生・維持させるための高周波信号HSを生成する装置である。高電圧HVは、負荷となるプラズマガスにプラズマを励起するのに十分な放電を与えるような電圧値、例えば0.8kVから2kV程度で供給される。高電圧HVの周波数は例えば1kHzで1kVである。高周波信号HSは、プラズマ発生装置の仕様によって異なるが、プラズマの発生・維持に適した周波数として、例えば10KHz程度から1GHz程度、プラズマの発生・維持に適した電力として、例えば0.1W程度〜100W程度で供給される。
【0027】
(整合装置21)
整合装置21は、高周波信号発生装置20と負荷電極11と間の伝送経路上に設けられており、高周波信号発生装置20側と負荷電極11側とのインピーダンスを整合させるよう機能する。整合装置21は、コイルおよび可変コンデンサ等で構成されたフィルタ回路構造を有しており、プラズマが安定的に生成された状態での負荷インピーダンスが高周波信号発生装置20の出力側から見て、特性インピーダンスZ0(例えば50Ω)になるように設計されている。
【0028】
(同軸ケーブル22)
同軸ケーブル22は、高周波信号HSを高周波信号発生装置20から負荷電極11に供給する特性インピーダンスZ0の伝送経路である。同軸ケーブル22は、整合装置21および前室19のそれぞれにコネクタで接続されており、同軸ケーブル22の被覆は、整合装置21または前室19の少なくとも一方で接地されている。
【0029】
(リアクタンス補正コイル23)
リアクタンス補正コイル23は、整合装置21と負荷電極11との間に接続されたインダクタ素子である。リアクタンス補正コイル23は、負荷電極11と接地電位との間に存在する容量成分によって生ずるリアクタンス(インピーダンス)の影響を抑制し、電圧定在波比VSWRを改善するように機能する。
【0030】
(フィルタ回路15)
フィルタ回路15は、本発明に係り、接地電極12と接地電位であるガスチャンバ10のガス室18の内壁との間に介挿される。フィルタ回路15は、所定の周波数成分を通過させ直流成分を遮断する濾過器として機能する。本実施形態では、特にフィルタ回路15をコンデンサCにより構成する。
【0031】
フィルタ回路15は少なくとも高周波信号HSの周波数成分を通過させることが必要である。「通過させる」とは、相対的に低い周波数成分に対するリアクタンスより十分に低いリアクタンスを有することを意味する。高周波信号HSの周波数成分とは、プラズマに用いる高周波および点火に用いる高電圧の周波数の双方を含む。本実施形態では高電圧HVと高周波信号HSとを比べると高電圧HVの方が低い周波数(例えば1kHz)であるため、この高電圧HVの周波数に対して十分低いリアクタンスとなるようにフィルタ回路15を構成する。
【0032】
またフィルタ回路15は印加される電圧に対する耐圧が必要である。高電圧HVを1kVとすると、フィルタ回路15は少なくともこの電圧値(1kV)の耐圧が必要である。
【0033】
(フィルタ回路の詳細)
図2に本実施形態1におけるフィルタ回路15等価回路を示す。図2に示すように本実施形態ではフィルタ回路としては直列接続されたコンデンサを適用する。フィルタ回路15を構成するコンデンサはコンデンサが接続されるガスチャンバ10の絶縁抵抗との組み合わせでハイパスフィルタ回路を構成する。
【0034】
上記ハイパスフィルタ回路の周波数特性は、絶縁抵抗をR、フィルタ回路15のキャパシタンスをC、入力電圧をV1、絶縁抵抗Rの両端の出力電圧をV2とすると、式(1)のとおりとなる。
【数1】

【0035】
式(1)の周波数特性において、カットオフ周波数f0は、式(2)となる。
【0036】
0=ω0/2π=1/2πRC …(2)
ハイパスフィルタ回路のカットオフ周波数が少なくとも通過させたい周波数(例えば高電圧HVの1kHz)以上となるようにコンデンサ(フィルタ回路15)のキャパシタンスCを選択する。例えば、絶縁抵抗Rを仮に10MΩと仮定した場合、高電圧HVの周波数1kHzを十分に低いリアクタンスで通過させるためにはコンデンサCのキャパシタンスは100pF以上あればよく、例えば470pFに設定することができる。耐圧1kVでキャパシタンス470pFのアナログのコンデンサを使用することができる。
【0037】
図3に、絶縁抵抗Rを10MΩと仮定し、図2に示す等価回路においてコンデンサのキャパシタンスを種々に変更させた場合の周波数特性を示す。−3[dB]の減衰率との交差点が各周波数特性におけるカットオフ周波数である。図3に示すように、コンデンサの容量が少ないほどカットオフ周波数が高くなっていくことが判る。負荷電極11に供給される高電圧HVまたは高周波信号HSのうち最も低い周波数を有する信号に対してほとんど減衰させないような周波数特性となるようにコンデンサのキャパシタンスを選択する。
【0038】
(動作の説明)
次に本実施形態1におけるプラズマ発生装置1の動作を説明する。
プラズマを点火するための準備状態(以下「プラズマ待機状態」という。)となると、図示しない制御装置の制御により、または、管理者の操作により、プラズマガスがプラズマガス供給口17からガスチャンバ10に供給される。プラズマガスが供給されると、ガスチャンバ10のガス室18に充填されたプラズマガスが所定の圧力でセラミックチューブ13の内部を流れるようになる。プラズマガスの流れが安定したら、高周波信号発生装置20に対し、プラズマ点火指示が出力される。
【0039】
高周波信号発生装置20は、システムのステータスがプラズマ待機状態か否かを判定する。プラズマ待機状態ではない場合には、プラズマ点火の準備が整っていないことを意味するので、高周波信号発生装置20はその旨を警告する。プラズマ待機状態であったら、高周波信号発生装置20は、周波数450MHzで出力30Wの高周波信号HSを伝送経路に出力する。高周波信号HSが供給されると、負荷電極11と接地電極12との間に高周波電磁波が誘起される。
【0040】
高周波信号HSが供給されると、整合装置21によって高周波信号発生装置20の出力側のインピーダンスと負荷電極11側のインピーダンスとが等しくなるようにマッチング制御を行う。高周波信号発生装置20は、伝送経路における高周波信号HSの進行波振幅値Vfおよび負荷電極11から反射される反射波振幅値Vrを検出してVSWR値を算出する。負荷電極11側の負荷インピーダンスは、整合装置21の機能により、適正なプラズマが発生している状態では、高周波信号発生装置20の特性インピーダンスと同じ値になるようになっている。プラズマ発生前のこの段階では負荷電極11側の負荷インピーダンスは特性インピーダンスZ0と大幅に異なっている。このため検出される反射波振幅値Vrは大きな値となり、VSWR値も相対的に大きな値となる。
【0041】
次いで高周波信号発生装置20は、算出されたVSWR値がプラズマの発生を識別するためのしきい値Vthより大きいと判定された場合には高電圧HVの供給を開始する。生成された高電圧HVは、高周波信号HSに重畳されて伝送経路に出力される。高周波信号HSに高電圧HVが重畳されると、負荷電極11と接地電極12との間にも高電圧HVが印加され、セラミックスチューブ13内に放電が発生する。放電が発生すると、接地電極12で発生する電子が種火となってプラズマが発生する。プラズマが発生すると、負荷電極12に印加されている高周波信号HSによりプラズマが維持される。安定的にプラズマが発生すると、セラミックスチューブ13の先端からプラズマジェットが噴出し、必要な半導体装置等の表面に供給することが可能となる。プラズマが発生すると、負荷電極11側の負荷インピーダンスは特性インピーダンスZ0に向けて収束していく。
【0042】
VSWR値がしきい値Vth以下となった場合には、高周波信号発生装置20は、高電圧HVの重畳を停止する。伝送経路には、高周波信号HSのみが供給されるようになる。この段階では、プラズマが安定的に発生しているので、高電圧HVの重畳が存在しなくなってもプラズマが消失することはなくなっている。
【0043】
以上のような動作により、プラズマを安定的に発生させ維持させて、半導体装置の表面に提供することが可能である。
【0044】
ここで、本実施形態によれば、接地電極12がフィルタ回路15を介して接地電位に接続されているところに特徴を有する。
【0045】
一般に、プラズマガス中で励起された電子は移動度が高いためインピーダンスが低い電極に流れ込みやすい。もしも励起された電子が接地電極経由で接地電位に流れると、接地電極の周囲において励起された電子が存在しなくなり、陽イオンが相対的に多くなり、正に帯電したプラズマが半導体装置の表面に射出されてしまう。正に帯電したプラズマは、チャージアップ現象を発生させる原因となる。
【0046】
この点、本実施形態に係るフィルタ回路15では、上記プラズマを発生させるための高電圧HVおよびプラズマを維持させるための高周波信号HSにおける周波数成分については十分低いインピーダンスで通過させる。このためこれらの周波数成分については電気的に接地された状態と等価になっており、負荷電極11と接地電極12との間に十分な電位差を提供するためプラズマを発生させるに足りる振幅の大きな高周波電磁波を生じさせることが可能である。
【0047】
一方、直流成分については遮断するように機能する。このため、励起された電子にとって接地電極12は高いインピーダンスとなっており、電子が接地電極12に流れ込むことが抑制される。このため接地電極12の周囲のプラズマから電子が消失することがなく、プラズマ内における電荷の分布を均一のまま電気的に中性な状態に維持される。よって、セラミックチューブ13から射出されるプラズマは、単位体積当たりに陽イオンと電子とが等しい電荷量で分布した電気的な中性なものとなり、チャージアップ現象の発生を抑制可能となる。
【0048】
特に本実施形態に係るプラズマ発生装置1によれば、プラズマのチャージアップを防止するために接地電源に負電圧を印加するための構成を設けたり、高い周波数のRF電力と低い周波数のRF電力とを交代に印加するプラズマ発生回路を設けたりする必要がない。このため、おそらくは最も簡単な構成で効果的にプラズマのチャージアップ現象の発生を防止可能とした点でコスト削減に有効であり、極めて貢献度が高い。
【実施例1】
【0049】
実施例として、上記実施形態1に沿ってプラズマ発生装置を備える表面洗浄装置を製作し、当該プラズマ発生装置によりプラズマを発生させ、半導体装置の表面に照射する実験を行った。比較例として、フィルタ回路15を設けず接地電極12を接地電位に直接接続したものと比較した。
【0050】
図4に実施例および比較例のプラズマ発生装置から射出されるプラズマを照射した被照射物表面の電位変化を示す。図4の波形f1に示すように、比較例のプラズマ発生装置では、プラズマが全体として正の所定電位V(約7V)に帯電しており、陽イオンが過大に存在していることが判る。これに対し、図4の波形f2に示すように、実施例のプラズマ発生装置では、プラズマの電位が全体としてほぼゼロであり、電気的に中性になっており、陽イオンと電子との存在比が等しいことが確認できた。
【0051】
図5は、実施例のプラズマ発生装置を備える表面洗浄装置における洗浄性能を測定した図であり、洗浄部および未洗浄部それぞれの炭素原子のカウント数を比較した図である。図6は、実施例のプラズマ発生装置を備える表面洗浄装置における洗浄性能を測定した図であり、洗浄部および未洗浄部それぞれの酸素原子、炭素原子、および金原子の構成比を比較した図である。図5および図6とも、X線光電子分光法(ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)により測定した。X線光電子分光法は、真空中で固体表面にX線を照射し、X線のエネルギーによって励起され飛び出した固体表面の電子(光電子)のエネルギー分布を測定することにより、固体表面の組成を調べる測定方法である。光電子の量は光電子のカウント数で把握される。元素(原子)は固有の結合エネルギーを有し、元素が存在するとその固有の結合エネルギーにおいてその元素から飛び出した光電子がカウントできる。カウント数の大きさはその元素の存在量の大きさに比例している。
【0052】
半導体装置の表面の洗浄性能は炭素原子の存在量で把握することが可能である。炭素原子は例えばレジスト等の残渣に含まれるものであり、洗浄されていないと炭素原子が多く、洗浄がされていれば炭素原子が少なくなる。
【0053】
図5において、半導体装置の表面に炭素原子が存在すると結合エネルギーが285[eV]付近にカウント値のピークが示されるはずである。図5に示すように、実施例のプラズマ発生装置により発生させたプラズマで洗浄した半導体装置において、未洗浄部ではカウント値のピークが存在するのに対し、洗浄部ではカウント値のピークが観測されていない。よってプラズマ発生装置から供給したプラズマにより炭素原子を含む残渣がほぼ完全に洗浄されたことが確認された。
【0054】
図6において、半導体装置の表面に炭素原子が存在すると、酸素原子や金原子に比べて一定量の炭素原子が測定されるはずである。図6に示すように、実施例のプラズマ発生装置により発生させたプラズマで洗浄した半導体装置において、未洗浄部では一定量の炭素原子が存在しているのに対し、洗浄部では炭素原子の量が大幅に減少している。よってプラズマ発生装置から供給したプラズマにより炭素原子を含む残渣がほぼ完全に洗浄されたことが確認された。
【0055】
(実施形態2)
上記実施形態1では、一つのセラミックチューブ13を備えるプラズマ発生装置であったが、本実施形態2は、複数のセラミックチューブによりプラズマを発生させるプラズマ発生装置に関する。
【0056】
図7に、本実施形態2に係るプラズマ発生装置1bの構成図を示す。上記実施形態1(図1)と同じ構成要素については、同じ機能を有し、同じ符号を付す。
【0057】
図7に示すように、本実施形態2に係るプラズマ発生装置1bは、ガスチャンバ10b、負荷電極11b、接地電極12b、セラミックチューブ13b、接地配線14、およびフィルタ回路15を備えて構成される。特に本実施形態では、セラミックチューブ13bが複数本設けられている点に特徴がある。
【0058】
ガスチャンバ10bは、実施形態1に係るガスチャンバ10と同様に、隔壁16bによりガス室18および前室19とに分離されているが、隔壁16bには、複数のセラミックスチューブ13bが配置されている。隔壁16bは、セラミックチューブ13bを貫通保持させるための保持穴が設けられた板状体となっている。各保持穴は、セラミックチューブ13bを保持可能なように、セラミックチューブの外径と同じ程度に形成されている。セラミックチューブ13bは、各々の開口が半導体装置等の洗浄面Sに対向するように保持されている。負荷電極11bは、真鍮等の導電体で構成されており、複数のセラミックチューブ13bを挿通する挿通孔が設けられた板状体となっている。各挿通孔は、セラミックチューブ13bの外径より僅かに大きくなるように形成されている。負荷電極11bは、上記実施形態1と同様に、リアクタンス補正コイル23を介して同軸ケーブル22に電気的に接続され、高周波信号発生装置20および整合装置21から出力された高周波信号HSが供給されるようになっている。ガスチャンバ10bの前室19は、セラミックチューブ13bの一部および負荷電極11bを取り囲むシールドカバーとして機能している。
【0059】
複数のセラミックチューブ13bの各々には、接地電極12bがそれぞれ各セラミックチューブ13bの内部に設けられている。各接地電極12bは結合されてから、フィルタ回路15を介してガスチャンバ10bの内壁に接続されている。ガスチャンバ10bは金属製であり、接地配線14により接地電位に接続されている。
【0060】
以上の構成を有する実施形態2に係るプラズマ発生装置1bにおいても、上記実施形態1と同様に動作する。特に本実施形態2において、フィルタ回路15は、上記実施形態1と同様に、所定の周波数成分を通過させ直流成分を遮断する濾過器として機能する。このため、本実施形態に係るフィルタ回路15においても、高周波信号発生装置20から供給された、プラズマを発生させるための高電圧HVおよびプラズマを維持させるための高周波信号HSにおける周波数成分については十分低いインピーダンスで通過させる。このためこれらの周波数成分については電気的に接地された状態と等価になっており、負荷電極11bと接地電極12bとの間に十分な電位差を提供するためプラズマを発生させるに足りる振幅の大きな高周波電磁波を生じさせる。
【0061】
一方、直流成分については各接地電極12bを電気的に遮断するように機能する。このため、プラズマガス中で励起された電子にとって接地電極12bは高いインピーダンスとなっており、電子が接地電極12bに流れ込むことが抑制される。このため接地電極12bの周囲のプラズマから電子が消失することがなく、プラズマ内における電荷の分布を均一のまま電気的に中性な状態に維持される。よって、セラミックチューブ13bから洗浄面Sに射出されるプラズマは、単位体積当たりに陽イオンと電子とが等しい電荷量で分布した電気的な中性なものとなり、洗浄面Sにおいてチャージアップ現象の発生を抑制可能となる。
【0062】
本実施形態2に係るプラズマ発生装置1bによれば、上記実施形態1に係るプラズマ発生装置1と同様の利点を有する。さらに本実施形態2に係るプラズマ発生装置1bによれば、複数のセラミックチューブ13bが洗浄面Sに向かって平行にプラズマジェットを射出可能に構成されている。よって、広範囲に亘ってプラズマジェットによる加工(洗浄)が行えるという利点を有する。
【0063】
(その他の変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、用途または目的に応じて、適宜組み合わせた実施例、または、変更若しくは改良を加えた応用例として適用することができ、上記発明の実施の形態を通じて説明された実施例に限定されるものではない。用途または目的に応じて適宜組み合わせられた実施例または応用例についても、本発明の課題を逸脱しない範囲において、本発明の技術的範囲に属する。
【0064】
例えば、上記実施形態1および2に係るプラズマ発生装置では、コンデンサを一つ配置したフィルタ回路を例示したがこれに限定されない。コンデンサに代えて、交流成分を通過させながら直流成分を遮断する電気回路を適用可能である。例えばパッシブフィルタとして、コンデンサの他、抵抗および/またはコイルで構成されたハイパスフィルタやバンドパスフィルタを適用してもよい。ハイパスフィルタやバンドパスフィルタを適用する場合、高電圧HVや高周波信号HSが有する周波数成分に対して相対的にインピーダンスが低く、かつ、直流成分に対して高いインピーダンスを備えるように構成する。また、印加される高電圧HV等に対して余裕のある耐圧を有する素子で構成することが好ましい。
【0065】
また上記実施形態ではセラミックチューブを有するプラズマ発生装置を例示したが、上記形態に限定されない。例えば、誘電体を介して対向させた平面電極間に高周波信号を供給してプラズマを発生させる構成を備えたプラズマ発生装置においても、プラズマを点火させる接地電極に本発明に係るフィルタ回路を設けることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のプラズマ発生装置は、半導体装置の表面を洗浄する表面洗浄装置に適用するのみならず、プラズマを用いるあらゆる用途に適用することが可能である。例えば、洗浄(アッシング)処理の他に、エッチング処理、CVD処理、スパッタ処理等に適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1、1b…プラズマ発生装置、10、10b…ガスチャンバ、11、11b…負荷電極、12、12b…接地電極、13、13b…セラミックチューブ、14…接地配線、15…フィルタ回路、16、16b…隔壁、17…ガス供給口、18…ガス室、19…前室、20…プラズマ発生装置、21…整合装置、22…同軸ケーブル、23…リアクタンス補正コイル、HS…高周波信号、HV…高電圧、S…洗浄面(被加工面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号が供給される第1電極と、
プラズマを発生させるための第2電極と、
前記第2電極の周囲にプラズマガスを供給するガス供給装置と、を備え、
前記第2電極は、所定の周波数成分を通過させ直流成分を遮断するフィルタ回路を介して接地されている、
プラズマ発生装置。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、コンデンサにより構成される、
請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記コンデンサは、所定の絶縁抵抗との間でハイパスフィルタを形成し、
前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、前記高周波信号が含む周波数成分より低い、
請求項2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記プラズマガスが流通するセラミックチューブを備え、
前記第1電極は、前記セラミックチューブの外周に配置されて前記第2電極の一部と対向しており、
前記第2電極は、前記セラミックチューブの内部に設けられている、
請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記セラミックチューブを複数本備えており、
前記第2電極は、各前記セラミックチューブの内部にそれぞれ設けられており、
各前記第2電極は、互いに電気的に接続され、前記フィルタを介して接地されている、
請求項4に記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプラズマ発生装置を備えた表面洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−54333(P2012−54333A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194430(P2010−194430)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000146722)株式会社新川 (128)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】