説明

被膜部材の製造方法

【課題】より高い特性を有する膜体を形成する。
【解決手段】被膜部材10の製造方法は、スパッタリングターゲット部材を用い、スパッタリング処理によって被処理部材11に膜体12を形成する形成工程、を含むものである。この形成工程では、1又は複数のスパッタリングターゲット部材を用い、Mg、Al、O及びNの元素を含む膜体12を被処理部材11の表面に形成する処理を行う。ここで、スパッタリングターゲット部材は、Mg、Al、O及びNの全てが含まれていれば、どのような形態でも構わず、スパッタリングターゲット部材を1種用いるものとしてもよいし、スパッタリングターゲット部材を複数種用いるものとしてもよい。被処理部材11に形成された膜体12には、Mg、Al、O及びNが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム(MgO)は、耐火物のほか、各種添加剤や電子部品用途、蛍光体原料、各種ターゲット材原料、超伝導薄膜下地用の原料、磁気トンネル接合素子(以下、MTJ素子)のトンネル障壁、カラープラズマディスプレイ(PDP)用の保護膜などとして利用され、きわめて広範囲な用途を持つ材料として注目されている。なかでもスパッタリングターゲット部材としては、トンネル磁気抵抗効果を利用したMTJ素子のトンネル障壁の作製などに使用される。このトンネル磁気抵抗効果は、厚さ数nmの非常に薄い絶縁体を2つの磁性層で挟んだMTJ素子において、2つの磁性層の磁化の相対的な向きが平行な時と反平行な時に起こる抵抗変化現象のことであり、この磁化状態による電気抵抗変化を利用してハードディスクの磁気ヘッドなどに応用されている。
【0003】
近年、上述したMTJ素子を利用して磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(以下、MRAM)が検討されている(例えば、特許文献1参照)。MRAMは、例えば、MTJ素子を多数配置し、それぞれの磁化配列を情報担体としており、不揮発、高速、高書き換え耐性等の特徴をもつため、従来の半導体メモリ(SRAM,DRAM等)を凌駕するメモリとして開発が進められている。これまで、記憶容量が数〜数十メガビット(Mbit)のメモリが試作されたが、例えばDRAMを置き換えるためにはギガビット(Gbit)級の更なる大容量化が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−80116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでMTJ素子のトンネル障壁の膜体としては、単結晶、または高純度のMgOを用いるのが一般的であり、純度の高いMgO焼結体からなるスパッタリングターゲット部材を用いてスパッタによってトンネル障壁を成膜するのが一般的であった。しかし、更なる大容量化には、MTJ素子の電気抵抗が低く、大きな出力信号を得るための高い磁気抵抗比が望まれている。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、より高い特性を有する膜体を形成することができる被膜部材の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Mg、Al、O及びNの元素を含むスパッタリングターゲット部材を用いることにより高い特性を有する膜体を形成することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の被膜部材の製造方法は、
被処理部材の表面に膜体が形成された被膜部材の製造方法であって、
複数の物質の混合物からなりMg、Al、O及びNの元素を含むスパッタリングターゲット部材を1種用いるか、又は、複数種のスパッタリングターゲット部材の全体としてMg、Al、O及びNの元素を含むように、1以上の物質からなりMg、Al、O及びNのうち少なくとも1以上を含むスパッタリングターゲット部材を複数種用い、スパッタリング処理によって前記被処理部材に膜体を形成する形成工程、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被膜部材の製造方法は、より高い特性を有する膜体を形成することができる。この理由は、明らかではないが、以下のように推察される。例えば、Mg、Al、O及びNの元素を含む膜体が形成されると、おそらくMgOにAl及びNが固溶した膜体となるものと推察される。このため、例えば、膜体が形成された被膜部材が、磁気トンネル接合素子に使用された場合、トンネル障壁層にMg、Al、O及びNが含まれることにより、MgOのトンネル障壁高さが低くなる等の効果により電気抵抗が低下、すなわちトンネル電流が増加することが予測される。また、AlやNの固溶により、MgOの格子定数が変化することから、トンネル障壁層であるMgOと磁性層との界面における格子の整合性を調整することができる。トンネル障壁層と磁性層の格子整合性がよいと、磁気トンネル接合素子において低い電気抵抗や高い磁気抵抗比を得られることが予測される。また、膜体にAlやNを含むため、耐湿性、耐水性が酸化マグネシウムよりも優れるものとなる。このように、本発明では、より高い特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スパッタ装置20の構成の概略を示す構成図。
【図2】スパッタ装置20の構成の概略を示す構成図。
【図3】スパッタリングターゲット部材のXRDチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1及び図2は、本発明の被膜部材の製造方法を実行するスパッタ装置20の構成の概略を示す構成図である。図1は、複数の物質の混合物からなりMg、Al、O及びNの元素を含む1種のスパッタリングターゲット部材40を用いた場合の説明図である。図2は、1以上の物質からなりMg、Al、O及びNのうち少なくとも1以上を含むスパッタリングターゲット部材41,42,43を用いた場合、即ち複数種のスパッタリングターゲット部材を用いた場合の説明図である。このスパッタ装置20は、ウェハー上に磁性層などを有した被処理部材11の表面に膜体12を形成する膜体形成装置として構成されている。スパッタ装置20は、減圧室であるチャンバ21と、膜体12が形成される被処理部材11を配置するチャンバ21に内設された試料配置部22と、スパッタリングターゲット部材40を配置するターゲット配置部25が設けられチャンバ21に内設されたプラズマ基部24と、バルブ26を介してチャンバ21に接続されガスを供給するガス供給部27と、バルブ28を介してチャンバ21を減圧する真空ポンプ29と、被処理部材11とスパッタリングターゲット部材40との間に電位差を設ける電源30と、スパッタ装置20全体を制御する制御装置32とを備えている。試料配置部22とターゲット配置部25とは対向して電源30に接続され、チャンバ21の内部に配設されている。制御装置32は、電源30の印加電圧やバルブ26,28の開放閉鎖、真空ポンプ29の駆動などの制御を行う。
【0012】
このスパッタ装置20は、被処理部材11とスパッタリングターゲット部材40との間に高周波電圧を印加する電源30と、プラズマをターゲット近傍に封じ込めるマグネトロン型のプラズマ基部24を備えており、マグネトロンRF(Radio Frequency)スパッタ装置として構成されている。なお、スパッタ装置20は、DC(Direct Current)スパッタ、RFスパッタ、マグネトロンDCスパッタ、マグネトロンRFスパッタ、イオンビームスパッタ、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタのうちいずれかの処理を行うものとしてもよい。
【0013】
次に、被処理部材11の表面に膜体12が形成された被膜部材10の製造方法について説明する。この被膜部材10の製造方法は、スパッタリングターゲット部材を用い、スパッタリング処理によって被処理部材11に膜体12を形成する形成工程、を含むものである。この形成工程では、1又は複数のスパッタリングターゲット部材を用い、Mg、Al、O及びNの元素を含む膜体12を被処理部材11の表面に形成する処理を行う。ここで、スパッタリングターゲット部材は、Mg、Al、O及びNの全てが含まれていれば、どのような形態でも構わず、スパッタリングターゲット部材を1種用いるものとしてもよいし、スパッタリングターゲット部材を複数種用いるものとしてもよい。
【0014】
この形成工程では、例えば、図1に示すように、複数の物質の混合物からなりMg、Al、O及びNの元素を含むスパッタリングターゲット部材40を1種用いるものとしてもよい。この物質としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(例えばアルミナ,Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、マグネシウムアルミニウム酸化物(例えばスピネル,MgAl24)、マグネシウムアルミニウム酸窒化物(例えばMgAlON)、アルミニウム酸窒化物(例えばAlON)、窒化マグネシウム、Mg、Al及びMgAl合金のうち1以上が挙げられ、このうち取り扱いの観点から酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、マグネシウムアルミニウム酸化物、マグネシウムアルミニウム酸窒化物及びアルミニウム酸窒化物がより好ましい。複数の物質の混合物からなる1種のスパッタリングターゲット部材40を用いる際には、例えば、酸化マグネシウム、マグネシウムアルミニウム酸化物及び窒化アルミニウムの混合物、例えば、MgOとMgAl24とAlNとが混合されて焼結されたコンポジット材料などを用いることがより好ましい。こうすれば、比較的容易にスパッタリングターゲット部材を作製することができる。あるいは、スパッタリングターゲット部材40として、酸化マグネシウムとマグネシウムアルミニウム酸化物とを含み、更にアルミニウム窒化物、マグネシウムアルミニウム酸窒化物、アルミニウム酸窒化物のいずれか1以上を含む3種類以上の混合物、酸化マグネシウムとアルミニウム窒化物とを含み、更にマグネシウムアルミニウム酸化物、マグネシウムアルミニウム酸窒化物、アルミニウム酸窒化物のいずれか1以上を含んでもよい2種類以上の混合物、酸化マグネシウムとマグネシウムアルミニウム酸窒化物とを含み、更にマグネシウムアルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、アルミニウム酸窒化物のいずれか1以上を含んでもよい2種類以上の混合物、酸化マグネシウムとアルミニウム酸窒化物とを含み、更にマグネシウムアルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、マグネシウムアルミニウム酸窒化物のいずれか1以上を含んでもよい2種類以上の混合物などを用いるものとしてもよい。
【0015】
あるいは、この形成工程では、例えば、図2に示すように、複数種のスパッタリングターゲット部材の全体としてMg、Al、O及びNの元素を含むように、1以上の物質からなりMg、Al、O及びNのうち少なくとも1以上を含むスパッタリングターゲット部材を複数種用いるものとしてもよい。例えば、図2では、スパッタリングターゲット部材41〜43の3種を用いるものとしたが、2種としてもよいし4種としてもよい。なお、スパッタリングレートなどの調整や装置構成の複雑化を考慮すると、スパッタリングターゲット部材は、3種以下であることが好ましい。この物質としては、上述した、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、マグネシウムアルミニウム酸化物、マグネシウムアルミニウム酸窒化物、アルミニウム酸窒化物、窒化マグネシウム、Mg、Al及びMgAl合金のうち1以上が挙げられ、このうち取り扱いの観点から酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、マグネシウムアルミニウム酸化物、酸化アルミニウム、マグネシウムアルミニウム酸窒化物及びアルミニウム酸窒化物の組み合わせがより好ましい。このように、1以上の物質からなるスパッタリングターゲット部材を複数種用いる場合、スパッタリングターゲット部材の全体としてMg、Al、O及びNの全てが含まれていれば、どのような形態でも構わない。この形態について以下説明する。
【0016】
1以上の物質からなるスパッタリングターゲット部材を複数種用いる場合、Mgを少なくとも含むスパッタリングターゲット部材と、Al及びOを少なくとも含むスパッタリングターゲット部材と、Al及びNを少なくとも含むスパッタリングターゲット部材と、を上記複数種のスパッタリングターゲット部材として用いるものとしてもよい。こうすれば、各スパッタリングターゲット部材を作製しやすい。具体的には、例えば、MgOのスパッタリングターゲット部材とMgAl24のスパッタリングターゲット部材とAlNのスパッタリングターゲット部材とをそれぞれ個別に作製し、マルチターゲット式のスパッタ装置にて同時に被処理部材11にスパッタリング処理してもよい。あるいは、MgOのスパッタリングターゲット部材とAl23のスパッタリングターゲット部材とAlNのスパッタリングターゲット部材とをそれぞれ個別に作製し、スパッタリング処理に用いるものとしてもよい。
【0017】
また、1以上の物質からなるスパッタリングターゲット部材を複数種用いる場合、複数種のスパッタリングターゲット部材の1以上が、Mg、Al、O及びNのうち少なくとも1以上を含む複数の物質の混合物からなるものを上記複数種のスパッタリングターゲット部材として用いるものとしてもよい。こうしても、被処理部材11の表面にMg、Al、O及びNを含む膜体12を形成することができる。具体的には、例えば、MgO及びMgAl24を混合したコンポジット材料のスパッタリングターゲット部材と、AlNの単一材料のスパッタリングターゲット部材とをそれぞれ個別に作製し、スパッタリング処理に用いるものとしてもよい。また、MgO及びAl23を混合したコンポジット材料のスパッタリングターゲット部材と、AlNの単一材料のスパッタリングターゲット部材とをそれぞれ個別に作製し、スパッタリング処理に用いるものとしてもよい。あるいは、MgOの単一材料のスパッタリングターゲット部材と、MgAl24及びAlNを混合したコンポジット材料のスパッタリングターゲット部材とをそれぞれ個別に作製し、スパッタリング処理に用いるものとしてもよい。このように、スパッタリングターゲット部材の全体としてMg、Al、O及びNの全てが含まれているようにすれば、上述した物質のいずれか1以上を任意に組み合わせるものとしてもよい。
【0018】
この形成工程では、1種又は複数種のスパッタリングターゲット部材の全体において、Mgに対するOの原子比であるO/Mgが0.25以上4以下の範囲であり、且つMgとOの合計が80at%(原子%)以上であるスパッタリングターゲット部材40を用いることが好ましい。原子比であるO/Mgが0.25以上4以下の範囲、且つMgとOの合計が80at%以上では、被処理部材11に形成される膜体12が、酸化マグネシウムの結晶構造をより維持し、酸化マグネシウムより低い電気抵抗を有するものとすることができる。このMgに対するOの原子比であるO/Mgは、0.5以上2以下の範囲がより好ましく、0.75以上1.25以下の範囲が更に好ましい。また、MgとOの合計が85at%以上であることがより好ましく、90at%以上であることが更に好ましい。また、ターゲット部材の原子比を制御する方法以外に、スパッタ時の各ターゲットの出力を制御することで各ターゲットからのスパッタ量を制御し、スパッタ成分の比が上記範囲となるようにしてもよい。
【0019】
この形成工程では、上述したスパッタリングターゲット部材を用い、被処理部材11の表面に膜体12を形成するスパッタリング処理を行う。スパッタリング処理では、スパッタガスとして希ガス(Ar、Ne、Kr、Xe)をガス供給部27からチャンバ21へ供給するものとしてもよい。また、スパッタガスの一部に、O2、N2、もしくはOとNの化合物からなるガスを用いてもよい。こうすれば、膜体のO、Nの量を制御することもできる。また、スパッタリング処理では、チャンバ21内の圧力は0.01〜0.4Paの範囲となるように真空ポンプ29により減圧してもよい。また、スパッタレートは、被処理部材11の表面に形成される膜体12が、Mgに対するOの原子比であるO/Mgが0.5以上2以下の範囲、より好ましくは0.75以上1.25以下の範囲であり、且つMgとOの合計が80at%以上となるように経験的に定めるものとしてもよい。例えば、成膜速度は膜体12全体として0.01Å/s以上1.0Å/s以下の範囲としてもよい。なお、スパッタリング処理は、DCスパッタ、RFスパッタ、マグネトロンDCスパッタ、マグネトロンRFスパッタ、イオンビームスパッタ、ECRスパッタのうちいずれかとしてもよい。このうち、マグネトロンRFスパッタやマグネトロンDCスパッタが好ましい。
【0020】
本発明の被膜部材の製造方法において、形成工程は、磁気トンネル接合素子のトンネル障壁の作製工程に含まれるものとしてもよい。このように、被処理部材11にMg、Al、O及びNを含む膜体12が形成された被膜部材10では、MgOのトンネル障壁高さが低くなる等の効果により電気抵抗が低下、すなわちトンネル電流が増加することが予測されるため、磁気トンネル接合素子の作製に用いる意義が高い。また、本発明の被膜部材の製造方法において、形成工程は、ハードディスクの磁気ヘッド及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリのうち少なくとも1つの磁気トンネル接合素子の作製工程に含まれるものとしてもよい。
【0021】
本発明の被膜部材の製造方法で作製された被膜部材10は、被処理部材11の表面にMg、Al、O及びNを含む膜体12が形成されている。この被膜部材10において、膜体12は、MgOにAl及びNが固溶したMgO−AlN固溶体の結晶相をするものであることがより好ましい。こうすれば、例えば、耐湿性や耐水性が酸化マグネシウムよりも優れ、電気抵抗がより低下するなど、より高い特性とすることができる。このMgO−AlN固溶体は、高純度なMgOに対してXRDピークが高角側にシフトすることで確認ができる。例えばCuKアルファ線を用いたときの(200)面のピークは酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=42.9〜44.8°に現れるものとしてよい。このピークシフトはAl、N成分の固溶量の増加に伴って大きくなる。即ちピークシフトが大きいほど耐湿、耐水性が向上する。また、膜体12は、副相が少ないことがより好ましい。副相としては、例えば、CuKアルファ線を用いたときのXRDピークが少なくとも2θ=47〜49°に現れるマグネシウムアルミニウム酸窒化物相などが挙げられる。スパッタリングターゲット部材に副相を含む場合、主相と副相とのスパッタリングレートが異なる可能性があるが、副相が少ない場合には、スパッタリングターゲット部材からの発塵等を抑制することができ、成膜される膜体の均質性をより向上することができる。このほか、Al、N成分の酸化マグネシウムへの固溶により格子定数が変化することから、固溶量によって膜体の格子定数を調整でき、それによって被処理部材との格子の整合性を調整することができる。
【0022】
以上説明した本発明の被膜部材の製造方法によれば、Mg、Al、O及びNの元素を含む膜体が形成されるため、より高い特性を有する膜体を形成することができる。例えば、Mg、Al、O及びNの元素を含む膜体が形成されると、おそらくMgOにAl及びNが固溶した膜体となるものと推察される。膜体が形成された被膜部材が、磁気トンネル接合素子に使用された場合、トンネル障壁層にMg、Al、O及びNが含まれることにより、MgOのトンネル障壁高さが低くなる等の効果により電気抵抗が低下、すなわちトンネル電流が増加することが予測される。また、AlやNの固溶により、MgOの格子定数が変化することから、トンネル障壁層であるMgOと磁性層との界面における格子の整合性を調整することができる。このように、トンネル障壁層と磁性層の格子整合性がよいと、磁気トンネル接合素子において低い電気抵抗や高い磁気抵抗比を得られることが予測される。また、膜体がAlやNを含むため、耐湿性、耐水性が酸化マグネシウムよりも優れるものとなる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0024】
例えば、上述した実施形態では、形成工程を含む本発明の被膜部材の製造方法として説明したが、その他の工程を含むものとしてもよい。例えば、磁気トンネル接合素子の製造方法としてもよい。また、形成工程のまえに、Mg、Al、O及びNを少なくとも含む原料を成形及び焼成しスパッタリングターゲット部材を作製する作製工程を含むものとしてもよい。あるいは、形成工程のあと、被膜部材10を熱処理し膜体12の強化を図る熱処理工程を含むものとしてもよい。この熱処理は、例えば1000℃以下の温度で行うことが好ましく、500℃以下の温度で処理することがより好ましい。熱処理の温度が1000℃以上では、MgOに固溶しているAlがMgOと反応してマグネシウムアルミニウム酸化物を形成するほか、Nが酸化されて放出される可能性があるためである。また、熱処理工程は、Ar,N2などの不活性雰囲気で行うものとしてもよい。
【実施例】
【0025】
以下には、被膜部材の製造方法の例を実施例として説明する。
【0026】
[実施例1]
(スパッタリングターゲット部材の作製)
原料を調合する調合工程を行った。市販品のMgO原料(純度99.4%、平均粒径3μm)、Al23原料(純度99.9%、平均粒径0.5μm)、及びAlN原料(純度99.9%、平均粒径1μm以下、ただしAlN原料については1%程度の酸素の含有は不可避であるため、酸素を不純物元素から除いた純度とする)をmol比でMgO:Al23:AlN=95.0:2.7:2.3となるように秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径20mmの鉄芯入ナイロンボールの玉石を用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した。その後、30メッシュの篩に通し、混合粉末とした。次に、成形工程を行った。上記調合した混合粉末を、50kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、直径200mm、厚さ30mm程度の円盤状成形体を作製し、焼成用黒鉛モールドに収納した。続いて、焼成工程を行った。円盤状成形体をホットプレス焼成することによりセラミックス材料を得た。ホットプレス焼成では、プレス圧力を200kgf/cm2とし最高温度1650℃で焼成し、焼成終了までN2雰囲気とした。焼成温度での保持時間は4時間とした。得られた焼結体を、スパッタ装置のターゲットサイズに加工、表面研磨し、実施例1のスパッタリングターゲット部材とした。
【0027】
(スパッタリングターゲット部材の結晶評価)
実施例1と同じ方法で得られた焼結体について、乳鉢で粉砕した後、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKアルファ,40kV、40mA、2θ=5°〜70°とし、封入管式X線回折装置を使用した。測定のステップ幅は0.02°とした。なお、標準物質としてNIST製Si標準試料粉末(SRM640C)を添加した。
【0028】
(成膜実験)
実施例1のスパッタリングターゲット部材を、スパッタ装置のバッキングプレートに接着し、スパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットを用い、スパッタガスとしてArを用い、圧力は0.01〜0.4Paの範囲で被処理部材であるシリコン基板の表面に成膜した。マグネトロンRFスパッタ(13.56MHz)によりスパッタレート0.2Å/secで成膜を行った。
【0029】
(膜体の結晶評価)
成膜後の膜の結晶構造について、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα、50kV、300mA、2θ=5°〜70°とし、X線回折法を用いた。MgOのピークトップの回折角は、ICDD78−0430の値とし、MgOの(200)面の回折ピークについて、膜のピークシフトを算出した。
【0030】
(スパッタリングターゲット部材の化学分析)
実施例1と同じ方法で得られた焼結体について、乳鉢で粉砕した後、化学分析を行った。MgとAlについては試料を溶解させた後、Mgはキレート滴定法で、Alは誘導結合プラズマ原子発光分析法にて測定を行った。Nについては不活性ガス融解法で測定した。Oについては全体を100質量%とし、そこからMgとAlとNの質量%を除いてOの質量%として求めた。それぞれの元素について各元素の原子量で割った後、全体を100at%としてそれぞれの元素のat%を求めた。
【0031】
(スパッタリングターゲット部材の評価結果)
スパッタリングターゲット部材の結晶評価結果であるXRD測定結果を図1に示す。定性分析の結果、スパッタリングターゲット部材はMgO、MgAl24、及びAlNから構成されていることがわかった。また、本焼結体を分析したところ、Mgが45.6at%、Oが49.5at%、Alが3.8at%、Nが1.1at%から構成されており、原子比O/Mgが1.09であり、MgとOの合計が95.1at%であることがわかった。
【0032】
(成膜後の膜評価)
スパッタにより得られた膜のXRD測定したところ、被処理部材の物質以外ではスパッタリングターゲットに存在したMgAl24やAlNが消失し、43.04°に主なピークが検出された。これはMgOの(200)面の回折ピークと推測される。ICDD78−0430のMgOの(200)面の回折ピークのピーク角度42.90°から回折ピークがシフトしていること、またMgAl24やAlNが消失していることから、スパッタにより得られた膜ではMgOにAl及びNが固溶した膜が得られたと予測された。
【0033】
[実施例2]
(スパッタリングターゲット部材の作製)
円盤状成形体を直径100mm、厚さ30mm程度とし、ホットプレス焼成時の最高温度をMgOは1450℃、Al23は1450℃、AlNは1800℃として3つのターゲットとした以外、実施例1と同様の方法で実施例2のスパッタリングターゲット部材を作製した。
【0034】
(成膜実験)
実施例2のスパッタリングターゲット部材を、スパッタ装置のバッキングプレートに接着し、スパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットを用い、スパッタガスとしてArを用い、圧力は0.4Paで被処理部材である熱酸化シリコン基板の表面に成膜した。膜体の組成を調整するため、それぞれの投入出力比をMgOターゲット:Al23ターゲット:AlNターゲット=13:2:1とし、マグネトロンRFスパッタ(13.56MHz)によりスパッタレート0.01Å/secで成膜を行った。
【0035】
(膜体の結晶評価)
成膜後の膜の結晶構造について、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα、50kV、300mA、2θ=5°〜70°とし、X線回折法を用いた。MgOのピークトップの回折角は、ICDD78−0430の値とし、MgOの(200)面の回折ピークについて、膜のピークシフトを算出した。
【0036】
(成膜後の膜評価)
スパッタにより得られた膜のXRD測定したところ、被処理部材の物質以外ではスパッタリングターゲットに存在したAl23やAlNが消失し、43.0°に主なピークが検出された。これはMgOの(200)面の回折ピークと推測される。ICDD78−0430のMgOの(200)面の回折ピークのピーク角度42.90°から回折ピークがシフトしていること、またMgAl24やAlNが消失していることから、スパッタにより得られた膜ではMgOにAl及びNが固溶した膜が得られたと予測された。
【0037】
以上のことより、実施例1、2のスパッタリングターゲット部材を用いて成膜することにより、MgOにAl及びNが固溶した膜が形成されているものと推察された。この膜体によると、MTJ素子を作製した場合にMgOトンネル障壁高さが低くなる等が予測され、これにより電気抵抗が低下、すなわちトンネル電流が増加することが予測された。また、AlやNの固溶により、MgOの格子定数が変化することから、トンネル障壁層であるMgOと磁性層との界面における格子の整合性を調整することができる。トンネル障壁層と磁性層の格子整合性がよいと、MTJ素子において低い電気抵抗や高い磁気抵抗比を得られることが予測された。
【符号の説明】
【0038】
10 被膜部材、11 被処理部材、12 膜体、20 スパッタ装置、21 チャンバ、22 試料配置部、24 プラズマ基部、25 ターゲット配置部、26,28 バルブ、27 ガス供給部、29 真空ポンプ、30 電源、32 制御装置、40,41,42,43 スパッタリングターゲット部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理部材の表面に膜体が形成された被膜部材の製造方法であって、
複数の物質の混合物からなりMg、Al、O及びNの元素を含むスパッタリングターゲット部材を1種用いるか、又は、複数種のスパッタリングターゲット部材の全体としてMg、Al、O及びNの元素を含むように、1以上の物質からなりMg、Al、O及びNのうち少なくとも1以上を含むスパッタリングターゲット部材を複数種用い、スパッタリング処理によって前記被処理部材に膜体を形成する形成工程、を含む被膜部材の製造方法。
【請求項2】
前記形成工程では、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、マグネシウムアルミニウム酸化物、マグネシウムアルミニウム酸窒化物、アルミニウム酸窒化物、窒化マグネシウム、Mg、Al及びMgAl合金のうちいずれかである前記物質を含むスパッタリングターゲット部材を用いる、請求項1に記載の被膜部材の製造方法。
【請求項3】
前記形成工程では、Mgを少なくとも含むスパッタリングターゲット部材と、Al及びOを少なくとも含むスパッタリングターゲット部材と、Al及びNを少なくとも含むスパッタリングターゲット部材と、を前記複数種のスパッタリングターゲット部材として用いる、請求項1又は2に記載の被膜部材の製造方法。
【請求項4】
前記形成工程では、前記複数種のスパッタリングターゲット部材の1以上が、Mg、Al、O及びNのうち少なくとも1以上を含む複数の物質の混合物からなる前記スパッタリングターゲット部材を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被膜部材の製造方法。
【請求項5】
前記形成工程では、前記物質が酸化マグネシウム、窒化アルミニウム及びマグネシウムアルミニウム酸化物である前記1種又は前記複数種のスパッタリングターゲット部材を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜部材の製造方法。
【請求項6】
前記形成工程では、前記物質が酸化マグネシウム、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムである前記複数種のスパッタリングターゲット部材を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜部材の製造方法。
【請求項7】
前記形成工程は、磁気トンネル接合素子のトンネル障壁の作製工程に含まれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の被膜部材の製造方法。
【請求項8】
前記形成工程は、ハードディスクの磁気ヘッド及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリのうち少なくとも1つの前記磁気トンネル接合素子の作製工程に含まれる、請求項7に記載の被膜部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100597(P2013−100597A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219284(P2012−219284)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】