説明

製鋼スラグの処理方法

【課題】溶銑予備処理や脱炭処理等により発生する製鋼スラグの処理方法において、金属酸化物から鉄や有価金属等の回収を行うとともに、f−CaOを低減させる反応を促進させ、さらに、還元剤の燃焼によるCO発生を低減させる。
【解決手段】本発明は、反応容器に装入された溶融状態の製鋼スラグにSiO含有物質および還元用物質を添加し、製鋼スラグの改質処理および還元処理を行う製鋼スラグの処理方法であって、還元用物質の一部または全部として、K値(= (H−O/2)/C)が1以上である廃プラスチックを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグの処理方法に関し、特に、溶銑予備処理や脱炭処理等により発生する製鋼スラグを溶融状態で改質処理および還元処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑予備処理および脱炭処理等により生成される製鋼スラグは、遊離CaO(以下、「f−CaO」という。)の濃度が高いため、このf−CaOの水和反応により体積が膨張しやすく、多くの微小な亀裂や開気孔を発生する場合がある。このようなf−CaOを多く含む製鋼スラグは体積安定性が低い。従って、路盤材や建築用材料等には用いられにくい。
【0003】
また、製鋼スラグ中には、酸化鉄、MnO、P等の有価金属の酸化物が含有されるが、現状では、これらの金属酸化物から有価成分を十分に回収することができていない。
【0004】
これに対して、製鋼スラグを、路盤材や建築用材料等の用途に有効利用すべく、従来から、製鋼スラグ中のf−CaOを低減させたり、金属酸化物を還元して有価金属を回収したりすることが行われている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、転炉から排出された脱炭スラグを溶融状態のまま改質する方法が記載されている。この方法は、溶融スラグ中に酸素とSiO含有改質材を浸漬ランスにより吹き込み、スラグ中のFeOをFeに酸化させて、その際の反応熱で昇熱し、溶融状態を維持しながら改質材によってスラグの塩基度(CaO/SiO)を低減、すなわち、f−CaO濃度の低いスラグに変化させるものである。
【0006】
また、例えば、特許文献1には、製鋼スラグにSiO含有改質材、炭素含有還元材および鉄スクラップを混合し、酸素ガス含有気体を供給しつつ、還元性雰囲気に維持しながら加熱溶解する方法が記載されている。このとき、製鋼スラグとしては溶融状態のスラグを使用してもよい。
【0007】
【非特許文献1】M.Kuehn、 et al., 2nd European Steelmaking Congress, Taranto(1997年)p445〜453
【特許文献1】特開平6−115984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、スラグを還元せずに2価の酸化鉄を3価に酸化する方法であるために、鉄源である酸化鉄からの鉄資源の回収がなされていない、という問題があった。また、スラグを還元しないので、改質処理後のスラグ中のFeOを低減できずトータル鉄(以下、「T・Fe」と記載する場合もある。)の含有率は高いままである。併せて、スラグに含まれるリンやマンガン等の有価金属の回収ができない、という問題もあった。
【0009】
また、特許文献1に記載の方法では、スラグの還元処理は行われるが、製鋼スラグを加熱するための熱源が、コークス、石炭等の炭素含有還元剤の燃焼熱だけでは、f−CaOを低減させるための改質反応が十分に進みにくい、という問題があった。なお、製鋼スラグを加熱するための熱源として、コークスや石炭等の炭素を多く含有する還元剤を使用していることから、これらの還元剤が燃焼することによりCOガスが発生し、地球温暖化防止という観点から望ましくない、という問題もあった。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、溶銑予備処理や脱炭処理等により発生する製鋼スラグの処理方法において、金属酸化物から鉄や有価金属等の回収を行うとともに、f−CaOを低減させる反応を促進させ、さらに、還元剤の燃焼によるCO発生を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、SiO含有物質および還元用物質を用いて製鋼スラグの改質処理および還元処理を行う際に、還元用物質の一部または全部として、水素を多く含む廃プラスチックを使用することにより、金属酸化物から鉄や有価金属等の回収を行うとともに、f−CaOを低減させる反応を促進させ、さらに、還元剤の燃焼によるCO発生を低減させることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1) 反応容器に装入された溶融状態の製鋼スラグにSiO含有物質および還元用物質を添加し、前記製鋼スラグの溶融状態を維持したまま前記製鋼スラグの改質処理および還元処理を溶融状態で行う製鋼スラグの処理方法であって、前記還元用物質の一部または全部として、下記式(I)で表されるK値が1以上である廃プラスチックを使用することを特徴とする、製鋼スラグの処理方法。
K値 = (H−O/2)/C ・・・(I)
前記式(I)で、H、O、Cは、それぞれ、廃プラスチック中に含有される水素、酸素、炭素のモル数である(酸素のモル数が0の場合も含む)。
(2) 前記溶融状態の製鋼スラグは、溶銑が保持された前記反応容器に装入されることを特徴とする、(1)に記載の製鋼スラグの処理方法。
(3) 前記廃プラスチックの前記製鋼スラグへの添加は、浸漬ランスを用い、キャリアガスと共に水平より下方に吹き込む方法により行われることを特徴とする、(2)に記載の製鋼スラグの処理方法。
(4) 前記廃プラスチックの前記製鋼スラグへの添加は、底吹羽口を用い、下記式(II)を満足する条件で吹き込む方法により行われることを特徴とする、(2)に記載の製鋼スラグの処理方法。
Q/N ≦ 13×(ρ/ρ−1/2×H3/2×d ・・・(II)
Q:羽口全体からのガス流量(Nm/分)
N:羽口本数
ρ:吹き込み物とキャリアガスの平均密度(kg/m
ρ:スラグ密度(kg/m
d:羽口径(m)
H:吹き抜け高さ(m)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶銑予備処理や脱炭処理等により発生する製鋼スラグの処理方法において、還元用物質の一部または全部として、K値(= (H−O/2)/C)が1以上である廃プラスチックを使用することで、金属酸化物から鉄や有価金属等の回収を行うとともに、f−CaOを低減させる反応を促進させることが可能となる。したがって、本発明によれば、製鋼スラグを路盤材や建築用材料等の用途に使用することができる。
【0014】
また、本発明によれば、還元剤の燃焼によるCO発生を低減させることも可能となるので、地球温暖化の防止に寄与することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の製鋼スラグの処理方法は、上述したように、反応容器に装入された溶融状態の製鋼スラグにSiO含有物質および還元用物質を添加し、製鋼スラグの改質処理および還元処理を行う製鋼スラグの処理方法であって、還元用物質の一部または全部として、K値が1以上である廃プラスチックを使用するものである。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
(製鋼スラグの種類)
本発明は製鋼スラグを改質処理の対象としており、改質対象の製鋼スラグとしては、特に限定されるものではなく、例えば、脱炭スラグ、溶銑予備処理スラグ、電気炉スラグ等を使用することができる。
【0018】
なお、本発明では、溶融状態の製鋼スラグを使用して、溶融状態を維持するようにして(製鋼スラグの温度が融点よりも低くなって、一旦固化したものを再加熱して溶融状態にする場合も含む)改質処理および還元処理を行う。このように溶融状態で処理を行うことで、f−CaOの低減およびスラグの還元反応を促進できる。
【0019】
(SiO含有物質について)
本発明におけるSiO含有物質としては、例えば、珪砂等を使用することができる。また,本発明におけるSiO含有改質材として,Alをさらに含有する改質材を使用してもよい。SiOのほかAlをスラグに添加することにより,スラグの溶融温度を低下させて、スラグの改質反応を促進することができる。このような改質材としては,例えば,石炭灰(フライアッシュ)などがある。
【0020】
(還元用物質について)
本発明における還元用物質とは、金属酸化物に対する還元力があり、かつ、酸素などとの反応により反応熱を発生するものを指す。この還元用物質としては、一般には、炭素や炭化水素系燃料も用いられるが、本発明においては、以下に述べる理由により、K値が1以上の廃プラスチックを使用する。
【0021】
スラグ加熱を行うための燃焼用物質や還元処理を行うための還元用物質としては、炭材を利用するのが一般的である。しかし、炭材は、燃焼反応や還元反応の結果、最終的には二酸化炭素となって放出される。従って、現在、地球温暖化を防止するために、二酸化炭素の放出量を低減すべく、種々の技術開発が進められているが、本発明においては、還元用物質として利用する炭材として、その一部または全部に廃プラスチックを用いる。そのため、廃プラスチック中に含まれる水素が炭素の一部を代替することができる。すなわち、酸化鉄や、リン、マンガン等の有価成分を含む金属酸化物の還元に、炭素ではなく水素が用いられる。金属酸化物を還元した水素は酸化されて水蒸気となるので、発生した水蒸気によりスラグの攪拌が促進されるとともに、二酸化炭素の発生量も抑制することができる。
【0022】
ここで、廃プラスチック中の炭素(以下、Cと記載する。)と水素(以下、Hと記載する。)の酸化熱ΔHは、下記式で表される。
C+O=CO △H=−394kJ/mol ・・・(A)
+(1/2)O=HO △H=−492kJ/mol・・・(B)
【0023】
従って、金属酸化物の還元に関しては、Cが1molに対してHが4molあれば同量の金属酸化物を還元することができる。また、熱付与の観点からは、Cの80%のモル数のHで同一の発熱量を得ることができ、モル質量が炭素12g/molに対して水素1g/molであることを考えれば、Cの7%程度の質量で同等の発熱量を有することがわかる。
【0024】
この知見から、本発明者らは、実際には、廃プラスチックとしてどの程度の水素を含んでいるものを使用すればよいかの検討を行った。
【0025】
関 佳子氏らの都市型廃プラスチック(「収集の違いによるごみ中のプラスチック組成の分析」;http://www.wit.pref.chiba.jp/bank/rd/file/11-11.pdf)の分別によると、都市ごみ中に含まれる廃プラスチックは、概ね以下の5種類に分類される。
ポリエチレン (C K=2
ポリ塩化ビニル (CCl) K=1.5
ポリエチレンテレフタレート (C10・4HO) K=0
ポリプロピレン (C K=2
ポリスチレン (C K=1
【0026】
ここで、上に示したK値は、廃プラスチック中の水素と炭素とのモル数の比を示すものである。ただし、重合元素の中に酸素が含まれるポリエチレンテレフタレート等の場合は、水素は、単純にHOとして系外に排出されるため、水分として酸素とバランスする水素分は、K値の計算から除外することとし、K値を下記式(I)で定義した。
K値 = (H−O/2)/C ・・・(I)
【0027】
還元反応を促進するためのK値の範囲について、実機による本試験の前に、坩堝による予備実験を実施した。
【0028】
この予備実験は、図1に示すような実験装置を使用して、モリブデン坩堝1の内部に合成スラグを入れ、合成スラグを抵抗発熱体3を用いて1400℃に加熱及び溶融し、合成スラグ中に浸漬させた耐火物ランス2から粉末化した廃プラスチックを吹き込む実験を行った。実験に用いた合成スラグ(以下、「実験スラグ」という。)は、製鋼スラグにSiO含有物質を添加して改質し、還元処理を行うことを模擬するため、FeOを20質量%、塩基度CaO/SiO(CaOとSiOとの質量比)=1.1、MnO=5質量%、MgO=4質量%を目標に粉末試薬をあらかじめ混合したものを1kgずつ用いた。表1に溶融後の実験スラグの組成分析例を示す。
【0029】
なお、スラグの組成分析方法としては、例えば、遊離CaOの分析にはエチレングリコール抽出法ICP発光分光分析を、他の成分の分析には蛍光X線分析(JIS K 0119)を用いることが出来る。遊離CaOの分析において同時に遊離CaOを抽出する方法としてTBP(トリブロムフェノール)法等があり、抽出が正しく出来ればいずれの方法を用いても良い。
【0030】
【表1】

【0031】
実験スラグを溶融後、K=0の還元用物質として粉末黒鉛およびポリエチレンテレフタレート、K=1の還元用物質としてポリスチレン、K=1.5の還元用物質としてポリ塩化ビニル、K=2の還元用物質としてポリエチレンおよびポリスチレンを粉末化したものを、それぞれ、キャリアガスとして窒素ガスを用いて50gずつ吹き込んだ。
【0032】
その結果を、試験後にメタル分(すなわち、還元されたFe)を磁選した後のスラグ中T.Fe(すなわち、FeOやFe等の酸化鉄)とK値との関係として図2に示す。図2に示すように、K値が1.0以上になると急激にT.Feが減少しており、FeO還元が促進されていることがわかる。この結果から、K値が1以上の場合に反応が促進されていると考えられる。
【0033】
一方、この実験では粉末のCaOを用いたために、未溶解のf−CaOはいずれの水準でも0.5質量%以下であった。しかし、実際のスラグでは粒状の石灰分も含まれているため、石灰分の溶解挙動を調査するために溶解原料を一部変更した実験を行った。すなわち、上記の実験において、スラグ試薬混合時にCaO分の半量を実機で用いられる10mm篩下の石灰粒(粒径8〜10mm)に置換した。これを、各々1kgを実験用スラグとして加熱及び溶解した後、上記還元材を50kg吹込み、ただちに冷却後、化学分析によってf−CaOの測定を行った。その結果を、f−CaOとK値との関係として図3に示す。ちなみに、実験用スラグのf−CaOは、5質量%程度であった。図3に示すように、K値が高いほどf−CaOの低減が見られ、K値が1以上の範囲でf−CaOは0.5質量%以下に低減できていた。これは、K値が高いほど、発生する水蒸気による気泡量も多いため、スラグの攪拌力が強くなっているためと考えられる。
【0034】
以上の実験結果から、本発明に用いる廃プラスチック中のK値を1以上と規定した。K値の上限は、特に規定するものではないが、一般的には、産業ゴミに含まれる廃プラスチック等の実績から、高々3〜4程度である。
【0035】
(操業設備の第1の例)
次に、図4及び図5を参照しながら、上述したような本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の第1の例について説明する。なお、図4及び図5は、本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の構成の一例を示す説明図である。
【0036】
図4に示すように、上記第1の例に係る操業設備は、鉄皮の内壁にアルミナ系耐火物を施した反応容器の一例としての排滓鍋10と、羽口22を有する浸漬ランス20とを備えるものである。この操業設備を用いた製鋼スラグの改質処理及び還元処理は、排滓鍋10に溶融状態の転炉スラグSを装入し、排滓鍋10中の転炉スラグS中に浸漬ランス20を浸漬させ、SiO含有物質(改質材)の一例としてのフライアッシュ(アルミナとシリカを主成分とする)と酸素とを、羽口22から転炉スラグS中に吹き込むとともに、還元用物質を吹き込むことにより行われる。
【0037】
このとき、この第1の例においては、浸漬ランス20の羽口22は、例えば、下向きに45度の角度で4孔設けられている。すなわち、本発明において還元用物質として用いる廃プラスチックは、コークスや石炭等の炭材と比較すると比重が小さいため、スラグ面上からの吹きつけでは飛散率が高くなることから、キャリアガスを伴って、スラグ内へ吹込むことが好ましい。廃プラスチックを吹き込む方法としては、還元用物質をスラグ内に均一に分散させるという観点から、この第1の例のように、浸漬ランス20の羽口22を介して、水平方向より下方に吹き込むことが好ましい。また、廃プラスチックをスラグ内へ吹き込む際のキャリアガスとしては、例えば、アルゴンガス、窒素ガスなどが挙げられる。
【0038】
なお、この第1の例においては、底部に溶銑Mが保持された状態の排滓鍋10に、転炉スラグSを装入する例を示している。
【0039】
また、図5に示すように、底部に溶銑Mが保持された状態の転炉100にスラグSを装入し、スラグS中にランス210を浸漬させ、酸素(図5では、酸素の気泡Bとして示している。)とともに還元用物質Rとしての廃プラスチックをスラグS中に吹き込んでもよい。
【0040】
(操業設備の第2の例)
次に、図6を参照しながら、上述したような本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の第2の例について説明する。なお、図6は、本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の構成の一例を示す説明図である。
【0041】
図6に示すように、上記第2の例に係る操業設備は、出鋼後、排滓前の状態の転炉において改質処理及び還元処理を行う例を示したものであり、鉄皮の内壁にアルミナ系耐火物を施した反応容器の一例としての転炉100と、転炉100の底部に設けられた底吹き羽口220と、を備えるものである。この操業設備を用いた製鋼スラグの改質処理及び還元処理は、転炉100に溶融状態のスラグSを装入し、転炉100中のスラグS中に、底吹き羽口220から、SiO含有物質(改質材)の一例としてのフライアッシュ(アルミナとシリカを主成分とする)と酸素(図6では、酸素の気泡Bとして示している。)とを吹き込むとともに、還元用物質Rとしての廃プラスチックを吹き込むことにより行われる。
【0042】
このとき、この第2の例においては、スラグS中において還元用物質Rと金属酸化物との反応を効率的に進めて、還元処理を十分に行うという観点から、底吹き羽口220から吹き込まれるキャリアガスによるスラグSの吹き抜け限界以下の範囲で操業することが好ましい。このときの底吹き羽口220からのキャリアガスによる吹き抜け限界は、以下の式(II)(鉄鋼便覧 第4版(2002) 第2巻 8.4.2 8.4式を参照)で表される。
Q/N ≦ 13×(ρ/ρ−1/2×H3/2×d ・・・(II)
Q:羽口220全体からのガス流量(Nm/分)
N:羽口220の本数
ρ:吹き込み物とキャリアガスの平均密度(kg/m
ρ:スラグ密度(kg/m
d:羽口220の径(m)
H:吹き抜け高さ(m)
【0043】
なお、この第2の例においては、底部に溶銑Mが保持された状態の排滓鍋10に、転炉スラグSを装入する例を示している。
【0044】
(反応容器中に溶銑が保持されている場合について)
以上、述べてきた製鋼スラグの処理方法について、反応容器中に溶銑を保持しておき、保持された溶銑の上に製鋼スラグを投入した後に、改質処理および還元処理を行い、溶銑中に金属成分を回収してもよい。
【0045】
このように、溶融状態の製鋼スラグを種湯としての溶銑が保持された反応容器に装入することで、第1に、製鋼スラグの改質還元反応の際、溶融状態の製鋼スラグの顕熱だけでなく、種湯溶銑の顕熱を利用でき、吸熱反応である還元反応中もスラグの溶融状態を良好に維持することができる。その結果、スラグ中の遊離CaOの低減を促進し、スラグの還元速度を維持することもできる。
【0046】
第2に、還元反応のサイトとして溶銑/スラグ界面を利用することができる。製鋼スラグの還元反応は、スラグ/還元用炭素源界面よりも、主に溶銑/スラグ界面で進行する。言い換えると、還元反応速度はスラグ/還元用炭素源界面よりも、溶銑/スラグ界面で大きいので、溶銑を保持した容器内に製鋼スラグを装入することにより、溶銑/スラグ界面を還元反応サイトとして利用して、製鋼スラグの還元反応速度を大きくする(還元反応を促進する)ことができる。
【0047】
第3に、製鋼スラグ中の有価成分(鉄、リン、マンガン等)を、種湯として用いた溶銑中に高効率で回収することができる。製鋼スラグ中のリンやマンガン等の有価成分の酸化物は、還元されて種湯溶銑中に移行する。種湯溶銑は、上述したように、還元反応界面積を最大化する観点から、少なくとも反応容器の底面全体を覆うために、反応容器内に多量に保持されている。したがって、製鋼スラグ中のリンやマンガン等の有価成分は、量の多い種湯溶銑に移行しても、種湯溶銑中の有価成分の濃度は低い状態であるので、製鋼スラグからの有価成分の移行速度、言い換えると、製鋼スラグ中の有価成分の酸化物の還元速度を維持することができる。一方、種湯溶銑が少量である場合には、リンやマンガン等の有価成分の酸化物の還元速度は低下してしまう。
【0048】
なお、上述したように、種湯溶銑を再利用して、製鋼スラグの還元反応を同一の種湯が保持された反応容器で繰り返すことにより溶銑中のリン濃度が高められる。このように、種湯溶銑中のリン濃度を高めた後に脱リンを行うと、従来よりも高濃度のリン酸を含む高リン酸スラグとして高効率で回収することができるという利点も有する。
【0049】
(加熱手段)
本発明では、改質処理および還元処理を行う際に同一の処理温度を維持するために、加熱用バーナー等による加熱、または、燃焼用炭材を供給しながらランス等により酸素を吹き込むことによる加熱を行うことが好ましい。加熱用バーナーの燃料としては、例えば、重油、LPGなどを使用することができる。また、加熱用バーナーの代わりに、燃焼用炭材を供給しながら、酸素を吹き込むことにより炭材を燃焼させた燃焼熱により加熱してもよい。
【0050】
(ガス撹拌によるスラグの均熱化)
また、改質処理及び還元処理の際、上述したような加熱はスラグ上面側から行われるため、スラグ上面側では改質反応や還元反応が十分に進む一方で、スラグ下面側(溶銑側)ではスラグ上面側からの加熱の効果が及びにくいため、改質反応や還元反応が十分に進まないことがある。そこで、改質処理及び還元処理中の製鋼スラグを均熱化するため、製鋼スラグ中に上吹きランス等からガスの吹込みを行って、処理中のスラグを撹拌するようにしてもよい。このような撹拌に使用するガス種としては、例えば、アルゴンなどの不活性ガスを使用することができるが、スラグに燃焼用炭材が供給される場合には、撹拌用ガスとしてOを含むガスを使用することにより、撹拌用のO含有ガスが燃焼用炭材を燃焼させることができるため、スラグ撹拌と同時にスラグ温度の維持を効率的に行うことができる。
【0051】
ここで、本発明においては、還元用物質として、K値が1以上の廃プラスチックを使用しているため、金属酸化物の還元反応により廃プラスチックが酸化されて水蒸気が発生し、この水蒸気が上述したようなスラグ攪拌の役割の一部を担うことができるため、改質反応や還元反応を促進して、f−CaOを十分に低減させることができるとともに、鉄や有価金属等を回収することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、下記実施例にのみ限定されるものではない。
【0053】
本実施例では、上述した本発明の効果を実証するために、3トン規模のスラグ処理炉を用いて検証実験を行った。
【0054】
まず、別の溶解炉で溶製した製鋼スラグ1トンを溶融状態のまま、スラグ処理炉に装入した。このとき、装入後のスラグ温度が1300℃となるように加熱温度をバーナーを用いて調整した。また、これとは別に、製鋼スラグ1トンを溶融状態のまま、1350℃の溶銑が2トン保持されたスラグ処理炉に装入した。その結果、バーナーを用いることなく、装入後のスラグ温度を1300℃とすることができた。本実験の実験条件を表2に、また、改質材として用いた石炭灰及び珪砂の組成を表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表2に示すように、まず、比較例として、珪砂を添加した後、浸漬ランスよりコークス及び石炭灰を、キャリアガスとして酸素ガスを用いてスラグ内に吹き込んだ。このときの添加量は、石炭灰については100kg/T(スラグ1トンに対して石炭灰100kg)で一定とし、珪砂については、処理前のスラグ組成から塩基度1になるように算出した量とした。コークス量は、熱バランス計算から100kg/Tを目安に吹き込み、処理後のスラグ温度1500℃を目標に、処理中のスラグの測温結果に応じて調整した。この例では、コークス吹込み量105kg/T、酸素量114m/Tの時点でスラグ浴温度が1500℃を超えたため、処理を終了した。炉内発生ガスは、OG方式の未燃焼ガス回収装置にて除塵・冷却・回収するとともに、連続的にガス成分分析を行い、得られたガス成分と流量から、発生したCO量を評価した。結果を指数にして表4に示した。なお、表4における「発生CO指数」とは、比較例で発生したCOの容量(1とする)に対する実施例で発生したCOの容量の比を示している。
【0058】
【表4】

【0059】
また、改質及び還元処理後のスラグは排滓ポットに排出後、冷却し分析を行った。その結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
表5に示すように、還元材にコークスのみを用いた比較例では、T.Feは12.1質量%までしか低下せず、f.CaOも3.5質量%までしか低下しなかった。
【0062】
これに対して、実施例1ではポリスチレンを、実施例2ではポリ塩化ビニルを、実施例3ではポリプロピレンを還元材として、浸漬ランスよりスラグ中に吹き込んだが、いずれもT.Feは5質量%以下まで低下しており、f.CaOも1質量%未満まで低下した。また、還元処理により発生したCO量も比較例に対して半分以下となった。
【0063】
実施例4〜6では、還元材としてコークスとプラスチックを混合して用いたが、プラスチックの配合比率を増加させると、ほぼ同じ還元材原単位であっても、より低いT.Fe量、及び、より低いf.CaO量まで低減されていることがわかる。
【0064】
また、実施例7では、ポリエチレンを炉底部に設けた底吹き羽口から表6に示す吹き込み条件で吹き込んだ。表6中、Qcalは上述した(II)式による吹き抜け限界流量、Qactは実際の吹き込み流量であり、(II)式の範囲内で吹き込みを行った結果、特に異常もなく安定した吹き込みが可能であり、T.Fe量、f.CaO量ともに低い値となった。また、還元処理により発生したCO量も比較例に対して半分以下であった。
【0065】
【表6】

【0066】
なお、本実施例では、予め選別されてK値が既知の廃プラスチックを用いたが、産業ゴミなどとして収集される廃プラスチックには不純物やK値の小さい物質も含まれることから、予めこれらの値を把握しておき、適宜、配合して使用することで実施できる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】K値の範囲を検討するための予備実験に使用した実験装置を示す説明図である。
【図2】同予備実験による改質及び還元処理後のT.FeとK値との関係を示すグラフである。
【図3】同予備実験による改質及び還元処理後のf−CaOとK値との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の構成の一例を示す説明図である。
【図5】本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の構成の一例を示す説明図である。
【図6】本発明に係る製鋼スラグの処理方法を実施するための操業設備の構成の一例を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に装入された溶融状態の製鋼スラグにSiO含有物質および還元用物質を添加し、前記製鋼スラグの改質処理および還元処理を溶融状態で行う製鋼スラグの処理方法であって、
前記還元用物質の一部または全部として、下記式(I)で表されるK値が1以上である廃プラスチックを使用することを特徴とする、製鋼スラグの処理方法。
K値 = (H−O/2)/C ・・・(I)
前記式(I)で、H、O、Cは、それぞれ、廃プラスチック中に含有される水素、酸素、炭素のモル数である。
【請求項2】
前記溶融状態の製鋼スラグは、溶銑が保持された前記反応容器に装入されることを特徴とする、請求項1に記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項3】
前記廃プラスチックの前記製鋼スラグへの添加は、浸漬ランスを用い、キャリアガスと共に水平より下方に吹き込む方法により行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項4】
前記廃プラスチックの前記製鋼スラグへの添加は、底吹羽口を用い、下記式(II)を満足する条件で吹き込む方法により行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製鋼スラグの処理方法。
Q/N ≦ 13×(ρ/ρ−1/2×H3/2×d ・・・(II)
Q:羽口全体からのガス流量(Nm/分)
N:羽口本数
ρ:吹き込み物とキャリアガスの平均密度(kg/m
ρ:スラグ密度(kg/m
d:羽口径(m)
H:吹き抜け高さ(m)




【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−114023(P2009−114023A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288989(P2007−288989)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】