説明

複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法

【課題】
複合圧力容器のプラグ部分の突出量を抑制し、又複合圧力容器をプラグを装着したままで落下させたとしても、プラグ部分から局部的な衝撃力が伝達されない様にし、落下によりライナが損傷することを防止する。
【解決手段】
両端部にボス部4,5が形成された金属製のライナ2と、該ライナの外層に繊維強化プラスチック層3が形成され、一方のボス部5がプラグ8によって封止される複合圧力容器1であって、前記プラグの頭の外径が前記ボス部の外径と同じ又は略同じであり、前記ボス部の周囲に形成される前記繊維強化プラスチック層の厚みが前記プラグの頭の高さと同じ又は前記プラグの頭の高さより所要量高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉の金属製ライナを繊維強化プラスチック層で強化した複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃料として圧縮天然ガスが用いられ、或は自動車の動力源として燃料電池が用いられており、圧縮天然ガスを収納するタンク、燃料電池の燃料を収納するタンクとして複合圧力容器が用いられる。複合圧力容器は、薄肉の金属製ライナを繊維強化プラスチック層で強化した構造を有し、高強度、軽量、低コストであるという利点を有している。
【0003】
従来の複合圧力容器について図5により説明する。
【0004】
図5中、1は複合圧力容器、2は金属製、例えばアルミ製のライナであり、該ライナ2の外側には繊維強化プラスチック層3が形成された2層構造となっている。
【0005】
前記ライナ2は薄肉板厚の円筒体の両端部を絞り加工、例えばスピニングで加工した円筒形状をしており、前記ライナ2の外面に合成樹脂を含浸した強化繊維が張力を付加した状態で巻設され、前記繊維強化プラスチック層3が形成される。
【0006】
前記強化繊維に付加する張力は、前記強化繊維の巻設によって前記ライナ2全面に於いて中心方向の予圧が生じる様になっており、前記強化繊維の巻設方向は胴部(円筒部)では円周に沿った方向であり、又端部では前記強化繊維の作用力が接触面に概ね垂直となる方向、例えば図5中、A方向に巻設する。
【0007】
前記ライナ2の両端部は絞り加工で成形される為、両端中心部には小径円筒形のボス部4,5が形成される。一方のボス部4には容器弁6が設けられ、該容器弁6を介して図示しない配管に接続される。又他方のボス部5にはプラグ7が螺着され、該プラグ7によって前記ボス部5が気密に封止される。前記プラグ7の螺着作業には、例えばスパナ等が用いられ、この為前記プラグ7の頭は6角形状となっており、又厚み(高さ)もスパナが掛かる様な厚みとなっている。
【0008】
前記複合圧力容器1に於いて、端部には内圧により曲げモーメントが発生する為、或は落下時に衝撃力が作用する為、前記ボス部4,5の基部の屈曲部位は充分な強度を有する様に板厚t2が厚肉となっており、更に繊維強化プラスチック層3の端部部分は肉厚に成形される。又、前記ボス部5には前記プラグ7がスパナ等の工具により螺着される為、該プラグ7の頭は完全に露出している必要があり、前記ボス部5の軸長の長さはL2であり、該ボス部5の先端は前記繊維強化プラスチック層3より突出した様になっている。
【0009】
この為、前記繊維強化プラスチック層3の表面から前記ボス部5の先端が突出し、前記プラグ7の頭が突出するので、突出量が大きくなり、前記複合圧力容器1を設置する場合の障害になる場合がある。
【0010】
又、前記複合圧力容器1の設計確認試験の1つとして、前記プラグ7を装着したままでの落下試験を行うことがあるが、落下時に該プラグ7が直接接地する様な落下状態では、衝撃力が該プラグ7を介して前記ボス部5に作用する。
【0011】
図6は、複合圧力容器1が前記プラグ7から落下した場合の衝撃力の伝達状態を示しており、前記ボス部5に伝達された衝撃力によって前記ボス部5の基部の屈曲部位又は近傍に大きな剪断力Sが発生する。この為、前記ボス部5、或は該ボス部5の近傍の部位が損傷する虞れがあり、更に損傷を防止する為に、屈曲部位は板厚t2の肉厚を更に厚くしなければならず、容器の重量の増大の要因の1つとなっていた。
【0012】
【特許文献1】特開2006−194332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は斯かる実情に鑑み、複合圧力容器のプラグ部分の突出量を抑制し、又複合圧力容器にプラグを装着したままで落下させたとしても、プラグ部分から局部的な衝撃力が伝達されない様にし、落下によりライナが損傷することを防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、両端部にボス部が形成された金属製のライナと、該ライナの外層に繊維強化プラスチック層が形成され、一方のボス部がプラグによって封止される複合圧力容器であって、前記プラグの頭の外径が前記ボス部の外径と同じ又は略同じであり、前記ボス部の周囲に形成される前記繊維強化プラスチック層の厚みが前記プラグの頭の高さと同じ又は前記プラグの頭の高さより所要量高くなっている複合圧力容器に係るものである。
【0015】
又本願発明は、両端部にボス部が形成されたライナのボス部にライナ支持軸を連結する工程と、前記ライナの外周に合成樹脂を含浸した強化繊維を巻設すると共に前記ボス部及び前記ライナ支持軸の先端部に掛渡って合成樹脂を含浸した強化繊維を巻設する工程と、合成樹脂を硬化させ、前記ライナの外周に繊維強化プラスチック層を形成すると共に前記ボス部の周囲に該ボス部より突出する環状の周囲部分を形成する工程とを具備する複合圧力容器の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、両端部にボス部が形成された金属製のライナと、該ライナの外層に繊維強化プラスチック層が形成され、一方のボス部がプラグによって封止される複合圧力容器であって、前記プラグの頭の外径が前記ボス部の外径と同じ又は略同じであり、前記ボス部の周囲に形成される前記繊維強化プラスチック層の厚みが前記プラグの頭の高さと同じ又は前記プラグの頭の高さより所要量高くなっているので、複合圧力容器が前記プラグから落下した場合に、衝撃力は前記ボス部周囲の前記繊維強化プラスチック層に分散される為、大きな衝撃力が前記ボス部に作用せず、複合圧力容器の落下による破損を防止でき、前記ボス部の基部の板厚を薄くでき複合圧力容器の軽量化が図れ、更にプラグ部分の突出部の高さを小さくできることから、プラグ部分の干渉が避けられ、複合圧力容器を設置する場合の制約が少なくなる。
【0017】
本発明によれば、両端部にボス部が形成されたライナのボス部にライナ支持軸を連結する工程と、前記ライナの外周に合成樹脂を含浸した強化繊維を巻設すると共に前記ボス部及び前記ライナ支持軸の先端部に掛渡って合成樹脂を含浸した強化繊維を巻設する工程と、合成樹脂を硬化させ、前記ライナの外周に繊維強化プラスチック層を形成すると共に前記ボス部の周囲に該ボス部より突出する環状の周囲部分を形成する工程とを具備するので、ボス部に衝撃力が作用することを防止する前記環状の周囲部分を既存の設備により容易に形成することができる等の優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る複合圧力容器1を示しており、図1中、図5中で示したものと同等のものには同符号を付してある。
【0020】
金属製、例えばアルミ製の円筒体の両端部を絞り加工し、該両端部がボス部4、ボス部5を残して閉塞された中空筒体であるライナ2が形成される。前記ボス部4には容器弁6(図5参照)が取付けられる。
【0021】
前記ボス部5の内部には螺子が刻設され、前記ボス部5にはプラグ8が気密に螺着される。前記ボス部5の軸長の長さL1は、前記プラグ8の螺子部の長さと同一、或は略同一の長さとなっている。又前記プラグ8の頭は、図2に見られる様に円形となっており、前記ボス部5を気密に閉塞する為に必要な厚みとなっている。
【0022】
前記プラグ8の頭の中心には、工具が嵌合する為の穴、例えば六角穴9が形成され、前記プラグ8を前記ボス部5に螺着する場合は、前記六角穴9に六角レンチを挿入してプラグ8を回転する様になっている。
【0023】
前記ライナ2の外面に合成樹脂を含浸した強化繊維が張力を付加した状態で巻設され、合成樹脂を硬化させ繊維強化プラスチック層3が形成される。前記強化繊維の巻設は、胴部(円筒部)では円周に沿った方向であり、又端部では強化繊維の作用力が接触面に垂直となる方向である(図5中、A方向参照)。
【0024】
本実施の形態では、前記ライナ2の端部、特に前記ボス部5の周囲部分3aに形成される前記繊維強化プラスチック層3の肉厚が、前記ボス部5の軸長の長さL1を超えたものとなっており、軸長の長さL1を超える量uは、前記プラグ8の頭の高さvと同じか、好ましくは高さvより大きくする(図4参照)。尚、前記周囲部分3aが前記プラグ8より突出する量(u−v)は、好ましくは5mm程度とする。
【0025】
図3は、前記周囲部分3aが前記プラグ8の頭の高さvより大きく形成された場合の複合圧力容器1を示し、該複合圧力容器1が前記プラグ8から落下した場合の衝撃力の伝達状態を示している。
【0026】
前記周囲部分3aは前記プラグ8より盛上がっているので、落下による衝撃力は前記周囲部分3aに作用する。衝撃力は前記繊維強化プラスチック層3の内部を通って前記ライナ2に作用するが、衝撃力が前記繊維強化プラスチック層3の内部を伝達する過程で分散され、前記繊維強化プラスチック層3と前記ライナ2との境界面で広がって前記ライナ2に伝達される。
【0027】
従って、前記ライナ2の前記ボス部5の基部の屈曲部位又は近傍に剪断力Sは発生せず、局部的な応力の発生もない。この為、前記ボス部5の基部の屈曲部の肉厚は、落下による衝撃を考慮する必要がなく、板厚t1(図1参照)は図5で示した複合圧力容器1の板厚t2より小さくすることができる。
【0028】
又、前記ボス部5の軸長L1は前記プラグ8の螺子部の長さだけあればよく、該プラグ8の頭はスパナ等で回す必要がないので頭の高さvを低くでき、従って、前記ボス部5部分の突出量を小さくできる。
【0029】
尚、前記超える量uを前記プラグ8の頭の高さvより大きくしたが、同一としてもよい、この場合、落下時の衝撃力は前記プラグ8と前記周囲部分3a部分に分散されて伝達され、前記ボス部5の基部に局部的に発生する応力を軽減できる。
【0030】
又、前記ボス部5の基部の板厚t1を薄くでき、容器重量の軽量化が図れる。
【0031】
次に、前記ボス部5周辺部の周囲部分3aの形成について、図4を参照して説明する。
【0032】
図4は前記ライナ2の周囲に繊維強化プラスチック層3を形成する、繊維強化プラスチック層形成装置の一部を示している。尚、繊維強化プラスチック層形成装置としては後述するライナ支持軸の先端部の外径を変更するだけで既存の繊維強化プラスチック層形成装置が使用可能である。
【0033】
図4中、11は繊維強化プラスチック層形成装置のライナ支持軸を示し、該ライナ支持軸11は回転可能であり、該ライナ支持軸11の先端部12には螺子が刻設されている。該先端部12が前記ボス部4(図示せず)と前記ボス部5に螺合され、前記ライナ支持軸11は前記ボス部5に連結される。この状態で、前記ライナ支持軸11は前記ライナ2と同心となっており、該ライナ2は前記ライナ支持軸11を介して回転自在に支持される。
【0034】
前記ライナ支持軸11の先端部には離型処理が施され、離型処理が施される先端部の軸径は、前記ボス部5の外径と同一、又は略同一となっている。尚、前記プラグ8の頭の外径が前記ボス部5の外径より小さい場合は、前記ライナ支持軸11の先端部の外径は、前記プラグ8の頭の外径と同一、又は略同一とする。
【0035】
次に、前記ライナ2端部での繊維強化プラスチック層3の成形について説明する。尚、図中矢印Aは強化繊維の巻設方向を示している。
【0036】
前記ライナ2を回転させながら、前記ボス部5と前記ライナ支持軸11の先端部に掛渡り、合成樹脂を含浸した強化繊維を前記ボス部5の周辺部に、該ボス部5の高さを超えて巻設する。巻設後、合成樹脂を硬化させ、繊維強化プラスチック層3を形成する。
【0037】
前記ライナ支持軸11の先端部は成形型の一部として機能し、該ライナ支持軸11の先端部の周囲にも前記繊維強化プラスチック層3が形成され、又前記ボス部5の周囲には環状の前記周囲部分3aが形成される。
【0038】
該周囲部分3aの高さuは、前記プラグ8の頭の高さvと同一か、或はより高くし、好ましくは、前記プラグ8の頭の高さvより高くする。
【0039】
合成樹脂を硬化させ、前記ライナ支持軸11を取外す。前記プラグ8を気密に前記ボス部5に螺着し、該ボス部5を気密に封止する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る複合圧力容器を示す断面図である。
【図2】該複合圧力容器に用いられるプラグの正面図である。
【図3】該複合圧力容器がプラグ部分から落下した場合の衝撃力の伝達を示す説明図である。
【図4】該複合圧力容器端部での繊維強化プラスチック層の成形を示す説明図である。
【図5】従来の複合圧力容器の断面図である。
【図6】従来の複合圧力容器がプラグ部分から落下した場合の衝撃力の伝達を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 複合圧力容器
2 ライナ
3 繊維強化プラスチック層
4 ボス部
5 ボス部
6 容器弁
7 プラグ
8 プラグ
9 六角穴
11 ライナ支持軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部にボス部が形成された金属製のライナと、該ライナの外層に繊維強化プラスチック層が形成され、一方のボス部がプラグによって封止される複合圧力容器であって、前記プラグの頭の外径が前記ボス部の外径と同じ又は略同じであり、前記ボス部の周囲に形成される前記繊維強化プラスチック層の厚みが前記プラグの頭の高さと同じ又は前記プラグの頭の高さより所要量高くなっていることを特徴とする複合圧力容器。
【請求項2】
両端部にボス部が形成されたライナのボス部にライナ支持軸を連結する工程と、前記ライナの外周に合成樹脂を含浸した強化繊維を巻設すると共に前記ボス部及び前記ライナ支持軸の先端部に掛渡って合成樹脂を含浸した強化繊維を巻設する工程と、合成樹脂を硬化させ、前記ライナの外周に繊維強化プラスチック層を形成すると共に前記ボス部の周囲に該ボス部より突出する環状の周囲部分を形成する工程とを具備することを特徴とする複合圧力容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162294(P2009−162294A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284(P2008−284)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】