説明

誘導加熱調理器

【課題】加熱庫内でより効率的に食材を加熱することのできる誘導加熱調理器を得る。
【解決手段】箱状の加熱庫10と、高周波電流を供給されて高周波磁束を発生させるコイル40と、ループ状に形成され、加熱庫10内部の上部及び下部のそれぞれに着脱可能に設けられた一対の上ヒータ20、下ヒータ30とを備え、上ヒータ20、下ヒータ30は、コイル40から生じる高周波磁束と鎖交して起電力を発生する給電部21、31と、加熱庫10の上壁11又は下壁12に対してほぼ平行に設けられ、給電部21、31で発生した起電力により誘導電流が流れて発熱する加熱部22、32と、給電部21、31と加熱部22、32との間に介在し、両者の間に上下方向に段差を形成する接続部23、33とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱調理器に関し、特に、加熱庫において誘導電流式ヒータを加熱源として用いた誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加熱調理器として、加熱状態を調整することを目的として、誘導加熱を行う加熱プレートや加熱庫内の焼網の構造を工夫したものが提案されている。
このような加熱プレートに関する技術として、「プレート部30は、厚み38aを厚み38bよりも厚くしているので、調理器本体10の誘導加熱コイル11から鋼板31までの距離は、調理面33が下側にくると短く、調理面32が下側にくると長くなる。これにより、距離が長くなると、誘導電流が小さくなり、自然と火力が低くなり、逆の場合は、誘導電流が大きくなり、火力が強くなる。したがって、焼肉調理は高火力で、また、焼き物調理は低火力でうまく調理ができる。」というものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、焼網に関する技術として、「上記グリル網の対向する2辺に間隔寸法が異なる上向きの裏面支え足を突設し、かつ、上記グリル網の他の対向する2辺には、間隔寸法が異なる下向きの表面支え足を突設すると共に、上記グリル皿の内側には周方向に沿って段部を形成し、該段部に、上記グリル網の裏面支え足または/および表面支え足が嵌合または載置される凹凸部を形成し、上記グリル網の方向と表裏を変えることで、グリルバーナーとグリル網との高さを少なくとも3段階以上に調整できるように構成した」というものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−190591号公報(第4頁、図2、図3)
【特許文献2】特開平9−234163号公報(第2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、加熱プレート裏表の厚みを変えることで加熱状態を調整しようとするものであるが、プレートの厚みを変えるだけでは加熱状態の調整の幅には限界があった。また、加熱プレートに直接食材を載置する加熱調理には適用できるが、輻射により加熱する加熱調理には適用できなかった。
【0006】
上記特許文献2では、加熱庫内において食材を調理するためのグリル網の方向と表裏を変えることで、グリルバーナー(加熱源)とグリル網の上面との距離を変え、加熱状態を調整するようにしている。
しかし、特許文献2の技術では、加熱庫の上下両方に加熱源を設けた場合に効率的な加熱ができない。すなわち、グリル方向と表裏を変えることで、上側の加熱源とグリル網の上面とを近づけることはできるが、そうすると、食材は下側の加熱源からは離れてしまう。このような状態で加熱すると、食材に加熱ムラが生じたり生焼けになったりするおそれがあるため、使用者は加熱中に食材を裏返す必要があり、両面焼きが可能な加熱庫であるにもかかわらずそのメリットが低減してしまう。また、上下の加熱源の一方に近づけると他方からは遠ざかるため、全体として加熱効率が低下する可能性があった。
【0007】
また、上記特許文献1、特許文献2に記載の技術は、食材の上面あるいは下面からの加熱についてのものであるが、食材の側面の加熱については考慮されていない。食材の上面あるいは下面からの加熱だけであると、食材の食面に対する加熱が不十分であるために焼きムラや生焼けが生じる可能性があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、加熱庫内でより効率的に食材を加熱することのできる誘導加熱調理器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る誘導加熱調理器は、箱状の加熱庫と、高周波電流を供給されて高周波磁束を発生させるコイルと、ループ状に形成され、加熱庫内部の上部及び下部のそれぞれに着脱可能に設けられた一対のヒータとを備え、前記ヒータは、前記コイルから生じる高周波磁束と鎖交して起電力を発生する給電部と、前記加熱庫の上壁又は下壁に対してほぼ平行に設けられ、前記給電部で発生した起電力により誘導電流が流れて発熱する加熱部と、前記給電部と前記加熱部との間に介在して両者の間に上下方向に段差を形成する接続部とを備えたものである。
【0010】
本発明に係る誘導加熱調理器は、箱状の加熱庫と、高周波電流を供給されて高周波磁束を発生させるコイルと、ループ状に形成され、加熱庫の内部に配置されたヒータとを備え、前記ヒータは、前記コイルから生じる高周波磁束と鎖交して起電力を発生する給電部と、前記給電部で発生した起電力により誘導電流が流れて発熱する加熱部とを備え、前記加熱部は、前記加熱庫の上壁又は下壁に対してほぼ平行な水平加熱部と、前記加熱庫の高さ方向に延びる側面加熱部と有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱庫内の上部及び下部に設けられたヒータの上下を反転させることで、食材の上面及び下面とヒータとの距離を調整できるので、食材に応じて効率的に加熱することができる。
【0012】
本発明によれば、加熱庫内において食材の側面からも加熱することができるので、食材をより均一に、また、効率的に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係る加熱調理器の加熱庫10の断面模式図である。
【図2】実施の形態1に係る加熱庫10の主要部を説明する図である。
【図3】実施の形態1に係る加熱庫10の斜視図である。
【図4】実施の形態1に係る上ヒータ20及び下ヒータ30を説明する図である。
【図5】実施の形態1に係るコイル40に流れるコイル電流の方向と、上ヒータ20、下ヒータ30に流れる誘導電流の方向を説明する図である。
【図6】実施の形態1に係る加熱庫10の主要部の断面模式図である。
【図7】実施の形態2に係る上ヒータ20Aを説明する図である。
【図8】実施の形態2に係る加熱庫10の主要部の断面模式図である。
【図9】実施の形態3に係るヒータ60を説明する図である。
【図10】実施の形態3に係る他のヒータ60の構成例を説明する図である。
【図11】実施の形態3に係る加熱庫10の主要部の断面模式図である。
【図12】実施の形態3に係るヒータの変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る加熱調理器の加熱庫10の断面模式図であり、加熱庫10の前後方向の断面模式図である。図2は、実施の形態1に係る加熱庫10の主要部を説明する図である。図3は、実施の形態1に係る加熱庫10の斜視図である。以後、説明のため、図1の紙面左側に相当する方向を「前」、紙面右側に相当する方向を「後」、紙面上側に相当する方向を「上」、紙面下側に相当する方向を「下」と称する場合がある。
【0015】
図1に示すように、加熱庫10は、上壁11と、下壁12(底面)と、垂直方向に延びる後壁14と、同じく垂直方向に延びる側壁15a、15b(図1には図示せず、図3参照。)を備える。加熱庫10の前面には、開閉可能であって調理中の内部を観察できるように一部がガラスで構成された前扉13が設けられている。加熱庫10の内部には、ループ状に形成され導電体からなる着脱可能な上ヒータ20、下ヒータ30と、加熱庫10の後壁14に配設されたコイル40と、コイル40に隣接して配置された磁性材料からなるフェライトコアなどの磁性体41とを有する。また、加熱庫10の下壁12の上には、加熱対象である食材52から出る脂等を受けるための受皿50と、食材52を載置するための焼網51とを備える。
【0016】
コイル40は、例えば直径が0.3mmの銅線を樹脂などで被覆したものを19本撚り線にしたいわゆるリッツ線を、後壁14にほぼ平行な平面上にほぼ長方形状(各角部が湾曲した長方形状又はほぼ楕円形状も含む)に、例えば複数回(25回)巻回して形成されたものである。コイル40は、高周波電流を供給する電源回路(図示せず)に接続されている。高周波電流がコイル40に供給されることにより、これらの複数のリッツ線は、同一方向の電流(磁束)を形成する。
【0017】
磁性体41は、図2において電流が同一方向に流れるように配置された複数のリッツ線を、断面C字状(図1参照)に包囲するように配置されている。実施の形態1では、2つの磁性体41が、上ヒータ20及び下ヒータ30に対して配置されている。磁性体41は、たとえば一般的なIHクッキングヒータの加熱コイルの周囲に通常用いられるフェライトコアと同等の磁性材料を用いて形成することができる。磁性体41の断面形状をC字状にすることで、上ヒータ20及び下ヒータ30の給電部の温度上昇が小さくなるように構成している。
【0018】
磁性体41の断面C字状の内側方向には、断熱部材42が設けられている。断熱部材42は、例えば、ガラスウールやセラミックウールなどの断熱材とセラミックスとの二層構造とすることができる。コイル40は、上ヒータ20及び下ヒータ30と対向する部分において、磁性体41と断熱部材42によって挟まれた構造を有する。断熱部材42により、コイル40及び磁性体41は、加熱庫10の内部の高温の空気から断熱される。なお、断熱部材42は、上記構成例のほか、セラミックスのみで構成され、断熱材の代わりとして空気層や空気流をセラミックスとコイルとの間に設けたものであってもよい。
【0019】
このように構成されたコイル40、磁性体41、断熱部材42は、加熱庫10の後壁14の一部となるように配置される。なお、加熱庫10の残りの壁面(上壁11、下壁12を含む)は、鉄やステンレス等の金属、あるいはセラミックスまたはガラスなどの絶縁材料など、耐熱性材料を用いて構成される。このような構成により、加熱庫10は、耐熱性材料からなる上壁11、下壁12、前扉13、後壁14、側壁15a、15bによって閉じられる筐体を構成する。なお、加熱庫10の上壁11、下壁12等の内面には、防汚効果及び遠赤外線効果を目的とした各種コーティングを施しておくことが望ましい。
【0020】
上ヒータ20と下ヒータ30は、コイル40から生じる高周波磁束と鎖交する電気的に閉じられた閉ループ(閉回路)を構成したものであり、電流が流れることにより発生するジュール熱により発熱させるようにしたものである。上ヒータ20は、給電部21と、加熱部22と、給電部21と加熱部22とを接続する接続部23とを備える。上ヒータ20は、給電部21と加熱部22と接続部23とが連なって閉ループ(閉回路)を構成している。
【0021】
本実施の形態では、給電部21と接続部23は、同一構造(同一材料)で一体的に形成されている。
給電部21と接続部23は、加熱部22に対して相対的に電気抵抗が低い部分である。なお、ここでいう電気抵抗の高低は、給電部21、接続部23と加熱部22の単位長さあたりの電気抵抗の相対的な高低である。
たとえば、給電部21、接続部23と、加熱部22とを同一金属で作製する場合は、給電部21、接続部23を中身の詰まった棒(中実棒)で作製し、加熱部22をパイプ(中空棒)で作製して、両者を溶接などの方法で接続することができる。また、両者を異種の金属で作製する場合は、給電部21、接続部23を銅等の電気抵抗の低い金属で作製し、加熱部22をステンレス等の電気抵抗のより高い金属で作製することができる。
また、給電部21、接続部23と、加熱部22とは、互いに異なる構造及び材質で作製してもよい。例えば、給電部21、接続部23を外径6mmの銅あるいは銅合金からなる中実棒で作製し、加熱部22を外径6mm、半径方向の厚み0.3〜1mmのステンレスパイプ(中空棒)で作製し、接続部23の端部と加熱部22の端部とを溶接あるいはロウ付けにより接続してもよい。
【0022】
上ヒータ20、下ヒータ30は、給電部21、給電部31が断熱部材42の水平方向に延びる凹状の溝部43内に嵌合されて支持される。上ヒータ20、下ヒータ30は、溝部43に対して取り外し可能に嵌合されており、前扉13を開くことで、上ヒータ20、下ヒータ30を加熱庫10内に対して着脱可能である。
【0023】
図3に示すように、加熱庫10の側壁15a、15bには、その前後方向に沿って、溝部17a、17b、17c、17d(以下、溝部17と総称する場合がある)を備えている。溝部17は、焼網51をほぼ水平に支持するための焼網支持構造である。なお、焼網51を支持することのできるものであれば、溝形状に限らず、焼網51を載置可能な凸形状等の焼網支持構造を設けてもよい。
【0024】
次に、上ヒータ20、下ヒータ30の形状について説明する。
図4は、実施の形態1に係る上ヒータ20及び下ヒータ30を説明する図であり、(a)は上ヒータ20の斜視図、(b)は上ヒータ20の平面図、(c)は上ヒータ20の側面図、(d)は下ヒータ30の側面図である。
【0025】
上ヒータ20は、幅方向、奥行き方向、及び高さ方向に延びる部分を有する三次元的な形状を有している。より詳しくは、ほぼ水平に直線状に延びる給電部21の左右両端部から、前方に向かって延びた後に高さ方向に向かって延びる接続部23が連なり、両方の接続部23の端部同士を接続するように加熱部22が設けられている。なお、図4(a)では上ヒータ20を構成する各部を区別して説明するため、接続部23と他の部分を塗り分けている。
【0026】
加熱部22は、本実施の形態1では、上壁11又は下壁12に対してほぼ平行に構成されている。加熱部22は、幅方向に複数回折り曲げられており、このようにすることで、加熱庫10内における温度分布を均一化している。なお、加熱部22の折り曲げ回数や折り曲げ形状は図示のものに限らず、加熱庫10内の大きさや加熱対象によって適宜変更することができる。
【0027】
接続部23は、加熱部22と給電部21とが高さ方向に段差を有するように構成されている。接続部23は、本実施の形態1では、給電部21の両端からほぼ水平に延びる水平部23aと、水平部23aの先端から高さ方向に延びる起立部23bとを有し、側面から見るとL字状である。なお、起立部23bは、図4等では垂直に記載しているが、加熱部22側あるいは給電部21側に向かって傾斜していてもよい。
ここで、接続部23の段差の高さを、高さxと称する。
【0028】
下ヒータ30は、上ヒータ20と同様に、給電部31と、加熱部32と、接続部33とを有している。また、接続部33は、水平部33aと垂直部33bとを有しており、側面から見るとL字状である。下ヒータ30は、基本的には上ヒータ20と同様の構成であるが、接続部33の段差の高さyが、上ヒータ20の接続部23の高さxと異なる。
【0029】
次に、上ヒータ20と下ヒータ30による加熱動作について説明する。図5は、実施の形態1に係るコイル40に流れるコイル電流の方向と、上ヒータ20、下ヒータ30に流れる誘導電流の方向を説明する図である。図5では、説明のため、コイル40、上ヒータ20、及び下ヒータ30のみ記載している。
【0030】
図5に示すように、コイル40に図示しない電源回路から20〜100kHzの高周波電流が供給されると、コイル40にコイル電流が流れ(図5のA1参照)、コイル40の周囲に高周波磁束(図5のA2参照)が発生する。コイル40から生じた高周波磁束は、磁気抵抗が小さい磁性体41を通って、上ヒータ20と下ヒータ30に鎖交する。このとき、電気的に閉じた(閉ループを構成する)上ヒータ20、下ヒータ30に、鎖交した高周波磁束による誘導電流が発生し(図5のA3参照)、誘導電流によるジュール熱が上ヒータ20、下ヒータ30に発生する。上ヒータ20、下ヒータ30の加熱部22、32は電気抵抗が高いため、この加熱部22、32においてより大きなジュール熱が発生する。そして、上ヒータ20、下ヒータ30からの輻射熱と、上ヒータ20、下ヒータ30により加熱された高温空気により、加熱庫10内の食材52を加熱することができる。
【0031】
次に、このように構成された加熱庫10において、上ヒータ20及び下ヒータ30と、焼網51に載置された食材52との高さ調節について説明する。
図6は、実施の形態1に係る加熱庫10の主要部の断面模式図である。図6(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、上ヒータ20と下ヒータ30の向きを異なるパターンで配置した例を示している。なお、図6の説明において、上ヒータ20の加熱部22が給電部21よりも上となる向き(図4(c)の向き)を、便宜上、上ヒータ20が「上向き」であると称し、上ヒータ20の給電部21が加熱部22よりも上となる向き(図4(c)の上ヒータ20を上下反転させた向き)を、上ヒータ20が「下向き」であると称する。このことは、下ヒータ30についても同様である。
【0032】
まず、各部の寸法について説明する。図6において、溝部43に設置した状態における上ヒータ20の給電部21と下ヒータ30の給電部31との高さ方向の距離を、距離zと称する。また、加熱庫10内の高さを、全高vと称する。高さx、高さyについては図4で説明した通りである。これらx、y、z、vは、以下のような関係となるように構成されている。
(x+y+z<v)かつ(z>x+y)
【0033】
次に、上ヒータ20と下ヒータ30の設置例を説明する。
図6(a)は、上ヒータ20を上向きにするとともに下ヒータ30を下向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離が、最も離れた状態となる。
図6(b)は、上ヒータ20を下向きにするとともに下ヒータ30を上向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離が、最も近づいた状態となる。
図6(c)は、上ヒータ20を下向きにするとともに下ヒータ30を下向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離は、2番目に離れた状態となる。
図6(d)は、上ヒータ20を上向きにするとともに下ヒータ30を上向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離は、2番目に近づいた状態となる。
【0034】
図6(a)〜(d)に示したように、上ヒータ20と下ヒータ30の上下方向の向きを変えて上ヒータ20と下ヒータ30とを設置することで、両者の発熱部間の距離を4段階に調整することができる。使用者は、食材52の高さに合わせて焼網51を溝部17a〜17dのいずれかに載置し、この焼網の上に食材52を載置して加熱調理を行う。
【0035】
たとえば、食材52の高さが高い場合には、図6(a)に示すようにして上ヒータ20と下ヒータ30とを設置する。このようにすれば、高さの高い食材52を加熱調理することができる。
また、食材52が薄く平らなものである場合には、図6(b)に示すようにして上ヒータ20と下ヒータ30とを設置する。また、食材52の高さに合わせて、図6(c)、図6(d)に示すようにして上ヒータ20と下ヒータ30とを設置する。
【0036】
このように、食材52の高さに合わせて上ヒータ20と下ヒータ30を設置することで、食材52の上面と上ヒータ20との距離を小さくすることができるとともに、食材52の下面と下ヒータ30との距離も小さくすることができ、食材52の上面と下面の両方を効率よく加熱できる。
【0037】
例えば、図6(b)に示すような薄く平らな食材52を加熱する場合を想定する。図6(a)、(c)、(d)に示すような上ヒータ20と下ヒータ30の発熱部間の距離が比較的大きい状態であると、食材52の下面と下ヒータ30との距離は近いために食材52の下面は比較的早く加熱されるが、食材52の上面は上ヒータ20からの距離が遠いために加熱されにくい。このように、食材52の上面と下面とで加熱状態の差が大きいと、焼きすぎや生焼けなどが生じて良好な加熱調理を行うことができない可能性がある。しかし、本実施の形態1によれば、食材52の高さに合わせて上ヒータ20と下ヒータ30の上下の向きを設置することで、加熱ムラや生焼けなどが生じにくい良好な加熱調理を行うことができる。また、食材52の上面と下面の双方に上ヒータ20と下ヒータ30の発熱部をより近づけることができるので、食材52の上下両面を短時間で効率的に加熱することができ、省エネに資するとともに調理時間が短縮できて使用者の使い勝手を向上させることができる。
【0038】
また、本実施の形態1では、食材52を載置するための焼網52を、加熱庫10内に設置するための焼網支持構造として、複数の溝部17a〜17dを設けた。このため、図6に示す上ヒータ20と下ヒータ30の向きの違いによる4パターンに加え、焼網51の高さ(溝部17a〜17dのいずれに載置するか)を調節することにより、さらに多様な焼き加減を実現できる。
【0039】
また、上ヒータ20と下ヒータ30は、例えば単なる棒状のヒータと比べると形状は複雑であるが、加熱庫10から着脱可能である。このため、上ヒータ20と下ヒータ30を加熱庫10から取り外すことで、上ヒータ20や下ヒータ30、並びに加熱庫10内の清掃も容易に行うことができる。
【0040】
なお、上ヒータ20と下ヒータ30を、上下入れ替えて設置することも可能である。すなわち、図6における上ヒータ20の位置に下ヒータ30を設置するとともに、下ヒータ30の位置に上ヒータ20を設置する。加熱庫10の全高vの高さや溝部43の設置高さを適宜設定することで、上ヒータ20と下ヒータ30を上下入れ替えて設置することも可能であり、上記と同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、実施の形態1では、上ヒータの発熱部と下ヒータの発熱部の双方に段差を設ける例を示したが、何れか一方のヒータにのみ段差を設けて、他方を段差のない構成とすることもできる。
【0042】
実施の形態2.
実施の形態1では、上ヒータ20の接続部23の段差の高さxと、下ヒータ30の接続部33の段差の高さyとが異なる例を示した。本実施の形態2では、上ヒータと下ヒータを同じ形状とした構成例を示す。なお、本実施の形態2では実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一又は対応する構成には同一の符号を付す。
【0043】
図7は、実施の形態2に係る上ヒータ20Aを説明する図であり、(a)は上ヒータ20Aの斜視図、(b)は上ヒータ20Aの側面図である。図7に示す上ヒータ20Aは、実施の形態1と同様に、給電部21と、加熱部22と、接続部23とを備える。また、図7には図示しないが、本実施の形態2の下ヒータ30Aは、上ヒータ20Aと同一の形状である。
【0044】
図8は、実施の形態2に係る加熱庫10の主要部の断面模式図である。図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ、上ヒータ20Aと下ヒータ30Aの向きを異なるパターンで配置した例を示している。なお、図8の説明において、上ヒータ20Aの加熱部22が給電部21よりも上となる向き(図7(b)の向き)を、便宜上、上ヒータ20Aが「上向き」であると称し、上ヒータ20Aの給電部21が加熱部22よりも上となる向き(図7(b)の上ヒータ20Aを上下反転させた向き)を、上ヒータ20Aが「下向き」であると称する。このことは、下ヒータ30Aについても同様である。また、図7(a)では説明のため、接続部23を白抜きで表示している。
【0045】
まず、各部の寸法について説明する。図8において、上ヒータ20Aの接続部23の段差の高さを、高さxと称する。この高さxは、下ヒータ30Aの接続部33の段差の高さに等しい。また、溝部43に設置した状態における上ヒータ20Aの給電部21と下ヒータ30Aの給電部31との高さ方向の距離を、距離zと称する。また、加熱庫10内の高さを、全高vと称する。これらx、z、vは、以下のような関係となるように構成されている。
(2x+z<v)かつ(z>2x)
【0046】
次に、上ヒータ20Aと下ヒータ30Aの設置例を説明する。
図8(a)は、上ヒータ20Aを上向きにするとともに下ヒータ30Aを下向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離が、最も離れた状態となる。
図8(b)は、上ヒータ20Aを下向きにするとともに下ヒータ30Aを上向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離が、最も近づいた状態となる。
図8(c)は、上ヒータ20Aを下向きにするとともに下ヒータ30Aを下向きにして、これらを溝部43に設置した状態である。このようにすると、加熱部22と加熱部32との距離が、図8(a)の状態よりも短くかつ図8(b)の状態よりも長くなる。
【0047】
図8(a)〜(c)に示したように、上ヒータ20Aと下ヒータ30Aの上下方向の向きを変えて上ヒータ20Aと下ヒータ30Aとを設置することで、両者の発熱部間の距離を3段階に調整することができる。使用者は、食材52の高さに合わせて焼網51を溝部17a〜17dのいずれかに載置し、この焼網51の上に食材52を載置して加熱調理を行う。
【0048】
たとえば、食材52の高さが高い場合には、図8(a)に示すようにして上ヒータ20Aと下ヒータ30Aとを設置する。このようにすれば、高さの高い食材52を加熱調理することができる。
また、食材52が薄く平らなものである場合には、図8(b)に示すようにして上ヒータ20Aと下ヒータ30Aとを設置する。また、食材52の高さに合わせて、図8(c)に示すようにして上ヒータ20Aと下ヒータ30Aとを設置する。
【0049】
このように、食材52の高さに合わせて上ヒータ20Aと下ヒータ30Aを設置することで、食材52の上面と上ヒータ20Aとの距離を小さくすることができるとともに、食材52の下面と下ヒータ30Aとの距離も小さくすることができ、食材52の上面と下面の両方を効率よく加熱できる。したがって、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0050】
さらに、本実施の形態2では、上ヒータ20Aと下ヒータ30Aとを同一形状とした。このため、上ヒータと下ヒータとで異なる形状とする場合と比べて、生産性がよく、低コストで上ヒータ20A及び下ヒータ30Aを製造することができる。清掃時などに上ヒータ20A及び下ヒータ30Aを取り外して再び取り付ける場合でも、上下を気にすることなく取り付けることができるので、使い勝手がよい。
【0051】
実施の形態3.
本実施の形態3では、食材の上面又は下面に加え、食材の側面側から加熱できるように構成した上ヒータ及び下ヒータの構成例を示す。なお、本実施の形態3では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一又は対応する構成には同一の符号を付す。
【0052】
図9は、実施の形態3に係るヒータ60を説明する図であり、(a)はヒータ60の斜視図、(b)はヒータ60の平面図、(c)はヒータ60の側面図、(d)はヒータ60の正面図である。本実施の形態3は、2つのヒータ60を、それぞれ、上ヒータと下ヒータとして加熱庫10内に備える。なお、図9(a)では説明のため、接続部63を白抜きで表示している。
【0053】
ヒータ60は、給電部61と、加熱部62と、給電部61と加熱部62とを接続する接続部63とを備える。また、加熱部62は、水平加熱部64と、側面加熱部65とを備える。ヒータ60は、給電部61と加熱部62(水平加熱部64、側面加熱部65)と接続部63とが連なって、閉ループ(閉回路)を構成している。
【0054】
実施の形態3の接続部63は、加熱部62と給電部61とを接続するという点では実施の形態1の接続部23と共通しているが、接続部23と異なり、加熱部62と給電部61との間に段差を設けないようにして両者を接続している。
【0055】
また、実施の形態3の加熱部62は、実施の形態1における加熱部22と同様の機能を発揮して加熱庫10内の食材52を加熱するものである。しかし、加熱部62は、その形状が加熱部22とは異なっており、水平加熱部64、及び側面加熱部65を有している。水平加熱部64は、加熱庫10の上壁11又は下壁12に対してほぼ平行である。側面加熱部65は、加熱庫10の側壁15a、15bに沿うように配置されて、食材52を側面から加熱するためのものである。側面加熱部65は、加熱庫10の側壁15a、15bとほぼ平行に加熱庫10の高さ方向に延び、さらに屈曲して水平加熱部64に連なる形状を有している。このような加熱部62を有するヒータ60は、ほぼ水平に直線状に延びる給電部61の左右両端部から、前方に向かって延びる接続部63が連なり、両方の接続部63の端部同士を接続するように加熱部62が設けられている。加熱部62は、加熱庫10の左右幅方向、高さ方向、及び奥行き方向に複数回屈曲して、水平加熱部64、及び側面加熱部65を構成している。
【0056】
なお、「水平加熱部」の「水平」とは、厳密に水平であることを言うものではなく便宜上の名称であり、箱状の加熱庫10の上壁11又は下壁12側から加熱庫10内を加熱可能とするために、上壁11又は下壁12にほぼ平行に設けられていればよい。
【0057】
また、側面加熱部65は、図9で示す形状に限らず、他の形状とすることもできる。図10は、実施の形態3に係る他のヒータ60の構成例を説明する図であり、(a)、(b)にそれぞれ異なる例を示している。図10(a)は、側面加熱部65が側面視でほぼ「V」字状に形成された例を示している。また、図10(b)は、側面加熱部65が側面視でほぼ「U」字状に形成された例を示している。図10(a)、(b)に示すような形状のほか、加熱庫10内において食材52を側壁15a、15b側から加熱できる形状であれば側面加熱部65の屈曲形状は問わない。
【0058】
図11は、実施の形態3に係る加熱庫10の主要部の断面模式図であり、加熱庫10を正面側から見た状態を示している。図11に示すように、加熱庫10の上方には、ヒータ60が上ヒータとして配置されており、加熱庫10の下方には、ヒータ60が下ヒータとして配置されている。下ヒータは、上ヒータとは上下を反転させた状態で設置されている。加熱庫10内に上ヒータとして設置されたヒータ60の水平加熱部64は、上壁11の下方に位置して、食材52の上面を中心に加熱する。また、下ヒータとして配置されたヒータ60の水平加熱部64は、下壁12の上方で焼網51の下方に位置して、食材52の下面を中心に加熱する。また、両方のヒータ60の側面加熱部65は、加熱庫10の側壁15a、15bに沿うように位置して、食材52の側面を中心に加熱する。
【0059】
このように、本実施の形態3に係る加熱庫10は、上ヒータ及び下ヒータとして備えたヒータ60により食材52の上面と下面のみならず、食材52の側面側からも加熱することができる。食材52に対して複数の方向から加熱できるので、食材52の加熱ムラを低減できる。また、食材52の上面、下面、及び側面から加熱できるので、食材52を短時間で効率的に加熱することができ、省エネに資するとともに調理時間が短縮できて使用者の使い勝手を向上させることができる。
【0060】
また、ヒータ60は、例えば単なる棒状のヒータと比べると形状は複雑であるが、加熱庫10から着脱可能である。このため、ヒータ60を加熱庫10から取り外すことで、ヒータ60や加熱庫10内の清掃も容易に行うことができる。
【0061】
また、上ヒータ及び下ヒータを、図11の状態に対して上下反転させて加熱庫10に設置してもよい。こうすると、側面加熱部65が食材52の上方あるいは下方に位置することとなるため、食材52を側面から加熱しないことが可能となる。反転可能にするためには、溝部43と上壁11(下壁12)との位置関係を、側面加熱部65が上壁11あるいは下壁12にぶつからないように設定する。このようにすることで、使用者は、食材52を側面から加熱しないという選択も可能となり、食材52に適した加熱方法を選択できるので使い勝手を向上させることができる。
【0062】
また、本実施の形態3ではヒータ60を上ヒータ及び下ヒータとして用いることとしたので、上ヒータと下ヒータとで異なる形状とする場合と比べて、生産性がよく、低コストでヒータ60を製造することができる。また、清掃時などにヒータ60を取り外して再び取り付ける場合でも、上下を気にすることなく取り付けることができるので、使い勝手がよい。
なお、本実施の形態3では、上ヒータと下ヒータの双方に側面加熱部を設ける例を示したが、上ヒータと下ヒータのいずれか一方に側面加熱部を設ける構成とすることもできる。
【0063】
なお、実施の形態1、2で示したヒータの段差部を、実施の形態3のヒータに組み合わせ、図12に示すようなヒータ形状としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 加熱庫、11 上壁、12 下壁、13 前扉、14 後壁、15a、15b 側壁、17a〜17d 溝部、20 上ヒータ、20A 上ヒータ、21 給電部、22 加熱部、23 接続部、30 下ヒータ、30A 下ヒータ、31 給電部、32 加熱部、33 接続部、40 コイル、41 磁性体、42 断熱部材、43 溝部、50 受皿、51 焼網、52 食材、60 ヒータ、61 給電部、62 加熱部、63 接続部、64 水平加熱部、65 側面加熱部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱状の加熱庫と、
高周波電流を供給されて高周波磁束を発生させるコイルと、
ループ状に形成され、加熱庫内部の上部及び下部のそれぞれに着脱可能に設けられた一対のヒータとを備え、
前記ヒータは、
前記コイルから生じる高周波磁束と鎖交して起電力を発生する給電部と、
前記加熱庫の上壁又は下壁に対してほぼ平行に設けられ、前記給電部で発生した起電力により誘導電流が流れて発熱する加熱部と、
前記給電部と前記加熱部との間に介在して両者の間に上下方向に段差を形成する接続部とを備えた
ことを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記一対のヒータのうち一方の前記ヒータの接続部の段差と、他方の前記ヒータの接続部の段差とを異なる高さとし、前記一方のヒータと他方のヒータの上下を反転させることで、前記一方のヒータの加熱部と前記他方のヒータの加熱部との距離を4段階以上に調整できるように構成された
ことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記一対のヒータのうち一方の前記ヒータの接続部の段差と、他方の前記ヒータの接続部の段差とを同じ高さとし、前記一方のヒータと他方のヒータの上下を反転させることで、前記一方のヒータの加熱部と前記他方のヒータの加熱部との距離を3段階以上に調整できるように構成した
ことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
箱状の加熱庫と、
高周波電流を供給されて高周波磁束を発生させるコイルと、
ループ状に形成され、加熱庫の内部に配置されたヒータとを備え、
前記ヒータは、
前記コイルから生じる高周波磁束と鎖交して起電力を発生する給電部と、
前記給電部で発生した起電力により誘導電流が流れて発熱する加熱部とを備え、
前記加熱部は、
前記加熱庫の上壁又は下壁に対してほぼ平行な水平加熱部と、
前記加熱庫の高さ方向に延びる側面加熱部と有する
ことを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記ヒータは、前記加熱庫に対し着脱可能である
ことを特徴とする請求項4記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記加熱庫の後壁に凹部を設け、この凹部に前記ヒータの前記給電部を着脱可能に嵌合させた
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−174576(P2012−174576A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36703(P2011−36703)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】