説明

誘電体セラミックおよびそれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】積層セラミックコンデンサの誘電体層として用いた場合に、寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることが可能な誘電体セラミックおよびそれを用いて誘電体層を形成した信頼性(寿命特性)に優れた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表わされ、0≦x≦0.20,0≦y≦0.40,0.001≦a≦0.20を満たすペロブスカイト化合物を主成分とし、このぺロブスカイト化合物1mol部に対して、Si化合物をSi換算で0<Si≦0.20mol部の割合で含有させる。
また、(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表されるぺロブスカイト化合物1mol部に対し、V,Mn,Fe,およびCuからなる元素群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、各元素換算で0.05mol部以下の割合で含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体セラミックおよびそれを用いたコンデンサに関し、詳しくは、BaTiO3系の誘電体セラミックおよびそれを誘電体層の構成材料として用いた積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型・軽量化にともない、小型で、大容量を取得することが可能な積層セラミックコンデンサが広く用いられている。この積層セラミックコンデンサは、例えば、図1に示すように、セラミック積層体(積層セラミック素子)10の内部に配設された内部電極12が、誘電体層であるセラミック層(誘電体セラミック層)11を介して積層され、かつ、セラミック積層体10の両端面には、交互に逆側の端面に露出した内部電極12と導通するように一対の外部電極13a,13bが配設された構造を有している。
【0003】
そして、このような積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体セラミック層を構成する材料として、高い誘電率を有するBaTiO3系セラミック材料が広く用いられている。
【0004】
ところで、積層セラミックコンデンサにおいて、さらなる小型化を進めようとすると、セラミック層(誘電体セラミック層)を薄層化することが必要になる。
【0005】
しかしながら、セラミック層が薄くなると、一層あたりにかかる電界強度が相対的に大きくなり、高温環境下などにおける寿命特性が低下するという問題点がある。
【0006】
そこで、このような問題点を解決する誘電体セラミックとして、Ba,CaおよびTiを含有し、かつ、一般式ABO3 で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を含む主成分と、Aの酸化物(ただし、Aは6配位時の有効イオン半径が0.065nm〜0.085nmの範囲にある陽イオン元素群から選択される少なくとも1種)を含む第5副成分とを有する誘電体磁器組成物であって、誘電体磁器組成物は、Ca元素を含有する複数の結晶粒子から構成されており、各結晶粒子の粒子内全体におけるCa濃度の平均値を粒内Ca濃度とした場合に、結晶粒子の相互間における粒内Ca濃度に、CV値で5%以上のばらつきが存在する誘電体磁器組成物(誘電体セラミック)が提案されている(特許文献1参照)。
そして、特許文献1においては、この誘電体磁器組成物は、比誘電率が高く、寿命などの特性に優れているとされている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1の誘電体磁器組成物を用いた場合にも、薄層化、小型化が進んだ近年の積層セラミックコンデンサにおいては、必ずしも近年求められているような特性を十分に実現することができないのが実情である。そのため、さらに寿命特性などの特性に優れた積層セラミックコンデンサを構成することが可能な誘電体セラミックの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−199534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、積層セラミックコンデンサの誘電体層として用いた場合に、寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることが可能な誘電体セラミックおよびそれを用いて誘電体層を形成した信頼性(寿命特性)に優れた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の誘電体セラミックは、
(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表わされ、
0≦x≦0.20,
0≦y≦0.40,
0.001≦a≦0.20
の条件を満たすペロブスカイト化合物を主成分とし、前記ぺロブスカイト化合物1mol部に対して、Si化合物をSi換算で0<Si≦0.20mol部の割合で含有すること
を特徴としている。
【0011】
また、本発明の誘電体セラミックにおいては、(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表されるぺロブスカイト化合物1mol部に対し、V,Mn,Fe,およびCuからなる元素群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、前記元素群より選ばれる元素換算で0.05mol部以下の割合で含有していることが望ましい。
【0012】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極とが一体的に積層された構造を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体層が、請求項1または2記載の誘電体セラミックから形成されていること
を特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の誘電体セラミックは、(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表わされ、0≦x≦0.20,0≦y≦0.40,0.001≦a≦0.20を満たすペロブスカイト化合物を主成分とし、このぺロブスカイト化合物1mol部に対して、Si化合物をSi換算で0<Si≦0.20mol部の割合で含有させるようにしているので、本発明の誘電体セラミックを用いて誘電体層を形成してなる積層セラミックコンデンサは、高温や高電界強度の環境下でも、良好な信頼性(寿命特性)を確保することが可能である。
【0014】
すなわち、本発明の誘電体セラミックにおいては、Geが、ペロブスカイト型複合酸化物をABO3で表した場合におけるBサイトに固溶することにより、酸素空孔の拡散が起こりにくくなる(Geが酸素空孔を安定化させる)と考えられ、その結果、高温や高電界強度の環境下における寿命特性(具体的には、高温負荷試験における寿命特性)が改善されるものと推測される。
【0015】
また、上記ぺロブスカイト化合物1mol部に対して、Si化合物をSi換算で0<Si≦0.20mol部の割合で含有させる(Siを0.20mol部以下の割合で含有させる)ようにしているので、それほど高い温度で焼成することを必要とせずに、寿命特性に優れた誘電体セラミックを提供することが可能になる。
【0016】
なお、上記のように、Si化合物をSi換算で0<Si≦0.20mol部の割合で含有させるのが好ましいのは、Siを含有させない場合、例えば1300℃を超えるような高温で焼成しても、十分に焼結させることができず、緻密な誘電体セラミックを得ることが困難であること、また、Siの割合が0.20mol部を超える場合、二次相の生成や異常な粒成長が生じ、絶縁抵抗値が低下する傾向があることによる。
【0017】
また、本発明の誘電体セラミックにおいては、(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表されるぺロブスカイト化合物1mol部に対し、V,Mn,Fe,およびCuからなる元素群より選ばれる少なくとも1種の化合物を元素換算で0.05mol部以下の割合で含有させるようにした場合、特性を制御して、所望の特性を備えた誘電体セラミックを実現することが可能になる。
【0018】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層が、本発明の誘電体セラミックから形成されているので、高温や高電界強度の環境のもとでも、良好な信頼性(寿命特性)を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例にかかる積層セラミックコンデンサの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0021】
(A)誘電体セラミック原料の作製
まず、主成分原料として、BaCO3,CaCO3,SrCO3,TiO2,GeO2の各粉末を準備した。
それから、これらの粉末を表1A,表1B,表1Cに示す組成になるように秤量した後、ボールミルにより混合し、乾燥することにより混合粉末を得た。
【0022】
次に、この混合粉末を1000℃前後で仮焼して合成することにより、本発明の誘電体セラミックの主成分となるペロブスカイト型複合酸化物:(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O3の粉末を作製した。
【0023】
なお、この実施例1では、主成分原料として、各元素の酸化物もしくは炭酸塩を使用したが、各元素の他の化合物を用いることも可能であり、その場合にも同様の効果が得られる。
【0024】
また、この実施例1では、仮焼による方法で(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O3を合成するようにしたが、本発明の誘電体セラミックの主成分となるペロブスカイト型複合酸化物は、共沈法、水熱法、蓚酸法などの他の方法で合成することも可能である。
【0025】
それから、上述のようにして作製した各(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O31mol部に対して、表1A,表1B,表1Cに示した割合になるように、
(1)V,Mn,Fe,Cuからなる元素(以下、「N元素」ともいう)群より選ばれる少なくとも1種の化合物(この実施例では酸化物)と、
(2)Mg,Al,Ni,Zn,Gaからなる元素(以下、「M元素」ともいう)群より選ばれる少なくとも1種の化合物(この実施例では酸化物)と、
(3)希土類元素(この実施例では、La,Nd,Sm,Gd,Dy,Y,Ho,Ybからなる元素群より選ばれる少なくとも1種)の化合物(この実施例では酸化物)と、
(4)SiO2
を加え、ボールミルにより水中にて混合した後、乾燥することにより、表1A,表1Bおよび表1Cに示すような組成を有する、試料番号1〜23の誘電体セラミック原料を得た。
【0026】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記(A)で作製した誘電体セラミック原料に、ポリビニルブチラール系バインダーおよび有機溶媒(この実施例1ではエタノール)を加えて、ボールミルにより所定の時間、湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。
【0027】
このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形し、焼成後の誘電体素子厚(誘電体セラミック層の厚み)が3.0μmになるようなセラミックグリーンシートを得た。
【0028】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、ニッケル粉末を導電成分とする導電ペーストをスクリーン印刷し、焼成後に内部電極となる導電ペースト層(内部電極パターン)を形成した。
【0029】
その後、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを、内部電極パターンが交互に逆側に引き出されるような態様で有効誘電体層(コンデンサ形成層)の層数が150層となるように積層し、さらに、上下両面側に、導電ペーストパターンが形成されていないセラミックグリーンシートを外層として積層することにより、積層ブロックを作製した。
なお、積層ブロックを作製する際の各セラミックグリーンシートの積層順序に、特別の制約はない。
【0030】
それから、この積層ブロックを所定の寸法となるようにカットすることにより得た未焼成の積層体を、大気中で250〜400℃に加熱してバインダーを燃焼させた。
【0031】
その後、H2−N2−H2Oガス雰囲気(還元性雰囲気)中、Ni/NiO平衡酸素分圧よりも1桁低い酸素分圧にて、1180〜1300℃、120分間保持の条件で焼成し、焼成済みの積層体(セラミック積層体)を得た。
【0032】
それから焼成済みの積層体の、内部電極が引き出された両端面に、Cu粉末を導電成分とする導電ペーストを塗布して、焼き付けることにより、内部電極と電気的に接続された外部電極(Cu外部電極)を形成した。
【0033】
これにより、図1に模式的に示すように、積層セラミック素子(セラミック焼結体)10の内部に配設された内部電極12が、誘電体層(誘電体セラミック層)11を介して積層され、かつ、積層セラミック素子10の両端面には、交互に逆側の端面に露出した内部電極12と導通するように一対の外部電極13a,13bが配設された構造を有する積層セラミックコンデンサ(特性測定用の試料)を得た。
【0034】
なお、得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ:3.2mm、幅:1.6mm、厚さ:0.86mmであり、内部電極12間に介在する誘電体セラミック層11の厚み(誘電体素子厚)は3.0μm、内部電極12の厚みは0.7μmであった。
また、有効誘電体セラミック層の総数は150であり、一層当たりの対向電極面積は2.5mm2であった。
【0035】
(C)特性の評価
上述のようにして作製した各試料(積層セラミックコンデンサ)について高温負荷試験(高温負荷寿命試験)を行った。高温負荷寿命試験は、温度125℃にて、60Vの電圧を印加し、絶縁抵抗の経時変化を測定することにより行った。高温負荷寿命試験は、それぞれ100個の試料について行い、1700時間経過するまでに、絶縁抵抗値が10kΩ以下になった試料を故障と判定した。そして、1700時間経過時点の故障数が10個以上のものを不良(×)、故障数が10個未満のものを良(○)と評価した。
その結果を表1A,表1B,表1Cに示す。
【0036】
【表1A】

【0037】
【表1B】

【0038】
【表1C】

【0039】
なお、表1A,表1B,表1Cにおいて、a,x,yの値は、誘電体セラミックの主成分を表す式:(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O3におけるa,x,yの値を示す。
【0040】
また、表1A,表1B,表1CにおけるN元素のV,Mn,Fe,Cuの値は、(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O31mol部に対する各元素(N元素)の割合(mol部)を示している。
【0041】
また、表1A,表1B,表1CにおけるSiの値は、(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O31mol部に対する、SiO2をSiに換算した場合のSiの割合(mol部)を示している。
【0042】
また、表1A,表1B,表1Cにおけるmの値は、誘電体セラミックを表す下記の式:
(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O3
におけるmの値を示す。
また、表1A,表1B,表1CにおけるM元素のMg,Al,Ni,Zn,Gaの値は、(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O31mol部に対する各元素(M元素)の割合(mol部)を示している。
【0043】
また、表1A,表1B,表1Cにおける、希土類元素のLa,Nd,Sm,Gd,Dy,Y,Ho,Ybの値は、(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O31mol部に対する希土類元素の割合(mol部)を示している。
【0044】
なお、表1A,表1B,表1Cにおいて、試料番号に※を付した試料(試料番号1,7,10,13,14,18は本発明の要件を備えていない試料(比較例としての試料)であり、その他の※印を付していない試料は、本発明の要件を備えた試料(本発明の実施例にかかる試料)である。
【0045】
表1Aの試料番号1の試料(比較例の試料)のように、Geを含まない試料の場合、高温負荷試験での絶縁抵抗の劣化が著しく、試験に供した100個の試料のうち、ほとんどの試料において、1700時間経過時点の絶縁抵抗値が10kΩ以下(故障)となり、好ましい寿命特性を得ることができなかった。
【0046】
一方、表1Aの試料番号7の試料(比較例の試料)のように、Geが0.30と本発明の範囲を超える場合、試験に供した100個の試料の大多数において、1700時間を経過した時点で、絶縁抵抗値が10kΩ以下となり、故障となることが確認された。これは、Geが二次相を形成したり、異常な粒成長を引き起こしたりすることによるものである。
【0047】
さらに、表1Bの試料番号10の試料のように、Ca量が本発明の範囲を超える場合や、表1Bの試料番号13のように、Sr量が本発明の範囲を超える場合にも、二次相が生成し、1700時間を経過した時点で、大部分の試料が絶縁抵抗値が10kΩ以下となること(故障が発生すること)が確認された。
【0048】
また、表1Bの試料番号14の試料のように、Si量が本発明の範囲を下回る場合、1300℃で焼成を行っているにもかかわらず、十分に焼結した緻密化な誘電体セラミックが得られないことが確認された。なお、この試料番号14の試料は誘電体セラミック層が未焼結であったことから、高温負荷試験は行わなかった。
【0049】
一方、表1Cの試料番号18の試料のように、Si量が本発明の範囲を超える場合、二次相の生成や異常な粒成長が観られ、1700時間を経過した時点で、大部分の試料が絶縁抵抗値が10kΩ以下となること(故障が発生すること)が確認された。
【0050】
これに対し、上述の試料番号1,7,10,13,14,18の試料(比較例の試料)以外の試料(試料番号に※印を付していない、本発明の実施例の試料)の場合、高温負荷寿命試験において、1700時間が経過した時点の故障数が10個未満であり、良好な寿命特性が得られることが確認された。
【0051】
なお、表1Cの試料番号19〜23の試料のように、主成分である(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O3に、希土類元素(La,Nd,Sm,Gd,Dy,Y,Ho,Ybなど)や、M元素(Mg,Al,Ni,Zn,Ga)を添加した場合にも、主成分が本発明に規定されている範囲内にある場合には、特性に問題となるような影響はないことが確認された。
【0052】
なお、本発明の誘電体セラミックにおいては、主成分のTiの一部がZrまたはHfで置換されていてもよい。
【0053】
さらに、上述の試料番号1,7,10,13,14,18の試料以外の、試料番号に※印を付していない、本発明の実施例の試料についは、mの値が1を超える場合およびmの値が1を下回る場合の(Mの値が1の場合を含む)のいずれの場合にも、良好な寿命特性が得られることが確認された。
【0054】
また、上記実施例1では特に示していないが、アルカリ金属や、遷移金属、Cl,S,Pなどの微量成分を含有させるようにした場合にも、本発明の効果は妨げられないことが確認されている。
【0055】
<参考例>
上記実施例1では、主成分原料として、BaCO3,CaCO3,SrCO3,TiO2,GeO2の各粉末を、表1A,表1B,表1Cに示す組成になるような割合で混合した混合粉末を、仮焼・合成することにより、ペロブスカイト型複合酸化物:(Ba1-x-y,Cax,Srym(Ti1-a,Gea)O3を作製するようにしたが、この参考例では、上記実施例1の場合と同様の方法で、Ge(GeO2)が配合されていないことを除いては、実施例1のものと同じ混合粉末を調整し、この混合粉末を仮焼して、(Ba1-x-y,Cax,Sry)TiO3を合成した。それから、この(Ba1-x-y,Cax,Sry)TiO3に対してGeを添加することにより、すなわち、Geを後添加することにより誘電体セラミック原料を作製した。
【0056】
なお、この参考例では、最終的に、表1Aの試料番号3の試料と同じ組成となるように、まず、Geを含まない(Ba1-x-y,Cax,Sry)TiO3を合成し、その後にGeを添加することにより、仮焼の段階ではGeを含まず、最終的な誘電体セラミック原料としては、Geを含み、組成が表1Aの試料番号3の誘電体セラミック原料と同じ誘電体セラミック原料を作製した。
【0057】
そして、この誘電体セラミック原料を用いて、セラミックグリーンシートを作製し、さらに、内部電極パターンの形成、セラミックグリーンシートを積層することによる積層ブロックの形成、カット、脱バインダー、焼成、外部電極の形成などの工程を経て積層セラミックコンデンサ(比較用の試料)を作製した。なお、積層セラミックコンデンサの製造方法は、上記実施例1の場合と同一とした。
【0058】
それから、得られた積層セラミックコンデンサについて、高温負荷試験(高温負荷寿命試験)を行った。高温負荷寿命試験は、上記実施例1の場合と同じく、温度125℃にて、60Vの電圧を印加し、絶縁抵抗の経時変化を測定することにより行った。
【0059】
その結果、仮焼の段階ではGeを含まず、仮焼後の段階でGeを添加してなるこの参考例にかかる誘電体セラミック原料を用いて作製した積層セラミックコンデンサの場合、1700時間を経過した時点で、大部分の試料が絶縁抵抗値が10kΩ以下となること(故障が発生すること)が確認された。
これは、仮焼段階でGeを含有させるようにした場合には、仮焼時にGeを含有させるようにした場合(表1Aの試料番号3の場合)とは異なり、Geが二次相を形成することによるものと考えられる。
【0060】
なお、上記実施例では、本発明の誘電体セラミックを積層セラミックコンデンサに用いているが、本発明にかかる誘電体セラミックは、積層セラミックコンデンサに限らず、LC複合部品などの他の電子部品にも用いることが可能である。
【0061】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、本発明の誘電体セラミックを製造する場合の各原料の種類、仮焼工程における条件、副成分の割合などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 積層セラミック素子
11 セラミック層
12 内部電極層
13a,13b 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表わされ、
0≦x≦0.20,
0≦y≦0.40,
0.001≦a≦0.20
の条件を満たすペロブスカイト化合物を主成分とし、前記ぺロブスカイト化合物1mol部に対して、Si化合物をSi換算で0<Si≦0.20mol部の割合で含有すること
を特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
(Ba1-x-y,Cax,Sry)(Ti1-a,Gea)O3で表されるぺロブスカイト化合物1mol部に対し、V,Mn,Fe,およびCuからなる元素群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、前記元素群より選ばれる元素換算で0.05mol部以下の割合で含有することを特徴とする、請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
複数の誘電体層と複数の内部電極とが一体的に積層された構造を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体層が、請求項1または2記載の誘電体セラミックから形成されていること
を特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25592(P2012−25592A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162585(P2010−162585)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】