説明

赤外線固体撮像素子及びその駆動方法

【課題】受光量の変化にともなう温度変化を抑制できる赤外線固体撮像素子及びその駆動方法を提供する。
【解決手段】赤外線固体撮像素子20は、赤外線を検出する複数の赤外線検出画素21aが2次元方向に配列された画素エリア21と、画素エリア21から映像信号を読み出して映像信号出力線41に出力する読み出し回路22,23とを有する。読み出し回路22,23は、更に所定のタイミングで温度センサ13の出力を映像信号出力線41に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線固体撮像素子及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な赤外線撮像装置では、赤外線撮像用イメージセンサとしてIRFPA(Infrared Focal Plane Array)等の赤外線固体撮像素子が使用されている。IRFPAは二次元方向に配列した複数の微小な赤外線検出部を有し、それらの赤外線検出部は入射光(赤外線)の量に応じて電気抵抗が変化する。
【0003】
各赤外線検出部の抵抗値は電圧に変換され、垂直シフトレジスタ及び水平シフトレジスタにより順次読み出されて、信号処理装置に送られる。信号処理装置では、IRFPAから送られてきた信号を処理して表示装置に出力する。このようにして、表示装置に赤外線画像が表示される。
【0004】
ところで、IRFPAは、検出器の容器内で冷却ステージ上に搭載され、冷凍機やペルチェ素子によって所定の温度(例えば−50℃以下)に冷却される。これは、熱による雑音を低減するためである。一方、信号処理装置は室温環境に配置され、検出器内のIRFPAと信号処理装置との間は配線で接続される。
【0005】
上述の赤外線撮像装置では、例えばIRFPAと信号処理装置とを接続する配線を介して検出器内に熱が浸入する。これにより、IRFPAの暗電流が変化して、IRFPAの出力信号が揺らぐ原因となる。そこで、検出器内に温度センサとヒータとを配置し、温度センサによる検出温度に応じてヒータに適宜電力を供給して、冷却ステージの温度を一定に保っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−162021号公報
【特許文献2】特開2009−250148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
受光量の変化にともなう温度変化を抑制できる赤外線固体撮像素子及びその駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術の一観点によれば、赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに温度センサに接続されて前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有する赤外線固体撮像素子が提供される。
【0009】
開示の技術の他の一観点によれば、赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに温度センサに接続されて前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有する赤外線固体撮像素子の駆動方法において、前記読み出し回路は、1フレーム毎又は1水平読み出し期間毎に1回、前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する赤外線固体撮像素子の駆動方法が提供される。
【0010】
開示の技術の更に他の一観点によれば、検出部と、前記検出部から出力される信号を信号処理する信号処理装置とを有し、前記検出部は、温度センサと、ヒータと、赤外線固体撮像素子とを有し、前記赤外線固体撮像素子は、赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有し、前記信号処理装置は、前記映像信号出力線から映像信号を抽出して信号処理し、表示装置に出力する映像信号処理回路と、前記映像信号出力線から前記温度センサの出力を抽出してラッチするラッチ回路と、前記ラッチ回路の出力に基づいて温度制御信号を出力し、前記ヒータに供給する温度制御回路とを有する赤外線検出装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記の一観点によれば、画素エリアから読み出した映像信号を伝達する映像信号線を用いて、温度センサの出力を伝達する。そして、その温度センサの出力に基づいてヒータに温度制御信号を出力する。これにより、受光量の変化にともなう赤外線固体撮像素子の温度変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、赤外線検出装置の概要を説明するブロック図である。
【図2】図2は、1フレーム毎に温度が高いものと温度が低いものとを撮影した場合の検出器の出力と、発熱と、冷却ステージの温度変化との関係を模式的に表した図である。
【図3】図3は第1の実施形態に係る赤外線検出装置の概要を説明するブロック図である。
【図4】図4は、同じくその赤外線検出装置の検出器を表した斜視図である。
【図5】図5は、検出器内の回路構成を説明する図である。
【図6】図6は、赤外線検出画素の回路構成を説明する図である。
【図7】図7は、赤外線固体撮像素子の動作を説明するタイミングチャートである。
【図8】図8は、第2の実施形態に係る赤外線検出装置の検出器内の回路構成を説明する図である。
【図9】図9は、同じくその赤外線検出装置の信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、赤外線固体撮像素子の動作を説明するタイミングチャートである。
【図11】図11は、基準電圧を変更可能な基準電圧発生回路として、抵抗分割回路を使用した例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について説明する前に、実施形態の理解を容易にするための予備的事項について説明する。
【0014】
図1は、赤外線検出装置の概要を説明するブロック図である。この図1のように赤外線検出装置は、検出器110と、信号処理装置130とを有する。検出器110と信号処理装置130との間は、映像信号出力線141、撮像素子駆動信号線142、温度信号線143及びヒータ駆動電力供給線144等の配線で接続されている。
【0015】
検出器110の容器内には、赤外線固体撮像素子(IRFPA)120、ヒータ112及び温度センサ113が搭載された冷却ステージ111が収納されている。この冷却ステージ111は、冷凍機又はペルチェ素子(図示せず)により所定の温度に冷却される。
【0016】
また、信号処理装置130は、A/D変換回路131、映像信号処理回路132、パルス発生回路133、LPF(ローパスフィルタ)回路134、A/D変換回路135、温度制御回路136及びD/A変換回路137を有している。
【0017】
赤外線固体撮像素子120は、複数の赤外線検出画素121aが垂直方向及び水平方向に配列した画素エリア121と、垂直シフトレジスタ122と、水平シフトレジスタ123とを有する。
【0018】
垂直シフトレジスタ122及び水平シフトレジスタ123には、信号処理装置130のパルス発生回路133から撮像素子駆動信号線142を介してパルス信号が供給される。垂直シフトレジスタ122及び水平シフトレジスタ123は、それらのパルス信号により決定されるタイミングで、画素エリア121の各赤外線検出画素121aから映像信号を読み出す。
【0019】
垂直シフトレジスタ122及び水平シフトレジスタ123により読み出された映像信号は、映像信号出力線141を介して信号処理装置130内のA/D変換回路131に伝達される。A/D変換回路131は、赤外線固体撮像素子120から読み出されたアナログの映像信号をデジタルの映像信号に変換し、映像信号処理回路132に伝達する。映像信号処理回路132は、A/D変換回路131から伝達された映像信号に対し種々の処理を施して、CRT又は液晶ディスプレイ等の表示装置(図示せず)に出力する。
【0020】
一方、温度センサ113は、冷却ステージ111の温度を検出し、その結果を温度信号線143を介して信号処理装置130のLPF回路134に出力する。この温度信号線143には、撮像素子駆動信号線142を通る高周波パルスの影響を受けて、誘導雑音(高周波の雑音)が重畳する。
【0021】
LPF回路134は、温度信号線143を介して温度センサ113から送られてくる温度信号から誘導雑音を除去して、A/D変換回路135に伝達する。A/D変換回路135は、温度センサ113から出力されたアナログの温度信号をデジタルの温度信号に変換する。温度制御回路136は、A/D変換回路135から出力された温度信号を信号処理し、冷却ステージ111の温度を一定とすべく温度制御信号を出力する。
【0022】
D/A変換回路137は、温度制御回路136から出力されたデジタルの温度制御信号をアナログの温度制御信号に変換し、ヒータ駆動電力供給線144を介してヒータ112に供給する。ヒータ112は、D/A変換回路137から供給された温度制御信号に応じた熱を発生し、冷却ステージ111の温度変化を抑制する。
【0023】
ところで、一般的に、赤外線検出装置において、暗電流の大きさは素子温度(IRFPAの温度)に依存する。そのため、素子温度が揺らぐと暗電流が変化する。この暗電流の変化は、赤外線を検知する際の雑音の原因となる。例えば、素子温度が1K変化すると、赤外線検出器の出力は100mV程度変化する。
【0024】
素子温度が一定の場合の赤外線検出器の出力に含まれる雑音成分は数100μV程度であるので、素子温度の揺らぎに起因する検出器出力の雑音を50μV以下にすることが望まれる。すなわち、素子温度の揺らぎを0.5mK以下とすることが望まれる。
【0025】
一方、赤外線固体撮像素子120内の出力アンプは、出力電圧の変動が原因になってその発熱量が変化する。例えば、撮像シーンの変化によって出力電圧が変われば、発熱量も変化する。また、撮像シーンの変化がなくても、通常は水平・垂直のブランキング期間と、撮像データを出力する期間とでは出力電圧が大きく異なるので、赤外線固体撮像素子120の発熱量は変化する。
【0026】
画像フォーマットが小さい赤外線固体撮像装置では、赤外線固体撮像素子の発熱量そのものが小さいため、発熱量の変動は高々10mW程度であり、素子温度の揺らぎを無視することができる。しかし、近年、画像フォーマットの大規模化によって赤外線固体撮像素子の出力アンプの消費電力が大きくなり、それにともなって赤外線固体撮像素子の発熱量の変動も例えば100mW程度と大きくなってきた。
【0027】
赤外線固体撮像素子の出力は、1フレーム毎に電圧が低い垂直ブランキング期間が設けており、また1フレームの期間内でも1ライン毎に電圧が低い水平ブランキング期間が設けてある。更に、撮像時には赤外線検出画素毎に出力電圧が異なるのが普通であるから、発熱量は、1フレーム期間内で変動し、より正確には1画素毎に変動する。
【0028】
図2は、図1に例示した赤外線検出装置において、1フレーム毎に温度が高いものと温度が低いものとを撮影した場合の検出器の出力と、発熱と、冷却ステージの温度変化との関係を模式的に表した図である。
【0029】
この図2のように、1フレーム毎に撮像対象の温度が異なるので、検出器の出力電圧も大きく変動し、その発熱量の変動によって冷却ステージの温度も変動する。
【0030】
冷却ステージは熱容量(例えば1J/K程度)を有するため、素子温度の変動は発熱量の変動よりも緩やかである。しかし、1フレーム期間の温度変動を見積もると、おおむね温度変動=発熱変動÷熱容量×1フレームの期間なので、1mK(=100mW÷1J/K×10msec)>0.5mKとなり、問題であることがわかる。
【0031】
図1に例示した赤外線検出装置においては、A/D変換回路135の前段にLPF回路134を配置し、このLPF回路134により高周波成分を除去している。このため、温度制御回路136には、例えば10Hz以下の温度変化しか伝達されず、短時間の温度変動を抑制することは難しい。
【0032】
冷却ステージ111の熱容量を10倍以上大きくすれば、短時間の温度変動を十分に抑制することができる。しかし、システムの運用上冷却に要する時間を短くする要求が大きいため、冷却ステージ111の熱容量はむしろ小さくする傾向にある。
【0033】
(第1の実施形態)
図3は第1の実施形態に係る赤外線検出装置の概要を説明するブロック図である。また、図4は、同じくその赤外線検出装置の検出器を表した斜視図である。
【0034】
図3のように、第1の実施形態に係る赤外線検出装置は、検出器10と、信号処理装置30とを有する。検出器10と信号処理装置30との間は、映像信号出力線41、撮像素子駆動信号線42及びヒータ駆動電力線44等の配線で接続されている。
【0035】
図4のように、検出器10の容器19はほぼ円筒状であり、容器19の内部には冷却ステージ11が配置されている。この冷却ステージ11には、赤外線固体撮像素子(IRFPA)20、ヒータ12及び温度センサ13が搭載されている。また、冷却ステージ11は、コールドフィンガ17を介して例えば冷凍機(図示せず)に熱的に接続され、所定温度に冷却されるようになっている。
【0036】
容器19の端部には赤外線透過窓18が設けられており、この赤外線透過窓18を介して容器19内に入射した赤外線が、赤外線固体撮像素子20に受光される。
【0037】
図3のように、信号処理装置30は、A/D変換回路31と、映像信号処理回路32と、ラッチ回路33と、温度制御回路34と、D/A変換回路35と、パルス発生回路36とを有する。
【0038】
また、赤外線固体撮像素子20は、複数の赤外線検出画素21aが水平方向(行方向)及び垂直方向(列方向)に配列した画素エリア21と、垂直シフトレジスタ22と、水平シフトレジスタ23とを有する。
【0039】
垂直シフトレジスタ22及び水平シフトレジスタ23には、信号処理装置30のパルス発生回路36から撮像素子駆動信号線42を介してパルス信号が供給される。垂直シフトレジスタ22及び水平シフトレジスタ23は、それらのパルス信号により決定されるタイミングで画素エリア21の各赤外線検出画素21aから映像信号を読み出す。赤外線固体撮像素子20の詳細は後述する。
【0040】
垂直シフトレジスタ22及び水平シフトレジスタ23により読み出された映像信号は、映像信号出力線41を介して信号処理装置30のA/D変換回路31に伝達される。なお、本実施形態では、後述するように温度センサ13から出力される温度信号も映像信号出力線41を介してA/D変換回路31に伝達される。
【0041】
A/D変換回路31は、検出器10から映像信号出力線41を介して送られてきた信号をデジタルの信号に変換する。映像信号処理回路32は、A/D変換回路31の出力から映像信号を抽出し、種々の処理を施して、CRT又は液晶ディスプレイ等の表示装置(図示せず)に出力する。
【0042】
一方、温度センサ13は、冷却ステージ11の温度を検出し、その結果を差動増幅器14に出力する。温度センサ13は差動増幅器14の第1入力端子に接続されており、差動増幅器14の第2入力端子は基準電圧(一定電圧)を供給する基準電圧発生回路(図示せず)に接続されている。
【0043】
差動増幅器14は、温度センサ13から出力された温度信号を増幅(インピーダンス変換)して出力する。差動増幅器14から出力された温度信号は、トランジスタT10を介して映像信号出力線41に送られ、映像信号出力線41を介して信号処理装置30のA/D変換回路31に伝達される。なお、トランジスタT10は、スイッチ回路の一例である。
【0044】
ラッチ回路33は、検出器10から温度信号が出力される所定のタイミングでA/D変換回路31の出力をラッチする。そして、温度制御回路34は、ラッチ回路33でラッチされた温度信号を信号処理し、冷却ステージ11の温度を一定とすべく温度制御信号を出力する。
【0045】
D/A変換回路35は、温度制御回路34から出力されたデジタルの温度制御信号をアナログの温度制御信号に変換し、ヒータ駆動電力供給線44を介してヒータ12に供給する。ヒータ12は、D/A変換回路35から供給された温度制御信号に応じた熱を発生し、冷却ステージ11の温度変化を抑制する。
【0046】
図5は検出器10内の回路構成を説明する図、図6は赤外線検出画素21aの回路構成を説明する図である。但し、図5ではヒータ12の図示を省略している。また、図6は、図5中の破線部分の回路を示している。
【0047】
図6の赤外線検出部21bは、受光した赤外線の量により抵抗値が変化する。この赤外線検出部21bの一方の端子は接地され、他方の端子と接続点N1との間には、トランジスタT5,T6が直列に接続されている。トランジスタT5のゲートには電源から電圧V3が印加され、トランジスタT6のゲートには所定のタイミングで“H”レベルと“L”レベルとに変化するパルス信号Φ5が供給される。
【0048】
接続点N1と接地との間にはコンデンサC1が接続されている。また、接続点N1と電圧V4を供給する電源との間にはトランジスタT7が接続されている。トランジスタT7のゲートには、所定のタイミングで“H”レベルと“L”レベルとに変化するパルス信号Φ6が供給される。
【0049】
接続点N1と接続点N2との間には、トランジスタT8,T9が並列に接続されている。また、接続点N2と接地との間には、コンデンサC2が接続されている。これらのトランジスタT8,T9及びコンデンサC2により、サンプルホールド回路(S/H回路)が形成される。トランジスタT8,T9にはそれぞれ所定のタイミングで“H”レベルと“L”レベルとに変化するパルス信号(SHパルス)Φ7,Φ8が供給される。
【0050】
接続点N2は、図5のトランジスタT1のゲートに接続されている。トランジスタT1はソースホロアアンプとして用いられ、そのソースには電源から配線27を介して電圧V1が供給される。このトランジスタT1のドレインと垂直データバス28との間にはトランジスタT2が接続されている。トランジスタT2のゲートは、水平方向(行方向)に並んだ赤外線検出画素21a間を接続する垂直選択線26を介して、垂直シフトレジスタ22に接続されている。また、トランジスタT2のドレインは、垂直方向(列方向)に並んだ赤外線検出画素21a間を接続する垂直データバス28に接続されている。
【0051】
垂直シフトレジスタ22は数100個又はそれ以上の出力端子を有し、それらの出力端子はそれぞれ垂直選択線26に接続されている。垂直シフトレジスタ22には、所定のタイミングで“H”レベルと“L”レベルとに変化するパルス信号Φ1,Φ2が供給される。そして、垂直シフトレジスタ22は、信号Φ1,Φ2で決まるタイミングで複数の端子に順番に行選択信号を出力する。ここでは、上側の端子から下側の端子に順番に行選択信号が出力されるものとする。
【0052】
水平シフトレジスタ23も数100個又はそれ以上の出力端子を有する。本実施形態では、図5のように最も右側に配置された出力端子は、トランジスタT10のゲートに接続され、その他の出力端子はそれぞれトランジスタT3のゲートに接続されている。それらのトランジスタT3のソースはそれぞれ対応する垂直データバス28に接続され、ドレインは映像信号出力線41に接続されている。
【0053】
水平シフトレジスタ22には、所定のタイミングで“H”レベルと“L”レベルとに変化するパルス信号Φ3,Φ4が供給される。そして、水平シフトレジスタ22は、信号Φ3,Φ4により決まるタイミングで、複数の端子に順番に列選択信号を出力する。ここでは、右側の端子から左側の端子に順番に列選択信号が出力されるものとする。
【0054】
映像信号出力線41と接地との間にはトランジスタT4が接続されている。このトランジスタT4のゲートには電源から電圧V2が供給される。このトランジスタT4は、トランジスタT1,T2にバイアス電流を流すための定電流回路として用いられている。
【0055】
図7は、赤外線固体撮像素子20の動作を説明するタイミングチャートである。
【0056】
まず、トランジスタT7が信号Φ6により一定時間オンになり、コンデンサC1がリセットされる。すなわち、トランジスタT7を介してコンデンサC1に一定量の電荷が蓄積される。
【0057】
その後、トランジスタT6が信号Φ5により一定時間オンになり、コンデンサC1に蓄積された電荷がトランジスタT6,T5及び赤外線検出部21bを介して接地に流れる。これにより、接続点N1の電圧が変化する。このときの接続点N1の電圧は赤外線検出部21bの抵抗値、すなわち赤外線検出部21bに入射した赤外線の量に依存する。
【0058】
次に、信号Φ7,Φ8によりトランジスタT8,T9が一定時間オンになり、コンデンサC1に蓄積されていた電荷がコンデンサC2に移動して、接続点N1の電位と接続点N2の電位とが同じになる。
【0059】
このようにして各赤外線検出画素21aのコンデンサC2に赤外線検出部21bに入射した赤外線の量に応じた電荷が保持され、接続点N2の電圧が赤外線検出部21bに入射した赤外線の量に応じた電圧となる。
【0060】
一方、垂直シフトレジスタ22は、信号Φ1,Φ2で決まる1フレーム期間(例えば1/60秒又は1/30秒)に、出力端子に順番に行選択信号を出力する。トランジスタT2は、そのゲートに垂直選択線26を介して行選択信号が入力される間だけオンになる。
【0061】
また、水平シフトレジスタ23も、信号Φ3,Φ4で決まる1行分の読み出し時間内に、出力端子に順番に列選択信号を出力する。ここでは、右から左へ順番に列選択信号を出力するものとする。
【0062】
この場合、まずトランジスタT10がオンになり、差動増幅器14から出力された温度信号が映像信号出力線41を介して信号処理装置30に送られる。その後、トランジスタT3が順番にオンになって、行選択信号により選択された1行分の赤外線検出画素21aから順次映像信号が読み出され、それらの映像信号が映像信号出力線41を介して信号処理装置30に送られる。
【0063】
ラッチ回路33では、トランジスタT10がオンの期間に映像信号出力線41から信号を取り込む。そして、前述したように、温度制御回路34は、ラッチ回路23にラッチされた温度信号を入力し、冷却ステージ11の温度を一定とすべく温度制御信号を出力する。この温度制御信号は、D/A変換回路35でアナログ信号に変換され、ヒータ駆動電力供給線44を介して検出器10内のヒータ12に供給される。
【0064】
一方、映像信号処理回路32では、トランジスタT10がオフの期間にA/D変換回路31からデジタルに変換された映像信号を入力し、種々の処理を施して表示装置に出力する。このようにして、表示装置に赤外線映像が表示される。
【0065】
上述したように、本実施形態では、温度センサ13から出力される温度信号を、映像信号出力線41を介して信号処理装置30に伝達している。このため、図1の赤外線検出装置に比べて検出器10と信号処理装置30との間の配線を少なくすることができ、検出器10内への熱侵入経路が削減される。その結果、検出器10内への熱の侵入が抑制され、映像信号の揺らぎを従来に比べてより一層少なくすることができる。
【0066】
また、本実施形態では、差動増幅器14を使って温度センサ13から出力される温度信号を増幅(インピーダンス変換)しているため、撮像素子駆動信号線42を通る高周波信号によるノイズの影響を受けにくくなり、S/Nが改善される。これにより、図1に例示した赤外線検出装置では必要であったLPF回路134が不要になり、その結果短時間の温度変化に迅速に対応できるという効果を奏する。
【0067】
(第2の実施形態)
図8は第2の実施形態に係る赤外線検出装置の検出器内の回路構成を説明する図、図9は同じくその赤外線検出装置の信号処理装置の構成を示すブロック図である。なお、本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、赤外線固体撮像素子の構造が異なることにあり、その他の構成は基本的に第1の実施形態と同様であるので、重複する部分の説明は省略する。また、図8,図9において、図5と同一物には同一符号を付している。更に、図9では、パルス発生回路の図示を省略している。
【0068】
図8のように、本実施形態では、差動増幅器14の出力端子と映像信号出力線41との間に配置されたトランジスタT10のゲートが、多入力OR回路49の出力端に接続されている。また、OR回路49の各入力端は、垂直シフトレジスタ22の出力端子に接続されている。但し、垂直シフトレジスタ22の出力端子は、垂直選択線26とOR回路49の入力端とに交互に接続されている。これにより、トランジスタT10は1水平期間毎にオン−オフを繰り返す。
【0069】
温度センサ13から出力される温度信号は、差動増幅器14で増幅(インピーダンス変換)され、トランジスタT10がオンの期間に映像信号出力線41を介して信号処理装置50に送られる。
【0070】
一方、図9のように、信号処理装置50は、LPF回路51と、A/D変換回路52と、映像信号処理回路53と、LPF回路54と、A/D変換回路55と、ラッチ回路56と、温度制御回路57と、D/A変換回路58とを有する。
【0071】
LPF回路51は、映像信号の周波数(例えば10MHz)の信号を通過し、それよりも高い周波数の信号を遮断する。A/D変換回路52は、LPF回路51を通過した映像信号をデジタル信号に変換する。映像信号処理回路53は、A/D変換回路52から出力された映像信号に対し種々の処理を施して、CRT又は液晶ディスプレイ等の表示装置(図示せず)に出力する。
【0072】
一方、LPF回路54は、映像信号の周波数よりも低い周波数の信号を通過し、映像信号及びそれよりも高い周波数の信号を遮断する。本実施形態では、LPF回路54の遮断周波数は、10kHz程度とする。温度センサ13から出力される温度信号は、LPF回路54の遮断周波数よりも低く、LPF回路54を通過する。
【0073】
A/D変換回路55は、LPF回路54を通過した温度信号をデジタル信号に変換する。ラッチ回路56は、トランジスタT10がオンの期間にA/D変換回路55の出力をラッチする。温度制御回路57はラッチ回路56にラッチされた温度信号を入力し、冷却ステージの温度を一定とすべく温度制御信号を出力する。この温度制御信号は、D/A変換回路58でアナログ信号に変換され、ヒータ駆動電力供給線44を介して検出器10内のヒータ12に供給される。
【0074】
図10は、赤外線固体撮像素子20の動作を説明するタイミングチャートである。このタイミングチャートからわかるように、本実施形態では1行分の映像信号を読み出す時間毎に、検出器10から映像信号と温度信号とが交互に出力される。
【0075】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に映像信号出力線41を介して信号処理装置50に温度信号を伝送するので、検出器10と信号処理装置50との間の配線を少なくすることができる。その結果、検出器10内への熱の侵入を抑制することができる。また、本実施形態では、A/D変換回路55の前段にLPF回路54を配置して低周波成分を分離することにより、検出器10内の温度を良好なS/Nで測定することができる。
【0076】
(その他の実施形態)
第1及び第2の実施形態では、差動増幅器14の第2入力端子が基準電圧発生回路に接続されており、第2入力端子には一定の電圧が供給されるものとしている。この差動増幅器14の第2入力端子に供給される電圧を温度センサ出力電圧近傍の電圧とすることにより、差動増幅器14の増幅率を大きくすることができる。
【0077】
図11は、基準電圧を変更可能な基準電圧発生回路として、抵抗分割回路を使用した例を示す回路図である。この抵抗分割回路は、端子61,62間には直列に接続された複数の抵抗63を有する。端子61,62間には一定の電圧が供給される。各抵抗63の接続部と出力端子64との間には切替えスイッチ65が設けられており、この切替えスイッチ65により出力端子64に出力される電圧が決まる。
【0078】
本実施形態によれば、温度センサ13に出力に応じて差動増幅器14の増幅率を大きくできるので、S/Nをより一層改善することができる。抵抗分割回路に替えてD/A変換回路を使用しても、同様の効果を得ることができる。
【0079】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0080】
(付記1)赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、
前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路と
を有することを特徴とする赤外線固体撮像素子。
【0081】
(付記2)更に、前記読み出し回路と前記温度センサとの間に配置される差動増幅器を有することを特徴とする付記1に記載の赤外線固体撮像素子。
【0082】
(付記3)前記読み出し回路は、前記画素エリア内の水平方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第1の選択信号を与える第1のシフトレジスタと、前記画素エリア内の垂直方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第2の選択信号を与える第2のシフトレジスタとを有し、
前記温度センサの出力は、前記第2のシフトレジスタから出力される前記第2の選択信号によりオンーオフするスイッチ回路を介して前記映像信号出力線に出力されることを特徴とする付記1又は2に記載の赤外線固体撮像素子。
【0083】
(付記4)前記読み出し回路は、前記画素エリア内の水平方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第1の選択信号を与える第1のシフトレジスタと、前記画素エリア内の垂直方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第2の選択信号を与える第2のシフトレジスタとを有し、
前記温度センサの出力は、前記第1のシフトレジスタから出力される前記第1の選択信号によりオンーオフするスイッチ回路を介して前記映像信号出力線に出力されることを特徴とする付記1又は2に記載の赤外線固体撮像素子。
【0084】
(付記5)赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有する赤外線固体撮像素子の駆動方法において、
前記読み出し回路は、1フレーム毎又は1水平読み出し期間毎に1回、前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力することを特徴とする赤外線固体撮像素子の駆動方法。
【0085】
(付記6)検出部と、前記検出部から出力される信号を信号処理する信号処理装置とを有し、
前記検出部は、温度センサと、ヒータと、赤外線固体撮像素子とを有し、
前記赤外線固体撮像素子は、赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有し、
前記信号処理装置は、前記映像信号出力線から映像信号を抽出して信号処理し、表示装置に出力する映像信号処理回路と、前記映像信号出力線から前記温度センサの出力を抽出してラッチするラッチ回路と、前記ラッチ回路の出力に基づいて温度制御信号を出力し、前記ヒータに供給する温度制御回路とを有する
ことを特徴とする赤外線検出装置。
【0086】
(付記7)前記読み出し回路は、前記画素エリア内の水平方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第1の選択信号を与える第1のシフトレジスタと、前記画素エリア内の垂直方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第2の選択信号を与える第2のシフトレジスタとを有し、
前記温度センサの出力は、前記第2のシフトレジスタから出力される前記第2の選択信号によりオンーオフするスイッチ回路を介して前記映像信号出力線に出力されることを特徴とする付記6に記載の赤外線検出装置。
【0087】
(付記8)前記読み出し回路は、前記画素エリア内の水平方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第1の選択信号を与える第1のシフトレジスタと、前記画素エリア内の垂直方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第2の選択信号を与える第2のシフトレジスタとを有し、
前記温度センサの出力は、前記第1のシフトレジスタから出力される前記第1の選択信号によりオンーオフするスイッチ回路を介して前記映像信号出力線に出力されることを特徴とする付記6に記載の赤外線検出装置。
【0088】
(付記9)更に、第1入力端子が前記温度センサに接続され、第2入力端子が基準電圧源に接続され、出力端子が前記スイッチ回路に接続された差動増幅器を有することを特徴とする付記7又は8に記載の赤外線検出装置。
【0089】
(付記10)前記基準電圧源の出力電圧が変更可能であることを特徴とする付記9に記載の赤外線検出装置。
【符号の説明】
【0090】
10…検出器、11…冷却ステージ、12…ヒータ、13…温度センサ、14…差動増幅器、17…コールドフィンガ、18…赤外線透過窓、19…容器、20…赤外線固体撮像素子、21b…赤外線検出部、20a…赤外線検出画素、21…画素エリア、22…垂直シフトレジスタ、23…水平シフトレジスタ、26…垂直選択線、28…垂直データバス、30…信号処理装置、31…A/D変換回路、32…映像信号処理回路、33…ラッチ回路、34…温度制御回路、35…D/A変換回路、36…パルス発生回路、41…映像信号出力線、42…撮像素子駆動信号線、44…ヒータ駆動電力線、49…OR回路、50…信号処理装置、51…LPF回路、52…A/D変換回路、53…映像信号処理回路、54…LPF回路、55…A/D変換回路、56…ラッチ回路、57…温度制御回路、58…D/A変換回路、61,62…端子、63…抵抗、64…出力端子、65…切替えスイッチ、100…検出器、111…冷却ステージ、112…ヒータ、113…温度センサ、120…赤外線固体撮像素子、121…画素エリア、121a,赤外線検出画素、122…垂直シフトレジスタ、123…水平シフトレジスタ、130…信号処理装置、131…A/D変換回路、132…映像信号処理回路、133…パルス発生回路、134…LPF回路、135…A/D変換回路、136…温度制御回路、137…D/A変換回路、141…映像信号出力線、142…撮像素子駆動信号線、143…温度信号線、144…ヒータ駆動電力供給線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、
前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路と
を有することを特徴とする赤外線固体撮像素子。
【請求項2】
更に、前記読み出し回路と前記温度センサとの間に配置される差動増幅器を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項3】
前記読み出し回路は、前記画素エリア内の水平方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第1の選択信号を与える第1のシフトレジスタと、前記画素エリア内の垂直方向に並んだ各赤外線検出画素に共通の第2の選択信号を与える第2のシフトレジスタとを有し、
前記温度センサの出力は、前記第2のシフトレジスタから出力される前記第2の選択信号によりオンーオフするスイッチ回路を介して前記映像信号出力線に出力されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線固体撮像素子。
【請求項4】
赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有する赤外線固体撮像素子の駆動方法において、
前記読み出し回路は、1フレーム毎又は1水平読み出し期間毎に1回、前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力することを特徴とする赤外線固体撮像素子の駆動方法。
【請求項5】
検出部と、前記検出部から出力される信号を信号処理する信号処理装置とを有し、
前記検出部は、温度センサと、ヒータと、赤外線固体撮像素子とを有し、
前記赤外線固体撮像素子は、赤外線を検出する複数の赤外線検出画素が2次元方向に配列された画素エリアと、前記画素エリアから映像信号を読み出して映像信号出力線に出力するとともに、所定のタイミングで前記温度センサの出力を前記映像信号出力線に出力する読み出し回路とを有し、
前記信号処理装置は、前記映像信号出力線から映像信号を抽出して信号処理し、表示装置に出力する映像信号処理回路と、前記映像信号出力線から前記温度センサの出力を抽出してラッチするラッチ回路と、前記ラッチ回路の出力に基づいて温度制御信号を出力し、前記ヒータに供給する温度制御回路とを有する
ことを特徴とする赤外線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−205060(P2012−205060A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67521(P2011−67521)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】