説明

超音波洗浄装置

【課題】超音波洗浄装置に用いられる、高周波電流に適応した補正コイルの小型化により、スリム設計が図れる超音波洗浄装置を提供する。
【解決手段】少なくとも、被洗浄物を洗浄するための洗浄液5に超音波振動を与える超音波振動子2と、該超音波振動子2を振動させるための超音波発振器3を具備し、前記超音波発振器3と超音波振動子2で直列共振回路6を形成するために挿入する補正コイル1を有する超音波洗浄装置10において、前記補正コイル1は、スリット入りトロイダルコアを有するものであることを特徴とする被洗浄物を超音波洗浄する超音波洗浄装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体基板や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被洗浄物を超音波を利用して洗浄する超音波洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体基板、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の精密基板の洗浄には、超音波洗浄装置が用いられている。超音波洗浄装置は、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子より超音波振動として洗浄液に与えて、被洗浄物を洗浄するものである。
【0003】
このような超音波洗浄装置には、洗浄槽の底部に超音波振動子を設置し、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子により超音波振動として洗浄液に与えて、洗浄液中に浸漬した被洗浄物を洗浄するものと、ノズルに超音波振動子を接着し、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子により超音波振動としてノズル内に供給した洗浄液に与えて、被洗浄物へ洗浄液を噴射して洗浄するものがある。
【0004】
ここで、図5は一般的な超音波発振器と超音波振動子との接続を示すブロック図である。高周波電流は、超音波発振器53の内部で主発振ユニット、出力ユニット、出力トランスを介して補正コイル51を流れ、さらに出力ケーブル54から超音波振動子52へと流れる。
【0005】
このような超音波発振器と超音波振動子で形成される一般的な直列共振回路の回路図を図6に示す。電圧源61より直列に接続された抵抗R62、インダクタL63(補正コイル51に相当)、キャパシタC64(超音波振動子52に相当)を電流I65が流れる。このとき、角周波数ω=1/√LCのときに最大の電流が流れることになる。一般的に超音波振動子52は、容量性を有している。そこで、特定な周波数において最大の電流が流れるようにするために、直列に補正コイル51を挿入して、直列共振回路を形成する必要がある。
【0006】
しかし、超音波洗浄装置に使用する補正コイルには、超音波発振器で発生した高周波電流が流れることより、EI型等のフェライト・コアを用いており、大型であった。また、補正コイルの小型化を図るために、EI型等のフェライト・コアよりも薄型のトロイダルコアを用いることを考えたが、超音波洗浄装置では、高周波電流を流すため、磁束飽和が起こり、補正コイルとして使用することはできないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2008−68221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、超音波洗浄装置に用いられる、高周波電流に適応した補正コイルの小型化により、スリム設計が図れる超音波洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、少なくとも、被洗浄物を洗浄するための洗浄液に超音波振動を与える超音波振動子と、該超音波振動子を振動させるための超音波発振器を具備し、前記超音波発振器と超音波振動子で直列共振回路を形成するために挿入する補正コイルを有する超音波洗浄装置において、前記補正コイルは、スリット入りトロイダルコアを有するものであることを特徴とする被洗浄物を超音波洗浄する超音波洗浄装置を提供する(請求項1)。
【0010】
このように本発明は、補正コイルにスリット入りトロイダルコアを用いることにより、磁束飽和が起こりにくくなり、高周波電流を流す超音波洗浄装置において、小型の補正コイルを使用することが可能となる。そして、補正コイルの小型化を図ることで、超音波洗浄装置のスリム設計につながる。
【0011】
この場合、前記補正コイルのスリット入りトロイダルコアは、フェライト・コアであることが好ましい(請求項2)。さらに、前記補正コイルのスリット入りトロイダルコアの高さは、30mm以下であり(請求項3)、また、前記補正コイルのスリット入りトロイダルコアのスリット幅は、2mm以下であることが好ましい(請求項4)。
【0012】
このように、補正コイルのスリット入りトロイダルコアにフェライト・コアを用いることで、高さが30mm以下の薄型にすることができ、また、さらにスリット入りトロイダルコアのスリット幅を2mm以下にすることで、より確実に磁束飽和を抑えて超音波洗浄装置で使用する高周波電流を流すことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従う超音波洗浄装置であれば、補正コイルにスリット入りトロイダルコアを用いることにより、磁束飽和が起こりにくくなり、高周波電流を流す超音波洗浄装置において、小型の補正コイルを使用することが可能となる。そして、補正コイルの小型化を図ることで、超音波洗浄装置のスリム設計につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
前述したように、従来では、超音波洗浄装置に使用する補正コイルは、EI型のフェライト・コアを用いるため、高さが50mmと大型であり、また、薄型のトロイダルコアを用いると、磁束飽和が起こり発熱するため、補正コイルとして使用することはできないという問題があった。
【0015】
このような問題を解決すべく、本発明者等は鋭意研究を重ねた。すなわち、超音波洗浄装置に使用する補正コイルを小型化するために、薄型のトロイダルコアを用いたとしても、超音波発振器で発生した高周波電流を流したときに、磁束飽和が起こらないようにする必要がある。
【0016】
そこで本発明者等は、超音波洗浄装置の補正コイルにスリット入りトロイダルコアを使用することで、高周波電流を流しても磁束飽和が起こりにくくなることを利用して、補正コイルの小型化が出来ることを想到し、本発明を完成させた。
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
先ず、図1は、本発明に係るスリット入りトロイダルコアを有する超音波洗浄装置の一実施形態の概略図である。この超音波洗浄装置10は、洗浄槽4に被洗浄物を洗浄するための洗浄液5が満たされている。該洗浄槽4の底面には超音波振動を洗浄液に与えるための超音波振動子2が設置されていて、さらに、該超音波振動子2を振動させるために前記補正コイルを含む超音波発振器3を有している。そして、該超音波発振器3と超音波振動子2で形成される直列共振回路6において、補正コイル1を有する超音波洗浄装置10となっている。
なお、本発明の超音波洗浄装置は、上記のような洗浄槽タイプのみならず、ノズルに超音波振動子を接着し、超音波発振器で発生した高周波電流を、超音波振動子により超音波振動としてノズル内に供給した洗浄液に与えて、被洗浄物へ洗浄液を噴射して洗浄するものであっても適用できる。
【0019】
ここで、超音波発振器3と超音波振動子2の接続については、従来と同様のものを用いることができる。図2にブロック図に示すように、高周波電流は、超音波発振器23の内部で主発振ユニット、出力ユニット、出力トランスを介して補正コイル21を流れ、さらに出力ケーブル24から超音波振動子22へと流れる。
【0020】
また、前述したように、一般的に超音波振動子は、容量性を有している。そこで、特定な周波数において最大の電流が流れるようにするために、直列に補正コイルを挿入して、直列共振回路を形成する必要がある。図3に回路図に示すように、電圧源31より直列に接続された抵抗R32、インダクタL33(補正コイル21に相当)、キャパシタC34(超音波振動子22に相当)を電流I35が流れることになり、本発明においては、この補正コイル21にスリット入りトロイダルコアを用いた補正コイルを採用した。
【0021】
次に、図4は本発明に係る超音波洗浄装置に用いられる補正コイルの一実施形態の概略図である。この補正コイル41は、スリット入りトロイダルコア42を用いている。また、フェライト・コアを用いて、高さHが30mm以下でスリット幅Wを2mm以下としている。なお、所定のインダクタンスを実現するために電線43を巻いてある。
【0022】
このように、補正コイル41にスリット入りトロイダルコア42を用いることで、補正コイルのコアのスリット部分から磁束が漏れるため、コア内の磁束密度が小さくなる。よって、温度上昇も抑制され、磁束飽和が起こりにくくなる。
そのため、超音波発振器で発生した高周波電流を補正コイルに流したときに、磁束飽和が起こりにくくなり、補正コイル41にスリット入りトロイダルコア42を用いることで、補正コイル41の小型化が図れる。
【0023】
よって、本発明に係るスリット入りトロイダルコアを有する超音波洗浄装置10の超音波発振器3において、スリット入りトロイダルコアを有する補正コイル1を用いることで補正コイルの小型化が図れることより発振器の小型化ができ、超音波洗浄装置10のスリム化が図れる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(実施例)
図4に示すような、本発明の超音波洗浄装置に用いられる補正コイルについて、磁束飽和が起こるかどうかの実験を行った。高さ15mmのフェライト・コアであって、スリット幅を0.3mmとしたスリット入りトロイダルコアを用意した。また、超音波洗浄装置として、3800pFの容量を持つ振動子を駆動させるために、出力を50Wとする発振器を用いる場合を考慮して、補正コイルの巻数を95T、インダクタンスを5.5mHとして、補正コイルに40kHzの高周波電流1Appを60分流した。
【0026】
その結果、室温26℃において、温度上昇は30℃であり、磁束飽和は起こらなかった。
【0027】
(比較例)
実施例と同じ条件のフェライト・コアであって、スリットの入っていないトロイダルコアを用意した。この時、補正コイルの巻数を40Tとして、インダクタンス5.5mHとして、40kHzの高周波電流0.5Appを15分流した。
【0028】
その結果、室温26℃において、温度上昇は60℃であり、磁束飽和が起こった。
出力は30Wであった。
【0029】
以上、実施例と比較例の結果からもわかるように、補正コイルにスリット入りトロイダルコアを用いることで、超音波発振器で発生した高周波電流を補正コイルに流したときに、磁束飽和が起こらないことより、コイルを小型化することができ、超音波洗浄装置のスリム化が図れることがわかる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的思想に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る超音波洗浄装置の一実施形態の概略を示す図である。
【図2】本発明に係る超音波洗浄装置の超音波発振器と超音波振動子との接続の一部を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る超音波洗浄装置の超音波発振器と超音波振動子からなる直列共振回路の回路図である。
【図4】本発明に係る超音波洗浄装置に用いられる補正コイルの一実施形態の概略図である。
【図5】一般的な超音波発振器と超音波振動子との接続の一部を示すブロック図である。
【図6】一般的な直列共振回路の回路図である。
【符号の説明】
【0032】
1,21,41,51…補正コイル、 2,22,52…超音波振動子、
3,23,53…超音波発振器、 4…洗浄槽、 5…洗浄液、
6…直列共振回路、 10…超音波洗浄装置、
24,54…出力ケーブル、 31,61…電圧源、
32,62…抵抗R、 33,63…インダクタL、
34,64…キャパシタC、 35,65…電流I、
42…スリット入りトロイダルコア、 43…電線、
H…高さ、 W…スリット幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、被洗浄物を洗浄するための洗浄液に超音波振動を与える超音波振動子と、該超音波振動子を振動させるための超音波発振器を具備し、前記超音波発振器と超音波振動子で直列共振回路を形成するために挿入する補正コイルを有する超音波洗浄装置において、前記補正コイルは、スリット入りトロイダルコアを有するものであることを特徴とする被洗浄物を超音波洗浄する超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記補正コイルのスリット入りトロイダルコアは、フェライト・コアであることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記補正コイルのスリット入りトロイダルコアの高さは、30mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記補正コイルのスリット入りトロイダルコアのスリット幅は、2mm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超音波洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−248050(P2009−248050A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102122(P2008−102122)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(590002172)株式会社プレテック (41)
【Fターム(参考)】