説明

超音波洗浄装置

【課題】 耐久性とコストを両立する合板素材の振動板について、共振性能を向上させることができる超音波洗浄装置を提供する。
【解決手段】 洗浄液を保持する洗浄槽と、洗浄槽に振動を伝播可能に設けられる振動板と、振動板を振動させる超音波振動素子とを具備する超音波洗浄装置であって、振動板は、第1素材により形成される第1板材と、第1板材に重ね合わされ第2素材により形成される第2板材からなり、第1板材の厚さをt、第2板材の厚さをt、第1板材の音速をv、第2板材の音速をv、超音波振動素子の発振周波数をf、自然数をnとすると、
【数1】


の関係を満たすことを特徴とする超音波洗浄装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波振動素子により超音波振動を発生させる超音波洗浄装置であり、超音波振動素子に接続される合板形状の振動板の共振特性を向上させる手法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波洗浄装置は、超音波振動素子に高周波電力を印加することで発生する超音波振動を洗浄液に伝播させて、対象物を洗浄させる装置である。このような超音波洗浄装置は、超音波振動素子の発振周波数を振動板の共振周波数と一定関係にすることで、効率的な超音波振動を得ることができる。このため、所望の発振周波数を生じさせるために、最適な物理的条件を備えた振動板を設けることが知られている。
【0003】
特許文献1は、超音波振動素子と振動板の物理的条件と、発振する超音波との関係に言及する技術を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−249212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、振動板の材質を選定する場合、その物性値は選定条件の大きな要因となるが、好適な物性(例えば耐久性)とコストといった異なる要求を同時に満足するのは困難であった。
【0006】
本発明は、耐久性とコストといった異なる要求を同時に満足する振動板を備える超音波洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための一実施形態は、
洗浄液を保持する洗浄槽と、
前記洗浄槽に振動を伝播可能に設けられる振動板と、
前記振動板を振動させる超音波振動素子とを具備する超音波洗浄装置であって、
前記振動板は、第1素材により形成される第1板材と、前記第1板材に重ね合わされる第2素材により形成される第2板材からなり、前記第1板材の厚さをt、前記第2板材の厚さをt、前記第1板材の音速をv、前記第2板材の音速をv、前記超音波振動素子の発振周波数をf、任意の自然数をnとすると、
【数2】

の関係を満たすことを特徴とする超音波洗浄装置である。
【発明の効果】
【0008】
洗浄液に接する面は耐食性のある高価な金属、超音波振動素子に接する面は比較的安価な素材による合板の超音波振動板を設けることで、耐久性とコストを両立できると共に、安定した共振特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(構成)
はじめに、本発明に係る超音波洗浄装置の構成を説明する。図1は、超音波洗浄装置の構成の一例を示す説明図、図2は詳細な説明図である。超音波洗浄装置10は、洗浄するシリコンウェハーW等の対象物を浸すための洗浄液31が満たされる石英槽11と、純水32が満たされた中にこの石英槽11を格納する外槽12を有している。この外槽12の底面には超音波振動板14が設けられており、超音波振動板14は、第1の超音波振動板14−1と第2の超音波振動板14−2と接着層14−3から構成されている。また、超音波振動板14は、接着層15を介して超音波振動素子16が接続されており、超音波振動素子16は、高周波電源13から高周波電力が供給されている。また、高周波電源13は、制御部21で動作が制御され、制御部21には図示しない操作スイッチ等の操作部が接続されている。なお、図2では、接着層15の厚みは誇張されており、実際は振動素子16や振動板14の厚さよりも十分に薄い。
【0010】
一般に、超音波振動素子16は、1つの共振周波数をもち、振動効率が最大となるように、高周波電源13からはその共振周波数をもつ高周波電力が供給される。
また、超音波振動板14は、単一板の場合は、金属、ガラス、セラミックス等から構成されており、素材の選択につき、洗浄液に対する耐食性、機械的強度、超音波の振動特性、加工性、経済性等が考慮されるが、全てを満足させることは難しい。従って、後述するように、第1の超音波振動板14−1と第2の超音波振動板14−2の素材を要求に従って
選ぶことが好適である。
【0011】
なお、上述した水槽は、石英槽11と外槽12の二重構造をもっているが、洗浄液31を満たす一つの水槽であっても同様の機能をもつものである。
(合板形状の超音波振動板の共振特性を最適化する方法)
本発明の実施形態では、合板形状の超音波振動板を、以下のような超音波振動素子を含めない振動板だけの関係式を用いて、この式を満たすべく構成することで、共振特性を最適化することができる。図3は、超音波洗浄装置の超音波振動板と超音波振動素子の振動の一例を示す説明図である。
【0012】
2種類の素材の超音波振動板14−1,14−2を接着剤等で接合し、一体となったものが超音波の波長の1/2の厚みとなれば良い。この場合の周波数とそれぞれの材料の板厚と音速をそれぞれ、t、t、v、v、また、超音波の発振周波数をf、自然数をnとすると、次の式(1)に示すような関係がある。
【数3】

発振周波数は初めから決まっているので、式(1)の関係を満たすように、超音波振動板14−1,14−2のそれぞれの厚みt、tを決めればよい。式(1)では2種類の厚みの組み合わせは複数存在するよう工夫されているので、厚みで決まる素材の価格や強度を勘案して決定すればよい。
【0013】
なお、式(1)を以下のように導くことができる。
板厚共振する条件は、板厚が超音波の0.5波長の整数倍の時、すなわち、
t=1/2・λ・n ・・・(2)
の時である。
ここで、振動板が単数と複数の場合の関係を考える。図4は、超音波洗浄装置の超音波振動板と波長と音速との関係の一例を示す説明図である。板厚t、t、波長λ、λの関係式は、図4の(a)と(b)を対比させ、
【数4】

と書ける。
また、t=t+t と、式(3)を式(2)に代入すると、
【数5】

と書ける。ここで、v=λfの関係を用いて、
λ=v/f、λ=v/f ・・・(5)
と書けるので、式(5)を式(4)に代入し、λ、λを消去すると、
【数6】

従って、上記した式(1)のようになる。
式(1)は、超音波振動素子の要素は含んでおらず、超音波振動板だけの要素で構成されているので、超音波振動板の厚さt,tと周波数fとの関係を正確に求めることができる。
【0014】
(第1実施形態)
次に、超音波振動板14−1,14−2の具体的な素材の選択例について、以下に述べる。第1実施形態は、「耐食性を向上」させるべく、チタンとSUS(ステンレス)の組合せについて説明する。
チタンやSiC等、耐食性に優れる材質は一般的に非常に高価である。腐食性の洗浄液に直接触れる第1の超音波振動板14−1にこれらのような耐食性材料を使用し、第2の超音波振動板14−2は、比較的安価なステンレスを使用し、耐食性と価格を両立させることができる。具体的な板厚の計算例としては図5の例に挙げるように、発振周波数1MHzの場合、チタン1mm+ステンレス2mmあるいは、チタン2mm+ステンレス1mmのような組み合わせで、発振周波数1MHzに近い共振周波数975KHzが実現できる。どちらのケースを採択するかは、入手容易な板厚や機械的強度、加工性、生産性、振動特性等考慮して決めればよい。
【0015】
(第2実施形態)
次に、超音波振動板14−1,14−2の具体的な素材の選択例について、第2実施形態は、「軽量化、振動特性を向上」させるべく、SiCとチタンの組合せについて説明する。
チタンもSiCも軽く、硬いので超音波振動特性が非常に良好である。価格に関して言えば、現在の所、SiCの方がチタンに比べて遙かに高価である。この2つをうまく組み合わせると、耐食性、軽量化、振動特性の向上、価格のバランスが取れたものができる。また、SiCはセラミックで易損品であり、チタンで補強すれば振動版の強度増強が計れ、洗浄液による水圧による割れや振動板の変形を防ぐことができる。具体的な板厚計算例を図6に挙げる。
【0016】
発振周波数1MHzの場合、例えば、SiC2.5mm+チタン2.0mmのような組み合わせで、発振周波数1MHzに近い共振周波数1067KHzが実現できるが、図6に示すように、他にも例えば、SiC1.5mm+チタン2.5mm、SiC3.5mm+チタン1.5mm、SiC4.5mm+チタン1.0mm等のような組み合わせが可能である。どのケースを採択するかは、入手容易な板厚や機械的強度、加工性、生産性、振動特性等考慮して決めればよい。
【0017】
(第3実施形態)
第3実施形態として、以下のような第1の超音波振動板14−1,第2の超音波振動板14−2の素材の組合せが好適である。
すなわち、洗浄液に接する第1の超音波振動板14−1を構成する素材は、金、プラチナ、チタン、ハステロイ、インコネル、タンタルといった、耐食性のある高価な金属を選択することが好適である。
【0018】
また、洗浄液に接する第1の超音波振動板14−1を構成する素材は、石英、アモルファスカーボン、炭化ケイ素、サファイヤといった、耐食性のあるセラミックスを選択することが好適である。
一方、超音波振動素子16に接する第2の超音波振動板14−2を構成する素材は、ステンレス等の比較的安価な素材を選択することで、振動板の耐食性とコストを両立させることが好適である。
【0019】
また、洗浄液に接する第1の超音波振動板14−1を構成する素材は、超音波振動素子16に対して線膨張係数の小さな素材から構成され、また、超音波振動素子16に接する第2の超音波振動板14−2を構成する素材は、洗浄液に接する第1の超音波振動板14−1を構成する素材と超音波振動素子16との中間の線膨張係数を持つ素材から構成することが好適である。これにより、熱ストレスによる振動板の変形や振動板や振動素子の破損を防止することが可能となる。
【0020】
さらに、これとは反対に、洗浄液に接する第1の超音波振動板14−1を構成する素材は、超音波振動素子16に対して線膨張係数の大きな素材から構成され、また、超音波振動素子16に接する第2の超音波振動板14−2を構成する素材は、第1の超音波振動板14−1と石英と超音波振動素子16との中間の線膨張係数を持つ素材から構成することが好適である。
【0021】
さらに、洗浄液に接する第1の超音波振動板14−1を構成する素材は、ガラスやセラミックス等の易損品から構成され、また、超音波振動素子16に接する第2の超音波振動板14−2を構成する素材は、金属等の機械的強度の高い素材から構成されることが好適である。これにより、洗浄液による水圧等のストレスによる振動板の変形や破損を防止することが可能となる。
【0022】
以上記載した様々な実施形態は複数同時に実施することが可能であり、これらの記載により、当業者は本発明を実現することができるが、更にこれらの実施形態の様々な変形例を思いつくことが当業者によって容易であり、発明的な能力をもたなくとも様々な実施形態へと適用することが可能である。従って、本発明は、開示された原理と新規な特徴に矛盾しない広範な範囲に及ぶものであり、上述した実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波洗浄装置の構成の一例を示す説明図。
【図2】本発明の一実施形態に係る超音波洗浄装置の超音波振動板と超音波振動素子の詳細な構成の一例を示す説明図。
【図3】本発明の一実施形態に係る超音波洗浄装置の超音波振動板と超音波振動素子の振動の一例を示す説明図。
【図4】本発明の一実施形態に係る超音波洗浄装置の超音波振動板と波長と音速との関係の一例を示す説明図。
【図5】本発明の一実施形態に係る超音波洗浄装置の超音波振動板のチタンとSUSの板厚計算の一例を示す説明図。
【図6】本発明の一実施形態に係る超音波洗浄装置の超音波振動板のSiCとチタンの板厚計算の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0024】
10…超音波洗浄装置、11…石英槽、12…外槽、13…高周波電源、14…超音波振動板、14−1…第1の超音波振動板、14−2…第2の超音波振動板、15…接着層、16…超音波振動素子、21…制御部、31…洗浄液、32…純水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を保持する洗浄槽と、
前記洗浄槽に振動を伝播可能に設けられる振動板と、
前記振動板を振動させる超音波振動素子とを具備する超音波洗浄装置であって、
前記振動板は、第1素材により形成される第1板材と、前記第1板材に重ね合わされる第2素材により形成される第2板材からなり、前記第1板材の厚さをt、前記第2板材の厚さをt、前記第1板材の音速をv、前記第2板材の音速をv、前記超音波振動素子の発振周波数をf、任意の自然数をnとすると、
【数1】

の関係を満たすことを特徴とする超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−29815(P2010−29815A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196773(P2008−196773)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000166650)株式会社日立国際電気エンジニアリング (100)
【Fターム(参考)】